【0013】
ここで本発明では、ケナフ繊維が、JIS A硬度が15〜50である熱可塑性エラストマーで予めマスターバッチ化されており、このマスターバッチ中のケナフ繊維の配合量(x)と熱可塑性エラストマーの配合量(y)の割合(質量比)が、(x)/(y)として3/97〜60/40であることが好ましい。ケナフ繊維を熱可塑性エラストマーを用いてマスターバッチ化することにより、加硫後のゴム組成物の内部でケナフ繊維に由来する空孔が潰されずにより多く残存する傾向がみられ、これにより、優れた排水性に基づく高い氷上性能を提供することができる。また、タイヤの使用によりトレッドが摩耗していくと、硬度の低い熱可塑性エラストマーから摩耗するため、ケナフ繊維も荒れやすくなり、氷上性能がさらに向上するものと推測される。
熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性の凍結相あるいは結晶相を形成するハードセグメント(硬質セグメント)と、ゴム弾性を示すソフトセグメント(軟質セグメント)とからなるブロック共重合体を用いることができる。例えば、ポリエステルをハードセグメントとするポリエステル系エラストマー、ポリアミドをハードセグメントとするポリアミド系エラストマー、ポリスチレンをハードセグメントとするポリスチレン系エラストマー、ポリエチレンやポリプロピレンをハードセグメントとするポリオレフィン系エラストマー、ハードセグメントにウレタン構造を持つポリウレタン系エラストマー等が挙げられ、これらを1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、このようなブロック共重合体に対して柔軟性を付与するためにゴム成分をブレンドしてなる海島構造のものも、熱可塑性エラストマーとして用いることができる。
また、熱可塑性エラストマーは、JIS A硬度が15〜50であるのが好ましい。このJIS A硬度の範囲内であれば、氷上性能をさらに向上させることができる。なおJIS A硬度は、JIS K6253に基づき、20℃にて測定した値である。
また、マスターバッチ中のケナフ繊維の配合量(x)と熱可塑性エラストマーの配合量(y)の割合(質量比)は、(x)/(y)として3/97〜60/40であることが好ましい。この(x)/(y)の範囲内であれば、氷上性能をさらに向上させることができる。さらに好ましい(x)/(y)は、15/85〜55/45である。
熱可塑性エラストマーは、前記のようにケナフ繊維とマスターバッチ化する以外に、必要に応じて単独でゴム組成物に配合してもよい。その場合の熱可塑性エラストマーの配合量は、前記のケナフ繊維の配合量との関係を満たすことが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0017】
実施例1〜11および比較例1〜6
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
なお、実施例5〜11は、ケナフ繊維を、熱可塑性エラストマーで予めマスターバッチ化したものを使用した。マスターバッチの処方を表2に示す(質量部)。
【0018】
氷上性能:上記加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて氷上摩擦係数を測定した。測定温度は−1.5℃、荷重5.5kg/cm
3、ドラム回転速度は25km/hである。結果は比較例1の値を100として指数表示し、この数字が大きいほどゴムと氷の摩擦力が良好であり、氷上性能に優れることを示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
*1:NR(RSS#3)
*2:BR(日本ゼオン(株)製NipolBR1220)
*3:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シーストKH)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*5:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸)
*6:シリカ(東ソー・シリカ(株)製NipsilAQ)
*7:老化防止剤6C(FLEXSYS製SANTOFLEX6PPD)
*8:老化防止剤RD(大内新興化学工業(株)製ノクラック224)
*9:シランカップリング剤(エボニックジャパン(株)製Si69)
*10:オイル(昭和シェル石油(株)製エクストラクト4号S)
*11:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
*12:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ−G)
*13:ケナフ繊維(平均繊維径=120μm、平均繊維長=5000μm)
*14:HPMC(松本油脂製薬(株)製マーポローズ60MP−50)
*15:紙繊維(王子製紙社製、平均繊維径=50μm、平均繊維長=1000μm)
*16:熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬(株)製マツモトマイクロスフェアF100)
*17:熱可塑性エラストマー(1)(JSR(株)製エクセリンク1100B、JISA硬度=19)
*18:熱可塑性エラストマー(2)(日本ゼオン(株)製クインタック3450、JIS A硬度=45)
*19:熱可塑性エラストマー(3)((株)クラレ製セプトン2004、JIS A硬度=67)
【0022】
上記の表1の結果から明らかなように、実施例1〜11で得られたゴム組成物は、ジエン系ゴムに対し、ケナフ繊維の特定量および熱膨張性マイクロカプセルの特定量を配合したので、従来の代表的な比較例1に対し、氷上摩擦性能が向上し、氷上性能が著しく高められたことが分かる。
とくに、ケナフ繊維が、JIS A硬度が15〜50である熱可塑性エラストマーで予めマスターバッチ化されており、マスターバッチ中の前記ケナフ繊維の配合量(x)と熱可塑性エラストマーの配合量(y)の割合(質量比)が、(x)/(y)として3/97〜60/40の範囲内にある実施例6〜8、11は、本発明の効果がさらに高まる結果となった。
また、実施例4は、ケナフ繊維と熱可塑性エラストマーをマスターバッチ化せずに個別に配合した例であるが、熱可塑性エラストマーを配合していない実施例2と比較すると、氷上性能の向上が確認された。
実施例5は、熱可塑性エラストマーの配合量が本発明の好ましい範囲の下限未満であるので、該好ましい範囲を満たす他の実施例と比較して、氷上性能が若干低下した。
実施例9は、熱可塑性エラストマーのJIS A硬度が本発明の好ましい範囲を外れているので、該好ましい範囲を満たす他の実施例と比較して、氷上性能が若干低下した。
実施例10は、熱可塑性エラストマーの配合量が本発明の好ましい範囲の上限を超えているので、該好ましい範囲を満たす他の実施例と比較して、氷上性能が若干低下した。
これに対し、比較例2は、熱膨張性マイクロカプセルを配合していないので、氷上性能が悪化した。
比較例3は、ケナフ繊維の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、氷上性能が悪化した。
比較例4は、ケナフ繊維の配合量が本発明で規定する上限を超え、また熱膨張性マイクロカプセルの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、氷上性能が悪化した。
比較例5は、ケナフ繊維の替わりにHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を使用した例であるので、氷上性能の向上が確認されなかった。
比較例6は、ケナフ繊維の替わりに紙繊維を使用した例であるので、氷上性能の向上が確認されなかった。
なお、実施例1〜5および10は参考例である。