特許第6441908号(P6441908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナタク バイオテク、エセ. エレの特許一覧

特許64419085環性トリテルペンとヒドロキシチロソール及びその誘導体との組み合わせ
<>
  • 特許6441908-5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール及びその誘導体との組み合わせ 図000030
  • 特許6441908-5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール及びその誘導体との組み合わせ 図000031
  • 特許6441908-5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール及びその誘導体との組み合わせ 図000032
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441908
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール及びその誘導体との組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20181210BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20181210BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20181210BHJP
【FI】
   A61K31/19
   A61K31/05
   A61K31/7034
   A61P43/00 121
   A61P25/00
   A61P25/28
   A61P25/14
   A61P25/16
   A61P21/02
   A61P25/08
   A23L33/105
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-518493(P2016-518493)
(86)(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公表番号】特表2016-521717(P2016-521717A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2014062269
(87)【国際公開番号】WO2014198842
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年4月13日
(31)【優先権主張番号】13171906.4
(32)【優先日】2013年6月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515346710
【氏名又は名称】ナタク バイオテク、エセ. エレ
【氏名又は名称原語表記】NATAC BIOTECH,S.L
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】キンテラ フェルナンデス、ホセ カルロス
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ フエンテ ガルシア、エステル
(72)【発明者】
【氏名】プリエセ、マルコ
(72)【発明者】
【氏名】マンセラ アロカ、ピラール
(72)【発明者】
【氏名】ブストス サンタフェ、ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】エスピノサ パリジャ、フアン フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ビルヒリ トレセレス、ノエミ
(72)【発明者】
【氏名】ワッペンハンス バッテスティーニ、ブランカ
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−531523(JP,A)
【文献】 特表2010−500964(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02033620(EP,A1)
【文献】 特開2001−181198(JP,A)
【文献】 Sedef N EI and Sibel Karakaya,Olive tree (Okea europaea) leaves: potential beneficial effects on human health,Nutrition Reviews,2009年,Vol.67, No.11,632-638
【文献】 European Journal of Pharmacology, 2002, Vol. 451, No. 2, pp. 119-124
【文献】 Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases, 2010, Vol. 20, No. 4, pp. 284-294
【文献】 European Journal of Lipid Science and Technology, 2003, Vol. 105, No. 5, pp. 229-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1以上の式(I)の5環性トリテルペン化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化1】
[式中、
は、H及びOHからなる群から選択され;
は、Hであり
及びR、メチルであり
、COORであり
は、Hであり
及びR、Hであり
nは、1であり;
点線は、結合を表す]と、
b)1以上の式(II)のヒドロキシチロソール誘導体化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化2】
[式中、
は、Hであり
10は、Hであり
11は、H及び
【化3】
からなる群から選択され;
12及びR13、Hであり
14は、Hであり;及び
*は、前記分子部分への結合点を表す]
とを含んでなる医薬組成物であって、
式(II)の化合物の重量に対する式(I)の化合物の重量が、10:1〜1:1の範囲内であり、
式(I)の化合物がマスリン酸の場合、式(II)の化合物がベルバスコシドであり、そして、式(I)の化合物がオレアノール酸の場合、式(II)の化合物がヒドロキシチロソールであり、
クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防のために用いられる、医薬組成物。
【請求項2】
1以上の式(I)の化合物が、オレアノール酸及びマスリン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
1以上の式(II)の化合物が、ヒドロキシチロソール、及びベルバスコシドからなる群から選択される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
マスリン酸及びベルバスコシド、並びに
・オレアノール酸及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
式(I)の化合物及び式(II)の化合物が、同時投与のための同一組成物の一部を形成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
a)1以上の式(I)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化4】
[式中、
は、H及びOHからなる群から選択され;
は、Hであり
及びR、メチルであり
、COORであり
は、Hであり
及びR、Hであり
nは、1であり;
点線は、結合を表す]と、
b)1以上の式(II)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化5】
[式中、
は、Hであり
10は、Hであり
11は、H及
【化6】
からなる群から選択され;
12及びR13は、Hであり;
14は、Hであり;及び
*は、前記分子部分への結合点を表す]
とを含んでなる製品であって、
式(II)の化合物の重量に対する式(I)の化合物の重量が、10:1〜1:1範囲内であり、
但し、
・製品は、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物をさらに含み、
・製品は、式(I)の化合物がマスリン酸の場合、式(II)の化合物がベルバスコシドであり、そして、式(I)の化合物がオレアノール酸の場合、式(II)の化合物がヒドロキシチロソールであり、
・製品がオレアノール酸及びヒドロキシチロソールを含む場合、オレアノール酸の重量はヒドロキシチロソールの重量の少なくとも3倍であり、並びに
・製品がヒドロキシチロソール、マスリン酸及びオレアノール酸を、マスリン酸/オレアノール酸が1を超える重量比で含む場合、マスリン酸の重量はヒドロキシチロソールの重量の少なくとも10倍であ
クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防のために用いられる、製品。
