特許第6442661号(P6442661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6442661放射線撮像用マーカ及び放射線撮像用マーカの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442661
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】放射線撮像用マーカ及び放射線撮像用マーカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20181217BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   A61B6/00 390C
   A61B6/03 F
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-140089(P2017-140089)
(22)【出願日】2017年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-130526(P2018-130526A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2018年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2017-25650(P2017-25650)
(32)【優先日】2017年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】511221334
【氏名又は名称】株式会社ア・ジャストポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 喜美
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3065768(JP,U)
【文献】 特表2015−502819(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0094678(US,A1)
【文献】 登録実用新案第3098967(JP,U)
【文献】 特開平10−165391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 − 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム又はポリウレタンと、放射線不透過材料とを含んでいる材料からなり、可撓性を有する線状の本体部と、
前記本体部の材料よりも粘着性が高い粘着剤からなり、前記本体部の表面のうちの前記本体部の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、前記本体部の長さ方向に広がっている粘着層と、
を有しており、
前記本体部および前記粘着層全体としての横断面の形状が、直線と、当該直線とは反対側へ膨らむ曲線と、を含む外縁を有しており、
前記粘着層は、前記直線となる表面を構成している
放射線撮像用マーカ。
【請求項2】
前記本体部が前記放射線不透過材料としての硫酸バリウムを3%以上5%以下の重量比で含んでいる
請求項1に記載の放射線撮像用マーカ。
【請求項3】
前記本体部および前記粘着層全体としての横断面の形状が、直径2mm以上4mm以下の半円と、当該半円の弦を1辺とする、前記弦からの高さが1mm以上2mm以下の矩形とからなる
請求項1又は2に記載の放射線撮像用マーカ。
【請求項4】
前記粘着剤が着色剤を含んでいる
請求項1〜のいずれか1項に記載の放射線撮像用マーカ。
【請求項5】
シリコーンゴム又はポリウレタンの原料と放射線不透過材料とを混合する本体部材料生成ステップと、
前記本体部材料生成ステップで混合した材料を線状に成形して本体部を形成する本体部成形ステップと、
前記本体部の表面に未硬化の粘着剤を配置して硬化させ、前記本体部の表面のうちの前記本体部の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、前記本体部の長さ方向に広がる粘着層を形成する粘着層形成ステップと、
を備えている放射線撮像用マーカの製造方法。
【請求項6】
前記本体部材料生成ステップでは、主剤と硬化剤とを重量比40:60〜60:40で混合して前記シリコーンゴムを生成する
請求項に記載の放射線撮像用マーカの製造方法。
【請求項7】
主剤と硬化剤とを重量比40:60〜60:40で混合して前記未硬化の粘着剤を生成する粘着剤生成ステップを更に備えている
請求項5又は6に記載の放射線撮像用マーカの製造方法。
【請求項8】
前記本体部成形ステップでは、圧縮成形、押出成形、又は型内への材料の供給により、前記混合した材料を線状に成形する
請求項5〜7のいずれか1項に記載の放射線撮像用マーカの製造方法。
【請求項9】
前記粘着層形成ステップでは、成形後の前記本体部を所定の型の溝に配置し、前記溝内で前記本体部の上に前記未硬化の粘着剤を配置して硬化させる
請求項5〜8のいずれか1項に記載の放射線撮像用マーカの製造方法。
【請求項10】
前記本体部成形ステップでは、前記本体部材料生成ステップで混合した材料を第1型の溝に配置し、当該第1型の溝に第2型を被せて圧縮成形を行い、
前記粘着層形成ステップでは、第3型の溝に前記未硬化の粘着剤を配置し、前記第3型の溝に、圧縮成形で硬化された前記本体部が配置されたままの前記第1型を前記本体部側を向けて被せ、再度圧縮成形を行う
