(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の探査装置では、地中にある埋設物の有無を調査するにあたって、探査対象である媒質の表面(地表面)上を、所望の分解能に応じて細かな間隔で全面走査する必要がある。このため、例えば、媒質表面を切断するような作業時に、切断予定箇所に存在し得る埋設物の調査に時間と手間がかかるという問題がある。
【0005】
時間と手間を節約するためには、例えば、埋設物の有無を調査したい箇所のみ走査することが考えられるが、走査する箇所が少ない場合、走査結果は離散的となり、作業者が走査結果を可視化した画像を見ても、埋設物の有無を判別し辛いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、媒質表面の切断作業時において、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間を抑えながら、作業者が的確に媒質中の物体の有無を判定できる探査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る探査方法の特徴構成は、媒質の表面である媒質表面に走査ラインを設定する走査ライン設定ステップと、
前記走査ラインに沿って走査しながら、電磁波または音波による波動信号を前記媒質中へ放射し、前記媒質中に存在する物体からの反射信号を受信する送受信ステップと、
前記媒質表面上において前記送受信ステップで走査した各位置で、当該位置において受信された前記反射信号に基づき媒質中に物体が存在する確率を示す指標値を決定し、決定した前記指標値を平面上にマッピングした探査マップを生成する探査マップ生成ステップと、を順次実行し、
前記探査マップを用いて所定の探査領域における前記物体の有無を判定する探査方法であって、
前記媒質表面を直線状に切断するにあたり、
前記走査ライン設定ステップにおいて、
前記走査ラインを、直線状に切断する予定の切断箇所を囲む形態で設定し、
前記切断箇所を
1つの前記探査領域内に位置させ、
前記探査マップ生成ステップにより生成した前記探査マップにおける前記探査領域内の各位置での前記指標値を、前記走査ライン上の各位置での前記指標値に基づいて補完する探査領域内補完処理ステップを実行し、
前記探査領域内補完処理ステップにより補完した前記探査マップを用いて、前記探査領域における物体の有無を判定し、
前記探査領域が、長方形又は正方形に設定され、
前記走査ライン設定ステップにおいて、
前記走査ラインが、前記長方形又は正方形の各辺に対応した4本
のみであり、
前記走査ラインがそれぞれ、当該走査ライン上に当該走査ラインに対応する前記長方形又は正方形の辺を含むように設定される点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、媒質表面を直線状に切断するにあたって、まず切断する予定の切断箇所を囲む形態で走査ラインが設けられる。探査領域を囲むように走査ラインが設定されるため、媒質中の物体が探査領域外から探査領域内に侵入している場合には、走査ラインにおいて媒質中に存在し得る物体からの反射信号を捉えることができる。
【0009】
さらに、走査ライン上の各位置での指標値に基づいて、探査領域内の各位置での指標値を補完するため、探査領域内全体に走査ライン上の各位置での指標値が反映される。これにより、作業者は、探査マップの探査領域を見るだけで、走査ライン上にしか指標値が存在しない場合に比べ比較的容易に、探査領域内の切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するか否かを確認することができる。
【0010】
以上により、媒質表面の切断作業時において、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間を抑えながら、作業者が的確に媒質中の物体の有無を判定できる探査方法を提供できる。この探査方法は、特に、媒質中の物体が、例えば埋設管や鉄筋などのように、直線状に設けられた物体の場合に、好適に用いることができる。
【0012】
また、上記特徴構成によれば、作業者は切断予定の箇所の周囲において、探査装置を直線状に4回走査するだけで済む。一般に、探査装置を直線状に走査することは、非直線状に走査する場合に比べ容易なため、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間をより好適に抑えることができる。
