(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ニトロキシラジカル誘導体が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルまたは4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルである、請求項7に記載の感光性組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、天然由来の環境配慮型バイオマス材料として注目されているものにセルロースがある。セルロースは植物の細胞壁や微生物の体外分泌物、ホヤの外套膜などに含まれており、地球上でもっとも多く存在する多糖類である。そして、生分解性を有し、結晶性が高く、安定性や安全性に優れている。そのため、様々な分野へ応用展開が期待されている。なかでも、木材パルプなどのセルロース材料に機械的解繊処理を施し、フィブリル状あるいはミクロフィブリル状にまで微細化したセルロースナノファイバーは、高強度、高耐熱性等の特徴を有し、樹脂への添加剤や各種機能性基材として盛んに研究されている。
【0003】
また、セルロースを2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)触媒系によって酸化反応を行うと、水系、常温、常圧などの温和な条件下で結晶表面のセルロースの持つ3つの水酸基のうち、C6位のアルコール性一級炭素のみ選択的に酸化することができ、アルデヒド基を経てカルボキシル基まで変換することができる。
【0004】
こうして得られた酸化セルロースは、水に懸濁させ軽微な機械的処理を加えるだけで容易に水分散させることができ、幅3nm〜4nmのミクロフィブリル単位に分散した均一なセルロースナノファイバーが得られることが知られている。TEMPO酸化セルロースナノファイバーは高い結晶性を有し、高強度で、表面に高密度にカルボキシル基を有していることから多くの分野への応用が期待されている(例えば、特許文献1)。さらにそのフィルムは、酸素バリア性、高強度・高弾性率、透明性、低い熱線膨張率などの特徴を有している。
【0005】
一方、半導体やプリント配線板のパターン形成等において使用するレジストや、基材上に機能性層を形成するためのコーティング材料等として、様々な感光性樹脂が用いられている。
【0006】
感光性樹脂とは、光化学反応別に(a)重クロム酸塩系感光性樹脂、(b)光分解型感光性樹脂、(c)光二量化型感光性樹脂、(d)光重合型感光性樹脂に分類される。このうち(a)重クロム酸塩系感光性樹脂としては、ゼラチン、グルー、卵白、アラビアゴム、セラミックなどの天然高分子、あるいは、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリルアミドのような合成高分子に、重クロム酸アンモニウムあるいは重クロム酸カリウムを加えたものを挙げることができる。また、(b)光分解型感光性樹脂としては、光分解性官能基であるジアゾ基、アジド基を有する芳香族ジアゾニウム塩系樹脂、o−キノンジアジド類樹脂、アジド化合物含有樹脂があり、(c)光二量化型感光性樹脂は、光によって二量化する官能基を線状ポリマーの側鎖として導入し、光により架橋させるものであり、桂皮酸エステル系樹脂などがある。(d)光重合型感光性樹脂としては、光開始剤と分子内に不飽和二重結合を有する各種モノマー、またはオリゴマー(プレポリマー)に線状ポリマーを混ぜたものが挙げられる。具体的には、モノマーとしては(メタ)アクリル酸エステル類、不飽和オリゴマーとしてはポリエステル類、ポリウレタン類、エポキシ樹脂などがある。
【0007】
(a)重クロム酸塩系感光性樹脂は、上記のような水溶性高分子に重クロム酸アンモニウム、あるいは重クロム酸カリウムを加えたものである。この系では、光を照射することにより樹脂が不溶化するが、その反応機構は、重クロム酸塩中のクロムイオンが光照射により六価から三価に還元され、高分子中のアミノ基、水酸基、カルボキシル基などの官能基と配位結合することによるものと考えられている。(b)光分解型感光性樹脂の一つであるジアゾ樹脂は光分解によりアルカリ水溶液に不溶化するだけでなく、PVAなどの水酸基を有する高分子に対しては光架橋剤としても働き、PVAなどと混合して光架橋タイプの組成物とすることができる。(d)光重合型感光性樹脂において、線状ポリマーとしては、用途に応じて各種の特性を有するものが用いられ、例えばPVAや水溶性ポリアミドのような水に可溶なもの、アクリル酸共重合体やスチレン-マレイン酸共重合体などである。配合比を選択することで様々な性状のものを得ることが可能で、幅広い分野で使用されている。
以上のように、分子内に水酸基やカルボキシル基を有するという特徴は感光性樹脂の材料として重要な要素である。
【0008】
また、このような感光性樹脂には、光に反応して特性(溶解性)を変化させるという特性の他、用途に応じて様々な特性が求められる。例えば、プリント配線板工程に用いられるレジストの場合、エッチング耐性、耐熱性、電気的絶縁性など、光学的コーティング材料の場合透明性など、がある。それぞれの用途に応じ、要求特性を満たす感光性樹脂の組成が検討されている。また、半導体やプリント配線板の分野においては、配線パターンの微細化の要求がある。微細化にはレジストを薄膜化し微細パターンを形成しやすくする、エッチングファクター向上のため基板に対しエッチング液を強く吹き付ける、などの手法が考えられる。このとき、レジストとなる感光性樹脂には、薄膜でもエッチングに耐えられるような高い膜強度が求められる。
【0009】
このような感光性組成物としては、環境問題の観点から、水を溶媒とし有機溶剤を含有しないもの、また、パターニングの際に希アルカリなど水系で現像可能なものが望まれている。(例えば、特許文献2)また、これらの感光性組成物の主成分となる樹脂成分はほとんどが石油由来材料よりなるものであり、天然由来材料は少ないのが現状である。石油資源の枯渇が危惧される中、天然由来材料の活用が必要となっている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0024】
