特許第6442171号(P6442171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442171
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20181210BHJP
【FI】
   F04C18/02 311J
   F04C18/02 311E
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-132559(P2014-132559)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11604(P2016-11604A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】太田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 真実
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和英
【審査官】 岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−035283(JP,A)
【文献】 特許第3241575(JP,B2)
【文献】 特開2012−229650(JP,A)
【文献】 特開2013−241862(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0093413(US,A1)
【文献】 特開平09−032752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回スクロールと、前記旋回スクロールと対向することで冷媒ガスを圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記旋回スクロールのスラスト方向の荷重を支持するスラスト板と、を有するスクロール圧縮機構と、
前記スクロール圧縮機構で圧縮された前記冷媒ガスを、前記スラスト板の背面に背圧として作用させる背圧付与機構と、
前記背圧に基づく前記スラスト板の浮上量を規制する浮上量規制機構と、
前記スクロール圧縮機構と、前記背圧付与機構と、前記浮上量規制機構と、を収容するハウジングと、を備え、
前記浮上量規制機構は、
前記スラスト板を貫通するとともに、先端部分が前記ハウジングに固定される軸部と、
前記軸部に連なり、前記軸部よりも径の大きな頭部と、を備え、
前記スラスト板を前記頭部に係止させることで前記浮上量を規制する規制ピンを備え
前記背圧付与機構は前記浮上量規制機構よりも径方向の外側に設けられることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記頭部は、
前記スラスト板を貫通し、前記規制ピンが挿入される規制孔の段差に係止される、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記旋回スクロールの自転を防止するピン−リング式の自転防止機構を備え、
前記自転防止機構の前記ピンが、前記規制ピンとして機能する、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記旋回スクロールが備えるラップと前記固定スクロールが備えるラップの一方又は双
方の先端面に、アブレイダブルコーティングが設けられている、
請求項1〜のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空気調和機に用いられるスクロール型の圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとを備える。固定スクロールおよび旋回スクロールは、それぞれ円板状の端板の一面側に渦巻状のラップが一体に形成されたものである。この固定スクロールと旋回スクロールを、ラップ同士を噛み合わせた状態で対向させて固定スクロールに対して旋回スクロールを公転旋回運動させ、双方のラップの間に形成される圧縮空間を外周側から内周側に移動させつつその容積を減少させることで、冷媒の圧縮を行なう。なお、固定スクロールと旋回スクロールを含む、冷媒の圧縮に係る機構をスクロール圧縮機構ということがある。
