(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の異常判定装置の概要について説明する。
本明細書によって開示される異常判定装置は、複数の蓄電素子
間を複数本の導電体によって
直列接続してなる蓄電装置の異常判定装置であって、前記蓄電素子と前記導電体とを締結する締結部を含む前記導電体の
2つの検出点間の電位差を検出する電圧検出部と、制御部と、を備え、前記制御部は、
前記各導電体の前記2つの検出点間の電位差であって、前記2つの検出点のうち、少なくとも一方が前記締結部である前記2つの検出点間の電位差に基づ
き異常を判定する判定処理、を実行する構成を有する。
【0010】
この異常判定装置では、電圧検出部を用いて、締結部を含む各導電体の複数の検出点における電圧値を検出し、検出された電圧値から算出される2つの検出点間の電位差を用いて2つの検出部間の異常、すなわち、導電体と締結部の少なくとも一方の異常を判定する。電位差は、温度と異なり、環境条件による影響が少ない。加えて、温度の検出に用いる温度センサでは、その取り付け方・取り付け場所により、検出される温度に影響を与えるが、電圧検出部による電圧値の検出では、その影響が少ない。そのため、電位差を用いることで、導電体を介して流れる電流が小さい場合、或いは、導電体を介して電流が流れる期間が短く、温度上昇が見込めない場合でも、導電体や締結部の異常を判定することができる。また、締結部間の電位差は、蓄電素子の影響を受けないことから、蓄電素子の影響を抑制して導電体や締結部の異常を判定することができる。
【0011】
上記の異常判定装置では、前記電圧検出部は、前記締結部における電圧値を検出し、前記制御部は、前記判定処理において、2つの締結部間の電位差に基づき、前記導電体と前記締結部の少なくとも一方の異常を判定する構成を有してもよい。この異常判定装置によれば、2つの締結部間の電位差を用いて2つの締結部間の異常を判定することができる。
【0012】
上記の異常判定装置では、基準値が記憶された記憶部を更に備え、前記制御部は、前記判定処理において、前記電位差が前記基準値を超えている場合に、前記導電体と前記締結部の少なくとも一方が異常と判定する構成を有してもよい。
【0013】
この異常判定装置では、算出される電位差を予め定められた基準値と比較する。そのため、算出される電位差が基準値を超えて大きくなった場合に、導電体や締結部における異常の発生を判定することができる。
【0014】
上記の異常判定装置では、前記制御部は、前記判定処理において、複数の前記導電部材に対する複数の前記電位差同士を比較し、前記電位差が一致しない場合に、前記導電部材と前記締結部の少なくとも一方が異常と判定する構成を有してもよい。
【0015】
この異常判定装置では、算出される電位差同士を比較するので、蓄電装置周辺の温度や湿度などの環境条件の変化による影響を抑制して、導電体や締結部における異常の発生を判定することができる。
【0016】
上記の異常判定装置では、前記蓄電素子と前記導電体とは、締結部材を用いて締結されており、前記締結部の異常は、前記締結部材の緩みを含む構成を有してもよい。この異常判定装置によれば、締結部材の緩みに起因する締結部の異常を判定することができる。
【0017】
上記の異常判定装置では、閾値が記憶された記憶部と、前記導電体に流れる電流値を検出する電流検出部と、を更に備え、前記制御部は、前記導電体に前記閾値以上の電流が流れた場合に、前記判定処理を実行する構成を有してもよい。
【0018】
電位差に基づいて導電体や締結部の異常を判定する場合、導電体及び締結部に流れる電流が大きいほど、算出される電位差は増大し、異常の判定精度も向上する。この異常判定装置によれば、閾値以上の電流が流れた場合に導電体や締結部の異常を判定するので、閾値に対応した一定の精度で導電体や締結部の異常を判定することができる。
【0019】
上記の異常判定装置では、前記制御部は、前記判定処理において前記導電体及び前記締結部に異常がないと判定された場合に、前記電位差に基づき、前記導電体に流れる電流値を推定する推定処理、を更に実行する構成を有してもよい。
【0020】
導電体及び締結部は、異常がない場合、所定範囲の抵抗値を有する抵抗部材とみなすことができる。そのため、この所定範囲の抵抗値により生じる電位差から、導電体及び締結部に流れる電流値を推定することができる。
【0021】
