(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の薬液投与装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明の薬液投与装置は、パッチ式のインスリンポンプやチューブ式のインスリンポンプ、さらにその他の携帯型の薬液投与装置のように、患者の体内に持続的に薬液投与を行うための携帯型の薬液投与装置に広く適用される。
【0011】
≪薬液投与装置の構成≫
図1は、本発明を適用した薬液投与装置1の全体構成を示す概略平面図である。
図2は、本発明を適用した薬液投与装置1の要部の分解斜視図である。これらの図に示す薬液投与装置1は、例えばインスリンポンプとして用いられるものであり、以下のように構成されている。
【0012】
すなわち薬液投与装置1は、筐体10の内部に、アクチュエータの一例としてモータ11、このモータ11によって回転する複数段の歯車13,15,17、これらの歯車13,15,17の内の最終段歯車17の回転軸上に設けられた出力軸の一例として送りネジ19を備えている。このような構成において、さらにモータ11と送りネジ19との間に、本実施形態の薬液投与装置1に特徴的な構成の閉塞検知部20が設けられている。
【0013】
また以上のような薬液投与装置1には、モータ11を駆動するための電池を収納する電池ボックス31、および閉塞検知部20に接続された警報部33を備えていても良い。さらに薬液投与装置1は、送りネジ19の軸方向に、薬液容器としてのシリンジ101と、シリンジ101内に陥入された押し子103と、押し子103に固定された状態で送りネジ19に嵌合して設けられたナット105とを備えている。次に、上述した各構成要素の詳細を説明する。
【0014】
<モータ11(アクチュエータ)>
モータ11は電池によって駆動されるものであり、回動する回転軸11aを有する。このモータ11は、例えばパルス駆動されるステッピングモータであることとする。
【0015】
<歯車13,15,17>
歯車13,15,17は、モータ11の駆動によって連動して回転するようにかみ合わされている。このうち歯車13は、モータ11の回転軸11a上に設けられた初段歯車13である。また歯車15は、初段歯車13にかみ合わせて設けられた減速用の中間歯車15である。さらに歯車17は、中間歯車15にかみ合わせて設けられた最終段歯車17であって、中間歯車15を介して初段歯車13とかみ合わせて設けられた状態となっている。またこの最終段歯車17の回転軸上には、送りネジ19が固定されている。
【0016】
これらの歯車13,15,17は、モータ11の回転が初段歯車13および中間歯車15を介して最終段歯車17に伝えられる。また、最終段歯車17に対して送りネジ19が固定されていることにより、送りネジ19の回転に同期して最終段歯車17が回転し、これにかみ合わせて設けられた中間歯車15および初段歯車13が送りネジ19に同期して回転する構成となっている。
【0017】
このような歯車13,15,17は、例えば図示したような平歯車であって良い。また中間歯車15は、必要に応じて設けられれば良く、さらに複数の歯車をかみ合わせて用いても良い。
【0018】
<送りネジ19(出力軸)>
送りネジ19は、最終段歯車17の回転軸上に立設された状態で固定されている。この送りネジ19は、以降に説明するシリンジ101内で押し子103を摺動させるためのものである。このため、送りネジ19は、押し子103の送り速度にあわせたピッチのネジ山を有し、また押し子103の移動範囲に合わせた有効長を有する。ここでは、一例として、最終段歯車17を左回転させた場合に、最終段歯車17から遠ざかる方向に押し子103が移動する。一方、最終段歯車17を右回転させた場合に、最終段歯車17に近づく方向に押し子103が移動する構成となっている。
【0019】
<閉塞検知部20>
閉塞検知部20は、以降に説明するシリンジ101から投与される薬液の流路閉塞を検知するものであり、ここでは例えばモータ11と初段歯車13との間に配置されたエンコーダとして構成されている。この閉塞検知部20は、モータ11側から順に設けられた固定スリット円盤21およびスリット円盤23を有し、さらにこれらの間に配置されたねじりバネ25(
図2参照)を備えている。またこの閉塞検知部20は、さらに光センサ27、および光センサ27に接続された演算部29を有している。
【0020】
以下、先の
図1および
図2と共に、
図3および
図4を用いて閉塞検知部20の詳細な構成を説明する。ここで
図3Aおよび
