【実施例1】
【0011】
図1は、本実施例におけるレーザ投射表示装置の基本構成を示すブロック図である。
図1において、レーザ投射表示装置1は、画像処理部2、フレームメモリ3、レーザドライバ4、レーザ光源5、反射ミラー6、MEMS走査ミラー7、MEMSドライバ8、増幅器9、光センサ10、照度センサ11、CPU(Central Processing Unit)12を有し、表示画像13を表示する。
【0012】
画像処理部2は、外部から入力される画像信号に各種補正を加えた画像信号を生成し、且つそれに同期した水平(以降Hとも記載)同期信号及び垂直(以降Vとも記載)同期信号を生成し、MEMSドライバ8へ供給する。また、画像処理部2はCPU12より取得した情報に応じてレーザドライバ(以下、レーザ光源駆動部とも呼ぶ)4を制御し、ホワイトバランスを一定にするようなレーザ出力調整をおこなう。その詳細は後述する。
【0013】
ここで、前記した各種補正とは、MEMS走査ミラー7の走査に起因する画像歪み補正、LOOK UP TABLE(以降、LUTと記載する)による画像の階調調整などを行うことを意味する。なお、画像歪みはレーザ投射表示装置1と投射面との相対角で異なること、レーザ光源5とMEMS走査ミラー7の光軸ずれなどのために発生する。LUTに関する事項は後述する。
【0014】
レーザドライバ4は、画像処理部2から出力される駆動信号および画像信号を受け、それに応じてレーザ光源5を変調する。レーザ光源5は、例えばRGB用に3個の半導体レーザ(5a、5b、5c)を有し、画像信号のRGB毎に画像信号に対応したRGBのレーザ光を出射する。
【0015】
RGBの3つのレーザ光は、3つのミラーを有する反射ミラー6により合成され、MEMS走査ミラー7に照射される。反射ミラー6は特定の波長の光を反射し、それ以外の波長の光を透過する特殊な光学素子が用いられる。この光学素子は一般的にはダイクロイックミラーと呼ばれている。
【0016】
詳しくは、反射ミラー6は、半導体レーザ5aから出射されたレーザ光(例えば、R光)を反射し他の色のレーザ光が透過するダイクロイックミラー6aと、半導体レーザ5bから出射されたレーザ光(例えば、G光)を反射し他の色のレーザ光が透過するダイクロイックミラー6bと、半導体レーザ5cから出射されたレーザ光(例えば、B光)を反射し他の色のレーザ光が透過するダイクロイックミラー6cとを有し、R光、G光、B光のレーザ光をひとつのレーザ光に合成して、MEMS走査ミラー7に供給する。
【0017】
MEMS走査ミラー7は2軸の回転機構を有する画像の走査部であって、中央のミラー部を水平方向と垂直方向の2つの方向に振動させることができる。MEMS走査ミラー7の振動制御はMEMSドライバ8により行われる。MEMSドライバ8は画像処理部2からの水平同期信号に同期して正弦波を生成し、また、垂直同期信号に同期したノコギリ波を生成して、MEMS走査ミラー7を駆動する。
【0018】
MEMS走査ミラー7は、MEMSドライバ8からの正弦波の駆動信号を受けて水平方向に正弦波共振運動を行う。これと同時に、MEMSドライバ8からのノコギリ波を受けて垂直方向の一方向に等速運動を行う。これにより、
図1の表示画像13に示すような軌跡でレーザ光は走査され、その走査がレーザドライバ4による変調動作と同期することで、入力画像が光学的に投射されることになる。
【0019】
光センサ10は、投射されるレーザ光の光量を測定し、増幅器9に出力する。増幅器9は、光センサ10の出力を、画像処理部2により設定された増幅率に従い増幅した後、画像処理部2へ出力する。
図1では、光センサ10は反射ミラー6により合成されるRGBのレーザ光の漏れ光を検出するよう配置されている。即ち、光センサ10を半導体レーザ5cに対し反射ミラー6cを挟んで対向側に配置する。反射ミラー6cは半導体レーザ5a及び5bからのレーザ光を透過し、半導体レーザ5cからのレーザ光を反射する特性であるが、100%透過もしくは反射する特性には出来ないため、一般的には数%は反射(半導体レーザ5a及び5bの光)もしくは透過(半導体レーザ5cの光)する。従って
