特許第6442286号(P6442286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6442286微生物培養用乳化物、これを用いた微生物の培養方法、及び、微生物代謝産物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442286
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】微生物培養用乳化物、これを用いた微生物の培養方法、及び、微生物代謝産物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20181210BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20181210BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   C12N1/00 G
   C12N1/20 A
   C12P7/42
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-536777(P2014-536777)
(86)(22)【出願日】2013年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2013074511
(87)【国際公開番号】WO2014045962
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-207257(P2012-207257)
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」研究開発項目4―5「植物由来原料からの化合物・部材製造プロセスの開発」「非可食原料からのバイオポリエステル製造基盤技術の研究開発と実用材料化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】竹村 友伸
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−185181(JP,A)
【文献】 食品衛生学雑誌,1961年 9月,Vol. 2, No. 3,p. 5-14
【文献】 玉川大学農学部研究報告,2002年12月,第42号,p. 47-91
【文献】 BUDDE, C. F., et al.,Growth and polyhydroxybutyrate production by Ralstonia eutropha in emulsified plant oil medium,Applied Microbiology and Biotechnology,2011年 3月,Vol. 89, No. 5,p. 1611-1619
【文献】 TANGNU, S. K., et al.,Emulsification phenomena in salicylic acid fermentation,Process Biochemistry,1980年 8月,Vol. 15, No. 6,p. 30-32
【文献】 BANI-LABER, A., et al.,Efficacy of the Antimicrobial Peptide Nisin in Emulsifying Oil in Water,Journal of Food Science,2000年,Vol. 65, No. 3,p. 502-506
【文献】 MATIAS, F., et al.,Polyhydroxyalkanoates production by actinobacteria isolated from soil,Canadian Journal of Microbiology,2009年,Vol. 55, No.7,p. 790-800
【文献】 KUMAR, T., et al.,Potential of Bacillus sp. to produce polyhydroxybutyrate from biowaste,Journal of Applied Microbiology,2009年,Vol. 106,p. 2017-2023
【文献】 XU, Y., et al.,Microbial biodegradable plastic production from a wheat-based biorefining strategy,Process Biochemistry,2010年,Vol. 45,p. 153-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質類、リン酸塩類、並びに、カゼイン、カゼインNa、及びホエーからなる群から選択される1以上の乳タンパク質を含み、乳タンパク質の濃度は、脂質類に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする、微生物培養用乳化物。
【請求項2】
前記脂質類の25℃での水への溶解度が10g/L以下であることを特徴とする、請求項1に記載の微生物培養用乳化物。
【請求項3】
前記脂質類に遊離脂肪酸が5%以上含まれていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微生物培養用乳化物。
【請求項4】
前記微生物培養用乳化物中の前記脂質類の含量が3〜70%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の微生物培養用乳化物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の微生物培養用乳化物を培地中に添加することを特徴とする、微生物の培養方法。
【請求項6】
前記微生物培養用乳化物に含まれる脂質類の上昇融点が、微生物の培養温度より2℃以上高いことを特徴とする、請求項5に記載の培養方法。
