(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442476
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】高い赤外放射線透過率を有するガラス板のタッチスクリーン中での使用
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20181210BHJP
C03C 4/10 20060101ALI20181210BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20181210BHJP
G06F 3/042 20060101ALI20181210BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C4/10
C03C3/091
G06F3/042 L
G06F3/041 495
G06F3/041 460
G06F3/041 490
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-503606(P2016-503606)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2016-514663(P2016-514663A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】EP2014054805
(87)【国際公開番号】WO2014146939
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】BE2013/0180
(32)【優先日】2013年3月20日
(33)【優先権主張国】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ランブリット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ドギモン, オドレイ
【審査官】
吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/128180(WO,A1)
【文献】
特開2013−010684(JP,A)
【文献】
特表2012−526039(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0128508(US,A1)
【文献】
特表2009−545828(JP,A)
【文献】
特開昭59−107941(JP,A)
【文献】
特開2001−139342(JP,A)
【文献】
特表2006−518326(JP,A)
【文献】
特表2007−519598(JP,A)
【文献】
米国特許第04427429(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0161492(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0021300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/076 − 3/091
C03C 4/10
G06F 3/041 − 3/042
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の表面上の1つ以上の物体の位置を検出するためにFTIRまたはPSD光学技術が使用されるタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッド中でのガラス板の使用であって、前記ガラス板が、ガラスの全質量に基づくパーセント値で表される量で:
SiO2 55〜78%
Al2O3 0〜18%
B2O3 0〜18%
Na2O 5〜20%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
K2O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Fe2O3の形態で表される) 0.002〜0.06%
CoO 0.001〜1%
を含む組成を有することを特徴とする使用。
【請求項2】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.005〜0.5質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.001〜0.1質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.002〜0.05質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含むことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.002〜0.02質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含むことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.002〜0.04質量%の全鉄含有量(Fe2O3の形態で表される)を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記組成が、前記ガラスの前記全質量に対して0.002〜0.02質量%の全鉄含有量(Fe2O3の形態で表される)を有することを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記組成が、20ppm未満のFe2+含有量(FeOの形態で表される)を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記組成が、10ppm未満のFe2+含有量(FeOの形態で表される)を有することを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記組成が、5ppm未満のFe2+含有量(FeOの形態で表される)を有することを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ガラス板が、少なくとも1つの防汚層で覆われるか、または汚損しないように汚れを制限/防止するために処理されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外領域で高い透過率を有するガラス板に関する。