【実施例1】
【0019】
この発明の実施例1に係る円錐ころ軸受を
図1〜
図4にしたがって説明する。
図1と
図2に示すように、円錐ころ軸受は、内輪10と、外輪30と、複数の円錐ころ40と、保持器50と、を備えている。
【0020】
内輪10は、中心部を貫通する中心孔11を有して筒状に形成され、外周面にはテーパ軸状の内輪軌道面13が形成されている。内輪10の内輪軌道面13の大径側端部の外周面には、内輪軌道面13に隣接して大つば部14が形成されている。また、内輪10の内輪軌道面13の小径側端部の外周面には、内輪軌道面13に隣接して小つば部20が形成されている。また、内輪10には、小つば部20から軸方向外方へ延出された円筒状の延長部22が形成され、この延長部22の中心孔11aは、内輪10の中心孔11と同一中心でかつ同一の孔径寸法を有している。さらに、延長部22の外周面23は円筒面に形成されている。また、
図3に示すように、小つば部20の外周面20aと、小つば部20の軸方向外側端面20bとの境界部には面取り加工された傾斜面20cが形成されている。
【0021】
外輪30は、内輪10の外周側に同心に配設されかつ内周面にテーパ孔状の外輪軌道面31が形成されている。さらに、外輪30には、外輪軌道面31の小径側端部から軸方向外方へ延びる円筒状の延長部33が形成され、この延長部33の内周面34は円筒面に形成されている。
【0022】
複数の円錐ころ40は、保持器50の複数のポケット51にそれぞれ保持された状態で、内輪軌道面13と外輪軌道面31との間の環状空間に転動可能に配設されている。
【0023】
保持器50は、耐熱性、耐摩耗性、耐油性を有する樹脂材料によって形成され、
図2〜
図4に示すように、軸方向に所定間隔を隔て、かつポケット51の軸方向両端の壁部を形成する大径側及び小径側の両環状部53、54と、大径側及び小径側の両環状部53、54に跨って両端部が連結され、かつポケット51の周方向両側の壁部を形成する複数の柱部52とを一体に備えている。また、この実施例1において、
図3に示すように、保持器50の小径側環状部54の内周面56は、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c、軸方向外側端面20b及び延長部22の外周面23に接近して、内側内周面56aの内径が大きく外側内周面56bの内径が小さく境界部に段差面56cを有する段差円筒面に形成されている。
【0024】
図3に示すように、保持器50の小径側環状部54の内周面56のうちの外側内周面56bと、内輪10の延長部22の外周面23との相互の円筒面の間には、微小な隙間S1(例えば、0.1mm〜1.5mm)を隔てるラビリンスが構成されている。また、保持器50の小径側環状部54の内周面56のうちの内側内周面56a及び段差面56cと、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c及び軸方向外側端面20bとの間には、微小な隙間S1よりも若干大きくかつ
奥に連通する微小な隙間S1に連通する隙間空間Sが形成されている。また、保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との相互の円筒面の間においても、微小な隙間S2(例えば、0.1mm〜1.5mm)を隔てるラビリンスが構成されている。
【0025】
外輪30の延長部33の内周面34及び外輪軌道面31の小径側端部と、円錐ころ40の小端面41と、保持器50の小径側環状部54の外周面55とで囲まれ、かつ外輪軌道面31の最小内径部31aを含む内側領域Aの圧力と、保持器50の小径側環状部54の外周面55と軸方向外側端面58との境界部59を含む外輪30の延長部33の内周面34の外側領域Bの圧力との差を低減する圧力差低減手段60Aが設けられている。圧力差低減手段60Aとしては、内側領域Aの圧力を高めることで、外側領域Bの圧力との差を低減するものや、外側領域Bの圧力を軽減して内側領域Aの圧力との差を低減するものがある。この実施例1において、圧力差低減手段60Aは、内側領域Aの圧力を高めることで、外側領域Bの圧力との差を低減するものを採用している。
【0026】