【請求項7】
前記微生物が細菌であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の培養方法。
【請求項8】
前記細菌がCupriavidus属に属する細菌であることを特徴とする、請求項7に記載の培養方法。
【請求項9】
前記Cupriavidus属に属する細菌がCupriavidus necator、又は、その遺伝子組み換え体であることを特徴とする、請求項8に記載の培養方法。
【請求項10】
請求項5から9のいずれかに記載の方法で微生物を培養することを特徴とする、微生物代謝産物の製造方法。
【請求項11】
前記微生物代謝産物がポリヒドロキシアルカン酸であることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ポリヒドロキシアルカン酸がポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)であることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養用乳化物の技術分野に属する。また、微生物培養用乳化物を用いた微生物の培養方法の技術分野に属する。また、微生物代謝産物の製造方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、食糧問題、健康・安全に対する意識の高まり、天然/自然志向の高まりなどを背景に、微生物の生産や微生物による物質製造(発酵生産、バイオ変換など)の意義・重要性が益々高まっている。
【0003】
微生物の生産や微生物による物質の製造においては、微生物によって好適に資化される、培養、発酵などのための炭素源が必要である。その炭素源の代表的なものとして、糖質、油脂(例えば、動植物油脂)、脂肪酸(例えば、動植物由来の脂肪酸)などが挙げられる。
【0004】
微生物の生産や、微生物を用いた物質生産において、水への溶解度が高い炭素源であるグルコースやシュークロースなどの糖質を用いる場合、通常の操作条件においてこれらの炭素源は微生物の培養に用いる培養液に溶解しており、炭素源として利用しやすい。
【0005】
再生可能資源である動植物由来の脂肪酸類や油脂類も、微生物の生産や、微生物によるPHA(ポリヒドロキシアルカン酸)等の物質生産に有用な炭素源である。例えば、近年、常温で固体であるパーム油は、安定性が高く、価格競争力もあることから年々生産量が増加している。それに伴い、油脂の精製時に副産物として生成する脂肪酸類も年々増加している。これらの、培地に対する溶解度の低い油脂類、脂肪酸類を微生物の炭素源として利用することが望まれている。
【0006】
しかし、油脂、又は油脂構成成分である脂肪酸類を用いた微生物の培養における最大の課題として、水への溶解度が極めて低いことが挙げられる。水への溶解度が低いと、培養液中で液滴、又は固体粒子を形成することによって、微生物による資化速度の低下が予想される。さらに、油脂、及び/又は脂肪酸の融点が培養温度よりも高い場合、前記固体粒子は液滴よりも大きな塊となり、資化速度のさらなる低下を引き起こすと考えられる。例えばパーム油は36℃程度では固体油脂である。
【0007】
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪酸の水への溶解度は、最も溶解度の高いラウリン酸でも0.1g/L以下であり、また、パルミチン酸、ステアリン酸などは1μM以下の濃度で凝集してしまう(非特許文献1)。これらの性質は、微生物による資化性を低下させてしまう原因である。その他にも、例えば、ラウリン酸を単独で炭素源として用いてAeromonas hydrophilaを培養し、PHAを生産した例(非特許文献2)があるが、乾燥菌体重量は約8g/Lと好適に利用されているとは言えず、また、ラウリン酸は培養温度で固体であることが、培養の難易度を高めていると記載されている。
【0008】
Ralstonia eutropha(現在の分類でCupriavidus necator)をラウリン酸やミリスチン酸を単独で炭素源として用いて培養し、PHAを生産した例(特許文献1)があるが、PHA生産性は1g/L以下と低く、好適に利用されているとは言えない。
【0009】
Escherichia coliを、ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪酸金属塩を単独で炭素源として用いて培養し、PHAを生産した例(非特許文献3)があるが、ラウリン酸ナトリウムの使用量は2g/L程度であった。
【0010】
Aeromonas caviaeのPHBH合成酵素遺伝子を導入したRalstonia eutropha(現在の分類でCupriavidus necator)を用い、低溶解度の油脂を用いたPHAの生産例(非特許文献4)がある。この文献では、培養温度(30℃)よりも融点の高いパーム油を用いており、乾燥菌体重量は培養72時間で4.1g/Lと低く、好適に利用されているとは言えない。
【0011】
溶解度が低い炭素源を効率的に利用する技術として、サンフラワー油をセラミック製の膜を通しながら、培養液中に供すことで、溶解度の低い油を培地中で微分散させる例(非特許文献5)がある。この文献では、Pseudomonas属細菌を用いた、界面活性剤やPHAの製造例が記載されている。この技術は膜を使用するという特徴を有するため、融点が高く培養温度で液体状態である炭素源に適用範囲が限られるといった課題があり、また、乳化状態ではないため、分散後に粒子が融合することで微分散状態が維持されないことが予想される。
【0012】
