特許第6442837号(P6442837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442837
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】円錐ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20181217BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20181217BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C19/36
   F16C33/46
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-46157(P2014-46157)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2015-169300(P2015-169300A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章之
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−126840(JP,U)
【文献】 特開2008−051308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/36
F16C 33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にテーパ軸状の内輪軌道面が形成された内輪と、前記内輪の外周側に同心に配設されかつ内周面にテーパ孔状の外輪軌道面が形成された外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間の環状空間に転動可能に配設された複数の円錐ころと、前記複数の円錐ころをそれぞれ保持する複数のポケットを有する保持器とを備えた円錐ころ軸受であって、
前記保持器は、軸方向に所定間隔を隔て、かつ前記ポケットの軸方向両端の壁部を形成する大径側及び小径側の両環状部と、前記大径側及び小径側の両環状部に跨って両端部が連結され、かつ前記ポケットの周方向両側の壁部を形成する複数の柱部とを備え、
前記外輪軌道面の最小内径部を含む内側領域の圧力と、前記保持器の小径側環状部の外周面と軸方向外側端面との境界部を含む外側領域の圧力と、の差を低減する圧力差低減手段を備え、
前記圧力差低減手段は、前記内側領域の圧力を高めることで、前記外側領域の圧力との
差を低減し、前記内輪の小径側の外周面に向けて流入される潤滑油やこの潤滑油に混入された空気を、前記内側領域に導く誘導路が前記保持器の前記小径側環状部に形成されることで構成されており、
前記誘導路は、前記円錐ころの小端面に対向する前記保持器の前記小径側環状部の面に
形成された径方向に延びる凹部によって構成されており、
前記凹部は、前記保持器の前記小径側環状部における前記ポケット側の面において、前記保持器の回転方向における一方端と他方端に位置する二個所に形成されて、軸方向の深さ寸法が0.5mm以上に設定されており、
前記誘導路の外径側開口は、
前記保持器の前記小径側環状部の外周面と前記外輪の小径側の内周面との相互の円筒面の間に微小な第1隙間が形成されていることで、前記小径側環状部の軸方向外側と接続されており、
前記誘導路の内径側開口は、
前記保持器の前記小径側環状部の内周面と前記内輪の外周面との間に微小な第2隙間が形成されていることで、前記小径側環状部の軸方向外側と接続されている、
ことを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円錐ころ軸受であって、
前記保持器の前記小径側環状部の内周面は、
内径が大きい内側内周面と、
内径が小さい外側内周面と、
前記内側内周面と前記外側内周面との境界部に形成された段差面と、
を有することを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の円錐ころ軸受であって、
前記内輪において、前記内輪軌道面の小径側端部に隣接して、前記円錐ころの小端面に対向する位置には小つば部が形成されており、
前記内輪には、前記小つば部から軸方向外方へ延出された円筒状の延長部が形成され、
前記誘導路の前記内径側開口は、前記内輪の前記小つば部の外周面に対向する位置に設けられていることを特徴とする円錐ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円錐ころ軸受においては、例えば、図6に示すように、外周面にテーパ軸状の内輪軌道面213が形成された内輪210と、内輪210の外周側に同心に配設されかつ内周面にテーパ孔状の外輪軌道面231が形成された外輪230と、内輪軌道面213と外輪軌道面231との間の環状空間に転動可能に配設された複数の円錐ころ240と、これら複数の円錐ころ240をそれぞれ保持する複数のポケット251を有する保持器250とを備えた構造のものが知られている。