特許第6442574号(P6442574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6442574ナノ粒子集合体、ナノ粒子焼成物、及びこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442574
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】ナノ粒子集合体、ナノ粒子焼成物、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20181210BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20181210BHJP
   D06M 11/36 20060101ALI20181210BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   D06M11/83
   D06M11/36
   D06M101:06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-157812(P2017-157812)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2018-154545(P2018-154545A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-51281(P2017-51281)
(32)【優先日】2017年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−209779(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/095574(WO,A1)
【文献】 特表2015−513569(JP,A)
【文献】 特表2014−530946(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0211308(US,A1)
【文献】 特開2016−047940(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/047491(WO,A1)
【文献】 特開2008−121127(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/043146(WO,A1)
【文献】 特開2018−059057(JP,A)
【文献】 特開2015−071843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M11/00−11/84
D21H15/10−15/12
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーに、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる、二次電池の電極用バインダーであるナノ粒子集合体。
【請求項2】
セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の平均粒径が、30nm以下である、請求項1に記載のナノ粒子集合体。
【請求項3】
平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーに誘導されて、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して配列してなる、ナノ粒子焼成物。
【請求項4】
セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の平均粒径が、30nm以下である、請求項に記載のナノ粒子焼成物。
【請求項5】
次の工程(I)〜(III)':
(I)少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、並びにセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上、圧力が0.3〜0.9MPaの水熱反応に付してナノ粒子集合体を得る工程
(III)'得られたナノ粒子集合体を、さらに酸素雰囲気下での焼成に付する工程
を備える、請求項又はに記載のナノ粒子焼成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子を含み、かつ特異な形状を有するナノ粒子集合体及びナノ粒子焼成物、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が1〜100nmのセラミックス粒子(以下、「セラミックスナノ粒子」と称する。)や金属ナノ粒子(以下、「金属ナノ粒子」と称する。)は、これよりも大きな粒径のセラミックス粒子や金属粒子に比べて、比表面積が大きく、光学的、電気的、又は磁気的性質において、量子効果が発現することが特徴の一つとして挙げられる。例えば、セラミックス粒子の比表面積が増大すると、粒子表面に露出する原子の割合も増大し、触媒化学反応のような外部の物質との化学反応の効率が高まるため、セラミックスナノ粒子や金属ナノ粒子(以下、「ナノ粒子」とも総称する。)は、あらゆる分野で有用性の高い材料として知られている。
【0003】
より具体的には、例えば、酸化チタン(TiO)は、ダイヤモンドより高い屈折率を有し、可視光を吸収せず、化学的安定性にも優れる等の特徴を有することから、白色顔料・着色料や紫外線吸収剤として塗料等に広く用いられているが、これをナノ粒子とすることによって、日焼け止め化粧品や、アナターゼ型については光触媒機能(太陽光のみでのセルフクリーニング、空気清浄、水質浄化、抗菌・防かび)を有する塗料、触媒担体等の有用な材料として、より広い分野での活用が期待できる。
【0004】
また、アルミナ(Al)は、高い化学的安定性や機械的強度、小さい熱膨張率、及び大きな電気絶縁抵抗等を有することから、陶磁器、セラミックス材料、研削・研磨材等として利用されているが、これをナノ粒子とすることによって、さらに各種電子部品や触媒の担体における有用な材料としても活用することが可能となる。さらに、アルミナの一水和物であるベーマイト(AlOOH)も、化学的安定性に優れており、樹脂添加剤等として利用されているが、これをナノ粒子とすることによって、表面コート材、酵素固定化担体、アルコール脱水膜等への利用が可能となる。また、研磨剤として利用される酸化セリウム(CeO)も、酸素貯蔵能及び紫外線遮蔽効果に優れており、これをナノ粒子とすることによって、有用な触媒としての利用が可能になる。
【0005】
