特許第6441593号(P6441593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441593
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】燃料レール
(51)【国際特許分類】
   F02M 55/02 20060101AFI20181210BHJP
   F02M 53/02 20060101ALI20181210BHJP
   F02M 31/125 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   F02M55/02 350G
   F02M55/02 330B
   F02M53/02
   F02M55/02 350B
   F02M55/02 350U
   F02M31/125 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-114009(P2014-114009)
(22)【出願日】2014年6月2日
(65)【公開番号】特開2015-227643(P2015-227643A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】小倉 隼太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健了
【審査官】 松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031754(JP,A)
【文献】 特開2010−038000(JP,A)
【文献】 特開2011−196365(JP,A)
【文献】 特開2011−080378(JP,A)
【文献】 特開平08−270527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 31/125
F02M 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給源(2)から供給される燃料を加熱して複数の燃料噴射弁(4)に分配供給する燃料レール(1)であって、
燃料が流れる燃料通路(11)を内側に有する長尺状のデリバリパイプ(10)と、
燃料が加熱される加熱室(21)を内側に有し、前記デリバリパイプの長尺方向に複数個配置されて前記燃料噴射弁が接続可能な加熱室形成部(20)と、
前記燃料通路の内壁のうち前記デリバリパイプの長尺方向に対して垂直方向に位置する箇所に設けられ、前記燃料通路と複数の前記加熱室とを連通する複数の加熱室流入口(25)と、
前記デリバリパイプの長尺方向の一方の端部に接続され、前記燃料供給源から供給される燃料を前記デリバリパイプの長尺方向に沿って前記燃料通路に導入する入口通路(31)を内側に有する燃料導入管(30)と、を備え
前記燃料導入管の前記入口通路の中心軸(O2)と前記加熱室流入口との距離(L2)は、前記燃料通路の中心軸(O1)と前記加熱室流入口との距離(L1)よりも遠いことを特徴とする燃料レール。
【請求項2】
前記燃料導入管との間に複数個の前記加熱室流入口を挟むようにして前記デリバリパイプに設けられ、前記燃料通路を流れる燃料を前記燃料供給源側へ排出する出口通路(41)を内側に有する燃料排出管(40)を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料レール。
【請求項3】
前記燃料排出管は、前記加熱室流入口に対向する位置を避けて前記デリバリパイプに接続されることを特徴とする請求項に記載の燃料レール。
【請求項4】
前記燃料排出管は、前記デリバリパイプの長尺方向の他方の端部に接続され、前記燃料通路を流れる燃料を前記デリバリパイプの長尺方向に沿って前記出口通路から排出することを特徴とする請求項2または3に記載の燃料レール。
【請求項5】
前記加熱室の重力方向上側に設けられ、前記燃料噴射弁が接続される空間と前記加熱室流入口が形成される空間とを仕切る仕切板(60)を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料レール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁に燃料を分配供給する燃料レールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクから供給される燃料を、複数の燃料噴射弁に分配供給する燃料レールが知られている。
