特許第6442703号(P6442703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6442703細菌細胞壁骨格成分を含有する水中油型エマルション製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442703
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】細菌細胞壁骨格成分を含有する水中油型エマルション製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20181217BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20181217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20181217BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   A61K35/74 B
   A61K9/107
   A61K9/19
   A61K47/06
   A61K47/26
   A61K47/22
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K47/36
   A61K47/18
   A61K47/42
   A61P35/00
   A61P37/02
【請求項の数】16
【全頁数】59
(21)【出願番号】特願2018-532797(P2018-532797)
(86)(22)【出願日】2017年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2017046780
(87)【国際公開番号】WO2018124132
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2018年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-250756(P2016-250756)
(32)【優先日】2016年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593192069
【氏名又は名称】日本ビーシージー製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】中谷 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 幸広
(72)【発明者】
【氏名】中馬 康志
(72)【発明者】
【氏名】砂川 洵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁尤
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/102369(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034669(WO,A1)
【文献】 特開2009−055812(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157479(WO,A1)
【文献】 特表2014−512363(JP,A)
【文献】 特開2008−214266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCG−CWS、水、油としてスクワラン、スクワレンまたはその混合物、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する、下記条件を満たす水中油型エマルション製剤:
(a)レクチンに対する反応性を示す、
(b)エマルション製剤のゼータ電位がマイナスの値であり、BCG−CWSを含まない以外は同様にして作成されたビークル水中油型エマルションのゼータ電位との電位差が3〜14mVである。
【請求項2】
上記BCG−CWSが、脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含むものである、請求項1に記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項3】
レクチンがコンカナバリンAである、請求項1又は2に記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項4】
上記電位差が4〜12mVである、請求項1〜のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項5】
さらに抗酸化剤として、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)から選択される1以上の抗酸化剤を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項6】
上記抗酸化剤がジブチルヒドロキシトルエンである、請求項に記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項7】
さらに緩衝剤として、リン酸バッファーまたはクエン酸バッファーを含有する、請求項1〜のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項8】
上記緩衝剤がクエン酸バッファーである、請求項に記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項9】
さらに単糖類、糖アルコール、多類糖、アミノ酸、タンパク質、ウレア、および無機塩からなる群から選択される一つ以上の賦形剤を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項10】
上記賦形剤がマンニトール、スクロース又はトレハロースである、請求項記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項11】
上記賦形剤がマンニトールである、請求項10に記載の水中油型エマルション製剤。
【請求項12】
油がスクワレンまたはスクワランであり、さらに酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエン、緩衝剤としてクエン酸バッファーを含有する、請求項1〜11のいずれかに記載の製剤。
【請求項13】
油がスクワレンであり、緩衝剤としてクエン酸バッファーを含有する、請求項1〜12のいずれかに記載の製剤。
【請求項14】
請求項13のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤の凍結乾燥製剤。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のエマルション製剤または凍結乾燥製剤を含有する、ヒトを含む哺乳動物のための医薬組成物。
【請求項16】
癌の治療のための、請求項15記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞壁骨格成分(Cell Wall Skeleton:CWS)を有効成分とするエマルション製剤、懸濁液製剤、とそれらの凍結乾燥製剤およびその製造に関するものである。特に、CWSが有するアラビノガラクタン等の糖鎖がエマルション製剤とその凍結乾燥製剤の油粒子表面に突出・露出し、レクチン(例えばコンカナバリンA)と反応し、免疫細胞に活性を示す製剤とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細菌細胞壁骨格成分(細菌−CWS)は、免疫賦活作用を有し、例えば動物モデルを用いた実験的腫瘍系、およびヒト癌の免疫療法において抗腫瘍活性を示すことが知られている。更に、上記の細菌細胞壁骨格成分を油成分中に分散、乳化させ、水中油型エマルション製剤として投与した場合、免疫賦活作用による抗腫瘍効果などが著しく高まることが知られている。
【0003】
例えばBacillus Calmette−Guerin菌(BCG菌)の細胞壁骨格成分(以下、BCG−CWSと略する場合がある)を含む水中油型エマルションを用いた癌免疫療法では、ヒトの癌治療において優れた成績が得られたことが報告されている(非特許文献1:日胸疾会誌15(11)769−774(1977))。前記エマルションは、副作用に重大なものがなく高い安全性を有しているが、皮膚障害が回避できず、投与量の減量などが必要とされている(非特許文献2)。
また、ノカルジア・ルビア菌の細胞壁骨格成分(N−CWS)の水中油型エマルションにおいても同様の臨床研究が報告されている。(非特許文献3:日外会誌,第83回,第7号,1982,p635−648、非特許文献4:肺癌,28(3):p353〜36,1988)
【0004】
前記水中油型エマルションは、細菌−CWSを油中に分散したペースト状の組成物に、界面活性剤を含む水を加えてエマルション化することにより調製することができる(国際公開パンフレット第2004/012751号、国際公開パンフレット第2005/102369号、特願2010−271322号公報)。しかし、一般に細菌−CWSを含有する水中油型エマルション製剤は不安定であり、現在、BCG−CWSを用いる場合には臨床現場では、使用時に少量の水中油型エマルションを用時調製している。しかし、常に一定の製剤を手作業で調製することは難しく、また用時調製では事実上医薬品としての実用化は不可能である。
【0005】
そこで、水中油型エマルションを凍結乾燥して凍結乾燥製剤とし、使用時に分散溶媒を加えて水中油型エマルションを再調製させる方法が検討され、いくつかの凍結乾燥製剤に関する報告がなされた(特許文献1、2及び4)。
【0006】
細菌−CWSを含む凍結乾燥製剤を医薬品として供給するためには、安全性に優れ、生物活性を示し、保存安定性に優れた凍結乾燥製剤が求められる。しかしながら、これまで製剤及び原薬の形態、物理化学的性質等に関しての検討は十分ではなかった。製剤の安定性等については細菌―CWSの形態及び物理化学的性質が影響すると考えられるため、各種エマルション或いは懸濁液製剤の製造に適した細菌―CWS及びその製造方法を見出し、それを用いた新規水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤の供給が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表00/003724号公報
【特許文献2】再表2004/012751号公報
【特許文献3】特開2008−214266号公報
【特許文献4】再表2005/102369号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日胸疾会誌15(11)769−774(1977)
【非特許文献2】日内会誌第67巻第12号1500〜1505頁1978年
【非特許文献3】癌と化学療法、第10巻第1号昭和58年1月p53−62:N−CWS
【非特許文献4】肺癌,28(3):p353〜36,1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は高純度かつ各種エマルション、懸濁液製剤の製造に適した水への分散性に優れた細菌−CWSとその製造方法と、それを用いた保存安定性に優れた新規水中油型エマルション及び凍結乾燥製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、製剤の安定性等については細菌―CWSの形態及び物理化学的性質が影響すると考え、それらについて検討すると共に、細菌―CWSの形態及び物性が製剤の生物活性及び安定性等に大きく関与することを見出した。その結果、各種エマルション製剤の製造に適した細菌―CWS及びその製造方法を見出し、さらに緩衝液や抗酸化剤にも工夫を加えた安定性に優れ、レクチン(例えばコンカナバリンA)と反応し、かつ免疫細胞にin vitro活性を有することを特徴とする新規水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤を見出すことができた。本発明の細菌―CWSを使用することにより、細菌―CWSが有する糖鎖が油粒子(油滴)表面に突出・露出し、レクチン(例えばコンカナバリンA)との反応性を有し免疫細胞に対して優れたin vitro活性を有し、皮膚障害を含め安全性及び保存安定性が改善された水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤を作製することができた。
本発明は、上記の知見をもとに、完成するに至ったものである。
【0011】
即ち本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 細菌の細胞壁骨格成分(CWS)、水、油、界面活性剤を含有する、下記条件を満たす水中油型エマルション製剤:
(a)レクチンに対する反応性を示す、
(b)エマルション製剤のゼータ電位と、細菌の細胞壁骨格成分を含まない以外は同様にして作成されたビークル水中油型エマルションのゼータ電位の電位差が3〜14mVである。
[2] 上記細菌が、CWSに脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含むものである、[1]に記載の水中油型エマルション製剤。
[3] 上記細菌が、ミコバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌からなる群から選択されるものである、[1]または[2]に記載の水中油型エマルション製剤。
[4] レクチンがコンカナバリンAである、[1]〜[3]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[5] 上記電位差が4〜12mVである、[1]〜[4]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[6] 上記細菌が、ミコバクテリウム属菌およびノカルジア属菌からなる群から選択されるものである、[1]〜[5]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[7] 上記細菌がBCG菌である、[6]に記載の水中油型エマルション製剤。
[8] 上記油がスクワラン、スクワレンまたはその混合物である、[1]〜[7]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[9] 上記界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、[1]〜[8]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[10] さらに抗酸化剤として、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)から選択される1以上の抗酸化剤を含有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[11] 上記抗酸化剤がジブチルヒドロキシトルエンである、[10]に記載の水中油型エマルション製剤。
[12] さらに緩衝剤として、リン酸バッファーまたはクエン酸バッファーを含有する、[1]〜[11]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[13] 上記緩衝剤がクエン酸バッファーである、[12]に記載の水中油型エマルション製剤。
[14] さらに単糖類、糖アルコール、多類糖、アミノ酸、タンパク質、ウレア、および無機塩からなる群から選択される一つ以上の賦形剤を含有する、[1]〜[13]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤。
[15] 上記賦形剤がマンニトール、スクロースまたはトレハロースである、[14]に記載の水中油型エマルション製剤。
[16] 上記賦形剤がマンニトールである、[15]に記載の水中油型エマルション製剤。
[17] 細菌がBCG菌であり、油がスクワレンまたはスクワランであり、界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、さらに抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエン、緩衝剤としてクエン酸バッファーを含有する、[1]〜[16]のいずれかに記載の製剤。
[18] 細菌がBCG菌であり、油がスクワレンであり、界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、緩衝剤としてクエン酸バッファーを含有する、[1]〜[16]のいずれかに記載の製剤。
[19] [14]〜[18]のいずれかに記載の水中油型エマルション製剤の凍結乾燥製剤。
[20] [1]〜[19]のいずれかに記載のエマルション製剤または凍結乾燥製剤を含有する、ヒトを含む哺乳動物のための医薬組成物。
[21] 癌の治療のための、[20]記載の医薬組成物。
[22] 以下の工程を含む細菌CWSを含有する水中油型エマルション製剤の製造方法:
(i)下記の条件を満たす細菌CWS調製物を提供する、
a)細菌CWS調製物中の全非構成アミノ酸含量が0.8重量%以下(0〜0.8重量%)である
b)オーラミン染色によるCWS調製物の蛍光面積率が10%以下(0〜10%)である、
(ii)細菌CWS調製物、油、並びに有機溶媒を含む混合液を攪拌して細菌CWSを分散させる、
(iii)有機溶媒を留去する、
(iv)有機溶媒留去後の細菌CWSに、界面活性剤を含む水溶液を加えて乳化する。
[23] 上記CWS調製物の蛍光面積率が5%以下(0〜5%)である、[22]に記載の製造方法。
[24] 上記CWS調製物の蛍光面積率が2%以下(0〜2%)である、[22]または[23]に記載の製造方法。
[25] 上記CWS調製物(乾燥体)を生理食塩水中1mg/mLに分散させた場合の、分散の60分後のOD値(690nm)が分散直後のOD値と対比して0.4以上(0.4〜1.0)である、[22]〜[24]のいずれかに記載の製造方法。
[26] 上記60分後のOD値(690nm)が分散直後のOD値と対比して0.7以上(0.7〜1.0)である、[22]〜[25]のいずれかに記載の製造方法。
[27] 上記細菌CWS調製物が、さらに下記要件を満たす、[22]〜[26]のいずれかに記載の製造方法:
細菌CWS調製物の5〜20重量倍のスクワレン、1.5〜7重量倍のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルPS80を用いて、1mgCWS/mLとなるように作製された水中油型エマルションのゼータ電位と、細菌CWS調製物を用いない以外は同様にして作成されたビークル水中油型エマルションのゼータ電位の電位差が、3〜14mVである。
[28] 上記電位差が、4〜12mVである、[27]に記載の製造方法。
[29] 上記細菌CWS調製物が下記の条件を満たす、[22]〜[28]のいずれかに記載の製造方法:
TLR2と反応し、TLR4と反応しない。
[30] 上記細菌CWS調製物が、脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンの3層からなる、[22]〜[29]のいずれかに記載の製造方法。
[31] 上記細菌CWS調製物が、ミコバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌からなる群から選択される細菌由来のものである、[22]〜[30]のいずれかに記載の製造方法。
[32] 上記細菌が、ミコバクテリウム属菌およびノカルジア属菌からなる群から選択されるものである、[31]に記載の製造方法。
[33] 上記細菌がBCG菌である、[32]に記載の製造方法。
[34] [22]〜[33]ののいずれかに記載の製造方法の工程(iv)において、さらに賦形剤を加えた上で乳化し、得られた水中油型エマルション製剤を凍結乾燥する工程を含む、細菌CWS水中油型エマルションの凍結乾燥製剤の製造方法。
[35] 上記凍結乾燥製剤が[19]に記載の製剤である、[34]に記載の凍結乾燥製剤の製造方法。
[36] 下記を満たす細菌の細胞壁骨格成分(CWS)調製物:
a)CWS調製物中の全非構成アミノ酸含量が0.8重量%以下(0〜0.8重量%)であり、かつ
b)オーラミン染色によるCWS調製物の蛍光面積率が10%以下(0〜10%)である。
[37] 上記CWS調製物の蛍光面積率が5%以下(0〜5%)である、[36]に記載のCWS調整物。
[38] 上記CWS調製物の蛍光面積率が2%以下(0〜2%)である、[37]に記載のCWS調整物。
[39] 上記CWS調製物(乾燥体)を生理食塩水中1mg/mLに分散させた場合の、分散の60分後のOD値(690nm)が分散直後のOD値と対比して0.4以上(0.4〜1.0)である、[36]〜[38]のいずれかに記載のCWS調整物。
[40] 上記60分後のOD値(690nm)が分散直後のOD値と対比して0.7以上(0.7〜1.0)である、[39]に記載のCWS調整物。
[41] さらに以下の条件を満たす、[36]〜[40]のいずれかに記載の細菌CWS調整物:
細菌CWS調製物の15重量倍のスクワレン、5重量倍のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルPS80を用いて、1mgCWS/mLとなるように作製した水中油型エマルションのゼータ電位と、細菌CWS調製物を含まない以外は同様にして作成されたビークル水中油型エマルションのゼータ電位の電位差が3〜14mVである。
[42] 上記細菌CWS調整物がレクチンに対して反応性を示すものである、[36]〜[41]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[43] 上記レクチンが、コンカナバリンAである、[42]に記載の細菌CWS調製物。
[44] ハロゲン系有機溶媒を含有しない、[36]〜[43]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[45] 界面活性剤を含有しない、[36]〜[44]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[46] 上記細菌CWS調製物が、TLR2に反応し、TLR4に反応しない、[36]〜[45]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[47] 上記細菌が、CWSに脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含むものである、[36]〜[46]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[48] 上記細菌が、ミコバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌からなる群から選択されるものである、[36]〜[47]のいずれかに記載の細菌CWS調製物。
[49] 上記細菌が、ミコバクテリウム属菌およびノカルジア属菌からなる群から選択されるものである、[48]に記載の細菌CWS調製物。