こうしたナノ粒子の特性を有効に引き出すためには、かかるナノ粒子の結晶性や表面特性の制御、さらに粒径の制御や化学組成の均質化が重要となる。また、かかるナノ粒子の製造方法としては、気相化学析出(CVD)法等の気相法による方法や、或いは共沈法、アルコキシド法、ゾルーゲル法、又は水熱法等の液相法による方法が用いられているが、より効率的に粒子の大きさ、形状、化学組成等を精密に制御できる製造方法の実現も望まれており、種々の検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、金属酸化物微粒子表面を有機物が修飾した有機修飾金属酸化物微粒子が開示されており、かかる粒子は超臨界流体を用いる超臨界水熱法により製造できることも記載されている。また、特許文献2には、最表面が酸素イオン層により構成された結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めている酸化物微結晶粒子からなる粉体が開示されており、これも特許文献1と同様、超臨界水熱法により得られることが記載されている。
【0007】
一方、リチウムイオン二次電池等の正極や負極を作製する際に用いるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリイミド等の有機溶剤系バインダーが多用されている。こうしたなか、環境面への配慮や電極作製工程の簡略化の視点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)やポリアクリル酸のような水系バインダーが活用されつつあるほか、特許文献3に記載されるように、セルロースナノファイバー(CNF)を用いれば、二次電池におけるサイクル特性の改善が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−193237号公報
【特許文献2】特開2007−217265号公報
【特許文献3】国際公開第2013/042720号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜2において、ナノ粒子を製造する際に用いる超臨界水熱法は、温度が350〜450℃で、圧力が16〜50MPa(160〜500bar)という、高温高圧での特殊な条件を要するものである上、粒子を回収した後も凝集等を回避して微粒子のまま分散安定化させるべく、有機物質によってかかる粒子の表面修飾がなされている。
また、上記特許文献3のように、CNFを二次電池の電極用バインダーとして用いると、界面活性剤が介在していたとしても、疎水性である導電助剤と均一に混合するのは困難であるため、二次電池の充放電サイクル時に電極合材層が集電体から剥離しやすく、依然としてサイクル特性を充分に高めるには至っていない。
【0010】
したがって、本発明の課題は、有機物質による表面修飾を要することなく、簡便な方法で製造することができる特異な形状を有するナノ粒子集合体及びナノ粒子焼成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、セルロースナノファイバーを軸又は基材として、これにセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が複数連なって担持又は配列してなる形状を呈することにより、有用性の高いナノ粒子集合体又はナノ粒子焼成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーに、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる、ナノ粒子集合体を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー由来の炭素鎖に、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる、ナノ粒子焼成物、或いは平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーに誘導されて、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して配列してなる、ナノ粒子焼成物を提供するものである。
【0014】
さらに、本発明は、次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、並びにセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上、圧力が0.3〜0.9MPaの水熱反応に付してナノ粒子集合体を得る工程
を備える、上記ナノ粒子集合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のナノ粒子集合体又はナノ粒子焼成物によれば、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子がセルロースナノファイバーに担持又は誘導されてなる特異な形状を呈していることによって、これらセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の凝集が生じ難いため、これを用いた多孔質構造体やフィルム等の成型体を容易に製造することが可能である。また、酸素雰囲気下で焼成することによって、成型体中からセルロースナノファイバーを容易に除去できるので、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子のみからなる製品を簡便に得ることもできる。さらに、還元雰囲気下で焼成することによって、セルロースナノファイバーを鎖状の炭素として成型体中に残存させることができ、得られる製品に簡便に導電性を付与することもできる。
【0016】
また、本発明のナノ粒子集合体によれば、必要に応じてナノ粒子が有する特異な機能をセルロースナノファイバーに付加することができる。例えば、導電性を有するセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子をセルロースナノファイバーに担持させることによって、二次電池を構成する電極を作製する際のバインダーに高い導電性を付与することができ、別途導電助剤や界面活性剤を必要とすることなく電極を作製することができる。そのため、電極材料同士や電極材料と集電体との間の結着力を効果的に増強しつつ、電極合材層に占める活物質の割合を増やすことが可能となり、充放電サイクル時における剥離の発生を有効に抑制し、エネルギー密度及びサイクル特性に優れる二次電池の実現が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、実施例1で得られたベーマイト(AlOOH)のナノ粒子集合体を示すTEM写真であり、図1(b)は、使用したセルロースナノファイバー示すTEM写真である。
図2】比較例1で得られたベーマイト(AlOOH)のナノ粒子を示すTEM写真である。
