(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の合成処理を実行することは、前記第1の割合を用いて算出される前記第1の受光結果に含まれる血管透過光成分の量(以下「第1の血管透過光成分量」という)と、前記第2の割合を用いて算出される前記第2の受光結果に含まれる血管透過光成分の量(以下「第2の血管透過光成分量」という)との差を算出することを含む、
請求項1に記載の血液成分分析方法。
前記第2の割合に対する前記第1の割合が、前記血管が第1の深度のときよりも、前記第1の深度より深い第2の深度のときの方が大きくなるように、前記第1の割合および前記第2の割合を設定すること、
を更に含む請求項1〜3の何れか一項に記載の血液成分分析方法。
前記第1の割合に対する前記第2の割合が、前記血管が第1の径のときよりも、前記第1の径より大きい第2の径のときの方が大きくなるように、前記第1の割合および前記第2の割合を設定すること、
を更に含む請求項1〜5の何れか一項に記載の血液成分分析方法。
前記照射位置から前記第1の受光位置までの距離と、前記照射位置から前記第2の受光位置までの距離とを前記血管の深度に応じて変更して、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置を位置決めすること、
を更に含む請求項1〜6の何れか一項に記載の血液成分分析方法。
前記照射位置から前記第1の受光位置までの距離と、前記照射位置から前記第2の受光位置までの距離とを前記血管の径に応じて変更して、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置を位置決めすること、
を更に含む請求項1〜7の何れか一項に記載の血液成分分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体は光の散乱体であることから、生体の表面に照射された測定光は生体内で複雑に散乱しながら伝搬する。また、生体を形成している生体組織は均質ではなく、血管以外にも例えば細胞組織や間質液といった構造物や物質等が存在している。したがって、受光位置での受光結果は血管以外の生体組織の透過光や反射光を含み、更には生体表面で反射した光等も混合される。そのため、測定部位の全域に測定光を照射して単純に受光測定(撮影)するだけでは、無用な透過光や反射光が受光光に多量に混合されてしまい、血液成分の分析精度が低下する場合があった。
【0005】
本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、血管透過光成分を適正に抽出して血液成分を精度よく分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための第1の発明は、血管の上方の所定の照射位置から光を照射することと、前記照射位置とは異なる前記血管の上方の第1の受光位置で受光することと、前記血管の上方ではない第2の受光位置で受光することと、前記第1の受光位置での第1の受光結果と前記第2の受光位置での第2の受光結果とを、前記照射位置、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置の位置関係に基づく所定の合成処理で合成することと、前記合成の結果を用いて血液の成分分析を行うことと、を含む血液成分分析方法である。なお、本明細書においては、光の照射位置と生体組織内に含まれる血管との位置関係を、血管の「上方の」所定の照射位置と表記する。同様に、光の受光位置と生体組織内に含まれる血管との位置関係を、血管の「上方の」受光位置と表記する。「上方」とは鉛直方向の上方向を意味するものではなく、ユーザーの使用時の一般的な表現の意味で「上方」と表記するものである。
【0007】
また、別形態として、血管の上方の所定の照射位置から光を照射するための光源と、前記照射位置とは異なる前記血管の上方の第1の受光位置で受光するための第1の受光器と、前記血管の上方ではない第2の受光位置で受光するための第2の受光器と、前記第1の受光位置での第1の受光結果と前記第2の受光位置での第2の受光結果とを、前記照射位置、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置の位置関係に基づく所定の合成処理で合成するための合成部と、前記合成の結果を用いて血液の成分分析を行うための分析部と、を備えた血液成分分析装置を構成することとしてもよい。
【0008】
血管の上方から光を照射する場合、照射位置とは異なる血管上方の第1の受光位置での第1の受光結果は、血管上方ではない第2の受光位置での第2の受光結果と比べて血管透過光成分を多く含む。第1の発明および別形態によれば、第1の受光結果と第2の受光結果とを、照射位置、第1の受光位置、および第2の受光位置の位置関係に基づく所定の合成処理で合成することができる。したがって、血管透過光成分を適正に抽出して血液成分を精度よく分析することができる。
【0009】
第2の発明は、前記合成することは、前記第1の受光結果に含まれる血管透過光成分の第1の割合と、前記第2の受光結果に含まれる血管透過光成分量の第2の割合とを設定することと、前記第1の割合と前記第2の割合とを用いて前記所定の合成処理を実行することと、を含む第1の発明の血液成分分析方法である。
【0010】
第2の発明によれば、第1の受光結果に含まれる血管透過光成分の第1の割合と、第2の受光結果に含まれる血管透過光成分の第2の割合とを用いて第1の受光結果と第2の受光結果とを合成処理することができる。したがって、第1の受光結果および第2の受光結果に含まれる血管透過光成分量を反映した合成結果を得ることができる。
【0011】
第3の発明は、前記所定の合成処理を実行することは、前記第1の割合を用いて算出される前記第1の受光結果に含まれる血管透過光成分の量(以下「第1の血管透過光成分量」という)と、前記第2の割合を用いて算出される前記第2の受光結果に含まれる血管透過光成分の量(以下「第2の血管透過光成分量」という)との差を算出することを含む、第2の発明の血液成分分析方法である。
【0012】
第3の発明によれば、第1の受光結果に含まれる第1の血管透過光成分量と、第2の受光結果に含まれる第2の血管透過光成分量との差を合成結果として得ることができる。
【0013】
第4の発明は、前記第1の割合を設定することは、前記照射位置と前記第1の受光位置との間の距離に応じた割合に設定することを含み、前記第2の割合を設定することは、前記照射位置と前記第2の受光位置との間の距離に応じた割合に設定することを含む、第2または第3の発明の血液成分分析方法である。
【0014】
第4の発明によれば、照射位置と第1の受光位置との間の距離を考慮して第1の割合を設定し、照射位置と第2の受光位置との間の距離を考慮して第2の割合を設定することができる。したがって、第1の受光結果および第2の受光結果に含まれる血管透過光成分量をより反映した合成結果を得ることができる。
【0015】
第5の発明は、前記血管の深度に応じて前記第1の割合および前記第2の割合を可変に設定すること、を更に含む第2〜第4の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0016】
