特許第6441821号(P6441821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441821感染症の治療に用いる合成または組換えフコシル化オリゴ糖
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441821
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】感染症の治療に用いる合成または組換えフコシル化オリゴ糖
(51)【国際特許分類】
   C07H 5/06 20060101AFI20181210BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 31/726 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20181210BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20181210BHJP
【FI】
   C07H5/06CSP
   A61K31/702
   A61K31/726
   A61P31/14
   A23L33/125
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-558404(P2015-558404)
(86)(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公表番号】特表2016-509035(P2016-509035A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2014052912
(87)【国際公開番号】WO2014128057
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】13156224.1
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511297753
【氏名又は名称】イェンネワイン バイオテクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Jennewein Biotechnologie GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イェンネワイン,シュテファン
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−218992(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/120682(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/092153(WO,A1)
【文献】 特表2007−525487(JP,A)
【文献】 特表2001−518783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 5/06
A23L 33/125
A61K 31/702
A61K 31/726
A61P 31/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物におけるノーウォーク様ウイルス感染症またはロタウイルス感染症の治療または予防に用いるためのフコシル化オリゴ糖であって、該フコシル化オリゴ糖が非還元末端および還元末端を含み、前記還元末端がβ1−4グリコシド結合で結合したガラクトース(Gal)とグルコース(Glc)とからなる第1の糖鎖単位を含み、前記非還元末端が前記還元末端の第1の糖鎖単位とβ1−3グリコシド結合で結合した第2の糖鎖単位を含み、第2の糖鎖単位がa)少なくとも1以上のフコース(Fucose)および少なくとも1以上のガラクトース(Gal)、ならびにb)少なくとも1以上のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)または少なくとも1以上のN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含み、第2の糖鎖単位が、
GlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAc、
Galβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcおよび
Fucα1−2Galβ1−4GalNAc
から選択されることを特徴とする、フコシル化オリゴ糖。
【請求項2】
前記フコシル化オリゴ糖が、
GlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc、
Galβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcおよび
Fucα1−2Galβ1−4GalNAcβ1−3Galβ1−4Glc
の1以上から選択される、請求項1に記載の治療用または予防用のフコシル化オリゴ糖。
【請求項3】
請求項2に列挙したフコシル化オリゴ糖の1つまたは2つを組み合わせて用いる、請求項2に記載の治療用または予防用のフコシル化オリゴ糖。
【請求項4】
哺乳動物におけるノーウォーク様ウイルス感染症またはロタウイルス感染症の治療または予防に用いるための医薬組成物であって、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフコシル化オリゴ糖の少なくとも1つと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフコシル化オリゴ糖の少なくとも1つを含む合成栄養組成物。
【請求項6】
