【実施例1】
【0025】
まず、
図1を用いて、圧電膜の分散関係k(ω)について説明する。
図1の縦軸は角周波数ωであり、縦軸より右側にある横軸は波数kの実数を示し、左側にある横軸は波数kの虚数を示す。波数kが虚数の場合には、圧電膜を伝搬する弾性波は指数関数的に減衰する。また、波数kが0(ゼロ)は遮断周波数を表していて、これは圧電薄膜共振器の共振に主に寄与する厚み縦振動モードの共振周波数である。
図1のように、ポアソン比が0.33より大きいタイプIの材料を圧電膜に用いた場合、厚み縦振動モードに加えて付随的に発生する横モードは遮断周波数よりも高い周波数に存在することが分かる。タイプIの材料として、例えば酸化亜鉛(ZnO)がある。一方、ポアソン比が0.33以下のタイプIIの材料を圧電膜に用いた場合、横モードは遮断周波数よりも低い周波数に存在することが分かる。タイプIIの材料として、例えば窒化アルミニウム(AlN)がある。
【0026】
図1では、圧電薄膜共振器の共振に主に寄与する厚み縦振動モードS1の分散曲線の波数kの小さい部分のみを図示している。
図2は、圧電膜にAlNを用いた場合の分散特性を波数kの実数の大きい範囲まで示した図である。
図2のように、モードS1の分散曲線は、波数k1までは単調に周波数が減少し、波数k1を超えると周波数は単調に増加するようになる。また、モードS1の他にも、モードS0、モードA1、及びモードA0などの多くのモードが存在することが分かる。モードA0は、非対称モードの基底モードである。モードS0は、対称モードの基底モードである。モードA1は、非対称モードの1次モードである。モードS1は、上述したように、圧電薄膜共振器の共振に主に寄与する主モードである。
【0027】
図3(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器1000の断面図、
図3(b)は、共振領域68の中央領域68aと外周領域68bとでの厚み縦振動モードの分散曲線を示す図である。
図3(a)のように、比較例1の圧電薄膜共振器1000は、基板60上に下部電極62が形成されている。基板60及び下部電極62上に、AlNからなる圧電膜64が形成されている。圧電膜64を挟み下部電極62と対向する領域(共振領域68)を有するように、圧電膜64上に上部電極66が形成されている。共振領域68は、厚み縦振動モードが共振する領域である。基板60の共振領域68を含む領域に、空隙70が形成されている。
【0028】
共振領域68内の外周領域68bの上部電極66は、共振領域68の中央領域68aの上部電極66に比べ薄くなっている。このため、外周領域68bの遮断周波数は、中央領域68aの遮断周波数よりも高くなっている。
【0029】
図3(b)のように、外周領域68bの遮断周波数が中央領域68aの遮断周波数よりも高いため、外周領域68bでのモードS1の分散曲線は中央領域68aでのモードS1の分散曲線よりも高周波数側に移動する。これにより、中央領域68aの共振周波数よりも低い周波数f0における波数は、外周領域68bでは中央領域68aに比べて実数値が大きくなる。このため、中央領域68aの共振周波数より低い周波数を有して横方向に伝搬する弾性波は、中央領域68aから外部に漏れ易くなる。これにより、共振特性において横モードに起因したスプリアスの発生を抑制できる。しかしながら、中央領域68aから外部に弾性波が漏れることから、共振周波数から反共振周波数の広い範囲にわたってQ値が低下してしまう。
【0030】
図4(a)は、比較例2に係る圧電薄膜共振器1100の断面図、
図4(b)は、共振領域68の中央領域68aと第1外周領域68cと第2外周領域68dとでの厚み縦振動モードの分散曲線を示す図である。
図4(a)のように、比較例2の圧電薄膜共振器1100では、共振領域68内の外周領域68bは、中央領域68aよりも上部電極
66が薄い第1外周領域68cと、中央領域68aよりも上部電極
66が厚い第2外周領域68dとで構成されている。このため、第1外周領域68cの遮断周波数は、中央領域68aの遮断周波数よりも高くなっている。第2外周領域68dの遮断周波数は、中央領域68aの遮断周波数よりも低くなっている。
【0031】
図4(b)のように、第1外周領域68cの遮断周波数が中央領域68aの遮断周波数よりも高いため、第1外周領域68cでのモードS1の分散曲線は中央領域68aでのモードS1の分散曲線よりも高周波数側に移動する。第2外周領域68dの遮断周波数が中央領域68aの遮断周波数よりも低いため、第2外周領域68dでのモードS1の分散曲線は中央領域68aでのモードS1の分散曲線よりも低周波数側に移動する。これにより、中央領域68aの共振周波数よりも低い周波数f0における波数は、第1外周領域68cでは中央領域68aに比べて実数値が大きくなり、第2外周領域68dでは虚数値となる。このため、中央領域68aの共振周波数より低い周波数を有して横方向に伝搬する弾性波は、中央領域68aから第1外周領域68cに漏れ易くなると共に、第2外周領域68dで漏れが抑制される。横方向に伝搬する弾性波が第1外周領域68cに漏れ易くなることで、共振特性において横モードに起因したスプリアスの発生を抑制でき、且つ、第2外周領域68dで横方向に伝搬する弾性波が反射されることで、共振