第5の発明によれば、血管の深度を考慮して第1の割合および第2の割合を設定することができる。したがって、第1の受光結果および第2の受光結果に含まれる血管透過光成分量をより反映した合成結果を得ることができる。
【0017】
第6の発明は、前記第2の割合に対する前記第1の割合が、前記血管が第1の深度のときよりも、前記第1の深度より深い第2の深度のときの方が大きくなるように、前記第1の割合および前記第2の割合を設定すること、を更に含む第2〜第5の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0018】
第6の発明によれば、第2の割合に対する第1の割合が、血管の深度が浅いときよりも深いときに大きくなるように第1の割合および第2の割合を設定することができる。
【0019】
第7の発明は、前記血管の径に応じて前記第1の割合および前記第2の割合を可変に設定すること、を更に含む第2〜第6の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0020】
第7の発明によれば、血管の径を考慮して第1の割合および第2の割合を設定することができる。したがって、第1の受光結果および第2の受光結果に含まれる血管透過光成分量をより反映した合成結果を得ることができる。
【0021】
第8の発明は、前記第1の割合に対する前記第2の割合が、前記血管が第1の径のときよりも、前記第1の径より大きい第2の径のときの方が大きくなるように、前記第1の割合および前記第2の割合を設定すること、を更に含む第2〜第7の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0022】
第8の発明によれば、第1の割合に対する第2の割合が、血管が細いときよりも太いときに大きくなるように第1の割合および第2の割合を設定することができる。
【0023】
第9の発明は、前記照射位置から前記第1の受光位置までの距離と、前記照射位置から前記第2の受光位置までの距離とを前記血管の深度に応じて変更して、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置を位置決めすること、を更に含む第2〜第8の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0024】
第9の発明によれば、照射位置から第1の受光位置までの距離と、照射位置から第2の受光位置までの距離とを血管の深度に応じて変更して第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めすることができる。
【0025】
第10の発明は、前記照射位置から前記第1の受光位置までの距離と、前記照射位置から前記第2の受光位置までの距離とを前記血管の径に応じて変更して、前記第1の受光位置および前記第2の受光位置を位置決めすること、を更に含む第1〜第9の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0026】
第10の発明によれば、照射位置から第1の受光位置までの距離と、照射位置から第2の受光位置までの距離とを血管の径に応じて変更して第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めすることができる。
【0027】
第11の発明は、前記照射位置と前記第1の受光位置とを含む方向と、前記照射位置と前記第2の受光位置とを含む方向とが交差すること、を含む第1〜第10の何れかの発明の血液成分分析方法である。
【0028】
第11の発明によれば、照射位置と第1の受光位置とを含む方向と、照射位置と第2の受光位置とを含む方向とが交差する位置関係で第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の血液成分分析方法および血液成分分析装置を実施するための一形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明が適用可能な形態は、以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0031】
図1は、本実施形態における非侵襲式の血液成分分析装置10の構成例を示す外観図である。この血液成分分析装置10は、被検者2の血液を成分分析する分析器として機能し、且つ、分析データを記憶するデータロガーとしても機能する装置であり、一種のコンピューターとも言える。
図1に示すように、血液成分分析装置10は、外観は腕時計型を成しており、本体ケース12に設けられたバンド14で被検者2の腕や足、頸等の身体部位へ装着・固定して使用される。
【0032】
血液成分分析装置10は、本体ケース12の表面(被検者2に装着した時に外向きになる面)に、操作入力手段として、操作スイッチ16と、画像表示手段を兼ねるタッチパネル18とを備える。ユーザーは、これらを用いて分析開始操作等の各種操作入力をすることができる。
【0033】
また、本体ケース12の側面には、外部装置と通信するための有線ケーブルを着脱できる通信装置20と、メモリーカード22のデータ読み書きを実現するリーダーライター24とを備える。また、本体ケース12の背面(被検者2に装着した時に被検者2の皮膚に接触する面)側には、測定光の照射および受光測定のための主たるセンサーとなるセンサーモジュール50を備える。そして、本体ケース12の内部には充電式の内蔵バッテリー26と制御基板30とが内蔵されている。
【0034】
通信装置20は、外部装置との通信を無線で行う構成ならば、無線通信モジュールおよびアンテナにより実現される。
メモリーカード22は、データ書き換えが可能な着脱式の不揮発性メモリーである。本実施形態ではフラッシュメモリーを用いるが、強誘導体メモリー(FeRAM:Ferroelectric Random Access Memory)や、磁気抵抗メモリー(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)等その他の書き換え可能な不揮発性メモリーを用いるとしてもよい。
内蔵バッテリー26への充電方式は適宜設定できる。例えば、本体ケース12の背面側に電気接点を別途設け、家庭用電源に接続されたクレードルにセットし、電気接点を介してクレードル経由で通電・充電される構成でもよいし、非接触式の無線式充電でもよい。
【0035】
制御基板30は、血液成分分析装置10を統合的に制御する。具体的には、CPU(Central Processing Unit)32と、メインメモリー34と、分析データ用メモリー36と、タッチパネルコントローラーIC(Integrated Circuit)38と、センサーモジュールコントローラー40とを搭載する。また、その他には電源管理ICや、画像処理用IC等の電子部品を適宜搭載することができる。
【0036】
メインメモリー34は、プログラムや初期設定データを格納したり、CPU32の演算値を格納することのできる記憶媒体である。RAMやROM、フラッシュメモリー等を適宜用いて実現される。なお、プログラムや初期設定データは、メモリーカード22に記憶されている構成でもよい。
【0037】
分析データ用メモリー36は、データ書き換えが可能な不揮発性メモリーであって、血液成分の分析データを記憶するための記憶媒体である。本実施形態ではフラッシュメモリーを用いるが、強誘導体メモリー(FeRAM)や、磁気抵抗メモリー(MRAM)等その他の書き換え可能な不揮発性メモリーを用いるとしてもよい。なお、分析データは、メモリーカード22に記憶される構成でもよい。
