特許第6442816号(P6442816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6442816セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442816
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20181217BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20181217BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C01G25/00
   B01J23/63 AZAB
   B01D53/86 100
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-65296(P2013-65296)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189433(P2014-189433A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516085731
【氏名又は名称】小澤 正邦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正邦
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/071641(WO,A1)
【文献】 特開2001−348223(JP,A)
【文献】 特開2008−247714(JP,A)
【文献】 特開2008−150237(JP,A)
【文献】 特開2008−184339(JP,A)
【文献】 特表2003−506529(JP,A)
【文献】 特表2012−512127(JP,A)
【文献】 特開2011−143340(JP,A)
【文献】 CABANAS, A. et al.,Continuous hydrothermal synthesis of inorganic materials in a near-critical water flow reactor; the one-step synthesis of nano-particulate Ce1-xZrxO2 (x=0-1) solid solutions,Journal of Materials Chemistry,2000年11月29日,Vol.11, No.2,p.561-568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
B01J21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウムとジルコニウムよりなる金属酸化物であり、それらが複合化されジルコニウム酸化物の固溶量モル率で0.2以上の組成の固溶体を含み、その固溶体の割合が粒子数として50%以上で、結晶粒径が10nm以下の単結晶の割合が粒子数として90%以上である金属酸化物微粒子材料。
【請求項2】
水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩ならびに界面活性剤を含む水溶液をアルカリ性としてその沈殿物を含む水溶液を得る第1工程と、該沈殿物含有水溶液を100℃〜250℃で加熱する第2工程と、該水溶液内の固形分を分離後、有機溶媒に分散させる第3工程とを含む、セリウムとジルコニウムよりなる請求項1に記載の金属酸化物固溶体微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程以降の溶液中の有機溶媒を除去する、請求項2に記載の金属酸化物固溶体微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒担体等に利用されるセリウムとジルコニウムとを含む金属酸化物複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セリアならびにジルコニアおよびその固溶体粉末は、高強度材料、電子素子、燃料電池材料、機能性セラミックス、触媒材料等の分野で使用され、その製造方法としては、粒径の微細化および均一化、さらには量産性の点から、主として中和共沈法が広く用いられている。また、特に近年の微粒化の要請から、以下に述べる種々の手法が提案されている。
【0003】
特開平6‐198175号公報には、セリウム、ジルコニウム、および希土類金属を含む塩の水溶にアルカリ性水溶液を加え、共沈物あるいは加水分解生成物を得て、洗浄・乾燥後、500℃以上で加熱して得る組成物ならびにその製造方法が開示されている。
【0004】
特開2000‐319019号公報には、ジルコニウム及びセリウムを含む複合酸化物であって、結晶相の95体積%以上がジルコニア‐セリア系固溶体の立方晶で高い酸素吸着量を有することを特徴とするジルコニウム−セリウム系複合酸化物を、塩基性硫酸ジルコニウムとセリウムイオンを含む溶液とを混合した後に塩基を添加することにより沈殿物を生成させることで製造する方法が開示されている。
【0005】
