(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1に示されるように、スクロール膨張機1を有する発電システム100は、スクロール膨張機1を動力源として発電機101を駆動するシステムである。スクロール膨張機1には、作動媒体供給部102から作動媒体として蒸気Vが供給される。この蒸気Vには、例えば、水蒸気や、ランキンサイクルに用いられる冷媒が挙げられる。スクロール膨張機1は、供給された蒸気Vをその内部において膨張させ、膨張時に生じるエネルギを回転エネルギに変換する。そして、スクロール膨張機1は、駆動軸を介して回転エネルギを発電機101へ伝達する。膨張後の蒸気Vは、スクロール膨張機1の外部へ排出される。排出される蒸気Vの温度は、供給される蒸気Vの温度よりも低い。すなわち、スクロール膨張機1は、供給時における蒸気Vの温度と、排出時における蒸気Vの温度との温度差に対応するエネルギを回転エネルギとして取り出す機械である。
【0015】
スクロール膨張機1は、主要な構成部品として、ハウジング2と、入力駆動軸3と、出力駆動軸4と、駆動スクロール体6と、従動スクロール体7と、ベアリングプレート8と、連動機構9と、を備える。
【0016】
ハウジング2は、一対のケース11,12を有し、その内部に駆動スクロール体6、従動スクロール体7、ベアリングプレート8及び連動機構9を収容する収容空間S1を形成する。ケース11は、入力駆動軸3が挿通される軸穴11aを有する。軸穴11aは、その中心軸線が第1の軸線A1を規定する。ケース11には、入力駆動軸3を回転支持する駆動軸受11bと、ベアリングプレート8を回転支持する従動軸受11cと、が配置されている。駆動軸受11bの中心軸線は、第1の軸線A1と一致する。一方、従動軸受11cの中心軸線は、第2の軸線A2と一致する。第2の軸線A2は、第1の軸線A1に対して距離tだけ偏心した軸線であり、従動軸受11cが嵌め込まれる軸受保持部11fの中心軸線が第2の軸線A2を規定する。ケース11の開口端11dには、作動媒体供給部102とのインターフェースとしてのキャップ13が取り付けられている。また、第1の軸線A1の方向において、駆動軸受11bと開口端11dとの間には、オイルシール14が配置されている。ケース12は、ケース11と略同様の構造を有する。すなわち、ケース12は、軸穴11aを有し、駆動軸受11b及び従動軸受11cが配置されている。また、ケース12には、膨張後の蒸気Vを排出する排出口11eが形成されている。
【0017】
入力駆動軸3は、ケース11の軸穴11aに挿通されている。従って、入力駆動軸3の回転軸線は、第1の軸線A1と一致する。入力駆動軸3の一端は、駆動スクロール体6に取り付けられている。入力駆動軸3には、蒸気Vを導入するための作動媒体導入穴3aが形成されている。作動媒体導入穴3aは、入力駆動軸3の一端から他端まで貫通している。出力駆動軸4は、ケース12の軸穴11aに挿通されている。従って、出力駆動軸4の回転軸線は、第1の軸線A1と一致する。出力駆動軸4の一端は、駆動スクロール体6に取り付けられている。また、出力駆動軸4の他端は、発電機101に連結されている。
【0018】
駆動スクロール体6は、収容空間S1内において第1の軸線A1周りに回転可能に収容されている。駆動スクロール体6は、円盤状をなす一対の駆動端板16と、駆動ラップ17とを有する。一対の駆動端板16は、駆動端板16の外周縁部16cにおいて互いに連結されている。一方の駆動端板16には、外表面16aに入力駆動軸3が取り付けられると共に、蒸気Vを導入するための作動媒体導入穴16bが形成されている。作動媒体導入穴16bは、入力駆動軸3の作動媒体導入穴3aと連通している。また、他方の駆動端板16の外表面16aには、出力駆動軸4が取り付けられている。駆動端板16の内表面16dには、らせん状或いは渦巻き状の形状をなす駆動ラップ17が立設されている。すなわち、駆動ラップ17は一対の駆動端板16の間に配置されている。上述した入力駆動軸3及び出力駆動軸4は、駆動スクロール体6を介して一体化され、これら入力駆動軸3、出力駆動軸4及び駆動スクロール体6は、第1の軸線A1周りに一体となって回転する。
【0019】