【0038】
タッチパネルコントローラーIC38は、タッチパネル18に画像を表示させるためのドライバー機能を実現し、またタッチ入力を実現するための機能を実現するICである。タッチパネル18ともども公知技術を適宜利用することで実現可能である。
【0039】
センサーモジュールコントローラー40は、センサーモジュール50による測定光の照射機能、および当該測定光が被検者2の生体組織を透過した光(透過光)や反射した光(反射光)の受光制御を行う機能を担うICや回路を有する。
より具体的には、センサーモジュール50が備える複数の発光素子(通電により測定光を発する素子)を個別に発光制御するICや回路からなる発光コントローラー部42と、センサーモジュール50が備える複数の受光素子(受光した光量に応じた電気信号を発する素子)による受光を制御するICや回路からなる受光コントローラー部44と、を含む。
【0040】
なお、センサーモジュールコントローラー40は、複数のICにより構成してもよい。例えば、発光コントローラー部42に相当するICや回路と、受光コントローラー部44に相当するICや回路とをそれぞれ別のICとする構成も可能である。或いは、これらの機能の一部をCPU32により実現する構成も可能である。
【0041】
図2は、本実施形態におけるセンサーモジュール50の構成例を示す図であって、(1)正面図、(2)断面図に相当する。なお、理解を容易にするために発光素子52や受光素子54を意図的に大きく記している。また、サイズ、縦横比等もこれに限られるものではなく、適宜設定可能である。
【0042】
センサーモジュール50は、光源としての複数の発光素子52を平面状に配列した層と、第1の受光器および第2の受光器としての複数の受光素子54を平面状に配列した層とを積層して構成されるデバイスである。換言すれば、光源内蔵型のイメージセンサーであり、測定光の照射と受光の両方の機能を実現するセンサアレイである。センサーモジュール50は、センサーモジュールコントローラー40と一体に構成されるとしてもよい。
【0043】
発光素子52は、測定光を照射する照射部であり、例えばLED(Light Emitting Diode)、OLED(Organic light-emitting diode)等により実現できる。血液を成分分析して血中グルコース濃度(いわゆる「血糖値」)を算出(推定)する場合には、生体透過性の高い近赤外光(700[nm]〜1300[nm]程度)を含む光を照射可能な素子とする。近赤外光には、生体内で散乱しにくく、且つ、生体内に多量に存在する水の吸収が少ない波長帯域が存在するためである。これに対し、可視光は、水の吸収が少ない一方で散乱性が高いため、生体内の深部の情報を反映した光強度分布を得にくい。また、赤外光やテラヘルツ領域の波長は、散乱は少ないものの水の吸収が大きく、生体透過性が低い。本実施形態では、発光素子52は近赤外光を照射することとし、血液成分として血糖値を算出するものとして説明する。
【0044】
受光素子54は、測定光の透過光や反射光を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する撮像素子である。例えば、CCD(Charge Coupled Device Image Sensor)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)等の半導体素子で実現できる。一つの受光素子54は、RGB各波長成分を受光する複数の素子を含むものとする。
【0045】
そして、センサーモジュール50は、基底側(本体ケース12の表側)から順に、
1)複数の受光素子54を平面状且つ格子状に配列した受光層51、
2)各受光素子54へ向かう光以外を選択的に遮蔽する遮光層53、
3)近赤外光を選択的に透過する分光層55、
3)隣接する受光素子54の間であって、生体組織を透過・反射した光が受光素子54へ到達する際の光路を阻害しない位置に、複数の発光素子52を平面状且つ格子状に配列した発光層57、
を積層して備える。
【0046】
受光層51の受光素子54は、公知のCCDイメージセンサー等のように、ピクセルがXs−Ys直交座標系で識別できるマトリクス状に配置されている。つまり、センサーモジュール50は公知のイメージセンサーと同様に機能する。なお、受光素子54の形状や大きさ、配置パターンは適宜設定可能である。
【0047】
発光層57の発光素子52は、センサーモジュール50を正面(本体ケース12の裏側)から見ると、近隣の受光素子54の隅の突き合わせ部に1つずつ配置される。より具体的には、4つの受光素子54の角の突き合わせ部に1つの発光素子52が配置されており、発光素子52全体としては受光素子54と同じXs−Ys直交座標系で識別できるマトリクス状に配置されている。本実施形態では、発光素子52を選択的に発光させる駆動機構を有しており、例えば、液晶パネルディスプレイのアクティブマトリクス方式と同様に駆動制御できるようになっている。
【0048】
こうした積層構造を有したセンサーモジュール50の作成には、公知のCCDイメージセンサーやOLEDディスプレイの製造に用いられる半導体微細加工技術を適宜応用することができる。
【0049】
なお、発光素子52の大きさや配置間隔、受光素子54の大きさや配置間隔等は、適宜設定可能である。例えば、配置間隔は、1〜500[μm]とすると好適であり、製造コストと測定精度との兼ね合いから、例えば50〜200[μm]程度とすることもできる。また、センサーモジュール50には、発光素子52から照射される測定光の照射範囲を絞ったり、偏光する目的、あるいは生体組織を透過・反射した光を受光素子54に的確に集める目的で、更なる光学素子を有する集光層を設けることもできる。また、表面の損傷を防止する保護層等を適宜設けてもよい。また、発光素子52と受光素子54とが積層された構成に限らず、発光素子52と受光素子54とが並置されていてもよい。
【0050】
[原理]
血液成分分析装置10は、センサーモジュール50が露出している裏面を被検者2の皮膚に密着させるようにしてバンド14で固定される。センサーモジュール50を皮膚に密着させることで、測定光の皮膚表面での反射や皮膚表面付近の組織での散乱といった測定精度を下げる要因を抑制することができる。
【0051】
分析にあたっては、先ず、センサーモジュール50を被せた身体の皮下にある血管の一部を測定対象の血管として選択し、当該血管をターゲットとして測定光の照射および受光測定を行う。そして、測定結果(受光結果)から測定対象の血管を透過した血管透過光成分を抽出し、その血管透過光成分量を反映した相対スペクトルを合成する合成処理を行って、血液中に含有される血糖値を算出する。
【0052】
測定対象の血管を選択するためには、先ずセンサーモジュール50を被せた皮下のどこに血管が存在するかを把握する必要がある。
図3は、本実施形態における血管位置の取得方法を示す概念図であって、被検者2にセンサーモジュール50を被せた部分の断面図に相当する。なお、センサーモジュール50は簡略表記している。
【0053】