上記の異常判定装置では、前記導電体に流れる電流値を検出する電流検出部を更に備え、前記電流検出部は、検出可能な最大の電流値である最大電流値が設定されており、前記制御部は、前記導電体に流れる電流値が前記最大電流値よりも大きい場合、前記電位差に基づき、前記導電体に流れる電流値を推定する構成を有してもよい。
【0022】
この異常判定装置では、導電体に流れる電流値が電流検出部の最大電流値を超えた場合には、電位差に基づいて導電体に流れる電流値を推定する。そのため、電流検出部としては、充放電中に導電体に流れる最大の電流値にあわせた比較的大きな最大電流値を有するものを選定する必要がなく、比較的小さい最大電流値を有する電流検出部を選定することができる。一般に、最大電流値の小さい電流検出部は、最大電流値の大きい電流検出部に比べて、検出精度を向上させることができるとともに、電流検出部のコスト削減を実現することができる。また、電位差に基づいて導電体に流れる電流値を推定する場合、導電体に流れる電流値が大きいほど、推定精度が向上する。この異常判定装置では、最大電流値を超えた場合に、電位差に基づいて導電体に流れる電流値を推定するので、最大電流値よりも大きい電流値の推定精度を向上させることができる。
【0023】
上記の異常判定装置では、前記電流検出部は、前記最大電流値が、前記蓄電素子の充電時において前記導電体に流れる最大の電流値に基づいて選定され、前記制御部は、前記蓄電素子の放電時において、前記導電体に流れる電流値が前記最大電流値よりも大きい場合には、前記電位差に基づき、前記導電体に流れる電流値を推定する構成を有してもよい。
【0024】
一般に、放電時には、充電時に比べて大きな電流が流れる。そのため、充電時における最大の電流値から電流検出部を選定することで、従来のように、放電時における最大の電流値から電流検出部を選定する場合に比べて、電流検出部の最大電流値を小さくすることができる。
【0025】
上記の異常判定装置では、前記導電体に流れる電流値を検出する電流検出部を更に備え、前記制御部は、前記電位差に基づき推定された電流値と、前記電流検出部により検出された電流値とを比較し、前記電流値が一致しない場合に、前記電流検出部の故障を判断する故障判断処理、を更に実行する構成を有してもよい。
【0026】
この異常判定装置によれば、電位差に基づく電流値の推定と電流検出部に基づく電流値の検出とを併用することで、導電体に流れる電流値から電流検出部の故障を判断することができる。
【0027】
上記の異常判定装置では、前記蓄電素子は単電池であり、前記導電体は、複数の前記単電池間を接続する構成を有してもよい。この異常判定装置によれば、単電池間の接続に用いられる導電体や、当該導電体と単電池との締結部の異常を判定することができる。
【0028】
上記の異常判定装置では、前記蓄電素子は単電池が複数接続されてなる組電池であり、前記導電体は、複数の前記組電池間を接続する構成を有してもよい。この異常判定装置によれば、組電池間の接続に用いられる導電体や、当該導電体と組電池との締結部の異常を判定することができる。
【0029】
<実施形態1>
以下、実施形態1について、
図1から
図7を参照しつつ説明する。
1.電池パックの構成
図1は、本実施形態における電池パック60の構成を示す図である。本実施形態の電池パック60は、例えば電気自動車やハイブリット自動車に搭載され、電気エネルギーで作動する動力源に電力を供給するものであり、蓄電装置の一例である。
【0030】
図1に示すように、電池パック60は、複数の単電池14(
図2参照)から構成される組電池12と、センサユニット30や通信部28等が形成された基板であるセルセンサ(以下、CS)20とを含む複数個の電池モジュール10を有するとともに、これらの電池モジュール10を管理するバッテリ−マネージャー(以下、BM)62、及び電流センサ64を有する。単電池14及び組電池12は、蓄電素子の一例である。
【0031】
各電池モジュール10の組電池12は、バスバー66を介して直列に接続されている。また、各電池モジュール10の組電池12と電流センサ64とは、配線68を介して直列に接続されており、配線68を介して電気自動車等の外部に設けられた充電器18、または、電気自動車等の内部に設けられた動力源等の負荷18に接続される。バスバー66は、導電体の一例であり、BM62とCS20と電流センサ64とを併せたものが、異常判定装置の一例である。