周波数から反共振周波数の間でのQ値の劣化を抑制できる。しかしながら、遮断周波数が高い第1外周領域68cと遮断周波数が低い第2外周領域68dとを設けているため、中央領域68aの面積が小さくなり、電気機械結合係数k2が低下してしまう。
【0032】
図5(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の断面図、
図5(b)は、共振領域20の中央領域20aと外周領域20bとでの厚み縦振動モードの分散曲線を示す図である。
図5(a)のように、実施例1の圧電薄膜共振器100は、例えばシリコン(Si)基板からなる基板10上に、下部電極12が形成されている。下部電極12は、例えばクロム(Cr)膜やルテニウム(Ru)膜など金属膜である。基板10及び下部電極12上に、ポアソン比が0.33以下の圧電膜14が形成されている。圧電膜14は、例えばAlNからなる。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域20)を有するように、圧電膜14上に上部電極16が形成されている。上部電極16は、例えばCr膜やRu膜などの金属膜である。共振領域20は、厚み縦振動モードが共振する領域である。基板10の共振領域20を含む領域に、空隙22が形成されている。
【0033】
圧電膜14内には、共振領域20内の外周領域20bに挿入膜18が形成されている。挿入膜18は、共振領域20の中央領域20aには形成されていない。挿入膜18は、例えば二酸化シリコン(SiO
2)膜である。なお、共振領域20内の外周領域20bとは、共振領域20内の領域であって、共振領域20の外周を含み、外周に沿った領域である。共振領域20の中央領域20aとは、共振領域20内の領域であって、外周領域20bよりも内側部分であり、共振領域20の中央を含む領域である。
【0034】
外周領域20bの上部電極16は、中央領域20aの上部電極16に比べて薄くなっている。これにより、共振領域20における下部電極12、圧電膜14、挿入膜18、及び上部電極16を含む積層膜の厚さは、外部領域20bで中央領域20aよりも薄くなっている。外周領域20bに挿入膜18が形成され且つ外周領域20bの上部電極16が薄くなっていることで、中央領域20aと外周領域20bとで遮断周波数が同一又はほぼ同一となっている。
【0035】
図5(b)のように、モードS1の分散曲線は、中央領域20aと外周領域20bとで形状が異なっている。外周領域20bでのモードS1の分散曲線は、中央領域20aでのモードS1の分散曲線に比べて、極小周波数付近の曲率が大きくなっている。これは、外周領域20bの圧電膜14内に挿入膜18が形成されているため、下部電極12と上部電極16とで挟まれた材料のポアソン比が、中央領域20aと外周領域20bとで異なるためである。
【0036】
中央領域20aでのモードS1の分散曲線と外周領域20bでのモードS1の分散曲線の形状を制御することで、中央領域20aの共振周波数より低い周波数f0における波数の実数値を、外周領域20bで中央領域20aよりも大きくすることができる。言い換えると、モードS1の分散曲線の傾きがゼロとなる周波数を制御することで、中央領域20aの共振周波数より低い周波数f0における波数の実数値を、外周領域20bで中央領域20aよりも大きくすることができる。このため、中央領域20aの共振周波数より低い周波数を有して横方向に伝搬する弾性波は、中央領域20aから外部に漏れ易くなり、共振特性において横モードに起因したスプリアスの発生を抑制できる。また、挿入膜18を設けることで、共振周波数から反共振周波数の間でのモードS0の弾性波の発生を弱めることができる。モードS0の弾性波の発生自体が弱まることから、弾性波の漏れも弱められ、その結果、共振周波数から反共振周波数の間でのQ値の劣化を抑制することができる。また、中央領域20aの遮断周波数と外周領域20bの遮断周波数を同一又は同等に近づけることができるため、電気機械結合係数k2の劣化を抑制することができる。
【0037】
以上のように、実施例1によれば、
図5(a)のように、共振領域20内の外周領域20bに挿入膜18が設けられ、且つ、外周領域20bの上部電極16が中央領域20aに比べて薄くなっている。これによって、
図5(a)及び
図5(b)のように、外周領域20bと中央領域20aの遮断周波数がほぼ同じで、外周領域20bにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差が、中央領域20aにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差よりも小さくなっている。これにより、上述したように、Q値及び電気機械結合係数k2の劣化を抑制しつつ、スプリアスを抑制することができる。なお、遮断周波数がほぼ同じとは、完全に同じ場合の他に、電気機械結合係数k2の劣化を抑制できる程度に同じ場合を含む。