図3】二次電池の電極用バインダーとして用いるための、セルロースナノファイバーに担持したナノ粒子集合体を示すTEM写真であり、図3(a)は、実施例2で得られたコバルト酸リチウムのナノ粒子集合体であり、図3(b)は、実施例3で得られた酸化スズのナノ粒子集合体であり、図3(c)は、実施例4で得られた酸化亜鉛のナノ粒子集合体である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のナノ粒子集合体(以下、「ナノアレイ」とも称する。)は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)に、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる。ナノアレイとは、一方のナノスケールの構造体に、他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を意味し、本発明のナノアレイは、平均繊維径が50nm以下のCNF、すなわち一方のナノスケールの構造体に、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子、すなわち他方のナノスケールの構造体が直線的に連続して担持してなる、串団子様又はトウモロコシ様の形状を呈している。
ここで、平均粒子径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において、数十個の粒子の粒子径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味する。
【0019】
このように、本発明のナノアレイは、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子がCNFに直線的に連続して担持してなるため、凝集抑制を目的としてナノ粒子に表面修飾を施す必要がなく、さらに適度な分散状態を保持していることから、これを用いて簡便に成型体へと加工することができる。また、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子自体が導電性を有しているため、別途導電助剤を必要とせず、二次電池の電極を作製するためのバインダーとしても有用性が高い。
【0020】
本発明のナノアレイは、内包するCNFの表面がセラミックス又は金属の不均質核生成の核生成部位となり、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が極細のCNFを囲い込むように、又は太いCNF表面に付着するように結晶成長しつつ、同様に結晶成長中の隣接するナノ粒子と接するまで結晶成長を継続することによって、ナノ粒子が不要に凝集することなく、整然と連なりながらCNFに連続して堅固に担持されて、串団子様又はトウモロコシ用の特異な形状が形成されてなるものと考えられる。
【0021】
本発明のナノアレイを構成するセルロースナノファイバー(CNF)とは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、水への良好な分散性も有している。
また、CNFを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されていることから、これが炭化されて導電パスとなりつつ鎖状の軸を形成し、ナノアレイに効果的に導電性を付与することもできる。
【0022】
CNFの平均繊維径は、50nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。
また、CNFの平均長さは、ナノアレイからの成型体の加工を効率的に行う観点から、好ましくは100nm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0023】
さらに、本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いる場合、CNFの平均長さは、二次電池の電極用バインダーとしての結着性の観点から、好ましくは100nm〜200μmであり、より好ましくは1μm〜200μmであり、さらに好ましくは10μm〜100μmである。またこの場合における、5質量%濃度のCNFスラリーの25℃における粘度は、好ましくは30000〜200000mPa・sであり、より好ましくは40000〜150000mPa・sであり、さらに好ましくは45000〜120000mPa・sである。
【0024】
本発明のナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子としては、少なくとも1種の金属元素を含み、かつナノサイズの粒子を形成することが可能であって、導電性を有しているものであればよく、特に限定されない。このようなセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子を構成する金属元素としては、例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の第VIII族の元素;Cu、Ag、Au等の第IB族の元素;Zn、Cd、Hg等の第IIB族の元素;B、Al、Ga、In、Tl等の第IIIB族の元素;Si、Ge、Sn、Pb等の第IVB族の元素;As、Sb、Bi等の第VB族の元素;Te、Po等の第VIB族の元素;Li等の第IA〜VIIA族の元素が挙げられる。なかでも、Li、Co、Ag、Au、Zn、In、Pt、Rh、Pd、Ru、Fe、Ni、Cu、Cd、Hg、Al、Ga、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Ba等の金属元素を含むのが好ましい。なかでも本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いるには、かかるセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子は、Li、Co、Ag、Au、Zn、In、Pt、Rh、Pd、及びRuから選ばれる金属元素を含むのがより好ましい。
【0025】
かかるセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子としては、具体的には、上記金属元素の単体、酸化物又は水酸化物、或いは複合酸化物等の粒子が挙げられ、例えば、SiO、TiO、ZnO、SnO、Al、MnO、MnO、NiO、Eu、Y、Nb、Nb、InO、ZnO、Fe、Fe、Co、ZrO、CeO、VO、V、AlOOH、YAl12、BaTiO、In−SnO、MgO−Al−SiO、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、SiO−Al−ZrO等が挙げられる。また、本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いるには、かかるセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子として、水熱合成が可能である観点から、LiCoO、SnO、ZnO、Au、Ag、In、Pt、Rh、Pd、及びRuから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0026】
