特許第6442754号(P6442754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442754
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】環境監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   G01N27/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-233540(P2013-233540)
(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公開番号】特開2015-94641(P2015-94641A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中川 博司
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝行
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−232300(JP,A)
【文献】 特表2007−509390(JP,A)
【文献】 特開2009−229334(JP,A)
【文献】 特開2003−232761(JP,A)
【文献】 特開2001−033437(JP,A)
【文献】 特開昭59−230138(JP,A)
【文献】 特開平10−010102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22−1/26
G01N 27/00−27/49
G01N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖空間の内部に存在するガス成分を検知するガス検知部を備えた環境監視システムであって、
前記ガス検知部は、前記閉鎖空間の異なった領域に配設される複数のガス検出手段を備え、
前記ガス検出手段のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析する分析部を備える環境監視システム。
【請求項2】
前記ガス成分の変化を監視する監視部を備える請求項1に記載の環境監視システム。
【請求項3】
前記ガス検知部は、第一ガス検出手段および第二ガス検出手段を備え、両者において被検知ガスの検知特性を異ならせてあり、
前記第一ガス検出手段の検知出力および前記第二ガス検出手段の検知出力に基づいて所望のガス成分を検知、分析および監視する請求項1または2に記載の環境監視システム。
【請求項4】
前記ガス検知部におけるガス検出手段は、清浄ガスを用いてゼロ点を設定する請求項1〜3の何れか一項に記載の環境監視システム。
【請求項5】
前記ガス検出手段の周囲の雰囲気を捕集し、捕集した雰囲気を前記分析部に送る捕集手段を備え、
何れかのガス検出手段が所定値以上の検出値を検出すると、前記監視部は、前記捕集手段に所定値以上を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気の捕集を指示し、前記捕集手段から送られる雰囲気の分析を前記分析部に指示する請求項2に記載の環境監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖空間の内部に存在するガス成分を検知するガス検知部を備えた環境監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造工場などにおいて、製品の乾燥設備や排水中に微量含まれる有機溶剤分を除去する設備などがあり、これらの設備からは、におい成分である揮発性有機化合物(VOC)ガスが発生する場合があった。VOCガスには、例えばホルムアルデヒド、トルエン等が含まれ、目、鼻、喉への刺激等の症状が生じる虞がある。
【0003】
VOCガスは、例えば半導体式ガス検知素子を備えたガス検知装置で検知することができる。
【0004】
尚、本発明における従来技術となる上述した半導体式ガス検知素子を備えたガス検知装置は、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した半導体製造工場において、特に、温度および湿度の管理された空気が循環する清浄なクリーンルーム内では、消毒用或いは清掃用のアルコール(エタノール)が頻繁に使用されていた。
【0006】
このように半導体製造工場には、VOCガスやエタノールなどのガスが雰囲気中に浮遊することがあり、例えばVOCガスをガス検知装置で検知しようとした場合、エタノールが妨害ガスとして検知されてしまい、VOCガスを選択的に検知するのが困難となることがあった。VOCガスの他、対象となる所望の被検知ガスを検知しようとする場合も同様に、エタノールが妨害ガスとして検知されてしまい、被検知ガスを正確に検知できないという問題点があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、複数のガス成分を識別できる環境監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る環境監視システムは、閉鎖空間の内部に存在するガス成分を検知するガス検知部を備えた環境監視システムであって、その第一特徴構成は、前記ガス検知部は、前記閉鎖空間の異なった領域に配設される複数のガス検出手段を備え、前記ガス検出手段のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析する分析部を備えた点にある。
【0009】
本構成によれば、ガス検出手段のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気を捕集し、捕集した雰囲気を分析部に投入して、ガス成分の種類や濃度などを検知、分析(識別)することができる。
【0010】
