(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
肉盛り加工を行うための肉盛り部材を供給する肉盛り部材供給部を備えた肉盛り加工部により、前記肉盛り部材供給部及び前記光束と、加工対象物と、を相対的に移動させつつ前記肉盛り部材供給部から前記加工対象物上に前記肉盛り部材を供給し、供給された前記肉盛り部材に前記光束を照射して肉盛り加工を行う
請求項6に記載のレーザ加工方法。
第1の金属からなる母材と、前記母材上に第2の金属により形成された肉盛り部と、前記母材と前記肉盛り部との間に配置された前記母材と前記肉盛り部とを溶融接合する合金部と、を含み、前記母材と前記合金部との接合面の形状が椀形状である肉盛り加工品の製造方法であって、
前記母材上に肉盛り部材が供給されているときに、発光点が複数配列された半導体レーザアレイによるレーザ光源から発生した光から得られる平行光を、光学素子により、光軸が異なる複数の平行光からなる光束に変換し、集光部により、集光点およびその近傍における前記光束を一部重畳部分を有して2つのスポットに分離させるとともに、前記2つのスポットの各々の形状を前記光束の進行方向に交差する方向に延伸された略矩形形状とし、かつ2つのスポットの中心部分における光強度を他の部分より低下させた前記光束を加工対象物に向けて集光させることにより、供給された前記肉盛り部材に前記光束を照射させ、肉盛り加工を行うことにより前記肉盛り部及び前記合金部を形成する、
肉盛り加工品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
加工対象物を加工する装置として、レーザ加工装置がある。レーザ加工装置を用いることにより、金属等の加工対象物に対して、穴あけ、切断、溶接、焼入れ、クラッディング(肉盛り)等の様々な加工を施すことが可能である。また、施す加工内容等に応じて、レーザ加工装置に用いるレーザ光源の、加工点近傍におけるレーザビームのプロファイル(光強度分布、エネルギー密度)、及びその形成方法についても、さまざま検討されてきている。
【0003】
上記のレーザ加工装置の一つとして、レーザ光源から出射されるレーザ光をガルバノスキャナを通じて加工対象物上で走査させることで、加工対象物に所望の加工を施す装置が知られている。ガルバノスキャナは、レーザ光源から出射され、集光されたレーザ光を反射するガルバノミラーと、該ガルバノミラーが駆動軸に取り付けられたガルバノモータとを備え、ガルバノモータの駆動を通じてガルバノミラーを往復動させることで、ガルバノミラーで反射されるレーザ光を加工対象物上で走査させる。このようなレーザ加工装置では、例えば、加工対象物をガルバノミラーの往復動と略直交する方向に相対移動させることで加工を進行させる(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、レーザビームのプロファイルに関する従来技術として、特許文献2に開示されたレーザ加工装置が知られている。特許文献2に開示されたレーザ加工装置は、レーザを出力する固体レーザ発振器と、固体レーザ発振器から出力されたレーザを集光し、加工対象物に照射させる光学系と、を有している。そして、固体レーザ発振器は、レーザの進行方向の中心を通る断面におけるビームプロファイルが、中心の外側に中心よりも出力が高い複数のピークが形成される形状のレーザを出力し、光学系は、焦点位置が加工対象物の加工位置に対してずれたレーザを加工対象物に照射する。特許文献2に開示されたレーザ加工装置では、このような構成を有することにより、加工対象物に照射されるレーザを、レーザが照射される領域の端部側の出力がより強い分布とすることができるので、加工対象物の加工領域の端部により強いレーザを照射することができ、高い精度で加工を行うことができるとしている。
【0005】
一方、レーザ加工の特質を生かした加工方法として、肉盛り加工がある。肉盛り加工とは、母材の所定部分に、母材とは異なった材料を溶融・凝固させ、母材の所定部分における表面の強度や耐摩耗性を向上させる加工である。レーザ加工では、この肉盛り加工の際の熱源として、レーザ光源が用いられている。
