(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の流体用整流部材について説明する。
【0022】
前記課題を解決するための本発明の流体用整流部材は、中心軸を包囲する筒状部を有する流体用整流部材であって、前記筒状部は、内層のセラミック繊維層と最表層のセラミック繊維層とからなる支持材と、前記支持材を覆うセラミックマトリックスと、からなり、前記セラミック繊維層を複数の単位セラミック繊維を束ねたストランドで構成するとともに、前記単位セラミック繊維の断面積が、先記最表層のセラミック繊維層に近いほど小さい。
【0023】
流体用整流部材は、中心軸を包囲する筒状部を有する。筒状部は、内層のセラミック繊維層と最表層のセラミック繊維層とからなる支持材と、支持材を覆うセラミックマトリックスとを有する。
セラミック繊維層は、複数の単位セラミック繊維を束ねたストランドで構成されており、単位セラミック繊維は、最表層のセラミック繊維層に近いほどその断面積が小さい。このため、最表層のセラミック繊維層に近いほどストランドを断面積が小さい単位セラミック繊維で形成するので、最表層のストランドを高密度で形成して強度を確保することができる。
【0024】
これにより、流体に近接して最も破損しやすい最表層のセラミック繊維層を断面積が小さい単位セラミック繊維で形成するので、ストランドが変形しても単位セラミック繊維が折れにくく、全体として破損しにくい流体用整流部材を提供できる。
また、最表層のセラミック繊維層に絞って断面積が小さい単位セラミック繊維を用い、最表層以外のセラミック繊維層では、最表層の単位セラミック繊維よりも断面積が大きい単位セラミック繊維を用いることができるので、過度の重量化を抑制できる。
なお、流体の流れとは、流体用整流部材に対して相対的に流体が移動する場合をいい、流体用整流部材に対して流体が流れる場合および流体中を流体用整流部材が移動する場合を含む。
【0025】
さらに、本発明の流体用整流部材は、以下の態様であることが望ましい。
(1)前記単位セラミック繊維は、前記最表層のセラミック繊維層において最も高密度である。
本発明の流体用整流部材は、最表層のセラミック繊維層において単位セラミック繊維が最も高密度であるので、最表層のストランドを高密度で形成して強度を確保することができる。
なお、単位セラミック繊維が高密度であるとは、同一断面積の中に断面積が小さい単位セラミック繊維を多数本入れることで単位セラミック繊維の軸線間寸法を小さくして密集させることにより達成できる。
【0026】
(2)前記最表層のセラミック繊維層を構成する前記ストランドと、前記中心軸を含む平面と、のなす角度が80度〜90度である。
このため、本発明の流体用整流部材は、中心軸を含む平面と最表層のセラミック繊維層を構成するストランドとのなす角度が80度〜90度であると、ストランドに沿って気流がスムーズに流れることができる。
また、ストランドの断面積の大小に起因する凹凸は、1/sin20度倍(2.92倍)以上に中心軸方向に引き伸ばされるので、流体の乱れを小さくでき、抵抗を小さくできる。これにより、最表層のセラミック繊維層の強度を一層増すことができる。
【0027】
(3)前記筒状部の、前記中心軸に沿った両端部が開口している。
本発明の流体用整流部材は、筒状部の中心軸に沿った両端部が開口しているので、筒状部の外周面および内周面に沿って流体をスムーズに流すことができる。このため、本発明の流体用整流部材は、内部に流体を流す配管や、流体内を移動する飛翔体、推進体などとして使用することができる。
【0028】
(4)前記筒状部の、前記中心軸に沿った両端部の少なくとも一方に蓋部を有し閉口している。
本発明の流体用整流部材は、筒状部の、中心軸に沿った両端部の少なくとも一方に蓋部を有し閉口しているので、筒状部の外周面に沿って流体をスムーズに流すことができる。このため、本発明の流体用整流部材は、流体内を移動する飛翔体などとして使用することができる。
【0029】
(5)前記筒状部の、一方の端面輪郭形状よりも他方の端面輪郭形状が大きい。
筒状部は、一方の端面輪郭形状よりも他方の端面輪郭形状が大きい形状を呈しているので、本発明の流体用整流部材は、例えば円錐や円錐台等に類似した形状となっている。このような形状は滑らかに断面積が変化するので、渦流の発生を抑え、流体の流れをスムーズすることができる。このように一方の端面輪郭形状よりも他方の端面輪郭形状が大きい形状に沿って流体が流れる場合には、筒状部の一方と他方の間で流体の流速が異なり、弾性流体においてはさらに密度も異なるようになる。このため、流体と接する筒状部の内側面または外側面は、流体との相互作用が強く、特に流体の乱れを生成させやすい。本発明の流体用整流部材における筒状部は、一方の端面輪郭形状よりも他方の端面輪郭形状が大きいので、流体の流れに乱れを生成させにくくすることができる。このため、本発明の流体用整流部材は、配管や流体内を移動する飛翔体、推進体などとして好適に利用することができる。