このようにガス検出手段のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析するように構成することで、当該ガス成分を分析部によって分析するタイミングを規定することができる。即ち、ガス検出手段のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合には、所望のガス成分が検知できた場合であり、このタイミングでガス検出手段の周囲の雰囲気を分析部で分析すれば、所望のガス成分が分析部によって分析されるため、ガス成分の分析を確実に詳細に行うことができる。
【0011】
本発明に係る環境監視システムの第二特徴構成は、前記ガス成分の変化を監視する監視部を備えた点にある。
【0012】
本構成によれば、当該閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。
【0013】
本発明に係る環境監視システムの第三特徴構成は、前記ガス検知部は、第一ガス検出手段および第二ガス検出手段を備え、両者において被検知ガスの検知特性を異ならせてあり、前記第一ガス検出手段の検知出力および前記第二ガス検出手段の検知出力に基づいて所望のガス成分を検知、分析および監視する点にある。
【0014】
本構成のように第一ガス検出手段および第二ガス検出手段を備え、両者において被検知ガスの検知特性を異ならせることで、それぞれの検出手段の特性に応じたガス成分を検知することができる。
【0015】
例えば第二ガス検出手段の方がアルコールの検知感度が高い場合、検知対象空間においてアルコールの濃度が高まると、第一ガス検出手段のアルコール成分に対する検知出力は第二ガス検出手段に比べて低いが、第二ガス検出手段のアルコール成分に対する検知出力は高くなる。このとき、第一ガス検出手段の出力が所定の検知出力より大きな値が得られればアルコール以外のガス成分が検知できたものと識別し、第二ガス検出手段の出力が所定の検知出力より大きな値が得られればアルコールが検知できたものと識別することができるため、アルコールとそれ以外のガス成分を同時に識別検知、分析および監視することができる。
【0016】
即ち、アルコール以外のガス成分を検出したい場合、アルコールが存在するとアルコールが妨害ガスとなってアルコール以外のガス成分を検出し難くなる。この場合、フィルタ等を用いてアルコールをカットした状態でアルコール以外のガス成分を検出すると、フィルタ等のランニングコストが嵩むこととなる。しかし、本発明の環境監視システムであれば、例えばアルコールの検出感度が異なる二つの検出手段(第一ガス検出手段および第二ガス検出手段)を備えるだけでアルコールとそれ以外のガス成分を同時に識別検知、分析および監視することができることとなり、簡便かつコストパフォーマンスに優れた環境監視システムを構築することができる。
【0017】
本発明に係る環境監視システムの第四特徴構成は、前記ガス検知部におけるガス検出手段は、清浄ガスを用いてゼロ点を設定する点にある。また、ゼロ点の状態が閉鎖空間の理想の状態となるので、当該ゼロ点を設定して目標とすることができ、現在の状態が理想の状態とどの程度乖離しているのかを容易に理解することができる。
【0018】
これにより、確実にガス検出手段のゼロ点調整を行うことができる。
【0019】
本発明に係る環境監視システムの第五特徴構成は、前記ガス検出手段の周囲の雰囲気を捕集し、捕集した雰囲気を前記分析部に送る捕集手段を備え、何れかのガス検出手段が所定値以上の検出値を検出すると、前記監視部は、前記捕集手段に所定値以上を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気の捕集を指示し、前記捕集手段から送られる雰囲気の分析を前記分析部に指示する点にある。
【0020】
本構成によれば、監視部においてガス検出手段の検出値を認識させ、当該検出値に応じて所望のガス検出手段に対して雰囲気の捕集指令を捕集手段へ出すように制御できる。さらに、監視部は、捕集指令を出した後で、分析部に雰囲気の分析指令を出すように制御できる。即ち、監視部においてこれら捕集指令や分析指令を実行できるように構成すれば、例えば監視部をガス検知部の近傍あるいは離間した位置の何れに設けた場合であっても、或いは、監視部を閉鎖空間の外部に設けた場合であっても、所望のタイミングで捕集指令や分析指令を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の環境監視システムの概略図である。
図2】第一ガス検出手段の半導体式ガス検知素子の概要を示す図である。
図3】本発明例2(酸化スズ−モリブデン酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図4】比較例1(酸化スズ)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図5】シリコーンガス存在下において、本発明例2の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図6】シリコーンガス存在下において、比較例1の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図7】本発明例3(酸化インジウム−モリブデン酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図8】比較例2(酸化インジウム)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図9】本発明例2の半導体式ガス検知素子によってエタノールおよびアセトンをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べたグラフである。
図10】シリコーンガス存在下において、本発明例2の半導体式ガス検知素子によってエタノールを検出した場合のガス感度の変化率を示したグラフである。
図11】ランタン酸化物の含有量、モリブデン酸化物の含有量およびガス感度の変化率を示した表である。
図12】本発明の半導体式ガス検知素子において、9種のガスに対する感度とガス濃度との関係について調べたグラフである。
図13】本発明例2の半導体式ガス検知素子において、9種のガスに対する感度とガス濃度との関係について調べたグラフである。
図14】環境監視システムを半導体製造工場のクリーンルーム内に設置し、当該クリーンルーム内に存在するガスを検知したときの結果を示したグラフである。
