【実施例】
【0095】
以下、実施例及び試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
【0096】
実施例1:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の製造
(1)出発原料(BCG菌:M.bovis BCG Tokyo 172(ATCC35737))
上記BCG菌をソートン培地中37℃で初期定常期まで培地表面に菌膜として培養した。培養細胞を約30分間80℃に加熱することにより不活性化させ、遠心分離した。沈殿物として得られるBCG死菌を原料として、精製菌体を製造した。
(2)精製菌体製造
a)BCG死菌体1.19kg(ウェット、乾燥重量約240g)を66重量%テトラヒドロフラン水溶液5.78kg中、窒素雰囲気下、加熱還流、加圧熱濾過し、次いで60重量%テトラヒドロフラン水溶液で洗浄した。濾上物を60重量%テトラヒドロフラン水溶液中、窒素雰囲気下、加熱還流、加圧熱濾過し、PGL含量の減少を確認後、イソプロパノールで2回洗浄し濾上物480g(ウェット)を得た。濾上物にイソプロパノール水溶液を添加し3回洗浄し精製菌体475.3g(ウェット、乾燥重量約152g)を得た。CWS含量:45.5%(HPLC)、テトラヒドロフラン含量:0.04%(ガスクロマトグラフィー)、BCG死菌体中のPGL量(全体の約2重量%)に対するPGL残存量:9.3%(HPLC)、乾燥精製菌体中のPGL含量0.3%
【0097】
b)BCG死菌体1.52kg(ウェット、乾燥重量約300g)を85容量%テトラヒドロフラン水溶液7.8L中、窒素雰囲気下、60分間加熱還流後、加圧熱濾過し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液450mLで洗浄した。この濾上物を75容量%テトラヒドロフラン水溶液9L中、窒素雰囲気下、60分間加熱還流後、加圧熱濾過し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液450mLで洗浄した。さらに75容量%テトラヒドロフラン水溶液2.0Lで2回洗浄し、次いでメタノール3.0Lとメタノール6.0Lで洗浄し、精製菌体597g(ウェット、乾燥重量約210g)を得た。CWS含量:37.5%(HPLC)、PGL、GroMM残存量:BCG死菌の含有量に対していずれも10重量%以下(TLC)。
c)培養菌体を直接約60分間60重量%テトラヒドロフラン水溶液中で加熱処理することにより不活化させ、同時に上記精製処理を進めることによって精製菌体を得ることができた。
【0098】
試験例1:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の精製度
本発明の精製菌体の精製度を確認するため、細胞外付着成分の残存量を以下の方法で評価した。
(1)PGL残存量の測定(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による評価)
BCG死菌体(乾燥体)及び精製菌体(乾燥体)約30mgを秤量し、それぞれにクロロホルム2mLを正確に加え、超音波・攪拌機で十分に懸濁させた。精製水2mLを加え、攪拌し、遠心分離した。クロロホルム層を0.22μmフィルターで濾過し、濾液を下記条件で分析した。その結果、PGLの残存量は、9.3%であった(実施例1(2)−a))。
【0099】
HPLC条件:カラム温度:40℃、検出波長:275nm、流速:約1.0mL/分(PGL保持時間約8分)、注入量:10μL、測定時間:35分、移動相:クロロホルム(エタノール含有)、メタノール(グラジエント)、カラム:ナカライテスク Cosmosil 5SL−II 4.6I.D.×150mm
【0100】
(2)薄層クロマトグラフィー(TLC)による評価
TLCによるPGL、GroMMの残存量の測定を行った。実施例1のBCG死菌体(ウェット)及び精製菌体(ウェット)をそれぞれ約20mg秤量し、脂溶性の高いPGLとGroMMを溶出させるためトルエン100μLを加えた。攪拌・超音波照射後、21,040×g、5分間遠心分離し、上清の薄層クロマトグラフを行った。展開溶媒はクロロホルム/アセトン(19:1、容積/容積)を使用し検出にはモリブデン酸アンモニウムセリウム溶液を用いた。その結果を
図25aに示した。
図25a)−(a)に示される呈色の強度から、BCG精製菌体(実施例1(2)−b))には、PGLの残存はほとんど認められず、GroMMの残存が僅かに認められた。BCG死菌体のPGL含量は約2%(試験例2―2)であり、また,BCG死菌体のGroMMの含量は、
図25a)−(b)に示されるように、PGLとほぼ同量であることが分かった。
そこで、BCG精製菌体のPGLとGroMMの残存量を算出することを行った。BCG精製菌体中のPGLとGroMMの含量は、
図25a)−(a)で示されている。一方、BCG死菌体のPGLとGroMMの含量は、
図25a)−(c)で示されているので、これと比較すると、圧倒的にBCG精製菌体中のPGLとGroMMの含量は低減している。
更に、定量のため、BCG死菌体の洗浄液のTLC添加量を1/10にした
図25a)−(b)の結果と、
図25a)−(a)のBCG精製菌体の洗浄液の結果を対比した。その結果、BCG精製菌体(
図25a)−(a))では、BCG死菌体に含有されるPGL量とGroMM量の1/10量(
図25a−(b))と比較すると、TLCの呈色の強度から、PGLの残存量が、
図25a)−(c)の1/10以下であることが分かった。更に、GroMMの残存量は、
図25a)−(c)の約1/10以下になっていることが分かった。
以上のことから、本発明のBCG精製菌体のPGLとGroMMの残存量は、原料のBCG死菌体の
それぞれの含量に対して10重量%以下に低減していることを確認した。
【0101】
試験例2−1:本発明の精製菌体中のBCG−CWS含量測定
(1)方法
実施例1(2)−a)の精製菌体(乾燥体)を4mg秤量し、0.5M水酸化カリウム溶液1mL中65℃、3時間加熱を行った。また、標品のCWSを秤量して同様の操作を行い、それぞれの溶液中に遊離するミコール酸をADAM(9−Anthryldiazomethane、商標、フナコシ)試薬により蛍光標識し、HPLCにより分析した。HPLC条件:カラム温度:50℃、励起波長:365nm、測定波長:412nm、流速:約1.0mL/分、注入量:10μL、測定時間:60分、移動相:メタノール、トルエン(グラジエント)、カラム:野村化学製 Develosil C30−UG−3(3μm、4.6×150mm)
【0102】
(2)結果
標品のCWSと対比し、本発明の精製菌体には、含量45.5%のCWSを含むことが示された。尚、実施例5で得たBCG−CWSを実施例6と同様に再精製しBCG−CWS標品とした。
【0103】
試験例2−2:精製菌体中のPGLの含量測定
(1)方法
試験例1(1)と同様にして、PGL標品を用いて測定した。但し、実施例1(2)の60容量%THF水溶液洗液からシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離精製したPGLを標品とした。
(2)結果
その結果BCG死菌体及び精製菌体中のPGL含量はそれぞれ2.0重量%、0.3重量%であった。
【0104】
参考例1:本発明の水と親水性有機溶媒の混合溶液の洗浄効果
細胞外付着成分に対する本発明の水と親水性有機溶媒の混合溶液の洗浄効果を明らかにするため、特表2011−500540に記載される菌体の洗浄液として良く用いられるクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)の洗浄効果と本発明の洗浄効果を比較することを行った。
(1)洗浄方法
a)公知のクロロホルム/メタノール洗浄
上記公知文献(特表2011−500540)に準じて、BCG死菌体10g(ウェット、乾燥体約2g)にクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)50mLを加え、窒素雰囲気下、60分間攪拌した。懸濁液を吸引濾過し、濾上物をクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)10mLで共洗い洗浄した。この操作までの洗浄液を濃縮し抽出物334mgを得た。
更に、洗浄後の死菌体にクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)50mLを添加し、窒素雰囲気下、60分間攪拌した。懸濁液を吸引濾過し、濾上物をクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)10mLで共洗い洗浄し、再洗浄液を得た。
【0105】
b)本発明のテトラヒドロフラン水溶液洗浄