【請求項7】
1以上の式(I)の化合物が、オレアノール酸及びマスリン酸からなる群から選択される、請求項6に記載の製品。
【請求項8】
1以上の式(II)の化合物が、ヒドロキシチロソール、及びベルバスコシドからなる群から選択される、請求項6又は7に記載の製品。
【請求項9】
・マスリン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド、並びに
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物と、式(II)の化合物との組み合わせを含んでなる、請求項6〜8のいずれか一項に記載の製品。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の製品と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の製品を含んでなる、機能性食品。
【請求項12】
機能性食品の製造のための、請求項6〜9のいずれか一項に記載の製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール又はその誘導体とを含んでなる製品、その使用、医薬組成物、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシチロソールは、ほぼオリーブ(オレア・エウロパエア属(Olea europaea L.))の葉及び果実中のみに見出され得る植物の二次代謝産物である。これはオリーブミルの排水中で特に豊富である[Fernandez−Bolanos,Olive Oil−Constituents,quality,health properties and bioconversions.,Boskow Dimitrios編,ISBN:978−953−307−921−9.第20章]。ヒドロキシチロソールは、少量であるが、ブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ属(Vitis vinifera L.))中に存在することが報告されている[Fernandez,MI.ら,「Bioactive compounds in wine:Resveratrol,hydroxytyrosol and melatonin:A review」,Food Chemistry,130(2012),pp.797−813]。
【0003】
ヒドロキシチロソールは、フェニルエチルアルコールの2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エタノールである。これは、オレウロペインの代謝産物(ヒドロキシチロソールのエステル、エレノール酸及びグルコース)であり、加水分解によって得ることができる[Omar,SH.,「Cardioprotective and neuroprotective roles of oleuropein in olive」,Saudi Pharmaceutical Journal,18(2010),pp.111−121]。
【0004】
ヒドロキシチロソールの誘導体としては、チロソール、オレウロペイン、ベルバスコシド、及び単純なフェノール酸(例えば、没食子酸等)から誘導される関連化合物が挙げられる。ベルバスコシド関連化合物の注目すべき例は、β−(D)−グルコピラノシドに結合した、コーヒー酸部分及び2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エタノール(ヒドロキシチロソール)部分の存在によって構造的に特徴づけられるフェニルプロパノイド配糖体群に属するものである[Vertuani,S.,「Activity and Stability Studies of Verbascoside, A Novel Antoxidant,in Dermo−Cosmetic and Pharmaceutical Topical Formulations」,Molecules,16(2011),pp.7068−7080]。その化学構造のために、ベルバスコシド(アクテオシドとしても知られる)は、メタノール又は水アルコール混合物のような親水性溶液に高溶解性である。ベルバスコシド関連化合物としては、エキナコシド、マルチノシド、ロイコセプトシド、及び他の関連フェニルプロパノイドが挙げられる。
【0005】
ベルバスコシドは植物中の二次代謝産物であり、ベルバスコシド関連化合物は天然に広く分布している。主な供給源としては、黒ニガハッカ(バロタ・ニグラ属(Ballota nigra L.))、ムラサキバレンギク(エキナセア・パリダ(Echinacea pallida)(NUTT.))、デビルズクロー(ハルパゴフィツム・プロカンベンス(Harpagophytum procumbens)(BURCH))、ニガウリ(モモルディカ・カランティア属(Momordica charantia L.))、オリーブ(オレア・エウロパエア(Olea europaea)エウロパエア亜種)、ゴマノハグサ(スクロフラリア・スコロドニア属(Scrophularia scorodonia L.))、コガネバナ(スクテラリア・バイカレンシス(Scutellaria baicalensis(GEORGI))、ゴマ(セサムム・インディクム属(Sesamum indicum L.))及びコモンマーレイン(バーバスカム・タプサス属(Verbascum thapsus L.))が挙げられる[出典Dr. Duke’s Phytochemical and Etnobotanical Database]。従って、ベルバスコシド関連化合物は、化学的に合成されてよく、又は相当する植物抽出物から得てもよい。
【0006】
5環性トリテルペンは、幅広い植物(主に、果皮、葉及び樹皮)中の二次植物代謝産物である。これらは、炭素原子30個の多環状構造のトリテルペノイドの化学ファミリーに属する。トリテルペノイドは、それらの骨格構造に基づき3つのファミリー:ルパン、オレアン及びウルサン(第1表参照)に主に分類される。それらの骨格構造のために、5環性トリテルペノイドは、水のような親水性溶媒に対して非常に低い溶解度を示す。他方で、アセトン又はメタノールのような有機溶媒中へのそれらの溶解度は中程度〜高度である[Liu,L.ら,「Solubility of Oleanolic Acid in Various Solvents from (288.3 to 328.3)K」,Journal of Chemical and Engineering Data,52(2007),pp.2527−2528]。
【0007】
5環性トリテルペンは天然に広く分布している。オレアノール酸は、オリーブの葉(オレア・エウロパエア属(Olea europaea L.))、マリーゴールドの花(カレンデュラ・オフィシナリス属(Calendula officinalis L.))、ローズマリーの葉(ロスマリナス・オフィシナリス属(Rosmarinus officinalis L.))及びクローブの花(シジギウム・アロマティクム属(Syzygium aromaticum L.))中に存在し;マスリン酸は、クマコケモモの葉(アルクトスタフィロス・ウワ=ウルシ属(Arctostaphylos uva−ursi L.))、及びオリーブの果実(オレア・エウロパエア属(Olea europaea L.))中に存在し;ベツリンは、シラカバの樹皮(ベツラ・アルバ属(Betula alba L.))中に存在し;ベツリン酸は、ユーカリの葉(ユーカリプタス(Eucalyptus)、スズカケノキの樹皮(プラタナス・アセリフォリア(Platanus acerifolia))、ローズマリーの葉(ロスマリナス・オフィシナリス属(Rosmarinus officinalis L.))[Jager, S.ら,「Pentacyclic Triterpene Distribution in Various Plants − Rich sources for a New Group of Multi−Potent Plant Extracts」,Molecules,14(2009),pp.2016−2031]及びクローブの葉(シジギウム・アロマティクム属(Syzygium aromaticum L.))[Aisha,AFA.ら.,「Syzigium aromaticum extracts as good source of betulinic acid and potential anti breast cancer」,Brazilian Journal of Pharmacognosy,22(2012),pp.335−343]中に存在する。
【0008】
