(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用自動変速機を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、構成を説明する。
実施例1における電気自動車(車両の一例)に搭載された車両用自動変速機の構成を、「全体システム構成」、「変速制御系の詳細構成」、「アクチュエータ連動機構の詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の車両用自動変速機が適用された電気自動車の駆動系構成と制御系構成を示す。以下、
図1に基づき、実施例1の全体システム構成を説明する。
【0012】
前記電気自動車(車両)の駆動系構成としては、
図1に示すように、駆動用モータジェネレータ2と、自動変速機(車両用自動変速機)3と、駆動輪14と、を備えている。
【0013】
前記駆動用モータジェネレータ2は、三相交流の永久磁石型同期モータであり、電気自動車の走行駆動源となる。この駆動用モータジェネレータ2は、モータコントローラ28から図示しないインバータに対し正のトルク(駆動トルク)指令が出力されている時には、強電バッテリ(不図示)からの放電電力を使って駆動トルクを発生する駆動動作をし、駆動輪14を駆動する(力行)。一方、モータコントローラ28からインバータに対し負のトルク(発電トルク)指令が出力されている時には、駆動輪14からの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電動作をし、発電した電力を強電バッテリの充電電力とする(回生)。
そして、この駆動用モータジェネレータ2のモータ軸は、自動変速機3の変速機入力軸6に接続される。
【0014】
前記自動変速機3は、変速比の異なる2つのギヤ対のいずれかで動力を伝達する常時噛み合い式有段変速機であり、減速比の小さなハイギヤ段(高速段)と減速比の大きなローギヤ段(低速段)を有する2段変速としている。この自動変速機3は、駆動用モータジェネレータ2から変速機入力軸6及び変速機出力軸7を順次経てモータ動力を出力する際の変速に用いられ、低速段を実現するロー側変速機構8及び高速段を実現するハイ側変速機構9により構成される。ここで、変速機入力軸6及び変速機出力軸7は、それぞれ平行に配置される。
【0015】
前記ロー側変速機構8は、上記モータ動力の出力に際し、ロー側伝動経路を選択するためのもので、変速機出力軸7上に配置している。このロー側変速機構8は、低速段ギヤ対(ギヤ8a,ギヤ8b)が、変速機入出力軸6,7間を駆動結合するように、変速機出力軸7に対するギヤ8aの噛み合い締結/解放を行う係合クラッチ8cにより構成する。ここで、低速段ギヤ対は、変速機出力軸7上に回転自在に支持したギヤ8aと、該ギヤ8aと噛み合い、変速機入力軸6と共に回転するギヤ8bと、から構成される。
【0016】
前記ハイ側変速機構9は、上記モータ動力の出力に際し、ハイ側伝動経路を選択するためのもので、変速機入力軸6上に配置している。このハイ側変速機構9は、高速段ギヤ対(ギヤ9a,ギヤ9b)が、変速機入出力軸6,7間を駆動結合するように、変速機入力軸6に対するギヤ9aの摩擦締結/解放を行う摩擦クラッチ9cにより構成する。ここで、高速段ギヤ対は、変速機入力軸6上に回転自在に支持したギヤ9aと、ギヤ9aに噛み合い、変速機出力軸7と共に回転するギヤ9bと、から構成される。
【0017】
前記変速機出力軸7は、ギヤ11を固定し、このギヤ11と、これに噛合するギヤ12とからなるファイナルドライブギヤ組を介して、ディファレンシャルギヤ装置13を変速機出力軸7に駆動結合する。さらに、このディファレンシャルギヤ装置13には、駆動輪14が結合されるドライブシャフト16が連結されている。これにより、変速機出力軸7に達した駆動用モータジェネレータ2のモータ動力がファイナルドライブギヤ組11,12及びディファレンシャルギヤ装置13を経て、左右のドライブシャフト16から駆動輪14(なお、
図1では一方の駆動輪のみを示した)に伝達されるようにする。なお、ドライブシャフト16には液圧ブレーキ15が設置されている。
【0018】
さらに、この変速機出力軸7にはパークギヤ17が固定され、このパークギヤ17と噛み合い可能に図外の変速機ケースに設けられたパーキングポール18が配置される。そして、自動変速機3のレンジ位置においてパーキングレンジ位置(以下、「Pレンジ」という)が選択されたとき、前記パーキングポール18を、係合クラッチ8cの作動アクチュエータと兼用(共用化)した第1電動アクチュエータ41の駆動により、パークギヤ17に噛み合わせることで、変速機出力軸7が回転しないようにケース固定する。つまり、Pレンジが選択されると、パークギヤ17とパーキングポール18の噛み合い締結により、変速機出力軸7が回転しないようにケース固定されたパークロック状態になる。
【0019】
前記電気自動車の制御系構成としては、
図1に示すように、変速コントローラ21、車速センサ22、アクセル開度センサ23、車輪速センサ24、前後Gセンサ25、スライダ位置センサ26、スリーブ位置センサ27、等を備えている。これに加え、モータコントローラ28と、統合コントローラ30と、CAN通信線31と、レンジ位置スイッチ32と、を備えている。
【0020】
前記変速コントローラ21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップメモリ、入出力インターフェース回路を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。この変速コントローラ21では、不図示の変速マップに基づいて変速要求を出力すると共に、係合クラッチ8cが噛み合い締結で摩擦クラッチ9cが解放のローギヤ段が選択されている状態でハイギヤ段へアップシフトする際、係合クラッチ8cの解放と摩擦クラッチ9cの摩擦締結による架け替え制御を遂行する。また、係合クラッチ8cが解放で摩擦クラッチ9cが摩擦締結のハイギヤ段が選択されている状態でローギヤ段へダウンシフトする際、係合クラッチ8cの噛み合い締結と摩擦クラッチ9cの解放による架け替え制御を遂行する。
さらに、この変速コントローラ21では、自動変速機3のレンジ位置に応じて、パーク機構の噛み合い締結/解放を制御する。
【0021】
前記レンジ位置スイッチ32は、図外のセレクトレバーに対する運転者のセレクト操作により選択された自動変速機3のレンジ位置を検出するスイッチである。検出されるレンジ位置としては、Pレンジ(=パーキングレンジ、非走行レンジ、駐車レンジ)、Nレンジ(=ニュートラルレンジ、非走行レンジ、停車レンジ)、Dレンジ(=ドライブレンジ、前進走行レンジ)、Rレンジ(=リバースレンジ、後退走行レンジ)等を有している。なお、Dレンジの時には、後述するように変速コントローラ21によりローギヤ段又はハイギヤ段が選択される。