図3Bは、閉塞検知部20の構成を説明するための平面図であり、初段歯車13側から、スリット円盤23、固定スリット円盤21、およびねじりバネ25を見た平面図である。これらの
図3においては、初段歯車13およびスリット円盤23を仮想線(二点鎖線)として示している。また
図4Aおよび
図4Bは、閉塞検知部20の組み立てを説明するための分解斜視図である。
図4Aと
図4Bとは、閉塞検知部20を逆方向から見た構成となっている。
【0021】
(固定スリット円盤21)
先ず、固定スリット円盤21は、盤面の中心においてモータ11の回転軸11aに固定され、これによってモータ11の回転に同期して回転するように設けられている。また固定スリット円盤21は、その盤面にスリットs1を有している。スリットs1は、固定スリット円盤21の周縁を切り込んだ形状で複数設けられている。これらのスリットs1は、周方向に所定の開口幅w1を有し、例えば固定スリット円盤21の周縁に沿って所定の間隔d1を保って設けられていることとする。
【0022】
一例として、固定スリット円盤21の周縁に、均等な間隔d1で13か所のスリットs1が配置されていることとする。また、周方向におけるスリットs1の開口幅w1は、スリットs1−スリットs1の間隔d1の3倍(w1=d1×3)であることとする(
図3参照)。
【0023】
また固定スリット円盤21は、スリット円盤23側に向かう盤面に、ねじりバネ25の一端側25aを位置決めして固定するための位置決め孔21aを有している。この位置決め孔21aは、ねじりバネ25の一端側25a、すなわちねじりバネ25の両側アームのうちの一方が、固定スリット円盤21の盤面に対して略垂直に差し込まれ、差し込まれた一端側25aが固定スリット円盤21の円周方向に移動することを制限する。
【0024】
また固定スリット円盤21は、スリット円盤23を組み付けるための複数の片部21bを有している。ここでは、固定スリット円盤21の盤面に穿鑿孔を加工することにより、固定スリット円盤21の盤面内において周方向に向かって突出した2つの片部21bが設けられていることとする。2つの片部21bは、同一方向に向かって突出して設けられており、例えば固定スリット円盤21の中心に対して互いに180度をなす位置に設けられている。尚、固定スリット円盤21に片部21bを設けるために固定スリット円盤21に形成された穿鑿孔は、次に説明するスリット円盤23の嵌合部23bを陥入するための陥入孔21hとして形成されていることとする。
【0025】
さらに、固定スリット円盤21においてモータ11側に向かう盤面には、モータ11の回転軸11aに対して固定スリット円盤21の盤面が垂直となるように、モータ11の回転軸11aが嵌入される固定部21cが設けられている。この固定部21cには、回転軸11aが嵌入された状態で、回転軸11aを固定するためのナット21dが形成されている。
【0026】
また固定スリット円盤21においてスリット円盤23側に向かう盤面の中央には、ねじりバネ25およびスリット円盤23を、モータ11の回転軸11aと同軸上に位置決めして保持するための軸部21eが立設されている。
【0027】
(スリット円盤23)
スリット円盤23は、初段歯車13に対して同心円で固定されており、初段歯車13に対して一体成形されたものであって良い。これにより、スリット円盤23は、送りネジ19の回転に同期して回転するように設けられたものとなっている。
【0028】
また、スリット円盤23の盤面には、固定スリット円盤21に対して同軸上で重ね合わせた状態において、固定スリット円盤21のスリットs1と重なる複数のスリットs2が設けられている。ここでは、一例として、スリット円盤23の外周形状は固定スリット円盤21の外周形状と同一であることとする。このため、スリット円盤23の周縁には、均等な間隔で13か所のスリットs2が配置されており、周方向におけるスリットs2の開口幅w2(=w1)は、スリットs2−スリットs2の間隔d2(=d1)の3倍(w2=d2×3)であることとする(
図3参照)。
【0029】
またスリット円盤23は、固定スリット円盤21と同軸上に重ねた状態で、固定スリット円盤21に対して組み付けられている。このようなスリット円盤23は、固定スリット円盤21側に向かう盤面に、固定スリット円盤21の陥入孔21hに陥入させた状態で、固定スリット円盤21の片部21bに嵌合させるための嵌合部23bが設けられている。この嵌合部23bは、スリット円盤23の盤面から突出する状態で、固定スリット円盤21の片部21bをスライド自在に嵌入させる形状を有して設けられている。ここでは、固定スリット円盤21の片部21bに合わせて、2つの嵌合部23bが設けられていることとする。これにより、スリット円盤23の嵌合部23bのそれぞれに、固定スリット円盤21の片部21bが嵌入され、固定スリット円盤21に対してスリット円盤23が組み付けられた状態となっている。