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸を乳化処理することによって、該脂肪酸からのL−スレオニン、L−リジンの発酵生産性を向上させた例(特許文献2)もある。この文献では、培養温度よりも融点の高いラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸を用いた培養方法が記載されている。しかしながら、アミノ酸の生産性は改善するものの、生菌数が減る例があり、細胞中にPHAを蓄積させる技術には不適である。さらに、例えばパルミチン酸に対するオレイン酸の含有比が減少し、生産性の低下が引き起こされることから、適用範囲が限定される。また、脂肪酸乳化物中の脂肪酸含量は20g/Lと低濃度であり、工業的な生産への適用は困難である。
【0013】
パーム油に乳化剤としてアラビアガム(GA)添加し、乳化することで、培養開始時のラグタイムを短縮する例(非特許文献6)がある。しかしながら、この文献におけるGAの効果は明確ではなく、また、脂肪酸系の乳化剤であるSDSや、TritonX−100は微生物の生育を阻害してしまうことが記載されている。また、この文献では、乳化した炭素源を用いることで微生物の生育速度が向上したとの記載はなく、さらに、GAを用いた乳化は、経済性の観点から工業生産への適用は困難であると記載されている。
【0014】
微生物発酵プロセスに植物油脂や脂肪酸メチルエステルの乳化物を利用する例(特許文献3)もある。この文献では、パーム油や菜種油を用いた乳化組成物の作製技術が開示されているが、乳化剤としてエトキシル化した脂肪酸、脂肪酸アルコールを、油脂に対して1重量%以上添加する必要があることから、経済面での困難性が示唆される。また、実際に微生物の原料として利用したとの記載はなく、さらには、前記エトキシル化した乳化剤を微生物が利用可能であるかに関する記載もない。
【0015】
炭素源の融点を制御する培養技術としては、油脂や脂肪酸、またはそれらの混合物を原料に用いたPHAの効率的生産例(特許文献4)がある。この文献では複数の脂肪酸、油脂混合物を用いることで炭素源の融点を低下させる方法が記載されているが、炭素源の融点が培養温度よりも高い場合は、炭素源の融点と培養温度の温度差が大きいほど微生物による資化性低下が認められることから、使用可能な炭素源が限定的であった。このように、培地への溶解度の低い脂肪酸類、及び/または油脂類などを炭素源として好適に利用し、微生物の生産や微生物による物質の生産を工業的に効率よく行うには課題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国公開公報20020086377A1
【特許文献2】特開2008−167746号公報
【特許文献3】国際公開公報第2000/071676号パンフレット
【特許文献4】国際公開公報第2010/113497号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Henrik Vorum., et.al., .Biochmicaet Biophysica Acta, 1126: 135-142 (1992)
【非特許文献2】Lee S., et.al., Biotechnol. Bioeng., 67:240-244 (2000)
【非特許文献3】Regina V., et.al., FEMS MICROBIOLOGY LETTERS, 111-117 (2000)
【非特許文献4】T.Fukui., et.al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 49:333-336 (1998)
【非特許文献5】Anuj Dhariwal, et.al., Bioprocess Biosyst. Eng., 31:401-409 (2008)
【非特許文献6】Charles F. Budde, et.al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 89:1611-1619 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上昇融点が高く、微生物の培養温度では培地への溶解度の低い脂質類を炭素源として利用して、微生物による物質生産を工業的に効率よく行う方法を提供することを課題とする。また、前記脂質類を炭素源として利用して、工業的に効率よく微生物代謝産物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、培地への溶解度の低い脂質類を炭素源として利用して、微生物による物質生産を工業的に効率よく行う方法を検討した。その結果、脂質類、リン酸塩類、及びタンパク質を含む乳化物が極めて安定であることを見出した。さらに該乳化物を用いることにより、上昇融点が高く、微生物の培養温度では培地への溶解度の低い脂質類を、微生物が好適に資化できることを見出した。さらに該乳化物を利用して、微生物の培養、及び微生物代謝産物の生産を工業的に効率よく行えることを発見し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明は、脂質類、リン酸塩類、及びタンパク質を含むことを特徴とする、微生物培養用乳化物に関する。
【0021】
前記タンパク質が乳タンパク質であることが好ましい。
【0022】
前記脂質類の25℃での水への溶解度が10g/L以下であることが好ましい。
【0023】
前記脂質類に遊離脂肪酸が5%以上含まれていることが好ましい。
【0024】
前記微生物培養用乳化物中の前記脂質類の含量が3〜70%であることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、前記微生物培養用乳化物を培地中に添加することを特徴とする、微生物の培養方法に関する。
【0026】
前記微生物培養用乳化物に含まれる脂質類の上昇融点が、微生物の培養温度より2℃以上高いことが好ましい。
【0027】
前記微生物が細菌であることが好ましい。
【0028】