【0013】
また別の特徴構成は、前記探査領域内補完処理ステップにおいて、
前記走査ライン上の各位置について、少なくとも当該各位置から当該走査ラインに対して垂直な方向に、当該走査ラインに平行な方向に見て前記切断箇所が存在する位置までの前記探査領域内の各位置の前記指標値を、前記走査ライン上の各位置の前記指標値に基づいて決定する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、走査ライン上の各位置から当該走査ラインに対して垂直な方向に、少なくとも切断箇所の最近接位置までの指標値を、走査ライン上の各位置の指標値に基づいて決定する。すなわち、全方向の走査ラインから少なくとも切断箇所に至る位置までの各位置での指標値が決定されるので、探査領域内の全ての位置において指標値が補完される。
【0015】
さらに、探査領域内の指標値が補完された探査マップ上では、切断箇所に対してどの方向に物体が存在するかが示される。よって、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間を抑えながら、作業者が的確に媒質中の物体の有無を判定できるとともに、媒質中の物体の存在位置をおおまかに把握できる探査方法を提供することができる。これにより、作業者は切断箇所近傍の物体の配置を推測し易くなるため、物体が存在しないと思われる切断に適した場所を見つけ易くなる。
【0016】
また別の特徴構成は、媒質の表面である媒質表面に走査ラインを設定する走査ライン設定ステップと、
前記走査ラインに沿って走査しながら、電磁波または音波による波動信号を前記媒質中へ放射し、前記媒質中に存在する物体からの反射信号を受信する送受信ステップと、
前記媒質表面上において前記送受信ステップで走査した各位置で、当該位置において受信された前記反射信号に基づき媒質中に物体が存在する確率を示す指標値を決定し、決定した前記指標値を平面上にマッピングした探査マップを生成する探査マップ生成ステップと、を順次実行し、
前記探査マップを用いて所定の探査領域における前記物体の有無を判定する探査方法であって、
前記媒質表面を円形状に切断するにあたり、
前記走査ライン設定ステップにおいて、
円形状に切断する予定の切断箇所を含むように
1つの前記探査領域を
、前記切断箇所の外縁により規定される円に設定し、
直交する2本の前記走査ライン
のみを、それぞれ前記切断箇所を横断する形態で設定し、
前記探査マップ生成ステップにより生成した前記探査マップにおける前記探査領域内の各位置での前記指標値を、前記走査ライン上の各位置での前記指標値に基づいて補完する探査領域内補完処理ステップを実行し、
前記探査領域内補完処理ステップにより補完した前記探査マップを用いて、前記探査領域における物体の有無を判定する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、媒質表面を円形状に切断するにあたり、まず切断する予定の切断箇所
により規定される円を横断する形態で直交する2本の走査ラインが設けられる。直交する2本の走査ラインを設けることで、直交していない2本の走査ラインを設ける場合に比べて、探査領域を広範に走査することができ、媒質中に存在し得る物体からの反射信号を捉えやすくなる。すなわち、2本の走査ラインだけでも、探査領域において媒質中に物体が存在する場合に、比較的高精度に探査マップ上の指標値としてその存在を捕捉することができる。
【0018】
さらに、走査ライン上の各位置での指標値に基づいて、探査領域内の各位置での指標値を補完するため、探査領域内全体に走査ライン上の各位置での指標値が反映される。これにより、作業者は、探査マップの探査領域を見るだけで、走査ライン上にしか指標値が存在しない場合に比べて比較的容易に、探査領域内の切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するか否かを確認することができる。
【0019】
以上により、媒質表面の切断作業時において、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間を抑えながら、作業者が的確に媒質中の物体の有無を判定できる探査方法を提供できる。
【0020】
さらなる特徴構成は
、前記走査ライン設定ステップにおいて、
直交する2本の前記走査ラインが、前記円の中心を通るように設定される点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば
