(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物は、前記誘電体フィルムを断面視したときの形状が楕円状であるとともに、アスペクト比が1.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体フィルム。
前記金属酸化物は、その長径の方向が前記誘電体フィルムの主面に対して平行になるように配列している個数割合が96%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の誘電体フィルムの一例を部分的に示す透過電子顕微鏡写真である。
図2は、本実施形態の誘電体フィルムの断面を部分的に拡大した透過電子顕微鏡写真である。
図3は、本実施形態の誘電体フィルムの電子線回折像を示す写真である。
【0013】
本実施形態の誘電体フィルム1は、有機樹脂3中に、非晶質を成す粒子状の金属酸化物5を有する構成となっている。有機樹脂3中に分散させる粒子状の金属酸化物5として、非晶質のものを用いた場合には、粒子状の金属酸化物5として結晶質のものを用いたときよりも破壊電界強度の高い誘電体フィルム1を得ることができる。
【0014】
ここで、粒子状とは、所定の形状で塊になったものを言うが、本実施形態においては、
図2に示すように、電子顕微鏡等による観察を行ったときに、母相(ここでは、有機樹脂3に相当)とは異なる組織体として確認できるものまで含む意味である。形状の例としては、球状体や多面体に止まらず、これらを基本的な形状として扁平状となったものや表面に凹凸を有しているものまで含む意味である。以下、非晶質を成す粒子状の金属酸化物5のことを単に金属酸化物5と記す場合がある。また、金属酸化物5が非晶質とは、規則的な格子構造を有しない状態をいい、電子線回折を行ったときに、回折図形として
図3に示すようなハロー回折が見られるものを言う。
【0015】
以下、本実施形態の誘電体フィルム1が高い破壊電界強度を示す理由を、
図4および
図5に示すセラミック粒子を含む従来の誘電体フィルムと対比して説明する。
【0016】
図4は、従来の誘電体フィルムを部分的に示す断面模式図である。
図5は、
図4に示した従来の誘電体フィルムを構成するセラミック粒子と有機樹脂との界面における比誘電率および電界強度の変化を示す模式図である。
【0017】
図4に示すような有機樹脂13中に結晶質のセラミック粒子15を有する誘電体フィルム11では、有機樹脂13とセラミック粒子15との間の界面付近における格子の不整合や両材料間での比誘電率(ε
1、ε
2)の違いから、
図5に示すように、有機樹脂13とセラミック粒子15との間に誘電率の急峻な変化が生じやすい。このため有機樹脂13とセラミック粒子15との間の誘電率の変化に起因する局所的な電界強度の変化が急峻となりやすく、このため誘電体フィルム11の破壊電界強度が低くなってしまう。
【0018】
これに対し、本実施形態の誘電体フィルム1の場合には、これに含まれる金属酸化物5が非晶質であることから、これを取り巻いている有機樹脂3との間の親和性が結晶性のセラミック粒子15の場合よりも高まる。このため、金属酸化物5が非晶質である場合には、結晶性のセラミック粒子15との間で起こるほどの格子の不整合が生じ難く、有機樹脂3との界面が混和した状態となりやすい。その結果、
図6に示すように、有機樹脂3と金属酸化物5との間の結合形態の違いによる不整合部分の割合を少なくすることができ、有機樹脂3と金属酸化物5との間にこれらが混和した相5aが形成されていることから金属酸化物5から有機樹脂3にかけて誘電率がε
1、ε
2、ε
3の順に次第に変化するような構造となる。その結果、界面における局所的な電界強度の増大が緩和され、また、絶縁破壊の起点となる欠陥の生成が抑えられるため破壊電界強度を高めることができる。
【0019】
また、本実施形態の誘電体フィルム1では、上記した金属酸化物5は、誘電体フィルム1を断面視したときの形状が楕円状であり、そのアスペクト比は1.8以上であることが望ましい。金属酸化物5の形状が楕円状であり、そのアスペクト比が1.8以上であるときには、誘電体フィルム1の破壊電界強度を410MV/m以上にすることができる。この場合、金属酸化物5の平均粒子径としては、10〜100nm、特に、20〜50nmであることが望ましい。
【0020】
また、本実施形態の誘電体フィルム1では、金属酸化物5の長径の方向が誘電体フィルム1の主面に対して平行になるように配列している金属酸化物の個数割合が96%以上であることが望ましい。長径の方向が揃うように配列している金属酸化物の個数割合が96%以上であると、比誘電率(εr)と破壊電界強度(BDE)の二乗との積である性能指数(εr・BDE
2)を420×10
3以上に高めることができる。
【0021】
なお、金属酸化物5の長径の方向が誘電体フィルム1の主面に対して平行になるように配列している状態というのは、誘電体フィルム1を
図1および
図2を例とするように断面視したときに、楕円状をした金属酸化物5の長径の方向が誘電体フィルム1の主面の方向(