請求項5〜8のいずれか1項に記載の放射線撮像用マーカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線によって患者を撮像するときに使用されるマーカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を用いたコンピュータ断層撮影法(CT:Computed Tomography)など、放射線を用いて患者を撮像する方法が知られている。このような撮像に際して、患者の体表面に貼り付けられるマーカ(範囲指定マーカ、フィールドマーカ又はラインマーカ等といわれる。)が用いられることがある(例えば特許文献1参照)。マーカは、適宜な放射線不透過性を有しており、患者を撮像した放射線画像に現れる。このようなマーカは、例えば、マーカ無しの放射線画像では特定しにくい病巣範囲を放射線画像において特定することに寄与する。その結果、例えば、その後の放射線治療において放射線を照射する範囲を精度よく特定することができる。すなわち、放射線治療計画を適切に立てることができる。
【0003】
上記のようなマーカとして販売されているものとしては、例えば、テープ状の基台紙と、基台紙の接着面上に設けられ、基台紙よりも幅が狭い線状のマーカ(狭義のマーカ。ここでは、便宜上、マーカ本体ということがある。)と、マーカ本体を覆う保護紙とを備えたものが知られている。このマーカの使用においては、まず、保護紙を剥がして基台紙を体表面に貼り付ける。次に、基台紙に水分を含ませ、マーカ本体を残して基台紙を剥がす。これにより、マーカ本体が体表面に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−78534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなマーカは、種々の不都合を生じる。例えば、基台紙が比較的硬いこと、及び基台紙がマーカ本体に比較して幅広で平面視における曲げが制約されることから、患部の形状乃至は範囲に合わせて正確に貼ることが困難であったり、体表面への密着が不良となったりする。また、このように作業性が低いことから、医師及び放射線技師等(ユーザ)の負担が大きく、また、時間もかかる。基台紙を剥がすときに患者が痛みを感じるおそれもある。基台紙が貼り付けられることによっていわゆるテープかぶれが生じるおそれもある。従って、上記のような不都合の少なくとも1つを解決できるマーカ及びマーカの製造方法が提供されることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るマーカは、シリコーンゴム又はポリウレタンと、放射線不透過材料とを含んでいる材料からなり、可撓性を有する線状の本体部と、前記本体部の材料よりも粘着性が高い粘着剤からなり、前記本体部の表面のうちの前記本体部の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、前記本体部の長さ方向に広がっている粘着層と、を有している。
【0007】
一例において、前記本体部が前記放射線不透過材料としての硫酸バリウムを3%以上5%以下の重量比で含んでいる。
【0008】
一例において、前記本体部および前記粘着層全体としての横断面の形状が、直線と、当該直線とは反対側へ膨らむ曲線と、を含む外縁を有しており、前記粘着層は、前記直線となる表面を構成している。
【0009】
一例において、前記本体部および前記粘着層全体としての横断面の形状が、直径2mm以上4mm以下の半円と、当該半円の弦を1辺とする、前記弦からの高さが1mm以上2mm以下の矩形とからなる。
【0010】
一例において、前記粘着剤が着色剤を含んでいる。
【0011】
本開示の一態様に係る放射線撮像用マーカの製造方法は、シリコーンゴム又はポリウレタンの原料と放射線不透過材料とを混合する本体部材料生成ステップと、前記本体部材料生成ステップで混合した材料を線状に成形して本体部を形成する本体部成形ステップと、前記本体部の表面に未硬化の粘着剤を配置して硬化させ、前記本体部の表面のうちの前記本体部の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、前記本体部の長さ方向に広がる粘着層を形成する粘着層形成ステップと、を備えている。
【0012】
一例において、前記本体部材料生成ステップでは、主剤と硬化剤とを重量比40:60〜60:40で混合して前記シリコーンゴムを生成する。
【0013】
一例において、前記製造方法は、主剤と硬化剤とを重量比40:60〜60:40で混合して前記未硬化の粘着剤を生成する粘着剤生成ステップを更に備えている。
【0014】
一例において、前記本体部成形ステップでは、圧縮成形、押出成形、射出成形、又は型内への材料の供給により、前記混合した材料を線状に成形する。
【0015】
一例において、前記粘着層形成ステップでは、成形後の前記本体部を所定の型の溝に配置し、前記溝内で前記本体部の上に前記未硬化の粘着剤を配置して硬化させる。
【0016】
一例において、前記本体部成形ステップでは、前記本体部材料生成ステップで混合した材料を第1型の溝に配置し、当該第1型の溝に第2型を被せて圧縮成形を行い、前記粘着層形成ステップでは、第3型の溝に前記未硬化の粘着剤を配置し、前記第3型の溝に、圧縮成形で硬化された前記本体部が配置されたままの前記第1型を前記本体部側を向けて被せ、再度圧縮成形を行う。
【発明の効果】
【0017】
上記の構成又は手順によれば、好適なマーカが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)及び図1(b)は本開示の実施形態に係るマーカを示す外観斜視図であり、図1(c)は図1(b)のIc−Ic線断面図。
図2図2(a)〜図2(d)はマーカの横断面の種々の例を示す断面図。
図3図3(a)〜図3(d)はマーカの本体部の製造方法を説明するための模式図。
図4図4(a)〜図4(c)はマーカの粘着層の製造方法を説明するための模式図。
図5図5(a)〜図5(c)はマーカの本体部の製造方法の変形例を説明するための模式図。
図6】マーカを製造する射出成形機の例を示す模式図。