図15】ブリッジ回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示したように、本発明の環境監視システムZは、閉鎖空間の内部に存在するガス成分を検知するガス検知部Aを備え、当該ガス検知部Aは、閉鎖空間の異なった領域に配設される複数のガス検出手段10,20を備え、ガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段10,20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析する分析部Eを備える。
また、本発明の環境監視システムZは、ガス成分の成分量の変化を監視する監視部Fを備える。
【0023】
閉鎖空間は、例えば内部と外部との雰囲気の出入りがコントロールされる閉鎖された空間のことをいう。本発明の環境監視システムZは、当該閉鎖空間として、例えば温度および湿度の管理された空気が循環する清浄なクリーンルーム内に設置される場合について説明する。当該クリーンルームは、例えば半導体製造工場に設けられる設備である。
【0024】
本発明のガス検知部Aにおいては、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20を備え、両者においてアルコールの検出感度を異ならせてある。本実施形態のガス検知部Aは第二ガス検出手段20の方がアルコールの検出感度が高く、アルコールがエタノールである場合について説明するが、この態様に限定されるものではない。尚、本実施形態では二つのガス検出手段を備えた場合について説明するが、ガス検出手段の数はこの態様に限定されるものではない。
【0025】
1つの第一ガス検出手段10は、1つの半導体式ガス検知素子Xを備え、1つの第二ガス検出手段20は、1つの半導体式ガス検知素子X’を備える。半導体式ガス検知素子Xおよび半導体式ガス検知素子X’は、それぞれ1つの検知素子で複数のガス成分を検知することができる検知素子である。
【0026】
また、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20は、離間して設置することが可能であるが、この場合、クリーンルーム内で同じ領域に存在するガスを検知できるように、ある程度近傍に配設するのがよい。
【0027】
クリーンルームは、ダウンフロー気流で空調管理される場合があり、この場合、上層階から下層階へ気流が拡散するため、例えば上層階と下層階との境界部にガス検知部Aを配設するとよい。
【0028】
図2に示したように、第一ガス検出手段10は半導体式ガス検知素子Xを有する。当該半導体式ガス検知素子Xは、貴金属線材1と、当該貴金属線材1を覆い、酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分としてモリブデン酸化物を添加した金属酸化物半導体を用いて形成したガス感応部2と、当該ガス感応部2の外周側に、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトの中から選択された少なくとも1種を担体とする触媒層3と、を設け、当該触媒層3にタングステン酸化物或いはモリブデン酸化物の少なくとも一方を担持させてある。
【0029】
半導体式ガス検知素子Xとして、熱線型半導体式ガス検知素子、基板型半導体式ガス検知素子が挙げられるが、これに限られるものではない。本実施形態では、熱線型半導体式ガス検知素子とした場合について説明する。
【0030】
熱線型半導体式ガス検知素子Xは、コイル状の貴金属線材1にガス感応部2が設けてある。貴金属線材1は、例えば白金、パラジウム、白金−パラジウム合金等の線材を使用できる。貴金属線材1の線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の熱線型半導体式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されない。
【0031】
ガス感応部2は、酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を塗布して覆い、乾燥後、焼結成型したものである。当該金属酸化物半導体には、モリブデン酸化物(MoO2、MoO3)を添加してある。モリブデン酸化物の含有量は、例えば0.5〜10モル%、好ましくは1〜10モル%とするとよい。これにより、エタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチル等の所謂におい成分を感度よく検出することができ、かつ、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できる。
【0032】
金属酸化物半導体には、モリブデン酸化物に加えて、ランタン酸化物や鉛酸化物を添加してもよい。金属酸化物半導体に、ランタンや鉛の酸化物を添加することにより、例えばにおい成分であるトルエンやアセトンに対して高感度であるとともに、水素、メタン、エチレンなどの他のガスとの選択性に於いて優れた半導体式ガス検知素子Xが得られる。
【0033】
ランタン酸化物(La23)の含有量は、例えば0.05〜1モル%とすれば、良好なガス感度を有する。
【0034】
また、鉛酸化物(PbO)の含有量は、例えば0.01〜1モル%とするのがよい。これにより、水素、メタン、エチレンなどVOCガス以外の感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができる。
【0035】
ガス感応部2の外周側には、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトの中から選択された少なくとも1種を担体とする触媒層3を設け、当該触媒層3にタングステン酸化物(WO3)或いはモリブデン酸化物の少なくとも一方を担持させている。
【0036】
タングステン酸化物或いはモリブデン酸化物の含有量は、0.1〜10モル%となるようにすれば、アルコールの感度を十分抑制することができる。
【0037】
