特許第6441838号(P6441838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441838
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】解析装置及び分離装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20181210BHJP
   G01N 15/00 20060101ALI20181210BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G01N27/00 B
   G01N15/00 B
   C12M1/34 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-16119(P2016-16119)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-134020(P2017-134020A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515279762
【氏名又は名称】株式会社AFIテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125874
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 純市
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅代
(72)【発明者】
【氏名】糸井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】円城寺 隆治
(72)【発明者】
【氏名】戸井 雅和
(72)【発明者】
【氏名】西村 友美
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−127418(JP,A)
【文献】 Bashar Yafouz,Dielectrophoretic Manipulation and Separation of Microparticles Using Microarray Dot Electrodes,Sensors,2014年 4月 3日,Vol.14/Iss.4,PP.6356-6369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00
C12M 1/34
G01N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体粒子に対する誘電泳動力が斥力から引力に又は引力から斥力に切り替わるクロスオーバー周波数を解析する解析装置であって、
誘電泳動液中に前記誘電体粒子を含む試料液が流れる第1流路と、
前記第1流路に配置された一対の第1電極と、
前記一対の第1電極に、周波数変調された交流電圧を印加する第1電源部と、
前記第1流路における前記一対の第1電極間を流れる前記誘電体粒子の移動軌跡を撮影する撮影部と、
前記移動軌跡を撮影した画像に基づいて、前記誘電体粒子のクロスオーバー周波数を求める解析部と、
を備える解析装置。
【請求項2】
前記第1流路の前段に配置され、前記誘電体粒子を含む懸濁液と前記誘電泳動液とが導入される第2流路と、前記第2流路から分岐する分岐流路とを有し、前記懸濁液における溶液を前記分岐流路に分岐させることにより、前記懸濁液における溶液を前記誘電泳動液に置換して前記試料液を生成する置換部をさらに備え、
前記置換部は、前記試料液における前記誘電体粒子を個々に順次に前記第2流路から前記第1流路へ導出する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
誘電体粒子の分離を行う分離装置であって、
前記請求項1又は2に記載の解析装置と、
前記解析装置の前記第1流路における前記一対の第1電極の後段に配置された一対の第2電極と、
前記一対の第2電極に、所定周波数の交流電圧を印加する第2電源部と、
前記解析装置で解析された誘電体粒子が前記第1流路における一対の第2電極を通過するときに、当該誘電体粒子が誘電泳動を起こすように、前記所定周波数を、当該誘電体粒子に対して前記解析装置で求められたクロスオーバー周波数に基づいて制御する制御部と、