図1の位置に光センサ10を配置することで、反射ミラー6cは、半導体レーザ5cからのレーザ光の数%を透過、また半導体レーザ5a及び5bからのレーザ光の数%を反射して、光センサ10に入射させることができる。
【0020】
また、照度センサ11は、レーザ投射表示装置1の周囲の照度を検出し、CPU12へ出力する。CPU12は、照度センサ11からの信号もしくは外部からの、例えばユーザの指示に応じた、制御信号を受け、画像処理部2が生成する表示画像13の明るさを制御するための調光要求信号を、画像処理部2に供給する。なお、調光とは、明るさを調整する機能であり、例えば、本実施例では、通常動作時の輝度から、これと異なる輝度へ遷移する動作である。ここで、CPU12が照度センサ11からの信号に基づき調光要求信号を送出する場合、ヒステリシスを持つことが望ましい。例えば、照度センサ11の出力を0から100とし、0から20を明るさ1、21から40を明るさ2、41から60を明るさ3、61から80を明るさ4、81から100を明るさ5とすると、照度センサ11の出力が30を中心に±2程度変化しても明るさは変化しないが、照度センサ11の出力が20を中心に±2程度変化すると明るさ1と明るさ2を複数回遷移してしまい、ユーザにとって好適ではない。そこで、例えば明るさ2の時、明るさ1へ遷移する条件を照度センサ11の出力が10以下、明るさ3へ遷移する条件を照度センサ11の出力が50以上、等とヒステリシスを設けることで、異なる明るさ間を複数回遷移することを防止することが可能となる。尚、上記の説明では照度センサ11の出力だけで記載したが、時間的なヒステリシスを用いてもよいことは言うまでもない。
【0021】
次に、
図2を用いて、本実施例の信号処理部の構成を説明する。
図2は、本実施例の信号処理部を示すブロック図であり、
図1の画像処理部2およびレーザドライバ4の内部構成の詳細を示した図である。
図2において、画像処理部2の外部から入力される画像信号は、画質補正部20に入力される。
【0022】
画質補正部20は、MEMS走査ミラー7の走査に起因する画像歪み補正やLUTによる画像の階調調整を行う。画質補正部20で行うLUTによる画像の階調調整は、発光制御部22からのLUT選択信号27に基づき、外部から入力される画像信号に対し画像調整を行い、タイミング調整部21へ補正後の画像信号28を送出する。
【0023】
タイミング調整部21は、画質補正部20から入力される補正後の画像信号28から水平同期信号と垂直同期信号を生成し、MEMSドライバ8および発光制御部22に送出する。また、画像信号は、フレームメモリ3に一旦格納される。フレームメモリ3に書き込まれた画像信号は、タイミング調整部21で生成される、水平同期信号と垂直同期信号に同期した読み出し信号で読み出される。またフレームメモリ3内の画像信号は入力された画像信号に対して、1フレーム分遅延させて読み出される。
【0024】
発光制御部22は、増幅器9の増幅率の調整、および、LDに流す電流を決定するために、レーザドライバ4の駆動信号として、電流ゲイン回路24および閾値電流調整回路25に対して電流設定を行う。また、半導体レーザの発光強度を時間的に一定とする処理である、APC(Auto Power Control)の為に、電流ゲイン回路24に対して、発光強度をモニタするための基準画像信号値を送出する役割を有する。発光制御部22およびAPCの詳細動作は、後述する。
【0025】