また、円錐ころ軸受において、例えば、特許文献1に開示されているように、保持器のポケットの狭幅側の柱部と小環状部の中央部に、保持器と内輪との間に流入した潤滑油を外輪側へ逃がすための切欠きを設けたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4975293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図6に示す従来の円錐ころ軸受において、軸受け回転時には、円錐ころ軸受の小径側に向けて供給される潤滑油は、保持器250の小径側環状部254に形成されたフランジ254aの内周面と、内輪210の小径側外周面との間の隙間を通して円錐ころ軸受内に流れる第1の流路R1’と、保持器250のフランジ254aの外側面に沿って流れた後、外輪230の小径側内周面に向けて流れる第2の流路R2’とに分岐されて流れる。また、軸受け回転時において、第2の流路R2’を通って円錐ころ軸受内に流入した潤滑油は、遠心力の作用を受けて、外輪軌道面231の小径側から大径側に向けて流れる。このため、外輪230の小径側の内周面と、円錐ころ240の小端面241と、保持器250の小径側環状部254の外周面とで囲まれた内側領域A’内の圧力が低くなる。一方、第2の流路R2’を流れる潤滑油は、外輪30の小径側内周面に当たるため、外輪230の小径側内周面の外側領域B’内の圧力は高くなる。このようなことから、外側領域B’内の潤滑油は、内側領域A’内に引き込まれるため、軸受内を流れる潤滑油の油量が増大され、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失が増大する。また、特許文献1に開示されている円錐ころ軸受においては、保持器と内輪との間に流入した潤滑油は、保持器の切欠きによって外輪側へ逃がすことはできる。しかしながら、内側領域A’内の圧力は低くなり、外側領域B’内の潤滑油は、内側領域A’内に引き込まれることになるため、軸受内を流れる潤滑油の油量低減に効果が期待できないことが想定される。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、軸受内を流れる潤滑油の油量を抑制して、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる円錐ころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、第1の発明の円錐ころ軸受は、外周面にテーパ軸状の内輪軌道面が形成された内輪と、前記内輪の外周側に同心に配設されかつ内周面にテーパ孔状の外輪軌道面が形成された外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間の環状空間に転動可能に配設された複数の円錐ころと、前記複数の円錐ころをそれぞれ保持する複数のポケットを有する保持器とを備えた円錐ころ軸受であって、前記保持器は、軸方向に所定間隔を隔て、かつ前記ポケットの軸方向両端の壁部を形成する大径側及び小径側の両環状部と、前記大径側及び小径側の両環状部に跨って両端部が連結され、かつ前記ポケットの周方向両側の壁部を形成する複数の柱部とを備え、前記外輪軌道面の最小内径部を含む内側領域の圧力と、前記保持器の小径側環状部の外周面と軸方向外側端面との境界部を含む外側領域の圧力と、の差を低減する圧力差低減手段を備えていることを特徴とする。
【0007】
第1の発明によると、軸受け回転時において、円錐ころ軸受の小径側に向けて供給される潤滑油は、保持器の小径側環状部の内周面と、内輪の小径側外周面との間の隙間を通して円錐ころ軸受内に流れる第1の流路(R1)と、保持器の小径側環状部の外側面に沿って流れた後、外輪の小径側内周面に向けて流れる第2の流路(R2)とに分岐されて流れる。また、軸受け回転時において、第1の流路(R1)及び第2の流路(R2)を通って円錐ころ軸受内に流入した潤滑油は、遠心力の作用を受けて、外輪軌道面の小径側から大径側に向けて流れる。このため、外輪軌道面の最小内径部を含む内側領域(A)の圧力が低くなる(低圧となる)。一方、第2の流路(R2)を流れる潤滑油は、外輪30の小径側内周面に当たり、保持器の外周面と軸方向外側端面との境界部を含む外側領域(B)の圧力は高くなる。この際、圧力差低減手段によって、内側領域(A)と外側領域(B)との圧力の差が低減される。このため、外側領域(B)内の潤滑油が、内側領域(A)内に引き込まれることが抑制される。この結果、円錐ころ軸受を流れる潤滑油の油量を抑制して、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる。
【0008】
第2の発明の円錐ころ軸受は、第1の発明の円錐ころ軸受であって、前記圧力差低減手段は、前記内側領域の圧力を高めることで、前記外側領域の圧力との差を低減することを特徴とする。
【0009】
第2の発明によると、内側領域(A)の圧力が低くなる一方、外側領域(B)の圧力が高くなると、圧力差低減手段によって、内側領域(A)の圧力が高められることで、内側領域(A)と外側領域(B)との圧力差を低減することができる。
【0010】
第3の発明の円錐ころ軸受は、第2の発明の円錐ころ軸受であって、圧力差低減手段は、前記内輪の小径側の外周面に向けて流入される潤滑油やこの潤滑油に混入された空気を、前記内側領域に導く誘導路が前記保持器の前記小径側環状部に形成されることで構成されている。
【0011】
第3の発明によると、保持器の小径側環状部に対し、内輪の小径側の外周面に向けて流入される潤滑油やこの潤滑油に混入された空気を内側領域(A)に導く誘導路を形成することで、圧力差低減手段を容易に構成することができる。
【0012】
第4の発明の円錐ころ軸受は、第3の発明の円錐ころ軸受であって、前記誘導路は、前記円錐ころの小端面に対向する前記保持器の前記小径側環状部の面に形成された径方向に延びる凹部によって構成されている。