ヒドロキシチロソール及び関連ポリフェノールは、強力な抗酸化剤及び細胞保護剤として公知である。種々の科学論文及び特許はそれらの神経保護特性を開示し、その主要な標的は、神経変性疾患に主に関与する細胞成分の1つであるミトコンドリアの標的化に関連していると考えられている[Schaffer S.「Hydroxytyrosol−rich olive wastewater extract protects brain cells in vitro and ex vivo」J. Agricul.Food Chem.,55(2007),pp.5043−5049]。他の研究において、ヒドロキシチロソール及び関連フェノールは、低酸素−再酸素負荷から神経細胞を保護すること[Gonzalez−Correa JA.「Neuroprotective effect of hydroxytyrosol and hydroxytyrosol acetate in rat brain slices subjected to hypoxia−reoxygenation」Neurosci Lett.,446(2008),pp.143−6.]、アルツハイマー病におけるタウタンパク質凝集阻害剤として作用すること[Daccache A.「Oleuropein and derivatives from olives as Tau aggregation inhibitors」Neurochem Int.,58(2011),pp.700−7]、又はハンチントン病の動物モデルにおける酸化的損傷を減少させること[Tasset I.「Olive oil reduces oxidative damage in a 3−nitropropionic acid−induced Huntington’s disease−like rat model」Nutr Neurosci.,14(2011),pp.106−11]が示されている。神経細胞保護のためのこれらの使用は、種々の特許出願に広く記載されている[US2003/0236202A1、WO2006/114467A1及びUS2010/130621A1]。これらの誘導体は、間接的に神経保護に関与し得る抗炎症効果を奏することも示されている[Zhang X.「Hydroxytyrosol inhibits pro−inflammatory cytokines, iNOS, and COX−2 expression in human monocytic cells」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol.,379(2009),pp.581−6]。
【0009】
植物から主に抽出されるベルバスコシドは、神経細胞保護特性も示し、抗酸化剤、細胞保護剤及び抗炎症剤として作用する[Wang HQ.「Upregulation of heme oxygenase−1 by acteoside through ERK and PI3 K/Akt pathway confer neuroprotection against beta−amyloid−induced neurotoxicity」Neurotox Res.,21(2012),pp.368−78;Koo KA.「Acteoside and its aglycones protect primary cultures of rat cortical cells from glutamate−induced excitotoxicity」Life Sci.,79(2006),pp.709−16;Esposito E.「Protective effect of verbascoside in activated C6 glioma cells: possible molecular mechanisms」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol.,381(2010),pp.93−105]。
【0010】
オレアノール酸又はマスリン酸のような植物抽出物に由来するトリテルペン酸は、それらの神経保護特性及び抗炎症特性[Martin E.「Beneficial actions of oleanolic acid in an experimental model of multiple sclerosis:A potential therapeutic role」,Biochem Pharmacol,79(2010),pp.198−208]、主に神経細胞のアポトーシス経路を標的とすること、並びにミクログリア一酸化窒素合成のような神経炎症のシグナルを阻害すること[Qian Y.「Maslinic acid, a natural triterpenoid compound from Olea europaea, protects cortical neurons against oxygen−glucose deprivation−induced injury」Eur J Pharmacol.,670(2011),pp.148−53.;Cho SO.「Aralia cordata protects against amyloid beta protein(25−35)−induced neurotoxicity in cultured neurons and has antidementia activities in mice」J Pharmacol Sci.,111(2009),pp.22−32]についても、広く知られている。トリテルペノイド又はその誘導体のこれらの特性は、WO2011/015692A2のような特許出願にも記載されている。
【0011】
5環性トリテルペンとヒドロキシチロソール又はその誘導体との組み合わせを含んでなる製品は、例えば、WO2007/096446A1及びEP2033620A1に開示されている。前記出願は、動物飼料中のプロニュートリエントとしての、及びクリーム製剤用の、前記製品の組み合わせの使用をそれぞれ開示する。しかしながら、これらの文献は、神経細胞の保護のための当該製品の組み合わせの使用を開示及び示唆しておらず、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールを含んでなる製品も開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、5環性トリテルペン、ヒドロキシチロソール又はその誘導体は、個別に使用した時に、神経細胞保護効果を示す。驚くべきことに、本発明者らは、特定の5環性トリテルペンと、ベルバスコシドのようなヒドロキシチロソール又はその特定の誘導体との組み合わせが、個々の効果の単なる合計よりもさらに強く神経細胞を保護できること、即ち、式(I)の特定の5環性トリテルペンと、ベルバスコシドのようなヒドロキシチロソール又はその特定の誘導体(式(II)を有する)とが、特に式(II)の化合物の重量に対する式(I)の化合物の重量が20:1〜1:10の範囲内である場合に、神経の保護に対する相乗効果を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、本発明は、
a)1以上の式(I)の5環性トリテルペン化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化1】
[式中、
は、H及びOHからなる群から選択され;
は、H、メチル及びプロペン−2−イルからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びメチルからなる群から選択され;
は、メチル、CHOR、COOR及びCHOからなる群から選択され;
は、H及びORからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
nは、0又は1であり;
点線は、存在していても、又は存在していなくてもよい結合を表す]と、
b)1以上の式(II)のヒドロキシチロソール誘導体化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化2】
[式中、
は、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
10は、H及びOHからなる群から選択され;
11は、H、C−C17アルキルカルボニル、
【化3】
からなる群から選択され;
12及びR13は、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
14は、H及び
【化4】
からなる群から選択され;及び
*は、前記分子部分への結合点を表す]
とを含んでなる製品であって、
クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防に用いられる、製品に関する。
【0014】
第2の態様において、本発明は、
a)1以上の式(I)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化5】
[式中、
は、H及びOHからなる群から選択され;
は、H、メチル及びプロペン−2−イルからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びメチルからなる群から選択され;
は、メチル、CHOR、COOR及びCHOからなる群から選択され;
は、H及びORからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
nは、0又は1であり;
点線は、存在していても、又は存在していなくてもよい結合を表す]と、
b)1以上の式(II)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化6】
[式中、
は、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
