特許第6441573号(P6441573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441573
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20181210BHJP
【FI】
   H02M7/48 P
   H02M7/48 E
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-8488(P2014-8488)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-139244(P2015-139244A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】松岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】福本 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】小谷 弘幸
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−198193(JP,A)
【文献】 特開平01−286291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42〜 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力する直流電力の大きさを調整する機能を有する可変DC電源部と、半導体増幅素子からなるスイッチを複数備えたスイッチング回路を有して、該スイッチング回路のスイッチング動作により前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するDC/RF変換部と、前記DC/RF変換部が出力する高周波電力の周波数に等しい周波数を有する正弦波状又は矩形波状の出力電圧を発生する信号発生器を備えて前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するためのスイッチング動作を前記スイッチング回路に行わせるべく前記信号発生器が発生する正弦波状又は矩形波状の出力電圧と同期させて前記スイッチング回路のスイッチの制御端子間に交流電圧を駆動信号として与える駆動信号供給回路とを備えた高周波電源装置において、
前記駆動信号供給回路は、
前記スイッチング回路の各スイッチの制御端子間の交流電圧を直接又は間接的に検出して、前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部と、
前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧から検出される各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部と、
を具備したことを特徴とする高周波電源装置。
【請求項2】
前記スイッチング回路は、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて前記可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを少なくとも一つ備え、
前記駆動信号供給回路は、前記ハイサイドスイッチの制御端子間及びローサイドスイッチの制御端子間にそれぞれ接続されたハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルを有するトランスと、前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部とを更に備え、
前記制御端子間電圧制御部は、前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧と前記基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部と、前記信号発生器の出力電圧と前記誤差増幅部の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を前記トランスの一次側に入力する乗算器とを備えている請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記スイッチング回路は、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて前記可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを少なくとも一つ備え、
前記駆動信号供給回路は、前記ハイサイドスイッチの制御端子間及びローサイドスイッチの制御端子間にそれぞれ接続されたハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルを有するトランスと、前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部とを更に備え、
前記制御端子間電圧制御部は、前記基準電圧を前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧で除する演算を行う除算器と、前記信号発生器の出力電圧と前記除算器の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を前記トランスの一次側に入力する乗算器とを備えている請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記制御端子間電圧検出部は、前記トランスの一次コイルの両端の電圧から前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を得るように構成されている請求項2又は3に記載の高周波電源装置。
【請求項5】
前記制御端子間電圧検出部は、前記トランスの二次コイルの両端の電圧から前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を得るように構成されている請求項2又は3に記載の高周波電源装置。
【請求項6】
前記スイッチング回路は、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて前記可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを1つだけ備えたハーフブリッジ型のスイッチング回路からなっている請求項1ないし5の何れかに記載の高周波電源装置。
【請求項7】
前記スイッチング回路は、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて前記可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを2つ備えて、該2つのレグを並列に接続した構成を有するフルブリッジ型のスイッチング回路からなっている請求項1ないし5の何れかに記載の高周波電源装置。
【請求項8】
出力する直流電力の大きさを調整する機能を有する可変DC電源部と、半導体増幅素子からなる単一のスイッチを備えたスイッチング回路を有して、該スイッチング回路のスイッチング動作により前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するDC/RF変換部と、前記DC/RF変換部が出力する高周波電力の周波数に等しい周波数を有する正弦波状又は矩形波状の出力電圧を発生する信号発生器を備えて前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するためのスイッチング動作を前記スイッチング回路に行わせるべく前記信号発生器が発生する正弦波状又は矩形波状の出力電圧と同期させて前記スイッチング回路のスイッチの制御端子間に交流電圧を駆動信号として与える駆動信号供給回路とを備えた高周波電源装置において、
前記駆動信号供給回路は、
前記スイッチング回路の前記スイッチの制御端子間の交流電圧を直接又は間接的に検出して、前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部と、
前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧から検出される前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部と、
を具備したことを特徴とする高周波電源装置。
【請求項9】
前記スイッチング回路の単一のスイッチは、チョークコイルを通して前記可変DC電源部の出力端子間に接続され、
前記駆動信号供給回路は、前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部を備え、
前記制御端子間電圧制御部は、前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧と前記基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部と、前記信号発生器の出力電圧と前記誤差増幅部の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を出力する乗算器とを備え、
前記乗算出力電圧が直接又はトランスを通して前記スイッチの制御端子間に駆動信号として入力されている請求項8に記載の高周波電源装置。
【請求項10】
前記スイッチング回路の単一のスイッチは、チョークコイルを通して前記可変DC電源部の出力端子間に接続され、
前記駆動信号供給回路は、前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部を備え、
前記制御端子間電圧制御部は、前記基準電圧を前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧で除する演算を行う除算器と、前記信号発生器の出力電圧と前記除算器の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を出力する乗算器とを備え、
前記乗算出力電圧が直接又はトランスを通して前記スイッチの制御端子間に駆動信号として入力されている請求項8に記載の高周波電源装置。
【請求項11】
前記スイッチング回路の各スイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対して前記制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を演算する目標値演算部が設けられ、
前記基準電圧発生部は、前記目標値演算部で演算された目標値を与える基準電圧を発生するように構成されている請求項2,3,4又は5に記載の高周波電源装置。
【請求項12】
前記スイッチング回路のスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対して前記制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を演算する目標値演算部が設けられ、