特開2001‐348223号公報には、セリウム(IV)塩とジルコニウム塩または セリウム(III) 塩とジルコニウム塩とを用い、ペルオクソ二硫酸塩により酸化し、混合塩水溶液が300℃よりも低い温度下に加熱されて同時並行的に加水分解するセリア‐ジルコニア固溶体微粒子の製造方法が開示されている。
【0006】
特開2004‐2147号公報には、加熱により分解するセリウム化合物及びジルコニウム化合物と混合した有機物一部が液状である工程後に、混合物を分解し均一な前駆体を形成してさらに焼成して有機物を燃焼除去するとともにセリア−ジルコニア固溶体を形成する焼成工程と、よりなることを特徴とするセリア‐ジルコニア固溶体の製造方法が開示されている。
【0007】
特開2005‐247585号公報には、水酸化セリウムと、ジルコニウム塩を水溶液中で混合、加熱処理し、水和ジルコニア微粒子を生成させると同時に、酸により水酸化セリウムを溶解させ、加水分解によりジルコニア−セリアの複合微粒子を生成させた後、固液分離後、乾燥、仮焼することを特徴とするジルコニア−セリア複合酸化物粉末の製造方法が開示されている。
【0008】
特開2007‐31192号公報には、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合塩水溶液を塩基で共沈させたセリア−ジルコニアゲルを塩酸又は硝酸で解膠することを特徴とするセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法ならびに粉体の製造方法が開示されている。
【0009】
特開2007‐326735号公報には、セリア、ジルコニアとMg、Ca、Sr、BaおよびB2O3を含む溶融物を急速冷却して非晶質物質とし、600〜900℃で加熱してセリア‐ジルコニア固溶体結晶を析出させる工程と、得られた析出物から前記セリア−ジルコニア固溶体結晶を分離する工程と、をこの順に含むことを特徴とするセリア‐ジルコニア固溶体微粒子の製造方法が開示されている。
【0010】
特開2008‐150264号公報には、1200℃で12時間焼成後の一次粒子径が200nm以下であることを特徴とするセリア−ジルコニア系複合酸化物を、塩化セリウム及びオキシ塩化ジルコニウムを原料としてセリウム(III)イオン及びジルコニウムイオンを含有する酸性溶液にペルオキソ二硫酸塩を添加しスラリー溶液を得、固液分離後、洗浄、乾燥及び焼成する第5段階とを行うセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0011】
特開2008‐273781号公報には、セリウムの塩とジルコニウムの塩とを含有する原料溶液を中和して、セリウム及びジルコニウムの水酸化物を調製し、前記水酸化物を含有する反応溶液を得る工程と、前記反応溶液に熱水を供給する工程と、前記熱水供給後の反応溶液中の前記水酸化物を、亜臨界又は超臨界状態の水を反応場として水熱反応させることにより、セリア及びジルコニアの複合酸化物を得る工程と、を含むことを特徴とするセリア−ジルコニア複合酸化物の製造方法で、熱水の温度が250〜350℃であることを特徴とする請求項1に記載のセリア−ジルコニア複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0012】
特開2008‐247714号公報には、逆ミセル法により逆ミセル内部の水を反応場として金属塩を沈殿剤前駆体の存在下加熱して反応させ、かつ水と界面活性剤の比(水/界面活性剤)をモル比で10以上60未満の範囲内で変化させことによって結晶子径を制御し、得られる沈殿物を分離、乾燥、焼成する含金属化合物粉末の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6‐198175号公報
【特許文献2】特開2000‐319019号公報
【特許文献3】特開2001‐348223号公報
【特許文献4】特開2004‐2147号公報
【特許文献5】特開2005‐247585号公報
【特許文献6】特開2007‐31192号公報
【特許文献7】特開2007‐326735号公報
【特許文献8】特開2008‐150264号公報
【特許文献9】特開2008‐247714号公報
【特許文献10】特開2008‐273781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の特許文献から、セリウムとジルコニウムを含む複合酸化物に要求される特性である微結晶および/または均一性をねらった製造方法、ならびにセリア‐ジルコニア固溶体材料とその製造を目指した幾多の技術が記載されている。このような開発の成果が開示されているにもかかわらず、微粒子が、単結晶でそれ自体が独立した粒子の形態を確実に示しているセリア‐ジルコニア固溶体については未だ開発されていない。本来、セリアならびにジルコニアを含むセリア‐ジルコニア固溶体は蛍石型構造をもつ結晶材料であり、微結晶あるいは単結晶として存在できるはずであるが、多くは互いに連結して粒子が独立しておらず、特に10ナノメートル未満の粒子が単結晶かつ固溶体を形成し、かつ独立した均一な粒子を得る製造方法は、未だ開発されていない。
【0015】