BCG死菌体10g(ウェット、乾燥体約2g)に90容量%テトラヒドロフラン水50mLを加え、窒素雰囲気下、60分間加熱還流した。吸引濾過により濾上物と濾液に分離し、75容量%テトラヒドロフラン水10mLで共洗い洗浄し濾過した。この操作までの濾液を濃縮し抽出物415mgを得た。
この濾上物に75容量%テトラヒドロフラン水溶液50mLを添加し、窒素雰囲気下、60分間加熱還流した。吸引濾過により濾上物と濾液に分離し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液10mLで共洗い洗浄し濾過し、再洗浄液を得た。
(2)洗浄効果の比較
抽出物量については、クロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)では334mgの不純物除去量であったが、テトラヒドロフラン水溶液では415mgであった。しかも、クロロホルム/メタノール混合溶媒では
図25bに示されるように2回目の洗浄でも明らかに多くの不純物が検出されている。このように、テトラヒドロフラン水溶液の洗浄効果が高いことが示された。
【0106】
試験例3:抗酸菌(BCG菌)精製菌体の糖結合性蛋白/レクチン(コンカナバリンA;ConA)に対する結合活性の観察
a)評価サンプルの調製
加温減圧乾燥したBCG菌体(死菌)又は精製菌体をそれぞれホモジナイザーベッセルに5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。ポッターホモジナイザーを用いて1,200rpmで5分間ホモジナイズし、BCG菌体(死菌)又は精製菌体の懸濁液とした。
b)評価方法
上記懸濁液の評価サンプル50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(ConA−Rho、フナコシ)2μLを添加し、穏やかに混合した後、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
c)観察結果
図26に示すように、ConAの結合は、死菌の一部に見られたが、精製菌体の場合には、ほぼ全ての菌体にConAが結合することを確認した。死菌に比べ精製菌体の表面には、アラビノガラクタンを主とする糖鎖部分が顕著に露出していることが明らかになった。
【0107】
試験例4:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の生物活性評価
(1)TNF−α産生量の測定
a)評価サンプルの調製
約4mgのBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)に約1mLの0.01重量%ポリソルベート80含有生理食塩水を加え、ポッターホモジナイザーで3,000rpm、5分間、室温で懸濁した。各懸濁液のCWS含量を測定し(試験例2と同様)、10%FBS含有DMEM培地で10μgCWS/mLに調製し評価サンプルとした。
b)測定方法
公知方法(Drug Discov.Ther., 5(3), 130−135(2011))に準じて、RAW264.7細胞(商標、ATCC No.TIB−71)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で5時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、20時間培養後、培養上清中のTNF−α濃度をサイトカインELISA法により測定した。
c)測定結果
図28aに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)より、約1.3倍の高いTNF−αの誘導活性を示した。
更に、本発明の精製菌体の破砕物も、
図28bに示されるように、本発明の精製菌体と同様の高いTNF−αの誘導活性を示した。
【0108】
(2)TLR2への生物活性評価
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて10μg/mLの評価サンプルを調製した。
b)測定方法
公知方法(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008))に準じて、HEK−Blue−hTLR2細胞(商標、INVIVOGEN)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で24時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、24時間培養後、培養上清をQUANTI−Blue(商標、INVIVOGEN)と37℃、60分間反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて655nmの吸光度を測定した。
c)測定結果
図27aに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)より、約1.6倍高いTLR2への活性を示した。
更に、本発明の精製菌体の破砕物も、
図27bに示されるように、本発明の精製菌体の約0.7倍のTLR2への活性を示した。
【0109】
(3)TLR4への生物活性評価
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて10μgCWS/mLの評価サンプルとした。また、対照検体のリポ多糖(Standard LPS from E.coli O111:B4、INVIVOGEN)は、10%FBS含有DMEM培地で1ng/mLに調製した。
b)測定方法
公知方法(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008))に準じて、HEK−Blue−hTLR4細胞(商標、INVIVOGEN)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で24時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、24時間培養後、培養上清をQUANTI−Blue(商標、INVIVOGEN)と37℃、60分間反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて655nmの吸光度を測定した。
c)測定結果
図27cに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)と同様にTLR4に対する活性を示さなかった。
なお、本発明の精製菌体の破砕物も、
図27dに示されるように、本発明の精製菌体と同様にTLR4に対する活性を示さなかった。
【0110】
(4)IL−12誘導活性の測定
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて200μgCWS/mLの評価サンプルを調製した。
b)測定方法
マウス樹状細胞株(JAWSII細胞)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、20%FBS含有MEMα培地で4時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、44時間培養後、培養上清中のIL−12濃度をサイトカインELISA法により測定した。
c)測定結果
図29に示されるように、本発明の精製菌体は、BCG菌体(死菌)よりも約4倍高いIL−12の誘導活性を示した。
【0111】
実施例2:ノカルジア・ルビア菌の精製菌体の製造
ノカルジア・ルビア死菌体(JCM2156株)5g(ウェット)を順次65重量%テトラヒドロフラン水溶液25g、60重量%テトラヒドロフラン水溶液50gで60分間加熱還流後、90重量%アセトン水溶液で洗浄、熱濾過し精製菌体0.7g(乾燥)を得た。
【0112】
実施例3:精製菌体の破砕物の製造
(1)原料
実施例1と同様にして製造したBCG精製菌体を使用した。
(2)破砕物の製造
上記BCG精製菌体1.1g(乾燥体)を10容量%イソプロパノール水溶液40gに懸濁し、電動ホモジナイザー(Omni TH、Omni−international)で攪拌(20,000rpm、60℃、5分)した後、BERYU MINI(美粒)を用いて室温下、20,000psiで破砕した。破砕液の一部を凍結乾燥機(ALPHA 2−4、MARTIN CHRIST)を用いて凍結乾燥し、精製菌体破砕物の乾燥体50mgを得た。CWS含量:38.2%(HPLC)
【0113】
実施例4:精製菌体からのミコール酸の製造
(1)ミコール酸の製造
精製菌体(乾燥体)140gを10%(重量/容積)水酸化カリウム−50容量%イソプロパノール水溶液1.4L中で2時間加熱還流後、冷却下で水1.4L加え、さらに6M塩酸で酸性化した。n−ヘプタン2.1Lで2回抽出を行い、n−ヘプタン層を水1.4Lで2回洗浄した後、90容量%エタノール水溶液1.4Lで2回洗浄後、得られたn−ヘプタン層を減圧濃縮し、白色粉末のミコール酸14.6gを得た。