前記基準電圧発生部は、前記目標値演算部で演算された目標値を与える基準電圧を発生するように構成されている請求項9又は10に記載の高周波電源装置。
【請求項13】
前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値は、前記スイッチング回路を構成するスイッチで生じる導通損失を設定した制限値以下に抑えるために適した値に設定されている請求項1ないし12の何れか一つに記載の高周波電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ負荷等の負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ負荷等の負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置として、特許文献1に示されているように、直流出力を調整する機能を有する可変DC電源部と、可変DC電源部から出力される直流出力をスイッチ素子のオンオフ動作により高周波交流出力に変換するDC/RF変換部(直流/高周波交流変換部)とを備えて、可変DC電源部を制御することにより、DC/RF変換部から設定値に保たれた高周波電力を出力するようにしたものが用いられている。
【0003】
図19は、従来のこの種の高周波電源装置の構成を示したものである。同図において、1は高周波電源装置、2は高周波電源装置1から高周波電力が供給される負荷、3は高周波電源装置1と負荷2との間に設けられたインピーダンス整合器である。
【0004】
図19に示された高周波電源装置1は、出力制御信号Sdcに応じて、出力する直流電力の大きさを調整する機能を有する可変DC電源部(可変直流電源部)4と、可変DC電源部4から出力される直流電力を高周波電力に変換するDC/RF変換部(直流/高周波変換部)5と、DC/RF変換部5の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタ6と、ローパスフィルタ6の出力端と高周波電源装置の出力端子1aとの間に挿入されたパワー検出部7と、可変DC電源部4及びDC/RF変換部5を制御する制御部8′とを備えている。パワー検出部7は、高周波電源装置1から出力される高周波電力の進行波成分と、インピーダンスの不整合時にインピーダンス整合器3の入力部で反射して戻ってくる高周波電力の反射波成分とをそれぞれ検出して進行波電力検出信号Pfと反射波電力検出信号Prとを出力する。
【0005】
DC/RF変換部5は、例えば、図20に示したように、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチQ1とローサイドスイッチQ2とからなるレグ5aを少なくとも一つ有して、該少なくとも一つのレグを可変DC電源部4の出力端子間に並列に接続した構成を有するスイッチング回路5Aと、インダクタLrとキャパシタCrとの直列回路からなっていて、可変DC電源部の出力電圧Vdcがスイッチング回路5Aを通して印加される直列共振回路5Bとを備えたD級アンプにより構成される。図20に示した例では、可変DC電源部4の出力がスイッチング回路5Aと直列共振回路5Bとを通してトランス5Cの一次コイルWpに印加され、このトランスの二次コイルWsの出力がローパスフィルタ6に入力されている。なおトランス5Cは省略される場合もある。
【0006】
図20に示したDC/RF変換部においては、スイッチング回路5Aを構成するスイッチQ1及びQ2がそれぞれMOSFET FET1及びFET2からなっていて、FET1のソースがFET2のドレインに接続されることによりスイッチQ1とQ2とが直列に接続されている。スイッチQ1とQ2の直列回路の両端(可変DC電源部の出力端子間)にはキャパシタCsが接続されている。スイッチQ1及びQ2の制御端子間(図示の例ではFET1及びFET2のゲート・ソース間)にはそれぞれ、制御部8′内に設けられた駆動信号供給回路10′から電圧波形が正弦波状又は矩形波状を呈する駆動信号S1及びS2が交互に与えられる。
【0007】
図20に示されたDC/RF変換部5においては、スイッチQ1,Q2のスイッチング周波数に対して、直列共振回路5Bの共振周波数とQ(quality factor)とを適当に選ぶことにより、直列共振回路5Bとトランス5Cの1次コイルWpとに正弦波形の交流電流を流して、可変DC電源部4の出力を高周波交流電力に変換する。
【0008】
図19に示された制御部8′は、パワー検出部7から出力される進行波成分検出信号Pfに応じて可変DC電源部4に所定の出力制御信号Sdcを与えることにより、パワー検出部7により検出される高周波電力の進行波成分(負荷に供給される電力)を設定値に保つ出力制御と、パワー検出部7で検出された反射波成分が設定された規定値を超えたときに、該反射波成分を規定値以下に抑えるように可変DC電源部4の出力を抑制する反射保護制御とを行う。制御部8′はまた、DC/RF変換部5のスイッチング回路のスイッチをオンオフさせることにより、可変DC電源部4の直流出力を所定の周波数を有する高周波電力に変換する変換動作をDC/RF変換部5に行わせる。
【0009】
図20に示した例では、ハイサイドスイッチQ1とローサイドスイッチQ2の直列回路からなるレグ5aを一つ備えたハーフブリッジ型のスイッチング回路5Aと、直列共振回路5Bとを備えたD級アンプによりDC/RF変換部5が構成されているが、D級アンプのレグのハイサイドスイッチをチョークコイルで置き換えて、ローサイドスイッチのみによってスイッチング回路を構成するとともに、DC電源部の出力をチョークコイルを通して直列共振回路に印加するようにしたE級アンプによりDC/RF変換部が構成される場合もある。
【0010】
一般に、高周波電源装置1と負荷2との間に設けられているインピーダンス整合器3は、インピーダンス可変素子である可変コンデンサ又は可変インダクタをモータで制御して、インピーダンス整合器の入力端から負荷側を見たインピーダンスを調整することにより整合動作を行うように構成されているため、瞬時にインピーダンスの整合を図ることはできず、インピーダンスの整合には通常100msecないし数secの時間を要する。インピーダンスの整合がとれるまでの間はインピーダンス整合器3の入力部で反射が生じるため、インピーダンス整合器3からDC/RF変換部5に戻ってくる反射波電力が多くなって、DC/RF変換部5のスイッチング回路を構成するスイッチに流れる電流が増加し、該スイッチで生じる導通損失が増加する。
【0011】
高周波電力を供給する負荷2がプラズマ負荷である場合には、負荷のインピーダンスが不安定で、印加電力、チャンバ内のガスの圧力、チャンバ内に供給されるガスの流量、処理時間などの条件により負荷インピーダンスが細かく変化するため、インピーダンスの不整合状態が頻繁に生じ、DC/RF変換部5のスイッチング回路を構成するスイッチで多くの損失が生じる。特にDC/RF変換部から負荷側を見たインピーダンスが短絡に近い低インピーダンスの状態になって、全反射が生じる状態に近い状態になった場合には、スイッチング回路のスイッチに大電流が流れるため、スイッチのオン抵抗により大きな導通損失が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−143861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、可変DC電源部4から得られる直流電力を、D級アンプやE級アンプなどのスイッチングアンプからなるDC/RF変換部5Aにより高周波電力に変換するようにした高周波電源装置においては、反射電力が増大した際や、負荷電流が増大した際に、スイッチングアンプを構成するスイッチング回路の各スイッチで多くの損失が生じる。
【0014】
従って従来の高周波電源装置においては、DC/RF変換部の各スイッチが過度の温度上昇により破損するのを防ぐために、各スイッチに対して大型のヒートシンクを設けることが必要になり、装置が大形化するという問題があった。またDC/RF変換部のスイッチで多くの損失が生じると、装置の効率が低下するため、DC/RF変換部の各スイッチで生じる損失は可能な限り少なくしておくことが望ましい。
【0015】
本発明の目的は、可変DC電源部の出力を高周波電力に変換するDC/RF変換部に設けられるスイッチング回路の各スイッチで過度の導通損失が生じるのを防いで、スイッチング回路に対して設けるヒートシンクの小型化を図ることができるようにした高周波電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願においては、上記の目的を達成するために、少なくとも、以下に示す第1ないし第13の発明が開示される。
第1の発明
第1の発明は、出力する直流電力の大きさを調整する機能を有する可変DC電源部と、半導体増幅素子からなるスイッチを複数備えたスイッチング回路を有して、該スイッチング回路のスイッチング動作により可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するDC/RF変換部と、DC/RF変換部が出力する高周波電力の周波数に等しい周波数を有する正弦波状又は矩形波状の出力電圧を発生する信号発生器を備えて可変DC電源部の出力を高周波出力に変換するためのスイッチング動作をスイッチング回路に行わせるべく信号発生器が発生する正弦波状又は矩形波状の出力電圧と同期させてスイッチング回路のスイッチの制御端子間に交流電圧を駆動信号として与える駆動信号供給回路とを備えた高周波電源装置を対象とする。
【0017】
第1の発明においては、上記駆動信号供給回路に、スイッチング回路の各スイッチの制御端子間の交流電圧を直接又は間接的に検出して、前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部と、制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧から検出される各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部とが設けられる。
【0018】
上記のように駆動信号供給回路を構成しておくと、可変DC電源部の出力電圧の如何に関わりなく、スイッチング回路を構成する各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を設定された目標値に保つことができる。制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値をを一定に保っても、スイッチを通して流れる電流(スイッチがMOSFETからなる場合にはドレイン電流)が変化すればスイッチのオン抵抗は変化するが、スイッチを通して流れる電流の変動範囲を考慮して、制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を適正な値に保つようにしておけば、各スイッチのオン抵抗を、各スイッチで過度の導通損失が生じるのを防ぐために適した範囲の値に保つことができ、可変DC電源部からDC/RF変換部に印加する電圧の値を変化させた際に、各スイッチのオン抵抗が適正な範囲から外れて各スイッチで過度の導通損失が生じるのを防ぐことができる。従って、本発明によれば、各スイッチで生じる発熱を抑制して、各スイッチを冷却するために設けるヒートシンクの小形化を図ることができる。