従動スクロール体7は、収容空間S1内において第2の軸線A2周りに回転可能に収容されている。従動スクロール体7は、円盤状をなす従動端板18と、らせん状或いは渦巻き状の形状をなす従動ラップ19とを有する。従動端板18は、駆動スクロール体6の駆動端板16の間に配置され、ベアリングプレート8に対して連結されている。従動端板18の両面には、駆動端板16に向かう方向に従動ラップ19が立設されている。これら、駆動端板16、従動端板18、駆動ラップ17及び従動ラップ19は、蒸気Vを膨張させるらせん状或いは渦巻き状の膨張室S2を形成する。
【0020】
ベアリングプレート8は、従動スクロール体7を第2の軸線A2周りに回転可能に保持する。ベアリングプレート8は略円盤状を呈する一対のプレート21を有し、それぞれのプレート21は、第1の軸線A1(又は第2の軸線A2)の方向において駆動端板16とケース11との間にそれぞれ配置されている。すなわち、ベアリングプレート8は、駆動スクロール体6及び従動スクロール体7を挟むように配置されている。一対のプレート21は、その外周縁部において、従動端板18の外周縁部に対して連結されている。プレート21は、第2の軸線A2を回転中心軸とする回転軸部21aを有する。回転軸部21aは、ケース11と対向するプレート21の表面側に形成され、従動軸受11cに嵌合している。従って、ベアリングプレート8と、ベアリングプレート8に連結された従動スクロール体7とは、第2の軸線A2周りに回転する。
【0021】
連動機構9は、駆動スクロール体6と従動スクロール体7とを連動して互いに同期回転させる。連動機構9は、駆動スクロール体6に取り付けられた駆動ピン22と、ベアリングプレート8に取り付けられたガイドリング23とを有する。従って、スクロール膨張機1における駆動ピン22の数は4個(n=4)であり、ガイドリング23の数も4個(m=4)である。
図2に示されるように、スクロール膨張機1は、4個の連動機構9を有する。連動機構9は、第1の軸線A1周りの円周方向に沿って90度間隔に配置されている。入力駆動軸3側に配置された連動機構9と、出力駆動軸4側に配置された連動機構9とは、第1の軸線A1と平行な仮想軸線上に配置されている。
【0022】
図3に示されるように、駆動ピン22の一端側は、駆動スクロール体6の駆動端板16に取り付けられている。また、駆動ピン22の他端側は、ガイドリング23内に配置されている。駆動ピン22は、第1の軸線A1の方向に沿って延在する円柱状のピン部24と、駆動ピン22の一端側に形成されたフランジ部26とを有する。ピン部24とフランジ部26とは一体に形成され、金属材料(例えば、SUS303材)からなる。ピン部24の一端は、駆動端板16の凹部に嵌め込まれている。フランジ部26は、駆動端板16の外表面16aに対して例えばボルトにより固定されている。ピン部24の他端側は、ガイドリング23内に配置されている。
【0023】
ピン部24の他端側における外周面22sは、ガイドリング23の内周面23aと接触する。この外周面22sには、硬質膜27が形成されている。硬質膜27は、ダイヤモンドライクカーボンであり、主に炭化水素或いは炭素の同位体からなるアモルファス(非晶質)である。硬質膜27は、例えば、1μm〜5μmの膜厚を呈する。ダイヤモンドライクカーボン(Diamond‐Like Carbon:DLC)からなる硬質膜27は、駆動ピン22におけるガイドリング23との接触部分に対して潤滑性、耐摩耗性を付与する。硬質膜27は、主成分である炭化水素或いは炭素の同位体の他に、添加材としてその他の成分を含んでいてもよい。硬質膜27の形成には、例えば、プラズマCDV法又はPVD法が用いられる。
【0024】
更に、駆動ピン22には、凝縮液供給穴22aが形成されている。凝縮液供給穴22aは、蒸気V或いは凝縮液をガイドリング23の内部に導いてガイドリング23と駆動ピン22との間に凝縮液を供給する。ここで、蒸気Vが水蒸気である場合には、凝縮液は水である。凝縮液供給穴22aは、ピン部24の一端面から他端面に至る貫通孔である。凝縮液供給穴22aは、駆動端板16に嵌め込まれたピン部24の一端側において、駆動端板16に形成された凝縮液供給穴16eに連通している。従って、膨張室S2とガイドリング23の内部とは、凝縮液供給穴16e及び凝縮液供給穴22aを介して繋がっており、膨張室S2内の蒸気V或いは凝縮液がガイドリング23の内部に導入される。ガイドリング23内には、膨張後の蒸気Vを導入することが好ましい。従って、駆動端板16の凝縮液供給穴16eは、駆動スクロール体6の最外周の駆動ラップ17aと当該駆動ラップ17aに隣接する駆動ラップ17bとの間の空間S2aと連通する位置に設けるとよい。また、凝縮液供給穴16eと連通する凝縮液供給穴22aを有する駆動ピン22も、駆動端板16における同様の位置に取り付けるとよい。具体的には、凝縮液供給穴16eの軸線が駆動ラップ17a,17bの間に配置されるように、駆動ピン22を駆動端板16に取り付ける。