【実施例2】
【0038】
図6(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器200の上面図、
図6(b)及び
図6(c)は、
図6(a)のA−A間の断面図である。
図6(b)は、ラダー型フィルタの直列共振子Sの断面図、
図6(c)は、ラダー型フィルタの並列共振子Pの断面図である。
【0039】
図6(a)及び
図6(b)のように、直列共振子Sは、基板10上に、下部電極12が形成されている。基板10の平坦主面と下部電極12との間に、下部電極12側にドーム状の膨らみを有する空隙22が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙22の周辺では空隙22の高さが低く、空隙22の内部ほど空隙22の高さが高くなるような形状の膨らみである。下部電極12は、下層12aと上層12bとを含む。下層12aは、例えばCr膜であり、上層12bは、例えばRu膜である。
【0040】
基板10及び下部電極12上に、(002)方向を主軸とするAlNを主成分とする圧電膜14が形成されている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域20)を有するように、圧電膜14上に上部電極16が形成されている。上部電極16は、下層16aと上層16bとを含む。下層16aは、例えばRu膜であり、上層16bは、例えばCr膜である。共振領域20は、例えば楕円形形状を有し、厚み縦振動モードが共振する領域である。
【0041】
圧電膜14内には、共振領域20内の外周領域20bに挿入膜18が形成されている。挿入膜18は、共振領域20の中央領域20aには形成されていない。挿入膜18は、例えばSiO
2膜である。挿入膜18は、共振領域20内の外周領域20bの全周にわたって形成されていて、外周領域20bから共振領域20の外側にまで延在して形成されている。挿入膜18は、圧電膜14の膜厚方向の中央部分に形成されていてもよいし、中央部分以外に形成されていてもよい。なお、実施例1に記載したように、外周領域20bとは、共振領域20内の領域であって、共振領域20の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域20bは、例えばリング状をしている。共振領域20の中央領域20aとは、共振領域20内の領域であって、外周領域20bよりも内側部分であり、共振領域20の中央を含む領域である。
【0042】
外周領域20bの上部電極16は、外周領域20bの全周にわたって、中央領域20aの上部電極16に比べて薄くなっている。例えば、上部電極16の下層16aの厚さが、中央領域20aよりも外周領域20bで薄くなっていて、上部電極16の上層16bの厚さは、中央領域20aと外周領域20bとで同じになっている。上部電極16上に、周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。なお、周波数調整膜24は、パッシベーション膜として機能してもよい。上部電極16が中央領域20aよりも外周領域20bで薄いことで、共振領域20における下部電極12、圧電膜14、挿入膜18、上部電極16、及び周波数調整膜24を含む積層膜の厚さは、外部領域20bで中央領域20aよりも薄くなっている。
【0043】
下部電極12及び圧電膜14には、犠牲層をエッチングするための導入路28が形成されている。犠牲層は、空隙22を形成するための層である。導入路28の先端付近は、下部電極12及び圧電膜14で覆われておらず、孔部30が形成されている。
【0044】
図6(a)及び
図6(c)のように、並列共振子Pは、直列共振子Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間であって、共振領域20に、質量負荷膜26が形成されている。質量負荷膜26は、例えばチタン(Ti)膜である。その他の構成は、直列共振子Sと同じであるため説明を省略する。
【0045】
直列共振子Sと並列共振子Pとの間の共振周波数の差は、質量負荷膜26の膜厚によって調整できる。直列共振子Sと並列共振子Pの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚によって行うことができる。
【0046】
例えば2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの厚さは100nm、Ru膜からなる上層12bの厚さは250nmである。AlN膜からなる圧電膜14の厚さは1100nmであり、圧電膜14内の挿入膜18の厚さは150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの厚さは、共振領域20の中央領域20aで230nm、外周領域20bで50nmである。上部電極16のCr膜からなる上層16bの厚さは50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の厚さは50nmである。Ti膜からなる質量負荷膜26の厚さは120nmである。なお、各層の厚さは、所望の共振特性を得るために適宜設計することができる。