触媒層3に含まれるタングステン酸化物或いはモリブデン酸化物により、触媒層3の表面に到達したアルコールは分解を受ける。これにより、被検知ガスにアルコールが混入している場合においても、センサのアルコールに対する感度を抑制することができる。従って、本構成の半導体式ガス検知素子Xは、アルコールに対する感度を抑制した状態で、におい成分を感度よく検出することができるものとなる。
【0038】
図15に示すように、熱線型半導体式ガス検知素子Xは、固定抵抗R0,R1,R2とともにブリッジ回路に組み込んでガスセンサを構成できる。ブリッジ回路は電源Eによって常時または間欠的に通電してあり、熱線型半導体式ガス検知素子Xが検知の際に適した温度となるようにしてある。また、熱線型半導体式ガス検知素子Xは被検知ガスが吸着すると抵抗値が変化する。このため、本実施形態に係るガスセンサでは、熱線型半導体式ガス検知素子Xの抵抗値の変化を偏差電圧として取り出し、これをセンサ出力Vとすることで被検知ガス(におい成分)の濃度を測定することができる。
【0039】
第二ガス検出手段20においても半導体式ガス検知素子X’を有する。当該半導体式ガス検知素子X’は、上述した貴金属線材1および、ガス感応部2を備える。
【0040】
第二ガス検出手段20に使用する半導体式ガス検知素子X’は触媒層3を含まないため、第一ガス検出手段10に比べてアルコール成分に対する感度が高くなる。この場合、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の両者を、検知対象空間に配置し、それぞれの検知手段のガス検知出力に基づいて、検知対象空間に存在する複数のガス成分(アルコールとそれ以外のガス成分)を識別することが可能となる。
【0041】
即ち、検知対象空間において、アルコールの濃度が高まると、第一ガス検出手段10のアルコール成分に対する検知出力は殆ど無いが、第二ガス検出手段20のアルコール成分に対する検知出力は高くなる。このとき、第一ガス検出手段10の出力が所定の検知出力より大きな値が得られればアルコール以外のガス成分が検知できたものと識別し、第二ガス検出手段20の出力が所定の検知出力より大きな値が得られればアルコールが検知できたものと識別することができるため、アルコールとそれ以外のガス成分を同時に識別検知することができる。
【0042】
本発明の環境監視システムZは、ガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段10,20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析する分析部Eを備える。
【0043】
分析部Eは、当該雰囲気中に含まれる複数のガス成分を分析(識別)できるものであればどのような態様であってもよい。例えば分析部Eは、ガスクロマトグラム分離カラムと、ガスクロマトグラム分離カラムにキャリアガスなどのガスを流通させるための吸引ポンプと、ガスクロマトグラム分離カラムにガスを導入する導入路と、ガスを排出する排出路と、を備え、さらに、ガスクロマトグラム分離カラムにて分離されたガス成分を検出するガス成分検出手段を備えた構成とすることができる。
【0044】
ガスクロマトグラム分離カラムは、公知のガスクロマトグラフィー用の分離カラムを使用すればよい。また、ガス成分検出手段は、上述した半導体式ガス検知素子など、公知のガス検出手段を使用すればよい。
【0045】
ガス検出手段10,20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分は、分析部Eに搬送して当該分析部Eで分析される。このような搬送を行うため、例えばガス検出手段10,20の周囲の雰囲気を捕集し、捕集した雰囲気を分析部Eに送る捕集手段(図外)を備えるとよい。
【0046】
当該捕集手段は、雰囲気ガスを捕集して、所望の部位に搬送できる態様であればどのようなものであってもよく、例えばシリンジ等によってそれぞれのガス検出手段10,20の周囲の雰囲気を吸引して捕集し、捕集した雰囲気を陽圧あるいは負圧で分析部Eに送れるポンプ装置およびパイプを備えて構成することができる。
【0047】
ガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段10,20の周囲の雰囲気を捕集し、捕集した雰囲気を例えば捕集手段によって分析部Eに送る。このとき送られた雰囲気が当該捕集手段の導入路から分析部Eに投入されると、ガスクロマトグラム分離カラムにて雰囲気が展開され、含まれたガス成分毎に順次分離され、排出路の側に溶離されて排出される。この溶離された各ガス成分が、順次ガス成分検出手段に投入され、ガス成分の種類などを検知、分析(識別)することができる。ガス成分の濃度は、例えば後述の演算部Bで行うように構成できる。
【0048】
このようにガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段10,20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析するように構成することで、ガス成分を分析部Eによって分析するタイミングを規定することができる。即ち、ガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合には、所望のガス成分(アルコールやそれ以外のガス成分のいずれか)が検知できた場合であり、このタイミングでガス検出手段10,20の周囲の雰囲気を分析部Eで分析すれば、所望のガス成分(アルコールやそれ以外のガス成分のいずれか)が分析部Eによって分析されるため、ガス成分の分析を確実に詳細に行うことができる。
【0049】
また、監視部Fは、例えば分析部Eの分析結果に基づいて、ガス成分の変化を監視する。監視部Fは、例えばガス成分の成分量をリアルタイムでモニタリングできる表示手段などが使用できるが、このような態様に限定されるものではない。
【0050】
本構成のように監視部Fを設けることで、当該閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。監視部Fは、閉鎖空間の内部に設けてもよいし、閉鎖空間の外部に設けてもよい。監視部Fを閉鎖空間の内部に設けた場合は、監視部Fをガス検知部Aの近傍あるいは離間した位置の何れに設けた場合であっても、閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。また、監視部Fを閉鎖空間の外部に設けた場合は、閉鎖空間から離間した外部であっても閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。