【0025】
ガイドリング23は、駆動スクロール体6と対面するプレート21の内表面21bに取り付けられている。ガイドリング23は、自己潤滑性を有する高分子樹脂材料としてポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)からなる。なお、ガイドリング23は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)であってもよい。ガイドリング23は、円筒状の形状を呈し、リング部28と、リング部28の一端側に形成されたフランジ部29とを有する。リング部28は、プレート21に形成された凹部に嵌め込まれている。フランジ部26は、プレート21に対してボルト固定されている。リング部28は、駆動ピン22が配置されるガイド穴23bを有する。ガイド穴23bは、内周面23aによって画成されている。ガイド穴23bの内径は、駆動ピン22におけるピン部24の外径よりも大きい。リング部28の内周面23aには、駆動ピン22が接触している。この構成は、駆動ピン22の中心軸線に対してガイドリング23の中心軸線を偏心させることにより実現されている。この偏心量は、第1の軸線A1に対する第2の軸線A2の偏心量(距離t:
図1参照)と同じである。
【0026】
図1に示されるように、上記構成を有するスクロール膨張機1には、作動媒体供給部102から蒸気Vがキャップ13を介して供給される。蒸気Vは、キャップ13の貫通穴13a及び入力駆動軸3の作動媒体導入穴3aを介して膨張室S2へ導入される。膨張室S2へ導入された蒸気Vは、駆動ラップ17及び従動ラップ19により形成される空間において膨張しつつ、膨張室S2の中心から外周へ向かって移動する。膨張室S2からハウジング2内に排出された蒸気Vは、排出口11eから排気される。この膨張により、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において旋回運動が生じる。この旋回運動は、ハウジング2から見ると、第1の軸線A1周りにおける駆動スクロール体6の回転運動と、第2の軸線A2周りにおける従動スクロール体7の回転運動と、に見える。従って、駆動スクロール体6に取り付けられた出力駆動軸4が第1の軸線A1周りに回転する。この出力駆動軸4の回転運動は、発電機101に伝達される。
【0027】
このスクロール膨張機1は、駆動ピン22とガイドリング23とにより、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において、相対的な自転運動を規制しつつ、相対的な公転運動を行わせる。この原理に基づくスクロール膨張機1は、シンプルで構成要素が少ないので、製造コストを低減することができる。そして、駆動ピン22とガイドリング23とは、駆動ピン22の外周面22sがガイドリング23の内周面23aに当接して、内周面23a又は外周面22sの接線方向に滑ることにより、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において公転運動を許容する。従って、転動体を含む軸受を用いることなく、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との相対的な運動を規定することが可能である。従って、機械的なエネルギロスの増大を抑制することができる。さらに、駆動ピン22の外周面22sにはダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜27が形成され、ガイドリング23はポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる。これら硬質膜27と、ポリエーテルエーテルケトン樹脂との接触状態によれば、良好な滑り状態が得られる。従って、長期間に亘って低摩耗で安定した旋回動作を実現することができる。さらに、駆動ピン22とガイドリング23との間に凝縮液が存在する場合には、駆動ピン22とガイドリング23との摩擦係数が低減されるので、機械的なエネルギロスが更に低減される。従って、スクロール膨張機1によれば、良好な回転状態を維持することができる。
