特許第6442788号(P6442788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442788
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】超音波処置における周波数最適化
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   A61B17/00 700
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-560804(P2015-560804)
(86)(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公表番号】特表2016-508808(P2016-508808A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】IB2014000920
(87)【国際公開番号】WO2014135987
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】61/773,394
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508154863
【氏名又は名称】インサイテック・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ボートマン, コビ
(72)【発明者】
【氏名】ビテック, シュキ
(72)【発明者】
【氏名】ザディカリオ, エーヤル
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−534076(JP,A)
【文献】 特開昭63−177848(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61F 7/00
A61N 7/00 ― 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化システムであって、前記システムは、
(a)超音波変換器であって、前記超音波変換器の少なくとも1つの区画に対しておよび試験範囲内の複数の超音波周波数の各々に対して、前記超音波変換器は、前記標的を音波処理するように構成されている、超音波変換器と、
(b)前記標的を音波処理するように、前記超音波変換器を前記試験範囲内の任意の周波数において駆動するように構成されているコントローラと、
(c)前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的におけるピーク音波処理強度と相関されるパラメータを測定するための手段と、
)前記少なくとも1つの区画の各々のための、後続の超音波療法のために前記試験範囲内の周波数のうち前記測定されたパラメータの値に対応する周波数を選択するための手段であって、前記測定されたパラメータの値自体が、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大量または前記標的における最大ピーク音波処理強度に対応する、手段と
を含み、
前記超音波変換器は、複数の区画を備える、システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記少なくとも1つの区画を前記選択された周波数および治療用エネルギーレベルにおいて駆動し、それによって、前記標的を音波処理するように構成されており、前記治療用エネルギーレベルは、(a)で印加された音波処理のエネルギーレベルを超える請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
(a)、(b)、(c)、および()は、前記超音波変換器内の前記複数の区画の各々のためのものであり超音波療法の間、前記コントローラは、前記複数の区画をともに、各々その個別の選択された周波数において駆動するように構成されており、前記複数の区画は、前記患者の生体構造に少なくとも部分的に基づいて定義される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記試験範囲内の前記複数の周波数は、以前に試験された周波数に関して測定された前記パラメータの値に少なくとも部分的に基づいて、動的に定義される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記パラメータは、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、および温度から成る群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記パラメータは、温度測定を使用して測定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムであって、前記システムは、
超音波変換器と、前記標的を音波処理するように、前記変換器を周波数の試験範囲内の任意の周波数において駆動可能な関連付けられたコントローラと、
前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的におけるピーク音波処理強度と相関されるパラメータを測定するための測定設備と、
(i)前記超音波変換器コントローラに、前記標的を音波処理するように前記試験範囲内の複数の周波数の各々において前記変換器の少なくとも1つの区画を連続して駆動させることと、(ii)前記測定設備に、前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的におけるピーク音波処理強度と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)前記少なくとも1つの区画の各々に対して、後続の集束超音波療法のために、前記試験範囲内の周波数のうち、前記測定されたパラメータの値に対応する周波数を選択することであって、前記測定されたパラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大量または前記標的における最大ピーク音波処理強度に対応する、こととのための計算設備と
を備え、
前記超音波変換器は、複数の区画を備える、システム。
【請求項8】
前記測定設備は、磁気共鳴撮像装置を備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラは、前記超音波変換器に、超音波療法の間、前記複数の区画をともに、各々その個別の選択された周波数において駆動させるように構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化システムであって、前記システムは、
超音波変換器アレイ内の複数の区画と、
前記複数の区画の各々に対して別個に、前記標的を音波処理するように試験周波数範囲内の複数の周波数の各々に対して前記区画を連続的に駆動するための手段と、
前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的におけるピーク音波処理強度と相関されるパラメータを測定するための手段と、
前記複数の周波数の各々に対して、前記複数の区画に関して測定された前記パラメータの値を組み合わせて、前記標的において吸収される超音波エネルギーの総量または前記標的における総ピーク音波処理強度と相関される総パラメータ値にするための手段と、