【0032】
BM62は、中央処理装置(以下、CPU)70の他、電流センサ64を用いて組電池12の充電電流または放電電流(以下、充放電電流という)の電流値I[A]を所定期間毎に測定する電流計測部72、及び通信部74を備える。電流センサ64には、測定可能な最大電流値IM、及び、測定レンジが予め設定されている。本実施形態では、電池パック60に使用する電流センサ64として、電流センサ64の最大電流値IMが、充電電流の最大値と略等しくなるものが選定されている。CPU70は、制御部の一例であり、電流計測部72と電流センサ64とを併せたものが、電流検出部の一例である。
【0033】
図1に示すように、CPU70は、ROMやRAMなどのメモリ76と、アナログ信号として測定される電流値Iをデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換機(以下、ADC)78と、を有する。メモリ76には、CS20の動作を制御するための各種のプログラム(電池管理プログラムを含む)が記憶されており、CPU70は、メモリ76から読み出したプログラムに従って、後述する充電状態推定処理を実行するなど、各部の制御を行う。また、メモリ76には、後述して説明する基準値VKや閾値IS等の値や範囲が記憶されている。メモリ76は、記憶部の一例である。
【0034】
通信部74は、通信ライン80を介して各電池モジュール10のCS20と接続されており、後述するように各CS20で測定された電圧値Vや温度D等の情報を受け取る。CPU70は、これらの情報を用いて組電池12の充放電を制御するとともに、各単電池14のSOCを推定する。ここで、「SOC(state of charge)」とは、単電池14の充電状態を示しており、満充電状態においてSOCが100%となり、完放電状態においてSOCが0%となる。
【0035】
なお、電池パック60には、この他に、ユーザからの入力を受け付ける操作部(図示せず)、組電池12の劣化状態等を表示する液晶ディスプレイからなる表示部(図示せず)が設けられている。
【0036】
図2に、電池モジュール10の構成を概略的に示す。組電池12は、複数の単電池14がバスバー16を介して直列接続された構成である。一例として、高電圧側から4個の単電池14A〜14Dが一列に並んで収容された組電池12を
図3に示す。各単電池14には、正負一対の電極端子32A、32Bが形成されており、各単電池14は、隣り合う単電池14の電極端子32の極性が交互に逆向きになるように配置されている。組電池12では、隣り合う単電池14の極性の異なる電極端子32同士が、同一素材及び同一形状のバスバー16A〜16Cにより接続される。バスバー16は、導電体の別例である。
【0037】
詳細には、
図4に示すように、単電池14の電極端子32には、ねじ溝が形成されており、電極端子32の周辺には、電極端子32に電気的に接続する電極プレート34が形成されている。バスバー16は、電極端子32に形成されたねじ溝に螺合するナット36により電極プレート34に圧接され、これにより、電極プレート34とバスバー16とが締結される。同様に、隣り合う組電池12を接続するバスバー66は、ナット36により電極プレート34に圧接され、これにより、電極プレート34とバスバー66とが締結される。バスバー16、66と電極プレート34との圧接部40A〜40Hには、更に、導電性のプレート38が挟まれており、後述するセンサユニット30の電圧測定回路24は、プレート38を用いて圧接部40の電圧値Vを測定する。ナット36は、締結部材の一例であり、圧接部40は、締結部の一例である。
【0038】
単電池14は、繰り返し充放電可能な二次電池である。より具体的には、単電池14は、満充電時の両端間の電圧値が略4Vとなるリチウムイオン電池である。単電池14は、リチウムイオン電池に限らず、ニッケル水素電池などの他の二次電池でもよい。
【0039】
また、
図2に示すように、CS20は、電圧測定回路24と温度センサ26を含むセンサユニット30と通信部28とを含む。電圧測定回路24は、上述したプレート38を用いて、各圧接部40の電圧値V[V]を所定期間毎に測定する。温度センサ26は、接触式あるいは非接触式で組電池12に含まれる各単電池14の温度D[℃]を所定期間毎に測定する。電圧測定回路24とプレート38とを併せたものが、電圧検出部の一例である。
【0040】
