【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年1月14日に米国のBig Sky Resortにおいて開催されたKEYSTONE SYMPOSIA Multiple Sclerosisで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年12月11日にKEYSTONE SYMPOSIAのウェブサイト(http://www.keystonesymposia.org/index.cfm?e=web.account.home)に掲載されたポスター発表のアブストラクトの公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年1月11日発行のKEYSTONE SYMPOSIA Multiple Sclerosisの第54頁にポスター発表のアブストラクトを公開
【文献】
各論III 第9章 視神経脊髄型多発性硬化症,多発性硬化症治療ガイドライン2010,2010年,p.104-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の判定用マーカーに関する。また本発明は、IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療の適応の可否の判定用マーカーに関する。本発明は、再発寛解型多発性硬化症患者由来の生物試料におけるPB(プラズマブラスト)の量を指標として、再発寛解型多発性硬化症の治療効果や治療の適応の可否を予測あるいは判定する。
【0015】
すなわち本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の判定におけるプラズマブラストの使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示される、使用
に関する。
【0016】
また本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の判定におけるプラズマブラストの使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、使用
に関する。
【0017】
あるいは本発明は、
再発寛解型多発性硬化症患者におけるインターフェロン・ベータによる治療効果の予測方法であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示される工程
を含む方法に関する。
あるいは本発明は、(ii)の後にさらに、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与する工程
を含むことができる。すなわち本発明は、(i)〜(iii)の工程を含む、再発寛解型多発性硬化症の治療方法に関する。
【0018】
あるいは本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、プラズマブラスト検出試薬の使用
に関する。
【0019】
あるいは本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、プラズマブラスト検出試薬の使用
に関する。
【0020】
あるいは本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、プラズマブラスト検出試薬の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与する、使用
に関する。
【0021】
また本発明は、再発寛解型多発性硬化症の治療おけるインターフェロン・ベータの使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与する、使用
に関する。
【0022】
あるいは本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、プラズマブラスト検出試薬の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与する、使用
に関する。
【0023】
また本発明は、再発寛解型多発性硬化症の治療剤の製造おけるインターフェロン・ベータの使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与する、使用
に関する。
【0024】
あるいは発明は、
再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程を含む、インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーの検出方法
に関する。
【0025】
あるいは発明は、
以下の工程を含む方法によってインターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者への投与に使用するための、または、以下の工程を含む方法によってインターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症の治療に使用するための、インターフェロン・ベータまたは再発寛解型多発性硬化症治療剤に関する。
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示される工程。
本発明においては、(ii)の後にさらに、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータもしくは再発寛解型多発性硬化症治療剤を投与する工程
を含むことができる。
【0026】
あるいは発明は、
再発寛解型多発性硬化症治療剤であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者に投与するための
インターフェロン・ベータを有効成分として含有する再発寛解型多発性硬化症治療剤
に関する。
【0027】
あるいは本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤あって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与するための、
プラズマブラスト検出試薬を含む予測剤
に関する。
【0028】
また本発明は、
再発寛解型多発性硬化症患者におけるIL-6阻害剤による治療効果の予測方法であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程
を含む方法に関する。
あるいは本発明は、(ii)の後さらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する工程
を含むことができる。すなわち本発明は、(i)〜(iii)の工程を含む、再発寛解型多発性硬化症の治療方法に関する。
【0029】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、プラズマブラスト検出試薬の使用
に関する。
【0030】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、プラズマブラスト検出試薬の使用
に関する。
【0031】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測または判定における、プラズマブラスト検出試薬の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0032】
