【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を用いて、更に詳細に説明する。なお実施例及び比較例中の物性は次のようにして測定した。
【0041】
(1)全光線透過率
真空蒸着後のバリア性フィルムの全光線透過率(%)を、日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000により測定した。80%以上を透明包装材料として好適な範囲とした。
【0042】
(2)レトルト処理
東洋モートン(株)製ドライラミネート用接着剤AD−503タイプ20重量部、東洋モートン(株)製硬化剤CAT−10タイプ1重量部、および酢酸エチル20重量部を混合し、30分攪拌して固形分濃度19重量%のドライラミネート用接着剤溶液を調整した。次に本発明の耐湿熱性ガスバリアフィルムの保護層の面にバーコート法により上記接着剤溶液を塗工し、80℃で45秒間乾燥して3.5μmの接着剤層を形成した。接着剤層面に無延伸ナイロンフィルム東レフィルム加工(株)製「レイファン」(登録商標)NO1401タイプ(厚さ30μm)を重ね、富士テック(株)製「ラミパッカー」(LPA330)を用いてヒートロールを40℃に加熱して貼り合わせた。次に未延伸ポリプロピレンフィルム「トレファン」(登録商標)NO ZK100タイプ(厚さ70μm)を同じ方法で貼り合わせた。このラミネートフィルムを40℃に加熱したオーブン内で2日間エージングして接着剤を硬化させた。
【0043】
上記ラミネートフィルムから15cm角に切り出してカットサンプルを作成した。2枚のカットサンプルを未延伸ポリプロピレンフィルム面が対向するようにして重ね、ヒートシーラーを用いて3辺の端部10mmを熱シールして150mm角のパッケージを作成した。
【0044】
次にそのパッケージを、(株)トミー精工製オートクレーブ(SR−24タイプ)を用いて温度135℃で30分間レトルト処理した。
【0045】
(3)レトルト処理後の低速ウェット密着強度
レトルト処理後、パッケージを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、(株)オリエンテック製「テンシロン」(PTM50タイプ)を使用して耐湿熱性ガスバリアフィルムとナイロンフィルム間を界面としてその界面に水を綿棒で塗工しながら、180°ピール法により、引っ張り速度50mm/minで剥離し強度を測定した。これらの測定を異なる2枚のカットサンプルを使用して行い、得られた値の平均値をレトルト処理後低速ウェット密着強度(N/15mm)とした。1N/15mm以上を合格とした。
【0046】
(4)レトルト処理後の酸素透過率
レトルト処理後、パッケージを幅100×100mmに切断したサンプルを作成し、酸素透過率(cc/(m
2day・atm))をJISK7126−2(制定2006年8月20日)に準じて、モダンコントロール社製酸素透過率測定装置OX−TRAN2/20を用いて、23℃、0%RHの条件にて測定した。サンプル3点の平均値を求めた。酸素透過率0.5cc/(m
2day・atm)以下を合格範囲内とした。
【0047】
(5)レトルト処理後の水蒸気透過率
レトルト処理後、パッケージを幅100×100mmに切断したサンプルを作成し、水蒸気透過率(g/m
2day)をJISK7129B(制定2008年3月20日)に準じて、モダンコントロール社製水蒸気透過率測定装置Permatran−W3/30を用いて、40℃、90%RHの条件にて測定した。サンプル3点の平均値を求めた。水蒸気透過率1g/m
2day以下を合格範囲内とした。
【0048】
(6)改質層の厚さの測定
改質層の厚さは、以下の方法で求めた。ポリエステルのイオンビーム処理を行った後、大気中に取り出して、TOF-SIMS分析(IONTOF社TOF−SIMS5)による分析を行った。
【0049】
一次イオン源(Arクラスターイオンビーム、2.5keV,0.35nA)でエッチングを行い、それぞれの深さでビスマス液体金属(Bi
3+、10keV,0.5pA)を照射して得られる二次イオンである分子片(フラグメント) をカウントした。フラグメントの質量から対応する分子式を特定し、エッチング時間に対する変化としてデータ集計した。エッチング時間に対するエッチング深さは、SiO
2換算で10sが1nmに相当するが、これに別途わかっているSiO
2に対するポリエチレンテレフタレートのエッチング速度比5倍を乗じてエッチング深さに換算した。
【0050】
改質層の厚さを求めるのには、C
6H
16N
+とC
7H