通信部28は、通信ライン80を介してBM62と接続されており、CS20で測定された上記電圧値Vや温度D等の情報をBM62に送信する。BM62は、各CS20から送信される電圧値Vや温度D等をメモリ76に記憶する。
【0041】
2.異常判定処理
次に、圧接部40やバスバー16の異常を判定する異常判定処理について説明する。圧接部40の異常としては、例えば、振動等によるナット36の緩みが存在する。また、バスバー16の異常としては、例えば、バスバーの破損や腐食が存在する。これらの異常が発生すると、各バスバー16に対応する一対の圧接部40間の抵抗値が増大し、その結果、圧接部40間の電位差ΔV(
図6参照)が増大する。異常判定処理では、この電位差ΔVに基づいて、圧接部40やバスバー16の異常を判定する。そのため、異常判定処理は、単電池14の充放電状態において実行される。
【0042】
電池パック60では、例えば電気自動車への電源の投入、あるいは電気自動車への充電開始等、ユーザによって電池パック60が起動されると、BM62及びCS20が起動し、組電池12への充放電が開始される。BM62が起動すると、CPU70はメモリ76からプログラムを読み出し、管理処理を開始する。
図5に示すように、CPU70は、管理処理を開始すると、センサユニット30に電圧値V及び温度Dの測定を開始させ(S2)、電流計測部72に電流値Iの測定を開始させる(S4)。
【0043】
図6に、所定の組電池12において測定された放電時の電圧値Vを示す。
図6において、横軸は、組電池12に含まれる各単電池14A〜14Dを示しており、縦軸は、各圧接部40A〜40Hの電圧値Vを示している。
図3に示すように、単電池14Aには、圧接部40A、40Bが対応しており、
図6では、単電池14Aに対応させて、圧接部40A、40Bの電圧値VA、VBが示されている。また、単電池14Bには、圧接部40C、40Dが対応しており、圧接部40C、40Dの電圧値VC、VDが示されている。単電池14C、14Dについても、同様である。
【0044】
図6において、電圧値VAと電圧値VBの差は、単電池14Aの起電力PAを示しており、電圧値VCと電圧値VDの間の差は、単電池14Bの起電力PBを示している。単電池14C、14Dの起電力PC、PDも同様である。
PA=VA−VB
PB=VC−VD
PC=VE−VF
PD=VG−VH
【0045】
また、電圧値VBと電圧値VCの差は、バスバー16Aの抵抗値、及び、圧接部40A、40Bの抵抗値により生じる電位差ΔVAを示しており、電圧値VDと電圧値VEの差は、バスバー16Bの抵抗値、及び、圧接部40C、40Dの抵抗値により生じるに対応する圧接部40D、40E間の電位差ΔVBを示している。バスバー16Cにおける電位差ΔVCも同様である。
ΔVA=|VB−VC|
ΔVB=|VD−VE|
ΔVC=|VF−VG|
【0046】
次に、CPU70は、測定された電流値Iをメモリ76に記憶された閾値ISと比較する(S6)。CPU70は、測定された電流値Iが閾値IS以上となるのを待機する(S6:NO)。そして、測定された電流値Iが閾値IS以上となると(S6:YES)、CPU70は、当該電流値Iが測定されたタイミング後であって、当該タイミングに最も近いタイミングで測定された電圧値Vを用いて、各バスバー16における電位差ΔVを算出する(S8)。
【0047】
CPU70は、算出された各電位差ΔVをメモリ76に記憶された基準値VKと比較し(S10)、算出された電位差ΔVの少なくとも一つが基準値VKを超えている場合(S10:YES)、圧接部40やバスバー16に異常が発生していると判定する(S12)。例えば、
図6下図に示すように、電位差ΔVAが基準値VKを超えて大きい場合、電位差ΔVAに対応する圧接部40B、圧接部40C、及びバスバー16Aの少なくとも一つに異常が発生していると判定する。
【0048】
この場合、CPU70は、表示部を用いて使用者に異常の発生を報知し(S14)、基準値VKを超えた電位差ΔVに基づいて異常の発生している圧接部40やバスバー16を特定して表示部に表示して、異常判定処理を終了する。
【0049】
一方、CPU70は、
図6上図に示すように、算出された電位差ΔVの全てが基準値VK以下である場合(S10:NO)、圧接部40及びバスバー16に異常が発生していないと判定する(S16)。この場合、CPU70は、後述する充電処理において用いられる電位差使用モードをオフからオンに切り替え(S18)、異常判定処理を終了する。