特許文献1には、燃料タンクから燃料ポンプによって汲み上げた燃料を蓄圧する低圧燃料レールと、燃料タンクから燃料ポンプによって汲み上げ、高圧ポンプによって加圧した燃料を蓄圧する高圧燃料レールが記載されている。2個の燃料レールにはそれぞれ、長尺方向に複数個の燃料噴射弁が接続している。また、高圧ポンプから高圧燃料レールの内側に形成された燃料通路に燃料を導入する燃料配管は、燃料噴射弁に対向する位置に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、エタノール等のアルコール燃料、または、アルコールとガソリンとの混合燃料を内燃機関に用いる場合、アルコールの濃度が高く、かつ、環境温度が低いと、燃料の着火性が低下し、内燃機関が始動できなくなることがある。その際、燃料レールから燃料噴射弁に供給する燃料を加熱することにより、燃料の着火性を高め、内燃機関を始動させることが可能である。
【0005】
また、ガソリンを内燃機関に用いる場合、環境温度が低いと、燃料の粘度が増大し、燃料噴霧の粒度が増大することがある。この場合、燃料の着火性が低下し、内燃機関の出力が低下し、エミッションが悪化するおそれがある。その際にも、燃料レールから燃料噴射弁に供給する燃料を加熱することにより、内燃機関の出力を高め、エミッションの悪化を抑制することが可能である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の高圧燃料レールは、高圧ポンプから高圧燃料レールに燃料を導入する燃料配管が、燃料噴射弁に対向する位置に接続されている。この構成のまま、その燃料レールと燃料噴射弁との接続箇所に燃料を加熱するための加熱室を設けた場合、燃料配管から燃料レールの内側の燃料通路に導入される燃料が、燃料レールの長尺方向に対し垂直方向に燃料通路を流れ、加熱室に流入する量が多くなる。そのため、燃料通路から加熱室に流入する燃料によって加熱室で加熱された燃料が冷やされ、また、加熱室で加熱された燃料が燃料通路に流出し、燃料を高温に加熱することが困難になるおそれがある。また、燃料の加熱時間が長くかかることが懸念される。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、燃料を短時間で高温に加熱することが可能な燃料レールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、デリバリパイプの長尺方向に複数個の加熱室形成部が配置された燃料レールにおいて、デリバリパイプの長尺方向の一方の端部に接続された燃料導入管の入口通路から、デリバリパイプの燃料通路に長尺方向に沿って燃料が導入されることを特徴とする。
【0008】
これにより、燃料導入管の入口通路から燃料通路に導入された燃料が燃料通路を長尺方向に流れる燃料流れを強くすることが可能である。そのため、この燃料通路を流れる燃料は、長尺方向に対して垂直方向(以下、「短尺方向」という)に位置する燃料通路の内壁に設けられた加熱室流入口から加熱室に流入する量が低減する。したがって、燃料通路から加熱室に流入する比較的冷たい燃料によって、加熱室で加熱された燃料が冷やされることが抑制される。また、加熱室で加熱された燃料が燃料通路に流出することが抑制される。その結果、この燃料レールは、燃料を短時間で高温に加熱することができる。
本発明では、燃料導入管の入口通路の中心軸と加熱室流入口との距離は、燃料通路の中心軸と加熱室流入口との距離よりも遠い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態による燃料レールの斜視図である。
図2図1のII方向の燃料レールの斜視図である。
図3図1のIII方向の燃料レールの平面図である。
図4図3のIV部分の断面図である。
図5図3のV部分の断面図である。
図6】比較例の燃料レールの断面図である。
図7】比較例の燃料レールによるエンジン始動時の燃料温度を示すグラフである。
図8】本発明の第2実施形態による燃料レールの要部断面図である。
図9図8のIX−IX線の断面図である。
図10】本発明の第3実施形態による燃料レールの斜視図である。
図11図10のXI部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1から図5に示す。第1実施形態の燃料レール1は、燃料供給源としての燃料タンク2から燃料ポンプ3によって汲み上げた燃料を蓄圧し、4個の燃料噴射弁4に分配供給するものである。4個の燃料噴射弁4はそれぞれ、図示していない内燃機関(以下「エンジン」という)の吸気ポートに燃料を噴射する。エンジンは、例えばエタノール等のアルコール燃料、または、アルコールとガソリンの混合燃料を燃料として駆動する。
【0011】
まず、第1実施形態の燃料レール1の構成について説明する。