また、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子を構成する金属元素の取り得る原子価が複数存在する場合、ナノアレイの最表面において酸素が容易に脱離して、結晶面の活性がより向上するため、本発明のナノアレイを触媒活性が優れた触媒として活用できる可能性が高まることから、本発明のナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子は、金属元素が複数の原子価を取り得る遷移金属を含むことが好ましい。なかでも、人体への影響を加味する観点から、かかる遷移金属が、Ce、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択されるものであることがより好ましい。
【0027】
本発明のナノアレイを構成するセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子は、微結晶粒子からなる。具体的には、かかるナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは20nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常3nm以上である。
【0028】
また、本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いる場合、ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは25nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常0.1nm以上である。
【0029】
また、セラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の晶癖としては、板状、針状、六面体、柱状等が挙げられる。なかでも、CNFとの担持が強固である観点及び電極内での導電パスを確保する観点から、CNFの軸長方向に伸延した六面体粒子が好ましい。
【0030】
なお、本発明のナノアレイは、粒子径や形状が均一なセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の集合体であることが好ましいが、粒子径や形状が異なるセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の集合体であってもよく、また化学組成が異なる2種以上のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子の集合体であってもよい。
【0031】
本発明のナノ粒子焼成物は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー由来の炭素鎖に、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなり、或いは平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーに誘導されて、複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して配列してなる。ここで、セルロースナノファイバー、及びセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子は、上記と同義である。
これらナノ粒子焼成物は、焼成によりセルロースナノファイバーが炭化されてなる鎖状の炭素となり、これにセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が直線的に連続して担持してなるものであり、或いは焼成によりセルロースナノファイバーが除去されてセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子が残存してなり、これらナノ粒子が除去されたセルロースナノファイバーに誘導されてなるかのように、直線的に連続して配列してなるものである。いずれも上記ナノアレイ由来の特異な形状を有しており、上記ナノアレイと同様、有用な成型体へと加工することができ、種々の分野での活用が期待される。
【0032】
本発明のナノアレイは、次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、並びにセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上、圧力が0.3〜0.9MPaの水熱反応に付してナノ粒子集合体を得る工程
を備える製造方法により、得ることができる。
かかる製造方法を用いることにより、上記特許文献1〜2に記載されるような、高温高圧での特殊な条件を要する超臨界水熱法を用いることなく、特異な形状を呈する本発明のナノアレイを得ることができる。また、上記特許文献3に記載されるバインダーのように、別途導電助剤を必要とすることのないバインダーとして有用性の高いナノアレイを得ることができる。
【0033】
工程(I)は、少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、並びにセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程である。
かかる工程(I)では、先ず、少なくとも1種の金属元素を含むセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、水、並びにセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを得る。セラミックス原料化合物又は金属原料化合物に含まれる金属元素は、上記と同義である。
かかるセラミックス原料化合物又は金属原料化合物としては、具体的には、例えば、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物、セリウム化合物、亜鉛化合物、スズ化合物、リチウム化合物、又はコバルト化合物等の金属化合物が挙げられる。なかでも、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等を好適に使用することができる。
【0034】