7+のピーク面積の比を用いた。C
6H
16N
+は、イオンの衝撃によりポリエステルの分子結合の一部が破壊し、大気中の窒素がポリエステルに取り込まれた成分に起因する。C
7H
7+は、イオンビーム処理によっても変化が見られず表層から均等に分布している成分に相当する。強い原子結合を持つベンゼン環に起因すると思われる。イオンビーム処理が強く行われるほどにC
6H
16N
+が多く検出されることを利用して、C
7H
7+に対する比率を改質層の指標とする。この比率において、0.1以上となる領域を改質層として改質層の深さを定義した。
【0051】
(実施例1)
A.ポリエステルフィルムへの改質層と金属酸化物層の形成
連続巻き取り式蒸着機((株)アルバック製)のフィルム巻き出し部と蒸着部の間に、有効長1mのリニア型アノードレイヤータイプのイオン源(米Veeco社、ALS1000L)を、フィルム走行面から50mmの距離に設置した。イオン源用電源は、米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプを用いた。フィルム走行面からフィルム背面側に10mm遠ざかった位置に1m×200mmの水冷を施したイオン電流測定用の電極を設け、イオン源を動作させた状態で正のリターディング電圧を変化させながらイオン電流を測定した。リターディング電圧とイオン電流の関係から非特許文献1と同様にしてイオンのエネルギー分布からイオンの平均エネルギーEa(eV)を算出した。なお、リターディング電圧をかけない状態でのイオン電流I(A)も測定した。まずイオン源には酸素を80cc/min導入し、アノード電圧2kV、アノード電流860mAで動作させた。この際のイオンの平均エネルギーEaは0.6keVであり、イオン電流は650mAでることを確認した。実施例2以降においても同様にイオン源の動作条件でのイオンの平均エネルギーとイオン電流を事前に測定した。
【0052】
フィルム巻き出し部には、ポリエステルフィルムとして、包装用の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)P60、厚さ12μm、幅1000mm)をセットし、到達圧力3×10
−3Paまで真空引きした。つぎに粒状アルミニウム(真空冶金(株)製、純度99.99%)の入ったるつぼを高周波加熱して、フィルムを4m/sの速度で走行させ、透過率モニターにてアルミニウム蒸着フィルムの透過率が10%となるように投入電力を調節して蒸発量を設定した。イオン源を上記条件で動作させて酸素イオンを照射し、蒸着部に酸素を導入して酸化アルミニウム層を形成した。この時のフィルム冷却ドラムの温度は−30℃であった。これにより、10nm厚の酸化アルミニウム層を形成した。この時の照射エネルギー密度は、0.6keV×650mA/(4m/s×1m)=98J/m
2であった。イオン源の横の真空槽の壁に取り付けたB−Aゲージ式圧力計で、真空度は2×10
−2Paであった。
【0053】
B.保護層塗液の調製
保護層として塗布する樹脂はアクリル系共重合体であり、アクリロニトリル(AN)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)およびメチルメタクリレート(MMA)の各モノマーをそれぞれ20:50:30の割合(質量%)で共重合したものを準備した。該共重合樹脂をメチルエチルケトン(MEK)、ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)およびn−プロピルアルコールの混合溶剤に溶解させて固形分濃度が6.93質量%の共重合樹脂の溶液を得た。
【0054】
3−アミノプロピルトリエトキシシランをアセトンと水の混合溶媒に混合して2時間攪拌し加水分解させ固形分比率14.8%の溶液を得た。これをDIC(株)製キシレンジイソシアネートを主成分とする硬化剤HX−75(固形分濃度75質量%)、メチルエチルケトンと混合し、固形分11.8%の溶液を得た。この溶液103.8重量部と上記アクリル系共重合樹脂の溶液 144.5重量部を混合し、固形分濃度9.0%の保護層用のコーティング液を調整した。
【0055】
C.保護層の形成