また本発明は、再発寛解型多発性硬化症の治療おけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0033】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤の製造における、プラズマブラスト検出試薬の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0034】
また本発明は、再発寛解型多発性硬化症の治療剤の製造おけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与する、使用
に関する。
【0035】
あるいは発明は、
再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程を含む、IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーの検出方法
に関する。
【0036】
あるいは発明は、
以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者への投与に使用するための、または、以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症の治療に使用するための、IL-6阻害剤または再発寛解型多発性硬化症治療剤に関する。
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程。
本発明においては、(ii)の後にさらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤もしくは再発寛解型多発性硬化症治療剤を投与する工程
を含むことができる。
【0037】
あるいは発明は、
再発寛解型多発性硬化症治療剤であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者に投与するための
IL-6阻害剤を有効成分として含有する再発寛解型多発性硬化症治療剤
に関する。
【0038】
あるいは本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測剤であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与するための、
プラズマブラスト検出試薬を含む予測剤
に関する。
【0039】
本発明において、治療効果の予測方法は、予後の予測方法、治療の適応の可否の判定方法、治療効果の診断方法などと言い換えることもできる。
また本発明において「治療の効果が低いと示される」、「治療の効果が高いと示される」という表現は、それぞれ、「治療の効果が低いと判断される」、「治療の効果が高いと判断される」と言い換えることもできる。
【0040】
また本発明においては、「インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者」を「インターフェロン・ベータによる治療の適応患者」、「インターフェロン・ベータ応答性患者」などと言い換えることができる。本発明は、
インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療の適応患者の同定方法であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示される工程
を含む方法に関する。
【0041】
また本発明においては、「IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者」を「IL-6阻害剤による治療の適応患者」、「IL-6阻害剤応答性患者」、「インターフェロン・ベータによる治療の非適応患者」、「インターフェロン・ベータ非応答性患者」などと言い換えることができる。本発明は、
IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療の適応患者の同定方法であって、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定する工程、および
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程
を含む方法に関する。
【0042】
本発明においては、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料に含まれるプラズマブラスト(PB)の量を測定する。本発明における「生物試料」とは、患者から採取可能なものであって、PB量の測定ができるものであれば特に限定されない。そのような試料として、血液由来のサンプルを例示することができるがこれに限定されない。血液由来のサンプルはリンパ球を含む限り限定されないが、好ましくは末梢血、全血、特に好ましくは末梢血が挙げられる。被験者からの血液由来サンプルの取得方法は当業者に周知である。
【0043】
本発明において再発寛解型多発性硬化症とは、多発性硬化症のうち再発と寛解を繰り返すものをいう。本発明において再発寛解型多発性硬化症患者は、「再発寛解型多発性硬化症の疑いを有する被験者」、「再発寛解型多発性硬化症の治療を必要とする患者」と表現することもできる。本発明の「再発寛解型多発性硬化症患者」は、視神経髄膜炎ではない再発寛解型多発性硬化症患者とすることができるがこれに限定されない。
【0044】
プラズマブラスト(形質芽細胞:PB)は、リンパ球の一種であるB細胞のサブセットであり、抗体産生に特化した機能を有する。本発明における「プラズマブラスト(PB)」として、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highの発現を示すB細胞が挙げられるがこれに限定されない。また本発明において「プラズマブラスト(PB)量」とは、プラズマブラストの細胞数やその割合を示す。具体的には、例えば、末梢血におけるCD19
+B細胞数に対するプラズマブラスト(PB)数の割合(プラズマブラスト(PB)数/CD19
+B細胞数×100(%))で表すことができる。本発明においてプラズマブラスト(PB)量は、CD19
+B細胞の数に対するプラズマブラスト(PB)の数の割合、あるいは単に、プラズマブラスト(PB)の割合などと表現することもできる。
【0045】
本発明において「プラズマブラスト(PB)量が高い」とは、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるPB量が、健常者におけるPB量の平均+1SD(SD: 標準偏差)以上の場合、更に好ましくは2SD(SD: 標準偏差)以上の場合をいう。一方「プラズマブラスト(PB)量が低い」とは、この基準値未満の場合をいう。本発明においては、再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量が上記末梢血におけるCD19
+B細胞数に対するプラズマブラスト(PB)数の割合(プラズマブラスト(PB)数/CD19
+B細胞数×100(%))で表される場合には、例えば3.00%以上,好ましくは3.50%以上,特に好ましくは3.94%以上,より好ましくは4.50%以上の場合に、プラズマブラスト量が高いと示される。
【0046】
本発明においては、プラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療効果が低いと示される。また、プラズマブラスト量が高い場合に、IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療の効果が高いと示される。
【0047】
本発明において「インターフェロン・ベータによる再発寛解型多発性硬化症の治療の効果が低い」とは、少なくとも次のいずれかの条件を満たす場合をいう。
・インターフェロン・ベータによる治療を開始してから2年以内の再発回数が2回以上あること
・重篤な副作用を発現すること
