【文献】
Marja Pitkanen et al.,Nanofibrillar cellulose - Assessment of cytotoxic and genotoxic properties in vitro,TAPPI, International Conference on Nanotechnology for the Forest Products Industry, September 27-29,
【文献】
Applied and Environmental Microbiology,2009年,75(13),4616-4619
【文献】
Applied Microbiology and Biotechnology,2007年,Vol.75,p.1015-1022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、フィブリルセルロースとともに及びフィブリルセルロースなしでのインキュベーション開始時(0時間)及び一晩インキュベーション後のバチルス・セレウス(Bacillus cereus)の細胞数をグラフで示す。
【
図2】
図2は、異なるマトリックスでの純粋培養物由来のバチルス・セレウス生菌数(コロニー形成単位/ml)をグラフで示す。
【
図3】
図3は、PCRアッセイのバチルス・セレウス計数結果を示す。
【
図4】
図4は、1%天然セルロースナノファイバーヒドロゲルを通った、異なる分子量のデキストラン(20kDa、70kDa及び250kDa)の拡散を示す。
【
図5】
図5は、0.5%の水溶性ポリマー(ポリアクリルアミド(5000kDa)及びCMC(250kDa))溶液と比較した、0.5%のフィブリルセルロースヒドロゲルの粘度を、適用した剪断応力の関数として示す。
【
図6】
図6は、0.5%のポリアクリルアミド及びCMCと比較した、0.5%のCNFヒドロゲルの粘度を、測定された剪断速度(shear rate)の関数として示す。様々な物理的プロセスの典型的な剪断速度の領域を図では矢印で記す。
【
図7】
図7は、針内を流れる、細胞を含んだフィブリルセルロースヒドロゲルを図式的(schematic presentation)に示す。剪断速度が高い領域(低い粘度)は、ゲル−針の境界面に位置し、剪断速度が低い領域(非常に高い粘度)は、針の中央に位置する。
【
図8】
図8は、0.5%の天然フィブリルセルロースヒドロゲル(上列)、及び0.5%のアニオン性フィブリルセルロースヒドロゲル(下列)における、2つの礫(gravel)懸濁液の17日間の安定性を示す。礫は、平均粒径1〜2mm及び2〜3mmを有するCEN Standard sand(EN196−1)であった。試料は室温で保管した。
【0025】
定義
特記のない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される用語は、微生物学及び巨大分子の分野で一般に使用される意味を有する。具体的には、以下の用語は、下記の意味を有する。
【0026】
用語「培地」又は「増殖培地」又は「培養培地」とは、本明細書においては、任意の細菌が増殖するために必要な栄養環境をいう。生化学的(栄養)環境は、培養培地として利用される。培養培地は、細菌の純粋培養物の単離及び維持に用いられ、また生化学的及び生理学的特性に従った、細菌の同定にも使用される。
【0027】
用語「炭素源」とは、増殖及び発育のために微生物により炭素に代謝される有機化合物、及び炭素源として使用される無機化合物(CO
2)をいう。前記化合物は、主要な(primary)炭素源とも言われる。
【0028】
用語「窒素源」とは、増殖及び発育のために微生物により窒素に代謝される化合物、及び窒素源として使用される無機化合物(アミノ酸など)をいう。
【0029】
用語「リン源」とは、増殖及び発育のために微生物によりリンに代謝される化合物、及びリン源として使用される無機化合物(リン鉱石など)をいう。
【0030】
用語「ミネラル源」とは、増殖及び発育のために微生物によりミネラルに代謝される化合物、及びミネラル源として使用される元素又は無機化合物をいう。ミネラル源には、少なくとも元素Na、K、Mg、Ca、Cl及びSが含まれる。
【0031】
用語「微量元素源」とは、増殖及び発育のために微生物によりミネラルに代謝される化合物、及びミネラル源として使用される元素又は無機化合物をいう。ミネラル源には、少なくとも元素Cr、Mn、Fe、Se、I、Co、Ni、Cu、Zn及びMoが含まれる。
【0032】
用語「バイオリーチング」又は「バイオヒープリーチング」とは、本明細書においては、銅、金、亜鉛、コバルト、ニッケル及びウラン等の金属を含有する鉱石中の不溶性金属化合物を水溶性金属化合物へと変換するために細菌を利用するバイオ酸化プロセスを意味しており、これは、元素金属へとさらに変換できる。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「フィブリルセルロース」とは、すべてのミクロフィブリル化セルロース(MFC)及びナノセルロースを包含すると理解される。さらに、フィブリルセルロースには、広く使用されている類義語が他にいくつかある。例:セルロースナノファイバー、ナノフィブリル化セルロース(nanofibrillated cellulose)(CNF)、ナノフィブリルセルロース(nanofibrillar cellulose)(NFC)、ナノスケールフィブリル化セルロース、ミクロフィブリルセルロース、又はセルロースミクロフィブリル。