後続の集束超音波療法のために、前記複数の周波数のうち、前記測定された総パラメータの値に対応する周波数を選択するための手段であって、前記測定された総パラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大総量または前記標的における最大総ピーク音波処理強度に対応する、手段と
を含む、システム。
【請求項11】
前記パラメータは、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、または温度から成る群から選択される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記パラメータは、温度測定を使用して測定される、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記パラメータは、音響放射力撮像を使用して測定される、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムであって、前記システムは、
複数の区画を備える超音波変換器と、前記標的を音波処理するように、前記変換器区画のそれぞれを周波数の範囲内の複数の周波数のいずれかにおいて駆動可能である関連付けられたコントローラと、
前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的におけるピーク音波処理強度と相関されるパラメータを測定するための測定設備と、
(i)前記超音波変換器コントローラに、前記標的を音波処理するように試験範囲内の複数の周波数の各々において前記区画のそれぞれを別個に連続して駆動させることと、(ii)前記測定設備に、前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量または前記標的における音波処理ピーク強度と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)前記複数の周波数の各々に対して、前記複数の区画に関して測定された前記パラメータの値を組み合わせて前記標的において吸収される超音波エネルギーの総量または前記標的における総ピーク音波処理強度と相関される総パラメータ値にすることと、(iv)後続の集束超音波療法のために、前記複数の周波数のうち、前記測定された総パラメータの値に対応する最適周波数を選択することであって、前記測定された総パラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大総量または前記標的における最大総ピーク音波処理強度に対応する、こととのための計算設備と
を備える、システム。
【請求項15】
前記測定設備は、磁気共鳴撮像装置を備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記測定されるパラメータは、組織変位である、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記コントローラは、前記超音波変換器に、超音波療法の間、前記選択される最適周波数において前記複数の区画をともに駆動させるように構成されている、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2013年3月6日に出願された米国仮特許出願第61/773,394号の優先権および利益を主張し、その全体を参照によって本明細書に援用する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、概して、集束超音波療法に関し、より具体的には、標的における増加したエネルギー蓄積のために、超音波周波数を最適化するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
集束超音波(すなわち、約20キロヘルツを上回る周波数を有する音響波)は、患者内の内部身体組織を撮像する、または治療的に処置するために使用されることができる。例えば、超音波は、腫瘍を切除するために使用され、患者が侵襲的外科手術を受ける必要性を排除してもよい。本目的のために、圧電セラミック変換器が、患者外であるが、切除されるべき組織(「標的」)に近接して置かれる。変換器は、電子駆動信号を機械的振動に変換し、音響波の放出をもたらす(以下、「音波処理」と称されるプロセス)。変換器は、波が集束帯内に収束するように成形されてもよい。代替として、または加えて、変換器は、複数の個々に駆動される変換器要素から形成されてもよく、その位相(および随意に、振幅)はそれぞれ、相互から独立して制御されることができ、したがって、集束帯内に個々の音響波の強めあう干渉をもたらすように設定されることができる。そのような「位相アレイ」変換器は、変換器間の相対的位相を調節することによって、集束帯を異なる場所に操向することを促進する。磁気共鳴像(MRI)が、超音波ビームを誘導するために、焦点および標的を視覚化するために利用されてもよい。
【0004】
図1は、例示的MRI誘導集束超音波システム100を図示する。システム100は、筐体104の表面にアレイとして配列される、複数の超音波変換器要素102を含む。アレイは、変換器要素102の単一行またはマトリクス、あるいは、概して、任意の配列を備えてもよい。アレイは、図示されるように、湾曲(例えば、球状または放物線)形状を有してもよく、あるいは1つまたは複数の平面または別様に成形された区分を含んでもよい。その寸法は、用途に応じて、数ミリメートルと数十センチメートルとの間で変動してもよい。変換器要素102は、圧電セラミック要素であるか、あるいは圧電複合材または電気エネルギーを音響エネルギーに変換可能な任意の他の材料から作製されてもよい。要素102間の機械的結合を減衰させるために、それらは、シリコーンゴムまたは任意の他の好適な減衰材料を使用して、筐体104上に搭載されてもよい。
【0005】
変換器要素102は、制御設備106によって、別個の駆動チャネルを介して駆動される。n個の変換器要素102の場合、制御設備106は、n個の制御回路を含んでもよく、それぞれ、増幅器および位相遅延回路を備え、各制御回路は、変換器要素102のうちの1つを駆動する。制御設備は、典型的には、0.1MHz〜4MHzの範囲内の無線周波数(RF)入力信号をn個の制御回路のためのn個のチャネルに分割してもよい。従来のシステムでは、制御設備106は、集合的に、集束超音波ビームを所望の場所において生成するように、同一周波数においてであるが、異なる位相および異なる振幅において、アレイの個々の変換器要素102を駆動するように構成される。制御設備106は、望ましくは、計算機能性を提供し、これは、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、ハード配線、または任意のそれらの組み合わせにおいて実装され、所望の集束場所のために要求される位相および振幅を計算してもよい。これらの位相/振幅計算は、例えば、解剖学的着目領域のコンピュータ断層撮影(CT)または他の画像に基づいて決定され得る、組織界面における超音波反射または屈折から生じる収差、あるいは種々の音響パラメータを有する組織内の伝搬を補償する補正を含んでもよい。一般に、制御設備106は、周波数発生器、増幅器および位相遅延回路を含むビーム形成器、ならびに計算を行い、個々の変換器102のための位相および振幅をビーム形成器に通信するコンピュータ(例えば、汎用コンピュータ)等のいくつかの分離可能装置を含んでもよい。そのようなシステムは、容易に利用可能であるか、または過度の実験を伴わずに、実装されることができる。
【0006】