ヒト以外の哺乳動物におけるノーウォーク様ウイルス感染症を治療する方法または該感染症のリスクを低減させる方法であって、それを必要とする対象に、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフコシル化オリゴ糖、請求項4に記載の医薬組成物または請求項5に記載の合成栄養組成物を治療上有効な量投与する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物におけるノーウォーク様ウイルス感染症またはロタウイルス感染症の治療または予防に用いるための合成または組換えフコシル化オリゴ糖に関する。
【背景技術】
【0002】
ノーウォーク様ウイルス(NLV)は、ノロウイルスとも称される、カリシウイルス科に属する非エンベロープウイルスである。このウイルスは、ヒトのウイルス性急性胃腸炎の原因として最も多く、あらゆる年齢層に感染して症状を引き起こす。このウイルスの伝播は、糞便で汚染された食品や水を介して、また、人と人との接触によって、あるいは、飛沫したウイルスの表面汚染によって起こる。ノロウイルス感染症の特徴としては、吐気、激しい嘔吐、水様性下痢および腹痛が挙げられる。特に、乳幼児、高齢者、免疫系が低下している人では、重篤な感染症を発症して、死の危険にさらされることも多い。ノロウイルスは伝染性が高く、ウイルス粒子が数個でも存在すれば感染症を引き起こす可能性があることから、ノロウイルスおよびその感染者は急激に拡大する。また、ノロウイルスは洗浄剤に対する耐性も高いため、ノロウイルスの集団感染は、学校、病院、老人ホーム、保育所などで度々みられる。
【0003】
世界全体で見ると、ノロウイルス感染症およびその症状は3歳未満児において最も多い死亡原因の1つである。ドイツでは、2011年だけで15,000件を超える乳児(0〜12ヶ月齢)の感染症が報告されており、世界全体では約2,000万件の感染症が報告されているが、乳児の死亡件数のうち、ノロウイルス感染症が原因のものは200,000件を超えると推定されている。
【0004】
ノロウイルスの研究は、動物モデルがないため依然として難しい状況にあるが、近年、ノロウイルスの病原性を評価するための細胞培養モデルが開発された。また、組換えウイルス粒子を用いて、ボランティアを対象に試験を実施したところ、ノロウイルスのレセプターとして機能する組織血液型抗原(HBGAと略記する)が同定された。HBGAは、赤血球、胃粘膜、気道、泌尿生殖系および腸管の表面に発現している多様な構造を有するオリゴ糖である。α−1,2−フコシルトランスフェラーゼ(FUC2)を介してコードされるHBG抗原H1は、最も重要な遺伝的素因であることが明らかにされており、FUC2のホモ欠損型の変異遺伝子を持つ人は、ノロウイルスが原因の消化管感染症に対して耐性があることが確認されている。
【0005】
また別の研究により、これまでに試験に参加した成人のうち最大で90%がノロウイルスに対する抗体を有することが確認されているが、その免疫は6ヶ月程度しか持続しないため、感染性の同株による再感染を防御できないことも確認されている。
【0006】
現在もノロウイルス胃腸炎に対する使用可能なワクチンや原因療法すなわち原因治療法はないため、ノロウイルス胃腸炎に対する治療は、経口投与あるいは最終的には非経口投与による電解質補液を用いた対症療法に制限される。
【0007】
ノロウイルスと同様に、ロタウイルスによる感染症も乳幼児の重度の下痢の原因として最も多くみられる。ロタウイルスは、レオウイルス科の一属に分類される二本鎖RNAウイルスである。世界中のほぼすべての子供が5歳までに少なくとも1度はロタウイルスに感染する。ロタウイルスもノロウイルスと同様に糞口経路で伝播する。
【0008】
ロタウイルスは、通常、小児期の疾患の中でも管理の容易なものの1つとされているが、世界全体では依然として毎年450,000人を超える5歳未満児がロタウイルス感染で死亡し(そのほとんどが開発途上国で暮らす子供である)、200万人程度が重症化する。ロタウイルス感染症の発症率および重症度は、小児期に行う定期予防接種制度にロタウイルスワクチンを加えた国々では減少しているが、ノロウイルスとロタウイルスの両方の感染を予防するワクチンがあれば非常に有益であろう。
【0009】
Marionneauら(“Norwalk Virus Binds to Histo−Blood Group Antigens Present on Gastroduodenal Epithelial Cells of Secretor Individuals”,Gastroenterology(2002) 122:1967−1977)により、組換えノーウォークウイルス様粒子がヒトの胃十二指腸の上皮細胞表面に存在する糖鎖をリガンドとして利用することが示されている。
【0010】
さらに、Morrowら(“Human Milk Oligosaccharides are associated with protection against Diarrhea in Breast−fed Infants”,J.Pediatr.(2004) 145:297−303)により、ミルクオリゴ糖中の2位フコシル化オリゴ糖の割合(%)が高い母乳を摂取している乳児では、カンピロバクターやカリシウイルスが原因で起こる下痢の発生頻度が低いことが確認されている。
【0011】
これに関連して、国際公開第2005/055944号では、感染症の治療におけるオリゴ糖組成物の使用、特に2−フコシルラクトースがヒト血清アルブミンに結合した糖タンパク質の使用が開示されている。
【0012】