【0030】
固定スリット円盤21とスリット円盤23とが組み付けられた状態においては、固定スリット円盤21とスリット円盤23とは、盤面を合わせた状態で所定角度の範囲で回動自在となっている。
【0031】
またスリット円盤23に設けられた2つの嵌合部23bのうちの一方は、ねじりバネ25の他端側25b、すなわち両側アームの他方をスリット円盤23に対して止め付けるための止め付け部材ともなっている。
【0032】
さらに、スリット円盤23の中心には、固定スリット円盤21の軸部21eを貫通させる軸穴23cが設けられている。この軸穴23cは、初段歯車13の中心を貫通して設けられていて良い。また、スリット円盤23において固定スリット円盤21側に向かう盤面には、ねじりバネ25を収納するための凹状の収納部23dが、軸穴23cを囲む状態で設けられている。
【0033】
(ねじりバネ25)
ねじりバネ25は、モータ11に固定された固定スリット円盤21と、初段歯車13に固定されたスリット円盤23とを、重ねた状態で連結するものである。このようなねじりバネ25は、初段歯車13およびこれに固定されたスリット円盤23に掛かる背圧に応じて、スリット円盤23の回転を固定スリット円盤21の回転に対して遅らせる弾性部材として設けられている。これにより、ねじりバネ25は、固定スリット円盤21とスリット円盤23と共にバックトルクリミッタを構成している。
【0034】
このねじりバネ25は、コイル形状に巻き付けられたワイヤーで構成されている。このようなねじりバネ25の一端側25aは、ねじりバネ25のたわみ方向に対して垂直に折り曲げられている。一方、ねじりバネ25の他端側25bは、コイル形状の巻き付け方向から外側に延設されている。
【0035】
このようなねじりバネ25は、固定スリット円盤21の軸部21eに巻き付け部分を嵌合させ、一端側25aを固定スリット円盤21の位置決め孔21aに嵌入させた状態で配置される。
【0036】
また一端側25aが固定された状態のねじりバネ25に対しては、スリット円盤23から突出させた嵌合部23bの一方によってたわみ方向に負荷が掛けられ、この状態でスリット円盤23の嵌合部23bが固定スリット円盤21の陥入孔21hに陥入されている。そして、ねじりバネ25の復元力によって、固定スリット円盤21の片部21bにスリット円盤23の嵌合部23bが嵌合するように固定スリット円盤21とスリット円盤23とが組み付けられている。
【0037】
組み付けられた初期状態において、固定スリット円盤21とスリット円盤23とは、例えば、スリットs1の配置周期に対してスリットs2の配置周期が半周期ずらして設けられている。これにより、固定スリット円盤21のスリットs1の中央に、スリット円盤23のスリットs2間の凸部分が配置されるように重ねられた状態となっている(
図3Aの状態)。
【0038】
またねじりバネ25は、以上のように組み付けられたスリット円盤23に対して正常な範囲で背圧が掛かっている正常状態においては上述した初期状態に保たれ、固定スリット円盤21に同期してスリット円盤23が回転する程度のバネ係数を有する。
【0039】
このバネ係数は、スリット円盤23に掛かる背圧が上昇した場合に、この背圧の上昇に応じた分のたわみ角度だけたわみ、これによってスリット円盤23の回転を固定スリット円盤21の回転に対して所定角度だけ遅らせる。このようなバネ係数は、次に説明するシリンジ101から押し出される薬液の流路閉塞の度合いと、これに対応する背圧の上昇度合いに応じて設定されることとする。ただし、ねじりバネ25のバネ係数は、薬液投与装置1の駆動において想定される最大背圧において、固定スリット円盤21の片部21bからスリット円盤23の嵌合部23bが外れることの無い値に設定されることが重要である。
【0040】
(光センサ27)
光センサ27(
図1および
図2参照)は、固定スリット円盤21のスリットs1とスリット円盤23のスリットs2との重なりを検知するものである。ここでは、例えば発光素子と受光素子とを対向して配置させた透過型の光センサ27が用いられる。発光素子は例えばLED(light Emitting Diode)であり、受光素子は例えばPD(Photo Diode)である。発光素子はパルス発信するものであってもよい。このような透過型の光センサ27は、発光素子から発信され受光素子で受光される光(以下、検出光と称する)の通過位置が光検出の測定点pとなる。このため、透過型の光センサ27は、発光素子と受光素子との間に固定スリット円盤21とスリット円盤23の周縁部を挟持されるように筐体10内に固定して設けられる。