を備える分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細菌や細胞等の誘電体粒子に対する誘電泳動力が斥力から引力に又は引力から斥力に切り替わるクロスオーバー周波数を解析する解析装置、及び、誘電体粒子を分離する分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌や細胞等の誘電体粒子を、誘電泳動を利用して分離する分離手法が知られており、この種の誘電体粒子の分離のために、誘電体粒子に対する誘電泳動力が斥力から引力に又は引力から斥力に切り替わるクロスオーバー周波数を解析する解析手法が知られている。
【0003】
特許文献1は、誘電泳動を利用した粒子状物質の特性分析を行うにあたって、印加する交流電圧周波数の最適化を行う特性分析方法を開示する。この特性分析方法は、流体中の粒子状物質を少なくとも一つ選択する工程と、一対の電極近傍に選択された粒子状物質を位置させる工程と、一対の電極間に周波数変調された交流電圧を含むプログラム化電圧シグナルを用いて空間的に不均一な電場を発生させる工程と、プログラム化電圧シグナルを印加している間の粒子状物質の移動動作を検出し、粒子状物質の移動動作に関する時系列データを作成する工程と、時系列データに基づき、粒子状物質の特性を解析する工程とを含む。時系列データは、粒子状物質の移動動作を撮像して得られる動画データであり、動画データは撮像時間のデータを含む。粒子状物質の特性を解析する工程は、動画データとともに撮像時間のデータを、ディスプレイに表示させる段階と、ディスプレイに表示される動画データに基づき、選択された粒子状物質が一対の電極のうち一方の電極の先端近傍に滞在している時間を求める段階と、求められた時間から、選択された粒子状物質に対する誘電泳動力が引力から斥力に切り替わる境界周波数を算出する段階とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/091450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の特性分析方法では、微細なマイクロ電極間に誘電体粒子(粒子状物質)を位置させる操作が煩雑である。また、特許文献1に開示の特性分析方法は、クロスオーバー周波数の計測に特化したものであり、計測した誘電体粒子をそのまま分離することはできない。
【0006】
本発明の目的は、誘電体粒子のクロスオーバー周波数を簡易に解析することができ、解析後もその誘電体粒子を利用することが可能な解析装置及び分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る解析装置は、誘電体粒子に対する誘電泳動力が斥力から引力に又は引力から斥力に切り替わるクロスオーバー周波数を解析する解析装置であって、第1流路と、一対の第1電極と、第1電源部と、撮影部と、解析部とを備える。第1流路は、誘電泳動液中に誘電体粒子を含む試料液が流れる。一対の第1電極は第1流路に配置され、第1電源部は、一対の第1電極に、周波数変調された交流電圧を印加する。撮影部は、第1流路における一対の第1電極間を流れる誘電体粒子の移動軌跡を撮影する。解析部は、移動軌跡を撮影した画像に基づいて、誘電体粒子のクロスオーバー周波数を求める。
【0008】
本発明に係る分離装置は、誘電体粒子の分離を行う分離装置であって、上記の解析装置と、一対の第2電極と、制御部とを備える。一対の第2電極は、解析装置の第1流路における一対の第1電極の後段に配置され、第2電源部は、一対の第2電極に、所定周波数の交流電圧を印加する。制御部は、解析装置で解析された誘電体粒子が第1流路における一対の第2電極を通過するときに、当該誘電体粒子が誘電泳動を起こすように、上記の所定周波数を、当該誘電体粒子に対して解析装置で求められたクロスオーバー周波数に基づいて制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電体粒子のクロスオーバー周波数を簡易に解析することができ、解析後もその誘電体粒子を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】誘電泳動力に関するClausius-Mossotti因子の周波数特性の一例を示す図
図2】実施形態1に係る分離装置及び解析装置の構成を示す図
図3】解析装置における交流電圧の周波数の変化の一例を示す図