【0013】
第4の発明によると、円錐ころの小端面に対向する保持器の小径側環状部の面に対し、径方向に延びる凹部を形成することで、圧力差低減手段を構成する誘導路を容易に構成することができる。
【0014】
第5の発明の円錐ころ軸受は、第1〜4のいずれかの発明の円錐ころ軸受であって、前記保持器の前記小径側環状部の外周面と、前記外輪の小径側の内周面との間には、微小な隙間を隔てて対向するラビリンスが構成されていることを特徴とする。
【0015】
第5の発明によると、保持器の小径側環状部の外周面と、外輪の小径側の内周面との間の微小な隙間によってラビリンスが構成されるため、外側領域(B)内の潤滑油が内側領域(A)内に引き込まれることを抑制することができる。この結果、円錐ころ軸受を流れる潤滑油の油量を抑制して、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、軸受内を流れる潤滑油の油量を抑制して、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施例1に係る円錐ころ軸受を示す軸方向断面図である。
図2】内輪と、外輪と、円錐ころと、保持器との組付状態を拡大して示す軸方向断面図である。
図3】円錐ころ軸受の小径側から供給される潤滑油の流れを示す説明図である。
図4】保持器の展開図である。
図5】保持器のポケットの小径側端の壁部の中央部に位置する小径側環状部に対し誘導路を構成する一つ凹部が形成された実施態様を示す展開図である。
図6】従来の円錐ころ軸受の内輪と、外輪と、円錐ころと、保持器との組付状態を拡大して示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0019】
この発明の実施例1に係る円錐ころ軸受を図1図4にしたがって説明する。図1図2に示すように、円錐ころ軸受は、内輪10と、外輪30と、複数の円錐ころ40と、保持器50と、を備えている。
【0020】
内輪10は、中心部を貫通する中心孔11を有して筒状に形成され、外周面にはテーパ軸状の内輪軌道面13が形成されている。内輪10の内輪軌道面13の大径側端部の外周面には、内輪軌道面13に隣接して大つば部14が形成されている。また、内輪10の内輪軌道面13の小径側端部の外周面には、内輪軌道面13に隣接して小つば部20が形成されている。また、内輪10には、小つば部20から軸方向外方へ延出された円筒状の延長部22が形成され、この延長部22の中心孔11aは、内輪10の中心孔11と同一中心でかつ同一の孔径寸法を有している。さらに、延長部22の外周面23は円筒面に形成されている。また、図3に示すように、小つば部20の外周面20aと、小つば部20の軸方向外側端面20bとの境界部には面取り加工された傾斜面20cが形成されている。
【0021】
外輪30は、内輪10の外周側に同心に配設されかつ内周面にテーパ孔状の外輪軌道面31が形成されている。さらに、外輪30には、外輪軌道面31の小径側端部から軸方向外方へ延びる円筒状の延長部33が形成され、この延長部33の内周面34は円筒面に形成されている。
【0022】
複数の円錐ころ40は、保持器50の複数のポケット51にそれぞれ保持された状態で、内輪軌道面13と外輪軌道面31との間の環状空間に転動可能に配設されている。
【0023】
保持器50は、耐熱性、耐摩耗性、耐油性を有する樹脂材料によって形成され、図2図4に示すように、軸方向に所定間隔を隔て、かつポケット51の軸方向両端の壁部を形成する大径側及び小径側の両環状部53、54と、大径側及び小径側の両環状部53、54に跨って両端部が連結され、かつポケット51の周方向両側の壁部を形成する複数の柱部52とを一体に備えている。また、この実施例1において、図3に示すように、保持器50の小径側環状部54の内周面56は、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c、軸方向外側端面20b及び延長部22の外周面23に接近して、内側内周面56aの内径が大きく外側内周面56bの内径が小さく境界部に段差面56cを有する段差円筒面に形成されている。
【0024】
図3に示すように、保持器50の小径側環状部54の内周面56のうちの外側内周面56bと、内輪10の延長部22の外周面23との相互の円筒面の間には、微小な隙間S1(例えば、0.1mm〜1.5mm)を隔てるラビリンスが構成されている。また、保持器50の小径側環状部54の内周面56のうちの内側内周面56a及び段差面56cと、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c及び軸方向外側端面20bとの間には、微小な隙間S1よりも若干大きくかつ奥に連通する微小な隙間S1に連通する隙間空間Sが形成されている。また、保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との相互の円筒面の間においても、微小な隙間S2(例えば、0.1mm〜1.5mm)を隔てるラビリンスが構成されている。

【0025】