[50] 上記細菌が、BCG菌又はノカルジア菌である、[49]に記載の細菌CWS調製物。
[51] 上記細菌が、BCG菌である、[50]に記載の細菌CWS調製物。
[52] [36]〜[51]のいずれかに記載の細菌CWS調製物を含有する医薬組成物。
[53] 上記医薬組成物がエマルション製剤又は懸濁液製剤である、[52]に記載の医薬組成物。
[54] 上記懸濁液製剤が、水性懸濁液製剤である、[53]に記載の医薬組成物。
[55] 癌の治療のための、[52]〜[54]のいずれかに記載の医薬組成物。
[56] i)下記に特徴付けられる、細菌の精製菌体調製物を提供する工程:
a)ハロゲン系有機溶媒を含有しない、
b)PGLの含有量が、精製菌体調製物全量の0.4重量%以下(0〜0.4重量%)である、
ii)精製菌体調製物を破砕処理する工程、
iii)精製菌体破砕物の酵素処理を行う工程、および
iv)酵素処理後、洗浄する工程
を含む、細菌CWS調製物の製造方法。
[57] 精製菌体調製物のPGLとグリセロールモノミコール酸エステル(GroMM)の残存量が各々原料菌体の元の含有量の10重量%以下(0〜10重量%)である、[56]に記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[58] 精製菌体調製物がTLR4に反応せず、TLR2に反応する、[56]または[57]に記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[59] 上記細菌が、CWSに脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含むものである、[56]〜[58]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[60] 上記細菌が、ミコバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌からなる群から選択されるものである、[56]〜[59]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[61] 上記細菌がミコバクテリウム属菌およびノカルジア属菌からなる群から選択されるものである、[60]に記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[62] 上記細菌がBCG菌又はノカルジア菌である、[61]に記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[63] 上記細菌がBCG菌である、[62]に記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[64] 上記精製菌体調製物のCWS含量が35〜47重量%である、[56]〜[63]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[65] 精製菌体調製物が、上記精製菌体調製物の水性懸濁液を、公称濾過精度が1〜3μmのフィルターを用いて濾別した場合に、精製菌体調製物が濾取可能である、[56]〜[64]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[66] 上記酵素処理の酵素が蛋白質分解酵素である、[56]〜[65]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[67] 上記洗浄工程が、水又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒で洗浄することを特徴とする、[56]〜[66]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[68] 界面活性剤を使用しないことを特徴とする、[56]〜[67]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[69] ハロゲン系有機溶媒を使用しないことを特徴とする、[56]〜[68]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[70] 実質的に細胞外付着成分を含まない、細菌の精製菌体調製物を提供する工程が、細菌の生菌あるいは死菌を、水と親水性有機溶媒の混合溶液中、還流下で加熱する工程を含む、[56]〜[69]のいずれかに記載の細菌CWS調製物の製造方法。
[71] 下記に特徴付けられる、細菌の精製菌体調製物:
a)ハロゲン系有機溶媒を含有しない、
b)PGLの含有量が、精製菌体調製物全量の0.4重量%以下(0〜0.4重量%)である。
[72] PGLとグリセロールモノミコール酸エステル(GroMM)の残存量が各々原料菌体の元の含有量の10重量%以下(0〜10重量%)である、[71]に記載の細菌の精製菌体調製物。
[73] TLR4に反応せず、TLR2に反応する、[71]〜[72]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物。
[74] 上記細菌が、CWSに脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含むものである、[71]〜[73]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物。
[75] 上記細菌が、ミコバクテリウム属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌からなる群から選択されるものである、[71]〜[74]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物。
[76] 上記細菌がミコバクテリウム属菌およびノカルジア属菌からなる群から選択されるものである、[75]に記載の細菌の精製菌体調製物。
[77] 上記細菌がBCG菌又はノカルジア菌である、[76]に記載の細菌の精製菌体調製物。
[78] 上記細菌がBCG菌である、[76]に記載の細菌の精製菌体調製物。
[79] 上記精製菌体調製物のCWS含量が35〜47重量%である、[71]〜[78]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物。
[80] 上記精製菌体調製物の水性懸濁液を、公称濾過精度が1〜3μmのフィルターを用いて濾別した場合に、精製菌体調製物が濾取可能である、[71]〜[79]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物。
[81] 細菌の生菌あるいは死菌を、水と親水性有機溶媒の混合溶液中、還流下で加熱する工程を含む、細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[82] 上記水と親水性有機溶媒の混合溶液中の水の含有量が10〜40重量%である、[81]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[83] 上記親水性有機溶媒として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンから一つ以上が選択されることを特徴とする、[81]または[82]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[84] 上記親水性有機溶媒がメタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、アセトンから一つ以上が選択されることを特徴とする、[83]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[85] 上記混合溶液から濾過処理にて精製菌体を分離することを特徴とする、[81]〜[84]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[86] 上記濾過処理を、公称濾過精度が0.45〜5μmであるフィルターを用いて行う、[85]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[87] 上記濾過処理が、圧迫濾過であることを特徴とする、[85]または[86]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[88] 上記精製菌体に存在する細胞外付着成分の含量を指標として精製の終点管理を行う、[81]〜[87]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[89] 上記指標として、PGL及び/又はGroMMの残存量をモニターすることを特徴とする、[88]に記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[90] 上記終点管理が、PGLの残存量をモニターして、精製菌体中の残存量重量が0.4重量%以下(0〜0.4重量%)であることを確認することを特徴とする、[89記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
[91] 上記精製菌体調製物が、[71]〜[80]のいずれかに記載の精製菌体調製物である、[81]〜[90]のいずれかに記載の細菌の精製菌体調製物の製造方法。
【0012】
なお、本願明細書および請求の範囲において、「細菌細胞骨格成分(CWS)調製物」、「CWS調製物」、「精製細菌調製物」等の用語を用いている。「調製物」は、細菌CWSや精製菌体成分のみを含有するのではなく、原料や製造工程に由来する種々の物質を含んでいても良い複合体を意味する。本願明細書においては特に断りのない限り、「細菌細胞骨格成分(CWS)調製物」、「CWS調製物」、「精製細菌調製物」と、「細菌細胞骨格成分」、「CWS」、「精製細菌」はそれぞれ同じ物質を示すものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤は、糖鎖が油粒子の表面に突出・露出し、レクチンとの反応性及び免疫細胞に対して優れた活性を示し、保存安定性に優れている。それ故、本発明のエマルション及びその凍結乾燥製剤は、医薬品として癌免疫療法剤、花粉症、喘息等の免疫調節剤に使用可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】抗酸菌(結核菌)の細胞壁の基本構造を物質レベルでどのような形状になっているかを表した図(MicrobiologySpectrum, 2(3), 1−19(2014)のFIGURE 6)である。細胞壁(細胞外付着成分を含む)に含まれる主な化合物が記載されている。更に、抗酸菌の細胞壁の成分の中で、有機溶媒で抽出される脂質が表されている。なお、細胞壁の成分の中で、ペプチドグリカン−アラビノガラクタン−ミコール酸の部分(細胞壁骨格)は有機溶媒等によって抽出できないことが記載されている。
図2】本発明、特許文献3のBCG−CWSのエマルションに対するローダミン標識コンカナバリンAの結合、凝集反応の比較。a)本発明のBCG−CWSのエマルション。b)特許文献3のBCG−CWSのエマルション。(左:蛍光顕微鏡画像、右:微分干渉画像)
図3】本発明のエマルション並びにエマルション中の油滴の模式図を示す。Aは従来技術(例えば特許文献3)のエマルション中の油滴、B.本発明のエマルション中の油滴の模式図である。
図4】各種オイル量(対BCG−CWS仕込み重量比3.8、6.0、7.5倍量)を用いて製造した異なる物性値(水への分散性)を有するBCG−CWSの水中油型エマルションの粒度分布。a)本発明のBCG−CWS(A)のエマルション。b)特許文献3のBCG−CWS(E)のエマルション。
図5】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)をそれぞれ用いて製造したエマルションの、マウスマクロファージ様細胞株(Raw264.7細胞株)におけるin vitro TNF−α産生増強活性の比較。
図6】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)をそれぞれ用いて製造したエマルションの、マウス未成熟樹状細胞株(BC−1細胞株)におけるin vitro IL−12産生増強活性の比較。
図7】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)をそれぞれ用いて製造したエマルションの、hTLR2遺伝子導入HEK細胞株(ヒト胎児由来腎臓細胞株)におけるin vitroレポーター活性の比較。
図8】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の、BCG−CWSオイルペーストのオイル量と、invitro生物活性の相関性の比較(Raw264.7細胞におけるin vitro TNF−α産生増強活性)。
図9】BCG−CWSオイルペーストの水中での模式図A)は特許文献3のBCG−CWSのオイルペースト。B)本発明のBCG−CWSのオイルペースト。2.水層、4.BCG−CWS、5.アラビノガラクタン特許文献3のオイルペーストではアラビノガラクタンが殆ど油滴表面に突出、露出していない。本発明のオイルペーストでは、アラビノガラクタンが多く油滴表面に突出、露出している。
図10】本発明BCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルションの各種in vivo生物活性。a)BCG−CWS水中油型エマルションのSJL/Jマウスへの腹腔内投与時の血中IFN―γ産生誘導効果。b)BCG−CWS水中油型エマルションのOVA遺伝子導入E.G7細胞株担癌マウス(C57BL/6マウス)への腫瘍内投与時の腫瘍増殖抑制効果。
図11】各種抗酸化剤使用時における負荷条件下(60℃、8日間保存)のビークルエマルションの保存安定性の比較。a)pH変動b)オレイン酸含量変動。
図12】リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液の、加温負荷条件下(40、60℃)のPS80溶液に対するpH変動。a)40℃、b)60℃。
図13】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の水中分散時におけるOD相対値の変化。
図14】本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSに関する物性の相違(水中の分散性、n−ヘプタン中の粒度分布など)をBCG−CWSの表面形態の変化で説明したイメージ図である。(a)は分散状態、(b)はミコール酸部分が通常の可逆的な疎水性相互作用、(c)はミコール酸部分が不可逆的に強く凝集又は融合している形態を表している。
図15】各種水への分散性(物性値)を有するBCG−CWSの水中油型エマルションによるRaw264.7細胞株刺激時のin vitro TNF−α産生量。
図16】a)特許文献3のBCG−CWSの有機溶媒中加熱処理品のOD相対値(分散性)の変化。b)本発明のBCG−CWSの加熱及び界面活性剤処理品のOD相対値(分散性)の変化。
図17】特許文献3のBCG−CWSの再破砕品のOD相対値(分散性)の変化。
図18】ウサギ抗BCG死菌抗体に対する、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの結合反応性。
図19】本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSのオーラミン染色画像。(a)本発明のBCG−CWS、(b)特許文献3のBCG−CWS。(左:蛍光顕微鏡画像、右:微分干渉画像)
図20】本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの(a)生理食塩水中、(b)n−ヘプタン中における粒度分布
図21】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の、マウス未成熟樹状細胞株(BC−1細胞株)におけるin vitro IL−12産生増強活性。
図22】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の、マウス樹状細胞株(JAWSII細胞株)におけるin vitro IL−12産生増強活性。
図23】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の、マウスマクロファージ様細胞株(Raw264.7細胞株)におけるin vitro TNF−α産生増強活性。
図24】本発明のBCG−CWS(A)と特許文献3のBCG−CWS(E)の、各種hTLR遺伝子導入HEK細胞株におけるin vitroレポーター活性。a)hTLR2、b)hTLR4。
図25】精製菌体製造時の死菌体洗浄効率a)薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いたBCG死菌体との比較による、本発明のBCG精製菌体の細胞外付着物残留量。b)死菌体洗浄における本発明洗浄方法と公知法で洗浄した各菌体に含まれる細胞外付着成分の残留量をTLCで示している。
図26】BCG死菌、本発明の精製菌体に対するローダミン標識コンカナバリンAの結合、凝集反応。a)BCG死菌。b)本発明の精製菌体。(左:蛍光顕微鏡画像、右:微分干渉画像)
図27-1】BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体とその破砕物の、各種hTLR遺伝子導入HEK細胞株におけるin vitroレポーター活性。a)BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体のhTLR2レポーター活性。b)本発明のBCG精製菌体とその破砕物のhTLR2レポーター活性。
図27-2】BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体とその破砕物の、各種hTLR遺伝子導入HEK細胞株におけるin vitroレポーター活性。c) BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体のhTLR4レポーター活性。d)本発明のBCG精製菌体とその破砕物のhTLR4レポーター活性。
図28】BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体とその破砕物の、Raw264.7細胞におけるin vitro TNF−α産生増強活性。a)BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体。b)本発明のBCG精製菌体とその破砕物。
図29】BCG菌体(死菌)と本発明のBCG精製菌体の、マウス樹状細胞株(JAWSII細胞)におけるin vitro IL−12産生増強活性。
図30】本発明のBCG−CWSの水中油型エマルションの粒度分布
図31】本発明のBCG−CWSの水中油型エマルション凍結乾燥製剤復水後のエマルションの粒度分布
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一の態様は、細菌−CWSを含有する水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤に関するものである。
本発明の「水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤」とは、本発明の細菌−CWSを用いて、例えば次のように製造できるものである。すなわち、(1)有機溶媒を用いて細菌−CWS及びスクワレン、スクワラン等の油との混合油状物(オイルペースト)を調製し、(2)界面活性剤としてポリソルベート類等を配合し、(3) 前記(2)を水中で乳化し乳化液を得る。(4)乳化液を賦形剤としてマンニトール等を配合した緩衝液で希釈し、希釈液とし、均一性に富む水中油型エマルションを製造することができ、(5)当該水中油型エマルションを凍結乾燥させることによって凍結乾燥製剤を得ることができる。
一方、公知な方法(特許文献3)で製造したBCG−CWSを用いた場合、水中油型エマルション作製に最少必要な油量が多く、その凍結乾燥製剤の保存安定性が低くかつ、保存安定性の再現性が低いことが分かった。これらのことから、BCG−CWSの形態及びその物性がエマルション及びその凍結乾燥製剤の保存安定性に大きく関与していることが分かった。
【0016】
本発明の「細菌細胞壁骨格成分」とは、細菌由来の細胞壁骨格成分(Cell Wall Skeleton; CWS)を含む任意の菌体由来成分を表し、細菌−CWSと略される。細菌−CWSとしては、例えばヒト型結核菌等のマイコバクテリウム属、乳酸菌等のラクトバシラス属(Lactobacillus)、酵母等のサッカロマイセス属(Saccharomyces)の死菌等の、細菌の菌体そのもの、及びある程度単離された細胞壁骨格成分を挙げることができる。細菌としては、例えばグラム陽性棹菌のミコバクテリウム属細菌、ノカルジア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌などが挙げられる。「ミコバクテリウム属細菌」とは、具体的には、結核菌群細菌のMycobacterium tuberculosis(結核菌)、Mycobacterium bovis[ウシ型結核菌、BCG(カルメット・ゲラン菌;Bacillus Calmette−Guerin)を含む]、Mycobacterium smegmatis(スメグマ菌)、(Mycobacterium africanum(アフリカ菌)、Mycobacterium microti(ネズミ型結核菌)があり、この他、Mycobacterium leprae(ライ菌)、非結核性抗酸菌群であるMycobacterium kansasii、Mycobacterium avium、Mycobacterium phlei等が挙げることができる。「ラクトバシラス属細菌」とはカゼイ・シロタ菌(Casei strain Shirota)が挙げられる。中でも好ましいものとして、ミコバクテリウム属ウシ型結核菌の一種であるBCG菌およびノカルディア属細菌の一種であるノカルディア・ルブラを挙げることができる。
【0017】
本発明の「細胞壁骨格(CWS)」とは、図1に示す抗酸菌である結核菌の細胞壁から脂肪酸(ミコール酸)、糖鎖(アラビノガラクタン)及びペプチドグリカン以外の成分を除いた成分を示している。CWSは、抗酸菌菌体の破砕処理、核酸分解酵素処理、蛋白質分解酵素処理、溶媒洗浄などの精製工程を経て得られる、蛋白質、核酸及び脂肪酸等の可溶性成分を実質的に含まない不溶性残渣である(J. Nat.Cancer Inst., 52, 95−101(1974))。
なお、前記のように、製造方法及び分析値が示され、純度あるいは不純物含量が明示されているBCG−CWS(特許文献3)を製造し検討した結果、水に対する分散性が非常に悪く水中油型エマルションへの変換効率が低く、そのエマルション、懸濁液及び水中油型エマルションの凍結乾燥製剤の安定性が低い、或いは再現性が無いことが分かった。そこで、水への分散性を中心としてBCG−CWSの形態に着目しその物性改良を指標として、製造方法を変えることによって水に対する分散性に優れたBCG−CWSを得ることができた。