本発明の一般的分野は、ディスプレイ表面の領域上に取り付けられる光学タッチパネルの分野である。
【0002】
特に、赤外(IR)領域の高い透過率のために、本発明によるガラス板は、前記板の表面上の1つ以上の物体(たとえば、指またはスタイラス)の位置を検出するための平面散乱検出(planar scatter detection)(PSD)またはさらには減衰全反射(frustrated total internal reflection)(FTIR)(またはIR領域の高い透過率を必要とする任意の他の技術)と呼ばれる光学技術を使用するタッチスクリーン、タッチパネル、またはタッチパッド中に有利に使用できる。
【0003】
したがって、本発明は、このようなガラス板を含むタッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチパッドにも関する。
【背景技術】
【0004】
PSDおよびFTIR技術によって、安価であり、比較的大きい触覚面(たとえば、3〜100インチのサイズ)と小さい厚さとを有し得るマルチタッチタッチスクリーン/パネルを得ることが可能となる。
【0005】
これら2つの技術は:
(i)たとえばLEDを用いて、赤外(IR)放射線を、赤外領域において透明である基板中に1つ以上の端部/端面から注入すること;
(ii)全反射の光学的効果(放射線が基板を「出る」ことがない)によって前記基板内に赤外放射線が伝播すること(次に基板は導波路として機能する);
(iii)基板表面をある種の物体(たとえば指またはスタイラス)に接触させて、あらゆる方向に放射線が散乱することによって局所摂動を生じさせ、偏向した光線の一部が基板から「出る」ことが可能になること
を含む。
【0006】
FTIR技術では、偏向した光線は、基板の下面、すなわち接触面とは反対側の面上に赤外光の点を形成する。これらの偏向した光線は、装置の裏側に配置された特殊カメラによって検出される。
【0007】
その一部として、PSD技術は、ステップ(i)〜(iii)の後に:
(iv)基板端部において得られるIR放射線を検出器により分析するステップ;および
(v)検出した放射線から、表面と接触する物体の位置をアルゴリズムによって計算するステップ
の2つのさらなるステップを含む。この技術は特に、文献米国特許出願公開第2013/021300A1号明細書に記載されている。
【0008】
基本的に、ガラスは、その機械的性質、その耐久性、その耐ひっかき性、その光学的透明性のため、ならびに化学的または熱的に強化可能であるため、タッチパネル用に選択される材料である。
【0009】
PSDまたはFTIR技術に使用され、非常に大きい面積を有し、そのため比較的大きい長さ/幅を有するガラスパネルの場合、注入されるIR放射線の光路は長い。したがってこの場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収が、タッチパネルの感度に大きな影響を与え、そのためパネルの長さ/幅にわたって望ましくない感度の低下が起こりうる。PSDまたはFTIR技術に使用され、より小さい面積を有し、したがって注入されるIR放射線の光路がより短いガラスパネルの場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収は、特に、ガラスパネルが組み込まれる装置の電力消費にも影響を与える。
【0010】
したがって、接触面が大きい場合に、接触面全体にわたって感度の劣化がないこと、または十分な感度を保証するために、これに関連して赤外領域での透明性が高いガラス板が非常に有用となる。特に、これらの技術に一般に使用される波長である1050nmの波長における吸収係数が、1m
−1以下であるガラス板が理想的である。
【0011】
赤外領域(および可視領域)において高い透過率を得るために、ガラス中の全鉄含有量(当技術分野における標準的な実施によりFe
2O
3で表される)を減少させて、したがって鉄含有量の低いガラス(すなわち「低鉄」ガラス)を得ることが知られている。使用されるバッチ材料(砂、石灰石、ドロマイトなど)の大部分の中に不純物として鉄が存在するため、シリケートガラスは常に鉄を含有する。鉄は、第二鉄Fe
3+イオンおよび第一鉄Fe
2+イオンの形態でガラスの構造中に存在する。第二鉄Fe
3+イオンが存在すると、ガラスは、可視領域の短波長でわずかな吸収および近紫外領域(380nmを中心とする吸収帯)において強い吸収を示し、一方、第一鉄Fe
2+イオン(場合によりFeO酸化物で表される)が存在すると、近赤外領域(1050nmを中心とする吸収帯)において強い吸収が得られる。したがって、全鉄含有量(2つの形態における鉄の含有量)の増加によって、可視領域および赤外領域における吸収が増加する。さらに、第一鉄Fe