【0019】
第2の発明
本願に開示された第2の発明は、上記第1の発明に適用されるもので、本発明においては、上記スイッチング回路が、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを少なくとも一つ備えている。この場合、駆動信号供給回路は、ハイサイドスイッチの制御端子間及びローサイドスイッチの制御端子間にそれぞれ接続されたハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルを有するトランスと、前記各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部とを更に備えている。この場合、制御端子間電圧制御部は、制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧と基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部と、信号発生器の出力電圧と誤差増幅部の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧をトランスの一次側に入力する乗算器とを備えた構成とされる。
【0020】
信号発生器の出力電圧と誤差増幅部の出力電圧との乗算は、乗算用ICやダブル・バランスド・ミキサなどの乗算素子により行うことができる。これらの乗算素子の出力電圧がトランスからスイッチを駆動するために必要なレベルの駆動信号を発生させるために十分なレベルを有している場合には、該乗算素子のみにより乗算器を構成して、乗算素子の出力電圧を乗算出力電圧としてトランスに入力するように構成することができる。これに対し、乗算素子がスイッチを駆動するために必要なレベルの電圧を発生することができない場合には、該乗算素子の出力をドライバアンプにより増幅してトランスに入力する必要がある。この場合、乗算器は、乗算素子と該乗算素子の出力電圧を増幅して乗算出力電圧を出力するドライバアンプとにより構成される。即ち、上記乗算器は、乗算素子のみにより構成される場合もあり、乗算素子とその出力を増幅するドライバアンプとにより構成される場合もある。以下に示す他の発明で用いる乗算器についても同様である。
【0021】
第3の発明
本願に開示された第3の発明も上記第1の発明に適用されるもので、本発明においても、スイッチング回路が、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを少なくとも一つ備えており、駆動信号供給回路は、ハイサイドスイッチの制御端子間及びローサイドスイッチの制御端子間にそれぞれ接続されたハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルを有するトランスと、各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部とを備えている。これらの構成は第2の発明と同様であるが、本発明においては、制御端子間電圧制御部が、基準電圧を制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧で除する演算を行う除算器と、信号発生器の出力電圧と除算器の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧をトランスの一次側に入力する乗算器とを備えている。
【0022】
第4の発明
本願に開示された第4の発明は、第2の発明又は第3の発明に適用されるもので、本発明においては、制御端子間電圧検出部が、トランスの一次コイルの両端の電圧から各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を得るように構成されている。
【0023】
第5の発明
本願に開示された第5の発明は、第2の発明又は第3の発明に適用されるもので、本発明においては、制御端子間電圧検出部が、トランスの二次コイルの両端の電圧から各スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を得るように構成されている。
【0024】
第6の発明
本願に開示された第6の発明は、第1ないし第5の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路が、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを1つだけ備えたハーフブリッジ型のスイッチング回路からなっている。
【0025】
第7の発明
本願に開示された第7の発明は、第1ないし第5の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路が、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチとローサイドスイッチにより構成されて可変DC電源部の出力端子間に接続されたレグを2つ備えて、該2つのレグを並列に接続した構成を有するフルブリッジ型のスイッチング回路からなっている。
【0026】
第8の発明
本願に開示された第8の発明は、出力する直流電力の大きさを調整する機能を有する可変DC電源部と、半導体増幅素子からなる単一のスイッチを備えたスイッチング回路を有して、該スイッチング回路のスイッチング動作により前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するDC/RF変換部と、前記DC/RF変換部が出力する高周波電力の周波数に等しい周波数を有する正弦波状又は矩形波状の出力電圧を発生する信号発生器を備えて前記可変DC電源部が出力する直流電力を高周波電力に変換するためのスイッチング動作を前記スイッチング回路に行わせるべく前記信号発生器が発生する正弦波状又は矩形波状の出力電圧と同期させて前記スイッチング回路のスイッチの制御端子間に交流電圧を駆動信号として与える駆動信号供給回路とを備えた高周波電源装置を対象とする。本発明においては、上記駆動信号供給回路に、前記スイッチング回路のスイッチの制御端子間の交流電圧を直接又は間接的に検出して、前記スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部と、前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧から検出されるスイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部とが設けられる。
【0027】
第9の発明
第9の発明は、第8の発明に適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路の単一のスイッチが、チョークコイルを通して前記可変DC電源部の出力端子間に接続され、駆動信号供給回路は、スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部を備えている。前記制御端子間電圧制御部は、前記制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧と前記基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部と、前記信号発生器の出力電圧と前記誤差増幅部の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を出力する乗算器とを備え、前記乗算出力電圧が直接又はトランスを通して前記スイッチの制御端子間に駆動信号として入力されている。
【0028】
第10の発明
本願に開示された第10の発明は、第8の発明に適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路の単一のスイッチが、チョークコイルを通して前記可変DC電源部の出力端子間に接続され、駆動信号供給回路は、スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部を備えている。また制御端子間電圧制御部は、基準電圧を制御端子間電圧検出部が出力する検出信号電圧で除する演算を行う除算器と、信号発生器の出力電圧と除算器の出力電圧との乗算値の情報を含む乗算出力電圧を出力する乗算器とを備え、乗算出力電圧が直接又はトランスを通してスイッチング回路のスイッチの制御端子間に駆動信号として入力されている。
【0029】
第11の発明
第11の発明は、第2の発明、第3の発明、第4の発明又は第5の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路の各スイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対して制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を演算する目標値演算部が設けられている。この場合基準電圧発生部は、上記目標値演算部で演算された目標値を与える基準電圧を発生するように構成される。
【0030】
上記のように、スイッチング回路のスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対してスイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算する目標値演算部を設けておくと、スイッチング回路の各スイッチを流れる電流に応じて各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を決めることができるため、負荷の状態の如何に関わりなく、各スイッチで生じる導通損失の低減を効果的に図ることができる。
【0031】
スイッチング回路のスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータとしては、スイッチング回路から出力される電流の検出値そのものを用いてもよく、スイッチング回路から負荷側を見た回路のインピーダンスなどを用いてもよい
【0032】
第12の発明
第12の発明は第9の発明又は第10の発明に適用されるもので、本発明においては、スイッチング回路のスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対して前記制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値を演算する目標値演算部が設けられる。この場合基準電圧発生部は、目標値演算部で演算された目標値を与える基準電圧を発生するように構成される。
【0033】
第13の発明
