【発明が解決しようとする課題】
【0006】
但し、特許文献3では支圧材の隅角部に形成した挿通孔に柱主筋を現場で挿通(螺合)させなければならないため、支圧材の挿通孔に製作誤差があるか、支圧材と柱主筋の少なくともいずれかに施工誤差があれば、柱主筋を支圧材の挿通孔に挿通させることが難しくなる。一方、挿通孔が柱主筋の径より大きめに形成されていれば、上下のナットの緊結による摩擦力により支圧材を柱主筋に保持させる必要があるため、現場での作業性が極端に低下する。
【0007】
また特許文献1、2のように支圧材を鉄骨梁のフランジに溶接等により固定するか、特許文献3のように柱主筋に保持させる方法では、支圧材を構造材から分離させて単体で使用することができないため、支圧材に応力伝達材としての機能を果たさせながら、仮設材としての用途を併せ持たせることはできない。
【0008】
本発明は上記背景より、支圧材の鉄骨梁への溶接を不要にし、工場での鉄骨梁の製作作業を単純化させながら、支圧材に仮設材としての用途を付与し得る鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合部構造を提案するものである。
【0009】
請求項1に記載の発明の鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合部構造は、請求項1に記載の発明の鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合部構造は、鉄筋コンクリート造の柱と梁との接合部に上部フランジ及び下部フランジを有する鉄骨梁が一方向に貫通した状態で、または端部において埋設された状態で配置され、前記鉄骨梁のフランジを幅方向に挟み込む位置に柱主筋が配筋された柱・梁の接合部において、
前記鉄骨梁の前記上部フランジ上と前記下部フランジ下の少なくともいずれか一方の前記柱主筋の外周側に、前記鉄骨梁の材軸に直交する面をな
し、前記鉄骨梁からの応力を前記接合部に伝達する支圧板を持つ支圧材が設置され、この支圧材が前記鉄骨梁に
固定されずに前記鉄骨梁に、または前記鉄骨梁以外のいずれかの部位に保持された状態で、前記支圧材
の少なくとも一部を含む接合部の領域にコンクリートが打設されて
おり、
前記支圧材は前記支圧板と、前記鉄骨梁の少なくともいずれか一方の前記フランジに重なる支持板を有し、少なくともこの支持板が前記コンクリート中に前記鉄骨梁と共に埋設されていることを構成要件とする。
【0010】
請求項1における「接合部に鉄骨梁が端部において埋設された状態で配置され」とは、
図2に示すように鉄骨梁の端部が接合部から突出することなく接合部内に留まり、接合部内に埋め込まれた(埋設された)状態で鉄骨梁が接合部に配置されることを言い、「埋設」は「定着」とも言い換えられる。柱は現場打ちコンクリート造の場合とプレキャストコンクリート製の場合の他、両者の合成構造の場合がある。接合部に配置される鉄骨梁に直交する方向には、プレキャストコンクリート等の鉄筋コンクリート造の梁が配置される場合と、接合部に鉄骨梁にピン接合される鉄骨梁が配置される場合の他、何も配置されない場合がある。
【0011】
柱主筋3は
図1、
図2に示すように平面上、二方向の、もしくは一方向の梁との干渉がない領域に配筋されるが、
図1、
図2では接合部6に配置される鉄骨梁2に直交する方向の梁を省略している。鉄骨梁2に直交する鉄筋コンクリート造の梁もプレキャストコンクリート製の場合と現場打ちコンクリート造の場合の他、両者の合成構造の場合がある。
【0012】
請求項1における「鉄骨梁の材軸に直交する面をなす支圧板を持つ支圧材」とは、支圧材5が鉄骨梁2の材軸に直交する面をなす板要素としての支圧板51を持つことを言う。「上部フランジ上と下部フランジ下の少なくともいずれか一方」とは、支圧材5が上部フランジ21上にのみ設置される場合と、下部フランジ22下にのみ設置される場合と、上部フランジ21上と下部フランジ22下にのみ設置される場合があることを言う。支圧材5は