【0034】
さらに、特定の微生物によって生産されるフィブリルセルロースにも様々な類義語があり、例えば、細菌セルロース(BC)、微生物セルロース(MC)、バイオセルロース、ナタデココ(NDC)又はココデナタ(coco de nata(CDN))などである。
【0035】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源とともにフィブリルセルロースを含む組成物が、グラム陽性菌の微生物培養に特に適していることが発見された。細菌細胞は該組成物上又は該組成物中で分裂し、増殖し始め、細胞クラスターが自然に成長し始める。組成物がヒドロゲルの形態である場合には、細菌細胞は、細胞培養プラットフォームの底部に細胞が堆積することなく、その中で分裂する。細胞は、植物由来のフィブリルセルロースを含む培養培地において、均質に分裂する。フィブリルセルロースにおける細胞の均質な分裂は、該材料が、特に3D微生物培養培地として機能するための必要条件である。
【0036】
フィブリルセルロースは、グラム陽性菌の増殖を顕著に高める。グラム陽性菌の培養に必要な環境において、グラム陽性菌を培養するために、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源とともにフィブリルセルロースを使用した場合に、明らかな相乗効果が認められた。
【0037】
ヒドロゲル構造によって、細菌は、発酵容器等の容器の底部に沈殿(sedimentation)又は堆積することなく、ゲルマトリックスにおいて均一に増殖かつ分裂することが可能となる。ヒドロゲルはまた、組成物又は発酵培地中に含まれる栄養物、基質及び任意のその他の成分を安定化することができ、起こり得るその沈殿を防ぐ。ヒドロゲルの特性は、粘性を増加又は低下させる必要性に応じて、フィブリルセルロースの適切なグレードを選択することにより、あるいはヒドロゲル中のフィブリルセルロースの量を変えることにより調整されてよい。
【0038】
上記の特徴は、小規模培養、及び発酵容器内でのより大規模な培養において有益であり、特にフィブリルセルロースヒドロゲルが、固体鉱物/石の基質が沈殿するのを防ぐことによって、細菌にとって最適な増殖環境を提供する大規模なバイオリーチングプロセスにおいて有益である。増殖培地は、高い均質性を維持し、バイオリーチングプロセスは、高い安定性及びより容易な制御可能性を維持する。
【0039】
従って、本発明は、2D又は3D微生物培養としてグラム陽性菌を培養するための手段であって、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源と組み合わせてフィブリルセルロースを含む組成物を使用する手段を提供する。
【0040】
フィブリルセルロースは、任意の非動物性セルロース原料から得られる。
【0041】
用語「セルロース原料」とは、セルロースパルプ、精製パルプ及びフィブリルセルロースの生産に使用できる、任意のセルロース原料源をいう。
【0042】
セルロース原料は、セルロースを含む任意の植物材料、又は任意の微生物セルロースに基づいてよい。
【0043】
植物材料は木であってよく、該木は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスモミ若しくはツガ等の軟木由来、若しくはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ若しくはアカシア等の堅木由来、又は軟木及び堅木の混合物由来であり得る。非木質材料は、農業残留物、草又は他の植物性物質、例えば、わら、葉、樹皮、種子、殻、花、野菜又は果実であって、綿、トウモロコシ、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、米、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、竹又は葦に由来するものであり得る。
【0044】
セルロース原料はまた、細菌発酵プロセス等から、セルロースを生産する微生物由来であってもよい。微生物は、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はアルカリゲネス(Alcaligenes)属、好ましくはアセトバクター(Acetobacter)属、より好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)種又はアセトバクター・パスツリアナス(Acetobacter pasteurianus)種であり得る。
【0045】
用語「セルロースパルプ」とは、化学的、機械的、熱機械的又は化学−熱機械的パルピングプロセスを用いて、任意のセルロース原料から分離したセルロースファイバーをいう。
【0046】
植物由来、特に木のパルプ(軟木又は堅木パルプ、例えば、カバノキのさらしパルプ(bleached birch pulp))であり得るセルロースパルプであって、セルロース分子が上記方法の1つで酸化されるものは、フィブリルセルロースに分解しやすい。
【0047】