10は、H及びOHからなる群から選択され;
11は、H、C−C17アルキルカルボニル、
【化7】
からなる群から選択され;
12及びR13は、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
14は、H及び
【化8】
からなる群から選択され;及び
*は、前記分子部分への結合点を表す]
とを含んでなる製品であって、
但し、製品は、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物、即ち、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール、を含んでなる製品に関する。
【0015】
第3の態様において、本発明は、第2の態様において定義される製品と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含んでなる、医薬組成物に関する。
【0016】
第4の態様において、本発明は、薬剤として用いられる、第2の態様において定義される製品に関する。
【0017】
第5の態様において、本発明は、第2の態様において定義される製品を含んでなる、機能性食品に関する。
【0018】
第6の態様において、本発明は、機能性食品の製造のための、第2の態様において定義される製品の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ベルバスコシド3.12mg/L、オレアノール酸4.44mg/L又は両方の組み合わせで処理した、リポ多糖(LPS)とガンマインターフェロン(IFNg)で刺激したBV2ミクログリアにおけるNO産生の分析を示す。結果を平均+SEMとして表す。
図2】ベルバスコシド3.12mg/L、マスリン酸13.20mg/L又は両方の組み合わせで処理した、リポ多糖(LPS)とガンマインターフェロン(IFNg)で刺激したBV2ミクログリアにおけるNO産生の分析を示す。結果を平均+SEMとして表す。
図3】過酸化水素0.2mM(H)で損傷を受け、ヒドロキシチロソール1.54mg/L、オレアノール酸4.44mg/L又は両方の組み合わせで処理したNSC34運動神経細胞の神経細胞の生存率を示す。結果を平均+SEMとして表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
単独又は他の基の一部として本明細書で使用される用語「アルキル」は、1〜17個、好ましくは1〜13個、より好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1〜8個、最も好ましくは1〜3個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状の飽和の1価の炭化水素鎖を示す。アルキルの例は、メチル、エチル、プロピル及び2−プロピルである。
【0021】
単独又は他の基の一部として本明細書で使用される用語「アルキルカルボニル」は、カルボニル(−(C=O)−)基に結合した上記定義のアルキル基を示す。アルキルカルボニル基の炭素数が特定されている場合、特定された炭素数はカルボニル基の炭素を含まないことが理解される(即ち、Cアルキルカルボニルは、例えば、CH−(CH−C(=O)−基である)。アルキルカルボニル基の例は、アセチル、プロピオニル、ブチリル(butiryl)、オレイル、ステアリル及びパルミトイルである。
【0022】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容可能な塩」は、薬学的に許容可能な塩基との塩を包含し、これは、薬学的に許容可能な塩基の添加によって、酸性部分を含有する親化合物から合成される。薬学的に許容可能な塩基としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)の水酸化物、並びに有機塩基(アルキルアミン、アリールアルキルアミン、及びヘテロ環アミン等)が挙げられる。例えば、本明細書で提供される化合物の薬学的に許容可能な塩は、従来の化学的方法によって、酸性部分を含有する親化合物から合成される。一般的に、そのような塩は、例えば、水中若しくは有機溶媒中又はその2つの混合物中、遊離塩基又は遊離酸の形態のこれらの化合物が化学量論量の適切な酸又は塩基とそれぞれ反応することによって調製される。
【0023】
本発明の化合物の全ての立体異性体は、単一化合物又はその混合物として考慮される。製造方法としては、出発物質として、ラセミ体、エナンチオマー又はジアステレオマーを利用できる。ジアステレオマー生成物又はエナンチオマー生成物を調製する場合、それらは従来の方法、例えば、クロマトグラフィー又は機能的晶析によって分離できる。
【0024】
本発明は、第1の態様において定義される1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含んでなる製品の新規な医薬用途だけでなく、第2の態様において定義される式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含んでなる新規な製品にも関する。
【0025】
式(I)の化合物及び式(II)の化合物は、神経保護特性を有し、抗酸化剤、細胞保護剤及び/又は抗炎症剤として作用するものとして、先行技術に記載されている。神経保護効果は、式(I)及び式(II)の化合物それぞれについて記載されている。驚くべきことに、本発明者らは、上記定義の式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせが、神経保護剤として相乗効果(即ち、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせは、個々の効果の単なる合計よりもさらに強く神経を保護できる)を示すことを新たに見出した。従って、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせは、神経変性疾患及び神経損傷に関連する疾患の治療及び/又は予防に用いられ得る。
【0026】
第1の態様において、本発明は、
a)1以上の式(I)の5環性トリテルペン化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化9】
[式中、
は、H及びOHからなる群から選択され;
は、H、メチル及びプロペン−2−イルからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びメチルからなる群から選択され;
は、メチル、CHOR、COOR及びCHOからなる群から選択され;
は、H及びORからなる群から選択され;
及びRは、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
nは、0又は1であり;
点線は、存在していても、又は存在していなくてもよい結合を表す]と、
b)1以上の式(II)のヒドロキシチロソール誘導体化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体:
【化10】
[式中、
は、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
10は、H及びOHからなる群から選択され;
11は、H、C−C17アルキルカルボニル、
【化11】
からなる群から選択され;
12及びR13は、独立に、H及びC−Cアルキルからなる群から選択され;
14は、H及び
【化12】
からなる群から選択され;及び
*は、前記分子部分への結合点を表す]
とを含み、
クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防における使用のための、本発明の製品に関する。
【0027】
「1以上」という表現は、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の化合物を意味し、好ましくは、1、2、3、4又は5の化合物を、より好ましくは、1、2又は3の化合物を、さらにより好ましくは1又は2の化合物を意味する。
【0028】
