(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441674
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】水性液体飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20181210BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20181210BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20181210BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20181210BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20181210BHJP
【FI】
A23L2/00 F
A23L2/00 E
A23L2/00 G
A23L2/00 J
A23L29/20
A23L33/17
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-509183(P2014-509183)
(86)(22)【出願日】2013年4月3日
(86)【国際出願番号】JP2013060173
(87)【国際公開番号】WO2013151084
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2016年3月16日
【審判番号】不服2017-14645(P2017-14645/J1)
【審判請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-85093(P2012-85093)
(32)【優先日】2012年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂本 隆史
【合議体】
【審判長】
田村 嘉章
【審判官】
槙原 進
【審判官】
窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−147444(JP,A)
【文献】
特開2001−61444(JP,A)
【文献】
特表2005−514342(JP,A)
【文献】
特開平3−94655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 2/84
A61P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LMペクチン、デキストリン、及び、アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質の1種又は2種以上を配合した水性液体飲料であり、
LMペクチンの配合量が2〜3.5質量%であり、
デキストリンの配合量がLMペクチン1質量部に対して1〜100質量部であり、
アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質の1種又は2種以上の配合量がLMペクチン1質量部に対して0.02〜1.5質量部であり、
pHが3.5〜7.0であり、かつ、
前記タンパク質がプロティナーゼインヒビターを含有するジャガイモ抽出物である、
ことを特徴とする水性液体飲料。
【請求項2】
前記アミノ酸がグリシン又はアルギニンである請求項1に記載の水性液体飲料。
【請求項3】
前記ペプチドが酵母ペプチド又はコラーゲンペプチドである請求項1に記載の水性液体飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性の液体飲料に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用されうる。
【背景技術】
【0002】
肥満はメタボリックシンドロームに至る深刻な社会問題である。肥満を予防するための有効な手段としては、食事摂取量を制限してのダイエットが挙げられるが、これによって生じる空腹感のため、長続きしないというのが実状であった。そこで、空腹感を解消するために、香料又は香料化合物を主成分とする空腹感緩和剤(特許文献1参照)、シリアル食品(特許文献2参照)、可食性リンタンパクと金属の炭酸塩(特許文献3参照)などが提供されている。
【0003】
そうした空腹感を改善するための方法の1つとして、寒天を用い、胃液に一定時間浸された後の寒天のゲル強度を向上させる方法(特許文献4参照)が報告されている。しかしながら、固いゲルを咀嚼して飲みこむ必要があるため、実用性が高いとは言いがたい。また、ゲル化剤を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献5参照)も報告されているが、ゲルの強度が低く、空腹感を長時間抑制するには至っていない。更に、アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド、タンパク質などの栄養成分を同時配合するとゲル強度が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7427号公報
【特許文献2】特開2007−53929号公報
【特許文献3】特開2010−94085号公報
【特許文献4】特開2008−110923号公報
【特許文献5】特表2009−530254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、飲む前は普通の水性液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中に滞留して腹持ちがよいという性質を有し、更にアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合した水性液体飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、デキストリンを同時配合したLMペクチン配合水性液体飲料は、人工胃液(日局第1液)と反応してゲル化し、アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合することによって低下したゲル強度がかなりの程度で回復することを見いだした。
【0007】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)LMペクチン、デキストリン、及びアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合したことを特徴とする水性液体飲料。
(2)アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質の配合量がLMペクチンの1質量部に対して1.5質量部以下である前記(1)の水性液体飲料。
(3)アミノ酸がグリシン又はアルギニンである前記(1)又は(2)の水性液体飲料。
(4)ペプチドが酵母ペプチド又はコラーゲンペプチドである前記(1)又は(2)の水性液体飲料。
(5)タンパク質がプロティナーゼインヒビターである前記(1)又は(2)の水性液体飲料。
(6)pHが3.5〜7.0である前記(1)〜(5)の何れかの水性液体飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、胃酸と反応してゲル化し、そのゲル強度が高いため、空腹感を解消した状態を長時間維持させることができると考えられる、アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合した水性液体飲料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「ペクチン」とはα−1,4−結合したポリガラクツロン酸が主成分の水溶性多糖類であり、リンゴや柑橘類から抽出される。本発明のペクチンは、リンゴ由来、柑橘類由来の何れのものであってもよいが、ペクチンの構成糖であってフリーの酸若しくはメチルエステルとして存在するガラクツロン酸がメチルエステルであるものの比率が50%未満の「LMペクチン」であることが必要である。因みに、メチルエステルの比率が50%以上のペクチンをHMペクチンというが、酸性域では可溶性固形分が55%以上でないとゲル化しないため、本発明には適さない。