【0051】
また、監視部Fは、何れかのガス検出手段10,20が所定値以上の検出値を検出すると、捕集手段に所定値以上を検出したガス検出手段の周囲の雰囲気の捕集を指示し、捕集手段から送られる雰囲気の分析を分析部Eに指示するように構成するとよい。
【0052】
本構成では、監視部Fにおいてガス検出手段10,20の検出値を認識させ、当該検出値に応じて所望のガス検出手段に対して雰囲気の捕集指令を捕集手段へ出すように制御できる。さらに、監視部Fは、捕集指令を出した後で、分析部Eに雰囲気の分析指令を出すように制御できる。即ち、監視部Fにおいてこれら捕集指令や分析指令を実行できるように構成すれば、例えば監視部Fをガス検知部Aの近傍あるいは離間した位置の何れに設けた場合であっても、或いは、監視部Fを閉鎖空間の外部に設けた場合であっても、所望のタイミングで捕集指令や分析指令を実行することができる。
【0053】
監視部Fは、これら捕集指令や分析指令を実行できるマイコンなどを有するように構成すればよい。
【0054】
本発明の環境監視システムZは、第一ガス検出手段10の検知出力および第二ガス検出手段20の検知出力に基づいて所望のガス成分を検知、分析および監視するように構成できる。
【0055】
例えば、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の両者の出力の差を算出して、検知されたガス成分の判定を行えばよい。この場合、例えば、両者の通常出力(ΔV感度)がともに0〜300程度であり、警報レベルを1000以上に設定した場合があるとする。このとき、第二ガス検出手段20の出力より第一ガス検出手段10の出力を引算することによって求められた値が600以上であれば、検知されたガス成分がエタノール等のアルコールであると判定し、400以下であれば当該アルコール以外であると判定するように実施することができる。
このように判定された結果を、監視部Fにてモニタリングすることで、ガス成分の成分量の変化を容易に監視することができる。
【0056】
ガス検知部Aにおけるガス検出手段10,20は、清浄ガスを用いてゼロ点を設定するとよい。これにより、確実にガス検出手段10,20のゼロ点調整を行うことができる。
【0057】
本発明の環境監視システムZは、ガス検知部Aが所望のガス成分を検知した出力に基づき、ガス濃度を算出する演算部Bを備える。当該演算部Bは、ガス検知部Aからの出力信号に基づいてガス濃度を算出できるマイコンなどを使用するとよい。
【0058】
演算部Bは、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の少なくとも一方が警報レベル以上の前記ガス成分を検知した場合、警報信号を、ガス検知部Aの検知出力が所定値以上であった場合に警報出力を出力する報知部Cに送って当該報知部Cにより警報を発するように制御する。
第二ガス検出手段20のみが、警報レベル以上のガス成分を検知している場合には、アルコールを検知していると判断し、報知部Cから警報を発さない構成としてもよい。また、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の少なくとも一方が、警報レベル以上のガス成分を所定時間以上継続して検知した場合に、警報を発する態様としてもよい。
【0059】
報知部Cは、演算部Bから警報信号を受け取り、選択された警報音信号に基づいて音により警報を発する。警報音は、例えば検知されたガス成分がエタノール等のアルコールである場合と、アルコール以外である場合とで異なるように設定することができる。これにより、使用者は容易に検知されたガス成分を認識することができるため、警報の原因特定を迅速に行うことができる。報知部Cはスピーカおよびその駆動回路で構成され、警報音信号を警報音に変換して出力する。
【0060】
また、本発明の環境監視システムZは、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20のそれぞれの設置位置、それぞれの検知出力値、および、それぞれの検出日時などを対応付けて表示する表示部Dを備える。本構成により、使用者は、各検出手段の状況を容易に把握することができる。
【0061】
〔別実施形態〕
上述した実施形態において、複数のガス検出手段10,20のいずれかが所定値以上の検出値を検出した場合に、当該所定値以上の検出値を検出したガス検出手段10,20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析する態様について説明した。しかし、所定値以上の検出値を検出したガス検出手段が複数存在する場合は、前回の捕集から最も期間があいているガス検出手段の周囲の雰囲気のガス成分を分析するようにしてもよい。
【0062】
また、所定値以上の検出値を検出したガス検出手段が複数存在する場合は、所定値以上を検出した回数が多い(或いは少ない)ガス検出手段の周囲の雰囲気のガス成分を分析するようにしてもよい。
【0063】
さらに、所定値以上の検出値を検出したガス検出手段が複数存在する場合は、過去の検出傾向に基づいて、いずれのガス検出手段の周囲の雰囲気を分析するかを決定するようにしてもよい。
【0064】
上述したように所定値以上の検出値を検出したガス検出手段が複数存在する場合は、設定した順番でガス検出手段の周囲の雰囲気のガス成分を分析するようになるが、このとき、後の順番となったガス検出手段の周囲の雰囲気は、一旦捕集手段で捕集しておいて順番が回ってくるまで貯蔵しておいてもよい。当該貯蔵は、適当な空間を備えた貯蔵部に、捕集した雰囲気の全て或いは一部を収容すればよい。
【実施例】
【0065】
〔実施例1〕
本発明の環境監視システムZで使用する半導体式ガス検知素子の製造方法を以下に説明する。当該半導体式ガス検知素子は、貴金属線材1、ガス感応部2および触媒層3を備える第一ガス検出手段10(本発明例1)、および、貴金属線材1およびガス感応部2を備える第二ガス検出手段20(本発明例2)に使用するものをそれぞれ作製した。