本願に開示された第11の発明は、第1ないし第12の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、スイッチの制御端子間の交流電圧のピーク値又は平均値の目標値が、スイッチング回路を構成するスイッチで生じる導通損失を設定した制限値以下に抑えるために適した値に設定されている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、DC/RF変換部に設けるスイッチング回路を構成する各スイッチに駆動信号を供給する駆動信号供給回路に、スイッチング回路の各スイッチの制御端子間の電圧を直接又は間接的に検出して、各スイッチの制御端子間の電圧の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部と、制御端子間電圧検出部が出力する検出信号から検出される各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部とを設けて、可変DC電源部の出力電圧の如何に関わりなく、スイッチング回路を構成する各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保って、各スイッチのオン抵抗を、各スイッチで過度の導通損失が生じるのを防ぐために適した範囲の値に保つことができるようにしたので、可変DC電源部からDC/RF変換部に印加される電圧の変化に伴って各スイッチで過度な導通損失が生じるのを防ぐことができる。従って、本発明によれば、各スイッチで生じる発熱を抑制することができ、各スイッチを冷却するために設けるヒートシンクの小形化を図ることができる。またスイッチング回路で生じる損失の低減を図ることができるため、装置の効率の改善を図ることができる。
【0035】
また本発明において、スイッチング回路のスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対して制御端子間の電圧の目標値を演算する目標値演算部を設けて、スイッチング回路の各スイッチを流れる電流に応じて各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を決めるようにした場合には、負荷の状態の如何に関わりなく、DC/RF変換部のスイッチング回路の各スイッチの制御端子間の電圧を適正値に保持して、各スイッチで生じる導通損失の低減を効果的に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施形態の構成を示したブロック図である。
図2図1に示した実施形態の各部を具体化した本発明の実施例を示した回路図である。
図3図2に示した実施例で用いる制御端子間電圧制御部内に構成されているフィードバック制御系の構成を示したブロック図である。
図4】(A)乃至(E)は、図2の回路を用いて行ったシミュレーションで観察された各部の電圧波形を示した波形図である。
図5図2に示した実施例の変形例を示した回路図である。
図6図1の実施形態の各部を具体的にした本発明の他の実施例を示した回路図である。
図7】(A)乃至(E)は、図6の実施例について、駆動信号の波形を正弦波として行ったシミュレーションで観察された各部の電圧波形を示した波形図である。
図8】(A)乃至(E)は、図6の実施例において、駆動信号の波形を矩形波として行ったシミュレーションで観察された各部の電圧波形を示した波形図である。
図9図6に示した実施例の変形例を示した回路図である。
図10】フルブリッジ型のスイッチング回路を用いたD級アンプによりDC/RF変換部を構成した例を示した回路図である。
図11図1に示した実施形態において、DC/RF変換部をE級アンプにより構成する場合の実施例を示した回路図である。
図12】本発明の他の実施形態の構成を示したブロック図である。
図13】本発明の更に他の実施形態の構成を示したブロック図である。
図14】従来の高周波電源装置の構成例を示した回路図である。
図15】MOSFETの入力容量、帰還容量及び出力容量とドレインソース間電圧との関係の一例を示したグラフである。
図16】(A)乃至(E)は、図14の回路を用いて行ったシミュレーションで観察された各部の電圧波形を示した波形図である。
図17図14に示した回路において、DC/RF変換部に入力する直流電圧を一定として、負荷抵抗RLを変化させた場合にもゲート電圧波形が変化することを説明するための波形図である。
図18】MOSFETのドレイン電流とドレイン・ソース間抵抗(オン抵抗)との間の関係の一例をゲート・ソース間電圧をパラメータとして示したグラフである。
図19】従来の高周波電源装置の構成を示したブロック図である。
図20】従来の高周波電源装置で用いられていたDC/RF変換部の構成例を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態につき詳細に説明する。
図1は本発明に係る高周波電源装置の一実施形態の構成を示したもので、同図において1は高周波電源装置、2は高周波電源装置1から高周波電力が供給される負荷、3は高周波電源装置1と負荷2との間に設けられたインピーダンス整合器である。
【0038】
本実施形態では、負荷2がプラズマ負荷であるとする。プラズマ負荷は、高周波電源装置1から与えられる高周波電力によりプラズマを発生する負荷で、半導体等の被処理物にプラズマを照射することによりエッチング等の処理を行うプラズマ処理装置等である。プラズマ負荷は通常チャンバ内にプラズマ発生用の電極を備えていて、該電極に高周波電力が与えられた際にプラズマを発生する。プラズマ負荷のインピーダンスは、電極間に与えられる電力の大きさ、チャンバ内のガスの圧力、チャンバ内に供給されるガスの流量、プラズマを発生させる時間などの種々の条件により細かく変化する。
【0039】
インピーダンス整合器3は、インピーダンス可変素子である可変コンデンサ又は可変インダクタと、モータを駆動源としてインピーダンス可変素子を操作する操作機構とを備えていて、負荷2で消費される高周波電力を最大にするために、高周波電源装置1の出力インピーダンスと、高周波電源装置から負荷側を見たインピーダンスとを共役関係にするように調整する。一般に高周波電源装置の出力インピーダンスは50Ωに設計されているため、インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1から負荷側を見たインピーダンスを50Ωに等しくするように動作する。
【0040】
図示の高周波電源装置1は、可変DC電源部4と、可変DC電源部4の直流出力を高周波出力に変換するDC/RF変換部5と、DC/RF変換部5の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタ6と、負荷2に供給される高周波電力の進行波成分及び負荷で反射して戻ってくる高周波電力の反射波成分を検出するパワー検出部7と、可変DC電源部4及びDC/RF変換部5を制御する制御部8とを備えている。
【0041】
可変DC電源部4は、出力する直流電力を後記する出力制御部から与えられる出力制御信号Sdcに応じて調整する機能を有するものであれば如何なるものでもよい。可変DC電源部4は例えば、商用周波数の交流電力を直流電力に変換する整流電源部と、この整流電源部の直流出力を任意の大きさを有する直流電力に変換するDC−DCコンバータとにより構成される。DC−DCコンバータは例えば、入力された直流電力を一旦交流電力に変換するインバータと、このインバータの出力を変成するトランスと、該トランスの出力を整流する整流回路と、該整流回路の出力を平滑する平滑回路とを備えていて、出力制御信号(PWM制御信号)Sdcに応じてインバータの出力をPWM制御することにより任意のレベルの直流電力を出力するように構成される。
【0042】
本実施形態で用いるDC/RF変換部5は、スイッチング回路5Aと、可変DC電源部4の出力がスイッチング回路5Aを通して供給される直列共振回路5Bと、一次コイルが直列共振回路5Bに直列に接続されたトランス5Cとを備えたD級アンプにより構成される。
【0043】
本実施形態では、図20に示されたDC/RF変換部と同様に、スイッチング回路5Aが、ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2の直列回路からなるレグを一つだけ備えたハーフブリッジ型の回路からなっている。スイッチング回路5Aを構成するハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2は、MOSFET(電界効果トランジスタ)やバイポーラトランジスタ等の半導体増幅素子により構成されるが、以下の説明では、ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2をそれぞれMOSFET FET1及びFET2により構成するものとする。
【0044】
MOSFETなどの半導体増幅素子からなるスイッチは、その制御端子間(MOSFETの場合にはゲート・ソース間)にしきい値レベル以上の波高値を有する駆動信号が与えられたときに能動領域でオン動作をし、しきい値レベルを超える一定値以上の波高値を有する駆動信号が与えられている間飽和領域でオン動作をする。図示のDC/RF変換部5においては、スイッチング回路5Aのハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチが交互にオン動作を行うことにより直列共振回路5Bを共振させて、可変DC電源部4の直流出力を高周波交流出力に変換する。DC/RF変換部5の出力は、可変DC電源部4の出力を調整することによって適宜に調整することができる。
【0045】
ローパスフィルタ6は、インダクタとキャパシタとからなる周知のL型フィルタからなっていて、DC/RF変換部5の出力から高調波成分を取り除いて、DC/RF変換部5が出力する高周波出力のうち、所望の周波数成分のみを通過させる。
【0046】
パワー検出部7は、方向性結合器からなっていて、DC/RF変換部5からローパスフィルタ6を通して負荷2に供給される高周波電力の進行波成分と、負荷2で反射して戻ってくる高周波電力の反射波成分とをそれぞれ検出して、進行波成分検出信号Pfと反射波成分検出信号Prとを出力する。
【0047】
可変DC電源部4及びDC/RF変換部5を制御する制御部8は、出力制御部9と、駆動信号供給回路10とを備えている。出力制御部9は、可変DC電源部4に所定の出力制御信号Sdcを与えることにより、パワー検出部7により検出される高周波電力の進行波成分を設定値に保つように可変DC電源部4を制御する高周波出力制御と、パワー検出部7により検出される高周波電力の反射波成分が規定値(許容値)を超えているときに、反射波成分を規定値以下に抑えるべく、可変DC電源部4の出力を抑制する反射保護制御とを行う。出力制御信号Sdcは、可変DC電源部4の構成に応じて適宜の形態をとり得る。可変DC電源部4を整流電源部とDC−DCコンバータとにより構成する場合、出力制御信号は、コンバータの出力をPWM制御するために該コンバータのスイッチの制御端子に与えられる信号であり、所定のデューティ比で高レベルの状態と低レベルの状態とを繰り返すパルス波形の信号である。
【0048】
本実施形態で用いる駆動信号供給回路10は、信号発生器10Aと、トランス10Bと、制御端子間電圧検出部10Cと、基準電圧発生部10Dと、制御端子間電圧制御部10Eとを備えている。
【0049】
信号発生器10Aは、DC/RF変換部5のスイッチング回路5Aの各スイッチに与える駆動信号の発生源で、DC/RF変換部5から出力させる高周波出力の周波数に等しい正弦波状又は矩形波状の電圧信号を発生する発振器からなる。
【0050】