【0003】
スクロール圧縮機の作動時には、旋回スクロールと固定スクロールは互いに離れる向きに圧縮された冷媒から力を受けて、旋回スクロールが軸方向に移動する。そうすると、双方のスクロールのラップの先端面(歯先)と相手側の端板との間に隙間が形成され、その隙間から冷媒が漏れてしまうために圧縮機の性能が低下し得る。
そこで、例えば特許文献1に開示されるように、圧縮機の作動時に旋回スクロールの移動を防止するために、旋回スクロールの背面に圧縮された冷媒を作用させて旋回スクロールを浮上させることで、常にラップの先端面が相手側の端板に接するように制御することが提案されている。なお、この制御を、旋回背圧制御ということがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3893487号公報
【特許文献2】特開平8−86287号公報
【特許文献3】特開平8−159051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、旋回スクロールを浮上させた場合には、旋回スクロールからのスラスト荷重をラップの歯先が受け持つことになる。そうすると、背圧に付与される圧力が過大になると、相手側の端板に対するラップの歯先の押し付け力が過大となり、ラップの歯先が端板に焼き付いたり、破損したりするおそれがある。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、旋回背圧制御を採用しつつ、ラップの歯先に過大な押し付け力が生ずるのを回避できるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもとなされた本発明のスクロール圧縮機は、スクロール圧縮機構と、背圧付与機構と、浮上量規制機構と、スクロール圧縮機構、前記背圧付与機構及び浮上量規制機構と、を収容するハウジングとを備える。
本発明のスクロール圧縮機構は、旋回スクロールと、旋回スクロールと対向することで冷媒ガスを圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、旋回スクロールのスラスト方向の荷重を支持するスラスト板と、を有する。
背圧付与機構は、スクロール圧縮機構で圧縮された冷媒ガスを、スラスト板の背面に背圧として作用させる。
浮上量規制機構は、背圧に基づくスラスト板の浮上量を規制する。
【0007】
本発明のスクロール圧縮機は、背圧付与機構が、スクロール圧縮機構で圧縮された冷媒ガスをスラスト板の背面に背圧として作用させることにより、スラスト板を浮上させ、これにより旋回スクロールを浮上させる。そして、本発明のスクロール圧縮機は、浮上量規制機構によるスラスト板の浮上量の規制を介して、旋回スクロールの浮上量を規制できるので、ラップの歯先に過大な押し付け力が生ずるのを回避できる。
【0008】
本発明のスクロール圧縮機において、浮上量規制機構は、スラスト板を貫通するとともに、先端部分がハウジングに固定される軸部と、軸部に連なり、軸部よりも径の大きな頭部と、を備え、スラスト板を頭部に係止させることで浮上量を規制する規制ピンを備えることができる。
この規制ピンとして、旋回スクロールの自転を防止するピン−リング式の自転防止機構を備の自転防止ピンを規制ピンとして機能させることができる。
本発明のスクロール圧縮機において、浮上量規制機構は、スラスト板の周縁が、ハウジングの内周壁に係止されることで、浮上量を規制することもできる。
【0009】
本発明のスクロール圧縮機において、旋回スクロールが備えるラップと固定スクロールが備えるラップの一方又は双方の先端面に、アブレイダブルコーティングが設けられていることが好ましい。アブレイダブルコーティングを設けることにより、旋回スクロールの浮上量規制に関係する部材に要求される寸法公差を緩和することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、旋回背圧制御を採用しつつ、ラップの歯先に過大な押し付け力が生ずるのを回避できるスクロール圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2】スクロール圧縮機のフロントハウジングを前方から視た図である。
