特許第6441625号(P6441625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441625層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441625
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20181210BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20181210BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20181210BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20181210BHJP
   A21D 13/31 20170101ALN20181210BHJP
【FI】
   A23D9/00 502
   A23D7/00 506
   A21D10/00
   A21D13/16
   !A21D13/31
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-191962(P2014-191962)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-59354(P2016-59354A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】小川 優子
(72)【発明者】
【氏名】東 杏子
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/144132(WO,A1)
【文献】 特許第5421496(JP,B2)
【文献】 特許第5584351(JP,B2)
【文献】 中国特許出願公開第103891921(CN,A)
【文献】 特開2009−034089(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/016576(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3飽和トリグリセリドの含有量が15質量%超35質量%以下、
2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.0、
2飽和トリグリセリドの含有量が30〜40質量%、
2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が45質量%超65質量%以下、
3不飽和トリグリセリドの含有量が9.7〜15質量%である油脂を含有し、
前記油脂は、パーム系油脂を原料に含むエステル交換油脂を含有する層状食品用油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とをエステル交換反応して得られるエステル交換油脂、およびパーム系油脂をエステル交換反応して得られるエステル交換油脂を含有する請求項1に記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂は、液状油を含有しない請求項1又は2に記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂は、3飽和トリグリセリドと3不飽和トリグリセリドとの質量比(3飽和トリグリセリド/3不飽和トリグリセリド)が1.0以上である請求項1から3のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂は、前記エステル交換油脂として、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満とパーム系油脂70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られるヨウ素価20〜45のエステル交換油脂A、及びパーム系油脂をエステル交換反応して得られるヨウ素価45〜60のエステル交換油脂Bを含有し、かつ液状油を含有しない請求項1から4のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項6】
前記油脂は、エステル交換油脂A、B以外の油脂として、ヨウ素価70以下の油脂Cを含有する請求項5に記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項7】
エステル交換油脂Bは、パーム分別軟質油のエステル交換油脂である請求項5又は6に記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項8】
パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステルを含有する請求項1から7のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項9】
フィリングを内部に包含する折りパイ用である請求項1から8のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物を含有する層状食品用可塑性油脂。
【請求項11】
請求項10に記載の層状食品用可塑性油脂が折り込まれた焼成品用の生地。
【請求項12】
請求項11に記載の生地を焼成して得られる焼成品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ、デニッシュ、クロワッサン等の層状の焼成品の生地に折り込んで使用される層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品に関する。
【背景技術】
【0002】
パイの製法には、折り込み用の可塑性油脂としてシート形状のものを用いた折りパイ式、チップやダイス等の形状のものを用いた練りパイ式の2種類があるが、これらのうち折りパイ式では、油脂を練り込んだ小麦粉を主体とする生地に、折り込み用の可塑性油脂を包み込み、折り畳みと圧延を繰り返すことによって、生地中に多数の薄い油脂層を作る。これにより、焼成時には、薄く広がった油脂の膜が生地間に隙間を形成し、生地から発生する蒸気等が生地を持ち上げて多層に膨らんだ層構造を形成する。
【0003】
折り込み用の可塑性油脂の硬さは、層状の焼成品の浮きに密接に関連し、焼成時において水分が蒸発する際、折り込み用の可塑性油脂の融点がある程度高い方が油脂の溶解速度が遅く蒸気の離散を抑制し、浮きが良好となることが知られている。