(2)ミコール酸の純度
上記ミコール酸の純度を確認するため、誘導体を作製しHPLCによる分析を行った。ミコール酸含量は98%と高純度であった。
HPLCの条件:誘導体化試薬:ADAM(商標、フナコシ)、カラム温度:50℃、励起波長:365nm、測定波長:412nm、流速:約1.0mL/分、注入量:10μL、測定時間:60分、移動相:メタノール、トルエン(グラジエント)、カラム:野村化学製Develosil C30−UG−3(3μm、4.6×150mm)
【0114】
実施例5:BCG菌のCWS(BCG−CWS)の製造
(1)原料
実施例1G精製菌体を使用した。
(2)CWSの製造
a)精製菌体の破砕
BCG精製菌体223.6g(ウェット、乾燥重量約71.6g)を10容量%イソプロパノール水溶液に懸濁し、高圧ホモジナイザーDeBEE2000(登録商標、BEEインターナショナル)を用いて35kpsiで破砕し、25℃下に6800×gで10分間遠心分離した。次いで、上清を25℃下に18000×gで60分間遠心分離し、粗精製CWSを176.7g(ウェット、乾燥重量約40.6g)を得た。
BCG精製菌体224.6g(ウェット、乾燥重量約71.9g)を同様に処理し粗精製CWS187.2g(ウェット、乾燥重量約46.6g)を得た。
b)蛋白質分解酵素処理
粗精製CWS271.2g(ウェット、乾燥重量約65g)を、10mMトリス塩酸緩衝液/イソプロパノール(95:5、容積/容積、pH8.0)混合液3.2kgに懸濁させた。プロナーゼ(Sigma−Aldrich)2gを10mMトリス塩酸緩衝液/イソプロパノール(95:5、容積/容積、pH8.0)混合液780gに溶かし、上記破砕品懸濁液に添加し、37℃で4時間反応した。反応液を室温下に18000×gで60分間遠心分離して沈殿物を得た。
c)洗浄処理
上記沈殿物を10倍重量の5容量%イソプロパノール水溶液に懸濁させ、室温下に遠心分離し、さらに20容量%イソプロパノール水溶液に懸濁させ40℃で30分間攪拌した後、遠心分離して沈殿物を得た。更に、イソプロパノールに懸濁後、遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物を減圧乾燥し、白色粉末のBCG−CWS32.5gを得た。(死菌からのCWSへの収率18.8%;死菌から精製菌体への収率61.2%、精製菌体からCWSへの収率30.8%)
【0115】
(3)組成分析データ
本発明のBCG−CWSの組成の分析結果を表1に示す。なお比較のために、特許文献3に従って製造したBCG−CWS(参考例2)組成の分析値と、特許文献3に記載されたBCG−CWSの文献値を併せて記載する。
【0116】
【表1】
【0117】
特許文献3に記載されたBCG−CWS(文献値)と特許文献3に従って製造したBCG−CWS(参考例2)の組成の分析値は、ほぼ同一であり、参考例2のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSを再現していることが示された。
本発明のBCG−CWSでは、これら特許文献3のBCG−CWSと比較し、不純物に由来する全非構成アミノ酸の含量が1.0%以下であった。上記表1に示されるように、公知のBCG−CWSでは不純物に由来する全非構成アミノ酸の含量が1.0%以下になることはなかったが、本発明によって初めて1.0%を切る高純度のBCG−CWSを取得できるようになった。このように、公知のBCG−CWSの製造方法と比較して、本発明のより簡易なBCG−CWSの製造方法において、BCG−CWSにおける純度の向上が得られたことは、細胞外付着成分の除去された精製菌体を使用したことがその大きな要因になっていると考えられる。
【0118】
実施例6:本発明のCWS(BCG−CWS)の再精製
実施例5得たBCG−CWS100mgを20容量%イソプロパノール水溶液5mLに懸濁させ、40℃で30分間攪拌した後、室温下で遠心分離して沈殿物を得た。これを繰り返して、再精製BCG−CWSを99.5mg得た。得られた再精製BCG−CWSをMicro BCA Protein Assay Kit(商標、Thermo FisherScientific)を用いて、蛋白質含量の定量を行った。以下の表2に示されるように、再度精製を行うことによってさらに不純物に由来する蛋白質含量が減少した。
【0119】
【表2】
【0120】
参考例2:公知法(特許文献3)に従ったBCG−CWSの製造
a)破砕処理
578gのBCG死菌(ウェット、乾燥重量約111g)を3Lの水に懸濁し、MiniDeBee(登録商標、BEEインターナショナル)を用いて35kpsiで破砕した。それらを25℃下に6,760×gで10分間遠心分離した。次いで、上清を25℃下に18,000×gで60分間遠心分離し沈殿を得た。
b)核酸分解酵素処理と蛋白質分解酵素処理
上記沈殿に、ベンゾナーゼ(Merck Ltd.)を加え25℃で17時間反応した。遠心分離で沈殿を回収し1重量%トライトンX−100水溶液で懸濁/遠心操作(沈殿回収)を5回繰り返し洗浄した後、プロナーゼ(Sigma−Aldrich)を加えて37℃で17時間反応した。25℃下に18000×gで20分間遠心分離して沈殿を集め、1重量%Triton X−100水溶液中に再懸濁させ、60℃で2時間撹拌し、遠心分離して沈殿を得た。
c)洗浄処理
遠心分離後の沈殿をエタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム/メタノール(2:1、容積/容積)、メタノールで順次洗浄した。残渣を乾燥し、乾燥BCG−CWS14gを得た。(死菌からの収率12.6%)
d)組成分析データ
乾燥BCG−CWSの組成は表1に示した。公知法(特許文献3)に従って製造されたBCG−CWSの組成は、表1に示されるように、文献値(特許文献3)とほぼ同一であることから、特許文献3のBCG−CWSを再現して製造できていることが確認できた。
【0121】
試験例5:本発明のBCG−CWSの水への分散性(OD相対値:物性値)
(1)測定サンプル
A:本発明のBCG−CWS(実施例5のサンプル)
B:特許文献3のBCG−CWS(参考例2のサンプル)
(2)分散性の測定方法:
上記のBCG−CWSをそれぞれホモジナイザーベッセルに5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。スリーワンモーターを用いて1,200rpmで5分間ホモジナイズし懸濁液とした。この液を1mg/mLに調製し、1.5mLを3mL容プラスチックキュベットに添加した。分光光度計(U−5100、日立ハイテクサイエンス)を用いて吸光度(690nm)を60分間経時的に測定した。測定0分の吸光度を1とし、相対的な値(物性値)を算出した。
【0122】
(3)結果:
測定結果を
図13に示す。本発明のBCG−CWS(A)を生理食塩水中に分散させた時のOD相対値(物性値)は、測定時間内(60分間)において大きな変化が認められなかった。分散開始から60分後でも、0.98のOD相対値(物性値)を示した。
一方、特許文献3のBCG−CWS(E)は、生理食塩水中に分散後、OD相対値(物性値)が速やかに低下を始め、60分後に0.22に低下し、BCG−CWSの沈降が認められた。
尚、本発明のBCG−CWS製造の小実験検討等の中でOD相対値(物性値)が0.9以上のBCG−CWS以外に、0.75、0.58、0.48を示すBCG−CWSも得られた。
以下、本発明BCG−CWSのOD相対値(物性値)が実施例5のサンプルを中心に0.9以上、0.75、0.58、0.48の各サンプルについて各々A、B、C、Dと表し参考例2のサンプルをEと表す。
【0123】
試験例6:本発明のBCG−CWSの抗体反応性
本発明のBCG−CWS(実施例5)と特許文献3のBCG−CWS(参考例2)の抗BCG死菌抗体との結合性をサンドイッチ・ELISA法にて評価した。
(1)試剤
ウサギ(Japanese white)抗BCG死菌IgG抗体を作製し、使用した。
(2)方法
ウサギ抗BCG死菌IgG抗体をNunc−immuno plateII(商標、Nunc)に固層化した。上記のBCG−CWSとそれぞれ反応後、ビオチン標識した抗BCG死菌抗体を添加し、室温で60分間静置した。Streptavidin−HRP Conjugate(Vector Lab.)を添加し、室温で60分間静置した。発色試薬(Stabilized hydorogen peroxide, R&D)を加え、室温で反応後、1N硫酸を加え反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
(3)結果
測定結果を
