(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の内容を説明する。本発明の一形態に係る半導体装置は、(a)基板と、(b)該基板上に設けられたIII−V族化合物層と、(c)基板からIII−V族化合物層に向かう第1方向に基板及びIII−V族化合物層を貫通するビアホールと、(d)ビアホールの側面上に設けられた金属窒化物層と、ビアホール内の金属窒化物層上に設けられた裏面金属と、を備え、III−V族化合物層は、トランジスタのための導電領域と、素子分離のための素子分離領域とを有し、III−V族化合物層は、中間層を有し、中間層は、ビアホールの側面上の金属窒化物層に沿って延在し、中間層の抵抗値は、金属窒化物層の抵抗値よりも高く、金属窒化物層、中間層、素子分離領域、及び導電領域は、第1方向に交差する第2方向に沿って並んでいる。
【0011】
この半導体装置によれば、素子分離のための素子分離領域が設けられるので、トランジスタのための導電領域から裏面金属へのリーク電流が抑えられる。また、ビアホールの側面上の金属窒化物層に沿って、中間層が延在する。この中間層は、III−V族化合物の構成元素と窒素とを含んで、素子分離領域よりも高い電気比抵抗を有する。中間層の原子配列が窒素を含むことで変化し電気的な障壁となるからである。また、金属窒化物層、中間層、素子分離領域、及び導電領域が、第2方向に沿って並ぶので、中間層は、導電領域から金属窒化物層(裏面金属)に向かうリーク経路に障壁を提供する。中間層は、半導体素子を含む導電領域から裏面金属へのリーク電流の低減に寄与する。半導体チップの加熱処理により、金属窒化物内の窒素がビアホールの側面を通して拡散して中間層が形成される。また、この加熱処理により、半導体チップの反りが低減される。
【0012】
上記の半導体装置では、III−V族化合物層が、V族元素として窒素を含む窒化物半導体層であることが好ましい。この半導体装置によれば、加熱処理により発生する素子間のリーク電流を抑制することができる。
【0013】
上記の半導体装置では、金属窒化物層が、TaN、WSiN及びTiWNのいずれか一つを含むことが好ましい。この半導体装置によれば、金属窒化物層が、TaN、WSiN及びTiWNの少なくともいずれか一つを含むと、加熱処理によって、金属窒化物層内の窒素がビアホールの側面から素子分離領域に拡散する。この拡散によって、III−V族化合物層内において金属窒化物層に沿って中間層が好適に形成される。上記の半導体装置では、中間層の電気比抵抗は、1×10
−1Ωcm〜1×10
4Ωcmであることが好ましい。
【0014】
本発明の一形態に係る半導体装置を製造する方法は、(a)基板上にIII−V族化合物層を成長する工程と、(b)III−V族化合物層内に、トランジスタのための導電領域を形成する工程と、(c)基板からIII−V族化合物層に向かう第1方向に基板及びIII−V族化合物層を貫通するビアホールを形成して、該ビアホールと、III−V族化合物層と、基板とを作製する工程と、(d)ビアホールの側面上に金属窒化物層を形成する工程と、(e)金属窒化物層上に裏面金属を作製する工程と、(f)素子分離のための素子分離領域をIII−V族化合物層内に形成する工程と、(g)基板、III−V族化合物層、ビアホール、金属窒化物層及び裏面金属を含む半導体チップを形成する工程と、(h)金属窒化物層の加熱処理を行って、金属窒化物層に沿って中間層をIII−V族化合物層内に形成する工程と、を含み、中間層は、III−V族化合物を構成する元素と窒素とを含み、金属窒化物層、中間層、素子分離領域、及び導電領域は、第1方向に直交又は交差する第2方向に沿って並んでいる。
【0015】
この半導体装置を製造する方法によれば、加熱処理によって、半導体チップの反りの低減と、中間層の形成とが可能になる。中間層は、素子分離領域よりも高い電気比抵抗を有し、また、第2方向に沿って導電領域と金属窒化物層との間に位置する。このため、加熱処理によって素子分離領域が導電性を有するようになっても、中間層は、トランジスタのための導電領域と裏面金属との間のリーク経路に障壁を提供して、導電領域から裏面金属へのリーク電流を低減できる。
【0016】
上記の半導体装置を製造する方法では、III−V族化合物層へのアルゴンイオンの注入によって形成されることが好ましい。この半導体装置を製造する方法によれば、III−V族化合物層にアルゴンイオンが注入されるので、これにより、III−V族化合物層を構成する結晶の結晶性が下がり、III−V族化合物層内に素子分離領域が好適に形成される。
