特許第6442401号(P6442401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントゥロ ナシオナル デ テクノロヒア イ セグリダ アリメンタリア、ラボラトリオ デル エブロの特許一覧 ▶ ウニベルシダ デ ナバーラの特許一覧

特許6442401プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用
<>
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000009
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000010
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000011
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000012
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000013
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000014
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000015
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000016
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000017
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000018
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000019
  • 特許6442401-プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442401
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】プロバイオティクスを封入するための微粒子、この微粒子を得ることおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20181217BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20181217BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20181217BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20181217BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20181217BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20181217BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20181217BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20181217BHJP
   A23L 33/28 20160101ALI20181217BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20181217BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61K47/42
   A61K47/36
   A61K9/14
   A61K47/24
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61P37/02
   A61P31/00
   A61K35/745
   A61K8/99
   A61K8/64
   A61K8/73
   A61K8/24
   A61K8/34
   A61K8/19
   A23L33/135
   A23L33/28
   A23L33/19
【請求項の数】13
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-519259(P2015-519259)
(86)(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公表番号】特表2015-527308(P2015-527308A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】ES2013070477
(87)【国際公開番号】WO2014006261
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年7月2日
(31)【優先権主張番号】P201231058
(32)【優先日】2012年7月5日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】512220905
【氏名又は名称】セントゥロ ナシオナル デ テクノロヒア イ セグリダ アリメンタリア、ラボラトリオ デル エブロ
【氏名又は名称原語表記】CENTRO NACIONAL DE TECNOLOGIA Y SEGURIDAD ALIMENTARIA, LABORATORIO DEL EBRO
(73)【特許権者】
【識別番号】512220891
【氏名又は名称】ウニベルシダ デ ナバーラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE NAVARRA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】アグエロス バソ、マイテ
(72)【発明者】
【氏名】エスパルサ カタラン、イレーネ
(72)【発明者】
【氏名】ガマソ デ ラ ラシリャ、カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス フェレーロ、カロリナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ナバロ、カルロス ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】イラチェ ガレタ、ホアン マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ペニャルバ ソブロン、レベカ
(72)【発明者】
【氏名】ロモ ウアルデ、アナ
(72)【発明者】
【氏名】ビルト レサノ、ラケル
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−512755(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/094469(WO,A1)
【文献】 米国特許第06159504(US,A)
【文献】 国際公開第2012/021783(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0226905(US,A1)
【文献】 J. Food Eng.,2010年,Vol.98,pp.309-316
【文献】 J. Control. Release,2012年 6月,Vol.162,pp.56-67
【文献】 Colloids Surf. B. Biointerfaces,2008年,Vol.64,pp.104-110
【文献】 腸内細菌学雑誌,2008年,Vol.22,pp.263-268
【文献】 Pharm. Acta Helv.,1998年,Vol.73,pp.187-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/747
A23L 33/135
A23L 33/19
A23L 33/28
A61K 8/19
A61K 8/24
A61K 8/34
A61K 8/64
A61K 8/73
A61K 8/99
A61K 9/14
A61K 35/745
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/24
A61K 47/36
A61K 47/42
A61P 31/00
A61P 37/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとプロバイオティクス細菌とを含んでなり、前記マトリックスが、カゼインおよびキトサンからなり、キトサン:カゼインが、重量比で1:1440であることを特徴とする、微粒子。
【請求項2】
架橋剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
前記プロバイオティクス細菌が、Bifidobacterium属またはLactobacillus属の細菌である、請求項1または2に記載の微粒子。
【請求項4】
カゼインまたはカゼイン源、プロバイオティクス細菌、およびキトサンを混合することを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微粒子を得るための方法。
【請求項5】
架橋剤を加えることをさらに含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
得られた微粒子を含有する懸濁物を乾燥させることをさらに含んでなる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の複数の微粒子を含んでなる、組成物。
【請求項8】
40〜60重量%のカゼイン、0.1〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜0.15重量%のトリポリリン酸ナトリウムおよび0重量%〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物A;
40〜60重量%のカゼイン、0.1%〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜0.6重量%のバニリンおよび0〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物B;
40%〜60重量%のカゼイン、0.1〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜10重量%のCa2+および0〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物C
から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記微粒子が乾燥粉末の形態である、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の少なくとも1つの微粒子、または請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる、食品、医薬品、化粧品または機能性食品の製品。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微粒子、請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10に記載の製品を含んでなる、
−Th2が介在する移植拒絶反応、
−アレルギーおよびアレルギー関連疾患、
−免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状、
−細胞内病原体によって引き起こされる感染、または
−粘膜感染
を予防および/または治療するための経口免疫系調整組成物。
【請求項12】
粘膜感染を予防および/または治療するための経口組成物である、請求項11に記載の免疫系調整組成物。
【請求項13】
免疫系調整組成物の製造のための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微粒子、請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10に記載の製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、機能性食品、化粧品および医薬品の技術範囲に含まれる。特に、本発明は、カゼインおよびキトサンによって作られるマトリックスと、プロバイオティクス細菌とを含む微粒子、この微粒子を得るための方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
概論
健康な成人の腸内微生物叢は比較的安定しており、宿主の健康に重要な役割を果たすラクトバチルス種およびビフィドバクテリウム種から主に構成される種々の有益な細菌集合を含む。有益なコロニー状の微生物叢のバランスが崩れることは、様々な障害、例えば、胃腸管感染、便秘、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、アレルギー、心疾患および結腸癌の進行の原因となり得る。世界保健機関(WHO)は、これらのリスクを防ぐために有益な微生物またはプロバイオティクスの治療能力および予防能力の活用を推奨する。
【0003】
プロバイオティクスは、十分な量を投与されたとき、宿主に有益な生理学的効果を与える生きた微生物であると定義される(Perez−Luyo、2008)。この観点において、プロバイオティクスには、ラクトースの消化、腸管感染症の予防、免疫調整作用、癌および心血管疾患の予防を補助する役割がある。さらに、歯のう蝕予防におけるプロバイオティクスの役割の可能性について研究がなされている。
【0004】
プロバイオティクスを摂取する基本的な様式には四つあり、飲料(例えば、フルーツジュースなど)に加えられる濃縮培養物、プレバイオティクス繊維に植え付けられる濃縮培養物、凍結乾燥した細胞投薬形態(例えば、粉末、カプセル、錠剤など)の栄養補助食品、そして乳製品に混入される栄養補助食品がある。
【0005】
プロバイオティクス細菌は、広範囲の食品に、主に、乳製品(ヨーグルト、チーズ、アイスクリーム、ミルク系のデザートなど)に組み込まれてきたが、他の食品、例えば、シリアル、ジュース、チョコレートなどにも組み込まれてきた。
【0006】
しかし、処理中および/または保存中の、これら製品内のプロバイオティクスの生存率は非常に低く(De Vosら、2010)、他方、これら微生物が上に述べた有益な効果を与えるためには、微生物は生きたままでなければならず、消費時期に適切な濃度でなければならない。例えば、食品の加工/製造終了時の酸性度、その寿命の間または後酸性化(post acidification)に作られた酸性度、発酵代謝物による阻害、栄養物の不足、包装の透過性、浸透圧、保存温度、他の細菌種との相互作用などのプロバイオティクス培養物の生存能力を下げる原因となるいくつかの因子が存在する。一般的に、寿命期間に製品の酸性度が上がると、BifidobacteriaおよびL.acidophilusのようなプロバイオティクス細菌の生存能力が低下する。
【0007】
プロバイオティクスの生存能力を高めるための手法としては、酸耐性株を選択すること、プロバイオティクス微生物の初期濃度を上げること、あるいは、その寿命の間、活性な代謝を維持する適切なプレバイオティクスを加えること、低い後酸性化度、望ましくない発酵代謝物の生成を防ぐことが挙げられる。プロバイオティクス濃縮物は、食品および/または機能性食品の製品に組み込まれた後に使用まで、しばしば長期間保存されることを考慮し、可能な場合には、さらなる経済的な費用を発生さないよう特定の温度および湿度の条件を必要とすることなく、期間全体にわたって細菌の生存能力を維持し、製品の保存寿命を延ばす系を見つけることがきわめて重要である。
【0008】
プロバイオティクスの使用にあたり考慮しておかなければならない適切な態様とは、プロバイオティクスがヒトの健康に対して上述の有益な効果を与える態様であり、結腸に生きたまま届かなければならず、それによって、上部胃腸管の障壁(すなわち、胃の中の酸性度および消化酵素および小腸の中の胆汁塩)を越えることが必要である。
【0009】
さらに、プロバイオティクス細菌は、産業レベルでの製造中に種々のストレス因子(例えば、凍結、乾燥、酸素への曝露、温度、培地中の高濃度の乳酸など)にさらされる。
【0010】
以上の観点から、上記のような有害な環境条件で生存能力を維持するための代替的手段として、生きたプロバイオティクスを封入すること(Borgognaら、2010;DingおよびShah、2008)に対し、今日、非常に関心が高まっている。これらから得られる利点にはまだ改良の余地があるが、これらの技術はここ数年用いられてきている。