図18に示す。本発明のBCG−CWSは抗BCG死菌抗体に反応性が高いが、特許文献3のBCG−CWSは抗BCG死菌抗体に反応性が非常に低かった。抗BCG抗体を1000ng/mL使用した場合に、本発明のBCG−CWSは結合反応を示した(OD450値:0.34)。また、上記抗BCG死菌抗体を500ng/mL使用した場合にも、本発明のBCG−CWSは結合反応を示した。しかし、特許文献3のBCG−CWSは、いずれの抗体添加量でも結合反応を示さなかった(OD450値:0.01)。このように、抗BCG死菌抗体を用いて、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSのCWS表面構造が異なっていることが示された。
このように、抗体が認識するBCG−CWSの表面構造は、本発明のBCG−CWSの場合と、特許文献3のBCG−CWSの場合とでは大きく異なっていることを示している。
【0124】
試験例7:本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの粒度分布
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの粒度分布を比較することを行った。
(1)方法
ポッター型ホモジナイザーを用いて生理食塩水、又は超音波発生装置を用いてn−ヘプタンに上記CWSをそれぞれ懸濁させ、粒度分布測定装置(SALD−2200、島津製作所)を用いて粒度分布を評価した。
a)生理食塩水中での懸濁:
BCG−CWSをホモジナイザーベッセルに約5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。1,200rpmで5分間ホモジナイズし懸濁液とした。
b)n−ヘプタン中での懸濁:
BCG−CWSを試験管に約5mg秤量し、n−ヘプタン約2mLを加えた。超音波発生装置により懸濁させた。
(2)結果
粒度測定の結果を
図20に示す。本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは生理食塩水中では共に単一のピークの粒度分布を示した(
図20(a))。しかし、n−ヘプタン中では0.1〜100μmの範囲において、本発明のBCG−CWSは単一の粒子径ピークを示し、特許文献3のBCG−CWSは2つの粒子径ピークを示した(
図20(b))。本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは生理食塩水中とn−ヘプタン中での粒度分布挙動が大きく異なっていた。
【0125】
試験例8:オーラミン染色法によるCWSの形態評価
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違をオーラミン染色法により比較した。
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS:A、B、C、D
特許文献3のBCG−CWS:E
(サンプル名は試験例5に基づく)
(2)方法:
公知文献(顕微鏡,48(1), 51−56(2013))を参考に、BCG−CWS約5mgにオーラミン水溶液(0.15mg/mL)を500μL加え、ホモジナイザーで分散後、遮光条件下、10分間攪拌した。遠心分離(21,040×g、10分間)し、残渣に水500μLを加えホモジナイザーで分散後、遠心分離し、残渣に0.5容量%HCl・エタノール混液500μLを加え分散し、遠心分離した。前記操作を更に1回繰り返した。水500μLを加え分散後、遠心分離し、残渣に0.1重量%過マンガン酸カリウム水溶液500μLを加え分散させ、遠心分離した。残渣に水500μLを加え分散させ、遠心分離した。前記操作を更に1回繰り返した。沈殿にヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)混液100μLを加え分散させ、この懸濁液2μLをスライドガラスに滴下・風乾した後、蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス、BZ−X710)を用いて観察(40倍拡大の視野、露光時間1/5秒)し、解析ソフト(BZ−X Analyzer)を用いて試料総面積当たりの蛍光面積の比率を算出した。
(3)結果:
上記測定サンプルの観察写真を
図19(注1)に、蛍光面積率・判定の結果を表3に示す。オーラミン染色の結果、本発明のBCG−CWS(A)〜(D)では蛍光はほとんど観測されなかったが(蛍光面積の比率0.1%以下)、特許文献3のBCG−CWS(E)では、強い蛍光が観測され(蛍光面積の比率89.43%)、蛍光面積率10%以下である(A)〜(D)は陰性、10%以上であった(E)は陽性と判定した。
上記オーラミン染色の結果から、本発明のBCG−CWS(A)〜(D)では、ミコール酸部分の密度が低く、強い凝集又は融合していないことが示された。一方、特許文献3のBCG−CWS(B)では、ミコール酸部分の密度が高く、強く凝集又は融合していることが示された。更に、水への分散性(物性値)が0.4以上ではオーラミン染色が陰性を示すことが明らかとなった。
(注1:レーザー走査型共焦点顕微鏡(FV−1000、オリンパス)の100倍拡大の視野で観察)
【0126】
【表3】
【0127】
試験例9:本発明のBCG−CWSと特許文献3の水中におけるレクチン(コンカナバリンA)との反応性の比較
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS(A)
特許文献3のBCG−CWS(E)
(試験例5のサンプルを使用)
(2)方法
試験例5と同様にしてポッター型ホモジナイザーを用いて生理食塩水に上記(1)のBCG−CWSをそれぞれ懸濁させた。各評価サンプルの懸濁液50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(フナコシ)2μLを添加し、軽くピペッティングし、スライドグラスに適量滴下し、風乾させ共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
(3)結果
蛍光化コンカナバリンAを用いて、本発明と特許文献3のBCG−CWSの結合強度を比較したところ、本発明のBCG−CWSの方がコンカナバリンAと明らかに強く結合し、凝集を示した。
【0128】
試験例10:BCG−CWSの懸濁液中のゼータ電位評価
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS(A)
特許文献3のBCG−CWS(E)
(試験例5のサンプルを使用)
(2)方法
上記(1)のBCG−CWS50mgにイソプロパノール5mLを添加し5分間超音波照射し分散させた後、50mLとなるように蒸留水を添加した(イソプロパノール終濃度、10容量%)。高圧破砕機(BERYU−MINI、美粒)を用いて、20,000psiで破砕しサンプル分散液とした。各評価サンプル分散液50μLを10容量%イソプロパノール水溶液2mLに加え混合した後、ゼータサイザー(マルバーン、Nano−ZS)でゼータ電位を測定した。
(3)結果
表4に示すように、本発明のBCG−CWSは約―22mVのゼータ電位を示し、特許文献3のBCG−CWSは約―30mVのゼータ電位を示した。即ち、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの表面構造が異なっていることが示された。
【0129】
【表4】
【0130】
試験例11(1):本発明のBCG−CWSによるTNF−α産生量の測定
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(TNF−αの産生量)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
約4mgの本発明のBCG−CWS及び特許文献3のBCG−CWSに約2mLの0.01重量%ポリソルベート80含有生理食塩水を加え、ポッター型ホモジナイザーで3,000rpm、5分間、室温で懸濁した。各懸濁液のCWS含量を測定し(試験例2と同様)、10%FBS含有DMEM培地で10μgCWS/mLに調製し評価サンプルとした。
(2)測定方法
試験例4(1)と同様の方法に準じて測定した。
(3)測定結果
図23に示されるように、本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSより、約2.8倍の高いTNF−αの誘導活性を示した。
【0131】
試験例11(2):BCG−CWSのTLR2とTLR4に対する親和性の評価
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(TLR2とTLR4)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