このような単分散で単結晶のナノサイズの粒子は、デバイス用に配列可能な原料として、また、ネックでのロスがなく、すべてが表面として露出している吸着材や触媒材料として、さらに成形体の充填剤としてなど、広い範囲で応用可能な素材として期待される。本発明の課題は、このような単結晶状の10ナノメートル以下のセリア‐ジルコニア固溶体の粒子、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意努力した結果、セリウム塩とジルコニウム塩を含む水溶液を中和して沈殿物を得ることにより、耐熱性が高く、かつ酸素貯蔵放出能力の高い触媒用担体が得られ、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の複合材料およびその製造方法が提供される。
【0017】
[1]セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物であり、それらが複合化された固溶体を含み、その固溶体の割合が粒子数として50%以上で、結晶粒径10nm以下の単結晶の割合が粒子数として90%以上である金属酸化物微粒子材料。
【0018】
[2]水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩ならびに水溶性有機剤を含む水溶液をアルカリ性としてその沈殿物を含む水溶液を得る第1工程と、該沈殿物含有水溶液を100℃〜250℃で加熱する第2工程と、該水溶液内の固形分を分離後、有機溶媒を含む溶液に分散させる第3工程とを含む、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物固溶体微粒子の製造方法。
【0019】
[3]前記第3工程以降の溶液中の有機溶媒を除去する、前記[2]に記載の金属酸化物固溶体微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、セリア‐ジルコニア固溶体が、単結晶として、かつ10ナノメートル以下の独立粒子として提供され、各種デバイス用、触媒用原料、あるいは電子材料用等に有用な原料として提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明(実施例1)の微粒子の透過電子顕微鏡像である。
図2】本発明(実施例1)の微粒子のX線回折図形である。
図3】本発明のコロイド溶液の写真である。
図4】本発明(実施例2)の微粒子の透過電子顕微鏡像である。
図5】本発明(実施例2)の微粒子のX線回折図形である。
図6】本発明(実施例2)の微粒子のX線回折図形である。
図7】本発明(実施例2)の微粒子のラマンスペクトルである。
図8】本発明(実施例3)の微粒子のX線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明は、第一に、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で、それらが複合化された固溶体を含み、その固溶体の割合が50%以上で、結晶粒径10nm以下の単結晶の割合が90%以上である微粒子材料である。
【0024】
本発明は、第二に、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩ならびに水溶性有機剤を含む水溶液をアルカリ性としてその沈殿物を含む水溶液を得る第1工程と、該沈殿物含有水溶液を100℃〜250℃で加熱する第2工程と、該水溶液内の固形分を分離後、有機溶媒に分散させる第3工程とを含む、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物固溶体微粒子の製造方法である。
【0025】
さらに、本発明は、第三に、上記第3工程以降の溶液中の溶媒を除去する、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物固溶体粒子の製造方法である。
【0026】
本発明の粒子はセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物であり、それらが複合化された固溶体を含むが、固溶体とは、セリアの構造が蛍石型構造を有する金属酸化物でることから、この結晶構造中で、セリウムをジルコニ二ウムが置換して、構造が似た状態となることを意味する。立方晶、正方晶ならびに正方晶内に原子の変位を異なる状態を持つ結晶や、さらには欠陥を有しその欠陥は無秩序あるいは秩序をもって分布するかを問わない。本発明の結晶は、10ナノメートル以下という特に小さい結晶であるため、いわゆる従来の大型単結晶や焼成したセラミックスでの相図が成立しがたいことも予想される。実施例で示すように、ラマン分光法によれば、正方晶の原子変位のある相というより、欠陥あるいは歪を持つ立方晶が主体である固溶体が生成すると考えらえるからであるが、従来、このような微細な結晶が独立して存在することはなかったので、本発明は、従来の範疇を超える理解が必要となる技術である。
【0027】
その固溶体の割合が粒子数として50%以上であることは、ジルコニアの遊離した相が50%未満と少ないことを指す。50%未満のジルコニアが共存することはX線回折図形において説明することができるが、さらに詳しくは、電子顕微鏡やラマン分光等の分析データによって示すことができる。