図3】第1実施形態に係る浮上量規制機構を示し、(a)は規制ピンとスラスト板に形成される規制孔とを示す図、(b)はスラスト板の浮上量がゼロの状態を示し、(c)はスラスト板の浮上量が最大の状態を示している。
図4】第2実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図5】第2実施形態に係る浮上量規制機構を示し、(a)は規制ピンとスラスト板に形成される規制孔とを示す図、(b)はスラスト板の浮上量がゼロの状態を示し、(c)はスラスト板の浮上量が最大の状態を示している。
図6】第3実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図7】第3実施形態に係る浮上量規制機構を示し、(a)はスラスト板の浮上量がゼロの状態を示し、(b)はスラスト板の浮上量が最大の状態を示している。
図8】旋回スクロールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
本実施形態における横置き型のスクロール圧縮機(以下、圧縮機)1は、図1に示すように、ハウジング11と、ハウジング11の内部に配置され、ハウジング11内に取り込まれた冷媒ガスを圧縮するスクロール圧縮機構(以下、圧縮機構)12と、圧縮機構12を駆動する主軸13とを主たる構成要素として備えている。この圧縮機1は、冷媒を圧縮して例えば車両用空気調和機の冷媒回路に供給する。
圧縮機1は、旋回背圧制御を採用しつつ、ラップの歯先に過大な押し付け力が生ずるのを回避できる構成を備えている。以下、圧縮機1の構成を説明する。
【0013】
[ハウジング11]
ハウジング11は、フロントハウジング14とリアハウジング15とを備える。フロントハウジング14とリアハウジング15の円周上には、複数箇所に締め付け用のフランジが形成され、締結部材9により一体的に締め付け固定されている。
フロントハウジング14とリアハウジング15が組み合わさって形成される収容空間に、以下説明する圧縮機構12が収容される。なお、圧縮機1において、フロントハウジング14が設けられている側を前、リアハウジング15が設けられる側を後と定義する。
【0014】
[圧縮機構12]
圧縮機構12は、ハウジング11に対して固定される固定スクロール20と、固定スクロール20に対して公転旋回運動する旋回スクロール30とを備えている。また、ハウジング11の内部は、圧縮機構12により低圧室10Aと高圧室10Bに仕切られている。
固定スクロール20は、その中心軸が主軸13の中心軸Lと一致するように設けられ、旋回スクロール30と圧縮室PRを形成する。
固定スクロール20は、リアハウジング15に支持されている固定端板21と、固定端板21の一方の面から立設する渦巻状のラップ22とを備えている。
固定端板21の中心部には、軸方向に貫通する吐出ポート23が形成されている。圧縮室PRで圧縮された高圧高温の冷媒ガスは、吐出ポート23を通過して高圧室10Bに流入する。この冷媒ガスには、固定スクロール20と旋回スクロール30の摺動面、軸受の潤滑を行うための潤滑油が含まれている。
ラップ22の先端面には、先端面と対向する相手側の旋回スクロール30の旋回端板31との間のシール性を確保するためにチップシール28が設けられている。チップシール28は、潤滑油を介して旋回スクロール30の旋回端板31と接触して摺動されることで、ラップ22の先端面と旋回端板31との間に形成される隙間をシールしている。先端面と旋回端板31の間には、潤滑油の油膜を形成するために必要な隙間が形成されている。
ラップ22は、その先端面にアブレイダブルコーティング(Abradable Coating)をシール材として形成することができる。
このアブレイダブルコーティングは、相手側である旋回スクロール30の旋回端板31に接触すると磨滅する。したがって、ラップ22の先端面と旋回端板31の間の隙間を最小に保持することができる。また、アブレイダブルコーティングが磨滅する分だけ、旋回スクロール30の浮上量規制に関係する部材に要求される寸法公差を緩和することができる。浮上量規制に関係する部材としては、後述する規制ピン60、規制ピン60が挿入される規制孔65を備えるスラスト板19などが該当する。