本発明の「脂肪酸」とは、例えばマイコバクテリウム属由来のミコール酸やノカルジア属の有する脂肪酸を挙げることができる。好ましくはミコール酸を挙げることができる。
本発明の「糖鎖」とはマイコバクテリウム属またはノカルジア属のCWSなどに結合している糖鎖を言う。好ましくはアラビノガラクタンを挙げることができる。
【0018】
前記公知法(特許文献3)で製造したBCG−CWSと上記水への分散性に優れた本発明のBCG−CWSを用いてエマルションを作製し比較したところ、以下の
1)レクチン(コンカナバリンA)との反応性
2)ゼータ電位
3)水中油型エマルションへの変換効率と水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤の安定性
が明らかに異なることが分かった。
【0019】
即ち、本発明の水中油型エマルションは、
1)レクチン(コンカナバリンA)との反応性:
レクチンに対し反応を示し凝集も確認されるが、公知BCG−CWSを用いたエマルションでは反応を示さない(図2)。
2)ゼータ電位:
ゼータ電位に関しては、BCG−CWSに対して重量比15倍量の油を用いた場合の水中油型エマルションでは強いゼータ電位(−15.2mV)を示し、一方特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルションは、BCG−CWS非含有のビークルエマルション(−7.1mV)と同等のゼータ電位(―7.8mV)を示した。
【0020】
3)水中油型エマルションへの変換効率(含有効率):
エマルションの油量として、BCG−CWSに対して重量比3.8倍量を用いた場合、高いエマルションへの変換率(96%)を示し、一方で特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルションは低い変換率(54%)であった(表5)。即ち、特許文献3のBCG−CWSを使用する場合、油量がBCG−CWSの3.8倍の場合には、エマルションを製造することができず、7倍以上の油量を用いた場合にのみ、エマルションが製造可能であることが示された。また、BCG−CWSの6倍の油量で製造した場合も、本発明BCG−CWSを用いた場合には98%のエマルションへの変換が認められたが、特許文献3のBCG−CWSを用いた場合には79%しか変換しなかった(表5)。この結果から、特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルションの作製には、7倍以上の油量が必須であることが示された。
【0021】
しかも、ここで即ち6倍量の油量で作製した2つのエマルションの凍結乾燥製剤の安定性に大きな相違があった。特許文献3のBCG−CWSを用いた製剤では、BCG−CWSと油量の重量比がより大きい(7倍以上)にも関わらず、本発明のBCG−CWSを用いた製剤より、明らかに不安定であった。(凍結乾燥製剤復水後のエマルション内BCG−CWS含量測定によって算出した:40℃、2週間保存後のBCG−CWS減少量特許文献3のBCG−CWS製剤20%、本発明BCG−CWS製剤約1%であった(表6)。
【0022】
4)水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤の安定性:
エマルションの安定性は、特許文献3のBCG−CWSエマルションと比較して本発明のBCG−CWSエマルションの方が優れていた。例えば油量がBCG−CWSの重量比15倍量の室温3日保存時のエマルションからの含有BCG−CWSの減少量は、特許文献3のBCG−CWSエマルションでは24%減少し、本発明のBCG−CWSエマルションの場合では7%の減少であった(表7)。
以上の結果を支持する事実として、特許文献3のBCG−CWSを用いた安定な水中油型エマルションの凍結乾燥製剤として特許文献3に明示されている凍結乾燥製剤では油量がBCG−CWSの重量比18倍量のスクワランが用いられている。また、公知文献(Drug Discov. Ther., 2(3), 168−177(2008)、Drug Discov. Ther., 2(3), 178−187(2008))では公知のBCG−CWSを用いた水中油型エマルションの凍結乾燥製剤として、27倍量のスクワランが用いられている。
【0023】
以上のように、変換効率(含有効率)、エマルションの安定性及び凍結乾燥製剤の保存安定性は、いずれも本発明のBCG−CWSは公知BCG−CWSに比して有意に優れており、より高いBCG−CWSの含有率を有する水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤の製造が可能になっている。
【0024】
本発明の「保存安定性」とは、エマルションについては室温条件下、凍結乾燥製剤については40℃条件下数日から2週間経過後のCWS含量等を評価し、含有率の減少が10%以内であることを言う。エマルションに関しては好ましくは3日間で10%以下の減量であり、エマルション凍結乾燥製剤に関しては好ましくは2%である。
【0025】
本発明の「レクチンとの反応性」とは、レクチンとして例えばコンカナバリンAと結合して凝集を起こすことをいう。レクチンとは特異的に糖鎖と結合する性質を有するタンパク質であり、もっぱら植物から分離されていた。コンカナバリンAはナタ豆から得られた糖鎖結合性のタンパク質または糖タンパク質である。本発明の水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤がレクチンとの反応性を示すことは、エマルション中の油滴(油粒子)表面にアラビノガラクタンが突出・露出していることを示している。レクチンとしては、特に限定はないが、例えばローダミン標識コンカナバリンAなどを使用することができる。
【0026】
本発明の「ゼータ電位」とは、ゼータサイザーを用いて測定した水中油型エマルション中の油粒子表面の荷電状態を示すものである。本発明の水への分散性に優れたBCG−CWSで作成した水中油型エマルションの場合、ビークルエマルションのゼータ電位とのゼータ電位差は大きく(6〜9mV)、特許文献3のBCG−CWSを用いた水中油型エマルションの場合、ビークルエマルションのゼータ電位とのゼータ電位差はほとんど見られなかった(1mV以下)(表10)。
【0027】
更に、本発明BCG−CWSを用いてBCG−CWSに対する油重量比を変えて作製したエマルションのビークルエマルションとのゼータ電位差を測定したところ、重量比7.5倍量、15倍量、22.5倍量の油を用いた場合、各々その電位差は9.2、7.2、5.4mVを示した(表11)。即ち、オイル量が多くなるにつれて油滴内部により多くのアラビノガラクタンが包埋される、即ち、アラビノガラクタンのエマルション油滴表面への露出量が減少していると考えられた。このことからも、レクチンとの反応性から示された結果と同様に、ゼータ電位からも、エマルションの油滴(油粒子)表面にアラビノガラクタンが突出・露出していることが示された。
このように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルションとしては、ビークルエマルションとのゼータ電位差が3〜14mVであり、好ましくは4〜12mVを挙げることができる。特に好ましくは、4〜11mVを挙げることができる。
なお、BCG−CWS及び油をそれぞれ蛍光化させたエマルションを観察したところ、蛍光が共局在しておりBCG−CWSがエマルション中の油粒子に封入されていることが確認されたが、ゼータ電位の相違及びレクチン(コンカナバリンA)との反応性を示すことは、エマルションの油粒子(油滴)の表面に糖鎖、即ちアラビノガラクタンが突出・露出した構造/形態を示している。即ち、本願の水中油型エマルションは、いままで知られているレクチンとの反応が陰性であることを特徴としている公知のエマルション(特許文献3)とは全く異なる新規な水中油型エマルションであることが確認できた(図3)。
【0028】
本発明のBCG−CWSを用いた水中油型エマルションが特許文献3の水中油型エマルションと比較して、安定性が高くかつ、高い変換効率、即ち油滴に対するBCG−CWS含量が高いエマルションが作成可能である理由として、油滴表面に糖鎖が突出・露出していること、即ち、本発明のBCG−CWS自身が界面活性剤として機能している結果と考えられる。
【0029】
本発明のBCG−CWSの水中油型エマルションの粒度分布についてはBCG−CWSに対し重量比7.5倍量の油を用いた本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの粒度分布を図4に示した。それらのメディアン径は本発明BCG−CWSエマルションでは2.4μm、特許文献3のBCG−CWSエマルションでは2.7μmで、ほぼ同等のメディアン径を示した。また、本発明BCG−CWSを用いた場合、油量が対BCG−CWS重量比3.8、6.0、7.5倍量で水中油型エマルションを作成した場合、いずれも同じメディアン径及び粒度分布波形を示した(図4a)。一方、特許文献3のBCG−CWSで作成した水中油型エマルションの場合には、3.8、6.0倍量の油で作製すると、それらのメディアン径が大きくかつ粒度分布波形が2峰性、或いは3峰性を示した(図4b)。尚、本発明のBCG−CWS水中油型エマルションは乳化条件、凍結乾燥条件によってメディアン径を2.5μm以下にすることが可能である。
【0030】
これまで述べてきたように、細菌−CWSの水中油型エマルションの形態/構造、レクチンとの相互作用及び水中油型エマルション、水中油型エマルション凍結乾燥製剤の製造の容易さ、保存安定性、物理化学的性質は、用いる細菌−CWSの形態/構造等によって大きく左右されることが判明した。
【0031】
本発明のBCG−CWSの生物活性については1)免疫細胞に対するin vitro活性、2)リンパ節への移行性、3)動物実験invivo活性等で優れた活性を示した。
1)免疫細胞に対するin vitro活性:
BCG−CWSの水中油型エマルションのinvitro活性については殆ど知られていないが、特許文献3のBCG−CWS及び本発明のBCG−CWSから作製した水中油型エマルションを用いて汎用の免疫細胞に対するin vitro活性について検討した。その結果、本発明のBCG−CWSから作製したエマルションは予想外に有意な活性を示した。即ち、特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルションに比べ、Raw264.7細胞株では約16倍、TLR2遺伝子導入HEK細胞株では約22倍、BC−1細胞株では約6倍のin vitro活性を示した(図5、7、6)。
更に、エマルションを作製する前のBCG−CWS、油及び界面活性剤からなるオイルペースト(混合油状物)でそのin vitro活性を検討した。本発明のBCG−CWSから作製したオイルペーストは、Raw264.7細胞のin vitro活性を示すが、特許文献3のBCG−CWSから作製したオイルペーストは殆どその活性を示さなかった。本発明のBCG−CWSオイルペーストではオイル量が増大するにつれてその活性が低下した(図8)。この現象は、オイル量が増大するに従ってアラビノガラクタンの油滴表面への露出量の減少と相関していると考えられた(図9)。
【0032】
2)リンパ節への移行性:
BCG−CWSの水中油型エマルションの皮内投与後のBCG−CWSの挙動については、モルモットを用いた実験が知られている。即ち、その挙動は、公知のBCG−CWS水中油型エマルションでは皮内投与後3時間においてBCG−CWSの一部がリンパ節に移行することが報告されている。また、臨床効果に相当する薬効はリンパ節に移行したBCG−CWSが関与していることが示されている(Drug Discov. Ther., 2(3), 168−177(2008)、Drug Discov. Ther., 2(3), 178−187(2008))。そこで、簡単な評価系(試験例23)を構築しモルモットを用いて本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルションについて皮内投与後のBCG−CWSのリンパ節への移行性について検討した。その結果、1時間後にいずれのBCG−CWSもリンパ節に移行していることが認められた。また、そのBCG−CWSのリンパ節への移行量は本発明のBCG−CWSのエマルションの方が、特許文献3のBCG−CWSに比較して約2倍高いことが示された(表12)。
【0033】
3)BCG−CWSの水中油型エマルションの動物を用いた活性あるいは効力評価については多く報告されている。その活性本体についてはアジュバント活性であることから以下本願エマルションのアジュバント活性について検討した。マウスを用いたIFN―γの誘導については文献公知の方法で検討した(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008))。投与ルートは腹腔内投与で、本願のBCG−CWSエマルションは特許文献3のBCG−CWSエマルションより多くの血中IFN−γを産生した(図10a)。文献公知(Immunology, 117, 47−58(2005))のE.G7−OVA細胞担癌マウスモデルでの腫瘍増殖抑制効果の腫瘍内投与実験において本願のBCG−CWSエマルションは特許文献3のBCG−CWSエマルションよりも強い腫瘍増殖抑制活性を示した(図10b)。公知のMeth−A腫瘍細胞を用いた評価(Gann,69,619−626,1978)においても本発明のBCG−CWSのエマルションは、強く腫瘍の生着を抑制した(表13)。
【0034】
本発明の「水中油型エマルション」とは、前述の特許文献3に準じた方法を用いて製造できることがわかっている。すなわち、1)細菌−CWS及び油を、分散補助溶媒としての有機溶媒中で混合攪拌する工程;2)上記1)の有機溶媒を留去してオイルペースト(混合油状物)を作製する工程;3)細菌−CWSと油との混合油状物を界面活性剤存在下、水中で乳化する工程(乳化液)。4)緩衝剤、賦形剤等を含む水性溶媒で希釈する工程(希釈液)。細菌―CWS濃度としては0.1〜4.0mg/mLが可能である。
細菌−CWS、油、界面活性剤、賦形剤、緩衝剤、必要に応じて抗酸化剤が処方される。
本発明の「乳化」とは、分離している2つの液体をエマルションにすることを乳化という。乳化する作用をもつ物質を乳化剤といい、界面活性剤が使用される。即ち、エマルションとは、水と油のように互いに溶解しない液相の一方が他の一方に微細な液滴として分散したものであり(W.Clayton, Theory of emulsions, 4th ed., Blackstone, New York, 1943)、互いに溶解しない2つ以上の液相等からエマルションを形成する過程は乳化と称される(P.Becher, Emulsions:Theory and Pracice, Reinhold, New York, 1965)。
本発明の「水中油型エマルション凍結乾燥製剤」とは、上記水中油型エマルションを通常の方法で凍結乾燥したものである。
【0035】
本発明の「油」としては、公知文献(Immunology 第27巻、第311〜329項(1974年))に記載されているような鉱物油、動植物油が挙げられる。鉱物油としては、例えば、流動パラフィン(ドレコール6VR、モレスコバイオレスU−6、モレスコバイオレスU−8等)、バイオール(Bayol F)等が挙げられる。動植物油としては、例えば大豆油、シンセラン4、オレイン酸エチル、落花生油、椿油、ゴマ油、AD−65(落花生油とアラセルとアルミニウムモノステアレートの混合物)、テルペノイド誘導体としてスクワラン、スクワレン等が挙げられる。また、これら動植物油、鉱物油の中から選ばれる複数の油の混合物を挙げることができる。好ましいものとしては、スクワラン、スクワレン、あるいは例えば、大豆油、オレイン酸エチルもしくはオレイン酸などの植物油(またはそれに由来する油)とスクワラン、スクワレンとの混合物、例えば、ドレコール6VR、各種流動パラフィンなどの鉱物油とスクワラン、スクワレンの混合物が挙げられる。より好ましくは、スクワラン、スクワレン、ドレコール6VRまたはそれらの混合物を挙げることができる。更により好ましくはスクワラン、スクワレンが挙げられる。
油の濃度は、具体的には、細菌−CWSに対し重量比にして、油が3〜30倍量の組成が挙げられる。
【0036】
乳化液の製造に使用するオイルペーストは、以下の1)及び2):
1)細菌−CWS及び油を、分散補助溶媒としての有機溶媒中で混合攪拌する工程;
2)上記1)の有機溶媒を留去する工程;
により調製することができる。用いられる有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素系溶媒、5〜20%のエタノール等のアルコール系溶媒あるいはアセトン等のケトン系溶媒を含む上記炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0037】
本発明の「界面活性剤」とは、医薬品製剤に汎用される界面活性剤のことをいい、特に制限されるものではない。例えばリン脂質、非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。リン脂質としては、ホスファチジルアミン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたはレシチン等を挙げることができる。また、水素添加されたリン脂質も使用することができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。当該ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、同モノパルミテート(ポリソルベート40)、同モノステアレート(ポリソルベート60)、または同モノオレート(ポリソルベー
ト80)等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノラウレート(Span20)、同モノパルミネート(Span40)、同モノステアレート(Span60)、同モノオレート(Span80)等を挙げることができる。 好ましい界面活性剤としては、卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO−60)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(HCO−50)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF68)を挙げることができる。より好ましくはポリソルベート80、ポリソルベート40、ポリソルベート60等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート類)が挙げられ、さらに好ましくは、ポリソルベート20、ポリソルベート80及びその混合物が挙げられ、特に好ましい界面活性剤としてポリソルベート80を挙げることができる。
【0038】
界面活性剤の濃度は、水中油型エマルションにおいて0.01〜5重量%の範囲が適当であり、0.01〜3重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜2重量%を挙げることができる。これら界面活性剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本発明の「抗酸化剤」とは、自動酸化の連鎖反応を抑制するラジカル阻害機能、又は過酸化物を非ラジカル分解して不活性化する過酸化物分解機能を有する化合物を表し、医薬品製剤に使用できる抗酸化剤であれば特に制限されるものでは無い。具体的には、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTという),ブチルヒドロキシアニソール(以下、BHAという)、ノルジヒドログアヤレチン、没食子酸プロピル、ビタミンC(V.C.)及びその脂肪酸エステル(V.C.E.)又はソルビン酸等を例示することができる。抗酸化剤として、好ましくはBHT、α−トコフェロール(V.E.)、α−トコフェロールエステル誘導体(V.E.E.)を挙げることができる。特に好ましくはBHTを挙げることができる。
【0040】
本発明における、これらの抗酸化剤の配合量は、特に限定されるものではないが原薬の酸化分解を十分に防止するためには、組成物全体に対して0.0001〜5重量%が好ましく、更に好ましくは0.0001〜3重量%を挙げることができる。抗酸化剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
【0041】
抗酸化剤は、水中油型エマルションの製造工程における任意の工程で添加すればよいが、好ましくは、細菌−CWSと油の混合油状物(オイルペースト)製造時に加えることができる。α−トコフェロールが一般的に使用されているが、本発明の水中油型エマルションである乳化液及びその希釈液の更なる安定性の向上を目指して抗酸化剤について検討した。処方中酸化しやすいと考えられるポリソルベート80及びスクワレンの安定性を、α−トコフェロールやBHTなどの各種抗酸化剤を用いた水中油型エマルションのビークルについて検討した。その結果、図11に示すように、ポリソルベート80分解物(オレイン酸)の過酸化及びスクワレンの酸化の抑制はBHTが最も優れており、それに伴うpHの変動も抑制していた。以上の結果から、α−トコフェロール、ビタミンC及びそのエステル体と比較してBHTが抗酸化作用に最も優れていることを見出した。
【0042】
本発明の「賦形剤」とは、上記エマルションのエマルションとしての安定性または凍結乾燥製剤としての安定性を維持・向上する目的で使用される成分である。本発明で使用可能な賦形剤としては、単糖類、糖アルコール、多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、または無機塩などが挙げられる。単糖類および二糖類としては、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース等が挙げられる。糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。多糖類としては、デキストラン、でんぷん、マルトデキストリン、セルロース、ポリビニルピロリドン、またはアルギン酸ナトリウム等が好ましいものとして挙げられる。アミノ酸としては、アラニン、グリシン、プロリン等の中性アミノ酸が好ましく、より好ましい中性アミノ酸としてはグリシンを挙げることができる。タンパク質としては、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン等が好ましいものとして挙げられる。無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。好ましい賦形剤としては、単糖類、または糖アルコールが挙げられ、特に好ましい賦形剤としてはマンニトールが挙げられる。
【0043】