【0022】
[変速制御系の詳細構成]
図2は、実施例1の変速制御系の詳細構成を示す。以下、
図2に基づき、実施例1の変速制御系の詳細構成を説明する。
【0023】
前記電気自動車の制御系のうち変速制御系の構成としては、
図2に示すように、係合クラッチ8cと、摩擦クラッチ9cと、パークギヤ17と、駆動用モータジェネレータ2と、変速コントローラ21と、を備えている。つまり、この電気自動車の制御系は、係合クラッチ8cと摩擦クラッチ9cとパークギヤ17と駆動用モータジェネレータ2を制御対象とし、条件に応じて変速コントローラ21からの指令により制御する構成としている。
【0024】
前記係合クラッチ8cは、シンクロ式の噛み合い締結によるクラッチであり、ギヤ8aに設けたクラッチギヤ8dと、変速機出力軸7に結合したクラッチハブ8eと、カップリングスリーブ8fと、を有する(
図1を参照)。そして、第1電動アクチュエータ41(アクチュエータ)により、カップリングスリーブ8fをストローク駆動(移動)させることで係合クラッチ8cが噛み合い締結/解放する。
この係合クラッチ8cの噛み合い締結と解放は、カップリングスリーブ8fの位置によって決まる。ここで、変速コントローラ21は、スリーブ位置センサ27の値を読み込み、カップリングスリーブ8fの位置が噛み合い締結位置又は解放位置になるように第1電動アクチュエータ41に電流を与える第1位置サーボコントローラ51(例えば、PID制御による位置サーボ系)を備えている。そして、カップリングスリーブ8fがクラッチギヤ8d及びクラッチハブ8eの外周クラッチ歯の双方に噛合した
図1に示す噛み合い位置にあるとき、ギヤ8aを変速機出力軸7に駆動連結し、ローギヤ段を選択する。一方、カップリングスリーブ8fが、
図1に示す位置から軸線方向へ変位することでクラッチギヤ8d及びクラッチハブ8eの外周クラッチ歯の一方と非噛み合い位置にあるとき、ギヤ8aを変速機出力軸7から切り離し、ローギヤ段の選択を解除する。
【0025】
前記摩擦クラッチ9cは、ギヤ9aと共に回転するドリブンプレート9dと、変速機入力軸6と共に回転するドライブプレート9eと、を有する(
図1を参照)。そして、第2電動アクチュエータ42により両プレート9d,9eに押付け力を与えるスライダ9fを駆動することで摩擦締結/解放する。
この摩擦クラッチ9cの伝達トルク容量は、スライダ9fの位置によって決まり、また、スライダ9fはネジ機構となっており、第2電動アクチュエータ42の入力が0(ゼロ)のとき、位置を保持する機構となっている。ここで、変速コントローラ21は、スライダ位置センサ26の値を読み込み、所望の伝達トルク容量が得られるスライダ位置になるように第2電動アクチュエータ42に電流を与える第2位置サーボコントローラ52(例えば、PID制御による位置サーボ系)を備えている。そして、摩擦クラッチ9cは、変速機入力軸6と一体に回転し、クラッチ摩擦締結のときギヤ9aを変速機入力軸6に駆動連結し、ハイギヤ段を選択する。一方、クラッチ解放のとき、ギヤ9aと変速機入力軸6の駆動連結を切り離し、ハイギヤ段の選択を解除する。
【0026】
前記パークギヤ17は、自動変速機3のレンジ位置がPレンジ(非走行レンジ位置)の選択時、係合クラッチ8cの駆動アクチュエータと兼用(共用化)した第1電動アクチュエータ41(アクチュエータ)により、後述するパークロッド64bを移動させて、パーキングポール18をパークギヤ17に噛み合わせることで、駆動輪14に繋がる変速機出力軸7が回転しないように固定する。
【0027】
すなわち、前記第1電動アクチュエータ41は、係合クラッチ8cの噛み合い締結位置と、係合クラッチ8cの解放位置及びパーキングポール18の非噛み合い位置と、パーキングポール18の噛み合い位置と、の3つの位置の動作を管理する。ここで、第1電動アクチュエータ41は、ステッピングモータ等の電動モータによって構成され、ロータとステータからなる回転駆動する駆動機構を有している。
【0028】
前記駆動用モータジェネレータ2は、変速コントローラ21から出力される指令を入力するモータコントローラ28によってトルク制御又は回転数制御される。つまり、モータコントローラ28が、変速コントローラ21からのモータトルク容量指令やトルク上限値指令や入出力回転同期指令を入力すると、これらの指令に基づき、駆動用モータジェネレータ2がトルク制御又は回転数制御される。
【0029】
前記変速コントローラ21は、自動変速機3のレンジ位置がDレンジ(前進走行レンジ)の選択時、車速センサ22からの車速情報とアクセル開度センサ23からのアクセル開度情報と図外の変速マップとに基づき、走行中変速制御を行って変速段を選択する。すなわち、走行中変速制御では、車速VSPとアクセル開度APOによる動作点が、変速マップの1速領域と2速領域のアップ変速線を横切るとアップ変速要求を出力し、ハイギヤ段を選択する。また、車速VSPとアクセル開度APOによる動作点が、変速マップの2速領域と1速領域のダウン変速線を横切るとダウン変速要求を出力し、ローギヤ段を選択する。
【0030】
[アクチュエータ連動機構の詳細構成]
図3は、レンジ位置と各機構の締結/解放状態の関係及びレンジ位置と第1電動アクチュエータによる回転動作位置の関係を示し、
図4〜
図6は、アクチュエータ連動機構の操作系、パーキング系、係合クラッチ系をそれぞれ示す。
図7は、実施例1のシフトプレートを示す拡大斜視図である。以下、
図3〜
図7に基づき、実施例1のアクチュエータ連動機構の詳細構成を説明する。
【0031】
上記のように、実施例1では、カップリングスリーブ8fとパーキングポール18を共に動作させる一つの第1電動アクチュエータ41(アクチュエータ)を設けている。そして、第1電動アクチュエータ41とカップリングスリーブ8f及びパーキングポール18との間には、アクチュエータ連動機構61を設けている(
図1,
図2)。
【0032】
前記アクチュエータ連動機構61は、
図3の下部に示すように、図外のセレクトレバーの操作によって選択された自動変速機3のレンジ位置が、Pレンジ、Nレンジ、Dレンジ、の順に切り替わるとき、第1電動アクチュエータ41によりマニュアルシャフト62を一方向(
図3の矢印A方向)に回転動作させる設定としている。
【0033】
前記Pレンジの選択時には、第1電動アクチュエータ41とアクチュエータ連動機構61により、パーキングポール18をパークギヤ17に噛み合い締結し、係合クラッチ8cを解放する。そして、第2電動アクチュエータ42により摩擦クラッチ9cを解放する。