アブレイダブルコーティングの材質は限定されるものでなく、金属材料、樹脂材料及びセラミックス材料から選択することができる。アブレイダブルコーティングは、旋回スクロール30のラップ32にも設けることができる。
【0015】
旋回スクロール30は、円板状の旋回端板31と、旋回端板31の一方の面から立設する渦巻状のラップ32とを備えている。
旋回スクロール30の旋回端板31の背面には、ボス27が設けられるとともに、そのボス27に軸受を介して偏心ブッシュ17が組みつけられている。偏心ブッシュ17の内側には偏心ピン18が嵌められている。これにより旋回スクロール30が主軸13の軸心に偏心して結合されるので、主軸13が回転すると、旋回スクロール30は、主軸13の軸心から偏心距離を旋回半径として回転(公転)する。
旋回スクロール30が公転しつつも自転しないよう、旋回スクロール30と主軸13の間には図示を省略するオルダム継手が設けられるとともに、ピン−リング式の自転防止機構が設けられている。この自転防止機構は、図2に示されるP1で示される四か所に設けられるが、その構成については第2実施形態において説明する。
ラップ32の先端面には、ラップ22の先端面と同様に、チップシール38が設けられ、チップシール38と固定端板21の間には、潤滑油の油膜が形成されている。
【0016】
固定スクロール20と旋回スクロール30は、互いに所定量だけ偏心し、180度位相をずらしてか噛み合わされるラップ22,32の先端面とボトム面との間に僅かなラップ高さ方向の隙間を有するように組み付けられる。これによって、図1に示すように、双方のスクロール20,30の間には、端板21,31とラップ22,32とにより形成される一対の圧縮室PRがスクロール中心に対して対称に形成されるとともに、旋回スクロール30の旋回に伴って、圧縮室PRはその容積を減少させながら、次第に内周側に移動される。そして、渦巻きの中心部で冷媒ガスが最大に圧縮される。
【0017】
この圧縮機構12は、双方のスクロール20,30間に形成される圧縮空間の容積を渦巻きの途中でラップの高さ方向にも減少させており、3Dスクロール(登録商標)と称されている。そのために、固定スクロール20および旋回スクロール30の双方において、ラップの高さを外周側よりも内周側で低くするとともに、その段差状のラップに対向する相手側の端板を外周側よりも内周側で、端板内面側に突出するようにしている。
【0018】
図8に示すように、旋回スクロール30の内周側ラップ32Aと外周側ラップ32Bとの間には、段差部32Cが形成されている。段差部32Cでは、内周側ラップ32Aから外周側ラップ32Bが立ち上がり、外周側ラップ32Bの方が背が高くなっている。一方、端板31は、内周側底部31Aと外周側底部31Bとを備え、両者の間に段差部31Cが形成されることで、内周側底部31Aの方が背が高くなっている。
なお、固定スクロール20も旋回スクロールと同様の構造を有している。
また、ここでは一段階の段差の例を示したが、二段階以上の段差を設けることもできる。
【0019】
[スラスト板19]
旋回スクロール30の前方には、旋回端板31に近接かつ対向するように、円環状のスラスト板19が設けられている。
スラスト板19は耐摩耗性材料からなり、旋回端板31と旋回端板31に対向するフロントハウジング14の間に配置されており、旋回スクロール30からのスラスト荷重を支持する。スラスト板19は、旋回スクロール30に対してスラスト滑り軸受として機能するものであり、圧縮機1が作動中には、旋回スクロール30がスラスト板19上を摺動するようになっている。
本実施形態におけるスラスト板19は、以上のようにスラスト滑り軸受として機能するのに加えて、旋回スクロール30に背圧を付与する機能を備える。スラスト板19は、周方向への移動は拘束されているが、背圧付与機能を実現するために、前方に向けた移動は拘束されておらず、フロントハウジング14に対して浮上が可能とされている。
【0020】
[背圧付与機構]
スクロール圧縮機1は、スラスト板19を介して旋回スクロール30に背圧を付与するために、以下の構成を備えている。
スラスト板19とフロントハウジング14の間には、図2に示すように、それぞれ弾性素材からなる内側封止体46および外側封止体47が、径方向に間隔を空けて設けられている。そして、内側封止体46と外側封止体47の間には、フロントハウジング14(スラスト板19)の周方向に沿って環状の凹部44が形成される。