これら賦形剤は、1種類に限らず、適宜、数種類組み合わせて使用することができる。賦形剤の濃度は、水中油型エマルションにおいて0.1〜20重量%の範囲が適当であり、より好ましくは0.1〜10重量%を挙げることができる。賦形剤の好適な濃度は、賦形剤の種類によって異なるが、製造スケールや各含有成分の含有量に応じて、適宜調整することができる。アミノ酸の場合、例えばグリシンでは2.25〜11.25重量%(300〜1500mM)、好ましくは6.75重量%(900mM)である。マンニトールの場合、水中油型エマルションにおける濃度は、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは1〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%を挙げることができる。マンニトールを賦形剤として用いることにより、等張と同程度の濃度で用いることができるので、より生体に負担の少ない安定な製剤を調製することができる。
【0044】
前記賦形剤として挙げられた物質は、必要に応じて等張化剤として用いてもよい。これら賦形剤もしくは等張化剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。通常は、前記賦形剤が等張化剤を兼ねているが、前記賦形剤とは異なる物質を等張化剤として選択してもよい。等張化剤の濃度は、他の成分の含有量に応じて適宜設定されるが、通常0.1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲が適当である。
【0045】
本発明の「緩衝剤」とは、本発明の水中油型エマルション(凍結乾燥製剤を水で再懸濁させることにより得られるエマルションを含む)のpHを一定に保つ目的で用いられる、緩衝剤を含む水溶液を表す。本発明で使用可能な緩衝剤としては特に制限されるものは無いが、医薬品製剤に使用される緩衝剤であれば好ましい。具体的には、グリシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ε−アミノカプロン酸、リジン、ロイシンなどのアミノ酸またはその塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩、ニコチン酸アミド、アミノ安息香酸などの両性電解質またはそのナトリウム塩などの塩、クエン酸、リン酸、乳酸、酢酸、ホウ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、酒石酸などの有機酸のナトリウム塩、カリウム塩などの塩、上記弱酸の塩と、弱酸、塩酸、硫酸などの強酸との組み合わせ、トリス緩衝剤などが挙げられる。
【0046】
例えば、リン酸緩緩衝液としては、5〜50mMのリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムからなる緩衝液が挙げられ、通常はリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムの比率を1:2.3(重量比)で溶解し、適宜pHを塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等の塩基で微調整してもよい。トリス緩衝液としては、5〜50mMのトリス溶液からなる緩衝液が挙げられ、必要に応じて適宜例えばpHを0.1〜4Nの塩酸等で微調整することができる。クエン酸緩衝液としては、5〜50mMのクエン酸溶液からなる緩衝液が挙げられる。適宜pHを0.01〜4Nのクエン酸、塩酸あるいはクエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等で微調整することができる。緩衝液として、好ましくはクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液が挙げられ、特に好ましくはクエン酸緩衝液が挙げられる。
【0047】
本発明の水中油型エマルション製剤は、緩衝剤によってpH5.5〜8.5、好ましくはpH6.0〜7.5に調整されることが好ましい。
【0048】
本発明における、これらの緩衝剤の配合量は、十分な緩衝能を発揮するために十分な量であれば特に限定は無いが、好ましくは、5〜50mMである。
賦形剤としてアミノ酸などの緩衝作用を有する物質を用いる場合には、適宜緩衝剤の添加量を調整する。
なお、緩衝剤としてリン酸緩衝液が一般的に使用されているが、本発明の水中油型エマルションの場合には、処方成分の中で最も加水分解しやすいと考えられるポリソルベート80の安定性を指標として検討した結果、図12に示すように、リン酸緩衝液と比較してクエン酸緩衝液が明らかに安定性面及び緩衝能が優れていることが見出された。
【0049】
本発明の凍結乾燥製剤を、水性溶媒で腹水(再懸濁)することによって、水中油型エマルション製剤を提供することができる。当該水中油型エマルション製剤もまた、本発明に含まれる。
本発明における凍結乾燥製剤を再懸濁するために使用される水性溶媒は、エマルション粒子の分散媒体となるものであり、注射用蒸留水、生理食塩水、または緩衝液等が挙げられるが、注射可能な水性溶媒であれば特に限定されない。ここで凍結乾燥製剤を再懸濁するために用いられる水性溶媒が生理食塩水や緩衝液などの無機塩を含む水性溶媒の場合、当該水性溶媒の組成については、再懸濁後の水中油型エマルション製剤の安定性等を考慮して、適宜選択すればよい。また、再懸濁後の水中油型エマルション製剤における無機塩(緩衝剤や賦形剤として添加された無機塩)の濃度は、ヒトに投与される場合に等張液となるように調整されることが好ましい。
【0050】
また、本発明の凍結乾燥製剤を調製するための製造中間体である水中油型エマルション(乳化液、希釈液)も、本発明の範疇である。当該「水中油型エマルション」は、更に、賦形剤、緩衝剤等を含有することができる。すなわち当該水中油型エマルションは、好ましくはマンニトール等の賦形剤を含みかつ、更に緩衝剤を配合されてpHが5.5〜8.5に調整されている。
前述の水中油型エマルションを凍結乾燥することによって、凍結乾燥製剤を製造することができる。すなわち、本発明の凍結乾燥製剤は、水中油型エマルションを凍結乾燥し、最後に通常はバイアル内部を窒素置換し、打栓を行うことにより得ることができる。水中油型エマルションを凍結乾燥する際、凍結乾燥温度、および時間等は特に限定されない。
本発明のエマルション凍結乾燥製剤の製造にあたっては例えば0.05〜4mL/バイアルまでの凍結乾燥が可能である。
【0051】
本発明の水中油型エマルション製剤は、注射など非経口で投与される。投与形態は、治療・予防目的として皮下或いは皮内投与、また胸腔内投与等もできる。エマルション中の細菌−CWSの量は通常は0.01〜2.0mg/mlの濃度である。
【0052】
本発明の凍結乾燥製剤は、適量の水性溶媒、例えば水、生理食塩水、緩衝液にて本発明水中油型エマルションに再懸濁して用いる。凍結乾燥製剤を再懸濁して生体に投与する場合の水中油型エマルションにおける各成分の濃度は、凍結乾燥前の、製造中間体としての水中油型エマルションにおける各成分の濃度と異なっていてもよい。水性溶媒の量は、投与濃度などによって変えることができる。
投与量、投与回数は対象とする疾患、患者の疾患、症状、年齢、体重、性別等によって異なり、例えば、成人に対して週1回もしくは4週1回の投与で1回あたり細菌−CWS量として3〜200μgの範囲、好ましくは5〜120μgの範囲の投与を一例として挙げることができる。
【0053】
本発明の凍結乾燥製剤及びこれを復水した水中油型エマルション製剤は、癌治療薬または予防薬、詳しくは免疫療法剤として有用である。対象となる癌の種類に特に限定はないが、肺癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、大腸癌、子宮癌、乳癌、急性骨髄性白血病、舌癌、咽頭癌、卵巣癌、脳腫瘍等が挙げられる。ここで癌治療剤には、癌転移抑制剤としての態様も含まれる。また、各種の癌の免疫療法剤との併用剤としても用いることが可能である。更に、各種免疫疾患への治療薬あるいは予防薬として例えば下記のような疾患に単独、或いは併用剤として用いることが可能である。糖尿病(PLoS ONE, 7(8), e41756(2012))、パーキンソン病(PLoS ONE, 6(1), e16610(2011))、喘息などのアレルギー(Journal of experimental medicine, 203, 2929−2937(2006))、花粉症、感染症、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎などにも有用である。
【0054】
なお、BCG−CWSの水中油型エマルションを用いた臨床報告の多くは、皮内投与による癌免疫療法剤としての評価に係るものである(日胸疾会誌15(11)769−774(1977))。それらの中には、臨床効果と共に安全性についても述べられており、安全性については皮膚障害を除いては大きな問題が無いと記されている。尚、皮膚障害の大小は投与量に依存していることが考えられている。
【0055】
しかし、本発明のBCG−CWS水中油型エマルションでは、免疫細胞に対する強いin vitro活性、動物実験in vivoにおける強いアジュバント効果、及び臨床効果に結びつくと考えられている皮内投与後のリンパ節への優れた移行性等のこれまでにない優れた特徴を有しており、投与量の減量等により皮膚障害を含め安全性が高くかつ保存安定性に優れた水中油型エマルション及びその凍結乾燥製剤が作製できている。
【0056】
本発明の第2の態様は、「水への分散性に優れた細菌−CWS」に関するものである。即ち、各種エマルション、懸濁液及びそれらの凍結乾燥製剤の製造に適した高純度の細菌―CWSに関するものである。
【0057】
本発明の「高純度」とは、細菌―CWSに結合した蛋白質などの不純物が除かれた細菌―CWSであり、具体的には非構成アミノ酸及び不純蛋白質の含量が1.0%以下であり望ましくは0.8%以下であることを示している。また、界面活性剤を含まず、残留溶媒としてハロゲン系有機溶媒を含まないことも示している。
【0058】
本発明の「全非構成アミノ酸」とは、細菌―CWSに含有されるペプチドグリカンの構成アミノ酸以外の不純物に由来するアミノ酸の総量のことをいう。不純物に由来する全非構成アミノ酸の含量としては、細菌―CWS全組成の1.0%以下であることが望ましい。より好ましくは、0.8%以下であることを挙げることができる。
本発明の「不純蛋白質」とは、細菌―CWSに含有される不純物に由来する蛋白質の総量のことをいう。不純物に由来する蛋白質の含量としては、細菌―CWS組成の1.0%以下であることが望ましい。より好ましくは、0.8%以下であることを挙げることができる。尚、本発明のBCG−CWSは特許文献3のBCG−CWSに比して高い純度を有している。
【0059】
本発明の「ハロゲン系有機溶媒及び界面活性剤を含有しない」とは、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の細菌―CWSの製造の際に汎用されるハロゲン化炭化水素及びいずれの界面活性剤も含まないことをいう。このことは、本発明の製造工程でハロゲン系有機溶媒を使用しないことによって、ハロゲン系有機溶媒及び界面活性剤が細菌―CWSに残留しないことを表現するものである。
【0060】
本発明の「水への分散性に優れた」とは、試験例5に基づいて、本発明の細菌―CWSを生理食塩水中に分散直後から60分後までのOD値(波長690nmにおける吸光度)の変化を測定し、直後を1とし、分散60分後のOD相対値(物性値)で分散性を評価し、そのOD相対値(物性値)が60分後に0.4以上であることを言う。好ましくは、分散60分後のOD相対値(物性値)が0.7以上であり、より好ましくは0.9以上であることが挙げられる(図13)。しかし、特許文献3に従って製造したBCG−CWS(特許文献3のBCG−CWS)では、分散の60分後のOD相対値(物性値)が0.29に減少し、BCG−CWSの沈降が認められた。
【0061】
本発明の細菌―CWS(BCG−CWS)では、上記60分後OD相対値(物性値)で示されるように特許文献3のBCG−CWSとは物性が異なっている。特許文献3のBCG−CWSでは、その製造過程で界面活性剤の存在下での処理や高温処理により細菌―CWSのミコール酸同士の不可逆的な強い凝集、融合が起こり、ミコール酸部分の密度が高いラミネート構造を形成した形態を有していることから、水への分散性が低下していると考えられる。
【0062】
また、本来天然型のBCG−CWSはミコール酸とアラビノガラクタンとペプチドグリカンからなり水中ではアラビノガラクタンが比較的自由に動くことが可能な界面活性剤様の構造を持ち、水中において安定な懸濁液として存在することが出来る。即ち、本発明のBCG−CWSは不可逆的なミコール酸同士の強い凝集、融合が抑制され、アラビノガラクタンが自由に動くことの出来る形態・構造であることが優れた水への分散性に寄与している。一方、特許文献3のBCG−CWSではミコール酸同士の強い凝集、融合によって生じるラミネート型構造の内部にアラビノガラクタンが閉塞し界面活性剤様の機能が失われており水への分散性が大きく低下している(図14)。
【0063】
例えば、図16bに示されるように、本発明のBCG−CWSを用いて、界面活性剤の非存在下BCG−CWS粉末の直接加熱或いは界面活性剤存在下水中で加熱すると、OD相対値(物性値)が減少し、特許文献3のBCG−CWSと同程度のOD相対値(物性値)となり、即ち分散性が悪化した。即ち、本発明のBCG−CWSは、加熱、界面活性剤の添加等によって容易にミコール酸部分の強い凝集、融合を起こし、特許文献3のBCG−CWSへ変化して行くことが示され、加熱、界面活性剤処理等がBCG−CWSの強い凝集、融合を促進することが明らかになった。更に、特許文献3のBCG−CWSは、脂溶性有機溶媒中で加熱あるいは再破砕等を行っても、水への分散性に変化がないことから(図16a、図17)、特許文献3のBCG−CWSに見られる強い凝集、融合は不可逆であることが分かった。このように、BCG−CWSの分散性(OD相対値;物性値)を指標として、図14(a)又は(b)に示されるような本発明のBCG−CWSは、製造過程の界面活性剤処理、加熱等によって図14(c)に示されるようなミコール酸部分が不可逆的に凝集、融合した形態を示す特許文献3のBCG−CWSと明らかに形態・表面構造等が異なっており、物として判別できることが示された。
【0064】
本発明の「各種エマルションおよび凍結乾燥製剤の製造に適した細菌―CWS」とは保存安定性が高い、水中油型エマルション、油中水型エマルション等のエマルションのみならず、水への分散性に優れていることから細菌―CWSの懸濁液など各種エマルション、水性懸濁液及びその凍結乾燥製剤の製造が効率及び収率よく製造が可能な細菌―CWSである。
更に、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSに関する1)抗体との反応、2)オーラミン染色、3)ゼータ電位等で多くの相違する知見が得られ、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの間には、BCG−CWSの形態・表面構造の相違が顕著であることが示された。
1)抗体との反応;
図18に示すように抗体との反応性が大きく異なっている。即ち、ウサギ抗BCG死菌IgG抗体との反応では、本発明のBCG−CWSは強い結合反応を示すが、特許文献3のBCG−CWSは結合反応を示さなかった。このように、抗BCG抗体を用いて、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態・表面構造の相違を明らかに判別できることが分かった。
【0065】
2)オーラミン染色;
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態・構造的相違は、図19、表3、の(a)と(b)で示されるオーラミン染色法の蛍光強度或いはその有無で評価することができる。オーラミン染色法は、細胞壁のミコール酸部分にオーラミンを付着させ染色する方法であるため、ミコール酸部分の密度が低下すると、洗浄処理で脱色され易くなる(顕微鏡 Vol.48,No.1, 51−56, (2013))。本法(試験例8)においても、本発明のBCG−CWSではオーラミン染色法で染色されないが(図19a)、特許文献3のBCG−CWSでは染色され、特許文献3のBCG−CWSのミコール酸による強い凝集、融合が認められた(図19b)。また、蛍光面積率で定量比較したところ、本発明のBCG−CWSは0.1%以下であるのに対し、特許文献3のBCG−CWSは80%以上を示した(表3)。即ち、特許文献3のBCG−CWSはオーラミン染色陽性であるのに対し本発明のBCG−CWSはオーラミン染色陰性であった。
この様に、本発明のBCG−CWSは、オーラミン染色の蛍光面積率として10%以下であり、好ましくは5%以下を挙げることができる。特に好ましくは、2%以下を挙げることができる。
更に、蛍光化コンカナバリンAを用いて、本発明と特許文献3のBCG−CWSの結合強度を比較したところ、本発明のBCG−CWSの方がコンカナバリンAと明らかに強く結合し、凝集を示した(試験例9)。
【0066】
3)ゼータ電位;
ゼータ電位について検討した結果、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSを単純に水に分散した系でのゼータ電位を測定した場合には、特許文献3のBCG−CWSは凝集により測定できなかった。そこで、表面構造、形態に影響する可能性があるが、高圧破砕機を用いて粒度分布をそろえた上でゼータ電位を測定した。その結果、10%イソプロパノール水中、本発明のBCG−CWSは―22mVを示し、特許文献3のBCG−CWSはー30mVを示した(表4)。即ち、高圧破砕機による破砕後にも関わらず、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの表面構造が異なっていることが示された。
【0067】
抗体との結合性の違いから、本発明及び特許文献3のBCG−CWS各々の表面構造の違いがあることが明らかとなり、オーラミン染色の相違によって特許文献3のBCG−CWSが不可逆的な強い凝集、融合によるラミネート構造を示していること、コンカナバリンAとの結合性の相違から本願BCG−CWSが特許文献3のBCG−CWSに比して表面にアラビノガラクタンが多く露出し特許文献3のBCG−CWSではアラビノガラクタンの露出が小さいことが示され、ゼータ電位の相違から、本発明のBCG−CWSの表面構造にはアラビノガラクタンに加えミコール酸部分が多く分布し、特許文献3のBCG−CWSの表面にはペプチドグリカンが多く露出していることが示された。即ち、特許文献3のBCG−CWSはミコール酸部分同士が強く凝集、融合したラミネート構造であり、ミコール酸及びアラビノガラクタンの多くがラミネート内に閉塞された状態になっていることが明らかとなった。
【0068】
これらの相違は、粒度分布測定においても相違が認められている。即ち、形態、構造的な相違によりn−ヘプタン溶媒中の粒度分布が本発明のBCG−CWSでは単一のピークを示すが特許文献3のBCG−CWSでは2峰性を示した(図20)。
以上、本発明のBCG−CWSと、特許文献3のBCG−CWSのミコール酸の凝集を主眼に置いた形態を模式図に示すと、図14のように表わされる。本発明の「単一ピークの粒度分布」とは、細菌―CWSを生理食塩水又はn−ヘプタンに懸濁させた時のレーザー回折法で測定した時の粒度分布が単一なピークの粒度分布であることをいう。
【0069】
以上、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは特許文献3のミコール酸同士の不可逆な強い凝集、融合に起因して多くの点で異なった挙動を示し、明確に異なる性質を有することが示された。その形態、構造的相違は本願のBCG−CWSでは強く凝集、融合していない図14(a)又は(b)を維持し、アラビノガラクタンが水中で比較的自由に動ける構造に対し特許文献3のBCG−CWSは、ミコール酸部分が図14(c)に示すように不可逆的に強く凝集、融合しており、多くのアラビノガラクタンがミコール酸同士が強く凝集、融合したラミネート構造内に閉塞していると考えられる。
【0070】
尚、BCG−CWS自身のゼータ電位の正確な評価が容易でないため、形態、表面構造に影響を与えないより緩和な条件でのゼータ電位に関する情報を得るべく、エマルション化した状態でゼータ電位に関して評価する方法について検討した。その結果、BCG−CWSに対して重量比15倍量の油、5倍のPS80を用いた系で物性値(水への分散性)の異なるBCG−CWSについてそれらのエマルションとビークルエマルションとのゼータ電位差を評価した。その結果、本発明のBCG−CWSではそのゼータ電位差は4〜10mVであり、特許文献3のBCG−CWSではそのゼータ電位差は1mV以下であった。以上、本発明BCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは本法のゼータ電位差測定により、容易に判別できた(試験例15、表10)。
更に、Raw264.7細胞を用いたin vitro活性評価においても、上記ゼータ電位差との相関がみられた。ゼータ電位差が大きい本発明のBCG−CWSの水中油型エマルションでは、TNF―αの誘導量が約1000pg/mL以上であるのに対し、電位差が殆どない特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルションは約300pg/mLであった(図15)。
即ち、この電位差の範囲(4〜11mV)のBCG−CWSであれば、レクチンと反応し、免疫細胞に対するin vitro活性を有する安定な水中油型エマルションが製造できる本発明のBCG−CWSである。
水への分散性が優れている本発明のBCG−CWSは水中油型エマルション、油中水型エマルションの製造に適すると共に、特許文献3のBCG−CWSでは製造が困難なBCG−CWS自身の懸濁液製剤の製造にも適したBCG−CWSである。
【0071】
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSに関する上記BCG−CWSの形態、表面構造の相違が、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの物性と生物活性に大きく影響していると考えられる。
本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSと比較して免疫細胞に対するin vitro活性が高く、例えば、図21に示されるようにマウス未成熟樹状細胞株(BC−1細胞)を用いたIL−12の誘導活性では、本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSよりも約12.5倍の高い活性を示した。また、図22に示されるようにマウス樹状細胞株(JAWSII細胞)を用いたIL−12の誘導活性では、本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSよりも、約3.2倍高いIL−12の誘導活性を示した。
【0072】
更に、図23に示されるようにマウスマクロファージ様細胞株(RAW264.7細胞)を用いたTNF−αの誘導活性では、本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSよりも約2.8倍高いTNF−αの誘導活性を示した。
また、Toll−Like Receptor(TLR)に対するアゴニスト活性については、TLR2についてはほぼ同等の活性を示し、TLR4に対してはいずれも活性を示さなかった(図24