スイッチング回路5Aが、図20に示すように、互いに直列に接続されたハイサイドスイッチQ1とローサイドスイッチQ2とにより構成される場合、図1に示されたトランス10Bは、信号発生器10Aから制御端子間電圧制御部10Eを通して交流信号が入力される一つの一次コイルと、ハイサイドスイッチQ1の制御端子間及びローサイドスイッチQ2の制御端子間にそれぞれ並列に接続されたハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルとを有している。ハイサイドスイッチ用二次コイル及びローサイドスイッチ用二次コイルは、位相が180度異なる電圧を誘起するように巻回されていて、ハイサイドスイッチQ1の制御端子間及びローサイドスイッチQ2の制御端子間に位相が180°異なる交流電圧を印加する。
【0051】
ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2は、それぞれの制御端子間に印加される交流電圧の正の半波の電圧を駆動信号S1及びS2として交互にオン状態にされる。ハイサイドスイッチQ1及びQ2が交互にオン状態にされることにより、可変DC電源部4からスイッチング回路5Aを通して直列共振回路5Bに共振電流が流れて、可変DC電源部4が出力する直流電力が高周波電力に変換される。
【0052】
制御端子間電圧検出部10Cは、スイッチング回路のレグを構成する各スイッチの制御端子間の電圧を直接又は間接的に検出して、各スイッチの制御端子間の電圧の情報を含む検出信号電圧を出力する部分である。この検出部10Cは、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧から各スイッチの制御端子間の電圧の情報を得るように構成するか、又はトランス10Bの二次コイルの両端の電圧から各スイッチの制御端子間の電圧の情報を得るように構成することができる。本実施形態において、ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2の制御端子間に印加されている電圧は交流電圧であるため、制御端子間電圧検出部10Cは、トランス10Bの一次側の電圧又は二次側の電圧のピーク値を検出するか、又はトランス10Bの一次側の電圧又は二次側の電圧の整流出力の平均値を検出するように構成される。
【0053】
基準電圧発生部10Dは、スイッチング回路5Aの各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を与える基準電圧を発生する部分で、各スイッチの制御端子間の電圧の目標値に相当する一定の電圧値に調整された直流電圧を発生する。
【0054】
制御端子間電圧制御部10Eは、制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号から検出される各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保つように制御する制御部で、この制御端子間電圧制御部は例えば、制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号電圧と基準電圧発生部10Dが発生する基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部と、信号発生器の出力電圧と誤差増幅部の出力電圧とを乗算して、得られた乗算出力電圧をトランス10Bの一次側に入力する乗算器とにより構成することができる。信号発生器の出力電圧と誤差増幅部の出力電圧との乗算は、乗算用ICや、ダブル・バランスド・ミキサなどの乗算素子により行うことができる。これらの乗算素子は、一般には、MOSFET等のスイッチを駆動するために必要な出力を発生することができないため、通常乗算器は、乗算素子と、該乗算素子の出力を増幅するドライバアンプとにより構成される。
【0055】
図1に示された高周波電源装置1から負荷2に高周波電力を供給する際には、高周波電源装置1の出力インピーダンスと高周波電源装置1の出力端から負荷側を見たインピーダンスとを整合させる動作をインピーダンス整合器3に常時行わせる。前述のように、インピーダンス整合器3は、インピーダンス可変素子である可変コンデンサ又は可変インダクタをモータで制御することにより、該インピーダンス整合器の入力端から負荷側を見たインピーダンスを調整するように構成されているため、瞬時にインピーダンスの整合を図ることはできない。通常インピーダンスの整合には100msecないし数secの時間を要する。インピーダンスの整合がとれるまでの間は負荷で反射が生じるため、負荷2からDC/RF変換部5に戻ってくる反射波電力が多くなってDC/RF変換部5のスイッチング回路を構成するスイッチに流れる電流が増加し、該スイッチで生じる導通損失が増加する。
【0056】
高周波電力を供給する負荷2がプラズマ負荷である場合には、負荷のインピーダンスが不安定で、印加電力、チャンバ内のガスの圧力、チャンバ内に供給されるガスの流量、処理時間などの条件により負荷インピーダンスが細かく変化する。そのため、インピーダンス整合器3の入力部でインピーダンスの不整合状態が頻繁に生じ、インピーダンス整合器の入力部で反射した電力が高周波電源装置に戻ってくるため、DC/RF変換部5のスイッチング回路を構成するスイッチで多くの導通損失が生じる。特にDC/RF変換部から負荷側を見たインピーダンスが短絡に近い低インピーダンスの状態になって、全反射が生じる状態に近い状態になった場合には、スイッチング回路のスイッチに大電流が流れるため、スイッチのオン抵抗により大きな導通損失が生じる。
【0057】
スイッチング回路5Aのスイッチで生じる導通損失は、スイッチのオン抵抗(オン時の抵抗)と、スイッチを通して流れる電流の自乗との積により決まる。スイッチがMOSFETのような半導体増幅素子により構成される場合、そのオン抵抗は、スイッチの制御端子間の電圧により変る。従って、スイッチで生じる導通損失は、スイッチの制御端子間に印加されている電圧の大きさにより変ることになる。
【0058】
スイッチを通して流れる電流が比較的小さいときには、スイッチのオン抵抗を小さくすることにより導通損失を減らすことができるが、反射波電力の増大等によりスイッチを通して大きな電流が流れ得る状態になったときには、オン抵抗を小さくするとスイッチを流れる電流が増大し、導通損失は(通電電流の自乗に比例するため)かえって増加することになる。従って、スイッチで生じる導通損失の低減を図るためには、スイッチを流れる電流の大きさを勘案して、スイッチのオン抵抗を適正な値に保つことが必要である。
【0059】
しかしながら、この種の高周波電源装置においては、負荷に与える高周波電力を調整するために可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧を変化させた際に、DC/RF変換部5のスイッチング回路の各スイッチに印加される直流電圧が変化して、各スイッチを構成する半導体増幅素子(例えばMOSFET)の入力静電容量や帰還静電容量が変化するため、各スイッチの制御端子に与えられる電流が変化し、この電流の変化に伴って、各スイッチの制御端子間の電圧が適正値からずれるという問題が生じる。各スイッチの制御端子間の電圧が適正値からずれると、各スイッチで生じる導通損失が増大し、各スイッチの温度が上昇する。
【0060】
そこで本発明では、駆動信号供給回路10に、スイッチング回路5Aの各スイッチの制御端子間の電圧を直接又は間接的に検出して、各スイッチの制御端子間の電圧の情報を含む検出信号電圧を出力する制御端子間電圧検出部10Cと、各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を与える基準電圧を発生する基準電圧発生部10Dと、制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号から検出される各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保つように制御する制御端子間電圧制御部10Eとを設けて、可変DC電源部4の出力電圧の如何に関わりなく、スイッチング回路5Aを構成する各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保って、各スイッチのオン抵抗を、各スイッチで過度の導通損失が生じるのを防ぐために適した範囲の値に保つことができるようにした。
【0061】
なおハイサイドスイッチQ1の制御端子間の電圧及びローサイドスイッチQ2の制御端子間の電圧を目標値に保つ制御を正確に行わせるためには、ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2の制御端子間の電圧を個別に検出して、両スイッチの制御端子間の電圧を個別に制御することが好ましいが、このように構成すると、制御回路の構成が複雑になるのを避けられない。そのため、本実施形態では、トランス10Bの2つの二次コイルのうちの一方の両端の電圧を検出するか、又はトランス10Bの一次コイルの両端の電圧を検出することにより、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの制御端子間の電圧の情報を得て、この情報に基づいてトランス10Bに入力される電圧を制御することにより、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの制御端子間の電圧を一括して制御するようにしている。通常ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの特性には大きなバラツキはないので、本実施形態のように構成しても支障を来さない。
【0062】
図1に示された高周波電源装置1のDC/RF変換部5をハーフブリッジ型のスイッチング回路5Aを用いたD級アンプにより構成する場合の各部のより具体的な構成例を示す実施例を図2に示した。図2に示した実施例では、DC/RF変換部5のスイッチング回路5Aが、ハイサイドスイッチQ1とローサイドスイッチQ2との直列回路からなる一つのレグを可変DC電源4の出力端子間に並列に接続したハーフブリッジ型の構成を有している。
【0063】
図2に示されたスイッチング回路5Aにおいては、ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2がそれぞれMOSFET FET1及びFET2からなっていて、FET1のドレインが可変DC電源部4のプラス側出力端子に、FET2のソースが可変DC電源部4のマイナス側出力端子にそれぞれ接続されるとともに、FET1のソースと、FET2のドレインとが共通接続されることにより、FET1とFET2とが直列に接続され、これらのFETの直列回路の両端に可変DC電源部4の出力電圧が印加されている。
【0064】
この例では、FET1のソースとFET2のドレインとの共通接続点と、FET2のソースとがスイッチング回路5Aの出力端子となっていて、FET1のソースとFET2のドレインとの共通接続点がインダクタLrとコンデンサCrとの直列回路からなる直列共振回路5Bの一端に接続されている。直列共振回路5Bの他端は、トランス5Cの1次コイルWpの一端に接続され、トランスの1次コイルWpの他端は、FET2のソースに接続されている。
【0065】