【0034】
前記Nレンジ及びDレンジでハイギヤ段の選択時(
図3において「H(2nd)」と示す)には、第1電動アクチュエータ41とアクチュエータ連動機構61により、パークギヤ17とパーキングポール18及び係合クラッチ8cを共に解放する。
そして、Nレンジ選択時には、第2電動アクチュエータ42により摩擦クラッチ9cを解放する。また、ハイギヤ段選択時には、第2電動アクチュエータ42により摩擦クラッチ9cを摩擦締結する。
【0035】
前記Dレンジでローギヤ段の選択時(
図3において「L(1st)」と示す)には、第1電動アクチュエータ41とアクチュエータ連動機構61により、パークギヤ17とパーキングポール18を解放し、係合クラッチ8cを噛み合い締結する。そして、第2電動アクチュエータ42により摩擦クラッチ9cを解放する。
【0036】
前記アクチュエータ連動機構61は、操作系(
図4)と、パーキング系(
図5)と、係合クラッチ系(
図6)と、により構成される。
【0037】
前記操作系は、
図4に示すように、マニュアルシャフト62と、変速機構63と、パーク機構64と、位置保持機構65と、を備えている。
ここで、変速機構63は、シフトプレート63aと、ブラケットプレート63b(ブラケット)と、シフトフォーク63cを設けたフォークロッド63dと、を有している。また、パーク機構64は、パーキングプレート64aと、パークロッド64bと、パークサポート64cと、スプリング64dと、を有している。さらに、位置保持機構65は、ディテント部65a(第1位置保持部材)と、ディテントスプリング65b(第2位置保持部材)と、を有している。
【0038】
前記マニュアルシャフト62は、第1電動アクチュエータ41(
図3参照)によって回転駆動する軸であり、第1電動アクチュエータ41の出力軸(不図示)に一端が連結されている。すなわち、第1電動アクチュエータ41は、マニュアルシャフト62の一端に設けられている。また、このマニュアルシャフト62の中間部には、シフトプレート63aとパーキングプレート64aが軸方向に沿って配列固定されている。また、シフトプレート63aには、ディテント部65aが形成されている(
図7参照)。これにより、第1電動アクチュエータ41によりマニュアルシャフト62が回転すると、このマニュアルシャフト62の回転に伴ってシフトプレート63a、パーキングプレート64a、ディテント部65aが共に回転する。
【0039】
前記変速機構63は、カップリングスリーブ8fを移動させて係合クラッチ8cを噛み合い締結/解放し、所定の変速段(ローギヤ段)を選択する機構である。この変速機構63のシフトプレート63aは、マニュアルシャフト62の延在方向に対して直交した板部材であり、周縁部から径方向に突出するシフト部63eが形成されている。また、ブラケットプレート63bは、シフトプレート63aとフォークロッド63dを連結する板部材であり、一端にシフト部63eが嵌合する溝部63fが形成されている。
そして、シフトプレート63aは、マニュアルシャフト62の回転運動により回転することで、ブラケットプレート63bを並進運動させる。つまり、このシフトプレート63aにより、マニュアルシャフト62の回転運動が並進運動に変換される。
また、このブラケットプレート63bの他端は、フォークロッド63dに連結されている。これにより、シフトプレート63aの動作に対し、ブラケットプレート63bと、フォークロッド63dと、シフトフォーク63cは、一体的にスライド移動可能となっている。
【0040】
前記パーク機構64は、パーキングポール18をパークギヤ17に噛み合い締結させ、駆動輪14への回転系を変速機ケース(不図示)に固定する機構である。このパーク機構64のパーキングプレート64aは、マニュアルシャフト62の延在方向に対して直行する方向に延びる楕円プレートである。このパーキングプレート64aの先端部に、パークロッド64bの一端が連結されている。また、パークロッド64bの他端は、パーキングポール18とパークサポート64cとの間に挟まれて配置される。ここで、パーキングポール18は、スプリング64dにより解放方向に付勢されている。また、パークロッド64bの途中位置には、円錐面によるウエッジ部64eを有する。
【0041】
つまり、このパーク機構64では、第1電動アクチュエータ41が駆動することでパーキングプレート64aがマニュアルシャフト62を中心に回転する。そして、このパーキングプレート64aの先端部が回転することによって、パークロッド64bが軸方向に移動し、パークロッド64bのパーキングポール18に対する位置が変動する。
【0042】
前記位置保持機構65は、第1電動アクチュエータ41によって動作されるカップリングスリーブ8fの位置と、パーキングポール18の位置をそれぞれ保持する機構である。この位置保持機構65のディテント部65aは、マニュアルシャフト62の回転方向、つまりシフトプレート63aの動作方向に沿って配列された第1凹溝面66a、第2凹溝面66b、第3凹溝面66cを有している。また、ディテントスプリング65bは、ディテント部65aに板バネ付勢力にて圧接する板部材であり、先端部に第1,第2,第3凹溝面66a,66b,66cのいずれかに係合する係合凸部66dが形成されている。
【0043】
そして、この位置保持機構65において、第1凹溝面66aにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合することで、Pレンジを選択しているときの第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。また、第2凹溝面66bにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合することで、Nレンジ又はDレンジでハイギヤ段を選択しているときの第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。さらに、第3凹溝面66cにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合することで、Dレンジでローギヤ段を選択しているときの第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。
つまり、第1凹溝面66aは、パーキングポール18の噛み合い位置を保持するためのパーク位置保持部であり、第2凹溝面66bは、ニュートラル位置又はハイギヤ段位置を保持するための変速位置保持部であり、第3凹溝面66cは、ローギヤ段位置を保持するための変速位置保持部である。
【0044】
さらに、ここでは、