【0011】
現在までに設計されたほとんどのプロバイオティクスのマイクロカプセル化の手法は、産業的なレベルまでスケールアップ可能な押出成型、エマルション、およびスプレー乾燥といった3種類の大きなグループに分けられる(Heidebachら、2011)。押出成型方法は、単純で経済的な方法であり、細菌を傷つけないが、簡単にスケールアップ可能な技術ではなく、大量の製品を得ることが難しい。乳化は、文献に最も一般的に記載されているプロバイオティクス細菌を封入するための技術であるが、界面活性剤および油の使用を必要とするもっと複雑な技術であり、比較的経済的ではなく、また、組み込まれる製品の官能特性および触感に影響を与える場合があり、低脂肪食品の製品開発には適していない。スプレー乾燥(「噴霧」)によるマイクロカプセル化は、単純で経済的なプロセスであるが、微生物の脱水および熱による不活性化プロセスを同時に行う結果として、細菌の死亡率が高くなる。
【0012】
一般的に、プロバイオティクスを封入するための最も適したマイクロカプセルは、以下の要求を満たすべきとされている(Heidebachら、2011)。
・細菌の生存能力を損なわずに単純で経済的なプロセスによって得られること
・組み込まれる食品の官能特性の変化を防ぐのに適した粒径および特徴を有すること(100μmを超える粒径を有する粒子は、消費者によって意識される場合がある)
・プロバイオティクスを有害な環境条件(マトリックス、処理、保存など)から守ること
・プロバイオティクスを安定化し、上部胃腸管の条件から誘導されるストレスから守ること
・生きた細菌を腸内に放出すること。
【0013】
すべての望ましい要求を満たし、あるいは少なくとも最も関連した要求を満たす配合物は、現在まで開発されていない。
【0014】
プロバイオティクス細菌を封入するために用いられる材料の1つは、乳タンパク質全体の約80%を構成する接合タンパク質であるカゼインである。プロバイオティクス細菌を封入するために、このタンパク質のみを用いるか、または多糖を含む他のポリマーと組み合わせて用いた研究が進められ(Heidebachら、2009、Heidebachら、2010。Oliveiraら、2007)、細菌の生存能力を損なうことなく、良好な封入効率結果が得られた。上述の3つの論文の中で、最初の2報は、非常に粒径が大きな(100μmを超える)マイクロカプセルを生じるスケールアップできない乳化系に基づいたものである。一方、3つのこれら論文で行われた酸性pHに対する耐性の研究は、明らかに、マイクロカプセルが細菌を酸性度から守ることを示している。しかし、上述の論文はいすれも、実際の胃の条件を再現するために単なる酸性pHよりもさらに攻撃的なペプシンを用いた研究を行っていない(この酵素は、タンパク質を分解し、培地への細菌の曝露を増やす)。また、これらの論文では、生存能力の試験が行われているが、封入された細菌の配合物および遊離細菌の配合物の両方において、細菌数のきわめて顕著な消失が観察され60〜120日間保存したときに(異なる条件下)観察されている(封入された細菌の場合の方が低いが)。
【0015】
Lactobacillus plantarumは、最も一般的に用いられる乳酸菌の一種であり、この細菌は、ヒトの胃腸管の健康な保菌状態を可能にするGRAS(一般的に安全であると認識されている)生物であると考えられる。多くのL.plantarum株は、今日、プロバイオティクスとして上市されている。しかし、L.plantarumは、胃腸培地の条件に非常に感受性が高い細菌であり、保存時には、ほんの数日で計測数が顕著に低下するため、冷蔵状態であっても非常に短期間しか保存することができない(AyubおよびBrinques、2011)。
【0016】
近年、保存中および胃腸管障壁を通る間に保護するためのこれらの細菌の封入に関する2つの論文が公開されている。1つめの論文(AyubおよびBrinques、2011)において、著者らは、このような細菌を封入するために、すべてアルギネートおよび/またはペクチンおよび/またはキトサンに由来する異なる種類の製剤を使用する。しかし、これらの製剤は、胃腸での耐性を高めることができず、4℃で保存中の生存細胞の数は増えたものの、38日間の試験後に生存細胞の数は依然として顕著に減っている。別の論文(Gbassiら、2009)において、細菌の耐性は、ホエイタンパク質でコーティングされたアルギネートマトリックス中に固定した後に顕著に増加する。しかし、これは、微粒子ではなく巨視的な粒子に関するものであり、その官能特性は望ましくないものであり、さらに保存のために凍結乾燥を必要とする。
【0017】
別の最も一般的に用いられる乳酸菌は、Lactobacillus caseiであり、その健康促進能は広く報告されている。特に、従来の発酵乳、例えばヨーグルト、ケフィア、アクチメル、ゲフィルスおよびヴィフィットおよびチーズ、例えばパルメザンおよびマンチェゴを含め、世界中に配布される種々の製品中に見出すことができる。しかしながら、この細菌は前に述べたもの(L.plantarum)と同じ制限があり、すなわち、上部胃腸管の条件に感度が高く、保存期間中の安定性が非常に制限されている。
【0018】
さらに、封入ポリマーとしてアルギネートを用いることに基づくプロバイオティクス細菌を封入するための系が報告されており、このような多くの場合に、粒径が非常に大きなカプセルが得られる(700μm〜2mm)か、または、スケールアップできない乳化方法が用いられる。酸性pHに対する細菌の耐性が、封入されたときには、ある場合に高まるが、これらの論文のほとんどは、酵素存在下で試験を行っておらず、そのため、胃腸条件が忠実に再現されず、酸性度に対する耐性のみが考慮される。一方で、これらの封入系は異なる条件下で保存中の細菌数の低下を抑えるが、とはいえ依然短期間で顕著に低下するといえる。
【0019】
従って、処理中、保存中および/または胃腸管を移動している間にプロバイオティクス細菌を保護することができる系を開発することが依然として求められており、有利には、この系は、プロバイオティクス細菌を含有する微粒子であり、この微粒子は、均一な粒径を有し、最終的に組み込まれる製品の官能特性を妨害せず、制御された条件または環境条件での処理中および保存中、および胃腸管を通って移動する間にプロバイオティクス細菌を保護することができるものである。
【発明の概要】
【0020】
本発明の発明者らは、上述の問題を解決する微粒子、すなわち、食品および機能性食品、化粧品および医薬品の製品に組み込むためのプロバイオティクス細菌を封入する能力を有する微粒子を開発した。これらの微粒子は、プロバイオティクス細菌が外的薬剤によって不活性化されるのを防ぎ、微粒子が組み込まれる食品または機能性食品、化粧品または医薬品の製品を処理するとき、環境条件または制御された条件で長期間保存されている間に、これらの食品および機能性食品の製品の保存時間を延ばすものである。さらに、摂取した後、これらの微粒子は、所望な位置でプロバイオティクス細菌の放出を促進し、上部胃腸管、特に胃の「酸性ペプシン」条件からプロバイオティクス細菌を保護する。
【0021】
これらの微粒子は、安定であり、微粒子が組み込まれる食品中、または機能性食品、化粧品または医薬品製剤の中で不活性であり、食品、機能性食品、化粧品または医薬品のマトリックスを、細菌の生存能力を損なわないように保護する。
【0022】
さらに、本願発明者らは、産業的なスケールで適用可能な、単純な様式でこれらの微粒子を得るための方法を開発した。この方法は、界面活性剤または乳化剤、合成ポリマー、食品添加剤として承認されていない任意の試薬の使用を含まない。さらに、この方法は、得られた微粒子の粒径を100μm未満にするように制御し、消費者に意識されないようにするか、または組み込まれる製品の官能特性に悪影響を与えないようにすることができる。
【0023】
微粒子は水性媒体に容易に再懸濁させることができるが、水性媒体には簡単に溶解せず、含まれるプロバイオティクス細菌を媒体から保護することができる。本発明の微粒子は、組み込まれる製品中で安定なままであり、そして、環境条件および/または制御された条件で長期間保存した後の生存細菌数の顕著な減少が防止される。さらに、これらの微粒子は、飲料品および乳製品から固体食品および機能性食品の製品まで、異なる種類の食品に適用可能である。なおまた、前記微粒子を化粧品配合物および医薬品製剤に配合することができる。
【0024】
さらに、前記微粒子は強い免疫調整効果を有し、T−ヘルパー1(Th1)応答の誘発を助け、および/またはTh1の側に免疫応答を変化させ、従って、これらの微粒子を、例えば、Th2が介在する移植拒絶反応、アレルギーおよびアレルギー関連疾患、免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状、細胞内病原体によって引き起こされる感染および/または粘膜感染の予防および/または治療において、免疫系の機能障害の予防および/又は治療のための免疫系調整(免疫調整)組成物の製造に使用することができることが観察された。
【0025】
本発明の微粒子は、プロバイオティクス微生物を封入し、安定化するための新しい系を提供する。本発明によれば、カゼインをキトサンと組み合わせて溶媒として使用することにより、プロバイオティクス細菌を長期保存期間中に環境条件から保護し、胃の条件から保護し、従って、その寿命を長くし、腸への放出を促進し、従って、そのプロバイオティクス効果を高める。さらに、カゼイン自体は、封入されたプロバイオティクス細菌自体の有利な効果を補完する顕著な栄養学的性質を有する。
【0026】
要するに、本発明の微粒子は、(i)処理中、(ii)保存中および(iii)胃腸管を移動している間、前記プロバイオティクス細菌を保護する能力を有する。
【0027】
従って、ある態様では、本発明は、マトリックスとプロバイオティクス細菌とを含み、前記マトリックスがカゼインおよびキトサンからなる微粒子に関する。
【0028】
別の態様において、本発明は、本発明によって提供される微粒子を得るための方法に関し、この方法は、カゼインまたはカゼイン源、プロバイオティクス細菌およびキトサンを混合することを含んでなる。
【0029】
別の態様において、本発明は、本発明によって与えられる複数の微粒子を含むか、または本発明によって与えられる少なくとも1つの微粒子と、食品、機能性食品、化粧品または医薬品に許容され得る溶媒とを含んでなる組成物に関する。
【0030】
別の態様において、本発明は、本発明によって提供される微粒子を含んでなる、食品、機能性食品、化粧品または医薬品の製品に関する。
【0031】
別の態様において、本発明は、免疫系調整組成物の製造における本発明によって製造される前記微粒子、組成物または製品の使用に関し、または、換言すれば、本発明は、免疫系調整組成物に使用するための本発明によって提供される前記微粒子、組成物または製品に関する。前記免疫調整組成物は、Th1応答の誘発を助け、および/または免疫応答をTh1の側に、好ましくは、Th2からTh1の側に免疫応答を変化させ、例えば、(i)Th2が介在する移植拒絶反応、(ii)アレルギーおよびアレルギー関連疾患、(iii)免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状、(iv)細胞内病原体によって引き起こされる感染および/または粘膜感染の予防および/または治療において、免疫系の機能障害の予防および/または治療に使用することができる。
【0032】
本発明は、さらに、免疫系の機能障害の予防および/または治療のために経口で用いるための本発明によって提供される微粒子、組成物または製品、およびTh2が介在する移植拒絶反応;アレルギーおよびアレルギー関連疾患;免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状;細胞内病原体によって引き起こされる感染、または粘膜感染の予防および/または治療において経口で使用するための本発明によって提供される微粒子、組成物または製品にも関する。
【0033】
本発明の他のさらに詳細な態様を以下の章で明確にし、最も関連する結果を示す具体的な例が、もっと十分な記載および説明の両方によって含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】スプレー乾燥によって得られたキトサンで修飾されたカゼイン微粒子の光学顕微鏡画像を示す。(A)空の微粒子(20倍);(B)封入されたL.plantarumを含む(20倍)。右下部分の水平線は、100μmをあらわす。
図2】(A)蛍光マーカーで染色したL.plantarum(20倍);(B)スプレー乾燥によって得られた、L.plantarumが封入されたキトサンで修飾されたカゼイン微粒子(20倍)(蛍光マーカーで染色)の蛍光顕微鏡画像を示す。右下部分の水平線は、100μmをあらわす。
図3】スプレー乾燥によって得られた、カルシウム塩存在下、L.plantarumが封入されたキトサンで修飾されたカゼイン微粒子(20倍)(蛍光マーカーで染色)の蛍光顕微鏡画像を示す。右下部分の水平線は、100μmをあらわす。
図4】環境条件(25℃)で長時間にわたるL.plantarumの生存率を示すグラフである。L.plantarumの新鮮な懸濁物;封入されていない、凍結乾燥したL.plantarum;キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Ap);バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Bp);TPP存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Cp);およびカルシウム塩存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Dp)。
図5】疑似胃腸培地(0〜2時間:疑似胃培地;2.1〜8時間:疑似腸培地)でのL.plantarumの生存率を示すグラフである。L.plantarumの新鮮な懸濁物;封入されていない、凍結乾燥したL.plantarum;キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Ap);バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Bp);TPP存在下、キトサンで改変されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Cp);およびカルシウム塩存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.plantarum(製剤Dp)。*は、凍結乾燥された製品に関する微粒子の数の有意差を示す(p<0.05)。
図6】疑似胃腸培地での処理を行った後、封入されたL.plantarumを用いた分解プロセス中、バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子(製剤Bp)を示す走査型電子顕微鏡画像を示す。
図7】環境条件(25℃)で長時間にわたるL.caseiの生存率を示すグラフである。L.caseiの新鮮な懸濁物;封入されていない、凍結乾燥したL.casei;キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Ac);バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Cc);およびトリポリホスフェート(TPP)存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Dc)。
図8】疑似胃腸培地(0〜2時間:疑似胃培地;2.1〜8時間:疑似腸培地)でのL.caseiの生存率を示すグラフである。封入されていない、凍結乾燥したL.casei;キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Ac);バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Cc);およびトリポリホスフェート(TPP)存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子に封入されたL.casei(製剤Dc)。*は、凍結乾燥された製品に関する微粒子の数の有意差を示す(p<0.05)。
図9】封入されていない形態(遊離LP)、封入されたL.plantarum(Bp)または細菌(L.plantarum)と粒子の混合物(物理的な混合物)を用いて処理したマウスから得られた末梢リンパ球の免疫表現型分析の結果を示す棒グラフである。点線は、未処理のコントロール群から得られた比率を示す。