・インターフェロン・ベータで悪化する自己免疫異常を中核とする併存免疫異常を有すること
【0048】
本発明におけるPB量の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば蛍光ラベルした抗体を使用するフローサイトメトリー分析により患者から単離された末梢血中のB細胞量を測定して行なうことができる。具体的には、末梢血単核細胞(PBMC)を蛍光抗CD3抗体(抗CD3-PerCP-Cy5.5: BioLegend, 300430)、CD14抗体(抗CD14-APC: BioLegend, 301808)、CD19抗体(抗CD19-APC-Cy7, BD Biosciences, 348794)、CD27抗体(抗CD27-PE-Cy7, BD Biosciences, 560609)、CD180抗体(抗CD180-PE, BD Biosciences, 551953)、CD38抗体(抗CD38-FITC, BECKMAN COULTER, A0778)にて同時に染色し、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highの発現を示す細胞を選択することができる。
より具体的には、例えばPBMCからCD3
+T細胞、あるいはCD14
+単球を除外しCD19
+ CD27
+細胞を選択し、さらにCD180
−CD38
high細胞を選択すれば、CD19
+ CD27
+CD180
−CD38
high細胞を取得することができる。例えば、CD19の発現量が10
3以上の細胞をCD19
+細胞と、CD27の発現量が2×10
3以上のB細胞をCD27
+細胞と、CD180の発現量が2×10
3以下のB細胞をCD180
−細胞と、CD38の発現量が3×10
3以上のB細胞をCD38
high細胞と定義し、この基準にしたがってCD19
+CD27
+CD180
−CD38
high細胞を取得することができる。またCD19の発現量が10
3以上の細胞をCD19
+B細胞と定義することができる。PB量は、上述のように、CD19
+CD27
+CD180
−CD38
highのB細胞数/CD19
+B細胞数×100(%)で求めることができる。
【0049】
本発明においては、PBの検出はプラズマブラスト検出試薬を用いて行うこともできる。プラズマブラスト検出試薬はプラズマブラストの検出が可能な限り特に限定されないが、プラズマブラストを認識することが可能な抗体を例示することができる。プラズマブラストを認識することが可能な抗体は、プラズマブラストの表面に発現するタンパク質や受容体を認識できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば抗CD19抗体、CD27抗体、抗CD38抗体が挙げられる。本発明においては、これらの抗体のうち2種以上、あるいは3種を組み合わせて使用することが好ましい。
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、またはモノクローナル抗体とすることができる。あるいは、プラズマブラストの表面に発現するタンパク質や受容体の異なる抗原決定基を相互に認識する多重特異性抗体であってよい。
【0050】
本発明は、(i) 生物試料におけるプラズマブラストを検出するための試薬、および(ii) プラズマブラストに対する陽性対照試料を含む、再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーを検出するためのキットをも提供する。
本発明のキットは、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にインターフェロン・ベータによる治療効果が低いと示され、
(iii) インターフェロン・ベータによる治療の効果が低いと示されなかった再発寛解型多発性硬化症患者にインターフェロン・ベータを投与するための、
再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーを検出するためのキットである。
また本発明のキットは、
(i) 再発寛解型多発性硬化症患者から単離された生物試料中に含まれるプラズマブラスト量を測定し、
(ii) 健常者と比較してプラズマブラスト量が高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された再発寛解型多発性硬化症患者にIL-6阻害剤を投与するための、
再発寛解型多発性硬化症の治療効果の予測用マーカーを検出するためのキットである。
【0051】
本発明においては、PBを指標として、インターフェロン・ベータによる治療効果を予測する。本発明のインターフェロン・ベータは、タンパク質の形態、タンパク質をコードするDNAの形態、DNAが挿入されたベクターの形態とすることができる。タンパク質やDNAは、遺伝子工学的手法または化学的手法により合成することができる。また当業者であれば、公知の遺伝子治療用ベクターを使用してインターフェロン・ベータをコードするDNAが挿入されたベクターを取得することができる。
当業者であれば、公知のインターフェロン・ベータのアミノ酸配列や塩基配列を元に、これらタンパク質やDNA、ベクターを取得することができる。また当業者であれば、公知の部位特異的変異誘発法やPCR法、ハイブリダイゼーション技術によって、インターフェロン・ベータと機能的に同等なタンパク質や当該タンパク質をコードするDNA、当該DNAが挿入されたベクターを取得することもできる。あるいは、インターフェロン・ベータは、公知の薬学的に許容される塩と混合された製剤の形態とすることができる。
【0052】
インターフェロン・ベータは、天然のタンパク質の他、公知の遺伝子組み換え技術を利用した組換えタンパク質として調製することができる。組換えタンパク質は、当業者に公知の方法により調製することができる。組換えタンパク質は、例えば、インターフェロン・ベータをコードする核酸を適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいはインターフェロン・ベータに対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
またインターフェロン・ベータをグルタチオン S-トランスフェラーゼ蛋白質との融合ポリペプチドとして、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えポリペプチドとして宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えポリペプチドはグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。
【0053】
上記ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)等で大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script等が挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7等が挙げられる。インターフェロン・ベータを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blue等の大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーター等を持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET等が挙げられる。
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0054】