図7に示すように、Pレンジ選択状態を保持する第1凹溝面66aが、第2凹溝面66b,第3凹溝面66cよりもシフトプレート63aの周縁からの凹凸が深くなるように設定されている。さらに、第2凹溝面66bの第1凹溝面66a側の斜面には、段差部66eが形成されている。
【0045】
前記パーキング系は、
図5に示すように、パークギヤ17と、パーキングポール18と、を有する。ここで、パーキングポール18のパークギヤ17側には、パークギヤ17と噛み合う凸部18aが形成されている。そして、パーキングポール18のパークギヤ17と反対側にパークサポート64cが配置され、パーキングポール18とパークサポート64cの間にパークロッド64bが配置される。
すなわち、パークロッド64bのウエッジ部64eの外径によりパーキングポール18をパークサポート64cから引き離すようにポール軸18bを中心として回動させることで、パーキングポール18とパークギヤ17を噛み合い締結させる。
【0046】
前記係合クラッチ系は、
図6に示すように、カップリングスリーブ8fと、クラッチギヤ8dと、クラッチハブ8eと、を有する。ここで、カップリングスリーブ8fには、シフトフォーク63cが係合する溝部8gが形成されている。また、カップリングスリーブ8fの内面に形成されたスプライン歯とクラッチハブ8eは常時噛み合い状態になっている。
この係合クラッチ系では、マニュアルシャフト62が回転すると、シフトプレート63aが回転し、ブラケットプレート63bとフォークロッド63dとシフトフォーク63cを、フォークロッド63dの軸方向に一体的にスライド移動させる。そして、シフトフォーク63cが移動することで、カップリングスリーブ8fのクラッチギヤ8dに対する位置を変動させ、カップリングスリーブ8fがクラッチギヤ8dに噛み合うことで係合クラッチ8cを噛み合い締結させる。
【0047】
[アクチュエータ連動機構のレイアウト構成]
図8は、アクチュエータ連動機構を示す斜視図である。
図9は、アクチュエータ連動機構を示す
図8とは異なる角度から見たときの斜視図である。
図10は、アクチュエータ連動機構を示す平面図である。
図11は、アクチュエータ連動機構を示す側面図である。以下、
図8〜
図11に基づき、実施例1のアクチュエータ連動機構の配置構成を説明する。
【0048】
実施例1では、変速機出力軸7の軸方向が、車両に対して水平になるように設定する。そして、この変速機出力軸7に係合クラッチ8cとパークギヤ17を設けている。ここで、変速機出力軸7は、走行駆動源である駆動用モータジェネレータ2と駆動輪14を連結する駆動力伝達軸である。すなわち、係合クラッチ8cとパークギヤ17は、駆動力伝達軸の軸方向に沿って順に配列されている。
【0049】
一方、第1電動アクチュエータ41は、軸方向が車両上下方向に沿うように配置されると共に、不図示の出力軸を車両下方に向け、マニュアルシャフト62の一端に連結している。
すなわち、マニュアルシャフト62は、第1電動アクチュエータ41から車両下方に延在されると共に、変速機出力軸7に対し直角に交差する方向に沿って延びている。
【0050】
そして、実施例1のアクチュエータ連動機構61では、マニュアルシャフト62に、ディテント部65aが形成されたシフトプレート63aと、パーキングプレート64aが連結されているが、シフトプレート63aの方がパーキングプレート64aよりも車両上方位置に設けられている。すなわち、シフトプレート63aの配置位置は、パーキングプレート64aの配置位置よりも第1電動アクチュエータ41に近接されている。
【0051】
さらに、この実施例1のアクチュエータ連動機構61では、
図10に示すように、変速機構63とパーク機構64とは、駆動力伝達軸である変速機出力軸7の軸方向に重複する位置に配置されている。
すなわち、変速機出力軸7に設けられた係合クラッチ8cの配置位置αとパークギヤ17の配置位置βの間の領域に、変速機構63とパーク機構64が配置される。
【0052】
そして、ここでは、係合クラッチ8cのクラッチハブ8eの変速機出力軸7の軸方向位置と、第1電動アクチュエータ41が設けられたマニュアルシャフト62の変速機出力軸7の軸方向位置と、をほぼ一致させる。
【0053】
そして、変速機構63は、シフトフォーク63cが形成されたフォークロッド63dの軸方向を、駆動力伝達軸である変速機出力軸7の軸方向と一致させ、パークギヤ17とシフトフォーク63cを、フォークロッド63d及び変速機出力軸7の軸方向に沿って配列する。さらに、パークギヤ17とシフトフォーク63cの間に、フォークロッド63dとブラケットプレート63bとの連結部63gを配置する。
つまり、フォークロッド63dとブラケットプレート63bとの連結部63gを、シフトフォーク63cを挟んで、パークギヤ17が配置された側に設ける。
【0054】
さらに、パーク機構64は、パーキングポール18を回動させるパークロッド64bの軸方向を、駆動力伝達軸である変速機出力軸7の軸方向と一致させる。
【0055】
そして、
図11に示すように、変速機構63では、マニュアルシャフト62に設けたシフトプレート63aのマニュアルシャフト軸方向位置と、シフトフォーク63cを設けたフォークロッド63dのマニュアルシャフト軸方向位置と、を一致させる。
つまり、シフトプレート63aとフォークロッド63dを連結するブラケットプレート63bは、マニュアルシャフト62及びフォークロッド63dに対し、直交する方向に延びている。
【0056】
次に、実施例1の車両用自動変速機の作用を、「第1電動アクチュエータ駆動作用」、「アクチュエータ連動機構のレイアウト作用」に分けて説明する。
【0057】
[アクチュエータ連動機構の位置保持作用]
(Pレンジ選択時)
図12は、Pレンジ選択時の第1電動アクチュエータによる動作説明を示す説明図である。以下、
図12に基づき、実施例1のPレンジ選択時における第1電動アクチュエータ駆動作用を説明する。
【0058】
図示しないセレクトレバーによってPレンジが選択されると、第1電動アクチュエータ41を駆動して、
図12の矢印Bに示す方向にマニュアルシャフト62を回す。これにより、シフトプレート63a及びパーキングプレート64aが矢印B方向に回転する。
【0059】
ここで、変速機構63では、マニュアルシャフト62の回転によりシフトプレート63aのシフト部63eが
図12の矢印E方向に移動し、ブラケットプレート63bとフォークロッド63d、シフトフォーク63cが一体にスライド移動する。そして、シフトフォーク63cの移動方向にカップリングスリーブ8fがスライド移動させられる。このため、係合クラッチ系において、カップリングスリーブ8fとクラッチギヤ8dが離れ、係合クラッチ8cは解放状態になる。
【0060】