これらセラミックス原料化合物又は金属原料化合物、並びにセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを調製する際、水を用いる。かかる水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の点から、セラミックス原料化合物又は金属原料化合物の金属元素1モルに対して10〜300モルが好ましく、さらに50〜200モルが好ましい。
また、スラリーA中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーA中の水100質量部に対し、炭素原子換算で、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜8質量部である。
【0035】
工程(I)では、次に、上記スラリーAにアルカリ溶液を添加してスラリーBとし、中和反応によって、スラリーB中に溶解又は分散している金属成分を金属水酸化物にする。アルカリ溶液を添加するには、スラリーBのpHが10〜14に保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。かかるアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができるが、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いることが好ましい。
【0036】
上記スラリーBは、金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を進行させるのが好ましい。中和反応中におけるスラリーBの温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10〜60℃である。また、スラリーBの撹拌時間は、5分〜120分が好ましく、30〜60分がより好ましい。
【0037】
工程(II)は、得られたスラリーBを、温度が100℃以上、圧力が0.3〜0.9MPaの水熱反応に付してナノ粒子集合体を得る工程である。
かかる水熱反応中の温度は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5〜24時間が好ましく、さらに0.5〜15時間が好ましい。
【0038】
得られた水和反応生成物は、セルロースナノファイバーと金属酸化物、又はセルロースナノファイバーと結晶水を有する金属酸化物、或いはセルロースナノファイバーと金属からなるナノアレイであり、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することによりこれを単離できる。かかるナノアレイを水で洗浄する際、ナノアレイ1質量部に対し、水を5〜100質量部用いるのが好ましい。
乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられ、凍結乾燥が好ましい。
【0039】
また、本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いる場合、ナノアレイの凝集を低減できる観点から、ナノアレイの洗浄後、乾燥を行わず、リパルプすることによって所望の濃度のナノアレイを含有するスラリーを調製してもよい。かかるナノアレイの濃度は、二次電池の電極スラリー作製時のハンドリングの観点から、スラリー中に、好ましくは0.5〜20質量%であり、より好ましくは1.0〜15質量%であり、さらに好ましくは1.5〜12質量%である。
なお、本発明のナノ粒子集合体を二次電池の電極用バインダーとして用いる場合、セルロースナノファイバーの分散性を高める観点から、セルロースナノファイバーのスラリーを予め水熱処理した後、セラミックス原料化合物又は金属原料化合物のスラリーを添加して水熱反応に付すことによって、ナノ粒子集合体を得てもよい。
【0040】
本発明のナノ粒子焼成物の製造方法は、工程(II)で得られたナノ粒子集合体を、さらに還元雰囲気下での焼成に付する工程(III)を備えてもよい。これにより、工程(II)において単離して得られたナノアレイに含まれるセルロースナノファーバーを炭化させ、良好な導電性が付与された焼成物を得ることができる。
ここで、ナノ粒子同士の焼結を予防する観点から、焼成温度は、好ましくは200〜800℃であり、より好ましくは200〜700℃である。また焼成時間は、好ましくは5分〜10時間であり、より好ましくは5分〜5時間である。
【0041】
また、本発明のナノ粒子焼成物の製造方法は、上記工程(III)を備える代わりに、工程(II)で得られたナノ粒子集合体を、さらに酸素雰囲気下での焼成に付する工程(III)’を備えることもできる。これにより、工程(II)において単離して得られたナノアレイに含まれるセルロースナノファイバーを除去することができ、残存する複数のセラミックスナノ粒子又は金属ナノ粒子を、除去されたセルロースナノファイバーに誘導されてなるかのように、直線的に連続して配列させてなる焼成物を得ることができる。
なお、工程(III)’における焼成温度及び焼成時間は、上記工程(III)と同様である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1:ベーマイト(AlOOH)からなるナノアレイ]
Al(SO・16HO 3.15g、セルロースナノファイバー 3.89g(ダイセルファインケム社製、KY100G、含水量90質量%)、及び水 55mLを60分間混合してスラリーA1を作製した。得られたスラリーA1に、10質量%濃度のNaOH水溶液 12.0gを添加し、5分間混合してスラリーA2を作製した。
スラリーA2をオートクレーブに投入し、140℃で1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄し、約4時間にわたり80℃で温風乾燥して、ベーマイト(AlOOH)のナノアレイ(BET比表面積 250m−1)を得た。
【0044】
得られたベーマイト(AlOOH)のナノアレイのTEM観察像を図1(a)に示すとともに、使用したセルロースナノファイバー(KY100G)のTEM観察像を図1(b)に示す。なお、使用したTEMは、日本電子株式会社製JEM−ARM200Fであった。
【0045】
[比較例1:ベーマイト(AlOOH)のナノ粒子集合体]
セルロースナノファイバーを添加しなかった以外、実施例1と同様にしてベーマイト(AlOOH)のナノ粒子集合体(BET比表面積 200m−1)を得た。
得られたベーマイト(AlOOH)のナノ粒子集合体の凝集状態を確認するためTEM観察を行った。得られたTEM写真を図2に示す。
【0046】
[実施例2:コバルト酸リチウムのナノ粒子集合体]
