【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明する。以下の実験例では、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けた「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシート」を例にして説明するが、以下のものに限定されず、金属ナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシートであれば、金属ナノシートの種類も金属ルテニウムナノシートに限定されない。
【0053】
[実験例1]
最初に、酸化ルテニウムナノシートを作製し、その後、酸化ルテニウムナノシートコロイドを用いて酸化ルテニウムナノシートをカーボンに担持させ、その後、還元して金属ルテニウムナノシート/カーボン担体とし、最後に、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けて、「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルからなるコアシェル構造型ナノシート」を作製した。以下、順に説明する。
【0054】
<酸化ルテニウムナノシートの作製>
最初に、酸化ルテニウムナノシートを得るための層状酸化ルテニウムを作製した。層状酸化ルテニウムは、酸化ルテニウムとアルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)との複合酸化物であり、中でもK
0.2RuO
2.1・nH
2O、及びNa
0.2RuO
2・nH
2Oは、イオン交換能を利用することで層一枚単位にまで層剥離することが可能であるので、これにより酸化ルテニウムナノシートを得ることができる。
【0055】
具体的には、先ず、酸化ルテニウム(RuO
2)と炭酸カリウム(K
2CO
3)とをモル比8:5の割合となるように量り取り、メノウ乳鉢を用いてアセトン中で1時間湿式混合した。その後、錠剤成形器を用いて混合粉末をペレット化した。このペレットをアルミナボートにのせ、管状炉にてアルゴン流通下で850℃、12時間焼成した。焼成後、ペレットを粉砕し、イオン交換蒸留水で洗浄し、上澄み液を取り除いた。この操作を上澄み液が中性になるまで繰り返したものを層状酸化ルテニウム(カリウム型)とした。
【0056】
次に、層状酸化ルテニウム(カリウム型)に1MのHClを加え、60℃のウォーターバス内で72時間酸処理をして、層状酸化ルテニウム(カリウム型)に含まれるK
+イオンを水素イオン(プロトン)に置換した。その後、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除いた。この操作を上澄み液が中性になるまで繰り返し、ろ過後に、層状酸化ルテニウム(水素型:H
0.2RuO
2.1)の粉末を得た。
【0057】
<酸化ルテニウムナノシートコロイドの調製>
次に、得られた層状酸化ルテニウム(水素型:H
0.2RuO
2.1)に、酸化ルテニウムナノシートを得る剥離剤としての10%TBAOH水溶液を加えた。層状酸化ルテニウム(水素型:H
0.2RuO
2.1)の濃度を、TBAOHとプロトンとの割合で、TBA
+/H
+=1.5、固液比=4g/Lとした。その後、層状酸化ルテニウム(水素型:H
0.2RuO
2.1)を蒸留水に加え、10日間振とうさせた。この方法で単層剥離させた酸化ルテニウムナノシートを2000rpmで30分間遠心分離した後、上澄み液を回収して、超純水にて濃度を10mg/mLとした酸化ルテニウムナノシートコロイドを得た。
【0058】
コロイド中の酸化ルテニウムナノシートの寸法は以下のようにして測定した。先ず、シリコンウエハを1質量%ポリビニルアルコール−ポリジアリルアミン共重合ポリマー水溶液中に10分間浸漬した後、水で数回洗浄し、乾燥した。次に、10mg/mLとした酸化ルテニウムナノシートコロイドを希釈して0.08mg/mLの酸化ルテニウムナノシート水分散液とし、この水分散液に2分浸漬した後、水で数回洗浄し、乾燥した。酸化ルテニウムナノシートの寸法は、原子間力顕微鏡(AFM)像の観察画像から測定した。具体的には、鱗片形状の酸化ルテニウムナノシートについて、最大長さとその最大長さの中点で直交する長さとを測定し、それらの平均を出して「寸法」とした。これを70〜80箇所繰り返した。その結果、酸化ルテニウムナノシートの寸法は、150nm
以上550nm以下の酸化ルテニウムナノシートが全体の70%以上であり且つモード径が200nm以上450nm以下であった。
【0059】
<金属ルテニウムナノシート/カーボン担体の作製>
次に、酸化ルテニウムナノシートコロイドを用いて酸化ルテニウムナノシートをカーボン担体に担持させ、その後、酸化ルテニウムナノシートを還元して、金属ルテニウムナノシートが担持したカーボン担体を作製した。
【0060】
具体的には、先ず、酸化ルテニウムナノシートを高比表面積カーボンと組み合わせるために、10mg/mLとなるようにカーボンを超純水15mL中に加え、撹拌を30分間及び超音波処理を30分間行って分散させて、カーボン分散溶液を得た。次に、このカーボン分散溶液に、酸化ルテニウムナノシートが10質量%でカーボン担体に担持するように、任意量の酸化ルテニウムナノシートコロイドを撹拌しながらゆっくり滴下した。酸化ルテニウムナノシートコロイドの濃度は任意に調整できるが、ここでは上記のように10mg/mLとした。さらに、均一な反応を確保するために、撹拌、超音波処理、60℃での静置、デカンテーション(中性になるまで水洗浄)を順に行った後、120℃で12時間乾燥させ、その後に粉砕して、「酸化ルテニウムナノシート/カーボン担体」を得た。得られた「酸化ルテニウムナノシート/カーボン担体」をアルミナボートに載せ、管状炉にて水素と窒素との還元雰囲気下で120℃、2時間焼成して還元した。水素流量は10cc/分で、窒素流量は150cc/分で、これらのガスを混合して管状炉へ流した。焼成後に粉砕して、「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」を得た。