用語「フィブリルセルロース」とは、セルロース原料に由来する、分離したセルロースミクロフィブリル(ナノファイバー)又はミクロフィブリル束の集合体をいう。ミクロフィブリルは、通常、高いアスペクト比を有する:長さは1マイクロメートルを超えるが、数平均直径は通常1000nm未満であり、特に1〜200nmである。ミクロフィブリル束の直径も、より大きくなり得るが、一般的には1μm未満である。最小のミクロフィブリルは、通常、直径2〜12nmである、いわゆるエレメンタリーフィブリル(elementary fibril)に近い。フィブリル又はフィブリル束の寸法は、原料及び分解方法によって決まる。
【0048】
フィブリルセルロースは、非常に高い保水値、高度な化学的アクセシビリティ(chemical accessibility)、及び水又は他の極性溶媒において安定したゲルを形成する能力を特徴とする。フィブリルセルロース産物は、通常、高度にフィブリル化したセルロースの密なネットワークである。フィブリルセルロースはまた、いくらかのヘミセルロースを含有してもよい;その量は、植物源によって決まる。
【0049】
フィブリルセルロースを得るために、セルロースパルプ、酸化セルロース原料又は微生物セルロースの機械的分解が、精製機、グラインダー、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦グラインダー、超音波発生装置、フリューダイザー、例えば、マイクロフリューダイザー、マクロフリューダイザー又はフリューダイザー型ホモジナイザー等の適切な装置で行われる。好ましくは、フィブリルセルロースは、機械的に分解された生産物である。
【0050】
複数の異なるグレードのフィブリルセルロースが、様々な生産技術を用いて開発されている。該グレードは、製造方法、フィブリル化の程度及び化学組成に応じて、異なる特性を有する。該グレードの化学組成もまた様々である。原料源、例えば、堅木(HW)対軟木(SW)パルプによって、異なる多糖類組成が、最終的なフィブリルセルロース産物に存在する。通常、非イオン性又は天然又は中性(neutral)グレードが、より幅広いフィブリル直径を有する一方、化学的に改質(chemically modified)したグレードは、はるかに細い。サイズ分布もまた、改質グレードについては、より狭い。
【0051】
用語「フィブリルセルロース」とは、本明細書においては、フィブリルセルロースの1つのグレード、又はフィブリルセルロースの2つ以上の異なるグレードの組み合わせをいう。例えば、ゲルの特性を変化させるために、フィブリルセルロースの改質したグレードを天然グレードと混合してよい。
【0052】
好適には、植物由来の天然フィブリルセルロースが、好ましくは水性ゲルとして使用される。
【0053】
フィブリルセルロースは、本明細書においては、任意のセルロース原料から得られるセルロース、フィブリルセルロース又はナノファイバー束のいずれの化学的又は物理的に改質された誘導体をも包含するものと理解される。化学的改質は、例えば、セルロース分子のカルボキシルメチル化、酸化(TEMPO酸化)、エステル化又はエーテル化反応に基づいてよい。改質はまた、アニオン性、カチオン性若しくは非イオン性物質又はこれらの任意の組み合わせを、セルロース表面上に物理的に吸着させることによって実施されてもよい。既記の改質は、フィブリルセルロース製造の前、後又はその最中に実施できる。特定の改質により、人体で分解可能な材料がもたらされてよい。改質したグレードは、通常、さらしパルプから調製される。改質したグレードでは、ヘミセルロースもセルロース領域とともに改質される。改質は均質でない、すなわち、ある部分が他の部分よりも改質されている可能性が非常に高い。従って、詳細な化学分析は不可能である−改質した生産物は、常に、異なる多糖構造の複雑な混合物である。
【0054】
化学的に改質したグレード、例えば、アニオン性及びカチオン性グレード等は、通常、それらの表面電荷が改質されており、好適には、乾燥粉末又は水性ゲルとして使用されてよい。適切なフィブリルセルロース、又は異なるフィブリルセルロースの組み合わせが選択及び設計されてよい。
【0055】
フィブリルセルロースの乾燥粉末は、当分野で公知の任意の常法を用いて、前記フィブリルセルロースを含む懸濁液又は分散液を噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥することにより都合よく製造されてよい。
【0056】
フィブリルセルロースゲル又はヒドロゲルとは、本明細書においては、フィブリルセルロースの水性分散液をいう。フィブリルセルロースは優れたゲル化能を有し、つまり、これは、水性媒体において、低コンシステンシーですでにヒドロゲルを形成することをいう。
【0057】
好適には、セルロースパルプ等のセルロース原料は、機械的分解の前に、酸と塩基とで前処理される。前処理は、+1を超える電荷を有するいかなる正電荷イオンも取り除くために、セルロースパルプを酸処理、好ましくは塩酸での酸処理に供し、それに続いて、+1の電荷を有する正電荷イオンを含む無機塩基、好ましくはNa
+イオンが先のイオンに置き換わるNaOHで処理することによりなされる。+1を超える電荷を有するいかなる正電荷イオンも存在しないことは、ライフサイエンス及び分子生物学での利用に特に有利であり、その場合、+1を超える電荷を有するイオンとDNAとの複合体の形成を回避することができる。前処理により、最終生産物に優れたゲル化特性及び透明性がもたらされる。前処理したセルロース原料から得られるフィブリルセルロースは、本明細書において、イオン交換フィブリルセルロースと称す。