、2本の走査ラインは、円の中心を通るため、円の中心を通らない場合に比べ、切断箇所内に存在する物体を発見できる確率が高い。すなわち、比較的高精度に媒質中に存在し得る物体からの反射信号を捉えることができる。よって、より好適に、媒質中の物体の有無の調査に係る時間と手間を抑えながら、高精度に探査領域における物体の有無を判定することができる。
【0022】
また別の特徴構成は、前記探査領域内補完処理ステップにおいて、
前記走査ライン上の各位置について、当該各位置から当該走査ラインに対して垂直な方向に、前記円の円周の最近接位置までの前記探査領域内の各位置の前記指標値を、前記走査ライン上の各位置の前記指標値に基づいて決定する点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、走査ライン上の各位置から当該走査ラインに対して垂直な方向に、円の外周の最近接位置までの指標値を、走査ライン上の各位置の指標値に基づいて決定する。すなわち、全方向の走査ラインから円の外周の最近接位置までの各位置の指標値が決定されるので、探査領域内の全ての位置において指標値が補完される。
【0024】
さらに、探査領域内の指標値が補完された探査マップ上では、切断箇所においてどのあたりに物体が存在するかが示される。よって、切断予定の箇所において媒質中に物体が存在するかを確認するための調査に係る時間と手間を抑えながら、作業者が的確に媒質中の物体の有無を判定できるとともに、媒質中の物体の存在位置をおおまかに把握できる探査方法を提供することができる。これにより、作業者は切断箇所近傍の物体の配置を推測し易くなるため、物体が存在しないと思われる切断に適した場所を見つけ易くなる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
1.探査装置の概要
以下では本発明の実施形態に係る探査装置3を、図を用いて説明する。
図1及び
図2に示すように、探査装置3の一実施の形態は、送受信手段であるアンテナ31と、送受信機で得られた信号を処理する制御部30とを、主な機器として備えて構成されている。そして、本実施形態にあっては、制御部30における信号処理にその特徴がある。
【0027】
また、
図1(b)に示すように、探査装置3は、作業者により手押しされ、地中に埋設された埋設管Xなどを含む探査範囲SAにおいて設定された走査ラインSLに沿って走査される。探査装置3は、走査ラインSLに沿って走査されたときに、地中に向けて探査用電磁波を放射し、当該探査用電磁波の反射波を処理し、探査範囲SA下の媒質中に存在する物体の位置を探査するために用いられる。
【0028】
本実施形態では、探査装置3は、探査範囲SAは地表上に設定され、媒質としての地中に存在する埋設管Xの位置を探査するために用いられる。本実施形態では、埋設管Xが「媒質中の物体」に相当する。また、以下では地表が「媒質の表面」に相当する。
【0029】
探査装置3は、アンテナ31で取得した反射波に基づいて、
図5及び
図7に示すような探査マップsを出力する制御部30を備える。図中、埋設管Xが存在する確率が高い位置ほど白く、存在する確率が低いほど黒くなるように表示している。すなわち、埋設管Xが存在する確率を示す指標値tが大きいほど白く、小さいほど黒くなる。本実施形態においては、指標値tは、埋設管Xが存在し得る場合と存在し得ない場合との2つに二値化されている。具体的には、探査装置3を走査時に反射波が得られた場合には当該位置での指標値tを1とし、得られなかった場合の指標値tを0とする。
【0030】
また、図中横方向をx方向とし、縦方向をy方向としている。制御部30により出力された探査マップsは探査装置3の上部に設置された表示部32に表示される。
【0031】
より詳しくは、探査装置3は、手押し式のレーダ探査装置であり、埋設管Xの探査作業の対象となる所定の探査範囲SAにおいて設定された走査ラインSLに沿って走行する。なお、探査装置3を自走式のレーダ探査装置としても構わない。探査装置3は走行しながら、アンテナ31から探査用電磁波を地中に放射する。放射された電磁波の伝播経路に埋設管Xが存在すると、探査用電磁波はそこで反射される。この反射されて戻ってくる反射波が制御部30で処理され、目的となる埋設管Xの存在を評価するための探査マップsが生成される。
【0032】
探査範囲SAは、一般的には歩道や道路、建物の壁面などにおける特定範囲であり、この探査範囲SA内で予め決められたパターンで走査ラインSLが設定される。本実施形態では、作業者が探査範囲SA内で、カッターによる切断作業を行う。切断作業においては、