システム100はさらに、制御設備106と通信する、MRI装置108を含む。例示的装置108は、図2により詳細に図示される。装置108は、円筒形電磁石204を含んでもよく、これは、電磁石204のボア206内に静的磁場を発生させる。医療手技の間、患者は、ボア206の内側の可動支持台208上に置かれる。患者内の着目領域210(例えば、患者の頭部)は、磁場が実質的に均質である撮像領域212内に位置付けられてもよい。撮像領域212を囲む無線周波数(RF)送信機コイル214は、RFパルスを撮像領域212の中に放出し、着目領域210から放出されるMR応答信号を受信する。MR応答信号は、画像処理システム216を使用して、増幅され、調整され、未加工データにデジタル化され、さらに、当業者に公知の方法によって、画像データのアレイに変換される。画像データに基づいて、処置領域(例えば、腫瘍)が、識別される。MRI装置のボア206内に、いくつかの実施形態では、撮像領域212内に配置された超音波位相アレイ220が、次いで、超音波を処置領域の中に集束させるように駆動される。MRI装置108は、音波処理される組織上に及ぼす影響に基づいて、焦点112を視覚化することを促進する。例えば、種々のMRIベースの温度測定方法のいずれかが、集束領域内の超音波吸収から生じる温度増加を観察するために採用されてもよい。代替として、MRベースの音響放射力撮像(ARFI)が、焦点における組織変位を測定するために使用されてもよい。焦点のそのような測定は、超音波変換器アレイ220を駆動するためのフィードバックとしての役割を果たすことができる。
【0007】
集束超音波処置の目標は、概して、標的を囲む健康な組織ならびに変換器と標的との間の経路に沿った組織の超音波への暴露を最小限にしながら、標的において吸収されるエネルギーの量を最大限にすることである。組織内の超音波吸収度は、以下によって求められる周波数の関数である。
【0008】
【化1】
式中、Iは、組織の中への進入点における超音波強度(W/cmで測定される)であり、Iは、距離z(cmで測定さされる)にわたる組織を通したビーム伝搬後の強度であり、fは、超音波の周波数(MHzで測定される)であり、αは、その周波数における吸収係数(cm−1・MHz−1で測定される)である。積α・fが高いほど、標的領域内の吸収度は、大きくなるが、途中で吸収される超音波の割合もまた、より高くなり、したがって、標的領域に決して到達しない。本トレードオフは、組織深度zにおける1cmの標的組織に沿って吸収される(すなわち、組織の距離zを通したビーム伝搬後の)超音波エネルギーの割合Eによって捉えられ得る。
【0009】
【化2】
従来の超音波処置手技では、超音波周波数は、Eを最大限にするために、前述の関係に基づいて選択される。しかしながら、本アプローチは、反射、屈折、および散乱等の、焦点におけるエネルギー蓄積に影響を及ぼす他の超音波−組織相互作用の影響を考慮することができない。いくつかの状況では、そのような相互作用は、実質的である。例えば、超音波を脳の中に集束させるとき、ビームは、図3に図示されるように、皮質層から、および皮質層間で複数の反射を被り得る。故に、標的におけるエネルギー蓄積を改善するために周波数選択を精緻化する能力は、超音波処置の性能および安全性を改善する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(概要)
本発明は、特定の周波数範囲内の、最適周波数、すなわち、標的における吸収または音響強度を最大限にするものを決定することを伴う集束超音波処置方法と、そのような方法を実装するためのシステムに関する。(用語「最適」、「最適化」、「最大」、「最大限化」等は、本明細書で使用される場合、概して、先行技術を上回る実質的改良(例えば、10%超、20%超、または30%超)を伴うが、必ずしも、最良の理論上可能な周波数、エネルギー吸収等を達成することを意味するものではない。むしろ、標的における周波数の最適化またはエネルギーの最大限化は、利用される技術および方法の制限内で実践的に判別可能な最良周波数を選択することを伴う。)本発明は、標的部位において吸収される超音波エネルギーの量が、吸収以外の組織相互作用機構によって著しく影響されるという認識に基づいており、本発明は、従来通り計算された吸収ベースの周波数から逸脱する超音波周波数を選択することによって、有意に改良されることができる。
【0011】
故に、本発明の実施形態は、処置周波数を選択する際、複数の超音波−組織相互作用を考慮する。原則として、これは、例えば、有限要素方法を使用して、種々の周波数における超音波ビームと患者の組織との相互作用をシミュレートすることによって、計算的に遂行されることができる。シミュレーションは、例えば、コンピュータ断層撮影または超短エコー時間(TE)MRIによって取得されるような詳細組織モデルに基づいてもよい。モデルは、概して、複数の組織タイプまたは層(例えば、頭蓋骨、皮質骨の層、骨髄、および軟脳組織の中に集束する超音波の場合)を含み、その個別の物質特性を特性評価する。しかしながら、最適周波数は、類似標的部位にもかかわらず、多くの場合、現在の組織撮像およびモデル化技法を用いて適性に捕捉されることができないか、または非実践的であるほど計算上高価であるかのいずれかの様式において、人毎に著しく変動することが観察されている。したがって、好ましい実施形態では、最適周波数は、実験的に、かつ個々に、患者毎に決定される。これは、処置に先立って、規定された範囲内のいくつかの周波数(概して、組織へのいかなる損傷も生じさせないほど十分に低いエネルギーレベル)において標的における超音波吸収(または、それを示す数量)を測定し、測定に基づいて、最適周波数を識別することによって行われてもよい。本方法は、標的において吸収される超音波エネルギーの量に対する全ての(公知または未知の)寄与要因を暗黙的に考慮する。代替として、反射等の特定のメカニズムが、変換器と標的との間の超音波の減衰を左右することが見出される場合、そのメカニズムの影響は、実験的に定量化され、周波数は、影響を最小限にするように選択されてもよい。例えば、超音波を脳の中に集束させるとき、ビームは、皮質層から、および皮質層間で複数の反射を被り得る。本シナリオでは、周波数を最適化する方法の1つは、総頭蓋骨反射率(全ての反射されたビームからの寄与の和)を測定し、反射されたビームが最小限にされる周波数を選択することである。
【0012】
故に、一実施形態では、本発明は、患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化方法に関する。本方法は、標的を音波処理し、試験範囲内の複数の超音波周波数毎に、(例えば、温度測定を使用して)標的内に吸収される超音波エネルギーの量と関連付けられたパラメータ(例えば、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、および温度)を測定するステップを伴う。いくつかの実施形態では、変換器は、複数の区画(例えば、少なくとも部分的に、患者の生体構造に基づいて、定義されてもよい)を含み、パラメータは、試験周波数および区画毎に測定される。試験範囲内の周波数のうち、標的内に吸収される超音波エネルギーの最大量にそれ自体が対応する測定されるパラメータの値に対応する周波数が、選択される(変換器全体または各区画のために)。いくつかの実施形態では、試験範囲内の複数の周波数は、少なくとも部分的に、以前に試験された周波数に関して測定されるパラメータの値に基づいて、動的に定義される。周波数選択に続いて、変換器(または、変換器区画)は、選択された周波数(または、複数の周波数)および処置用エネルギーレベルで駆動され、それによって、標的を音波処理してもよい。処置用エネルギーレベルは、典型的には、試験の間に印加された音波処理のエネルギーレベルを超える。複数区画実施形態では、区画は、各々その個別の選択された周波数において、連続して、(例えば、周期的に)または同時に、駆動されてもよい。