【0058】
多くの場合、フィブリルセルロースの微生物純粋性(microbial purity)が必須である。従って、フィブリルセルロースは、使用前に、好適にはゲルの形態で、滅菌されてよい。加えて、フィブリル化等の機械的分解の前及び最中には、生産物の微生物汚染を最小にすることが重要である。フィブリル化/機械的分解に先立って、パルプが未だ無菌であるさらし段階の直後に、パルプミルからセルロースパルプを無菌で回収することが有利である。
【0059】
フィブリルセルロースヒドロゲルは、通常、低濃度で高い降伏応力及び高いゼロ剪断粘度を有する。従って、実施例6に示されるように、ヒドロゲルは、固形粒子を沈殿に対して効果的に安定化させる。同じ物理的特徴は、フィブリルセルロースヒドロゲルから上昇する、ゲル中に形成し得る気泡も防ぐ。しかしながら、気泡の浮力は、ゲル上部の気圧を低下させる(例えば、15mmHg)ことによって、容易に増加させることができ、これにより、ヒドロゲル相中の気体の溶解度が低下し、当初の気泡の容積がそれぞれ増大する。増大した気泡は、上方の気体相へと容易に逃げだすが、培養された微生物はゲル相に残る。この圧力サイクルは、形成される気体状の生成物を集めるために、所望に応じて反復してもよい。
【0060】
好適には、任意のグレードのフィブリルセルロース又はその組み合わせが使用されてよく、好ましくは天然(非イオン性又は中性)グレードが使用され、特に好ましくは、フィブリルセルロースは、イオン交換した天然フィブリルセルロースである。
【0061】
栄養源は、培養されるそれぞれのグラム陽性菌に特有の要求に従って選択される。特にバイオリーチングプロセスにおいて、栄養源は、銅 亜鉛、ニッケル、コバルト等の有価金属を提供するための、粉砕した金属鉱石から選択される基質を含む。
【0062】
任意選択で、グラム陽性微生物の微生物培養で一般に使用される、当業者に周知の更なる添加物を組成物中に含めてよい。
【0063】
フィブリルセルロースは、好適には、ヒドロゲル、フィルム、メンブレン又はプレートとして使用される。ヒドロゲルは、乾燥粉末を元に戻すことにより得てもよい。フィルム、プレート又はメンブレンは、使用前に、これを水と接触させることにより元に戻してもよい。特に、アニオン性及びカチオン性グレード等の改質したグレードは、乾燥生産物として、例えば、粉末、乾燥又は半乾燥したフィルム、シート又はメンブレンとして、またヒドロゲルとして、提供されてよい。天然及び非イオン性グレードは、好ましくは、ヒドロゲルとして提供される。
【0064】
組成物は、すぐに使えるヒドロゲルとして提供されてよく、これは、予め滅菌されて、滅菌パッケージで包装されてよく、あるいはヒドロゲルとして、例えば、アプリケーター、容器又はシリンジに包装されてよく、これはゲルの適用に使用できる。
【0065】
組成物はまた、湿潤又は半乾燥又は乾燥したフィルム又はプレート状の構造又はメンブレンの形態であってもよく、これは滅菌されてよい。プレート、フィルム又はメンブレンは、所望の構造を得るために、例えば、溶液流延法、真空プレス、真空濾過、押し出し又はコーティング法と、それに続く任意選択での乾燥により作製されてよい。プレートは、2D微生物培養マトリックスとして使用されてよく、あるいは細菌接種材料を、フィブリルセルロースから形成される軟質ヒドロゲルと混合し、それに続いて、プレート又はメンブレンの得られた混合物を広げてよい。
【0066】
フィブリルセルロースの数平均フィブリル直径(number average fibril diameter)は、好適には、1〜200nmであり、一実施態様において、天然グレードの数平均フィブリル直径は、1〜100nmであり、化学的に改質したグレードでは、1〜20nmである。
【0067】
組成物は、0.05〜80wt%のフィブリルセルロースを含む。組成物がヒドロゲルである場合には、0.05〜5wt%、好適には0.1〜3wt%のフィブリルセルロースを含んでよい。プレート又はフィルムなどの乾燥した組成物は、水で湿らせる前には、より多い量、通常、最大でおよそ95wt%のフィブリルセルロースを含んでよい。
【0068】
好適には、組成物は、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む栄養源を、0.05〜80wt%、一実施態様では0.1〜50wt%、特に0.1〜40wt%含む。高い栄養源とは、特に、金属鉱石基質が栄養源に含まれるバイオリーチングプロセスをいう。
【0069】
組成物は、任意選択で、細菌培養で使用される1以上の添加物を含んでよい。前記添加物のいくつかの例は、当分野で通常知られる増殖因子、無機塩、抗生物質などである。
【0070】
組成物は、
− フィブリルセルロースと、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源とを提供する工程と、
− 前記フィブリルセルロースを、水と、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源と、任意選択で添加物(optional additives)と混合して、混合物(組成物)を得る工程
を含む方法で得ることができる。
【0071】
