(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比(変速段)」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比(変速段)が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2c付きトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、変速機4、第2ギヤ列5、差動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。また、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合には、ブレーキ装置8によって制動力が発生し、車両は減速し、停止する。
【0013】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eから吐出される油によって発生する油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0014】
変速機4は、摩擦伝達機構としてのベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30とが直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0015】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、各プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ圧Ppri、及びセカンダリプーリ圧Psecに応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0016】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0017】
Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は2速となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は後進となる。
【0018】
バリエータ20の変速比と、副変速機構30の変速段とを変更することで、変速機4全体の変速比であるスルー変速比が変更される。
【0019】
ブレーキ装置8は、ブレーキペダル52とマスターシリンダ81とが機構的に独立している電子制御式ブレーキである。運転者がブレーキペダル52を踏み込むと、ブレーキアクチュエータ82がブレーキブースター83を介してマスターシリンダ81のピストンを変位させ、運転者が要求する要求減速度に応じた油圧がブレーキ84に供給され、制動力が発生する。ブレーキブースター83は、エンジン1が作動しているときに発生する負圧を用いて制動力の発生をアシストする。なお、図示は省略するが、ブレーキ装置8は従動輪にも設けられている。
【0020】
コントローラ12は、エンジン1および変速機4を統合的に制御するコントローラ12であり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0021】
入力インターフェース123には、アクセルペダル51の操作量であるアクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、シフトレバー50の位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキペダル52の操作量BRPに対応したブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号、ステアリングホイール53の操作量θを検出する舵角センサ47の出力信号等が入力される。
【0022】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、ブレーキアクチュエータ制御信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、ブレーキアクチュエータ82に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0023】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出された油によって発生する油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0024】
本実施形態では、アクセルペダル51の踏み込みがない場合などに、副変速機構30の各摩擦締結要素32〜34を解放し、エンジン1への燃料噴射を停止してエンジン1の回転軸の回転速度(以下、エンジン回転速度Neという。)をゼロにして惰性走行する惰性走行制御を実行可能である。惰性走行制御を実行することで、エンジンブレーキによる減速を防止し、惰性走行距離を長くし、意図した位置まで惰性走行する際にエンジン1を駆動させた走行が低減されるのでエンジン1で消費される燃料を少なくし、燃費を向上させることができる。
【0025】
次に本実施形態の惰性走行制御について
図3のフローチャートを用いて説明する。以下においては、車両が走行しており、副変速機構30のHighクラッチ33を解放、または締結するものとする。
【0026】
ステップS100では、コントローラ12は、シフトレバー50がNレンジ(中立レンジ)となっているかどうか判定する。コントローラ12は、インヒビタスイッチ45からの信号に基づいてシフトレバー50の位置、つまり現在の変速レンジを検出する。シフトレバー50がNレンジとなっている場合にはステップS101に進み、シフトレバー50がNレンジ以外のレンジとなっている場合にはステップS108に進む。
【0027】