【0050】
3.電流取得処理
次に、
図7を用いて、単電池14の充放電に伴って実行される電流取得処理について説明する。CPU70は、単電池14を充放電する際、先に行われた異常判定処理の結果に基づいて、電流値Iを決定する方法を切り替える。
【0051】
図7に示すように、CPU70は、電流取得処理を開始すると、まず、電位差使用モードを確認する(S22)。CPU70は、電位差使用モードがオフに維持されている場合(S22:NO)、圧接部40及びバスバー16に異常が発生していることから、電流取得処理を終了する。
【0052】
その一方、電位差使用モードがオンに切り替えられている場合(S22:YES)、CPU70は、センサユニット30に電圧値V及び温度Dの測定を開始させ(S24)、各バスバー16の電位差ΔVから電流値Iを推定する処理を開始する(S26)。
【0053】
先に行われた異常判定処理において電位差使用モードがオンに切り替えられている場合、各バスバー16における電位差ΔVは基準値VK以下に抑えられており、各バスバー16の抵抗値、及び、各圧接部40の抵抗値も正常範囲内に保たれている。そのため、各バスバー16における電位差ΔVから、単電池14及びバスバー16を介して流れる電流値Iを推定することができる。
【0054】
また、CPU70は、電流計測部72に電流値Iの測定を開始させ(S28)、電流センサ64を用いた電流値Iの測定を開始する(S30)。つまり、電流取得処理において電位差使用モードがオンに切り替えられている場合、CPU72は、電位差ΔVから電流値Iを推定するとともに、電流センサ64を用いて電流値Iを測定する。
【0055】
次に、CPU70は、S26とS30の少なくとも一方で取得された電流値Iと、メモリ76に記憶された基準電流値IK、及び、電流センサ64の最大電流値IMとを比較する(S32、34)。基準電流値IKは、電流センサ64の最大電流値IMよりも小さく、且つ、最大電流値IMの半分以上の電流値に設定されている。好ましくは、最大電流値IMの8〜9割程度の電流値に設定されている。
【0056】
取得された電流値Iが基準電流値IK以下の場合(S32:YES)、電流値Iが比較的小さく、電位差ΔVから精度良く電流値Iを推定することができない。この場合、CPU70は、電流センサ64を用いて測定された電流値Iを電流値Iとして採用することを決定する(S36)。
【0057】
一方、取得された電流値Iが基準電流値IKよりも大きく、最大電流値IM以下の場合(S32:NO、S34:YES)、電流値Iが比較的大きく、電位差ΔVから電流値Iを比較的精度良く推定することができる。また、電流センサ64を用いて電流値Iの測定が可能である。この場合、CPU70は、更に、電位差ΔVから推定した電流値Iと、電流センサ64を用いて測定された電流値Iとを比較する(S38)。CPU70は、電位差ΔVから推定した電流値Iと、電流センサ64を用いて測定された電流値Iとが等しいか否か、具体的には、電位差ΔVから推定した電流値Iと、電流センサ64を用いて測定された電流値Iとがメモリ76に記憶された基準電流範囲内で一致するか否かを確認する。
【0058】
CPU70は、電位差ΔVから推定した電流値Iと、電流センサ64を用いて測定された電流値Iとが基準電流範囲内で一致しない場合(S38:NO)、電位差ΔVから推定された電流値Iは、電位差ΔVと同様に正常範囲内に保たれていると推定されることから、電流センサ64を用いて測定された電流値Iが異常であると判断する。つまり、電流センサ64が故障していると判断する(S44)。この場合、CPU70は、表示部を用いて使用者に電流センサ64の故障の発生を報知し(S46)、電流取得処理を終了する。
【0059】
その一方、電位差ΔVから推定した電流値Iと、電流センサ64を用いて測定された電流値Iとが基準電流範囲内で一致する場合(S38:YES)、CPU70は、電流センサ64が故障していないと判断する。この場合、CPU70は、電位差ΔVから推定された電流値I、及び、電流センサ64を用いて測定された電流値Iのいずれか一方を電流値Iとして採用することを決定する(S40)。
【0060】