【0047】
基板10としては、Si基板以外に、例えば石英基板、ガラス基板、セラミック基板、又はガリウム砒素(GaAs)基板などを用いることができる。下部電極12及び上部電極16としては、Cr及びRu以外にも、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、又はイリジウム(Ir)などの金属単層膜又はこれらの積層膜を用いることができる。圧電膜14は、ポアソン比が0.33以下の材料であれば、AlN以外の材料を用いることができる。また、圧電膜14は、AlNを主成分とし、共振特性の向上又は圧電性の向上のために、他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてスカンジウム(Sc)を用いることにより、圧電膜14の圧電性を向上できる。
【0048】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも、窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜などを用いることができる。質量負荷膜26としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、Rh、又はIrなどの金属単層膜又はこれらの積層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンなどの窒化金属又は酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜26は、上部電極16の層間以外にも、例えば下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14の間、又は圧電膜14と上部電極16の間に形成することができる。質量負荷膜26は、共振領域20を含むように形成されていれば、共振領域20より大きくてもよい。
【0049】
次に、実施例2の圧電薄膜共振器200の製造方法を、直列共振子Sの場合を例に説明する。
図7(a)から
図7(c)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器200の製造方法を示す断面図である。
図7(a)のように、基板10の平坦主面上に空隙22を形成するために犠牲層32を成膜する。犠牲層32は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。犠牲層32は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)、又は二酸化シリコン(SiO
2)などのエッチング液又はエッチングガスに容易に溶解する材料を用いることができる。犠牲層32の厚さは、例えば10nm〜100nm程度である。その後、犠牲層32を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の形状にパターニングする。犠牲層32の形状は、空隙22の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域20となる領域を含む。
【0050】
次に、犠牲層32及び基板10上に、下部電極12として下層12a及び上層12bを成膜する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の形状にパターニングする。なお、下部電極12をリフトオフ法によって形成してもよい。
【0051】
図7(b)のように、下部電極12及び基板10上に、第1圧電膜14aと挿入膜18を成膜する。第1圧電膜14aと挿入膜18は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。その後、挿入膜18を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の形状にパターニングする。なお、挿入膜18をリフトオフ法によって形成してもよい。
【0052】
図7(c)のように、第1圧電膜14a及び挿入膜18上に、第2圧電膜14bを成膜する。第2圧電膜14bは、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。第1圧電膜14a及び第2圧電膜14bから圧電膜14が形成される。圧電膜14上に、上部電極16として下層16a及び上層16bを成膜する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。ここで、上部電極16の下層16aは、共振領域20の中央領域20aと外周領域20bとで膜厚を異ならせるように形成する。形成方法は、相対的に膜厚が薄い外周領域20bにおける厚さで下層16aを全面に成膜した後、中央領域20aに下層16aを追加で成膜してもよい。若しくは、相対的に膜厚が厚い中央領域20aにおける厚さで下層16aを全面に成膜した後、外周領域20bに成膜された下層16aに対してエッチングを行うことで形成してもよい。その後、上部電極16を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の形状にパターニングする。上部電極16上に、例えばスパッタリング法又はCVD法を用いて周波数調整膜24を成膜する。