本発明の一実施形態に係る感光性組成物は、酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーを含むものである。
【0025】
(酸化セルロースおよびセルロースナノファイバー)
酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーは以下のような調製方法により得ることができる。酸化セルロースは、酸化処理により、セルロース分子中のグルコピラノース環の少なくとも一部にカルボキシル基が導入されたものである。セルロースナノファイバーとは、セルロースまたはその誘導体のミクロフィブリルまたはミクロフィブリル集合体のことを指し、公知の製造方法により製造できる。製造方法としては、たとえば、セルロースナノファイバー前駆体を分散媒(たとえば水)中で解繊処理を施してセルロースナノファイバー分散液とする方法が挙げられる。ここで、セルロースナノファイバー前駆体は、解繊処理が施されていないセルロース類であり、ミクロフィブリルの集合体から構成される。
【0026】
セルロースナノファイバー前駆体としては、酸化セルロースからなるものが好ましい。天然のセルロース原料(パルプ等)に含まれるセルロースは、ミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)により多束化しているが、酸化セルロースは、カルボキシ基の電気的反発作用によって凝集力が弱くなり、ナノファイバー化しやすくなる。すなわち、セルロースあるいは他のセルロース誘導体を用いる場合に比べて、少ないエネルギーでナノファイバー化することができ、環境負荷が小さい。
【0027】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されず、セルロースIの結晶構造を有する天然由来のセルロースを用いることができる。たとえば各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。また、市販されている各種セルロース材料や微結晶セルロース粉末を使用できる。
【0028】
セルロースの酸化処理としては、一般的に知られている水酸基からホルミル基を経てカルボキシル基へと酸化する方法から適宜選択することができる。触媒としては、ニトロキシラジカル誘導体を用いることができる。特に、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(4−アセトアミド−TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いた酸化処理(TEMPO酸化処理)が好適である。TEMPO酸化処理を行うと、結晶表面のセルロース分子の水酸基をもつ3つの炭素のうち、C6位のアルコール性一級炭素のみ選択的に酸化することができ、アルデヒド基を経てカルボキシル基まで変換することができる。TEMPO酸化処理によれば、カルボキシ基を、酸化処理の程度に応じて均一かつ効率よく導入できる。また、TEMPO酸化処理は、他の酸化処理に比べて、セルロースの結晶性を損ないにくい。そのため、TEMPO酸化処理により得られる酸化セルロースのミクロフィブリルは、天然のセルロースが有する高い結晶構造(I型結晶構造)を保持しており、機械的強度、耐食性に優れる。
【0029】
セルロースに導入するカルボキシル基量(セルロースナノファイバー1g中に含まれるカルボキシル基のモル量)は、0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下がより好ましく、1.0mmol/g以上2.0mmol/g以下がさらに好ましい。カルボキシル基量が上記範囲の下限値以上であると、解繊処理の際、ナノファイバー化しやすくなり、均一なセルロースナノファイバー分散液が得られる。また、カルボキシ基量が上記範囲の上限値以下であると、セルロースナノファイバーを用いて形成される膜の耐水性や耐熱性が向上する。カルボキシル基量は酸化の際の反応条件(温度、時間、試薬量)により制御できる。
【0030】
カルボキシル基の測定方法の一例を説明する。まず、改質処理したセルロースの乾燥質量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.8となるように調整する。ここに、自動滴定装置(東亜ディーケーケー株式会社、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続ける。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出することができる。
【0031】
TEMPO酸化処理による酸化セルロースの製造は、たとえば、パルプ等のセルロース原料を、水中にて、N−オキシル化合物の存在下で酸化処理することにより実施できる。このとき、N−オキシル化合物とともに、次亜ハロゲン酸塩や亜ハロゲン酸塩などを酸化剤として用いる手法が好ましい。酸化剤を用いる場合、反応系内においては、順次、N−オキシル化合物が酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩を生成し、オキソアンモニウム塩により、セルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。
また、N−オキシル化合物および酸化剤とともに、さらに、N−オキシル化合物以外の他の触媒として、臭化物およびヨウ化物から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。
N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0.1質量%以上10質量%以下の範囲内であり、0.5質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0032】
酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用でき、例えば、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム等を用いることができる。酸化剤の使用量は、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、1質量%以上100質量%以下が好ましく、5質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0033】