読み出された画像信号はラインメモリ23に入力される。ラインメモリ23は1水平期間の画像信号を取り込み、次の水平期間で順次画像信号を読出す。ラインメモリ23で一旦中継する理由は、次のとおりである。一般的にフレームメモリ3の読出しクロック周波数と、レーザドライバ4側へ画像信号を伝送する時のクロック周波数が異なる場合がある。このため、一旦ラインメモリ23で1水平期間の画像信号をフレームメモリ3の読出しクロック周波数で取り込んだ後に、画像信号の伝送クロック周波数でラインメモリ23から読み出す処理を行う。フレームメモリ3の読出しクロック周波数と画像信号の伝送クロック周波数が一致していればラインメモリ23は不要になる。ラインメモリ23から読み出された画像信号はレーザドライバ4へ供給される。
【0026】
次に、レーザドライバ4内の電流ゲイン回路24と閾値電流調整回路25について説明する。閾値電流調整回路25は、後に詳しく述べるように、発光制御部22が設定する閾値電流値に応じて、半導体レーザ5a〜5cが発光する下限値を決める閾値電流を調整する。言い換えると、閾値電流調整回路25は、半導体レーザ5a〜5cに流れる電流値のオフセット成分を生成する。また、電流ゲイン回路24は、ラインメモリ23から入力される画像信号に対して、画像信号値を電流値に換算するための電流ゲインを乗算することで、レーザ光源5に流れる電流値を制御する。なお、前記電流ゲインは、発光制御部22が求めて電流ゲイン回路24に設定する。つまり、電流ゲインを増減することは、画像信号に対応する電流値が増減することになる。よって、実際に半導体レーザ5a〜5cに流れる電流値26は、閾値電流調整回路25で設定された閾値電流値と、電流ゲイン回路24で設定された電流ゲインと画像信号に応じた信号電流値との合計値となる。
【0027】
以上は画像処理部2の基本的な動作である。次に、表示画像の光量を変化させる調光処理の処理内容について、
図3および
図4を用いて説明する。
【0028】
図3は、半導体レーザの光量−順方向電流特性の一例を示す特性図である。半導体レーザは、
図3に示すように、ある閾値電流Ith1を境にして光量が急峻に増加する特性を有する。また、電流に対する光量の変化量は一定ではなく、R1で描くような非線形の特性を有する。ここで、明るい画像を形成する際に用いる電流制御範囲は、閾値電流Ith1から光量Lmが得られる電流Imまでの範囲であることが望ましい。つまり、画像信号を8bit(最大255)としたとき、画像信号が0もしくは1の場合は順方向電流をIth1に、画像信号が255の場合の最大順方向電流をImとなるよう、電流ゲイン回路24と閾値電流調整回路25を制御する。より具体的には、発光制御部22は閾値電流調整回路25を電流値がIth1となるよう制御し、電流ゲイン回路24には(Im−Ith1)/255の電流ゲインを設定する。このようにすることで、画像信号が0の場合は、Ith1の電流がレーザに流れ、画像信号が255の場合は、Imの電流を半導体レーザに流すことが可能となる。つまり、明るい画像を形成する際に半導体レーザに流れる電流範囲は、
図3中の電流制御範囲1となる。尚、画像信号が0の場合は、順方向電流を0にすることでレーザを消灯し、コントラストを得るよう制御しても良い。
【0029】
上述したとおり、
図3に示す電流制御範囲1中で半導体レーザの電流に対する光量の変化量は一定ではなく、R1で描く非線形の特性を有する。表示画像の表示階調数を得るためには、一定の画像の変化量に対し、光量が所定の変化量を有することが望ましい。光量が所定の変化量を有するための手段として、入力画像信号をLUTにより変換し、画像の階調調整を行う方法がある。簡単化の為に、入力画像信号に対し、出力光量がリニアに変化するよう階調調整を行う場合について説明する。この場合は、入力画像信号に対するLUTを、R1の特性を目標特性T1で逆変換したLUTとすることで、入力画像信号に対する出力光量がリニアとなる。尚、出力光量がリニアに変化するだけでなく、一般的なガンマ特性を有するように作成しても良いことは言うまでもない。
【0030】
次に、