大腸菌以外にも、例えば哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)等が挙げられる。
【0055】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーター等を持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418等)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13等が挙げられる。
また、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。この動物または植物にインターフェロン・ベータをコードする核酸を導入し、動物または植物の体内でインターフェロン・ベータを産生させ、回収する。
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0056】
これにより得られたインターフェロン・ベータは、宿主細胞内または細胞外(培地等)から単離し、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。ポリペプチドの分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればポリペプチドを分離、精製することができる。
なお、インターフェロン・ベータを精製前又は精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。蛋白質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼ等が用いられる。
【0057】
またインターフェロン・ベータには、1もしくは複数のアミノ酸が改変されており、インターフェロン・ベータを活性化してインターフェロン・ベータとする機能を潜在的に有するタンパク質も含まれる。また、その限りにおいて、インターフェロン・ベータの断片も含まれる。
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個(例えば2、3、4、5、10、20、30、40、50、又は100個)のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このような変異体は、アミノ酸改変前のインターフェロン・ベータ若しくはインターフェロン・ベータの断片のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップを導入した後、元となった重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。
【0058】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0059】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための方法としては、site-directed mutagenesis法(Kramer, W. and Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)やハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)、PCR技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)などが当業者によく知られている。
【0060】
本発明における「インターフェロン・ベータ(IFN-β)による治療」としては、好ましくはインターフェロン・ベータ1a(アボネックス(登録商標))、インターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン(登録商標))によるインターフェロン・ベータ、その他のインターフェロン・ベータ製剤による治療を例示することができるがこれらに限定されない。
【0061】
また本発明は、PBを指標として、IL-6阻害剤による再発寛解型多発性硬化症の治療効果を予測する。本発明において「IL-6阻害剤」は、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害することが可能な限り限定されない。IL-6阻害剤の具体的な例として、IL-6に結合する物質、IL-6受容体に結合する物質、gp130に結合する物質などを挙げることができる。また、IL-6阻害剤としては、IL-6による細胞内シグナルとして重要なSTAT3リン酸化を阻害する物質、例えばAG490などを挙げることもできるがこれらに限定されない。IL-6阻害剤には、特に限定されないが、抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体、IL-6部分ペプチド、IL-6受容体部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子化合物などが含まれる。
【0062】
IL-6阻害剤の好ましい態様として、IL-6受容体阻害剤、特に抗IL-6受容体抗体を挙げることができる。
【0063】
本発明で用いられる抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
【0064】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。通常、この抗体はIL-6、IL-6受容体、gp130等と結合することにより、IL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0065】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体、IL-6、gp130等を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0066】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗IL-6受容体抗体を作製する場合、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子の塩基配列/IL-6受容体タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0067】
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
【0068】
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0069】
同様に、IL-6を抗体取得の感作抗原として用いる場合には、ヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550、J. Immunol.(1988)140, 1534-1541、あるいはAgr. Biol. Chem. (1990)54, 2685-2688に開示されたIL-6遺伝子の塩基配列/IL-6タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。また、抗gp130抗体取得の感作抗原としては、欧州特許出願公開番号EP 411946に開示されたgp130遺伝子の塩基配列/gp130タンパク質のアミノ酸配列を用いることができる。