燃料レール1は、デリバリパイプ10、加熱室形成部20、燃料導入管30、および燃料排出管40などを備える。
デリバリパイプ10は、長尺状に形成され、その内側に燃料が流れる燃料通路11を有する。このデリバリパイプ10は、上部材12および下部材13を接合して構成されている。上部材12と下部材13は、所定の板厚の金属板をプレス加工等して形成される。上部材12は、一方の面側から他方の面側へ凹む凹部を有する。また、下部材13も、一方の面側から他方の面側へ凹む凹部を有する。これにより、上部材12の凹部と下部材13の凹部との間に燃料通路11が形成される。
また、デリバリパイプ10は、長尺方向に延びるレール部14と、そのレール部14から短手方向に突き出した4箇所の突出部15とを有する。4箇所の突出部15にはそれぞれ、加熱室形成部20が例えばろう付け又は溶接などにより固定される。
【0012】
加熱室形成部20は、デリバリパイプ10の長尺方向に4個配置される。加熱室形成部20は、所定の板厚の金属板をプレス加工又は深絞り加工等をすることにより形成される。加熱室形成部20は、内側に所定の容積の加熱室21を有する。
図4に示すように、加熱室形成部20は、その外壁から加熱室21側に凹む凹部22を有する。この凹部22の内側に燃料噴射弁4が取り付けられる。加熱室形成部20の凹部22のうち、燃料噴射弁4の燃料入口5に対向する箇所には、加熱室出口穴23が設けられている。燃料噴射弁4は、加熱室出口穴23を経由し、燃料噴射弁4の燃料入口5からその内側に導入された燃料を噴孔6から噴射する。
加熱室形成部20には、加熱手段としてのグロープラグ50が設けられる。グロープラグ50は、ホルダ51及び発熱部52を有する。ホルダ51は、例えば金属により形成され、加熱室形成部20に例えばろう付け又は溶接等により接続されている。発熱部52は、加熱室21に露出する。グロープラグ50に通電すると、発熱部52が発熱し、加熱室21の燃料が加熱される。
【0013】
加熱室形成部20は、燃料通路11側へ延びる筒部24を有する。この筒部24の開口端に形成された加熱室流入口25は、デリバリパイプ10の燃料通路11と、加熱室形成部20の加熱室21とを連通する。加熱室流入口25は、加熱室形成部20の重力方向上側に設けられる。また、加熱室流入口25は、デリバリパイプ10の短尺方向に位置する燃料通路11の内壁に4個設けられる。
【0014】
仕切板60は、加熱室21の重力方向上側に設けられ、案内部61及び遮蔽部62を有する。案内部61は、デリバリパイプ10の長手方向に平行に形成され、加熱室流入口25の重力方向下側に設けられる。遮蔽部62は、案内部61の筒部24側の端部から延びて、加熱室21の重力方向上側の内壁に接続する。仕切板60は、燃料噴射弁4が接続される空間と加熱室流入口25が形成される空間とを仕切る。なお、グロープラグ50の発熱部52は、その体格の大部分が燃料噴射弁4が接続される空間に設けられる。したがって、発熱部52により加熱された加熱室21の燃料は、仕切板60により、加熱室流入口25から燃料通路11に流出することが抑制される。
【0015】
燃料導入管30は、デリバリパイプ10の長尺方向の一方の端部に接続され、入口通路31を内側に有する。燃料導入管30は、接続ブロック32と連結パイプ33とを有し、ほぼL形に形成される。接続ブロック32と連結パイプ33とは、ほぼ垂直に接続されている。接続ブロック32は、デリバリパイプ10に接続する。連結パイプ33は、燃料ポンプ3から吐出された燃料が流れる供給通路7に連結可能である。これにより、燃料タンク2から燃料ポンプ3によって汲み上げられた燃料は、供給通路7から燃料導入管30の内側の入口通路31を通り、デリバリパイプ10の燃料通路11に導入される。
燃料導入管30の接続ブロック32の内側の入口通路31は、デリバリパイプ10の長尺方向に対し平行に形成されている。そのため、入口通路31から燃料通路11に導入される燃料は、デリバリパイプ10の長尺方向に沿って導入される。したがって、図4の矢印Aに示すように、燃料通路11を流れる燃料流れは、デリバリパイプ10の長尺方向の燃料流れが強いものとなる。その結果、図4の矢印Bに示すように、燃料通路11から加熱室流入口25を通り加熱室21に流入する燃料流れが弱いものとなる。
【0016】