【0073】
本発明の細菌―CWSは癌のみならずより広く各種免疫疾患に適用が可能である。細菌―CWSは生菌で起こりうる副作用を低減し代替となり得ることから、既に公知細菌―CWSにおいて各種癌に対する臨床研究が行われている。ただし、従来の製造方法は多段階かつ合理性の低い製造プロセスであることに加え、得られる細菌―CWSも形態、物性の問題から製剤化が難しく医薬品としての供給が困難であった。それに対して本発明の細菌―CWSは合理的、経済的な製造方法で高品質なものを安定に供給することができ、且つ各種製剤化も容易となったことから、医薬品としての有用性が高い細菌―CWSを初めて提供可能となった。
即ち、本発明の細菌―CWSを有効成分とする「医薬」とは、医薬(含動物薬)用途に使用される組成物のことを言い、例えば、抗癌剤、抗ウイルス剤、抗感染症薬、免疫賦活剤(アジュバント)、免疫機能調節剤等の用途に使用される。
本発明の医薬の剤形としては、公知の各種の剤形を使用することができる。例えば、各種エマルション製剤又は懸濁液製剤を挙げることができる。本発明の各種エマルション製剤又は懸濁液製剤としては、医薬用途に使用される細菌―CWSのエマルションや水性懸濁液のことを言い、例えばエマルションとしては、水中油型(o/w)エマルション、油中水型(w/o)エマルション、水中油中水型(w/o/w)エマルションなどが挙げられる。好ましくは水中油型エマルションを挙げることができる。例えば、公知の処方、製法で水中油型エマルションを製造した場合、本発明のBCG−CWSを用いることによって、特許文献3のBCG−CWSと対比して、BCG−CWSの含有率の高い水中油型エマルションが得られている。また、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、コンカナバリンAと反応しかつ免疫細胞に対し強いin vitroの活性を示す等、特許文献3のBCG−CWSを用いた水中油型エマルションとは異なったこれまでに無い特徴を持った水中油型エマルションを提供することができる。
更に、本発明のBCG−CWSは水への分散性に優れていることから、水への分散性の悪い特許文献3のBCG−CWSでは製造が困難なBCG−CWSの水性懸濁液の製造も必要に応じて可能である。例えば、膀胱癌の膀注療法への応用などが挙げることができる。また、腸管免疫に着目した錠剤あるいは腸溶剤のような経口固形剤としての応用を挙げることができる。
本発明の医薬組成物における細菌―CWSの含量は、注謝剤の場合は免疫応答を惹起するために、約1〜200μg/回の範囲にあり、好適には約5〜120μg/回の範囲を挙げることができる。また、本発明の医薬組成物は、適切な手段で投与することができ、それらには、注射、胸腔内投与、経口投与、鼻腔内投与、膀胱内投与等が含まれるが投与量含めそれらに限定されるものではない。好適な態様のひとつとして、皮内、皮下、胸腔内への注射を挙げることができる。
なお、本発明の第二の態様の用語で特に言及されておらず、本発明の第一の態様と共通する用語は、第一の態様の用語と同じ意味を表す。
【0074】
本発明の第三の態様は、水への分散性に優れた各種エマルション製剤及び懸濁液製剤の製造に適した物性を有する細菌―細胞壁骨格(細菌―CWS)の製造方法に関するものである。
本発明の「精製菌体の破砕」とは、乾燥精製菌体を使用することも可能であるが、通常はウェット精製菌体を用い水或いは水と親水性有機溶媒との混合溶液に懸濁し破砕する。破砕する手段には特に限定はないが、高圧破砕機、ビーズミル、超音波照射装置、ホモミキサーなどの破砕機を用いることが挙げられ、好ましくは高圧破砕機を用いることが挙げられる。高圧破砕機を用いる場合、20,000〜45,000psi好ましくは30,000〜45,000psiの圧力下に破砕することができ、その破砕物の粒度分布範囲は概ね0.1〜5.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmである。なお、破砕工程においては発熱が起こるため、CWSの発熱による形態変化を回避するため、処理温度を4〜65℃の範囲で行うことが望ましい。より好ましくは4〜45℃の範囲を挙げることができる。破砕物は、必要に応じて1,000〜9,000×g、5〜30分間、好ましくは3,000〜8,000×g、5〜20分間の遠心分離によって、破砕が不十分な細胞片や破砕されていない細胞が除去された均一な上清が得られる。破砕後の液又は沈殿物(デブリス)除去後の上清を直接12,000〜20,000×g、好ましくは16,000〜20,000×gで遠心分離し、粗精製CWSが得られる。
本発明の「親水性有機溶媒」とは、水と混和する有機溶媒のことであり、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、テトラヒドロフラン、アセトンであるが、1−プロパノール、ジオキサン、アセトニトリル、メチルエチルケトンを加えることができる。破砕処理、酵素処理、洗浄処理で用いる場合、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどを挙げることができ、より好ましくはイソプロパノールを挙げることができる。
水と親水性有機溶媒の混合溶液を用いる場合、親水性有機溶媒の含量としては、破砕処理においては0〜30容量%であり、好ましくは5〜15容量%を挙げることができ、酵素処理においては、0〜20容量%であり、好ましくは0〜10容量%を挙げることができる。洗浄処理においては、0〜30容量%又は70〜100容量%であり、好ましくは0〜30容量%を挙げることができる。
【0075】
本発明の「精製処理」とは、細菌の精製菌体の破砕後の酵素処理、水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合溶液で洗浄することを言うが、酵素処理、洗浄の回数、順番はこの限りでない。酵素処理については核酸分解酵素と蛋白質分解酵素の連続処理があげられるが、本製造法においては精製度の高い菌体を用いることによって蛋白質分解酵素の短時間処理1回のみによって高純度かつ水への分散性に優れたBCG−CWSを製造できることが特徴の一つである。
核酸分解酵素及び処理方法は特に限定はなく当業者に周知の酵素、処理方法を適宜用いることができる。核酸分解酵素としてDNase、RNaseを挙げることができる。好ましくは、DNaseを挙げることができる。具体的にはセラチア菌由来のエンドヌクレアーゼ(ベンゾナーゼ、Merck製)、ウシ膵臓由来2本鎖特異的エンドヌクレアーゼ(DNaseI、Roche製)などが挙げられ、好ましくはベンゾナーゼを挙げることができる。
核酸分解酵素処理温度、時間の範囲は酵素の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、処理温度の範囲は20〜40℃が挙げられ、好ましくは20〜30℃が挙げられる。
蛋白質分解酵素及び処理方法は特に限定はなく当業者に周知の酵素、処理方法を適宜用いることができる。具体的にはプロナーゼ(Sigma−Aldrich)、パパイン、トリプシン、キモトリプシンなどを挙げることができる。好ましくは、プロナーゼ、パパインなどを挙げることができる。より好ましくはプロナーゼを挙げることができる。
蛋白質分解酵素処理温度、時間の範囲は酵素の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、処理温度の範囲は、30〜45℃が挙げられ、好ましくは30〜40℃が挙げられる。
【0076】
上記精製処理の特徴は、BCG−CWSの不可逆的な強い凝集、融合に起因する形態、物性変化を回避することに留意したものであって、従来のCWSの形態、物性変化に留意しない特許文献3のBCG−CWSの製造方法とは大きく特徴が異なるものである。従来のBCG−CWSの製造法ではBCG菌体破砕後のプロセスが多段階であり(特許文献3、非特許文献2〜4)界面活性剤も使用されている(特許文献3、非特許文献4)。更に、脂溶性不純物などの細胞外付着成分のクロロホルム等疎水性有機溶媒を用いた除去プロセスがBCG−CWS製造の最終工程及びその近辺で採用されている(特許文献3、非特許文献2〜4)。このように、従来のBCG−CWSの製造法では、破砕後も菌体に付着した多量の脂溶性不純物などが残存し、破砕後の酵素処理、洗浄などの各プロセスで目的とする不純物除去の効率が低下し且つ長時間の界面活性剤処理や加熱処理等が必要となる。そのことが、ミコール酸部分の不可逆的な強い凝集又は融合を引き起こす要因となっている。
本発明の製造方法では、上記従来のBCG−CWSの製造方法における形態、物性変化の問題を克服するため、細胞外付着成分を除去した精製菌体を原料に用いた。このことにより、製造プロセス全体が効率化され、特に形態変化や物性変化が懸念される破砕後の水、親水性有機溶媒又はそれらの混合溶液中での処理時間・回数・温度が最小化し、また界面活性剤、ハロゲン系有機溶媒を一切使用しない新規な製造法となっている。それにより、界面活性剤とハロゲン系有機溶媒を含まない、高純度且つ、水への分散性に優れた各種エマルション、懸濁液、及びその凍結乾燥製剤の製造に適した物性を有するBCG−CWSを高収率に製造することに成功した。
【0077】
従来の細菌―CWS製造方法は多段階かつ合理性の低い製造プロセスであることに加え、得られる細菌―CWSも形態、物性の問題から製剤化が難しく医薬品としての供給が困難であった。それに対して本発明の細菌―CWSは合理的、経済的な製造方法で高品質なものを安定に供給することができ、且つ各種製剤化も容易となったことから、医薬品としての有用性が高い細菌―CWSを初めて提供可能となった。
なお、本発明の第三の態様の用語で特に言及されておらず、本発明の第一及び第二の態様と共通する用語は、第一及び第二の態様の用語と同じ意味を表す。
【0078】
本発明の第四の態様は、本発明の細菌―CWS製造の中間体となる精製菌体とその製造方法に関するものである。
本発明の「細胞外付着成分」とは、抗酸菌の外脂質層に存在するか、あるいは内脂質層の細胞壁に付着する成分、例えば蛋白質等や遊離脂質、糖脂質、糖類、無機物等のことである(Microbiology Spectrum, 2(3), 1−19(2014)、Molecular Microbiology, 31(5), 1561−1572(1999))。細胞外付着成分として、例えば、抗酸菌の脂溶性物質としては、TDM、TMM(トレハロースモノミコレート)、GMM(グルコースモノミコレート)などの糖脂質、PIM(ホスファチジルイノシトールマンノシド)、PDIM、PGL、GroMM、ワックスD成分などの脂溶性の細胞外付着成分を挙げることができる。また、水溶性物質としては、MPB64(MycobacterialproteinfractionfromRmof 0.64inelectrophoresis)、MDP1(mycobacterial DNA−binding protein 1)等の蛋白質、LM(リポマンナン)、LAM(リポアラビノマンナン)等の水溶性の細胞外付着成分や、残存する培養液成分などを挙げることができる
【0079】
本発明の「精製菌体」とは、細胞外付着成分(菌体外成分)を除去した細菌菌体のことである。細胞外付着成分の除去率については特に限定はないが、できるだけ除かれたものが望ましい。例えば、クロロホルム/メタノール混合溶媒などの有機溶媒を用いて脂溶性の細胞外付着成分を除去した菌体(脱脂菌体)(特開2006−312604)も可能であるが、水と親水性有機溶媒の混合溶液を用いて脂溶性の細胞外付着成分だけでなく水溶性の細胞外付着成分も除去した菌体が好適である。例えば、本発明のBCG精製菌体は細胞外付着成分が除去されていることから、精製菌体中のBCG−CWS含量が向上しており、35〜47重量%の高含量であった。
【0080】
一方、公知の有機溶媒による洗浄で脱脂菌体を製造する場合には、例えばBCG死菌を使用してBCG脱脂菌体を製造する場合には、20〜30重量%の減量しか見られないが、本発明の細胞外付着成分(菌体外成分)が除去されたBCG精製菌体の場合には、40重量%前後の減量が認められた。即ち、精製菌体になれば、原料BCG死菌から30〜45重量%の減量が認められ、より好ましくは35〜45重量%の減量が認められる。このことから、死菌からの減量の程度を指標とすれば、BCG精製菌体は、単なるBCG脱脂菌体とは大きく減量の程度が異なっており、水を含む混合溶液を使用することから、脂質以外の蛋白質や糖類、無機物等の細胞外付着成分(菌体外成分)がほとんど除去された精製菌体になっている。
【0081】
なお、これらの細胞外付着成分の中で、BCG−CWSとの親和性が強く、除去効率の低い成分としてPGLとGroMMが挙げられる。そのため、この2種の細胞外付着成分を、BCG菌体から細胞外付着成分がどの程度除去できたかを示す指標として使用できることを見出した。図25aに示されるようにBCG死菌を使用した場合、その精製菌体に含有されるPGLとGroMMの含量は各々原料のBCG死菌に含まれる含量の10重量%以下になっていることをTLCで確認した。次いで、PGL含量についてHPLCによって含量測定したところ、その含量は乾燥精製菌体の0.4重量%以下であることが確認できた。従って、PGL或いはGroMMを用いて洗浄の終点確認をすることによって細胞外付着成分(菌体外成分)がほとんど含まれていないBCG精製菌体を得ることができる。
【0082】
本発明の「精製菌体に含有される細菌―CWS含量」とは、精製菌体中の細菌―CWSの含有量を示すものであり、細菌―CWSの含有量は、細菌―CWSを構成している脂肪酸(例えばミコール酸)の量で評価する。精製菌体のアルカリ加水分解を行い、遊離してくる脂肪酸の存在量を標品との対比で評価した。
このように、本発明の細菌の精製菌体又はその破砕物では、細胞外付着成分が除去されていることから、脂肪酸(例えばミコール酸)部分及び糖鎖(例えばアラビノガラクタン)部分が細胞表面に露出した精製菌体であることが特徴であり、精製菌体特有の物性や生物活性を示している。また、それに基づき、物性や生物活性が大きく向上、改善された前述の精製菌体に由来する破砕物、細菌―CWS、細菌―CWSエマルションの製造が可能となっている。
【0083】
本発明の精製菌体やその破砕物を医薬組成物とする場合には、皮内、皮下への投与の場合、免疫応答を惹起するために、約10〜500μg/回の範囲の投与を行うことが好ましい。また、本発明の医薬組成物は、適切な手段で投与することができ、それらには、注射、胸腔内投与、経口投与、鼻腔内投与、膀胱内投与等が含まれるが、投与量を含めそれらに限定されない。好適な態様においては、皮内、皮下への注射を挙げることができる。本発明の精製菌体は細菌―CWSに記載と同様の適用が挙げられる。
【0084】
精製菌体の製造方法で用いる細胞外付着成分の除去方法としては、特に限定はないが、例えば、細菌の菌体を水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合溶液のいずれかで洗浄、精製し菌体を回収する方法が挙げられる。用いる溶媒としては水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどを適宜組み合わせて使用することができる。好ましくは水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の飽和炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどを適宜組み合わせて使用することができる。さらに好ましくは水とメタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、アセトンなどの親水性有機溶媒との混合溶液が挙げられる。特に好ましくは水とテトラヒドロフランの混合溶液が挙げられる。好ましい水に対する親水性溶媒の比率は、洗浄効果が高く、濾過洗浄を可能にする10〜40重量%を挙げることができる。
【0085】
菌体の回収方法としては遠心分離法や濾過法が挙げられるが、何ら限定されるものではない。好ましくは濾過法が挙げられる。洗浄、精製方法としては室温又は加温攪拌や加熱還流などが挙げられる。好ましくは加熱還流が挙げられる。
【0086】
本発明の「濾過可能である」とは、洗浄液と菌体との分離処理において、遠心分離処理を使用することなく、一般的な濾過操作で容易に処理できることを言う。例えば、洗浄液と菌体を濾過して菌体を単離できることを言う。異物混入のリスクを考慮すると圧迫濾過が望ましい。従って、洗浄液を分離することが容易であり、分離した洗浄液をチェックして、洗浄の終点を容易に管理することが出来る。これまでの無処理のBCG死菌や公知(特開2006−312604)のBCG脱脂菌体では、濾過操作が困難であり、洗浄液との分離には遠心分離が主体として用いられてきた。しかし、本発明のBCG精製菌体では、細胞外付着成分が除去されたことにより、原料のBCG死菌やBCG脱脂菌体とは物性が異なっており、一般的な濾過操作で容易に洗浄液との分離ができるようになった。一般的に結核菌やBCG菌等の抗酸菌は凝集しやすく、濾過が困難であるが、その凝集の原因として、細胞外付着成分とMDP1などの接着因子が関与していることが知られている(再表2010−001841、日本細菌学雑誌61(3)、345−352、2006年)。本発明の精製菌体では、凝集の原因の一つである細胞付着成分が除去されており、その結果として濾過が容易になったと考えられる。
【0087】
本発明の精製菌体の濾過性としては、例えば、公称濾過精度が3μm以上であるフィルターを濾過に使用した場合に、目詰まりすることなく濾過でき、キログラムスケールの湿菌を用いた場合でも1〜3時間以内で濾過が可能である。その結果、遠心分離などの分離処理を回避できることから、スケールアップも可能であり、処理時間も大きく短縮できるようになった。このように、本発明の精製菌体の濾過性は、BCG死菌や公知のBCG脱脂菌体と大きく異なっている。
【0088】
本発明の「フィルター」とは、濾紙、不織布、濾過布、メッシュシートなどの濾過に用いる分離膜のことを言う。本発明では、適宜必要に応じて、所望の公称濾過精度を持ったフィルターを使用することができるが、菌の濾過のためには公称濾過精度が0.45〜5μmのものが望ましい、好ましくは1〜3μmのものを使用することが挙げられる。
本発明の「終点管理」とは、精製菌体中に存在する除去効率の低い脂溶性成分、例えばPGL及び/又はGroMMの溶出量、又はその存在の有無に関して確認を行なうことであり、薄層クロマトグラフィー(TLC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して確認することである。洗浄の終点としては、例えばBCG死菌を使用し、HPLCでPGLを評価する場合、精製菌体を疎水性有機溶媒を用いて不純物を抽出し、その抽出液及びPGL標準品をHPLCで分析する。精製菌体中のPGL含量が0.5重量%(対乾燥精製菌体重量)以下に低減していれば洗浄工程の終点とする。好ましくは0.4重量%(対乾燥精製菌体重量)以下に低減していることが挙げられる。
【0089】
本発明のBCG精製菌体およびBCG死菌は共にTLR4にアゴニスト活性を示さず、TLR2のみにアゴニスト活性を示す。更に、本発明の精製菌体は、抗酸菌(BCG菌)の死菌と対比して、上記TLR2においては約1.6倍の高活性を示し(図27)、TNF−α産生活性においても、約1.3〜1.4倍の高い活性を示し(図28)、JAWSII細胞においては4倍の高い活性を示した(図29)。
【0090】
以上のように、本発明のBCG精製菌体は、原料のBCG死菌と対比しても高い免疫賦活活性を有することが示される。なお、細胞外付着成分には、TDM等のように免疫賦活物質が存在する。本発明の精製菌体ではTDMのような免疫賦活活性のある細胞外付着成分が除去されているにもかかわらず、それらを含有する死菌体よりも、本発明の精製菌体の免疫賦活活性が優れている。このように、本発明の精製菌体の免疫賦活活性が優れていることは予想外であり、その効果に基づき、本発明の精製菌体を用いて、副作用を回避した免疫賦活剤や抗がん剤が可能となり、本発明の精製菌体及びその破砕物を医薬用途に使用できることが示された。
【0091】
例えば、BCGワクチンが花粉やダニのアレルギー抑制効果を示すことから(臨床検査 50(2):203−208(2006・2))、本発明の精製菌体を使用したワクチン等の免疫調節剤を用いて、副作用を回避した花粉やダニのアレルギー抑制剤が可能となった。
【0092】
なお、本発明の第四の態様の用語で特に言及されておらず、本発明の第一〜第三の態様と共通する用語は、第一〜第三の態様の用語と同じ意味を表す。
【0093】
本発明の第五の態様は、本発明の抗酸菌の精製菌体を用いる抗酸菌のミコール酸の製造方法に関するものである。
本発明の「アルカリ加水分解」とは、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を使用し、水溶液あるいはアルコール溶液として単独または混合して添加し、加水分解を行うことをいう。好ましいアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを挙げることができる。より好ましくは、水酸化カリウムを挙げることができる。水溶液とアルコール溶液のアルカリ含量としては、適宜、目的に応じて選択することができ、例えば5〜15%(重量/容量)を挙げることができる。
本発明の「中和、酸性化」とは、アルカリ加水分解終了後、例えば塩酸、硫酸などの無機酸の水溶液でアルカリ溶液を中和し、酸性化することをいう。
【0094】
本発明の「液−液抽出」とは、無機酸の水溶液で中和、酸性化された溶液から疎水性有機溶媒で溶媒抽出及び抽出有機溶媒層の水洗、含アルコール水溶液洗浄等をいう。溶媒抽出に使用される有機溶媒としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、例えばベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、例えば酢酸エチル等の酢酸エステル、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素を挙げることができる。好ましい疎水性有機溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンを挙げることができる。より好ましくはn−ヘキサン、n−ヘプタンを挙げることができる。抽出有機溶媒層の洗浄に用いる含アルコール水溶液としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール等と、水との混合溶液を挙げることができる。アルコールの比率としては10〜95容量%を挙げることができ、好ましくは70〜90容量%を挙げることができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
【0096】
実施例1:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の製造
(1)出発原料(BCG菌:M.bovis BCG Tokyo 172(ATCC35737))
上記BCG菌をソートン培地中37℃で初期定常期まで培地表面に菌膜として培養した。培養細胞を約30分間80℃に加熱することにより不活性化させ、遠心分離した。沈殿物として得られるBCG死菌を原料として、精製菌体を製造した。