図10】封入されていない形態(遊離LP)、封入されたL.plantarum(Bp)または細菌と粒子の物理的な混合物を用いて処理したマウスから得られた末梢リンパ球をin vitroで刺激した後のTh1/Th2比率の指数の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、食品、機能性食品、医薬品または化粧品のマトリックスに組み込んだ後のプロバイオティクス細菌の不活性化を防ぎ、または制御された条件または環境条件で処理中または長期間保存している間にプロバイオティクス細菌を保護し、さらに、摂取したときに胃腸管を通って移動する間に「酸性ペプシン」条件からプロバイオティクス細菌を保護する目的のために、プロバイオティクス細菌を封入するための微粒子の製造に関する。
【0036】
本発明による微粒子
従って、一態様において、本発明は、マトリックスとプロバイオティクス細菌とを含み、前記マトリックスが、カゼインおよびキトサンからなる微粒子(以下、「本発明の微粒子」)に関する。
【0037】
本明細書において使用する「微粒子」という用語は、1ミリメートル(mm)未満、一般的に、0.5〜999マイクロメートル(μm)、典型的には、1〜900μmの粒径を有する球状または同様の形状のコロイド系を示すために用いられる。特定の実施形態において、本発明の微粒子は、粒径が1mm未満、一般的に、0.1〜999μm、典型的には、0.2〜900μm、有利には0.3〜500μm、好ましくは0.4〜250μm、さらに好ましくは0.5〜125μm、さらになお好ましくは0.7〜50μm、さらになお好ましくは1〜40μm、さらになお好ましくはおおよそ2〜12μmである。
【0038】
本発明において、「マトリックス」という用語は、1種類以上のコーティング剤または組成物を指す。本発明によれば、前記マトリックスは、カゼインおよびキトサンからなり、プロバイオティクス細菌を完全に、または部分的にコーティングする。
【0039】
プロバイオティクス」という用語は、適切な量を投与されたとき、宿主の健康に対し有益な生理学的作用を生じさせる、生きた微生物であると定義される(FAO/WHO 2002。Guidelines for the evaluation of probiotics in Food、London)。本発明において使用されるプロバイオティクスは、「プロバイオティクス細菌」であり、すなわち適切な量投与されたとき、宿主の健康に対し有益な生理学的作用を生じさせる、生きた細菌である。特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium属またはLactobacillus属の細菌である。さらに特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、L.plantarumおよびL.caseiから選択される。具体的な実施形態において、プロバイオティクス細菌は、それぞれコーンサイレージおよびチーズから単離されたL.plantarum CECT 220およびL.casei CECT 475 Tである。別の特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium animalis subsp.lactis株であり、例えば、BB−12(登録商標)の商品名で上市されるものである。
【0040】
本明細書において使用する「カゼイン」という用語は、乳タンパク質全体の約80%を構成する接合タンパク質を指す。グロブリンの定義に入るリンホタンパク質型のタンパク質であり、可溶性であり、高い水保持能力を有し、pH約4.6、20℃で沈殿する。アミノ酸組成、電荷分布およびカルシウム存在下で凝集物を生成する傾向に起因して互いに異なる4種類の必須なフラクション(αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼインおよびκ−カゼイン)によって作られる。ミルクにおいて、カゼインは、直径が50〜600nm(平均で約150nm)の安定なコロイド状ミセルを形成する。「キトサン」は、キチンのN−脱アセチル化から誘導される天然ポリマーである(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)。脱アセチル化プロセスは、キチンの分子鎖からのアセチル基の除去を含み、完全なアミノ基(−NH)が残っている。従って、キトサンサンプルの脱アセチル化度は、多糖のサブユニット中の遊離アミノ基の含有量を指し、例えば、特に、Hidalgoらによって記載される方法またはASTM F2260−03(2008)標準(Standard Test Method for Determining Degree of Deacetylation in Chitosan Salts by Proton Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy)に従って決定することができる。一般的に、商業的なキトサンの脱アセチル化度は、40%を超え、好ましくは60%を超える。特定の実施形態において、キトサンの脱アセチル化度は、60%〜100%、典型的には75%〜95%、またはこれより多い。キトサンは、式(I)のモノマー単位の繰り返しに由来するアミノ多糖構造を有する。
【化1】
式中、「n」は、整数であり、さらに、「m」は、アミノ基がアセチル化している単位の数である。「n+m」の合計は、重合度、すなわち、キトサン鎖中のモノマー単位の数をあらわす。
【0041】
キトサンは、酸性pHで主にプロトン化されており、従って、酸性pHで正に帯電した多糖である。
【0042】
キトサンの分子量は、広範囲にわたって変動してもよいが、一つの実施形態において、本発明の微粒子を得るために用いられるキトサンの分子量は、5〜850kDa、典型的には25〜300、好ましくは40〜200kDa、さらに好ましくは50〜150kDaである。
【0043】
本発明において、キトサンの代替物としてキトサン誘導体を使用してもよいことが理解され、このような誘導体は、1つ以上のヒドロキシル基および/または1つ以上のアミノ基が修飾されたキトサンであると理解される。これらの誘導体としては、特に、Roberts、Chitin Chemistry、Macmillan、1992、166に記載されるように、アセチル化されたキトサン、アルキル化またはスルホン酸化されたキトサン、およびチオール化された誘導体が挙げられる。誘導体が用いられる場合、好ましくは、キトサンのO−アルキルエーテル、キトサンのO−アシルエステル、トリメチルキトサン、ポリエチレングリコールで修飾されたキトサンなどから選択される。他の可能な誘導体としては、塩、例えば、クエン酸キトサン、硝酸キトサン、乳酸キトサン、リン酸キトサン、グルタミン酸キトサンなどが挙げられる。いずれにせよ、当業者は、最終配合物の商業的な安定性および生存能力に影響を与えずに、キトサン上に行うことができる修飾を特定することができる。特定の実施形態において、キトサン誘導体は、親水性の修飾キトサンであり、本明細書において使用する「親水性の修飾キトサン」は、親水基、例えば、水性媒体でのキトサンの溶解度を高める基で修飾されたキトサンであり、例えば、アルキル化キトサン(例えば、トリメチルキトサンなど)、スルホン酸化キトサン、チオール化キトサン、キトサン塩(例えば、グルタミン酸塩、塩化物塩、乳酸塩、酢酸塩など)、キトオリゴ糖類などである。別の特定の実施形態において、キトサン誘導体は、疎水性の修飾キトサンではなく、本明細書において使用する「疎水性の修飾キトサン」は、疎水性基、すなわち、水性媒体でのキトサンの溶解度を下げる基、例えば、キトサンの疎水性を上げるように十分に大きなアルキルまたはアリール基、例えば、脂肪酸またはアルデヒド残基、好ましくは3〜18個の炭素原子を含む飽和または不飽和の脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプロン酸、カプリル酸、ステアリン酸、プロパン酸または酪酸で修飾されたキトサンである。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子のマトリックスが、カゼインおよびキトサン誘導体(例えば、疎水性の修飾キトサン)からなる場合、本発明の微粒子は、アルギネートまたは疎水性の修飾アルギネート(疎水性の修飾キトサンについてすでに定義したように、疎水性基で修飾されたアルギネート)からなる外側コーティングをもたない。
【0044】
上述のように、キトサンおよびカゼインは、本発明の微粒子の一部であるマトリックスを構成する。キトサン:カゼインの重量比は、広範囲に変わってもよいが、特定の実施形態において、前記キトサン:カゼインの重量比は、1:1〜150、好ましくは1:5〜100、さらに好ましくは約1:14〜40である。
【0045】
本発明の微粒子に存在し得るマトリックスの重量単位あたりのプロバイオティクス細菌の量は、広範囲に変わってもよいが、特定の実施形態において、本発明の微粒子は、少なくとも10コロニー生成単位/ミリグラム(CFU/mg)、一般的に10CFU/mg〜5×1013CFU/mg、好ましくは10CFU/mg〜1012CFU/mgのマトリックスを含む。
【0046】
特定の実施形態において、本発明の微粒子は、さらに、架橋剤を含む。前記架橋剤の非限定的な実例としては、医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン;トリポリホスフェート;および一般的にカゼインおよび/またはキトサンと化学的な相互作用を確立することができる任意の物質が挙げられる。
【0047】
本明細書において使用する「医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン」は、価数が2である任意の金属元素、例えば、アルカリ土類金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などに由来するカチオンであるか、または、いくつかの価数を有する場合、価数の1つが2である、例えば、鉄などであり、但し、医薬または化粧品に許容され得るか、または、食品に使用するのに適しており;特定の実施形態において、前記二価の金属カチオンは、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。当業者には理解されるように、架橋剤として有用な二価の金属カチオンは、前記金属カチオンの適切な供給源、例えば、水溶液中で前記二価の金属カチオンを生じる化合物、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウムなど、または前記化合物の混合物によって与えられてもよい。
【0048】
本明細書において使用する「トリポリホスフェート」は、トリリン酸の共役塩基、例えば、STPP(トリポリリン酸ナトリウム)または単純に「TPP」で一般的に特定されるトリポリリン酸ナトリウムであるポリホスフェートペンタアニオンを含む化合物である。
【0049】
カゼインおよび/またはキトサンと化学的な相互作用を確立することができ、本発明において架橋剤として使用可能な物質のさらなる例としては、バニリン[3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド]、ゲニピン[メチル(1R,2R,6S)−2−ヒドロキシ−9−(ヒドロキシメチル)−3−オキサビシクロ[4.3.0]ノナ−4,8−ジエン−5−カルボキシレート]などが挙げられる。
【0050】
特定の実施形態において、架橋剤は、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二価の金属カチオン、トリポリホスフェート;バニリン;ゲニピン;またはこれらの任意の組み合わせである。さらに特定の実施形態において、架橋剤は、カルシウムカチオン(Ca2+)、TPPまたはバニリンである。別の特定の実施形態において、架橋剤は、Ca2+であり、架橋は、さらに、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスと、プロバイオティクス細菌と、架橋剤とを含有する混合物に対し、加圧処理、例えば、100〜800MPaの圧力で静水圧サイクルを行うことを含む。
【0051】
特定の実施形態において、本発明の微粒子は、2種類以上の架橋剤を含み、好ましくは、2種類の異なる架橋剤を含み、本発明の微粒子に最終的に存在する2種類の異なる架橋剤の組み合わせの実例としては、以下の2成分の組み合わせが挙げられる。
−トリポリホスフェート(例えば、TPP)およびバニリン;
−トリポリホスフェート(例えば、TPP)およびゲニピン;
−トリポリホスフェート(例えば、TPP)および医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン、例えば、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二価の金属カチオン;
−バニリンおよびゲニピン;
−バニリンおよび医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン、例えば、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二価の金属カチオン;
−ゲニピンおよび医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン、例えば、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二価の金属カチオン。
【0052】
本発明の微粒子が少なくとも1つの架橋剤を含む場合、架橋剤と、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスとの重量比は、架橋剤の種類に依存して広範囲にわたって変動してもよい。特定の実施形態において、架橋剤がTPPである場合、架橋剤(TPP):マトリックス(カゼインおよびキトサン)の比率は、1:0.1〜800、有利には1:1〜500、好ましくは約1:100〜300である。別の特定の実施形態において、架橋剤がバニリンである場合、架橋剤(バニリン):マトリックス(カゼインおよびキトサン)の比率は、1:0.1〜500、有利には1:1〜250、好ましくは約1:50〜100である。別の特定の実施形態において、架橋剤がCa2+である場合、架橋剤(Ca2+またはCa2+源):マトリックス(カゼインおよびキトサン)の比率は、1:0.1〜50、有利には1:1〜25、好ましくは約1:6〜16である。
【0053】
別の特定の実施形態および任意の実施形態において、本発明の微粒子は、さらに、微粒子を乾燥するプロセス中、または従来の方法によって、例えば、スプレー乾燥によって本発明の微粒子を含有する懸濁物を乾燥するプロセス中、マトリックスおよびプロバイオティクス細菌を保護する化合物(本明細書において以下「保護剤」)を含む。実質的には、これらの特徴を満たす任意の化合物を保護剤として使用することができる。特定の実施形態において、前記保護剤は糖類であるか、または一般的に、保護の役割に加え、プレバイオティクスとして作用する適切な食品添加剤である。本明細書において使用する「プレバイオティクス」という用語は、プロバイオティクスの成長および/または活性を刺激する消化されない食品成分を指す。本発明の内容で使用可能な保護剤の非限定的な実例としては、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールなど、およびプレバイオティクスの特徴を有する物質、例えば、オリゴフルクトース、ペクチン、イヌリン、ガラクトオリゴ糖類、ラクツロース、母乳のオリゴ糖類、食物繊維など、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。特定の実施形態において、保護剤は、マンニトールまたはスクロースである。本発明の微粒子が保護剤を含む場合、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスと、保護剤との重量比は、広範囲にわたって変動してもよいが、特定の実施形態において、マトリックス(カゼインおよびキトサン):保護剤の重量比は、1:0.1〜5、典型的には1:0.5〜4、好ましくは約1:1である。
【0054】
本発明による微粒子を得る方法
別の態様において、本発明は、カゼインまたはカゼイン源、プロバイオティクス細菌およびキトサンを混合することを含んでなる、マトリックスとプロバイオティクス細菌とを含み、前記マトリックスがカゼインおよびキトサンからなる微粒子(本発明の微粒子)を得るための方法(本明細書において以下「本発明の方法」)に関する。
【0055】