また、取得された電流値Iが最大電流値IMよりも大きい場合(S32:NO、S34:NO)、電流センサ64を用いて電流値Iの測定をすることができない。本実施形態では、電流センサ64の最大電流値IMが、充電電流の最大値と略等しくなるように選定されている。そして、一般に、充電電流の最大値は放電電流の最大値よりも小さい。そのため、上記の状況は、放電時において大電流が流れた場合に実現される。この場合、CPU70は、電位差ΔVから推定した電流値Iを電流値Iとして採用することを決定する(S42)。
【0061】
CPU70は、上記処理において採用した電流値Iを用いて、SOCの推定や、充電終了タイミングの決定など、単電池14の充放電に必要な各種処理を実行する(S48)。CPU70は、単電池14の充放電が終了するまでS32からの処理を繰り返し(S50:NO)、単電池14の充放電が終了すると(S50:YES)、電流取得処理を終了する。
【0062】
4.本実施形態の効果
(1)本実施形態の電池パック60では、CPU70が圧接部40の電圧値Vを測定し、測定された電圧値Vから算出される電位差ΔVを用いて、圧接部40やバスバー16の異常を判定する。具体的には、算出される電位差ΔVを予めメモリ76に記憶された基準値VKと比較し、当該電位差ΔVが基準値VKを超えている場合に、異常と判定する。
【0063】
各バスバー16における電位差ΔVは、当該バスバー16の抵抗値、及び、当該バスバー16に対応する圧接部40の抵抗値を反映しており、単電池14の劣化等による影響を受けない。そのため、電位差ΔVを用いることで、単電池14の影響を抑制して圧接部40やバスバー16の異常を判定することができる。つまり、電位差ΔVが基準値VKを超えている場合には、振動等によるナット36の緩みにより、圧接部40の抵抗値が増加したこと、或は、破損や腐食等により、バスバー16の抵抗値が増加したこと、の少なくとも一方の事象が発生したことを判定することができる。
【0064】
(2)また、電位差ΔVは、単電池14の充放電中であればいつでも算出することができ、環境条件による影響が少ない。例えば、圧接部40の異常を圧接部40の温度を用いて判定する場合、測定される圧接部40の温度は、圧接部40を流れる電流による温度上昇と、バスバー16周囲の空気による温度低下の両方の影響を受ける。そのため、バスバー16を介して流れる電流が小さい場合や、バスバー16を介して電流が流れる期間が短い場合などでは、バスバー16周囲の空気による温度低下の影響が相対的に強くなり、圧接部40の温度により圧接部40の異常を正確に判定することができない。
【0065】
その一方、電位差ΔVの算出に用いる電圧値Vは、圧接部40を流れる電流による電圧降下の影響を受け、バスバー16周囲の空気による影響、つまり環境条件による影響がほぼ無いか、有るとしても少ない。そのため、バスバー16を介して流れる電流が小さい場合や、バスバー16を介して電流が流れる期間が短い場合など、温度上昇が見込めない場合でも、電位差ΔVに基づいて圧接部40等の異常を判定することができる。
【0066】
(3)加えて、圧接部40の温度の測定では、温度の検出に用いる温度センサの取り付け方や取り付け場所により、測定される温度が変動するが、電位差ΔVの算出に用いる電圧値Vの測定では、その変動がほぼ無いか、有るとしても少ない。そのため、電位差ΔVを用いることで、センサの取り付け方や取り付け場所による影響を抑制して、電位差ΔVに基づいて圧接部40等の異常を判定することができる。
【0067】
(4)本実施形態の電池パック60では、各単電池14の起電力Pを測定するために測定される圧接部40の電圧値Vを用いて、各バスバー16における電位差ΔVを算出する。そのため、電位差ΔVの算出においては、電位差ΔVを測定するための専用の手段を新たに設ける必要なく電位差ΔVを算出することができ、起電力Pの測定においては、バスバー16の破損や腐食等による影響を受けずに、起電力Pを測定することができる。
【0068】
(5)本実施形態の電池パック60では、圧接部40やバスバー16の異常を判定する際に、単電池14及びバスバー16を介して流れる電流値Iを測定し、測定された電流値Iが閾値IS以上である場合に、圧接部40やバスバー16の異常を判定する。電位差ΔVに基づいて圧接部40やバスバー16の異常を判定する場合、単電池14及びバスバー16に流れる電流値Iが大きいほど、算出される電位差ΔVは増大し、異常の判定精度も向上する。この電池パック60によれば、閾値ISに対応した一定の精度において、圧接部40やバスバー16の異常を判定することができる。