【0041】
図5は、このような光センサ27における信号の検出を説明する図である。
図5Aに示すように、固定スリット円盤21とスリット円盤23との周縁部を挟む所定位置に、光センサの測定点pが固定されている。このため、固定スリット円盤21とスリット円盤23とを回転させた場合には、スリットs1とスリットs2との重なり部分[s1+s2]が測定点pを通過している状態においてのみ、発光素子からの発信された検出光が受光素子で受光される。
【0042】
図5Bに示すように、受光素子において受光された検出光は、光電変換されて電圧信号として出力される。このため、スリットs1とスリットs2との重なり部分[s1+s2]が測定点pを通過している状態と、固定スリット円盤21またはスリット円盤23によって、検出光が遮られている状態とが電圧差となって検出される。したがって、受光素子において検出される電圧に閾値(一例として1.5V)を設けることにより、閾値以上の電圧が検出された場合に重なり部分[s1+s2]が測定点pを通過している状態であることが検知される。
【0043】
図5Cに示すように、受光素子において、閾値以上の電圧が検知された場合と、それ以外の場合とを0/1でデジタル判定することもできる。尚、発光素子がパルス発信するものである場合、横軸を積算パルス数とし、重なり部分[s1+s2]においては検出信号「1」が所定回数だけ連続してカウントされ、それ以外では検出信号「0」が所定回数だけ連続してカウントされる。
【0044】
上述した初期状態においては、固定スリット円盤21のスリットs1の中央にスリット円盤23のスリットs2間の凸部分が配置されるように重ねられている。このため、重なり部分[s1+s2]において検出信号「1」がn回連続してカウントされる部分と、検出信号「0」がm回連続してカウントされる部分とが交互に検出信号として検出される。
【0045】
そして、以上のような検出信号に基づく閉塞の判定は、次に説明する演算部29で行われる。
【0046】
尚、光センサ27は、上述した透過型の光センサに限定されることはなく、筐体10内のレイアウト構成によっては反射型の光センサを用いても良い。反射型の光センサを用いた場合、発光素子からの発信された検出光のうち、固定スリット円盤21またはスリット円盤23で反射された検出光が受光素子で受光される。このため、受光素子において検出光が受光されない状態が、スリットs1とスリットs2との重なりが光センサの配置部(測定点)を通過している状態であると検知される。
【0047】
(演算部29)
演算部29は、送りネジ19の駆動によってシリンジ101から投与される薬液の流路閉塞を、光センサ27で得られた信号に基づいて判断する信号処理部分である。またこの演算部29では、流路閉塞と判断された場合に、警報部33に対して警報を発信する信号を送信する。尚、演算部29における流路閉塞の判断アルゴリズムは、以降の閉塞検知方法において詳細に説明する。また、警報部33は、例えば振動や音による警報を発するもの、さらに発光を伴う警報を発するものが用いられる。
【0048】
またこの演算部29においては、エンコーダとして構成された閉塞検知部20の光センサ27で得られた信号を、モータ11を駆動する信号にフィードバックし、モータ11の駆動制御を行う。
【0049】
<シリンジ101(薬液容器)>
シリンジ101は、一方の底面が閉塞され他方の底面が開放された筒状の薬液貯蔵部である。このシリンジ101は、内部において筒状の延設方向に押し子103の摺動が自在な寸胴形状に成形されている。また、シリンジ101内においての押し子103の摺動に伴い、押し子103が回転することのないように、筒状の底面は楕円形のような扁平形状であることが好ましい。またシリンジ101における筒状の延設方向の長さは、送りネジ19の長さと同程度であることとする。
【0050】
このようなシリンジ101は、閉塞された底面側に薬液の投与口101aが設けられている。投与口101aには、例えば先端に針を有するチューブ107の基端部が連結される。
【0051】
尚、チューブ107は、ここでの図示を省略した筐体10における薬液の流出口に、先端の針を陥入させた状態として、筐体10内に固定されていることとする。そして、この薬液投与装置1が、パッチ式のものであれば、筐体10が載置されるクレードルが準備され、このクレードルに固定された穿刺針に対してチューブ107の先端側が連通される構成となっている。一方、この薬液投与装置1が、チューブ式のものであれば、筐体10における薬液の流出口に対して、先端に穿刺針が固定されたチューブが連結される構成となっている。