【0061】
<金属ルテニウムナノシートコア/白金シェルの作製>
次に、金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けて、「金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル」からなるコアシェル構造型ナノシートを作製した。
【0062】
具体的には、先ず、2−プロパノール/超純水溶液(75/25体積割合)10mLに、上記で得られた「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」5mgを混合して、触媒分散液を準備した。この触媒分散液には、試験電極に対して良好な密着性を確保するためのプロトン伝導性バインダーとして、5質量%のナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標)溶液45μLを加えた。こうして得られた触媒分散液を30分間超音波処理した。
【0063】
金属ルテニウムナノシートの表面に白金原子層を設けるためには、「金属ルテニウムナノシート/カーボン担体」を電極上に設け、電気化学的手段であるアンダーポテンシャル析出法を適用する必要がある。そのために用いる電極として、直径6mmのグラッシーカーボンを用い、予め0.05μmの酸化アルミニウム粉末を用いてその端面をバフ研磨し、その後、真空中で60℃にて乾燥させた。この電極端面の表面は、0.5MH
2SO
4(25℃)電解液を使用して電気化学的な表面清浄化を行った(E=0.05〜0.8V vs.RHE、v=50mV/s)。表面洗浄した電極端面に上記した触媒分散液を滴下して、実験に供する電極を作製した。このときの電極の端面上における金属ルテニウムナノシートの重量は0.45μgであった。この電極を室温で自然乾燥させ、その後60℃での真空乾燥を30分間行った。
【0064】
この電極を、窒素ガスで脱気した2mM硫酸銅を含む0.5MH
2SO
4中で、可逆水素電極(RHE)に対して0.3Vで20分間保持した。こうして、金属ルテニウムナノシートの表面上に銅の単原子層をアンダーポテンシャル析出させた。この電極を、脱気した0.5Mテトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液に素早く浸漬し、そのまま20分間経過させることで、銅原子を白金原子に置換して、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:1回)からなるコアシェル構造型ナノシートを得た。なお、このアンダーポテンシャル析出と白金置換とによるUPD−白金置換法の回数は繰り返すことができ、括弧内は繰り返し回数を示す。
【0065】
[各測定とその結果]
<電気化学的測定>
得られたコアシェル構造型ナノシートの電気化学的測定は、標準的な三電極型の電気化学セルを用いたRDE測定で行った。試料電極として、上記したコアシェル構造型ナノシートを設けた直径6mmのグラッシーカーボンを用い、カウンター電極として、炭素繊維(TohoTenax社製、HTA−3K、フィラメント番号:3000)を用い、参照電極として、可逆水素電極(RHE)を用いた。RDE測定は、0.1MのHClO
4電解液中で行った。以下の電気化学的測定、このRDE測定で行った。
【0066】
<各種の触媒形態の観察>
図3(A)は、金属ルテニウムナノシートをカーボンに担持した電極触媒であり、
図3(B)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒であり、
図3(C)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒である。
図3(B)と
図3(C)に示すコアシェル構造型ナノシートは、いずれもナノシート形態が観察できた。
【0067】
<電気化学的活性表面積の評価実験>
図4は、UPD−白金置換法による白金原子層の形成ステップの繰り返し回数(1回〜5回)と、得られた金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:1回〜5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒における電気化学的活性表面積(ECSA)との関係を示すグラフである。
【0068】
電気化学的活性表面積(ECSA)の評価は、上記したRDE測定用の試料電極を用い、サイクリックボルタモグラムの結果を利用して行った。具体的には、UPD−白金置換法を1回〜5回行ったそれぞれの試料電極を用い、サイクリックボルタモグラムの水素吸着領域における電気量から電気化学的活性表面積(ECSA)を算出した。ECSAは、UPD−白金置換法を繰り返すことで増加し、特に、1回と2回の差が大きかった。また、2回以降は、徐々に増加した。1回と2回の大きな差は、金属ルテニウムナノシートの表面の白金原子層の被覆割合に基づいているものと考えられ、1回では白金原子層が十分に被覆しておらず、2回以上繰り返すことにより、白金原子層が十分に被覆していることを示している。また、2回以上繰り返すことによる増加は、表面のラフネス(微細粗さ)が増加したことに起因すると考えられる。なお、従来公知のPtナノ粒子(平均直径3nm)/カーボン担体のECSAは、79m
2/(g−Pt)であったので、この実験例1で得られたコアシェル構造型ナノシートによって、1.6倍〜1.9倍のECSAの増加が確認できた。
【0069】
<CO酸化反応活性の評価実験>
図5(a)は、Ptナノ粒子をカーボンに担持した従来公知の電極触媒(「Ptナノ粒子/C」で表す。)について、白金量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、