図1および
図2において横の方向)に向いた状態を言うが、この場合、金属酸化物5の長径の方向が誘電体フィルム1の主面に対して±45°以内にあるものまで含む意味である。
【0022】
ここで、有機樹脂1としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびシクロオレフィンポリマー(COP)、などが好適である。
【0023】
これらの有機樹脂の室温(約25℃)における比誘電率(ε)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が3.3、ポリプロピレン(PP)が2.3、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が3.0、シクロオレフィンポリマー(COP)が2.3〜3.0である。
【0024】
また、これらの有機樹脂の室温(約25℃)における破壊電界強度(E)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が310(V/μm)、ポリプロピレン(PP)が380(V/μm)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が210(V/μm)、シクロオレフィンポリマー(COP)が370〜510(V/μm)である。
【0025】
金属酸化物5を形成する元素としては、周期表第4族から第12族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素が望ましいが、これらの元素の中で、誘電体フィルム1の比誘電率および上記した性能指数を高められるという理由から、特に、チタン(Ti)が好ましい。
【0026】
図7は、誘電体フィルムの両面に電極層を有する構造を模式的に示す断面図である。
図8は、本発明のフィルムコンデンサの一実施形態を示す外観斜視図である。
【0027】
上述した誘電体フィルム1を具備する本実施形態のフィルムコンデンサは、誘電体フィルム1の主面に電極層22を備えている構成を基本構造とする本体部23により構成されている。この本体部23は、矩形状の誘電体フィルム1と電極層22とが交互に積層された積層型のフィルムコンデンサの他に、長尺状の誘電体フィルム1と電極層22とが巻回された構造の巻回型のフィルムコンデンサにも適用することができる。これらのフィルムコンデンサは外部電極24に端子としてさらにリード線25を有していても良いが、フィルムコンデンサの小型化という点でリード線25を有しない構造が望ましい。また、本体
部23、外部電極24およびリード線25の一部は絶縁性および耐環境の点から外装部材16に覆われていてもよい。
【0028】
次に、本実施形態の誘電体フィルム1およびこれを用いたフィルムコンデンサを製造する方法について説明する。
【0029】
誘電体フィルム1は、まず、有機樹脂3を溶解させたスラリを用意し、これに上記した金属元素を含む金属アルコキシド化合物を所定量添加する。
【0030】
次に、金属アルコキシド化合物を含むスラリを撹拌することによって金属アルコキシド化合物に加水分解反応を発生させ、有機樹脂3中に非晶質を成す粒子状の金属酸化物5が分散したスラリを得ることができる。
【0031】
次に、調製したスラリを用いてシート成形を行って本実施形態の誘電体フィルム1を作製する。シート成形には、ドクターブレード法、ダイコータ法およびナイフコータ法等から選ばれる一種の成形法を用いるのが良い。
【0032】
上記の製法によれば、金属アルコキシド化合物から金属酸化物5を形成する際に、室温付近の温度で加水分解反応を発生させた後も、焼成のような高温での反応を伴わないことから、粒成長した金属酸化物5は、依然として結晶化せずに非晶質の状態を維持したものとなる。また、金属酸化物5は周囲に有機樹脂3が存在する環境下で粒成長することになるため金属酸化物5の表面付近は有機樹脂3と混ざり合った状態である。こうして本実施形態の誘電体フィルム1を形成することができる。このようにして得られる誘電体フィルム1は、金属酸化物5の表面付近にアルキル基を有するものとなっており、金属酸化物5がこのように有機官能基を有するものであるため、有機樹脂3との混和しやすいものとなる。その結果、金属酸化物5と有機樹脂3との界面の整合性が高く、接合界面での構造欠陥が少ないものとなる。
【0033】
なお、金属酸化物5の個数割合はスラリ中に添加する金属アルコキシド化合物の添加量によって調整する。
【0034】
金属酸化物5が表面付近に偏在した誘電体フィルム1は、スラリの粘度および成形速度を調整し、スラリにマランゴニ対流を発生させることによって得ることができる。
【0035】
有機樹脂3中に含まれる金属酸化物5がネックで繋がれた粒子群5Aとなるようにするときには、添加する金属アルコキシド化合物の濃度を高くする。
【0036】
次に、作製した誘電体フィルム1の主面にAl(アルミニウム)などの金属を蒸着することによって電極層22を形成し、次いで、電極層22を形成した金属化フィルムを積層または巻回してフィルムコンデンサの本体部23を作製する。