【0052】
<押し子103>
押し子103は、シリンジ101内に液密を保った状態で摺動自在に陥入され、シリンジ101内の容積を自在に調整するものである。このような押し子103は、例えばシリンジ101に陥入されるヘッド部103aと、ヘッド部103aに対して垂直に立設されたシャフト部103bとで構成されて、シャフト部103bの長さは送りネジ19の長さと同程度であることとする。
【0053】
<ナット105>
ナット105は、押し子103に固定された状態で送りネジ19に嵌合して設けられたものである。ここでは、押し子103におけるシャフト部103bの後端部、すなわちヘッド部103aとは逆側に、ナット105が固定されていることとする。
【0054】
これにより、最終段歯車17に固定して設けた送りネジ19を回転させた場合に、送りネジ19に嵌合させたナット105が送りネジ19の延設方向に移動する。このため、ナット105に固定された押し子103がシリンジ101内において送りネジ19の延設方向に摺動し、これに伴ってシリンジ101内の容積が伸縮する。
【0055】
以上のようなナット105は、送りネジ19に対して取り外し自在なハーフナットとして構成されていても良い。これにより、シリンジ101および押し子103は、ナット105を介してモータ11や閉塞検知部20を備えた薬液投与装置1の本体部分から着脱自在となる。この場合、薬液投与装置1は、筐体10内に設けたモータ11、歯車13,15,17、送りネジ19、閉塞検知部20、および警報部33を、繰り返し使用可能なリユース部として有する。一方、薬液に晒されるシリンジ101、押し子103、チューブ107、および電池ボックス31を、別の筐体に設けて取り外し自在としたディスポ部として有する構成となる。
【0056】
尚、薬液投与装置1をリユース部とディスポ部とに分ける構成としては、ナット105をハーフナットとする構成に限定されることはない。例えば、ナット105をフルナットとして構成し、送りネジ109が陥入された状態のフルナットを、シャフト部103bに対して取り外し自在な構成としても良い。
【0057】
また、薬液投与装置1をリユース部とディスポ部とに分ける必要のない場合であれば、ナット105はハーフナットとして構成することに限定されず、通常のリング状のナットであって良い。またこの場合、押し子103をヘッド部103aのみとし、ヘッド部103aの中央を貫通させる状態でナットを形成することにより、押し子103のヘッド部103aに送りネジ19を貫通させた構成としても良い。
【0058】
≪薬液投与装置の動作≫
以上のように構成された薬液投与装置1は、次のように動作する。
【0059】
先ず、薬液の投与を行う場合、モータ11を所定方向に駆動させることにより、モータ11の回転軸11aに固定された固定スリット円盤21が、モータ11に同期して所定方向に回転する。これにより、固定スリット円盤21に対して組み付けられたスリット円盤23および初段歯車13が回転し、さらに中間歯車15、最終段歯車17、および最終段歯車17に固定された送りネジ19が回転する。
【0060】
送りネジ19の回転により、最終段歯車17から離れる方向に押し子103が移動し、シリンジ101内の薬液がチューブ107を介して装置外に押し出される。この際、スリット円盤23には、押し子103に掛かる背圧が、送りネジ19、最終段歯車17、中間歯車15、および初段歯車13を介して印加される。
【0061】
ここで、シリンジ101内からの薬液の押し出しが正常である正常状態においては、スリット円盤23に掛かる背圧は一定である。このため、固定スリット円盤21とスリット円盤23とは初期状態に保たれ、ねじりバネ25の復元力によって固定スリット円盤21に対してスリット円盤23が同期して回転する。
【0062】
この状態においては、
図6Aに示すように、例えば固定スリット円盤21とスリット円盤23とは、スリットs1の配置周期に対してスリットs2の配置周期が半周期ずれた状態で回転する。したがって
図6Bに示すように、光センサにおいて検出されるデジタル信号は、スリットs1とスリットs2との重なり部分[s1+s2]において、検出信号「1」がn回連続してカウントされる。その間には検出信号「0」がm回連続してカウントされる。これは、前述したとおりである。
【0063】