前記細菌がCupriavidus属に属する細菌であることが好ましい。
【0029】
前記Cupriavidus属に属する細菌がCupriavidus necator、又は、その遺伝子組み換え体であることが好ましい。
【0030】
また、本発明は、前記方法で微生物を培養することを特徴とする、微生物代謝産物の製造方法に関する。
【0031】
前記微生物代謝産物がポリヒドロキシアルカン酸であることが好ましい。
【0032】
前記ポリヒドロキシアルカン酸がポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
微生物の培養温度で水への溶解度が低い脂質類を、微生物が好適に資化できる炭素源として利用し、微生物の培養、及び微生物代謝産物の生産を工業的に効率よく行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の微生物培養用乳化物は、脂質類、リン酸塩類、及びタンパク質を含む。ここで、本発明における乳化とは、互いに溶け合わない2つ以上の物質を攪拌するなどして一方を他方の中へ分散させた状態を指す。例えば、水と油脂、水と脂肪酸、水と油脂と脂肪酸の混合物などが物質として挙げられる。また、本発明における乳化とは、2つ以上の物質が同相である必要はなく、例えば連続相が液体、分散相が固体などの状態においても乳化と定義する。
【0035】
本発明における脂質類とは脂肪酸類、油脂類、及び/又はそれらの混合物を指す。脂質類は、使用する微生物の種類や、微生物によって製造する微生物代謝産物の種類、培養の諸条件(培地成分、pH、培養温度など)によって異なるが、微生物が資化可能であり、水への溶解度が低ければ良い。
【0036】
脂肪酸類としては、遊離脂肪酸の他に、脂肪酸塩、脂肪酸エステル等が挙げられ、これらが単独又は混合物であっても良い。用いる微生物が代謝経路を持つ脂肪酸類であれば本発明で好適に用い得ることが可能である。
【0037】
油脂類としては、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等の脂肪酸グリセリンエステル等が挙げられ、これらが単独又は混合物であっても良い。用いる微生物が代謝経路を持つ油脂類であれば本発明で好適に用い得る。
【0038】
また、脂質類は、環境への負荷を考慮して非石油由来であることが好ましく、一般的に動植物油類ならびに動植物油由来であることが好ましい。食料問題への影響を考慮し、非可食用途の油脂類、脂肪酸類を用いることがより好ましい。
【0039】
動植物油の例としては、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、大豆油、菜種油、ひまわり油、オリーブ油、ゴマ油、キャノーラ油、綿実油、ピーナッツ油、桐油、こめ油、米油、サフラワー油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、カカオ脂、ヤトロファ油、藻類由来の油脂類、これらの油脂の粗精製油、分別油、硬化油、エステル交換油や、その構成成分である脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルなどが挙げられ、これら油脂は単独又は2種類以上の組み合わせで用いることができる。
【0040】
また、前記油脂を精製処理する過程で副産物として生成する成分を利用することは、食糧との競合を避ける上で好ましい。精製処理における副産物としては、アルカリ脱酸工程で生成する脂肪酸塩類、蒸留脱酸工程で生成する蒸留残渣、脱臭工程で生成する蒸留残渣などが挙げられる。脂肪酸塩類としては脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウム、脂肪酸カルシウム、脂肪酸マグネシウム等が挙げられる。蒸留残渣としては、主成分である脂肪酸の他に、モノグリセライド、ジグリセライド等が挙げられる。
【0041】
脂質類の水への溶解度は、25℃で10g/L以下であることが好ましい。25℃での水への溶解度が1g/L以下の脂質類であっても好適に利用できる。さらに、25℃での水への溶解度が0.1g/L以下の脂質類であっても好適に利用できる。
【0042】
脂質類の融点は、微生物培養の際の培養温度よりも2℃以上高いことが好ましい。このような脂質類は、一般的には培地への分散性が悪いため、本発明による分散性向上効果が高いからである。脂質類の融点は、培養温度より5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことがさらに好ましい。例えば融点が32℃以上の脂質類を好適に利用できる。また、融点が35℃以上の脂質類も好適に利用できる。さらには、36℃以上、39℃以上、40℃以上、42℃以上、或いは44℃以上の脂質類も好適に利用できる。しかしながら、融点が培養温度よりも低い脂質類であっても、培地への溶解度が低い脂質類であれば、融点に限定されず分散性向上効果が発揮される。もちろん、培養温度よりも融点が低い脂質類や、25℃での水への溶解度が10g/Lを超える脂質類を併用することもできる。本発明において、脂質類を乳化して比表面積を大きくすることにより、培養温度よりも融点が高く、かつ培地に低溶解性の脂質類を、微生物によって好適に資化させることが可能になる。
【0043】
脂質類中の遊離脂肪酸の含有量が高いことが、微生物が利用しやすい形態として好ましい。脂質類中の遊離脂肪酸類の含有量は、5%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることがさらにより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。また、前記脂質類には必要に応じて他の成分を加えても良い。
【0044】