【0004】
しかし、高融点の折り込み用の可塑性油脂は、2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が多く硬質であるため、折り込み用の可塑性油脂を包み込んだ生地を圧延する際の伸展性に難がある。ペストリーに特有の歯応えのあるさっくりとした食感を得るためには、折り畳みと圧延を繰り返すことによって、よく伸びた薄い油脂層を作ることが必要であるが、油脂が均一に伸びず、油脂切れがあると、層の形成が不十分となってボリュームのある焼成品を得ることが困難になる。
【0005】
この高融点の折り込み用の可塑性油脂の伸展性を改善するために、高融点油脂と液状油を混合することが行われている。しかし、油脂の相溶性が悪かったり結晶量が不十分であったりすると、生地中に練り込まれてしまい生地同士の結着が起こり易くなる場合や、経時的な油脂の物性変化が起こり易くなる場合があり、焼成時に十分なボリュームを得ることが困難になる。また、高融点油脂は通常、液状油と併用しても焼成品の口溶けを良好なものとするのが難しい。
【0006】
また、折り込み用の可塑性油脂には、伸展性と共に、コシがあることが求められる。コシがないと、折り込んだ生地にベタツキが生じたり、圧延しても折り込んだ生地の縮みが大きくなる。一方生地の伸展性に比べて、折り込み用可塑性油脂が硬く伸展性が悪いと油脂が均一に伸びず、繋がりに欠け、生地だけが伸びて油脂切れが起こり、積層状態が崩れてしまい、ひいては形状の安定した層構造が得られないことにつながる。
【0007】
従来、マーガリンやショートニング等の食用油脂には部分水素添加した硬化油が多く使用されてきた。しかし、これに含まれるトランス脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させるとも言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、近年では、原料油脂にはトランス酸量が少ないことが望まれている。
【0008】
そのような中で、トランス酸量の少ない油脂配合が検討されてきており、例えば、エステル交換油脂を使用してトリグリセリド組成や脂肪酸組成を調整することが行われている。
【0009】
エステル交換油脂としては、各種のものが検討されてきているが、その中の一つとしてラウリン系油脂とパーム系油脂を原料としたエステル交換油脂を配合することが提案されている(特許文献1〜4)。これらの技術は主に、このラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂に、パーム系油脂を原料に含む別途のエステル交換油脂などを組み合わせるものである。そして液状油を必須成分としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−291168号公報
【特許文献2】特開2014−033644号公報
【特許文献3】特開2014−036608号公報
【特許文献4】特開2009−034089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、焼成した生地の良好な浮き、サクさ、口溶けの観点から、更に改善の余地があった。
【0012】
すなわち、生地の浮きに関しては、浮きが大きく且つ均一に膨化することが、見映えが良く商品価値として評価される。例えば折りパイでは、フラットな形状で膨化し、凹みができたり歪んだりしないものが望まれている。しかし、特にフィリングを包み込んで焼成した場合には、フィリングの重さやフィリング中の水分量等に起因して、フィリングを含有している部位と、含有していない部位では焼成時の熱の伝わり方が異なり、焼成品は均一に膨化することが難しい。そのため、フィリング部分が歪んだりして、均一に膨化した層状食品を得ることが困難であった。
【0013】
焼成品のサクさに関しては、浮きが良く歯応えのあるさっくりとした食感であることは、ペストリーに特有のものとして望まれているが、このサクさのある食感は、折り込み用の可塑性油脂の微細な結晶構造等が密接に影響する。また、焼成した直後は、サクさのある食感を有しても、焼成後、時間の経過と共に水分を吸収して、サクさのある食感が失われてしまうという問題があった。中でも、フィリングを内部に包含した生地は、フィリング中の水分含量が多いため、経時的にフィリング中の水分が生地に移行しサクさのある食感が失われてしまう。そして、サクさのある食感が良好なパイは概して、喫食したときにボロボロと崩れて周辺にこぼれたりして、快適さを損なう場合がある。
【0014】
焼成品の口溶けに関しては、高融点油脂を使用したときの固有の問題であり、例えば、ヨウ素価の低い油脂を使用した場合には、焼成品の口溶けが悪くなり易い。
【0015】
そして特許文献1〜4のような従来技術は、概ね次のようなものである。まず、トリグリセリド組成としては、3飽和トリグリセリドの含有量は上限が概ね15質量%で、また液状油を配合することから3不飽和トリグリセリドの含有量が一定以上の割合を占めている。このような従来の油脂配合では、上記したような浮きが大きく且つ均一に膨化する点、そして伸展性や良好なサクさとも両立させる点を考慮すると改良が難しい。例えば、液状油の使用は、相溶性が悪かったり結晶量が不十分になったりして、生地中に練り込まれてしまい生地同士の結着が起こり易くなる場合や、経時的な油脂の物性変化が起こり易くなる場合があり、焼成時に十分なボリュームを得ることが困難になる。複数のエステル交換油脂を組み合わせる技術では、それらの相溶性の問題もある。例えば、ラウリン系油脂とパーム系油脂を原料としたエステル交換油脂として、ヨウ素価の低いものは、他の油脂との相溶性が悪くなる傾向があり、可塑性が低く、生地との伸展性が良好ではなく、焼成品のボリュームが得られにくかった。また、所望の物性を得るために比較的多量の液状油を必須とする。そしてラウリン系油脂とパーム系油脂を原料としたエステル交換油脂と併用される、別途のエステル交換油脂として、分別硬質油であるパームステアリンのエステル交換油脂を使用するものや、パーム系油脂と液状油を組み合わせた軟質性の高いエステル交換油脂を使用するものでも、満足できるボリュームと均一な膨化を達成することが難しい。