特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、RがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0029】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R及びRがメチルである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0030】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、Rが、メチル、CHOH、COOHからなる群から選択され、好ましくはCOOH又はCHOHであり、より好ましくはCOOHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0031】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、RがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0032】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R及びRが、独立して、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはR及びRがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0033】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、nが0である、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0034】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、点線は結合が存在することを表す(即ち、二重結合を形成する)、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明の用途のための製品は、ルペオール、ベツリン、ベツリン酸、エリトロジオール、オレアノール酸、マスリン酸、ウバオール及びウルソール酸からなる群から、より好ましくは、エリトロジオール、オレアノール酸及びマスリン酸からなる群から、さらにより好ましくはオレアノール酸及びマスリン酸から選択される、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0036】
特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、Rが、H及びメチルから選択され、好ましくはHである、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0037】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R11がH及び
【化13】
からなる群から選択される、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0038】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R12が、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはHである、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0039】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R13が、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはHである、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0040】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、R14がHである、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明の用途のための製品は、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド、オレウロペイン、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール、エキナコシド、マルチノシド及びロイコセプトシド(これらの化学構造は下記に示す)からなる群から選択され、好ましくは、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びオレウロペインから選択され、より好ましくは、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド及びオレウロペインからなる群から選択され、さらにより好ましくは、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド及び3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールからなる群から選択され、さらにより好ましくは、ヒドロキシチロソール及びベルバスコシドからなる群から選択される、1以上の式(II)の化合物を含む。
【0042】
1つの実施形態において、本発明の用途のための製品は、
・オレアノール酸及びベルバスコシド;
・マスリン酸及びベルバスコシド;
・オレアノール酸及びオレウロペイン;並びに
・オレアノール酸及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせを含む。
【0043】
1つの特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、
・オレアノール酸及びベルバスコシド;
・マスリン酸及びベルバスコシド;並びに
・オレアノール酸及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせを含む。
【0044】
他の実施形態において、本発明の用途のための製品中、1以上の式(II)の化合物の重量に対する1以上の式(I)の化合物の重量は、20:1〜1:10、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは10:1〜1:1、さらにより好ましくは5:1〜1:1の範囲内である。
【0045】
1つの特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、
・オレアノール酸及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1の範囲内である);
・マスリン酸及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するマスリン酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは5:1〜3:1の範囲内である);
・オレアノール酸及びオレウロペイン(オレウロペインの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1の範囲内である);並びに
・オレアノール酸及びヒドロキシチロソール(ヒドロキシチロソールの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは4:1〜2:1の範囲内である)
を含む。
【0046】
他の特定の実施形態において、本発明の用途のための製品は、
・オレアノール酸及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1の範囲内である);
・マスリン酸及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するマスリン酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは5:1〜3:1の範囲内である);並びに
・オレアノール酸及びヒドロキシチロソール(ヒドロキシチロソールの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは4:1〜2:1の範囲内である)
を含む。
【0047】
本発明は、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防用の薬剤の製造における使用のための、上記定義の1以上の式(I)の化合物及び1以上の式(II)の化合物を含んでなる製品の使用にも関する。
【0048】
本発明は、上記定義の1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含んでなる製品の治療有効量を投与することを含んでなる、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の、それを必要とする対象の治療及び/又は予防方法にも関する。
【0049】
本明細書で使用される用語「治療する」及び「治療」は、そのような用語が適用される疾患若しくは状態、又はそのような疾患若しくは状態の1以上の症状の進行を、改善すること、軽減すること、阻害することを意味する。
【0050】
本明細書で使用される用語「予防する」及び「予防」は、当該用語が適用される疾患若しくは状態、又はそのような疾患若しくは状態の1以上の症状の発症を阻害することを意味する。
【0051】
本明細書で使用される用語「機能性食品」は、食品に新たな成分を添加することによって、健康促進又は疾患予防に関連する追加の機能を付与された食品を意味する。本発明の文脈内においてより具体的には、機能性食品に追加される機能は、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療又は予防に関する。
【0052】
1つの態様において、上記定義の1以上の式(I)の化合物及び1以上の式(II)の化合物は、同時に、連続して、又は別々に投与される。前記態様において、製品は、式(I)の化合物と式(II)の化合物とを、同時に、連続して、又は別々の投与が可能なように設計される。