【0028】
また、駆動ピン22は、蒸気Vが凝縮して形成された凝縮液を駆動ピン22とガイドリング23との間に供給する凝縮液供給穴22aを有する。この凝縮液供給穴22aによれば、膨張室S2における蒸気Vの膨張圧によって、蒸気Vが駆動ピン22の先端側の開口に向かって蒸気V又は凝縮液が強制的に供給されるので、駆動ピン22とガイドリング23との間に凝縮液を強制的に供給することが可能になる。従って、駆動ピン22とガイドリング23との潤滑状態が良好になるので、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との相対的な回転運動に伴う機械的なエネルギロスを低減することができる。そして、安定した凝縮液の供給によれば、必要動力及び動作音を低減することもできる。要するに、スクロール膨張機1では、蒸気化されたガスが膨張によって凝縮され、その凝縮液を潤滑剤として利用している。
【0029】
続いて、本実施形態に係るスクロール膨張機1の動作について詳細に説明する。
図4(a)〜(f)は、連動機構9A〜9Dが公転する様子を示す模式図である。ここで、特定の連動機構9Aに注目する。
図4(a)に示されるように、連動機構9Aの駆動ピン22は、第1の軸線A1を中心とした仮想円C1における接線方向に駆動される。この駆動ピン22の公転に伴う力は、以下の説明において「ピン入力F1」と呼ぶことにする。
【0030】
図4(b)に示されるように、連動機構9Aが反時計回りに30°だけ公転したとする。このときの公転角度αは30°である。この場合も、ピン入力F1の方向は、仮想円C1における接線方向である。また、ピン入力F1の大きさも
図4(a)におけるピン入力F1と同じである。連動機構9Aの位置がどの位置にあるかによらず、ピン入力F1の方向は、仮想円C1における接線方向であり、ピン入力F1の大きさも
図4(a)におけるピン入力F1と同じになる。一方、
図4(b)の状態では、ピン入力F1の垂直方向成分はガイドリング23の内周面23aに向かう方向であるので、駆動ピン22はガイドリング23に押圧される。このピン入力F1の垂直方向成分は、以下の説明において「ガイドリングへの作用力F2」と呼ぶことにする。
【0031】
図4(c)に示されるように、連動機構9Aが
図4(b)の状態から更に反時計回りに60°だけ公転したとする。そうすると、連動機構9Aは、初期位置から90°だけ公転した位置にある。このときの公転角度αは90°である。
図4(c)の状態では、仮想円C1における接線方向が垂直方向と一致する。従って、ガイドリングへの作用力F2は、ピン入力F1の大きさと等しくなる。
【0032】
図4(d)に示されるように、連動機構9Aが
図4(c)の状態から更に反時計回りに60°公転したとする。そうすると、連動機構9Aは、初期位置から150°だけ公転した位置にある。このときの公転角度αは150°である。
図4(d)の状態では、ピン入力F1の垂直方向成分がガイドリングへの作用力F2としてガイドリング23に作用する。このときのガイドリングへの作用力F2は、
図4(c)におけるガイドリングへの作用力F2よりも小さい。
【0033】
図4(e)に示されるように、連動機構9Aが
図4(d)の状態から更に反時計回りに30°公転したとする。そうすると、連動機構9Aは、初期位置から180°だけ公転した位置にある。
図4(e)の状態では、ピン入力F1の方向が水平になる。従って、垂直方向成分がゼロになるので、ガイドリングへの作用力F2はゼロである。
【0034】
図4(f)に示されるように、連動機構9Aが
図4(e)の状態から更に反時計回りに30°公転したとする。そうすると、連動機構9Aは、初期位置から210°だけ公転した位置にある。このときの公転角度αは210°である。
