(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442720
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ヘッドセットマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20181217BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20181217BHJP
H04R 1/34 20060101ALI20181217BHJP
G10K 11/22 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
H04R1/10 101A
H04R1/28 320Z
H04R1/34 320
G10K11/22
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-5579(P2015-5579)
(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-131341(P2016-131341A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−259364(JP,A)
【文献】
特開2001−045584(JP,A)
【文献】
実開昭57−98090(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/20 − 1/38
G10K 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭指向性マイクロホンと、
前記狭指向性マイクロホンを保持するハウジングと、
前記ハウジングに接合されたヘッドバンドと、
を備えるヘッドセットマイクロホンであって、
前記狭指向性マイクロホンは、
中空のマイクアームと、
前記マイクアームの先端に設けられた開口部と、
前記マイクアームの前記開口部とは反対側に配置されている単一指向性マイクロホンユニットと、
を備え、
前記マイクアームは音波を透過する多孔質材料からなり、
前記マイクアームは可撓性を有し、湾曲可能であって、
前記マイクアームの先端は、装着時において前記開口部が使用者の口元に向くように斜めにカットされていて、
前記ヘッドバンドを頭部に装着することにより前記開口部から音声が収音される、
ヘッドセットマイクロホン。
【請求項2】
前記マイクアームの周壁は、音響抵抗となっている請求項1に記載のヘッドセットマイクロホン。
【請求項3】
前記マイクアームは塑性を有している芯材を備えた請求項1又は2に記載のヘッドセットマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭指向性マイクロホン、特にヘッドセット用のマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドセットマイクロホンは使用者の口からの音波を収音する。このヘッドセットマイクロホンは頭部にヘッドバンド等で接話用マイクロホンを固定することで構成される。ヘッドセットマイクロホンのうち、マイクロホンユニットを頭部側に固定し、口元に中空のパイプを延ばすパイプマイクロホンが知られている。このようなパイプマイクロホンにおいては、口からの音波がパイプを通ってマイクロホンユニットまで到達する。
【0003】
パイプマイクロホンは、マイクロホンユニットが頭部側に固定されている。したがって、口元までの配線が不要であり、機械的に丈夫である。従来のパイプマイクロホンでは、パイプで音波を伝達するため、無指向性のマイクロホンユニットが使用されている。無指向性のマイクロホンユニットを使用したパイプマイクロホンは、破裂音などに反応しやすく、耐騒音性に劣る。
【0004】
そこで、耐騒音性のある接話用のマイクロホンが必要とされている。
【0005】
これまでにも、例えば、マイクアーム部の一部に設けた通気孔と、通気孔を塞ぐ通気抵抗部材から構成されたマイクロホンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示されたパイプマイクロホンは、通気孔を設けることでパイプ(音響管)内における共振周波数を曖昧にし、周波数特性を改善している。しかし、このようなパイプマイクロホンは、狭指向性を実現することが困難であった。そのため、従来のパイプマイクロホンは、屋外のイベントなど外部の環境変化が大きい状況では、騒音等の影響を受けやすく、雑音を収音しやすいという課題があった。
【0007】
また、一端側にマイクロホンユニットが装着され、開口を有するマイクロホンケース内に保持される音響管であって、周壁に複数の小さな開口が設けられた可撓性樹脂管と、この可撓性樹脂管の内周側に密着して配置された樹脂管支持部材と、から構成される狭指向性マイクロホン用音響管が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に開示されたマイクロホンは、対騒音性および周波数特性に優れた狭指向性マイクロホンに関する。しかしながら、この狭指向性マイクロホンはマイクロホンケースの内部に収納するように構成されている。そのため、使用者の口元に音響管(パイプ)の先端を調整可能に配置する必要のあるヘッドセットマイクロホンに用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4192347号公報
