特許第6442213号(P6442213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442213
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20181210BHJP
   F01L 3/08 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   F16J15/3232 101
   F01L3/08 E
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-200911(P2014-200911)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-70392(P2016-70392A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】稀代 昌道
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−037214(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3191631(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204−15/3236
F01L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部の内径軸孔に軸部材を挿通するとともに、前記筒状部の外径部又は内径部に係合溝を設けたガイド部材に装着される密封装置であって、
前記ガイド部材の外径側又は内径側に配置される金属環と、前記金属環に被着されたゴム状弾性体とを有し、
前記ゴム状弾性体によって、前記軸部材の外径部に摺接するリップ部と、前記ガイド部材の外径部又は内径部に所定の嵌合代をもって圧嵌する嵌合ゴム部とが設けられている密封装置において、
前記金属環の端部に返し部が設けられ、
前記返し部は、前記金属環の円筒部の端部を径方向内方であってかつ軸方向一方へ向け斜めに鋭角的に折り返し形成したものであり、
前記返し部は前記係合溝に係合し、
前記金属環の円筒部と前記返し部との間に返し内面ゴム部が設けられていることを特徴とする、密封装置。
【請求項2】
前記ガイド部材の端部から外径部又は内径部にかけてテーパ部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記ゴム状弾性体は、前記リップ部、前記嵌合ゴム部及び前記返し内面ゴム部からなって一体に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関し、更に詳しくは、軸部材に摺動可能に密接するリップ部を有する密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、内燃機関の吸気弁や排気弁に使用されるバルブステムシールとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来よりガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関においてバルブステムの潤滑及びエンジンオイルの消費量抑制などを目的として、バルブステムシールが使用されている。近年においては環境保護指向による省燃費要請が益々高まってきており、小さな燃焼室容積において必要な場合に大きなトルクが出せるよう、過給機(ターボチャージャー)等を設置するニーズが高まっている。過給機を使用して内燃機関を動作させた場合、バルブステムシールには過給機を設置しない場合と比べて高い吸気圧がかかり、燃料の燃焼により高い排気圧がかかる。
【0003】
この種の従来技術としては、例えば図4(a)又は(b)に示すバルブステムシール101,102がある。図4(a)に示すバルブステムシール101は、バルブステム131を挿通するバルブステムガイド141の外径側に嵌合される金属環111と、この金属環111に被着されたゴム状弾性体121とを有し、このゴム状弾性体121によって、バルブステム131の外径面に摺動可能に密接するリップ部122と、バルブステムガイド141の外径面に所定の嵌合代をもって嵌合する嵌合ゴム部125とが一体成形されている。また、図4(b)に示すバルブステムシール102は、図4(a)のバルブステムシール101の構成から嵌合ゴム部125を省略したものであって、このため金属環111がバルブステムガイド141の外径面に直接嵌合する構成とされている。
【0004】