タンパク質としては、例えば、乳タンパク質や大豆タンパク質、グルテン部分分解物のようなタンパク質やその塩類が利用できる。乳タンパク質としては、例えばカゼイン、カゼインNa、ホエーなどが挙げられる。
【0045】
タンパク質の添加濃度は、脂質類に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.05〜5重量%であることがより好ましく、0.1〜1重量%であることがさらに好ましい。
【0046】
一般的に油脂類の乳化には乳化剤として、例えば、モノグリセライドやジグリセライドのようなグリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド、ジアセチルモノグリセライドのような有機酸モノグリセライド;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン、サポニン、アラビアガムやキサンタンガムのような多糖類、カゼインナトリウムや大豆タンパク質、グルテン部分分解物のようなタンパク質等が添加される。しかし、本発明においては前記乳化剤の添加は効果的ではなく、タンパク質類、及びリン酸塩類の組み合わせによって極めて安定な乳化状態を実現することを見出した。
【0047】
リン酸塩類としては、リン酸水素2Na、リン酸2水素Kなどの正リン酸塩類、ピロリン酸Naなどのピロリン酸塩類、ヘキサメタリン酸Naなどのメタリン酸塩類、ポリリン酸Naなどのポリリン酸塩類などが好適に利用できる。リン酸塩とタンパク質を併用することによって、タンパク質の凝集抑制、及び、タンパク質のネットワーク構築が期待され、乳化を安定化できるという効果を奏する。
【0048】
本発明の乳化物は、タンパク質、及びリン酸塩類を用いることで乳化安定性が大きく向上していることが特徴である。また、乳化物には、必要に応じてその他の乳化剤を添加しても良い。追加的に使用可能な乳化剤としては、モノグリセリド、ジグリセリド、レシチン、サポニンなどが挙げられる。
【0049】
乳化物は、微生物の培養に供される前に、水中油型乳化物として調製することが好ましく、これにより培地中での分散性が良好になり微生物によって好適に資化される。
【0050】
微生物の培養の前に予め作製される乳化物の脂質類の含量は、乳化物の安定性を考慮すると、3%〜70%であることが好ましい。一方、商業的な微生物生産、ならびに微生物を用いた物質生産においては、しばしば、培養期間中に脂質類を間欠、または連続的に培養槽に添加することが行われる。その際、追加で添加される培地中の脂質類の濃度が低いと、培養液量が増加し生産性が損なわれる恐れがあるため、予め作製される乳化物の脂質類の含量は、より好ましくは10%〜65%、さらに好ましくは20%〜65%、特に好ましくは40%〜65%である。また、いうまでもなく、乳化物の脂質分が60%以上であれば炭素源として極めて有効に利用可能である。
【0051】
乳化物の製造方法は特に限定されず、従来公知の乳化物の製造方法が利用できる。例えば、プロペラ等を用いた攪拌機や、スタティックミキサーのようなインラインミキサーを用いた方法、複数の分散盤を組み合わせることで乳化する方法、予め予備乳化を行った後、TK、ウルトラミキサー、クレアミックス、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、アルティマイザー、ナノマイザー、エマルダー等の均質化処理機を用いる方法等が利用できる。こういった均質化処理は2回以上行っても良い。また、超音波乳化機を用いることもできる。
【0052】
培地に低溶解性の脂質類を油相部として含む水中油型乳化物を、培養に利用する方法は、特に限定されないが、予め水中油型乳化物を作製しタンク等に保持した後、培地に添加しても良いし、別々に用意した原料タンクから水相と油相を同一のラインに供給し、インラインで乳化を行った後に培地に添加しても良い。
【0053】
前記の微生物培養用乳化物を含む培地を利用して、微生物を培養することが可能であり、さらに、微生物代謝産物を製造することが可能である。このような微生物代謝産物としては、例えば、PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)、エタノール、ブタノール、プロパノール、1,4ブタンジオールなどのアルコール類、乳酸、コハク酸、アジピン酸などのカルボン酸類、グルタミン、リジン、スレオニンなどのアミノ酸類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの脂質類、タンパク質、抗生物質などが挙げられる。
【0054】
PHAは、多くの微生物種の細胞にエネルギー蓄積物質として産生・蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への意識の高まりから非石油由来のプラスチックが注目されるなか、特に、微生物が菌体内に産生・蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響が小さいと予想されており、その実用化が切望されているため、本発明を用いて生産する物質の好例の一つである。
【0055】
本発明の微生物の生産、また、微生物代謝産物の製造に用いられる微生物としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、及び、油脂などを資化可能で、かつ代謝産物を生産可能な微生物であれば特に限定はないが、天然から単離された微生物や、遺伝子操作された微生物等を好適に使用できる。微生物として、例えば、細菌、古細菌、バクテリア、酵母、カビ、放線菌などが挙げられる。
【0056】
