【実施例】
【0065】
〔実施例1〕
本発明の環境監視システムZで使用する半導体式ガス検知素子の製造方法を以下に説明する。当該半導体式ガス検知素子は、貴金属線材1、ガス感応部2および触媒層3を備える第一ガス検出手段10(本発明例1)、および、貴金属線材1およびガス感応部2を備える第二ガス検出手段20(本発明例2)に使用するものをそれぞれ作製した。
【0066】
アンチモン(Sb+5)を0.1モル%ドープして所定の電導度を得た酸化スズ(SnO
2)半導体のペーストを、白金コイルに塗布して直径が約0.5mmの球状になるように形成し、乾燥後、白金コイルに通電してジュール熱により加熱し、650℃で1時間、酸化スズを焼結させた。
【0067】
酸化スズの半導体に、1モル/Lのモリブデン酸アンモン水溶液の液滴を含浸させ、20℃で60分乾燥させた。乾燥後、白金コイルに通電(1時間)して約600℃で加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物を金属酸化物半導体(ガス感応部)の表面に担持させた。このようにして得られた半導体式ガス検知素子X’(本発明例2:第二ガス検出手段20に使用する)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
尚、金属酸化物半導体にランタン酸化物を添加する場合は、酸化スズの半導体に例えば1mol/Lの硝酸ランタン水溶液を含浸させ、金属酸化物半導体に鉛酸化物を添加する場合は、酸化スズの半導体に例えば0.5mol/Lの硝酸鉛水溶液を含浸させるとよい。
【0068】
触媒層3は、以下のようにして作製した。
アルミナの粉末100gに、タングステン酸アンモニウムの水溶液(0.1mol/L)を含浸法により0.1〜10mol%(最適添加量2mol%)になるように添加した後、乾燥し、電気炉で700℃で2時間焼成した。これを粉砕し、水で練ってペースト状とし前述の金属酸化物半導体の表面全周に塗布する。さらに室温で乾燥後、600℃で1時間加熱し、焼結させ形成する。
このようにして得られた本発明の半導体式ガス検知素子X(本発明例1:第一ガス検出手段10に使用する)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0069】
〔実施例2〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’(ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)と、比較例1として酸化スズを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの検知感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0070】
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を
図3、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図4に示した。
【0071】
図3より、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、メタン、一酸化炭素に比べて増感されたと認められた。一方、
図4より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も明確に増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
よって、半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加することにより、におい成分を感度よく検出することができるものと認められた。
【0072】
〔実施例3〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’と、比較例1の半導体式ガス検知素子とにおいて、シリコーンガス(OMCTS:Octamethylcyclotetrasiloxane、10ppm)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。検知対象のガスは、空気、エタノール(5〜100ppm)とした。
【0073】
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を
図5、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図6に示した。
【0074】
図5より、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’では、シリコーンガス存在下であっても安定した(ほぼ一定の)ガス感度が得られるものと認められた。一方、
図6より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、特にシリコーンガスの曝露初期において、ガス感度が急変するため、シリコーンガス存在下では不安定なガス感度を示すものと認められた。
【0075】
〔実施例4〕
実施例1で説明した本発明例2の半導体式ガス検知素子X’の作製方法において、使用した酸化スズの半導体ペーストを酸化インジウム(In
2O
3)の半導体ペーストに替えて半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子X’(本発明例3:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0076】
〔実施例5〕
本発明例3の半導体式ガス検知素子X’と、比較例2として酸化インジウムを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0077】
本発明例3の半導体式ガス検知素子X’による測定結果を
図7、比較例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図8に示した。