図4(f)の状態では、ピン入力F1の垂直方向成分F2は、鉛直上向きである。従って、駆動ピン22がガイドリング23に押し付けられることはない。
図4(f)における状態は、連動機構9Aが再び
図4(a)の位置に戻るまで継続する。
【0035】
上述したピン入力F1について、
図5を参照しつつ説明する。
図5(a)は、公転角度αと、ガイドリングへの作用力F2との関係を示す。縦軸は、力の大きさを示す。グラフG5aは、連動機構9Aにおけるガイドリングへの作用力F2の変化を示す。グラフG5aに注目すると、公転角度αが0°である場合のガイドリングへの作用力F2の大きさはゼロであり、公転角度αが90°に近づくにつれて大きくなり、公転角度αが90°の時に最大値になる。その後、公転角度αが90°から180°までの間にガイドリングへの作用力F2の大きさが小さくなり、公転角度αが180°のときにゼロになる。以後、公転角度αが180°から360°の間では、ガイドリングへの作用力F2はマイナスになる。
【0036】
グラフG5bは、連動機構9B(
図4参照)におけるガイドリングへの作用力F2の変化を示す。連動機構9Bは、連動機構9Aに対して90°離間した位置に配置されているので、ガイドリングへの作用力F2の変化もグラフG5aに対して90°だけ位相がずれる。グラフG5cは、連動機構9C(
図4参照)におけるガイドリングへの作用力F2の変化を示す。連動機構9Cは、連動機構9Aに対して180°離間した位置に配置されているので、ガイドリングへの作用力F2の変化もグラフG5aに対して180°だけ位相がずれる。グラフG5dは、連動機構9D(
図4参照)におけるガイドリングへの作用力F2の変化を示す。連動機構9Dは、連動機構9Aに対して270°離間した位置に配置されているので、ガイドリングへの作用力F2の変化もグラフG5aに対して270°だけ位相がずれる。なお、グラフG5eは、ガイドリングへの作用力F2を足し合わせた合計作用力を示す。
【0037】
図5(a)に示されるように、本実施形態のスクロール膨張機1では、連動機構9Aの公転角度αを基準として、0°、90°、180°及び270°である場合除き、連動機構9A〜9Dのうちの少なくとも2個において、ガイドリングへの作用力F2が発生している。換言すると、駆動スクロール体6及び従動スクロール体7の間の旋回運動において、駆動スクロール体6は、少なくとも2組の駆動ピン22及びガイドリング23により支持されるともいえる。
【0038】
スクロール膨張機1では、駆動ピン22が第1の軸線A1周りに公転している。この駆動ピン22の一端は、ガイドリング23内へ配置されているので、駆動ピン22は、ガイドリング23の内周面23aを押圧しながら第1の軸線A1周りに公転する。この公転に伴う力は、常に、第1の軸線A1を中心とした円の接線方向を向く。ガイドリング23が設けられたプレート21の回転に伴い、駆動ピン22からガイドリング23へ作用する力の方向は変化する。このガイドリング23へ作用する力は、ピン入力F1の垂直方向成分であることもある。一方、ピン入力F1の方向は、駆動ピン22の公転位置によって変化する。例えば、ピン入力F1の垂直方向成分が下向きである場合には、ガイドリング23に力が作用する。これに対して、ピン入力の垂直方向成分が上向きである場合には、ガイドリング23に力が作用しない。ここで、駆動ピン22及びガイドリング23は、90°間隔で4個配置されている。そうすると、ガイドリングへの作用力F2が垂直下向きになる駆動ピン22及びガイドリング23の組み合わせが少なくとも2個存在する。駆動スクロール体6及び従動スクロール体7の旋回運動において、駆動スクロール体6は、少なくとも2組の駆動ピン22及びガイドリング23により支持される。従って、本実施形態の一形態に係るスクロール膨張機1によれば、駆動スクロール体6の支持力の受け渡しが円滑になり、変動が抑制されるので、良好な回転状態を維持することができる。
【0039】