好ましい微生物としては、具体的には、大腸菌(エシェリヒア・コリ:Escherichia coli)等のエシェリヒア属、カピリアビダス・ネケータ(Cupriavidus necator)等のカピリアビダス属、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latas)等のアルカリゲネス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・レジノボランス(Pseudomonas resinovorans)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)等のシュードモナス属、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバチルス属、アゾトバクター属、ノカルディア属、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)等のアエロモナス属、ラルストニア(Ralstonia)属、ワウテルシア(Wautersia)属、コマモナス(Comamonas)属などが挙げられる(Microbiological Reviews,54(4),450−472(1990))。
【0057】
微生物代謝産物としてPHAを製造する場合には、これら微生物等の他にも遺伝子工学的な手法を用いて、PHA合成酵素遺伝子等を導入することにより、人為的にPHAを生産させる改変を施した遺伝子組み換え体を用いることもできる。例えば、前記カピリアビダス属、アルカリゲネス属、シュードモナス属、バチルス属、アゾトバクター属、ノカルディア属、アエロモナス属、ラルストニア属、ワウテルシア(Wautersia)属、コマモナス(Comamonas)属などに属する微生物のほかにも、エシェリキア(Escherichia)属等のグラム陰性の細菌、バチルス(Bacillus)属等のグラム陽性の細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属等の酵母類などを好適に用いて、人為的にPHAを生産できるよう改変を施した細胞を得ることができる。キャンディダ(Candida)属の微生物としては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)が挙げられる。
【0058】
PHAの中でもPHBHの生産に関しては、例えばAeromonas caviaeやAeromonas hydrophilaなど元来PHBHを生産する微生物を用いる方法や、元来PHBHを生産しない微生物に遺伝子工学的な手法を用いて、PHA合成酵素遺伝子等を導入することにより、人為的にPHBHを生産させる改変を施した生物細胞を用いることもできる。遺伝子を導入するホスト微生物としては、たとえばCupriavidus necatorを好適に用いることができる。また、PHA合成酵素遺伝子としてはAeromonas caviae、Aeromonas hydrophilaやChromobacterium sp.、Rhdococcus属由来のPHA合成酵素遺伝子やそれらの改変体などを用いることができる。改変体としてはアミノ酸基が欠失、付加、挿入、若しくは置換されたPHA合成酵素をコードする塩基配列などを用いることができる。
【0059】
PHAの種類としては、微生物が生産するPHAであれば特に限定されないが、好ましくは、炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される構成成分の重合体や炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される2種以上の構成成分の共重合体が良い。例えば炭素数4の3−ヒドロキシアルカン酸のホモポリマーであるポリ3−ヒドロキシブチレート(PHB)、炭素数4と6の3−ヒドロキシアルカン酸のコポリマーであるポリ(3−ヒドロキシブチレート‐co‐3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、炭素数4と5の3−ヒドロキシアルカン酸のコポリマーであるポリ(3−ヒドロキシブチレート‐co‐3−ヒドロキシバレレート(PHBV)、炭素数4〜14の3−ヒドロキシアルカン酸の重合体などが挙げられる。
【0060】
培養方法としては、培地に炭素源を添加する方法を用いる微生物の培養方法であれば、培地組成、炭素源の添加方法、培養スケール、通気攪拌条件や培養温度、培養時間などに一切限定されないが、連続的、または、間欠的に培地に炭素源を添加する培養方法がより好ましい。ただし、使用する培地は培養槽にて攪拌できる状態である必要がある。この条件を満たす限り、液体培地であっても、2相に分離する培地であっても、懸濁液状態の培地であっても、用いることができる。
【0061】
PHAは、上述した培養方法によって微生物内に蓄積させ、その後、周知の方法を用いて菌体から回収することができる。例えば、次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水およびメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHAを抽出する。このPHAを含んだ溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHAを沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHAを回収する方法などが挙げられる。
【0062】
なお、本発明における融点とは、上昇融点のことを指す。上昇融点は以下の方法で測定できる。
(1)内径1mm、外形2mm以下、長さ50〜80mm、両端が開いている毛細管の一端を完全に融解した試料につけて10mmの高さまで試料をみたし、速やかに氷片等で固化させる。
(2)10℃以下で24時間、あるいは氷上で1時間放置した後試験に供する。
(3)上昇融点測定器(ELEX SCIENTIFIC社製 EX−871A)に毛細管をセットする。
(4)予想される融点よりも約20℃低い温度の水を満たした容器に毛細管を浸し、温度計の下端を水面下30mmの深さに置く。