図4】解析装置における周波数変調された誘電体粒子の移動軌跡の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る誘電体粒子に対する誘電泳動力のクロスオーバー周波数を解析する解析装置、及び、解析したクロスオーバー周波数に基づいて当該誘電体粒子を分離する分離装置の実施形態を説明する。
【0012】
0.誘電泳動の概要
本実施形態の説明の前に、誘電泳動の概要について説明する。細菌や細胞等の誘電体粒子を含む試料液に対して電極を配置し、電極に周波数ωの交流電圧を供給した場合、試料液中の誘電体粒子に誘電泳動力が作用する。この誘電泳動力FDEPは、次式で表される。
DEP=2πrεRe[K(ω)]∇E …(1)
【0013】
上式(1)において、rは誘電体粒子の半径であり、εは試料液の媒質(溶液)の誘電率であり、Eは電場の強度である。また、Re[X]は複素数Xの実部を表す。K(ω)は、Clausius-Mossotti因子であり、次式で表される。
K(ω)=(ε−ε)/(ε+2ε) …(2)
【0014】
上式(2)において、ε(=ε+ρ/(jω))は、粒子の複素誘電率である(εは粒子の誘電率(実部)で、ρは粒子の導電率)。また、ε(=ε+ρ/(jω))は、周囲媒質の複素誘電率である(εは周囲媒質の誘電率(実部)で、ρは周囲媒質の導電率)。
【0015】
図1は、上記のRe[K(ω)]の周波数特性を示す図である。図1には、異なる2つの誘電体粒子A、BのRe[K(ω)]が示されている。図1に示すように、Re[K(ω)]は周波数依存性を有する。Re[K(ω)]>0であるとき、上式(1)より、電極の設置方向に対して正の誘電泳動力FDEP(引力)が粒子に作用し、粒子は電極近傍に引きつけられる。一方、Re[K(ω)]<0であるとき、負の誘電泳動力FDEP(斥力)が粒子に作用し、粒子は電極に対して反発する。この誘電泳動力FDEPが正から負又はその逆に変化する境界における周波数、すなわちRe[K(ω)]=0のときの周波数を、クロスオーバー周波数(COF)という。
【0016】
図1に示すように、Re[K(ω)]の周波数特性は誘電体粒子A、Bによって異なり、クロスオーバー周波数COFも誘電体粒子A、Bによって異なる。
【0017】
(実施形態1)
1.構成
以下の説明では、血液中に含まれる癌細胞を分離する装置を説明する。
【0018】
1−1.分離装置
以下、実施形態1の分離装置を説明する。図2は、実施形態1に係る分離装置100の構成を示す図である。図2に示す分離装置100は、血中循環癌細胞(CTC)1を含む試料液が所定方向(液流方向)に流れる流路(第1流路)5と、置換部10と、解析部20と、分離部30とを備える。なお、置換部10と解析部20とは、解析装置200を構成する。
【0019】
(1)置換部
置換部10は、血液(懸濁液)における赤血球等の小型細胞2、及び溶液を、DEP液(誘電泳動液)に置換すると共に、血液に含まれる癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞のみを抽出する。置換部10は、主流路(第2流路)11と、複数の分岐流路12と、廃液チャンバ13とを備え、主流路11と分岐流路12の流路幅、流路高、流路長を変えることで所望のサイズ以上の細胞のみを流路5に導入することができる。
【0020】
主流路11は、流路5の前段に配置され、流路5に連続する流路を形成する。主流路11には、癌細胞1を含む血液と、DEP液とが導入される。血液は、主流路11の液流方向から導入され、DEP液は、主流路11の液流方向に直交する方向から導入される。主流路11の幅は、癌細胞1および白血球等の細胞の直径と略同等以上であればよい。なお、主流路11の幅は、約10μm以上約100μm以下であってもよく、より最適には20μm以上60μm以下であることが望ましい。
【0021】
分岐流路12は、主流路11におけるDEP液の導入部分の後段に、液流方向においてほぼ等間隔に配置される。分岐流路12は、主流路11において、DEP液の流入部分と反対側に配置される。分岐流路12の幅は、主流路11の幅よりも小さい。
【0022】
この構成により、血液における赤血球等の細胞2及び溶液は分岐流路12に分流し、癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞、及びDEP液は主流路11を流れる。これにより、主流路11において、血液における赤血球等の細胞2及び溶液がDEP液に置換され、DEP液中に癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞を含む試料液が生成される。主流路11は、試料液における癌細胞1および白血球等の細胞を個々に順次に主流路11から上記した流路5へ導出する。