図7図7(a)〜図7(c)はマーカの粘着層の製造方法の変形例を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<マーカの構成>
(マーカの概要)
図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、本開示の実施形態に係るマーカ1を示す外観斜視図である。図1(c)は、図1(b)のIc−Ic線における断面図であり、マーカ1の横断面を示している。なお、図1(c)では、断面であることを示すハッチングは省略されている。
【0020】
マーカ1は、全体として線状(紐状)の部材であり、可撓性を有している。マーカ1は、患者の体表面に貼り付けられ、患者とともに撮像される。撮像は、X線等の放射線を用いるものであり、例えば、CT装置によってなされる。マーカ1は、例えば、再使用されない使い捨てのものとして作製されている。ただし、マーカ1は、再使用されてもよい。マーカ1は、そのままの長さで患者の体表面に貼り付けられてもよいし、ユーザによって適宜な長さに切断されて患者の体表面に貼り付けられてもよい。別の観点では、マーカ1の流通段階における長さは、任意に設定されてよい。
【0021】
図1(a)では、マーカ1は巻かれている。図1(b)では、マーカ1は直線状となっている。なお、図1(a)は、外力が全く若しくは殆ど加えられていないときに巻かれた形状になるマーカ1を示し、かつ図1(b)は、外力が全く若しくは殆ど加えられていないときに直線状になるマーカ1を示していると捉えられてもよいし、これとは異なり、図1(a)及び図1(b)は、外力が全く若しくは殆ど加えられていないときに互いに同一の形状となるマーカ1が互いに異なる外力を受けて変形している状態を示していると捉えられてもよい。外力が全く若しくは殆ど加えられていないときの形状について言及したが、マーカ1は、巻かれた形状若しくは直線状等に復帰するような復元力を殆ど生じず、外力が全く若しくは殆ど加えられていないときの形状が明確でないものであってもよい。
【0022】
マーカ1の寸法は、医療現場からのニーズに合わせて適宜に設定されてよい。例えば、ユーザによって切断して使用することを想定したタイプのマーカ1の流通段階における長さは、200mm以上1000mm以下である。また、マーカ1の径(例えば最大径)は、例えば、2mm以上4mm以下である。
【0023】
なお、マーカ1が線状(紐状)であるという場合、長さは径に比較して十分に大きい。例えば、長さは、最大径の5倍以上又は10倍以上である。逆に、本願において線状という場合、長さが径よりも十分に大きいという以外の条件は不要であり、例えば、筒状であっても線状に含まれる。
【0024】
(マーカの構造および断面形状)
マーカ1は、線状の本体部3と、本体部3の表面のうちの本体部3の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、本体部3の長さ方向に広がっている粘着層5とを有している。本体部3は、マーカ1の主体となる部分であり、例えば、マーカ1の強度確保及びX線不透過性の発揮等に寄与する。粘着層5は、マーカ1を患者の体表面に貼り付けるための粘着性を発揮する部分である。
【0025】
上記から理解されるように、マーカ1は、粘着層5側(平面状部分)が患者の体表面に貼り付けられる。なお、マーカ1が、外力が全く若しくは殆ど加えられていないときに巻かれた形状になるものである場合、マーカ1の横断面の形状と、巻かれる方向との相対関係は任意である。例えば、図1(a)の例では、平面状部分が内側を向いているが、平面状部分は、軸方向を向いていてもよいし、外側を向いていてもよい。
【0026】
横断面におけるマーカ1の構造(粘着層5が本体部3を覆う構造)、並びに本体部3及び粘着層5の横断面の形状及び寸法は、例えば、マーカ1の全長に亘って一定である。従って、図1(c)及び図1(c)を参照して行う説明は、マーカ1の全長に共通する。ただし、横断面における構造、形状及び/又は寸法は、マーカ1の全長に亘って一定でなくてもよい。例えば、横断面が拡径するフランジ部、又は横断面が縮径するノッチ部等を長さ方向において所定間隔で設けてもよい。また、例えば、マーカ1の端面は丸まっていてもよい。
【0027】
本体部3の横断面の形状は、例えば、半円3aと、半円3aの弦を1辺とする矩形3bとを有している。別の観点では、当該形状は、直線(矩形3bの半円3aとは反対側の1辺)と、直線とは反対側へ膨らむ曲線(半円3aの弧)とを含む外縁を有している。粘着層5の横断面の形状は、例えば、本体部3の矩形3bの、半円3aとは反対側の1辺を1辺とする矩形である。従って、マーカ1全体の横断面の形状は、半円(3a)と、半円の直径を1辺とする矩形(3bおよび5)とを有する形状である。別の観点では、当該形状は、直線と、直線とは反対側へ膨らむ曲線とを含む外縁を有している。
【0028】
マーカ1全体において、その高さht及び幅wは、いずれが大きくてもよい。図示の例では、両者は概ね同等となっている。本体部3の全体の高さh1は、例えば、粘着層5の厚さt2よりも大きい。あるいは、本体部3の全体の断面積は、粘着層5の断面積よりも大きい。これにより、例えば、マーカ1全体としての弾性及び放射線不透過性等の性質は、本体部3が支配的となる。本体部3の矩形3bの厚さt1及び粘着層5の厚さt2は、いずれが厚くてもよい。
【0029】
各種の寸法の具体的な値は適宜に設定されてよい。以下に一例を挙げる。半径rは、1mm以上2mm以下である。また、マーカ1の幅w(半円3aの直径、本体部3の幅、粘着層5の幅)は、2mm以上4mm以下である。矩形3bの厚さt1は、0.5mm以上1mm以下である。粘着層5の厚さt2は、0.5mm以上1mm以下である。本体部3全体としての高さh1は、1.5mm以上3mm以下である。マーカ1全体としての高さhtは、2mm以上4mm以下である。
【0030】
(マーカの特性)