【0030】
(6)前記セラミックマトリックスは、SiCである。
SiCは、高強度であるので、流体用整流部材の強度を増すことができる。また、SiCは、耐蝕性、耐酸化性にも優れ、セラミックマトリックスにSiCを用いることにより、流体用整流部材を高温、腐食性雰囲気でも好適に利用できる。
【0031】
(7)前記単位セラミック繊維は、SiC繊維である。
SiC繊維は、耐蝕性、耐酸化性が優れ、高強度であるので、支持材にSiCを用いることにより、高温、腐食性雰囲気でセラミックマトリックスが損傷した場合でも、単位セラミック繊維がクラックの進展を止め、安全に使用することができる。
【0032】
(8)前記中心軸は、流体の流れ方向に配置される。
中心軸を流体の流れ方向に配置することにより、中心軸を包囲する筒状部も流体の流れ方向に配置されるので、流体の流れを乱さない。
【0033】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について以下説明する。
本発明の流体用整流部材の製造方法は、支持材形成工程と、マトリックス形成工程と、芯抜工程とからなる。最初に支持材を形成した後に、芯抜工程およびマトリックス形成工程を行う。芯抜工程とマトリックス形成工程の順序は特に限定されず、芯抜工程の前後にマトリックス形成工程を行ってもよい。
図7(A)〜
図7(C)は本発明の第1実施形態の流体用整流部材の製造工程を示す。
図7(A)は支持材形成工程、マトリックス形成工程、芯抜工程の順に製造する製造工程、
図7(B)は支持材形成工程、芯抜工程、マトリックス形成工程の順に製造する製造工程、
図7(C)は支持材形成工程、マトリックス形成工程、芯抜工程、マトリックス形成工程の順に製造する製造工程を示す。
【0034】
次に、支持材形成工程について説明する。支持材形成工程は、芯材の周囲にストランドを巻回し、支持材を形成する。支持材形成工程はストランドの配置、巻き方などで細かく分類される。支持材形成工程は、軸方向に対して直交する方向に配向する巻回工程と、軸方向に沿って配向する軸方向配置工程とからなる。巻回工程は、さらにヘリカル巻き工程と、フープ巻き工程とが含まれる。
図8(A)〜
図8(C)は、本発明の第1実施形態の流体用整流部材の支持材形成工程の詳細な製造工程を示す。
【0035】
図8(A)は、巻回工程が最初と最後にある製造工程であり、この製造方法により、支持材の内層のセラミック繊維層の外側および内側を覆う最表層のセラミック繊維層が中心軸に対して直交して配向しているストランドによって流体用整流部材を構成することができる。
図8(B)は、巻回工程が最初にあり、最後にはない製造工程であり、この製造方法により、支持材の内層のセラミック繊維層の内側面を覆う最表層のセラミック繊維層が中心軸に対して直交して配向しているストランドによって流体用整流部材を構成することができる。
図8(C)は、巻回工程が最後にあり最初にはない製造工程であり、この製造方法により、支持材の内層のセラミック繊維層の外側面を覆う最表層のセラミック繊維層が中心軸に対して直交して配向しているストランドによって流体用整流部材を構成することができる。最初または最後の巻回工程の間は、ストランドの配置、巻回方法、回数、順序は限定されず、自由に組み合わせることができる。
このとき、最初と最後の巻回工程では、その間の工程で用いるストランドの繊維間密度よりも高密度でストランドを巻回する。また、最初または最後の巻回工程の間は、ストランドの配置、巻回方法、回数、順序は限定されず、自由に組み合わせることができる。
【0036】
次にマトリックス形成工程について説明する。マトリックス形成工程は、骨材であるストランドの周囲にセラミックマトリックスを充填する。
セラミックマトリックスはどのようなものでもよく特に限定されない。例えば、SiC、アルミナ、Si
3N
4、B
4Cなどを利用できる。セラミックマトリックスはどのような方法で形成してもよい。例えば、有機物である前駆体(プレカーサ)を熱分解させセラミックのマトリックスを得るプレカーサ法、原料ガスを熱分解させセラミックマトリックスを得るCVD法などが利用できる。またこれらを併用してもよい。
【0037】
以下プレカーサ法、CVD法について説明する。
プレカーサ法では、熱分解によりセラミックが得られる前駆体を適宜選定する。プレカーサ法では、液体の前駆体を支持体に塗布または含浸したのち、加熱処理し、最終的に焼成することによりセラミックマトリックスを得る。加熱処理では、前駆体の形態によってさまざまな処理が行われる。前駆体が溶液である場合には溶媒の乾燥、前駆体がモノマー、ダイマーまたはオリゴマーなどの場合には重合反応、前駆体がポリマーである場合には熱分解反応の処理が行われる。
【0038】