図2に示した例では、トランス5Cの2次コイルWsの一端及び他端がDC/RF変換部5の出力端子となっていて、これらの出力端子間から得られる高周波出力が、インダクタLaとキャパシタCaとからなるローパスフィルタ6に入力されている。図2において、RLは、図1に示したインピーダンス整合器3によりインピーダンスの整合がとられているものとして図2に示した回路の動作をシミュレートするためにローパスフィルタ6の出力端子間に接続した50Ωの負荷抵抗である。
【0066】
図2に示された駆動信号供給回路10は、一つの一次コイルW1と、ハイサイドスイッチ用二次コイルW21及びローサイドスイッチ用二次コイルW22とを備えたトランス10Bを備え、このトランスのハイサイドスイッチ用二次コイルW21及びローサイドスイッチ用二次コイルW22がそれぞれFET1のゲート・ソース間及びFET2のゲート・ソース間に並列に接続されている。ハイサイドスイッチ用二次コイルW21及びローサイドスイッチ用二次コイルW22は、波高値が等しく、互いに位相が180度異なる電圧を誘起するように巻回されていて、FET1(ハイサイドスイッチQ1)の制御端子間及びFET2(ローサイドスイッチQ2)の制御端子間に位相が180°異なる交流電圧を印加する。
【0067】
ハイサイドスイッチQ1及びローサイドスイッチQ2をそれぞれ構成するFET1及びFET2は、トランス10Bからそれぞれのゲートソース間(制御端子間)に印加される交流電圧の正の半波の電圧を駆動信号S1及びS2として、駆動信号S1及びS2がしきい値以上になっている期間オン状態を保持し、駆動信号S1及びS2がしきい値未満に低下したときにオフ状態になる。駆動信号S1とS2は180度位相が異なるため、FET1及びFET2は180度異なるタイミングで交互にオン状態にされる。FET1及びFET2が交互にオン状態にされることにより、可変DC電源部4からスイッチング回路5Aを通して直列共振回路5Bに共振電流が流れ、可変DC電源部4が出力する直流電力が高周波電力に変換される。
【0068】
FET1及びFET2が同時にオン状態になる期間が生じて可変DC電源部の出力が短絡されるのを防ぐため、駆動信号S1がしきい値未満になるタイミング(駆動信号S1が消滅するタイミング)と駆動信号S2がしきい値に達するタイミング(駆動信号S2が発生するタイミング)との間、及び駆動信号S2がしきい値未満になるタイミング(駆動信号S2が消滅するタイミング)と駆動信号S1がしきい値に達するタイミング(駆動信号S1が発生するタイミング)との間に一定のデッドタイム(ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの何れにも駆動信号が与えられない期間)が設定されている。
【0069】
図2に示された高周波電源装置に設けられた制御端子間電圧検出部10Cは、トランス10Bの一次コイルW1の一端にカソードが接続されたショットキーバリアダイオードDs と、ダイオードDs のアノードに一端が接続され、他端が信号発生器10Aの一端と共に接地されて、トランスの一次コイルW1の両端の電圧Vinの負の半波のピーク値まで充電されるコンデンサCb と、コンデンサCb の両端に接続された抵抗Rb とを備えたピーク電圧検出回路からなっていて、コンデンサCb の両端にトランス10Bの一次コイルの両端の電圧Vinのピーク値に比例した検出信号電圧Vfを発生する。トランス10Bの一次コイルの両端の電圧Vinには、FET1及びFET2のゲート・ソース間の電圧が反映されているため、コンデンサC1の両端に現れる検出信号電圧VfからFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧(制御端子間電圧)の情報を得ることができる。
【0070】
また制御端子間電圧制御部10Eは、制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号電圧Vfと基準電圧発生部10Dから得られる基準電圧Vrとの偏差を演算する誤差増幅部10E1と、信号発生器10Aの出力電圧Eと誤差増幅部10E1の出力電圧とを乗算するアナログ乗算器MULとを備えている。
【0071】
誤差増幅部10E1は、抵抗器R1とR2とにより構成されて基準電圧Vrと検出信号電圧−Vfとを加算する加算器Adと、演算増幅器OP1と抵抗器R3及びR4とにより構成されて加算器Adの出力電圧Vr−Vfが演算増幅器OP1の反転入力端子に入力された第1の反転増幅回路Am1と、演算増幅器OP2と抵抗器R5及びR6とコンデンサC1とにより構成されて、第1の反転増幅器Am1の出力が演算増幅器OP2の反転入力端子に入力された第2の反転増幅回路Am2とからなっていて、第2の演算増幅回路Am2から基準電圧Vrと検出信号電圧Vfとの差の電圧ΔV=Vr−Vfに比例した電圧を出力する。
【0072】
乗算器MULは、信号発生器10Aの出力電圧Eと誤差増幅部10E1の出力電圧とを乗算する乗算素子と、該乗算素子の出力を増幅するドライバアンプとからなっていて、信号発生器10Aの出力電圧Eと誤差増幅部10E1の出力電圧との乗算出力電圧をMOSFETを駆動するために必要なレベルの電圧としてトランス10Bの一次側に入力する。
【0073】
なお図2において乗算器MULとトランス10Bとの間に図示されているrは、信号発生器10Aの内部インピーダンスの抵抗分と、乗算器内に設けられる増幅器の内部インピーダンスの抵抗分と、配線の抵抗分との合成抵抗であり、Lは、信号発生器10Aの内部インピーダンスのインダクタンス成分と、乗算器内に設けられる増幅器の内部インピーダンスのインダクタンス成分と、配線のインダクタンス成分との合成インダクタンスである。
【0074】
図2に示された駆動信号供給回路において、トランスの一次コイルW1の両端の電圧Vin,検出信号電圧Vf,基準電圧Vr及び誤差増幅部の入力電圧ΔV(=Vr−Vf)は時間の関数であるとし、これらのラプラス変換をそれぞれVin(s),Vf(s),Vr(s)及びΔV(s)とする。なおs=jω(ωは角周波数)である。
【0075】
図3は、図2に示された制御端子間電圧制御部10E内に構成されているフィードバック制御系の構成を示したブロック図である。図3において、H(s)は制御端子間電圧検出部10Cの入力電圧Vin(s)と出力電圧Vf(s)との間の関係を与える伝達関数であり、G1(s)は誤差増幅部10E1の増幅回路の入力電圧ΔV(s)=Vr(s)−Vf(s)と出力電圧との間の関係を与える伝達関数である。またG2(s)は乗算器MULの入力(誤差増幅部10E1の出力)と乗算器MULの出力Vin(s)(トランス10Bの一次コイルの両端の電圧)との間の関係を与える伝達関数である。
【0076】
図3から下記の(1)ないし(3)式が成立する。
Vf(s)=H(s)*Vin(s) (1)
ΔV(s)=Vr(s)−Vf(s) (2)
Vin(s)=G1(s)*G2(s)*ΔV(s)
=G1(s)*G2(s)*{Vr(s)-Vf(s)}
=G1(s)*G2(s)*{Vr(s)-H(s)*Vin(s)} (3)
(3)式より、
{1+G1(s)*G2(s)*H(s)}*Vin(s)=G1(s)*G2(s)*Vr(s) (4)
(4)式よりVin(s)を求めると、
Vin(s)=[G1(s)*G2(s)/{1+G1(s)*G2(s)*H(s)}]*Vr(s) (5)
【0077】
図3に示したフィードバック制御系は、トランスの一次コイルの両端の交流電圧の波高値(直流分)を一定に制御するものであるので、(5)式においてs=0とすると、下記の式が成立する。
Vin(0)=[G1(0)*G2(0)/{1+G1(0)*G2(0)*H(0)}]*Vr(0) (6)
ここで、s=0のときにG1(0)>>G2(0)、G1(0)*G2(0)*H(0)>>1が成立するとし、又、できる限り高い周波数までG1(s)>>G2(s)、G1(s)*G2(s)*H(s)>>1が成立すると、下記の式が成立する。
Vin(s)≒Vr(s)/H(s) (5)′
Vin(0)≒Vr(0)/H(0) (6)′
ここで、H(0)は一定とみなすことができ、可変DC電源部の出力電圧の影響を受けないため、(6)′式より、トランス10Bの入力電圧Vinは、可変DC電源部からDC/RF変換部に入力される直流電圧の如何に関わりなく、基準電圧Vr(0)と1/H(0)tとの積により決まる一定の電圧値に等しくなるように制御されることが分かる。また,G1(s)*G2(s)*H(s)>>1が成立する周波数においては、DC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcや負荷抵抗RLが変化しても、応答よく入力電圧Vinを一定に制御することができる。
【0078】
本発明者は、本発明の効果を確認するため、DC/RF変換部のスイッチの制御端子間の電圧を一定に保つ制御を行わなかった場合と、行った場合とについて、DC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcを変化させた場合のFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の変化を観察するためのシミュレーションをコンピュータを用いて行った。
【0079】
先ず図2に示した高周波電源装置から制御端子間電圧制御部10Eを取り除いたものに相当する図14に示す高周波電源装置を従来例として、DC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcを変化させた場合のFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の変化を観察するためのシミュレーションを行った。このシミュレーションを行うに当っては、図14に示した高周波電源装置において、信号発生器10Aの出力信号の振幅を20V、周波数を13.56MHzとし、信号波形を正弦波とした。ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチを構成するFET1及びFET2としては、入力静電容量Ciss、帰還静電容量Crss及び出力静電容量Cossがドレイン・ソース間電圧VDSに対して図15に示すような変化を示すMOSFETを用いるものとした。図15において、静電容量(キャパシタンス)の単位はファラッドであり、ドレインソース間電圧VDSの単位はボルトである。図15は、FETを製造しているメーカが公表しているMOSFETのデータシートから引用したものである。また信号発生器10Aの内部インピーダンスの抵抗分と配線の抵抗分との合成抵抗rを0.5Ωとし、信号発生器10Aの内部インピーダンスのインダクタンス成分と配線のインダクタンス成分との合成インダクタンスLを20nHとした。なお負荷抵抗RLは50Ωとした。
【0080】