マーカ1(本体部3及び粘着層5)は可撓性を有している。なお、確認的に記載すると、可撓性は、常温で撓む(曲がる)ことが可能な性質である。常温は、例えば、JIS(日本工業規格)で定義されている20℃±15℃(5℃以上35℃以下)である。マーカ1の撓みは、例えば、マーカ1の粘弾性によって実現されている。そのS−S曲線は適宜なものであってよい。マーカ1は、例えば、比較的大きな曲率で曲がることが可能である。例えば、マーカ1は、180°折り返すように曲げても完全な破断には至らない。マーカ1は、可撓性が付与されていることによって、例えば、複雑な3次元形状の体表面に対して密着したり、複雑な平面形状の病巣範囲を適切に囲んだりすることができる。
【0031】
粘着層5は粘着性を有している。なお、確認的に記載すると、粘着性は、常温において(比較的小さい圧力で)被着対象に押し付けられたときに被着対象に接着する性質であり、固化によって接着する性質とは区別される。別の観点では、粘着層5の表面は、いわゆる、べたべたした状態が保たれている。粘着層5は、例えば、粘着性が付与されていることによって、接着剤を介さずに、また、水分を揮発させる等の作業を要さずに、粘着層5自体の粘着力によって体表面に接着可能である。
【0032】
粘着層5の粘着性に関して、粘着力(剥離力)、タック(狭義の粘着性)及び凝集力(保持力)は適宜に設定されてよい。ただし、粘着層5の粘着力は、比較的小さくされてよい。粘着力を比較的小さくすることにより、例えば、剥がすときに患者が痛みを感じるおそれを低減できる。また、ユーザが指をマーカ1から離しやすく、作業性が向上する。具体的には、例えば、ステンレス鋼板に貼り付けられた10mm幅のテープを長手方向に180度折り返して剥がすときの力(N/10mm)で粘着力を表したときに、マーカ1の材料の粘着力は、1N/10mm以下である。この大きさは、軽包装などに利用される紙粘着テープの粘着力以下の大きさである。
【0033】
本体部3は、放射線画像に写るように放射線不透過性が付与されている。不透過性は、放射線の吸収によるものであってもよいし、放射線の反射によるものであってもよい。また、放射線不透過性の程度は、適宜に設定されてよい。例えば、本体部3は、CT値(例えば本体部3の体積全体における平均値)が0以上、50以上、100以上又は150以上になるように放射線不透過性の程度が設定されている。また、例えば、本体部3は、CT値が800以下、300以下又は100以下になるように放射線不透過性の程度が設定されている。なお、上記の本体部3のCT値の下限値及び上限値は、下限値が上限値を上回らない限り、適宜に組み合わされてよい。また、本体部3のCT値は、上記の下限値よりも小さくてもよいし、上限値よりも大きくてもよい。
【0034】
ここで、水のCT値は0、軟部組織のCT値は−50程度、脳又は肝臓のCT値は35〜100、肺のCT値は−800〜−700、骨のCT値は800〜1000である。従って、本体部3の放射線不透過性の程度が上記の下限値以上であれば、例えば、十分にマーカとしての機能を果たすことが可能である。また、本体部3の放射線不透過性の程度が、上記の上限値以下であれば、例えば、本体部3によってアーチファクトが生じるおそれが低減される。なお、本体部3は、人体のいずれの部位に用いられてもよい汎用的なものとして放射線不透過性の程度が設定されてもよいし、特定の部位に適合するものとして放射線不透過性の程度が設定されてもよい。
【0035】
なお、粘着層5だけでなく、本体部3にも粘着性を付与してもよい。また、本体部3だけでなく、粘着層5にも放射線不透過性を付与してもよい。
【0036】
(本体部の材料)
本体部3の材料は、シリコーンゴム又はポリウレタン(ウレタン樹脂)を主成分とするとともに、放射線不透過材料(例えばX線不透過材料)を含んでいる。シリコーンゴム又はポリウレタンを主成分とすることによって、例えば、本体部3に適度な弾力性を付与することが容易になる。なお、粘着性を付与することも可能である。また、放射線不透過材料をマーカ1に含ませることによって、マーカ1の放射線不透過性を適宜に調整することができ、マーカ1が放射線画像に明瞭に写りやすくなる。なお、主成分は、例えば、その材料の少なくとも50wt%を超える成分である。
【0037】
シリコーンゴム、ポリウレタン及び/又は放射線不透過材料は、メディカルグレードのものであることが好ましい。すなわち、これらの材料は、生産工程について医療向けとしての認証を受けた工場で製造されたものであることが好ましい。シリコーンゴムについては、医療機器用接着剤として使用されているメディカルグレードの液状シリコーンが用いられてもよい。また、混合後の本体部3の材料、及び当該材料を用いて作製されたマーカ1も医療向けとしての認証を受けることが好ましい。なお、認証機関は、例えば、マーカ1が実施される国におけるものでよい。
【0038】
(シリコーンゴム)
シリコーンゴムの具体的な組成乃至は構造は、公知の適宜なものとされてよい。なお、ここでいうシリコーン(シリコーンゴム)は、ケイ素と酸素とが交互に結びついたシロキサン結合を基本構造とし、さらに有機基が結合した高分子化合物(狭義のシリコーン)だけでなく、材料の特性を調整等するために狭義のシリコーンゴムに対して種々の材料を混合して得られる、慣習的にシリコーンゴムと呼ばれているものを含むものとする。
【0039】
シリコーンゴムは、原料段階(硬化前)において、粘度が比較的低い液状シリコーンゴムであってもよいし、粘度が比較的高いミラブル型シリコーンゴムであってもよい。別の観点では、硬化前のシリコーンゴムは、重合度乃至は分子量が比較的低くてもよいし、比較的高くてもよい。液状シリコーンゴムの重合度は、例えば、100以上2,000以下である。ミラブル型シリコーンゴムの重合度は、例えば、重合度3,000以上10,000以下である。
【0040】