前駆体は、液体の形態で使用する。液体であるとは、前駆体を溶媒に溶かした溶液、液状の前駆体、固体の前駆体を加熱して溶融した液状の前駆体などが利用できる。なお、プレカーサ法では、最終的に前駆体を焼成し、セラミックマトリックスを生成させる。
前駆体は、例えば次のようなものが利用できる。前駆体が炭素の場合は、フェノール樹脂、フラン樹脂などが利用できる。前駆体がSiCの場合はポリカルボシラン(PCS:Polycarbosilane)などが利用できる。これらの樹脂をストランド間に浸透させて、熱分解することによりセラミックマトリックスを得ることができる。
また、プリカーサ法は支持材形成工程のなかで軸方向配置工程が最後にあり、軸方向に並んだストランドが最表層にある場合に、ストランドの脱落や毛羽立ちを防止するためのバインダーとすることもできる。この場合には、前駆体が、乾燥、重合または熱分解する過程で、ストランド同士を結合させた状態を維持することができるので、好適に利用することができる。
【0039】
CVD法では、CVD炉に支持材をいれ、加熱した状態で原料ガスを導入する。原料ガスは、CVD炉内で拡散するとともに、加熱された支持材に接触すると熱分解が起こり、原料ガスに対応するセラミックマトリックスが支持材を構成するストランドの表面に形成される。
CVD法で使用する原料ガスは、セラミックマトリックスの種類によって適宜選択する。
【0040】
目的とするセラミックマトリックスが炭素の場合は、メタン、エタン、プロパンなどの炭化水素ガスが利用できる。
目的とするセラミックマトリックスがSiCの場合には、炭化水素ガスと、シラン系ガスの混合ガス、炭素と珪素を有する有機シラン系ガスなどが利用できる。これらの原料ガスは、水素がハロゲンで置換されたガスも利用することができる。シラン系ガスとしては、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、有機シラン系ガスの場合には、メチルトリクロロシラン(Methyltrichlorosilane)、メチルジクロロシラン(Methyldichlorosilane)、メチルクロロシラン(Methylchlorosilane)、ジメチルジクロロシラン(Dimethyldichlorosilane)、トリメチルジクロロシラン(Trimethyldichlorosilane)などが利用できる。またこれらの原料ガスを適宜混合して用いてもよく、さらに水素、アルゴンなどのキャリアガスとしても用いることもできる。キャリアガスとして水素を用いた場合には、平衡の調整に関与することができる。
【0041】
また、他のセラミック材料の場合には、目的のセラミックマトリックスにあわせて適宜原料ガスを選定することができる。
CVDの温度は、原料ガスの分解温度、分解速度に応じて適宜選定することができ、例えば800〜2000℃である。CVDの圧力は、セラミックマトリックスの沈着の状態に応じて適宜選択することができる。使用できる範囲は、例えば0.1〜100kPaの減圧CVD法、また圧力を制御しない常圧CVD法でもよい。
【0042】
次に、芯抜工程について説明する。
芯抜工程の位置によって3つのパターンが存在する。
芯抜工程が、マトリックス形成工程の後の場合、支持材形成工程、マトリックス形成工程、芯抜工程の順に製造する(
図7(A))。
芯抜工程が、マトリックス形成工程の前の場合、支持材形成工程、芯抜工程、マトリックス形成工程の順に製造する(
図7(B))。
芯抜工程が、マトリックス形成工程の中にある場合、支持材形成工程、マトリックス形成工程、芯抜工程、マトリックス形成工程の順に製造する(
図7(C))。
【0043】
図7(A)に示すように、芯抜工程が、マトリックス形成工程の後の場合、芯抜工程で分離される段階では、すでにセラミック繊維強化セラミック複合材料が形成され、本発明の流体用整流部材そのものである。この場合には、形状が固定された段階で芯抜きされるので、寸法精度の高い流体用整流部材を得ることができる。
【0044】
図7(B)に示すように、芯抜工程が、マトリックス形成工程の前の場合、芯抜工程で分離されるものは、セラミック繊維層からなる支持材そのものである。この場合には、支持材の内側面および外側面に同時にセラミックマトリックスを形成することができ、効率よく流体用整流部材を得ることができる。
【0045】
図7(C)に示すように、芯抜工程が、マトリックス形成工程の中にある場合、芯抜工程で分離される段階では、セラミック繊維強化セラミック複合材料の途中段階の製品である。この場合には、支持材の内側面および外側面に同時にセラミックマトリックスを形成することができ、寸法精度の高い流体用整流部材を効率よく得ることができる。
【0046】
いずれの方法をとってもよいが、芯抜工程が、マトリックス形成工程の中にある場合の製造方法(
図7(C)参照)を用いることが好ましい。