【0070】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0071】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0072】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0073】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F.Et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell (1976) 8, 405-415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133)等が適宜使用される。
【0074】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0075】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0076】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0077】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0078】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0079】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0080】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0081】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0082】
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0083】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0084】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0085】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M.A. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0086】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0087】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0088】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体等を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0089】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0090】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0091】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0092】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0093】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、通常、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体重鎖C領域としては、Cγなどが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。ヒト抗体軽鎖C領域としては、例えば、κまたはλを挙げることができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0094】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、これらはヒト体内における抗原性が低下しているため、医薬品として使用される抗体として有用である。
【0095】
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0096】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0097】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0098】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0099】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R.C. et al., Nature (1979) 277, 108-114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)に従えば容易に実施することができる。
【0100】
宿主として原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0101】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E.S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E.S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043)に従えばよい。
【0102】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S.P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0103】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0104】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。In vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0105】
宿主として真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(babY hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0106】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0107】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0108】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0109】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0110】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
【0111】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO94-11523参照)。
【0112】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
【0113】
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Method
S in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0114】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0115】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0116】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
【0117】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0118】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0119】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0120】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0121】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0122】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0123】
抗IL-6抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MH166(Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1998) 18, 951-956)やSK2抗体(Sato K et al., 第21回日本免疫学会総会、学術記録 (1991) 21,166)などを挙げることができる。
【0124】
抗IL-6受容体抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられるが、これに限定されない。又、ヒト化抗IL-6受容体抗体の好ましい例としては、ヒト化PM-1抗体(Tocilizumab、MRA)を挙げることができる。ヒト化抗IL-6受容体抗体の他の好ましい例としてはWO2009/041621、WO2010/035769に記載された抗体を挙げることができる。さらに、抗IL-6受容体抗体の他の好ましい態様として、ヒト化PM-1抗体(Tocilizumab、MRA)が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗IL-6受容体抗体を挙げることができる。
【0125】
抗gp130抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、AM64抗体(日本公開公報 特開平3-219894)、4B11抗体、2H4抗体(アメリカ特許公報 US5571513)、B-P8抗体(日本公開公報 特開平8-291199)などが挙げられる。
【0126】
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
【0127】
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56)を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
【0128】
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367、WO96-18648、WO96-17869に開示されているIL-6改変体を挙げることができる。
【0129】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
【0130】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
【0131】
IL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
【0132】
IL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
【0133】
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
【0134】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
【0135】
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
【0136】
さらに本発明者らは、末梢血PB量の高い再発寛解型多発性硬化症患者由来のPBはIL-6に高い感受性を示し、PBの生存がIL-6に依存していることも見出した。この知見から、PBに発現するIL-6Rを阻害すれば、PBの生存が抑制されることが示唆される。したがって本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含むPBの増殖抑制剤に関する。また本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含む再発寛解型多発性硬化症の治療剤に関する。再発寛解型多発性硬化症としては、プラズマブラスト高発現再発寛解型多発性硬化症が好ましい。本発明における「プラズマブラスト高発現再発寛解型多発性硬化症」とは、多発性硬化症患者において「プラズマブラスト(PB)量が高い」と判定された多発性硬化症をいう。あるいは本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含む、末梢血PB量の高い再発寛解型多発性硬化症患者に投与するための再発寛解型多発性硬化症の治療剤に関する。
【0137】
本発明において「有効成分として含有する」とは、IL-6阻害剤を活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、その含有率を制限するものではない。また、本発明の増殖抑制剤や治療剤は、IL-6阻害剤以外の他の有効成分を含有してもよい。また本発明の治療剤は治療目的だけでなく、予防目的に用いられてもよい。
【0138】
本発明の増殖抑制剤や治療剤は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の増殖抑制剤や治療剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、アミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、IL-6阻害剤を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0139】
IL-6阻害剤をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明のインターフェロン・ベータおよびIL-6阻害剤に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。さらに、本発明の増殖抑制剤や治療剤にヒアルロニダーゼを添加あるいは混合することで皮下に投与する液量を増加させることも可能である(例えば、WO2004/078140等)。
【0140】
本発明の増殖抑制剤や治療剤は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。治療部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。経皮投与剤型の例としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、および貼付剤等があげられ、全身又は局所的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1 kgあたり活性成分が0.0001 mg〜100 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001〜1000 mg/kg・body・weightの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、本発明の抗体が0.01〜50mg/kg・body・weight程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明の抑制剤や治療剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0141】