カゼインはそのまま組み込んでもよく、または、カゼイン源によって与えられてもよい。単純化するために、「カゼイン」および「カゼイン源」という用語は、本明細書では相互に置き換え可能に用いられる。実際には、本発明の方法を実施するために、任意のカゼイン源を使用することができる。カゼイン源は、非常に異なる起源を有していてもよい(例えば、ミルク、マメなど)。特定の実施形態において、カゼイン源は、水溶液または懸濁物の形態であり、この場合、カゼインは、カゼイン酸またはカゼイネートの形態、例えば、カゼイン酸ナトリウムなどであってもよく、または、カゼインの任意の他の可溶性形態であってもよい。他のカゼイネート、例えば、カゼイン酸カルシウムまたはカゼイン酸ホスホカルシウムを使用してもよいが、実際には、もっと有利には、カゼイン酸ナトリウムを使用する。カゼイン源を含有する水溶液または懸濁物は、当業者に既知の従来の方法によって、例えば、カゼイン源を水性媒体に加えることによって得ることができる。本明細書において使用する「水性媒体」は、水を含む媒体、好ましくは、主に水を含有する媒体、さらに好ましくは、水から本質的になる水性媒体である。前記水溶液に含まれ得るカゼインの量は、広範囲に変わってもよいが、特定の実施形態において、前記水溶液に含まれるカゼインの量は、0.1%〜10%(w/v)、好ましくは0.5%〜5%、さらに好ましくは1%〜2%である。前記カゼインの水溶液は、好ましくは、何ら有機溶媒を含有しない。
【0056】
本発明の方法を実行するために、有利には、プロバイオティクス細菌の懸濁物が調製される。実質的に、任意のプロバイオティクス細菌を使用することができるが、特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium属またはLactobacillus属の細菌である。さらに特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、L.plantarumまたはL.caseiである。具体的な実施形態において、プロバイオティクス細菌は、L.plantarum CECT 220およびL.casei CECT 475 Tである。別の特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium animalis subsp.lactis株であり、例えば、BB−12(登録商標)の商品名において上市されているものである。細菌懸濁物は、プロバイオティクス細菌に加え、対応するプロバイオティクス細菌に適した培地を含む。前記培地は当業者には既知である。特定の実施形態において、前記プロバイオティクスがLactobacillus属の細菌、例えば、L.plantarumまたはL.caseiである場合、前記培地は、例えば、110661 MRSブロス(Merck)[MRSブロス]として特定されるDe Man、RogosaおよびSharpeのLactobacillus用ブロスを含み、前記培地は、ラクトバチルスおよび他の乳酸細菌が十分に成長することができ、臨床サンプルおよび食品(特に、乳製品)からラクトバチルスを培養し、豊富に含むために一般的に使用される。一般的に、MRS培地は、(g/L単位で)10gのポリペプトン;10gの肉抽出物、5gの酵母抽出物、20gのグルコース、1.08mlのTween(登録商標)80(ポリエトキシル化ソルビタンモノオレエートまたはポリソルベート80)、2gのリン酸カリウム、5gの酢酸ナトリウム、2gのクエン酸アンモニウム、0.2gの硫酸マグネシウム、0.05gの硫酸マンガンを含む。25℃での培地のpHは、6.4±0.2である。この培地は、すべてのラクトバチルス種を十分に増殖させることができる。ペプトンおよびグルコースは、細菌の増殖に必要な窒素、炭素および他の元素の供給源である。ポリエトキシル化ソルビタンモノオレエート、マグネシウム、マンガンおよび酢酸塩は、補因子を与え、ある種の微生物の成長を阻害することができる。クエン酸アンモニウムは、グラム陰性菌の増殖を阻害する阻害剤として作用する。
【0057】
細菌懸濁物中に存在し得るプロバイオティクス細菌の量は、広範囲にわたって変動してもよいが、特定の実施形態において、細菌懸濁物中に存在するプロバイオティクス細菌の量は、少なくとも10CFU/ml、一般的に10〜5×1012CFU/ml、好ましくは、10〜1012CFU/mlである。特定の実施形態および任意要素の実施形態において、細菌懸濁物は、糖類、例えば、スクロースまたは他の適切な二糖類、例えば、マルトースまたはトレハロースも含有し、これらの化合物は、細胞膜およびタンパク質の両方を保護するため、一般的に、微粒子の乾燥プロセス中に重要な役割を果たす。二糖類は、脱水が起こるとタンパク質と水素結合を形成し、タンパク質の構造を維持し、変性を防ぐことができる。一方、糖類は、脱水中に、リン脂質二層および膜の両方の極性基の周囲にある水分子の置換体として作用し得ると考えられ、膜およびタンパク質の構造的一体性を維持する。前記細菌懸濁物が、上述の目的のために二糖類(例えばスクロース)を含有する場合、前記細菌懸濁物中に存在する二糖類(例えば、スクロース)の量は、0.1%〜10%(w/v)の二糖類(例えば、スクロース)、好ましくは、1%〜3%(w/v)である。キトサンに関し、実質的には、任意のキトサン、またはその適切な誘導体を使用し、本発明を実施することができるが、特定の実施形態において、前記キトサンは、脱アセチル化度が60〜100%、好ましくは、75%〜95%であり、分子量が5〜850kDa、典型的には25〜300kDa、好ましくは、40〜200kDa、さらに好ましくは、50〜150kDaである。特定の実施形態において、キトサンは、水溶液または懸濁物の形態である。キトサンを含有する水溶液または懸濁物は、当業者に既知の従来の方法によって、例えば、水性媒体(例えば、水または主に水を含有する媒体)にキトサンを加えることによって、得ることができる。前記水溶液または懸濁物に含まれ得るキトサンの量は、広範囲にわたって変動してもよいが、特定の実施形態において、水溶液または懸濁物に含まれるキトサンの量は、0.05%〜1%(w/v)、好ましくは、0.1%〜0.3%、さらに好ましくは、1%〜2%である。前記キトサンの水溶液または懸濁物は、好ましくは、何ら有機溶媒を含有しない。
【0058】
本発明の方法の混合工程において、カゼイン、プロバイオティクス細菌、キトサンを混合する順序は問わない。特定の実施形態において、まずカゼインおよびプロバイオティクス細菌を混合し、次いで、キトサンを加え、別の特定の実施形態において、まずカゼインおよびキトサンを混合し、次いで、プロバイオティクス細菌を加え、別の特定の実施形態において、まずプロバイオティクス細菌およびキトサンを混合し、次いで、カゼインを加え、別の特定の実施形態において、カゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンを加え、混合する。特定の実施形態において、上述のように、前記成分をカゼイン水溶液、プロバイオティクス細菌懸濁物およびキトサン水溶液の形態で加える。
【0059】
カゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンを、プロバイオティクス細菌の生存能力に影響を与えないように、有利には攪拌しつつ、好ましくは、室温で、すなわち、18℃〜25℃、好ましくは20℃〜22℃の温度で混合する。
【0060】
本発明の微粒子を作成する前に混合物に存在するカゼインおよびキトサンの重量比は、広範囲にわたって変動してもよいが、特定の実施形態において、前記カゼイン:キトサンの重量比は、1:0.01〜0.5、好ましくは1:0.01〜0.1、さらに好ましくは約1:0.02〜0.07、または言い換えると、本発明の微粒子を作成する前に混合物に存在するキトサン:カゼインの重量比は、1:1〜150、好ましくは1:5〜100、さらに好ましくは約1:14〜40である。
【0061】
本発明の微粒子を作成する前に混合物に存在するプロバイオティクス細菌およびマトリックス成分(カゼインおよびキトサン)の比率は、広範囲にわたって変動してもよいが、特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌/マトリックス比は、少なくとも10CFU/mgのマトリックス、一般的に、10CFU/mg〜1013CFU/mg、好ましくは10CFU/mg〜1012CFU/mgである。
【0062】
上述のように、特定の実施形態において、本発明の微粒子は、さらに、架橋剤、例えば、トリポリホスフェート(例えば、トリポリリン酸ナトリウム(TPP));バニリン;ゲニピン;医薬または化粧品に許容され得るか、または、ヒトまたは動物の食品に使用するのに適した二価の金属カチオン、例えば、例えば、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二価の金属;またはこれらの任意の組み合わせ、またはカゼインおよび/またはキトサンと化学的な相互作用を確立することができる任意の物質を含む。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子は、2種類以上の架橋剤、好ましくは、本発明の微粒子について上述の2種類の異なる架橋剤の組み合わせを含む。
【0063】
本発明の微粒子が少なくとも1つの架橋剤を含む場合、本発明の方法は、カゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンの混合物に、少なくとも1つの前記架橋剤を添加することを含む。特定の実施形態において、1種類の架橋剤(または複数の架橋剤)を水溶液の形態で前記混合物に加えてもよい。架橋剤がカルシウムカチオン(Ca2+)である場合、架橋剤は、前記カチオンの適切な供給源、例えば、前記二価のカチオンを水溶液中で生じる化合物、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウムなど、または前記化合物の混合物によって提供されてもよい。本発明の微粒子が架橋剤を含む場合、加えられる架橋剤の量は、本発明の微粒子について上に述べた架橋剤の性質によって変わる。いずれにせよ、前記架橋剤がTPPである場合、架橋剤(TPP):マトリックス(カゼインおよびキトサン)比は、1:0.1〜800、有利には1:1〜500、好ましくは約1:100〜300であり、架橋剤がバニリンである場合、架橋剤(バニリン):マトリックス(カゼインおよびキトサン)比は、1:0.1〜500、有利には1:1〜250、好ましくは約1:50〜100であり、架橋剤がCa2+である場合、架橋剤(Ca2+またはカルシウム源):マトリックス(カゼインおよびキトサン)比は、1:0.1〜50、有利には1:1〜25、好ましくは約1:6〜16であるように、前記架橋剤を十分な量で加える。
【0064】
カゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンを上述の条件で、すなわち、室温で攪拌しつつ混合した後、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスとプロバイオティクス細菌とを含む本発明の微粒子を作成する。特定の実施形態において、前記本発明の微粒子は、あらかじめ作られた媒体の懸濁物の状態である。
【0065】
次に、所望ならば、カゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンを混合して得られる、本発明の微粒子を含有する懸濁物に対し、本発明の微粒子を乾燥させるために、従来の方法によって、有利にはスプレー乾燥によって、または凍結乾燥によって、乾燥処理を行う。この乾燥処理によって、本発明の微粒子を粉末の形態で得ることができ、その安定性の増加につながる。特定の実施形態において、この乾燥処理は、特に、スプレー乾燥または凍結乾燥によって行われる場合には、本発明の微粒子について上に述べたような保護剤を加えることを含み、この保護剤は、乾燥プロセス中にマトリックスおよびプロバイオティクス細菌を保護し、例えば、保護の役割に加え、例えば、糖類または一般的に適切な食品添加剤である。本発明の内容で保護剤として使用可能な糖類の非限定的な実例としては、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールなど、およびプレバイオティクスの特徴を有する多糖、例えば、オリゴフルクトース、ペクチン、イヌリン、ガラクトオリゴ糖類、ラクツロース、母乳のオリゴ糖類、食物繊維などが挙げられる。特定の実施形態において、保護剤はマンニトールである。本発明の微粒子が保護剤を含む場合、これを適切な量で加え、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスと保護剤との重量比は、広範囲に変わってもよいが、特定の実施形態において、マトリックス(カゼインおよびキトサン):保護剤は重量比で1:0.1〜5、典型的には1:0.5〜4、好ましくは約1:1である。
【0066】
本発明の方法が、本発明の微粒子の懸濁物を乾燥させることを含む特定の実施形態において、本発明の前記懸濁物および微粒子を、スプレー乾燥によって乾燥させ、そのために、本発明の微粒子および/またはカゼイン、プロバイオティクス細菌およびキトサンおよび場合により架橋剤および/または保護剤の混合物を含有する懸濁物をスプレー乾燥器に入れ、処理条件[空気投入口の温度、空気出口の温度、空気圧、サンプルの送り圧、吸引および空気の流れ]を制御する。当業者は、それぞれの場合に最も適した処理条件を設定することができる。
【0067】
所望ならば、本発明の方法は、本発明の微粒子を安定化させる工程をさらに含んでいてもよい。特定の実施形態において、本発明の微粒子の架橋が、架橋剤(例えば、二価の金属カチオン、例えば、Ca2+)を加え、高圧で処理することによって行われる場合、本発明の方法は、架橋剤をさらに含む本発明の微粒子を含有する懸濁物および/またはカゼイン、プロバイオティクス細菌、キトサンおよび架橋剤を含む混合物を適切な容器(例えば、密閉され、100〜800MPa、好ましくは100〜400MPaの圧力で少なくとも1つの静水圧サイクルを1〜30分、好ましくは2〜10分行うプラスチック袋)に入れることを含む。特定の実施形態において、上述の高い静水圧での処理は、カゼイン、プロバイオティクス細菌、キトサンおよび架橋剤を含む前記混合物に、100MPaで5分間のサイクルを行うか、または、300MPaで2分間のサイクルを行うことを含む。具体的な実施形態において、カゼイン、プロバイオティクス細菌、キトサンおよび架橋剤(Ca2+)を含む混合物に100MPaで5分間のサイクルを行う。この高圧処理は、スプレー乾燥による乾燥プロセスを行う前に、カゼイン、プロバイオティクス細菌、キトサンおよび架橋剤を含む混合物に行われる。または、当業者なら知っているように、この高圧処理は、架橋剤を組み込むことは必要なく、微粒子自体を架橋させることができる処理であり、そのため、本発明の微粒子は、架橋剤が存在しない状態で、高圧での処理を行うことによって架橋させることができる。
【0068】
本発明の方法によって、本発明の微粒子を乾燥粉末の形態で得ることができ、制御された条件または環境条件で長期間保存中の本発明の微粒子の安定性につながり、異なる意図した固体および液体の製品(例えば、食品など)に簡単に組み込むこともできる。
【0069】
本発明の方法によって得ることができる微粒子は、本発明の微粒子の特徴を有し、本発明のさらなる態様を構成する。
【0070】
用途
本発明の微粒子は、プロバイオティクス細菌を封入し、処理中(カゼインおよびキトサンからなるマトリックスを含み、前記プロバイオティクス細菌が保持された微粒子を得る)および制御された条件または環境条件で長期間保存している間にプロバイオティクス細菌を保護し、さらに、摂取したときに胃腸管を取って移動する間に「酸性ペプシン」条件からプロバイオティクス細菌を保護する能力を有し、従って、異なる意図した製品(例えば、食品など)に組み込まれた後のプロバイオティクス細菌の不活性化が防がれるか、または実質的に低減する。
【0071】
さらに、本発明の微粒子は、強力な免疫調整効果を有しており、従って、本発明の微粒子を、免疫系の機能障害を予防および/または治療するための免疫系調製組成物の製造に使用することができる。
【0072】
従って、別の態様において、本発明は、
(i)本発明の複数の微粒子、または本発明の方法を用いることによって得ることができる複数の微粒子、または本発明の複数の微粒子と本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子とからなる組成物;および
(ii)本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子と、食品、機能性食品、化粧品または医薬品に許容され得る溶媒とを含む組成物
から選択される組成物(以下、「本発明の組成物」)に関する。
【0073】