芯抜工程が、マトリックス形成工程の中にある場合には、支持体のセラミック繊維間にセラミックマトリックスが形成されセラミック繊維強化セラミック複合材料になった後に芯材が抜かれるので、芯材が抜かれた後に変形しにくくすることができる。
【0047】
また、この場合、芯材が抜かれた後、支持体の外側面と内側面の両側からセラミックマトリックスを形成することができるので、ストランドを確実にセラミックマトリックスで覆うことができ、ほつれにくくより強固なセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0048】
また、マトリックス形成工程の中に芯抜き工程がある場合には、芯抜工程の前後のマトリックス形成工程は同一の方法を用いてもよいし、異なる方法を用いてもよい。なかでも、芯抜工程の前はプリカーサ法を用い、芯抜工程の後はCVD法を用いることが好ましい。プリカーサ法は、簡単な方法で支持体を固めることができ、変形を防止できるようになる。CVD法では、緻密で強固な膜が得られるので流体用整流部材の最表面を構成する膜として好適に利用することができる。
【0049】
図1(A)〜
図1(D)および
図2(A)〜
図2(B)に基づいて、流体用整流部材の製造方法について説明する。
流体用整流部材10Aの製造方法は、柱状に形成された芯材11の中心軸CLに対する周方向に沿ってストランド21を巻回する巻回工程と、芯材11の中心軸CLに対して平行にストランド21を配置する軸方向配置工程を有する。
なお、ストランド21は、多数の単位セラミック繊維40を束ねて形成される(
図4(B)、
図4(C)参照)。
【0050】
巻回工程においては、
図1(A)、
図1(B)および
図1(C)に示すように、中心軸CL回りに回転する芯材11の外周面にストランド21を巻回してセラミック繊維層22を形成する。
図1(A)はフープ巻きによるストランド21の巻回工程を示し、
図1(B)はヘリカル巻きによるストランド21の巻回工程の往路を示し、
図1(C)はヘリカル巻きによるストランド21の巻回工程の復路を示す。
【0051】
このとき、ストランド21を収容するロール211を、芯材11の一端側(
図1(A)および
図1(B)において右端側)から他端側(
図1(A)および
図1(B)において左端側)へ移動(矢印A参照)させることにより、ストランド21を芯材11の外側面に巻回することができる。
なお、
図1(C)に示すヘリカル巻きによるストランド21の巻回工程の復路では、ストランド21を収容するロール211を、芯材11の他端側(
図1(C)において左端側)から一端側(
図1(C)において右端側)へ移動させる(矢印B参照)。
【0052】
このとき、ストランド21は、フープ巻きによるストランド21の巻回工程においても厳密には螺旋状に巻回される。ロール211の送り速度によって巻回されるストランド21の形態が変化する。すなわち、ロール211の送り速度を調整することにより軸線間距離を調整して、繊維間密度を所望の密度に設定することができる。送り速度を遅くしてストランド21で覆われた分だけロール211を送り、ストランド21を輪のよう巻く巻回方法をフープ巻きといい、繊維間密度が高密度となる。また、送り速度を速くしてストランド21に間隔が空くようにロール211を送り、ストランド21を螺旋のよう巻く巻回方法をヘリカル巻きという。この場合には、繊維間密度が低密度となる。
なお、筒状部が略円錐形状である場合、芯材11の回転速度とロール211の送り速度とを適宜調整することによって、ヘリカル巻きの螺旋角度を40〜65度にすることができる。
【0053】
フープ巻きでは、ロール211の送り速度がストランド21の断面積と同等程度であり、一方向の送りで芯材11のほぼ全外周面をストランド21で覆ってセラミック繊維層22を形成することができる。
これに対して、ヘリカル巻きでは1回の送りでは芯材11の全外周面を覆うことができないので、ロール211を何往復も繰り返し送りながら芯材11の外周面にセラミック繊維層22を形成する。
【0054】
ストランド21の一方向の送りを1単位とすると、フープ巻きを繰り返した場合、任意の単位のストランド21は前後それぞれ1単位のストランド21と接点を有する。
これに対しヘリカル巻きでは、1単位のストランド21では、芯材11の全外周面を覆い尽くすことができないので、任意の単位のストランド21は前後それぞれ複数の単位のストランド21と接触する。
【0055】
また、セラミック繊維層22がフープ巻きとヘリカル巻きとの組み合わせである場合には、その界面は、互いに交差しあうストランド21の接点が多数存在し、高強度のセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
なお、図面においては、わかりやすくするために、隣接するストランド21同士の間隔を大きく表示している。
【0056】
