(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記試料保持面に対して垂直な断面で見たときに、前記電極は、前記外周部における前記試料保持面側の面が外周に近づくにつれて前記試料保持面との距離が大きくなっていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の試料保持具。
前記試料保持面に対して垂直な断面で見たときに、前記電極の前記外周部における前記試料保持面側の面が先端側が厚みが薄くなる弧状部を有していることを特徴とする請求項4に記載の試料保持具。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る試料保持具10について説明する。
図1に示すように試料保持具10は、外表面に試料保持面11を有するセラミック体1と、セラミック体1の内部に静電吸着用の電極2とを備えている。
【0010】
セラミック体1は、主面に試料保持面11を有する板状の部材である。セラミック体1は、主面の試料保持面11において、例えばシリコンウェハ等の試料を保持する。セラミック体1は、平面視したときの形状が円形状の部材である。セラミック体1は、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素またはイットリア等のセラミック材料からなる。
セラミック体1の寸法は、例えば、直径を200〜500mmに、厚みを2〜15mmに設定できる。
【0011】
セラミック体1を用いて試料を保持する方法としては様々な方法を用いることができるが、本実施形態の試料保持具10は静電気力によって試料を保持する。そのため、試料保持具10はセラミック体1の内部に静電吸着用の電極2を備えている。電極2は、円形状の電極から構成される。電極2は、例えばタングステンまたはモリブデン等の金属材料から成る。
【0012】
ここで、静電吸着用の電極2は、中央部3と中央部3を囲む外周部4とを有している。本実施形態の試料保持具10のように、電極2が円形状の場合には、電極2と中心が同じであり直径が半分の大きさである円の外周を構成する仮想線を電極2上に引いたときに、仮想線の内側に位置する領域を中央部3と見なすことができ、仮想線の外側に位置する領域を外周部4と見なすことができる。
【0013】
また、静電吸着用の電極2は、2つの電極2から構成されていてもよい。2つの電極2は、一方が電極2の正極に接続され、他方が負極に接続される。2つの電極2は、それぞれ略半円形状に形成され、半円の弦同士が隙間をあけて対向するように、セラミック体1の内部に配置される。これら2つの電極2の弧によって静電吸着用の電極2の全体の外形が円形状となっている。この静電吸着用の電極2の全体による円形状の外形の中心は、同じく円形状のセラミック体1の外形の中心と同一に設定される。
【0014】
このように、2つの電極2のそれぞれが半円形状の場合には、それぞれの電極2と重心が同じであり、直径が半分の大きさである半円の外周を構成する仮想線をそれぞれの電極2上に引いたときに、仮想線の内側に位置する領域を中央部3と見なすことができ、仮想線の外側に位置する領域を外周部4と見なすことができる。
【0015】
また、電極2の形状が円形状や半円形状以外の形状の場合も、上述の方法と同様に、それぞれの電極2と重心が同じであり径が半分の大きさである図形の外周を構成する仮想線を電極2上に引き、この仮想線の内側を中央部3、外側を外周部4と見なすことができる。
【0016】
なお、上述した重心とは、電極2を平面視した場合における平面上の重心である。すなわち、電極2の厚みを考慮した重心ではない。
【0017】
そして、本実施形態における電極2は中央部3と比較して外周部4の厚みが薄くなっている。これにより、電極2の外周部4における電流密度を小さくすることができる。これにより、電極2の外周部4において生じる発熱量を中央部3において生じる発熱量に近づけることができる。その結果、試料保持具10のうちセラミック体1の試料保持面11における均熱性を向上させることできる。なお、ここでいう「中央部3と比較して外周部4が薄くなっている」ことは、以下の方法で確認できる。具体的には、中央部3と外周部4とのそれぞれにおいて10ヶ所の厚みを測定して、この平均値を比較すればよい。つまり、外周部4の一部が局所的に中央部3の一部よりも厚みが厚かったとしても、外周部4の厚みの平均値が中央部3の厚みの平均値よりも小さければ、「中央部3と比較して外周部4が薄くなっている」と見なすことができる。厚みの測定は以下の方法で確認することができる。まず、セラミック体1を試料保持面11に対して垂直に切断しする。そして、切断面に露出した電極2の厚みを電子顕微鏡(例えば、KEYENCE社製 型番:VE−8800)で測定すればよい。