本発明の微粒子の特徴は、上に既に定義したとおりであり、本明細書に参考として組み込まれる。特定の実施形態において、本発明の微粒子の平均粒径は、0.5〜125μm、好ましくは1〜40μm、さらに好ましくは2〜12μmである。「平均粒径」は、水性媒体中で一緒に移動する微粒子の集合の平均直径であると理解される。これらの系の平均粒径は、当業者が知っている標準的な方法によって測定することができ、例えば、以下の実験部分に記載される。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子中に存在するプロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium属およびLactobacillus属の菌から選択される。さらに特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、L.plantarumおよびL.caseiから選択される。具体的な実施形態において、プロバイオティクス細菌は、L.plantarum CECT 220およびL.casei CECT 475 Tである。別の特定の実施形態において、前記プロバイオティクス細菌は、Bifidobacterium animalis subsp.lactis株であり、例えば、BB−12(登録商標)の商品名で上市されるものである。
【0074】
別の特定の実施形態において、本発明の微粒子は、上述のような架橋剤、例えば、TPP、バニリンまたは二価の金属カチオン、例えば、Ca2+を含む。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子は、2種類以上の架橋剤を含み、好ましくは、本発明の微粒子に関して上に述べた2種類の異なる架橋剤の組み合わせを含む。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子は、保護剤、例えば、糖類、例えば、マンニトールを含む。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子は、乾燥粉末の形態である。
【0075】
第1の場合において、本発明の組成物(i)は、本発明の微粒子および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子のみから排他的に構成される。特定の実施形態において、前記本発明の組成物(i)は、
40〜60重量%のカゼイン、0.1〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜0.15重量%のトリポリリン酸ナトリウムおよび0〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物A
40〜60重量%のカゼイン、0.1〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜0.6重量%のバニリンおよび0〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物B
40〜60重量%のカゼイン、0.1〜3.5重量%のキトサン、10CFU/g〜5×1012CFU/gのプロバイオティクス細菌、0〜10重量%のCa2+および0〜60重量%の保護剤を含んでなり、重量比が組成物の合計重量基準である組成物C
から選択される。
【0076】
第2の場合において、本発明の組成物(ii)は、本発明の少なくとも1つの微粒子を含み、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子と、食品、機能性食品、化粧品または医薬品に許容され得る溶媒とを含む。
【0077】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子、または本発明の複数の微粒子を含む組成物、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子を含む、食品または餌である。本明細書において使用する「食品」という用語は、その特徴、用途、要素、調製および保存状態に起因して、(a)ヒトまたは動物のための天然の栄養物質として、または満足を与えることができる食品として;または(b)ヒトまたは動物食品の特定の場合における栄養食品としての目的のために通常または理想的に用いることができる、任意の性質を有し、固体または液体の天然であるか、処理された任意の物質または製品である。「」という用語は、別個に、または簡便に互いに混合された任意の由来のすべての天然材料および最終製品を含み、動物用食品に適している。調理済み食品は、例えば、消費に適した水溶液を用いることによって希釈する必要がない食品である。原則として、調理済み食品中に存在する成分は、バランスが取れており、当業者によって考慮されるように、食品を調理済みにするためにさらなる成分を加える必要がない。濃縮食品は、1つ以上の成分が、調理済み食品よりも高い濃度で存在して、従って、例えば、消費に適した水溶液を用いて希釈することが必要な用途のための食品である。本発明によって提供される食品の非限定的で具体的な例としては、乳製品および誘導体、例えば、発酵乳、ヨーグルト、ケフィア、カード、チーズ、バター、アイスクリーム、ミルク系デザートなど、および非乳製品、例えば、焼き製品、ケーキおよびペイストリー、シリアル、チョコレート、ジャム、ジュース、他の果汁誘導体、油およびマーガリン、調理済み食品などが挙げられる。
【0078】
別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子、または本発明の複数の微粒子を含む組成物、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子を含む、機能性食品組成物である。本明細書において使用する「機能性食品組成物」という用語は、健康への利益を与えるか、または疾患の予防または低減に関連する治療作用を有する1つ以上の天然製品、例えば、プロバイオティクス細菌などを含み、食品中に通常存在する(または存在しない)濃縮した天然の生体活性のある生成物の非食品マトリックス(例えば、カプセル、粉末など)中に存在する栄養補助食品を含み、これらの食品中に存在するよりも高い投薬量で摂取したとき、通常の食品が有し得る効果よりも大きな健康に対する望ましい効果を発揮する、ヒトまたは動物に使用するのに適した組成物を指す。従って、「機能性食品組成物」という用語は、単離または精製された加工食品と、通常は経口で使用される投薬形態、例えば、カプセル、錠剤、小袋、飲料可能な小型薬瓶などの中に一般的に存在する添加剤または栄養補助食品などとを含み、このような製品は、生理学的な利益または疾患(一般的に、慢性疾患)に対する予防作用を与える。所望ならば、本発明によって提供される機能性食品組成物は、プロバイオティクス細菌に加え、1つ以上の機能性食品(疾患の予防または低減と関連する製品または物質)、例えば、フラボノイド、ω−3脂肪酸など、および/または1つ以上のプレバイオティクス(プロバイオティクスの活性および/または成長を刺激する消化されない食品成分)、例えば、オリゴフルクトース、ペクチン、イヌリン、ガラクトオリゴ糖類、ラクツロース、母乳のオリゴ糖類、食物繊維などを含有していてもよい。
【0079】
別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、経口投与、局所投与、直腸投与または膣投与に適した本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子、または本発明の複数の微粒子を含む組成物、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子を含む医薬組成物であり、そのため、前記組成物は、例えば、カプセル、粉末、顆粒、錠剤(コーティング錠または非コーティング錠)、小袋、マトリックス、懸濁物などの形態の経口投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容され得る溶媒、または、例えば、クリーム、軟膏、膏薬などの形態の局所投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容され得る溶媒、または、例えば、座薬などの形態の直腸投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容され得る溶媒、または、例えば、ボーラス、座薬などの形態の膣投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容され得る溶媒を含む。経口投与、局所投与、直腸投与または膣投与を意図した医薬組成物の配合に適した賦形剤に関する情報、および前記医薬組成物の製造に関する情報は、C.Fauli i Trilloによる「Tratado de Farmacia Galenica」、第10版、1993、Luzan 5、S.A. de Edicionesという文献の中に見つけることができる。
【0080】
別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子、または本発明の複数の微粒子を含む組成物、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子を含む化粧品組成物である。本明細書において使用する「化粧品組成物」という用語は、ヒトまたは動物の身体の衛生に使用するのに適しているか、または、天然美を高めるために、またはヒトまたは動物の身体の構造または機能に影響を与えることなく、身体の外観を変えるために、このような影響を与える1つ以上の製品を含む組成物を指す。所望ならば、本発明によって提供される化粧品組成物は、プロバイオティクス細菌に加え、1つ以上の化粧品製品、すなわち、ヒトまたは動物の身体の外側部分(表皮、毛髪系、爪、唇および外生殖器)または歯および口腔粘膜に接触した状態で置かれることを意図した、これらを洗浄し、これらに香り付けし、外観を変え、保護し、良好な状態に維持し、または、身体の臭いを修正するという排他的または主な目的のための物質または混合物を含んでいてもよい。化合物製品の実例としては、INCI(化粧品原料国際命名法)のリストに含まれる製品が挙げられる。
【0081】
別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、本発明の少なくとも1つの微粒子、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子、または本発明の複数の微粒子を含む組成物、および/または本発明の方法を用いることによって得ることができる微粒子を含む、化粧品組成物である。本明細書において使用する「化粧品組成物」という用語は、1つ以上の化粧品製品(機能性化粧品、皮膚用薬品または活性化粧品)を含む身体または動物の身体に使用するのに適した組成物、すなわち、もっと有効な高濃度で使用者の皮膚、毛髪および/または爪に効果を有する活性成分を含有する化粧品と医薬品の特徴を有する局所的なハイブリッド製品(従って、これらは、化粧品と医薬の中間に位置する)を指す。化粧品製品の実例としては、エッセンシャルオイル、セラミド、酵素、ミネラル、ペプチド、ビタミンなどが挙げられる。当業者は、本発明の微粒子、または本発明の微粒子を含む組成物が、食品または餌の一部であってもよく、または機能性食品、医薬品または化粧品製品の一部であってもよく、これらが本発明のさらなる態様を構成することを理解するだろう。前記製品は、液体、半固体または固体の形態であってもよい。
【0082】
さらに、本発明の微粒子は、強力な免疫調整効果を有しており、Th1応答の誘導を助け、および/または免疫応答をTh1の側に、好ましくは、Th2からTh1の側に免疫応答を変化させ(実施例7)、従って、本発明の微粒子を、免疫系の機能障害を予防および/または治療するための免疫系調整組成物の製造に、例えば、Th2が介在する移植拒絶反応、アレルギーおよびアレルギー関連疾患、免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状、細胞内病原体によって引き起こされる感染および/または粘膜感染の予防および/または治療に使用することができる。
【0083】
従って、別の態様において、本発明は、免疫系調整組成物の製造における本発明の微粒子の使用、または本発明の組成物の使用、または本発明の少なくとも1つの微粒子または前記本発明の組成物を含む食品、医薬品、化粧品または機能性食品(以下、「本発明の製品」)の使用に関する。言い換えると、本発明の態様によれば、本発明は、免疫系調整組成物に使用するための本発明の微粒子、または本発明の組成物、または本発明の製品に関する。
【0084】
本明細書において使用する「免疫系調整組成物」(以下、「本発明の免疫調整組成物」)は、免疫系の特定の応答を刺激し、もっと反応性を高め、例えば、特定のサイトカインの産生によって免疫応答に関与する細胞の成長に介在することができる組成物である。本明細書において使用する「組成物」という用語は、上述の本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品を含む任意の医薬組成物、食品組成物(食品または餌)、機能性食品組成物などを含む。
【0085】
実施例7に示される結果は、明らかに、L.plantarumを含有する本発明の微粒子をCD1マウスに経口投与すると、一方では、細胞毒性リンパ球の数のわずかな増加を誘発し(CD4/CD8比の低下によって明らかに示される)(図9)、他方では、インターロイキン−6(IL−6)の産生と比較して、インターフェロン−γ(IFN−g)の合成を増やし、従って、免疫応答をTh1プロフィールの方へ変化させることを示す。以下の理論に束縛されることを望むものではないが、これらの結果は、免疫応答の種類を変え、免疫応答をTh1応答へ変化させる、本発明の微粒子と免疫系との相互作用の可能性を示す。
【0086】
従って、特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、好ましくは、Th1応答を誘発し、および/またはTh1の側に免疫応答を変化させ、好ましくは、Th2からTh1の側に免疫応答を変化させる組成物である。この特定の実施形態によれば、本発明の免疫調整組成物は、主に、または好ましくは、Th1免疫応答に関与する細胞の成長において免疫系のTh1応答を刺激または誘発し、特定のサイトカイン、例えば、IFN−g、インターフェロン−α(IFN−a)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−18(IL−18)などの産生によってもっと反応性が高まる。当業者は、本発明の微粒子の投与が、好ましくは、従来の方法によって、例えば、Th1応答および場合によりTh2の特定のサイトカインを定量することに由来する方法によって、例えば、実施例7に記載するアッセイによって、Th1応答を誘発し、および/またはTh2からTh1の側に免疫応答を変化させるかどうかを容易に決定することができる。
【0087】
好ましい特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、経口投与に適した組成物であり(単純化のために、本明細書では、時に「経口組成物」と呼ぶ)、固体、液体または半固体の投薬形態として提示されるだろう。そのため、前記本発明の免疫調整組成物は、本発明の微粒子、または本発明の組成物、または本発明の製品とともに、医薬的に許容され得る溶媒を含み、前記医薬的に許容され得る溶媒は、例えば、カプセル、粉末、顆粒、懸濁物などの形態の経口投与に適した1つ以上の賦形剤を含む。当業者は、経口投与を意図した医薬組成物の配合に適した賦形剤および前記組成物の製造方法を知っている。実例によって、経口投与を意図した組成物の配合に適した賦形剤に関する情報およびその製造に関する情報は、C.Fauli i Trilloによる「Tratado de Farmacia Galenica」、第10版、1993、Luzan 5、S.A. de Edicionesという文献の中に見つけることができる。
【0088】
別の特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、免疫系の機能障害を予防および/または治療するための経口組成物であり、前記免疫系の機能障害は、天然の(遺伝的な)機能不全または誘発された機能不全、例えば、感染プロセス、ストレスなどによって誘発される機能不全などであってもよい。
【0089】
別の特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、
−Th2応答が介在する移植拒絶反応、
−アレルギーおよびアレルギー関連疾患、
−免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状、
−細胞内病原体によって引き起こされる感染、または
−粘膜感染
を予防および/または治療するための経口組成物である。
【0090】
移植拒絶反応は、移植受容者の免疫系が、移植した臓器または組織を攻撃するプロセスである。その特徴に起因して、本発明の免疫調整組成物は、Th2応答が介在する移植(例えば、臓器、組織など)拒絶の予防および/または治療に特に有用であろう。
【0091】