ステップS101では、コントローラ12は、ブレーキペダル52が踏み込まれているかどうか判定する。コントローラ12は、ブレーキ液圧センサ46からの信号に基づいてブレーキペダル52の操作量BRPを検出する。ブレーキペダル52が踏み込まれておらず、ブレーキペダル52の操作量BRPがゼロの場合には処理はステップS102に進み、ブレーキペダル52が踏み込まれており、ブレーキペダル52の操作量BRPがゼロではない場合には処理はステップS105に進む。
【0028】
ステップS102では、コントローラ12は、ステアリングホイール53が操作されているかどうか判定する。コントローラ12は、舵角センサ47からの信号に基づいて、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1よりも小さいかどうか判定する。操作量θは、基準位置に対する操作量であり、基準位置は、車両が直進している場合のステアリングホイール53の位置である。第1操作量θ1は、予め設定された値であり、運転者が車両を直進させる意図があるかどうかを判定する値である。ステアリングホイール53が操作されておらず、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1よりも小さい場合には処理はステップS103に進み、ステアリングホイール53が操作されており、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1以上である場合には処理はステップS104に進む。
【0029】
ステップS103では、コントローラ12は、惰性走行制御を実行する。コントローラ12は、副変速機構30のHighクラッチ33を解放し、エンジン1への燃料噴射を中止し、エンジン回転速度Neをゼロにする。シフトレバー50がNレンジの場合には、アクセルペダル51が踏み込まれているかどうかに関わらず、惰性走行制御が実行される。
【0030】
ステップS104では、コントローラ12は、惰性走行制御を禁止する。惰性走行制御が実行されていた場合には、コントローラ12は、惰性走行制御を中止し、エンジン1を再始動する。なお、この処理ではHighクラッチ33の解放、締結の切り替えは行われない。
【0031】
ステップS101においてブレーキペダル52が踏み込まれていると判定された場合には、ステップS105において、コントローラ12は、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上であるかどうか判定する。第2操作量BRP1は、予め設定されており、運転者によるブレーキペダル52の操作量BRPが緩減速であるか、または急減速であるかを判定する値である。緩減速とは、例えば前方の車両との車間距離を広げるために減速させることであり、急減速とは、緩減速時よりもブレーキペダル52の踏み込み量が大きい場合の減速であり、例えば運転者が停車を意図している場合や、前方の車両や障害物と接触することを回避する場合などの減速である。ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上である場合には、急減速が要求されていると判定され、処理はステップS106に進み、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1よりも小さい場合には、緩減速が要求されていると判定され、処理はステップS107に進む。
【0032】
ステップS106では、コントローラ12は、Highクラッチ33を締結する。急減速が要求されている場合には、Highクラッチ33を締結することで、ブレーキ装置8によって発生する制動力に加えて、エンジンブレーキによる制動力を発生させることができる。なお、エンジン1が停止している場合には、電動オイルポンプ10eから吐出された油によって発生する油圧がHighクラッチ33に供給され、Highクラッチ33が締結する。
【0033】
ステップS107では、コントローラ12は、Highクラッチ33を解放する。緩減速が要求されている場合には、一時的な減速であり、ブレーキペダル52の踏み込みがなくなる可能性が高い。このような場合には、Highクラッチ33を解放しておくことで、ブレーキペダル52の踏み込みがなくなると直ぐに惰性走行制御を開始することができる。
【0034】
ステップS100においてシフトレバー50がNレンジ以外のレンジであると判定された場合には、ステップS108では、コントローラ12は、フラグが「1」であるかどうか判定する。フラグが「0」の場合には処理はステップS109に進み、フラグが「1」の場合には処理はステップS122に進む。
【0035】
ステップS109では、コントローラ12は、シフトレバー50がDレンジであるかどうか判定する。シフトレバー50がDレンジである場合には処理はステップS110に進み、シフトレバー50がPレンジ、またはRレンジである場合にはステップS104に進む。
【0036】
ステップS110では、コントローラ12は、ブレーキペダル52が踏み込まれているかどうか判定する。ブレーキペダル52が踏み込まれておらず、ブレーキペダル52の操作量BRPがゼロの場合には処理はステップS114に進み、ブレーキペダル52が踏み込まれており、ブレーキペダル52の操作量BRPがゼロではない場合には処理はステップS111に進む。
【0037】
ステップS111では、コントローラ12は、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上であるかどうか判定する。ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上である場合には、急減速が要求されていると判定され、処理はステップS112に進み、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1よりも小さい場合には、緩減速が要求されていると判定され、処理はステップS113に進む。なお、第2操作量BRP1は、請求項3における所定量に相当する。