【0028】
また、結晶粒径10nm以下の単結晶の割合が粒子数として90%以上である微粒子材料であることは、電子顕微鏡法によって粒子の大きさを調べることによって直接的に判別できるが、さらに、溶液中のコロイドにあっては動的光散乱法等の微細粒子の粒径測定技術により、その分散ならびに粒径の両者を判別することができる。
【0029】
本発明の粒子がセリア−ジルコニア固溶体、及び/又はジルコニア、セリアを含む場合に、これらがセリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)以外の金属、例えば希土類元素およびアルカリ土類金属からなる群より選択される金属を含んでいてもよい。希土類金属としてイットリウム、スカンジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテチウムの群から選ばれ、これら希土類金属の酸化物がジルコニア、セリアに加わる。特に、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)を単独もしくは混合状態で含むことがより好ましい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウムが好ましい。これら希土類元素あるいはアルカリ土類金属、特にランタン、ネオジウムは、セリア‐ジルコニア固溶体、及び/又はジルコニア、セリアに対して、優れた相安定性を提供する傾向がある。
【0030】
次に本発明のセリア‐ジルコニア固溶体を含むコロイド溶液および微粒子の製造方法について説明する。本発明の微粒子は、上述したようにセリウムとジルコニウムとを含む金属酸化物粒子であり、それらが複合化された固溶体を含みその固溶体の割合が粒子数として50%以上で、結晶粒径10nm以下の単結晶の割合が粒子数として90%以上である微粒子が分散しているコロイド溶液に特徴を有する。第一の工程でその原料となるセリウムとジルコニウムが複合化された水溶液の作製方法そのものについては特に制限されることなく公知の方法を用いることができる。本発明で推奨する方法を述べれば、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合塩水溶液を塩基で中和し、セリウムとジルコニウムとが共沈したセリア‐ジルコニアゲルを挙げることができる。
【0031】
水溶性セリウム塩としては、硝酸セリウム、塩化セリウム、硝酸アンモニウムセリウムなどを例示することができる。また、水溶性ジルコニウム塩としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム塩化物などを例示することができる。更に本発明で用いる塩基としては、アンモニア、尿素、水酸化アルカリなどを例示することができる。この共沈法によるセリア‐ジルコニアゲルの作製方法は知られており、中和して沈殿が生成するときにセリウムとジルコニウムが共存していれば塩基に混合塩水溶液を加えても、また混合塩水溶液に塩基を加えてもよい。また、中和時の温度や中和時の混合時間、速度を変更することでその性状を変化させることもできるが、いずれの場合でも本発明に使用できる。
【0032】
前記セリウムとジルコニウムが複合化された水溶液に塩基を加える前に、水溶性有機剤を加えることが好ましく、水溶性有機剤としていわゆる界面活性剤を利用することが好ましい。界面活性剤として、オレイン酸、リノール酸、ルウリン酸等の不飽和脂肪酸、及びその塩、その他のカルボン酸、飽和脂肪酸、メチルタウリン酸、スルホコハク酸、及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸、及びその塩、αオレフィンスルホン酸、及びその塩、アルキル硫酸エステル酸、アルキルエーテル硫酸エステル塩、フェニルエーテル硫酸エステル塩、エーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、エーテルスルホン酸塩等であり、分子内に親水性と疎水性の官能基をもつ有機剤であれば広く利用できる。これらは、沈殿する無機成分に吸着している状態を具現すればよいため、ミセルを形成する必要はなく、臨界ミセル濃度など、有機剤の添加濃度の制限がない。粒子ならびにコロイド溶液の製造に使用するセリウムおよびジルコニウムの含量を原子数であらわすとき添加する有機分子数との比が0.001〜1000の広い範囲が適用可能である。
【0033】
第二の工程では、第一の工程を経た沈殿物を含む水溶液を水熱条件に置くことに特徴を有するが、その温度域は、100〜250℃、120〜210℃がより好ましく、140〜200℃がさらに好ましい。保持時間は、1時間以上であればよいが、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは24時間以上である。容器は自然的に発生する圧力と温度に耐える状態の材質と形状であれば制限されないが、容器の耐久性の観点からテフロン等の耐腐食性材を内容器に用いることが適当である。
【0034】