しかしながら、図4(a)に示すバルブステムシール101では、ゴム状弾性体121よりなる嵌合ゴム部125がバルブステムガイド141の外径面に所定の嵌合代をもって嵌合するのみであるため、矢印xにて示すように図における下方から高圧がバルブステムシール101に作用した場合、バルブステムシール101がバルブステムガイド141から脱落するおそれがある(シール脱落の問題)。また図4(b)に示すバルブステムシール102では、金属環111がバルブステムガイド141に強固に嵌合しているため、矢印xにて示すように図における下方から高圧が作用してもバルブステムシール102はバルブステムガイド141から脱落しにくいが、その反面、バルブステムシール102をバルブステムガイド141に装着するときに大きな荷重が必要で、この大きな荷重を加えるための専用設備が必要となることがある(シール装着作業性の問題)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平4−33367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、密封装置をガイド部材に装着しやすく、装着後、密封装置がガイド部材から脱落しにくく、しかも密封装置の金属環の端部に設ける返し部が塑性変形しにくい構造の密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1による密封装置は、筒状部の内径軸孔に軸部材を挿通するとともに、前記筒状部の外径部又は内径部に係合溝を設けたガイド部材に装着される密封装置であって、前記ガイド部材の外径側又は内径側に配置される金属環と、前記金属環に被着されたゴム状弾性体とを有し、前記ゴム状弾性体によって、前記軸部材の外径部に摺接するリップ部と、前記ガイド部材の外径部又は内径部に所定の嵌合代をもって圧嵌する嵌合ゴム部とが設けられている密封装置において、前記金属環の端部に返し部が設けられ、前記返し部は、前記金属環の円筒部の端部を径方向内方であってかつ軸方向一方へ向け斜めに鋭角的に折り返し形成したものであり、前記返し部は前記係合溝に係合し、前記金属環の円筒部と前記返し部との間に返し内面ゴム部が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
上記発明によれば、密封装置をガイド部材に装着するとき、返し部が弾性変形するため、密封装置をガイド部材に装着しやすく、装着後、返し部が係合溝に係合するため、密封装置がガイド部材から脱落しにくい。また、金属環の円筒部と返し部との間に返し内面ゴム部が設けられているため、この返し内面ゴム部が返し部と共に弾性変形し、返し部の弾性変形に対するバックアップ作用を発揮する。したがって返し部に塑性変形を生じにくくなる。また、装着後に返し内面ゴム部が係合溝の内面に接触する場合には、この返し内面ゴム部によって金属環の筒状部及びガイド部材間をシールすることもできる。
【0009】
本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1に記載の密封装置において、前記ガイド部材の端部から外径部又は内径部にかけてテーパ部が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記発明によれば、密封装置をガイド部材に装着するとき返し部がテーパ部に沿ってガイドされるため、位置決めが容易になる。したがって装着作業性を向上することができる。
【0011】
本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1又は2に記載の密封装置において、前記ゴム状弾性体は、前記リップ部、前記嵌合ゴム部及び前記返し内面ゴム部からなって一体に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
上記発明によれば、リップ部、嵌合ゴム部及び返し内面ゴム部が一体であるため、これらをまとめて成形型で成形することができる。したがって成形型にスプルーやゲートなどを複数設定する必要がないため、密封装置に返し内面ゴム部を設けることにしても成形型の構造が複雑化することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば上記構成により、密封装置をガイド部材に装着しやすく、装着後、密封装置がガイド部材から脱落しにくく、しかも密封装置の金属環の端部に設ける返し部が塑性変形しにくい構造の密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例に係る密封装置(バルブステムシール)の半裁断面図である。
図2】同密封装置(バルブステムシール)の装着後の状態を示す半裁断面図である。
図3】同密封装置(バルブステムシール)の装着手順を示す説明図である。
図4】従来例に係る密封装置(バルブステムシール)の半裁断面図である。