【0017】
上記の半導体装置を製造する方法では、250℃〜400℃の温度下で加熱処理を行うことが好ましい。この半導体装置を製造する方法によれば、250℃程度以上の温度の加熱処理が行われるので、金属窒化物層内の窒素がIII−V族化合物層に拡散し易くなる。また、加熱処理が400℃以下の温度下で行われるので、金属窒化物層内の金属がIII−V族化合物半導体層内で合金化することが防止される。
【0018】
上記の半導体装置を製造する方法では、加熱処理は、真空下又は窒素雰囲気下で施されることが好ましい。この半導体装置を製造する方法によれば、加熱処理により発生する素子間のリーク電流を抑制することができる。
【0019】
いくつかの実施形態に係る半導体装置及び半導体装置を製造する方法を、以下に図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付する。
【0020】
(実施の形態)
図1は、本実施形態における半導体装置を示す概略図である。
図1では、半導体装置1は、半導体チップの形態を有する。
図1の(a)部は半導体装置1の平面図を示す。
図1の(b)部は、(a)部のA−A線に沿ってとられた半導体装置1の断面を示す図である。半導体装置1は、積層構造体10を備える。積層構造体10は、基板11と、基板11上に設けられたIII−V族化合物層12とを有する。また、積層構造体10は、基板11からIII−V族化合物層12に向かう第1方向D1に延在するビアホール13を有する。ビアホール13は、基板11及びIII−V族化合物層12を貫通する。ビアホール13は側面13Aを有し、ビアホール13の側面13A上に金属窒化物層14が設けられる。ビアホール13内には、裏面金属15が設けられる。裏面金属15は、ビアホール13内に加えて、基板11の裏面11B上にも設けられる。金属窒化物層14は、ビアホール13内において裏面金属15に接する。基板11は、例えば、SiC、GaN、Si、GaAs、又はInPを含む。III−V族化合物層12は、例えば、GaN又はGaAsを含む。金属窒化物層14は、導電性を有しており、例えば、TaN、WSiN及びTiWNの少なくともいずれか一つを含むことができる。裏面金属15は、例えば、Au及びCuの少なくともいずれかを含む。III−V族化合物層12の上面12Aには、パッド電極15aが設けられ、パッド電極15aは、金属窒化物層14を介して、裏面金属15に電気的に結合される。パッド電極15aは、例えば、Au及びCuの少なくともいずれかを含む。また、半導体装置1では、III−V族化合物層12の上面12Aを保護するための保護層17が設けられる。保護層17は、例えば、SiN、SiO及びAlOxを含むことができる。
【0021】
III−V族化合物層12は、p型又はn型の半導体を備える導電領域12aと、素子分離のための素子分離領域12bとを有する。素子分離領域12bは、導電領域12aとビアホール13の側面13Aとの間に設けられ、ビアホール13を囲むように設けられることが好ましい。導電領域12aには、例えばトランジスタ12cが設けられ、例えば、トランジスタのためのソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域、並びに、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極が設けられる。ソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域は、III−V族化合物層12と同じ半導体を備える。導電領域12aは、例えばトランジスタ12cに電流が流されてトランジスタ動作が可能となるような導電性を有する。素子分離領域12bは、例えば、III−V族化合物層12へのイオン注入によって形成される。注入されるイオン種は、例えば、アルゴン、ボロン、カーボンである。III−V族化合物層12へのアルゴンイオンなどのイオン注入により、III−V族化合物層12の結晶構造が破壊されて、その導電性が低下する。素子分離領域12bの導電性は、導電領域12aの導電性に比べて小さいので、導電領域12aは、素子分離領域12bによって、裏面金属15などの他の導体部分から電気的に分離される。半導体装置1では、素子分離領域12bが、導電領域12aから裏面金属15へのリーク電流を抑える。