【0023】
廃液チャンバ13は、分岐流路12に分流された赤血球等の細胞2、溶液等を溜めるチャンバである。
【0024】
(2)解析部
解析部20は、流路5を流れる試料液中の癌細胞1および白血球等の細胞に対する誘電泳動力のクロスオーバー周波数を解析する。解析部20は、一対の電極(第1電極)22、23と、電源部(第1電源部)24と、撮影部25と、制御部(解析部)26とを備える。
【0025】
電極22、23は、流路5において、流路5の液流方向に直交する方向に対向して配置される。電極23は接地され、電極21には電源部24から交流電圧が供給される。
【0026】
電源部24は、例えばファンクションジェネレータで構成される。電源部24は、制御部26の制御により、周波数変調された交流電圧を発生して、電極22、23間に供給する。図3は、交流電圧の周波数の変化の一例を示す図である。図3に示すように、電源部24は、fminからfmaxの周波数範囲で周期的に周波数を変化させた交流電圧を生成する。
【0027】
このような構成により、電極22、23の間を通過する癌細胞1および白血球等の細胞に作用する誘電泳動力が周期的に変化する。
【0028】
撮影部25は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの撮像素子を有するカメラと、光学顕微鏡モジュールとを備える。光学顕微鏡モジュールは、位相差顕微鏡であってもよいし、落射顕微鏡であってもよい。また、光学顕微鏡モジュールは、例えばレンズ交換などにより、位相差顕微鏡と落射顕微鏡とに切替え可能に構成されてもよい。また、蛍光観察を行う場合、適宜、蛍光フィルタを用いる。撮影部25は、一対の電極22、23の間を通過する癌細胞1および白血球等の細胞を撮像し、撮像画像を制御部26に出力する。撮影部25の撮像動作は、制御部26によって制御されてもよい。
【0029】
制御部26は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。制御部26は、HDDやSSDなどの記憶部やCPU等のコントローラを備え、コントローラが記憶部に格納されたプログラムを実行することで、各種の機能を実現する。例えば、制御部26は、撮影部25の撮像画像の画像解析を行い、一対の電極22、23の間を通過する癌細胞1および白血球等の細胞の移動軌跡を求める。なお、制御部26は、撮影部25の撮像画像を記憶部に蓄積し、蓄積した撮像画像に対して画像解析を行ってもよい。また、制御部26は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイを備え、撮影部25の撮像画像、又は、画像解析によって求められた移動軌跡を表示してもよい。
【0030】
(3)分離部
分離部30は、流路5において解析部20の後段に設けられ、解析部20で解析された癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数に基づいて当該癌細胞1を分離する。分離部30は、一対の電極(第2電極)32、33と、電源部(第2電源部)34と、収集部6、7とを備える。
【0031】
電極32、33は、それぞれ等間隔に並んだ櫛歯形状を有する。2つの電極32、33の櫛歯形状における複数の凸部は、流路5の液流方向において、交互に所定間隔をあけて配列される。電極32、33の各凸部は、液流方向と例えば10°以上60°以下の鋭角な角度をなすように液流方向と斜めに交差する方向に延在している。
【0032】
電源部34は、例えばファンクションジェネレータで構成される。電源部34は、解析部20の制御部26の制御により、癌細胞1が電極32、33を通過するときに、当該癌細胞1に対して解析部20で求められたクロスオーバー周波数よりも大きく、当該癌細胞1以外の白血球等の細胞に対して解析部20で求められたクロスオーバー周波数付近の周波数を有する交流電圧を発生して、電極32、33間に供給する。
【0033】
これにより、正の誘電泳動力(引力)が癌細胞1に作用し、癌細胞1は電極32、33に引きつけられながら電極32、33の延在方向に沿って流路5を流れ、収集部6に収集される。一方、白血球等の細胞には誘電泳動力が作用しないか、又は、正又は負の誘電泳動力(引力又は斥力)が作用したとしてもその誘電泳動力は比較的小さい。このため、白血球等の細胞は流路5における流れによって流され、収集部7に収集される。