【0010】
LMペクチンの配合量は、水性液体飲料中0.01〜10質量%であり、服用性及び胃中でのゲルの強度という点から、0.1〜3.5質量%がより好ましい。
【0011】
「デキストリン」は、デンプンを酸や酵素で加水分解して製造され、数個のブドウ糖が結合したものである。本発明では、通常のデキストリンの他に難消化性デキストリンを用いることもできる。難消化性デキストリンは、人の消化酵素で加水分解されない難消化性、難吸収性の低カロリー水溶性食物繊維である。
【0012】
デキストリンの配合量は、LMペクチン1質量部に対して0.1〜300質量部であり、1〜100質量部が好ましい。
【0013】
「アミノ酸」としては、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン、セリン、チロシン、トリプトファン、トレオニン、バリン、プロリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、ロイシン、リジンが挙げられるが、グリシン、アルギニンが好ましい。
【0014】
「タウリン」は、アミノエチルスルホン酸又は2−アミノエタンスルホン酸とも呼ばれ、化学合成により生産される他、牛胆汁、貝類、イカ、タコなど様々な動物から抽出物としても生産されるが、本発明ではどちらも用いることができる。
【0015】
「カルニチン」は、γ-トリメチル-β-ヒドロキシブチロベタインとも呼ばれる。「カルニチン」としては、L−カルニチン、DL−カルニチン、及びそれらの塩(塩酸塩、硝酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩など)やそれらの類縁化合物(アセチルカルニチン、プロピオニルカルニチンなどのアシルカルニチンなど)などが挙げられ、その中でもL−カルニチンが好ましい。 「ペプチド」としては、酵母ペプチド、コラーゲンペプチド、ミルクペプチド、卵白ペプチド、サーデンペプチド、グルタミンペプチド、グロビンペプチドなどが挙げられ、その中でも酵母ペプチド又はコラーゲンペプチドが好ましい。
【0016】
「タンパク質」としては、大豆タンパク質、ミルクタンパク質、小麦タンパク質、米糠タンパク質抽出物、プロティナーゼインヒビターなどが挙げられ、その中でもプロティナーゼインヒビターが好ましい。プロティナーゼインヒビターはジャガイモからの抽出物に多く含まれることが知られている。
【0017】
アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質は1種又は2種以上配合することができ、その配合量は、LMペクチン1質量部に対して0.01〜1.5質量部であり、0.02〜1.5質量部が好ましい。この配合割合において、飲む前は普通の水性液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中に滞留して腹持ちがよいという性質を有し、更にアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド、タンパク質を配合しても十分なゲル強度が担保された水性液体飲料を提供することができる。
【0018】
本発明の水性液体飲料のpHは、LMペクチンがpH3.5未満でゲル化することから3.5〜7.0が好ましく、水性液体飲料の製造のし易さという点から、3.9〜7.0がより好ましい。
【0019】
本発明の水性液体飲料のpHを上記範囲に保つために、必要に応じて有機酸等のpH調整剤を配合することができる。
【0020】
また、その他の成分として、ビタミン類、ミネラル類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。更に必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0021】
本発明の水性液体飲料は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。例えば、各成分を秤量し適量の精製水に溶解した後、pHを調整し、更に精製水を加えて容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理を施すことにより調製することができる。
【0022】
本発明の水性液体飲料は、清涼飲料水、機能性飲料の他、ドリンク剤、シロップ等の医薬品及び医薬部外品、茶飲料、スポーツドリンク等の食品領域における各種飲料として提供することができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明する。
【0024】
[実施例及び比較例]
精製水にクエン酸水和物及び安息香酸ナトリウムを添加し、更に、アミノ酸(グリシン;比較例3,実施例1、L−アルギニン塩酸塩;比較例5,実施例3)、タウリン(比較例4,10,11、実施例2,8〜11)、L−カルニチン(比較例9,実施例7)、ペプチド(酵母ペプチド;比較例6,実施例4、コラーゲンペプチド;比較例7,実施例5)又はタンパク質(プロティナーゼインヒビターを含有するジャガイモ抽出物;比較例8,実施例6)を添加し溶解させて、塩酸・水酸化ナトリウムでpHを3.5(最終pH3.9の場合)、4.5(最終pH4.5、7.0の場合)に調整した。該溶液を80℃に加温し、LMペクチンを溶解させ、該溶液に更にデキストリン(比較例2,実施例1〜11)、精製水を加えて全量100mLとし、水酸化ナトリウムでpHを3.9、4.5または7.0に調整した。各試験液をガラスビンに充填後殺菌し、表1〜8に示す実施例1〜11並びに比較例1〜11の飲料を得た。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
[試験例1] ゲル強度の測定
ゲル強度(破断強度)は下記の方法で測定した。
【0030】
50mLビーカーに12.5mLの実施例1〜11並びに比較例1〜11で調製した飲料のサンプルを入れ、12.5mLの日局1液(日本薬局方崩壊試験法第1液)を壁面に沿って静かに滴下した。なお、日局1液は、胃液に相当する酸性溶液(pHは1.2)である。室温で1時間放置後、レオメーターにてゲル強度(破断強度)を測定した。
【0031】
使用機器:FUDOH
レオメーター(レオテック製 型式:RT−2100NJ−CW)
使用アダプタ:粘弾性太丸棒φ20mm
試験モード:破断試験
測定レンジ:20N
テーブル速度:1cm/min
3回の測定結果の平均値を表5〜8に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
【表8】
【0036】
比較例3〜9のようにLMペクチン及びアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合した場合は比較例1(LMペクチンを配合し、アミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合していない)に比し、ゲル強度(破断強度)が著しく低下した。一方、実施例1〜7のようにLMペクチン及びアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド又はタンパク質を配合した場合に更にデキストリンを同時配合することによって比較例3〜9に比し、ゲル強度(破断強度)が増大することがわかった。
【0037】
実施例8及び9のようにタウリンを配合しpH3.9〜7.0とすることで比較例10及び11に比し、ゲル強度(破断強度)が顕著に増加した。
【0038】
実施例10及び11のようにLMペクチン1質量部に対して、タウリン1.5質量部を配合してもデキストリンを配合することで比較例4に比し、ゲル強度(破断強度)が顕著に増加した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、飲む前は普通の水性液体飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中に滞留して腹持ちがよいという性質を有し、更にアミノ酸、タウリン、カルニチン、ペプチド、タンパク質を配合した水性液体飲料を提供することが可能となった。よって、本発明を肥満予防のためのダイエットを志向した医薬品、医薬部外品及び食品として提供することにより、これらの産業の発達が期待される。