【特許文献2】特許5072412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐騒音性のある接話用のパイプマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる
ヘッドセットマイクロホンは、
狭指向性マイクロホンと、狭指向性マイクロホンを保持するハウジングと、ハウジングに接合されたヘッドバンドと、を備えるヘッドセットマイクロホンであって、狭指向性マイクロホンは、中空のマイクアームと、マイクアームの先端に設けられた開口部と、マイクアームの前記開口部とは反対側に配置されている単一指向性マイクロホンユニットと、を備え、マイクアームは音波を透過する多孔質材料からな
り、マイクアームは可撓性を有し、湾曲可能であって、マイクアームの先端は、装着時において開口部が使用者の口元に向くように斜めにカットされていて、ヘッドバンドを頭部に装着することにより前記開口部から音声が収音される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接話用のパイプマイクロホンにおいて、風雑音などの外部からの雑音を低減でき、耐騒音性の高い、狭指向性のヘッドセットマイクロホンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかるマイクロホンの実施の形態を使用態様とともに示す側面図である。
【
図2】上記マイクロホンを使用態様とともに上面から見た縦断面図である。
【
図3】上記マイクロホンの(a)正面図、および(b)縦断面図である。
【
図5】上記マイクロホンの周波数特性を示すグラフである。
【
図6】従来の接話用パイプマイクロホンの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるマイクロホンの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1および
図2に示すように、この実施の形態におけるマイクロホン1は、ヘッドセットマイクロホンの例であって、マイクアーム2、ハウジング3、支持部4、およびヘッドバンド5を備える。
【0016】
図1に示すように、マイクアーム2は中空のパイプである。パイプの先端には開口部21が設けられている。マイクアーム2の開口部21とは反対側の端部は、ハウジング3に接続されている。マイクアーム2は可撓性があり、開口部21が音声を発する使用者50の口に近接するようマイクアーム2を湾曲させることができる。
【0017】
図2に示すように、ヘッドバンド5の両端部は、それぞれハウジング3および支持部4と連結されている。ヘッドバンド5は、使用状態において使用者の頭部の上方を左右にまたいで配置される。ヘッドバンド5は、左右の端部の相互の間隔を調整できるように、長さ調整機構が組み込まれている。ハウジング3と支持部4には、ヘッドバンド5により使用者の側頭部に押し当てるための圧力が加わっている。
【0018】
マイクロホン1の装着時において、ハウジング3および支持部4の使用者50の耳に触れる面は、例えば角が出ない形状になっている。この面に緩衝材が貼付されてもよい。この構成により、マイクロホン1の装着時に使用者50の耳を傷つけることを防ぐことができる。ハウジング3および支持部4の上述の面にイヤーフックを設けて、使用者50の耳にかけられるようにしてもよい。
【0019】
図3に示すように、マイクアーム2には、ハウジング3に内蔵されたマイクロホンユニット31が配置されている。マイクアーム2とマイクロホンユニット31のユニットケース35は、かしめられていてもよいし、接着剤により固定されていてもよい。マイクロホンユニット31は、例えばエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットを用いることにより、ハウジング3を小型化することができる。マイクロホンユニット31は、ダイナミック型であってもよい。
【0020】
マイクロホンユニット31は単一指向性である。マイクロホンユニット31は、前部音響孔32および後部音響孔33を有する。前部音響孔32は、マイクロホンユニット31の前方、すなわちマイクアーム2内に設けられている。マイクロホンユニット31は、前部音響孔32を介して、パイプ状のマイクアーム2の開口部21からの音波を受け、電気音響変換を行う。
【0021】
後部音響孔33は、マイクロホンユニット31の後方に設けられている。ハウジング3のマイクアーム2との接合部とは反対側が開放されており、後部音響孔33が音波を収音することができるようになっている。マイクロホンユニット31の後部音響孔33側には、図示しない回路基板や端子34などがあって、これらが電気的に接続されている。
【0022】
マイクアーム2は音波を透過する多孔質材料からなり、周壁の全体にわたって無数の微小な孔22を有している。音波は、開口部21および無数の孔22からマイクアーム2内部に進入する。しかし、無数の孔22から進入した音波は、互いに打ち消しあい、マイクロホンユニット31まで到達しない。したがって、マイクロホン1は、開口部21から進入した音のみをマイクロホンユニット31によって収音することができる。このように、マイクアーム2の無数の孔22が開口部21付近で発生した音波以外の音波を打ち消すため、マイクロホン1は開口部21方向に指向性を持つ狭指向性になる。
