(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
[液状物]
本発明の被覆材は、ゲル化粒状物が水性媒体中に分散したものである。本発明では、このゲル化粒状物として、合成樹脂エマルション(a)、ゲル形成物質(b)、及び平均粒子径10μm以上200μm未満の粉粒体(c)を含む液状物がゲル化したものを含有する。
【0011】
上記液状物における合成樹脂エマルション(a)(以下「(a)成分」ともいう)としては、一般的な乳化重合等によって得られる各種合成樹脂エマルションを使用することができる。(a)成分の樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。(a)成分は、架橋反応性を有するものであってもよい。
(a)成分は、水を主成分とする水性媒体に、サブミクロンサイズの粒子状の合成樹脂が分散されたものであり、その固形分は好ましくは30〜60重量%、より好ましくは35〜55重量%である。
【0012】
ゲル形成物質(b)(以下「(b)成分」ともいう)は、液状物のゲル化に寄与する成分である。このような(b)としては、水溶性高分子が好ましく、具体的には例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン、バイオガム、ガラクトマンナン誘導体、アルギン酸もしくはその誘導体、セルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルブミン等、あるいはこれらを酸化、メチル化、カルボキシメチル化、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化、硫酸化、リン酸化、カチオン化等によって化学変性したもの等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0013】
(b)成分の比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは0.5〜20重量部である。
【0014】
平均粒子径10μm以上200μm未満の粉粒体(c)(以下「(c)成分」ともいう)は、自然感豊かな模様形成のために必須の成分である。(c)成分としては、自然石、自然石の粉砕物等の天然骨材、及び着色骨材等の人工骨材から選ばれる少なくとも1種以上が使用可能である。具体的には、例えば、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、珪石、珪砂、砕石、雲母、珪質頁岩、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、ゴム粒、金属粒等や、これらの表面を着色コーティングしたもの等が挙げられる。これら(c)成分としては、中実品が好ましい。
【0015】
このような(c)成分には、有色または無色のものがあるが、本発明では、(c)成分として少なくとも1種以上の有色粉粒体を使用する。有色粉粒体は、形成される模様面に種々の色調を付与する成分である。本発明では、色調が異なる2種以上の有色粉粒体を組み合わせて用いることにより、美観性をいっそう高めることができる。有色粉粒体の色調は、無彩色、有彩色のいずれであってもよく、透明性を有するものであってもよい。
【0016】
(c)成分の平均粒子径は、通常10μm以上200μm未満であり、好ましくは40μm以上198μm以下、より好ましくは55μm以上190μm以下、さらに好ましくは60μm以上180μm以下である。なお、ここに言う平均粒子径は、JIS Z8801−1:2000に規定される金属製網ふるいを用いてふるい分けを行い、その重量分布の平均値を算出することによって得られる値である。
【0017】
(c)成分の比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、通常20重量部以上2000重量部以下、好ましくは110重量部以上1500重量部以下、より好ましくは120重量部以上1000重量部以下である。
(a)成分全体に対する(c)成分の重量比率については、(a)成分100重量部に対し、好ましくは10重量部以上1000重量部以下、より好ましくは55重量部以上750重量部以下、さらに好ましくは60重量部以上500重量部以下である。
【0018】