【0053】
同時投与は、例えば、上記定義の1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物の両方を含む1つの組成物の形態で行ってもよいし、又は同時投与(即ち、それぞれ製剤化した(即ち、同一組成物の一部を形成しない)、1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを同時に投与する)によって行ってもよい。
【0054】
連続投与は、好ましくは、式(I)の化合物又は式(II)の化合物の一方をある時点で投与し、他方(即ち、式(II)の化合物又は式(I)の化合物)を、それぞれ異なる時点で(即ち、慢性的に交互の方法で)投与することを意味する。
【0055】
別々の投与は、好ましくは、上記定義の1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを、互いに独立して、異なる時点で投与することを意味する。
【0056】
連続して、又は別々に投与する場合、1以上の式(I)の化合物又は1以上の式(II)の化合物のいずれを最初に投与してもよい。1つの特定の実施形態において、1以上の式(I)の化合物が最初に投与される。他の特定の実施形態において、1以上の式(II)の化合物が最初に投与される。
【0057】
1つの態様において、本発明の用途のための製品は、同時投与用の同一組成物の一部を形成する、1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含む。
【0058】
他の態様において、本発明の用途のための製品は、好ましくは同時投与用の別々の組成物として提供される、1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含む。
【0059】
式(I)の化合物及び式(II)の化合物は、特定のガレン製剤、投与の様式、並びに治療及び/又は予防される特定の疾患若しくは状態のような種々の因子に応じて、種々の投与量で投与されてよい。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄速度、宿主の状態、薬剤の組み合わせ、反応の感受性及び疾患の重症度のような他の因子も考慮しなければならない。投与は、最大耐量内で、継続的又は定期的に行うことができる。式(I)の化合物の好ましい投与量は、20mg/日〜400mg/日、より好ましくは20mg/日〜200mg/日、さらにより好ましくは50mg/日〜150mg/日、さらにより好ましくは75mg/日〜100mg/日である。式(II)の化合物の好ましい投与量は、5mg/日〜500mg/日、より好ましくは50mg/日〜250mg/日、さらにより好ましくは100mg/日〜200mg/日である。
【0060】
本発明の化合物は、経口、舌下、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、鼻腔内、眼内及び/又は直腸経路により投与されてよい。
【0061】
第2の態様において、本発明は、上記定義の、1以上の式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体と、1以上の式(II)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体とを含んでなる製品(但し、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物を含む(即ち、製品は3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールを含む))に関する。
【0062】
好ましい実施形態において、第2の態様の製品は、a)1以上の式(I)の化合物とb)1以上の式(II)の化合物とを、a)/b)が1以上の重量比で含み、但し、
・製品が、オレアノール酸(R、R、R、R及びRがHであり、R及びRがメチルであり、RがCOORであり、nが1であり、点線が存在する、式(I)の化合物)と、ヒドロキシチロソール(R〜R11がHである、式(II)の化合物)とを含む場合、オレアノール酸の重量が、ヒドロキシチロソールの重量の少なくとも3倍であり、並びに
・ヒドロキシチロソール(R〜R11がHである、式(II)の化合物)と、マスリン酸(RがOHであり、R、R、R及びRがHであり、R及びRがメチルであり、RがCOORであり、nが1であり、点線が存在する、式(I)の化合物)と、オレアノール酸(R、R、R、R及びRがHであり、R及びRがメチルであり、RがCOORであり、nが1であり、点線が存在する、式(I)の化合物)とを、マスリン酸/オレアノール酸が1を超える重量比で含む場合、マスリン酸の重量が、ヒドロキシチロソールの重量の少なくとも10倍である。
【0063】
特定の実施形態において、本発明の製品は、RがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0064】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、R及びRがメチルである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0065】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、Rが、メチル、CHOH及びCOOHからなる群から選択され、好ましくはCOOH又はCHOHであり、より好ましくはCOOHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0066】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、RがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0067】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、R及びRが、独立して、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはR及びRがHである、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0068】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、nが0である、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0069】
他の特定の実施形態において、本発明の製品は、点線は結合が存在することを表す(即ち、二重結合を形成する)、1以上の式(I)の化合物を含む。
【0070】
好ましい実施形態において、本発明の製品は、ルペオール、ベツリン、ベツリン酸、エリトロジオール、オレアノール酸、マスリン酸、ウバオール及びウルソール酸(第1表参照)からなる群から選択され、より好ましくは、エリトロジオール、オレアノール酸、マスリン酸及びそれらの混合物からなる群から選択され、さらにより好ましくはオレアノール酸及びマスリン酸から選択される、1以上の式(I)の化合物を含む。
【表1】
【0071】
上述のように、本発明は、上記定義の1以上の式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体と、1以上の式(II)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩若しくは立体異性体とを含んでなる製品に関する。
【0072】
特定の実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、Rが、H及びメチルから選択され、好ましくはHである、1以上のさらなる式(II)の化合物とを含む。
【0073】
他の特定の実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、R11が、H及び
【化14】
からなる群から選択される、1以上のさらなる式(II)の化合物とを含む。
【0074】
他の特定の実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、R12が、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはHである、1以上のさらなる式(II)の化合物とを含む。
【0075】
他の特定の実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、R13が、H及びメチルからなる群から選択され、好ましくはHである、1以上のさらなる式(II)の化合物とを含む。
【0076】
他の特定の実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、R14がHである、1以上のさらなる式(II)の化合物とを含む。
【0077】