第1実施形態の流体用整流部材10Aは、筒状部20Aの内層のセラミック繊維層の外側を覆う最表層のセラミック繊維層22(最外側セラミック繊維層222)が、中心軸CLに対して直交して配向しているストランド215によって構成される。
このような筒状部20Aを得るために、筒状部20Aの外側の最表層として巻回工程によってセラミック繊維層22を形成する。
【0057】
軸方向配置工程においては、例えば
図1(D)に示すように、芯材11の一端側および他端側に係止部212、213を設けておき、係止部212と係止部213とに交互にストランド21を引っ掛けることにより、ストランド21を芯材11の中心軸CLに沿って配置してセラミック繊維層22を形成する。従って、係止部212、213の間隔により繊維間隔が決定され、繊維間密度を設定することができる。
これを芯材11の外側面に沿って全周に実施する。このとき、ストランド21は、係止部212、213の断面積、配置によっては、中心軸CLを含む平面に対し、斜めに配置されることもあるが、隣接するストランド21同士は非常に近接しているので、中心軸CLに対して平行に配置されると言える。なお、
図1(D)においては、わかりやすくするために、隣接するストランド21同士の間隔を大きく表示している。
【0058】
最上層を形成する前は、巻回工程と軸方向配置工程とを繰り返し実施して、セラミック繊維層22を積層する。巻回工程と軸方向配置工程との順番および実施回数は任意である。
例えば、巻回工程と軸方向配置工程とを1回ずつ交互に実施することができるが、巻回工程および軸方向配置工程を各々複数回ずつ実施して交互に実施することもできる。また、巻回工程には、ヘリカル巻き、フープ巻きがある。このため、ヘリカル巻きによる巻回工程(ヘリカル巻き工程)、フープ巻きによる巻回工程(フープ巻き工程)、軸方向配置工程の3つの工程を適宜選択しながらセラミック繊維層22を積層し、筒状部20Aを構成することができる(
図8参照)。
【0059】
これにより、複数のセラミック繊維層22を堆積させて支持材が芯材の表面に形成された筒状の基材23を形成する(
図2(A)参照)。基材23は、例えば円筒、円錐、円錐台等に類似した形状となっているが、以下においては、円錐形状の場合について例示する。
この際、基材23において芯材11の側面111から最も離れた最外側セラミック繊維層222において、中心軸CLに対して直交する平面PL(
図3参照)にストランド21が沿う(平行となる)ように基材23を製造する。
【0060】
このとき、
図4(A)に示すように、最外側セラミック繊維層222をストランド215で形成し、最表層以外のセラミック繊維層223をストランド215で形成する。なお、セラミック繊維層223を形成するストランド215の方向は、最外側セラミック繊維層222を形成するストランド215と交差するのが望ましい。
図4(B)に示すように、最外層セラミック繊維層222を形成するストランド215は、断面積が小さい単位セラミック繊維41を束ねて形成される。また、最外層以外のセラミック繊維層223を形成するストランド215は、単位セラミック繊維41よりも断面積が大きい単位セラミック繊維42で形成される。
これにより、ストランド215とストランド215の断面積が同一の場合、ストランド215の単位セラミック繊維41は、ストランド215の単位セラミック繊維42よりも高密度で形成される。
【0061】
次いで、支持体のストランド21間にセラミックマトリックスを形成させて、中心軸CLを包囲する筒状部20Aを形成する。第1実施形態では、セラミックマトリックスをCVD法により形成する。セラミック繊維層22を有する支持材をCVD炉に入れ、CVD炉にメチルトリクロロシランガスを導入し、SiCのセラミックマトリックスを形成する。
【0062】
そして、
図2(B)に示すように、分離する工程では、芯材11から筒状部20Aを脱型させて、筒状部20Aを焼成し、流体用整流部材10Aを製造する。
これに限定されず、筒状部20Aを芯材11から分離する工程は、セラミックマトリックスを形成する前、形成した後、セラミックマトリックスを形成する途中段階のいずれであってもよい(
図7参照)。
【0063】
なお、ここでは、筒状部20Aの中心軸CLに沿った両端面が開口している場合を示しているが、一方の端面が閉じている場合も同様に製造することができる。
一方の端面が閉じている場合には、例えば、筒状部20Aと、蓋部とを有する基材23を用い、セラミックマトリックスを沈着する方法、後から蓋部を組み合わせる方法などが利用できる。
【0064】
次に、流体用整流部材10Aについて説明する。
図3(A)に示すように、流体用整流部材10Aは、中心軸CLを包囲する筒状部20Aを有する。流体用整流部材10Aは、例えば、中心軸CLを流体の流れ方向(
図2(B)中矢印F参照)に配置することにより使用することができる。
筒状部20Aは、一方の端面203の輪郭形状よりも他方の端面204の輪郭形状の方を大きく形成することもできる。また、筒状部20Aは、一方の端面203および他方の端面204が開口している。なお、筒状部20Aを、両端が開口した円柱形状とすることもできる(図示省略)。