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、生地との伸展性が良好で、コシのある可塑性油脂を得ることができ、焼成した層状食品は、特に折りパイ、中でもフィリングを内部に包含した生地であっても均一に膨化し且つボリュームのある浮きが得られ、サクさのある食感が良好で、サクさの経時変化も小さく、焼成品の崩壊も抑制され、喫食時にボロボロと生地がテーブルに落ちる量が少なくなり、口溶けの良好な層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の層状食品用油脂組成物は、3飽和トリグリセリドの含有量が15質量%超35質量%以下、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.0、2飽和トリグリセリドの含有量が30〜40質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が45質量%超65質量%以下、3不飽和トリグリセリドの含有量が1.0〜15質量%である油脂を含有することを特徴としている。好ましい態様において、この層状食品用油脂組成物は、液状油を含有しない。好ましい別の態様において、前記油脂は、3飽和トリグリセリドと3不飽和トリグリセリドとの質量比(3飽和トリグリセリド/3不飽和トリグリセリド)が1.0以上であり、また、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)の含有量が8.0〜20質量%である。
【0018】
この層状食品用油脂組成物において、前記油脂は、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満とパーム系油脂70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られるヨウ素価20〜45のエステル交換油脂A、及びパーム系油脂をエステル交換反応して得られるヨウ素価45〜60のエステル交換油脂Bを含有し、かつ液状油を含有しないことが好ましい。好ましい態様において、前記油脂は、エステル交換油脂A、B以外の油脂として、ヨウ素価70以下の油脂Cを含有する。好ましい別の態様において、エステル交換油脂Bは、パーム分別軟質油のエステル交換油脂である。
【0019】
好ましい態様において、この層状食品用油脂組成物は、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステルを含有する。
【0020】
好ましい態様において、この層状食品用油脂組成物は、フィリングを内部に包含する折りパイ用である。
【0021】
本発明の層状食品用可塑性油脂及び焼成品用の生地は、前記層状食品用油脂組成物を含有し、本発明の焼成品は、この生地を焼成して得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生地との伸展性が良好で、コシのある可塑性油脂を得ることができ、焼成した層状食品は、特に折りパイ、中でもフィリングを内部に包含した生地であっても均一に膨化し且つボリュームのある浮きが得られ、サクさのある食感が良好で、サクさの経時変化も小さく焼成品の崩壊も抑制され、喫食時にボロボロと生地がテーブルに落ちる量が少なくなり、口溶けが良好である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の層状食品用可塑性油脂は、従来よりも3飽和トリグリセリドの含有量が多く、そして2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量を特定範囲とし、且つ、液状油を使用せず3不飽和トリグリセリドの含有量が少ないトリグリセリド組成とすることで、折りパイ、中でもフィリングを内部に包含した生地であっても均一に膨化し且つボリュームのある浮きが得られる。特に、ヨウ素価を特定範囲としたラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂Aと、ヨウ素価を特定範囲としたエステル交換油脂Bとを用いることで、これらの相溶性が良く、また生地中に練り込まれ、浮きが悪くなり易い液状油を使用しないことで、焼成品のボリュームアップと均一な膨化を図ることができる。
【0025】
そして、このような2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が多い硬質油脂は、伸展性が低下する傾向があるが、SUSとSSUとの質量比を調整することで、製造機内での結晶化が促進され、生地への伸展性が良くコシのある層状食品用可塑性油脂を得ることができる。
【0026】
またSUSとSSUとの質量比を調整することで、結晶化が促進されると共に、徐冷時の結晶が微細化し、これによりサクさのある食感が向上する。このサクさのある食感は長期にわたり維持することができ、フィリングを内部に包含した折りパイであっても、水分移行によるサクさの経時変化を抑制できる。また焼成品はボロボロとなり崩れることがなく、快適に喫食できる。
【0027】
そして更に、硬質油脂として従来の高融点油脂を使用したものと対比しても口溶けは良好である。
【0028】
(油脂)
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
【0029】
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
【0030】
飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0031】
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
【0032】
不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エルカ酸(22:1)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0033】
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドを含み、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリドを含み、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドを含む。
【0034】
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、トリグリセリド含有量として、3飽和トリグリセリドの含有量が15質量%超35質量%以下、2飽和トリグリセリドの含有量が30〜40質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が45質量%超65質量%以下、3不飽和トリグリセリドの含有量が1.0〜15質量%である。
【0035】