【0006】
肉盛り加工のためのレーザ加工装置を開示した文献として、特許文献3に開示されたレーザ加工装置が知られている。特許文献3に開示されたレーザ加工装置では、リンダヘッドのバルブシートに回転送りを与えながら、銅系合金粉末を所定量ずつ連続供給するとともに、凹面円柱鏡と、細い平面鏡をセグメントにもつ積分鏡とで線状に形成したレーザビームを銅系合金粉末の上から照射して、バルブシートに銅系合金の肉盛り層を形成する。
特許文献3に開示されたレーザ加工装置では、このような構成を有することにより、線状のレーザビームのエネルギー密度特性が肉盛り幅方向でほぼ均一なものとなることから、肉盛り幅方向での入熱量の部分的なばらつきが生じにくく、特に肉盛り幅方向での部分的な母材希釈のない良好な肉盛り層を形成することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーザ加工においては、加工内容、加工対象物、加工対象物に対する入熱(加工に際し、外部から加工点近傍に付与される熱量)プロファイル等に応じて、レーザ加工に用いるレーザ光源の望ましいビームプロファイルが異なるため、レーザ光源の加工点近傍におけるビームプロファイル、すなわち光強度分布は、柔軟に変えられることが求められる。
【0009】
この点に関し、特許文献1に開示されたようなレーザ加工装置は、点状に集光されたレーザビームを、ガルバノミラーで加工進行方向と略直交する方向に往復動させる構成のため、レーザビームにおける光強度分布の制御には不向きである。また、ガルバノモータやガルバノミラーの回動部等の可動部を有するので、装置の信頼性という面で劣り、また、ガルバノミラー自体が高価であるという欠点がある。
【0010】
一方、特許文献2に開示されたレーザ加工装置では、レーザビームの焦点をデフォーカスすることによって光強度分布を変えているが、このような方法では、光強度分布を変化させる光軸方向の移動範囲に限界があり、光強度分布の可変幅が小さいという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3に開示されたレーザ加工装置は、肉盛り加工に特化し、凹面円柱鏡と積分鏡との組合せという特殊な光学系を用いて、光強度分布を均一にすることを意図したものであり、光強度分布の柔軟な変更に対応したものではない。また、特許文献3に開示されたレーザ加工装置は反射型であるので、装置が大型化し、その分コストも高くなるという欠点がある。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成で加工点における光強度分布を柔軟に変えることができ、加工対象物に対する入熱を容易に制御することが可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のレーザ加工装置は、
発光点が複数配列された半導体レーザアレイによるレーザ光源と、前記レーザ光源から発生した光を平行光とするコリメート部と、前記平行光を、光軸が異なる複数の平行光からなる光束に変換して透過する変換部を備えた光学素子と、前記光束を加工対象物に向けて集光する集光部と、を含み、前記集光部による集光点およびその近傍における前記光束が
一部重畳部分を有して2つのスポットに分離されるとともに、前記2つのスポットの各々の形状が前記光束の進行方向に交差する方向に延伸された略矩形形状であ
り、かつ2つのスポットの中心部分における光強度が他の部分より低下しているものである。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学素子は、少なくとも2つの面で構成されるくさび形の前記変換部を備え、前記くさび形の稜線が前記レーザ光源の方向を向くようにして前記平行光内に配置されるものである。
【0016】
また、請求項
3に記載の発明は、請求項1
または請求項2に記載の発明において、肉盛り加工を行うための肉盛り部材を供給する肉盛り部材供給部を備えた肉盛り加工部をさらに備え、前記肉盛り加工部は、前記肉盛り部材供給部及び前記光束と、前記加工対象物と、を相対的に移動させつつ前記肉盛り部材供給部から前記加工対象物上に前記肉盛り部材を供給し、供給された前記肉盛り部材に前記光束を照射して肉盛り加工を行うものである。