図5】参考例に係る密封装置(バルブステムシール)の半裁断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明をバルブステムシールとして適用した場合における実施例を図面にしたがって説明するが、説明の便宜上、先ず、対応する参考例を説明し、それから実施例を説明する。
【0016】
参考例・・・
図5は、参考例に係るバルブステムシール103を示し、このバルブステムシール103では、バルブステム131を挿通するバルブステムガイド141の外径側に装着される金属環111の一端(図における上端)にゴム状弾性体製のリップ部122が設けられるとともに金属環111の他端(図における下端)に返し部112が設けられている。この返し部112は、金属環111の端部を図示するように90度以上の角度範囲に亙って内径側へ折り曲げることにより金属環111に一体形成されたものであって、この返し部112が、バルブステムガイド141の外径面に設けた係合溝142に係合する構成とされている。
【0017】
したがってこの参考例では、矢印xにて示すように図における下方から高圧がバルブステムシール103に作用した場合、返し部112がバルブステムガイド141の外径面に設けた係合溝142に係合するため、金属環111延いてはバルブステムシール103全体がバルブステムガイド141から脱落するのを防止することができる。
【0018】
しかしながらこの参考例では、金属環111をバルブステムガイド141の外径側に装着する際、返し部112がこれのみ単独で変形するため、返し部112が塑性変形してそのバネ性が低下してしまうことがある(返し部塑性変形の問題)。
【0019】
実施例・・・
そこで本発明の実施例では、バルブステムシール1が以下のように構成されている。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係るバルブステムシール1の半裁断面を示しており、図2はバルブステムシール1をバルブステムガイド41に装着した状態、図3はバルブステムシール1の装着手順を示している。各図においては、上側が図示しないカムが位置するカム室側A、下側が図示しない吸排気ポートが位置するポート側(背圧側)Bである。
【0021】
図2に示すように、バルブステムシール1を装着するバルブステムガイド41は、バルブステム31を軸方向(図における上下方向)に往復動可能に挿通する内径軸孔を備える筒状部42を有し、この筒状部42の外径側にバルブステムシール1の金属環11が嵌合される。筒状部42の外径面には環状の係合溝43が設けられ、また筒状部42の軸方向一方(カム室側)の端面から外径面にかけては、軸方向一方から軸方向他方(ポート側)へかけて外径寸法が徐々に拡大する向きの環状のテーパ部44が設けられている。
【0022】
図1及び図2に示すように、バルブステムシール1は、バルブステムガイド41の外径側に嵌合される金属環11と、この金属環11に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体21とを有し、このゴム状弾性体21によって、バルブステム31の外径面に摺動可能に密接するシールリップ23及び背圧リップ24よりなるリップ部22と、バルブステムガイド41の外径面に所定の嵌合代をもって嵌合する嵌合ゴム部25とが一体に成形されている。
【0023】
金属環11は、その円筒部12の軸方向一方の端部に径方向内方へ向けてフランジ部13を一体成形したもので、円筒部12の内径面に嵌合ゴム部25が被着されるとともにフランジ部13の内径部にシールリップ23および背圧リップ24が保持されている。シールリップ23には締め代調整用のガータスプリング26が嵌着されている。背圧リップ24はシールリップ23の軸方向他方の側に配置され、そのリップ端を軸方向他方であってかつ径方向内方へ向け斜めに形成され、その外径面を背圧に対する受圧面とされている。
【0024】
また、金属環11の円筒部12における軸方向他方の端部に、返し部14が一体成形されている。この返し部14は、金属環11の円筒部12の端部を径方向内方であってかつ軸方向一方へ向け斜めに鋭角的に折り返し形成したものであって、環状に形成され、装着時にその先端部14aをもって係合溝43の内面に係合する。返し部14の厚さは、円筒部12の厚さよりも薄く(小さく)形成されている。
【0025】
また、この返し部14の内面側(外径側)であって返し部14と円筒部12との間に、返し内面ゴム部27が設けられている。この返し内面ゴム部27は、環状に成形され、返し部14及び円筒部12間の空間をすべて埋め尽くすように充填され、円筒部12の内径面に被着され又は円筒部12の内径面及び返し部14の内面(外径面)の双方に対し被着されている。また、この返し内面ゴム部27は、上記ゴム状弾性体21によってその一部として成形され、よって上記リップ部22及び嵌合ゴム部25に対し一体に成形されている。装着前において、返し部14の内径寸法と嵌合ゴム部25の内径寸法は同等又は略同等に設定されている。また同様に装着前において、返し部14の内径寸法及び嵌合ゴム部25の内径寸法はそれぞれバルブステムガイド41の外径寸法と同等又は略同等に設定されている。