その中でも、3飽和トリグリセリドと3不飽和トリグリセリドとの質量比(3飽和トリグリセリド/3不飽和トリグリセリド)が1.0以上であることが好ましい。
【0036】
これらの範囲内であると、焼成品の浮きが大きく且つ均一に膨化し、見映えの良い焼成品が得られる。例えば折りパイでは、フラットな形状で膨化し、凹みや平面の歪みを抑制できる。特に、フィリングを包み込んで焼成した場合であっても、フィリングの重さやフィリング中の水分量等に起因して、生地の浮きが悪くなることを抑制し、且つ、フィリングを含有している部位と、含有していない部位との焼成時の熱の伝わり方が異なることにより焼成品が歪むことを抑制できる。
【0037】
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.0である。
【0038】
その中でも、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)の含有量が8.0〜20質量%であることが好ましい。
【0039】
これらの範囲内であると、2飽和トリグリセリドのうち結晶化し易い非対称型トリグリセリドが、対称型トリグリセリドに対して特定比率の油脂組成を持つことで、製造機内での結晶化が促進され、生地への伸展性が良くコシのある油脂を得ることができる。またSUSとSSUとの質量比を調整することで、結晶化が促進されると共に、徐冷時の結晶が微細化し、これによりサクさのある食感が向上する。このサクさのある食感は長期にわたり維持することができ、フィリングを内部に包含した折りパイであっても、水分移行によるサクさの経時変化を抑制できる。また焼成品はボロボロとなり崩れることがなく、快適に喫食できる。本発明のような2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が45質量%超65質量%以下の場合、飽和酸含量が多いためSUS/SSUが1.0を超えると製造機内での結晶化が遅れ、硬くなって良好な伸展性が得られない。SUS/SSUが0.2未満であると、練られ過ぎ、油脂のコシがなく、生地に練り込まれやすくなる。
【0040】
以上のような組成をもつ本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、エステル交換油脂を必須成分として調製される。
【0041】
好ましい態様において、本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、次のエステル交換油脂A及びエステル交換油脂Bを含有する。
【0042】
(エステル交換油脂A)
エステル交換油脂Aは、ラウリン系油脂とパーム系油脂とをエステル交換反応して得られる。
【0043】
エステル交換油脂Aの原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40〜55質量%である。
【0044】
このようなラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂Aを容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油及びその分別油や硬化油が好ましい。
【0045】
ラウリン系油脂は、ヨウ素価が2以下であることが好ましい。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂を用いると、エステル交換油脂Aを他の油脂と混合する際に結晶核となり固化し易く、また極度硬化油であるためトランス酸の生成の虞も少ない。
【0046】
エステル交換油脂Aの原料であるパーム系油脂は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。
【0047】
このようなパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0048】
パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等を用いることができる。パーム系油脂として硬化油を使用する場合、極度硬化油を使用するとトランス酸の生成の虞が少ない。
【0049】
パーム系油脂は、ヨウ素価が30〜55であることが好ましい。また、パーム系油脂は、極度硬化油を5〜45質量%含有することが好ましく、20〜45質量%含有することがより好ましい。
【0050】
そしてエステル交換油脂Aは、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られる。好ましくはラウリン系油脂10質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%超90質量%以下とをエステル交換して得られ、より好ましくは、ラウリン系油脂10〜28質量%と、パーム系油脂72〜90質量%とをエステル交換して得られる。
【0051】
そしてエステル交換油脂Aは、ヨウ素価が20〜45である。この範囲内であると、他の油脂との相溶性が良く、そして他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができる。ヨウ素価が20以上であると、他の油脂との相溶性が良く、例えば硬い油脂だけで固まることが抑制され、ヨウ素価が45以下であると、他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができる。
【0052】
(エステル交換油脂B)
エステル交換油脂Bは、パーム系油脂をエステル交換反応して得られる。
【0053】
エステル交換油脂Bは、ヨウ素価が45〜60である。この範囲内であると、エステル交換油脂Aとの相溶性が良く、焼成品の浮きが大きく且つ均一に膨化し、見映えの良い焼成品が得られる。
【0054】
パーム系油脂としては、パーム分別軟質油を用いることが好ましい。
【0055】
本発明の層状食品用油脂組成物におけるエステル交換油脂A及びエステル交換油脂Bの含有量は、2飽和トリグリセリドの対称性(SUS/SSU)の調整が容易である点等を考慮すると、油脂全量に対して55質量%以上が好ましい。
【0056】
またエステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bとの質量比(エステル交換油脂A/エステル交換油脂B)は、0.1〜0.85が好ましい。
【0057】
(ヨウ素価70以下の油脂C)
本発明の層状食品用油脂組成物における油脂は、エステル交換油脂A、B以外の油脂として、ヨウ素価70以下の油脂C、より好ましくはヨウ素価60以下の油脂Cを含有してもよい。このヨウ素価70以下の油脂Cは、トリグリセリド組成を本発明の範囲内に調整することが容易で、更にエステル交換油脂A及びエステル交換油脂Bとの相溶性が良く、焼成品の浮きが大きく且つ均一に膨化し、見映えの良い焼成品が得られる。