【0038】
ステップS112では、コントローラ12は、Highクラッチ33を締結する。
【0039】
ステップS113では、コントローラ12は、Highクラッチ33を解放する。
【0040】
ステップS114では、コントローラ12は、アクセルペダル51が踏み込まれているかどうか判定する。コントローラ12は、アクセルペダル開度センサ41からの信号に基づいて、アクセルペダル開度APOを検出する。アクセルペダル51が踏み込まれており、アクセルペダル開度APOがゼロではない場合には、処理はステップS115に進み、アクセルペダル51が踏み込まれておらず、アクセルペダル開度APOがゼロである場合には、処理はステップS117に進む。
【0041】
ステップS115では、コントローラ12は、Highクラッチ33を締結する。シフトレバー50がDレンジであり、アクセルペダル51が踏み込まれている場合には、Highクラッチ33を締結することで、その後、惰性走行制御を中止してエンジン1が再始動される場合に、エンジン1から駆動輪7にトルクを早期に伝達することが可能となる。
【0042】
ステップS116では、コントローラ12は、フラグを「1」に設定する。なお、フラグは、初期値として「0」に設定されている。フラグは、シフトレバー50がDレンジ以外のレンジに操作された時にリセットされて「0」となる。
【0043】
ステップS117では、コントローラ12は、Highクラッチ33を解放する。シフトレバー50がDレンジであり、アクセルペダル51が踏み込まれていない場合には、Highクラッチ33を解放する。これにより、Highクラッチ33における動力伝達を防止し、エンジン1から駆動輪7にトルクが伝達されることを防止し、押し出しショックが発生することを防止することができる。また、駆動輪7からエンジン1にコーストトルクが伝達されることを防止し、エンジンブレーキが増大することを防止し、減速ショックが発生することを防止することができる。
【0044】
ステップS118では、コントローラ12は、タイマの値Tをインクリメントする。なお、タイマによるカウントを開始していない場合には、コントローラ12は、カウントを開始する。コントローラ12は、シフトレバー50がDレンジとなり、かつアクセルペダル51が踏み込まれていない状態の時間をタイマによって算出する。
【0045】
ステップS119では、コントローラ12は、タイマの値Tが所定時間T1以上であるかどうか判定する。所定時間T1は、運転者による加速要求、及び減速要求がないと判定できる時間である。コントローラ12は、タイマの値Tが所定時間T1以上継続すると、運転者は加速の意図がないと判定する。タイマの値Tが所定時間T1以上である場合には、処理はステップS120に進み、タイマの値Tが所定時間T1よりも小さい場合には、処理はステップS104に進む。
【0046】
なお、本実施形態では、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合には、処理はステップS104に進み、惰性走行制御は中止(禁止)される。ステップS119においても、タイマの値Tが所定時間T1以上となるまでは、処理はステップS104に進む。
【0047】
ステップS120では、コントローラ12は、惰性走行制御を実行する。
【0048】
ステップS121では、コントローラ12は、フラグを「1」に設定する。
【0049】
ステップS108においてフラグが「1」であると判定されると、ステップS122では、コントローラ12は、惰性走行制御開始条件を満たしているかどうか判定する。惰性走行制御開始条件は、アクセルペダル開度APOがゼロであり、ブレーキペダル52の操作量BRPがゼロであり、かつその状態が所定時間T1以上継続することである。惰性走行制御開始条件を満たす場合には処理はステップS120に進み、惰性走行制御開始条件を満たさない場合には処理はステップS123に進む。なお、惰性走行条件としては、これら以外にも、油温が適正温度範囲内であること、路面勾配が所定勾配内であること、バリエータ20の変速比が最Highであることなどを含んでもよい。
【0050】
ステップS123では、コントローラ12は、惰性走行制御を禁止する。惰性走行制御が実行されていた場合には、コントローラ12は、惰性走行制御を中止する。この処理では、エンジン1を再始動し、Highクラッチ33を締結する。
【0051】
次に、本実施形態の惰性走行制御について
図4のタイムチャートを用いて説明する。
【0052】
図4Aは、惰性走行制御の実行中にシフトレバー50がDレンジからNレンジに変更された場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がDレンジからNレンジに変更される(ステップS100:「Yes」)。ここでは、ブレーキペダル52は踏み込まれておらず(ステップS101:「Yes」)、かつステアリングホイール53は操作されていない(ステップS102:「Yes」)。このような場合、惰性走行制御は中止されず、継続される。
【0053】
時間t1において、ブレーキペダル52が踏み込まれると(ステップS101:「No」)、惰性走行制御が中止される。
【0054】
図4Bは、惰性走行制御が実行されておらず、シフトレバー50がDレンジからNレンジに変更された場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がDレンジからNレンジに変更される(ステップS100:「Yes」)。ここでは、ブレーキペダル52は踏み込まれておらず、かつステアリングホイール53は操作されていない(ステップS101:「Yes」、ステップS102:「Yes」)。このような場合、時間t0において、シフトレバー50がNレンジに変更されると同時に惰性走行制御が開始される。
【0055】