アレルギーは、免疫系の過敏性障害である。アレルギー反応は、通常はヒトの免疫系が環境中の無害な物質に反応するときに起こる。前記物質に過敏な被検体において免疫応答(アレルギー反応)を引き起こす物質は、「アレルゲン」として知られている。アレルゲンが、そのアレルゲンに対してアレルギーを有する被検体の体内に入ると、大量の抗体(IgE)を産生することによって、被検体の免疫系が応答し、同じアレルゲンに連続してさらされると、化学伝達物質、特に、ヒスタミンの放出が起こり、アレルギー反応の典型的な症状が起きる。非常に多様なアレルゲンが存在し、非限定的な実例として、前記アレルゲンは、花粉のアレルゲン抽出物、家畜、昆虫、ダニを含む動物のアレルゲン抽出物など、食品または加工食品のアレルゲン抽出物、金属、唾液に存在する要素、被検体において過敏反応を誘発する昆虫のハサミまたは針、被検体において過敏反応を誘発する植物中に存在する成分などがある。
【0092】
集団に存在する最も一般的なアレルギーの中で、
−植物花粉に対するアレルギー、例えば、Gramineaeの花粉(例えば、Lolium perenne、Poa pratense、Phleum pratense、Cynodon dactylon、Festuca pratensis、Dactylis glomerata、Secale cereale、Hordeum vulgare、Avena sativatriticum sativaなど)に対するアレルギー、他の草類の花粉(例えば、Artemisia vulgaris、Chenopodium album、Plantago lanceolata、Taraxacum vulgare、Parietaria judaica、Salsola kali、Urtica dioicaなど)に対するアレルギー、樹木の花粉(例えば、Olea Europea、Platanus sp.、Cupresus sp.など)に対するアレルギー;
−動物に対するアレルギー、動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、鳥類など)の皮膚、鱗屑または羽根に対するアレルギー、昆虫に対するアレルギー、例えば、被検体において過敏反応を誘発する昆虫(例えば、ミツバチ、スズメバチ、蚊、ウマバエなど)の唾液、ハサミまたは針の中に存在する成分に対するアレルギー、ダニ、例えば、塵性ダニ(例えば、Dermatophagoides pteronyssimus、Dermatophagoides farinae、Acaros Siro、Blomia tropicalis、Euroglyphus maynei、Glyciphagus domesticus、Lepidoglyphus destructor、Tyrophagus putrescentiaeなど)に対するダニを含む;
−真菌(例えば、Alternaria alternata、Cladosporium herbarumなど)に対するアレルギー;
−食品または食品中に存在する食品成分、例えば、魚、果実(パイナップル、キウイなど)に対するアレルギー;
−金属(例えば、ニッケルなど)に対するアレルギー
がある。
【0093】
一般的に、特定のアレルゲンに過敏な被検体が、他の異なるアレルゲンにも過敏であることは、非常に一般的である。
【0094】
本発明の免疫調整組成物を、一般的にアレルギーの予防および/または治療のために経口で使用することができ、特定の実施形態において、前記アレルギーは、上述のアレルギー群から選択され、すなわち、植物花粉に対するアレルギー、昆虫に対するアレルギー、ダニに対するアレルギー、真菌に対するアレルギー;動物に対するアレルギー、食品中に存在する食品成分に対するアレルギー、金属に対するアレルギー、塵に対するアレルギーなど、およびこれらの組み合わせからなるアレルギー群から選択される。
【0095】
必ずしも必要ではないが、特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物を用いることによるアレルギーの予防および/または治療は、アレルギーを引き起こすアレルゲンの投与により補助され得る。そのため、前記アレルゲンを、本発明の免疫調整組成物の製剤自体にアレルゲンが含まれることによって、または、独立した製剤で、但し、本発明の免疫調整組成物の投与と同時にアレルゲンを投与することによって、本発明の免疫調整組成物と一緒に被検体に投与することができる(本発明の免疫調整組成物およびアレルゲンの同時投与)。または、本発明の免疫調整組成物を投与するより所定時間前に、または投与した所定時間後にアレルゲンを被検体に投与することができる(本発明の免疫調整組成物およびアレルゲンの連続投与)。この場合において、アレルゲンは、アレルゲンの配合物自体に配合されるだろう。実際に、任意のアレルゲンを投与することができるが、この特定の実施形態では、具体的な実施形態において、前記アレルゲンは、前の段落で言及されたアレルギーを引き起こすアレルゲンである。前記アレルゲンは、当業者に既知の従来の方法によって得ることができ、または、市場で得ることができる。
【0096】
アレルギー関連疾患の予防および/または治療のために、本発明の免疫調整組成物を経口で使用することができる。当業者は、一般的にアレルギーと関連する疾患を知っている。非限定的な実例として、最も一般的なアレルギー関連疾患は、喘息およびアトピー性皮膚炎から選択される。
【0097】
免疫不全は、免疫系が感染性疾患に対して戦う能力が、損なわれているか、または失われた病的な状態であり、これらの状態で、免疫系は、対応する保護の役割を果たさず、臓器が感染に弱くなる。実際に、免疫不全は、罹患したヒトを感染に非常に過敏にする。一般的に、ほとんどの免疫不全は、後天性免疫不全である(「続発性免疫不全」)が、生まれながらに免疫に欠陥があるヒトもいる(「原発性免疫不全))。免疫不全を有し得る被検体の中に、抗免疫拒絶の測定として免疫系を抑制するための医薬品を摂取する移植患者、および過剰な活性免疫系を有する患者がみられる。一般的に、免疫不全を有するヒトは、特に、すべてのヒトが罹患し得る通常の感染に加え、日和見感染に弱い傾向がある。
【0098】
免疫不全は、生理学的免疫不全、先天性免疫不全または後天性免疫不全であってもよい。一般的に、免疫不全の状態において、生命体は、後に続くTh1/Th2バランスの変化、例えば、生理学的な免疫不全(例えば、新生児、妊娠中など)、原発性または先天性の免疫不全(例えば、遺伝疾患、例えば、DiGeorge症候群の無ガンマグロブリン血症)、または後天性または続発性の免疫不全(例えば、栄養失調、加齢、例えば、化学療法薬、抗リウマチ薬、免疫抑制剤(臓器移植後に投与される)、グルココルチコイドなどの特定の医薬製品を用いた治療の結果として、後天性の免疫不全);後天性免疫不全症候群(AIDS)、自己免疫性疾患など)とともに、病状に負けてしまう。
【0099】
本発明の免疫調整組成物は、例えば、特定のストレス状態下、例えば、精神物理学的ストレス状態下、きわめて強く、または長期間にわたる場合、強度が変動する感染に対して弱くなることによってあらわれる臨床的に免疫不全の状況を引き起こす場合がある生命体の天然の免疫防御を補助するのに有用である。
【0100】
本発明の免疫調整組成物は、好ましくは、Th1応答を誘発するか、および/またはTh1の側に(例えば、Th2からTh1の側に)免疫応答を変化させることによって免疫系を調整するため、例えば、免疫不全から誘導されるか、または免疫不全から得られる病状の予防および/または治療のために経口で使用することもできる。当業者は、免疫不全から誘導される病状、例えば、感染などを知っている。
【0101】
従って、本発明の免疫調整組成物は、細胞内病原体(例えば、細菌、原虫、ウイルスなど)によって引き起こされる感染および粘膜感染(例えば、口腔感染、気道感染、胃腸管感染、尿生殖路感染、粘膜感染、皮膚感染など)および一般的に免疫不全状態から誘導されるすべての感染の経口での予防および/または治療において、任意の起源の免疫不全(例えば、得られる病状)の予防および/または治療に有用であろう。
【0102】
別の特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、細胞内病原体によって引き起こされる感染の治療および/または予防に使用することができる。特定の実施形態において、前記細胞内病原体は、真核生物病原体、例えば、原虫(例えば、Plasmodium vivax(マラリアを引き起こす)、Leishmania sp.(リーシュマニア症に関連する)、Entamoeba sp.、Cryptosporidium sp.など、または真菌、原核生物病原体、例えば、細菌(例えば、Escherichia coli、Salmonella sp.、Shigella sp.、Campylobacter sp.、Yersinia sp.、Vibrio sp.、Mycobacterium tuberculosis、M.leprae、Listeria sp.、Brucella sp.、chlamydiasなど)、またはウイルス(例えば、二本鎖DNA(dsDNA)ウイルス、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスなど)、一本鎖DNA(ssDNA)ウイルス、例えば、パルボウイルスなど、二本鎖RNA(dsRNA)ウイルス、例えば、レオウイルスなど、ポジティブ一本鎖RNA((+)ssRNA)ウイルス、例えば、ピコルナウイルス、トガウイルスなど、ネガティブ一本鎖RNA[(−)ssRNA]ウイルス、例えば、オルソミクソウイルス、ラブドウイルスなど、逆転写一本鎖RNA(ssRNA−RT)ウイルス、例えば、レトロウイルスなど;または逆転写二本鎖RNA(dsRNA−RT)ウイルス、例えば、ヘパドナウイルスなど)である。
【0103】
別の特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物を、粘膜感染の治療および/または予防に使用することができ、非限定的な実例として、前記粘膜は、口腔粘膜、胃腸管粘膜、尿生殖路粘膜および気道粘膜などであってもよい。一般的に、これらの感染は、細胞内病原体によって引き起こされるだろう。特定の実施形態において、粘膜感染は、腸内細菌(例えば、Escherichia coli、Salmonella sp.、Shigella sp.、Campylobacter sp.、Yersinia sp.、Vibrio sp.など)、腸ウイルス(例えば、カリシウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなど)または原虫(例えば、Entamoeba sp.、Cryptosporidium sp.、Leishmania sp.など)によって引き起こされる。
【0104】
経口投与に適した本発明の免疫調整組成物は、好ましくは、組成物中に存在する有効成分(生きた材料、具体的には、プロバイオティクス細菌)の特定の性質を考慮して、好ましくは、本発明によって提供される方法によって、当業者が既知の方法によって調製することができる。このようにして製造される微粒子が、処理中、保存中および投与中、特に、胃腸管を移動する間(経口投与)に前記プロバイオティクス細菌を保護するからである。さらに、摂取した後、これらの組成物は、所望の位置でのプロバイオティクス細菌の放出を促進し、上部胃腸管、特に胃の「酸性ペプチド」状態からプロバイオティクス細菌を保護する。
【0105】
特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、治療される病状の種類および重篤度、および被検体の年齢および体重に従って、1日に1回または数回投与するための単一投与形態である。
【0106】
特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物中に存在する本発明の微粒子は、乾燥粉末または凍結乾燥物の形態であり、場合により、被検体に投与するのに適した溶媒中に存在する。一般的に、活性成分(本発明の微粒子、組成物または製品)は、適切な組成物中に含まれる。
【0107】
従って、特定の実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、食品、医薬品または機能性食品に許容され得る溶媒を含む。具体的な実施形態において、本発明によって提供される医薬組成物、機能性食品組成物または加工食品は、プロバイオティクス細菌に適切な溶媒を提供する。従って、具体的な実施形態において、本発明の免疫調整組成物は、医薬組成物、機能性食品組成物を含み、加工食品に含まれる。非限定的な実例としては、医療用製品、栄養製品、ミルクから誘導される製品、例えば、ヨーグルト、チーズ、クリーム、菓子類、フルーツジュースなどが挙げられ、所望な場合、上述のように、生命体に有益な他の物質、例えば、ビタミン、ミネラル塩、他の適合性の活性成分、例えば、プレバイオティクス剤、繊維などを含んでいてもよい。
【0108】
上述のように、本発明の態様は、免疫系調整組成物に使用するための本発明の微粒子、または本発明の組成物、または本発明の製品であってもよく、または、本発明の微粒子、または本発明の組成物、または本発明の製品とあらわすことができる(本発明の免疫調整組成物)。上に言及した免疫調整組成物の特徴は、適宜変更して、本発明に適用可能である。好ましい特定の実施形態において、前記免疫系調整組成物は、好ましくは、Th1応答を誘発するか、および/またはTh1の方へ、好ましくは、Th2からTh1の方へ免疫応答を変化させる。同様に、特定の実施形態において、前記免疫系調整組成物は、本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品に加え、食品、医薬品または機能性食品に許容され得る溶媒を含む。別の特定の実施形態において、本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品を含む前記免疫系調整組成物は、医薬組成物、機能性食品組成物の形態であるか、または、加工食品に含まれる。別の特定の実施形態において、前記免疫系調整組成物中に存在する微粒子は、乾燥粉末の形態である。
【0109】
本発明は、さらに、免疫系の機能障害(例えば、天然の機能不全または誘発された免疫系の機能障害)の予防および/または治療において経口で使用するための本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品に関する。特定の実施形態において、前記本発明の微粒子は、経口投与のために配合された医薬組成物である。別の特定の実施形態において、前記本発明の組成物は、経口投与のために配合された医薬組成物である。別の特定の実施形態において、前記本発明の製品は、経口投与に適した医薬製品である。
【0110】
また、本発明は、さらに、Th2が介在する移植拒絶反応;アレルギーおよびアレルギー関連疾患;免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状;細胞内病原体によって引き起こされる感染、または粘膜感染の予防および/または治療において経口で使用するための本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品に関する[Th2が介在する移植拒絶反応、アレルギーおよびアレルギー関連疾患;免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状;細胞内病原体によって引き起こされる感染または粘膜感染の特徴は、すでに上に述べており、引用することにより開示の一部として組み込まれる]。特定の実施形態において、前記本発明の微粒子は、経口投与のために配合された医薬組成物である。別の特定の実施形態において、前記本発明の組成物は、経口投与のために配合された医薬組成物である。別の特定の実施形態において、前記本発明の製品は、経口投与のために配合された医薬製品である。
【0111】
別の態様において、本発明は、治療の必要な被検体に、有効な量の本発明の免疫調整組成物、または本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品を経口投与することを含む、被検体の免疫系の機能障害または病状を予防および治療するための方法に関する。
【0112】
本明細書において使用する、被検体の「免疫系の機能障害または病状」は、天然の免疫系の機能障害および誘発された免疫系の機能障害の両方を含み、例えば、Th−1応答に基づく処理が有益であり得る疾患、例えば、Th2が介在する移植拒絶反応;アレルギーおよびアレルギー関連疾患;免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状;細胞内病原体によって引き起こされる感染、または粘膜感染を含む。Th2が介在する移植拒絶反応アレルギーおよびアレルギー関連疾患;免疫不全および前記免疫不全から誘導される病状;細胞内病原体によって引き起こされる感染、または粘膜感染の特徴は、すでに上に述べており、参考として組み込まれる。