【0058】
ヨウ素価70以下の油脂Cとしては、植物油脂、動物油脂、乳脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。
【0059】
植物油脂としては、パーム油、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。また、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油等の20℃で液状の油脂の硬化油であってもよい。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0060】
動物油脂としては、動物の脂肉から溶出法により採取した脂肪を精製したものを用いることができる。具体的には、ラード、牛脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0061】
硬化油を使用する場合には、極度硬化油を使用するとトランス酸の生成の虞が少ない。例えば、植物油脂の極度硬化油としては、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられ、動物油脂の極度硬化油としては、ラード極度硬化油、牛脂極度硬化油等が挙げられる。
【0062】
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、エステル交換油脂A、エステル交換油脂B、及び所望によりヨウ素価70以下の油脂Cのみからなり、液状油を含有しないことが好ましい。ここで液状油としては、20℃で液状を呈するものであり、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油を分別したスーパーオレイン等が挙げられる。上記したような生地中に練り込まれ、浮きが悪くなり易い液状油を使用しないことで、焼成品のボリュームアップと均一な膨化を図ることができる。
【0063】
トランス型脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の層状食品用油脂組成物は、トランス酸量が油脂全量に対して0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0064】
以上において、本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂の分別、硬化反応、エステル交換反応は、次のような方法によって行うことができる。
【0065】
油脂の分別は、原料油脂に溶剤等を加えて溶解するか、又は加えないで融解し、冷却した後、分離操作を行うことで行うことができ、融点の異なる様々なトリグリセリドが混在する油脂から使用目的に適した融点のトリグリセリド部を分画する。
【0066】
分別方法には溶剤分別、乾式分別、界面活性剤分別があり、これらを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0067】
乾式分別では、高融点と低融点のトリグリセリドの融点差を利用して、完全に融解した油脂を徐々に冷却し、生成した結晶部分を液体部分よりろ別して分離する。溶剤分別では、アセトンやヘキサンなどの溶剤に対する溶解度差を利用して、油脂を溶剤に溶解し、冷却することで、溶剤に対して溶解度の低い高融点部、次いで中融点部の順に結晶を析出させる。結晶を十分成長させた後、結晶部分と液油部分とに分離し、溶媒を留去して、それぞれの分別油を得ることができる。
【0068】
油脂の硬化反応は、常法にしたがって、ニッケル触媒等の触媒を用いて油脂に水素添加し、加温、攪拌しながら反応を進め、トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸の二重結合部分に水素を結合させ飽和化することによって行うことができる。この際、圧力、温度、時間を制御することにより、求める硬さの油脂を得ることができる。
【0069】
硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)のうち、極度硬化油は、ヨウ素価が好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0070】
油脂のエステル交換反応は、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドのグリセロールに結合している脂肪酸の位置や脂肪酸の種類を組みかえる操作であり、常法にしたがって、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる化学的エステル交換反応や、リパーゼ等を触媒として用いた酵素的エステル交換反応等によって行うことができる。
【0071】
化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換とも言われる)。
【0072】
化学的エステル交換反応は、例えば、常法にしたがって、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.05〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0073】
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1、3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
【0074】
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
【0075】
1、3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
【0076】
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0077】
なお、エステル交換油脂A及びエステル交換油脂Bを得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。
【0078】
(ソルビタン脂肪酸エステル)
本発明の層状食品用油脂組成物は、好ましい態様において、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上、好ましくは1.5℃以上、より好ましくは2.0〜4.0℃上昇させるソルビタン脂肪酸エステルを含有する。