【0013】
さらなる側面は、患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムを対象とする。本システムは、超音波変換器と、標的を音波処理するように、変換器を周波数の試験範囲内の任意の周波数において駆動可能な関連付けられたコントローラと、標的内に吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定するための測定設備(例えば、MRI装置)とを含む。本システムはさらに、(i)超音波変換器コントローラに、標的を音波処理するように、試験範囲内の複数の周波数の各々に対して、変換器の1つまたは複数の区画を連続して駆動させることと、(ii)測定設備に、周波数の各々に対して、標的内に吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)区画の各々に対して、後続の集束超音波療法のために、試験範囲内の周波数のうち、標的内に吸収される超音波エネルギーの最大量にそれ自体が対応する測定されるパラメータの値に対応する周波数を選択するための計算設備を有する。超音波変換器が複数の区画を有する実施形態では、コントローラは、超音波変換器に、超音波療法の間、区画を、各々その個別の選択された周波数においてともに駆動させるように構成されてもよい。代替として、区画は、連続して、例えば、周期的に、駆動されてもよい。
【0014】
さらに別の側面は、超音波変換器アレイ内の複数の区画を定義することと、区画の各々に対して別個に、標的を音波処理するように、試験周波数範囲内の複数の周波数の各々において区画を連続的に駆動することとを伴う、標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化方法を提供する。音波処理毎に、標的内に吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータ(例えば、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、および/または温度)が、周波数毎に測定される(例えば、温度測定または音響放射力撮像を使用して)。複数の区画に関して測定されたパラメータの値は、複数の周波数毎に、標的内に吸収される超音波エネルギーの総量と相関される総パラメータ値に組み合わせられてもよい。複数の周波数のうち、標的内に吸収される超音波エネルギーの最大総量にそれ自体が対応する測定された総パラメータの値に対応する周波数が、次いで、後続の療法のために選択される。
【0015】
さらなる側面では、患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムが、提供される。本システムは、複数の区画を備える超音波変換器と、標的を音波処理するように、変換器区画のそれぞれを周波数の範囲内の複数の周波数のいずれかにおいて駆動可能なおよび関連付けられたコントローラと、標的内に吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータ(例えば、組織変位等)を測定するための測定設備(例えば、MRI装置)とを含む。さらに、本システムは、(i)超音波変換器コントローラに、標的を音波処理するように試験範囲内の複数の周波数の各々に対して区画のそれぞれを別個に連続して駆動させることと、(ii)測定設備に、周波数の各々に対して、標的内に吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)複数の周波数の各々に対して、複数の区画に関して測定されたパラメータの値を標的内に吸収される超音波エネルギーの総量と相関される総パラメータ値に組み合わせ、(iv)後続の集束超音波療法のために、複数の周波数のうち、標的内に吸収される超音波エネルギーの最大総量にそれ自体が対応する測定された総パラメータの値に対応する最適周波数を選択するための計算設備を含む。コントローラは、超音波変換器に、超音波療法の間、選択される最適周波数において区画をともに駆動させるように構成されてもよい。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化方法であって、前記方法は、
(a)超音波変換器の少なくとも1つの区画に対して、かつ試験範囲内の複数の超音波周波数の各々に対して、前記標的を音波処理し、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定することと、
(b)前記少なくとも1つの区画の各々に対して、後続の超音波療法のために、前記試験範囲内の周波数のうち、前記測定されたパラメータの値に対応する周波数を選択することであって、前記測定されたパラメータの値自体が、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大量に対応する、ことと
を含む、方法。
(項目2)
ステップ(b)における周波数選択に続いて、前記少なくとも1つの区画を前記選択された周波数および治療用エネルギーレベルに駆動し、それによって、前記標的を音波処理することであって、前記治療用エネルギーレベルは、ステップ(a)において印加された音波処理のエネルギーレベルを超える、ことをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記患者の生体構造に少なくとも部分的に基づいて、前記超音波変換器内の複数の区画を定義することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
ステップ(a)およびステップ(b)は、前記区画の各々に対して行われ、前記方法は、超音波療法の間、前記区画をともに、各々その個別の選択された周波数において駆動することをさらに含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記試験範囲内の複数の周波数は、以前に試験された周波数に関して測定されるパラメータの値に少なくとも部分的に基づいて、動的に定義される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記パラメータは、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、および温度から成る群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記パラメータは、温度測定を使用して測定される、項目1に記載の方法。
(項目8)
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムであって、前記システムは、
超音波変換器と、前記標的を音波処理するように、前記変換器を周波数の試験範囲内の任意の周波数において駆動可能な関連付けられたコントローラと、
前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定するための測定設備と、
(i)前記超音波変換器コントローラに、前記標的を音波処理するように、前記試験範囲内の複数の周波数の各々において、前記変換器の少なくとも1つの区画を連続して駆動させることと、(ii)前記測定設備に、前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)前記少なくとも1つの区画の各々に対して、後続の集束超音波療法のために、前記試験範囲内の周波数のうち、前記測定されたパラメータの値に対応する周波数を選択することであって、前記測定されたパラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大量に対応する、こととのための計算設備と