【0022】
III−V族化合物層12は、ビアホール13の側面13A上の金属窒化物層14に沿って延在する中間層16を有する。中間層16は、例えば、半導体チップに生じた反りを低減させる加熱処理によって形成される。金属窒化物層14に含まれる窒素は、加熱に伴う熱エネルギーの増大を受けて、ビアホール13の側面13Aを通してIII−V族化合物層12に拡散する。この窒素の拡散により、中間層16が形成される。III−V族化合物は、例えば、GaAs、GaN、AlGaN、InAlN、AlInGaNなどを含む。中間層16の厚みは、例えば20nm〜50nmである。また、中間層16に含まれる窒素の濃度は、例えば、1×10
21cm
−3以上、6×10
23cm
−3以下である。中間層16は、例えば、III−V族化合物を構成する元素と窒素とを含んで、素子分離領域12bよりも高い電気比抵抗を有する。中間層16の電気比抵抗は、例えば1×10
−1Ωcm〜1×10
4Ωcmである。金属窒化物層14の厚みは、例えば10nm〜100nmである。金属窒化物層14の電気比抵抗は、例えば1.8×10
−4Ωcmである。中間層16の抵抗値は、金属窒化物層14の抵抗値よりも高い。電気比抵抗は、例えば四探針法によって測定される。
【0023】
半導体装置1では、導電領域12aとビアホール13の側面13Aとの間に素子分離領域12bが設けられるので、導電領域12aから裏面金属15へのリーク電流が抑えられる。また、適切な加熱処理が半導体素子の半導体チップに施されるので、半導体チップの反りは、所望のレベルにまで小さい。この反りを低減させる加熱処理が施されると、金属窒化物層14内の窒素の拡散によってIII−V族化合物層12に中間層16が形成される。中間層16は、III−V族化合物の構成元素と窒素とを含んで、素子分離領域よりも高い電気比抵抗を有する。中間層の原子配列が窒素を含むことで変化し電気的な障壁となるからである。半導体装置1では、金属窒化物層14、中間層16、素子分離領域12b、及び導電領域12aは、第1方向D1に直交又は交差する第2方向D2に沿って並ぶので、中間層16は、導電領域12aから裏面金属15に向かうリーク経路に障壁を提供する。中間層16によって、半導体素子を含む導電領域12aから裏面金属15へのリーク電流が低減する。
【0024】
図2は、本実施形態における半導体装置を作製する方法を示す流れ図である。この作製方法では、通常、大きなサイズのウエハに多数の半導体装置を一括して作製する。引く続く説明において、理解を容易にするために、可能な場合には、一素子サイズの半導体装置1の説明に用いた参照符号を用いる。
図2に示されるように、本実施形態の作製方法の工程S1においては、III−V族化合物層12が、例えば有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法によって、基板11上に成長される。工程S2では、III−V族化合物層12内に、導電領域12aが形成される。導電領域12aには、例えば、イオン注入等によりトランジスタのためのソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域が形成され、また、成膜、フォトリソグラフィ及びリフトオフ等により、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極が形成される。工程S2として、III−V族化合物層12の上面12Aにパッド電極15aが形成される。工程S3では、ビアホール13が形成される。ビアホール13は、パッド電極15aに合わせて基板11の裏面11Bに形成されたマスクを用いて、エッチングにより形成される。ビアホール13は、基板11からIII−V族化合物層12に向かう第1方向D1に沿って形成され、基板11及びIII−V族化合物層12を貫通してパッド電極15aに到達する。工程S3が完了すると、基板11、III−V族化合物層12、及びビアホール13を含む積層構造体10が作製される。
【0025】