【0053】
なお、
図6(c)の並列共振子Pにおいては、上部電極16の下層16aを形成した後、質量負荷膜26を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜する。質量負荷膜26をフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、所望の形状にパターニングする。その後に、上部電極16の上層16bを形成する。
【0054】
周波数調整膜24を形成した後、孔部30及び導入路28(
図6(a)参照)を介し、犠牲層32のエッチング液を、下部電極12下の犠牲層32に導入する。これにより、犠牲層32が除去される。犠牲層32をエッチングする媒体としては、犠牲層32以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。例えば、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12及び圧電膜14がエッチングされない媒体であることが好ましい。下部電極12、圧電膜14、及び上部電極16を含む積層膜の応力を圧縮応力となるように設定しておくことにより、犠牲層32が除去されると、積層膜が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。これにより、基板10と下部電極12の間にドーム状の膨らみを有する空隙22が形成される。以上の工程を含んで、実施例2の圧電薄膜共振器200が形成される。
【0055】
次に、実施例2の圧電薄膜共振器200に対して発明者が行ったシミュレーションについて説明する。発明者は、
図6(a)及び
図6(b)に示す実施例2の圧電薄膜共振器200に対し、外周領域20bの上部電極16の膜厚が共振周波数よりも低周波数側に発生するスプリアスに及ぼす影響について有限要素法を用いて調査した。シミュレーションは、第1、第2試験体(実施例2)及び第3試験体(比較例3)に対して行った。
【0056】
第1試験体は、下部電極12の下層12aを厚さ100nmのCr膜、上層12bを厚さ200nmのRu膜とし、圧電膜14を厚さ1260nmのAlN膜とした。上部電極16はRu膜からなる下層16aのみで構成され、中央領域20aにおける厚さを230nmとし、外周領域20bにおける厚さを50nmとした。挿入膜18は、厚さ125nmのSiO
2膜とし、共振領域20に挿入されている長さ(すなわち、外周領域20bの幅)を2.5μmとした。
【0057】
第2試験体は、外周領域20bにおける上部電極16の厚さを60nmとし、その他は、第1試験体と同じにした。第3試験体は、外周領域20bにおける上部電極16の厚さを、中央領域20aにおける厚さと同じ230nmとし、その他は、第1試験体と同じにした。
【0058】
表1に、第1〜第3試験体の共振領域20の中央領域20aと外周領域20bとの遮断周波数のシミュレーション結果を示す。表1のように、第1試験体では、中央領域20aと外周領域20bの遮断周波数が同じ値となり、第2試験体では、中央領域20aと外周領域20bの遮断周波数が近い値になった。第3試験体では、中央領域20aと外周領域20bの遮断周波数は離れた値となった。
【表1】
【0059】
図8(a)及び
図8(b)は、スプリアスを調査したシミュレーションの結果を示す図である。
図8(a)は、共振周波数付近の反射特性(S11)であり、
図8(b)は、スミスチャートである。第1試験体のシミュレーション結果を実線で示し、第2試験体のシミュレーション結果を一点鎖線で示し、第3試験体のシミュレーション結果を点線で示している。表1及び
図8(a)、
図8(b)のように、上部電極16の厚さを中央領域20aよりも外周領域20bで薄くして中央領域20aと外周領域20bの遮断周波数を近づけることにより、共振周波数よりも低周波数側に発生するスプリアスを低減できることが確認できた。
【0060】
次に、発明者は、第1試験体に対して、中央領域20aと外周領域20bとでの厚み縦振動モードの分散曲線について有限要素法を用いて調査した。
図9(a)及び
図9(b)は、分散曲線を調査したシミュレーションの結果を示す図である。
図9(a)は、中央領域20aでの厚み縦振動モードの分散曲線を示し、
図9(b)は、外周領域20bでの厚み縦振動モードの分散曲線を示している。
図9(a)及び