液状シリコーンゴムは、大気中の湿気などと反応して硬化する一液性のものであってもよいし、主剤に硬化剤が混合されて硬化する二液性(又は三液性)のものであってもよい。また、液状シリコーンゴムは、硬化時に縮合生成物を生じる縮合型であってもよいし、付加反応によって硬化する付加型であってもよい。また、液状シリコーンゴムは、常温で硬化する常温硬化型であってもよいし、加熱によって硬化される、又は硬化が促進される加熱硬化型であってもよい。
【0041】
二液性の液状シリコーンゴムにおいて、シリコーンポリマーを含む主剤、及びシリコーンポリマーを架橋させて硬化させる硬化剤の具体的な組成乃至は構造は、公知の種々のものとされてよい。硬化剤は、架橋剤及び触媒が主剤との混合まで分離して保存されるものであってもよいし、混合された状態で保存されるものであってもよい。主剤又は硬化剤は、強度を補強する充填剤、シリコーンゴムの柔らかさを調整する添加剤、又は硬化を促進若しくは阻害する添加剤等、適宜な添加物を含んでいてよい。
【0042】
本体部3の材料に用いる二液性の液状シリコーンゴムとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社の「QP1−20A&20B」、「QP1−30A&30B」及び「QP1−40A&40B」を挙げることができる。なお、上記において、20、30および40の数値はショア硬度を示している。例えば、「QP1−20A&20B」はショア硬度が20°であることを示している。
【0043】
二液性のシリコーンゴムにおいては、主剤と硬化剤との重量配合比を適宜に設定することによって、弾性及び/又は粘着性等の特性を適宜に調整することが可能である。具体的な主剤及び硬化剤の組成乃至は構造にもよるが、例えば、主剤と硬化剤との重量比を40:60〜60:40(例えば1:1)にすることによって好適な弾性及び/又は粘着性が得られる。上記の「QP1−20A&20B」、「QP1−30A&30B」及び「QP1−40A&40B」においても同様である。
【0044】
(ポリウレタン)
ポリウレタンの具体的な組成乃至は構造は、公知の種々のものとされてよい。なお、ここでいうポリウレタンは、ウレタン結合を有する高分子化合物(狭義のポリウレタン)だけでなく、材料の特性を調整等するために狭義のポリウレタンに対して種々の材料を混合して得られる、慣習的にポリウレタン(又はウレタン樹脂若しくはウレタン系樹脂)と呼ばれているものを含むものとする。
【0045】
ポリウレタンは、その原料段階(硬化前)において、大気中の酸素または湿気などと反応して硬化する一液性のものであってもよいし、水酸基を有する高分子化合物(例えばポリオール)を含む主剤と、イソシアネート基を有する高分子化合物(例えばポリイソシアネート)を含む硬化剤とが混合されて硬化する二液性のものであってもよい。二液性のポリウレタンにおいて、主剤及び硬化剤の具体的な組成乃至は構造は、公知の種々のものとされてよい。また、主剤又は硬化剤は、ポリウレタンを柔らかくするための可塑剤を比較的大きな割合(例えばポリオールよりも大きな割合)で含んでいてもよい。
【0046】
本体部3の材料に用いるポリウレタンとしては、例えば、株式会社ポリシスの「ポリクリスタルPC−00N」を挙げることができる。
【0047】
二液性のポリウレタンにおいては、主剤と硬化剤との重量配合比を適宜に設定することによって、弾性及び/又は粘着性等を調整することが可能である。具体的な主剤及び硬化剤の組成乃至は構造にもよるが、例えば、主剤と硬化剤との重量比を100:40〜100:60にすることによって好適な弾性及び/又は粘着性が得られる。上記「ポリクリスタルPC−00N」においても同様である。
【0048】
(放射線不透過材料)
放射線不透過材料は、シリコーンゴム又はポリウレタンを主成分とする本体部3に放射性不透過性を付与するものであるので、少なくとも、シリコーンゴム又はポリウレタンよりも放射線不透過性が高い。このような材料としては、例えば、硫酸バリウム、カオリン、ベントナイト、タルク、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ砂、アルミナ、イライト、バーミキュライト、ノントロナイト、サポナイト、クロライト、アロフェン、リン酸カルシウム、鉄粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素及びジルコニアを挙げることができる。
【0049】
放射線不透過材料は、例えば、主成分であるシリコーンゴム又はポリウレタンに対して、これらの可撓性(粘弾性)を大きく損なわない量で添加される。また、放射線不透過材料は、例えば、本体部3のCT値が上述した下限値のいずれか以上となる量で添加されればよい。一例を挙げると、放射線不透過材料は、本体部3の全体の重量に対して、3%以上5%以下(例えば4%)の重量比で添加される。
【0050】
(粘着層の材料)
粘着層5を構成する材料(粘着剤)は、本体部3の材料よりも粘着性が高い適宜なものとされてよい。例えば、粘着剤は、シリコーンゴム又はポリウレタンを主成分とするものとされてよい。本体部3の材料としてのシリコーンゴム又はポリウレタンについて述べた説明は、具体的な組成を除いて、粘着層5の材料としてのシリコーンゴム又はポリウレタンの説明としてよい。
【0051】
例えば、粘着層5の材料としてのシリコーンゴム又はポリウレタンは、狭義のものに限定されないし、硬化前の粘度は適宜な値であってよいし、二液性であってもなくてもよいし、硬化の化学反応も適宜なものであってよい。また、粘着層5に含まれる材料、混合後の粘着層5の材料、当該材料を用いて作製されたマーカ1が医療向けとしての認証を受けることが好ましいことも本体部3における説明と同様である。
【0052】
本体部3の材料の説明で述べたように、二液性のシリコーンゴム等は、主剤と硬化剤との重量配合比を適宜に設定することによって、粘着性等の特性を調整することが可能である。具体的な主剤及び硬化剤の組成乃至は構造にもよるが、例えば、主剤と硬化剤との重量比を40:60〜60:40(例えば1:1)にすることによって好適な粘着性が得られる。