また、スクロール膨張機1では、駆動ピン22とガイドリング23との滑りによって公転運動を許容している。駆動ピン22とガイドリング23を有する連動機構9においては、個々の部品が有する寸法誤差や、組み立て時において生じ得る組立て誤差に起因する複数の連動機構9間における僅かながたつきが生じることもあり得る。この駆動ピン22は硬質膜27を有し、この硬質膜27が樹脂製のガイドリング23の内周面23aに接触している。このような構成によれば、駆動ピン22とガイドリング23との摩擦によって、ガイドリング23の内周面が摩耗する。従って、連動機構9間における僅かながたつきが解消され、駆動スクロール体6と従動スクロール体7の間の旋回運動を一層滑らかにすることができる。
【0040】
図5(b)は、公転角度αと入力モーメントとの関係を示す。入力モーメントとは、第1の軸線A1からガイドリングへの作用力F2が入力される位置までの距離(作用距離)と、ガイドリングへの作用力F2の大きさとに基づく。換言すると、作用距離は、駆動ピン22が設置されている駆動端板16の中心からの距離であるとも言える。駆動ピン22は仮想円C1上に配置されている。一方、ガイドリング23は第2の軸線A2を中心とした仮想円C2に配置されている。このような配置によれば、入力モーメントは周期的に変化する。例えば、グラフG5fは連動機構9Aの入力モーメントを示す。また、グラフG5g〜G5iは、それぞれ連動機構9B〜9Dの入力モーメントを示す。また、グラフG5jは、入力モーメントを足し合わせた合計入力モーメントを示す。ここで、駆動ピン22及びガイドリング23の数が偶数であるので、ガイドリングへの作用力F2が垂直下向きになる領域に存在する連動機構9の数は、公転角度αによらず一定(2個)である。この配置によれば、グラフG5jに示されるように、作用距離が周期的に変化することによる入力モーメントの周期的変動が抑制される。従って、合計入力モーメントは、公転角度αによらず一定である。
【0041】
なお、厳密に言えば、作用距離は、一回転する間において周期的に変化する。駆動スクロール体6及び従動スクロール体7の間における位置関係や力関係は、選択した基準によって見かけの変化が異なる。例えば、
図4〜
図8は、駆動ピン22が設置されている駆動端板16の中心(即ち第1の軸線A1)を回転運動の基準とした図である。一方、ガイドリング23が設置されているプレート21の中心(即ち第2の軸線A2)を回転運動の基準とした場合には、
図4〜
図8とは異なる様子を示す。
【0042】
ところで、
図4(b)等に示されるように、ピン入力F1は、垂直方向成分であるガイドリングへの作用力F2と、水平方向成分である分力F3とに分解できる。駆動ラップ17と従動ラップ19との間に隙間が存在しない(いわゆるリークゼロ)という条件下において、駆動スクロール体6と従動スクロール体7とが互いに旋回している場合には、駆動ピン22とガイドリング23との接点に対して分力F3は水平成分となるため考慮する必要はない。駆動ラップ17と従動ラップ19との間に隙間が存在しないとした条件は、理想的な条件である。実環境に近い状態では、駆動ラップ17と従動ラップ19との間に隙間が存在する。この場合には、分力F3は水平成分とはならないため考慮する必要がある。
【0043】
図5(c)は、公転角度αと分力F3との関係を示す。グラフG5kは連動機構9Aの分力F3を示す。また、グラフG5m〜G5oは、それぞれ連動機構9B〜9Dの分力F3を示す。それぞれのグラフG5k〜G5nの間における位相差は、連動機構9A〜9Dの配置角度に対応している。また、グラフG5pは、分力F3を足し合わせた合計分力を示す。例えば、グラフG5kに示されるように、公転角度αがゼロ(α=0)であるとき、分力F3はピン入力F1と大きさが一致する。公転角度αが90°(α=90°)であるとき、分力F3の大きさはゼロである。公転角度αが180°(α=180°)であるとき、分力F3はピン入力F1と大きさが一致する。このときの分力F3の方向は、公転角度αがゼロ(α=0°)のときの方向とは逆である。
【0044】
図5(d)は、公転角度αと分力F3に基づく分力モーメントとの関係を示す。分力モーメントとは、第1の軸線A1から分力F3が入力される位置までの距離と、分力F3の大きさとに基づく。グラフG5gは連動機構9Aの分力モーメントを示す。また、グラフG5r〜G5tは、それぞれ連動機構9B〜連動機構9Dの分力モーメントを示す。それぞれのグラフG5g〜グラフG5tの間における位相差は、連動機構9A〜9Dの配置角度に対応している。また、グラフG5uは、分力モーメントを足し合わせた合計分力モーメントを示す。グラフG5uに示されるように、入力モーメント(