図4(a)の切断箇所CLに示すように、直線(線分)状に切断を行う。
【0033】
走査ラインSLは、切断箇所CLを囲む形態で設けられる。より具体的には、切断箇所CLを囲む長方形または正方形を描くように、4本の走査ラインSLが設けられる。ここで、走査ラインSLの設けられた方向のうち少なくとも1方向が、埋設管Xの敷設方向に沿うように設けられる。その際、この走査ラインSLを規定する基準マーカMが指標として探査範囲SAの地表に付与される。なお、走査ラインSLの位置関係があらかじめ判明している場合は、基準マーカMを付与しなくても構わない。
【0034】
ここでいう、走査ラインSLを規定する基準マーカMとは、例えば走査ラインSLの起点、中間点、終点などを示す文字や記号であり、チョークやペンキなどで直接地表に描画してもよいし、三角コーンなどの標識体を地面に載置してもよい。あるいは、走査ラインSLを示す線を描画する方法やロープを載置するような方法でも走査ラインSLを規定する基準マーカMを作り出すことができる。つまり、この基準マーカMの地表の位置により、実際の走査位置と、その走査位置での探査データとが関係付けられることが重要である。
【0035】
以上のように、探査装置3は、走査ラインSL上を走査され、当該走査ラインSL上の各位置での指標値tを取得し、探査マップsを表示することで、作業者が探査範囲SAにおける埋設管Xの有無を確認できるように構成されている。
【0036】
より詳しくは、本実施形態において探査装置3は、探査範囲SA内に設定された所定の探査領域aにおける埋設管Xの有無を判定するために用いられる。探査装置3は、探査範囲SAの中でも探査領域aのみにおける有無を判定するという用途に合わせ、探査領域aの設定方法と、走査の際に用いる走査ラインSLの設定方法とに特徴を有している。
【0037】
1−1.探査領域の設定
本実施形態における探査領域aの設定について、
図4を用いて説明する。探査領域aには、地表面上において行う切断工事などの作業の際、切断予定の箇所を含む範囲(埋設管Xの有無を確認する必要があると考えられる範囲)が設定される。より詳しくは、作業者が地表面をカッターで切断する際に、当該切断箇所CLの下の埋設管Xに影響を及ぼさないかを確認するのに十分な領域が探査領域aとして設定される。
【0038】
具体的には、探査領域aは、カッターにより切断される切断箇所CLを囲むように、切断箇所CLに対して所定距離Loのオフセットをとった長方形の領域に設定される。ここでの「長方形」には、正方形を含む。ここで、カッターによる切断箇所CLは、地表面上において直線状に切断されるものとする。
【0039】
探査領域aは、切断箇所CL上の各位置から所定距離Lo離れた位置を内包する。すなわち、探査領域aの外縁が、切断箇所CLの各位置に対して、垂直方向(図中、上下左右の各方向)に少なくとも所定距離Lo離れるように設定される。所定距離Loとしては、具体的には、例えば50cmに設定される。
【0040】
1−2.走査ラインの設定
探査装置3が用いられるにあたっては走査が行われる前に、埋設管Xの有無を調べたい探査領域aに応じて、走査ラインSLが設定される。走査ラインSLは直線状に設定される。本実施形態において、走査ラインSLは切断箇所CLを囲む形態で設けられる。
【0041】
詳しくは、
図4に示すように、走査ラインSLは、探査領域aの外縁である長方形の各辺に対応した4本であり、走査ラインSLがそれぞれ、当該走査ラインSL上に当該走査ラインSLに対応する長方形の辺を含むように設定される。
【0042】
より具体的には、走査ラインSLは、探査領域aである長方形の図中下方向の辺に対応した走査ラインSLx1、図中上方向の辺に対応したSLx2、図中左方向の辺に対応したSLy1、及び図中右方向の辺に対応したSLy2の4本から構成される。
【0043】
これら4本の走査ラインSLは、2本を1組とした(SLx1、SLx2)と(SLy1、SLy2)との2組から構成される。各組を構成する2本の走査ラインSLは平行に設けられ、異なる組の走査ラインSL同士は直交するように設けられる。
【0044】
また、各走査ラインSLは、探査領域aの外縁である長方形の各辺を当該走査ラインSLと重なるように設定されるとともに、短くとも重なった辺と同一の長さとなるように設定される。
【0045】
2.探査装置の詳細構成