(2)精製菌体製造
a)BCG死菌体1.19kg(ウェット、乾燥重量約240g)を66重量%テトラヒドロフラン水溶液5.78kg中、窒素雰囲気下、加熱還流、加圧熱濾過し、次いで60重量%テトラヒドロフラン水溶液で洗浄した。濾上物を60重量%テトラヒドロフラン水溶液中、窒素雰囲気下、加熱還流、加圧熱濾過し、PGL含量の減少を確認後、イソプロパノールで2回洗浄し濾上物480g(ウェット)を得た。濾上物にイソプロパノール水溶液を添加し3回洗浄し精製菌体475.3g(ウェット、乾燥重量約152g)を得た。CWS含量:45.5%(HPLC)、テトラヒドロフラン含量:0.04%(ガスクロマトグラフィー)、BCG死菌体中のPGL量(全体の約2重量%)に対するPGL残存量:9.3%(HPLC)、乾燥精製菌体中のPGL含量0.3%
【0097】
b)BCG死菌体1.52kg(ウェット、乾燥重量約300g)を85容量%テトラヒドロフラン水溶液7.8L中、窒素雰囲気下、60分間加熱還流後、加圧熱濾過し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液450mLで洗浄した。この濾上物を75容量%テトラヒドロフラン水溶液9L中、窒素雰囲気下、60分間加熱還流後、加圧熱濾過し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液450mLで洗浄した。さらに75容量%テトラヒドロフラン水溶液2.0Lで2回洗浄し、次いでメタノール3.0Lとメタノール6.0Lで洗浄し、精製菌体597g(ウェット、乾燥重量約210g)を得た。CWS含量:37.5%(HPLC)、PGL、GroMM残存量:BCG死菌の含有量に対していずれも10重量%以下(TLC)。
c)培養菌体を直接約60分間60重量%テトラヒドロフラン水溶液中で加熱処理することにより不活化させ、同時に上記精製処理を進めることによって精製菌体を得ることができた。
【0098】
試験例1:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の精製度
本発明の精製菌体の精製度を確認するため、細胞外付着成分の残存量を以下の方法で評価した。
(1)PGL残存量の測定(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による評価)
BCG死菌体(乾燥体)及び精製菌体(乾燥体)約30mgを秤量し、それぞれにクロロホルム2mLを正確に加え、超音波・攪拌機で十分に懸濁させた。精製水2mLを加え、攪拌し、遠心分離した。クロロホルム層を0.22μmフィルターで濾過し、濾液を下記条件で分析した。その結果、PGLの残存量は、9.3%であった(実施例1(2)−a))。
【0099】
HPLC条件:カラム温度:40℃、検出波長:275nm、流速:約1.0mL/分(PGL保持時間約8分)、注入量:10μL、測定時間:35分、移動相:クロロホルム(エタノール含有)、メタノール(グラジエント)、カラム:ナカライテスク Cosmosil 5SL−II 4.6I.D.×150mm
【0100】
(2)薄層クロマトグラフィー(TLC)による評価
TLCによるPGL、GroMMの残存量の測定を行った。実施例1のBCG死菌体(ウェット)及び精製菌体(ウェット)をそれぞれ約20mg秤量し、脂溶性の高いPGLとGroMMを溶出させるためトルエン100μLを加えた。攪拌・超音波照射後、21,040×g、5分間遠心分離し、上清の薄層クロマトグラフを行った。展開溶媒はクロロホルム/アセトン(19:1、容積/容積)を使用し検出にはモリブデン酸アンモニウムセリウム溶液を用いた。その結果を図25aに示した。
図25a)−(a)に示される呈色の強度から、BCG精製菌体(実施例1(2)−b))には、PGLの残存はほとんど認められず、GroMMの残存が僅かに認められた。BCG死菌体のPGL含量は約2%(試験例2―2)であり、また,BCG死菌体のGroMMの含量は、図25a)−(b)に示されるように、PGLとほぼ同量であることが分かった。
そこで、BCG精製菌体のPGLとGroMMの残存量を算出することを行った。BCG精製菌体中のPGLとGroMMの含量は、図25a)−(a)で示されている。一方、BCG死菌体のPGLとGroMMの含量は、図25a)−(c)で示されているので、これと比較すると、圧倒的にBCG精製菌体中のPGLとGroMMの含量は低減している。
更に、定量のため、BCG死菌体の洗浄液のTLC添加量を1/10にした図25a)−(b)の結果と、図25a)−(a)のBCG精製菌体の洗浄液の結果を対比した。その結果、BCG精製菌体(図25a)−(a))では、BCG死菌体に含有されるPGL量とGroMM量の1/10量(図25a−(b))と比較すると、TLCの呈色の強度から、PGLの残存量が、図25a)−(c)の1/10以下であることが分かった。更に、GroMMの残存量は、図25a)−(c)の約1/10以下になっていることが分かった。
以上のことから、本発明のBCG精製菌体のPGLとGroMMの残存量は、原料のBCG死菌体の
それぞれの含量に対して10重量%以下に低減していることを確認した。
【0101】
試験例2−1:本発明の精製菌体中のBCG−CWS含量測定
(1)方法
実施例1(2)−a)の精製菌体(乾燥体)を4mg秤量し、0.5M水酸化カリウム溶液1mL中65℃、3時間加熱を行った。また、標品のCWSを秤量して同様の操作を行い、それぞれの溶液中に遊離するミコール酸をADAM(9−Anthryldiazomethane、商標、フナコシ)試薬により蛍光標識し、HPLCにより分析した。HPLC条件:カラム温度:50℃、励起波長:365nm、測定波長:412nm、流速:約1.0mL/分、注入量:10μL、測定時間:60分、移動相:メタノール、トルエン(グラジエント)、カラム:野村化学製 Develosil C30−UG−3(3μm、4.6×150mm)
【0102】
(2)結果
標品のCWSと対比し、本発明の精製菌体には、含量45.5%のCWSを含むことが示された。尚、実施例5で得たBCG−CWSを実施例6と同様に再精製しBCG−CWS標品とした。
【0103】
試験例2−2:精製菌体中のPGLの含量測定
(1)方法
試験例1(1)と同様にして、PGL標品を用いて測定した。但し、実施例1(2)の60容量%THF水溶液洗液からシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離精製したPGLを標品とした。
(2)結果
その結果BCG死菌体及び精製菌体中のPGL含量はそれぞれ2.0重量%、0.3重量%であった。
【0104】
参考例1:本発明の水と親水性有機溶媒の混合溶液の洗浄効果
細胞外付着成分に対する本発明の水と親水性有機溶媒の混合溶液の洗浄効果を明らかにするため、特表2011−500540に記載される菌体の洗浄液として良く用いられるクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)の洗浄効果と本発明の洗浄効果を比較することを行った。
(1)洗浄方法
a)公知のクロロホルム/メタノール洗浄
上記公知文献(特表2011−500540)に準じて、BCG死菌体10g(ウェット、乾燥体約2g)にクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)50mLを加え、窒素雰囲気下、60分間攪拌した。懸濁液を吸引濾過し、濾上物をクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)10mLで共洗い洗浄した。この操作までの洗浄液を濃縮し抽出物334mgを得た。
更に、洗浄後の死菌体にクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)50mLを添加し、窒素雰囲気下、60分間攪拌した。懸濁液を吸引濾過し、濾上物をクロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)10mLで共洗い洗浄し、再洗浄液を得た。
【0105】
b)本発明のテトラヒドロフラン水溶液洗浄
BCG死菌体10g(ウェット、乾燥体約2g)に90容量%テトラヒドロフラン水50mLを加え、窒素雰囲気下、60分間加熱還流した。吸引濾過により濾上物と濾液に分離し、75容量%テトラヒドロフラン水10mLで共洗い洗浄し濾過した。この操作までの濾液を濃縮し抽出物415mgを得た。
この濾上物に75容量%テトラヒドロフラン水溶液50mLを添加し、窒素雰囲気下、60分間加熱還流した。吸引濾過により濾上物と濾液に分離し、75容量%テトラヒドロフラン水溶液10mLで共洗い洗浄し濾過し、再洗浄液を得た。
(2)洗浄効果の比較
抽出物量については、クロロホルム/メタノール混合溶媒(1:1、容積/容積)では334mgの不純物除去量であったが、テトラヒドロフラン水溶液では415mgであった。しかも、クロロホルム/メタノール混合溶媒では図25bに示されるように2回目の洗浄でも明らかに多くの不純物が検出されている。このように、テトラヒドロフラン水溶液の洗浄効果が高いことが示された。
【0106】
試験例3:抗酸菌(BCG菌)精製菌体の糖結合性蛋白/レクチン(コンカナバリンA;ConA)に対する結合活性の観察
a)評価サンプルの調製
加温減圧乾燥したBCG菌体(死菌)又は精製菌体をそれぞれホモジナイザーベッセルに5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。ポッターホモジナイザーを用いて1,200rpmで5分間ホモジナイズし、BCG菌体(死菌)又は精製菌体の懸濁液とした。
b)評価方法
上記懸濁液の評価サンプル50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(ConA−Rho、フナコシ)2μLを添加し、穏やかに混合した後、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
c)観察結果
図26に示すように、ConAの結合は、死菌の一部に見られたが、精製菌体の場合には、ほぼ全ての菌体にConAが結合することを確認した。死菌に比べ精製菌体の表面には、アラビノガラクタンを主とする糖鎖部分が顕著に露出していることが明らかになった。
【0107】
試験例4:抗酸菌(BCG菌)の精製菌体の生物活性評価
(1)TNF−α産生量の測定
a)評価サンプルの調製
約4mgのBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)に約1mLの0.01重量%ポリソルベート80含有生理食塩水を加え、ポッターホモジナイザーで3,000rpm、5分間、室温で懸濁した。各懸濁液のCWS含量を測定し(試験例2と同様)、10%FBS含有DMEM培地で10μgCWS/mLに調製し評価サンプルとした。
b)測定方法
公知方法(Drug Discov.Ther., 5(3), 130−135(2011))に準じて、RAW264.7細胞(商標、ATCC No.TIB−71)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で5時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、20時間培養後、培養上清中のTNF−α濃度をサイトカインELISA法により測定した。
c)測定結果
図28aに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)より、約1.3倍の高いTNF−αの誘導活性を示した。
更に、本発明の精製菌体の破砕物も、図28bに示されるように、本発明の精製菌体と同様の高いTNF−αの誘導活性を示した。
【0108】
(2)TLR2への生物活性評価
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて10μg/mLの評価サンプルを調製した。
b)測定方法
公知方法(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008))に準じて、HEK−Blue−hTLR2細胞(商標、INVIVOGEN)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で24時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、24時間培養後、培養上清をQUANTI−Blue(商標、INVIVOGEN)と37℃、60分間反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて655nmの吸光度を測定した。
c)測定結果
図27aに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)より、約1.6倍高いTLR2への活性を示した。
更に、本発明の精製菌体の破砕物も、図27bに示されるように、本発明の精製菌体の約0.7倍のTLR2への活性を示した。
【0109】
(3)TLR4への生物活性評価
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて10μgCWS/mLの評価サンプルとした。また、対照検体のリポ多糖(Standard LPS from E.coli O111:B4、INVIVOGEN)は、10%FBS含有DMEM培地で1ng/mLに調製した。
b)測定方法
公知方法(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008))に準じて、HEK−Blue−hTLR4細胞(商標、INVIVOGEN)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で24時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、24時間培養後、培養上清をQUANTI−Blue(商標、INVIVOGEN)と37℃、60分間反応させた後、マイクロプレートリーダーを用いて655nmの吸光度を測定した。
c)測定結果
図27cに示されるように、本発明の精製菌体は、原料であるBCG菌体(死菌)と同様にTLR4に対する活性を示さなかった。
なお、本発明の精製菌体の破砕物も、図27dに示されるように、本発明の精製菌体と同様にTLR4に対する活性を示さなかった。
【0110】
(4)IL−12誘導活性の測定
a)評価サンプルの調製
試験例4(1)−a)と同様にしてBCG菌体(死菌)、精製菌体及び精製菌体破砕物(乾燥体)を用いて200μgCWS/mLの評価サンプルを調製した。
b)測定方法
マウス樹状細胞株(JAWSII細胞)を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、20%FBS含有MEMα培地で4時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、44時間培養後、培養上清中のIL−12濃度をサイトカインELISA法により測定した。
c)測定結果
図29に示されるように、本発明の精製菌体は、BCG菌体(死菌)よりも約4倍高いIL−12の誘導活性を示した。
【0111】
実施例2:ノカルジア・ルビア菌の精製菌体の製造
ノカルジア・ルビア死菌体(JCM2156株)5g(ウェット)を順次65重量%テトラヒドロフラン水溶液25g、60重量%テトラヒドロフラン水溶液50gで60分間加熱還流後、90重量%アセトン水溶液で洗浄、熱濾過し精製菌体0.7g(乾燥)を得た。
【0112】
実施例3:精製菌体の破砕物の製造
(1)原料
実施例1と同様にして製造したBCG精製菌体を使用した。
(2)破砕物の製造
上記BCG精製菌体1.1g(乾燥体)を10容量%イソプロパノール水溶液40gに懸濁し、電動ホモジナイザー(Omni TH、Omni−international)で攪拌(20,000rpm、60℃、5分)した後、BERYU MINI(美粒)を用いて室温下、20,000psiで破砕した。破砕液の一部を凍結乾燥機(ALPHA 2−4、MARTIN CHRIST)を用いて凍結乾燥し、精製菌体破砕物の乾燥体50mgを得た。CWS含量:38.2%(HPLC)
【0113】
実施例4:精製菌体からのミコール酸の製造
(1)ミコール酸の製造
精製菌体(乾燥体)140gを10%(重量/容積)水酸化カリウム−50容量%イソプロパノール水溶液1.4L中で2時間加熱還流後、冷却下で水1.4L加え、さらに6M塩酸で酸性化した。n−ヘプタン2.1Lで2回抽出を行い、n−ヘプタン層を水1.4Lで2回洗浄した後、90容量%エタノール水溶液1.4Lで2回洗浄後、得られたn−ヘプタン層を減圧濃縮し、白色粉末のミコール酸14.6gを得た。
(2)ミコール酸の純度
上記ミコール酸の純度を確認するため、誘導体を作製しHPLCによる分析を行った。ミコール酸含量は98%と高純度であった。
HPLCの条件:誘導体化試薬:ADAM(商標、フナコシ)、カラム温度:50℃、励起波長:365nm、測定波長:412nm、流速:約1.0mL/分、注入量:10μL、測定時間:60分、移動相:メタノール、トルエン(グラジエント)、カラム:野村化学製Develosil C30−UG−3(3μm、4.6×150mm)
【0114】
実施例5:BCG菌のCWS(BCG−CWS)の製造
(1)原料
実施例1G精製菌体を使用した。
(2)CWSの製造
a)精製菌体の破砕
BCG精製菌体223.6g(ウェット、乾燥重量約71.6g)を10容量%イソプロパノール水溶液に懸濁し、高圧ホモジナイザーDeBEE2000(登録商標、BEEインターナショナル)を用いて35kpsiで破砕し、25℃下に6800×gで10分間遠心分離した。次いで、上清を25℃下に18000×gで60分間遠心分離し、粗精製CWSを176.7g(ウェット、乾燥重量約40.6g)を得た。
BCG精製菌体224.6g(ウェット、乾燥重量約71.9g)を同様に処理し粗精製CWS187.2g(ウェット、乾燥重量約46.6g)を得た。
b)蛋白質分解酵素処理
粗精製CWS271.2g(ウェット、乾燥重量約65g)を、10mMトリス塩酸緩衝液/イソプロパノール(95:5、容積/容積、pH8.0)混合液3.2kgに懸濁させた。プロナーゼ(Sigma−Aldrich)2gを10mMトリス塩酸緩衝液/イソプロパノール(95:5、容積/容積、pH8.0)混合液780gに溶かし、上記破砕品懸濁液に添加し、37℃で4時間反応した。反応液を室温下に18000×gで60分間遠心分離して沈殿物を得た。
c)洗浄処理
上記沈殿物を10倍重量の5容量%イソプロパノール水溶液に懸濁させ、室温下に遠心分離し、さらに20容量%イソプロパノール水溶液に懸濁させ40℃で30分間攪拌した後、遠心分離して沈殿物を得た。更に、イソプロパノールに懸濁後、遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物を減圧乾燥し、白色粉末のBCG−CWS32.5gを得た。(死菌からのCWSへの収率18.8%;死菌から精製菌体への収率61.2%、精製菌体からCWSへの収率30.8%)
【0115】
(3)組成分析データ
本発明のBCG−CWSの組成の分析結果を表1に示す。なお比較のために、特許文献3に従って製造したBCG−CWS(参考例2)組成の分析値と、特許文献3に記載されたBCG−CWSの文献値を併せて記載する。
【0116】
【表1】
【0117】
特許文献3に記載されたBCG−CWS(文献値)と特許文献3に従って製造したBCG−CWS(参考例2)の組成の分析値は、ほぼ同一であり、参考例2のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSを再現していることが示された。
本発明のBCG−CWSでは、これら特許文献3のBCG−CWSと比較し、不純物に由来する全非構成アミノ酸の含量が1.0%以下であった。上記表1に示されるように、公知のBCG−CWSでは不純物に由来する全非構成アミノ酸の含量が1.0%以下になることはなかったが、本発明によって初めて1.0%を切る高純度のBCG−CWSを取得できるようになった。このように、公知のBCG−CWSの製造方法と比較して、本発明のより簡易なBCG−CWSの製造方法において、BCG−CWSにおける純度の向上が得られたことは、細胞外付着成分の除去された精製菌体を使用したことがその大きな要因になっていると考えられる。
【0118】
実施例6:本発明のCWS(BCG−CWS)の再精製
実施例5得たBCG−CWS100mgを20容量%イソプロパノール水溶液5mLに懸濁させ、40℃で30分間攪拌した後、室温下で遠心分離して沈殿物を得た。これを繰り返して、再精製BCG−CWSを99.5mg得た。得られた再精製BCG−CWSをMicro BCA Protein Assay Kit(商標、Thermo FisherScientific)を用いて、蛋白質含量の定量を行った。以下の表2に示されるように、再度精製を行うことによってさらに不純物に由来する蛋白質含量が減少した。
【0119】
【表2】
【0120】
参考例2:公知法(特許文献3)に従ったBCG−CWSの製造
a)破砕処理
578gのBCG死菌(ウェット、乾燥重量約111g)を3Lの水に懸濁し、MiniDeBee(登録商標、BEEインターナショナル)を用いて35kpsiで破砕した。それらを25℃下に6,760×gで10分間遠心分離した。次いで、上清を25℃下に18,000×gで60分間遠心分離し沈殿を得た。
b)核酸分解酵素処理と蛋白質分解酵素処理
上記沈殿に、ベンゾナーゼ(Merck Ltd.)を加え25℃で17時間反応した。遠心分離で沈殿を回収し1重量%トライトンX−100水溶液で懸濁/遠心操作(沈殿回収)を5回繰り返し洗浄した後、プロナーゼ(Sigma−Aldrich)を加えて37℃で17時間反応した。25℃下に18000×gで20分間遠心分離して沈殿を集め、1重量%Triton X−100水溶液中に再懸濁させ、60℃で2時間撹拌し、遠心分離して沈殿を得た。
c)洗浄処理
遠心分離後の沈殿をエタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム/メタノール(2:1、容積/容積)、メタノールで順次洗浄した。残渣を乾燥し、乾燥BCG−CWS14gを得た。(死菌からの収率12.6%)
d)組成分析データ
乾燥BCG−CWSの組成は表1に示した。公知法(特許文献3)に従って製造されたBCG−CWSの組成は、表1に示されるように、文献値(特許文献3)とほぼ同一であることから、特許文献3のBCG−CWSを再現して製造できていることが確認できた。
【0121】
試験例5:本発明のBCG−CWSの水への分散性(OD相対値:物性値)
(1)測定サンプル
A:本発明のBCG−CWS(実施例5のサンプル)
B:特許文献3のBCG−CWS(参考例2のサンプル)
(2)分散性の測定方法:
上記のBCG−CWSをそれぞれホモジナイザーベッセルに5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。スリーワンモーターを用いて1,200rpmで5分間ホモジナイズし懸濁液とした。この液を1mg/mLに調製し、1.5mLを3mL容プラスチックキュベットに添加した。分光光度計(U−5100、日立ハイテクサイエンス)を用いて吸光度(690nm)を60分間経時的に測定した。測定0分の吸光度を1とし、相対的な値(物性値)を算出した。