を備える、システム。
(項目9)
前記測定設備は、磁気共鳴撮像装置を備える、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記超音波変換器は、複数の区画を備える、項目8に記載のシステム。
(項目11)
前記コントローラは、前記超音波変換器に、超音波療法の間、前記区画をともに、各々その個別の選択された周波数において駆動させるように構成されている、項目10に記載のシステム。
(項目12)
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数最適化方法であって、前記方法は、
超音波変換器アレイ内の複数の区画を定義することと、
前記区画に対して別個に、前記標的を音波処理するように試験周波数範囲内の複数の周波数の各々に対して前記区画を連続的に駆動することと、
前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定することと、
前記複数の周波数の各々に対して、前記複数の区画に関して測定された前記パラメータの値を組み合わせて、前記標的において吸収される超音波エネルギーの総量と相関される総パラメータ値にすることと、
後続の集束超音波療法のために、前記複数の周波数のうち、前記測定された総パラメータの値に対応する周波数を選択することであって、前記測定された総パラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大総量に対応する、ことと
を含む、方法。
(項目13)
前記パラメータは、電力、エネルギー、強度、音響力、組織変位、または温度から成る群から選択される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記パラメータは、温度測定を使用して測定される、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記パラメータは、音響放射力撮像を使用して測定される、項目12に記載の方法。
(項目16)
患者内の標的の超音波療法のための患者特異的周波数を選択するためのシステムであって、前記システムは、
複数の区画を備える超音波変換器と、前記標的を音波処理するように、前記変換器区画のそれぞれを周波数の範囲内の複数の周波数のいずれかにおいて駆動可能である関連付けられたコントローラと、
前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定するための測定設備と、
(i)前記標的を音波処理するように、試験範囲内の複数の周波数の各々において、前記超音波変換器コントローラに、前記区画のそれぞれを別個に連続して駆動させることと、(ii)前記測定設備に、前記周波数の各々に対して、前記標的において吸収される超音波エネルギーの量と相関されるパラメータを測定させることと、(iii)前記複数の周波数の各々に対して、前記複数の区画に関して測定された前記パラメータの値を組み合わせて前記標的において吸収される超音波エネルギーの総量と相関される総パラメータ値にすることと、(iv)後続の集束超音波療法のために、前記複数の周波数のうち、前記測定された総パラメータの値に対応する最適周波数を選択することであって、前記測定された総パラメータの値自体は、前記標的において吸収される超音波エネルギーの最大総量に対応することとのための計算設備と
を備える、システム。
(項目17)
前記測定設備は、磁気共鳴撮像装置を備える、項目16に記載のシステム。
(項目18)
前記測定されるパラメータは、組織変位である、項目16に記載のシステム。
(項目19)
前記コントローラは、前記超音波変換器に、超音波療法の間、前記区画をともに前記選択される最適周波数において駆動させるように構成されている、項目16に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0016】
前述および以下の詳細な説明は、図面と関連して検討されるとき、より容易に理解されるであろう。
図1図1は、種々の実施形態による、MRI誘導集束超音波システムを図式的に図示する。
図2図2は、種々の実施形態による、MRIシステムを図示する。
図3図3は、脳処置シナリオにおける、変換器と処置標的との間に位置する組織境界による超音波の反射を図示する。
図4図4は、種々の実施形態による、音波処理周波数を最適化するための方法を例証する、フローチャートである。
図5A図5Aおよび図5Bは、例示的処置シナリオのための周波数から実験的に決定されたエネルギー吸収と、予測されたその依存性のグラフである。
図5B図5Aおよび図5Bは、例示的処置シナリオのための周波数から実験的に決定されたエネルギー吸収と、予測されたその依存性のグラフである。
図6図6は、一実施形態による、脳処置のための超音波変換器の区画化を図示する。
図7図7は、種々の実施形態による、複数の変換器区画の音波処理周波数を別個に最適化するための方法を例証する、フローチャートである。
図8図8は、種々の実施形態による、音波処理周波数を最適化するためのシステムを例証する、ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(詳細な説明)
種々の実施形態では、本発明は、特定の患者のための集束超音波手技において、音波処理の周波数を最適化するための方法を提供する。例示的方法は、図4に図示される。処置構成が設定され、患者が(例えば、図2に描写されるように)超音波変換器および撮像装置108内またはそれに対して置かれた後、関連組織領域の画像が、取得および処理され、その中の標的を識別してもよい(ステップ400)。次いで、標的にビーム集束をもたらす超音波変換器要素102の相対的位相および/または振幅設定が、変換器および標的の相対的位置ならびに任意の先験的知識および/または介在組織に関する画像導出情報に基づいて、計算されてもよい(ステップ402)。位相および/または振幅設定は、標的に対する集束の質および/または集束場所の観察に基づいて、周波数最適化プロセス前、後、および/またはその間の1回または複数回、実験的に精緻化されてもよい(ステップ404)。計算的および実験的位相/振幅決定および調節のための方法は、当業者に周知である。変換器は、次いで、標的を音波処理するために、決定された位相および振幅設定に従って駆動される。
【0018】
超音波の周波数を最適化するために、標的は、周波数の「試験範囲」内の異なる「試験周波数」において連続して音波処理され、試験された周波数毎に、標的内のエネルギー吸収を示すパラメータが、測定される。試験範囲は、超音波処置のために好適な周波数の全範囲(例えば、種々の実施形態では、0.1MHz〜4MHz)に及んでもよいが、典型的には、はるかにより小さいその部分範囲であり、その中に、最適周波数が予期される。そのような部分範囲は、例えば、最適周波数の計算推定値、シミュレーションの結果、あるいは別の患者内の同一器官または組織に関して取得された実験データに基づいて決定されてもよい。試験されるべき周波数は、試験範囲にわたって、均一または非均一に分布されてもよい。種々の実施形態では、試験周波数の密度は、推定される最適周波数に近接するほど増加する。試験範囲およびその中の試験周波数は、事前に決定されてもよい、または最適化プロセスの間に動的に調節されてもよい。例えば、一実施形態では、試験が、最初に、大きな試験範囲(例えば、600〜750kHz)にわたって、大きな周波数間隔(例えば、20kHzずつ)で行われ、標的において高エネルギー吸収をもたらす周波数の部分範囲を決定し、最適周波数は、その後、より小さい間隔(例えば、10kHzまたは5kHzずつ)において試験することによって、部分範囲内で決定される。別の実施形態では、試験は、所定の潜在的試験周波数のサブセットに関して行われ、各実際の試験周波数は、以前の試験の結果に基づいて、潜在的試験周波数のセットから選択される。