図14に示した高周波電源装置において、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcを50Vと300Vとの間で変化させたところ、図16(A)ないし(E)に示した通りの電圧波形が観測された。図16(A)は、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcの変化を時間Tに対して示したものであり、同図(B)は高周波電源装置の出力電圧Voutを時間Tに対して示したものである。また図16(C)は,信号発生器10Aの出力電圧Eの波形を示し、図16(D)及び(E)はそれぞれ、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧Va −Vb 及びVc −Vd の変化を示している。Va −Vb はFET1のゲートにつながる端子aの電位Vaとソースにつながる端子bの電位Vbとの電位差であり、Vc −Vd はFET1のゲートにつながる端子c の電位Vc とソースにつながる端子d の電位Vd との電位差である。なお図16(A)ないし(E)において、横軸の時間Tの単位はμsecであり、縦軸の電圧の単位はボルトである。以下に説明する他のシミュレーション波形における横軸及び縦軸の単位も同様である。
【0081】
図16から、FET1及びFET2の駆動信号の信号源である信号発生器10Aの波高値が一定であるにもかかわらず、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の波高値がDC/RF変換部に入力される直流電圧(図16A)の変化に伴って変動していることが分る。
【0082】
図17(A)ないし(C)は、図14の回路において、DC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcを300「V」(一定)として、負荷抵抗RLを10Ωとしたときと50ΩとしたときのFET1のゲートソース間電圧Va−Vb の変化をシミュレーションした結果を示したものである。図17(A)は、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcの変化を時間Tに対して示したものであり、同図(B)は,信号発生器10Aの出力電圧Eの波形を示したものである。また同図(C)の波形イは負荷抵抗RL を10Ωとした場合のFET1のゲート・ソース間電圧Va−Vb の波形を示し、波形ロは負荷抵抗RL を50Ωとした場合のFET1のゲート・ソース間電圧Va−Vb の波形を示している。これらの結果から、負荷抵抗RL の大きさが変動すると、MOSFETのゲート・ソース間の電圧が変動することが分る。このシミュレーション結果より、負荷抵抗RL が50Ωから10Ωに変化したことにより、ゲート・ソース間電圧が減少し、その結果、各FETのオン抵抗が増加して、ゲート・ソース間電圧が減少しない場合に比べ、各FETの導通損失が増加することが分る。
【0083】
MOSFETのオン抵抗(オン時のドレイン・ソース間抵抗)は、ドレイン電流やゲート・ソース間電圧の大きさに依存する。図18は、MOSFETのオン抵抗とドレイン電流とゲート・ソース間電圧との間の関係を示した特性曲線の一例を示したものである。図18は、富士電機株式会社が発行しているパワーMOSFETのアプリケーションノートから引用したもので、同図において、横軸のID はドレイン電流を示し、縦軸のRDS(on)はオン時のドレイン・ソース間抵抗(オン抵抗)を示している。またパラメータVGSはMOSFETのゲート・ソース間電圧(駆動信号)を示している。図18から、MOSFETのオン抵抗RDS(on)は、ドレイン電流ID の増大に伴って大きくなり、ゲート・ソース間電圧VGSの上昇に伴って小さくなっていくことが分る。
【0084】
上記のように、DC/RF変換部5に入力される直流電圧が変ったり、負荷インピーダンスが変ったりした場合に、DC/RF変換部のスイッチング回路のMOSFETのゲート電圧の大きさが変化する。その結果、MOSFETのオン抵抗が増加して、MOSFETの導通損失が増加することがあり、各スイッチで過度の温度上昇が生じるおそれがある。そのため、従来の高周波電源装置では、スイッチング回路を構成するスイッチに対して設けるヒートシンクとして大型のものを用いる必要があり、装置が大形化するのを避けられない。
【0085】
次に、図2に示した本発明の実施例について、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧を変化させた場合のFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の変化を見るために行ったシミュレーションの結果を図4(A)ないし(E)に示した。図4において、(A)は、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcの変化を時間Tに対して示したものであり、同図(B)は高周波電源装置の出力電圧Voutを時間Tに対して示したものである。また図4(C)は信号発生器10Aの出力電圧Eの波形(正弦波)を示し、図4(D)及び(E)はそれぞれ、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧Va −Vb 及びVc −Vd の変化を示している。
【0086】
図4(A)ないし(E)に示された結果から明らかなように、FET1(ハイサイドスイッチQ1)及びFET2(ローサイドスイッチQ2)のゲート・ソース間電圧を目標値に保つフィードバック制御を行うことにより、両FETのゲート・ソース間電圧を一定に保つことができることが確認された。
【0087】
上記のように、DC/RF変換部のスイッチング回路の各スイッチの制御端子間電圧を目標値に保つことができるようにしておくと、該目標値を適正な値に設定しておくことにより、各スイッチのオン抵抗を各スイッチで過度の導通損失を生じさせないようにするのに適した値に保つことができるため、各スイッチの温度が過度に上昇する状態が生じるのを防ぐことができる。従って、スイッチング回路を構成するスイッチからの放熱を図るためのヒートシンクとして大型のものを用いる必要がなくなり、装置の小型化を図ることができる。また上記のような制御を行うと、DC/RF変換部で生じる損失を少なくすることができるため、装置の効率を改善することができるという効果が得られるだけでなく、各スイッチの温度上昇を抑制することができるため、各スイッチの寿命を延ばすことができるという効果も得られる。
【0088】
図2に示した実施例では、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値を検出するように制御端子間電圧検出部10Cを構成したが、トランス10Bの二次側電圧のピーク値を検出するように制御端子間電圧検出部10Cを構成することもできる。例えば、図5に示したように、トランスの二次コイルW22の両端の電圧のピーク値を検出するように制御端子間電圧検出部10Cを構成することができる。
【0089】
図2に示した実施例では、制御端子間電圧制御部10Eを、制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号電圧と基準電圧との偏差を演算する誤差増幅部10E1と、信号発生器10Aの出力電圧と誤差増幅部の出力電圧とを乗算する乗算器MULとにより構成して、乗算器MULの出力電圧をトランスを通してスイッチング回路5Aのスイッチ(上記の例ではMOSFET)の制御端子間に駆動信号として入力するように構成したが、制御端子間電圧制御部は、制御端子間電圧検出部が出力する検出信号から検出される各スイッチの制御端子間の電圧を設定された目標値に保つ制御を行うように構成すればよく、図2に示した構成に限定されない。
【0090】
図6は、図1に示した実施形態において、制御端子間電圧制御部10Eの構成を図2に示した例と異ならせた本発明の他の実施例を示したものである。図6に示した実施例においては、基準電圧発生部10Dが発生する基準電圧Vr を制御端子間電圧検出部10Cが出力する検出信号電圧で除する演算を行う除算器DIVと、信号発生器10Aの出力電圧Eと除算器DIVの出力電圧とを乗算する乗算器MULとにより制御端子間電圧制御部10Eが構成されている。その他の構成は図2に示した実施例と同様である。
【0091】
図6に示した実施例において、信号発生器10Aが発生する信号電圧の大きさをEとし、基準電圧発生部10Dが発生する基準電圧をVr、制御端子間電圧検出部10CのコンデンサCbの両端に得られる検出電圧の大きさをVf、除算器DIVの出力電圧の大きさをVdiv 、乗算器MULの出力電圧の大きさをVmul、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値をVinとすると、下記の式が成立する。
Vf≒Vin (7)
Vdiv =Vr/Vf (8)
Vmul =E×Vdiv
=E×(Vr/Vf)
≒E×(Vr/Vin) (9)
【0092】
図6に示した実施例において、E及びVrは一定であるので、乗算器の出力Vmul は、FET1及びFET2のゲート・ソース間の電圧が反映されているトランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinに反比例する。即ち、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinが基準電圧Vrに等しいときには、(Vr/Vin)=1であるので、Vmul≒Eとなり、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinが基準電圧Vrよりも低いときには、(Vr/Vin)>1であるので、Vmul>Eとなる。トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinが基準電圧Vrよりも高いときには、(Vr/Vin)<1であるので、Vmul<Eとなる。従って、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinが目標値よりも上昇するとその上昇割合に応じてトランスに入力される電圧が低下し、トランス10Bの一次コイルの両端の電圧のピーク値Vinが目標値よりも低下するとその低下割合に応じてトランスに入力される電圧が上昇して、トランス10Bの両端の電圧のピーク値Vinを目標値に近づける。
【0093】
図6に示した本発明の実施例について、信号発生器10Aが発生する信号の波形を正弦波として(FET1及びFET2に与える駆動信号の波形を正弦波として)、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧を変化させた場合のFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の変化を観察するために行ったシミュレーションの結果を図7(A)ないし(E)に示した。図7において、(A)は、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcの変化を時間Tに対して示したものであり、同図(B)は高周波電源装置の出力電圧Voutを時間Tに対して示したものである。また図7(C)は信号発生器10Aの出力電圧Eの波形を示し、図7(D)及び(E)はそれぞれ、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧Va −Vb 及びVc −Vd の変化を示している。
【0094】