【0122】
(3)結果:
測定結果を図13に示す。本発明のBCG−CWS(A)を生理食塩水中に分散させた時のOD相対値(物性値)は、測定時間内(60分間)において大きな変化が認められなかった。分散開始から60分後でも、0.98のOD相対値(物性値)を示した。
一方、特許文献3のBCG−CWS(E)は、生理食塩水中に分散後、OD相対値(物性値)が速やかに低下を始め、60分後に0.22に低下し、BCG−CWSの沈降が認められた。
尚、本発明のBCG−CWS製造の小実験検討等の中でOD相対値(物性値)が0.9以上のBCG−CWS以外に、0.75、0.58、0.48を示すBCG−CWSも得られた。
以下、本発明BCG−CWSのOD相対値(物性値)が実施例5のサンプルを中心に0.9以上、0.75、0.58、0.48の各サンプルについて各々A、B、C、Dと表し参考例2のサンプルをEと表す。
【0123】
試験例6:本発明のBCG−CWSの抗体反応性
本発明のBCG−CWS(実施例5)と特許文献3のBCG−CWS(参考例2)の抗BCG死菌抗体との結合性をサンドイッチ・ELISA法にて評価した。
(1)試剤
ウサギ(Japanese white)抗BCG死菌IgG抗体を作製し、使用した。
(2)方法
ウサギ抗BCG死菌IgG抗体をNunc−immuno plateII(商標、Nunc)に固層化した。上記のBCG−CWSとそれぞれ反応後、ビオチン標識した抗BCG死菌抗体を添加し、室温で60分間静置した。Streptavidin−HRP Conjugate(Vector Lab.)を添加し、室温で60分間静置した。発色試薬(Stabilized hydorogen peroxide, R&D)を加え、室温で反応後、1N硫酸を加え反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
(3)結果
測定結果を図18に示す。本発明のBCG−CWSは抗BCG死菌抗体に反応性が高いが、特許文献3のBCG−CWSは抗BCG死菌抗体に反応性が非常に低かった。抗BCG抗体を1000ng/mL使用した場合に、本発明のBCG−CWSは結合反応を示した(OD450値:0.34)。また、上記抗BCG死菌抗体を500ng/mL使用した場合にも、本発明のBCG−CWSは結合反応を示した。しかし、特許文献3のBCG−CWSは、いずれの抗体添加量でも結合反応を示さなかった(OD450値:0.01)。このように、抗BCG死菌抗体を用いて、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSのCWS表面構造が異なっていることが示された。
このように、抗体が認識するBCG−CWSの表面構造は、本発明のBCG−CWSの場合と、特許文献3のBCG−CWSの場合とでは大きく異なっていることを示している。
【0124】
試験例7:本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの粒度分布
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの粒度分布を比較することを行った。
(1)方法
ポッター型ホモジナイザーを用いて生理食塩水、又は超音波発生装置を用いてn−ヘプタンに上記CWSをそれぞれ懸濁させ、粒度分布測定装置(SALD−2200、島津製作所)を用いて粒度分布を評価した。
a)生理食塩水中での懸濁:
BCG−CWSをホモジナイザーベッセルに約5mg秤量し、生理食塩水約2mLを加えた。1,200rpmで5分間ホモジナイズし懸濁液とした。
b)n−ヘプタン中での懸濁:
BCG−CWSを試験管に約5mg秤量し、n−ヘプタン約2mLを加えた。超音波発生装置により懸濁させた。
(2)結果
粒度測定の結果を図20に示す。本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは生理食塩水中では共に単一のピークの粒度分布を示した(図20(a))。しかし、n−ヘプタン中では0.1〜100μmの範囲において、本発明のBCG−CWSは単一の粒子径ピークを示し、特許文献3のBCG−CWSは2つの粒子径ピークを示した(図20(b))。本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは生理食塩水中とn−ヘプタン中での粒度分布挙動が大きく異なっていた。
【0125】
試験例8:オーラミン染色法によるCWSの形態評価
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違をオーラミン染色法により比較した。
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS:A、B、C、D
特許文献3のBCG−CWS:E
(サンプル名は試験例5に基づく)
(2)方法:
公知文献(顕微鏡,48(1), 51−56(2013))を参考に、BCG−CWS約5mgにオーラミン水溶液(0.15mg/mL)を500μL加え、ホモジナイザーで分散後、遮光条件下、10分間攪拌した。遠心分離(21,040×g、10分間)し、残渣に水500μLを加えホモジナイザーで分散後、遠心分離し、残渣に0.5容量%HCl・エタノール混液500μLを加え分散し、遠心分離した。前記操作を更に1回繰り返した。水500μLを加え分散後、遠心分離し、残渣に0.1重量%過マンガン酸カリウム水溶液500μLを加え分散させ、遠心分離した。残渣に水500μLを加え分散させ、遠心分離した。前記操作を更に1回繰り返した。沈殿にヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)混液100μLを加え分散させ、この懸濁液2μLをスライドガラスに滴下・風乾した後、蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス、BZ−X710)を用いて観察(40倍拡大の視野、露光時間1/5秒)し、解析ソフト(BZ−X Analyzer)を用いて試料総面積当たりの蛍光面積の比率を算出した。
(3)結果:
上記測定サンプルの観察写真を図19(注1)に、蛍光面積率・判定の結果を表3に示す。オーラミン染色の結果、本発明のBCG−CWS(A)〜(D)では蛍光はほとんど観測されなかったが(蛍光面積の比率0.1%以下)、特許文献3のBCG−CWS(E)では、強い蛍光が観測され(蛍光面積の比率89.43%)、蛍光面積率10%以下である(A)〜(D)は陰性、10%以上であった(E)は陽性と判定した。
上記オーラミン染色の結果から、本発明のBCG−CWS(A)〜(D)では、ミコール酸部分の密度が低く、強い凝集又は融合していないことが示された。一方、特許文献3のBCG−CWS(B)では、ミコール酸部分の密度が高く、強く凝集又は融合していることが示された。更に、水への分散性(物性値)が0.4以上ではオーラミン染色が陰性を示すことが明らかとなった。
(注1:レーザー走査型共焦点顕微鏡(FV−1000、オリンパス)の100倍拡大の視野で観察)
【0126】
【表3】
【0127】
試験例9:本発明のBCG−CWSと特許文献3の水中におけるレクチン(コンカナバリンA)との反応性の比較
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS(A)
特許文献3のBCG−CWS(E)
(試験例5のサンプルを使用)
(2)方法
試験例5と同様にしてポッター型ホモジナイザーを用いて生理食塩水に上記(1)のBCG−CWSをそれぞれ懸濁させた。各評価サンプルの懸濁液50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(フナコシ)2μLを添加し、軽くピペッティングし、スライドグラスに適量滴下し、風乾させ共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
(3)結果
蛍光化コンカナバリンAを用いて、本発明と特許文献3のBCG−CWSの結合強度を比較したところ、本発明のBCG−CWSの方がコンカナバリンAと明らかに強く結合し、凝集を示した。
【0128】
試験例10:BCG−CWSの懸濁液中のゼータ電位評価
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWS(A)
特許文献3のBCG−CWS(E)
(試験例5のサンプルを使用)
(2)方法
上記(1)のBCG−CWS50mgにイソプロパノール5mLを添加し5分間超音波照射し分散させた後、50mLとなるように蒸留水を添加した(イソプロパノール終濃度、10容量%)。高圧破砕機(BERYU−MINI、美粒)を用いて、20,000psiで破砕しサンプル分散液とした。各評価サンプル分散液50μLを10容量%イソプロパノール水溶液2mLに加え混合した後、ゼータサイザー(マルバーン、Nano−ZS)でゼータ電位を測定した。
(3)結果
表4に示すように、本発明のBCG−CWSは約―22mVのゼータ電位を示し、特許文献3のBCG−CWSは約―30mVのゼータ電位を示した。即ち、本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの表面構造が異なっていることが示された。
【0129】
【表4】
【0130】
試験例11(1):本発明のBCG−CWSによるTNF−α産生量の測定
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(TNF−αの産生量)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
約4mgの本発明のBCG−CWS及び特許文献3のBCG−CWSに約2mLの0.01重量%ポリソルベート80含有生理食塩水を加え、ポッター型ホモジナイザーで3,000rpm、5分間、室温で懸濁した。各懸濁液のCWS含量を測定し(試験例2と同様)、10%FBS含有DMEM培地で10μgCWS/mLに調製し評価サンプルとした。
(2)測定方法
試験例4(1)と同様の方法に準じて測定した。
(3)測定結果
図23に示されるように、本発明のBCG−CWSは、特許文献3のBCG−CWSより、約2.8倍の高いTNF−αの誘導活性を示した。
【0131】
試験例11(2):BCG−CWSのTLR2とTLR4に対する親和性の評価
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(TLR2とTLR4)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
本発明のBCG−CWS或いは、特許文献3のBCG−CWSを用いて、試験例4(2)、(3)と同様にして評価サンプルを調製した。また、対照検体のリポ多糖(Standard LPS from E.coli O111:B4、INVIVOGEN)は1ng/mLに調製した。
(2)測定方法
試験例4(2)、(3)の方法に準じて測定した。
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSは、いずれも図24―a)に示すようにTLR2に反応するが、図24―b)に示すようにTLR4には反応しなかった。
【0132】
試験例11(3):本発明のBCG−CWSによるIL−12産生量の測定
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの形態的な相違に基づく、生物活性(IL−12の産生量)への影響を比較した。
(1)評価サンプルの調製
本発明のBCG−CWS或いは、特許文献3のBCG−CWSを用いて、試験例4(4)と同様に実施した。但し、最終調製サンプル液は20%FBS含有MEMα培地で100ngCWS/mL(BC−1)、100μgCWS/mL(JAWSII)とした。
(2)IL−12の測定方法
a)マウス未成熟樹状細胞株(BC−1細胞)を用いた活性評価:
公知方法(J Leukoc Biol. 2002 Jan;71(1):125−32)に準じて実施した。BC−1細胞を96wellマイクロプレートに5×10^4cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、20%FBS含有MEMα培地で5時間培養して接着させた後、評価サンプルを添加し、20時間培養後、培養上清中のIL−12濃度をサイトカインELISA法により測定した。
b)マウス樹状細胞株(JAWSII細胞)を用いた活性評価:
試験例4(4)の方法に準じて測定した。
(3)測定結果
a)BC−1細胞を用いた活性評価:
本発明のBCG−CWSは、図21に示されるように特許文献3のBCG−CWSと比較すると、コントロール(生理食塩水)をベースラインとして、約17倍のIL−12の誘導能を示した。
b)JAWSII細胞を用いた活性評価:
本発明のBCG−CWSは、図22に示されるように特許文献3のBCG−CWSと比較すると、約3.2倍のIL−12誘導能を示した。
【0133】
参考例3:特許文献3のBCG−CWSの形態、物性の回復検討
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSの間には、図14(a)又は(b)と図14(c)のような形態的相違が考えられている。そこで、図14(c)から図14(a)又は(b)に形態的、物性的な変換が可能か否かを検討した。
【0134】
(1):有機溶媒中の加熱による特許文献3のBCG−CWS形態、物性改善検討
上記特許文献3のBCG−CWS10mgをn−ヘプタン1mLに懸濁し、90℃、5又は10時間加熱処理を行った。処理後懸濁液を室温下に18,000×gで60分間遠心分離して沈殿物を得た。得られた沈殿物を減圧乾燥し、試験例7の方法にて濁度測定を行った。
その結果を図16aに示す。この結果に示されるように、有機溶媒中加熱を行っても特許文献3のBCG−CWSには、分散性の改善は認められなかった。
【0135】
(2)再破砕処理による特許文献3のBCG−CWSの形態、物性改善検討
特許文献3のBCG−CWS41mgを10容量%イソプロパノール水溶液20mLに懸濁し、BERYU MINI(美粒)を用いて20,000psiで再破砕処理を行った。破砕後懸濁液を室温下に18,000xgで60分間遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物を減圧乾燥し、試験例5の方法に準じて濁度測定(OD相対値測定)を行った。
その結果を図17に示す。この結果に示されるように、再破砕処理においても特許文献3のBCG−CWSには、分散性の改善は認められなかった。
以上のことから、特許文献3のBCG−CWSのように、図14(c)のミコール酸部分が強く凝集又は融合した形態のBCG−CWSに変化すれば、図14(a)又は(b)の形態の本発明のBCG−CWSには戻らないことが明らかとなった。このことは、BCG−CWSにおける図14(a)又は(b)から図14(c)への形態的な変化とそれに伴う物性的な変化は、不可逆であることを示している。
【0136】
参考例4:本発明のBCG−CWSの形態、物性に対する界面活性剤の影響
本発明のBCG−CWSの製造方法は、界面活性剤を使用しないことを特徴にしている。一方、特許文献3のBCG−CWSの製造方法では界面活性剤を使用している(参考例2)。そこで、本発明のBCG−CWSの形態、物性に対する界面活性剤の影響を明確にするため、下記のように本発明のBCG−CWSを界面活性剤の非存在下BCG−CWS粉末の直接加熱或いは界面活性剤存在下水中で加熱してその物性変化を検討した。
a)評価サンプル
(1)本発明のBCG−CWS(A)
(2)特許文献3のBCG−CWS(E)
(3)本発明のBCG−CWS(A)10mgをマイクロチューブに加えアルミ製ヒートブロックで100℃、3時間加熱した。
その結果、図16bサンプルCの物性値は、特許文献3のBCG−CWSと同等の挙動を示し、物性値0.9以上だったものが大きく低下した。
(4)本発明のBCG−CWS(A)30mgに1重量%トライトンX−100水溶液2mLを加えホモジナイザーで懸濁後、60℃、60分間攪拌した。遠心分離後上清を除いた。この操作をもう一度行った。次いでエタノール2mLを加えホモジナイザーで懸濁し、遠心分離により上清を除いた。この操作をもう一度行った後減圧乾燥をした。
その結果、図16bサンプルDの物性値は、上記のサンプルCと同じ挙動を示し、物性値が大きく低下した。
これらの挙動は、BCG−CWSのミコール酸部分が不可逆的に強く凝集又は融合していることが示された。
(サンプル名は試験例5に基づく)
【0137】
なお、上記の不可逆な形態的変化の理由としては、BCG−CWSはミコール酸−アラビノガラクタン−ペプチドグリカンからなる超薄いフィルム状の3層構造を形成していると考えられている(MicrobiologySpectrum, 2(3), 1−19(2014)のFIGURE 6)。従って、水中ではペプチドグリカン層を外側に向け、ミコール酸同士を内側に向けた状態(図14(b),(c))を取ると考えられている(J. Microbiol. Methods, 72(2), 149−156(2008))。図14(b)のようなミコール酸同士の疎水性相互作用は分散操作等の物理的な処理により乖離する弱い結合であると考えられる。しかし、加熱、界面活性剤処理などを行うと、ミコール酸部分が不可逆的に強く凝集又は融合した図14(c)のような形態を形成すると考えられる
本発明では、図14に示すようなミコール酸部分の不可逆な形態変化を解明することが出来たことから、その知見に基づいて、界面活性剤の使用や高温処理をすることなくBCG−CWSを製造し、水への分散性に優れた各種エマルション・懸濁液製剤の製造に適した物性を有する細菌−CWSの製造が初めて可能となった。
【0138】
実施例7:BCG−CWSを用いたエマルションの製造
本発明のBCG−CWSと特許文献3のBCG−CWSとの形態と物性の相違が、エマルションにどのような影響を及ぼすかを検討した。公知の水中油型エマルションの処方、製法(Proc.Japan Acad., 70,Ser.B, 205−209(1994)、特開2010−271322)に準じて、上記2つのBCG−CWSを用いた水中油型エマルションを製造した。
(1)方法
BCG−CWS360mgに、n−ヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)溶液約30mLとスクアレン(岸本特殊肝油工業製)5.4g(対BCG−CWS重量比15倍)、BHT(東京化成工業)1.5mgを加え、攪拌した後超音波照射により室温で分散した。その後、乾燥窒素気流下60℃に加熱し有機溶媒を留去した。ついで、0.02重量%ポリソルベート80水溶液135gを添加し、ホモミキサー(ラボ・リューション、PRIMIX社)を用いて60℃、7,000回転、5分間予備乳化を行った。更に、8.73gの10重量%ポリソルベート80水溶液を添加し、60℃、12,000回転、5分間本乳化を行い水中油型エマルション(乳化液A)を得た。乳化液の粒度分布を、粒度分布計(SALD−2200、島津製作所)で測定した。乳化液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。
(2)結果
CWS含量91%(対仕込み重量パーセント、実濃度2.18mgCWS/mL)、スクワレン含量100%(対仕込み重量パーセント、実濃度36mg/mL)、メディアン系2.0μm、単一の粒度分布(図30)の外観均一な水中油型エマルション製剤が得られた。
【0139】
実施例8:凍結乾燥製剤の製造
(1)方法
実施例7と同様にして乳化を実施し水中油型エマルション乳化液を得た。乳化液に、等重量(53.5g)の6mg/mLポリソルベート80/90mg/mLマンニトール/20mMクエン酸バッファー(pH7.0)水溶液を添加混合し、ポリソルベート80最終濃度を6mg/mL、マンニトール最終濃度45mg/mLの水中油型エマルション(希釈液)を得た。希釈液を凍結乾燥用バイアル(Φ18.0×33.0mm、CS、不二硝子)に1mLずつ充填し、−80℃ディープフリーザーで凍結した後、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GAMMA2−16LSCplus、MARTIN CHRIST社製)を用いて行った。凍結乾燥再溶解液の粒度分布を、粒度分布計(SALD−2200、島津製作所)で測定した。再溶解液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。
(2)結果
凍結乾燥製剤を再溶解した結果、再溶解液中BCG−CWS含量94%(対希釈液中含量、実濃度1.08mgCWS/mL)、スクワレン含量93%(対希釈液中含量、実濃度18.4mg/mL)、メディアン径2.3μm、単一ピークの粒度分布(図31)の外観均一な水中油型エマルションが得られた。
【0140】
実施例9:BCG−CWSに対して油量を変えたエマルション及び凍結乾燥製剤の製造
以下、実施例7、8と同様にBCG−CWSに対する油の重量比を変えてエマルション製造を行った。但し、乳化機は実施例3と同様電動ホモジナイザーを用いて小スケールで実施した。尚、その時の乳化条件は以下の通りである。
(1)方法
ガラス試験管に12mgのBCG−CWSとスクワレン適量に対し、約2mLの有機溶媒(ヘプタン或いはヘプタン/エタノール(9:1、容積/容積)混合溶媒)を添加し超音波照射により均一に懸濁した後、60℃で窒素気流下乾固しオイルペーストを作成した。そこにPS80をスクワレンの1/3量PS80含有の溶液を加え、乳化機で約10,000rpm、60℃、5分間乳化した乳化液を得た。そこに等容量のD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液溶液(pH7.0)を添加し希釈液を得た。
希釈液の粒度分布を測定した。希釈液の一部をサンプリングし、試験例2に準じてBCG−CWS含量を測定した。尚、本発明のBCG−CWSはサンプルA(試験例5の表記で示した)、特許文献3のBCG−CWSサンプルEを用いた(試験例5の表記で示した)。
(2)結果
結果、下記の表5と図4に示した結果を得た。
【0141】
【表5】

更に、本発明のBCG−CWS及び、特許文献3のBCG−CWS各々の6倍量のスクワレンを用いたエマルションについては、1mL/バイアルで凍結乾燥製剤を作成し、その安定性を比較した。その結果を表6で示した。
【0142】
【表6】
【0143】
試験例12:エマルション(希釈液)の安定性評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じてエマルション希釈液を作製した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はBCG−CWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になる様にし、緩衝液はクエン酸緩衝液を用いた。
・本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
【0144】
(2)安定性評価
(1)で製造したエマルション希釈液を室温(22〜25℃)で3日保存し、サンプリング液中のBCG−CWS含量を試験例2に準じて測定した。
(3)結果