時間t1において、ブレーキペダル52が踏み込まれると(ステップS101:「No」)、惰性走行制御が中止される。
【0056】
図4Cは、惰性走行制御中にステアリングホイール53が操作された場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がDレンジからNレンジに変更される(ステップS100:「Yes」)。ここでは、ステアリングホイール53は操作されていない(ステップS102:「Yes」)。このような場合、時間t0において、シフトレバー50がNレンジに変更されると同時に惰性走行制御が開始される。
【0057】
時間t1において、ステアリングホイール53が操作され、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1以上となる(ステップS102:「No」)と、惰性走行制御が中止される。エンジン1が停止するとパワーステアリングにおけるアシストが得られなくなり、ステアリングホイール53の操作性が低下する。そのため、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1以上となると、惰性走行制御が中止され、エンジン1が再始動されることで、ステアリングホイール53の操作性が低下することを防止する。
【0058】
図4Dは、惰性走行制御中にシフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され(ステップS100:「No」、ステップS109:「Yes」)、ブレーキペダル52が踏み込まれ(ステップS110:「No」)、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1よりも小さい場合(ステップS111:「No」)には、Highクラッチ33は解放されたままであり、惰性走行制御が中止される。
【0059】
図4Eは、惰性走行中にシフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され(ステップS100:「No」、ステップS109:「Yes」)、ブレーキペダル52が踏み込まれ(ステップS110:「No」)、ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上である場合(ステップS111:「Yes」)には、Highクラッチ33が締結され、惰性走行制御が中止される。
【0060】
図4Fは、惰性走行制御中にシフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がNレンジの場合にアクセルペダル51が踏み込まれる。本実施形態では、このような場合でも惰性走行制御が継続される。
【0061】
時間t1において、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更される(ステップS100:「No」、ステップS109:「Yes」)と、既にアクセルペダル51が踏み込まれているので(ステップS114:「No」)、Highクラッチ33を締結し、惰性走行制御が中止される。これにより、エンジン1が再始動される。
【0062】
図4Gは、惰性走行制御中に、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合のタイムチャートである。時間t0において、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更される(ステップS100:「No」、ステップS109:「Yes」)。ここでは、アクセルペダル51が踏み込まれておらず(ステップS114:「Yes」)、Highクラッチ33は解放されたままであり、タイマの値Tが所定時間T1よりも小さいので(ステップS119:「No」)、惰性走行制御が中止される。これにより、エンジン1が再始動される。
【0063】
時間t1において、タイマの値Tが所定時間T1となる(ステップS115:「Yes」)と、惰性走行制御が開始され、エンジン1が停止される。
【0064】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0065】
シフトレバー50がNレンジに操作された場合に、惰性走行制御を実行する。シフトレバー50がNレンジに操作されている場合は、運転者は加速を意図していない。従って、駆動輪7にトルクを伝達し、駆動力を発生させる必要がないので、エンジン1を停止し、惰性走行制御を実行する。また、運転者は加速を意図していないので、惰性走行制御が開始されても、運転者は違和感を覚えない。このように、シフトレバー50がNレンジとなっている場合でも惰性走行制御を実行することで、エンジン1で消費される燃料を少なくし、運転者に違和感を与えることなく、燃費を向上させることができる(請求項1、及び請求項8に対応する効果)。
【0066】
また、シフトレバー50がDレンジとなっており、惰性走行制御を実行中にシフトレバー50がNレンジに操作された場合に、惰性走行制御を中止すると、運転者が加速を意図していないのに、エンジン1が再始動され、運転者に違和感を与える。さらに、惰性走行制御を中止してHighクラッチ33を締結すると、エンジン1のトルクが駆動輪7に伝達され押し出しショックが発生し、またはエンジンブレーキの発生により減速ショックが発生し、運転者に違和感を与える。本実施形態では、このような場合であっても、惰性走行制御が継続されるので、押し出しショックや、減速ショックの発生を防止することができる(請求項1、及び請求項8に対応する効果)。
【0067】
ブレーキペダル52が踏み込まれている場合に惰性走行制御を実行すると、エンジン1が停止することで、ブレーキブースター83によって制動力の発生をアシストすることができない。本実施形態では、ブレーキペダル52が踏み込まれている場合には、惰性走行制御を禁止し、惰性走行制御が実行中であれば中止する。これにより、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合に、ブレーキブースター83によって制動力の発生をアシストすることができ、所望の制動力を発生させることができる(請求項2に対応する効果)。