図3を用いて調光動作について説明する。例えば、レーザ投射表示装置を車載表示装置として使用した場合、昼間の明るい環境下ではレーザ投射表示装置が投射できる大きな光量を用いて明るい画像(最大光量Lm)を投射すると良い。この場合、半導体レーザを駆動する電流の制御範囲は、
図3で示す電流制御範囲1で良い。しかし、トンネル内等の車体周囲が暗い環境下においては、このままの光量Lmの明るさで画像を投射すると、運転手に眩しい印象を与えてしまう。そこで、レーザ投射表示装置は、車体周囲の環境下に合わせた明るさの画像を投射するように、即座に切り替わる必要がある。つまり、周囲の環境に応じて、レーザ投射表示装置の表示画像の光強度を変更するという調光動作が必要となる。
【0031】
例として、通常動作時に明るい画像(最大光量がLm)を表示している状態から、調光動作により、1/4の明るさの画像(最大光量がLm/4)に変更する場合につき、特に
図3で示した電流制御範囲について考える。尚、通常動作とは調光要求信号が入力されていない状態を意味し、後述するAPCを行っている状態である。
【0032】
調光動作により、最大光量をLm/4に変更する場合、電流制御範囲を前記した電流制御範囲1のままとすると、電流I1から電流Imに対応する画像信号値を用いないようにすることで、最大光量がLm/4の画像を出力することができる。しかしながら、電流I1から電流Imに対応する画像信号値が使用できないため、表示画像13の明るさは変化するものの、表示画像の階調数が低下し、表示画像の品位が低下してしまう。
【0033】
上記、表示画像の品位の低下を抑制するためには、最大光量がLm/4の場合の電流制御範囲を
図3の電流制御範囲1から電流制御範囲2へ変化させる必要がある。つまり、画像信号が0もしくは1の場合は順方向電流をIth1に、画像信号が255の場合の最大順方向電流をI1とするよう、電流ゲイン回路24と閾値電流調整回路25を制御する。より具体的には、発光制御部22は閾値電流調整回路25を電流値がIth1となるよう制御し、電流ゲイン回路24には(I1−Ith1)/255の電流ゲインを設定する。このようにすることで、画像信号が0の場合は、Ith1の電流が半導体レーザに流れ、画像信号が255の場合は、I1の電流が半導体レーザに流れるようになり、画像信号の階調数を損なうことなく、表示画像の明るさを変更することができる。
【0034】
図3から明らかな通り、電流制御範囲1に対するLUTと、電流制御範囲2に対するLUTではテーブルの形状が異なるため、電流制御範囲1用のLUTとは別に、電流制御範囲2用のLUTが必要となる。しかしながら、半導体の高度化が進んだ現在では、複数のLUTを用意することは特に問題とはならない。例えば、明るい画像(最大光量がLm)を出力する場合には、電流制御範囲1と、電流制御範囲1に対応したLUTを使用し、1/4の明るさの画像(最大光量がLm/4)を出力する場合には、電流制御範囲2と、電流制御範囲2に対応した別のLUTを使用するよう、発光制御部22が瞬時に画質補正部20を切り替える。尚、上記の例では最大光量がLmとなる電流制御範囲1と、最大光量がLm/4となる電流制御範囲2について説明したが、これに限らない。例えば、
図4に示すような、複数の最大光量と、LUT、閾値電流調整回路25に設定する閾値電流量、電流ゲイン回路24に設定する電流ゲイン値を、図示しない記憶領域に記憶させておき、CPU12が送出する調光要求信号に応じて切り替えても良い。
【0035】
しかしながら、一般的に半導体レーザの光量−順方向電流特性は温度が変化することで大きく変化する。そのため、調光動作において、
図4に示した予め記憶しておいた閾値電流量および電流ゲイン値を閾値電流調整回路25および電流ゲイン回路24に設定しても、必ずしも意図する光量になるとは限らない。また、半導体レーザの温度を測定することにより、温度に応じた変換係数を用いて予め記憶していた閾値電流量および電流ゲイン値を変換した後に設定する方法も考えられるが、実際に精度良く半導体レーザ自体の温度、特に温度特性に影響を与える半導体レーザのチップ部分の温度を測定することは難しい。