2+イオンが高濃度であると、赤外領域(特に近赤外領域)における透過率が低下する。しかし、全鉄含有量を変化させるだけで、タッチ用途の場合に十分に低い吸収係数を1050nmの波長で実現するには、この全鉄含有量を大きく減少させることが必要となり、(i)それによって、非常に純粋なバッチ材料が必要となるため、製造コストが高くなりすぎ(十分な純度の材料は場合によっては存在さえしない)、および(ii)それによって製造上の問題(特に、加熱炉の早期の摩耗および/または加熱炉中でのガラスの加熱の問題)が発生するであろう。
【0012】
ガラスの透過率をさらに高めるために、ガラス中に存在する鉄を酸化させる、すなわち、第二鉄イオンが増加するように第一鉄イオンの数を減少させることも知られている。ガラスの酸化度は、ガラス中に存在する鉄原子の全
質量に対するFe
2+原子の
質量比、すなわちFe
2+/全Feとして定義されるそのレドックス比によって得られる。
【0013】
ガラスのレドックス比を低下させるために、バッチ材料のブレンドに酸化剤を加えることが知られている。しかし、ほとんどの周知の酸化剤(サルフェート、ニトレートなど)は、FTIRまたはPSD技術を使用するタッチパネル用途に求められるIR透過率値を実現するために十分な高さの酸化力を有さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的の1つは、その実施形態の少なくとも1つにおいて、赤外領域で高い透過率を有するガラス板を提供することである。特に、本発明の目的は、近赤外領域で高い透過率を有するガラス板を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、大面積のタッチスクリーン、タッチパネル、またはタッチパッドにおける接触面として使用される場合に、タッチ機能の感度の低下がほとんどまたは全くないガラス板を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、より適度な大きさのタッチスクリーン、タッチパネル、またはタッチパッドにおける接触面として使用される場合に、装置の電力消費に対して有利な効果が得られるガラス板を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、赤外領域で高い透過率を有し、選択された用途で許容される外観を有するガラス板を提供することである。
【0018】
最後に、本発明の別の目的は、赤外領域で高い透過率を有し製造が安価であるガラス板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、ガラスの全
質量に基づくパーセント値で表される量で:
SiO
2 55〜78%
Al
2O
3 0〜18%
B
2O
3 0〜18%
Na
2O 5〜20%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
K
2O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Fe
2O
3の形態で表される) 0.002〜0.06%
を含む組成を有するガラス板に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特定の一実施形態によると、前記組成は、ガラスの全
質量に対して0.001〜1
質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)をさらに含む。
【0021】
したがって、本発明は、記載の技術的問題が解決可能となるため、完全に新規で発明性のある方法に基づいている。特に、本発明者らは、驚くべきことに、ガラス組成中で、低鉄含有量と、着色ガラス組成物中で強力な着色剤として特に知られている特定の含有量の範囲内のコバルトとを組み合わせることによって、外観および色に多大な悪影響を与えることなくIR領域で非常に透明となるガラス板を得ることが可能なことを示した。
【0022】
本明細書全体にわたって、ある範囲が示される場合は、それらの末端の値が含まれる。さらに、数値範囲内のすべての整数値および部分的範囲は、明示的に記載されるかのように明確に含まれる。さらに、本明細書全体にわたって、パーセント値の量または含有量の値は、ガラスの全
質量に対して表される
質量基準の値である。
【0023】
本発明の別の特徴および利点は、以下の説明を読めばより明確に明らかとなるであろう。
【0024】
用語「ガラス」は、本発明によると、完全に非晶質の材料を意味するものと理解され、したがってあらゆる部分結晶性材料(たとえば、ガラス結晶材料またはガラス−セラミック材料など)は排除される。
【0025】
本発明によるガラス板は、さまざまな分類に属するガラスでできていてよい。したがってガラスは、ソーダ石灰シリカガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸塩ガラスなどのであってよい。好ましくは、かつ製造コストがより低くなるという理由で、本発明によるガラス板はソーダ石灰シリカガラスの板である。この好ましい実施形態において、ガラス板の組成はガラスの全
質量に基づくパーセント値で表される量で:
SiO
2 60〜75%
Al
2O
3 0〜4%
B
2O
3 0〜4%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
Na
2O 5〜20%
K
2O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Fe
2O
3の形態で表される) 0.002〜0.06%
を含むことができる。
【0026】