【0026】
上記構成のバルブステムシール1は、以下のようにしてバルブステムガイド41に装着される。
【0027】
すなわち先ず、図3(a)に示すように、バルブステムシール1の金属環11の返し部14の外面(内径面)はゴムが被着されずに表面露出しているので、金属環11をバルブステムガイド41に対し同軸上に保ちながら、返し部14の外面をバルブステムガイド41のテーパ部44に接触させる。次いで図3(b)に示すように、バルブステムシール1に対し軸方向一方から荷重(嵌合荷重)を加えて返し部14を返し内面ゴム部27とともに弾性変形させ(返し部14はその先端部14aの径寸法が拡大するように弾性変形する)、金属環11を嵌合ゴム部25を圧縮変形させつつバルブステムガイド41の外径側へ圧入する。図3(c)に示すように、返し部14は係合溝43に至ると弾性復帰するので、係合溝43に係合し、これをもって装着作業が完了する。
【0028】
上記構成のバルブステムシール1においては、金属環11をバルブステムガイド41に装着するとき、返し部14が弾性変形するため、金属環11をバルブステムガイド41に装着しやすく、また返し部14が係合溝43に対し係合するため、金属環11がバルブステムガイド41から脱落しにくい。また、金属環11の円筒部12と返し部14との間に返し内面ゴム部27が設けられているため、この返し内面ゴム部27が返し部14と共に弾性変形し、返し部14の弾性変形に対するバックアップ作用を発揮する。したがって返し部14に塑性変形を生じにくくなる。また、この返し内面ゴム部27が係合溝43の内面に接触することにより、金属環11の円筒部12及びバルブステムガイド41間をシールすることができる。
【0029】
また、返し部14の厚さが円筒部12の厚さより薄く形成されているため、返し部14が薄い分容易に弾性変形する。したがってバルブステムシール1を装着するときの嵌合荷重を小さく設定することができ、装着作業性を向上することができる。但し、返し部14の厚さはこれに限定されず、例えば円筒部12と同じ厚さにしてもよい。
【0030】
また、バルブステムガイド41の軸方向一方の端面から外径面にかけてテーパ部44が形成されているため、バルブステムシール1をバルブステムガイド41に装着するとき返し部14がテーパ部44に沿ってガイドされるため、位置決めが容易になる。したがって装着作業性を向上することができる。
【0031】
また、返し内面ゴム部27がゴム状弾性体21の一部としてリップ部22及び嵌合ゴム部25と一体に成形されているため、リップ部22、嵌合ゴム部25及び返し内面ゴム部27をまとめて成形型で成形することができる。したがって成形型にスプルーやゲートなどを複数設定する必要がないため、バルブステムシール1に返し内面ゴム部27を設けることにしても成形型の構造が複雑化することを抑制することができる。
【0032】
尚、上記実施例では、密封装置をバルブステムシール1とし、ガイド部材であるバルブステムガイド41に対し金属環11をその外径側に嵌合する形態としたが、これとは反対に、ガイド部材に対し金属環11をその内径側に嵌合する形態としても良い。
【0033】
この形態においては、返し部14が、金属環11の円筒部12の端部を径方向外方であってかつ軸方向一方へ向け斜めに鋭角的に折り返し形成したものとされ、装着時にその先端部14aが、ガイド部材の内径面に設けた係合溝43に係合するものとされる。
【0034】
以上詳述した本発明は、上記実施例の記載内容に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、実施例では金属環11の返し部14は環状とされているが、円周上にスリットを入れても良く、複数の返し部を円周上に並設するようにしても良い。また、返し部14の先端部14aは断面矩形状とされているが、面取りをしても良いし断面円弧状としても良い。また、係合溝43の底面及び側面のなす角度は略90度とされているが、返し部14が更に係合し易いように、90度未満の角度としても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 バルブステムシール
11 金属環
12 円筒部
13 フランジ部
14 返し部
14a 先端部
21 ゴム状弾性体
22 リップ部
23 シールリップ
24 背圧リップ
25 嵌合ゴム部
26 ガータスプリング
27 返し内面ゴム部
31 バルブステム
41 バルブステムガイド
42 筒状部
43 係合溝
44 テーパ部
図1
図2
図3
図4
図5