すなわち、この実施例1において、第1の流路R1に流入される潤滑油やこの潤滑油に混入された空気を、内側領域Aに導く誘導路60によって構成されている。さらに、この実施例1において、誘導路60は、円錐ころ40の小端面41に対向する保持器50の小径側環状部54の面(ポケット51の小径側端の壁部)に形成された径方向に延びる凹部61によって構成されている。さらに、誘導路60の内径側開口は、内輪10の小つば部20の外周面20a及び傾斜面20cに対向し、誘導路60の外径側開口は、内側領域Aに対向している。さらに、誘導路60を構成する凹部61の溝深さは、隙間空間Sをなす保持器50の小径側環状部54の内側内周面56a及び段差面56cと、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c及び軸方向外側端面20bとの間の間隔寸法よりも大きく設定されている。これによって、誘導路60の通路断面積が必要充分に確保されている。また、この実施例1において、
図4に示すように、凹部61は、ポケット51の小径側端の壁部の両側部に位置する二個所にそれぞれ形成され、凹部61の深さ寸法Hは、0.5mm以上に設定されている。
【0027】
この実施例1に係る円錐ころ軸受は上述したように構成される。したがって、軸受け回転時には、円錐ころ軸受の小径側に向けて供給される潤滑油は、保持器50の小径側環状部54の内周面56と、内輪10の延長部22の外周面23との間の微小な隙間S1及び隙間空間Sを通して円錐ころ軸受内に流れる第1の流路R1と、保持器50の小径側環状部54の軸方向外側端面58に沿って流れ、外輪30の延長部33の内周面34の開口側を経て保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との間の微小な隙間S2を通して円錐ころ軸受内に流れる第2の流路R2とに分岐されて流れる。
【0028】
また、軸受け回転時において、第1の流路R1及び第2の流路R2を通って円錐ころ軸受内に流入した潤滑油は、遠心力の作用を受けて、外輪軌道面31の小径側から大径側に向けて流れる。これによって、内側領域A内の圧力が低くなる(低圧となる)ことが想定される。この際、第1の流路R1に流れた潤滑油やこの潤滑油に混入された空気が誘導路60に案内されて内側領域A内に流入する。このため、内側領域Aの圧力が低下することが抑制される。
【0029】
一方、第2の流路R2を流れる潤滑油は、外輪30の延長部33の開口側部分に当たり、保持器50の小径側環状部54の外側面に位置する外輪30の延長部33の内周面34の外側領域Bの圧力は高くなる。しかしながら、内側領域Aの圧力が低下することが抑制されるため、圧力差低減手段60Aを有していない場合と比較して内側領域Aと外側領域Bとの圧力差が小さくなる。さらに、保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との間には、微小な隙間S2を隔ててラビリンスが構成される。このため、外側領域B内の潤滑油が領域内Aに向けて引き込まれることを抑制することができる。この結果、円錐ころ軸受内を流れる潤滑油の油量(貫通油量)を抑制することができ、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる。
【0030】
前記したように、圧力差低減手段60Aとしての誘導路60が設定されるこの実施例1の円錐ころ軸受と、圧力差低減手段としての誘導路が存在しない従来の円錐ころ軸受との貫通油量を円錐ころ軸受を回転して測定した結果、次の表1及び表2に示すような結果が得られた。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2から明らかなように、円錐ころ軸受の回転速度(min−1)が1500min−1で変換点となっており、1500min−1以上となるとしだいに貫通流量が従来と比べて低減することができた。
【0034】
また、この実施例1において、誘導路60は、円錐ころ40の小端面41に対向する保持器50の小径側環状部54の面(ポケット51の小径側端の壁部)に対し、径方向に延びる凹部61が形成されることで容易に構成される。
【0035】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、保持器50の小径側環状部54に誘導路60を構成する凹部61は、小径側環状部54のポケット51の小径側端の壁部の両側部に位置する二個所にそれぞれ形成される場合を例示したが、
図5に示すように、保持器50の小径側環状部54(ポケット51の小径側端の壁部)の中央部一個所に凹部161を形成して誘導路160を構成することも可能である。