一方、パーク機構64では、パーキングプレート64aに一端が連結されたパークロッド64bがパーキングポール18に向かって移動する。これにより、ウエッジ部64eの外径にパーキングポール18が接触し、パーキングポール18を矢印Cに示す方向に移動させる。そして、パーキングポール18は、パークサポート64cから引き離される。このため、パーキング系において、パーキングポール18は、ポール軸18bを中心として矢印Dに示す方向に回動し、パーキングポール18の凸部18aとパークギヤ17が噛み合い締結する。
【0061】
そして、位置保持機構65では、マニュアルシャフト62の回転に伴ってシフトプレート63aが回転することでディテント部65aも回転し、第1凹溝面66aにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合する。
これにより、マニュアルシャフト62の回転動作が規制され、Pレンジ選択状態の第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。すなわち、パーク機構64によるパーキングポール18の噛み合い位置が保持される。このため、例えば振動や外力の入力が発生しても、マニュアルシャフト62が容易に回転することが防止される。
【0062】
(Dレンジでローギヤ段選択時)
図13は、ローギヤ段選択時の第1電動アクチュエータによる動作説明を示す説明図である。以下、
図13に基づき、実施例1のローギヤ段選択時における第1電動アクチュエータ駆動作用を説明する。
【0063】
図示しないセレクトレバーによってDレンジが選択されると共に変速コントローラ21によってローギヤ段が選択されると、第1電動アクチュエータ41を駆動して、
図13の矢印Jに示す方向にマニュアルシャフト62を回す。これにより、シフトプレート63a及びパーキングプレート64aが矢印J方向に回転する。
【0064】
ここで、変速機構63では、マニュアルシャフト62の回転によりシフトプレート63aのシフト部63eが
図13の矢印L方向に移動し、ブラケットプレート63bとフォークロッド63d、シフトフォーク63cが一体にスライド移動する。そして、シフトフォーク63cの移動方向にカップリングスリーブ8fがスライド移動させられる。このため、係合クラッチ系において、カップリングスリーブ8fとクラッチギヤ8dが回転同期状態で噛み合い締結され、係合クラッチ8cは締結状態になる。
【0065】
一方、パーク機構64では、パーキングプレート64aに一端が連結されたパークロッド64bがパーキングポール18から離れる方向に移動する。このため、パーキング系において、パーキングポール18は、ポール軸18bを中心として矢印Kに示す方向に回動し、パーキングポール18の凸部18aとパークギヤ17との噛み合いが解除状態(解放)となる。なお、このとき、パーキングポール18とパークサポート64cの間にパークロッド64bが挟まれているため、パーキングポール18とパークサポート64cは隙間を保持した状態となる。
【0066】
そして、位置保持機構65では、マニュアルシャフト62の回転に伴ってシフトプレート63aが回転することでディテント部65aも回転し、第3凹溝面66cにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合する。
これにより、マニュアルシャフト62の回転動作が規制され、ローギヤ段選択状態の第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。すなわち、変速機構63によって選択された変速段位置(ローギヤ段位置)が保持される。このため、例えば振動や外力の入力が発生しても、マニュアルシャフト62が容易に回転することが防止される。
【0067】
(Nレンジ/Dレンジでハイギヤ段選択時)
図14は、Nレンジ又はハイギヤ段選択時の第1電動アクチュエータによる動作説明を示す説明図である。以下、
図14に基づき、実施例1のNレンジ又はハイギヤ段選択時における第1電動アクチュエータ駆動作用を説明する。
【0068】
図示しないセレクトレバーによってNレンジが選択される、又は、Dレンジが選択されると共に変速コントローラ21によってハイギヤ段が選択されると、第1電動アクチュエータ41を駆動し、Pレンジ選択状態(
図12の状態)であれば、
図14の矢印Fに示す方向にマニュアルシャフト62を回す。これにより、シフトプレート63a及びパーキングプレート64aが矢印F方向に回転する。
また、Nレンジ又はハイギヤ段選択前にローギヤ段選択状態(
図13の状態)であれば、マニュアルシャフト62を矢印Fとは反対の方向に回す。これにより、シフトプレート63a及びパーキングプレート64aが矢印Fと反対方向に回転する。
【0069】
ここで、変速機構63では、Pレンジ選択状態(
図12の状態)であれば、マニュアルシャフト62の回転によりシフトプレート63aのシフト部63eが
図14の矢印I方向に移動し、ブラケットプレート63bとフォークロッド63d、シフトフォーク63cが一体にスライド移動する。そして、シフトフォーク63cの移動方向にカップリングスリーブ8fがスライド移動させられる。しかし、係合クラッチ系において、カップリングスリーブ8fとクラッチギヤ8dが締結する移動量ではないため、係合クラッチ8cは解放状態が維持される。
また、Nレンジ又はハイギヤ段選択前にローギヤ段選択状態(
図13の状態)であれば、シフトプレート63aのシフト部63eは、矢印Iとは反対の方向に移動する。そして、これにより、ブラケットプレート63bとフォークロッド63d、シフトフォーク63cが一体にスライド移動させられ、このとき、カップリングスリーブ8fは矢印Iと反対方向がスライド移動させられる。このため、係合クラッチ系において、カップリングスリーブ8fとクラッチギヤ8dが離れ、係合クラッチ8cは解放状態になる。
【0070】
一方、パーク機構64では、Pレンジ選択状態(
図12の状態)であれば、パーキングプレート64aに一端が連結されたパークロッド64bがパーキングポール18から離れる方向に移動する。このとき、ウエッジ部64eからロッド部へとパークロッド径が縮小することにより、パーキングポール18を
図14の矢印Gに示す方向に移動させる。そして、パーキングポール18は、パークサポート64cに近づく。このため、パーキング系において、パーキングポール18は、ポール軸18bを中心として
図14の矢印Hに示す方向に回動し、パーキングポール18の凸部18aとパークギヤ17との噛み合いが解除状態(開放)となる。
また、Nレンジ又はハイギヤ段選択前にローギヤ段選択状態(