【0053】
粘着層5の材料に用いる二液性のシリコーンゴムとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社の「MG7−9800A&B」、「MG7−9850A&B」及び「MG7−9900A&B」を挙げることができる。なお、これらにおいても、主剤と硬化剤との重量比を40:60〜60:40(例えば1:1)にすることによって好適な粘着性が得られる。
【0054】
なお、上記の「MG7−9800A&B」、「MG7−9850A&B」又は「MG7−9900A&B」に対して、本体部3の材料の説明で例示した「QP1−20A&20B」、「QP1−30A&30B」又は「QP1−40A&40B」を混合してもよい。これにより、例えば、粘着層5の強度を向上させることができる。このときの前者(「MG7−9800A&B」等)における主剤と硬化剤との混合比、及び後者(「QP1−20A」等)における主剤と硬化剤との混合比は、既に述べたように、例えば重量比で40:60〜60:40(例えば1:1)である。また、粘着層5における後者(「QP1−20A」等)の比率は、例えば、重量比で50%以下である。
【0055】
粘着層5の材料は、適宜な着色剤を含んでいてもよい。これにより、例えば、本体部3の材料と粘着層5の材料との色が近い場合において、両者を区別することが容易化され、ひいては、粘着面を認識することが容易化される。着色剤は、顔料であってもよいし、染料であってもよい。また、着色剤は、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。着色剤の添加量は、例えば、上記のように粘着層5と本体部3との区別を容易化できる程度であればよい。
【0056】
(マーカの横断面の形状の変形例)
マーカ1の横断面の形状は、図1(c)に示した以外にも、適宜な形状とされてよい。以下では、いくつかの変形例を挙げる。なお、以下では、説明の便宜上、実施形態と同一の符号を用いるものとする。
【0057】
図2(a)〜図2(d)は、それぞれマーカ1の横断面の例を示す断面図である。ただし、断面であることを示すハッチングは省略している。
【0058】
図2(a)では、本体部3の弓状部分(実施形態では半円3a)が、楕円を長軸で切断した形状となっている。このように、本体部3の弓状部分は、半円に限定されない。別の観点では、曲線の曲率は一定でなくてもよい。この他、弓状部分は、例えば、円をその中心よりも弧に近い弦で切り取った形状であってもよいし、楕円を短軸で切断した形状であってもよいし、曲線部分が適宜な次数の関数で表わされるものであってもよい。また、図示の例では、高さhtが幅wよりも小さくなっているが、このような変形例においても、高さht及び幅wは、いずれが大きくても構わない。
【0059】
図2(b)では、本体部3の横断面の形状は、実施形態の本体部3から矩形3bを無くした形状となっている。図示の例では、本体部3の形状は半円であるが、図2(a)の変形例の説明で述べたように、半円以外の種々の形状であってよい。高さht及び幅wのいずれが大きくてもよいことも、図2(a)と同様である。
【0060】
図2(c)では、マーカ1全体としての横断面の形状は、正方形となっている。このように、マーカ1は、曲線状部分を有していなくてもよい。なお、ここでは正方形を例示しているが、矩形以外の多角形であっても構わない。
【0061】
図2(d)では、マーカ1全体としての横断面の形状は、本体部3と粘着層5とが短手方向に積層された長方形となっている。すなわち、高さhtは幅wよりも小さい。ただし、マーカ1の横断面が矩形又は矩形以外の多角形である場合においても、高さht及び幅wは、いずれが大きくても構わない。
【0062】
なお、図2(a)、図2(b)及び図2(d)で図示した変形例の形状は、別の観点では、本体部3と粘着層5との積層方向におけるマーカ1の高さhtが、マーカ1の幅wよりも小さい薄型である。このような薄型の形状は、例えば、マーカ1が粘着層5側またはその反対側へ曲がることを容易化する。逆に、マーカ1の幅wがマーカ1の高さhtよりも小さい場合においては、マーカ1が粘着面に平行な方向に曲がることを容易化する。マーカ1に要求される性能に応じて、高さht及び幅wは適宜に設定されてよい。
【0063】
<マーカの製造方法>
(本体部の製造方法)
図3(a)〜図3(d)は、本体部3の製造方法の例の概要を説明するための模式図である。
【0064】
まず、図3(a)に示すように、本体部3の材料を生成する。具体的には、例えば、二液性の液状シリコーンゴム又は二液性のポリウレタンの主剤11及び硬化剤13を混合する。また、これらに放射線不透過材料15を添加する。なお、主剤11、硬化剤13及び放射線不透過材料15のいずれか2つを先に混合してもよいし、3つを同時に混合してもよい。
【0065】
なお、図3(a)では、シリコーンゴム又はポリウレタンが二液性の場合を例にとっているが、一液性であってもよいことは既に述べたとおりである。この場合、例えば、未硬化のシリコーンゴム又は未硬化のポリウレタンを形成する際に、放射線不透過材料15を添加すればよい。
【0066】
次に、図3(b)〜図3(d)に示すように、未硬化のシリコーンゴム又は未硬化のポリウレタンに放射線不透過材料15が添加された混合材料17を圧縮成形によって成形する。
【0067】
例えば、上面に溝71aが形成された下型71(第1型)と、下面が平坦な上型73(第2型)とを用意する。溝71aの横断面の形状及び長さは、本体部3の横断面の形状及び長さと同じであり、溝71aの底側が本体部3の曲線側となっている。
【0068】