【0034】
なお、収集部6は、流路5を流れてきた癌細胞1を分離して収集するためのものであり、収集部7は不要な白血球等を収集するためのものである。
【0035】
2.動作
以下、分離装置100の動作を説明する。図2に示すように、分離装置100は、置換部10において、血液における赤血球等の細胞2及び溶液を、DEP液に置換すると共に、血液に含まれる癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞のみを抽出する。解析部20は、抽出された癌細胞1および白血球等の細胞に対する誘電泳動力のクロスオーバー周波数を解析する。分離部30は、解析部20で解析された癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数に基づいて当該癌細胞1を分離する。以下、分離装置100の動作を詳細に説明する。
【0036】
まず、置換部10の主流路11に、主流路11の液流方向から癌細胞1および白血球等の細胞を含む血液が導入され、同時に主流路11の液流方向に直交する方向からDEP液が導入される。血液における赤血球等の細胞2及び溶液は分岐流路12に分流し、癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞、及びDEP液は主流路11を流れる。このように、置換部10は、溶液置換(バッファ置換)を行い、DEP液中に癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞を含む試料液を生成して主流路11から流路5へ導出する。このとき、置換部10は、癌細胞1および白血球等の細胞を一つずつ順に主流路11から流路5へ導出する。
【0037】
解析部20の電源部24は、制御部26の制御に従って、図3に示すように、fminからfmaxの周波数範囲で周期的に周波数を変化させた交流電圧を生成して電極22、23間に供給する。これにより、流路5における電極22、23間に、周期的に周波数変調された交流電圧が印加される。これにより、流路5を流れる癌細胞1および白血球等の細胞が電極22、23間を通過するときに、癌細胞1および白血球等の細胞は誘電泳動力を受ける。
【0038】
このとき、撮影部25は、電極22、23の間を通過する癌細胞1および白血球等の細胞を撮像する。制御部26は、撮影部25の撮像画像の画像解析を行い、電極22、23の間を通過する癌細胞1および白血球等の細胞の移動軌跡を求める。制御部26は、求めた移動軌跡に基づいて、誘電泳動力が斥力から引力に切り替わるタイミングを解析し、タイミングにおける電源部24への制御情報から、タイミングにおける電源部24の交流電圧の周波数を求め、求めた周波数をクロスオーバー周波数(COF)として求める。この解析処理の詳細は後述する。
【0039】
その後、解析部20で解析された癌細胞1および白血球等の細胞は、分離部30に向けて流れる。制御部26は、解析後の癌細胞1および白血球等の細胞が分離部30の電極32、33を通過するときに、当該癌細胞1に対応する解析により求められたクロスオーバー周波数よりも大きく、当該癌細胞1以外の白血球等の細胞に対応する解析により求められたクロスオーバー周波数付近の周波数を有する交流電圧を発生するように、電源部34を制御する。解析後の癌細胞1および白血球等の細胞が分離部30の電極32、33を通過するタイミングは、例えば、電極22、23と電極32、33との距離と、流路5を流れる試料液の流量とから概算することができる。電源部34は、制御部26の制御に基づく周波数を有する交流電圧を生成して電極32に供給する。これにより、流路5において、電極32、33間に当該周波数を有する交流電圧が印加される。このとき、正の誘電泳動力(引力)が癌細胞1に作用し、癌細胞1は電極32、33に引きつけられながら電極32、33の延在方向に沿って流路5を流れ、収集部6に収集される。一方、不要な白血球等の細胞には誘電泳動力が作用しないか、又は、正又は負の誘電泳動力(引力又は斥力)が作用したとしてもその誘電泳動力は比較的小さい。このため、白血球等の細胞は流路5における流れによって流され、収集部7に収集される。
【0040】
2−1.クロスオーバー周波数解析処理