血管位置を取得するには、公知の静脈認証技術における静脈パターン検出と同様にして、センサーモジュール50が備える発光素子52を一斉発光させて被検者2の測定部位全域へ測定光を照射する。そして、全ての受光素子54を用い、皮下の生体組織(皮下組織)を透過・反射した光を受光測定(撮影)して生体画像を取得する。
【0054】
ここで、センサーモジュール50により撮像される生体画像は、センサーモジュール50の受光素子54それぞれに対応するピクセルの輝度データの集合となり、センサーモジュール50のピクセル座標と同じXs−Ys直交座標系の2次元画像として得られる。血管は、内部を流れる血液の影響で、血管以外の生体組織部分(以下、「非血管部」という。)よりも近赤外光を吸収し易いため、血管部分は非血管部分よりも輝度が低く暗くなる。したがって、生体画像において輝度が低くなっている部分を抽出することで、ピクセル毎に血管が写っているのか非血管部が写っているのか、換言すれば、各受光素子54の下に血管があるか否かを識別できる。
【0055】
図4は、被検者2の測定部位の生体画像を模式的に示す図である。
図4の例では、斜線あるいはドットパターンでハッチングした帯状の部分が血管7を示し、白抜きされた部分が非血管部8である。なお、血管位置の取得方法は例示した方法に限定されるものではない。例えば、超音波エコーやMRI(Magnetic Resonance Imaging)、CT(Computed Tomography)等の公知の生体断層画像計測技術を利用して事前に生体内部構造の相対的な位置を取得しておき、それをもとに血管位置を決定する方法も考えられる。
【0056】
血管7の位置を取得したならば、血管7の上方に位置する発光素子52を選択的に用いて照射位置とし、この照射位置から測定光(近赤外光)を照射して皮下組織を透過・反射した光を受光測定する。より詳細には、その照射位置が血管の構造的中心と一致する発光素子52を選択的に用いる。
【0057】
なお、測定対象となる血管以外の非血管部、例えば、細胞組織や間質液等の部分の透過光は、本来得たい血管透過光の分光スペクトル(以下、「血管吸光スペクトル」という。)に影響を及ぼし得る。また、非血管部に測定光が当たれば少なからず反射光が生じ、同様に血管吸光スペクトルに影響を及ぼす要因となる。このような無用な透過光や反射光の影響を抑制するため、実際の処理では、前述のように位置が把握された血管7から測定に適した血管部位が測定対象として選択される。具体的には、
図4にて破線で囲まれた血管7の分岐点や合流点等は測定対象から除外される。このような分岐点や合流点等に測定光が及ぶと、受光位置での受光光(以下、「全透過光」という。)に非血管部の透過光等が混合し易いためである。また、測定対象とする血管部位には最低限の長さが要求される。例えば、
図4中の斜線のハッチング部分の血管部位7aが測定対象として選択される。
【0058】
次に、合成処理について説明する。
図5は、測定部位の皮膚表面(生体組織表面)811を模式的に示す平面図であり、皮下を走行する測定対象の血管71の位置にハッチングを付して示している。また、
図6は、
図5に示す皮膚表面811の皮下組織層81を模式的に示す斜視図である。ここで、
図5および
図6に図示するように、皮膚表面811と平行な面において、血管71の径方向をx方向、血管71の走行方向をy方向とし、照射位置P11を原点とする座標系をx−y直交座標系と定義する。
【0059】
上記したように、本実施形態では、測定対象とした血管71の上方に位置する発光素子52が選択されて照射位置P11とされ、測定光を照射する。この照射位置P11から照射された測定光Bは、一部が皮膚表面811で反射され、一部が皮下組織層81に侵入する。そして、皮下組織層81に侵入した測定光は、
図5および
図6中に破線矢印で示すように、皮下組織層81内を複雑に散乱しながら透過し、皮膚表面811に到達する。このようにして皮膚表面811に到達した透過光には、血管71を透過した光、すなわち、照射位置P11から皮膚表面811に到達するまでの経路が血管71を経由している光(血管透過光)と、血管71を透過しなかった光、すなわち、照射位置P11から皮膚表面811に到達するまでの経路が血管71を経由していない光(血管非透過光)とが含まれる。
【0060】
ここで、照射位置P11からの距離(以下、「測定点距離」という。)Rが同じ同心円上の受光素子54により受光される透過光に血管透過光成分がどの程度含まれるのかを考えると、照射位置P11からy方向に沿って離れた血管71の上方の受光素子54の位置(以下、「第1の受光位置」という。)P21において受光される透過光の強度に含まれる血管透過光成分の割合が他と比べて多くなることが想定できる。この第1の受光位置P21で受光される透過光は、照射位置P11を起点に概ね血管71の走行方向(y方向)に沿って伝搬した光だからである。これに対し、照射位置P11からx方向に沿って離れた血管71の上方ではない受光素子54の位置(以下、「第2の受光位置」という。)P23で受光される透過光は、照射位置P11を起点に概ね血管71の径方向(x方向)に沿って伝搬した光であることから、血管透過光成分の割合は少ないと考えられる。
【0061】
そこで、照射位置P11から実際の測定に用いる測定光と同様の光(近赤外光)を照射した場合に皮膚表面811の全域で観測される血管透過光の強度分布および透過光の強度分布を実験的に求めた。実験は、生体を模したファントムを用いたサンプル測定、あるいは生体を模したシミュレーションによって
図5および
図6に示す皮下組織層81の構造を再現し、照射位置からの光の経路を予測することで行うことができる。このとき、血管71を透過したか否かを明確に区別するために、血管71を特定の波長に励起される蛍光体や非血管部とは異なる吸収特性を有する吸収体等として設定し、分光によってこれらを区別できるようにして実験を行うようにする。
【0062】
例えば、モンテカルロシミュレーションによって皮下組織層81の構造を再現し、実験を行った。その際、入射光に対し、非等方性パラメータを0.81、屈折率を1.37、平均自由行程を0.057mmとする散乱体を定義し、皮下組織層81を想定した。また、散乱体の内部において、血管71を想定した直径2.3mmの円柱構造をその中心が散乱体の上面から2mmの深さ位置となるように設定した。シミュレーションは、100万回行った。
【0063】
図7および
図8に、シミュレーション結果を示す。
図7は、皮膚表面811内における血管透過光の強度分布を示し、
図8は、皮膚表面811内における血管透過光および血管非透過光を含む全透過光の強度分布を示している。
図7および
図8において、中心がx−y直交座標系の原点すなわち照射位置に対応する。また、x軸上およびy軸上の位置で得た観測結果を対象に、全透過光の強度に含まれる血管透過光成分の割合を求めた。
図9は、横軸を測定点距離Rとし、縦軸を全透過光の強度に含まれる血管透過光成分の割合として、y軸上での血管透過光成分の割合(第1の割合;以下、「y方向比率」という。)の変化を実線で、x軸上での血管透過光成分の割合(第2の割合;以下、「x方向比率」という。)の変化を一点鎖線でグラフ化した図である。
【0064】
図7に示すように、血管透過光の強度が強く明るい範囲はx方向と比べてy方向で広く、血管透過光の強度は、照射位置を中心に血管の走行方向を長軸とする楕円状に分布することがわかった。そして、x軸上の位置およびy軸上の位置に着目すると、