そして、図3(c)に示すように、混合材料17を下型71の上面(溝71a)に配置し、その上に上型73を配置し(溝71aに上型73を被せ)、下型71及び上型73で混合材料17を圧縮(加圧)しつつ加熱し、混合材料17を硬化させる。加圧及び加熱は、例えば、圧縮成形機によってなされる。なお、圧縮成形機に代えてオーブンを用いることも可能である。
【0069】
なお、特に図示しないが、混合材料17を下型71上に配置する前に、脱泡などの処理が適宜に行われてよい。また、既に述べたように、シリコーンゴム又はポリウレタンとしては常温硬化型のものが用いられてよく、下型71及び上型73によって圧縮された混合材料17は、常温で硬化されてもよい。
【0070】
(粘着層の製造方法)
図4(a)〜図4(c)は、粘着層5の製造方法の例の概要を説明するための模式図である。
【0071】
まず、図4(a)に示すように、粘着層5の材料(粘着剤)を生成する。具体的には、例えば、二液性の液状シリコーンゴム又は二液性のポリウレタンの主剤81及び硬化剤83を混合する。また、これらに着色剤85を添加する。なお、主剤81、硬化剤83及び着色剤85のいずれか2つを先に混合してもよいし、3つを同時に混合してもよい。粘着剤が一液性でよいことは既に述べたとおりであり、また、着色剤85は添加されなくてもよい。
【0072】
上記のような材料の生成前、生成に並行して、又は生成後あまり時間を置かずに、図4(b)に示すように、予め作製された本体部3を型87の溝87aに配置する。溝87aの横断面の形状及び長さは、例えば、マーカ1全体の横断面の形状及び長さと同じである。換言すれば、溝87aは、本体部3の高さh1よりも粘着層5の厚さt2だけ深い。従って、本体部3は、溝87aに嵌り、また、本体部3の上方には、厚さt2を深さとする溝が構成される。
【0073】
そして、図4(c)に示すように、図4(a)で生成された粘着剤を本体部3が配置されている溝87aに流し込む。このとき、例えば、粘着剤が溝87aを概ね満たすように粘着剤を供給する。その後、粘着剤を硬化させる。これにより、粘着層5が形成される。硬化は、常温でなされてもよいし、オーブン75によって加熱されることによってなされてもよい。
【0074】
このように、溝87a内かつ本体部3上に粘着剤を配置して粘着層5を形成する場合においては、粘着層5の厚さを確保することが容易である。なお、溝87aの深さと本体部3の高さh1との差は、粘着層5の厚さt2よりも大きく、または小さくされてもよい。
【0075】
(本体部の成形方法の変形例)
本体部3の成形方法は、圧縮成形以外の種々の方法でなされてよい。以下では、そのいくつかの例を挙げる。
【0076】
図5(a)の例では、押出成形によって本体部3を作製している。すなわち、シリンダ19内の混合材料17がプランジャ21によってシリンダ19の開口19hから押し出されることによって、本体部3は、開口19hと同等の形状及び寸法を有する線状に形成される。なお、プランジャ21は、スクリュー形状であってもよい。
【0077】
図5(b)の例では、型25内で混合材料17を成形して本体部3を作製している。具体的には、型25の上面に溝が形成されており、その溝内に混合材料17が注がれてマーカ1が成形されている。
【0078】
図5(c)の例では、図5(b)と同様に、型29及び31内で混合材料17を成形して本体部3を作製している。ただし、具体的には、射出成形によって本体部3が成形されている。すなわち、型29及び31の間に形成された孔内に、プランジャ33によって混合材料17が押し出されて充填される。なお、プランジャ33は、スクリュー形状であってもよい。
【0079】
図6は、LIM(Liquid Injection Molding)と呼ばれる射出成形機41の構成の一例を示す模式図である。本体部3は、このような射出成形機41を用いて形成されてもよい。
【0080】
図示の例では、射出成形機41は、シリンダ43内の混合材料17をスクリュー45によって型47及び49内に射出している。混合材料17は、射出直前において、射出成形機41内の装置によって混合される。
【0081】
射出成形機41は、混合材料17を混合する構成として、例えば、主剤及び硬化剤を個別に貯留するとともにポンプ等によって供給する供給部51A及び51Bと、供給部51A及び51Bから主剤及び硬化剤を個別に計量する計量部53A及び53Bと、計量部53A及び53Bによって計量された主剤及び硬化剤を混合する混合部55とを有している。混合部55は、例えば、不図示のダイナミックミキサーまたはスタティックミキサーを有している。
【0082】
なお、放射線不透過材料は、供給部51A又は51Bにおいて主剤又は硬化剤に含まれていてもよいし、主剤又は硬化剤と同様に、不図示の供給部及び計量部によって混合部55へ供給されてもよい。
【0083】
(粘着層の製造方法の変形例)
図7(a)〜図7(c)は、粘着層の製造方法の変形例を説明するための模式図である。
【0084】
この変形例は、例えば、図3(a)〜図3(d)を参照して説明した実施形態に係る本体部3の製造方法を前提としている。すなわち、本体部3は、下型71及び上型73を用いた圧縮成形によって形成される。また、粘着層5の材料の生成方法は、図4(a)を参照して説明した実施形態の方法と同様でよい。
【0085】
図7(a)に示すように、この変形例では、上面に溝89aを有している下型89(第3型)が用意される。溝89aの横断面の形状及び長さは、例えば、粘着層5の横断面の形状及び長さと同等である。
【0086】
そして、図7(b)に示すように、図4(a)で生成された粘着層5となる材料91を溝89aに流し込む。このとき、材料91は、例えば、溝87aの容積よりも若干多い量で供給される。
【0087】
次に、図7(c)に示すように、下型71を下型89の溝89aに被せる。下型71は、図3(d)を参照して説明したものであり、下型71の溝71aには、圧縮成形によって加圧及び加熱されて硬化された本体部3が配置されたままとされている。下型71は、溝71a側を下型89の溝89aに向けて配置され、本体部3は、材料91に当接する。