これに対して、何らかの要因によってシリンジ101から押し出される薬液の流路が閉塞されると、押し子103を介してスリット円盤23に掛かる背圧が上昇する。これにより、スリット円盤23を固定スリット円盤21に対して組み付けているねじりバネ25が、背圧の上昇の度合いに応じた角度だけたわむ。したがって、固定スリット円盤21には背圧の上昇分がそのまま伝達されることが制限される。
【0064】
この状態においては、
図7Aに示すように、ねじりバネ25のたわみ角に対応して、スリット円盤23の回転が固定スリット円盤21の回転に対して遅れた状態となる。したがって
図7Bに示すように、光センサにおいて検出されるデジタル信号は、スリットs1とスリットs2との重なり部分[s1+s2]における検出信号「1」が、n−x回連続してカウントされる場合と、n+x回連続してカウントされる場合とが交互に現れる。その間には、検出信号「0」がm回連続してカウントされる。尚、x=1〜nである。
【0065】
またさらに、薬液の流路の閉塞が進むと、スリット円盤23に掛かる背圧がさらに上昇するため、ねじりバネ25のたわみ角が増加する。これにより、
図8Aに示すように、スリット円盤23の回転が固定スリット円盤21の回転に対してさらに遅れることになる。そして
図8Bに示すように、スリットs1とスリットs2との重なり部分[s1+s2]において、検出信号「1」が2n回連続してカウントされ、その間には検出信号「0」が2m回連続してカウントされるようになる。
【0066】
そしてさらに、薬液の流路の閉塞が進むと、固定スリット円盤21のスリットs1とスリット円盤23のスリットs2とが完全に重なる。この状態においては、出力信号の解析において最も顕著に閉塞状態が検出されるため、この場合にねじりバネ25の最大たわみ角となるようにしても良い。
【0067】
≪閉塞検知方法≫
次に、以上のように駆動される薬液投与装置1において、演算部29において実施される流路閉塞の判断アルゴリズムは、一例として次の通りである。
【0068】
演算部29では、
図6〜
図8を用いて説明したように、光センサ27から出力された信号データに基づき、一例として検出信号「1」が2n回連続してカウントされた場合と、検出信号「0」が2m回連続してカウントされた場合とが交互に現れた状態を閉塞状態と判断する。このような閉塞状態においては、流路が完全に閉塞された状態である必要はなく、設定された所定量にまで流量が減った状態であれば良い。
【0069】
尚、光センサ27を構成する発光素子は、パルス発信するものに限定されることはなく、この場合、発光素子からの出力の切り替え回数や、切り替えのタイミングの変化によって閉塞状態を判断してもよい。例えば
図6の通常状態に対して、
図8の閉塞状態では、所定時間内における発光素子からの出力の切り替え数が1/2になるため、これによって閉塞状態を判断してもよい。
【0070】
そして、以上のような何れかの方法で判断された閉塞状態が、所定の状態だけ続いた場合に、警報部33に対して閉塞状態を知らせる信号を送信し、警報部33からの警報が発信されるようにする。例えば、薬液投与装置1がインスリンポンプであれば、インスリンの薬液の投入の不足量(一例として3単位)を予め設定しておき、閉塞状態がこの不足量の分に達するまで続いた場合に、警報部33に対して信号を送信する。
【0071】
≪効果≫
以上のように構成された薬液投与装置1においては、モータ11に固定された固定スリット円盤21に対して、送りネジ19に同期して回転するスリット円盤23のズレを光センサ27で検出するエンコーダによって閉塞検知が行われる。これにより、1枚のスリット円盤のみを用いたエンコーダによって閉塞検知を行う構成と比較して、閉塞検知の精度の向上を図ることが可能である。
【0072】
また、ダイアフラム形式による閉塞検知と組み合わせることなく、上述した精度の高い閉塞検知が行われるため、装置の小型化を図ることも可能である。
【0073】
さらにこの閉塞検知部20は、エンコーダのみによる閉塞検知であるため、ダイアフラム形式と比較して閉塞検知部20が薬液に晒されることがない。このため、薬液投与装置1が、ディスポ部とリユース部とに分かれた装置構成の場合に、リユース部に閉塞検知部20を設けることができ、装置コストの低減を図ることが可能になる。
【0074】
さらに、ねじりバネ25を介して組み付けられた固定スリット円盤21とスリット円盤23とが、トルクリミッタを構成している。これにより、流路閉塞によってスリット円盤23に掛かる背圧の上昇分が、そのままモータ11に伝達されることが制限され、装置の信頼性の向上を図ることも可能である。
【0075】
≪変形例≫