このように、ノロウイルス感染症の治療または予防に対する様々な取り組みがなされているものの、ノロウイルス感染症の治療や予防に対する効果が実際に確認されたワクチンや組成物はいまだ得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、ノロウイルス感染症の治療または予防に有効な新規の物質および組成物が今もなお求められており、そのような物質またはそのような物質を含む組成物を提供することが本発明の目的の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的およびその他の目的は、冒頭に記載の物質によって達成される。冒頭に記載の物質とは、非還元末端および還元末端を含む合成または組換えフコシル化オリゴ糖であって、前記還元末端がβ1−4グリコシド結合で結合したガラクトース(Gal)とグルコース(Glc)とからなる第1の糖鎖単位を含み、前記非還元末端が前記還元末端の第1の糖鎖単位とβ1−3グリコシド結合で結合した第2の糖鎖単位を含み、第2の糖鎖単位がa)少なくとも1以上のフコース(Fuc)および少なくとも1以上のガラクトース(Gal)、ならびにb)少なくとも1以上のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)または少なくとも1以上のN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含み、第2の糖鎖単位がFucα1−2Galβ1−3GlcNAc、GlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAc、Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc、Galβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAc、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcおよびFucα1−2Galβ1−4GalNAcから選択されることを特徴とする合成または組換えフコシル化オリゴ糖である。
【0015】
好ましい一実施形態において、前記オリゴ糖が、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc、GlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc、Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc、Galβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcおよびFucα1−2Galβ1−4GalNAcβ1−3Galβ1−4Glcの1以上から選択されることが特に好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、上述したフコシル化オリゴ糖の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つまたは6つを組み合わせたものに関する。
【0017】
本明細書における「オリゴ糖」は、現在の技術水準において一般に理解されているように、少数の、通常3〜10の単純糖(すなわち単糖)を含む糖ポリマーを意味する。したがって、「フコシル化オリゴ糖」はフコース残基を含む糖ポリマーである。
【0018】
本明細書における「糖鎖単位」は、グリコシド結合で結合した2つ以上の単糖を含む糖単位として理解される。したがって、本明細書においては「糖鎖」と「糖」は同じ意味で用いられる。
【0019】
本発明はまた、上記した合成フコシル化オリゴ糖を少なくとも1つと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0020】
本発明の医薬組成物の調製は、通常、有効成分(すなわち本発明のオリゴ糖)を担体と混合するか、担体で希釈するか、または担体内に内包するかのいずれかで行われる。単位剤形または医薬組成物として、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、水性および非水性の経口液剤、水性および非水性の経口懸濁剤、ならびに非経口液剤などの形態が挙げられる。また、皮下インプラントを含む徐放製剤など、様々な投与方法に合わせた単位剤形として提供することも可能である。投与方法としては、経口、直腸、非経口(例えば筋肉内、腹腔内、静脈内もしくは嚢内への注射もしくは注入、皮下注射またはインプラント)、吸入噴霧、経鼻、舌下、局所などの経路を用いた投与方法が挙げられる。また、本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明の医薬組成物および/またはオリゴ糖は、患者の消化管から、例えば胃ゾンデを用いて、腸内投与することも可能である。
【0021】
非経口製剤としては、薬学的に許容される水性または非水性の液剤、分散液剤、懸濁剤、乳剤およびこれらに調製可能な滅菌散剤が挙げられる。担体としては、水、エタノール、多価アルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。固体剤形用の担体としては、充填剤または増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、吸着剤、滑沢剤、緩衝剤および噴射剤が挙げられる。
【0022】
また、組成物は保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤(dispensing agents)などの補助剤;パラベン、クロロブタノール、フェノールおよびソルビン酸などの抗菌剤;糖類または塩化ナトリウムなどの等張化剤;モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤;ならびに吸収強化剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明は特定の製剤や特定の投与方法に限定されない。一実施形態において、本発明の組成物は経口投与するための製剤として調製され、このような医薬組成物は、本発明のオリゴ糖を1日当たり約0.1〜約20mg/kgの用量で経口投与するための製剤として調製することができる。
【0024】
またこのような医薬組成物は、固体、液体のいずれの形態の製剤とすることもできる。例えば、本発明の医薬組成物を、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤および同様の配合製剤などの固体製剤としてもよく、シロップ剤、注射剤などの液体製剤としてもよい。