図9に示すように、x方向比率と比べてy方向比率の方が高く、y軸上の各位置において全透過光に血管透過光が多く含まれることがわかった。一方で、
図8に示すように、全透過光の強度は、照射位置を中心として等方的に分布することがわかった。
【0065】
また、
図9に示すように、y方向比率およびx方向比率は、ともに測定点距離Rが所定距離までは長くなるにつれて増加する傾向にあり、照射位置と受光位置とがある程度離れている方が全透過光に血管透過光が多く含まれることがわかった。これは、測定対象の血管71が深部に存在し、血管透過光は、皮下組織層81の深部を透過した光の強度分布に従うためである。一般に、散乱体に照射した光を照射面側で観測する場合、照射位置の近傍で観測される光は散乱体の表層で反射した光を多く含み、照射位置から離れた位置で観測された光は散乱体の深部を透過した光を多く含む。ただし、測定点距離Rが長くなれば、受光する全透過光の強度自体は小さくなる。
【0066】
以上のシミュレーション結果をふまえ、本実施形態の合成処理では、第1の受光位置P21での第1の受光結果すなわち第1の受光位置P21で受光した全透過光の強度と、第2の受光位置P23での第2の受光結果(第2の受光位置P23で受光した全透過光の強度)とを、上記要領でシミュレーション等により求めたy方向比率およびx方向比率を用いて合成処理する。
図10は、合成処理を示す概念図である。
図10の左側には、上段にy軸上の全透過光の強度分布を、下段にy方向比率の変化をそれぞれ模式的に示している。一方、
図10の右側には、上段にx軸上の全透過光の強度分布を、下段にx方向比率の変化をそれぞれ模式的に示している。
【0067】
先ず、全透過光の強度が照射位置を基準に等方的に分布する一方で、その血管透過光成分量はy軸上の位置で多いことから、y方向比率が最も大きい測定点距離(以下、「最適測定点距離」という。)R1によって定まるy軸上の位置において、全透過光の強度に含まれる血管透過光成分量は最大となる。
【0068】
そこで、本実施形態では、事前にy方向比率の変化を求め、y方向比率の最大値(以下、「y方向適用比率」という。)に対応する測定点距離Rを最適測定点距離R1として設定しておき、合成処理に用いる。例えば、
図10の左側下段のy方向比率の変化を表すy方向比率関数を測定点距離Rの関数Fy(R)として求め、最適測定点距離R1と、その関数値であるy方向適用比率Fy(R1)を設定しておく。このy方向適用比率Fy(R1)を最適測定点距離R1において受光した全透過光の強度Iyに乗じた値Fy(R1)・Iyは、全透過光の強度Iyに含まれる血液透過光成分量(第1の血液透過光成分量)に相当し、これによって第1の受光結果から血液透過光成分を抽出することができる。
【0069】
そして、実際の測定において、照射位置とした発光素子52からの距離がy方向に沿って最適測定点距離R1である受光素子54を選んで第1の受光位置P21を位置決めし、測定光の照射および受光測定を行う。その後、次式(1)に従い、第1の受光位置P21での受光結果(全透過光の強度)Iy
mとy方向適用比率Fy(R1)とから第1の血管透過光成分量Lを算出する。
L=Fy(R1)・Iy
m ・・・(1)
【0070】
一方、第2の受光結果は、非血管部の透過光が血管吸光スペクトルに及ぼす影響を低減させるために用いる。上記したように、血管は皮下組織層の深部に存在していることから、血管透過光は、受光位置で受光されるまでの過程で必ず非血管部を経由している。特に、非血管部を形成している間質液には、本血液成分分析装置10が分析対象としているグルコースが含まれることから、このような非血管部の透過光が血管吸光スペクトルに影響して血糖値の算出精度の低下を招くおそれがある。
【0071】
ここで、測定点距離Rが等しいx軸上の位置で観測される全透過光も血管透過光を含んでおり、且つ、y方向比率に比べてx方向比率が小さい(
図9を参照)。このことから、x軸上で観測される全透過光の強度に含まれる血管透過光成分量を得て第1の血管透過光成分量との差分を求めれば、本来得たい血管吸光スペクトルの吸光度に対応する相対値を求めることができる。差分をとることによってその分血管透過光成分量は低減するものの、非血管部の透過光成分を除外(キャンセル)する効果が期待できるからである。
【0072】
そこで、本実施形態の合成処理では、第1の血管透過光成分と同様の要領で第2の受光結果から血管透過光成分を抽出する。具体的には、事前にx方向比率の変化を求め、最適測定点距離R1におけるx方向比率(以下、「x方向適用比率」という。)を合成処理に用いる。例えば、
図10の右側下段のx方向比率の変化を表すx方向比率関数を測定点距離Rの関数Fx(R)として求め、
x方向適用比率Fx(R1)を設定しておく。このx方向適用比率Fx(R1)を最適測定点距離R1における全透過光の強度Ixに乗じた値Fx(R1)・Ixは、全透過光の強度Ixに含まれる血管透過光成分量(第2の血管透過光成分量)に相当する。
【0073】
そして、実際の測定において、照射位置とした発光素子52からの距離がx方向に沿って最適測定点距離R1である受光素子54を選んで第2の受光位置P23を位置決めし、測定光の照射および受光測定を行う。その後、次式(2)に従い、第2の受光位置P23での受光結果(全透過光の強度)Ix
mとx方向適用比率Fx(R1)とから第2の血管透過光成分量Sを算出する。
S=F
x(R1)・Ix
m ・・・(2)
【0074】
その後、次式(3)に従い、第1の血管透過光成分量から第2の血管透過光成分量を減算して、相対値Iを算出する。
I=L−S ・・・(3)
【0075】
なお、受光測定は、例えば分光層55の中心波長を所定の測定波長範囲内で単位波長ずつずらしながら行う。或いは、発光層57の発光素子52による発光波長を単位波長ずつずらして発光させながら行う。そして、波長毎に上記の合成処理を行って相対値を得ることで、相対スペクトルを合成する。
図11は、相対スペクトルの合成結果を模式的に示す図であり、シミュレーション等により求めた血管吸光スペクトルを併せて示している。
図11に示すように、相対スペクトルは、血管吸光スペクトルによって表される波長毎の吸光度変化と概ね比例しており、期待された非血管部の透過光成分を除外する効果が得られている。したがって、相対スペクトルを適宜データ処理することによって、血液中の血糖値等の血液成分を精度よく分析することが可能となる。
【0076】
なお、y方向比率関数Fy(R)によるy方向比率の近似精度およびx方向比率関数Fx(R)によるx方向比率の近似精度が高いほど、第1の受光結果および第2の受光結果から血管透過光成分を高精度に抽出することができる。したがって、y方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を求める際には、測定部位等を考慮して皮下脂肪層を適正に再現した上でシミュレーション等を行う。また、シミュレーションは、y方向比率およびx方向比率を近似するのに十分な回数を繰り返し行い、y方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を得る。
【0077】