図9(b)のように、波数が0(ゼロ)である遮断周波数は共に2010MHzであり、モードS1の分散曲線の極小周波数(傾きがゼロとなる周波数)はそれぞれ約1905MHz、約1935MHzであった。このことから、外周領域20bにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差を、中央領域20aにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差よりも小さくすることで、共振周波数よりも低周波数側に発生するスプリアスを低減できることが確認できた。
【0061】
したがって、外周領域20bに挿入膜18を形成し且つ外周領域20bの上部電極16の膜厚を中央領域20aよりも薄くして、外周領域20bと中央領域20aの遮断周波数をほぼ同じにし、外周領域20bにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差を、中央領域20aにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差よりも小さくする。これにより、スプリアスを抑制できることがシミュレーションからも確認できた。
【0062】
次に、発明者は、第1試験体に対して、反共振周波数のQ値及び電気機械結合係数k2について有限要素法を用いて調査した。また、比較のために、
図4(a)に示した比較例2の圧電薄膜共振器1100である第4試験体に対してもシミュレーションを行った、第4試験体は、上部電極66の厚さは、中央領域68aで230nm、第1外周領域68cで220nm、第2外周領域68dで330nmとした。また、第1外周領域68cの長さを4.0μm、第2外周領域68dの長さを2.5μmとした。その他は、第1試験体と同じにした。表2に、反共振周波数のQ値及び電気機械結合係数k2のシミュレーション結果を示す。表2のように、第1試験体は、第4試験体に比べて、反共振周波数のQ値及び電気機械結合係数k2が改善された結果となった。
【表2】
【0063】
したがって、外周領域20bに挿入膜18を形成し且つ外周領域20bの上部電極16の膜厚を中央領域20aよりも薄くして、外周領域20bと中央領域20aの遮断周波数をほぼ同じにし、外周領域20bにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差を、中央領域20aにおける遮断周波数と厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数との差よりも小さくする。これにより反共振周波数のQ値及び電気機械結合係数k2を改善できることがシミュレーションからも確認できた。
【0064】
次に、発明者は、挿入膜18に様々な材料を用いた圧電薄膜共振器の外周領域20bでの厚み縦振動モードの分散曲線について有限要素法を用いて調査した。シミュレーションに用いた圧電薄膜共振器は、挿入膜18以外は第1試験体と同じにした。挿入膜18は、厚さ125nm、長さ1.9μmとした。表3は、シミュレーションに用いた挿入膜18の種類とそれぞれの材料定数とを示している。なお、表3では、音響インピーダンスは、密度とヤング率の積に対してAlNの音響インピーダンスで規格化した値を示している。表3のように、挿入膜18に、SiO
2、Ru、Cr、Ti、Al、Ta、W、又はMoを用いてシミュレーションを行った。
【表3】
【0065】
図10は、挿入膜18に様々な材料を用いた圧電薄膜共振器の共振領域20内の外周領域20bでの厚み縦振動モードの分散曲線を調査したシミュレーションの結果を示す図である。なお、共振領域20の中央領域20aでの厚み縦振動モードの分散曲線を太破線で示している。
図10のように、挿入膜18がSiO
2又はAlである場合に、外周領域20bでの厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数が、中央領域20aでの厚み縦振動モードの分散曲線の極小周波数よりも高周波数側に移動していることが分かる。
【0066】
次に、発明者は、挿入膜18に様々な材料を用いた圧電薄膜共振器の共振周波数付近の反射特性(S11)について有限要素法を用いて調査した。また、比較のために、挿入膜18が設けられていない圧電薄膜共振器の共振周波数付近の反射特性(S11)についても調査した。
図11(a)及び
図11(b)は、シミュレーションに用いた圧電薄膜共振器を示す断面図である。
図11(a)のように、Siからなる基板10上の下部電極12の下層12aを厚さ100nmのCr膜とし、上層12bを厚さ200nmのRu膜とした。圧電膜14を厚さ1260nmのAlN膜とした。上部電極16はRu膜のみで構成され、中央領域20aにおける厚さは230nmとし、外周領域20bにおける厚さは、外周領域20bの遮断周波数が中央領域20aの遮断周波数と一致するようにした。挿入膜18は、厚さ125nm、長さ1.9μmとした。
図11(b)のように、挿入膜18が設けられていない圧電薄膜共振器は、上部電極16はRu膜のみで構成され、厚さを230nmと一定にした。その他は、