【0078】
図7より、本発明例3の半導体式ガス検知素子X’では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は増感されたものと認められた。一方、
図8より、比較例2の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
【0079】
〔実施例8〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加するモリブデン酸化物の有効濃度を調べた。
【0080】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量が0.001〜30モル%となるように、11種類(表1)の半導体式ガス検知素子を製造した。これら半導体式ガス検知素子について、におい成分であるエタノール100ppm、アセトン100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。結果を表1および
図9に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
この結果、モリブデン酸化物の含有量が0.1モル%以上、特に0.5モル%以上において優れたガス感度を有するものと認められた。
【0083】
また、上記11種類の半導体式ガス検知素子において、シリコーンガス(OMCTS)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。ガス感度の変化は、半導体式ガス検知素子をシリコーンガス10ppmに対して20時間曝露したときの、エタノール100ppmの感度変化率(20時間暴露時の測定値/初期測定値)で表した。結果を表2および
図10に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、良好なガス感度を有するものと認められる。モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.5の範囲に収まるものと認められた。また、モリブデン酸化物の含有量が1〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.2の範囲に収まるため、より良好なガス感度を有するものと認められた。
従って、モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であれば、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できることが判明した。
【0086】
〔実施例9〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加するランタン酸化物の有効濃度を調べた。
【0087】
モリブデン酸化物を添加した金属酸化物半導体に対してランタン酸化物0〜3モル%を添加し、シリコーンガスに曝露(10ppm、100時間曝露)した前後において、ガス感度の変化率(シリコーンガス暴露後の100ppm感度/シリコーンガス暴露前の100ppm感度)が1.0〜1.5の範囲に収まるものを調べた。上述したように、半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、シリコーンガスに対して影響されないものと認められる。
【0088】
結果を
図11(a)に示した。
図11(a)より、当該変化率が1.0〜1.5を示すのは、概ねランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲となっている。従って、ランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲であれば、シリコーンガスに対して影響されないものと認められる。
【0089】
また、ランタン酸化物が0〜3モル%の範囲において、エタノール100ppmに対する感度(mV)を測定した。金属酸化物半導体にはモリブデン酸化物2モル%添加し、触媒層3にはタングステン酸化物2モル%を添加したものを使用し、触媒層3の有無、および、鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%の間で変化させた半導体式ガス検知素子を使用して測定を行った。結果を
図11(b)に示した。
【0090】
エタノールの最高感度は、触媒層3なしの半導体式ガス検知素子X’(実験例1)において、ランタン酸化物が0.1モル%の場合の測定値251mVであった。本実施例ではこの測定値の7割(175mV)以上であれば良好な感度であると判断し、かつ、触媒層3ありの半導体式ガス検知素子X(本発明例1)の感度が、触媒層3なしの半導体式ガス検知素子X’(実験例1)の1/2以下となるときにエタノールの除去性能が優れたものと判断した。その結果、ランタン酸化物の含有量が0.05〜1モル%の範囲であればこれらの条件を満たし、エタノールの除去性能が優れていると認められた。
【0091】
〔実施例10〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子X’において、ガス感応部に添加する鉛酸化物の有効濃度を調べた。
【0092】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量を、0.5,2.0,10モル%とした場合に、鉛酸化物の含有量を0.005〜5モル%の範囲となるようにそれぞれ7種類(表3)の半導体式ガス検知素子X’を製造した(合計21種類)。これら半導体式ガス検知素子X’について、エタノール100ppm、水素100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。鉛酸化物の有効濃度は、におい成分の選択性が優れている範囲を適用すればよい。におい成分の選択性が優れている範囲は、可燃性ガス感度/エタノール感度の比を1以下とする。結果を表3に示した。
【0093】