【0017】
また、請求項
4に記載の発明は、請求項
3に記載の発明において、前記肉盛り加工部は、前記肉盛り加工を行って、内燃機関用のシリンダヘッドのバルブシートを形成するものである。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の光学系は、
発光点が複数配列された半導体レーザアレイによる光源から発生した光を平行光とするコリメート部と、前記平行光を、光軸が異なる複数の平行光からなる光束に変換して透過する光学素子と、前記光束を集光する集光部と、を含み、前記集光部による集光点およびその近傍における前記光束が
一部重畳部分を有して2つのスポットに分離されるとともに、前記2つのスポットの各々の形状が前記光束の進行方向に交差する方向に延伸された略矩形形状であ
り、かつ2つのスポットの中心部分における光強度が他の部分より低下しているものである。
【0019】
上記目的を達成するために、請求項6に記載のレーザ加工方法は、コリメート部により、
発光点が複数配列された半導体レーザアレイによるレーザ光源から発生した光を平行光とし、光学素子により、前記平行光を、光軸が異なる複数の平行光からなる光束に変換して透過し、集光部により、集光点およびその近傍における前記光束が
一部重畳部分を有して2つのスポットに分離されるとともに、前記2つのスポットの各々の形状が前記光束の進行方向に交差する方向に延伸された略矩形形状であ
り、かつ2つのスポットの中心部分における光強度が他の部分より低下している前記光束を加工対象物に向けて集光するものである。
【0020】
また、請求項
7に記載の発明は、請求項
6に記載の発明において、肉盛り加工を行うための肉盛り部材を供給する肉盛り部材供給部を備えた肉盛り加工部により、前記肉盛り部材供給部及び前記光束と、加工対象物と、を相対的に移動させつつ前記肉盛り部材供給部から前記加工対象物上に前記肉盛り部材を供給し、供給された前記肉盛り部材に前記光束を照射して肉盛り加工を行うものである。
【0021】
上記目的を達成するために、請求項8に記載の肉盛り加工品
の製造方法は、第1の金属からなる母材と、前記母材上に第2の金属により形成された肉盛り部と、前記母材と前記肉盛り部との間に配置された前記母材と前記肉盛り部とを溶融接合する合金部と、を含み、前記母材と前記合金部との接合面の形状が椀形状である肉盛り加工品
の製造方法であって、
前記母材上に肉盛り部材が供給されているときに、発光点が複数配列された半導体レーザアレイによるレーザ光源から発生した光から得られる平行光
を、光学素子により、光軸が異なる複数の平行光からなる光束に変換
し、集光部により、集光点およびその近傍における前記光束
を一部重畳部分を有して2つのスポットに分離
させるとともに、前記2つのスポットの各々の形状
を前記光束の進行方向に交差する方向に延伸された略矩形形状
とし、かつ2つのスポットの中心部分における光強度
を他の部分より低下
させた前記光束
を加工対象物に向けて集光
させることにより、供給された前記肉盛り部材に前記光束を照射
させ、肉盛り加工
を行
うことにより前記肉盛り部及び前記合金部を形成する、ものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易な構成で加工点における光強度分布を柔軟に変えることができ、加工対象物に対する入熱を容易に制御することが可能なレーザ加工装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
図1〜
図3を参照して本実施の形態に係るレーザ加工装置10について説明する。
図1(a)に示すように、レーザ加工装置10は、レーザ光源12、光学素子14、及びレンズ16を含んで構成されている。
【0026】
レーザ光源12は、加工に際しての熱を供給する熱源であり、本実施の形態では、半導体レーザを用いて構成されている。レーザ光源12は、図示しないコリメートレンズを内蔵し、半導体レーザから出射された光をコリメート光L0として出力する。また、レーザ光源12を構成する半導体レーザは、単体の半導体レーザであってもよいし、発光点が複数配列された半導体レーザアレイであってもよい。