尚、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0076】
例えば、以上説明した実施の形態においては、モータ11と初段歯車13との間に固定スリット円盤21とスリット円盤23とを重ね合わせた閉塞検知部20を設けた構成を説明した。しかしながら本発明の薬液投与装置は、モータ11に同期して回転する固定スリット円盤21と、送りネジ19に同期して回転するスリット円盤23とが、ねじりバネ25を介して同軸上に重ねて組み付けられた構成であれば、同様の効果を奏することが可能である。
【0077】
このため、固定スリット円盤21とスリット円盤23とを重ね合わせた閉塞検知部20は、最終段歯車17と送りネジ19との間に設けられても良い。また固定スリット円盤21とスリット円盤23とを重ね合わせた閉塞検知部20は、重ね合わせた2枚の中間歯車15の間に設けられても良い。
【0078】
さらに、以上説明した実施の形態においては、モータ11と初段歯車13との間に、1つの固定スリット円盤21と1つのスリット円盤23とを重ね合わせた閉塞検知部20を設けた構成を説明した。しかしながら本発明の薬液投与装置は、1つの固定スリット円盤21に対して、複数のスリット円盤23を重ね合わせても良い。この場合、各スリット円盤23の間にねじりバネ25のような弾性体を挟持させることとする。これにより、複数のスリットの重なり状態の変化に基づいて、薬液流路の閉塞検知を行うことが可能になる。
【0079】
また、以上説明した実施の形態においては、アクチュエータの一例としてモータ11を例示したが、アクチュエータは回転運動するものに限らない。例えば、
図9に示すように、ピエゾ素子201などを用いて直線運動を回転運動として出力するものでもよい。ピエゾ素子201を用いた構成であれば、ピエゾ素子201と、ピエゾ素子201によって駆動される回動部材203と、回動部材203によって駆動される歯車205とを、固定スリット円盤21の背面に設ける。
【0080】
ピエゾ素子201は、電圧印加によって伸縮する一方の端部を固定端201aとし、他方の端部を伸縮端201bとして配置される。
【0081】
回動部材203は、ピエゾ素子201の伸縮方向に添って延設された部材であり、ピエゾ素子201の伸縮方向に対して垂直に設けた軸部207において回動自在に固定されている。このような回動部材203は、一端側がピエゾ素子201の伸縮端201bによって押し圧される力点端203aとして構成されている。また、軸部207によって固定された部分を挟んだ他端側は、歯車205を一方向に押し圧する作用端203bとして構成されている。この作用端203bは、ピエゾ素子201の伸縮端201bが延びて力点端203aを押し、軸部207を中心にして回動部材203が回動した場合に、歯車205を一方向に押し圧する。
【0082】
尚、回動部材203の力点端203aは、ピエゾ素子201の伸縮端201bに追従するように、ピエゾ素子201の伸縮端201bに対して接続された状態であることとする。また、回動部材203の作用端203bは、ピエゾ素子201の伸縮端201bが縮んで力点端203aが伸縮端201bに追従した場合には、歯車205とはかみ合うことなく、元の位置に戻る様に構成されていることとする。
【0083】
以上のように、ピエゾ素子201と回動部材203とによって駆動される歯車205は、上述した固定スリット円盤21に対して、同軸に固定されている。
【0084】
以上説明した構成のアクチュエータは、ピエゾ素子201の周波数駆動により、作用端203bの往復運動および歯車205の回転速度が制御される。
【0085】
このような構成のアクチュエータであっても、上述した実施形態でアクチュエータとして説明したモータ11と同様に用いることができる。
【0086】
また、以上説明した実施の形態においては、シリンジ101内において押し子103を摺動させるための出力軸として、ナット105に嵌合させた送りネジ19を設けた例を説明した。しかしながら出力軸の構成がこれに限定されることはない。例えば
図10に示すように、ウォームギアを用いた構成であっても良い。
【0087】
この場合、最終段歯車17の回転軸上に、出力軸19’を立設し、その先端にウォームギア19aを設ける。そして、押し子103’のシャフト部103b’には、その長さ方向に添った全長にわたって、ウォームギア19aがかみ合うノコ歯状のラックを形成した構成とする。このような構成であれば、出力軸としてのウォームギア19aから、押し子103’およびシリンジ101等をディスポ部として取り外し自在とすることができる。