【0018】
さらに、電極2の外周部4が外周に近づくにつれて厚みが薄くなっていることが好まし
い。これにより、外周部4に向かうにつれて、徐々に電流密度を小さくすることができるので、局所的に電流密度が高くなってしまうことをさらに抑制できる。
【0019】
さらに、試料保持面11に対して垂直な断面で見たときに、電極2は、外周部4における試料保持面11側の面が外周に近づくにつれて前記試料保持面11との距離が大きくなっていることが好ましい。一般的に、静電吸着力を用いて試料を繰り返し保持すると、セラミック体1のうち電極2の周辺に位置する部分には繰り返し応力が加わる。特に、電極2の外周部4周辺は応力が集中する傾向にある。この部分を試料保持面11から遠ざけておくことによって、電極2の外周部4における静電吸着力を小さくすることができる。その結果、電極2の外周部4周辺に生じる応力を低減できるので、セラミック体1にクラックが生じるおそれを低減できる。
【0020】
さらに、
図2に示すように、試料保持面11に対して垂直な断面で見たときに、電極2の外周部4における試料保持面11側の面が先端側が厚みが薄くなる弧状部41を有していることが好ましい。これにより、外周部4のなかでも特に電流密度が高くなりやすい先端付近をさらに薄くすることができる。そのため、外周部4の先端における電流密度の集中を抑制できる。その結果、外周部4の先端における発熱を低減できる。
【0021】
電極2の厚みは、以下のように設定できる。具体的には、中央部3においては、例えば30〜150μm程度の厚みに設定できる。外周部4においては例えば、1〜50μm程度の厚みに設定できる。特に、中央部3における厚みを50〜100μm、外周部4における厚みを2〜30μmに設定することが好ましい。このように、外周部4における厚みを中央部3における厚みの0.02〜0.6倍程度に設定しておくことによって、外周部4において生じる発熱を良好に低減できる。
【0022】
なお、本実施形態の試料保持具10においては、静電吸着用の電極2のみが設けられていたが、これに限られない。例えば、試料保持具10の下面等に試料保持面11を加熱するための発熱抵抗体が設けられていてもよい。
【0023】
以下、本発明の試料保持具10の製造方法について説明する。なお、セラミック体11のセラミック材料がアルミナセラミックスの場合を例に説明するが、窒化アルミニウムセラミックス等の他のセラミック材料の場合であっても同様の方法で作製できる。
【0024】
まず、主原料となるアルミナ粉末を所定量秤量し、ボールミル中でイオン交換水、有機溶媒等または有機分散剤と金属またはセラミックスからなるボールと共に24〜72時間湿式粉砕混合をする。
【0025】
こうして粉砕混合した原料スラリー中に、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールまたはアクリル樹脂等の有機バインダおよび補助的な有機材料として可塑剤ならびに消泡剤を所定量添加し、さらに24〜48時間混合する。混合された有機−無機混合スラリーを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、プレス成形法または押出成形法等によってセラミックグリーンシートに成形する。そして、静電吸着用の電極2を形成するための白金またはタングステン等のペースト状電極材料を公知のスクリーン印刷法等により印刷成形する。
【0026】
そして、セラミック体1を形成するセラミックグリーンシートに静電吸着用の電極2を形成するためのペースト状電極材料を印刷成形する。ペースト状電極材料としては、白金、タングステンまたはモリブデン等を用いることができる。電極2の厚みを調整する方法としては、例えば、セラミックグリーンシートにペーストを印刷し乾燥させた後に、電極2の外周部4を研磨する方法が挙げられる。研磨には、例えば、サンドペーパー等を用い