【0019】
したがって、周波数の最適化は、試験周波数を反復的に設定すること(ステップ406)、標的を選択された周波数において音波処理すること(ステップ408)、例えば、吸収されるエネルギーから生じる標的内の温度増加を測定するためのMRI温度測定、標的における音響圧力から生じる組織変位を測定するためのMR−ARFI、反射される(すなわち、吸収されない)超音波の強度を測定するための超音波検出、または、概して、公知かつ予測可能な態様で標的におけるエネルギー吸収と相関するパラメータを測定するための任意の実験技法を使用して、標的における結果として生じるエネルギー吸収を定量的に査定すること(ステップ410)を伴う。測定されるパラメータの最大値(例えば、温度または圧力の場合)または最小値(例えば、反射の場合)が、次いで、決定され、標的におけるエネルギー吸収が最大限にされる試験周波数を識別する(ステップ412)。周波数最適化に続いて、位相アレイ変換器の位相および/または振幅設定が、選択された周波数のための焦点を最適化するために調節されてもよい。処置が、次いで、最適周波数および位相/振幅設定において開始してもよい(ステップ414)。
【0020】
本明細書による周波数最適化の有用性は、エネルギー吸収が、周波数に伴って、有意に、かつ多くの場合、非単調に変動し、特定の患者に関する最適周波数が、典型的には、予測不能であるという事実から派生する。例えば、図5Aは、頭蓋骨の内側に置かれたハイドロホンによって、生体外頭蓋骨に関して600kHz〜760kHzのいくつかの周波で測定された超音波ピーク強度を図示する。示されるように、600kHzで達成されたピーク強度は、720kHzのものより約50%高く、740kHzにおけるピーク強度は、720kHzのものより30%超高い。短周波数範囲にわたるそのような大きな強度変動は、方程式(2)を用いてモデル化されるように、吸収のみから生じる周波数に伴う強度変動と比較すると、驚くべきものである。(図5Bは、方程式(2)を使用して、例えば、α=0.06Napiers/cm/MHzの吸収係数(脳組織に関して近似化される)を有する軟組織の6cm内側に位置する1cm標的において吸収されるエネルギーΕの割合を示す。図から分かるように、吸収されるエネルギーは、超音波周波数の関数として平滑に変動し、図5Aにおいて反映された、720Hzにおける実験的に見出された最小値のような急降下を含まない。異なる頭蓋骨に関する類似測定は、同様に、ピーク強度に高変動を露見させ得るが、概して、異なる周波数依存性を伴う(例えば、強度が最小限または最大限にされる、異なる周波数)。
【0021】
ある処置シナリオでは、異なる方向から標的に向かって伝搬する超音波は、異なる厚さの組織層および異なる音響インピーダンス等、非常に変動する生体構造に遭遇し得る。例えば、経頭蓋超音波処置手技の間、異なる方向から生じる音響ビームは、異なる厚さの皮質頭蓋骨、異なる厚さの骨髄等、ならびに軟組織内の吸収係数の変動性に遭遇し得る。種々の他の臨床シナリオでは、軟組織のうちのいくつかは、予期されるものよりはるかに高い石灰化含有量を有し、したがって、近傍場においてはるかに高い減衰を有し得る。これらの場合、標的における全体的エネルギー蓄積は、変換器アレイの異なる領域または区画のために周波数を別個に最適化し、次いで、同時に、または連続して、変換器全体の単一周波数においてではなく、異なる区画のための複数の周波数において、変換器を駆動することによって改良されてもよい。
【0022】
そのような区画ベースの周波数最適化のための変換器アレイ(または、変換器要素の群)の区画化は、異なる変換器要素のための生体構造を通した関連経路の類似性、各変換器区画を用いて十分に高い質の焦点を発生させる能力(例えば、区画内の要素の総数に依存する)、および全変換器区画によって提供される最終的に組み合わせられる治療効果に基づいてもよい。例えば、アレイが、あまりに小さい、あまりに多くの区画に分割される場合(周波数最適化の利点を最大限にする試みとして)、個々の区画は、もはや効果的集束能力を有さず、ビームが散乱するため、十分に鮮明な焦点を発生させることができない場合がある。図6は、脳腫瘍処置のために使用される、略半球状の変換器の好適な区画化を図示する。描写される実施形態では、変換器アレイは、中心「キャップ」および6つの同様のサイズの周囲「タイル」の7つの区画に分割される。一般に、変換器は、より多いまたはより少ない区画を有してもよい。典型的変換器分割として、3つ〜15の区画が挙げられる。
【0023】
図7は、多区画変換器の周波数を最適化するための方法を図示する。患者内の標的が、ステップ400において識別された後(例えば、画像に基づいて)、変換器区画が、定義され(ステップ700)、各区画の焦点が、標的場所における高い質の焦点を発生させるように、その区画の変換器要素間の相対的位相および/または振幅を設定および調節することによって、別個に最適化されてもよく(ステップ402、404)、さらに、前述の様式において、標的におけるエネルギー吸収の試験範囲内の周波数依存生を決定する(ステップ406、408、410)。いくつかの実施形態では、最適周波数(すなわち、標的におけるエネルギー吸収を最大限にする周波数)は、区画毎に別個に識別される(ステップ412)。標的を処置するために、別個に最適化された変換器区画は、次いで、その独自の最適周波数毎に、連続して、またはともに、駆動されてもよい(ステップ702)。例えば、区画は、異なる周波数で駆動される区画からの超音波が、破壊的に干渉しないように、同時に、標的内に蓄積されるエネルギーが、各音波処理サイクルの間、有意に消失しないように、別個に、かつ周期的に、駆動されてもよい。代替実施形態では、種々の区画から受け取られる超音波エネルギーの全体的吸収を最大限にする単一の周波数が、以下にさらに説明される様式において、個々の測定された周波数依存性から推測され(ステップ704)、種々の区画は、別個に試験されるが、全て、処置の間、その同一の全体的最適周波数において駆動される(ステップ706)。単一共通周波数において区画を駆動することは、有利には、異なる区画からの超音波の強めあう干渉を確実にするため、より高いピーク強度を伴う、より小さい焦点をもたらし得る。
【0024】
種々の技法が、直接または間接的に、関連する物理的数量を介して、標的内のエネルギー吸収を測定し、次いで、最適周波数の選択を介して、吸収されるエネルギーの量を最大限にするために使用されることができる。1つのアプローチは、吸収されるエネルギーの量を比例的に増加させる、標的における温度を監視することである。温度測定方法は、例えば、MRIに基づいてもよく、好適な画像処理ソフトウェアと併せて、図2に描写されるもの等のシステムを利用してもよい。MR温度測定のために利用可能な種々の方法の中でもとりわけ、プロトン共鳴周波数(PRF)シフト法は、温度変化に対するその優れた線形性、組織タイプからの準独立性、および高い空間分解能および時間分解能を伴う温度マップ取得により、多くの場合、選択される方法である。PRFシフト法は、水分子中のプロトンのMR共鳴周波数が温度に伴って線形に変化する現象を利用する。温度に伴う周波数変化は、バルク水の場合、わずか−0.01ppm/℃、組織内では、約−0.0096〜−0.013ppm/℃と小さいため、PRFシフトは、典型的には、位相敏感撮像方法を用いて検出され、撮像は、2回行われ、最初は、温度変化の前に、ベースラインPRF位相画像を取得し、次いで、温度変化後の第2の位相画像を取得し、それによって、温度変化に比例する、わずかな位相変化を捕捉する。温度変化のマップが、次いで、静的磁場の強度および(例えば、グラディエントリコールエコーの)エコー時間(TE)等の撮像パラメータを考慮しながら、画素毎に、ベースライン画像と処置画像との間の位相差を決定し、PRF温度依存性に基づいて、位相差を温度差に変換することによって、MR画像から計算されてもよい。種々の代替または高度な方法が、患者の動き、磁場ドリフト、およびPRFベースの温度測定の正確度に影響を及ぼす他の要因を補償するために使用されてもよい。当業者に公知の好適な方法は、例えば、マルチベースラインおよび無参照温度測定が挙げられる。