また、フロントハウジング14には、図1に示すように、凹部44に連通する連通路43が環状に形成されている。凹部44と連通路43を合わせて圧力ポケット45と称する。連通路43と高圧室10Bは、開口面積A1を有する高圧側流路41で連通されている。高圧室10Bに吐出された高圧の冷媒ガスは、高圧側流路41を通過し、圧力ポケット45に流入する。
なお、本実施形態においては、自転防止機構が設けられるP1及び浮上量規制機構を設けるP2を除いて、内側封止体46をできる限り中心に寄せて設けることで、凹部44の開口面積を稼いでいる。これにより、旋回スクロール30に付与する背圧を確保することができる。
【0021】
連通路43には、開口面積A2を有する低圧側流路42の一端が連通され、低圧側流路42の他端は低圧室10Aに連通している。そのため、高圧側流路41から圧力ポケット45に流入した高圧高温の冷媒ガスは、圧力ポケット45を通過した後に、低圧側流路42を経て低圧室10A内に流入する。なお、この冷媒ガスには潤滑油が含まれており、低圧側流路42は専らこの潤滑油を低圧室10Aに戻す通路として機能する。
低圧側流路42の開口面積A2は、高圧側流路41の開口面積A1よりも小さくなるように設定されている(A2<A1)。そのため、圧力ポケット45から低圧室10Aに流出する冷媒ガスの量は、高圧側流路41から圧力ポケット45に流入する量よりも少なくなる。
【0022】
[浮上量規制機構]
圧縮機1は、旋回スクロール30の浮上量を規制する機構を備えている。この機構は、以下説明するように、冷媒ガスの圧力を受けて旋回スクロール30を浮上させるスラスト板19の浮上量を規制することにより、旋回スクロール30の浮上量を規制する。
この機構は、図1及び図3に示すように、スラスト板19を貫通し、先端側がフロントハウジング14に固定される規制ピン60を備える。規制ピン60は、図3(a)に示すように、軸部61と、軸部61に連なる頭部62と、を構成要素として備える。頭部62は軸部61よりも径が大きく形成されている。旋回端板31には、規制ピン60に対応する位置に、円筒状の空隙35が設けられている。
スラスト板19は、図3(a)に示すように、スラスト板19の表裏を貫通し、規制ピン60が挿入される規制孔65を備える。規制孔65は、規制ピン60の軸部61に対応する径を有する小径部66と、規制ピン60の頭部62に対応する径を有する大径部67と、を有する。
【0023】
規制ピン60は、図3(b)及び図3(c)に示すように、スラスト板19の規制孔65に挿入され、先端部分がフロントハウジング14に固定される。ここで、図3(b)は、スラスト板19が背圧を受けていないために、スラスト板19が浮上していない(浮上量がゼロ)状態を示し、図3(c)は、スラスト板19に背圧が付与されることで、スラスト板19の浮上量が最大の状態を示している。図3(b),(c)が示すように、背圧を受けるとスラスト板19は浮上するものの、規制ピン60の頭部62が小径部66と大径部67との境界部分である段差に係止されるために、スラスト板19は係止された位置を越えて浮上するのが規制される。前述したように、旋回スクロール30の浮上はスラスト板19の浮上に追従するから、スラスト板19の浮上量を規制することにより、旋回スクロール30の浮上量を規制することができる。
【0024】
本実施形態は、スラスト板19の浮上量がゼロの状態において、図3(b)に示すように、スラスト板19のおもて面19Sと規制ピン60の頭部62の頂面62Sが同一平面をなすようにすることが好ましい。そうすれば、スラスト板19の浮上量を大径部67の深さdから頭部62の肉厚tを差し引いた値で特定することができるので、旋回スクロール30の浮上量の制御が容易になるからである。
また、図3は、規制ピン60と規制孔65の対からなる一つの浮上量規制機構について言及しているが、本実施形態においては、二つ以上の浮上量規制機構を設けることができる。例えば、図2のP2で示される位置の各々に浮上量規制機構を設けることができる。なお、図2において、二つのP2は、各々が対称の位置に設けられている。
【0025】
[圧縮機1の動作]