【0069】
(6)本実施形態の電池パック60では、圧接部40やバスバー16の異常を判定し、異常がないと判定された場合、各バスバー16における圧接部40間の電位差ΔVから、単電池14及びバスバー16を介して流れる電流値Iを推定する。圧接部40及びバスバー16に異常がない場合、圧接部40の抵抗値、及び、バスバー16の抵抗値は、正常範囲内の抵抗値に保たれる。そのため、電位差ΔVから、単電池14及びバスバー16を介して流れる電流値Iを推定することができる。
【0070】
(7)従って、単電池14及びバスバー16を介して流れる電流値Iを決定する際に、電流センサ64に代えて、電位差ΔVを用いることができる。例えば、電流センサ64の最大電流値IMを超えるような電流値Iが流れる場合には、電流センサ64に代えて、電位差ΔVを用いて電流値Iを決定することができる。
【0071】
(8)本実施形態の電池パック60では、電流センサ64の最大電流値IMが、充電電流の最大値と略等しく設定されている。そのため、従来のように、放電電流の最大値から電流センサ64を選定する場合に比べて、電流センサ64の最大電流値IMを小さくすることができる。電流センサ64では、最大電流値IMに基づいて検出レンジが設定されている。そのため、電流センサ64の最大電流値IMを小さくすることで、電流値Iの検出精度を向上させることができる。
【0072】
そして、単電池14の放電時において放電電流が電流センサ64の最大電流値IMを超える場合には、電位差ΔVを用いて電流値Iを決定することができる。本実施形態の電池パック60では、電流値Iが基準電流値IKを超えた場合に、電位差ΔVを用いて電流値Iを推定する。電位差ΔVを用いた電流値Iの推定では、電流値Iが大きいほど推定精度が向上する。そのため、電位差ΔVを用いた電流値Iの推定を、電流値Iが最大電流値を超えた場合とすることで、電流値Iの推定精度を向上させることができる。
【0073】
(9)更に、電流センサ64では、最大電流値に基づいて価格が設定されており、一般に、最大電流値が小さくなるほど、価格が低くなる。そのため、最大電流値の小さい電流センサ64を用いることで、電池パック60の製造コストを削減することができる。
【0074】
(10)本実施形態の電池パック60では、電位差ΔVから電流値Iを推定する場合、併せて、電流センサ64の故障を判断する。具体的には、電流値Iが基準電流値IKよりも大きく、最大電流値IM以下の場合、つまり、電位差ΔVを用いても、電流センサ64を用いても、比較的精度良く電流値Iを推定、或は、測定可能である場合に、電流センサ64の故障を判断する。そのため、単電池14の充放電中に、電流センサ64の故障を判断することができる。
【0075】
<実施形態2>
実施形態2について、
図8または
図9を参照しつつ説明する。本実施形態の電池パック60では、異常判定処理が単電池14の放電状態において実行され、且つ、異常判定処理において圧接部40やバスバー16の異常を判定する際に、算出された電位差ΔV同士を比較する点で、実施形態1の電池パック60と異なる。以下の説明では、実施形態1と同一の内容については重複した記載を省略する。
【0076】
1.異常判定処理
本実施形態の異常判定処理において、CPU70は、
図8に示すように、各バスバー16における電位差ΔVを算出すると(S8)、算出された電位差ΔV同士を比較する(S52)。CPU70は、算出された電位差ΔV同士の差分値がメモリ76に記憶された基準範囲HK内であるか否か、つまり、算出された電位差ΔVが基準範囲HK内で一致するか否かを確認する。CPU70は、
図9の下図に示すように、算出された電位差ΔVが基準範囲HK内で一致しない電位差ΔVの組み合わせが存在する場合(S52:NO)、圧接部40やバスバー16に異常が発生していると判定する(S12)。
【0077】
一方、すべての電位差ΔVが基準範囲HK内で一致する場合(S52:YES)、CPU70は、圧接部40及びバスバー16に異常が発生していないと判定する(S16)。この場合、CPU70は、電位差使用モードをオフからオンに切り替え(S18)、異常判定処理を終了する。
【0078】
2.本実施形態の効果
本実施形態の電池パック60では、圧接部40やバスバー16の異常を判定する際に、算出された電位差ΔV同士を比較する。各バスバー16における電位差ΔVは、同時に測定された圧接部40の電圧値Vから算出されており、同一の環境条件において測定された電圧値Vを用いて算出されている。そのため、環境条件による影響を抑制して、圧接部40やバスバー16の異常を判定することができる。