以下、解析部20におけるクロスオーバー周波数の解析処理について説明する。図4は、一対の電極22、23の間における癌細胞1の移動軌跡の一例を示す図である。以下では、癌細胞1のクロスオーバー周波数解析処理について説明するが、癌細胞1以外の白血球等の細胞のクロスオーバー周波数解析処理も以下と同様である。図4において、軌跡P1、P2、P3、P4は、図3における時刻t1、t2、t3、t4における癌細胞1の位置である。図3及び図4に示すように、電極22、23間に印加される交流電圧の周波数がクロスオーバー周波数COFよりも低いとき、負の誘電泳動力(斥力)が癌細胞1に作用し、癌細胞1は電極22、23に対して反発して、電極22、23から離れながら流路5を流れる(例えば、区間T1、T3)。一方、電極22、23間に印加される交流電圧の周波数がクロスオーバー周波数COFよりも高いとき、正の誘電泳動力(引力)が癌細胞1に作用し、癌細胞1は電極22、23に引きつけられながら流路5を流れる(例えば、区間T2)。
【0041】
制御部26は、例えば図4に示すように変化する移動軌跡に基づいて、誘電泳動力が斥力から引力に切り替わる癌細胞1の位置P2、P4を求め、その位置P2、P4から誘電泳動力が斥力から引力に切り替わるタイミングt2、t4を求める。制御部26は、タイミングt2、t4における電源部24への制御情報から、タイミングt2、t4における電源部24の交流電圧の周波数をクロスオーバー周波数として求める。以上のようにして、癌細胞1のクロスオーバー周波数(COF)を求めることができる。
【0042】
3.まとめ
以上のように、置換部10と解析部20は解析装置200を構成する。本実施形態に係る解析装置200は、血中循環癌細胞(誘電体粒子)1および白血球等の細胞に対する誘電泳動力が斥力から引力に又は引力から斥力に切り替わるクロスオーバー周波数を解析する解析装置であって、流路(第1流路)5と、一対の電極(第1電極)22、23と、電源部(第1電源部)24と、撮影部25と、制御部(解析部)26とを備える。流路5は、誘電泳動液中に癌細胞1および白血球等の細胞を含む試料液が流れる。一対の電極22、23は流路5に配置され、電源部24は、一対の電極22、23に、周波数変調された交流電圧を印加する。撮影部25は、流路5における一対の電極22、23間を流れる癌細胞1および白血球等の細胞の移動軌跡を撮影する。制御部26は、移動軌跡を撮影した画像に基づいて、癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数を求める。
【0043】
また、本実施形態に係る分離装置100は、癌細胞1とその他白血球等の細胞の分離を行う分離装置であって、上記の解析装置200と、一対の電極(第2電極)32、33と、電源部(第2電源部)34と、制御部26とを備える。一対の電極32、33は、解析装置200の流路5における一対の電極22、23の後段に配置され、電源部34は、一対の電極32、33に、所定周波数の交流電圧を印加する。制御部26は、解析装置200で解析された癌細胞1および白血球等の細胞が流路5における一対の電極32、33を通過するときに、当該癌細胞1が誘電泳動を起こすように、上記の所定周波数を、当該誘電体粒子に対して解析装置200で求められたクロスオーバー周波数に基づいて制御する。
【0044】
本実施形態によれば、癌細胞1および白血球等の細胞を含む試料液が導入される流路5において癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数の解析を行うので、従来のように微細なマイクロ電極間に誘電体粒子を配置する操作を行うことなく、簡易に癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数を解析することができ、この解析および分離後も解析および分離に用いられた癌細胞1を利用することができる(非破壊解析)。
【0045】
また、本実施形態に係る解析装置200は、流路5の前段に配置され、癌細胞1および白血球等の細胞を含む懸濁液とDEP液(誘電泳動液)とが導入される流路(第2流路)11と、流路11から分岐する分岐流路12とを有し、懸濁液における溶液を分岐流路12に分岐させることにより、懸濁液における溶液をDEP液に置換して試料液を生成する置換部10をさらに備える。置換部10は、試料液における癌細胞1および白血球等の所望のサイズ以上の細胞を個々に順次に流路11から流路5へ導出する。
【0046】