図11(a)と同じである。
【0067】
図12(a)は、挿入膜18が設けられていない圧電薄膜共振器の共振周波数付近の反射特性(S11)のシミュレーションの結果を示す図である。
図12(b)から
図13(c)は、挿入膜18に様々な材料を用いた圧電薄膜共振器の共振周波数付近の反射特性(S11)のシミュレーションの結果を示す図である。
図12(a)から
図13(c)のように、挿入膜18がSiO
2膜、Ti膜、又はAl膜である場合に、共振周波数以下のスプリアスを抑制できることが分かった。特に、挿入膜18がSiO
2膜である場合に、共振周波数以下のスプリアスを大きく抑制できることが分かった。
【0068】
したがって、挿入膜18は、スプリアスを抑制する点から、Ti、Alのような、AlNよりも音響インピーダンスの小さい膜であることが好ましく、SiO
2のような、AlNよりも音響インピーダンスが小さく且つポアソン比が小さい膜であることがより好ましい。また、挿入膜18は、他の元素を含む酸化シリコン膜であってもよい。他の元素として、例えばフッ素又はボロンなどが挙げられる。このような元素を含む酸化シリコン膜の場合でも、AlNよりも音響インピーダンスが小さく且つポアソン比が小さくなる。
【0069】
実施例2によれば、
図6(a)から
図6(c)のように、挿入膜18は、外周領域20bの全周にわたって形成され、且つ、外周領域20bの全周における上部電極16は、中央領域20aの上部電極16に比べて薄くなっている。これにより、スプリアスを効果的に抑制することができる。
【0070】
図14(a)は、実施例2の変形例1に係る圧電薄膜共振器210の上面図、
図14(b)は、
図14(a)のA−A間の断面図である。なお、
図14(b)はラダー型フィルタの直列共振子Sの断面図であり、並列共振子Pについては、
図6(c)と同様、
図14(a)の上部電極16の層間に質量負荷膜26が設けられた構造であるため図示を省略する(実施例2の変形例2から実施例5においても同じ)。
【0071】
図14(a)及び
図14(b)のように、実施例2の変形例1の圧電薄膜共振器210では、上部電極16は、共振領域20内の外周領域20bだけでなく、外周領域20bから共振領域20の外側にかけて薄くなっている。その他の構成は、実施例2の圧電薄膜共振器200と同じであるため説明を省略する。
【0072】
図15(a)は、実施例2の変形例2に係る圧電薄膜共振器220の上面図、
図15(b)は、
図15(a)のA−A間の断面図である。
図15(a)及び
図15(b)のように、実施例2の変形例2の圧電薄膜共振器220では、挿入膜18は、圧電膜14の上面に形成されている。言い換えると、挿入膜18は、圧電膜14と上部電極16の間に形成されている。その他の構成は、実施例2の圧電薄膜共振器200と同じであるため説明を省略する。
【0073】
図16(a)は、実施例2の変形例3に係る圧電薄膜共振器230の上面図、
図16(b)は、
図16(a)のA−A間の断面図である。
図16(a)及び
図16(b)のように、実施例2の変形例3の圧電薄膜共振器230では、挿入膜18は、圧電膜14の下面に形成されている。言い換えると、挿入膜18は、圧電膜14と下部電極12の間に形成されている。その他の構成は、実施例2の圧電薄膜共振器200と同じであるため説明を省略する。
【0074】
実施例2、実施例2の変形例2、及び実施例2の変形例3のように、挿入膜18は、圧電膜14内に形成されてもよいし、圧電膜14の上面又は下面に形成されてもよい。また、挿入膜18が、圧電膜14内、圧電膜14の上面、及び圧電膜14の下面の複数に形成されてもよい。
【0075】
図17(a)は、実施例2の変形例4に係る圧電薄膜共振器240の上面図、
図17(b)は、
図17(a)のA−A間の断面図である。
図17(a)及び
図17(b)のように、実施例2の変形例4の圧電薄膜共振器240では、挿入膜18は、共振領域20内の外周領域20bの一部にのみ設けられている。その他の構成は、実施例2の圧電薄膜共振器200と同じであるため説明を省略する。
【0076】
図18(a)は、実施例2の変形例5に係る圧電薄膜共振器250の上面図、
図18(b)は、
図18(a)のA−A間の断面図である。
図18(a)及び
図18(b)のように、実施例2の変形例5の圧電薄膜共振器250では、上部電極16は、共振領域20内の外周領域20bの一部でのみ薄くなっている。その他の構成は、実施例2の圧電薄膜共振器200と同じであるため説明を省略する。
【0077】
なお、実施例2から実施例2の変形例5では、外周領域20bの上部電極16の下層16aが中央領域20aよりも薄い場合を例に示したが、外周領域20bの上部電極16の上層16bが薄い場合でもよいし、下層16aと上層16bの両方が薄い場合でもよい。また、上部電極16は、下層16aと上層16bの2層構造の場合に限られず、単層構造の場合や、3層以上の層構造の場合でもよい。下部電極12も同様に、単層構造や3層以上の層構造の場合でもよい。