【0023】
上記マイクアーム2について、音響等価回路を用いてさらに説明する。
図4はマイクロホン1の音響等価回路図である。m0、s0、r0、s1、r1は、マイクロホンユニット31の等価回路を構成する。m0およびs0は、マイクロホンユニット31が備える振動板の音響質量およびスチフネスである。r0は、マイクロホンユニット31が備える固定極と上記振動板との間の薄空気層抵抗である。r1およびs1は、振動板の後側に加えられる後部音響孔33側からのインピーダンスを示す、音響抵抗および音響容量である。
【0024】
Pfは開放端(マイクアーム2の先端、すなわち開口部21)における音波の音圧である。また、Prは後部音響孔33における音波の音圧である。マイクアーム2には無数の孔22があるため、このマイクロホン1の音響等価回路は、長さ方向にmp、rp、spからなる回路を複数持った分布定数回路と等価になる。mpは音響管の単位長あたりの音響質量、rpは音響管の周壁に形成された無数の孔22による単位長あたりの音響抵抗、spは音響管の単位長あたりの音響容量である。
【0025】
音響質量mp、音響抵抗rp、音響容量spからなる回路は時定数を持ち、単位長あたりのインピーダンスが同じ音響回路がマイクアーム2全体に分布している状態と等価になる。通常、パイプ(音響管)の長さと音波の波長との関係から共振周波数が決定される。しかし、パイプに長さ方向にわたって無数の孔22が形成されることで、同一音源からの音波(ここでは平面波であるとする。)は、マイクアーム2にこの無数の孔22から入り込む。マイクアーム2の周壁は無数の孔22によって、音波は音源から周壁の各入力部分(P1〜Pn)までの距離とマイクアーム2の音響回路による遅延を伴って振動板で合成される。このとき、周壁から取り込まれた音波には位相差があるため、互いに干渉しあう。そのため、振動板で合成された音波は、狭指向性になる。
【0026】
すなわち、マイクロホン1は、狭指向性を有するため、耐騒音性に優れたマイクロホンとなる。
図1および
図2に示す使用態様では、使用者50の口許から発せられる音波がマイクアーム2内を伝搬し、マイクアーム2の周辺の音は干渉によってキャンセルされる。また、マイクアーム2の微小な無数の孔22は、少なくとも長さ方向全体において形成されていれば良い。
【0027】
このような中空のマイクアームは、例えば、水に溶解する粒子(例えば塩粒)を混練した樹脂から製造することができる。このような樹脂を管状に成形した後に水洗すると、上記粒子が水に溶解して、無数の孔22を有する多孔質のマイクアーム2を製造することができる。無数の孔22は、一定の密度でマイクアーム2の周壁全体にランダムに設けられている。無数の孔22は、音響抵抗となる。すなわち、マイクアーム2は、音波を透過する音響抵抗を有するため、音響抵抗材を別に設ける必要がない。ただし、マイクアーム2の周壁の外周又は内周に、別の音響抵抗材を配置してもよい。
【0028】
マイクアーム2は、ゴムであってもよい。マイクアーム2がゴムであることにより、可撓性のあるマイクアーム2を実現できる。マイクアーム2の周壁の外周に、可撓性のあるコイルスプリングを巻いてもよい。このようにすることで、マイクアーム2の断面積を一定に維持することができる。また、マイクアーム2に塑性を有する素材を芯材として使用することにより、任意の形状でその形状を保持することができる。形状を保持できる構成にすることで、マイクアーム2の開口部21の位置を使用者50の口の位置に合わせて調整することができる。
【0029】
マイクアーム2の先端を斜めにカットすることで、開口部21を設けてもよい。開口部21が使用者50の口を向くため、口からの音波をより効率的に収音することができる。
【0030】
図5に示すように、マイクロホン1は口元方向に指向性をもつ狭指向性になる。このときマイクロホンユニット31に単一指向性のマイクロホンユニットを使用することにより、マイクアーム2の無数の孔22による音波の打ち消しあいが生じない波長の長い低周波数領域の雑音においても、低減することができる。そのため、低周波数領域まで狭指向性をもったパイプマイクロホンが実現できる。
【0031】
図6は、従来の接話用マイクロホンの周波数特性を示す。従来の接話用マイクロホンは、無指向性のマイクロホンユニットを用いており、マイクアームは多孔質の素材ではない。従来の接話用マイクロホンは、本例においては、2kHz以上の周波数領域では狭指向性、2kHz以下の低周波数領域では無指向性である。そのため、音声の主要な帯域外の低音の雑音に弱いと言える。なお、閾値(ここでは、2kHz)は、マイクアームの長さにより異なる。
【0032】
以上説明した実施の形態によれば、単一指向性マイクロホンユニットに、周壁に無数の孔を備えるマイクアームを接合する構成により、耐騒音性のある接話用の狭指向性マイクロホンを実現することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 マイクロホン
2 マイクアーム
21 開口部
22 無数の孔
31 マイクロホンユニット