本発明によるガラス板は、フロート法、延伸法、または圧延法、あるいは溶融ガラス組成物からガラス板を製造するための他のあらゆる周知の方法によって得られるガラス板であってよい。本発明による好ましい一実施形態によると、ガラス板はフロートガラスの板である。「フロートガラスの板」という表現は、還元条件下で溶融ガラスを溶融スズ浴上に注ぐことを含むフロート法によって形成されるガラス板を意味するものと理解される。周知のように、フロートガラスの板は、「スズ面」と呼ばれる面、すなわち板の表面に近いガラスの領域がスズに富む面を有する。「スズに富む」という表現は、実質的にゼロである(スズを含まない)場合もゼロではない場合もある中心のガラス組成に対するスズ濃度の増加を意味するものと理解される。
【0027】
本発明によるガラス板は、種々のサイズであることができ、比較的大型であってよい。たとえば、3.21m×6mまたは3.21m×5.50mまたは3.21m×5.10mまたは3.21m×4.50m(「PLF」ガラス板)、あるいはさらには、たとえば、3.21m×2.55mまたは3.21m×2.25m(「DLF」ガラス板)までの範囲の寸法を有することができる。
【0028】
本発明によるガラス板は0.1〜25mmの間の厚さであってよい。有利には、タッチパネル用途の場合、本発明によるガラス板は0.1〜6mmの間の厚さであってよい。好ましくは、タッチスクリーン用途の場合、
質量の理由で、本発明によるガラス板は0.1〜2.2mmの厚さとなる。
【0029】
本発明によると、本発明の組成は、ガラスの全
質量に対して0.002〜0.06
質量%の範囲の全鉄含有量(Fe
2O
3で表される)を含む。0.06
質量%以下の全鉄含有量(Fe
2O
3の形態で表される)によって、ガラス板のIR透過率をさらに増加させることができる。このような低い鉄の値は、非常に純粋で高価なバッチ材料またはそれらの材料の精製を必要とすることが多いため、この最小限の値によってガラスのコストは高くなりすぎない。好ましくは、組成は、ガラスの全
質量に対して0.002〜0.04
質量%の範囲の全鉄含有量(Fe
2O
3の形態で表される)を含む。最も好ましくは、組成は、ガラスの全
質量に対して0.002〜0.02
質量%の範囲の全鉄含有量(Fe
2O
3の形態で表される)を含む。
【0030】
本発明の一実施形態によると、本発明の組成は、ガラスの全
質量に対して0.005〜1
質量%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含む。
【0031】
本発明の有利な一実施形態によると、本発明の組成は、ガラスの全
質量に対する
質量基準で0.001〜0.5%、好ましくは0.001〜0.2%、またはさらには0.001〜0.1%、さらには0.001〜0.05%、さらには0.001〜0.02%の範囲内のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含む。このようなコバルト含有量の範囲によって、ガラス板の美的外観または着色を過度に損なうことなくIR領域における高い透過率を得ることが可能となる。
【0032】
本発明の別の有利な一実施形態によると、本発明の組成は、ガラスの全
質量に対する
質量基準で0.005〜0.5%、好ましくは0.005〜0.2%、または0.005〜0.1%、またはさらには0.005〜0.05%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含む。最も好ましくは、本発明の組成は、0.002〜0.1%、または0.002〜0.05%、またはさらには0.002〜0.02%の範囲のコバルト含有量(CoOの形態で表される)を含む。このようなコバルト含有量の範囲によって、IR領域においてさらに良好な透過率を得ることができる。
【0033】
本発明の別の一実施形態によると、組成は、20ppm未満のFe
2+含有量(FeOの形態で表される)を含む。この含有量の範囲によって、特にIR放射線の透過に関して非常に良好な性質を得ることが可能になる。好ましくは、組成は10ppm未満のFe
2+含有量(FeOの形態で表される)を含む。最も好ましくは、組成は5ppm未満のFe
2+含有量(FeOの形態で表される)を含む。
【0034】
本発明によると、ガラス板はIR領域において高い透過率を有する。より正確には、本発明のガラス板は近赤外領域において高い透過率を有する。
【0035】
赤外領域におけるガラスの良好な透過率を定量化するために、本明細書においては、この場合良好な透過率を得るためにできるだけ低くする必要がある1050nmの波長における吸収係数が使用される。吸収係数は、吸光度と、特定の媒体中を電磁放射線が移動する光路長との比によって定義される。これはm
−1の単位で表される。したがってこれは材料の厚さには依存しないが、吸収される放射線の波長および材料の化学的性質に依存する。
【0036】
ガラスの場合、選択された波長λにおける吸収係数(μ)は、材料の透過率(T)および屈折率nの測定値から計算することができ(thick=厚さ)、n、ρ、およびTの値は選択された波長λに依存する:
【数1】
(式中、ρ=(n−1)
2/(n+1)
2である)。
【0037】
有利には、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が5m
−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が2m
−1以下である。最も好ましくは、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が1m
−1以下である。
【0038】
また有利には、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が5m
−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が2m