【0036】
図5に半導体レーザ近傍の温度を一定とした状態における、閾値電流−表示画像の平均電流量の関係を示す。ここで、表示画像の平均電流量とは、表示画像内の各画素の電流量の合計を総画素数で割ったものであり、以降、ACL(Average Current Level)と記載する。
図5からわかる通り、半導体レーザ近傍の温度が一定であっても、表示画像の平均電流量によって閾値電流が変化し、半導体レーザの光量−順方向電流特性が変化する。これは、半導体レーザ近傍の温度が一定であっても、半導体レーザのチップ部分の制御しきれない電流量の増加に伴う温度変化が、半導体レーザの熱容量が小さいために半導体レーザに影響し閾値電流が変化すると考えられる。よって、換言すると、表示光量を変化させる調光動作は、調光動作を行う時の半導体レーザの光量−順方向電流特性を考慮するだけでなく、表示画像のACLの変化量も考慮する必要がある。
【0037】
そこで、本実施例では、調光動作時に、半導体レーザの光量−順方向電流特性および表示画像のACLの変化量を考慮する。これにより、調光動作による表示画像のホワイトバランス変化を低減することができる。以下、具体的な動作例を、発光制御部22の動作を中心に説明する。
【0038】
図6は、本実施例の調光処理を示すフローチャートである。
図6では調光処理開始前の表示画像の電流制御範囲を電流制御範囲1とし、最大光量がLm/4である電流制御範囲2へ変更する調光要求信号が入力された場合のフローチャートを示している。
【0039】
図6において、調光要求信号受信後、発光制御部22は、変数iをリセットする(St100)。変数iは、フレーム数カウンタとして動作し、調光動作用に光強度の取得を行う回数を制御するカウンタとして動作する。変数iをリセットした後、タイミング調整部21から送出される垂直同期信号に基づき、表示期間が終了したかを判断する(St101)。表示期間が終了し、帰線期間に入った後、発光制御部22は変数iをインクリメントする(St102)。その後、最大光量がLm/4となるように電流制御範囲2を変更するために、半導体レーザの光強度を取得する(St103)。レーザの光強度の取得は、表示画像に影響を与えることのないよう、表示期間を避け帰線期間に行われる。
【0040】
ここで、
図7を用いて、上記光強度の取得について説明する。
図7は、半導体レーザの光量−順方向電流特性の一例である。R1は
図3中の特性であり、U1は上記調光要求信号受信時のある温度状態における特性である。まず、発光制御部22は、レーザドライバ4の駆動信号である、
図4に示した予め記憶しておいた閾値電流および電流ゲイン値を閾値電流調整回路25および電流ゲイン回路24に設定する(
図7中Aの電流範囲)。その後、任意の画像信号に対応する少なくともひとつの順方向電流値Itを半導体レーザに印加し、その光強度Lt´を取得する。換言すれば、半導体レーザに印加する順方向電流の大きさを複数選択することで、
図7中Aの電流範囲におけるU1の特性を取得することが可能となる。
【0041】
図6に戻って、帰線期間中に半導体レーザの光強度を取得した後、変数iを調光動作用に光強度の取得を行う回数を制御する、所定数Nと比較し(St104)、変数iが所定数Nと等しくない場合はSt101へ移行する。尚、St104からSt101へ移行する際、表示画像用に調光処理開始前の表示画像の電流制御範囲である電流制御範囲1へ戻すことは言うまでもない。変数iが所定数Nと等しい場合は、電流制御範囲2の変更処理1(St105)へ移行する。電流制御範囲2の変更処理1は、St103で得た光強度に基づき、半導体レーザの閾値電流および電流ゲインを算出し、電流制御範囲2を変更する。より具体的には、