本発明では、(c)成分の平均粒子径及び比率が上述の範囲内であること、さらに(c)成分として有色粉粒体を含むことにより、ゲル化粒状物の安定性を確保しつつ、自然感豊かな意匠性を表出することができる。特に意匠性においては、粉粒体による立体感、きめ細やかさ等を付与することも可能となる。
【0019】
ゲル化粒状物を構成する粉粒体が、平均粒子径200μm以上のものであると、ゲル化粒状物を安定に保つために、合成樹脂エマルションに対する粉粒体の含有比率を低く設定しておく必要がある。そのため、粉粒体がゲル化粒状物中に埋没したり、粉粒体の密度が疎な状態となってしまい、粉粒体による立体感やきめ細かさは得られ難く、下地が透けやすくなり、自然感が減殺されてしまう。ゲル化粒状物を構成する粉粒体が、平均粒子径10μm未満のものである場合(一般的な着色顔料等である場合)は、ゲル化粒状物が単色化してしまう。
【0020】
これに対し、本発明では、ゲル化粒状物を構成する粉粒体として、上記特定平均粒子径のものを使用することで、粉粒体の含有比率を比較的高く設定してもゲル化粒状物の安定性を確保することができ、上述のような意匠的効果を得ることが可能となる。なお、本発明の液状物には、本発明の効果を著しく阻害しない限り、(c)成分以外の粉粒体が含まれていてもよいが、平均粒子径200μm以上の粉粒体、及び/または平均粒子径10μm未満の粉粒体が含まれない態様も好適である。
【0021】
上記液状物は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を必須成分として含むものであるが、本発明の効果を著しく阻害しない限り、各種添加剤、例えば、粘性調整剤、湿潤剤、分散剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消泡剤、光安定剤、香料、紫外線吸収剤、触媒、架橋剤、難燃剤等を含むものであってもよい。液状物は、上記各成分を常法により均一に混合することで製造できる。また、液状物は、水、その他溶剤によって適宜希釈し、固形分を調整することもできる。
【0022】
[水性媒体]
本発明被覆材中の水性媒体は、ゲル化粒状物の媒体となるものである。この水性媒体は、水を主成分とするものであり、水、または水と水溶性溶剤とを含むものが使用できる。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。水性媒体中に水溶性溶剤を含む場合、水溶性溶剤の比率は、水と水溶性溶剤の総量中に好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下とすればよい。
【0023】
このような水性媒体は、ゲル化剤(d)(以下「(d)成分」ともいう)を含むことが望ましい。この(d)成分は、上記(b)成分との作用により、ゲル化粒状物の生成安定化に寄与する成分である。
【0024】
(d)成分としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、亜鉛、鉄、ジルコニウム、クロム、錫、銀、銅等の金属の硫酸塩、酢酸塩、有機酸塩、珪酸塩、硼酸塩、硝酸塩、塩化物、水酸化物等が挙げられる。この他、塩酸、硫酸、硝酸、硼酸等の無機酸またはそれらの塩、クエン酸、乳酸、タンニン酸等の有機酸またはそれらの塩、等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0025】
水性媒体中の(d)成分の比率は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
【0026】
本発明被覆材中の水性媒体は、水性樹脂(e)(以下「(e)成分」ともいう)を含むものでもよい。この(e)成分は、形成被膜におけるゲル化粒状物の固定化、保護作用等を高め、耐水性、耐候性等の物性向上にも寄与する。(e)成分としては、特に合成樹脂エマルションが好適である。この合成樹脂エマルションとしては、上記液状物と同様のものが使用できる。
【0027】
水性媒体中における(e)成分の比率は、固形分換算で、好ましくは5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0028】
水性媒体は、本発明効果を著しく阻害しない限り、各種添加剤(上記液状物と同様のもの)を含むものであってもよい。水性媒体は、以上に述べたような成分を常法により均一に混合することで製造できる。