Co(OH) 1.90g、セルロースナノファイバー19.29g(スギノマシン社製、TMa−10002、含水量98質量%)、及び水55mLを60分間混合してスラリーA1を作製した。得られたスラリーA1に、10質量%濃度のLiOH水溶液12.0gを添加し、5分間混合してスラリーA2を作製した。スラリーA2をオートクレーブに投入し、140℃で1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄し、水でリパルプして、二次電池の電極用バインダーとして用いるためのコバルト酸リチウムのナノアレイ(BET比表面積160m−1)をスラリー(濃度10質量%)として得た。
【0047】
[実施例3:酸化スズのナノ粒子集合体]
SnCl・2HO 4.60g、セルロースナノファイバー19.29g(スギノマシン社製、TMa−10002、含水量98質量%)、及び水55mLを60分間混合してスラリーB1を作製した。得られたスラリーB1に、10質量%濃度のNaOH水溶液12.0gを添加し、5分間混合してスラリーB2を作製した。スラリーB2をオートクレーブに投入し、140℃で1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄し、水でリパルプして、二次電池の電極用バインダーとして用いるための酸化スズのナノアレイ(BET比表面積200m−1)をスラリー(濃度10質量%)として得た。
【0048】
[実施例4:酸化亜鉛のナノ粒子集合体]
(CHCOO)Zn 3.75g、セルロースナノファイバー19.29g(スギノマシン社製、TMa−10002、含水量98質量%)、及び水55mLを60分間混合してスラリーC1を作製した。得られたスラリーC1に、10質量%濃度のNaOH水溶液12.0gを添加し、5分間混合してスラリーC2を作製した。スラリーC2をオートクレーブに投入し、140℃で1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄し、水でリパルプして、二次電池の電極用バインダーとして用いるための酸化亜鉛のナノアレイ(BET比表面積200m−1)をスラリー(濃度10質量%)として得た。
【0049】
[比較例2:CNFバインダー]
市販のセルロース粉末(Celite社製、Fibra−Cell BH−100)の1wt.%水分散液を作製し、スターバースト(スギノマシン社製)を用いて200MPaで50回の解繊処理を行い、二次電池の電極用バインダーとして用いるためのCNFバインダーを得た。
【0050】
[比較例2:SBRバインダー]
市販のSBR(スチレンブタジエンゴム)バインダー(MTI Japan社製、EQ−Lib−SBR)を二次電池の電極用バインダーとしてそのまま用いた。
【0051】
≪粒子形状の観察≫
実施例2〜4で得られた、二次電池の電極用バインダーとして用いるためのナノアレイの粒子形状を、TEMにより観察した。得られたTEM写真を図3に示す。
【0052】
≪二次電池におけるサイクル特性の評価≫
実施例2〜4、比較例2〜3で得られた二次電池の電極用バインダーを用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。
まず、予め以下の方法により、正極活物質(LiMn0.7Fe0.3PO4)を製造した。
【0053】
<LiMn0.7Fe0.3PO4の製造>
LiOH・HO 1272g、及び水4Lを混合してスラリーX1を得た。次いで、得られたスラリーX1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、続いてCNF(Wma−10002、スギノマシン社製、繊維径4〜20nm)5892gを添加して、速度400rpmで12時間撹拌して、LiPOを含むスラリーY1を得た。
得られたスラリーY1に窒素パージして、スラリーY1の溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーY1全量に対し、MnSO・5HO 1688g、FeSO・7HO 834gを添加してスラリーZ1を得た。添加したMnSOとFeSOのモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、70:30であった。
次いで、得られたスラリーZ1をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥して複合体X2を得た。
得られた複合体X2を1000g分取し、これに水1Lを添加して、スラリーY2を得た。得られたスラリーY2を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL−050M、藤崎電機株式会社製)を用いてスプレードライに付して造粒体Z2を得た。
得られた造粒体Z2を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、2.0質量%のCNF由来の炭素が担持されたリン酸マンガン鉄リチウム(LiMn0.7Fe0.3PO4、炭素の量=2.0質量%、平均粒径:100nm)を得た。
【0054】
<リチウムイオン二次電池の製造>
次に、上記で得られた正極活物質(LiMn0.7Fe0.3PO4)、並びに実施例2〜4及び比較例2〜3で得られたバインダーを用いてコイン型リチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、実施例2〜4のバインダーを用いる場合、上記で得られた正極活物質とバインダーとを質量比90:10の配合割合で混合し、これに水を加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。比較例2〜3のバインダーを用いる場合、上記で得られた正極活物質、アセチレンブラック、バインダー、カルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比90:5:2.5:2.5の配合割合で混合し、これに水を加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。
次いで、塗工機を用いて、得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR−2032)を得た。
得られた二次電池を用いて、サイクル特性を評価した。具体的には、電流密度170mA/g、電圧4.5Vの定電流充電と、電流密度170mA/g、終止電圧2.0Vの定電流放電とし、電流密度170mA/g(1.0CA)における放電容量を求めた。さらに、同じ充放電条件の100サイクル繰り返し試験を行い、下記式(I)により容量保持率(%)を求めた。なお、充放電試験は全て30℃で行った。
容量保持率(%)=(100サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)
×100・・・(I)
結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
図1
図2
図3