図5(b)は、PtRu合金ナノ粒子をカーボンに担持した従来公知の電極触媒(「PtRu/C」で表す。)について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムであり、
図5(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなる本発明のコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けたCOストリッピングボルタモグラムである。
【0070】
図5(a)に示すように、Ptナノ粒子/Cでは、CO酸化ピーク電位が0.79V程度であったが、PtRu合金/Cでは、CO酸化ピーク電位が0.57Vに低下し、CO酸化反応活性が向上していた。金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートでは、CO酸化ピーク電位が0.57Vであり、PtRu/Cと同等のCO酸化反応活性であることがわかった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをアノード触媒として利用することが期待できる。
【0071】
<水素酸化反応活性の評価実験>
図6(a)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのリニアスイープボルタモグラムであり、
図6(b)は、PtRuナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた水素中でのストリッピングボルタモグラムである。
【0072】
図6に示すように、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートについての水素酸化反応の電流値は、PtRu/Cの電流値よりも高く、水素酸化反応活性が高かった。
【0073】
<CO耐性の評価実験>
CO/H
2に対する水素酸化反応活性は、水素酸化反応にかかる電流値の低下速度を評価することで、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートのCO耐性を検討した。
図7(a)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H
2中でのクロノアンペログラムであり、
図7(b)は、PtRuナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、PtRu量で割付けた300ppmCO/H
2中でのクロノアンペログラムである。
【0074】
図7(a)に示すように、測定開始1時間(3600秒)後でも、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートの水素酸化反応電流は、
図7(b)のPtRu/Cよりも高かった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、高いCO耐性を有することがわかった。
【0075】
また、耐久試験後でも、
図8(a)に示すように、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートの水素酸化反応電流は、ほとんど減少していないことに加え、
図8(b)のPtRu/Cよりも高かった。このことから、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:2回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、高い耐久性を有することがわかった。
【0076】
<ORR活性の評価実験>
図9(a)は、Ptナノ粒子がカーボン担体に担持した電極触媒について、Pt量で割付けたORR活性のグラフであり、
図9(b)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、Pt量で割付けたORR活性のグラフであり、
図9(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、Pt量で割付けたORR活性のグラフである。
【0077】
酸化還元反応(ORR)活性については、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートは、Ptナノ粒子/Cの3.7倍の1068A/(g−Pt)であった。また、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートも、Ptナノ粒子/Cよりも高いORR活性を示した。
【0078】
<カソード触媒の耐久性の評価実験>
カソード触媒の耐久性を、ECSAの減少率で評価した。
図10(a)は、Ptナノ粒子をカーボンに担持した電極触媒について、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、
図10(b)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:4回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットであり、
図10(c)は、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:5回)からなるコアシェル構造型ナノシートをカーボンに担持した電極触媒において、初期ECSAで規格化したときのECSA減少率のプロットである。
【0079】
図10に示すように、耐久試験において、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:
4回及び5回)からなるコアシェル構造型ナノシートにおけるECSAの低下度合いは、Ptナノ粒子/Cの場合よりも顕著ではなく、金属ルテニウムナノシートコア/白金シェル(UPD−白金置換法:
4回及び5回)からなるコアシェル構造型ナノシートが、Ptナノ粒子/Cよりも高い耐久性を有することがわかった。