図13の状態)であれば、パーキングプレート64aに一端が連結されたパークロッド64bがパーキングポール18に近接する方向に移動する。しかし、ウエッジ部64eの外径にパーキングポール18が接触する移動量ではないため、パーキングポール18とパークサポート64cの隙間は保持された状態を維持する。このため、パーキング系において、パーキングポール18は回動せず、パーキングポール18の凸部18aとパークギヤ17との噛み合いは解除状態(解放)を維持する。
【0071】
そして、位置保持機構65では、マニュアルシャフト62の回転に伴ってシフトプレート63aが回転することでディテント部65aも回転し、第2凹溝面66bにディテントスプリング65bの係合凸部66dが係合する。
これにより、マニュアルシャフト62の回転動作が規制され、Nレンジ又はハイギヤ段選択状態の第1電動アクチュエータ41の回転位置が保持される。すなわち、変速機構63によって選択された変速段位置(ニュートラル又はハイギヤ段位置)が保持される。このため、例えば振動や外力の入力が発生しても、マニュアルシャフト62が容易に回転することが防止される。
【0072】
ここで、実施例1の位置保持機構65では、Pレンジ選択時のパーク機構64によるパーキングポール18の噛み合い位置を保持するための第1凹溝面66aと、ローギヤ段選択時の変速機構63によるローギヤ段選択位置を保持するための第3凹溝面66cと、ハイギヤ段(Nレンジ)選択時の変速機構63によるハイギヤ段選択位置を保持するための第2凹溝面66bと、がいずれも一部品であるシフトプレート63aに設けられている。
そのため、各凹溝面66a,66b,66cの間の間隔寸法が固定し、パーク位置保持部である第1凹溝面66aと、変速位置保持部である第2凹溝面66b,第3凹溝面66cとを別部品に設ける場合と比べて、各凹溝面66a,66b,66cの間の寸法精度を向上することができる。この結果、選択した変速段位置やパーキングポール18の噛み合い位置をそれぞれ精度よく保持することができ、係合クラッチ8cとパーキングポール18が同時締結することを防止できる。
【0073】
また、この実施例1では、
図7に示すように、シフトプレート63aに形成したディテント部65aにおいて、Pレンジ選択状態を保持する第1凹溝面66aは、Nレンジ又はハイギヤ段選択状態を保持する第2凹溝面66b、ローギヤ段選択状態を保持する第3凹溝面66cよりもシフトプレート63aの周縁からの凹凸が深くなるように設定されている。
そのため、ディテントスプリング65bの係合凸部66dが第1凹溝面66aの斜面を乗り越えるために必要な第1電動アクチュエータ41の駆動力は、この係合凸部66dが第2凹溝面66bや第3凹溝面66cの斜面を乗り越えるために必要な駆動力よりも大きくなる。つまり、第1凹溝面66aによる位置保持力は、第2凹溝面66bや第3凹溝面66cによる位置保持力よりも高い。
【0074】
これにより、パーキングポール18がパークギヤ17に噛み合った状態が、容易に解除されてしまうことを防止し、停車中に意図せずにパーキングポール18が解除されることを防止できる。
【0075】
また、この実施例1では、第2凹溝面66bの第1凹溝面66a側の斜面には、段差部66eが形成されている。
そのため、ディテントスプリング65bの係合凸部66dが第2凹溝面66bの第1凹溝面66a側の斜面を乗り越えるために必要な第1電動アクチュエータ41の駆動力は、この係合凸部66dが第3凹溝面66cの斜面を乗り越えるために必要な駆動力よりも大きくなる。
つまり、シフトプレート63aの動作方向に沿って配列された第1,第2,第3凹溝面66a,66b,66cのうち、中間部に配置された第2凹溝面66bによる位置保持力は、端部に配置された第3凹溝面66cによる位置保持力よりも高い。
【0076】
ここで、端部に配置された第3凹溝面66cにディテントスプリング65bが嵌合する場合では、係合凸部66dが一旦第3凹溝面66cに嵌合した後、さらに溝から飛び出してしまういわゆる「オーバーシュート」が発生することはない。しかし、中間部に配置された第2凹溝面66bでは、係合凸部66dが一旦第2凹溝面66bに嵌合しても、そのまま溝から飛び出してしまうことが考えられる。
すなわち、ローギヤ段を選択している状態からハイギヤ段を選択する際、変速機構63による変速段選択位置がオーバーシュートし、適切に位置保持できないことが考えられる。
【0077】
これに対し、第2凹溝面66bの第1凹溝面66a側の斜面に段差部66eを形成したことで、ローギヤ段を選択している状態からハイギヤ段を選択する際、変速段選択位置がオーバーシュートしにくくすることができる。このため、意図しないパーキングポール18の噛み合い締結を防止して、駆動力伝達系の不具合の発生を防止することができる。
【0078】
さらに、この実施例1では、
図7に示すように、第1,第2,第3凹溝面66a,66b,66cを有するディテント部65aが、マニュアルシャフト62の回転運動を並進運動に変換してカップリングスリーブ8fに伝達するシフトプレート63aに形成されている。そのため、このシフトプレート63aにより、位置保持機構65における変速位置保持部とパーク位置保持部が設けられた第1位置保持部材を構成することとなる。
【0079】
これにより、シフト部63eの位置によって決まる変速機構63の変速段選択精度と、変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)の位置によって決まる位置保持機構65の位置保持精度とを向上することができる。
つまり、係合クラッチ8cの噛み合い締結/解放させるカップリングスリーブ8fの位置は、シフト部63eの位置と、係合クラッチ8cの噛み合い締結位置や解放位置を保持する第2,第3凹溝面66b,66cと、によって決まる。そのため、このシフト部63eと第2,第3凹溝面66b,66cの間の寸法精度は重要である。これに対し、ここでは、シフト部63eと第2,第3凹溝面66b,66cを同一部品に設けたため、シフト部63eと第2,第3凹溝面66b,66cの間の間隔寸法が固定され、例えば別部品に設けた場合と比較して、寸法精度を向上することができる。
この結果、係合クラッチ8cが噛み合い締結しているときの噛み合い深さを十分保つことができ、係合クラッチ8cとパーキングポール18が同時に噛み合い締結することをさらに効果的に防止できる。
【0080】
さらに、ディテント部65aをマニュアルシャフト62に設けたシフトプレート63aに形成したことで、第1電動アクチュエータ41によって直接回転されるマニュアルシャフト62の動きを、リンク部材等を介することなく規制することができる。
そのため、第1電動アクチュエータ41に誤作動等でマニュアルシャフト62の回転過多等が生じた際、変速機構63やパーク機構64の構成部品に作用する荷重を抑えることができ、部品負担を抑制することができる。