【0037】
次に、本体部23の電極層22が露出した端面に外部電極24を形成する。外部電極24の形成には、例えば、金属の溶射、スパッタ法、メッキ法などが好適である。また、ここで、外部電極24にリード線25を形成しても良い。次いで、外部電極24(リード線25を含む)を形成した本体部23の表面に外装樹脂26を形成することによって本実施形態のフィルムコンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、具体的な材料の選択により誘電体フィルムを作製し、特性評価を行った。
【0039】
まず、金属アルコキシド化合物としてチタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)のアルコキシド化合物を準備し、有機樹脂としてシクロオレフィンポリマーを用意した。希釈剤としてはシクロヘキサンを用いた。
【0040】
次に、シクロオレフィンポリマーをシクロヘキサン中に溶解させてスラリを調製し、これに所定量の金属アルコキシド化合物を添加した。
【0041】
次いで、このスラリを大気中、室温(25℃)付近の温度にて撹拌することにより、金属アルコキシド化合物に加水分解反応を発生させて、有機樹脂中に非晶質を成す粒子状の金属酸化物を形成した。
【0042】
次に、金属酸化物を含むスラリーをコーターを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布してシート状に成形した。
【0043】
作製した誘電体フィルム中に形成されていた非晶質を成す粒子状の金属酸化物はいずれも形状が楕円状であった。
【0044】
次に、作製した誘電体フィルムについて以下の評価を行った。
【0045】
作製した誘電体フィルムの平均厚みは、その一部を切り取り、10等分した領域を測定した平均値より求めた。誘電体フィルムの平均厚みはいずれも4μmとなるものであった。
【0046】
誘電体フィルム中に形成されている金属酸化物の粒子径(最大径)、アスペクト比、配向した粒子の個数割合は、誘電体フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて評価した。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたときの観察領域は約6μm
2とし、2カ所評価したときの平均値から求めた。
【0047】
金属酸化物の結晶性は透過電子顕微鏡に付設の電子線回折を用いて評価した。
【0048】
次に、真空蒸着法により誘電体フィルムの両面に平均厚みが75nmのAlの電極層を形成した。
【0049】
次に、得られた誘電体フィルムについて、破壊電界強度(AC−BDE)および比誘電率を測定した。
【0050】
破壊電界強度(AC−BDE)は、誘電体フィルムの電極層間に商用周波数(60Hz)、毎秒10Vの昇圧速度で電圧を印加し、漏れ電流値が1.0mAを越えた瞬間の電圧値から求めた。
【0051】
比誘電率は、LCRメーターを使用して測定した。具体的には、作製した誘電体フィルムの電極層間の短絡の有無を確認した後、LCRメーターにより周波数1KHz、入力信号レベル1.0Vrmsの測定条件にて、誘電体フィルムの静電容量と誘電損失を測定した。この後、静電容量、電極層の有効面積(誘電体フィルムの両面で電極層が重なった面積)および誘電体フィルムの厚みから比誘電率を算出した。なお、比誘電率と耐電圧の二乗との積を性能指数として求めた。
【0052】
比較例として、金属アルコキシド化合物を添加しなかった試料(試料No.1)および金属酸化物として結晶性のセラミック粒子(TiO
2、ZrO
2)を含ませた試料(試料No.6、7)を作製し、同様の評価を行った。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から明らかなように、誘電体フィルム中に非晶質を成す粒子状の金属酸化物(TiO
2)を分散させた試料(試料No.2〜5)は、耐電圧(AC−BDE)が405MV/m以上、性能指数が402×10
3以上であった。
【0055】
この中で、非晶質を成す粒子状の金属酸化物のアスペクト比が1.8以上であった試料(試料No.2〜4)では、破壊電界強度が410MV/m以上、性能指数が406×10
3以上であった。また、チタン(Ti)を含む金属酸化物で粒子群を形成した試料(試料No.3、4)では、金属酸化物の配向した粒子の割合が96%以上と高く、性能指数が420以上であった。
【0056】
さらに、非晶質を成す粒子状の金属酸化物(TiO
2)を含ませた試料(試料No.2〜5)の比誘電率は2.3以上であった。
【0057】
これに対し、誘電体フィルム中に非晶質を成す粒子状の金属酸化物(TiO
2)を含まない試料(試料No.1)およびセラミック粒子(この場合、TiO
2、ZrO
2)を分散させた試料(試料No.6、7)では、耐電圧が403MV/m以下、性能指数が365以下であった。また、非晶質を成す粒子状の金属酸化物(TiO
2)を含まない試料(試料No.1)の比誘電率は2.25と低かった。