【0025】
またこのような医薬組成物は、該組成物を投与するための指示手段と共にキットに含まれていてもよい。
【0026】
本発明の別の実施形態において、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の合成フコシル化オリゴ糖の少なくとも1つを含む合成栄養組成物が提供される。
【0027】
本発明の医薬組成物および/または栄養組成物は、約0.001mg/mL〜約15mg/mLの本発明の合成オリゴ糖を含むことが好ましい。
【0028】
上記または本明細書内に記載の数値範囲は、具体的な開示の有無にかかわらず、その範囲内に含まれるすべての数値およびそのあらゆる部分集合を含むものであることに留意されたい。
【0029】
本明細書における「栄養組成物」は、当該技術分野で公知の液体栄養剤、粉末栄養剤、半固形化栄養剤、半流動性栄養剤、栄養補助食品およびその他の栄養食品を含む合成処方物を意味するものであり、上記粉末栄養剤は液体栄養剤に再構成可能なものであってもよい。上記の組成物はヒトでの経口摂取に好適である。ただし、上記の組成物はヒトの母乳やヒトの母乳からの精製物は含有しない。
【0030】
本発明の栄養組成物は、本発明の医薬組成物も同様であるが、本発明のオリゴ糖を1以上含んでいてもよい。したがって、本発明の栄養組成物および医薬組成物は、本発明のオリゴ糖を2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ含んでいてもよい。また、本発明の組成物に含まれる本発明の各オリゴ糖の量は同一であっても異なっていてもよく、どのオリゴ糖をどのくらいの量用いるべきかは、(例えば、治療対象者の血液型、年齢、体重および全般的な健康状態に応じて)当業者が容易に判断できるものである。
【0031】
「合成または組換えフコシル化オリゴ糖」は、具体的には、母乳から精製したフコシル化オリゴ糖を含まず、化学合成または組換え微生物を利用した発酵により得られる本発明のフコシル化オリゴ糖のみを包含する。本発明の合成オリゴ糖の生成方法としては、化学合成、単離した酵素(フコシルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼなど)を用いる生物有機合成、または本発明のフコシル化オリゴ糖の合成に必要なグリコシルトランスフェラーゼを発現する組換え微生物を利用する完全発酵などが挙げられる。
【0032】
また本発明は、哺乳動物におけるノーウォーク様ウイルス感染症を治療する方法または該感染症のリスクを低減させる方法にも関し、この方法は、それを必要とする対象に治療上有効な量の本発明の合成フコシル化オリゴ糖、医薬組成物または合成栄養組成物を投与する工程を含む。
【0033】
ノーウォーク様ウイルス感染症の治療または該感染症のリスクの低減を必要とする対象は、それを必要とする成人、乳児、幼児、児童のいずれであってもよい。また、本発明のオリゴ糖、または本明細書に開示されるオリゴ糖の2つ以上から構成される混合物は、それ自体、すなわち別の成分を含まない状態で投与してもよく、また組成物として投与してもよいが、本発明のオリゴ糖またはその混合物としての投与量は約0.001mg/mL〜約15mg/mLの範囲でありうる。
【0034】
本発明の医薬組成物、栄養組成物および方法は、本明細書に記載のそれぞれの組成物および方法の必須要素と、追加的または選択可能な要素として本明細書に記載されている要素または本明細書に記載はないものの栄養製品での使用が有用とされている要素とを含んでいてもよく、また、これら要素からなっていてもよく、また、本質的にこれら要素からなっていてもよい。
【0035】
本発明の開示において単数で表示される特徴または制限に関する記述はすべて、別段の定めがない限り、または当該記述を含む文脈によって明らかに異なる解釈がなされる場合を除いては、対応する複数で表示される特徴または制限を含むものとし、その逆も同様とする。
【0036】
本発明は、本明細書に開示される新規のオリゴ糖がヒトの体内で、ノロウイルスおよびロタウイルスが結合するそれぞれの標的レセプターに結合して、ノロウイルスおよびロタウイルスとそれらレセプターとの結合を阻害するという事実を利用したものである。
【0037】
したがって、本発明のオリゴ糖がヒトの体内に存在すると、該オリゴ糖は人体に感染したノロウイルスまたはロタウイルスに結合してオリゴ糖−ウイルス複合体を形成する。この新規のオリゴ糖によって、ノロウイルスまたはロタウイルスがヒト細胞への結合(次いで、細胞内への侵入)に利用する該ウイルス自体のレセプターがブロックされるため、ノロウイルスおよび/またはロタウイルスのヒト細胞への吸着が妨害または阻害され、その結果、ノロウイルスおよび/またはロタウイルスの細胞内への侵入が効率的に阻止される。
【0038】
したがって、本明細書に示す新規の合成オリゴ糖は、ノロウイルス感染症およびロタウイルス感染症の防御に有効なツールを提供するものであり、急性感染症の治療に使用してもよく、また、ノロウイルス感染症および/またはロタウイルス感染症に対するワクチン接種に使用してもよい。
【0039】
さらなる利点は、各実施形態の説明および添付した図面から理解されるものである。
【0040】
当然のことながら、上述した特徴および以下に説明する特徴については、個々に明記した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を図示し、以下の記載においてより詳細に説明する。各図は以下の通りである。
【0042】
図1】本発明の合成オリゴ糖、特に、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc(A)、GlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc(B)、Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc(C)、Galβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc(D)、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glc(E)およびFucα1−2Galβ1−4GalNAcβ1−3Galβ1−4Glc(F)を示した図である。