工程S4では、ビアホール13の側面13A上に金属窒化物層14が成長され、工程S5では、ビアホール13内に裏面金属15が作製される。金属窒化物層14の成長は、例えばスパッタ法による。また、裏面金属15の作製は、例えばスパッタ法による。金属窒化物層14はビアホール13の側面13Aと裏面金属15との間に位置する。工程S6では、III−V族化合物層12内には、更に、導電領域12aとビアホール13の側面13Aとの間に素子分離のための素子分離領域12bが形成される。本実施例では、素子分離領域12bは、例えば、イオン注入を行うことによって形成される。イオン注入のイオン種は、例えば、アルゴンイオンであることができる。イオン注入された原子によって、III−V族化合物層12の結晶構造が破壊されて、III−V族化合物層12の導電性が低下して、素子分離領域12bが形成される。III−V族化合物層12の上面12Aを保護するための保護層17が、上面12Aに設けられる。保護層17は、例えば、SiN、SiO及びAlOxを含む。保護層17の形成は、例えば、CVD法による。これらの工程により、基板生産物が作製される。続いて、工程S7では、基板生産物が分離されて、複数の半導体チップを形成する。半導体チップは、半導体装置1のための積層構造体10、金属窒化物層14及び裏面金属15を含む。半導体チップの形成は、例えば、ダイシング及びへき開などによって行われる。
【0026】
図3は、本実施形態における工程S7までの作製工程が適用されて半導体チップの形態を有する半導体装置を概略的に示す断面図である。この断面は、
図1の(b)部の断面と対応する。
図3の半導体装置は、加熱処理がなされていないので、
図1の(b)部に示されるような中間層16を有していない。
【0027】
図3に示されるように、半導体装置の半導体チップでは、例えば、GaNなどからなる積層構造体10上に裏面金属15が設けられているので、半導体チップに反りが生じることがある。半導体チップの反りを低減するために、工程8では、半導体装置に加熱処理が行われる。この加熱処理は、例えば350℃の温度下で行われる。加熱処理により、半導体装置に生じた反りが低減される一方で、素子分離領域12bの構造(本実施例では破壊された結晶構造)がアニールのような作用を受ける結果、素子分離領域12bの絶縁性が劣化して、そのアイソレーション特性が低下することがある。
【0028】
発明者の実験によれば、工程8の加熱処理において、半導体チップ内の金属窒化物層14が加熱される。工程8の加熱処理に依存して、金属窒化物層14に含まれる窒素が、ビアホール13の側面13Aを通してIII−V族化合物層12に拡散する。この拡散により、工程8では、III−V族化合物層12内に、ビアホール13の側面13A上の金属窒化物層14に沿って中間層16が形成される。中間層16は、III−V族化合物を構成する元素と金属窒化物層14からの窒素とを含む。工程S8によれば、一度の加熱処理によって、半導体チップの反りが低減され、また、III−V族化合物層12内においてビアホール13の側面13Aに接して中間層16が形成される。
【0029】
本実施例では、加熱処理は、真空下又は窒素雰囲気下で施されることができる。加熱処理が窒素雰囲気下で施されると、例えば半導体表面の荒れが抑制される効果がある。また、本実施例の加熱処理は、裏面金属15の作製後に行われる。金属窒化物層14を覆う裏面金属15は、金属窒化物層14の表面酸化を防止する。
【0030】
工程S8の適用により、半導体装置1が形成される。半導体装置1では、工程S8の後に、金属窒化物層14、中間層16、素子分離領域12b、及び導電領域12aが、第1方向D1に直交又は交差する第2方向D2に沿って並んでいる。中間層16は、導電領域12aと金属窒化物層14との間に位置し、ビアホール13の側面13A上の金属窒化物層14に沿って延在する。中間層16は、導電領域12aから裏面金属15に向かうリーク経路に障壁を提供する。中間層16によって、半導体素子を含む導電領域12aから裏面金属15へのリーク電流が低減される。加えて、素子分離領域12bも、その絶縁性に応じて、導電領域12aと裏面金属15とのアイソレーションに寄与する。
【0031】
以上説明したように、ビアホール13の側面13A上に形成された金属窒化物層14に加熱処理を適用することによって、素子分離に必要な高い比抵抗の領域(本実施例での中間層16)を形成できる。本実施例の知見は、ビアホールを有する半導体チップであれば、一例として、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)におけるソースビアを有する半導体チップにも適用できる。
【0032】
(実施例1)
図4は、加熱処理後の金属窒化物に対するAuger電子分光分析法による分析結果を示す図である。本実施形態では、加熱処理によってGaN層内に窒素が拡散する様子を調べるために、