ることができる。電極2の断面形状はこの削り方を調整することによって任意に調整することができる。
【0027】
そして、セラミック体1における所定の位置に電極2が形成されるように、ペースト状電極材料が印刷されていないセラミックグリーンシートとペースト状電極材料が印刷された電極形成グリーンシートとを重ねて積層する。積層は、セラミックグリーンシートの降伏応力値以上の圧力を印加しながら、所定の温度で積層する。圧力印加手法としては、一軸プレス法または等方加圧法(乾式または湿式法)等の公知の技術を応用すればよい。
【0028】
次に、得られた積層体を所定の温度、雰囲気中にて焼成して、静電吸着用の電極2が埋設されたセラミック体1を作製する。
【0029】
次に、セラミック体1をマシニングセンター、ロータリー加工機または円筒研削盤を用いて所定の形状、厚みに加工する。
【0030】
セラミック体1の試料保持面11とは異なる他面に、マシニングセンターまたはボール盤等で静電吸着用の電極2の一部が露出するような凹部を設ける。そして、凹部に給電用の外部端子を挿入して、外部端子を静電吸着用の電極2にろう付けする。
【0031】
以上のようにして、本実施形態の試料保持具10を作製することができる。
【0032】
本実施形態の試料保持具10を実施例として作製して、試料保持面11における均熱性を評価した。比較例として、静電吸着用の電極2の厚みが一定である試料保持具10を作成した。
【0033】
具体的には、まず、主原料となる粒径が0.1〜2μmの窒化アルミニウム粉末と微量の焼結助剤とをウレタン等の樹脂で内張りを施したボールミル中に投入する。そして、イオン交換水の溶媒およびボールと共に48時間の湿式粉砕混合を行なった。
【0034】
こうして、粉砕混合した原料スラリー中に、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールまたはアクリル樹脂等の有機バインダおよび可塑剤ならびに消泡剤を添加して、さらに3時間の混合を行なった。混合された有機−無機混合スラリーをドクターブレード法によって成形して、厚み300μm、350mm四方のセラミックグリーンシートを作製した。
【0035】
このグリーンシートのうち所定の枚数の表面に、タングステン粉末を混練したペースト状電極材を印刷法を用いて乾燥後の厚みが100μmになるように塗布した。
【0036】
そして、実施例の試料保持具10となるグリーンシートに対しては、ペースト状電極の外周部4をサンドペーパーで研磨した。研磨後の外周部4の厚みは30μmであった。また、比較例の試料保持具10となるグリーンシートに対しては、特に研磨等は行わなかった。そのため、中央部3も外周部4も厚みが100μmであった。
【0037】
次に、所定の位置に静電吸着用の電極2が形成されるように、ペースト状電極材料が印刷されていないセラミックグリーンシートとペースト状電極が印刷されたセラミックグリーンシートとを積層した。そして、100℃の熱板により10MPaで3分間保持してプレス、密着させて、積層体を得た。
【0038】
次に、作製した積層体を、2000℃の温度で水素ガス雰囲気中にて焼成した。さらにセラミック体1をマシニングセンター、ロータリー加工機および円筒研削盤を用いて直径
250mm、厚み12mmの円板形状に加工した。さらに、上面を平面度80μm、表面粗さRa=0.2μmに加工して、実施例の試料保持具10および比較例の試料保持具101を作製した。
【0039】
製作した2つの試料保持具10を、試料処理装置に取り付け、被処理試料の均熱性を評価した。40MHz、3kWの高周波バイアスを印加することによって、静電吸着用の電極2に交流電流が発生させた。その結果、実施例の試料保持具10においては試料保持面11における中央部3と外周部4との温度ばらつきが1.5℃であったのに対して、比較例の試料保持具10においては温度ばらつきが3.1℃であった。
【0040】
以上の結果から、本実施形態の試料保持具10の構成を採用することによって、試料保持具10の均熱性を向上できることが確認できた。