また、場合によっては、採血による血液測定を行って測定結果をデータベース化しておき、これを利用して被検者2に応じたy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を求めるようにしてもよく、生体の個人差により生じる誤差の低減が図れる。生体の散乱をシミュレーション等して得たy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を汎用的に用いるとすると個人差による誤差の影響が大きい場合、例えば血液中の微量物質の濃度を分析する際等においては、被検者2毎にy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を設定するのが望ましい。
【0078】
[機能構成]
図12は、血液成分分析装置10の主要な機能構成例を示すブロック図である。
図12に示すように、血液成分分析装置10は、センサー部110と、操作入力部120と、表示部130と、通信部140と、処理部150と、記憶部160とを備える。
【0079】
センサー部110は、
図2のセンサーモジュール50に該当し、複数の発光素子52で構成される発光部111と、複数の受光素子54で構成される受光部113とを有する。
【0080】
操作入力部120は、ボタンスイッチやダイヤルスイッチ等の各種スイッチ、タッチパネル等の入力装置によって実現されるものであり、ユーザーによって為された各種の操作入力に応じて操作入力信号を処理部150に出力する。
図1の操作スイッチ16、タッチパネル18がこれに該当する。
【0081】
表示部130は、LCD(Liquid Crystal Display)やELディスプレイ(Electroluminescence display)等の表示装置によって実現されるものであり、処理部150から入力される表示信号に基づいて各種画面を表示する。
図1のタッチパネル18がこれに該当する。
【0082】
通信部140は、処理部150の制御のもと、装置内部で利用される情報を外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。
図1の通信装置20がこれに該当する。通信部140の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレードルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0083】
処理部150は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のマイクロプロセッサー、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の制御装置および演算装置によって実現されるものであり、血液成分分析装置10の各部を統括的に制御する。
図1の制御基板30がこれに該当する。この処理部150は、測定部151と、血管位置取得制御部155と、合成部としてのスペクトル合成部156と、分析部としての血液成分分析部157とを備える。なお、処理部150を構成する各部は、専用のモジュール回路等のハードウェアで構成することとしてもよい。
【0084】
測定部151は、測定光の照射および受光測定を行う。この測定部151は、照射制御部152と、受光制御部153と、測定点設定部154とを含む。照射制御部152は、発光部111を構成する発光素子52を個別に発光制御する。例えば、いわゆるアクティブマトリクス方式の駆動制御技術を利用することで実現できる。受光制御部153は、受光部113の受光素子54により受光した全透過光からその強度に応じた電気信号を読み出す制御を行う。
【0085】
測定点設定部154は、測定対象の血管の上方に位置する発光素子52を選出して照射位置を位置決めする。また、測定点設定部154は、事前にシミュレーション等を行って設定した最適測定点距離R1に基づいて、照射位置、第1の受光位置、および第2の受光位置が所定の位置関係となるように受光素子54を選出する。本実施形態では、測定点設定部154は、照射位置からの距離が測定対象の血管の走行方向(y方向)に沿って最適測定点距離R1である受光素子54を選出して第1の受光位置を位置決めする。また、照射位置からの距離がy方向と直交する測定対象の血管の径方向(x方向)に沿って最適測定点距離R1である受光素子54を選出して第2の受光位置を位置決めする。照射位置を起点として各方向に最適測定点距離R1の位置に受光素子54がない場合には、この最適測定点距離R1の位置に最も近い受光素子54を選出すればよい。
【0086】
血管位置取得制御部155は、センサーモジュール50を被せた皮下の生体画像(
図4を参照)を取得し、生体画像を画像処理して血管位置を取得する。本実施形態では、公知の静脈認証技術等における生体画像の撮影技術や、公知の静脈認証技術等における生体画像から静脈パターンを識別する技術を適宜利用することで実現する。
【0087】
スペクトル合成部156は、照射制御部152および受光制御部153の制御のもと、照射位置とした発光素子52から測定光を照射し、第1の受光位置および第2の受光位置とした受光素子54により受光測定することによって得た第1の受光結果と第2の受光結果とを、y方向適用比率Fy(R1)およびx方向適用比率Fx(R1)を用いて合成処理する。
【0088】
血液成分分析部157は、合成処理の結果得られた相対スペクトルに基づいて目的とする所定成分の血中濃度を算出する。本実施形態では、重回帰分析法、主成分回帰分析法、PLS回帰分析法、独立成分分析法等の分析法を用いて相対スペクトルから血糖値を算出する。
【0089】
記憶部160は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の各種IC(Integrated Circuit)メモリーやハードディスク等の記憶媒体により実現されるものである。記憶部160には、血液成分分析装置10を動作させ、この血液成分分析装置10が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が事前に記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。
図1では、制御基板30が搭載するメインメモリー34や分析データ用メモリー36、メモリーカード22がこれに該当する。
【0090】
この記憶部160には、処理部150を測定部151、血管位置取得制御部155、スペクトル合成部156、および血液成分分析部157として機能させ、分析処理(
図14を参照)を行うための分析プログラム161が記憶される。
【0091】
また、記憶部160には、測定点距離データ162と、x方向比率データ163と、y方向比率データ164と、測定点データ165と、合成スペクトルデータ166と、血液成分値167とが記憶される。
【0092】
測定点距離データ162は、事前にシミュレーション等を行って設定した最適測定点距離R1を記憶する。y方向比率データ164は、事前にシミュレーション等を行って設定したy方向適用比率Fy(R1)を記憶する。x方向比率データ163は、事前にシミュレーション等を行って設定したx方向適用比率Fx(R1)を記憶する。
【0093】
測定点データ165は、測定点設定部154によって位置決めされた照射位置、第1の受光位置、および第2の受光位置を記憶する。
図13は、測定点データ165のデータ構成例を示す図である。