【0043】
図2】本発明のオリゴ糖の作用機序を示した概略図である。(A)は、本発明のオリゴ糖による治療/予防を行っていない場合のウイルス感染の様子を示した図である。(B)は、本発明のオリゴ糖による感染防御の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
<実施例>
図1は、ノロウイルス感染症および/またはロタウイルス感染症の治療または予防において具体例として用いられる6種のオリゴ糖を示したものである。AはFucα1−2Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示し、BはGlcNAcα1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示し、CはGalβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示し、DはGalβ1−3(Fucα1−2)Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示し、EはFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示し、FはFucα1−2Galβ1−4GalNAcβ1−3Galβ1−4Glcを示す。上記式において、Galはガラクトース単糖単位を示し、Glcはグルコース単糖単位を示し、GalNAcはN−アシル化ガラクトサミン単糖単位を示し、GlcNAcはグルコサミン単糖単位を示す。
【0045】
本発明のオリゴ糖の単糖単位間のグリコシド結合について、図1Aに示すオリゴ糖を例として説明する。図1Aに示すオリゴ糖の構造において、各単糖単位は以下のように結合している。フコースはガラクトースとα1→2グリコシド結合で結合しており、ガラクトースはさらにN−アセチルグルコサミンとβ1→3グリコシド結合で結合しており、N−アセチルグルコサミンはさらに別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0046】
図1Bに示すオリゴ糖の構造において、各単糖単位は以下のように結合している。N−アセチルグルコサミンはガラクトースとα1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースにはフコースもα1→2グリコシド結合で結合している。さらに、ガラクトースは別のN−アセチルグルコサミンとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このN−アセチルグルコサミンはさらに別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0047】
図1Cに示すオリゴ糖の構造において、ガラクトースはN−アセチルグルコサミンとβ1→4グリコシド結合で結合しており、このN−アセチルグルコサミンにはフコースもα1→3グリコシド結合で結合している。さらに、N−アセチルグルコサミンは別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0048】
図1Dに示すオリゴ糖の構造において、ガラクトースは別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、後者のガラクトースにはフコースもα1→2グリコシド結合で結合している。さらに、後者のガラクトースはN−アセチルグルコサミンとβ1→3グリコシド結合で結合しており、N−アセチルグルコサミンはさらに別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0049】
図1Eに示すオリゴ糖の構造において、フコースはガラクトースとα1→2グリコシド結合で結合しており、ガラクトースはさらにN−アセチルグルコサミンとβ1→4グリコシド結合で結合しており、N−アセチルグルコサミンはさらに別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0050】
図1Fに示すオリゴ糖の構造において、フコースはガラクトースとα1→2グリコシド結合で結合しており、ガラクトースはさらにN−アセチルガラクトサミンとβ1→4グリコシド結合で結合しており、N−アセチルガラクトサミンはさらに別のガラクトースとβ1→3グリコシド結合で結合しており、このガラクトースはさらにグルコースとβ1→4グリコシド結合で結合している。
【0051】
本発明のオリゴ糖は、単純炭素源(例えばグリセロール、グルコースまたはスクロース)とラクトースから組換え微生物を用いた発酵により得られるが、単離した酵素(または細胞全体)を用いる酵素的合成によって得ることもでき、このようにして得られた本発明のオリゴ糖を患者に投与する。
【0052】
本発明のオリゴ糖の作用機序を図2に示す。図2Aから分かるように、本発明のオリゴ糖で処置していない人では、ノロウイルス/ロタウイルス粒子がヒト細胞にあるそれぞれのレセプターに結合可能であるため、ノロウイルス/ロタウイルスによる感染が起こる。
【0053】
一方、図2Bに示すように、本発明のオリゴ糖で処置した人では、ノロウイルス/ロタウイルスのヒト細胞表面レセプターとの結合部位が本発明のオリゴ糖によって占有またはブロックされているため、ノロウイルス/ロタウイルスはそれぞれが標的とするレセプターに結合することができず、ノロウイルス/ロタウイルスのヒト細胞への結合が阻止される。
【0054】
したがって、本発明のオリゴ糖を用いることにより、ノロウイルス/ロタウイルス感染症を効率的に予防および/または治療することができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2