−1以下である。最も好ましくは、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が1m
−1以下である。
【0039】
また有利には、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が5m
−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が2m
−1以下である。最も好ましくは、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が1m
−1以下である。
【0040】
本発明の一実施形態によると、ガラス板の組成は、特にバッチ材料中に存在する不純物に加えて、少ない比率の添加剤(ガラスの溶融または精製を促進する物質など)、または溶融炉を構成する耐火物の溶解に起因する元素を含むことがある。
【0041】
本発明の有利な一実施形態によると、ガラス板の組成は、所望の効果に依存した適切な量の1種類以上の他の着色剤をさらに含むことができる。この(これらの)着色剤は、たとえば、コバルトの存在によって生じる色を「中和する」機能を果たすことができ、それによって本発明のガラスの発色をより中性に、すなわち無色にすることができる。あるいは、この(これらの)着色剤は、コバルトの存在によって生じる色以外の所望の色を得る機能を果たすことができる。
【0042】
上記の実施形態と組み合わせることができる本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラス板は、コバルトの存在によって生じる色を変更または中和することが可能な層またはフィルム(たとえば着色PVBフィルム)で覆うことができる。
【0043】
本発明によるガラス板は、有利に化学的または熱的に焼き戻しを行うことができる。
【0044】
本発明の一実施形態によると、ガラス板は、少なくとも1つの薄く透明で導電性の層で覆われる。本発明による薄く透明で導電性の層は、たとえば、SnO
2:F、SnO
2:Sb、またはITO(インジウムスズ酸化物)、ZnO:Al、またはさらにはZnO:Gaを主成分とする層であってよい。
【0045】
本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラス板は少なくとも1つの反射防止性(または反射防止)層で覆われる。この実施形態は、本発明のガラス板がスクリーンの前面として使用される場合に明らかに有利である。本発明による反射防止層は、たとえば低屈折率の多孔質シリカを主成分とする層であってよく、または多数の層(多層)、特に誘電体層の多層であって、低屈折率および高屈折率を有する層を交互に含み、最後が低屈折率を有する層となる多層で構成されてよい。
【0046】
別の一実施形態によると、ガラス板は、少なくとも1つの防汚層で覆われるか、または汚損しないように汚れを制限/防止するために処理されている。この実施形態も、本発明のガラス板がタッチスクリーンの前面として使用される場合に有利である。このような層または処理は、反対側の面に堆積された薄く透明で導電性の層と併用することができる。このような層は同じ面に堆積された反射防止層と併用することができ、防汚層は多層の外側に配置され、したがって反射防止層を覆う。
【0047】
所望の用途および/または性質に依存して、本発明によるガラス板の一方および/または他方の面の上に別の層を堆積することができる。
【0048】
本発明は、接触面を画定する本発明による少なくとも1つのガラス板を含むタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドにも関する。この実施形態によると、タッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドでは、有利にはFTIRまたはPSD光学技術が使用される。特に、スクリーンの場合、ガラス板は有利には表示面の上に配置される。
【0049】
最後に、赤外領域における高い透過率のために、本発明のガラス板は、前記板の表面上の1つ以上の物体(たとえば、指またはスタイラス)の位置を検出するためのいわゆる平面散乱検出(PSD)またはさらには減衰全反射(FTIR)光学技術を使用するタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドの中に有利に使用することができる。
【実施例】
【0050】
バッチ材料を粉末形態で混合し、溶融させるためにるつぼに入れ、混合物は以下の表に示される基本組成を有した。
【0051】
【表1】
【0052】
異なる量のコバルトを含有し、基本組成は同じままである2つのサンプルを作製した。サンプル1(比較例)は、コバルトを含有しない従来技術の「低鉄」ガラス(いわゆる「エクストラクリア(extra clear)」ガラス)に相当する。サンプル2は本発明によるガラス板組成物に相当する。
【0053】
板の形態のそれぞれのガラスサンプルの光学的性質を測定し、特に、直径150mmの積分球を取り付けたPerkinElmer Lambda 950分光光度計を用いてサンプルを測定用の球の入口開口部に入れて、透過率を測定することによって、吸収係数を1050、950、および850nmの波長で測定した。
【0054】
以下の表は、本発明によるサンプル2で得られた1050、950、および850nmの波長における吸収係数の、基準サンプル、すなわちサンプル1で得られた対応する値に対する相対的変化(Δ)を示している。
【0055】
【表2】
【0056】
これらの結果は、本発明による含有量範囲内でコバルトを加えることによって、950および850nmの波長における吸収係数の低下が可能であり、したがって、一般に、近赤外領域における放射線の吸収の低下が可能であることを示している。