組成物中のフィブリルセルロースの量は0.05〜80wt%であり、ヒドロゲルである場合には、組成物中のフィブリルセルロースは0.05〜5wt%であり、好適には0.1〜3wt%である。栄養源の量は、0.05〜80wt%、好適には0.1〜50wt%、特に0.1〜40wt%である。
【0072】
前記混合物は、ヒドロゲルなどとして使用されてよく、水及び/又は添加物を含む発酵培地中に組み込まれてよく、あるいはフィルム、メンブレン又はプレートに形成されて、任意選択で乾燥されてよく、これらのいずれかは、任意選択で滅菌されてもよい。プレート、フィルム又はメンブレンは、例えば、溶液流延法、真空プレス、真空濾過、押し出し又はコーティング法と、それに続く任意選択での乾燥などにより、混合物から作製されてよい。
【0073】
前記組成物は、好適には、グラム陽性菌接種材料と接触させてよく、かつ前記グラム陽性菌の培養のための環境に移されるか、又は置かれてよい。
【0074】
本発明はまた、前記組成物と、生きたグラム陽性菌細胞とを含む二次元(2D)又は三次元(3D)マトリックスも提供する。好ましくは、微生物培養のための3Dマトリックスにおいては、ヒドロゲル形態の組成物を使用する。
【0075】
グラム陽性菌の微生物培養のためのマトリックスにおけるフィブリルセルロースの使用方法は、
− 生きたグラム陽性菌細胞を提供する工程と、
− フィブリルセルロースと、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源と、水と、任意選択で添加物とを含む前記組成物を提供する工程と、
− 前記細菌細胞を該組成物中及び/又は該組成物上に組み込んで、二次元又は三次元的な配置を提供する工程
とを含む。
【0076】
細菌細胞は、グラム陽性菌を培養するのに適した環境中、二次元的及び/又は三次元的な配置にて、前記組成物中で培養されてよい。
【0077】
一実施態様によれば、細菌は、好気性グラム陽性菌である。
【0078】
グラム陽性菌を培養するための方法は、
− 生きたグラム陽性菌細胞を提供する工程と、
− フィブリルセルロースと、少なくとも1つの炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのミネラル源及び少なくとも1つの微量元素源を含む少なくとも1つの栄養源と、水と、任意選択で添加物とを含む前記組成物と、該細胞を接触させて、マトリックスを形成する工程と、
− グラム陽性菌を培養するための環境において、二次元又は三次元的な配置にて、前記マトリックス中で該細胞を培養する工程
とを含む。
【0079】
前記組成物は、グラム陽性菌の微生物培養及び発酵プロセスにおいて、効果的な増殖促進添加物のようにも振る舞う。従って、本発明は、グラム陽性菌の増殖を促進するための手段も提供する。
【0080】
前記培養又は発酵プロセスは、バッチ操作又は連続操作されてよく、小規模又はより大きな産業規模、例えば発酵プロセスや、非常に大規模、例えばバイオリーチングプロセスなどで実施されてよい。
【0081】
前記マトリックスは、前記細菌の貯蔵及び移送のために、並びに発酵プロセスにおける固定化マトリックスとして、使用されてもよい。
【0082】
グラム陽性菌の増殖は、前記細菌を栄養源とフィブリルセルロースの存在下で培養する場合に、非常に効果的に高められる。特に、相乗効果が認められ、これは、バチルス・セレウスをフィブリルセルロースとともに、及びフィブリルセルロースなしで培養した実施例でも見ることができる。フィブリルセルロース単独では、十分な炭素源を提供せず、他方、従来の増殖培地のみの存在下における前記細菌の増殖は、十分な増殖をもたらさないが、フィブリルセルロースを好ましくはヒドロゲルの形態で増殖培地(栄養源)に添加した場合には、生存細胞数で少なくとも5倍もの改善を達成することができる。
【0083】
組成物は、すぐに使えるヒドロゲルであってよく、これは、滅菌されて、例えば生化学的応用やDNA精製などに適した、真空パックプレートなどの滅菌パッケージで包装されてよく、あるいはヒドロゲルとして、例えばシリンジなどに包装されてよく、これは、ゲルの適用に使用できる。
【0084】
3D構造は、特にグラム陽性菌に適した増殖条件下で微生物増殖を改善するようであり、相乗効果をもたらす。3D構造は、自由な分子の拡散、十分な支持体を提供する一方、十分な柔軟性ももたらす。拡散は実施例4で強調する。
【0085】
微生物細胞及び栄養源は、フィブリルセルロースファイバーによってもたらされる機械的支持のため、連続したヒドロゲル相へと均質に懸濁される。実施例6で見られるように、著しく高い降伏応力により、微生物細胞及び増殖した細胞クラスターが沈殿に対して安定化される。沈殿、及び様々な濃度の個々の成分を有する層の形成に関する問題は、回避することができるか、あるいは少なくともかなりの程度まで低下させることができる。これにより、前記栄養の持続放出又は制御放出を提供するために、限られた溶解度の栄養源を使用することが可能となる。
【0086】
組成物は、好適には、工業用酵素、スターターカルチャー等が生産される大規模な液体又は半液体(semi−liquid)発酵プロセスにおいて、またバイオリーチングプロセス、特にバイオヒープにおいても使用されてよい。
【0087】
フィブリルセルロースヒドロゲルは、特に3D培養に対してほぼ最適な特性、例えば、透明、非毒性、高い粘性、高い懸濁力、高い保水性、良好な機械的接着性、非動物性、塩や温度又はpHに対して非感受性、非分解性、非自己蛍光、シリンジによる注入性、及びポンプ送りによる移送性などをもたらす。フィブリルセルロースは、材料の化学構造により、無視できるほどの蛍光バックグラウンドしか有さない。さらに、前記ヒドロゲルは、細胞に対して非毒性である。