【0066】
アンチモン(Sb+5)を0.1モル%ドープして所定の電導度を得た酸化スズ(SnO2)半導体のペーストを、白金コイルに塗布して直径が約0.5mmの球状になるように形成し、乾燥後、白金コイルに通電してジュール熱により加熱し、650℃で1時間、酸化スズを焼結させた。
【0067】
酸化スズの半導体に、1モル/Lのモリブデン酸アンモン水溶液の液滴を含浸させ、20℃で60分乾燥させた。乾燥後、白金コイルに通電(1時間)して約600℃で加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物を金属酸化物半導体(ガス感応部)の表面に担持させた。このようにして得られた半導体式ガス検知素子X’(本発明例2:第二ガス検出手段20に使用する)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
尚、金属酸化物半導体にランタン酸化物を添加する場合は、酸化スズの半導体に例えば1mol/Lの硝酸ランタン水溶液を含浸させ、金属酸化物半導体に鉛酸化物を添加する場合は、酸化スズの半導体に例えば0.5mol/Lの硝酸鉛水溶液を含浸させるとよい。
【0068】
触媒層3は、以下のようにして作製した。
アルミナの粉末100gに、タングステン酸アンモニウムの水溶液(0.1mol/L)を含浸法により0.1〜10mol%(最適添加量2mol%)になるように添加した後、乾燥し、電気炉で700℃で2時間焼成した。これを粉砕し、水で練ってペースト状とし前述の金属酸化物半導体の表面全周に塗布する。さらに室温で乾燥後、600℃で1時間加熱し、焼結させ形成する。
このようにして得られた本発明の半導体式ガス検知素子X(本発明例1:第一ガス検出手段10に使用する)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0069】
〔実施例2〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’(ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)と、比較例1として酸化スズを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの検知感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0070】
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を図3、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図4に示した。
【0071】
図3より、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、メタン、一酸化炭素に比べて増感されたと認められた。一方、図4より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も明確に増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
よって、半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加することにより、におい成分を感度よく検出することができるものと認められた。
【0072】
〔実施例3〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’と、比較例1の半導体式ガス検知素子とにおいて、シリコーンガス(OMCTS:Octamethylcyclotetrasiloxane、10ppm)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。検知対象のガスは、空気、エタノール(5〜100ppm)とした。
【0073】
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を図5、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図6に示した。
【0074】
図5より、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’では、シリコーンガス存在下であっても安定した(ほぼ一定の)ガス感度が得られるものと認められた。一方、図6より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、特にシリコーンガスの曝露初期において、ガス感度が急変するため、シリコーンガス存在下では不安定なガス感度を示すものと認められた。
【0075】
〔実施例4〕
実施例1で説明した本発明例2の半導体式ガス検知素子X’の作製方法において、使用した酸化スズの半導体ペーストを酸化インジウム(In23)の半導体ペーストに替えて半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子X’(本発明例3:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0076】
〔実施例5〕
本発明例3の半導体式ガス検知素子X’と、比較例2として酸化インジウムを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0077】
本発明例3の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を図7、比較例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を図8に示した。
【0078】
図7より、本発明例3の半導体式ガス検知素子X’では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は増感されたものと認められた。一方、図8より、比較例2の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
【0079】