図5(b)のグラフG5j)と同様に、合計分力モーメントも、公転角度αによらず一定である。従って、分力F3を考慮すべき条件下においても、4個(偶数個)の連動機構9A〜9Dを有するスクロール膨張機1によれば、合計分力モーメントの変動が抑制され、良好な回転状態を維持することができる。
【0045】
ここで、比較例に係るスクロール膨張機の動作を示しつつ、本実施形態に係るスクロール膨張機1の効果について更に説明する。比較例に係るスクロール膨張機は、3個の連動機構9を備える点で、本実施形態に係るスクロール膨張機1と相違する。比較例に係るスクロール膨張機では、連動機構9が第1の軸線A1周りの円周方向に沿って120度間隔に配置されている。なお、比較例のスクロール膨張機におけるその他の構成、及び、連動機構9単体の構成は、本実施形態に係るスクロール膨張機1と同じである。以下、4個の連動機構9を有するスクロール膨張機1と、3個の連動機構9を有するスクロール膨張機との動作上の相違点に注目して説明する。
【0046】
図8(a)は、比較例のスクロール膨張機における公転角度αと、ガイドリングへの作用力F2との関係を示す。グラフG8a,G8b,G8cは、3個の連動機構9のそれぞれに対応する。また、グラフG8dは、合計作用力を示す。ここで、公転角度αが60°〜120°である角度領域Lでは、グラフG8aに対応する連動機構9のみにおいてガイドリングへの作用力F2が発生している。
【0047】
すなわち、3個の連動機構9を有するスクロール膨張機は、駆動スクロール体6が1組の駆動ピン22及びガイドリング23により支持される期間を有する。一方、4個の連動機構9を有するスクロール膨張機1は、少なくとも2個の連動機構9によって支持されている。すなわち、4個の連動機構9を有するスクロール膨張機1は、少なくとも2組の駆動ピン22及びガイドリング23により支持されている。従って、駆動スクロール体6の支持力の受け渡しが円滑になり、良好な回転状態を維持できることがわかる。また、比較例の合計作用力(
図8(a)のグラフG8d)と、本実施形態の合計作用力(
図5(a)のグラフG5e)と、を比較すると、全体的に本実施形態の合計作用力が大きい。これは、1個あたりの連動機構9において、比較例の構成よりも本実施形態の構成における負荷が低減することを示している。従って、本実施形態のスクロール膨張機1によれば、連動機構9の設計自由度を向上させることができる。
【0048】
図8(b)は、比較例のスクロール膨張機における公転角度αと、入力モーメントとの関係を示す。グラフG8e,G8f,G8gは、3個の連動機構9のそれぞれに対応する。また、グラフG8hは、合計入力モーメントを示す。ここで、合計入力モーメント(グラフG8h)に注目する。比較例の合計入力モーメントは、公転角度αによって変動している。一方、本実施形態の合計入力モーメント(
図5(b)のグラフG5j)は、公転角度αによらず一定である。従って、本実施形態のスクロール膨張機1によれば、公転角度αによる合計入力モーメントの変動が抑制されるので、良好な回転状態を維持することができることがわかる
【0049】
図8(c)は、比較例のスクロール膨張機における公転角度αと、分力F3との関係を示す。
図8(d)は、比較例のスクロール膨張機における公転角度αと、分力F3に基づく分力モーメントとの関係を示す。
図8(c)のグラフG8i,G8j,G8k及び
図8(d)のグラフG8n,G8o,G8pは、3個の連動機構9のそれぞれに対応する。
図8(c)のグラフG8m及び
図8(d)のグラフG8qは、合計分力モーメントを示す。ここで、合計分力モーメント(
図8(d)のグラフG8q)に注目する。比較例の合計分力モーメントは、公転角度αによって変動している。これは、比較例のスクロール膨張機における連動機構9の数が奇数であるため、ガイドリング23を押圧する駆動ピン22の数が、一回転する間に1本又は2本というように変化するためであると考えられる。一方、本実施形態の合計分力モーメント(