図7中Aの電流範囲で得たU1の半導体レーザの光量−順方向電流特性から、閾値電流Ith1´および光量がLm/4となる電流量Im´を算出することで、電流制御範囲2を
図7中Bとなるように決定する。
【0042】
次に、St106において、表示画像のACLを取得する。ACL値は、表示画像の各ピクセルレベルの合計を総ピクセル数で割ったAPL(Average Picture Level)を検出し、表示画像の閾値電流および電流ゲインの設定値から算出することが可能である。この表示画像のACLを用いて、調光処理前後のACL変化量を算出する(St107)。調光処理前後で表示画像の内容は変化しないため、表示画像のACLの計算と同様に、調光処理後のACLの値を、表示画像のAPLとSt105で算出した電流制御範囲2を用いて算出することにより、調光前後でのACL変化量を求める。ACL変化量を求めた後、電流制御範囲2変更処理2(St108)へ移行する。
【0043】
電流制御範囲2変更処理2では、
図5に示す閾値電流−表示画像の平均電流量の関係を、図示しない記憶領域に記憶しておき、その記憶領域を参照することで、ACLの変化量に伴う閾値電流の変化分を算出する。この閾値電流の変化分を、St105で得た電流制御範囲2へ加減算することで、電流制御範囲2を更新する。例えば、
図7においてACLの変化量に伴う閾値電流の変化分をΔIとすると、電流制御範囲2は、電流範囲BからΔI分だけシフトした電流範囲Cとなる。次に、この決定した電流制御範囲2を表示画像用に設定する、表示光量変更処理をする(St109)。このようにすることで、明るさを変更する調光動作前後での表示画像のホワイトバランス変化を低減したレーザ投射表示装置が実現できる。
【0044】
表示画像用に電流制御範囲2を設定した後、通常動作時の閾値電流決定処理を高速化するための高速化フラグをセットする(St110)。ここで、高速化について説明する。高速化とは、通常動作時のAPC処理の実行周期を短くすることである。表示光量変更処理(St109)は、ACLの変化量に応じて予め図示しない記憶領域に記憶した閾値電流−表示画像の平均電流量の関係から電流制御範囲を変更する、いわゆるフィードフォワード制御である。そのため、LDの経時劣化やLDの個体バラつき全てに対応するのは難しく、目標の光量に必ず毎回一致するとは限らない。そこで、調光処理直後にフィードバック制御である通常動作時のAPC処理を高速化する必要がある。APC処理を高速化することで、目標とする光量へ素早く収束することが可能となる。また、半導体レーザのチップ部分の温度変化も、調光処理直後から時定数を有して変化する。この温度変化による光出力特性の変化にも、APC処理を高速化することで対応することが可能となる。尚、通常動作時の閾値電流決定処理については後述する。
【0045】
高速化フラグをセットした後、発光制御部22は、変数jをリセットする(St111)。変数jも、変数iと同様フレーム数カウンタとして動作し、上記高速化フラグが有効な期間を制御するカウンタとして動作する。変数jをリセットした後、タイミング調整部21から送出される垂直同期信号に基づき、表示期間が終了したかを判断する(St101)。表示期間が終了し、帰線期間に入った後、発光制御部22は変数jをインクリメントする(St112)。その後、高速化フラグが有効な期間を決定する、所定数Mと比較し(St113)、変数jが所定数Mと等しくない場合はSt101へ移行し、変数jが所定数Mと等しい場合は、高速化フラグをリセット(St114)した後、調光処理を終了する。
【0046】
次に通常動作時のAPCについて説明する。前述したとおり、半導体レーザは温度が変化することにより光量−順方向電流特性が変化するため、半導体レーザの発光強度を時間的に一定とするために、