【表3】
【0094】
この結果、鉛酸化物の含有量を0.01〜5モル%の範囲とすれば、水素感度/エタノール感度の比が1以下となるものと認められた。ただし、水素感度/エタノール感度の比が1以下となる場合であっても、におい成分(エタノール)の感度が低いのは好ましくない。従って、鉛酸化物の含有量の上限値は、におい成分(エタノール)の最高感度(モリブデン酸化物の含有量が0.5モル%、鉛酸化物の含有量が0.5モル%の場合の感度170mV)の50%以上を有する感度となる鉛酸化物の含有量のうち、最大とするのが好ましい。これらのことから、鉛酸化物の含有量は、0.01〜1モル%の範囲とするのが好ましい。
【0095】
従って、鉛酸化物の含有量が0.01〜1モル%の範囲であれば、水素の感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができることが判明した。尚、結果は示さないが、水素だけでなく、メタンやエチレンなどのVOCガス以外の感度についても同様に低下させることができる。
【0096】
〔実施例11〕
触媒層3に添加したタングステン酸化物の添加量を0〜10モル%の間で変化させた場合に、エタノール100ppmに対する感度およびアセトン100ppmに対する感度がどのように変化するかを調べた。金属酸化物半導体にはモリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物0.5モル%および鉛酸化物0.5モル%を添加したものを使用した。結果を表4に示した。
【0097】
【表4】
【0098】
この結果、タングステン酸化物の添加量を変化させた場合においてもアセトン100ppmに対する感度は顕著な変化が認められなかったのに対して、エタノール100ppmに対する感度は、タングステン酸化物の添加量を0.1〜10モル%とした場合にはタングステン酸化物の添加量が0である場合に比べて、顕著に抑制されているものと認められた。
尚、本実施例では触媒層3に担持される担持物としてタングステン酸化物を使用した場合について説明したが、モリブデン酸化物であっても同様の結果を示した(結果は示さない)。
【0099】
〔実施例12〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子X(本発明例1、金属酸化物半導体:モリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物1モル%、鉛酸化物0.5モル%を含有、触媒層:タングステン酸化物2モル%を含有)において、9種のガス(エタノール、スチレン、キシレン、トルエン、トリメチルアミン、アンモニア、イソブタノール、酢酸メチル、アセトン)に対する感度とガス濃度との関係について調べた(
図12)。
図12より、全てのガスに対して1ppmから感度が十分得られ、また、エタノールの感度が最も低く、エタノールと他のガスとの分離も十分良いものと認められた。
このように本構成の半導体式ガス検知素子Xは、アルコールに対する感度を抑制した状態で、におい成分(硫化水素)を感度よく検出することができる。
【0100】
また、本発明例2の半導体式ガス検知素子X’(金属酸化物半導体:モリブデン酸化物2モル%、ランタン酸化物1モル%、鉛酸化物0.5モル%を含有)において、9種のガス(エタノール、スチレン、キシレン、トルエン、トリメチルアミン、アンモニア、イソブタノール、酢酸メチル、アセトン)に対する感度とガス濃度との関係について調べた(
図13)。この結果、エタノールは他のガスと全く分離されないものと認められた。
【0101】
尚、本実施例では、触媒層3の担体としてアルミナを使用した場合について説明したが、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトのいずれか、あるいはこれらの複数からこの担体を構成しても同様の結果を示した。さらに、触媒層3に担持される担持物としてタングステン酸化物を使用した場合について説明したが、これはモリブデン酸化物であっても同様の結果を示した(何れも結果は示さない)。
【0102】
〔実施例13〕
半導体式ガス検知素子X(本発明例1:第一ガス検出手段10に使用する)と、半導体式ガス検知素子X’(本発明例2:第二ガス検出手段20に使用する)とを備えたガス検知部Aを作製し、このガス検知部Aを有する環境監視システムZを半導体製造工場のクリーンルーム内に設置し、当該クリーンルーム内に存在するガスを検知した(
図14)。
【0103】
第一ガス検出手段10においては、におい成分としてVOCガスが常時低レベル(ΔV感度200〜600程度)で検知されていた。クリーンルーム内では、AM10:00〜12:00の間に清掃のためエタノールを使用した。このとき、この時間帯において第二ガス検出手段20にてエタノール成分が、ΔV感度が1500程度の出力で検知された。
【0104】
即ち、この環境監視システムZは、クリーンルーム内に設置することで、エタノールとVOCガスの両方を同時に識別検知することができた。
【0105】
尚、第一ガス検出手段10および第二ガス検出手段20の何れにおいても、ΔV感度が1000以上となったときが警報レベルとなっている。
そのため、警報レベル以上の検出値を検出した第二ガス検出手段20の周囲の雰囲気に含まれるガス成分を分析するべく、捕集手段によって第二ガス検出手段20の周囲の雰囲気を捕集して捕集した雰囲気を分析部Eに送って分析を行った。分析部Eにおいて、ガスクロマトグラム分離カラムとして、内径4mm全長20cmのフッ素樹脂製カラム管に、粒径80〜100μmのポリフェニルエーテル(PPE)製充填材5ring Uniport−HP(GLサイエンス社製)を充填したものを用い、カラム温度25℃、キャリアガス流量60ml/分の条件でガス成分の分析を行った。
【0106】
分析部Eの分析によって得られたガス成分の分析結果を、リアルタイムで監視部Fによってモニタリングを行った。このように監視部Fに当該分析結果をモニタリングすることで、当該閉鎖空間の内部のガス成分の変化を容易に把握することができる。