【0027】
なお、本実施の形態では、レーザ光源12として半導体レーザを用いた形態を例示して説明するが、これ限られず、Nd:YAG(ネオジウム:イットリウム・アルミニウム・ガーネット)固体レーザ、ファイバレーザ、ファイバ伝送式レーザ(固体レーザの出力や、半導体レーザの出力を光ファイバで伝送する方式の光源)等、他の形態のレーザ光源を用いてもよい。
【0028】
本実施の形態に係る光学素子14は、コリメート光L0の光軸を変換することにより、レーザ光源12のビームプロファイルを変更する素子である。本実施の形態に係る光学素子14は、
図1(b)に示すように、外形が略円形とされた、レーザ光源12の波長に対して透明な素材、例えば石英等で構成され、
図1(c)に示すように、一方の側が、面P1、面P2及び稜線Rを有するくさび形の形状とされている。本実施の形態では、稜線Rが光学素子14の外形の中央に配置され、面P1と面P2とは同じ形状とされており(すなわち、左右対称とされており)、面P1と面P2とは頂角θをなして配置されている。
【0029】
光学素子14は、稜線Rをコリメート光L0に向けて配置されることにより、コリメート光L0の光軸が内側に向く角度となるように変換される。すなわち、
図1(a)に示すように、面P1を透過した透過光の光軸は+Z方向に曲げられ、面P2を透過した透過光の光軸は−Z方向に曲げられる。換言すると、光学素子14は、略均一な光強度分布を有するコリメート光L0の光路を変換すると共に、光強度分布を変換する(光強度分布に偏りをもたせる)素子である。なお、以下の説明においては、用語「ビームプロファイル」、及び「エネルギー密度」を、各々「光強度分布」と等価な意味で用いている。
【0030】
レンズ16は、光学素子14を透過し、光軸が変換された光を加工対象物に向けて集光する素子であり、光学素子14と共に、本実施の形態に係る光学系18を構成している。
レンズ16の集光作用により、光学素子14の面P1を透過した光は光束L1を形成し、面P2を透過した光は光束L2を形成する。その結果、本実施の形態に係るレーザ光の集光点(結像点)、あるいはそのY軸方向近傍におけるスポットSの形状は、Z軸の両方向に延伸された形状となり、例えば、
図1(a)に示すように、スポットS1とスポットS2とに分離された形状となる。本実施の形態では、このように、スポットSをZ軸方向に延伸された形状、あるいは2つに分離された形状とすることにより、スポットSの中心部分における光強度を線状に低下させ、中心部分にレーザ光のパワーが集中しないようにすることが可能となっている。
【0031】
このスポットSの中心部分の光強度、すなわち、スポットS1とスポットS2との分離の程度は、光学素子14の頂角θを変えることによって変えることが可能である。
図2を参照して、この頂角θとスポットSの光強度分布との関係について説明する。
図2(a)は、
図2(b)に示すくさび形の光学素子14の頂角θi(i=1〜6)を変化させた場合のスポットSの光強度分布を、光線追跡法で予測した結果であり、実験結果も極めて一致している。なお、本実験においては、光学素子14を、厚さ約5mmの石英基板を用いて作製している。
【0032】
図2(a)は、光学素子14の頂角θiを、θ1〜θ6(θ1>θ2>θ3>θ4>θ5>θ6、θ1≒180°)の6通りに変えた場合のスポットSにおける光強度分布を示している。
図2(a)において、横軸はビームの幅方向(
図1(a)におけるZ軸方向)の位置(単位mm)を、縦軸は光強度(任意スケール)を各々示しており、θ1〜θ6の角度幅(θ1−θ6)は、2°〜3°程度の範囲としている。
【0033】
図2(a)に示すように、頂角が略180°であるθ1の場合、つまり光学素子14が単に平板な透明基板の場合には、スポットSは、最大幅が2.5mm程度の単峰性の形状をなしている。つまり、
図1(a)において、光学素子14を除いた場合のスポットSは、
図2(a)においてθ1で示すような光強度分布と略等しい光強度分布となる。