次に、以上の構成を備える圧縮機1の動作を説明する。
駆動源を駆動して圧縮機1を駆動すると、主軸13が回転し、それに伴って旋回スクロール30が固定スクロール20に対して公転旋回運動する。そうすると、旋回スクロール30と固定スクロール20の間の圧縮室PRで冷媒ガスが圧縮されるとともに、図示を省略する吸入管からハウジング11内の低圧室10Aに導入された冷媒ガスが旋回スクロール30と固定スクロール20との間に吸い込まれる。そして、圧縮室PRの内部で圧縮されて高温高圧状態の冷媒ガスは、固定端板21の吐出ポート23を通過して高圧室10Bに吐出される。
そして、吐出された高圧高温の冷媒ガスは、図示を省略する吐出ポートから外部へと吐出される。こうして、冷媒の吸入、圧縮および吐出が連続して行なわれる。
【0026】
高圧室10Bに吐出された冷媒ガスの一部は、高圧側流路41を介して、圧力ポケット45に流入する。この圧力ポケット45は、高圧側流路41及び低圧側流路42との接続部分を除いて、スラスト板19と内・外側封止体46,47およびフロントハウジング14により密閉されている。圧力ポケット45に流入した高圧の冷媒ガスは、圧力ポケット45内を周方向に沿って流れる過程で、後述するように、スラスト板19を介して旋回スクロール30に固定スクロール20に向けて押す背圧を付与する。低圧側流路42の開口面積A2が高圧側流路41の開口面積A1よりも小さいため、圧力ポケット45には所定の圧力が負荷される。旋回スクロール30を押圧する力は、高圧室10Bに吐出される冷媒ガスの圧力に依存する。
圧力ポケット45を通過した冷媒ガスは、低圧側流路42から低圧室10A内に吸入されるが、この冷媒ガスに含まれる潤滑油は低圧室10Aに戻されることになる。
【0027】
以上、圧力ポケット45に冷媒ガスが流入する場合について述べたが、冷媒ガスに含まれる潤滑油を圧力ポケット45に流入させることもできる。
この場合、高圧室10B側に油分離室を設け、油分離室の底部に高圧側流路41を設ける。
油分離室で分離された潤滑油は、自重により油分離室の底部に流れ、高圧側流路41を通過して、圧力ポケット45に流入する。潤滑油には高圧室10Bの冷媒ガスから圧力が加わる。そのため、スラスト板19に対する潤滑油の押圧力は、圧縮室PRから吐出した冷媒ガスの圧力に依存する。この潤滑油は、低圧側流路42を介して低圧室10Aに戻される。
【0028】
[効果]
次に、上記のように構成された圧縮機1の作用・効果について説明する。
【0029】
圧縮機1は、高能力運転時において、旋回スクロール30の浮上量を規制ピン60と規制孔65による浮上量規制機構により規制することができるので、ラップ22,32の先端面が相手側端板31,21に過剰な力で押し付けられるのを避けることができる。したがって、圧縮機1は、背圧制御を行いながら、ラップ22,32の歯先が焼き付くなどの不具合に対する信頼性を確保することができる。
【0030】
また、圧縮機1は、旋回スクロール30の浮上量の規制を、スラスト板19の浮上量を規制することにより実現している。例えば、本実施形態と同様の浮上量規制機構を旋回スクロール30に設けることも可能であるが、旋回スクロール30の旋回運動に伴って規制ピン60との間に摺動が不可避的に生じるので、両者間にかじり、焼き付き等の不具合が生じる懸念がある。これに対して、本実施形態のように、スラスト板19は浮上以外の運動をしないので、スラスト板19に当該機構を設ける場合には、これらの不具合に対する信頼性を確保することができる。
【0031】
また、圧縮機1において、スラスト板19が浮上する際に、自転防止機構はスラスト板19が傾斜するのを防ぎ、スラスト板19が安定して浮上するのに寄与することができる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る圧縮機2について、図4及び図5に基づいて説明する。
第2実施形態は、スクロール型の圧縮機2が元々備えている旋回スクロール30の自転を防止するためのピンを、浮上量規制機構の規制ピン60に替えて用いる。その他については、圧縮機2は圧縮機1と同様の構成を備えているので、第1実施形態で用いた符号と同じ構成要素については、図4及び図5図1図3と同じ符号を付するとともに、以下では圧縮機1との相違点を中心に圧縮機2を省略する。