図13に示すように、測定点データ165は、照射位置と、第1の受光位置と、第2の受光位置とを対応付けたデータテーブルである。照射位置には、該当する発光素子52の識別番号が登録され、第1の受光位置および第2の受光位置には、それぞれ該当する受光素子54の識別番号が登録される。測定対象の血管上の複数の位置を照射位置とする場合には、照射位置毎に、第1の受光位置および第2の受光位置が対応付けられて設定される。
【0094】
合成スペクトルデータ166は、スペクトル合成部156によって合成された相対スペクトル(
図11を参照)のデータを記憶する。血液成分値167は、血液成分分析部157によって算出された血糖値を記憶する。
【0095】
[処理の流れ]
図14は、分析処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、ここで説明する処理は、処理部150が記憶部160から分析プログラム161を読み出して実行することで実現できる。血液成分分析装置10は、
図14の処理手順に従って処理を行うことで血液成分分析方法を実施する。この分析処理は、血液成分分析装置10が被検者2の身体に取り付けられ、所定の分析開始操作が入力されると開始される。
【0096】
図14に示すように、分析処理では先ず、血管位置取得制御部155が、血管の位置を取得して測定対象の血管を選択する(ステップS1)。ここでの処理に先立ち、照射制御部152がセンサーモジュール50の発光素子52を一斉発光させ、受光制御部153が全ての受光素子54により受光測定(撮影)を行う。そして、血管位置取得制御部155は、得られた生体画像(輝度画像)のピクセル毎に、基準輝度と比較し2値化やフィルター処理をして血管位置を取得する。基準輝度未満のピクセルが血管、基準輝度以上のピクセルが非血管領域を示すことになる。
【0097】
続いて、測定点設定部154が、血管上方の発光素子52を選出して照射位置を位置決めする(ステップS3)。また、測定点設定部154は、ステップS3で位置決めした照射位置に従い、最適測定点距離R1を用いて受光素子54を選出して第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めする(ステップS5)。このとき、測定点設定部154は、照射位置、第1の受光位置、および第2の受光位置とした発光素子52および受光素子54の識別番号を登録した測定点データ165を作成する。
【0098】
その後、測定光の照射および受光測定を行う。すなわち先ず、測定点データ165に照射位置として登録された発光素子52を照射制御部152が発光制御することで、照射位置から測定光を照射する(ステップS7)。そして、受光制御部153が、分光層55の中心波長を測定波長範囲内で単位波長ずつずらしながら、測定点データ165に第1の受光位置および第2の受光位置として登録された受光素子54により受光測定を行う(ステップS9)。測定波長範囲内の全ての波長で受光測定を行ったならば受光測定を終了する(ステップS11:YES)。
【0099】
続いて、スペクトル合成部156が、ステップS9で波長毎に得られた第1の受光結果および第2の受光結果を合成処理する(ステップS13)。具体的には、スペクトル合成部156は、第1の受光結果にy方向適用比率Fy(R1)を乗じて第1の血管透過光成分量Lを算出し(上記式(1))、第2の受光結果にx方向適用比率Fx(R1)を乗じて第2の血管透過光成分量Sを算出し(上記式(2))、第1の血管透過光成分量Lから第2の血管透過光成分量Sを減算して相対値Iを算出する(上記式(3))処理を波長毎に行って相対スペクトルを合成する。
【0100】
その後、血液成分分析部157が、ステップS13で合成した相対スペクトルに基づいて血糖値を算出し、血液成分値167として記憶して(ステップS15)、本処理を終える。
【0101】
以上説明したように、本実施形態によれば、事前に血管の走行方向をy方向、これと直交する血管の径方向をx方向と定義して、シミュレーション等によりy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を求め、最適測定点距離R1と、y方向適用比率Fy(R1)と、x方向適用比率Fx(R1)とを設定しておくことができる。そして、実際の測定に際しては、血管の上方に位置する発光素子52を選出して照射位置とし、照射位置からの距離がy方向に沿って最適測定点距離R1である血管上方の受光素子54を選出して第1の受光位置とし、照射位置からの距離がx方向に沿って最適測定点距離R1である血管上方ではない受光素子54を選出して第2の受光位置として位置決めすることができる。そして、照射位置から測定光を照射して受光測定を行うことができる。
【0102】
これによれば、受光される全透過光の強度に含まれる血管透過光成分の割合が大きいy軸上で第1の受光位置を位置決めし、血管透過光成分の割合が小さいx軸上で第2の受光位置を位置決めすることができる。また、センサーモジュール50が備える発光素子52および受光素子54を選択的に用いて測定光の照射および受光測定を行うことができるので、例えば発光素子52を一斉発光させて受光測定(撮影)を行う場合と比べて無用な透過光や反射光の影響を低減させることができる。
【0103】
そして、第1の受光結果から波長毎に血管透過光成分を抽出して第1の血管透過光成分量を算出し、第2の受光結果から波長毎に血管透過光成分を抽出して第2の血管透過光成分量を算出し、これらの差分をとることによって血管非透過光成分をキャンセルして、血管透過光成分量を反映した血管吸光スペクトルの相対スペクトルを合成することができる。したがって、全透過光の強度から血管透過光成分を適正に抽出することができ、これを用いることで血糖値等の血液成分を精度よく分析することができる。
【0104】
なお、上記した実施形態では、照射位置から血管の走行方向(y方向)に沿って第1の受光位置を位置決めし、照射位置からy方向に直交する血管の径方向(x方向)に沿って第2の受光位置を位置決めすることとしたが、第1の受光位置を血管の上方の照射位置と異なる位置とし、第2の受光位置を血管の上方ではない位置とする構成であればよい。すなわち、照射位置と第1の受光位置とを含む方向と、照射位置と第2の受光位置とを含む方向とが交差する位置関係になるように第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めするようにしてもよい。その際、最適測定点距離R1、y方向適用比率Fy(R1)、およびx方向適用比率Fx(R1)については、照射位置と第1の受光位置とを含む方向および照射位置と第2の受光位置とを含む方向に応じたy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を事前に求めて設定しておく。
【0105】
例えば、センサーモジュール50の構成(発光素子52および受光素子54の配列)等の装置上の制約によって直交する方向で第1の受光位置および第2の受光位置を位置決めできない場合、本変形例のようにしてもよい。
【0106】
また、上記した実施形態では、予め最適測定点距離R1、y方向適用比率Fy(R1)、およびx方向適用比率Fx(R1)を設定しておき、合成処理に用いることとした。これに対し、これらの各値を血管の深度や血管の径に応じて可変に設定するようにしてもよい。
【0107】