【0034】
図2(a)に示すように、頂角θiをθ1から次第に小さくしていくと、まず光強度の分布におけるピーク値が半分程度に減少し(θi=θ3、θi=θ2では、肩の部分の光強度が半分程度に減少している)、ビームの幅が2倍程度に拡大する。それと同時に、スポットSの中央部分(
図2(b)において、ビームの幅方向の位置が0近傍の部分)の光強度が落ち込み始め(θi=θ3、θ4)、θi=θ5で2つのスポットS1、S2に分離している。換言すれば、光学系18の作用によって、レーザ光のスポットSは、
図1に示すY軸方向に平行な線状の中心部分の光強度を変化させることが可能となっている。そのため、スポットSと加工対象物とを、
図1に示すY軸方向に相対移動させて加工を進行させた場合の、加工進行方向に交差(直交)する方向の光強度分布を変化させることができる。
【0035】
このように、本実施の形態に係るレーザ加工装置10では、光学系18の作用によって、加工対象物の、加工点及び加工点近傍におけるスポットSの光強度分布、すなわちエネルギー密度を柔軟に変更可能なように構成されている。その結果、レーザ加工装置10を用いて行う加工等の内容に応じた加工点での入熱分布を得るための、最適な光強度分布を選択することが可能となっている。
【0036】
図3を参照し、本実施の形態に係るレーザ加工装置10による加工の一例について説明する。
図3は、2つの加工対象物W1とW2とを突き合わせ溶接する場合の加工例である。なお、
図3における加工対象物W1、W2は、例えば鋼板である。
【0037】
図3(b)は、従来技術に係るレーザ加工装置を用いた突き合わせ加工の様子を示している。
図3(b)に示すように、従来技術に係るレーザ加工装置においては、レーザ光源からの単一の光束Lが、分離された加工対象物W1及びW2に照射される。従って、光束Lと、加工対象物W1の端部との位置関係、及び加工対象物W2の端部との位置関係を同時に適切な位置関係とすることは困難である。そのため、例えば、加工対象物W1の端部と加工対象物W2の端部とで溶融の程度が異なる状態で突き合わせ加工することになり、必ずしもエネルギー効率がよいとはいえない。
【0038】
この従来技術に対し、本実施の形態に係るレーザ加工装置10では、分離された光束L1及びL2を、各々加工対象物W1及びW2に照射することができる。つまり、加工対象物W1の端部に対して光束L1を、加工対象物W2の端部に対して光束L2を、各々別々に照射することができる。そして、照射の際の光束L1とL1との距離は、光学素子14の頂角θによって調整が可能となっている。そのため、加工対象物W1の端部の溶融の程度と、加工対象物W2の溶融の程度とを略同じ状態として突き合わせ加工を行うことができる。そのため、エネルギー効率のよい突き合わせ加工が可能となり、また、溶融等に要する時間の節約にも効果がある。
【0039】
[第2の実施の形態]
図4〜
図6を参照して、本実施の形態に係るレーザ加工装置10aについて説明する。
レーザ加工装置10aは、本実施の形態に係るレーザ加工装置を肉盛り加工に適用した形態である。
図4(a)に示すように、レーザ加工装置10aは、上記のレーザ加工装置10に、肉盛り加工を行うための金属粉末供給機構30を追加したものとなっている。従って、レーザ光源12、光学素子14、及びレンズ16を含んで構成されるレーザ加工装置10は、上記の実施の形態に係るレーザ加工装置10と同じものなので、詳細な説明は省略する。
【0040】
金属粉末供給機構30は、ノズル32、及び図示を省略する金属粉末源及びその搬送部、搬送ガス及びその搬送部、遮蔽ガス及びその搬送部を含んで構成されている。
【0041】
図4(a)に示すように、ノズル32は、肉盛り部材としての金属粉末を、搬送ガス(例えば窒素ガス)と共に粉末混合ガスPGとして供給するための金属粉末・搬送ガス流路34と、肉盛り加工に際して、加工作業部位を外部から遮断するための遮蔽ガスSG(例えば窒素ガス)を供給する遮蔽ガス流路36を備えている。