水溶液内の固形分を分離する手法は特に制限しないが、通常の室温から100℃程度で乾燥する操作、あるいは凍結して真空条件に置く操作、あるいは他の媒体と置換する操作を行い固形物とする。このときにいかなる態様でも見かけ上固形物となっていれば、個々のナノ粒子の独立した結晶の状態は保持される。次に、該固形物を有機溶媒に分散させる。有機溶媒は、非極性溶媒であれば制限されないが、トルエン、ベンゼン、石油エーテル、シクロヘキサン、ヘプタン、ドデカン、シクロヘキセン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)、エチルベンゼン、ジュレン(1,2,4,5-テトラメチルベンゼン)等が望ましい。また、テトラクロロメートルン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等もこれの使用を妨げるものではない。
【実施例】
【0035】
以下、この発明を更に説明するために実施例を示すが、この発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
試薬特級の硝酸二アンモニウムセリウム(和光純薬)、硝酸酸化ジルコニウム(和光純薬)およびオレイン酸カリウム(和光純薬)を所定量秤量して、それぞれ30 mL の蒸留水に溶解することで、セリウム塩とジルコニウム塩の総計7mmol水溶液および7mmolオレイン酸塩水溶液を調製した。室温でセリウム塩水溶液中にオレイン酸塩水溶液を強く攪拌しながら加え、さらに25 wt%のアンモニア水を10 mL 添加し沈殿を生成させた。次に、セリウム塩、ジルコニウム塩、オレイン酸塩、アンモニアの混合溶液を入れたテフロン容器をステンレス製の加圧容器内に入れ、500 rpm で攪拌しながら200℃で168時間の水熱処理を行った。その後、室温まで自然冷却し、試料を回収し、反応後の溶液を3000 rpm で30 分間で遠心分離し、内容物を試料管の下部に濃縮、沈殿させた。蒸留水で洗浄した後、沈殿物を90℃で24 時間、大気中で乾燥し、乾燥後に、トルエン中に分散させた。これをSi 無反射試料台に滴下して粒子を固定させ、波長0.15418 nm のCu-Kα 線を出力40mA、40kV で用いて、X線回折(XRD; MiniFlex II, リガク)分析を行った。形態観察には透過型電子顕微鏡(TEM; JEM2100, JEOL)を200 kV で用いた。粒子を含むトルエン溶液を室温でカーボン支持膜上に滴下乾燥して作製した。このとき、セリウムとジルコニウムの組成は、混合組成を示す化学式:Ce1−XZrで、X=0〜1.0において0.1刻みでXを増加させた11種類である。また、マルバーン製ゼータサイザーナノ Sにて溶液内分散粒子の粒径を測定した。
【0037】
図1に、本実施例1で作製した粒子(Ce1−XZrにおいてX=0.2、0.5、および0.8 )での透過型電子顕微鏡像を示す。この観察において、それぞれの粒子が独立して、互いに連結することがないことがわかる。それぞれの組成について、10視野の計200個の粒子観察において計数したところ、連結した粒子群の数は5個以内であった。また、連結していてもその数は3個以内であり、その粒径は10ナノメートルを超えることがなかった。すなわち、90%以上の粒子は独立した状態で存在した。また、高分解能の観察によって、格子像が見られたが、粒子全体にわたって区切られることなく格子像が観測されて、粒子全体が1つの結晶であることがわかった。平均粒径は、X=0.2で6nm、X=0.5で5nm、X=0.8で5nm、さらに98%以上の粒子が10nm以下、最大でも20nmであった。
【0038】
図2に、実施例1で作製した粒子(Ce1−XZrのX=0〜1.0において0.1刻みでXを増加させた11種類)の粉末X線回折図形を示す。X=1のZrOの組成を除くと、いずれもCeOに似た回折図形を示すことから、CeOと同様の対称性の比較的高い蛍石型構造の結晶の生成が示される。さらに、X=0 からX=1に向けて回折角度が一様に高角度側にシフトすることから、結晶の面間隔が一様に小さくなる現象が組成に依存して起こり、CeO‐ZrO系の固溶体の生成が示されている。X=1のZrOでは、単斜晶ジルコニアの回折パターンに一致しており、微小結晶のほとんどが対称性の低い状態で存在していることを示している。この単斜晶ジルコニアは、回折角度の40.5度付近を比較するとわかるが、X=0.9の試料には見られないことから、Ce0.1Zr0.9においても、CeO‐ZrO系の固溶体の生成が示されている。なお、X線回折図形は、実施例1の水熱処理後に水溶液を乾燥した状態の試料で測定しても同様な性質を示した。
【0039】
単斜晶ジルコニアとCeO‐ZrO系の対称性の高い構造(立方晶もしくは正方晶)である回折パターンの強度から固溶体の量を見積もると、図2からすべての試料で粒子数として90%以上の固溶体生成が示される。回折角度の30°付近の、立方晶(111)面(軸のとり方は正方晶やその誘導構造でも擬立方晶に共通としてわかりやすくするために30°付近をこのように説明する)に相当する回折角度の組成依存性から、混合組成内のジルコニウム量の増加に従って、一様な回折角度の変化が、すなわちイオン半径の大きいセリウムと小さいジルコニウムイオンが置換して固溶体結晶内の面間隔の増加現象が見られる。結晶測定としてしばしば利用されるシェラーの式で見積もった結晶子径は組成により変化するが2.5〜5.5nmであり、図1の透過電子顕微鏡での観測と矛盾しない範囲にある。すなわち、これらの試料は、セリア‐ジルコニア固溶体で、ほとんど単結晶で、かつ連結しない状態で存在し、またその固溶体の量は90%以上である。