【0088】
そして、下型89及び下型71によって材料91を加熱及び加圧する。すなわち、再度圧縮成形を行う。なお、ここでは、下型71は、上型として機能する。圧縮成形により、材料91が硬化し、本体部3に接着された粘着層5が形成される。
【0089】
加熱及び加圧は、例えば、圧縮成形機によってなされる。なお、オーブンによって行うことも可能である。圧縮成形の際、あふれた材料91は溝89aの外側に流出する。本体部3は、図3(d)の段階で完全に硬化していてもよいし、図7(c)の段階で完全に硬化されてもよい。図3(d)の際の熱は、図7(c)の際に下型71及び/又は本体部3に残っていてもよいし、残っていなくてもよい。
【0090】
以上のとおり、本実施形態では、マーカ1は、本体部3と、粘着層5とを有している。本体部3は、シリコーンゴム又はポリウレタンと、放射線不透過材料15とを含んでいる材料17からなり、可撓性を有する線状である。粘着層5は、本体部3の材料よりも粘着性が高い粘着剤からなり、本体部3の表面のうちの当該本体部3の横断面回りの少なくとも一部を覆いつつ、本体部3の長さ方向に広がっている。
【0091】
従って、例えば、マーカ1は、体表面に密着可能であるとともに、その密着性が維持される。その結果、例えば、マーカ1に保護紙及び基台紙は不要である。そして、基台紙によって可撓性が制限されることはなく、また、基台紙を剥がすときに患者が痛みを感じることもない。さらに、例えば、患者に貼り付けたマーカ1の一部を剥がして少し位置をずらして再度貼り付けることが可能であり、マーカ1の貼り付け位置の微調整が容易である。すなわち、作業性が高い。また、例えば、シリコーンゴム及びポリウレタンは、人体に対する影響が低く、患者に及ぼす負担が低減される。放射線不透過材料を含んでいることから、可撓性及び弾性の観点において好ましい材料(例えばシリコーンゴム又はポリウレタン)を本体部3の主成分として選択しつつ、明瞭に放射線画像にマーカを写すことができる。本体部3と粘着層5とによってマーカ1を構成することによって、例えば、弾性(本体部3)と、粘着性(粘着層5)とを別個に調整して、全体として好適なマーカ1を実現できる。
【0092】
本実施形態では、例えば、本体部3は、放射線不透過材料15としての硫酸バリウムを3%以上5%以下の重量比で含んでいる。従って、シリコーンゴム又はポリウレタンに適度な不透過性を付与することができる。
【0093】
本実施形態では、本体部3および粘着層5全体としての横断面の形状は、直線と、当該直線とは反対側へ膨らむ曲線と、を含む外縁を有している。粘着層5は、上記の直線となる表面を構成している。
【0094】
従って、例えば、比較的平坦な体表面に対する密着性が向上する。その一方で、その反対側は丸みを帯びることから、例えば、マーカ1を変形させたときに応力集中によってマーカが破損するおそれが低減される。
【0095】
本実施形態では、本体部3および粘着層5全体としての横断面の形状が、直径2mm以上4mm以下の半円3aと、当該半円3aの弦を1辺とする、弦からの高さが1mm以上2mm以下の矩形(3b及び5)とからなる。
【0096】
このような大きさの径であれば、例えば、マーカ1は、放射線画像に十分明瞭に写される。また、径が比較的小さいことによって、例えば、可撓性が向上する。また、高さhtと幅wとが同程度の大きさであることから、種々の方向に可撓性を発揮することができる。その結果、例えば、複雑な3次元形状の体表面に貼り付けたり、複雑な平面形状の病巣範囲を囲むように貼り付けたりすることが容易化される。さらに、径が小さいことによって、例えば、病巣範囲の境界を精度よく示すことができる。
【0097】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0098】
実施形態では、マーカは、シリコーンゴム又はポリウレタンを主成分としているとともに放射線不透過材料を含んでいる本体部、及び当該本体部の一部を覆う粘着層のみから構成された。ただし、長手方向の一部及び/又は横断面の一部に、前記の材料ではない材料によって形成されている部分が存在してもよい。例えば、マーカは、他の材料からなる芯線を有していたり、他の材料からなり、長さ方向において所定間隔で配置された目印を有していたりしてもよい。マーカは、体表面に貼り付ける前(例えば流通段階)において、適宜な紙又はフィルム等によって覆われていてもよい。
【0099】
実施形態では、粘着層は、本体部の表面のうち横断面回りの一部のみを覆った。ただし、粘着層は、本体部の横断面回りの全周を覆っていてもよい。
【0100】
実施形態及び変形例では、マーカの横断面の形状として、本体部の粘着層が配置される面、及び粘着層の外表面が平面である場合を例示した。ただし、本体部の曲面上に粘着層が配置されたり、粘着層の外表面が曲面状に形成されたりしてもよい。また、実施形態及び変形例では、横断面は全体が外側に膨らむ形状(数学における凸である形状)のみを示したが、非凸である形状であってもよい。例えば、マーカは、その外周面に螺旋溝が形成されていたり、長さ方向に平行な溝が形成されていたりすることにより、横断面に凹部を有していてもよい。
【0101】
マーカの製造方法は、実施形態に例示したものに限定されない。例えば、3Dプリンタが適宜に利用されてもよいし、シートが切断されて線状のマーカが形成されてもよいし、芯線に材料を付着させてマーカが形成されてもよい。
【0102】
また、粘着層の形成方法は、型の溝に配置された本体部上に粘着剤を配置する方法に限定されず、単純に本体部に粘着剤が塗布されるだけであってもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…マーカ、3…本体部、5…粘着層、15…放射線不透過材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7