【0065】
筒状部20Aは、SiC繊維であるストランド21からなる支持材により形成されたセラミック繊維層22を積層した基材23(
図2参照)を有しており、このストランド21にCVD法によってセラミックマトリックスを沈積させ繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。ストランド21は、セラミック繊維を束ねたストランドを用いることもできる。
【0066】
筒状部20Aの最外側セラミック繊維層(最表層)222は、ストランド215が中心軸CLに対して直交する仮想の平面PLに沿うように形成されたセラミック繊維層22である。
【0067】
ここで、最外側セラミック繊維層222を構成するストランド215と、中心軸CLを含む平面PL2(
図3(A)参照)とのなす角度θは、80度〜90度である(
図3(B)参照)。
すなわち、
図3(A)に示すように、中心軸CLを含む仮想の平面PL2によって切断される筒状部20Aの断面を、平面PL2に沿って観ると(
図3(A)中矢印C参照)、
図3(B)に示すように平面PL2に対してストランド215は、角度θで交差する。
【0068】
次に、第1実施形態の流体用整流部材10Aの作用、効果について説明する。
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、セラミック繊維層22は、複数の単位セラミック繊維40を束ねたストランド21で構成されており、単位セラミック繊維40は、最表層の最外側セラミック繊維層222に近いほどその断面積が小さい。
これにより、流体に近接して最も破損しやすい最外側セラミック繊維層222を断面積が小さい単位セラミック繊維41で形成するので、ストランド215が変形しても単位セラミック繊維41が折れにくく、全体として破損しにくい流体用整流部材10Aを提供できる。
また、最外側セラミック繊維層222に絞って断面積が小さい単位セラミック繊維41を用い、最表層以外のセラミック繊維層223では、最表層の単位セラミック繊維41よりも断面積が大きい単位セラミック繊維42を用いることができるので、過度の重量化を抑制できる。
【0069】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、単位セラミック繊維40は、最外側セラミック繊維層222において最も高密度であるので、最表層のストランド215を高密度で形成して強度を確保することができる。
【0070】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、最外側セラミック繊維層222を構成するストランド215と、中心軸CLを含む平面PL2とのなす角度θが80度〜90度であると、ストランド21に沿って気流がスムーズに流れることができる。
また、ストランド21の断面積の大小に起因する凹凸は、1/sin20度倍(2.92倍)以上に中心軸CL方向に引き伸ばされるので、流体の乱れを小さくでき、抵抗を小さくできる。
【0071】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、筒状部20Aは中心軸CLに沿った両端部が開口している場合には、筒状部20Aの外周面および内周面に沿って流体を流すことができ、流体を整流することができる。このため、配管や流体内を移動する飛翔体として使用することができる。
【0072】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、筒状部20Aは、一方の端面輪郭形状よりも他方の端面輪郭形状が大きい形状を呈しているので、例えば円錐や円錐台等に似ている形状となっている。
そして、端面輪郭形状が小さい一方の端面203が開口していない場合には、一方の端面203から相対的に流れてくる流体を、筒状部20Aの最外側セラミック繊維層222による抵抗を小さくすることができる。また、一方の端面203も開口している場合には、筒状部20Aの最外側セラミック繊維層222および最内側セラミック繊維層221に沿って流体を流すことができるので、外周面および内周面に沿って流れてくる流体の抵抗を小さくすることができる。このため、流体用整流部材10Aは、配管や流体内を移動する飛翔体として利用することができる。
【0073】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、セラミックマトリックスは、SiCである。
SiCは、耐蝕性、耐酸化性が優れ、高強度であるので、セラミックマトリックスにSiCを用いることにより、流体用整流部材を高温、腐食性雰囲気でも好適に利用できる。
【0074】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、セラミック繊維は、SiC繊維である。