図4の(a)部に示されるような素子構造を有する第1デバイス20を作製した。第1デバイス20は、GaN層21と、このGaN層21上に設けられた第1のTaN層22とを含む。第1のTaN層22は、例えば、スパッタ法によってGaN層21上に形成される。スパッタ法による第1のTaN層22の形成では、ステージ温度は、例えば、25℃〜200℃である。GaN層21及び第1のTaN層22の厚みは、それぞれ1μm程度及び15nm程度である。第1デバイス20は、350℃の温度で10分間置かれた。この加熱処理後の第1デバイス20をAuger電子分光分析法に適用して、GaN層21及び第1のTaN層22に含まれる窒素の濃度を調べた。
図4の(b)部は、Auger電子分光分析法による窒素濃度の分析結果を示す。
図4の(b)部において、横軸は、第1デバイス20内で、第1のTaN層22からGaN層21に向かう第3方向D3に沿って計測した深さ(任意単位)を示す。縦軸は、第1のTaN層22及びGaN層21に含まれる窒素濃度(任意単位)を示す。第1デバイス20では、上記の加熱処理が施されると、第1のTaN層22とGaN層21との境界線Bの近傍において、窒素濃度が変化する。境界線Bは、第1デバイス20の作製時における第1のTaN層22とGaN層21との境界を示す。境界線Bの近傍のGaN層21内では、加熱処理後の窒素濃度が、加熱処理前の窒素濃度の2倍近くに増大している。また、窒素濃度は、境界線BからGaN層21内に向かう方向に次第に減少するものの、加熱処理後の第1デバイス20では、加熱処理前に比べて、GaN層21内での窒素濃度の減少の割合が少なくなっている。第1デバイス20における第1のTaN層22内の窒素が、加熱処理によって、GaN層21内の深くにまで分布している。
図4の(b)部の窒素プロファイルは、加熱処理に基づいて、金属窒化物層14内の窒素が、金属窒化物層14に隣接するIII−V族化合物層12に拡散して、この結果、中間層16に利用可能な高い抵抗値を有する層がIII−V族化合物層12内で金属窒化物層14に沿って新たに形成されることを示している。
【0033】
(実施例2)
図5は、加熱処理に伴うコンタクト抵抗の変化とI−Vプロファイルとを測定する素子構造を示す図である。実験のために4つの第2デバイス30a〜30dが、以下のようにして準備された。第2デバイス30a〜30dは、n型GaN層33と、n型GaN層33の上に設けられた第2のTaN層34とを含む。第2のTaN層34上には、第1金属電極32aと第2金属電極32bとが形成されている。第2のTaN層34は、例えば、スパッタ法によってn型GaN層33上に形成される。第2のTaN層34の形成では、ステージ温度は、例えば250℃である。n型GaN層33及び第2のTaN層34の厚みは、それぞれ1μm程度及び15nm程度である。第2のTaN層34の組成は、Taが90%程度であり、窒素が10%程度である。この第2のTaN層34の組成は、ESCA法やSIMS法によって調べられる。第1金属電極32a及び第2金属電極32bは、例えばAlからなり、第1金属電極32a及び第2金属電極32bの厚みは、400nm程度である。第1金属電極32aと第2金属電極32bとの間の幅W1は、例えば、40μmである。
【0034】
図6は、加熱処理に伴うコンタクト抵抗の変化を示す図である。第2デバイス30aには、加熱処理を行わず、その一方で、第2デバイス30b〜30dに加熱処理を行った。引き続く説明では、説明の簡単化のために、加熱処理しなかったデバイスを第2デバイス30aとして参照し、加熱処理されたデバイスを第2デバイス30b〜30dとして参照する。第2デバイス30aとともに、第2デバイス30b〜30dについて、その加熱温度をまとめて示すと、以下の通りである。
第2デバイス名称、 加熱温度。
第2デバイス30a、 加熱なし。
第2デバイス30b、 350℃。
第2デバイス30c、 500℃。
第2デバイス30d、 550℃。
第2デバイス30b〜30dにおいて、加熱処理時間は、いずれの温度においても10分間である。
図6では、加熱処理が行われない第2デバイス30aでのコンタクト抵抗値(データP1)と、加熱処理された第2デバイス30b〜30dでのコンタクト抵抗値(データP2〜データP4)とがプロットされている。第2デバイス30a〜30dのn型GaNは、1×10
18cm