本発明のBCG−CWS或いは、特許文献3のBCG−CWSを用いて、試験例4(2)、(3)と同様にして評価サンプルを調製した。また、対照検体のリポ多糖(Standard LPS from E.coli O111:B4、INVIVOGEN)は1ng/mLに調製した。
(2)測定方法
試験例4(2)、(3)の方法に準じて測定した。
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは、いずれも
図24―a)に示すようにTLR2に反応するが、
図24―b)に示すようにTLR4には反応しなかった。
【0132】
試験例11(3):本発明のBCG−CWSによるIL−12産生量の測定
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(IL−12の産生量)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
本発明のBCG−CWS或いは、特許文献3のBCG−CWSを用いて、試験例4(4)と同様に実施した。但し、最終調製サンプル液は20%FBS含有MEMα培地で100ngCWS/mL(BC−1)、100μgCWS/mL(JAWSII)とした。
(2)IL−12の測定方法
a)マウス未成熟樹状細胞株(BC−1細胞)を用いた活性評価:
公知方法(J Leukoc Biol. 2002 Jan;71(1):125−32)に準じて実施した。BC−1細胞を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、20%FBS含有MEMα培地で5時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、20時間培養後、培養上清中のIL−12濃度をサイトカインELISA法により測定した。
b)マウス樹状細胞株(JAWSII細胞)を用いた活性評価:
試験例4(4)の方法に準じて測定した。
(3)測定結果
a)BC−1細胞を用いた活性評価:
本発明のBCG−CWSは、
図21に示されるように特許文献3のBCG−CWSと比較すると、コントロール(生理食塩水)をベースラインとして、約17倍のIL−12の誘導能を示した。
b)JAWSII細胞を用いた活性評価:
本発明のBCG−CWSは、
図22に示されるように特許文献3のBCG−CWSと比較すると、約3.2倍のIL−12誘導能を示した。
【0133】
参考例3:特許文献3のBCG−CWSの形態、物性の回復検討
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの間には、
図14(a)又は(b)と
図14(c)のような形態的相違が考えられている。そこで、
図14(c)から
図14(a)又は(b)に形態的、物性的な変換が可能か否かを検討した。
【0134】
(1):有機溶媒中の加熱による特許文献3のBCG−CWS形態、物性改善検討
上記特許文献3のBCG−CWS10mgをn−ヘプタン1mLに懸濁し、90℃、5又は10時間加熱処理を行った。処理後懸濁液を室温下に18,000×gで60分間遠心分離して沈殿物を得た。得られた沈殿物を減圧乾燥し、試験例7の方法にて濁度測定を行った。
その結果を
図16aに示す。この結果に示されるように、有機溶媒中加熱を行っても特許文献3のBCG−CWSには、分散性の改善は認められなかった。
【0135】
(2)再破砕処理による特許文献3のBCG−CWSの形態、物性改善検討
特許文献3のBCG−CWS41mgを10容量%イソプロパノール水溶液20mLに懸濁し、BERYU MINI(美粒)を用いて20,000psiで再破砕処理を行った。破砕後懸濁液を室温下に18,000xgで60分間遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物を減圧乾燥し、試験例5の方法に準じて濁度測定(OD相対値測定)を行った。
その結果を
図17に示す。この結果に示されるように、再破砕処理においても特許文献3のBCG−CWSには、分散性の改善は認められなかった。
以上のことから、特許文献3のBCG−CWSのように、
図14(c)のミコール酸部分が強く凝集又は融合した形態のBCG−CWSに変化すれば、
図14(a)又は(b)の形態の本発明のBCG−CWSには戻らないことが明らかとなった。このことは、BCG−CWSにおける
図14(a)又は(b)から
図14(c)への形態的な変化とそれに伴う物性的な変化は、不可逆であることを示している。
【0136】
参考例4:本発明のBCG−CWSの形態、物性に対する界面活性剤の影響
本発明のBCG−CWSの製造方法は、界面活性剤を使用しないことを特徴にしている。一方、特許文献3のBCG−CWSの製造方法では界面活性剤を使用している(参考例2)。そこで、本発明のBCG−CWSの形態、物性に対する界面活性剤の影響を明確にするため、下記のように本発明のBCG−CWSを界面活性剤の非存在下BCG−CWS粉末の直接加熱或いは界面活性剤存在下水中で加熱してその物性変化を検討した。
a)評価サンプル
(1)本発明のBCG−CWS(A)
(2)特許文献3のBCG−CWS(E)
(3)本発明のBCG−CWS(A)10mgをマイクロチューブに加えアルミ製ヒートブロックで100℃、3時間加熱した。
その結果、
図16bサンプルCの物性値は、特許文献3のBCG−CWSと同等の挙動を示し、物性値0.9以上だったものが大きく低下した。
(4)本発明のBCG−CWS(A)30mgに1重量%トライトンX−100水溶液2mLを加えホモジナイザーで懸濁後、60℃、60分間攪拌した。遠心分離後上清を除いた。この操作をもう一度行った。次いでエタノール2mLを加えホモジナイザーで懸濁し、遠心分離により上清を除いた。この操作をもう一度行った後減圧乾燥をした。
その結果、
図16bサンプルDの物性値は、上記のサンプルCと同じ挙動を示し、物性値が大きく低下した。
これらの挙動は、BCG−CWSのミコール酸部分が不可逆的に強く凝集又は融合していることが示された。
(サンプル名は試験例5に基づく)
【0137】
なお、上記の不可逆な形態的変化の理由としては、BCG−CWSはミコール酸−アラビノガラクタン−ペプチドグリカンからなる超薄いフィルム状の3層構造を形成していると考えられている(MicrobiologySpectrum, 2(3), 1−19(2014)のFIGURE 6)。従って、水中ではペプチドグリカン層を外側に向け、ミコール酸同士を内側に向けた状態(
図14(b),(c))を取ると考えられている(J. Microbiol. Methods, 72(2), 149−156(2008))。
図14(b)のようなミコール酸同士の疎水性相互作用は分散操作等の物理的な処理により乖離する弱い結合であると考えられる。しかし、加熱、界面活性剤処理などを行うと、ミコール酸部分が不可逆的に強く凝集又は融合した
図14(c)のような形態を形成すると考えられる
本発明では、
図14に示すようなミコール酸部分の不可逆な形態変化を解明することが出来たことから、その知見に基づいて、界面活性剤の使用や高温処理をすることなくBCG−CWSを製造し、水への分散性に優れた各種エマルション・懸濁液製剤の製造に適した物性を有する細菌−CWSの製造が初めて可能となった。
【0138】
実施例7:BCG−CWSを用いたエマルションの製造
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSとの形態と物性の相違が、エマルションにどのような影響を及ぼすかを検討した。公知の水中油型エマルションの処方、製法(Proc.Japan Acad., 70,Ser.B, 205−209(1994)、特開2010−271322)に準じて、上記2つのBCG−CWSを用いた水中油型エマルションを製造した。
(1)方法
BCG−CWS360mgに、n−ヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)溶液約30mLとスクアレン(岸本特殊肝油工業製)5.4g(対BCG−CWS重量比15倍)、BHT(東京化成工業)1.5mgを加え、攪拌した後超音波照射により室温で分散した。その後、乾燥窒素気流下60℃に加熱し有機溶媒を留去した。ついで、0.02重量%ポリソルベート80水溶液135gを添加し、ホモミキサー(ラボ・リューション、PRIMIX社)を用いて60℃、7,000回転、5分間予備乳化を行った。更に、8.73gの10重量%ポリソルベート80水溶液を添加し、60℃、12,000回転、5分間本乳化を行い水中油型エマルション(乳化液A)を得た。乳化液の粒度分布を、粒度分布計(SALD−2200、島津製作所)で測定した。乳化液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。
(2)結果