【0079】
このようなソルビタン脂肪酸エステルを用いることで、本発明の層状食品用油脂組成物を用いた可塑性油脂の製造時における急冷条件において、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になる。そのため、製造機中でよく混練され、さらに可塑性が向上し生地への伸展性が向上する。そして、焼成後の徐冷時にも結晶化が促進され、微細な結晶構造となることにより、サクさのある食感が向上する。
【0080】
上記パーム油の固化開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。固化開始温度の測定には、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いることができる。より詳細には、パーム油100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、80℃から毎分10℃の速度で冷却し、固化開始温度を測定することができる。
【0081】
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、全構成脂肪酸中の好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上がパルミチン酸とステアリン酸である。また、パルミチン酸とステアリン酸の質量比は、好ましくは0.3:1.0〜1.0:1.0であり、より好ましくは0.5:1.0〜0.8:1.0である。パルミチン酸とステアリン酸の質量比がこの範囲程度であれば、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させることができる。
【0082】
ここでパルミチン酸とステアリン酸の質量比は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)により測定することができる。
【0083】
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは3.5〜5.5であり、より好ましくは4.0〜5.5である。HLB値がこの範囲であると、パーム油の固化開始温度を上昇させるのに適している。
【0084】
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
【0085】
本発明においては、上記ソルビタン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、理研ビタミン(株)製のS−320YN、ポエムS−60V、及びソルマンS−300V等が挙げられる。
【0086】
上記ソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.1〜5.0質量%であり、より好ましくは0.2〜4.0質量%である。この含有量が0.1質量%以上であると、油脂の結晶化が促進され、かつ結晶が微細化される。この含有量が5.0質量%以下であると、乳化剤としての異味が焼成後の食品に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0087】
(層状食品用可塑性油脂)
本発明の層状食品用油脂組成物は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有する層状食品用可塑性油脂を調製し、これを原材料とする生地を用いて焼成品を得ることができる。
【0088】
この層状食品用可塑性油脂は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有するものである。
【0089】
層状食品用可塑性油脂における本発明の層状食品用油脂組成物の含有量としては、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
【0090】
この層状食品用可塑性油脂は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型、油中水中油型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60〜99.4質量%、より好ましくは65〜98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、マーガリンが挙げられる。
【0091】
また水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「水相を実質的に含有しない」とは日本農林規格のショートニングに該当する、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下のことである。
【0092】
この層状食品用可塑性油脂には、水以外に、牛乳、脱脂乳等の乳、クリーム、ナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズ、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等の乳製品、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース等の二糖類、オリゴ糖、トレハロース、糖アルコール等の糖類、デンプン、デンプン分解物、増粘多糖類、乳化剤、塩類、酸味料、調味料、着色料、pH調整剤、香辛料、フレーバー、酸化防止剤等の、この分野で通常使用される原材料を配合することができる。
【0093】
この層状食品用可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。
【0094】
この層状食品用可塑性油脂は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状等の様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。層状食品用可塑性油脂をシート状とした場合のサイズは、特に限定されないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。
【0095】
(生地及び焼成品)