図1に示すように鉄骨梁2が接合部6を貫通する場合には、鉄骨梁2の少なくともいずれか一方のフランジ21、22に接合部6の中心を挟んで対になって配置される。
図2に示すように鉄骨梁2が端部において埋設された状態で接合部6に配置される場合には、支圧材5は鉄骨梁2の少なくともいずれか一方のフランジ21、22の柱1との交差部(柱1の表面)側にのみ配置される。
【0013】
支圧材5として形鋼を使用する場合、鉄骨梁2の上部フランジ21と下部フランジ22に重なって設置されたときに自ら安定する上では例えば山形鋼や溝形鋼、T形鋼等の形態が適するが、柱主筋3やその周囲に配筋されるせん断補強筋4に結束される等により設置状態で安定性を確保することができれば
よい。支圧材5は鉄骨梁2の材軸に直交する面をなす支圧板51を持てばよいため、必ずしも形鋼である必要はない。
【0014】
支圧材5を鉄骨梁2に固定(溶接)しない趣旨は、支圧材5を鉄骨梁2のフランジ21、22に溶接することによる工場での鉄骨梁2の製作の手間を解消し、接合部用鉄骨梁の製作コストを削減することと、支圧材5を鉄骨梁2から分離させておくことで、
図5に示すように支圧材5に例えば鉄骨梁2を直下の柱1に支持させるための仮設材(支持材)としての用途を持たせることにある。このため、支圧材5は鉄骨梁2の上部フランジ21上と下部フランジ22下に重なって設置された状態で、鉄骨梁2に固定されずに、少なくとも何らかの形で接合部6へのコンクリートの打設時に鉄骨梁2から移動しない程度に保持されていればよく、保持の方法は問われない
(請求項3)。
【0015】
具体的には柱主筋3、またはせん断補強筋4に支圧材5を結束させる、鉄骨梁2のフランジ21、22やせん断補強筋4に接着させる、柱主筋3やせん断補強筋4に接合部6の中心側へ係止させながら、いずれかの部位に保持させる等の方法が考えられる。この他、
図5に示すように鉄骨梁2を支持する柱1の側面や天端にボルト9等により接続(固定)されること(請求項2)も含まれる。
【0016】
請求項1における「支圧材が鉄骨梁に、または鉄骨梁以外のいずれかの部位に保持され」とは、支圧材5が鉄骨梁2か、鉄骨梁2以外のいずれかの部位に何らかの方法で接合部6へのコンクリートの打設時の圧力に抵抗しながら、設置状態を維持し得る程度に保持されることを言う。支圧材5がコンクリートの打設圧力に抵抗し得る程度に鉄骨梁2かそれ以外のいずれかの部位に拘束されていれば、コンクリートへの埋設により鉄骨梁2に一体化した状態になるため、鉄骨梁2からの応力を接合部6へ伝達する機能を発揮することが可能になる。「いずれかの部位」は鉄骨梁2以外の柱主筋3、せん断補強筋4、柱1、または接合部6用、もしくは柱1用のせき板等を指す。
【0017】
支圧材5を鉄骨梁2に溶接等により固定する必要がないことで、支圧材5を鉄骨梁2に固定する場合より鉄骨梁2の製作が単純化されるため、鉄骨梁2に支圧材5を固定する場合程の製作コストを要せず、鉄骨梁2の製作性が向上する。また支圧材5を鉄骨梁2から分離させておくことができることで、現場において支圧材5を本来の用途以外の仮設材として単独で使用することができるため、支圧材5の用途の幅が拡大する。
【0018】
特に
図5に示すように鉄骨梁2の下部フランジ22の下に配置される支圧材5が鉄骨梁2の下に配置される柱1の側面等に接続される場合(請求項2)には、支圧材5に本来の応力伝達部材としての役割と、鉄骨梁2を下層側の柱1に支持させるための支持部材としての役割を果たさせることができるため、鉄骨梁2を柱1に支持させるための専用の支持部品を別途、必要とせず、使用仮設材の削減が図られる利点がある。
【0019】
鉄骨梁2を柱1の側面等に接続された支圧材5に支持させることは、構築済みの、またはプレキャストコンクリート製の下層側の柱1の天端と鉄骨梁2の下部フランジ22との間の距離が支圧材5の高さ程度になる場合に可能である。
図5に示す例では支圧材5が柱1の対向する両側面等に固定され、対になることで、支圧材5は鉄骨梁2のレベルと水平状態を調整する機能も果たしている。この場合、鉄骨梁2の上部フランジ21上に設置される支圧材5は柱主筋3やせん断補強筋4等に保持されることになる。