図2に示すように、レーザ発光強度を光センサ10で検出し、増幅器9を介してモニタし、得られた発光強度を基に電流ゲイン回路24と閾値電流調整回路25へフィードバックする、APCを行う必要がある。特に、APCは、閾値電流決定処理と電流ゲイン決定処理に分かれる。電流ゲイン決定処理の一例として、表示画像の最大光量がLm/4の場合について説明する。発光制御部22から最大画像信号を電流ゲイン回路24に画像信号として送出し、その光強度を光センサ10で検出し、増幅器9を介して取得することで、取得した光強度と電流制御範囲2で目標とする光量Lm/4とを比較し、最大画像信号入力時の出力光量がLm/4となるよう電流ゲイン回路24に設定するゲインをフィードバック制御する。
【0047】
また、閾値電流決定処理では、閾値電流調整回路25に与える設定値を決定するため、閾値電流Ith1もしくはその近傍の電流値となる画像信号を電流ゲイン回路24に画像信号として送出し、その光強度を光センサ10で検出し、増幅器9を介して取得することで、閾値電流Ith1もしくはその近傍の電流値となる画像信号入力時の出力光量となるよう、閾値電流調整回路25に設定する電流値をフィードバック制御する。
【0048】
このようにすることで、電流制御範囲は時間的に変化するものの、入力画像信号に対する出力光量の値が一定となり、半導体レーザの温度による特性の変化をユーザに認識させないようにすることができる。ここで、上記出力光量Lm/4および閾値電流Ith1もしくはその近傍の電流値となる画像信号入力時の出力光量は、図示しない記憶領域に保持しておく。また、RGB各色に対応した上記光量の値を保持することで、ホワイトバランスを一定とすることができる。尚、説明の簡単化のために、光センサ10で検出し、増幅器9を介して取得する光強度を最大画像信号および閾値電流Ith1もしくはその近傍の電流値となる画像信号としたが、この限りではなく、或る所定の画像信号における光強度を光センサ10で検出し、増幅器9を介して取得しても良いことは言うまでもない。
【0049】
上記の通常動作時のAPCは、調光処理直後とそれ以外で閾値電流決定処理の実行周期を変更することが望ましい。
図6で示した調光処理では、表示画像のACL変化量に応じて閾値電流値を変化させたが、これは予め記憶領域に記憶させた閾値電流−表示画像の平均電流量の関係を用いるフィードフォワード制御である。そのため、フィードバック制御である閾値電流決定処理の実行周期を、調光処理直後に早めることで、フィードフォワード制御による理想特性からのずれを早急に是正することが可能となる。また、調光処理直後以外では、閾値電流決定処理の実行周期を遅くすることが望ましい。閾値電流決定処理の実行周期を遅くすることで、光強度の取得サンプル数が増えるため、より正確なフィードバック制御が可能になると共に、頻繁に表示画像の電流制御範囲が変化することによるユーザへの違和感を与えなくすることが可能となる。
【0050】
上記の通常動作時のAPCを
図8のフローチャートを用いて説明する。
図8において、発光制御部22は、電源投入後、変数kをリセットする(St200)。変数kは、フレーム数カウンタとして動作し、APCの実行周期を制御するカウンタとして動作する。変数kをリセットした後、タイミング調整部21から送出される垂直同期信号に基づき、表示期間が終了したかを判断する(St101)。表示期間が終了し、帰線期間に入った後、発光制御部22は変数kをインクリメントする(St201)。その後、上述した閾値電流決定処理と電流ゲイン決定処理用に、半導体レーザの光強度を取得する(St202)。レーザの光強度の取得は、表示画像に影響を与えることのないよう、表示期間を避け帰線期間に行われる。光強度の取得後、高速化フラグがリセット状態か否かを判断する(St203)。高速化フラグがリセット状態である場合は、St204からSt207に係る調光処理直後ではないAPCに移行し、高速化フラグがセット状態である場合は、St208からSt207に係る調光処理直後のAPCに移行する。