〔実施例8〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加するモリブデン酸化物の有効濃度を調べた。
【0080】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量が0.001〜30モル%となるように、11種類(表1)の半導体式ガス検知素子を製造した。これら半導体式ガス検知素子について、におい成分であるエタノール100ppm、アセトン100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。結果を表1および図9に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
この結果、モリブデン酸化物の含有量が0.1モル%以上、特に0.5モル%以上において優れたガス感度を有するものと認められた。
【0083】
また、上記11種類の半導体式ガス検知素子において、シリコーンガス(OMCTS)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。ガス感度の変化は、半導体式ガス検知素子をシリコーンガス10ppmに対して20時間曝露したときの、エタノール100ppmの感度変化率(20時間暴露時の測定値/初期測定値)で表した。結果を表2および図10に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、良好なガス感度を有するものと認められる。モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.5の範囲に収まるものと認められた。また、モリブデン酸化物の含有量が1〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.2の範囲に収まるため、より良好なガス感度を有するものと認められた。
従って、モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であれば、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できることが判明した。
【0086】
〔実施例9〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加するランタン酸化物の有効濃度を調べた。
【0087】
モリブデン酸化物を添加した金属酸化物半導体に対してランタン酸化物0〜3モル%を添加し、シリコーンガスに曝露(10ppm、100時間曝露)した前後において、ガス感度の変化率(シリコーンガス暴露後の100ppm感度/シリコーンガス暴露前の100ppm感度)が1.0〜1.5の範囲に収まるものを調べた。上述したように、半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、シリコーンガスに対して影響されないものと認められる。
【0088】
結果を図11(a)に示した。図11(a)より、当該変化率が1.0〜1.5を示すのは、概ねランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲となっている。従って、ランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲であれば、シリコーンガスに対して影響されないものと認められる。
【0089】
また、ランタン酸化物が0〜3モル%の範囲において、エタノール100ppmに対する感度(mV)を測定した。金属酸化物半導体にはモリブデン酸化物2モル%添加し、触媒層3にはタングステン酸化物2モル%を添加したものを使用し、触媒層3の有無、および、鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%の間で変化させた半導体式ガス検知素子を使用して測定を行った。結果を図11(b)に示した。
【0090】
エタノールの最高感度は、触媒層3なしの半導体式ガス検知素子X’(実験例1)において、ランタン酸化物が0.1モル%の場合の測定値251mVであった。本実施例ではこの測定値の7割(175mV)以上であれば良好な感度であると判断し、かつ、触媒層3ありの半導体式ガス検知素子X(本発明例1)の感度が、触媒層3なしの半導体式ガス検知素子X’(実験例1)の1/2以下となるときにエタノールの除去性能が優れたものと判断した。その結果、ランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲であればこれらの条件を満たし、エタノールの除去性能が優れていると認められた。
【0091】
〔実施例10〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加する鉛酸化物の有効濃度を調べた。
【0092】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量を、0.5,2.0,10モル%とした場合に、鉛酸化物の含有量を0.005〜5モル%の範囲となるようにそれぞれ7種類(表3)の半導体式ガス検知素子X’を製造した(合計21種類)。これら半導体式ガス検知素子X’について、エタノール100ppm、水素100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。鉛酸化物の有効濃度は、におい成分の選択性が優れている範囲を適用すればよい。におい成分の選択性が優れている範囲は、可燃性ガス感度/エタノール感度の比を1以下とする。結果を表3に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
この結果、鉛酸化物の含有量を0.01〜5モル%の範囲とすれば、水素感度/エタノール感度の比が1以下となるものと認められた。ただし、水素感度/エタノール感度の比が1以下となる場合であっても、におい成分(エタノール)の感度が低いのは好ましくない。従って、鉛酸化物の含有量の上限値は、におい成分(エタノール)の最高感度(モリブデン酸化物の含有量が0.5モル%、鉛酸化物の含有量が0.5モル%の場合の感度170mV)の50%以上を有する感度となる鉛酸化物の含有量のうち、最大とするのが好ましい。これらのことから、鉛酸化物の含有量は、0.01〜1モル%の範囲とするのが好ましい。