CWS含量91%(対仕込み重量パーセント、実濃度2.18mgCWS/mL)、スクワレン含量100%(対仕込み重量パーセント、実濃度36mg/mL)、メディアン系2.0μm、単一の粒度分布(
図30)の外観均一な水中油型エマルション製剤が得られた。
【0139】
実施例8:凍結乾燥製剤の製造
(1)方法
実施例7と同様にして乳化を実施し水中油型エマルション乳化液を得た。乳化液に、等重量(53.5g)の6mg/mLポリソルベート80/90mg/mLマンニトール/20mMクエン酸バッファー(pH7.0)水溶液を添加混合し、ポリソルベート80最終濃度を6mg/mL、マンニトール最終濃度45mg/mLの水中油型エマルション(希釈液)を得た。希釈液を凍結乾燥用バイアル(Φ18.0×33.0mm、CS、不二硝子)に1mLずつ充填し、−80℃ディープフリーザーで凍結した後、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GAMMA2−16LSCplus、MARTIN CHRIST社製)を用いて行った。凍結乾燥再溶解液の粒度分布を、粒度分布計(SALD−2200、島津製作所)で測定した。再溶解液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。
(2)結果
凍結乾燥製剤を再溶解した結果、再溶解液中BCG−CWS含量94%(対希釈液中含量、実濃度1.08mgCWS/mL)、スクワレン含量93%(対希釈液中含量、実濃度18.4mg/mL)、メディアン径2.3μm、単一ピークの粒度分布(
図31)の外観均一な水中油型エマルションが得られた。
【0140】
実施例9:BCG−CWSに対して油量を変えたエマルション及び凍結乾燥製剤の製造
以下、実施例7、8と同様にBCG−CWSに対する油の重量比を変えてエマルション製造を行った。但し、乳化機は実施例3と同様電動ホモジナイザーを用いて小スケールで実施した。尚、その時の乳化条件は以下の通りである。
(1)方法
ガラス試験管に12mgのBCG−CWSとスクワレン適量に対し、約2mLの有機溶媒(ヘプタン或いはヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)混合溶媒)を添加し超音波照射により均一に懸濁した後、60℃で窒素気流下乾固しオイルペーストを作成した。そこにPS80をスクワレンの1/3量PS80含有の溶液を加え、乳化機で約10,000rpm、60℃、5分間乳化した乳化液を得た。そこに等容量のD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液溶液(pH7.0)を添加し希釈液を得た。
希釈液の粒度分布を測定した。希釈液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。尚、本発明のBCG−CWSはサンプルA(試験例5の表記で示した)、特許文献3のBCG−CWSサンプルEを用いた(試験例5の表記で示した)。
(2)結果
結果、下記の表5と
図4に示した結果を得た。
【0141】
【表5】
更に、本発明のBCG−CWS及び、特許文献3のBCG−CWS各々の6倍量のスクワレンを用いたエマルションについては、1mL/バイアルで凍結乾燥製剤を作成し、その安定性を比較した。その結果を表6で示した。
【0142】
【表6】
【0143】
試験例12:エマルション(希釈液)の安定性評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じてエマルション希釈液を作製した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はBCG−CWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になる様にし、緩衝液はクエン酸緩衝液を用いた。
・本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
【0144】
(2)安定性評価
(1)で製造したエマルション希釈液を室温(22〜25℃)で3日保存し、サンプリング液中のBCG−CWS含量を試験例2に準じて測定した。
(3)結果
表7に示す結果が得られた。本発明のBCG−CWSから作成したエマルション希釈液は特許文献3のBCG−CWSから作成したエマルション希釈液よりも安定であった。
【0145】
【表7】
【0146】
実施例10:0.1mL、0.2mL低容量充填エマルション凍結乾燥製剤の製造
実施例7と同様にした製造した乳化液に、等重量(287.7g)の6mg/mLポリソルベート80/90mg/mLマンニトール/20mMクエン酸バッファー(pH7.0)水溶液を混合し、ポリソルベート80最終濃度を6mg/mL、マンニトール最終濃度45mg/mLの、575.4gの水中油型エマルション希釈液を得た。エマルション希釈液をピストンポンプ(DIGISPENSE3009、IVEK社製)を用いて凍結乾燥用バイアル(Φ18.0×33.0mm、CS、不二硝子)に0.1mLもしくは0.2mLずつ充填し、−80℃ディープフリーザー(MDF−U73V、SANYO社製)で凍結した後、凍結乾燥機(GAMMA2−16LSCplus、MARTIN CHRIST社製)で凍結乾燥を行って凍結乾燥製剤を得た。
(2)結果
凍結乾燥の結果、十分な形態を保った凍結乾燥ケーキの形成が確認された。また、下表8の通り、0.1、0.2mL/バイアル充填において、バイアル中のBCG−CWS含量はそれぞれ、108μgCWS/バイアル、203μgCWS/バイアルであり、バイアル中のスクアレン含量は、それぞれ1.58mgスクアレン/バイアル、3.02mgスクアレン/バイアルであった。本発明のBCG−CWSエマルションにより小容量充填の水中油型エマルション凍結乾燥製剤が製造できることが確認された。
【0147】
【表8】
【0148】
試験例13:本発明のBCG−CWS及びそのエマルション製剤の表面形態(アラビノガラクタンの存在確認)
本発明のBCG−CWSとそのエマルション製剤の場合、アラビノガラクタンがCWS表面、エマルション油粒子(油滴)表面に露出していることを、コンカナバリンAの結合、凝集反応で確認した。
(1)評価サンプルの調製
a)BCG−CWS:
・本発明のBCG−CWS(A:試験例5の表記)
・特許文献3のBCG−CWS(参考例2、E:試験例5の表記)
b)エマルション希釈液:
(1)a)のBCG−CWSを用いて、実施例7に準じて、次のエマルション製剤を作製した。
但し、スクワレン量、SP80量はBCG−CWS仕込み重量比としてそれぞれ15倍量、5倍量を用いた。また、クエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
・本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
【0149】
(2)評価方法
各評価サンプル50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(フナコシ)2μLを添加し、軽くピペッティングした後、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
(3)結果
図2に示される様に本発明のBCG−CWSの水中油型エマルション希釈液ではコンカナバリンA溶液によるローダミン呈色及び凝集反応が見られたが、特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルション希釈液では殆ど呈色及び凝集反応が見られなかった。このことから、本発明のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液では、油滴表面にアラビノガラクタンが露出しているが、特許文献3のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液では、アラビノガラクタンが油粒子(油滴)中に包埋され、油滴表面にアラビノガラクタンが殆ど露出していないことが示された。
【0150】
試験例14:本発明のBCG−CWSエマルションのゼータ電位の評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて作製した、次のエマルション希釈液を使用した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はCWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になるようにして作製した。
・本発明のBCG−CWS(A)を用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWS(E)を用いたエマルション希釈液
・ビークルエマルション希釈液
(2)測定方法