本発明の層状食品用油脂組成物は、層状食品用可塑性油脂としてパンや菓子等の焼成品の生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間に本発明の層状食品用油脂組成物を用いたシート状の層状食品用可塑性油脂を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に層状食品用可塑性油脂を層状に折り込んで、生地と層状食品用可塑性油脂の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この本発明の層状食品用油脂組成物を含有する生地を焼成することによってパイ、デニッシュ、クロワッサン等の焼成品が得られる。生地への本発明の層状食品用油脂組成物の折り込みや、焼成は、例えば公知の条件及び方法に従って行うことができる。
【0096】
生地は穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられる。
【0097】
生地における本発明の層状食品用油脂組成物の配合量は、焼成品の種類によっても異なり特に限定されないが、生地に配合される穀粉100質量部に対して、層状食品用可塑性油脂量として好ましくは20〜120質量部であり、より好ましくは20〜100質量部である。
【0098】
生地には、穀粉と本発明の層状食品用油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、澱粉、食塩、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、チーズ、生クリーム、合成クリーム、ヨーグルト、発酵乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、ホエイ、カゼイン、牛乳、濃縮乳、合成乳、可塑性油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0099】
焼成品としては、例えば、発酵過程のないパイ、イースト等を使用して生地を発酵させるデニッシュやクロワッサン等のペストリーが挙げられる。
【0100】
本発明の層状食品用油脂組成物は、特に折りパイに好適である。折りパイは、小麦粉、水、練り込み用油脂、食塩等で生地を作り、シート状の層状食品用可塑性油脂をその生地で包み込んだ後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって多層を形成する。本発明によれば、折りパイはフラットな形状で膨化し、凹みや平面の歪みを抑制できる。特に、具材であるフィリングを包み込んで焼成した場合であっても、フィリングの重さやフィリング中の水分量等に起因して、生地の浮きが悪くなることを抑制し、且つ、フィリングを含有している部位と、含有していない部位との焼成時の熱の伝わり方が異なることによりフィリング部分に凹みが生じることや、平面が歪むことを抑制できる。
【0101】
折りパイのフィリングとしては、果実、果実加工品、餡類、フラワーペースト、チョコレート、カスタード等のクリーム類、チーズ、惣菜等が挙げられる。
【実施例】
【0102】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
1.測定方法
各油脂のヨウ素価は基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
【0103】
油脂における2飽和トリグリセリドの含有量、3飽和トリグリセリドの含有量、3不飽和トリグリセリドの含有量、2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計含有量、及び2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリドの合計含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0104】
油脂における対称型トリグリセリド(SUS)及び非対称型トリグリセリド(SSU)の含有量と質量比(SUS/SSU)、2不飽和トリグリセリド(USUとUUS)の含有量、3飽和トリグリセリドと3不飽和トリグリセリドとの質量比(SSS/UUU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により算出した。
【0105】
2.層状食品用油脂組成物の製造
表1及び表2に示す配合比にてエステル交換油脂を含む各油脂を混合し、実施例及び比較例の油脂組成物を得た。
【0106】
(エステル交換油脂A1)
パーム核極度硬化油20質量%、パーム油50質量%、パーム油極度硬化油30質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂A1を得た。
【0107】
(エステル交換油脂A2)
パーム核極度硬化油23質量%、パーム油54質量%、パーム油極度硬化油23質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂A2を得た。
【0108】
(エステル交換油脂A3)
パーム核油40質量%、パーム油60質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂A3を得た。
【0109】
(エステル交換油脂A4)
パーム核油50質量%、パームステアリン50質量%を混合し、得られた混合油脂に水素添加した後、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂A4を得た。
【0110】
(エステル交換油脂A5)
パーム核ステアリン40質量%、ハードパームステアリン60質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂A5を得た。
【0111】
(エステル交換油脂A6)
パーム核オレイン50質量%、パームステアリン50質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応を行い、水洗、脱水した後、水素添加を行い、その後精製してエステル交換油脂A6を得た。
【0112】
(エステル交換油脂B1)
エステル交換油脂B1は次の方法で製造した。パーム分別軟質油(ヨウ素価56)について、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂B1を得た。
【0113】
(エステル交換油脂B2)
パームオレイン65質量%、菜種油35質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂B2を得た。
【0114】
(エステル交換油脂B3)
ハイオレイックヒマワリ油70質量%、菜種極度硬化油30質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂B3を得た。