【0029】
[被覆材の製造方法]
本発明被覆材は、上記液状物を上記水性媒体中(少なくとも水を含む)で粒状に分散させ、上記液状物のゲル化粒状物を生成させることによって製造できる。この際、上記水性媒体中に(d)成分を含むことにより、液状物のゲル化を安定的、効率的に行うことができる。(e)成分その他添加剤は、ゲル化粒状物生成時に予め水性媒体中に混合しておいてもよいし、ゲル化粒状物の生成後に水性媒体に混合してもよい。
【0030】
ゲル化粒状物の粒子径は、好ましくは0.1〜20mm、より好ましくは0.5〜15mmである。ゲル化粒状物の粒子径や形状は、攪拌羽根の種類、攪拌羽根の回転速度、液状物の粘性や添加方法、水性媒体の粘性や組成等を適宜選択・調整することによって設定できる。
【0031】
本発明被覆材は、少なくとも1種のゲル化粒状物を含むものであり、色調の異なる2種以上(好ましくは3種以上)のゲル化粒状物を含むこともできる。ゲル化粒状物の色調は、使用する(c)成分の種類、組合せ、比率等によって、適宜調整することができる。本発明では、特定平均粒子径の(c)成分を使用するため、1種のゲル化粒状物の中に複数の色粒が混在する意匠性を表出することもできる。なお、本発明の効果が著しく損なわれない限り、本発明被覆材には、本発明規定のゲル化粒状物と共に、規定外のゲル化粒状物が混在してもよい。
【0032】
色調が異なる2種以上のゲル化粒状物を含む被覆材を得るためには、例えば、
1種のゲル化粒状物が分散した分散液をそれぞれ製造した後、これらを混合する方法、あるいは、
色調が異なる2種以上の液状物を、同時または順に水性媒体に添加し分散させる方法、等の方法を採用すればよい。
【0033】
ゲル化粒状物と水性媒体との重量比(ゲル化粒状物:水性媒体)は、好ましくは10:100〜500:100、より好ましくは20:100〜400:100である。
【0034】
水性媒体中には、上記ゲル状粒状物の他に、粉粒体(f)(以下「(f)成分」ともいう)を分散させることができる。本発明では、水性媒体中に(f)成分を分散させることによって、被覆材の安定性を確保しつつ、意匠性の幅が広がり、アクセント的な意匠性を付与することもできる。
【0035】
(f)成分としては、前述の(c)成分と同様の材質のものが使用でき、自然石、自然石の粉砕物等の天然骨材、及び着色骨材等の人工骨材から選ばれる少なくとも1種以上が使用可能である。(f)成分としては、これらのうち、平均粒子径が200μm以上のものを使用することが望ましく、平均粒子径が200μm以上5000μm以下のものを使用することがより望ましい。また(f)成分には、少なくとも1種以上の有色粉粒体が含まれることが望ましい。
【0036】
(f)成分は、ゲル化粒状物生成時に予め水性媒体中に混合しておいてもよいし、ゲル化粒状物の生成後に水性媒体に混合してもよい。(f)成分と水性媒体との重量比((f)成分:水性媒体)は、好ましくは1:100〜300:100、好ましくは2:100〜250:100、より好ましくは3:100〜200:100である。
【0037】
[被覆方法]
本発明被覆材は、主に建築物、土木構造物等の表面被覆に適用することができる。具体的には、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、合板、煉瓦、プラスチック板、金属板、ガラス、磁器タイル等の各種基材の表面被覆材として使用できる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー、パテ等)が施されたものでもよく、既に被膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。例えば、基材表面の被膜は、本発明被覆材の塗装前に、着色下塗材を塗装することで形成できる。このような着色下塗材は、基材全面に均一に塗装すればよい。これら基材表面は、平坦であっても、凹凸を有するものであってもよい。
【0038】
本発明では、上記基材に対し、上記被覆材を塗装することにより、被膜が形成できる。本発明被覆材は、1回の塗装で美観性の高い模様面を形成することができるため、施工が簡便である。塗装時には、スプレー、ローラー、刷毛等の各種塗装器具が使用できる。本発明被覆材の塗付け量は、好ましくは0.1〜10kg/m
2、より好ましくは0.3〜8kg/m