【0040】
また、図3に、実施例でのトルエン溶液を容器に入れた状態を示すが、コロイド溶液として安定なことがわかる。この溶液を、マルバーン製ゼータサイザーナノ Sにて粒径を測定したところ3〜8nmの粒径であることを示した。すなわち、上記でのナノ結晶は個々に分散して溶液中にあり、セリア‐ジルコニア単結晶が、10nm以下の粒径で分散したコロイド溶液となっている。
【0041】
(実施例2)
実施例1での操作と同様にして、このうち水熱処理時間を実施例1に比して短く、72時間および48時間とすること、ならびに粉末の分析として、波長532 nm のNd:YVO4 レーザーを出力11 mW で用いて、ラマン分光分析装置(NRS3100, JASCO)でラマン分光分析を行う以外、実施例1と同様の操作、分析を行った。
【0042】
図4に、本実施例2で、処理時間を48時間で作製した粒子(Ce1−XZrにおいてX=0.2、0.5、および0.8 )での透過型電子顕微鏡像を示す。この観察において、それぞれの粒子が独立して互いに連結することがないことがなく、その90%以上の粒子は独立した状態で存在し、粒子全体が1つの結晶であることは実施例1と同様の分析であきらかとなった。平均粒径は、X=0.2で5nm、X=0.5で4nm、X=0.8で4nm、さらに98%以上の粒子が10nm以下、最大でも15nmであった。
【0043】
図5図6に、水熱処理が200℃でそれぞれ72時間、48時間として生成した粒子のX線回折図形を示す。いずれも、実施例1と同様な結果を示しており、ジルコニア以外は、蛍石型構造の固溶体の生成を示すことならびに回折角度の変化から、イオン半径の大きいセリウムと小さいジルコニウムイオンが置換して固溶体結晶内の面間隔の増加の現象が見られる。
【0044】
さらに、図7に、ラマン分光法による分析結果(水熱処理200℃で48時間の粒子)を示す。X=0.2〜0.9において、立方晶の二酸化セリウムの1本のピークに加えて、2本の欠陥(歪)を示すピークがあり、これらの結晶構造が、立方晶の蛍型構造をベースとする金属酸化物固溶体で準安定なナノ結晶であることを示している。このような粒子の生成の状況は、水熱処理が200℃で6時間や168時間の場合も同様であった。
【0045】
(実施例3)
実施例1での操作と同様にして、このうち水熱処理条件を、150℃で48時間、100℃で48時間とすること以外、実施例1と同様の操作、分析を行った。図8に、生成した粒子(水熱処理150℃で48時間)のX線回折図形を示す。いずれも、実施例1と同様な結果を示しており、ジルコニア以外は、蛍石型構造の固溶体の生成を示すことならびに回折角度の変化から、イオン半径の大きいセリウムと小さいジルコニウムイオンが置換して固溶体結晶内の面間隔の増加現象が見られる。さらには100℃で48時間でのX線回折も同様の結果を示した。
【0046】
(実施例4)
この材料の触媒特性を評価するため、実施例2の同じ操作で、200℃で48時間の条件で作製した微粒子(Ce1−XZrにおいてX=0.3、0.5、および0.7)について、100℃大気中で一夜乾燥後、400℃大気中で1時間熱処理した。さらにジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製)を用いて白金1重量%を含浸担持し、400℃大気中で1時間の熱処理を行い、白金担持触媒を作製した。試料の酸素貯蔵能を評価するため,ガス吸着量測定装置BP-1S、ヘンミ計算尺)を用いて,昇温還元法(TPR)により酸素放出させその後Oパルスを導入して酸素吸収量を測定した。測定操作は,試料0.1グラムを秤量し、ペレット状にした後に砕いて石英試験管に入れて、室温でアルゴン(Ar)ガスを流した後,水素5%/アルゴン95%の混合ガス(流量30ml/min)に切り替えてこれを流しながら昇温速度10℃/minで400℃まで昇温を行った後、アルゴンガスに切り替えOパルスを導入してTCD検出器で酸素吸収量を測定した。酸素貯蔵能としては、Ce1−XZrにおいて、X=0.3で7.2m/g、X=0.5で、9.1m/g、X=0.7で7.5m/gであった。これらの結果から400℃で十分な酸素貯蔵能をもち、それを応用する排ガス浄化触媒の材料として応用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物の製造方法は簡易であり、また低温でも良好な酸素吸収放出性能を有する特性を利用した触媒や環境浄化材に利用することができる。さらに、コロイド溶液自体は長期間保全ても安定であり、充填剤としてナノ粒子を利用する際に原料として利用できる。セリアとジルコニアからなる複合酸化物の化学的、光学的、さらには物理的性質を利用した添加剤として種々の成分としてナノ粒子が応用できる。
図1
図2
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図7
図8