【0088】
組成物及びマトリックスは、微生物の貯蔵及び移送に、並びに微生物の発酵及び微生物の集積(enrichment)のための固定化マトリックスにも特に適しており、潜在的な検出又は計数上の問題のリスクが全くない。
【0089】
微生物の定量化及び計数は、通常、微生物を破砕して、そのDNAを取り出した後、該DNAを特異的オリゴヌクレオチドプライマー、熱安定性のDNAポリメラーゼ及び適切なサーマルサイクラーを使って定量化するリアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術を用いて行われているので、培養培地は、PCR反応を妨害又は阻害して微生物定量化の信頼性を損なわせる材料を含まないことが必須である。植物由来のフィブリルセルロースを含む本発明の培養培地は、PCR検出、又はPCRに基づく微生物計数と相互作用せず、又はこれを阻害しない。
【0090】
フィブリルセルロースは、不活性であり、蛍光バックグラウンドを生じず、分析を妨害しない。植物由来のフィブリルセルロースを含む培養培地又はマトリックスは、注入可能である。これによって、切り取りなどの機械的処置を使用する必要なく、材料を非常に容易に移動することが可能になる。注入性は、植物由来のフィブリルセルロースに固有のレオロジー特性で説明される。細胞が、ヒドロゲル又はマトリックス内で安定を保ち、注入後、ヒドロゲル又はマトリックス中で均質に分布するように、注入を行うことができる。
【0091】
さらに、フィブリルセルロースは、容易な接種、良好な増殖特性、単純な検出及び複雑でないコロニー単離を可能にする。
【0092】
少量又は単一コロニーは、マトリックスから容易にピックアップし、代謝特性化を施す(expose)ことができる。
【0093】
より大きな産業規模で、微生物は、液体成分及び固体成分を含む培養培地並びに本発明の組成物中、発酵容器又はバイオリーチヒープで培養できる。ヒドロゲルは、例えば、バイオリーチングプロセスでは固体基質などを含む栄養分と微生物とを安定化することができる。
【0094】
実施例
以下の実施例は、上述の本発明の実施態様を例証するものであり、これらは、決して本発明を限定することを意味しない。
【0095】
材料及び方法
a)フィブリルセルロース試料。
高度に精製されたカバノキさらしパルプを高圧ホモジナイゼーション(5回の連続サイクル)し、それに続いてオートクレーブ滅菌することにより、天然フィブリルセルロースを生産した。流動化後、フィブリルセルロースは、低濃度のヒドロゲル(1.8wt%)であった。イオン交換した天然フィブリルセルロースは、同様の方法で得たが、高い原子価の陽イオンを取り除くために、フィブリル化の前にさらに酸−塩基処理(先のセクションに記載した方法)に供した。高圧ホモジナイゼーション(15回の連続サイクル)後、イオン交換したフィブリルセルロースは、他の試料と比較して低い濁度を有する、強固なヒドロゲルを形成する。必要に応じて、フィブリルセルロースをオートクレーブ滅菌した。透明なアニオン性フィブリルセルロースは、化学的に改質したセルロースパルプ(TEMPO酸化セルロースパルプ)の同様のホモジナイゼーションプロセスにより、ヒドロゲル(0.9wt%)として得た。
【0096】
b)微生物株及び培養。
全実験において、好気性グラム陽性バチルス・セレウスの新鮮な一晩培養物を接種に使用した。接種培養物は、フィブリルセルロースを含まなかった。微生物の培養を最適な条件及び増殖培地トリプティックソイブロス(tryptic soy broth(TBS))で行った。
【0097】
c)微生物の検出。
微生物の増殖は、コロニー形成が顕著になった際に可視的に検出した。プレーティング法による従来の細菌細胞数決定法を適用した。
【0098】
d)メンブレン。
フィブリルセルロースメンブレンは、0.2wt%の天然フィブリルセルロース水性分散液を真空濾過することにより調製した。濾過後、湿ったメンブレンをオーブン中、55℃、48時間、重りの下で乾燥させた。乾燥フィルムは、坪量70〜80g/m
2で、滑らかで不透明であった。
【0099】
実施例1:細菌の唯一のエネルギー源としてのフィブリルセルロース
フィブリルセルロースの製造プロセスは、微生物汚染のリスクを増大させる工程を含み得る。従って、植物由来の天然フィブリルセルロースが、唯一のエネルギー源として微生物の増殖をサポートする能力についてこれを試験した。
図1では、植物由来のフィブリルセルロースに微生物汚染源(B.セレウス)を暴露(challenged with)した。フィブリルセルロースでのインキュベーション開始時(0時間)及び一晩インキュベーション後を、細菌を有さないコントロールとともにグラフで示す。参照細菌細胞をフィブリルセルロースで一晩インキュベートし、細菌細胞数をカウントした。さらに、汚染の程度は高く、10
6〜10
7細胞/ml超であった(細胞数の大まかな推定値は、16S遺伝子数を10で除することによって算出できる)。結果は、B.セレウス株が、フィブリルセルロースで全く増殖しなかったことを明確に示す。一方で、いずれの微生物接種も行っていないコントロールが、PCR分析で高い値を示しており、これは、死滅微生物のそれ以前の汚染に起因し得るか、あるいは、セルロースフィブリルによってもたらされたアーチファクト(artefact)であり得る。唯一のエネルギー源としてのフィブリルセルロースは、微生物の増殖を効果的にサポートしない。