SiC繊維は、耐蝕性、耐酸化性が優れ、高強度であるので、支持材にSiCを用いることにより、高温、腐食性雰囲気でセラミックマトリックスが損傷した場合でも安全に使用することができる。
【0075】
第1実施形態の流体用整流部材10Aによれば、中心軸CLは、流体の流れ方向に配置される。
中心軸CLを流体の流れ方向に配置することにより、中心軸CLを包囲する筒状部20Aも流体の流れ方向に配置されるので、流体の抵抗を小さくすることができる。
【0076】
また、第1実施形態の流体用整流部材の製造方法によれば、巻回工程において柱状に形成された芯材11の中心軸CLに対する周方向に沿ってストランド21を巻回するとともに、軸方向配置工程において芯材11の中心軸CLに対して平行にストランド21を配置する。こうして、複数のセラミック繊維層22によって筒状部20Aの基材23を形成する。このとき、最外側セラミック繊維層222を形成するストランド215を断面積が小さい単位セラミック繊維41で構成する。この単位セラミック繊維41は、最表層以外のセラミック繊維層223を構成する単位セラミック繊維42よりも断面積が小さいものとする。
【0077】
次いで、基材23のストランド21間に浸透するようにセラミックマトリックスを形成する。
セラミックマトリックスはどのようなものでもよく特に限定されない。例えば、SiC、アルミナ、Si
3N
4、B
4Cなど利用できる。セラミックマトリックスはどのような方法で形成してもよい。例えば、有機物である前駆体(プレカーサ)を熱分解させセラミックのマトリックスを得るプレカーサ法、原料ガスを熱分解させセラミックマトリックスを得るCVD法などが利用できる。
【0078】
以下、プレカーサ法、CVD法について説明する。
プレカーサ法では、熱分解によりセラミックが得られる前駆体を適宜選定する。プレカーサ法では、液体の前駆体を支持体に塗布または含浸したのち、加熱処理しセラミックマトリックスを得る。加熱処理では、前駆体の形態によってさまざまな処理が行われる。
前駆体が溶液である場合には溶媒の乾燥、前駆体がモノマー、ダイマーまたはオリゴマーなどの場合には重合反応の後に熱分解反応、前駆体がポリマーである場合には熱分解反応の処理が行われる。
前駆体は、液体の形態で使用する。液体であるとは、前駆体を溶媒に溶かした溶液、液状の前駆体、固体の前駆体を加熱して溶融した液状の前駆体などが利用できる。なお、プレカーサ法では、最終的に前駆体を焼成し、セラミックマトリックスを生成させる。
【0079】
CVD法では、CVD炉に支持材をいれ、加熱した状態で原料ガスを導入する。原料ガスは、CVD炉内で拡散するとともに、加熱された支持材に接触すると熱分解が起こり、原料ガスに対応するセラミックマトリックスが支持材を構成するストランドの表面に形成される。
次に、芯材11から筒状部20Aを脱型させる。これにより、流体用整流部材を製造することができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
なお、前述した第1実施形態の流体用整流部材10Aと共通する部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略することとする。
図5に示すように、第2実施形態の流体用整流部材10Bでは、筒状部20Bの最内側セラミック繊維層221および最外側セラミック繊維層222は、ストランド21が中心軸CLに対して直交する仮想の平面PL(
図3(A)参照)に沿うように形成されたセラミック繊維層22となっている。
また、最内側セラミック繊維層221および最外側セラミック繊維層222では、断面積が小さい単位セラミック繊維41で構成されたストランド216、214が用いられており、他のセラミック繊維層223に比してストランド21が高密度に形成されている。
【0081】
これにより、最外側セラミック繊維層222および最内側セラミック繊維層221の強度を増すことができるので、支持材の強度を充分に発揮することができ、無駄な重量増を防止して高強度の繊維強化セラミック複合材料から構成される流体用整流部材10Bが得られる。
また、流体の流れを阻害する起伏が出来にくく、流体に乱れが生じにくいので抵抗を小さくできる。ここで、流体の流れとは、流体用整流部材10Bに対して相対的に流体が移動する場合をいい、流体用整流部材10Bに対して流体が流れる場合および流体中を流体用整流部材10Bが移動する場合を含む。
なお、流体用整流部材10Bの製造方法は、第1実施形態において説明した製造方法を用いることができる。これは、巻回工程が支持材形成工程の最初と最後にあることにより得ることができる。
【0082】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。