調光処理直後でない場合、変数kを、APCの実行周期を制御する所定数Pと比較し(St204)、変数kが所定数Pと等しくない場合はSt101へ移行し、変数kが所定数Pと等しい場合は閾値電流決定処理へ移行する(St205)。閾値電流決定処理は、上述した通り、St101からSt203に係る少なくともP個の取得した光強度を用いて閾値電流調整回路25に設定する電流値をフィードバック制御する。その後、電流ゲイン決定処理へ移行する(St206)。電流ゲイン決定処理は、上述した通り、St101からSt203に係る少なくともP個の取得した光強度を用いて電流ゲイン回路24に設定する電流ゲイン値をフィードバック制御する。その後、変数kをリセットした後(st207)、先のSt101へ戻って以上の処理フローを繰返す。
【0051】
このように、高速化フラグがリセット状態においては、閾値電流決定処理の実行周期を遅くすることで、光強度の取得サンプル数が増えるため、より正確なフィードバック制御が可能になると共に、頻繁に表示画像の電流制御範囲が変化することによるユーザへの違和感を与えなくすることが可能となる。
【0052】
次に、高速化フラグがセット状態の場合に移行する、St208からSt207に係る調光処理直後のAPCについて説明する。調光処理直後の場合、変数kを、APCの実行周期を制御する所定数Qおよび自然数nとの積と比較し(St208)、変数kがnQと等しくない場合はSt101へ移行し、変数kがnQと等しい場合は閾値電流決定処理へ移行する(St205)。ここで、nは0,1,2・・・の自然数とし、所定数Qは所定数Pより小さい値(Q<P)である。閾値電流決定処理は、上述した通り、St101からSt203に係る少なくともQ個の取得した光強度を用いて閾値電流調整回路25に設定する電流値をフィードバック制御する。その後、変数kを、APCの実行周期を制御する所定数Pと比較し(St204)、変数kが所定数Pと等しくない場合はSt101へ移行し、変数kが所定数Pと等しい場合は電流ゲイン決定処理へ移行する(St206)。電流ゲイン決定処理は、上述した通り、St101からSt203に係る少なくともP個の取得した光強度を用いて電流ゲイン回路24に設定する電流ゲイン値をフィードバック制御する。その後、変数kをリセットした後(st207)、先のSt101へ戻って以上の処理フローを繰返す。
【0053】
例えば、高速化フラグがセットされている状態において、P=9,Q=2とすると、k=0,2,4,6,8で閾値電流決定処理が実行される。このように、高速化フラグがセットされることによって、高速化フラグがリセット状態の場合は10フレーム毎に1回閾値電流決定処理が行われるのに対し、調光処理直後は2フレーム毎に1回、閾値電流決定処理が行われる。そのため、フィードバック制御である閾値電流決定処理の実行周期が、調光処理直後に短くなり、フィードフォワード制御による理想特性からのずれを早急に是正することが可能となる。これは、
図2上で言い換えると、発光制御部22から閾値電流調整回路25に対して設定される閾値電流値の設定周期が短いことを意味する。
【0054】
よって、本実施例によれば、調光処理直後の閾値電流決定処理の更新を高速化し、調光動作による表示画像のホワイトバランス変化を低減したレーザ投射表示装置を提供できる。
【0055】
尚、本実施例においては、調光処理直後の閾値電流決定処理のみの実行周期を早めたが、同様に電流ゲイン決定処理の実行周期を早めても良いことはいうまでもない。この場合は、St208からSt207に係る調光処理直後のAPCにおいて、St204とSt206の実行順序を入れ替えることで容易に実施可能である。また、調光処理直後の光強度の取得回数、特にひとつの帰線期間中に取得する光強度の取得個数を増やすことにより、光強度の取得サンプル数が増えるため、より正確なフィードバック制御が可能になるため、高速化フラグのセット/リセット状態によって、ひとつの帰線期間中に取得する光強度の取得個数を変化させることが望ましい。