また図6に示した本発明の実施例について、信号発生器10Aが発生する信号の波形を矩形波として(FET1及びFET2に与える駆動信号の波形を矩形波として)、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧を変化させた場合のFET1及びFET2のゲート・ソース間電圧の変化を観察するために行ったシミュレーションの結果を図8(A)ないし(E)に示した。図8(A)は、可変DC電源部4からDC/RF変換部5に入力する直流電圧Vdcの変化を時間Tに対して示し、同図(B)は高周波電源装置の出力電圧Voutを時間Tに対して示している。また図8(C)は信号発生器10Aが出力する矩形波状の信号電圧Eの波形を示し、図8(D)及び(E)はそれぞれ、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧Va −Vb 及びVc −Vd の変化を示している。
【0095】
図7(A)ないし(E)及び図8(A)ないし(E)に示された結果から、図6に示した実施形態のように、誤差増幅を行うことなく、FET1及びFET2のゲート・ソース間電圧が反映されたトランス10Bの一次電圧が目標値よりも上昇した時にその上昇割合に応じてトランスに入力する信号電圧のレベルを低下させ、トランス10Bの一次電圧が目標値よりも低下した時にその低下割合に応じてトランスに入力する信号電圧のレベルを上昇させる制御を行うことによっても、両FETのゲート・ソース間電圧を目標値に保つことができることが確認された。
【0096】
上記の各実施例では、制御端子間電圧検出部10Cが、トランス10Bの一次コイルW1の両端の電圧のピーク値からFET1及びFET2の制御端子間の電圧の情報を得るように構成されているが、制御端子間電圧検出部10Cは、図9に示したように、トランス10Bの二次コイルの両端の電圧から各スイッチの制御端子間の電圧の情報を得るように構成してもよい。図9に示した例では、制御端子間電圧検出部10Cが、トランス10Bの二次コイルW22の両端の電圧のピーク値を検出して、FET2のゲート・ソース間の電圧の情報を含む検出信号Vcを出力するように構成されている。図9に示した実施例のその他の構成は図2に示した実施例と同様である。
【0097】
上記の各実施例では、DC/RF変換部5のスイッチング回路5Aが、ハイサイドスイッチQ1とローサイドスイッチQ2の直列回路からなるレグを一つだけ備えたハーフブリッジ回路からなっていて、一つのレグのハイサイドスイッチとローサイドスイッチを交互にオン状態にすることにより可変DC電源部4の直流出力を高周波出力に変換するように構成されているが、本発明は、このようなスイッチング回路を用いる場合に限定されるものではなく、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチの直列回路からなるレグを少なくとも一つ有して、該少なくとも一つのレグを可変DC電源部4の出力端子間に並列に接続した構成を有するスイッチング回路と直列共振回路とを備えたD級アンプからなるDC/RF変換部を用いる高周波電源装置に広く適用することができる。
【0098】
例えば図10に示すように、ハイサイドのスイッチQ1とローサイドのスイッチQ2との直列回路からなるレグと、ハイサイドのスイッチQ3とローサイドのスイッチQ4との直列回路からなるレグとの二つのレグを有するフルブリッジ回路型のスイッチング回路5Aを備えて、該スイッチング回路の出力端子間の電圧を直列共振回路5Bに印加するようにしたDC/RF変換部5を用いる高周波電源装置にも本発明を適用することができる。図10に示したDC/RF変換部5においては、フルブリッジ回路の対角位置にある一方の組のハイサイドスイッチQ1,Q4をオンにする状態と、対角位置にある他方の組のハイサイドスイッチQ2及びQ3をオンにする状態とを交互に生じさせることにより直列共振回路5Bに共振電流を流して可変DC変換部4の直流出力を高周波出力に変換する。
【0099】
また本発明は、図11に示したように、スイッチング回路5Aが、チョークコイルLchを通して可変DC電源部4の出力端子間に接続された単一のスイッチQ2(FET2)と、該スイッチQ2の両端に並列に接続されたコンデンサCp とにより構成され、可変DC電源部4の出力電圧がチョークコイルLchを通して直列共振回路5Bに印加されるように構成されたE級アンプによりDC/RF変換部5が構成される場合にも適用することができる。この場合、スイッチング回路を構成するスイッチQ2に駆動信号を与えるトランス10Bとしては、一つの一次コイルW1と一つの二次コイルW2とを備えたものを用いる。図11に示した実施例のその他の構成は図2に示した実施例と同様である。なお図11に示した構成では、スイッチQ2にトランス10Bを通して駆動信号を供給しているが、トランスを用いずに、乗算器MULの出力を直接スイッチQ2のゲート・ソース間に印加するように構成することもできる。図11において、コンデンサCp は、スイッチQ2のドレイン・ソース間電圧波形の立ち上がりを緩やかにするために設けられている。
【0100】
図11に示したようにDC/RF変換部5をE級アンプにより構成する場合も、図6に示した実施例と同様に、除算器DIVと乗算器MULとを用いて、誤差増幅を行うことなく、スイッチQ2(FET2)のゲート・ソース間電圧が反映されたトランス10Bの一次電圧が目標値よりも上昇した時にその上昇割合に応じてトランスに入力する信号電圧のレベルを低下させ、トランス10Bの一次電圧が目標値よりも低下した時にその低下割合に応じてトランスに入力する信号電圧のレベルを上昇させる制御を行うことによって、FET2の制御端子間の電圧を一定に保つ制御を行うように制御端子間電圧制御部10E1を構成することができる。
【0101】
上記の実施形態では、基準電圧発生部10Dが一定の基準電圧を発生するように構成されているが、スイッチング回路5Aのスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対してスイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算する目標値演算部を設けて、この演算部により演算された目標値を与える基準電圧を発生するように基準電圧発生部10Dを構成することもできる。スイッチング回路5Aのスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータとしては、スイッチング回路を通して流れる電流そのものを用いるか、又はスイッチング回路5Aから負荷側を見たインピーダンスである負荷側インピーダンスを用いることができる。
【0102】
図12は、スイッチング回路5Aのスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対してスイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算して、演算した目標値を与える基準電圧を発生させるようにした実施形態の構成を示したものである。この実施形態では、パワー検出部7が出力する進行波電力検出信号Pfと反射波電力検出信号Prと、スイッチング回路5Aと高周波電源装置の出力端子との間のインピーダンスとから、スイッチング回路5Aから負荷側を見たインピーダンスを負荷側インピーダンスとして検出する負荷側インピーダンス検出部10と、この検出部10により検出された負荷側インピーダンスに対してスイッチング回路の各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算する目標値演算部10Gとが設けられて、目標値演算部10Gにより演算された目標値が基準電圧発生部10Dに与えられている。
【0103】
図12に示した実施形態において、負荷側インピーダンス検出部10Fは、進行波電力検出信号Pfと反射波電力検出信号Prとから高周波電源装置1の出力端子から負荷側を見たインピーダンスを演算し、このインピーダンスと、スイッチング回路5Aと高周波電源装置の出力端子との間の回路のインピーダンスとを合成することにより、スイッチング回路5Aから負荷側を見たインピーダンスである負荷側インピーダンスを検出する。
【0104】
目標値演算部10Gは、負荷側インピーダンス検出部10Fにより検出された負荷側インピーダンスに対してスイッチング回路5Aの各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算する。この目標値の演算は、負荷側インピーダンスと目標値との間の関係を与えるマップを実験に基づいて作成しておいて、該マップを負荷側インピーダンス検出部10Fによって検出された負荷側インピーダンスに対して検索することにより行うことができる。
【0105】
基準電圧発生部10Dは、目標値演算部10Gにより演算された目標値を与える電圧値を有する基準電圧を発生する。図12に示した高周波電源装置のその他の構成は、図1に示した実施形態と同様である。
【0106】
図13は、スイッチング回路5Aのスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対してスイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算して、演算した目標値を与える基準電圧を発生させるようにした実施形態の他の構成を示したものである。この実施形態では、スイッチング回路5Aを通して流れる電流を検出する電流検出部10Hと、この検出部により検出された電流に対してスイッチング回路の各スイッチの制御端子間の電圧の目標値をマップを用いて演算する目標値演算部10Gとが設けられて、目標値演算部10Gにより演算された目標値が基準電圧発生部10Dに与えられている。基準電圧発生部10Dが目標値演算部10Gにより演算された目標値を与える電圧値を有する基準電圧を発生する点は、図12に示した実施形態と同様である。この場合も、基準電圧発生部10Dは、目標値演算部10Gが演算した目標値を与える電圧値を有する基準電圧を発生するように構成される。
【0107】
図12又は図13に示した実施形態のように、スイッチング回路5Aのスイッチを通して流れる電流の情報を含むパラメータに対してスイッチの制御端子間の電圧の目標値を演算する目標値演算部10Gを設けて、この目標値演算部により演算された目標値を与える基準電圧を基準電圧発生部10Dから発生させるように構成しておくと、スイッチング回路5Aの各スイッチを流れる電流に応じて各スイッチの制御端子間の電圧の目標値を決めることができるため、負荷の状態の如何に関わりなく、各スイッチで生じる導通損失の低減を効果的に図ることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 高周波電源装置
2 負荷
3 インピーダンス整合器
4 可変DC電源部
5 DC/RF変換部
5A スイッチング回路
5B 直列共振回路
5C トランス
6 ローパスフィルタ
7 パワー検出部
8 制御部
9 出力制御部
10 駆動信号供給回路
10A 信号発生器
10B トランス
10C 制御端子間電圧検出部
10D 基準電圧発生部
10E 制御端子間電圧制御部
10F 負荷側インピーダンス検出部
10G 目標値演算部
10H 電流検出部
Q1 ハイサイドスイッチ
Q2 ローサイドスイッチ
FET1 ハイサイドスイッチを構成するMOSFET
FET2 ローサイドスイッチを構成するMOSFET
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20