燃料排出管40は、燃料導入管30から3個の加熱室流入口25を挟んで設けられる。即ち、燃料排出管40は、燃料導入管30から3個目の加熱室流入口25と4個目の加熱室流入口25との間に、加熱室流入口25に対向する位置を避けて設けられる。なお、図5では、燃料導入管30から4個目の加熱室流入口25のみを示し、燃料導入管30から3個目の加熱室流入口25は図示を省略している。燃料排出管40は、出口通路41を内側に有する。燃料排出管40は、接続ブロック42と連結パイプ43とを有し、ほぼL形に形成される。接続ブロック42と連結パイプ43とは、ほぼ垂直に接続されている。接続ブロック42は、デリバリパイプ10に接続する。連結パイプ43は、燃料タンク2に接続されるリターン通路8に連結可能である。これにより、デリバリパイプ10の燃料通路11の燃料は、燃料排出管40の内側の出口通路41からリターン通路8を通り、燃料タンク2に戻される。
図1に示すように、リターン通路8には、レギュレータ9が設けられる。レギュレータ9は、デリバリパイプ10内の燃料圧力が所定の圧力以上になると開弁し、デリバリパイプ10の燃料通路11の燃料をリターン通路8を経由して燃料タンク2に流す。これにより、レギュレータ9は、デリバリパイプ10内の燃料圧力を所定の圧力に維持する。
なお、レギュレータ9は、リターン通路8に限らず、例えば燃料ポンプ3又は供給通路7に設けてもよい。
【0017】
次に、第1実施形態の燃料レール1の動作について説明する。
燃料レール1のグロープラグ50は、図示していないエンジンの電子制御装置(以下「ECU」という)により通電制御される。ECUは、エンジンの始動時、燃料のアルコール濃度が所定値以上、かつ、環境温度が所定値以下の場合、燃料噴射弁4から燃料の噴射を開始する前に、燃料のプレヒート(予熱)を行う。このとき、デリバリパイプ10の燃料通路11および加熱室形成部20の加熱室21には、燃料が満たされているものとする。
【0018】
ECUは、プレヒートにおいて、グロープラグ50に電力を供給し、発熱部52を発熱させる。これにより、加熱室21の燃料が加熱される。発熱部52により加熱された燃料は、比重が軽くなるため重力方向上側に移動し、燃料噴射弁4が接続される空間に滞留する。
また、ECUは、プレヒートにおいて、燃料ポンプ3を駆動し、デリバリパイプ10内の燃料圧力を高める。これにより、燃料タンク2から燃料ポンプ3によって汲み上げられた燃料は、供給通路7から燃料導入管30の入口通路31を通り、デリバリパイプ10の燃料通路11に導入される。
デリバリパイプ10内の燃料圧力が所定値以上になるとレギュレータ9が開弁し、デリバリパイプ10内の燃料は、燃料排出管40の出口通路41からリターン通路8を通り、燃料タンク2に戻される。したがって、燃料タンク2が駆動していることで、デリバリパイプ10の燃料通路11には、デリバリパイプ10の長尺方向の燃料流れが生じる。
グロープラグ50の発熱により加熱室21の燃料が、エンジンに予め設定された温度に加熱されると、ECUは、プレヒートを終了する。
【0019】
ECUは、プレヒートの終了後、燃料噴射弁4に燃料の噴射を指示する。これにより、加熱室21に滞留した温度の高い燃料は、加熱室出口穴23を経由して燃料噴射弁4に流入し、燃料噴射弁4の噴孔6から吸気ポートに噴射され、エンジンの燃焼室に供給される。
なお、ECUは、エンジンの始動後も、燃料のアルコール濃度が所定値以上、かつ、環境温度が所定値以下の場合、グロープラグ50に継続的に電力を供給し、加熱室21の燃料を加熱してもよい。これにより、温度の高い燃料を燃料噴射弁4から噴射することが可能である。
【0020】
次に、比較例の燃料レール100について、図6を参照して説明する。
比較例の燃料レール100は、燃料導入管30が加熱室流入口25に対向する位置に設けられている。そのため、図6の矢印Cに示すように、燃料導入管30の入口通路31からデリバリパイプ10の燃料通路11に導入された燃料は、燃料通路11を短手方向に流れ、そのまま加熱室21に流入する。したがって、図6の矢印Dに示すように、燃料通路11を流れる燃料流れは、デリバリパイプ10の長尺方向の燃料流れが弱いものとなる。その結果、燃料通路11から加熱室流入口25を通り加熱室21に流入する燃料流れが強いものとなる。
【0021】
比較例の燃料レール100により燃料を加熱したときの加熱室21の燃料温度の変化を図7に示す。
図7の実線Xは、比較例の燃料レール100において、燃料排出管40及びリターン通路8を備えていない構成の燃料温度の変化を示したものである。一方、図7の実線Yは、比較例の燃料レール100において、燃料排出管40及びリターン通路8を備えている構成の燃料温度の変化を示したものである。
これらの構成において、時刻t1でエンジン始動の指令がECUに入力されると、ECUはグロープラグ50に電力を供給し、燃料のプレヒートを行う。また、ECUは、燃料ポンプ3を駆動し、デリバリパイプ10内の燃料圧力を高める。このとき、燃料排出管40及びリターン通路8を備えている構成では、燃料導入管30の入口通路31からデリバリパイプ10の燃料通路11を通り、燃料排出管40の出口通路41へ燃料が流れる。