【0033】
圧縮機2は、旋回スクロール30の自転を防止するための自転防止機構を備えている。この自転防止機構は、図2のP1で示される位置に設けられるものであり、本実施形態ではピン−リング式の自転防止機構を採用している。
自転防止機構は、図4に示すように、フロントハウジング14に固定される規制ピン(自転防止ピン)60と、旋回スクロール30に設けられる自転防止リング68と、を備えている。
規制ピン60は、図5(a)に示すように、軸部61及び頭部62に加えて、自転防止ピン部63を備える点では第1実施形態と相違する。
スラスト板19は、図5(b)に示すように、その表裏を貫通し、規制ピン60が挿入される規制孔65を備える。規制孔65が小径部66と大径部67となることは、第1実施形態と同様である。
自転防止リング68は、旋回スクロール30の旋回端板31の背面側のスラスト面に形成される円筒状の空隙35に嵌合されている。
【0034】
規制ピン60は、図5(b)及び図5(c)に示すように、スラスト板19の規制孔65に挿入され、先端側がフロントハウジング14に固定される。自転防止ピン部63は、スラスト板19の表面から空隙35の内部に突出して設けられる。
第1実施形態と同様に、図5(b)は、スラスト板19の浮上量がゼロの状態を示し、図5(c)は、スラスト板19の浮上量が最大の状態を示している。図5(b),(c)が示すように、規制ピン60の頭部62が小径部66と大径部67との境界部分である段差(64)に係止されるために、旋回スクロール30の浮上量が規制される。この過程で、規制ピン60の自転防止ピン部63は、自転防止リング68の内壁面に沿って公転することにより、旋回スクロール30の自転を防止するので、旋回スクロール30は固定スクロール20に対して公転旋回運動が可能とされる。
【0035】
[効果]
圧縮機2は、第1実施形態の圧縮機1と同様の作用及び効果を有するのに加えて以下の効果を奏する。
スクロール型の圧縮機が備える自転防止ピンを活用して旋回スクロール30の浮上量を規制するので、浮上量を規制するための専用の規制ピンを設ける必要がない。したがって、圧縮機2は、第1実施形態に比べて、部品点数を削減できるので、コスト低減に寄与する。
また、専用の規制ピン60がスラスト板19を貫通する部位は背圧を受けることができなくなるので、専用の規制ピン60を設けるとスラスト板19が背圧を受ける面積が減少してしまう。これに対して、圧縮機2のように、自転防止ピンを活用すれば、専用の規制ピン60による背圧面積の減少はないので、第1実施形態に比べて背圧面積を拡大することができる。
【0036】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る圧縮機3について、図6及び図7に基づいて説明する。
第3実施形態は、スラスト板19をハウジングに係止させることにより、スラスト板19を介した旋回スクロール30の浮上量を規制する。圧縮機3は、そのために必要な構成を備えるが、スクロール圧縮機としての基本的な構成は、圧縮機1と同様である。そこで、圧縮機1と同じ構成要素については、図6及び図7図1図3と同じ符号を付するとともに、以下では圧縮機1との相違点を中心に圧縮機3を説明する。
【0037】
圧縮機3は、図6及び図7に示すように、スラスト板19の径をフロントハウジング14の内壁面に干渉する程度まで拡大する。一方で、フロントハウジング14には、スラスト板19の浮上範囲に対応する領域に、内壁面から肉厚方向に後退する規制溝69を形成する。規制溝69は、内壁面の周方向に連なってリング状に形成される。この規制溝69の内部にスラスト板19の周縁部分が挿入されることで、スラスト板19の浮上量が規制される。
【0038】
さて、図7(a)は、スラスト板19の浮上量がゼロの状態を示し、図7(b)は、スラスト板19の浮上量が最大の状態を示している。
図7(a),(b)が示すように、背圧を受けるとスラスト板19は浮上するものの、スラスト板19の周縁が規制溝69の上壁に係止されるために、スラスト板19は係止された位置を越えて浮上するのが規制される。このように、圧縮機3は、スラスト板19とフロントハウジング14を係止させることにより、旋回スクロール30の浮上量を規制することができる。
【0039】