本発明の増殖抑制剤や治療剤は、単独でPBの増殖抑制のため、あるいはヒトおよび動物における再発寛解型多発性硬化症の治療および/または予防のために用いることができる。あるいは医薬品や食品に通常使用されうる他の成分と混合して経口投与することもできる。また、PBの増殖抑制作用、あるいは再発寛解型多発性硬化症の治療および/または予防効果が知られている他の化合物や微生物等と併用することもできる。
【0142】
また本発明は、IL-6阻害剤を動物に投与する工程を含む、再発寛解型多発性硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための方法に関する。また本発明は、IL-6阻害剤を動物に投与する工程を含む、PBの増殖抑制方法に関する。IL-6阻害剤が投与される対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としてはヒト及びヒト以外の動脈硬化の治療や予防を必要とする哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトやサルが挙げられ、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0143】
また本発明は、PBの増殖抑制のために使用するためのIL-6阻害剤や、再発寛解型多発性硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のために使用するためのIL-6阻害剤に関する。あるいは本発明は、再発寛解型多発性硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤の製造における、又はPBの増殖抑制剤の製造における、IL-6阻害剤の使用に関する。
【0144】
また本発明は、IL-6阻害剤と薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、再発寛解型多発性硬化症の治療及び予防の両方又はいずれか一方のための薬剤又はPBの増殖抑制剤の製造方法に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0145】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0146】
実施例1.プラズマブラスト量の測定
RRMS患者を臨床的な典型例(Typical MS: tMS)と非典型例(Atypical MS: atMS)とに分類した。atMSは以下の症例とした。
・DH Miller et al.の提唱するMSとして非典型的な特徴(非特許文献6)を有する症例
・IFN-β抵抗性例
・同薬による皮膚潰瘍合併例
・他の免疫異常併存例
・NMO類似の特徴を有する症例(視神経と脊髄に病変が限局する、あるいは長い脊髄病変を有する)。
一方tMSはこれらの特徴を有さない症例とした。
その結果、両群は表1に示すような臨床的特徴を有することがわかった。
【0147】
【表1】
F / M: Female / Male
Duration (y): Disease duration (years)
OCB: Oligoclonal band (OCB陽性患者の割合)
Barkhof criteria(Barkhof criteria [非特許文献7、8]を満たす脳病変を有する患者の割合)
LESCLs: Longitudinally extensive spinal cord lesions (Magnetic Resonance Imaging: MRIにて3椎体以上の長さを有する脊髄病変を示す患者の割合)
DMT: Disease modifying therapy (採血時にDMTが導入されていた患者の割合)
IFN-β: Interferon beta
PSL: Prednisolone
TAC: Tacrolimus
MTX: Methotrexate
【0148】
次に、tMS、atMS、及び健常人(Healthy donors:HD)から末梢血を採取し、Ficoll−PaquePlus(GE Healthcare Biosciences)により遠心分離を行い、末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。分離したPBMCを蛍光抗CD3抗体(抗CD3-PerCP-Cy5.5: BioLegend, 300430)、CD14抗体(抗CD14-APC: BioLegend, 301808)、CD19抗体(抗CD19-APC-Cy7, BD Biosciences, 348794)、CD27抗体(抗CD27-PE-Cy7, BD Biosciences, 560609)、CD180抗体(抗CD180-PE, BD Biosciences, 551953)、CD38抗体(抗CD38-FITC, BECKMAN COULTER, A0778)にて同時に染色し、FACS CantoII(BD Biosciences)にて表2のような条件下でフローサイトメトリーを行い、CD3
+T細胞、あるいはCD14
+単球を除外した(
図1A)。CD19の発現量が10
3以上の細胞をCD19
+として、CD19
+細胞をB細胞と定義した(
図1B)。さらに、CD27の発現量が2×10
3以上のB細胞をCD27
+とし、CD180の発現量が2×10
3以下のB細胞をCD180
−とした(
図1C)。CD38の発現量が3×10
3以上のB細胞をCD38
highとして、CD19
+CD27
+CD180
-CD38
high分画(PB)を取得した。PB量は、PB数 / CD19
+B細胞数×100(%)によって算出した。なお
図1B、Cには、PB以外のB細胞サブセットであるNaive B cell(ナイーブB細胞:CD19
+CD27
-),Memory B cell(メモリーB細胞:CD19
+CD27
+CD180
+)も示されている。
【0149】
【表2】
【0150】
PB量の測定結果を
図2に示す。
図2Aは、RRMS(n=51)を典型例(Typical MS,n=14)と非典型例(Atypical MS,n=37)に分類し、健常人(Healthy, n=8)との間で末梢血PB量(PB frequency)を比較した結果を示す。また
図2Bは、
図2Aで解析したRRMSのうち無治療のRRMSだけを対象としてPB量を比較した結果を示す。散布図内の水平線は中央値を示している(* P < 0.05 (by Kruskal Wallis test with Dunn's post hoc test)。 N.S.: not significant statistically)。
全試験対象者においても、無治療対象者双方ともにatMSにおいてのみ高いプラズマブラスト(PB)量が示された。定義よりIFN-β治療の効果の低い患者はatMSに含まれるため、これらの患者がPB量により判別し得る可能性が示唆された。
【0151】
実施例2.末梢血PB量とIFN-β治療との関係
RRMS患者における亜群間におけるPB量の比較を行なった(
図3)。具体的には、RRMS患者をIFN-βへの適応条件に従って4亜群に分類し、末梢血PB量をHealthy: 健常人(n=8)との間で比較した。その4亜群は以下の通りである。