【0022】
実線Xに示すように、燃料排出管40及びリターン通路8を備えていない構成では、時刻t2で燃料温度がθ4に上昇する。一方、実線Yに示すように、燃料排出管40及びリターン通路8を備えている構成では、時刻t2で燃料温度がθ3に上昇する。燃料温度θ3はθ4よりも低い。したがって、燃料排出管40及びリターン通路8を備えた構成は、燃料排出管40及びリターン通路8を備えていない構成よりも、燃料温度を高めることが困難である。
【0023】
時刻t2でプレヒートが完了すると、燃料噴射弁4から燃料噴射が行われる。そのため、加熱室21で加熱された燃料は内燃機関に噴射され、燃料通路11から加熱室21に燃料が流入する。したがって、時刻t2以降、加熱室21の燃料温度は低下する。このとき、実線Xに示すように、燃料排出管40及びリターン通路8を備えていない構成では、時刻t3以降、燃料温度がθ2近傍を推移する。一方、実線Yに示すように、燃料排出管40及びリターン通路8を備えている構成では、時刻t3以降、燃料温度がθ1近傍を推移する。燃料温度θ1はθ2よりも低い。したがって、燃料排出管40及びリターン通路8を備えた構成は、燃料排出管40及びリターン通路8を備えていない構成よりも、燃料温度を高めることが困難である。
【0024】
上述した比較例の燃料レール100に対し、第1実施形態の燃料レール1は、次の作用効果を奏する。
(1)第1実施形態では、デリバリパイプ10の長尺方向の一方の端部に燃料導入管30を設けている。燃料導入管30は、デリバリパイプ10の燃料通路11に長尺方向に沿って燃料を導入する。
これにより、燃料導入管30の入口通路31から燃料通路11に導入された燃料が燃料通路11を長尺方向に流れる燃料流れを強くすることが可能である。そのため、この燃料通路11を流れる燃料は、加熱室流入口25から加熱室21に流入する量が低減する。したがって、燃料通路11から加熱室21に流入する比較的冷たい燃料によって、加熱室21で加熱された燃料が冷やされることが抑制される。また、加熱室21で加熱された燃料が燃料通路11に流出することが抑制される。
その結果、図7の実線Yで示した比較例の燃料レール100の温度変化に対し、第1実施形態の燃料レール1は、時刻t2における燃料温度をθ3よりも高い温度に加熱することが可能である。また、第1実施形態の燃料レール1は、時刻t3以降の燃料温度をθ1よりも高い温度で推移させることが可能である。
【0025】
(2)第1実施形態では、燃料レール1は、燃料導入管30から複数個の加熱室流入口25を挟んで設けられた燃料排出管40を備える。
これにより、燃料レール1は、燃料導入管30から燃料排出管40へ向けて、デリバリパイプ10の燃料通路11に燃料を流すことが可能になる。そのため、燃料レール1は、エンジンの高温再始動時に、燃料通路11内に発生したベーパを、入口通路31から導入する比較的冷たい燃料により消滅させると共に、出口通路41から排出することができる。したがって、高温再始動時に、燃料噴射弁4にベーパが流入することが防がれるので、エンジンを確実に始動することができる。
ところで、燃料レール1に燃料排出管40を設けることにより、燃料通路11を流れる比較的冷たい燃料の流れが強くなる。しかし、第1実施形態の燃料レール1は、燃料通路11を長尺方向に流れる燃料流れが強いので、加熱室流入口25から加熱室21に流入する燃料の量が低減する。したがって、第1実施形態の燃料レール1は、加熱室21の燃料を短時間で高温に加熱することができる。
【0026】
(3)第1実施形態では、燃料レール1は、加熱室21の重力方向上側に、燃料噴射弁4が接続される空間と加熱室流入口25が形成される空間とを仕切る仕切板60を備える。
これにより、燃料通路11から加熱室流入口25を通り加熱室21に流入する量を低減することが可能である。また、加熱室21内でグロープラグ50により加熱された燃料が燃料通路11へ流出する量を低減することが可能である。
【0027】
(4)第1実施形態では、燃料排出管40は、加熱室流入口25に対向する位置を避けてデリバリパイプ10に接続される。
これにより、加熱室21で加熱された燃料が加熱室流入口25から燃料通路11を通り燃料排出管40に流出することを抑制することができる。
【0028】
(5)第1実施形態では、燃料導入管30は、デリバリパイプ10に接続する接続ブロック32と、接続ブロック32の反デリバリパイプ10側に接続して長尺方向に対し垂直に延びる連結パイプ33を有する。
これにより、エンジンルーム内で燃料レール1の取付スペースが制限されている場合でも、燃料導入管30をデリバリパイプ10の長尺方向の一方の端部に接続することが可能である。したがって、燃料レール1は、体格を小型化すると共に、デリバリパイプ10の長尺方向に流れる強い燃料流れを燃料通路11に形成することができる。