上記フィルムの酸化アルミニウム層上に、上記保護層塗液を、ロール・ツー・ロールのダイレクトグラビアコーティング機にて、59線/cm、深度64μmの格子柄のグラビアロールを使用し、速度100m/minにて酸化アルミニウム層上にコーティングを行った後、乾燥炉で乾燥を行い、厚さ0.2μmの保護層を形成し、耐湿熱性ガスバリアフィルムを作成した。乾燥時のフィルム温度はヒートラベルにて140℃になるよう乾燥条件を設定した。このフィルムのレトルト後の各種特性を測定し、表1に記載した。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を3kV、アノード電流1680mA、送り速度8m/sとした。イオンの平均エネルギーEaは0.9keVであり、イオン電流は1430mAであった。単位面積あたりの照射エネルギー密度は161J/m
2であり、特性は良好であった。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を1kV、アノード電流390mA、送り速度3m/sとした。イオンの平均エネルギーは0.3keV、イオン電流は260mA、単位面積あたりの照射密度は26J/m
2であり特性は良好だった。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、イオン源のアノード電圧を0.6kV、アノード電流210mA、送り速度3m/sとした。イオンの平均エネルギーは0.2keV、イオン電流は150mA、照射エネルギー密度は10J/m
2であった。耐水密着力は1N/15mm、酸素透過率が0.5cc/(m
2day・atm)、水蒸気透過率が1g/(m
2day)であり、何とか使用に耐えるレベルであった。
【0059】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、イオン源の電圧を3kV、イオン電流1680mA、送り速度1.5m/sとした。照射エネルギー密度は858J/m
2であった。耐レトルト性としては優れた特性であった。ただし高速イオン照射が強すぎたため、全光線透過率が79%と若干低めで褐色の着色があり、用途がやや限定される懸念があった。
【0060】
(実施例6)
実施例1において、保護層を下記の通り作製した。実施例1に比べても良好な結果が得られた。
【0061】
A.保護層塗液の調製
エチルシリケート40(多摩化学工業株式会社製)、イソプロピルアルコール、アセチルアセトンアルミニウム、イオン交換水からなる加水分解液を溶液1とする。ポリビニルアルコール水溶液、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製エポキシシランSH6040、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン) 、酢酸、イソプロピルアルコール及びイオン交換水からなる混合液を溶液2とする。EVOH(エチレン共重合比率29%)をイソプロピルアルコールおよびイオン交換水の混合溶媒に溶解して溶液3とする。
【0062】
溶液3に溶液2を加えて攪拌した。次に溶液2を加えて攪拌し、無色透明のガスバリア性組成物を得た。
溶液1 エチルシリケート40 11.460 (wt%)
イソプロピルアルコール 17.662
アルミニウムアセチルアセトン 0.020
H
2O 13.752
溶液2 ポリビニルアルコール 1.520
シランカップリング剤 0.050
イソプロピルアルコール 13.844
H
2O 35.462
酢酸 0.130
溶液3 EVOH 0.610
イソプロピルアルコール 3.294
H
2O 2.196
B.保護層の形成
上記フィルムの酸化アルミニウム層上に、上記ガスバリア性組成物をロール・ツー・ロールのダイレクトグラビアコーティング機にて、18線/cm、深度200μmの格子柄のグラビアロールを使用し、速度100m/minにて酸化アルミニウム層上にコーティングを行った後、乾燥炉で乾燥を行い、厚さ0.25μmの保護層を形成し、耐湿熱性ガスバリアフィルムを作成した。乾燥時のフィルム温度はヒートラベルにて100℃になるよう乾燥条件を設定した。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、イオン照射を行わずに酸化アルミニウム層を蒸着した以外は、実施例1と同様に保護層を形成し、作成した。
【0064】
(比較例2)
実施例1において、銅をターゲットとするマグネトロンカソードを1Paの酸素中で高周波にて放電させて発生させたプラズマ中をフィルムを通過させてイオンビームに代わる表面処理とした。カソードの形状は1.3m×100mmで、放電時の電圧、電流は320V、9.2Aとした。それ以外は実施例1と同様に酸化アルミニウム層を蒸着し、保護層を形成し、作成した。
【0065】
(比較例3)
実施例1において、保護層を形成しないこと以外は実施例1と同様に作成した。
【0066】
【表1】