ここで、
図7に示した血管透過光の強度分布は、血管の深度によって異なる。具体的には、血管の深度が深いほど血管透過光の強度が強い範囲はy方向で広く、x方向で狭くなる(強度分布の楕円の長軸が長く、短軸が短くなる)。そして、血管の深度が深いほど、全透過光の強度に含まれる血管透過光の割合は、y方向およびx方向ともに全体として小さくなり、y方向比率が最大となる最適測定点距離R1も照射位置から遠くなる。一方で、血管透過光の強度分布は、血管の径によっても異なる。この場合は、血管の径が太いほど、血管透過光の強度が強い範囲はx方向で広くなる(強度分布の楕円の短軸が長くなり、円に近づく)。そして、血管の径が太いほど、全透過光の強度に含まれる血管透過光の割合はx方向において全体として大きくなる。
【0108】
そこで、生体の部位や異なる血管を想定する等して血管の深度が異なる皮下組織層や血管の径が異なる皮下組織層を再現し、シミュレーション等を行ってy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を求めておくこととしてもよい。そして、最適測定点距離R1、y方向適用比率Fy(R1)、およびx方向適用比率Fx(R1)を血管の深度および径毎に対応付けた適用比率データテーブルとして用意しておくようにしてもよい。
【0109】
図15は、適用比率データテーブルのデータ構成例を示す図である。
図15に示すように、適用比率データテーブルは、血管の深度の値幅V11〜V12,V12〜V
13,・・・および血管の径の値幅V
21〜V
22,V
22〜V
23,・・・の組合せ毎に最適測定点距離R1、y方向適用比率Fy(R1)、およびx方向適用比率Fx(R1)のデータセットD
11,D
12,・・・を設定したデータテーブルである。これら組合せ毎のR1,Fy(R1),Fx(R1)の各データセットは、事前にその組合せに応じた皮下組織層を再現することでy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)を個別に求めて設定しておく。
【0110】
そして、実際の測定においては、適用比率データテーブルから測定対象の血管の深度および径に応じた最適測定点距離R1、y方向適用比率Fy(R1)、およびx方向適用比率Fx(R1)を読み出して用いる。血管の深度は、測定対象の血管を選択するために取得した生体画像を画像処理し、生体画像に写った血管の境界部分の鮮明度やコントラストを判別することによって特定できる。血管の径は、生体画像に写った血管の径方向の幅を算出することによって特定できる。
【0111】
本変形例によれば、血管の深度に着目すれば、血管の深度が深くなるほどx方向比率に対するy方向比率が大きくなるように各値を設定することができる。加えて、血管の深度が深くなるほど最適測定点距離R1を大きく設定することができる。また、血管の径に着目すれば、血管の径が太くなるほどy方向比率に対するx方向比率が大きくなるように各値を設定することができる。これによれば、血管透過光成分量をより反映した血管吸光スペクトルの相対スペクトルを合成することが可能となる。
【0112】
また、上記した実施形態では、全透過光の強度から血管透過光成分を抽出して血管吸光スペクトルの相対スペクトルを合成する場合について説明した。これに対し、全透過光の強度から血管を透過しなかった光(血管非透過光)を抽出し、血管非透過光の分光スペクトル(非血管部吸光スペクトル)の相対スペクトルを合成することとしてもよい。この場合には、血管非透過光についてy方向比率関数およびx方向比率関数を事前に求めておく。例えば、上記した実施形態で説明したy方向比率関数Fy(R)およびx方向比率関数Fx(R)の逆数をとることで求めることができる。
【0113】
本変形例によれば、血管透過光成分量を反映しない非血管部吸光スペクトルの相対スペクトルを合成することができ、非血管部に存在する物質の濃度、例えば、間質液中のグルコース濃度を求めるといったことが可能となる。
【0114】
また、上記した実施形態では、1つの照射位置に対し、第1の受光位置および第2の受光位置の2つの受光位置で受光測定を行うこととしたが、3つ以上の受光位置で受光測定する構成としてもよい。例えば、血管の上方について2つ、血管の上方ではない1つの受光位置を位置決めし、受光測定するようにしてもよい。
【0115】
一例をあげれば、
図5等に示す第1の受光位置P21とは逆方向に(y方向に沿って負の方向に)照射位置P11から最適測定点距離R1離れた受光素子54を選出し、第3の受光位置として位置決めして受光測定を行うこととしてもよい。第3の受光位置での第3の受光結果をどのように用いるのかは特に限定されるものではないが、例えば、合成処理において、y方向比率を用いて第3の受光結果から第3の血管透過光成分量を算出する処理をさらに行う。そして、第1の血管透過光成分量と第3の血管透過光成分量との平均値を求め、求めた平均値から第2の血管透過光成分量を減算して相対値を算出するようにしてもよい。
【0116】
測定対象の血管の深度は、例えば血管が皮膚表面に対し平行でなく傾いている等、血管の走行方向の全域において同程度とは限らない。そのため、血管の上方のどの位置を照射位置とするのかによって合成結果が変動し、血液成分の分析精度の低下を招くおそれがある。本変形例によれば、このような合成結果のばらつきを低減して血液成分の分析精度の向上を図ることができる。
【0117】
あるいは、このような皮膚表面に対し血管が傾いている皮下組織層を再現したシミュレーション等を行い、事前に第1の受光位置用のy方向比率関数Fy(R)とは別に第3の受光位置用のy方向比率関数を求め、第1の受光位置に適用するy方向比率と第3の受光位置に適用するy方向比率とを個別に設定しておくこととしてもよい。これによれば、血管透過光成分量をより反映した血管吸光スペクトルの相対スペクトルを合成することができる。
【0118】
また、上記した実施形態では、y方向比率が最大の測定点距離Rを最適測定点距離R1として合成処理に用いることとしたが、必ずしも最大値を採用する必要はない。この場合は、最適測定点距離R1とした測定点距離Rに応じたy方向比率関数Fy(R)の関数値Fy(R1)をy方向適用比率とすればよい。x方向比率についても同様である。
【0119】
また、上記した実施形態では、y方向比率が最大となる最適測定点距離R1におけるx方向比率関数Fx(R)の関数値Fx(R1)をx方向適用比率とする場合を例示した。これに対し、y方向とx方向とで最適測定点距離R1を個別に設定する構成としてもよい。例えば、x方向比率については、その値が最大となる測定点距離Rを最適測定点距離R1とし、あるいは最小となる測定点距離Rを最適測定点距離R1とする等してx方向適用比率Fx(R1)を設定するようにしてもよい。この場合、第1の受光位置および第2の受光位置は、対応する方向での最適測定点距離R1を用いて位置決めする。
【0120】
また、上記した実施形態では、血液成分分析装置1は、血液成分として血糖値を測定することを主として説明したが、他の血液成分を測定する場合も同様に適用できることは勿論である。例えば、GPT(Glutamic Pyruvic Transaminase:グルタミン酸ピルビン酸転移酵素)等の酵素値、アルブミン等の血漿タンパク値、コレステロール値、乳酸値などの測定に本実施形態を適用することができる。