なお、前述した第1実施形態の流体用整流部材10Aおよび第2実施形態の流体用整流部材10Bと共通する部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略することとする。
図6(A)および
図6(B)に示すように、第3実施形態の流体用整流部材10Cでは、筒状部20Cの一方の端面203に蓋部を有しており、中心軸CL方向に貫通していない。
このため、筒状部20Cでは、最外側セラミック繊維層222のストランド215のみが断面積が小さい単位セラミック繊維41で形成されたストランド215で形成されればよい。また、中心軸CLに対して直交する仮想の平面PL(
図3(A)参照)に沿うように形成されたセラミック繊維層22となっていれば良い。なお、最内側セラミック繊維層(最表層)221のストランドをも中心軸CLに対して直交する仮想の平面PL(
図3(A)参照)に沿うように形成することも可能である。
【0083】
これにより、流体の流れによってセラミック繊維束が変形してもセラミック繊維が折れにくく、全体として破損しにくい。また、最表層以外のセラミック繊維層では、最表層のストランドよりも断面積が大きいストランドを用いることができる。これにより、過度の重量化を抑制して表面の強度が十分な構造の流体用整流部材が得られる。
なお、流体用整流部材10Cの製造方法は、第1実施形態において説明した製造方法を用いることができる。
【0084】
本発明の流体用整流部材は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
すなわち、前述した各実施形態においては、最表層のセラミック繊維層22が、中心軸CLに直交する方向に巻回されたストランド21によって形成されている場合について例示したが、最表層のセラミック繊維層22が、中心軸CLに沿った方向に配向されたストランド21によって形成される場合にも適用可能である。
【0085】
また、
図9は、本発明の各実施形態において説明した流体用整流部材の適用例であり、具体的にはシリコン単結晶引上げ装置300のガス整流部材312への適用例である。
図9に示すシリコン単結晶引上げ装置300は、シリコン材料を加熱していったん溶融させた後、シリコンを単結晶として引き上げることにより、高純度のシリコンインゴットを得るためのものである。
【0086】
このシリコン単結晶引上げ装置300を構成する密閉本体302の上部には、その内部に不活性ガスを導入するための導入部303が設けられている。密閉本体302の内部には、石英るつぼ304、るつぼ305、回転軸306、ヒータ307、保温筒308、上部リング309、下部リング310、底部遮熱板311およびガス整流部材312(流体用整流部材)等が収容されている。
【0087】
シリコン材料が投入される石英るつぼ304は、その外側に配置されたるつぼ305に保持されている。るつぼ305の底面中央部は回転軸306によって下方から支持されている。図示しない駆動手段によって回転軸306が回転すると、それに伴ってるつぼ305が回転する。るつぼ305の側部の周囲に配置されたヒータ307によってるつぼ305が加熱され、シリコン材料が溶融するようになっている。ヒータ307の側部の周囲に設けられた保温筒308は、上部リング309と下部リング310との間に支持されている。密閉本体302の内底面には、底面から熱が逃げるのを防止するための底部遮熱板311が配設されている。
【0088】
ガス整流部材312は先細り形状のテーパ状部材であり、小径側の端部を下方に向けた状態で、大径側の端部が密閉本体302の上面内側に固定されている。
本発明の流体用整流部材は、このようなシリコン単結晶引上げ装置300のガス整流部材312への適用も可能である。
【0089】
(実施例1)
次に、流体用整流部材の具体例を示す。ここでは、ストランド21として、セラミック繊維を束ねたストランドを用いており、束ねたセラミック繊維(ストランド)の間隔によって繊維密度を調整している。
まず、フィラメント径が7.5μmで1600本/束の繊維束で構成される糸を横糸として用い、フィラメントワインディングにて最も内側の層を構成する。
次いで、フィラメント径が10μmで800本/束の繊維束で構成される糸を斜め糸として用い、フィラメントワインディングにて内側から2番目の層を構成する。
フィラメント径が10μmで800本/束の繊維束で構成される糸を横糸として用い、フィラメントワインディングにて内側から3番目の層を構成する。
フィラメント径が10μmで800本/束の繊維束で構成される糸を斜め糸として用い、フィラメントワインディングにて内側から4番目の層を構成する。
フィラメント径が10μmで800本/束の繊維束で構成される糸を横糸として用い、フィラメントワインディングにて内側から5番目の層を構成する。
上記の繊維束としては、宇部興産株式会社製のTyranno-SA(Tyrannoは登録商標)を用いることができる。