【0100】
実施例2:バチルス・セレウスの増殖に対するフィブリルセルロースの効果
固体支持体に細菌が付着すると、その増殖率が高まることがいくつかの株で知られている。通常、固体支持体は、フィブリルセルロースヒドロゲルを含むマトリックスのような三次元的なものではなく(instead of)、寒天プレート表面のような二次元的なものである。従って、バチルス・セレウス株が、フィブリルセルロースを含む、及び含まない、通常の最適な培養培地で増殖する能力について試験した。
【0101】
生菌数又は定量PCRのいずれかで測定したB.セレウス株で非常に良好な結果が得られた。
【0102】
B.セレウスの純粋培養物を、1.5wt%の天然フィブリルセルロースの存在下及び非存在下にて、トリプティックソイブロス(TSB)培地で一晩増殖させた実験の結果を下記表1に列記する。フィブリルセルロースのみでは、顕著な増殖を生じない、すなわち、B.セレウスに対して十分な炭素源を提供しないことが明らかである。しかしながら、フィブリルセルロースを補充したTSBは、TSB単独の場合と比較して、5倍も高い生存細胞数をもたらす。これは、増殖培地中の植物由来フィブリルセルロースが、微生物の収量を改善し、増殖率を高めることを示す。異なるマトリックスでの純粋培養物由来のバチルス・セレウス生菌数(コロニー形成単位/ml)を示した、
図2で示すような生存細胞数の測定に代えて、qPCR検出を用いて同様の試験(trial)を実施した。これにより先の発見が検証され、フィブリルセルロース存在下でさらに高い収量(対数単位の差を超える)がもたらされる。三次元構造は、特にグラム+細菌で最適な増殖条件下、微生物増殖を改善するようであり、相乗効果をもたらす。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例3:フィブリルセルロース担体からの微生物の計数
バチルス・セレウス細菌を、2つの異なる培養培地(1つは1.5wt%の植物由来の天然フィブリルセルロースを含み、もう1つは含まない)で培養した。本実験ではPCRに基づく計数を使用し、フィブリルセルロースの、PCR検出との相互作用の好例が得られた。
【0105】
実験で使用した増殖培地は、標準的なトリプシンソイブロスであり、製造者の指示に従って調製し、滅菌のためにオートクレーブした。培養培地は、オートクレーブの前に2つの部分に分け、そのうちの1つに1.5重量%のフィブリルセルロースを加えた。B.セレウスの少量の接種材料を37℃で一晩増殖させて、密な微生物培養物とし、これを両方の培養培地の接種に使用し、約千倍希釈を接種に使用した。両方の試験培養培地を、接種後0時間及び24時間にてサンプリングした。0.1mlの各培養試料をPCRに基づく微生物計数に使用した。計数方法は、Ruminolyzeプロトコルに基づいており、微生物試料を最初に洗浄バッファーに希釈し、遠心分離(10分間、18000×g)によって微生物細胞をペレット化した。酵素的及び機械的の両方により微生物細胞を溶解して、それらのDNA内容物を取り出すために、上清を捨て、ペレットを酵素溶解バッファーに懸濁した後、ガラスビーズで強く攪拌(beaten)した。取り出したDNAを、フェノールクロロホルム抽出で精製し、次いで、エタノールで沈殿し、最後に、DNA保存バッファーに溶解した。B.セレウス計数は、2つのB.セレウス選択的DNAプライマー、及びSybergreen Iケミストリを用いて実施した。結果を
図3に示す。
【0106】
従って、トリプティックソイブロス(TSB)及びフィブリルセルロース(fc)を含む培養培地における、インキュベーション開始時(0時間)及び一晩インキュベーション後のバチルス・セレウス細胞数を定量PCRにより分析した。この実験により、少数のB.セレウス細胞(約10
5細胞/ml)がフィブリルセルロースの存在下で検出できることが示される。これは、フィブリルセルロースが、PCRアッセイの感度に対し何の影響も及ぼさないことを示す。さらに、24時間の試料は、0時間の試料よりも高い細胞数を示す。これは、PCRのダイナミックレンジが、フィブリルセルロースの存在により妨げられず、最大スピードで作動させる場合、言い換えれば、多量の鋳型DNAが存在する場合でも、フィブリルセルロースはPCR反応を妨害しないことを意味する。
図3は、フィブリルセルロースの存在下、0時間及び24時間の両方のサンプリングポイントで、より多くの細胞がカウントされることも示す。これは、フィブリルセルロースが、DNAの単離を助け、B.セレウス計数のために、より高いDNA収量をもたらすことを示唆する。これはまた、フィブリルセルロースがPCRプロトコルを改善さえすることも示唆する。
【0107】
実施例4:フィブリルセルロースヒドロゲルによるデキストランの拡散
細胞培養材料の拡散特性についての詳細な知見は重要である。細胞培養材料は、培養細胞に栄養物及び酸素を拡散させるために、また、細胞からの代謝物の効果的な拡散を可能にするために、十分に多孔性でなければならない。異なる分子量のデキストランを用いて、以下の方法で、フィブリルセルロースヒドロゲルの拡散特性を実証した:
【0108】