A)Responder:反応群(治療効果が得られ適応ありと判断される群。n=7)
B)Non-responder:抵抗性群(治療効果が得られない、または悪化するため適応なしと判断される群。n=11)
C)Skin ulcer: 皮膚潰瘍群(IFN-β治療により皮膚潰瘍が誘発され適応なしと判断される群。n=5)
D)Autoimmune: 免疫異常併存群(自己免疫異常を中核とする免疫異常が併存しておりIFN-β適応なしと判断される群。n=11)。
図3に示されている通り、健常者、ならびにA群ではPB量が低いのに比して、B-D群ではPB量が高かった。このことにより末梢血PB量を測定することにより、PB高発現患者についてはIFN-βによるRRMSの治療効果が低いと予測できることが明らかとなった(PB frequency: PB量.水平線は中央値を表している(* P < 0.05 (by Kruskal-Wallis test with Dunn's post hoc test)。 N.S.: not significant statistically))。
【0152】
実施例3.RRMS由来のPBにおけるIL-6受容体 (IL-6R)の発現
RRMS患者(n=12)末梢血中のB細胞サブセット(ナイーブB細胞、メモリーB細胞、及びPB)におけるIL-6Rの発現を比較した。具体的には、RRMS患者(n=12)のPBMCを抗IL-6R抗体(Isotypeはmouse IgG1)で反応させた後に蛍光二次抗体(抗mouse IgG1)を加え、抗IL-6R抗体陽性細胞を標識した。その後、蛍光抗CD19、CD27、CD38、CD180抗体にて染色し、フローサイトメトリーを行った。抗IL-6R抗体を用いた実験群に対するIsotype controlとして精製mouse IgG1を用いた染色も行い、B細胞サブセットにおけるIL-6Rの発現量を比較した。B細胞サブセットは
Naive B cell(ナイーブB細胞): CD19
+CD27
-、
Memory B cell(メモリーB細胞): CD19
+CD27
+CD180
+、
Plasmablast(プラズマブラスト: PB): CD19
+CD27
+CD180
-CD38
high
と定義した。
【0153】
その結果、PBにおけるIL-6Rの発現量が極めて高いことが明らかとなった(
図4A,B)。
図4Aは、B細胞サブセットにおけるIL-6R発現に関する典型的なヒストグラムを示す。上段はIsotype control抗体を用いた対照データ、下段は抗IL-6R抗体を用いた実験群データである。数字はIL-6R陽性細胞の割合を示している。Naive B cell、Memory B cellに比してPBでのIL-6R陽性細胞の割合が高い。一方
図4Bでは、12例のRRMSを対象にして各B細胞サブセットにおけるIL-6R陽性細胞の割合を散布図にて比較した。IL-6R
+ cells(%)は、各B細胞サブセットにおけるIL-6R陽性細胞の割合を示している。PBにおけるIL-6R陽性細胞の割合が他のB細胞サブセットに比して有意に高かった(* P < 0.05 by Kruskal-Wallis test with Dunn's post hoc test)。6例の末梢血PB量の低いRRMS (PB-low MS)と6例の末梢血PB量の高いRRMS (PB-high MS) から構成されるRRMS12例のうち、各々の末梢血PBにおけるIL-6R陽性細胞の割合を比較しところ、PB-high MS由来のPBにおけるIL-6R陽性細胞の割合が有意に高かった(
図4C、P = 0.0043 by Mann-Whitney U-test)。
図4C において、IL-6R
+ cells in PB(%)はPBにおけるIL-6R陽性細胞の割合を示す。散布図内の水平線は、中央値及び範囲を示す。
これらの結果は、RRMS由来のPBはIL-6への高い感受性を有することを意味している。さらに、末梢血PB量の低いRRMS (PB-low MS)と末梢血PB量の高いRRMS (PB-high MS) の末梢血PBにおけるIL-6Rの発現を比較したところ、PB-high MS由来のPBにおけるIL-6R発現細胞の割合が有意に高く(
図4C)、RRMS末梢血PBの中でもPB-high MS由来のPBにおいてIL-6への感受性が特に高いことが示唆された。
【0154】
実施例4. RRMS由来のPBとIL-6との関連
RRMS患者のPBMCからフローサイトメトリーによりPBを分取した後、IL-6非存在下、またはIL-6存在下にて2日間PBを培養し生存率を測定した。具体的には、RRMS (n=12) 末梢血より分取したPBを培地(AIM-V(登録商標), GIBCO)、またはIL-6 (1 ng/ml)含有培地にて2日間培養した後、PI(propidium iodide)により染色してフローサイトメトリーにて生存細胞の割合を計測した(PI
-細胞が生存細胞と判定される)。
【0155】
その結果、末梢血PB量の高いRRMS (PB-high MS) 由来のPBではIL-6存在下にて生存率の有意な増加が認められた(P < 0.05)(
図5)。一方、末梢血PB量の低いRRMS (PB-low MS) 由来のPBではIL-6の有無により生存率に変化を認めなかった。このことは、PB-high MSにおけるPBの生存はIL-6に依存しており、IL-6阻害剤によりPBの生存が抑制される可能性を示している。
なお、
図5Aは、 PI発現に関する典型的なヒストグラムを示す。PI
-細胞にゲートをかけ、その割合を表示した(cell count: 細胞数)。また
図5Bは、各症例における培地のみで培養した場合とIL-6含有培地で培養した場合での生存PBの割合を直線で結んで比較した結果を示す。さらに、対象RRMSをPB量の低いMS (PB-low MS)とPB量の高いMS (PB-high MS)とに分類して各々の群においても同様の比較を行った結果を示す(Survival rate: 総PB数に占める生存PBの割合(%))。
Medium: 培地(AIM-V(登録商標))のみで培養したPBにおけるデータ
IL-6: IL-6 1 ng/ml含有培地で培養したPBにおけるデータ
* P < 0.05 (by paired t-test)。
N.S.: not significant statistically。
【0156】
実施例5. 抗IL-6受容体抗体によるRRMS由来PBの減少効果
前処理としてRRMS患者由来末梢血単核細胞(PBMC)を抗IL-6受容体抗体(実験用Tocilizumab: 1 ng/ml)、またはアイソタイプコントロール抗体(mouse IgG1)存在下で20分間静置した。さらに、非働化した各々の患者血清を溶媒(AIM-V(登録商標)、GIBCO)を加えて20%に稀釈した培地上で前処理後のPBMCを培養し,2日後のPB量をフローサイトメトリーにより測定した。
その結果,末梢血PB量の低いRRMS (PB-low MS)、末梢血PB量の高いRRMS (PB-high MS)の両者において抗IL-6受容体抗体による前処理後にPB量が有意に減少することが明らかとなった(
図6)。抗IL-6受容体抗体による前処理後のPB量の倍率変化(抗IL-6受容体抗体による前処理後のPB量 / アイソタイプコントロール抗体による前処理後のPB量)は、PB-low MS(平均±SD: 0.6850±0.2514)に比してPB-high MS(平均±SD: 0.5213±0.1591)において低い傾向が認められた。本実施例では、PB-high MSだけでなくPB-low MS由来PBの生存においてもIL-6依存性が認められるが、その傾向がPB-high MSにおいて顕著であり、抗IL-6受容体抗体投与によりPB-high MS由来PBを効率よく減少し得る可能性が示唆された。