【0029】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図8及び図9に示す。第2実施形態では、燃料導入管30の接続ブロック32の入口通路31の中心軸O2は、デリバリパイプ10の燃料通路11の中心軸O1よりも重力方向上側に位置している。したがって、燃料導入管30の入口通路31の中心軸O2と加熱室流入口25との距離L2は、燃料通路11の中心軸O1と加熱室流入口25との距離L1よりも遠い。
第2実施形態では、矢印Aに示すように、燃料通路11の燃料流れは、燃料導入管30の入口通路31の中心軸O2の延長線上が強い流れとなる。そのため、燃料通路11の燃料流れの強い位置から加熱室流入口25までの距離が遠いことで、矢印Bに示すように、燃料通路11から加熱室流入口25を通り加熱室21に流入する燃料の量を低減することが可能である。また、加熱室21内で加熱された燃料が燃料通路11へ流出する量を低減することが可能である。したがって、燃料レール1は、加熱室21の燃料を短時間で高温に加熱することができる。
【0030】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図10及び図11に示す。第3実施形態では、燃料排出管40は、デリバリパイプ10の長尺方向の他方の端部に接続されている。燃料排出管40の接続ブロック42の出口通路41は、デリバリパイプ10の長尺方向に対し平行に形成されている。これにより、燃料排出管40は、燃料通路11を流れる燃料をデリバリパイプ10の長尺方向に沿って出口通路41から排出する。
第3実施形態では、図11の矢印Eに示すように、燃料通路11を流れる燃料流れは、デリバリパイプ10の長尺方向の燃料流れが強いものとなる。その結果、図11の矢印Fに示すように、燃料通路11から加熱室流入口25を通り加熱室21に流入する燃料流れが弱いものとなる。したがって、燃料レール1は、加熱室21の燃料を短時間で高温に加熱することができる。
【0031】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、燃料タンク2から燃料ポンプ3によって汲み上げた燃料を蓄圧する燃料レール1について説明した。これに対し、他の実施形態では、燃料レールは、燃料タンクから燃料ポンプによって汲み上げ、さらに高圧ポンプによって加圧した燃料を蓄圧するものであってもよい。この場合、燃料レールに接続する燃料噴射弁は、エンジンの気筒内に燃料を直接噴射することが可能である。
【0032】
上述した実施形態では、デリバリパイプ10と加熱室形成部20は、所定の板厚の金属板をプレス加工して形成した。これに対し、他の実施形態では、デリバリパイプと加熱室形成部は、例えば切削加工等により形成してもよい。
【0033】
上述した実施形態では、エタノール等のアルコール燃料、または、アルコールとガソリンとの混合燃料を燃料として駆動するエンジンに適用される燃料レール1について説明した。これに対し、他の実施形態では、燃料レールは、ガソリンを燃料として駆動するエンジンに適用することが可能である。
【0034】
上述した実施形態では、4気筒エンジンに提供される燃料レール1について説明した。これに対し、他の実施形態では、燃料レールは、任意の個数の気筒と、それに対応する燃料噴射弁を備えたエンジンに適用することが可能である。
【0035】
上述した実施形態では、燃料排出管40及びリターン通路8を備えた燃料レール1について説明した。これに対し、他の実施形態では、燃料レールは、燃料排出管及びリターン通路を備えないものとすることが可能である。
【0036】
上述した実施形態では、加熱室21に仕切板60を備えた燃料レール1について説明した。これに対し、他の実施形態では、燃料レールは、仕切板を備えないものとすることが可能である。
【0037】
上述した実施形態では、リターン通路8にレギュレータ9を設けた。これに対し、他の実施形態では、レギュレータは、例えば燃料ポンプ3又は供給通路7に設けてもよい。また、レギュレータを設けないこととしてもよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 ・・・燃料レール
2 ・・・燃料供給源(燃料タンク)
10・・・デリバリパイプ
11・・・燃料通路
20・・・加熱室形成部
21・・・加熱室
25・・・加熱室流入口
30・・・燃料導入管
31・・・入口通路
図1
図2
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図11