図2に示すように探査装置3は、大きく分けて、アンテナ31、制御部30、表示部32を備える。制御部30は、アンテナ31で受信した電磁波を信号処理し、表示部32は、制御部30で信号処理された探査マップsを可視化した形態で表示部32を介して作業者に表示する。
【0046】
2−1.アンテナ
探査装置3のアンテナ31は、好ましくは複数のアンテナ素子から構成されると良い。探査装置3は、アンテナ31を通じてマイクロ波領域のパルス状の電磁波を地中に向けて所定の繰り返し周波数で放射するための高周波電源と送信部(いずれも不図示)、及びアンテナ31を通じて地中から反射してきた反射波を受信する受信部(不図示)を備える。
【0047】
ところで探査装置3は、チョークで地面に描画された指標である基準マーカMを起点として、ないしは基準マーカMから所定の位置を起点として設定される走査ラインSLに沿って移動させられる。探査装置3には、その移動距離ないしは移動点を検出する位置検出センサユニット(不図示)が装備されている。この位置データは制御部30に送られ、地中から反射してきた反射波と合わされ、探査マップsを作成するために利用される。位置検出センサユニットは、簡単には走行車輪に連結したロータリエンコーダによって構築することができるが、GPSやジャイロによって構築しても良い。
【0048】
2−2.表示部
表示部32は、探査マップsを作業者が視覚的に確認できる形態で表示するフラットパネルディスプレイからなる。具体的には、フラットパネルディスプレイには、探査マップsが、
図4(b)に示す形態で可視化して表示される。
図1(b)に示すように、フラットパネルディスプレイは探査装置3の上面に探査装置3を手押しする作業者から良く見えるように傾斜姿勢で設けられる。
【0049】
2−3.制御部
制御部30は、マイクロコンピュータや半導体メモリなどによって構成される。制御部30は、作業者が探査装置3を所定の探査範囲SAにおいて、地表を走査ラインSLに沿って走査した際に、作業者が媒質中に存在する埋設管Xの位置を探査するための探査マップsを生成する。制御部30は、データ生成部51、探査領域補完処理部52、及び出力処理部53から構成される。
【0050】
2−3−1.データ生成
図2に示すように、データ生成部51は、受信回路から入力してくる受信信号を、媒質表面上の位置と、当該位置における前記反射信号に基づき決定される媒質中に埋設管Xが存在する確率を示す指標値tとの関係において整理し、処理する。ここで、指標値tは、反射波の反射時間や受信強度に基づいて決められる値で、埋設管Xの存在確率を示す。
【0051】
データ生成部51は、以降の処理で使用される探査マップsを生成するためのものであり、媒質表面上の各位置における指標値tを平面上にマッピングした探査マップs(
図5及び
図7参照)を生成する。探査マップsを生成するにあたり、図中、縦方向または横方向のいずれかが、埋設管Xの敷設方向と一致するように設定される。
【0052】
探査マップsは、探査装置3が探査範囲SAの全範囲にわたって走査された場合には、探査範囲SAの全範囲において埋設管Xがどの位置に存在するかを示すことができる。一方、例えば、カッターを用いた地表面の切断などの作業においては、切断予定の箇所に埋設管Xが存在するか否かだけ判定できれば構わない。このような場合においては、作業をスムーズに進行するためにも、少ない手間と時間で埋設管Xの有無を判定できることが望まれる。
【0053】
本実施形態においては、少ない手間と時間で埋設管Xの有無を判定するため、探査装置3が探査領域補完処理部52を備える。探査領域補完処理部52により、必要な走査ラインSLの数を(
図4では、4本に)抑えながら、探査マップsを用いて所定の探査領域aにおける埋設管Xの有無を判定できる。
【0054】
2−3−2.探査領域内補完処理
探査領域補完処理部52は、データ生成部51により生成した探査マップsにおける探査領域a内の各位置での指標値tを、走査ラインSL上の各位置での指標値tに基づいて補完する。
【0055】
図4を用いて、探査領域補完処理部52による探査領域a内の各位置の指標値tの補完方法を説明する。図中、矢印で示すように、走査ラインSL上の各位置(x,y)について、少なくとも当該各位置(x,y)から当該走査ラインSLに対して垂直な方向に、当該走査ラインSLに平行な方向に見て切断箇所CLが存在する位置までの探査領域a内の各位置の指標値tを、走査ラインSL上の各位置(x,y)での指標値tに基づいて決定する。本実施形態では、走査ラインSLから、垂直方向に少なくとも所定距離Lo離れた位置までの探査領域a内の各位置の指標値tを決定する。