図4(b)示すように、ノズル32は、+Y方向から見ると、金属粉末・搬送ガス流路34と遮蔽ガス流路36とが、同心円状に配置された構成となっている。そして、レーザ加工装置10aでは、光束L1、L2を加工点に照射しつつノズル32から金属粉末を噴射させて肉盛り加工を行う。その際、肉盛り加工を行っている作業部位を遮蔽ガスSGでシールドし、作業部位の周辺が、搬送ガスの雰囲気に維持されるようにしている。
【0042】
肉盛り加工では、粉末あるいはワイヤ等の形態で供給された材料(肉盛り部材)を、母材の表面に溶融接合させる。肉盛り加工におけるスポットSのエネルギー密度は、肉盛り部材を溶融するのに十分であり、かつ入熱される熱量が極力抑制されると共に、熱影響部(入熱に際し、該入熱の影響の及ぶ範囲)が極力狭くされる(母材の入熱による歪が極力少なくされる)程度とされることが望ましい。また、肉盛り加工においては、溶融した母材が肉盛り部材に拡散する、いわゆる希釈という現象が程度の差はあっても必然的に発生する。ところが、この母材の拡散が過度に進み、この希釈部の領域が大きくなると、肉盛り部に割れが発生したり、肉盛り部の特性が劣化し硬くて脆くなるという問題が発生する。
【0043】
上記点に関し、光学素子14を使用しない従来技術に係るレーザ加工装置のスポットSのエネルギー密度は、一般に、
図2(a)のθ1に示すように、スポットSの中央部分にレーザ光源のエネルギーが集中している。このような従来技術に係るスポットSのエネルギー密度は、上記のようなエネルギー密度が要求される肉盛り加工に適したエネルギー密度とは必ずしも一致していない。また、スポットSの光強度分布を均一な分布にする従来技術もあるが、このような光強度分布を採用したとしても、中心部分で加熱し過ぎる傾向にある。
【0044】
そこで、本実施の形態に係るレーザ加工装置10aでは、光学系18の作用を用いて、加工点及び加工点近傍のスポットSのエネルギー密度を、肉盛り加工において最適となるように調整している。より具体的には、スポットSの中央付近でエネルギー密度を抑制することにより、つまり、線状の中央付近のエネルギーを両側に分散させることにより、加工点及び加工点近傍における入熱分布が均一になるようにしている。その結果、加工点及び加工点近傍における熱の集中が緩和され、肉盛り部材を均一に溶融しつつ、しかも母材を溶融し過ぎることが抑制され、高品質の肉盛り加工品を得ることができる。
【0045】
次に、
図5及び
図6を参照して、レーザ加工装置10aによる肉盛り加工を、エンジン(内燃機関)のシリンダヘッドのバルブシートの形成に適用した場合を例示して、より詳細に説明する。
図5(a)は、シリンダヘッドを示す断面図、
図5(b)は、肉盛り加工を説明するための斜視図である。また、
図6は、当該肉盛り加工によって形成された肉盛り部の断面の状態を、従来技術による肉盛り部の断面の状態と比較して示した図である。
【0046】
図5(a)に示すように、エンジンの一部を構成するシリンダヘッド60の給排気用バルブ孔64の周縁部には、肉盛り加工によって形成されたバルブシート66が設けられている。このバルブシート66にバルブ68が当接したり、離間したりして、エンジン動作における吸気及び排気が行われる。従って、このバルブシート66は、硬度が高くなければならず、また、バルブシート66には、気密性と共に耐摩耗性が要求される。本実施の形態に係るレーザ加工装置10aを用いた肉盛り加工は、このような特性が要求されるバルブシートの形成に好適に用いることができる。
【0047】
図5(b)に示すように、シリンダヘッド60には、一例として4個の給排気用バルブ孔64が設けられている(すなわち、本例は、4気筒のエンジンの場合を例示している)。各給排気用バルブ孔64の周縁部には、シート面62が形成されている。このシート面62には、肉盛り部を形成するための溝が設けられる場合もある。本実施の形態では、シリンダヘッド60をアルミニウムで形成し、バルブシート66を銅で形成する形態を例示して説明する。なお、シリンダヘッド60を形成するアルミニウムはアルミニウム合金であってもよいし、バルブシート66を形成する銅は銅合金であってもよい。むろん、金属の組み合わせもこれらに限られず、他の金属の組合せを適用してもよい。
【0048】