ここで、規制溝69において、内壁面から後退する寸法(深さ)及び軸方向の寸法(幅)は、以上説明した浮上量の規制を実現できるのであれば、任意である。
また、ここでは、規制溝69は周方向の全域に連なり、スラスト板19の周縁の全域が規制溝69の内部に挿入されることを想定しているが、以上説明した浮上量の規制を実現できるのであれば、規制溝69を周方向に間欠的に設け、規制溝69に挿入されるスラスト板19の径の拡大部もそれに合わせて間欠的に設ける等、任意である。
【0040】
[効果]
圧縮機3は、第1実施形態の圧縮機1と同様の効果を有するのに加えて以下の効果を奏する。
圧縮機3は、スラスト板19とフロントハウジング14を係止させることにより旋回スクロール30の浮上量を規制するので、浮上量を規制するための専用の規制ピンを設ける必要がない。したがって、圧縮機3は、第1実施形態に比べて、部品点数の削減によるコスト低減を図ることができる。
また、圧縮機3は、専用の規制ピン60を設ける必要がないので、第2実施形態と同様に、第1実施形態に比べて背圧面積を拡大することができる。
また、圧縮機3は、スラスト板19の周縁を全周に亘って規制溝69により係止するので、スラスト板19が最大の浮上量に達した時に、周方向における浮上量のばらつきを低減できる。これにより、スラスト板19を介して旋回スクロール30が浮上する際に、軸方向に傾くのを防止し、安定した浮上を確保できる。また、スラスト板19の周縁が規制溝69に係止されることにより、スラスト板19が周方向へ回転するのを防止するまわり止め機能が発揮される。
【0041】
スラスト板19をハウジングに係止させる第3実施形態において、規制溝69を精度よく形成することが、旋回スクロール30の浮上量を厳密に制御する上で重要となる。以上で示した規制溝69は、図6から判るように、フロントハウジング14の底に位置しているので、規制溝69を精度よく機械加工するのに困難を伴う。そこで、図6に示されるように、規制溝69に対応する境界線CLでハウジングを別部材に区分すれば、規制溝69の加工が容易にできる。この場合、境界線CLよりも図中の右側に位置するフロントハウジング14に相当する部分と、固定スクロール20と、を一体的に構成する。そして、この一体的な構成と、境界線CLよりも図中の左側に位置するフロントハウジング14に相当する部分とを、境界線CLにおいて突き合せる。この3ピース型と称されるスクロール圧縮機に、第3実施形態を適用すれば、規制溝69を容易に精度よく形成することができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施a形態を説明したが、これ以外にも本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
本発明は、旋回スクロール30が押圧される部分があればよい。そのため、本実施形態ではフロントハウジング14に凹部44を設けたが、スラスト板19に凹部44を設けてもよい。
ただし、旋回端板31の前面側は周辺部材との関係で、複雑な形状を有していることがあるため、スラスト板19を設けることで、同一平面上に凹部44を形成できる。そうすると、均等な力で旋回スクロールを押圧することができる。
【符号の説明】
【0043】
1,2,3 スクロール圧縮機(圧縮機)
9 締結部材
10A 低圧室
10B 高圧室
11 ハウジング
12 圧縮機構
13 主軸
14 フロントハウジング
15 リアハウジング
17 偏心ブッシュ
18 偏心ピン
19 スラスト板
19S おもて面
20 固定スクロール
21 固定端板
22 ラップ
23 吐出ポート
27 ボス
28 チップシール
30 旋回スクロール
31 旋回端板
31A 内周側底部
31B 外周側底部
31C 段差部
32 ラップ
32A 内周側ラップ
32B 外周側ラップ
32C 段差部
35 空隙
38 チップシール
41 高圧側流路
42 低圧側流路
43 連通路
44 凹部
45 圧力ポケット
46 第1封止体
47 第2封止体
60 規制ピン
61 軸部
62 頭部
62S 頂面
63 自転防止ピン部
65 規制孔
66 小径部
67 大径部
68 自転防止リング
69 規制溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8