外輪30の延長部33の内周面34及び外輪軌道面31の小径側端部と、円錐ころ40の小端面41と、保持器50の小径側環状部54の外周面55とで囲まれ、かつ外輪軌道面31の最小内径部31aを含む内側領域Aの圧力と、保持器50の小径側環状部54の外周面55と軸方向外側端面58との境界部59を含む外輪30の延長部33の内周面34の外側領域Bの圧力との差を低減する圧力差低減手段60Aが設けられている。圧力差低減手段60Aとしては、内側領域Aの圧力を高めることで、外側領域Bの圧力との差を低減するものや、外側領域Bの圧力を軽減して内側領域Aの圧力との差を低減するものがある。この実施例1において、圧力差低減手段60Aは、内側領域Aの圧力を高めることで、外側領域Bの圧力との差を低減するものを採用している。
【0026】
すなわち、この実施例1において、第1の流路R1に流入される潤滑油やこの潤滑油に混入された空気を、内側領域Aに導く誘導路60によって構成されている。さらに、この実施例1において、誘導路60は、円錐ころ40の小端面41に対向する保持器50の小径側環状部54の面(ポケット51の小径側端の壁部)に形成された径方向に延びる凹部61によって構成されている。さらに、誘導路60の内径側開口は、内輪10の小つば部20の外周面20a及び傾斜面20cに対向し、誘導路60の外径側開口は、内側領域Aに対向している。さらに、誘導路60を構成する凹部61の溝深さは、隙間空間Sをなす保持器50の小径側環状部54の内側内周面56a及び段差面56cと、内輪10の小つば部20の外周面20a、傾斜面20c及び軸方向外側端面20bとの間の間隔寸法よりも大きく設定されている。これによって、誘導路60の通路断面積が必要充分に確保されている。また、この実施例1において、図4に示すように、凹部61は、ポケット51の小径側端の壁部の両側部に位置する二個所にそれぞれ形成され、凹部61の深さ寸法Hは、0.5mm以上に設定されている。
【0027】
この実施例1に係る円錐ころ軸受は上述したように構成される。したがって、軸受け回転時には、円錐ころ軸受の小径側に向けて供給される潤滑油は、保持器50の小径側環状部54の内周面56と、内輪10の延長部22の外周面23との間の微小な隙間S1及び隙間空間Sを通して円錐ころ軸受内に流れる第1の流路R1と、保持器50の小径側環状部54の軸方向外側端面58に沿って流れ、外輪30の延長部33の内周面34の開口側を経て保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との間の微小な隙間S2を通して円錐ころ軸受内に流れる第2の流路R2とに分岐されて流れる。
【0028】
また、軸受け回転時において、第1の流路R1及び第2の流路R2を通って円錐ころ軸受内に流入した潤滑油は、遠心力の作用を受けて、外輪軌道面31の小径側から大径側に向けて流れる。これによって、内側領域A内の圧力が低くなる(低圧となる)ことが想定される。この際、第1の流路R1に流れた潤滑油やこの潤滑油に混入された空気が誘導路60に案内されて内側領域A内に流入する。このため、内側領域Aの圧力が低下することが抑制される。
【0029】
一方、第2の流路R2を流れる潤滑油は、外輪30の延長部33の開口側部分に当たり、保持器50の小径側環状部54の外側面に位置する外輪30の延長部33の内周面34の外側領域Bの圧力は高くなる。しかしながら、内側領域Aの圧力が低下することが抑制されるため、圧力差低減手段60Aを有していない場合と比較して内側領域Aと外側領域Bとの圧力差が小さくなる。さらに、保持器50の小径側環状部54の外周面55と、外輪30の延長部33の内周面34との間には、微小な隙間S2を隔ててラビリンスが構成される。このため、外側領域B内の潤滑油が領域内Aに向けて引き込まれることを抑制することができる。この結果、円錐ころ軸受内を流れる潤滑油の油量(貫通油量)を抑制することができ、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を軽減することができる。
【0030】
前記したように、圧力差低減手段60Aとしての誘導路60が設定されるこの実施例1の円錐ころ軸受と、圧力差低減手段としての誘導路が存在しない従来の円錐ころ軸受との貫通油量を円錐ころ軸受を回転して測定した結果、次の表1及び表2に示すような結果が得られた。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2から明らかなように、円錐ころ軸受の回転速度(min−1)が1500min−1で変換点となっており、1500min−1以上となるとしだいに貫通流量が従来と比べて低減することができた。
【0034】
また、この実施例1において、誘導路60は、円錐ころ40の小端面41に対向する保持器50の小径側環状部54の面(ポケット51の小径側端の壁部)に対し、径方向に延びる凹部61が形成されることで容易に構成される。
【0035】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、保持器50の小径側環状部54に誘導路60を構成する凹部61は、小径側環状部54のポケット51の小径側端の壁部の両側部に位置する二個所にそれぞれ形成される場合を例示したが、図5に示すように、保持器50の小径側環状部54(ポケット51の小径側端の壁部)の中央部一個所に凹部161を形成して誘導路160を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 内輪
13 内輪軌道面
14 大つば部
20 小つば部
22 延長部
30 外輪
31 外輪軌道面
40 円錐ころ
50 保持器
51 ポケット
52 柱部
53 大径側環状部
54 小径側環状部
60 誘導路
61 凹部
S1、S2 微小な隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6