肉盛り加工を行う場合には、
図5(b)に示すように、ノズル32から粉末混合ガスPGを噴出し、粉末混合ガスPGに含まれる金属粉末(本実施の形態では銅粉末)に、レーザ光源12からの光束L1、L2を照射する。光束L1、L2の照射を受けて熱せられた銅粉末が溶融し、焼結してシート面62上に銅の肉盛り部が形成される。この肉盛り部を、給排気用バルブ孔64の周縁部に沿って形成することにより、バルブシート66が形成される。同様に光束L1、L2の照射によって熱せられたシート面62のアルミニウムも溶融し、肉盛り部の下部には合金層が形成される。なお、
図5(a)では、煩雑さを避けるために、
図4に示すノズル32を、金属粉末・搬送ガス流路34に限定し簡略化して示している。
【0049】
図6を参照して、本実施の形態に係るレーザ加工装置10aを用いて形成されたバルブシート66の断面構造について説明する。
【0050】
図6(a)は、レーザ加工装置10aによって、アルミニウムの母材84上に形成された銅によるバルブシート66の断面構造を示している。
図6(a)に示すように、バルブシート66は肉盛り部80を有し、肉盛り部80の下部には、母材84の内部に食い込む形で、銅とアルミニウムの合金層(希釈層)82が形成されている。この合金層82は、レーザ光源12によって入熱された部位に形成されており、合金層82の輪郭の形状は、熱影響部と略等しくなっている。
【0051】
図6(a)に示すように、本実施の形態に係るバルブシート66の合金層82の形状は、段等のない、単純な凹形状(椀形状)をなしている。これは、バルブシート66の形成において、加工点及び加工点近傍におけるスポットSのエネルギー密度を中央部分で抑制することにより、加工点及び加工点近傍における入熱分布を均一化したことの効果によるものである。
【0052】
これに対し、
図6(b)は、従来技術に係るレーザ加工装置によって母材84上に形成されたバルブシート66aを示している。バルブシート66aも肉盛り部80aを有し、肉盛り部80aの下部には合金層82aが形成されている。
【0053】
図6(b)に示すように、バルブシート66aの合金層82aの形状は、バルブシート66の合金層82と異なり、段部Dを有している。これは、先述したように、従来技術に係るレーザ加工装置のビームスポットのエネルギー密度が、中央部分で比較的高いので、加工点の中央部分で過度に入熱されることによる。このような、過度に入熱された段部Dが存在すると、その部分の合金層82aが脆くなってしまう。本実施の形態に係るバルブシート66の合金層82は、段部D等を有さない単純な椀形状のため、このような問題の発生が抑制されている。
【0054】
なお、上記各実施の形態では、光学素子14として、左右対称な面P1、P2を備えたくさび形状の光学素子、すなわち軸対称である光学素子を例示して説明したが、これに限られない。要求される光強度分布等に応じてコリメート光L0に対する入射角度を変えることが可能であり、例えば、稜線Rを中心からずらした形態(面P1がZ軸となす角度と、面P2がZ軸となす角度が異なる形態)としてもよい。
【0055】
また、上記各実施の形態では、光学素子14を構成する面の数として、P1、P2の2面を例示して説明したが、これに限られず、要求される光強度分布等に応じて3面以上としてもよい。さらには、光学素子14を形成する面はくさび形に限られず、円錐形状としてもよい。円錐形状の面を有する光学素子14によれば、略円形状のスポットSの中心部分の光強度分布が、略円形状に制御される。つまり、リング(円環)形状のスポットSを得ることができる。
【0056】
また、上記各実施の形態では、略円形状の外形を有する光学素子14を例示して説明したが、これに限られず、要求される光強度分布等に応じて、他の形状、例えば、矩形、楕円等の形状を有する形態としてもよい。
【0057】
また、上記各実施の形態では、光学素子14として一体型(バルク型)のくさび形光学素子を用いた形態を例示して説明したが、これに限られない。例えば、曲率の異なる複数のレンズを組み合わせた組レンズを用いた形態としてもよいし、アレイ状のシリンドリカルレンズを用いた形態としてもよい。