【0079】
<他の実施形態>
本明細書が開示する技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、蓄電素子の一例として二次電池の単電池14を示したが、これに限らず、蓄電素子は、一次電池であってもよければ、電気化学現象を伴うキャパシタであってもよい。
【0080】
(2)上記実施形態では、単電池14同士を接続するバスバー16と、単電池14とバスバー16との圧接部40の異常を判定する例を用いて説明を行ったが、異常を判定する対象はこれに限られない。例えば、組電池12同士を接続するバスバー66と、組電池12とバスバー66との圧接部40の異常を判定するのに用いられてもよい。
【0081】
(3)上記実施形態では、複数の組電池12がバスバー66を介して直列に接続され、複数の単電池14がバスバー16を介して直列に接続される例を用いて説明を行ったが、複数の組電池12がバスバー66を介して並列に接続されても良ければ、複数の単電池14がバスバー16を介して並列に接続されても良い。
【0082】
この場合、各バスバー16、66には、3つ以上の圧接部40が設けられる。この場合でも、各バスバー16、66における圧接部40のうち、2つの圧接部40を選択し、その2つの圧接部40間の電位差ΔVから、選択した圧接部40やバスバー16の異常を判定することができる。そして、各バスバー16、66における全ての圧接部40が選択されるまで、異常の判定を繰り返し行うことで、各バスバー16、66における全ての圧接部40やバスバー16全域の異常を判定することができる。
【0083】
(4)上記実施形態では、組電池12内で使用される複数のバスバー16が、同一形状である例を用いて説明を行ったが、本発明はこれに限られず、組電池12内で使用される各バスバー16の形状が異なっていてもよい。この場合、メモリ76に各バスバーの長さや幅などの形状に関する情報しておき、算出された電位差ΔVを、当該メモリ76に記憶された形状に関する情報を用いて規格化する。規格化された電位差ΔVを用いることで、圧接部40やバスバー16の異常を判定することができる。
【0084】
(5)上記実施形態では、電圧測定回路24が、プレート38を用いて圧接部40の電圧値Vを測定する例を用いて説明を行ったが、電圧測定回路24が電圧値Vを測定するバスバー16、66上の測定点は、圧接部40に限られない。例えば、
図10に示すように、バスバー16の圧接部40の中央部に穴が開けられ、ボルト42とナット36によってプレート38が固定されている場合には、バスバー16の中央部の電圧値Vを測定してもよい。この場合、バスバー16の中央部の電圧値Vと一方の圧接部40との電位差ΔVから、当該一方の圧接部40の異常や、当該一方の圧接部40からバスバー16の中央部までの異常を判定することができる。
【0085】
(6)上記実施形態では、圧接部40において、バスバー16と電極プレート34とがナット36により締結され、圧接部40の異常として、振動等によるナット36の緩みを判定する例を用いて説明を行ったが、本発明はこれに限られない。例えば、バスバー16と電極プレート34、或は、バスバー16と電極端子32とが溶接されている場合には、圧接部40の異常として、振動等による溶接部分の乖離を判定してもよい。
【0086】
(7)上記実施形態では、制御部の一例として、BM62に含まれる1つのCPU70を例示した。しかし、制御部は、複数のCPUを備える構成や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハード回路を備える構成や、ハード回路及びCPUの両方を備える構成でもよい。要するに、制御部は、上記の異常判定処理等を、ソフト処理またはハード回路を利用して実行するものであればよい。
【0087】
(8)上記実施形態では、CPU70が読み込んで実行するプログラムとして、メモリ76に記憶されたものを例に挙げた。しかし、プログラムは、これに限らず、ハードディスク装置、フラッシュメモリ(登録商標)などの不揮発性メモリや、CD−Rなどの記憶媒体などに記憶されたものでもよい。また、メモリ76は、必ずしもCPU70の内部に設けられる必要はなく、CPU70の外部に設けられていてもよい。