−3程度のキャリア濃度を有するので、コンタクト抵抗は、加熱処理に殆ど依存せずに、比較的低い1×10
−3Ωcm
2程度の値を示す。
【0035】
第2デバイス30bは、350℃程度の温度下に置かれると、そのコンタクト抵抗を大幅に増大させる。例えば、第2デバイス30bが350℃程度の温度下に10分間程度置かれると、第2デバイス30bのコンタクト抵抗は1×10
−1Ωcm
2以上又はこれを超える値(データP2)を示す。この理由は、第2のTaN層34に含まれる窒素が、350℃程度の加熱処理によってn型GaN層33内に拡散するからである。その結果、n型GaN層33が、第2のTaN層34からの窒素とn型GaN層33のGaNとを含むようになるので、第2デバイス30bのコンタクト抵抗が増大する。
【0036】
加熱処理では、350℃を含むある温度範囲での加熱処理が、他の温度範囲での加熱処理に比べて、第2デバイスのコンタクト抵抗の値を好適に上昇させる。加熱処理の温度が500℃程度以上になると、加熱後の第2デバイス30c、30dのコンタクト抵抗は著しく減少する。例えば、加熱処理の温度が500℃近傍になると、第2デバイス30cのコンタクト抵抗は1×10
−5Ωcm
2に近づく。また、加熱処理の温度が550℃近傍になると、第2デバイス30dのコンタクト抵抗は1×10
−6Ωcm
2に近づく。加熱温度が高くなると、加えられた熱エネルギーの増加に伴って、第2のTaN層34に含まれるTaがn型GaN層33内に拡散し、n型GaN層33内で合金化反応などが起こるからである。n型GaN層33内での合金化によって、第2デバイス30のコンタクト抵抗は急激に低下する。従って、全ての加熱処理が本実験の形態に適用されるものではない。
【0037】
本実施例では、第2デバイス30a〜30dにおける第2のTaN層34の成膜温度は250℃程度である。このため、250℃以上の温度での加熱処理がなされて、第2のTaN層34の窒素がn型GaN層33に拡散するようになる。第2デバイスにおいて、所望の高いコンタクト抵抗を実現するためには、第2デバイスの加熱温度の下限値は250℃程度となる。一方、
図6に示されるように、データP2、データP3及びデータP4を含む温度領域では、加熱温度が400℃以下になると、データP1とデータP2とを含む温度領域における250℃でのコンタクト抵抗とほぼ同程度以上のコンタクト抵抗値を有する。この実験及び他の実験の結果から、400℃以下の温度における加熱処理は、第2のTaN層34内のTaがn型GaN層33内で合金化することを防止できる。中間層16に利用可能な高い抵抗値を有する層を形成するためには、第2デバイスの加熱温度の上限値は400℃程度であることが示される。
図6に示される実験結果によれば、中間層16に利用可能な高い抵抗値を有する層の形成のための好適な温度範囲R1は、250℃〜400℃であることが示される。実施例1及び実施例2並びに他の実験から、中間層16形成のための加熱時間は、5分〜10分間であることが好ましい。
【0038】
図7は、第2デバイスについての加熱処理に伴うI−Vプロファイルを示す図である。
図7のI−Vプロファイルは、電圧値に対する電流値の変化を示す。Al電極間の幅は40μmである。
図7では、350℃程度の加熱処理がなされた第2デバイス30bでは、例えば、印加された電圧の値の0.2V程度に対して、電流値は1×10
−5Aより小さい。この低い電流値は、コンタクト抵抗の増大に対応する。加熱処理が施されない第2デバイス30aでは、例えば、印加された電圧の値の0.2V程度に対して、電流値は1×10
−3A程度に増大する。また、加熱温度が500℃程度以上となっても、電流値は増大する。加熱温度が500℃程度の第2デバイス30cでは、例えば、印加された電圧の値の0.2V程度に対して、電流値は1×10
−3Aを上回る。加熱温度が550℃程度の第2デバイス30dでは、例えば、印加された電圧の値の0.2V程度に対して、電流値は1×10
−2A程度に達する。
図7の結果によれば、500℃程度以上の加熱温度では、Taがn型GaN層33内へ広がって合金化して、第2デバイスの抵抗値が下がる。
【0039】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置及び詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲及びその精神の範囲から来る全ての修正及び変更に権利を請求する。