試験例10に準じてゼータ電位を測定した。
(3)結果
表9に示されるように、特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液のゼータ電位はビークルエマルション希釈液とほぼ同等であったのに対し、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液は約2倍のマイナス電位を示した。従って、ゼータ電位差で本発明のBCG−CWSエマルションと特許文献3のBCG−CWSエマルションを明らかに区別することができることが判明した。
【0151】
【表9】
【0152】
試験例15:物性値の異なるBCG−CWSの水中油型エマルションを用いた物性値とゼータ電位差の相関
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて作製した、次のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液を使用した。但し、それぞれのBCG−CWS水中油型エマルション中のスクアレンとPS80量はBCG−CWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になるようにして作製した。また、クエン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。
・本発明のBCG−CWSのサンプルA、B、C、Dを用いて製造したエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSのサンプルEを用いて製造したエマルション希釈液
・ビークルエマルション希釈液
(2)測定方法
試験例10に準じてゼータ電位を測定した。
(3)結果
得られたゼータ電位、各種BCG−CWSエマルション希釈液から得られたゼータ電位をビークルエマルション希釈液から得られたゼータ電位の差を算出した値をゼータ電位差として評価した。その結果は、表10に示す通りで、本発明BCG−CWSのエマルション希釈液は、特許文献3のBCG−CWSのエマルション希釈液に比して明らかにその電位差は大きかった。即ち、本発明のBCG−CWSのエマルション希釈液の電位差は6〜9mVが認められた。一方、特許文献3のエマルション希釈液ではその値は、1.0以下であった。
【0153】
【表10】
【0154】
試験例16:BCG−CWSに対する油量とゼータ電位差の相関
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて、対BCG−CWS重量比7.5、15、22.5倍量のスクワレンを用いて作成したBCG−CWS水中油型エマルション希釈液、及びそれらのビークルエマルションを使用した。各々スクワレンの1/3重量のPS80量、クエン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。
(2)測定方法
試験例10と同様にゼータ電位差を測定した。
(3)結果
結果を表11に示した。油量の増大に相関して、ゼータ電位差が低下した。
【0155】
【表11】
【0156】
試験例17:製剤中におけるBCG−CWSとオイルの共局在の確認
製剤中のBCG−CWSの存在状態を確認する為に下記の評価を行った。
(1)評価法
公知文献(Infect. Immun., 68(12), 6883−6890(2000))に準じてFITCラベル化した本願BCG−CWS及びナイルレッドを溶解させたスクワレンを用い、実施例7に準じて水中油型エマルションを作製した。対BCG−CWS重量比にして10倍量のスクワレン、その1/3量のPS80、リン酸緩衝液を用いた。得られたエマルション乳化液を蛍光顕微鏡で観察した。
(2)結果
BCG−CWS及びスクワレンの蛍光は共局在しており、エマルション乳化液の油滴内にBCG−CWSが存在していることが確認された。
【0157】
試験例18:各種抗酸化剤の効果の比較検証
BCG−CWS水中油型エマルション凍結乾燥製剤の安定性向上を目的として抗酸化剤の検討を実施した。
(1)評価サンプルの調製
実施例8に準じてエマルション凍結乾燥製剤を作製した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はBCG−CWS仕込み重量比にしてそれぞれ6倍、2倍になるようにして作製した。凍結乾燥製剤を再溶解した後、各抗酸化剤(AからF)を10ppm添加した液を使用した。
A:未添加
B:DL−α−トコフェロール(V.E)
C:トコフェロール酢酸エステル(V.E E)
D:アスコルビン酸(V.C)
E:6−O−ステアロイル−L−アスコルビン酸(V.C E)
F:ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
(2)評価方法
各評価サンプルを60℃条件下静置保存し、試験開始時、2日経過後、4日経過後及び8日経過後の各時点でのpH、スクアレン含量、PS80分解の指標となるオレイン酸含量を測定した。
【0158】
(3)結果
図11に示されるように以下のことが明らかとなった。
a)pH:水溶性抗酸化剤のV.Cは抗酸化剤未添加の場合よりもpHが低下し、BHTを除くその他脂溶性抗酸化剤も未添加とほぼ同等の挙動であった。BHTは開始時のpHを唯一保持した。
b)スクアレン含量:抗酸化剤未添加及びBHT以外の抗酸化剤において8日保存後のスクアレンの含量低下が認められ、BHTは開始時から変化が認められなかった。
c)オレイン酸:PS80は加水分解によりオレイン酸の含量が増加し、次にオレイン酸の過酸化反応のためオレイン酸含量が減少する傾向が認められPS80の分解指標となる。未添加、V.C及びV.C Eは過酸化反応まで急激に進んだと思われオレイン酸含量は低下しており、V.E、V.E Eは増加及び減少と反応が進んでいる。対してBHTは緩やかな増加傾向が認められ、このことは加水分解後の過酸化反応を抑制していることを示している。
以上の結果から、各種抗酸化剤の中でBHTが最も優れた抗酸化作用を示していることが示された。
【0159】
試験例19:緩衝剤の効果の比較検証
BCG−CWS水中油型エマルションの安定性向上を目的として緩衝剤を検討した。
本発明の製剤への効果の比較を実施するために、PS80存在下、各種緩衝剤のpH保持能力を比較した。
(1)評価サンプルの調製
PS80を6mg/mLとなる様に下記各種バッファーに添加し、PS80溶液を得た。
A:緩衝剤未添加
B:リン酸緩衝液(pH7.0)
C:クエン酸緩衝液(pH7.0)
(2)評価方法
各評価サンプルを40℃、或いは60℃条件下静置し、試験開始時からそれぞれ約60、150日経過後までのpHを測定した。
【0160】
(3)結果
図12に示す様に、緩衝剤添加なしの溶液ではリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤を添加した溶液に比べてpH低下速度が速く、更にリン酸緩衝剤に比べてクエン酸緩衝剤のpH保持能力が高かった。
以上の結果から、本製剤の処方条件において各種緩衝剤の中でも汎用されているリン酸緩衝剤よりもクエン酸緩衝剤がより高いpH安定化能を示すことが明らかとなった。
【0161】
試験例20:本発明のBCG−CWSを用いたエマルションによるin vitro生物活性評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて製造したエマルションを用いた。但し、BCG−CWS重量比にして15倍量のスクアレンと5倍量のPS80と、クエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
(2)評価方法
a)RAW264.7細胞を用いたTNF−α活性評価:
試験例4(1)と同様に実施した。
b)BC−1細胞を用いたIL−12活性評価:
試験例11(3)と同様に実施した。
c)HEK−Blue−hTLR2細胞を用いたhTLR2のレポーター活性評価:
試験例4(2)の方法に準じて測定した。
(3)結果
a)TNF−α活性評価:
図5に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、TNF−α誘導活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約16倍高かった。
b)IL−12活性評価:
図6に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、IL−12誘導活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約6倍高かった。
c)TLR2のレポーター活性評価:
図7に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、hTLR−2レポーター活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約22倍高かった。