【0113】
本明細書において使用する「被検体」という用語は、ヒトを含む任意の哺乳動物を含む。
【0114】
本発明の免疫調整組成物、本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品の特徴は、すでに上に述べており、参考として組み込まれる。
【0115】
本発明の免疫調整組成物、本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品の提示および投与形態の特徴は、すでに上に述べており、引用することにより開示の一部として組み込まれる。
【0116】
治療の必要な被検体に投与するために、本発明の免疫調整組成物、本発明の微粒子、本発明の組成物、または本発明の製品は、食品、医薬品または機能性食品に許容され得る溶媒中に含まれていてもよく、または、医薬組成物、機能性食品組成物の中に存在していてもよく、または食品製品に含まれていてもよい。
【0117】
以下の実施例は、本発明を示し、限定する意味として考慮されてはならない。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は、プロバイオティクス細菌を組み込むことができ、前記微生物を上述の因子(処理、保存および/または胃腸管を通過)から保護することができるカゼインおよびキトサンの微粒子の製造を記載する。特に指示のない限り、これらの実施例を実行するために、使用する一般的な方法を以下に記載する。
【0119】
一般的方法
I.空のカゼインおよびキトサンの微粒子を製造するための一般的方法
カゼインおよびキトサンの微粒子を製造するための方法は、カゼイン酸ナトリウム(ANVISA、マドリッド、スペイン)を水性媒体に溶解し、次いで、所定量のキトサン溶液と、場合により所定量の架橋剤を磁気攪拌条件、一定流量で加えることを含む。マンニトールのような保護剤を添加した後、この微粒子を含む懸濁物をスプレー乾燥機に通した後、生成した微粒子を乾燥させる。
【0120】
特に指示のない限り、これらの実施例で使用するキトサンは、脱アセチル化度が90.2%、分子量が105±0.01kDaのGuinama(バレンシア、スペイン)製の特性決定されたキトサンであった。
【0121】
特に指示のない限り、これらの実施例で使用するスプレー乾燥機は、Buchi付属品、B−295 Inert LoopおよびB−296 Dehumidifierを備えたBuchi B−290 Mini Spray−Dryerであった(Buchi Switzerland、フラウィル(スイス))。
【0122】
これらの実施例で使用したマンニトールは、純度99.4%、Guinama(バレンシア、スペイン)製のD−マンニトール、E−421であったが、時々、Sigma−Aldrich製のD−マンニトールも使用した。
【0123】
II.微粒子の特性決定
微粒子の大きさは、Colorview Soft Imaging Systemsカメラを備えたOlympus CH40マイクロスコープを用いた光学顕微鏡によって決定した。
【0124】
微粒子の形態を、走査型電子顕微鏡(Zeiss、DSM 940A、ドイツ)を用い、さらに観察した。そのために、微粒子を、9nmの金分子層(Emitech K550、Sputter−Coater装置、英国)でコーティングし、Zeiss DMS 940 Aマイクロスコープ(米国)を用いて写真を撮影した。
【0125】
III.プロバイオティクス細菌の懸濁物を調製するための一般的方法
これらの実施例を実施するために使用したプロバイオティクス細菌は、それぞれ、コーンサイレージおよびチーズから単離したLactobacillus plantarum CECT 220およびLactobacillus casei CECT 475 Tであった。嫌気性チャンバ(MACS 500 AIRLOCK、AES Chemunex、スペイン)中、嫌気性雰囲気(85%窒素、10%水素、5%二酸化炭素)下、両微生物の凍結乾燥した製品を、MRSブロス(Merck、バルセロナ)中、37℃で再活性化した。使用するまで−85℃で冷凍保存したストック懸濁物の500μLアリコートを、これらの再活性化した培養物から調製した。
【0126】
作業懸濁物を以下のように調製した。対応する微生物のアリコート100μLを、10mLのMRSブロスに移した。嫌気性条件下、12時間/37℃でインキュベーションした後、計測数が10CFU/mL(1ミリリットルあたりのコロニー生成単位)に達するように、MRSブロスを含有する50mLフラスコに移さなければならないサンプルの容積を計算するために、Thomaチャンバ中、顕微鏡による計測を行った。この容積を接種した後、初期の成長静止期に達するまで、すでに記載した条件でフラスコを24時間インキュベーションした。細菌の集合をトラッキングし、各サンプリング時間に、対応する10倍希釈(0.1% BPWブロス(Merck、バルセロナ))をMRS寒天(Merck、バルセロナ)に接種することによって計測した。
【0127】
IV.封入されたプロバイオティクス細菌を含有するカゼインおよびキトサンの微粒子を製造するための一般的方法
封入されたプロバイオティクス細菌を含有するカゼインおよびキトサンの微粒子を製造するための一般的な方法は、カゼイン酸ナトリウム(ANVISA、マドリッド、スペイン)を水性媒体に溶解し、次いで、上のIIIに記載した方法に従って得られた所定容積の細菌懸濁物を加え、遠心分離処理した後、磁気攪拌条件、一定流量で所定容積の2%スクロース溶液(w/v)に再び懸濁させることを含む。次いで、所定容積のキトサン溶液および場合により所定容積の架橋剤を加える。
【0128】
V.プロバイオティクス細菌を染色し、プロバイオティクス細菌を封入するための一般的方法
細菌が微粒子内部に捕捉されること、すなわち、カゼインおよびキトサンからなるマトリックスが、プロバイオティクス細菌をコーティングすることを蛍光顕微鏡によって定性的に確認するために、この方法を行った。
【0129】
細菌を染色するための方法は、ローダミンBイソチアネートのリン酸緩衝液(pH7.4)飽和溶液を調製し、0.2μm膜を通して濾過し、これを前の章に記載した方法に従って得られた所定容積の細菌懸濁物に加えることを含む。混合物を3,000rpmで15分間遠心分離処理し、上澄み中の過剰なローダミンを除去し、染色された細菌を所定容積の2%スクロース(w/v)溶液に再懸濁させる。染色された細菌を前の章に記載した方法に従って封入する。
【0130】
VI.製剤中に存在する生きた細菌を定量し、プロセス全体の細菌の死亡周期を決定するための一般的方法
封入された細菌を計測するために、1mLの1% NaOH(pH10)溶液を、既知の重量のマイクロカプセル(おおよそ500μg)に加え、5分間ボルテックスにより攪拌した後、対応する10倍希釈を0.1% BPWブロス(Merck、バルセロナ、スペイン)で行い、MRS寒天プレートに接種した。嫌気性条件下(MACS 500 Airlockチャンバ、AES Chemunex、スペイン)、37℃で24〜48時間インキュベーションした後、コロニーの計測を行った。
【0131】
製剤1グラムあたり、スプレー乾燥機を通す前に製剤に最初に含まれる細菌の量と、プロセス終了時に得られる計測数を考慮し、細菌の死亡周期を以下の式を用いることによって決定する。
【0132】
細菌の死亡周期:log(初期CFU/g)−log(回収したCFU/g)
【0133】
VII.疑似胃腸培地中、マイクロカプセル化された乳酸菌の耐性を評価するための方法
L.plantarumおよびL.caseiの胃腸での耐性をVinderolaら、2003に記載される方法に従って評価した。
【0134】
この試験を行うために、10μLの液体細菌培地または500μgの粉末形態の微生物製剤を、pH2.5の0.99mLの胃模倣物を含むPVC管に加えた。評価するように計画された処理時間と同じ数の管を使用したため、具体的には、0時間および2時間(胃模倣物に対する耐性))および0時間、3時間および6時間(腸模倣物に対する耐性)に対応する胃模倣物について、5つの管を使用した。
【0135】
胃模倣物を薬局方に従って調製し、胃模倣物は、溶液1リットルについて、以下の組成を有していた。
−2g NaCl
−3.2g ペプシン(Sigma、バルセロナ、スペイン)
−7mL 37%HCl(v/v)
【0136】
ペプシンをHClに溶解し、次いで、混合物を1リットルのI型の水に加えた。37% HCl(v/v)を用い、実施すべき試験によって、最終的なpHを1.2または2.5に調節した。
【0137】
腸模倣物も、薬局方のレシピから調製し、腸模倣物は、以下の構成であった。
−6.8g 一塩基性リン酸カリウム(Panreac、マドリッド、スペイン)を250mLのI型の水に溶解し、これに、77mLの0.2N NaOHを加えた。
−500mLの水
−10gのパンクレアチン(Sigma、バルセロナ、スペイン)
【0138】
0.2N NaOHまたは0.2N HClを用い、pHを6.8に調節した。
【0139】
オービタルスターラー(150rpm)中、サンプルの抽出および生存評価の時間まで5つの管を37℃に保持した。胃模倣物の処理時間(2時間)が経過した後、PVC管を遠心分離処理し(13,000rpm/10分)、上澄みを捨てた。2時間目を評価するために、1つの管のペレットに対し、上述の1% NaOH(pH10)を用い、マイクロカプセルを破壊するための処理を行った。残りの管のペレットを、0.99mLの腸模倣物に再懸濁させ、0時間、3時間および6時間(試験開始時から2時間、5時間および8時間)に、この培地での耐性を評価した。これらの時間が経過した後、管を遠心分離処理し、上澄みを捨て、残りの生存物を評価するために、ペレットを1% NaOHで処理した(マイクロカプセルを破壊するための処理)。
【0140】
上述のMRS寒天プレートにおける計測方法を用い、生存能力のある細菌の計測を行った。嫌気性条件下、37℃で24〜48時間、プレートをインキュベーションし、コロニー生成単位の数を決定した。生きている細菌部分を、以下の式に従って計算した。
【数1】
式中、Nは、それぞれの処理時間後の生存能力のある乳酸菌の合計をあらわし、Nは、接種した乳酸菌(LAB)の初期数をあらわす(Baoら、2010)。
【0141】
VIII.環境条件下、保存時間中にマイクロカプセル化された乳酸菌の安定性を評価するための方法
保存期間中、室温(25℃)での細菌の生存能力を評価することによって、マイクロカプセル化された細菌の安定性試験を行った。
【0142】
そのために、密封状態で封をしたガラス容器に保存したマイクロカプセル製剤から500μgのサンプルを採取し、前記サンプルに対し、上に記載した破壊および生存物の評価方法を行った。コントロールとして、新しい懸濁物および両微生物を凍結乾燥した製品の両方で、同様の様式で試験を行った。
【0143】
実施例1
封入されたLactobacillus plantarum属のプロバイオティクス細菌を含有する、カゼインおよびキトサンの微粒子の調製および特性決定
細菌を含有する異なる種類の微粒子を調製し、すべての微粒子は、キトサンで修飾されたベースポリマーとしてカゼインを用いた。前記微粒子を調製するための方法は、架橋剤の存在または非存在、使用する架橋剤の種類によって変わった。
【0144】
(Ap)架橋剤非存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子
「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(1.2×1012CFU/mL)1.5mLを、遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。次いで、400mgのキトサンを、攪拌しながら250mlの精製水に加え、0.1N HClでpHを調節することによって、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。
【0145】
5分間インキュベーションした後、前述の混合物に100mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、以下のとおりであった。
−空気投入口の温度:85℃
−空気出口の温度:40〜45℃
−空気圧:6bar(6×10Pa)
−サンプルの圧送速度:3.5mL/分
−吸引:100%
−空気の流れ:600L/h
【0146】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。細菌が存在しない状態で同じ試験を行い、これらの細菌の存在が、粒子の物理化学的特徴にどのように影響を及ぼすかを調べた。図1は、プロバイオティクス存在下および非存在下の粒子について得られた光学顕微鏡画像を示す。画像において、封入された細菌の存在によって粒径が影響を受けないことを確認することができる。
【0147】
一方、細菌がカゼインおよびキトサンの微粒子に封入されていることを確認するために、「一般的な方法」の第V章に記載した方法に従って、蛍光マーカーで染色した細菌を用い、同じ試験を繰り返した。図2は、染色された遊離細菌(A)および封入された細菌(B)の蛍光顕微鏡画像を示す。微粒子(A)から観察される蛍光は、もっぱら細菌に起因する。微粒子の外側に細菌の存在はまったく観察されなかったため、細菌が封入されていることが確認される。
【0148】
(Bp)バニリン存在下のカゼインおよびキトサンの微粒子
バニリン水溶液(5mg/mL)0.5mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。(少なくとも)15分インキュベーションした後、遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(4.7×1011CFU/mL)0.3mLをこの混合物に加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。
【0149】
5分間インキュベーションした後、前述の混合物に250mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、Apの章に記載したのと同様であった。
【0150】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0151】
(Cp)TPP存在下のカゼインおよびキトサンの微粒子
遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(4.7×1011CFU/mL)1.5mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。5分間インキュベーションした後、TPPの1mg/mL溶液0.8mLを加えた。
【0152】
5分後に、前述の混合物に250mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、Apの章に記載したのと同様であった。
【0153】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0154】
(Dp)カルシウム塩存在下のカゼインおよびキトサンの微粒子
遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(1.2×1012CFU/mL)4mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液2mLを、この混合物に加えた。5分間インキュベーションした後、2%(w/v)酢酸カルシウム溶液2mLおよび2%(w/v)塩化カルシウム溶液2mLを加えた。
【0155】
5分後に、前述の混合物に100mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、Apの章に記載したのと同様であった。
【0156】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0157】
図3は、微粒子について得られた蛍光顕微鏡画像を示し、遊離細菌の存在が観察されない。
【0158】
表1は、カゼインおよびキトサンの微粒子における封入プロセスから誘導されるL.plantarumの死亡周期をまとめている。
【表1】
【0159】
得られた微粒子の粒径は、すべての製剤について、約7±4μmの範囲であり同様である。しかし、細菌の死亡周期は、バニリンまたはTPPを架橋剤として使用したときに、小さい。
【0160】
得られた結果によれば、製剤BpおよびCpは、プロバイオティクスを得るためのプロセス中にプロバイオティクスに対する良好な保護を与える製剤である。従って、胃腸での耐性および保存中の生存能力に関する試験を行うために、両製剤を選択した。
【0161】
実施例2
環境条件で保存期間中、封入されたLactobacillus plantarumの安定性評価