【0025】
PRFベースのまたは任意の他の好適な温度測定方法を使用して、規定された範囲内の最適超音波周波数は、電力および持続時間(または、より一般的には、総伝送エネルギー)を同一に保ちながら、いくつかの異なる周波数(例えば、選択される範囲内の規定された周波数間隔)において変換器を連続的に駆動し、超音波を特定の患者の標的部位に集束させ、そのような音波処理毎に、標的における温度増加を測定することによって決定されることができる。これは、処置に先立って行われる。したがって、組織損傷を回避するために、超音波変換器は、その後の処置中よりはるかに低い電力において駆動される(但し、有意義な信号対雑音比を得るために十分に高い)。さらに、異なる周波数のための測定の比較性を確実にするために、各温度増加は、好ましくは、類似ベースライン温度に対して測定される。これは、組織をベースライン温度とほぼ等しい温度まで冷却させるために、各音波処理に続いて、十分な時間を待機し、温度変化に起因する組織に及ぼす影響が制限される(例えば、臨床上有意ではない)ように、十分に低いエネルギーを使用することによって遂行されることができる。温度増加が、着目範囲内の種々の離散周波数において測定されると、温度増加が最大である周波数が、後続処置の間、変換器を動作させるために選択される。周波数が複数の変換器区画のために別個に最適化される実施形態では、本手技は、区画毎に行われる。処置の間、種々の区画は、ともに、または交互に(例えば、区画を通して循環する)、その個別の最適周波数毎に、駆動されてもよい。
【0026】
組織内の超音波エネルギー吸収に有用に関連する別の数量は、焦点(波が収束し、最高強度が達成される場所)において最高である、音響放射圧力に起因する、その組織の一時的局所変位である。超音波圧力は、音響場を直接反映する変位場を生成する。変位場は、MR−ARFI等の技法を使用して、勾配コイルによって、過渡的運動または変位に敏感な磁場勾配を撮像領域に適用することによって、視覚化されることができ、勾配コイルは、標準的MRI装置(図2に描写される装置108等)の一部であり、典型的には、円筒形電磁石204の近傍に位置する。超音波パルスが、そのような勾配の存在下で印加されると、結果として生じる変位は、直接、MR応答信号の位相にエンコードされる。例えば、勾配コイルおよび変換器は、超音波パルスが、焦点近傍の物質をより高い場強度を伴う磁場の領域に向かって押すように構成されてもよい。結果として生じる磁場変化に応答して、MR応答信号の位相は、比例して変化し、それによって、超音波放射圧力によって生じる変位を信号中にエンコードする。MR−ARFIに関するさらなる詳細は、2010年4月28日出願の米国特許出願第12/769,059号に提供されており、その開示全体は、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0027】
所与の変換器配列の場合、MR−ARFIを用いて測定された組織変位は、超音波強度に正比例する。有利には、良好な変位信号を得るために要求されるエネルギーは、典型的治療用エネルギーと比較して、非常にわずかであり(かつ、非常に短い期間、例えば、約20msの間に、音波処理によって達成され)、ARFIを処置前最適化の好適な候補にする。しかしながら、異なる方向から生じる超音波によって発生させられる変位力は、部分的に、相互に相殺される。したがって、焦点における最大エネルギー吸収のための周波数を同調させるために、MR−ARFIを使用するとき、周波数は、最終的に変換器アレイ全体を駆動するために単一周波数が選択されるときでも、好ましくは、複数の変換器区画(それぞれ、あまり大きい立体角を網羅しない)のために別個に最適化される。全体的最適周波数は、それらを好適な様式(以下に説明されるように)で組み合わせることによって、個々の区画のための最適周波数から導出される。(放射力とは対照的に、異なる区画および超音波方向に起因する熱エネルギーは、相殺なしに蓄積する。したがって、周波数最適化のために温度測定を使用するとき、手技は、全体として変換器アレイ上で行われてもよい)。
【0028】
種々の実施形態の目的は、処置フローの一部である手技によって、特定の患者のための最適処置周波数を見つけることであるため、その手技は、好ましくは、短く、例えば、約数分である。これは、変換器区画の数も試験される離散周波数の数も、あまり大きくない場合、ARFIを用いて達成可能である。例えば、脳腫瘍処置において使用される湾曲(例えば、半球状)超音波変換器のための最良周波数を決定するために、変換器は、例えば、7つの区画(図6に図示されるように、キャップおよび6つのタイル)またはわずか4つの区画(キャップおよび3つのタイル)にさえ分割されてもよい。区画は、それらが網羅する立体角等の一般的基準に基づいて、または、例えば、特定の患者の生体構造に関するより詳細な基準に基づいて、定義されてもよい。組織変位は、約10の異なる周波数またはそれ未満において、例えば、600kHz〜760kHzの範囲内の20kHz間隔で9つの周波数において(図5Aに示されるように)、区画毎に測定されてもよい。区画の数をNsを用いて、離散周波数の数をNを用いて示すと、合計Ns・Nの測定が、要求される。
【0029】
区画毎に、全周波数を網羅する単一走査が、その区画の焦点を通過する側方平面(または、複数の、例えば、3つの平行平面)において行われてもよい(全区画がともに動作するときに達成される、理論的焦点場所から若干変位されてもよい)。MR走査は、組織変位を発生させる超音波パルスと同期される。ある場合には、変換器区画の要素間の相対的位相は、例えば、CT画像または他の先験的知識に基づいて補正され、例えば、骨変動性を補償する。最新の集束超音波/MR−ARFIシステムを使用して、本MR走査は、一実施形態では、約20秒の準備(例えば、走査パラメータを最適化するためのPSDのダウンロードおよび事前走査)、ARFIのための参照画像を得るための約3秒、および焦点を発生させ、結果として生じる組織変位を測定するための周波数あたり約3秒(9つの周波数の場合、27秒に相当する)を要求する。1区画のための最適周波数を決定するための総時間は、したがって、1分未満である。効率利得は、全周波数のために使用される共通オーバーヘッドおよび共通参照から生じ得る。(データを処理するための計算時間は、測定値を取得するための時間と比較して無視可能である。)7つの区画を有する変換器全体のために要求される総時間は、前述の例では、約7分である。
【0030】
全区画および周波数に関して測定された組織変位は、N×NアレイDij内に記憶されてもよく、行iは、周波数fに対応し、列jは、変換器区画jに対応する。区画が、異なる周波数において駆動される場合、最適周波数は、各列Di1、Di2、...DiNs内の最大エントリiを見つけ、対応する区画のための周波数fを選択することによって決定される。
【0031】