好ましい実施形態において、製品は、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールである式(II)の化合物と、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド、オレウロペイン、エキナコシド、マルチノシド、ロイコセプトシド、及びそれらの混合物(これらの化学構造は下記に示す)から選択される1以上のさらなる式(II)の化合物(好ましくは、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド、オレウロペイン、及びそれらの混合物から選択される1つの式(II)の化合物;より好ましくは、ヒドロキシチロソール、ベルバスコシド及びそれらの混合物から選択される1つの式(II)の化合物)とを含む。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0078】
1つの態様において、本発明の製品は、
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド;
・マスリン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド;
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びオレウロペイン;並びに
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせを含む。
【0079】
1つの特定の実施形態において、本発明の製品は、
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド;
・マスリン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド;並びに
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びヒドロキシチロソール
からなる群から選択される、式(I)の化合物と式(II)の化合物との組み合わせを含む。
【0080】
他の実施形態において、本発明の製品中で、式(II)の化合物の重量に対する式(I)の化合物の重量は、20:1〜1:10、より好ましくは20:1〜1:1、さらにより好ましくは10:1〜1:1、さらにより好ましくは5:1〜1:1の範囲内である。
【0081】
1つの特定の実施形態において、本発明の製品は、
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1の範囲内である);
・マスリン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するマスリン酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは5:1〜3:1の範囲内である);
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びオレウロペイン(オレウロペインの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1の範囲内である);並びに
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びヒドロキシチロソール(ヒドロキシチロソールの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1:1、好ましくは5:1〜1:1、より好ましくは4:1〜2:1の範囲内である)
を含む。
【0082】
1つの特定の実施形態において、本発明の製品は、
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1.1:1、好ましくは5:1〜1.1:1、より好ましくは2:1〜1.1:1の範囲内である);
・マスリン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びベルバスコシド(ベルバスコシドの重量に対するマスリン酸の重量が、10:1〜1.1:1、好ましくは5:1〜1.1:1、より好ましくは5:1〜3:1の範囲内である);並びに
・オレアノール酸、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール及びヒドロキシチロソール(ヒドロキシチロソールの重量に対するオレアノール酸の重量が、10:1〜1.1:1、好ましくは5:1〜1.1:1、より好ましくは4:1〜2:1の範囲内である)
を含む。
【0083】
上述の通り、本発明の製品は、前記定義の1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含む。本発明の1つの態様において、これら2つの式(I)及び式(II)の化合物は、同一組成物の一部を形成し;好ましくは、組成物は、式(I)の化合物、式(II)の化合物及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物である。
【0084】
本発明の他の態様は、上記定義の式(I)の化合物及び式(II)の化合物、並びに薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる本発明の製品を含む医薬組成物(但し、組成物は、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物(即ち、3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール)を含む)に関する。
【0085】
他の態様において、本発明は、機能性食品の製造のための、上記定義の式(I)の化合物及び式(II)の化合物の使用に関する。
【0086】
用語「薬学的に許容可能な賦形剤」は、有効成分と共に投与される、ビヒクル、希釈剤又は補助剤をいう。そのような薬学的な賦形剤は、水及び油(ピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油及び類似物のような、石油、動物、植物又は合成由来のものを含む)のような無菌液体であり得る。特に注射用溶液用の、水又は生理的食塩水、並びにブドウ糖水溶液及びグリセリン水溶液がビヒクルとして好ましく使用される。適切な薬学的なビヒクルは、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(E.W.Martin,第21版,2005)に記載されている。
【0087】
本発明の化合物は、経口、舌下、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、鼻腔内、眼内及び/又は直腸経路により投与されてよい。
【0088】
式(I)及び式(II)の化合物は、市販されており、上述のように当業者に周知の天然源から抽出してもよい。
【0089】
また、別の態様において、本発明は、薬剤として用いられる、1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含んでなる本発明の製品(但し、製品は、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物を含む)に関する。
【0090】
本発明は、薬剤の製造における、上記定義の1以上の式(I)の化合物と1以上の式(II)の化合物とを含んでなる本発明の製品(但し、製品は、R及びR11がHであり、R10がOHである式(II)の化合物を含む)も提供する。
【0091】
本発明は、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防における使用のための、第2の態様において定義される製品も提供する。
【0092】
本発明は、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防用の薬剤の製造のための、第2の態様において定義される製品の使用も提供する。
【0093】
本発明は、第2の態様において定義される製品の治療有効量を投与することを含む、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、神経線維腫症、てんかん、脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、虚血性低酸素症、脊髄損傷、記憶喪失、軽度認知障害、認知症、及び多発梗塞性認知症からなる群から選択される疾患に罹患しているか、又は罹患の疑いがある、それを必要とする対象の治療及び/又は予防方法にも関する。
【0094】
以下の実施例にて本発明の具体的な態様を示す。これらは、決して本明細書に定義される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0095】
実施例
オレアノール酸、マスリン酸、ウルソール酸、ウバオール、エリトロジオール、チロソール及び3,4−ジヒドロキシフェニルグリコールは、シグマ・アルドリッチから市販され、ヒドロキシチロソールは、エキストラシンシース(Extrasynthese)(Genay Cedex,フランス)から市販され、ベルバスコシドは、PhytoLab GmbH & Co.KGm(フェステンベルクスグロイト,ドイツ)から市販されている。
【0096】
実施例1:医薬組成物