(5)容器内の水を適当な方法でかき混ぜながら、最初は2℃/分ずつ水温が上昇するように加熱する。
(6)予想される融点の約10℃低い温度に達した後は0.5℃/分ずつ水温が上昇するように加熱する。
(7)試料が毛細管中で上昇を始める温度を上昇融点とする。
【0063】
本発明において、資化性の向上とは、時間当たりの炭素源の消費量が増加し、その結果、微生物菌体の生産量や、微生物が産生する物質の生産量が増加することを意味する。また、本発明における炭素源は、培地に添加する際にすでに混合物であって良いし、別々に添加して培地内で混合しても良い。
【0064】
微生物菌体の生産量は、吸光度法や乾燥菌体重量測定法などの公知の方法で測定できる。微生物が産生する物質の生産量はGC法、HPLC法などの公知の方法で測定できる。細胞中に蓄積されたPHAの含量は、加藤らの方法(Appl.MicroBiol.Biotechnol.,45巻、363頁、(1996);Bull.Chem.Soc.,69巻、515頁(1996))に従い、培養細胞からクロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出し、乾燥することで測定できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例にて使用した炭素源Palm fatty acid distillate(PFAD)、Palm kernel fatty acid distillate(PKFAD)、Crude palm oil(CPO)、Crude palm kernel oil(CPKO)はPalm Fatty Acid Distillate、MALAYSIAN BIOTECHNOLOGY CORPORATION SDN BDHより入手した。各炭素源の油脂(TG、DG、MG含む)、及び遊離脂肪酸(FFA)含量とその脂肪酸組成、融点を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(実施例1〜13、比較例1〜2)各種炭素源の乳化物の製造
表2に示す原料、及び配合により、乳化物を製造した。以下に乳化物の製造手順を示す。脂質類及び水を量りとり、60℃に加熱後、水にリン酸塩類、及びタンパク質類を溶解させる。溶解後、脂質類と混合し、ホモミキサー(SILVERSON社製、LABORATORY MIXER EMULSIFIER)を用いて攪拌数2500rpmにて予備乳化を行った。
【0069】
さらに、この予備乳化液を高圧ホモジナイザー(PANDA2K型、ニロ・ソアビ社製)にて圧力10barrにて乳化操作を行い、乳化物を得た。各乳化物の乳化安定性は、乳化液を60℃で10分攪拌した後、攪拌を停止し、乳化の分離状態を目視した。表2中の○の乳化物は分離無し、×の乳化液は速やかに油相と水相に分離を開始したものを指す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、脂質類、各種リン酸塩類、及びタンパク質を含有する乳化液は高い安定性を示すが、リン酸塩類のみ、又はタンパク質のみでは乳化安定性が極めて悪い結果となった。また、表2中のリン酸塩類の添加量(g/kg)、及びタンパク質類の添加量(g/kg)はどちらも脂質類1kg当たりの添加量であり、水相に溶解して調製する。
【0072】
(実施例14〜15)大腸菌の培養
表2の実施例5又は11の乳化物を炭素源として使用し、微生物の培養を行った。微生物としてE.coli HB101株(タカラバイオ社製)を使用した。
【0073】
前培地はLB培地(10g/L Bacto−tryptone、5g/L Bacto−yeast extract、5g/L NaCl)を用いた。生育試験にはM9培地(6g/L NaHPO、3g/L KHPO、0.5g/L NaCl、1g/L NHCl、1mM MgSO、0.001w/v% Thiamine、0.1mM CaCl)を用いた。
【0074】
E.coli HB101株のグリセロールストックを前培地に接種して37℃にて12時間培養し、前培養を行った。次に前培養液を、乳化物を含む50mLのM9培地を入れた500ml用の坂口フラスコに2v/v%で接種し、37℃で96時間振とう培養した。乳化物は別途作製したものを坂口フラスコ内に一括添加した。炭素源濃度は0.5w/v%とした。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
(比較例3〜4)
炭素源として、微生物培養用乳化物に替えて乳化処理していないPFAD又はPKFADを使用した以外は、実施例14〜15と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
(実施例16〜19)Candida maltosaを用いたPHA生産
表2の実施例5、11、12、又は13の乳化物を炭素源として使用し、PHAの生産を行った。微生物としてCandida maltosa AHU−71 pARR−149/171NSx2−phbB株(国際公開公報第2005/085415号パンフレット参照)を使用した。
【0078】
前培地はYNB培地(0.67w/v% Yeast Nitrogen base without amino acid、2w/v% Glucose)を用いた。PHA生産培地にはM2培地(12.75g/L (NHSO、1.56g/L KHPO、0.33g/L KHPO・3HO、0.08g/L KCl、0.5g/L NaCl、0.41g/L MgSO・7HO、0.4 g/L Ca(NO・4HO、0.01g/L FeCl・4HO)に、0.45ml/Lの微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1g/L FeSO・7HO、8g/L ZnSO・7HO、6.4g/L MnSO・4HO、0.8g/L CuSO・5HOを溶かしたもの)を添加した培地を用いた。