単一最適周波数が、変換器全体のために決定される場合、各ラインi内の列を横断するエントリ(すなわち、各周波数f毎)が、全区画の寄与を捕捉する、新しい値Dcombined_iに組み合わせられる。異なる区画が、測定の間、異なる総電力(例えば、その個別の面積に比例する)において駆動される場合、個々の測定された変位Dijは、典型的には、最初に、適宜、正規化される。次いで、組み合わせられた変位Dcombined_iが、全区画の組み合わせられた処置効果に明確に相関された値をもたらす、いくつかの方法のうちの1つにおいて計算される(全部ではないが、そのうちのいくつかは、物理的解釈を有する)。例えば、いくつかの実施形態では、組み合わせられた変位値は、以下のように、個々の変位の平方根を総和し、結果を二乗し、焦点における総ピーク強度に比例する値を求めることによって計算される(コンピュータ断層撮影ベースの補正によって保証され得る、異なる区画を用いて発生させられるサブ焦点間の相対位相が正しいことを前提として)。
【0032】
【化3】
他の実施形態では、組み合わせられた変位値は、単に、個々の変位の絶対値の和であり、集束領域内に印加された総電力と比例する。
【0033】
【化4】
さらに別の実施形態では、変位ベクトルDのL−ノルムは、以下のように計算される。
【0034】
【化5】
組み合わせられた変位が計算される様式は、例えば、最適化されるべきパラメータ(例えば、ピーク圧力または総電力)に依存し得る。前述の3つの実施形態は、単に、例である。同様に、他のノルム(または、ノルムではない変数)が、区画の組み合わせられた寄与と相関する限り、使用されてもよい。組み合わせられたベクトルDcombinedの要素は、種々の周波数における総熱蓄積に比例する(または、相関される)。したがって、変換器の最適周波数は、最大組み合わせ変位が生じる周波数を識別することによって、決定されることができる。当然ながら、複数の区画のために別個に行われた測定から全体的最適周波数を決定することは、組織変位の測定に限定されない。組織変位以外のパラメータが、標的におけるエネルギー配置のインジケータとして使用される実施形態では、本パラメータの測定も同様に、全体的最適値を見つけるために、区画を横断して組み合わせられることができる。
【0035】
前述のアプローチは、焦点に蓄積されるエネルギーまたはそれを示す別のパラメータを測定するために、1つまたは複数の超音波変換器および装置(例えば、MRI装置)と併せて動作する好適な計算設備を用いて実装されることができる。計算設備は、ハードウェア(例えば、回路)、ソフトウェア、ファームウェア、または任意の好適なそれらの組み合わせ内に実装されてもよく、超音波コントローラ(例えば、図1の制御設備106)および/または標的におけるエネルギー蓄積を測定するための撮像装置または他のデバイス(例えば、図2の画像処理システム216)と統合される、あるいはそれと通信する別個のデバイスとして提供されてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、計算設備は、好適にプログラムされた汎用コンピュータを用いて実装されてもよい。図8は、例示的実施形態を示す。コンピュータ800は、1つまたは複数のプロセッサ802(例えば、CPU)および関連付けられたシステムメモリ804(例えば、RAM、ROM、および/またはフラッシュメモリ)と、ユーザ入力/出力デバイス(画面806およびキーボード、マウス等808等)と、典型的には、1つまたは複数の(典型的には、不揮発性)記憶媒体810(例えば、ハードディスク、CCD、DVD、USBメモリキー等)および関連付けられたドライブとを含む。種々の構成要素は、1つまたは複数のシステムバス812を介して、相互とおよび外部デバイス(超音波変換器および/または撮像装置等)と通信してもよい。
【0037】
システムメモリ804は、プロセッサ802の動作および他のハードウェア構成要素とのその相互作用を制御する、モジュールの群として概念的に図示される命令を含む。オペレーティングシステム820は、メモリ配分、ファイル管理、および周辺デバイスの動作等の低レベルの基本システム機能の実行を命令する。より高いレベルでは、1つまたは複数のサービスアプリケーションは、本明細書に従って、周波数最適化のために要求される、計算機能性を提供する。例えば、図示されるように、システムは、MRI(または、他の撮像)装置からの画像を分析し、その中の標的を識別し、焦点を視覚化し、標的と一致することを確実にすることを可能にする画像処理モジュール822と、標的場所に基づいて、変換器要素の相対的位相および振幅を計算し、かつ周波数最適化および処置の両方の間、超音波変換器動作を制御するための変換器制御モジュール824と、標的におけるエネルギー吸収の周波数依存性に関するデータを取得し、それに基づいて、最適周波数(または、種々の変換器区画のための複数の個別の最適周波数)を選択する機能性を提供する周波数最適化モジュール826とを含んでもよい。より具体的には、試験サブモジュール828は、試験範囲および試験周波数を規定する入力を決定および/または受信し、変換器制御モジュール824に、連続して、これらの周波数において標的を音波処理するように命令し、音波処理毎に、標的において吸収されるエネルギーの定量化を可能にする画像または他のデータを受信および/または分析する。本情報に基づいて、周波数選択モジュール830は、標的におけるエネルギー吸収を最大限にする、周波数または複数の周波数(複数の個々に最適化された区画のため)を決定する、または変換器区画を横断する吸収関連パラメータの測定を組み合わせ(例えば、前述のノルムのうちの1つを計算することによって)、標的において吸収されるエネルギーの全体的量を最大限にする周波数を見つけてもよい。
【0038】
当然ながら、種々のモジュールの中への計算機能性の描写される編成は、ソフトウェア機能をグループ化する可能性として考えられる方法の1つにすぎない。当業者が容易に理解するように、より少ない、より多い、または異なるモジュールが、本明細書に従って、周波数最適化を促進するために使用されてもよい。しかしながら、グループ化および編成されるソフトウェアは、限定ではないが、C、C++、Fortran、Pascal、Basic、Python、アセンブリ言語、またはそれらの組み合わせを含む、種々の好適なプログラミング言語のいずれかにおいてプログラムされてもよい。さらに、汎用プロセッサによって実行されるソフトウェア命令の代替として、機能性の一部または全部は、例えば、デジタル信号プロセッサ、プログラマブルゲートアレイ、特定用途向け集積回路等を含む、プログラマブルまたは有線カスタム回路が提供されてもよい。
【0039】
本明細書に採用される用語および表現は、限定ではなく、説明の用語および表現として使用され、そのような用語および表現の使用では、図示および説明される特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はない。加えて、本発明のある実施形態が説明されたが、本明細書に開示される概念を組み込む他の実施形態が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、使用されてもよいことは、当業者に明白となるであろう。例えば、MRベースの温度測定またはARFIの代わりに、焦点における音響ビームの(物理的または治療的)影響を測定可能な任意の非侵襲的撮像技法が、概して、本明細書に従って、最適周波数(または、異なる区画のための複数の最適周波数)を選択するために使用されてもよい。故に、説明される実施形態は、あらゆる観点において、制限ではなく、単なる例証として、見なされるものとする。
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