【0095】
従って、鉛酸化物の含有量が0.01〜1モル%の範囲であれば、水素の感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができることが判明した。尚、結果は示さないが、水素だけでなく、メタンやエチレンなどのVOCガス以外の感度についても同様に低下させることができる。
【0096】
〔実施例11〕
触媒層3に添加したタングステン酸化物の添加量を0〜10モル%の間で変化させた場合に、エタノール100ppmに対する感度およびアセトン100ppmに対する感度がどのように変化するかを調べた。金属酸化物半導体にはモリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物0.5モル%および鉛酸化物0.5モル%を添加したものを使用した。結果を表4に示した。
【0097】
【表4】
【0098】
この結果、タングステン酸化物の添加量を変化させた場合においてもアセトン100ppmに対する感度は顕著な変化が認められなかったのに対して、エタノール100ppmに対する感度は、タングステン酸化物の添加量を0.1〜10モル%とした場合にはタングステン酸化物の添加量が0である場合に比べて、顕著に抑制されているものと認められた。
尚、本実施例では触媒層3に担持される担持物としてタングステン酸化物を使用した場合について説明したが、モリブデン酸化物であっても同様の結果を示した(結果は示さない)。
【0099】
〔実施例12〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子X(本発明例1、金属酸化物半導体:モリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物1モル%、鉛酸化物0.5モル%を含有、触媒層:タングステン酸化物2モル%を含有)において、9種のガス(エタノール、スチレン、キシレン、トルエン、トリメチルアミン、アンモニア、イソブタノール、酢酸メチル、アセトン)に対する感度とガス濃度との関係について調べた(図12)。図12より、全てのガスに対して1ppmから感度が十分得られ、また、エタノールの感度が最も低く、エタノールと他のガスとの分離も十分良いものと認められた。
このように本構成の半導体式ガス検知素子Xは、アルコールに対する感度を抑制した状態で、におい成分(硫化水素)を感度よく検出することができる。
【0100】
また、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’(金属酸化物半導体:モリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物1モル%、鉛酸化物0.5モル%を含有)において、9種のガス(エタノール、スチレン、キシレン、トルエン、トリメチルアミン、アンモニア、イソブタノール、酢酸メチル、アセトン)に対する感度とガス濃度との関係について調べた(図13)。この結果、エタノールは他のガスと全く分離されないものと認められた。
【0101】
尚、本実施例では、触媒層3の担体としてアルミナを使用した場合について説明したが、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトのいずれか、あるいはこれらの複数からこの担体を構成しても同様の結果を示した。さらに、触媒層3に担持される担持物としてタングステン酸化物を使用した場合について説明したが、これはモリブデン酸化物であっても同様の結果を示した(何れも結果は示さない)。
【0102】
〔実施例13〕
半導体式ガス検知素子X(本発明例1:第一ガス検出手段10に使用する)と、半導体式ガス検知素子X’(本発明例2:第二ガス検出手段20に使用する)とを備えたガス検知部Aを作製し、このガス検知部Aを有する環境監視システムZを半導体製造工場のクリーンルーム内に設置し、当該クリーンルーム内に存在するガスを検知した(図14)。
【0103】
第一ガス検出手段10においては、におい成分としてVOCガスが常時低レベル(ΔV感度200〜600程度)で検知されていた。クリーンルーム内では、AM10:00〜12:00の間に清掃のためエタノールを使用した。このとき、この時間帯において第二ガス検出手段20にてエタノール成分が、ΔV感度が1500程度の出力で検知された。
【0104】
即ち、この環境監視システムZは、クリーンルーム内に設置することで、エタノールとVOCガスの両方を同時に識別検知することができた。
【0105】
尚、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の何れにおいても、ΔV感度が1000以上となったときが警報レベルとなっている。
そのため、警報レベル以上の検出値を検出した第二ガス検出手段20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析するべく、捕集手段によって第二ガス検出手段20の周囲の雰囲気を捕集して捕集した雰囲気を分析部Eに送って分析を行った。分析部Eにおいて、ガスクロマトグラム分離カラムとして、内径4mm全長20cmのフッ素樹脂製カラム管に、粒径80〜100μmのポリフェニルエーテル(PPE)製充填材5ring Uniport−HP(GLサイエンス社製)を充填したものを用い、カラム温度25℃、キャリアガス流量60ml/分の条件でガス成分の分析を行った。
【0106】
分析部Eの分析によって得られたガス成分の分析結果を、リアルタイムで監視部Fによってモニタリングを行った。このように監視部Fに当該分析結果をモニタリングすることで、当該閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、閉鎖空間の内部に存在するガス成分を検知するガス検知部を備えた環境監視システムに利用できる。
【符号の説明】
【0108】
Z 環境監視システム
A ガス検知部
E 分析部
F 監視部
10 第一ガス検出手段
20 第二ガス検出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15