【0079】
Candida maltosa AHU−71 pARR−149/171NSx2−phbB株のグリセロールストックを50mlの前培地を入れた500ml用の坂口フラスコに500μl接種した。これを培養温度30℃で20時間培養した。次に培養液を300mlのPHA生産培地を入れた2L用の坂口フラスコに10v/v%で接種し、30℃で48時間振とう培養した。固化炭素源は前記M9培地に直接滴下し作製した。また、乳化物は別途作製したものを坂口フラスコ内に一括添加した。培養は炭素源濃度2.0w/v%にて行った。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄し、凍結乾燥し、得られた乾燥菌体重量を測定した。
【0080】
得られた乾燥菌体約1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が約30mlになるまで濃縮し、その後、約90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のポリマー含量を算出した。乾燥菌体重量、及びPHA生産量を表4に示す。
【0081】
(比較例5〜8)
炭素源として、微生物培養用乳化物に替えて乳化処理していないPFAD、PKFAD、CPO、又はCPKOを使用した以外は実施例16〜19と同様の操作を行った。結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
生産されたPHAのモノマー組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHAの20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでPHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のPHA分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所社製GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。前記条件にて分析した結果、炭素数4及び6の3−ヒドロキシアルカン酸モノマーから構成されるPHA(PHBH)である事が確認された。
【0084】
(実施例20〜23)Cupriavidus necatorを用いたPHA生産
表2の実施例5、11、12、又は13の乳化物を炭素源として使用し、PHAの生産を行った。微生物としてCupriavidus necator KNK−005株(米国特許7,384,766号公報参照)を使用した。
【0085】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−tryptone、0.2w/v% Yeast extract、0.9 w/v% NaHPO・12HO、0.15 w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
【0086】
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19 w/v% KHPO、1.29w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、2.5w/v% パームオレインオイル、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。炭素源はパームオレインオイルを10g/Lの濃度で一括添加した。
【0087】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。
【0088】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行った。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/分とし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行った。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0089】
次に、前培養液を2.5LのPHA生産培地を入れた5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製MDS−U50型)に5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量2.1L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。乳化物は断続的に添加した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0090】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のポリマー含量を算出した。乾燥菌体重量、PHA生産量を表5に示す。
【0091】
(比較例9〜12)
炭素源として、微生物培養用乳化物に替えて乳化処理していないPFAD、PKFAD、CPO、又はCPKOを使用した以外は実施例20〜23と同様の操作を行った。結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
生産されたPHAのモノマー組成分析は実施例16〜19及び比較例5〜8と同様の方法にて分析した。その結果、炭素数4及び6の3−ヒドロキシアルカン酸モノマーから構成されるPHA(PHBH)である事が確認された。
【0094】
以上の結果より、本発明の乳化物を使用すると、乳化処理をしていない脂質類を使用した場合と比較して良好な資化性を達成できることが明らかとなった。