【0068】
ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1よりも小さい緩減速の場合、その後ブレーキペダル52の踏み込みがなくなる可能性が高い。このような場合に、Highクラッチ33を締結すると、ブレーキペダル52の踏み込みがなくなり、惰性走行制御を開始する場合に、Highクラッチ33の解放が遅れるおそれがある。Highクラッチ33の解放が遅れると、エンジンブレーキが増大するので、運転者の意図しない減速ショックが発生し、運転者に違和感を与えるおそれがある。また、Highクラッチ33の解放が完了するまでの間、駆動輪7がエンジン1に連結された状態となっており、エンジンブレーキによる制動力が作用するため、惰性走行距離が短くなる。本実施形態では、緩減速の場合、Highクラッチ33を解放する。Highクラッチ33を解放しておくことで、ブレーキペダル52の踏み込みがなくなった場合に、直ぐに惰性走行制御を開始しても、減速ショックが発生することがないので、運転者に違和感を与えることを防止することができる。また、Highクラッチ33を解放する必要がないので、エンジンブレーキによる制動力が作用することなく惰性走行制御を早期に開始することができ、燃費を向上させることができる(請求項3に対応する効果)。
【0069】
ブレーキペダル52の操作量BRPが第2操作量BRP1以上である急減速の場合には、Highクラッチ33を締結する。これにより、エンジンブレーキを発生させ、ブレーキペダル52の踏み込みに対する制動力の応答性を向上させることができる(請求項3に対応する効果)。特に、エンジン1を再始動していない場合には、大きなエンジンブレーキを発生させることができる。
【0070】
シフトレバー50がNレンジであり、アクセルペダル51が踏み込まれた場合であっても、惰性走行制御を実行する。シフトレバー50がNレンジとなっている場合には、運転者は加速を意図していない。そのため、本実施形態では、シフトレバー50がNレンジとなっている状態でアクセルペダル51が踏み込まれても、シフトレバー50の操作を優先し、惰性走行制御を実行する。これにより、燃費を向上させることができる(請求項4に対応する効果)。
【0071】
惰性走行制御中に、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合には、例えばその後にアクセルペダル51が踏み込まれる可能性が高い。本実施形態では、惰性走行制御中に、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合には、惰性走行条件が成立しているかどうかに関わらず惰性走行制御を中止し、エンジン1を再始動する。これにより、その後、運転者がアクセルペダル51を踏み込んだ場合には、エンジン1から駆動輪7にトルクを素早く伝達し、駆動力応答性を向上させることができる(請求項5に対応する効果)。
【0072】
惰性走行制御中に、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され、アクセルペダル51が踏み込まれた場合には、Highクラッチ33を締結する。これにより、惰性走行制御を中止し、エンジン1を再始動した場合に、エンジン1から駆動輪7にトルクを素早く伝達し、駆動力応答性を向上させることができる(請求項6に対応する効果)。
【0073】
また、惰性走行制御中に、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更され、アクセルペダル51が踏み込まれていない場合には、Highクラッチ33を解放する。これにより、Highクラッチ33のエンジン1側の回転速度が、Highクラッチ33の駆動輪7側の回転速度よりも高い場合に、エンジン1から駆動輪7にトルクが伝達されることを防止し、押し出しショックが発生することを防止することができる。また、エンジン1側の回転速度が、駆動輪7側の回転速度よりも低い場合に、エンジンブレーキが増大することを防止し、減速ショックが発生することを防止することができる。なお、シフトレバー50がNレンジからDレンジに変更された場合には、惰性走行制御が中止されてエンジン1が始動しているので、メカオイルポンプ10mからの油の吐出量が十分に確保されている。そのため、その後アクセルペダル51が踏み込まれた場合でも、Highクラッチ33を素早く締結することができる(請求項6に対応する効果)。
【0074】
シフトレバー50がDレンジであり、アクセルペダル51が踏み込まれていない状態が所定時間T1継続すると、運転者に加速の意図がないと判定し、惰性走行制御を実行する。これにより、燃費を向上させることができる(請求項7に対応する効果)。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0076】
上記実施形態では、シフトレバー50によって変速レンジが切り替えられる車両について説明したが、これに限られることはなく、スイッチによって変速レンジが切り替えられる車両で、上記惰性走行制御を実行してもよい。
【0077】
本実施形態について、エンジン1を駆動源とした車両を用いて説明したが、上記惰性走行制御を、モータを駆動源とする電動車両、またはハイブリッド車両に適用してもよい。また、バリエータ20とエンジン1との間に摩擦締結要素を備えた車両に適用してもよい。
【0078】
惰性走行制御を中止する際に、Lowブレーキ32を締結してもよい。
【0079】
本実施形態では、ステアリングホイール53の操作量θが第1操作量θ1以上である場合に、惰性走行制御を禁止(中止)したが、電動タイプのパワーステアリングの場合、惰性走行制御を実行してもよい。