これにより、癌細胞1および白血球等の細胞を含む懸濁液とDEP液とを、分岐流路12が形成された流路11に導入することにより、懸濁液における溶液をDEP液に置換して、DEP液中に癌細胞1および白血球等の細胞を含む試料液を生成するので、DEP液単独で導電率調整を行うことにより試料液の導電率調整を行うことができる。
【0047】
そのため、例えば懸濁液とDEP液とを混合して試料液の濃度調整を行うことにより試料液の導電率調整を行う従来の溶液置換(バッファ置換)と比較して、試料液の導電率調整の時間を短縮することができ、溶液置換による癌細胞1および白血球等の細胞のクロスオーバー周波数の経時変動を低減することができる。
【0048】
また、上記した従来の溶液置換と比較して、容易にかつ高精度に試料液の導電率調整を行うことができ、試料液の導電率ばらつきに伴うクロスオーバー周波数の解析ばらつきを低減することができる。
【0049】
(他の実施形態)
上記した実施形態において、本システムの検査対象として細菌や細胞を例示した。本システムの検査対象は、細菌や細胞に限らず、誘電体粒子であればよく、例えば微生物や、真菌、芽胞、ウイルスであってもよい。
【0050】
また、上記した実施形態において、誘電泳動力が斥力から引力に切り替わるタイミング(例えば、図3のt2、t4)でクロスオーバー周波数を解析する制御部26について説明したが、制御部26は、誘電泳動力が引力から斥力に切り替わるタイミング(例えば、図3のt1、t3)でクロスオーバー周波数を解析してもよい。
【0051】
また、上記した実施形態において、解析部20で解析されたクロスオーバー周波数よりも高い周波数を有する交流電圧を電極32、33に印加して、電極32、33を通過する癌細胞1に正の誘電泳動力(引力)を作用させて癌細胞1を分離する分離部30について説明したが、分離部30はこれに限らない。分離部30は、解析部20で解析されたクロスオーバー周波数よりも低い周波数を有する交流電圧を電極32、33に印加して、電極32、33を通過する癌細胞1に負の誘電泳動力(斥力)を作用させて癌細胞1を分離してもよい。この場合、図2において、癌細胞1は電極32、33に対して反発し電極32、33から離れつつ、電極32、33の延在方向に沿って流路5を流れ、収集部6に収集される。
【0052】
また、分離部30は、解析部20で解析されたクロスオーバー周波数と同一周波数を有する交流電圧を電極32、33に印加して、電極32、33を通過する癌細胞1に誘電泳動力を作用させないようにしてもよい。この場合、図2において、癌細胞1は誘電泳動することなく流路5を流れ、収集部6と収集部7との間に到達する。この場合、収集部6と収集部7との間に収集部が設けられればよい。
【0053】
また、上記した実施形態において、癌細胞1に対して解析部20で解析されたクロスオーバー周波数よりも大きく、癌細胞1以外の白血球等の細胞に対して解析部20で解析されたクロスオーバー周波数付近の周波数を有する交流電圧を電極32、33に印加して、電極32、33を通過する癌細胞1に正の誘電泳動力(引力)を作用させて癌細胞1を分離する分離部30について説明した。これに対し、分離部30は、癌細胞1以外の白血球等の細胞に対して解析部20で解析されたクロスオーバー周波数よりも小さく、癌細胞1に対して解析部20で解析されたクロスオーバー周波数付近の周波数を有する交流電圧を電極32、33に印加して、電極32、33を通過する癌細胞1以外の白血球等の細胞に負の誘電泳動力(斥力)を作用させて癌細胞1とそれ以外の細胞とを分離してもよい。このとき、負の誘電泳動力(斥力)が癌細胞1以外の白血球等の細胞に作用し、白血球等の細胞は電極32、33に対して反発し電極32、33から離れつつ、電極32、33の延在方向に沿って流路5を流れ、収集部6に収集される。一方、癌細胞1には誘電泳動力が作用しないか、又は、正又は負の誘電泳動力(引力又は斥力)が作用したとしてもその誘電泳動力は比較的小さい。このため、癌細胞1は流路5における流れによって流され、収集部7に収集される。
【符号の説明】
【0054】
1 血中循環癌細胞(誘電体粒子)
2 白血球、赤血球等の細胞
5 流路(第1流路)
6、7 収集部
10 置換部
11 主流路(第2流路)
12 分岐流路
13 廃液チャンバ
20 解析部
22、23 一対の電極(第1電極)
24 電源部(第1電源部)
25 撮影部
26 制御部(解析部、制御部)
30 分離部
32、33 一対の電極(第2電極)
34 電源部(第2電源部)
100 分離装置
200 解析装置
図1
図2
図3
図4