【0056】
ここで、走査ラインSLに対して平行に設けられた別の走査ラインSLまでの距離の半分を、補完距離Lとする。すなわち、
図4(a)、(b)において、走査ラインSLy1−SLy2間の距離をL(Ly)、また走査ラインSLx1−SLx2間の距離をL(Lx)とする。補完距離Lは、所定距離Lo以上の長さに設定される。
【0057】
より詳しくは、本実施形態に係る補完方法では、走査ラインSL上の位置(x,y)から走査ラインSLに対して垂直な方向に、所定距離Lo以上に設定された補完距離L離れた位置までの探査領域a内の各位置の指標値tを、走査ラインSL上の各位置(x,y)の指標値tに基づいて決定する。
【0058】
走査ラインSL上の各位置の指標値tに基づいて、当該走査ラインSLから補完距離L離れた位置までの指標値tを決定するため、より精度よく探査領域a内の各位置の指標値tを補完することができる。
【0059】
本実施形態においては、探査領域a内の各位置の指標値tとして、走査ラインSL上の指標値tがそのままコピーされる。
【0060】
以下では、本実施形態における探査領域補完処理の流れを、
図3及び
図4を用いて具体的に説明する。
【0061】
まず、4本の走査ラインSLのうち1本の走査ラインSLが選択される(#1)。続いて、#1で選択された走査ラインSL上の1点が選択される(#2)。具体的には、
図4(a)に示すように、走査ラインSLy1が選択され、さらに走査ラインSLy1上の位置(x,y)が選択される。
【0062】
次に、選択された位置(x,y)に対して垂直な方向に、当該走査ラインSLから補完距離Lだけ離れた位置まで、位置(x,y)の指標値tがコピーされる(#3)。具体的には、位置(x,y)の指標値tが、走査ラインSLy1から補完距離Lyだけ離れた位置(
図3中、破線位置)までコピーされる。
【0063】
ここで、値を探査領域a内にコピーした際、既に、他の走査ラインSLの指標値tがコピーされていた場合(#4:Yes)には、探査領域a内の当該位置に既に存在する指標値tとコピーした指標値tとのOR条件がとられる(#5)。すなわち、探査領域a内の当該位置に既に存在する指標値tとコピーした指標値tとのいずれかが、1の場合に1に決定される。
【0064】
なお、値を探査領域a内にコピーした際、探査領域a内の当該位置に値が存在しない場合には、何も行わない(#4:No)。
【0065】
以上の#3〜#5の処理が、#1で選択された走査ラインSL上の各点について繰り返される(#2)。走査ラインSL上の全ての位置について処理を行った場合、#3〜#5の繰り返しを終了する(#6)。続いて、#1で選択された走査ラインSL上の全ての点について#3〜#5の処理が実行されると、未処理の走査ラインSLについて#2〜#5の処理が繰り返される(#1)。全ての走査ラインSLについて処理を行った場合、繰り返しを終了する(#7)。
【0066】
以上のようにして、4本の走査ラインSL(
図4の場合、走査ラインSLx1、SLx2、SLy1、SLy2)上の各位置の指標値tに基づいて、探査マップsにおける探査領域a内の各位置の指標値tが補完される。
【0067】
2−3−3.出力処理
このようにして探査領域a内の各位置の指標値tが補完された探査マップsは、出力処理部53により、必要に応じて画像処理が施され表示部32に出力される。このような補完処理済のデータが表示部32に表示されることにより、作業者は、探査範囲SAの探査領域a内の切断予定箇所における埋設管Xの有無を容易に把握することができる。
【0068】
3.探査方法
以上のような探査装置3を用いた探査方法について、
図5を用いて説明する。
図5(a)は、特定の探査範囲SAにおいてカッターによる切断作業が行われる場合の、切断箇所CL、走査ラインSL及び探査領域aなどを示している。なお、説明の便宜上、
図5(a)では、探査範囲SAにおける埋設管Xの存在位置を灰色で示しているが、実際の切断作業時には、埋設管Xの存在位置は表示されず、作業者には埋設管Xの存在位置は把握できない。
【0069】
まず、作業者は、地表面に走査ラインSLを設定する走査ライン設定ステップを実行する。
図5(a)に示すように、切断箇所CLを囲うように、4本の走査ラインSL(SLx1、SLx2、SLy1、SLy2)が設定される。図中、走査ラインSLを破線で示す。
【0070】
次に、送受信ステップとして、