図5(d)のグラフG5u)は、公転角度αによらず一定である。従って、本実施形態のスクロール膨張機1によれば、公転角度αによる合計分力モーメントの変動が抑制されるので、良好な回転状態を維持することができることがわかる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0051】
<変形例1>
例えば、スクロール膨張機は、駆動ピン22及びガイドリング23からなる連動機構9を5個備えていてもよい。この場合、連動機構9は、第1の軸線A1を中心として72°間隔で配置される。
図6(a)は、5個の連動機構9を備えたスクロール膨張機(以下、「変形例1のスクロール膨張機」ともいう)における、公転角度αとガイドリングへの作用力F2との関係を示す。グラフG6a〜G6eのそれぞれは、5個の連動機構9に対応している。グラフG6fは、合計作用力を示す。各連動機構9に対応するガイドリングへの作用力F2(グラフG6a〜G6e)に注目すると、公転角度αが0°から360°までの間において、少なくとも2個の連動機構9により支持されていることがわかる。例えば、公転角度αが90°のときには、グラフG6aに対応する連動機構9と、グラフG6bに対応する連動機構9と、グラフG6eに対応する連動機構9と、の3個の連動機構9により支持されている。従って、いずれの公転角度αにおいても、2個又は3個の連動機構9が支持に関与しており、支持に関与する連動機構9が瞬間的に1個になる場合は存在しない。従って、より良好な回転状態を維持することができることがわかる。また、合計作用力(
図6(a)のグラフG6f)に注目すると、上記実施形態の合計作用力(
図5(a)のグラフG5e)と比較して、全体的に大きくなっている。従って、1個あたりの連動機構における、負荷を更に低減することができる。
【0052】
図6(b)は、変形例1のスクロール膨張機における、公転角度αと入力モーメントとの関係を示す。
図6(c)は、変形例1のスクロール膨張機における、公転角度αと分力F3との関係を示す。
図6(d)は、変形例1のスクロール膨張機における、公転角度αと分力モーメントとの関係を示す。各図において、グラフG6h〜G6m、グラフG6o〜G6s、及びグラフG6u〜G6yのそれぞれは、5個の連動機構9に対応している。また、
図6(b)のグラフG6n、
図6(c)のグラフG6t及び
図6(d)のグラフG6zは、5個の連動機構9のそれぞれにおける分力モーメントを足し合わせた合計分力モーメントを示す。合計入力モーメント(
図6(b)のグラフG6n)及び合計分力モーメント(
図6(d)のグラフG6z)に注目すると、公転角度αに対応して合計入力モーメント及び合計分力モーメントが周期的に変化していることがわかる。
【0053】
<変形例2>
例えば、スクロール膨張機は、駆動ピン22及びガイドリング23からなる連動機構9を6個備えていてもよい。この場合、連動機構9は、第1の軸線A1を中心として60°間隔で配置される。
図7(a)は、6個の連動機構9を備えたスクロール膨張機(以下、「変形例2のスクロール膨張機」ともいう)における、公転角度αと入力モーメントとの関係を示す。
図7(b)は、変形例2のスクロール膨張機における、公転角度αと分力モーメントとの関係を示す。各図において、グラフG7a〜G7f及びグラフG7h〜G7nのそれぞれは、6個の連動機構9に対応している。また、
図7(a)のグラフG7gは、合計入力モーメントを示す。
図6(b)のグラフG7oは、合計分力モーメントを示す。合計入力モーメント(
図7(a)のグラフG7g)及び合計分力モーメント(
図7(b)のグラフG7o)に注目すると、公転角度αによらず大きさが一定である。また、変形例2のスクロール膨張機は、変形例1のスクロール膨張機と同様に、公転角度αが0°から360°までの間において、少なくとも2個の連動機構9により支持されている。従って、いずれの公転角度αにおいても、2個又は3個の連動機構9が支持に関与しており、支持に関与する連動機構9が瞬間的に1個になる場合は存在しない。従って、より良好な回転状態を維持することができることがわかる。
【0054】
<変形例3>
また、例えば、上記実施形態では、スクロール流体機械の具体例としてスクロール膨張機を例示した。本発明の一形態に係るスクロール流体機械は、スクロール膨張機に限定されることはなく、例えば、スクロール圧縮機やスクロール真空ポンプ等であってもよい。