【0115】
(ソルビタン脂肪酸エステル1〜3)
層状食品用油脂組成物に添加したソルビタン脂肪酸エステル1〜3の詳細は、表5に示すとおりである。
【0116】
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。
【0117】
次に、同様にして、ソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。
【0118】
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度とソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とした。
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【0124】
(3)評価
実施例及び比較例の各試料について次の評価を行った。
(マーガリンの製造)
表1〜表4に示す、実施例及び比較例の油脂組成物82質量部にレシチンを0.5質量部添加し、70℃に調温して油相とした。一方、水14.9質量部に脱脂粉乳1.5質量部及び食塩1.0質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。
【0125】
次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後にバターフレーバーを0.1質量部添加し、コンビネーターによって急冷捏和し、25cm×21cm×1cmのシート状に成型した下記の配合割合の層状食品用マーガリンを得た。
【0126】
〈層状食品用マーガリンの配合〉
油脂組成物 82質量部
レシチン 0.5質量部
水 14.9質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
食塩 1.0質量部
バターフレーバー 0.1質量部
【0127】
上記層状食品用マーガリンを10℃で5日保存した後、下記の評価を行った。
【0128】
(パイの製造)
下記の配合及び製造条件でパイを製造した。
【0129】
具体的には、(1)ミキサーボールに小麦粉と柔らかくしたショートニングを入れ、低速2分ミキシングを行う。(2)別のボールに全卵を入れて良くほぐし、冷水、食塩を混ぜ合わせ(1)に入れて低速3分、中高速6分ミキシングを行い生地を得た。
【0130】
この生地を0℃で一晩置いた。
【0131】
この生地で、層状食品用マーガリンを包み込み、リバースシートで3つ折り1回、4つ折り1回した後0℃にて60分リタードさせた。さらに3つ折り1回、4つ折り1回した後0℃にて60分リタードさせた。その後、生地が5℃以下に冷えているのを確認してから、リバースシートでゲージ厚3mmまで伸ばし、90×130mmにカットした。
【0132】
<下生地>
カットした生地にピケをして、ベーキングシートを敷いた天板に生地を並べる。そこにカスタードクリーム30gを中央にのせる。
<上生地>
カットした生地の長辺に垂直に1cm間隔で長さ4cmの切り込みを入れる。
【0133】
下生地の周囲に生地結着用の卵を塗り、切り込みを入れた上生地を被せる。生地の周りを麺棒で押さえた後、室温(温度24℃、湿度65%)で30分休ませた後、塗り卵をして焼成(200℃ 20分)しパイを得た。
【0134】
〈パイの配合〉
強力粉 85質量部
薄力粉 15質量部
ショートニング 10質量部
(ミヨシショートニングZ:ミヨシ油脂製)
全卵(正味) 10質量部
冷水 49質量部
食塩 1質量部
層状食品用マーガリン 70質量部
【0135】
[生地への伸展性]
約1.7Kgの生地にシート状の層状食品用マーガリン700gをのせ、折り込み時の層状食品用マーガリンの伸展性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:生地中で油脂が均一に伸び、非常に伸展性が良好である。
○:生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が良好である。
△:伸展性はあるものの、やや油脂切れがある。
×:油脂が均一に伸びず、油脂切れがある。
【0136】
[コシ]
層状食品用マーガリンを4cm×4cmにカットし、手で揉んだ際の感触で、層状食品用マーガリンのコシを以下の基準で評価した。なお、コシの強い層状食品用マーガリンは折り込み時の作業性が良好である。
評価基準
◎:ベタツキが無く、とてもスムーズで繋がりがある。
○:ベタツキが無く、繋がりがある。
△:ややベタツキがあり、繋がりに欠ける。
×:ベタツキがあり、繋がりに欠ける。
【0137】
[パイのボリューム]
焼成後のパイにおける最大の高さを測定し、下記の基準で評価した。
評価基準
◎:3.5cm以上
○:3.0cm以上3.5cm未満
△:2.6cm以上3.0cm未満
×:2.6cm未満
【0138】
[フィリング入り生地の歪]
焼成したパイの最大の高さ(凸)と最小の高さ(凹)の差を最大の高さで除し、次式より歪率を求めた。
【0139】
【化1】
【0140】
この歪率に基づいて、パイの歪を以下の基準で評価した。なお、歪率の少ないパイは、品質が一定で、見た目の良いものとなる。
評価基準
◎:15%未満
○:15%以上25%未満
△:25%以上35%未満
×:35%以上
【0141】
[サクさ]
焼成したパイ(焼成後2時間室温で放冷したものと、放冷後20℃にて1日保管後)のサクさについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0142】
[崩壊抑制]
喫食時、パイ生地がこぼれて、テーブルに落ちる量でパイ生地の崩壊性を以下の基準で評価した。なお、パイ生地のこぼれる量が多い生地はテーブルの上を汚すため嫌われる。
評価基準
◎:喫食時、パイ生地のこぼれる量が非常に少ない。
○:喫食時、パイ生地のこぼれる量が少ない。
△:喫食時、パイ生地のこぼれる量が多い。
×:喫食時、パイ生地のこぼれる量が非常に多い。
【0143】
[口溶け]
パイ生地をパネル10名で喫食し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が良好であると評価した。
○:パネル10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:パネル10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:パネル10名中2名以下が良好であると評価した。
【0144】
上記の評価結果を表6及び表7に示す。
【0145】
【表6】
【0146】
【表7】