図1に示すように、作業者が、探査装置3を走査ラインSLに沿って走査する。このとき、制御部30により電磁波が地中へ放射され、地中に存在する埋設管Xからの反射信号を受信する。
【0071】
続いて、探査マップ生成ステップとして、探査装置3の制御部30のデータ生成部51が、走査ラインSL上の位置(x,y)ごとに、当該位置において受信された反射信号に基づき地中に埋設管Xが存在する確率を示す指標値tを決定し、決定した指標値tを平面上にマッピングした探査マップsを生成する。
【0072】
具体的には、
図5(b)に示すように、データ生成部51により、走査ラインSL上の各位置のみに指標値tが存在する探査マップsが生成される。
【0073】
さらに、探査領域補完処理部52により、探査領域内補完処理ステップとして、4本の走査ラインSL上の各位置の指標値tに基づいて探査領域a内の各位置の指標値tが決定される。具体的には、探査領域補完処理部52の補完処理により
図5(c)に示すような探査マップsとなる。
【0074】
最後に、作業者が、探査領域補完処理部52により補完された探査マップsを用いて、探査領域aにおける埋設管Xの有無を判定する。
図5(c)に示すように、探査領域a内に埋設管Xが存在する場合には、探査領域a内が白色に、存在しない場合には黒色に表示される。このため、作業者は切断予定である切断箇所CLにおいて埋設管Xが存在するか否かを容易に把握でき、安全に切断作業を行うことができる。
【0075】
〔第2実施形態〕
1.探査装置の構成
第1実施形態においては、地表面上においてカッターによる切断作業を行う場合における探査領域aの補完処理の例について説明したが、本発明の実施形態はこのような利用に限定されない。以下では、媒質表面として鉄筋コンクリート構造の建築物の壁面を用い、当該壁面に円形状の穴を空ける作業、いわゆるコア抜き作業を行う場合の例について説明する。
【0076】
本実施形態においては、媒質にはコンクリートが相当し、媒質中の物質には鉄筋が相当する。コンクリート構造物において鉛直方向に設けられた垂直壁内の鉄筋は、通常、鉛直方向に並ぶ鉄筋に対して水平方向に別の鉄筋が並ぶ形態で格子状に配置されている。
【0077】
探査装置3は、第1実施形態とは装置の外観が異なるが、基本的な装置構成については同様である。探査装置3は、作業者が片手で走査可能に構成された小型のいわゆるハンディタイプの探査機器であり、前後左右に4個の車輪を下面に有し、作業者が上面に設けられたグリップを掴んでコンクリート構造物上を走査できるように構成される。
【0078】
まず、作業者は、鉄筋コンクリート構造の建築物の壁面に対して、コア抜き作業を行う円形領域CS(コア抜き予定箇所)を決定する。本実施形態では、円形領域CSが「切断箇所」及び探査領域aに相当し、円形領域CSの外縁が「切断箇所により規定される円」に相当する。
【0079】
また、作業者は、少なくとも直交する2本の走査ラインSLを、円形領域CSの中心を通り切断箇所を横断する形態で設ける。すなわち、走査ラインSLは、探査領域aの外縁上の1点と他の点とを通る形態で(
図6中、SLx、SLy)設けられる。すなわち、走査ラインSLは、円形領域CSの直径に相当する。ここで、2本の走査ラインSLは、鉄筋の方向と沿うように、鉛直方向と水平方向とすると良い。
【0080】
本実施形態では、探査領域補完処理部52は、
図6に示すように、走査ラインSL上の各位置(x,y)について、走査ラインSLに対して垂直な両方向に、少なくとも探査領域aの外縁に到達するまでの各位置の指標値tを、走査ラインSL上の位置(x,y)の指標値tに基づいて決定する。すなわち、走査ラインSL上の各位置(x,y)について、走査ラインSLから探査領域aの外縁の最近接位置までの各位置の指標値tが、走査ラインSL上の各位置(x,y)の指標値tに基づいて決定される。
【0081】
具体的には、
図6(a)に示すように、走査ラインSLy上の各位置(x,y)の指標値tは、図中左右方向にコピーされる。また、
図6(b)に示すように、走査ラインSLx上の各位置(x,y)の指標値tは、図中上下方向にコピーされる。
【0082】
2.探査方法
本実施形態に係る探査装置3を用いた場合の探査方法を、
図7を用いて説明する。
図7(a)は、特定の探査範囲SAにおいてコア抜き作業が行われる場合の、円形領域CS(S1,S2)を示している。なお、説明の便宜上、
図7(a)では、探査範囲SAにおける鉄筋の存在位置を白く示しているが、実際のコア抜き作業時には、鉄筋の存在位置は分からないものとする。
【0083】