表7に示す結果が得られた。本発明のBCG−CWSから作成したエマルション希釈液は特許文献3のBCG−CWSから作成したエマルション希釈液よりも安定であった。
【0145】
【表7】
【0146】
実施例10:0.1mL、0.2mL低容量充填エマルション凍結乾燥製剤の製造
実施例7と同様にした製造した乳化液に、等重量(287.7g)の6mg/mLポリソルベート80/90mg/mLマンニトール/20mMクエン酸バッファー(pH7.0)水溶液を混合し、ポリソルベート80最終濃度を6mg/mL、マンニトール最終濃度45mg/mLの、575.4gの水中油型エマルション希釈液を得た。エマルション希釈液をピストンポンプ(DIGISPENSE3009、IVEK社製)を用いて凍結乾燥用バイアル(Φ18.0×33.0mm、CS、不二硝子)に0.1mLもしくは0.2mLずつ充填し、−80℃ディープフリーザー(MDF−U73V、SANYO社製)で凍結した後、凍結乾燥機(GAMMA2−16LSCplus、MARTIN CHRIST社製)で凍結乾燥を行って凍結乾燥製剤を得た。
(2)結果
凍結乾燥の結果、十分な形態を保った凍結乾燥ケーキの形成が確認された。また、下表8の通り、0.1、0.2mL/バイアル充填において、バイアル中のBCG−CWS含量はそれぞれ、108μgCWS/バイアル、203μgCWS/バイアルであり、バイアル中のスクアレン含量は、それぞれ1.58mgスクアレン/バイアル、3.02mgスクアレン/バイアルであった。本発明のBCG−CWSエマルションにより小容量充填の水中油型エマルション凍結乾燥製剤が製造できることが確認された。
【0147】
【表8】
【0148】
試験例13:本発明のBCG−CWS及びそのエマルション製剤の表面形態(アラビノガラクタンの存在確認)
本発明のBCG−CWSとそのエマルション製剤の場合、アラビノガラクタンがCWS表面、エマルション油粒子(油滴)表面に露出していることを、コンカナバリンAの結合、凝集反応で確認した。
(1)評価サンプルの調製
a)BCG−CWS:
・本発明のBCG−CWS(A:試験例5の表記)
・特許文献3のBCG−CWS(参考例2、E:試験例5の表記)
b)エマルション希釈液:
(1)a)のBCG−CWSを用いて、実施例7に準じて、次のエマルション製剤を作製した。
但し、スクワレン量、SP80量はBCG−CWS仕込み重量比としてそれぞれ15倍量、5倍量を用いた。また、クエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
・本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液
【0149】
(2)評価方法
各評価サンプル50μLにローダミン標識コンカナバリンA溶液(フナコシ)2μLを添加し、軽くピペッティングした後、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
(3)結果
図2に示される様に本発明のBCG−CWSの水中油型エマルション希釈液ではコンカナバリンA溶液によるローダミン呈色及び凝集反応が見られたが、特許文献3のBCG−CWSの水中油型エマルション希釈液では殆ど呈色及び凝集反応が見られなかった。このことから、本発明のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液では、油滴表面にアラビノガラクタンが露出しているが、特許文献3のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液では、アラビノガラクタンが油粒子(油滴)中に包埋され、油滴表面にアラビノガラクタンが殆ど露出していないことが示された。
【0150】
試験例14:本発明のBCG−CWSエマルションのゼータ電位の評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて作製した、次のエマルション希釈液を使用した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はCWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になるようにして作製した。
・本発明のBCG−CWS(A)を用いたエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWS(E)を用いたエマルション希釈液
・ビークルエマルション希釈液
(2)測定方法
試験例10に準じてゼータ電位を測定した。
(3)結果
表9に示されるように、特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液のゼータ電位はビークルエマルション希釈液とほぼ同等であったのに対し、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション希釈液は約2倍のマイナス電位を示した。従って、ゼータ電位差で本発明のBCG−CWSエマルションと特許文献3のBCG−CWSエマルションを明らかに区別することができることが判明した。
【0151】
【表9】
【0152】
試験例15:物性値の異なるBCG−CWSの水中油型エマルションを用いた物性値とゼータ電位差の相関
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて作製した、次のBCG−CWS水中油型エマルション希釈液を使用した。但し、それぞれのBCG−CWS水中油型エマルション中のスクアレンとPS80量はBCG−CWS仕込み重量に対してそれぞれ15倍、5倍になるようにして作製した。また、クエン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。
・本発明のBCG−CWSのサンプルA、B、C、Dを用いて製造したエマルション希釈液
・特許文献3のBCG−CWSのサンプルEを用いて製造したエマルション希釈液
・ビークルエマルション希釈液
(2)測定方法
試験例10に準じてゼータ電位を測定した。
(3)結果
得られたゼータ電位、各種BCG−CWSエマルション希釈液から得られたゼータ電位をビークルエマルション希釈液から得られたゼータ電位の差を算出した値をゼータ電位差として評価した。その結果は、表10に示す通りで、本発明BCG−CWSのエマルション希釈液は、特許文献3のBCG−CWSのエマルション希釈液に比して明らかにその電位差は大きかった。即ち、本発明のBCG−CWSのエマルション希釈液の電位差は6〜9mVが認められた。一方、特許文献3のエマルション希釈液ではその値は、1.0以下であった。
【0153】
【表10】
【0154】
試験例16:BCG−CWSに対する油量とゼータ電位差の相関
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて、対BCG−CWS重量比7.5、15、22.5倍量のスクワレンを用いて作成したBCG−CWS水中油型エマルション希釈液、及びそれらのビークルエマルションを使用した。各々スクワレンの1/3重量のPS80量、クエン酸緩衝液(pH7.0)を使用した。
(2)測定方法
試験例10と同様にゼータ電位差を測定した。
(3)結果
結果を表11に示した。油量の増大に相関して、ゼータ電位差が低下した。
【0155】
【表11】
【0156】
試験例17:製剤中におけるBCG−CWSとオイルの共局在の確認
製剤中のBCG−CWSの存在状態を確認する為に下記の評価を行った。
(1)評価法
公知文献(Infect. Immun., 68(12), 6883−6890(2000))に準じてFITCラベル化した本願BCG−CWS及びナイルレッドを溶解させたスクワレンを用い、実施例7に準じて水中油型エマルションを作製した。対BCG−CWS重量比にして10倍量のスクワレン、その1/3量のPS80、リン酸緩衝液を用いた。得られたエマルション乳化液を蛍光顕微鏡で観察した。
(2)結果
BCG−CWS及びスクワレンの蛍光は共局在しており、エマルション乳化液の油滴内にBCG−CWSが存在していることが確認された。
【0157】
試験例18:各種抗酸化剤の効果の比較検証
BCG−CWS水中油型エマルション凍結乾燥製剤の安定性向上を目的として抗酸化剤の検討を実施した。
(1)評価サンプルの調製
実施例8に準じてエマルション凍結乾燥製剤を作製した。但し、それぞれのエマルション製剤中のスクワレンとPS80の製造時最終量(仕込み重量)はBCG−CWS仕込み重量比にしてそれぞれ6倍、2倍になるようにして作製した。凍結乾燥製剤を再溶解した後、各抗酸化剤(AからF)を10ppm添加した液を使用した。
A:未添加
B:DL−α−トコフェロール(V.E)
C:トコフェロール酢酸エステル(V.E E)
D:アスコルビン酸(V.C)
E:6−O−ステアロイル−L−アスコルビン酸(V.C E)
F:ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
(2)評価方法
各評価サンプルを60℃条件下静置保存し、試験開始時、2日経過後、4日経過後及び8日経過後の各時点でのpH、スクアレン含量、PS80分解の指標となるオレイン酸含量を測定した。
【0158】
(3)結果
図11に示されるように以下のことが明らかとなった。
a)pH:水溶性抗酸化剤のV.Cは抗酸化剤未添加の場合よりもpHが低下し、BHTを除くその他脂溶性抗酸化剤も未添加とほぼ同等の挙動であった。BHTは開始時のpHを唯一保持した。
b)スクアレン含量:抗酸化剤未添加及びBHT以外の抗酸化剤において8日保存後のスクアレンの含量低下が認められ、BHTは開始時から変化が認められなかった。
c)オレイン酸:PS80は加水分解によりオレイン酸の含量が増加し、次にオレイン酸の過酸化反応のためオレイン酸含量が減少する傾向が認められPS80の分解指標となる。未添加、V.C及びV.C Eは過酸化反応まで急激に進んだと思われオレイン酸含量は低下しており、V.E、V.E Eは増加及び減少と反応が進んでいる。対してBHTは緩やかな増加傾向が認められ、このことは加水分解後の過酸化反応を抑制していることを示している。
以上の結果から、各種抗酸化剤の中でBHTが最も優れた抗酸化作用を示していることが示された。
【0159】
試験例19:緩衝剤の効果の比較検証
BCG−CWS水中油型エマルションの安定性向上を目的として緩衝剤を検討した。
本発明の製剤への効果の比較を実施するために、PS80存在下、各種緩衝剤のpH保持能力を比較した。
(1)評価サンプルの調製
PS80を6mg/mLとなる様に下記各種バッファーに添加し、PS80溶液を得た。
A:緩衝剤未添加
B:リン酸緩衝液(pH7.0)
C:クエン酸緩衝液(pH7.0)
(2)評価方法
各評価サンプルを40℃、或いは60℃条件下静置し、試験開始時からそれぞれ約60、150日経過後までのpHを測定した。
【0160】
(3)結果
図12に示す様に、緩衝剤添加なしの溶液ではリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤を添加した溶液に比べてpH低下速度が速く、更にリン酸緩衝剤に比べてクエン酸緩衝剤のpH保持能力が高かった。
以上の結果から、本製剤の処方条件において各種緩衝剤の中でも汎用されているリン酸緩衝剤よりもクエン酸緩衝剤がより高いpH安定化能を示すことが明らかとなった。
【0161】
試験例20:本発明のBCG−CWSを用いたエマルションによるin vitro生物活性評価
(1)評価サンプルの調製
実施例7に準じて製造したエマルションを用いた。但し、BCG−CWS重量比にして15倍量のスクアレンと5倍量のPS80と、クエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
(2)評価方法
a)RAW264.7細胞を用いたTNF−α活性評価:
試験例4(1)と同様に実施した。
b)BC−1細胞を用いたIL−12活性評価:
試験例11(3)と同様に実施した。
c)HEK−Blue−hTLR2細胞を用いたhTLR2のレポーター活性評価:
試験例4(2)の方法に準じて測定した。
(3)結果
a)TNF−α活性評価:
図5に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、TNF−α誘導活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約16倍高かった。
b)IL−12活性評価:
図6に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、IL−12誘導活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約6倍高かった。
c)TLR2のレポーター活性評価:
図7に示されるように、本発明のBCG−CWSを用いたエマルション製剤は、hTLR−2レポーター活性が特許文献3のBCG−CWSを用いたエマルション製剤よりも約22倍高かった。
【0162】
試験例21:BCG−CWSのオイルペーストのオイル量とin vitro活性の相関
BCG−CWSの水中油型エマルションにおけるin vitro活性と使用油量との相関を見る一環としてその中間体であるオイルペーストを用いてin vitro活性と油量との相関を検討した。
(1)評価サンプルの調製
BCG−CWSにスクワレン(BCG−CWSの8、16、24倍重量)とPS80(BCG−CWSの1.5倍重量)を添加混合した後、n−ヘキサンを添加し超音波照射を行いBCG−CWS分散液を調製した。96−wellガラスマイクロプレートにそれらBCG−CWS分散液を50μg/well添加し約24時間25℃で静置しn−ヘプタンを留去し、BCG−CWSペーストを得た。
(2)測定方法(TNF−α活性評価):
試験例4(1)の方法に準じて測定した。RAW264.7細胞を上記のBCG−CWSペーストを含有する96―wellマイクロプレートに5×10^5cells/wellで播種した。37℃、5%CO2、10%FBS含有DMEM培地で5時間培養して接着させた後、同種の新規培地で培地交換し更に20時間培養後、培養上清中のTNF−α濃度をサイトカインELISA法により測定した。
(3)結果:
図8に示されるように、本発明のBCG−CWS(A)をスクワレンとPS80でペースト化すると、ペースト基剤の量の増加に従ってTNF−α産生量が低下した。一方で、特許文献3のBCG−CWSはペースト化することにより、TNF−αの産生が未処理群と同程度に減少した。これは、ペースト表面に露出してRaw264.7細胞を刺激していたアラビノガラクタンが、ペーストの油成分が増えることにより閉塞、被覆されることを示している。
【0163】
試験例22:各種水への分散性(物性値)を有するBCG−CWSの水中油型エマルションによるRaw264.7細胞刺激時のTNF−α産生量比較
(1)サンプル
試験例5の各種BCG−CWSを用いて、実施例7に準じて水中油型エマルションを作成した。但し、使用したBCG−CWS重量比に対し、15倍量のスクアレンと、5倍量のPS80とクエン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
(2)方法
試験例4(1)の方法に準じて測定した。
(3)結果
図15に示す様に本発明BCG−CWSを用いたエマルションいずれもがTNF―αを約1000pg/mL誘導したのに対し、特許文献3のBCG−CWSを用いた場合には約300pg/mLしか誘導されなかった。
【0164】
試験例23:製剤皮内投与時のBCG−CWSの体内挙動
公知のモルモット皮内投与後のCWS挙動の評価実験(Drug Discov. Ther., 2(3), 168−177(2008)、Drug Discov. Ther., 2(3), 178−187(2008))を参考に、(試験例17に準じて製造した蛍光化BCG−CWS水中油型エマルションを調製し、蛍光強度を指標にしてリンパ節への移行性を評価する方法を確立した。その方法を用いて、本発明のBCG−CWSエマルションと特許文献3のBCG−CWSエマルションを比較した。
(1)モルモット投与及び組織摘出法
試験例17に準じて作製したラベル化BCG−CWSの蛍光化エマルションをモルモット(Hartley、雌、4週齢、SLC)の背中皮内に約50μg投与し、投与後1時間後の所属リンパ節(腋窩リンパ節)を採取した。摘出したリンパ節をホルマリン固定し、パラフィン切片を作成した。得られた切片を蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス、BZ−X710)を用いて観察し、解析ソフト(BZ−X Analyzer)を用いて算出した、リンパ節面積及び蛍光強度(輝度)からその比率(輝度/面積)を求めた。
(2)結果
表12に示す結果の通り、いずれのBCG−CWSの水中油型エマルションにおいても1時間後にBCG−CWSがリンパ節に移行しているのが確認された。その結果を表12に示す。
【0165】
【表12】
【0166】
試験例24:マウス腹腔内製剤投与時の血中IFN―γ産生誘導活性の比較
公知文献(Cancer Sci., 99(7), 1435−1440(2008)
)に準じて本発明のBCG−CWSのin vivo免疫賦活活性を評価するために、マウス腹腔内製剤投与時の血中IFNγ産生誘導活性を評価した。
(1)評価サンプル
実施例7に準じて本発明のBCG−CWS或いは特許文献3のBCG−CWSを含有した水中油エマルションを製造した。具体的には、4mgのBCG−CWS、BCG−CWS重量の27倍重量のスクワラン、BCG−CWSの18倍重量のPS80を用いてオイルペーストを作成し、そこに4.5mLの45mg/mLD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液(pH7.4)を加え、ポッターホモジナイザーで1,200rpm、60℃、12分間、乳化した。その後、45mg/mLD(−)マンニトール/8mMリン酸で希釈し、1mgCWS/mLの投与用のエマルションとした。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに上記と同様の方法で製造した。
【0167】
(2)評価方法
約1週間馴化させたSJL/Jマウス(メス、6週齢)に対し、0、3、6日目に各エマルション30μgCWS/30μLを腹腔内投与した。最終投与から6時間後に採血し、血清中のIFNγ量をELISA法にて測定した。
(3)結果
図10aに示すように、本発明のBCG−CWSのエマルション投与群の血清中IFNγ量は高い値を示したが、特許文献3のBCG−CWSのエマルション投与群では低かった。本願のBCG−CWSのエマルションは特許文献3のBCG−CWSのエマルションに比し、より強いIFNγ産生誘導活性を示すことが示された。
【0168】
試験例25:E.G7−OVA移植腫瘍マウスの抗腫瘍活性評価
(1)評価サンプル
本発明のBCG−CWSと、特許文献3のBCG−CWSを用いて試験例24(IFN−γの系)と同様に評価用のエマルションを作成した。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに同様の方法で製造した。
(2)方法
約1週間馴化させたC57BL/6マウス(6週齢、メス)にOVA発現E.G7細胞株(マウスリンパ腫由来細胞株)を1×10^6cells/50μLで皮内接種し、その後それぞれ1、4、7、14日目に各評価用のエマルションをそれぞれ50μgCWS/50μL/マウスとなるように腫瘍内投与した。細胞移植後21日目に剖検し腫瘍重量を秤量した。
【0169】
結果
図10bに示した通りであり、本発明のBCG−CWSのエマルションは特許文献3のBCG−CWSエマルションに比べ優れた効果を示している。
【0170】
試験例26:MethA細胞移植マウスの抗腫瘍活性評価
(1)評価サンプル
実施例7に準じて本発明のBCG−CWS或いは特許文献3のBCG−CWSを含有した水中油エマルションを製造した。具体液には、12mgのBCG−CWS、BCG−CWS重量の27倍重量のスクワランからオイルペーストを作成し、そこにBCG−CWSの18倍重量のPS80を含有した約4mLの8mMリン酸緩衝液を添加し、電動ホモジナイザーで乳化し乳化液を得た。その後、等容量の90mg/mLのD(−)マンニトール/8mMリン酸緩衝液溶液を添加し、実施例7と同様にしてBCG−CWS含有水中油エマルションを得た。ビークルエマルションは、BCG−CWSを使用せずに上記と同様の方で製造した。
(2)評価方法
a)細胞調製
10%FBS含有RPMI1640倍地中でin vitroにて継代維持したMethA細胞株(同系繊維肉腫細胞株)を使用した。抗腫瘍活性評価に使用するため、MethA細胞株をリン酸緩衝化生理食塩水で3度洗浄し、2×10^6cell/mLとなるよう再懸濁した。
b)細胞移植とエマルションの投与
約1週間馴化させたBALB/cマウス(メス、6週齢、チャールスリバー)の背上部に(2)a)MethA細胞株を10^5cell/50μLと上記の投与用液50μgCWS/50μLを混合し腹側腋窩皮内に移植した。移植後18日後の腫瘍の生着率を評価した。
(3)結果
得られた結果を表13に示した。本発明のBCG−CWSのエマルションは、ビークルエマルションに比べ、強く腫瘍の生着を阻止した。
【0171】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の細菌CWSを含有する水中油型エマルション製剤及び凍結乾燥製剤は、油粒子表面にアラビノガラクタンが露出している新規な製剤であるため、レクチンとの反応性、保存安定性に優れ、更に免疫細胞に対して優れた活性を示している。それ故、本発明のエマルション製剤及びその凍結乾燥製剤は、医薬品として癌免疫療法剤、花粉症、喘息等の免疫調節剤に使用可能である。
【0173】
本発明の細菌CWSは、細菌の細胞外付着成分が除去されて、菌体表面にミコール酸部分及びアラビノガラクタンの一部が露出した精製菌体を使用して、界面活性剤の使用や高温処理することなく、破砕処理、精製処理を行うことで作製されたCWSである。そのため、不可逆的なミコール酸部分の強い凝集又は融合がほとんどなく、水への分散性が優れた高純度なCWSとなっている。従って、本発明の細菌CWSは、それ自体でも優れた免疫賦活活性を有しており、医薬品として癌免疫療法剤、花粉症、喘息等の免疫調節剤に使用可能である。
【0174】
また、本発明の細菌の精製菌体は、細菌の細胞外付着成分が除去されて、菌体表面にミコール酸部分及びアラビノガラクタンの一部が露出しており、精製度が高いものとなっている。従って、BCG菌などのミコール酸、糖鎖、ペプチドグリカンを含む細菌を用いて、ミコール酸やBCG−CWSなどの細菌CWSを、より簡便な製造プロセスで高純度且つ高収率に製造できるようになった。
【0175】
これらの結果から、本発明の細菌CWSを活用して、各種の水中油型エマルション製剤や凍結乾燥製剤を使用することにより、製剤安定性が高く、生物活性に優れた癌の免疫療法剤、免疫賦活化剤等が提供できるようになった。
【符号の説明】
【0176】
1:エマルション、2.水層、3.油滴、4.細菌CWS、5.アラビノガラクタン
図1
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図3
図4
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