Transwell(商標)フィルターウェルプレート(フィルター孔径0.4μm)の頂端部のコンパートメント(apical compartment)に、フィルターあたり、400μlのアニオン性(酸化)又は天然のフィブリルセルロース(1%)を置いた(plant)。1mlのPBSを基底側(basolateral side)に添加し、100μl(25μg)の蛍光標識デキストランをヒドロゲルの上部に添加した(MW:20k、70k及び250k)。プレートをしっかりと固定し、ウェルプレートロッカー上に静置した。100μlの試料を基底側から採取し、等量をPBSで置き換えた。最初の試料は、15分間隔で採取し、他の試料は、30分〜2時間の範囲の異なる時点で採取し、最後の試料は24時間で採取した。全部で168の試料を採取した。それぞれ励起波長490nm、発光波長520nmで、標的プレート(OptiPlate(商標)−96F)を測定した。
【0109】
1%の天然セルロースナノファイバーゲルを通った、異なる分子量のデキストランの拡散を
図4に示す。モデル化合物の拡散は、一定の速度で起こり、化合物の分子量(サイズ)に大きく依存する。フィブリルセルロースヒドロゲルにおいては、そのゲル構造は細胞懸濁液を安定化させるのに十分なほど硬いが、分子は効果的に拡散可能であることが明らかである。
【0110】
実施例5:フィブリルセルロースヒドロゲルの流動性
フィブリルセルロースヒドロゲルのレオロジー流動性は、細胞培養での使用に有益ないくつかの特徴を示す。ヒドロゲルは、最適な細胞懸濁能のために低剪断(又は静止)では高い粘度を有するが、より高い剪断速度では剪断減粘挙動も示し、容易な分配及び注入を可能にする。フィブリルセルロース分散液の粘度を、幅広い剪断応力(速度)の範囲にわたって回転レオメーター(AR−G2、TA Instruments、UK)にて測定する試験シリーズで、これらの種類のレオロジー特性をもたらすフィブリルセルロースの能力を実証した。
【0111】
フィブリルセルロース分散液は、
図5に示すように、他の水溶性のポリマーよりもはるかに高いゼロ剪断粘度(小さい剪断応力で粘度が一定な領域)を示す。フィブリルセルロースのゼロ剪断粘度は、出発材料の先行する化学的前処理によって生じる、より小さなナノフィブリル直径によって大幅に高まる。剪断減粘挙動が始まる応力(「降伏応力」)も、フィブリルセルロース分散液では著しく高い。材料の懸濁能が良好であるほど、降伏応力は高まる。細胞は、高いゼロ剪断粘度、高い降伏応力及び高い貯蔵弾性率の組み合わせ効果によって、沈殿に対して効果的に安定化される。細胞によって加わる重力は、降伏応力よりもはるかに弱い。従って、懸濁細胞は、フィブリルセルロースと混合する場合には、ゲルマトリックス内部で「停止(frozen)」し、あるいはゲル上部に付着(deposited)する場合には、ゲル上で「停止(frozen)」する。
【0112】
図6には、測定した剪断速度の関数として粘度を示す。この
図6から、フィブリルセルロース分散液の粘度は、比較的低い剪断速度で低下し、約200s−1の剪断速度にて参照材料で測定された粘度と同様のレベルに達することが明白である。
【0113】
フィブリルセルロースのネットワーク構造は、剪断すると崩壊する(
図6)。一定の応力を加えると、該システムの粘度は劇的に低下し、固体状から液状挙動への遷移が起こる。この種の挙動は、適度な機械的剪断によって、細胞をフィブリルセルロース懸濁液へと均質に混合することが可能になるため有益である。凝集フィブリルセルロース分散液などの二相の液体が剪断されると(例えば、レオメーター内又はチューブ内で)、分散相は、固体の境界から遠ざかるように移動する傾向があり、それによって、容器の壁に、より低粘度の液体層の形成が生じる(
図7)。この現象は、流れ抵抗、すなわち粘度が、分散液の大部分よりも境界でより低いことを意味する。シリンジ及び針、又はピペットによるフィブリルセルロースヒドロゲルの注入は、それぞれ、高濃度(1〜4%)でさえ容易である。この現象はまた、細胞の障害を最小限にとどめて、細胞懸濁液を容易に分注することを可能にしており、すなわち、大部分の細胞は、針の中央部に位置し、実質的に停止している(
図7)。
【0114】
実施例6:安定性
フィブリルセルロースの非常に希薄な分散液でさえ、低剪断速度で非常に高い粘度を有する。ヒドロゲル構造はまた、注入等の剪断が止まると、元の状態に戻る。静止状態で、フィブリルセルロースは、高い弾性係数と極めて高い降伏応力とを有するヒドロゲルネットワークを形成する。これらの特性のため、フィブリルセルロースは、非常に低い濃度でも、非常に高い固形粒子懸濁力を有する。
【0115】
静止状態での懸濁能は、礫(gravel)懸濁液で実証される。天然フィブリルセルロース及びアニオン性フィブリルセルロースの0.5%分散液は、2〜3mmサイズの礫粒子でさえ非常に長い期間安定化できる(
図8参照)。アニオン性フィブリルセルロースは、天然フィブリルセルロースよりも低い濃度で粒子懸濁液を安定化できることに留意すべきである。
【0116】
本発明は、本発明を実施するのに現在好ましい形態を含めて、特定の実施例について記載されているが、当業者は、上述の実施態様には、本発明の精神及び範囲内で、多くの変形及び順序があることを理解するであろう。本発明が、その適用において、本明細書に記載の成分の配置及び構成の詳細に限定されないことが、理解されるべきである。上記の変形及び変更は、本発明の範囲内にある。