実施例1に記載した製剤Ap、Bp、CpおよびDpを使用し、新しい懸濁物および凍結乾燥した製品を比較コントロールとして用い、環境条件(25℃)で長期間にわたる細菌の生存を評価した。図4は、得られた結果を示す。
【0162】
この結果は、明らかに、試験の1ヶ月目に、懸濁物中の遊離細菌の計測数が7対数単位失われ、3ヶ月目に、凍結乾燥した形態の細菌の場合、4.5対数単位の消失が観察されたことを示す。しかし、これらのプロバイオティクスが実施例1のいずれかのカゼインおよびキトサンの微粒子に封入されると、プロバイオティクスの計測数は一定に維持され、8ヶ月の試験中に顕著な消失は観察されなかった。これらの結果は、本発明に記載した製剤が、環境条件下、細菌の生存能力を、凍結乾燥した細菌の少なくとも2倍高めることを確認する。
【0163】
実施例3
疑似胃腸培地に対する、封入されたLactobacillus plantarum属のプロバイオティクス細菌の耐性の評価
実施例1に記載した製剤Ap、Bp、CpおよびDpを使用し、「一般的な方法」の第VII章に記載した方法に従って、疑似胃腸培地中、封入された細菌の耐性を評価した。図5は、プロセス全体の製剤について得られた結果と、封入されていない細菌について得られた耐性の結果を示す。遊離細菌(封入されておらず、凍結乾燥した細菌)の場合には、生存可能な計測数は、試験全体にわたって徐々に低下していき、最終的に平均で4対数単位消失した。製剤ApおよびDpにおいて、アッセイ全体にわたって計測数は実質的に一定に保たれ、胃模倣物のアッセイ終了時(2時間)および腸模倣物のアッセイ終了時(8時間)の両方で、凍結乾燥した製品よりも有意に高かった。製剤BpおよびCpにおいて、胃模倣物中に留まっている間に濃度の低下が観察され、2時間目の計測数は、凍結乾燥した製品と有意に同等であった。しかし、微粒子を腸模倣物に移すと、計測数の増加が観察され、アッセイ終了時(8時間)には、凍結乾燥した製品よりも有意に高かった。この最終的な計測数の増加は、ビフィズス菌を用いて行った試験において、別の著者らによってすでに記載されており、その著者らは、この現象は、低pHのストレス中によって細菌が受けた損傷は単に一時的なものであり、細菌を殺してしまわず、腸培地に移動したとき、細菌が回復することに起因すると結論づけている(LacroixおよびPicot、2004)。
【0164】
まとめると、胃模倣物の培地における試験(2時間)の後、細菌を製剤ApおよびDpに封入したときに、遊離しているときよりも高い生存が観察され、この差は、有意である。対照的に、これらの差は、製剤BpおよびCpにおいて観察されなかった。しかし、試験終了後(8時間後、胃模倣物の培地を通し、次いで、疑似腸培地を通した後)、この差は、すべての微粒子製剤(Ap、Bp、CpおよびDp)について、大きく、有意であり、凍結乾燥した製品に対し、差が3周期までに達した。
【0165】
これらの結果は、記載した微粒子が、疑似胃腸条件に対し、試験した細菌の耐性を有意に高めることを示す。
【0166】
一方、微粒子を、長期間にわたる変性プロセス中、その状態を評価するために特性決定した。図6から、細菌が微粒子内部に格納されており、前記微粒子を長時間かけて分解したとき、培地に放出されることを観察することができる。
【0167】
実施例4
封入されたLactobacillus casei属のプロバイオティクス細菌を含有する、カゼイン微粒子またはカゼインおよびキトサンの微粒子の調製および特性決定
細菌を含有する異なる種類の微粒子を調製し、すべての微粒子は、キトサンで修飾されたベースポリマーとしてカゼインを用いた。前記微粒子を調製するための方法は、使用する架橋剤の種類によって変わった。
【0168】
(Ac)架橋剤非存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子
「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(2.2×1010CFU/mL)2mLを、遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。次いで、400mgのキトサンを、攪拌しながら250mlの精製水に加え、0.1N HClでpHを調節することによって、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。5分間インキュベーションした後、前述の混合物に100mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、以下のとおりであった。
−空気投入口の温度:85℃
−空気出口の温度:40〜45℃
−空気圧:6bar(6×10Pa)
−サンプルの圧送速度:3.5mL/分
−吸引:100%
−空気の流れ:600L/h
【0169】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。細菌が存在しない状態で同じ試験を行い、これらの細菌の存在が、粒子の物理化学的特徴にどのように影響を及ぼすかを調べた。
【0170】
(Bc)カルシウム塩存在下、カゼインおよびキトサンの微粒子
遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(9.4×1010CFU/mL)1.8mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液150mLに加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液25.5mLを、この混合物に加えた。この溶液に、カルシウム塩の混合物(12mlの2%酢酸カルシウム(w/v)および12mlの0.9%塩化カルシウムクロリド(w/v))を加えた。
【0171】
5分間インキュベーションした後、前述の混合物に1,500mgのマンニトールを加え、次いで、スプレー乾燥技術を用い、製剤を乾燥させた。処理条件は、以下のとおりであった。
−空気投入口の温度:75℃
−空気出口の温度:38℃
−空気圧:6bar(6×10Pa)
−サンプルの圧送速度:3.5mL/分
−吸引:100%
−空気の流れ:600L/h
【0172】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0173】
(Cc)バニリンで架橋したカゼインおよびキトサンの微粒子
バニリン水溶液(5mg/mL)0.5mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。(少なくとも)15分インキュベーションした後、遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(1.2×10CFU/mL)3mLをこの混合物に加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液10mLを、この混合物に加えた。
【0174】
5分間インキュベーションした後、前述の混合物に200mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、Bcの章に記載したのと同様であった。
【0175】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0176】
(Dc)トリポリホスフェートで架橋したカゼインおよびキトサンの微粒子
遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(9.4×1010CFU/mL)1.2mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液100mLに加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液20mLを、この混合物に加えた。これに、TPP(1mg/ml)1.6mLを加えた。
【0177】
5分間インキュベーションした後、前述の混合物に1,000mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、Bcの章に記載したのと同様であった。
【0178】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。
【0179】
表2は、封入されたL.caseiを含有するカゼインおよびキトサンの微粒子の物理化学的特徴、および粒子製造プロセスから誘導される細菌の死亡周期をまとめている。
【表2】
【0180】
得られた微粒子の粒径は、すべての場合において、約7±4μmの範囲であり同様である。製造プロセスに関し、このデータは、開発された製剤が、一般的に、プロセス全体でL.plantarumよりもL.caseiを良好に保護し、さらに、製剤CcおよびDcが、最良の保護を与える製剤であることを示す。
【0181】
製品1グラムまたは1ミリリットルあたりの生存可能なプロバイオティクスの最低数に関する一致した意見は存在しないが、貯蔵寿命終了時に10〜10CFU/mL(CFU/g)程度の濃度が、一般的に、最低限の満足のいくレベルとして受け入れられてきた。10CFUの数が腸に放出されるように、プロバイオティクス製品は、約100g/日の量で定期的に消費されなければならないことも確立されている(Karimiら、2011;Mohammadiら、2011;Vinderolaら、2000a)。従って、本発明によって提供される方法は、細菌数が10CFU/g程度に維持されるため(表2)、適切な方法であると考えることができ、1%程度の比率で食品に配合し、例えば、プロバイオティクス細菌の必要な濃度である10CFU/gを維持することができる。
【0182】
封入された細菌の胃腸での耐性および保存中の生存能力を検討するために、製剤CcおよびDcは、最良の保護結果を与え、高圧を必要とせず、製造プロセスを単純化するため、製剤CcおよびDcを選択した。
【0183】
実施例5
環境条件で保存期間中、封入されたLactobacillus caseiの安定性評価
実施例4に記載した製剤Ac、CcおよびDcを使用し、新しい懸濁物および凍結乾燥した製品を比較コントロールとして用い、環境条件で長期間にわたる細菌の生存を評価した。図7は、得られた結果をまとめている。
【0184】
この結果は、試験の1ヶ月目に、懸濁物中の遊離細菌の計測数が5対数単位失われ、3ヶ月目に、凍結乾燥した形態の細菌の場合、3対数単位の消失が観察され、5ヶ月目に、5対数単位の消失に達したことを示す。製剤Ac、CcおよびDcに従ってカゼインおよびキトサンの微粒子に封入される細菌の場合において、3ヶ月後の消失は、約0.5対数単位であり、6ヶ月後の消失は、製剤Acでは3対数単位であり、製剤Dcでは2対数単位であり、製剤Ccでは1対数単位である。
【0185】
これらの結果は、本発明に記載した製剤が、環境条件下、細菌の生存能力を、L.plantarumの場合に観察されたのと同様の様式で、凍結乾燥した細菌よりも高めることを確認する。
【0186】
実施例6
疑似胃腸培地に対する、封入されたLactobacillus casei属のプロバイオティクス細菌の耐性の評価
実施例4に記載した製剤Ac、CcおよびDcを使用し、「一般的方法」のVIIに記載した方法に従って、疑似胃腸培地中、封入された細菌の耐性を評価した。図8は、微粒子についての試験全体で得られた結果と、封入されておらず、凍結乾燥した細菌について得られた耐性の結果を示す。
【0187】
遊離細菌(封入されておらず、凍結乾燥した細菌)の場合には、生存可能な計測数は、胃の培地における試験の最初の2時間に、有意に低下し(4対数単位)、その後は一定に維持された。しかし、このデータは、封入された細菌が、胃の培地中の処理に有意に耐性が高く、処理終了時に平均で約1.5対数単位の消失に達したことを示す。さらに、製剤AcおよびCcの場合において、腸の培地を通った後、細菌の耐性は低下したが、凍結乾燥したコントロールよりも有意に高いままであり、製剤Dについては、効果は観察されなかった。
【0188】
これらの結果は、記載した微粒子が、疑似胃腸条件に対し、試験した細菌の耐性を有意に高めることを示す。
【0189】
実施例7
L.plantarumに関連するカゼインバイオカプセルの免疫学的試験
この実施例を実施するために、実施例1に記載した、バニリン存在下、キトサンで修飾されたカゼイン微粒子(参照Bp)を使用した。そのため、バニリン(5mg/mL)0.5mLを、カゼイン酸ナトリウムの10mg/mL水溶液25mLに加えた。(少なくとも)15分インキュベーションした後、遠心分離処理し、2%スクロース溶液(w/v)に再懸濁させた後、「一般的方法」のIIIに記載した細菌懸濁物(4.6×1010CFU/mL)1mLをこの混合物に加えた。次いで、pH5.5〜6の水性媒体中で調製した濃度1.6mg/mLのキトサン溶液2mLを、この混合物に加えた。
【0190】
5分後、前述の混合物に100mgのマンニトールを加え、次いで、この製剤を、スプレー乾燥技術を用いて乾燥させた。処理条件は、以下のとおりであった。
−空気投入口の温度:85℃
−空気出口の温度:40〜45℃
−空気圧:6bar(6×10Pa)
−サンプルの圧送速度:3.5mL/分
−吸引:100%
−空気の流れ:600L/h
【0191】
特性決定および定量化のために、粉末の形態で得られた微粒子を再び集めた。得られた微粒子の平均粒径は、7±4μmであった。一方、細菌数は、微粒子1グラムあたり、5.1×1010CFUの力価を得た。
【0192】
Ethics Committee of the Institutionの法律および実験動物に関する欧州法(86/609/EU)に従い、免疫学的試験を行った。そのために、平均体重が20gの24匹の雄CD1マウス(Charles River)を使用し、これらのマウスを通常の明−暗条件(12時間−12時間)においた。動物を4つの異なる群に分け(グループあたり6匹のマウス)、それぞれの群に、異なる毎日の処理を連続した21日間受けさせた。
【0193】
0.1mLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水pH7.4)を、第1の群(コントロール)に経口投与した。第2の群は、Lactobacillus plantarumの2%スクロース懸濁物を10CFU/マウスの投薬量で治療した(遊離LP)。第3の群は、2%スクロース中のL.plantarum(10CFU/マウス)と、キトサンで修飾され、バニリンで架橋した空のカゼイン微粒子との懸濁物の形態の物理的な混合物で投与した(100μg/マウス)(物理的な混合物、MF)。最後に、第4の群には、すでに記載したキトサンで修飾され、バニリンで架橋したカゼイン微粒子に組み込まれたL.plantarumの製剤を投与した(10CFU/マウス)(Bp)。
【0194】
22日目に、血清分離管(SARSTEDT Microtube 1.1mL Z−Gel)を用い、約250μmの血液を抜き取った。次いで、動物を殺し、脾臓を抽出し、脾臓細胞を、4℃で、グリシンを含むRPMI 1640中で崩壊させた。赤血球を溶解させ、脾細胞を計測し、その濃度を、完全RPMI培地中で調節した。細胞懸濁物の100μL複製物に、L.plantarumを刺激剤として加えた(脾細胞に対し、10:1の比率で)。37℃で48時間インキュベーションした後、細胞懸濁物を遠心分離処理し、サイトカインを含有する上澄みを−80℃で保存した。BDサイトメトリービーズアッセイTh1/Th2/Th17 CBAキット(BD、USA)を用いてサイトカインを捕捉し、フローサイトメーター(Attune(登録商標)Acoustic Focusing Cytometer)を用いて決定した。
【0195】
図9は、L.plantarum(遊離、封入されたもの、物理的な混合物)の経口投与が、どのように細胞毒性リンパ球の数のわずかな増加を誘発するかを示し、CD4/CD8比の低下によって明らかに示される。この効果は、前記増加と、細菌による腸でのコロニー生成効果との相関関係を示す文献にすでに記載されたデータと一致している[Heriasら、1999;Smeltら、2012]。他方で、封入が、細菌がCD4/CD8比を変える能力に影響を与えなかったことが観察される。
【0196】
図10は、受けた投与によって変わるインターフェロン−γ/インターロイキン−6(IL−6)比を示す。すべての場合において、L.plantarumを投与すると、インターフェロン−γ(IFN−g)の合成が増加した。しかし、微粒子に封入された細菌で治療された動物は、残りの投与で得られた比率よりも有意に大きな比を示した(p<0.001;ANOVA、post hoc Tukey)。L.plantarumを投与した後のTh1プロフィールの側に向かう免疫応答の変化は、他の著者らによって得られた結果と一致する[Smeltら、2012;Wieseら、2012]。
【0197】
参考文献
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10