まず、作業者は、コア抜き作業を行う円形領域CSに対して、その中心を通るように直交する2本の走査ラインSLx、SLyを設定する。ここでは、2つの円形領域CS(S1,S2)で、コア抜き作業を行うものとする。
【0084】
次に、作業者が探査装置3を走査ラインSLx、SLy上で走査し、探査装置3のデータ生成部51により、円形領域S1,S2のそれぞれについて、
図7(b)及び(d)に示す探査マップsが生成される。
図7(b)及び(d)に示すように、この段階では、探査マップsにおいて走査ラインSL上で鉄筋が存在する位置のみが白く表示される。
【0085】
続いて、探査領域内補完処理ステップとして、探査領域補完処理部52により探査マップsに対して上述の補完処理が実行される。円形領域S1,S2のそれぞれについて、補完後の探査マップsを
図7(c)、(e)に示す。
【0086】
円形領域S1のように、鉄筋が鉛直方向または水平方向に配置されている場合には、実際の鉄筋の存在位置を反映するように、円形領域S1内が白く表示される。このため、作業者は、探査マップsを見て円形領域CSにおける鉄筋の有無を把握するとともに、コンクリート以内の鉄筋の配置を把握できるため、探査後、コア抜きの位置をどのあたりにずらせば良いか把握し易い。
【0087】
なお、円形領域S2のように、鉄筋が斜め方向に配置されている場合には、補完後の探査マップsは、鉄筋の正確な位置を反映したものとはならないが、円形領域S1内は白く表示される。このため、このような場合でも、作業者は、探査マップsを見て円形領域CSにおける鉄筋の有無を容易に把握することができる。
〔別実施形態〕
【0088】
(1)上記第1実施形態においては、探査領域aが長方形の場合を説明したが、切断箇所CLを囲む形態であれば、他の形状でも構わない。また、上記第2実施形態においては探査領域aがコア抜き作業の対象領域である円形領域CSである場合について説明したが、円形領域CSを内包すれば異なる形状としても構わない。また、上記実施形態においては、探査領域aの中心と、切断箇所CL又は円形領域CSの中心が一致する場合の例を示したが、一致しない構成としても構わない。
【0089】
また、探査領域aと切断箇所CL又は円形領域CSの中心が一致しない場合には、探査領域a内の各位置の指標値tの補完方法は上記実施形態の方法に限らず、切断箇所CL及び円形領域CSにおいて媒質中に物体が存在するかを作業者が判別し易くする方法であれば他の方法を採用して構わない。
【0090】
(2)上記第1実施形態においては、探査領域補完処理部52による探査領域aの補完方法として、位置(x,y)から走査ラインSLに対して垂直な方向に、補完距離Lだけ離れた位置までを補完する方法を示したが、他の方法を用いても構わない。例えば、4本の走査ラインSLのうち、いずれかの走査ラインSLにおいて、埋設管Xが存在することを示す指標値tが存在する場合には、探査領域a内の全指標値tを1、すなわち埋設管Xが存在することを示す値としても構わない。
【0091】
(3)上記実施形態においては、指標値tとして、1または0の2値を用いたが、多階調の値を採用しても構わない。具体的には、指標値tを埋設管Xの存在確率に応じて多階調で決めても構わない。この場合、探査領域補完処理部52は、走査ラインSLの各位置(x,y)の指標値tに基づいて、走査ラインSLから離れた位置になるほど小さな値となるように、探査領域a内の各位置の指標値tを決定することができる。
【0092】
(4)上記実施形態においては、探査装置3が波動信号として電磁波を放射する場合の例について説明したが、波動信号として音波を放射しても構わない。
【0093】
(5)上記第1実施形態では、探査装置3が媒質としての地中を探査する場合の例を、上記第2実施形態では、探査装置3が媒質としてのコンクリートを探査する場合の例を、説明したが、他の媒質であっても構わない。また、上記第1実施形態では、探査装置3が探査する対象が埋設管Xである場合の例を示したが、例えば、地中に存在する電線など他の物体を探査しても構わない。他にも、上記第2実施形態では、探査装置3が探査する対象が鉄筋である場合の例を示したが、例えば、光ケーブルなどでも構わない。
【0094】
(6)上記第1実施形態においては、補完距離Lを、走査ラインSLに対して平行に設けられた別の走査ラインSLまでの距離の半分としたが、異なる長さとしても構わない。なお、少なくとも所定距離Loとすると、各走査ラインSLから切断箇所CLまでの位置を漏れなく補完することができ好適である。