a)以下の成分を含むカプセル:
・式(I)の5環性トリテルペンの全量 100mg
オレアノール酸 70mg
マスリン酸 15mg
ウルソール酸 10mg
ウバオール及びエリトロジオール 5mg
・式(II)のヒドロキシチロソール誘導体の全量 26mg
ヒドロキシチロソール 24mg
3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール 2mg
・他の成分
チロソール 4mg

b)以下の成分を含むカプセル:
・式(I)の5環性トリテルペンの全量 100mg
オレアノール酸 100mg
・式(II)のヒドロキシチロソール誘導体の全量 62mg
ベルバスコシド 60mg
3,4−ジヒドロキシフェニルグリコール 2mg
【0097】
実施例2:リポ多糖とガンマインターフェロンとで活性化されたBV2ミクログリアによる一酸化窒素産生に対するオレアノール酸及びベルバスコシドの組み合わせの効果
BV2細胞は、ミクログリアが媒介する神経細胞損傷を調節し得る化合物の研究用のインビトロモデルとして幅広く使用されている、マウスのミクログリア由来細胞株である。刺激されると、BV2ミクログリアは、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、インターロイキン6(IL6)又は一酸化窒素(NO)のような、神経毒性因子及び神経炎症因子を放出する。
【0098】
マウスのミクログリア細胞株BV−2を、Istituto Nazionale per la Ricerca sul Cancro(IST、ジェノバ、イタリア)から購入した。BV2細胞を、10%FBS及び0.1%ペニシリン−ストレプトマイシン(両方ともギブコ・インビトロジェン製)を追加したRPMI−1640培地(ギブコ・インビトロジェン、ペーズリー、スコットランド、英国)中で培養した。細胞を、37℃、5%CO加湿雰囲気中で維持した。BV−2ミクログリア細胞を、5×10細胞/mLの密度で播種した。翌日、細胞を、LPS100ng/mL及びガンマインターフェロン(IFNγ)50pg/mL(両方ともシグマ・アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ、米国)製)での刺激30分前に、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は両方の化合物の組み合わせで処理した。対照ウェルは、化合物を含有するウェルと同じ最終濃度のビヒクルを含有した。LPS/IFNγ刺激24時間後に、培地の上清を回収し、亜硝酸塩分析アッセイまで−20℃で保管した。
【0099】
NO産生の直接的な指標である亜硝酸塩レベルを、グリース反応によって定量化した。簡潔には、96ウェルプレート中、50μLの培地を、25μLのグリース試薬A(スルファニルアミド、シグマ・アルドリッチ)及び25μLの試薬B(N−1−ナフチルエチレンジアミン、シグマ・アルドリッチ)と混合した。発色後(23〜25℃で10分)、試料をマイクロプレートリーダー(BioTek ELX800、バイオテック・インスツルメンツ社、バーモント、米国)を用いて、540nmで測定した。亜硝酸塩濃度を、亜硝酸ナトリウムの検量線から決定した。3回の実験から、少なくとも3つの別々のウェルの値を計算した。
【0100】
式(I)の化合物はオレアノール酸(4.44mg/L)であり、式(II)の化合物はベルバスコシド(3.12mg/L)であり、式(I)の化合物及び式(II)の化合物の組み合わせはオレアノール酸(4.44mg/L)及びベルバスコシド(3.12mg/L)を含んだ。化合物の原液(50mM)を、ジメチルスルホキシド(DMSO、シグマ・アルドリッチ)で調製した。細胞処理用の溶液を、細胞に添加する直前に、培地で原液を希釈することによって調製した(DMSO濃度:0.5%)。対照は、化合物を含有するウェルと同じ最終濃度のビヒクルを含有した。3回の別々の実験を行った。
【0101】
結果は、オレアノール酸及びベルバスコシドで処理されたLPS+IFNγ刺激BV2ミクログリアについて、それぞれ17.33%及び14.67%の一酸化窒素産生の減少を示した。オレアノール酸及びベルバスコシドの組み合わせで処理した細胞では、NO産生の減少は、単独処理の効果の合計(32.00%)よりも高い39.33%に達した。データを図1及び第2表に示す。
【0102】
実施例3:リポ多糖とガンマインターフェロンとで活性化されたBV2ミクログリアによる一酸化窒素産生に対するマスリン酸及びベルバスコシドの組み合わせの効果
当該アッセイの手順は上記実施例2に記載の通りであり、式(I)の化合物がマスリン酸(13.20mg/L)であり、式(II)の化合物がベルバスコシド(3.12mg/L)であり、式(I)の化合物及び式(II)の化合物の組み合わせはマスリン酸(13.20mg/L)及びベルバスコシド(3.12mg/L)を含んだ。化合物の原液(50mM)を、ジメチルスルホキシド(DMSO、シグマ・アルドリッチ)で調製した。細胞処理用の溶液を、細胞に添加する直前に、培地で原液を希釈することによって調製した(DMSO濃度:0.5%)。対照は、化合物を含有するウェルと同じ最終濃度のビヒクルを含有した。3回の別々の実験を行った。
【0103】
結果は、マスリン酸で処理した活性化ミクログリアではNO産生18.67%の減少、ベルバスコシドで処理した細胞では14.67%の減少を示した。マスリン酸及びベルバスコシドの組み合わせで処理した細胞は、NO産生の減少は、無刺激の条件と比較した場合、NO産生の64.50%の阻害を示した。この値は、別々に試験した両方の化合物の効果の合計(33.34%)よりも明らかに高かった。データを図2及び第2表に示す。
【0104】
実施例4:過酸化水素が媒介する損傷後の、運動神経細胞保護に対するヒドロキシチロソール及びオレアノール酸の組み合わせの効果
NSC34マウス脊髄の運動神経細胞由来の細胞株を本アッセイに使用した。この神経細胞の細胞株は、神経保護剤の研究用に実証された古典的なインビトロのプラットフォームである。これらは、脊髄の神経細胞と多くの共通の生理学的特徴(グルタミン酸感受性、刺激に対するアセチル(acetil)コリン分泌、機能的神経突起又は特有の神経細胞感受性、及び神経毒性剤に対する保護機構等)を共有する。
【0105】
運動神経細胞のNSC−34細胞(セダレーン、バーリントン、オンタリオ、カナダ)を、37℃、5%COで、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び0.04mM L−グルタミンを追加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。全ての試薬はギブコ・インビトロジェンから購入した。NSC34細胞を、適切な組織培養容器である毒性アッセイ用の24ウェルプレートに、低密度(30000細胞(cel)/mL)で播種した。実験において、細胞を、式(I)の化合物(オレアノール酸、4.44mg/L)、式(II)の化合物(ヒドロキシチロソール、1.54mg/L)又は式(I)の化合物(オレアノール酸、4.44mg/L)及び式(II)の化合物(ヒドロキシチロソール、1.54mg/L)の組み合わせで、2時間前処理した。化合物の原液(50mM)を、ジメチルスルホキシド(DMSO、シグマ・アルドリッチ)で調製した。細胞処理用の溶液を、細胞に添加する直前に、培地で原液を希釈することによって調製した(DMSO濃度:0.5%)。対照は、化合物を含有するウェルと同じ最終濃度のビヒクルを含有した。過酸化水素(H)原液は、30%水溶液(アルドリッチ)であった。培地を除去し、適切な容量の新鮮なDMEMとFBS(ギブコ)で置換した。次いで、少量の過酸化水素の一定分量を添加し、最終濃度0.2mMとした。次いで、細胞を37℃に30分間曝露した。この時間の後、培地を除去し、新鮮なものと置換した。化合物を培地中で24時間維持した。この24時間の後、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT、シグマ)アッセイを用いて、細胞の生存率を試験した。発色後(37℃で15分)、試料をマイクロプレートリーダー(BioTek ELX800、バイオテック・インスツルメンツ社、バーモント、米国)を用いて、570〜620nmで測定した。3回の実験から、少なくとも3つの別々のウェルの平均値を計算し、細胞の生存率を、無処理の対照条件と比較したMTT−陽性シグナルの百分率として表した。損傷を受けていない対照のNSC34においても処理の試験を行い、細胞毒性を示した条件は無かった。
【0106】
無処理のH損傷神経細胞と比較して、ヒドロキシチロソール処理は、神経細胞の生存率の21.67%の上昇を、オレアノール酸では生存率の5.33%の上昇を示した。ヒドロキシチロソール及びオレアノール酸の組み合わせは、NSC34の生存率の58.00%の上昇という結果であり、単独処理の効果の合計(27.00%)よりも明らかに高かった。結果を、図3及び第2表にまとめる。
【0107】
第2表:式(I)の化合物(OLA:オレアノール酸;MSA:マスリン酸)及び式(II)の化合物(VRB:ベルバスコシド;HST:ヒドロキシチロソール)での処理による、BV2のNO減少及びNSC34生存率の結果
【表2】
図1
図2
図3