2である。被膜の乾燥前には、必要に応じ被膜表層をローラー、コテ等で処理し、被膜に凹凸を形成させたり、被膜を平坦化したりすることもできる。塗装後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。
【0039】
本発明被覆材の塗装後、必要に応じ透明被覆材等を塗装することもできる。透明被覆材として、親水性被膜が形成できるものを使用すれば、耐汚染性を高めることもできる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0041】
(液状物の製造)
表1に示す比率にて各原料を均一に混合し、液状物を製造した。なお、液状物の製造においては以下の原料を使用した。
・アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、水50重量%)
・造膜助剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)
・ゲル形成物質(カルボキシメチルセルロース2重量%水溶液)
・粉粒体1:黒色粉粒体(黒色コーティングされた珪砂、平均粒子径70μm)
・粉粒体2:黒色粉粒体(黒色コーティングされた珪砂、平均粒子径90μm)
・粉粒体3:黒色粉粒体(黒色コーティングされた珪砂、平均粒子径120μm)
・粉粒体4:黒色粉粒体(黒色コーティングされた珪砂、平均粒子径160μm)
・粉粒体5:黒色粉粒体(黒色コーティングされた珪砂、平均粒子径300μm)
・粉粒体6:黒色粉粒体(黒色酸化鉄、平均粒子径0.8μm)
・粉粒体7:黒色粉粒体(黒色樹脂ビーズ、平均粒子径8μm)
・粉粒体8:褐色粉粒体(褐色コーティングされた珪砂、平均粒子径70μm)
・粉粒体9:褐色粉粒体(褐色コーティングされた珪砂、平均粒子径90μm)
・粉粒体10:褐色粉粒体(褐色コーティングされた珪砂、平均粒子径120μm)
・粉粒体11:褐色粉粒体(褐色コーティングされた珪砂、平均粒子径160μm)
・粉粒体12:褐色粉粒体(褐色コーティングされた珪砂、平均粒子径300μm)
・粉粒体13:褐色粉粒体(褐色樹脂ビーズ、平均粒子径8μm)
・粉粒体14:黄色粉粒体(黄色酸化鉄、平均粒子径0.5μm)
・粉粒体15:赤色粉粒体(赤色酸化鉄、平均粒子径0.6μm)
・粉粒体16:白色透明粉粒体(寒水石、平均粒子径120μm)
・粘性調整剤(ウレタン系増粘剤)
・消泡剤(シリコーン系消泡剤)
【0042】
【表1】
【0043】
(水性媒体の製造)
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、水50重量%)50重量部に対し、造膜助剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)2重量部、水47重量部、ゲル化剤(硫酸アルミニウム)0.5重量部、消泡剤(シリコーン系消泡剤)0.5重量部を均一に混合することにより、水性媒体1を製造した。
【0044】
(被覆材の製造)
上述の水性媒体1(100重量部)に対し、液状物を100重量部加えて分散することにより、粒径約3〜7mmのゲル化粒状物が分散した被覆材を製造した。各被覆材において使用した液状物は、表2に示す通りである。なお、比較例3では、安定したゲル化粒状物が得られなかった。
【0045】
実施例4については、ゲル化粒状物生成後、水性媒体1(100重量部)に対し、さらに粉粒体3を10重量部混合した。比較例5では、水性媒体1と液状物10より得られた被覆材と、水性媒体1と液状物11より得られた被覆材とを1:1の重量比で混合した。
【0046】
【表2】
【0047】
(試験)
予めシーラーが塗装されたスレート板(150×300mm)に、塗付け量1.5kg/m
2にて被覆材を吹付け、標準状態(気温23℃・相対湿度50%)で7日間乾燥・養生することによって試験板を作製した。得られた試験板の意匠性を目視にて確認した。
【0048】
その結果、実施例1〜6については、粉粒体による立体感、きめ細やかさがあり、自然感豊かな意匠性であった。特に実施例4については、さらに黒色粒のアクセントが付与され、より優れた意匠性であった。
これに対し、比較例1〜2では、粉粒体による立体感やきめ細かさは認められず、また下地が透けた状態であり、意匠性は実施例より劣るものであった。比較例4〜5は、単色の粒状物による模様であり、実施例のような自然感は得られなかった。