【0081】
[アクチュエータ連動機構のレイアウト作用]
実施例1のアクチュエータ連動機構61では、第1電動アクチュエータ41によって回転駆動するマニュアルシャフト62に、変速機構63のシフトプレート63aと、パーク機構64のパーキングプレート64aを設けている。ここで、マニュアルシャフト62の一端に第1電動アクチュエータ41が設けられ、シフトプレート63aとパーキングプレート64aは、マニュアルシャフト62の延在方向に沿って配列されているが、シフトプレート63aの配置位置が、パーキングプレート64aの配置位置よりも、第1電動アクチュエータ41に近接している。
【0082】
これにより、変速機構63は、パーク機構64よりも、マニュアルシャフト62のねじれの影響を受けにくくなり、変速段の選択精度を向上することができる。
【0083】
また、この変速機構63では、カップリングスリーブ8fを移動させるシフトフォーク63cを設けたフォークロッド63dを、マニュアルシャフト62に対して直交するように配置する。
そして、マニュアルシャフト62に設けたシフトプレート63aのマニュアルシャフト軸方向位置に対し、フォークロッド63dを同一の軸方向位置に配置している。
【0084】
これにより、シフトプレート63aの車両上下方向高さと、フォークロッド63dの車両上下方向高さが同じ高さになる。そして、このシフトプレート63aとフォークロッド63dを連結するブラケットプレート63bが、マニュアルシャフト62及びフォークロッド63dに対して直交する。
この結果、ブラケットプレート63bの長さを短縮化し、たわみ量を抑制して、変速機構63による変速段選択精度を向上することができる。
【0085】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用自動変速機にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0086】
(1) カップリングスリーブ8fの移動により係合クラッチ8cを噛み合い締結/解放し、所定の変速段(ロー変速段)を選択する変速機構63と、
パーキングポール18をパークギヤ17に噛み合い締結し、駆動輪14への回転系を変速機ケースに固定するパーク機構64と、
前記カップリングスリーブ8fと前記パーキングポール18を共に動作させる一つのアクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)と、
前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)によって動作されると共に、前記変速機構63により選択された変速段位置を保持するための変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)、及び、前記パーク機構64による前記パーキングポール18の噛み合い位置を保持するためのパーク位置保持部(第1凹溝面66a)が設けられた一部品からなる第1位置保持部材(ディテント部65a)と、前記変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)又は前記パーク位置保持部(第1凹溝面66a)のいずれか一つに係合する第2位置保持部材(ディテントスプリング65b)と、を有する位置保持機構65と、
を備える構成とした。
これにより、変速機構63とパーク機構64を一つのアクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)によって動作させる際、選択された変速段位置とパーキングポール18の噛み合い位置をそれぞれ精度よく保持することができる。
【0087】
(2) 前記位置保持機構65は、前記変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)及び前記パーク位置保持部(第1凹溝面66a)を前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)による前記第1位置保持部材(シフトプレート63a)の動作方向に沿って配列し、配列方向の端部に配置した位置保持部(第3凹溝面66c)による位置保持力よりも、配列方向の中間部に配置した位置保持部(第2凹溝面66b)による位置保持力を高く設定する構成とした。
これにより、(1)の効果に加え、アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)による変速機構63やパーク機構64の位置設定がオーバーシュートしにくくすることができ、誤締結や誤解放、不要な同時締結等を防止することができる。
【0088】
(3) 前記位置保持機構65は、前記変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)による位置保持力よりも、前記パーク位置保持部(第1凹溝面66a)の位置保持力を高く設定する構成とした。
これにより、(1)又は(2)の効果に加え、パーキングポール18がパークギヤ17に噛み合った状態が、容易に解除されてしまうことを防止し、停車中に意図せずにパーキングポール18が解除されることを防止できる。
【0089】
(4) 前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)によって回転駆動すると共に、延在方向に沿って前記変速機構63と前記パーク機構64を設けたマニュアルシャフト62を設け、
前記変速機構63の配置位置を、前記パーク機構64の配置位置よりも前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)に近接する構成とした。
これにより、(1)〜(3)のいずれかの効果に加え、変速機構63は、パーク機構64よりも、マニュアルシャフト62のねじれの影響を受けにくくなり、変速段の選択精度を向上することができる。
【0090】
(5) 前記変速機構63は、前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)によって回転駆動するマニュアルシャフト62に設けたシフトプレート63aと、前記カップリングスリーブ8fを移動させるシフトフォーク63cを設けたフォークロッド63dと、前記シフトプレート63aと前記フォークロッド63dを連結するブラケット(ブラケットプレート63b)と、を有し、
前記シフトプレート63aを設けたマニュアルシャフト軸方向位置に対し、前記フォークロッド63dを、同一の軸方向位置に配置する構成とした。
これにより、(1)〜(4)のいずれかの効果に加え、ブラケットプレート63bの長さを短縮化してたわみ量を抑制して、変速機構63による変速段選択精度を向上することができる。