【0162】
試験例21:BCG−CWSのオイルペーストのオイル量とin vitro活性の相関
BCG−CWSの水中油型エマルションにおけるin vitro活性と使用油量との相関を見る一環としてその中間体であるオイルペーストを用いてin vitro活性と油量との相関を検討した。
(1)評価サンプルの調製
BCG−CWSにスクワレン(BCG−CWSの8、16、24倍重量)とPS80(BCG−CWSの1.5倍重量)を添加混合した後、n−ヘキサンを添加し超音波照射を行いBCG−CWS分散液を調製した。96−wellガラスマイクロプレートにそれらBCG−CWS分散液を50μg/well添加し約24時間25℃で静置しn−ヘプタンを留去し、BCG−CWSペーストを得た。
(2)測定方法(TNF−α活性評価):
試験例4(1)の方法に準じて測定した。RAW264.7細胞を上記のBCG−CWSペーストを含有する96―wellマイクロプレートに5×10^5cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で5時間培養して接着させた後、同種の新規培地で培地交換し更に20時間培養後、培養上清中のTNF−α濃度をサイトカインELISA法により測定した。
(3)結果:
図8に示されるように、本発明のBCG−CWS(A)をスクワレンとPS80でペースト化すると、ペースト基剤の量の増加に従ってTNF−α産生量が低下した。一方で、特許文献3のBCG−CWSはペースト化することにより、TNF−αの産生が未処理群と同程度に減少した。これは、ペースト表面に露出してRaw264.7細胞を刺激していたアラビノガラクタンが、ペーストの油成分が増えることにより閉塞、被覆されることを示している。
【0163】
試験例22:各種水への分散性(物性値)を有するBCG−CWSの水中油型エマルションによるRaw264.7細胞刺激時のTNF−α産生量比較
(1)サンプル
試験例5の各種BCG−CWSを用いて、実施例7に準じて水中油型エマルションを作成した。但し、使用したBCG−CWS重量比に対し、15倍量のスクアレンと、5倍量のPS80とクエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
(2)方法
試験例4(1)の方法に準じて測定した。
(3)結果
図15に示す様に本発明BCG−CWSを用いたエマルションいずれもがTNF―αを約1000pg/mL誘導したのに対し、特許文献3のBCG−CWSを用いた場合には約300pg/mLしか誘導されなかった。
【0164】
試験例23:製剤皮内投与時のBCG−CWSの体内挙動
公知のモルモット皮内投与後のCWS挙動の評価実験(Drug Discov. Ther., 2(3), 168−177(2008)、Drug Discov. Ther., 2(3), 178−187(2008))を参考に、(試験例17に準じて製造した蛍光化BCG−CWS水中油型エマルションを調製し、蛍光強度を指標にしてリンパ節への移行性を評価する方法を確立した。その方法を用いて、本発明のBCG−CWSエマルションと特許文献3のBCG−CWSエマルションを比較した。
(1)モルモット投与及び組織摘出法
試験例17に準じて作製したラベル化BCG−CWSの蛍光化エマルションをモルモット(Hartley、雌、4週齢、SLC)の背中皮内に約50μg投与し、投与後1時間後の所属リンパ節(腋窩リンパ節)を採取した。摘出したリンパ節をホルマリン固定し、パラフィン切片を作成した。得られた切片を蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス、BZ−X710)を用いて観察し、解析ソフト(BZ−X Analyzer)を用いて算出した、リンパ節面積及び蛍光強度(輝度)からその比率(輝度/面積)を求めた。
(2)結果
表12に示す結果の通り、いずれのBCG−CWSの水中油型エマルションにおいても1時間後にBCG−CWSがリンパ節に移行しているのが確認された。その結果を表12に示す。
【0165】
【表12】
【0166】
試験例24:マウス腹腔内製剤投与時の血中IFN―γ産生誘導活性の比較
公知文献(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008)
)に準じて本発明のBCG−CWSのin vivo免疫賦活活性を評価するために、マウス腹腔内製剤投与時の血中IFNγ産生誘導活性を評価した。
(1)評価サンプル
実施例7に準じて本発明のBCG−CWS或いは特許文献3のBCG−CWSを含有した水中油エマルションを製造した。具体的には、4mgのBCG−CWS、BCG−CWS重量の27倍重量のスクワラン、BCG−CWSの18倍重量のPS80を用いてオイルペーストを作成し、そこに4.5mLの45mg/mLD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液(pH7.4)を加え、ポッターホモジナイザーで1,200rpm、60℃、12分間、乳化した。その後、45mg/mLD(−)マンニトール/8mMリン酸で希釈し、1mgCWS/mLの投与用のエマルションとした。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに上記と同様の方法で製造した。
【0167】
(2)評価方法
約1週間馴化させたSJL/Jマウス(メス、6週齢)に対し、0、3、6日目に各エマルション30μgCWS/30μLを腹腔内投与した。最終投与から6時間後に採血し、血清中のIFNγ量をELISA法にて測定した。
(3)結果
図10aに示すように、本発明のBCG−CWSのエマルション投与群の血清中IFNγ量は高い値を示したが、特許文献3のBCG−CWSのエマルション投与群では低かった。本願のBCG−CWSのエマルションは特許文献3のBCG−CWSのエマルションに比し、より強いIFNγ産生誘導活性を示すことが示された。
【0168】
試験例25:E.G7−OVA移植腫瘍マウスの抗腫瘍活性評価
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWSと、特許文献3のBCG−CWSを用いて試験例24(IFN−γの系)と同様に評価用のエマルションを作成した。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに同様の方法で製造した。
(2)方法
約1週間馴化させたC57BL/6マウス(6週齢、メス)にOVA発現E.G7細胞株(マウスリンパ腫由来細胞株)を1×10^6cells/50μLで皮内接種し、その後それぞれ1、4、7、14日目に各評価用のエマルションをそれぞれ50μgCWS/50μL/マウスとなるように腫瘍内投与した。細胞移植後21日目に剖検し腫瘍重量を秤量した。
【0169】
結果
図10bに示した通りであり、本発明のBCG−CWSのエマルションは特許文献3のBCG−CWSエマルションに比べ優れた効果を示している。
【0170】
試験例26:MethA細胞移植マウスの抗腫瘍活性評価
(1)評価サンプル
実施例7に準じて本発明のBCG−CWS或いは特許文献3のBCG−CWSを含有した水中油エマルションを製造した。具体液には、12mgのBCG−CWS、BCG−CWS重量の27倍重量のスクワランからオイルペーストを作成し、そこにBCG−CWSの18倍重量のPS80を含有した約4mLの8mMリン酸緩衝液を添加し、電動ホモジナイザーで乳化し乳化液を得た。その後、等容量の90mg/mLのD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液溶液を添加し、実施例7と同様にしてBCG−CWS含有水中油エマルションを得た。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに上記と同様の方で製造した。
(2)評価方法
a)細胞調製
10%FBS含有RPMI1640倍地中でin vitroにて継代維持したMethA細胞株(同系繊維肉腫細胞株)を使用した。抗腫瘍活性評価に使用するため、MethA細胞株をリン酸緩衝化生理食塩水で3度洗浄し、2×10^6cell/mLとなるよう再懸濁した。
b)細胞移植とエマルションの投与
約1週間馴化させたBALB/cマウス(メス、6週齢、チャールスリバー)の背上部に(2)a)MethA細胞株を10^5cell/50μLと上記の投与用液50μgCWS/50μLを混合し腹側腋窩皮内に移植した。移植後18日後の腫瘍の生着率を評価した。
(3)結果
得られた結果を表13に示した。本発明のBCG−CWSのエマルションは、ビークルエマルションに比べ、強く腫瘍の生着を阻止した。
【0171】
【表13】