【0091】
(6) 前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)は、回転駆動するマニュアルシャフト62を有し、
前記変速機構63は、前記マニュアルシャフト62に設けられて前記アクチュエータ(第1電動アクチュエータ41)の作動に連動すると共に、前記マニュアルシャフト62の回転運動を並進運動に変換して前記カップリングスリーブ8fに伝達するシフトプレート63aを有し、
前記位置保持機構65は、前記第1位置保持部材を前記シフトプレート63aによって構成し、前記第2位置保持部材を前記変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)又は前記パーク位置保持部(第1凹溝面66a)のいずれか一つに板バネ付勢力にて圧接されるディテントスプリング65bによって構成する。
これにより、(1)〜(5)のいずれかの効果に加え、シフト部63eの位置によって決まる変速機構63の変速段選択精度と、変速位置保持部(第2,第3凹溝面66b,66c)の位置によって決まる位置保持機構65の位置保持精度とを向上し、係合クラッチ8cとパーキングポール18が同時に噛み合い締結することをさらに効果的に防止できる。
【0092】
以上、本発明の車両用自動変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0093】
実施例1では、シフトプレート63aに位置保持機構65のディテント部65aを形成する例を示したが、これに限らない。
例えば、
図15及び
図16に示すように、変速機構63のシフトフォーク63cをスライド移動させるフォークロッド63dに、第1,第2,第3凹溝面67a,67b,67cを有するディテント部67を形成し、フォークロッド63dを位置保持機構における第1位置保持部材としてもよい。この場合では、第2位置保持部材として、フォークロッド63dの上方位置に、第1,第2,第3凹溝面67a,67b,67cのいずれかに嵌合するチェックボール67dを設ける。
【0094】
この場合では、第1電動アクチュエータ41によってシフトプレート63aが回転し、ブラケットプレート63b、フォークロッド63d、シフトフォーク63cが一体的にスライド移動した際、チェックボール67dが第1,第2,第3凹溝面67a,67b,67cのいずれかに嵌合してパーキングポール18の噛み合い位置や、係合クラッチ8cの締結/解放位置が保持される。
これにより、シフトフォーク63cの動きをリンク部材等を介することなく規制することができ、係合クラッチ8cの位置保持精度を向上することができる。
【0095】
また、このとき、
図17に示すように、パーキングポール18の噛み合い位置を保持する第1凹溝面67aは、係合クラッチ8cの解放位置を保持する第2凹溝面67bや、係合クラッチ8cの解放位置を保持する第3凹溝面67cよりも、溝深さが深く設定されている。
そのため、チェックボール67dがこの第1凹溝面67aを乗り越えるために必要な第1電動アクチュエータ41の駆動力は、チェックボール67dが第2凹溝面67bや第3凹溝面67cの斜面を乗り越えるために必要な駆動力よりも大きくなる。つまり、第1凹溝面67aによる位置保持力は、第2凹溝面67bや第3凹溝面67cによる位置保持力よりも高くなっている。
これにより、パーキングポール18がパークギヤ17に噛み合った状態が、容易に解除されてしまうことを防止することができる。
【0096】
さらに、ここでは、フォークロッド63dの移動方向である軸方向に並んだ第1,第2,第3凹溝面67a,67b,67cのうち、中間部に配置された第2凹溝面67bは、端部に配置された第3凹溝面67cよりも、溝深さが深く設定されている。
これにより、第2凹溝面67bにおける位置保持力は、第3凹溝面67cにおける位置保持力よりも高くなっている。
このため、第2凹溝面67bによって位置保持する際に、オーバーシュートすることを防止し、適切に位置保持することができる。
【0097】
しかも、この場合では、第1凹溝面67aと第2凹溝面67bの間の間隔寸法L1が、第2凹溝面67bと第3凹溝面67bの間の間隔寸法L2よりも長くなっている。
そのため、カップリングスリーブ8fを動作してロー変速段を選択/解除する際の第1電動アクチュエータ41の動作量よりも、パーキングポール18を動作してパークギヤ17に噛み合わせる際の第1電動アクチュエータ41の動作量が大きくなるように設定される。つまり、変速機構63によって係合クラッチ8cを噛み合い締結/解放させるときのマニュアルシャフト62の回転角度は、パーク機構64によってパーキングポール18をパークギヤ17に噛み合わせるときのマニュアルシャフト62の回転角度に比べて小さい。
【0098】
これにより、パーキングポール18がパークギヤ17に噛み合う状態から、係合クラッチ8cを締結させるには、第1電動アクチュエータ41を十分に回転駆動させなければならない。そのため、係合クラッチ8cとパーキングポール18の同時締結をさらに効果的に防止することができる。
【0099】
また、実施例1では、変速機構63の作動により係合クラッチ8cを噛み合い締結/解放し、ロー変速段を選択する例を示した。しかし、変速機構63の作動によって複数の係合クラッチを噛み合い締結/解放させ、複数の変速段を選択するようにしてもよい。
【0100】
また、ディテント部65aが有する変速位置保持部としての第2凹溝面66bは、Nレンジ選択位置と、Dレンジでハイギヤ段の選択位置を保持するようにしているが、例えばNレンジ選択位置と、Dレンジでハイギヤ段の選択位置を、異なる凹溝面によって保持してもよい。つまり、いずれも場合であっても係合クラッチ8cは解放状態であるが、第1電動アクチュエータ41に回転位置を異ならせてもよい。
【0101】
さらに、実施例1では、変速機構63とパーク機構64を作動させる一つのアクチュエータとして、モータによる第1電動アクチュエータ41とする例を示した。しかし、このアクチュエータとしては、ソレノイドや流体圧を用いるような他のアクチュエータの例としてもよい。
【0102】
そして、実施例1では、本発明の車両用自動変速機を、駆動源に駆動用モータジェネレータを備えた電気自動車に適用する例を示した。しかし、本発明の車両用自動変速機は、エンジン駆動による発電機を有し、駆動源に電動機を備えたシリーズタイプハイブリッド車、あるいは、発進時に電気自動車走行モードが選択されるパラレルタイプハイブリッド車やプラグインハイブリッド車等の電動車両に対しても適用することができる。さらに、エンジン車に対しても本発明の車両用自動変速機を適用することができる。