臭化物としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属塩が挙げられる。
ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化アルカリ金属塩が挙げられる。
臭化物およびヨウ化物から選ばれる触媒の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0質量%以上100質量%以下の範囲内であり、5質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0034】
TEMPO酸化の反応条件(温度、時間、pH等)は、特に限定されず、得ようとする酸化セルロースの所望のカルボキシ基量、平均繊維幅、平均繊維長、透過率、粘度等を考慮して適宜設定できる。
反応温度は、1級水酸基への酸化の選択性の向上、副反応の抑制等の点から、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。反応温度の下限は、特に限定されないが、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
反応時間は、処理温度によっても異なるが、通常、0.5時間以上6時間以下の範囲内である。
反応中、反応系内のpHを、4以上11以下の範囲内に保つことが好ましい。特に酸化剤に次亜塩素酸塩を使用する場合、該pHは、8以上11以下がより好ましく、9以上11以下がさらに好ましく、9.5以上10.5以下が特に好ましい。pHが11超であるとセルロースが分解してしまい低分子化する恐れがあり、酸性領域であると次亜塩素酸が分解し、塩素が発生する恐れがある。
ここで、本明細書において、pHは、20℃におけるpHである。
pHは、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、有機アルカリ等のアルカリを添加することにより調節できる。
【0035】
反応は、反応液内にエタノール等のアルコールを添加することにより停止させることができる。酸化処理後、必要に応じて、反応液に酸を添加して中和処理を行ってもよい。上記酸化処理後の反応液中に含まれる酸化セルロースはカルボキシル基が塩型となっているが、中和処理を行うことにより酸型とすることができる。中和に用いる酸としては、酸化セルロース中の塩型のカルボキシル基を酸型とし得るものであればよく、たとえば塩酸、硫酸等が挙げられるが安全性や入手のしやすさから塩酸が好ましい。
【0036】
反応後の酸化セルロースは、ろ過等により反応液より回収できる。酸化セルロースは反応液中の触媒、不純物を除去するために洗浄処理を行うことが好ましい。洗浄処理は、たとえば、ろ過により酸化セルロースを回収した後、水等の洗浄液で洗浄し、ろ別を繰り返すことにより実施できる。洗浄液としては、水系のものが好ましく用いられ、たとえば水、塩酸等が挙げられる。
【0037】
TEMPO酸化処理により得られた酸化セルロース等のセルロースナノファイバー前駆体を分散媒に加え懸濁液とし、必要に応じてpH調節を行い、解繊処理(ナノファイバー化処理)することによりセルロースナノファイバーの分散液を調製できる。分散媒としては水、または水と有機溶剤との混合液が挙げられる。有機溶剤としては、水と均一に混和可能なものであればよく、たとえばエタノール等のアルコール、エーテル類、ケトン類等が挙げられる。
【0038】
懸濁液の解繊処理前のpHは、特に限定されないが、酸化セルロースをセルロースナノファイバー前駆体として用いる場合には、pH4以上12以下で解繊処理を行うのが好ましく、特に、pHをpH7以上pH12以下のアルカリ性とし、カルボン酸塩を形成するのが好ましい。これにより、カルボキシル基同士の電気的反発が起こりやすくなるため、分散性が向上しセルロースナノファイバーを得やすくなる。ここで、pH4未満でも解繊処理によりナノファイバー化することは可能であるが、解繊処理により長時間・高エネルギーを要し、分散液の透明性も劣る。一方、pH12を超えると解繊処理中に酸化セルロースのβ脱離反応による低分子量化が促進されるため、製膜後の膜強度が劣る。
【0039】
解繊処理は、特に限定されず、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、対向衝突型ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、遊星ミル、高速回転ミキサー、グラインダー磨砕等を用いた機械的処理により実施できる。
【0040】
セルロースナノファイバーは、繊維の平均径が1nm以上10μm以下の範囲にある。これらの繊維径の測定は、AFMやSEMなどの装置を用いて形状観察を行い、任意の多数のサンプルの繊維幅を測定してその平均をとる手法、あるいは塗液の粒度分布計などを用いた粒径測定結果から計測することが可能である。なお、本発明では前者の観察からの計測値を用いた。
【0041】
セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバーの固形分濃度は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。固形分濃度が5質量%以下、特に3質量%以下であると、分散性、透明性が良好である。5質量%を超えると、粘度が高くなり解繊処理が行い難くなる。固形分濃度の下限は特に限定されず、0質量%超であればよい。この濃度範囲で解繊処理を行うことにより、均一なセルロースナノファイバー分散液を得ることができ、配合が容易で混合しやすく、感光性組成物として用いる際に好適である。
【0042】
一方、セルロース原料として再生セルロースのような結晶化度を低下させたセルロースを用いTEMPO触媒酸化を行うと、セルロース分子中のすべてのグルコピラノース環のC6位のアルコール性一級炭素が酸化された酸化セルロースの一種である水溶性のポリウロン酸(ポリβ−1,4−グルクロン酸)が調製できる。ポリウロン酸は水に溶解し均一な溶液となることから、感光性組成物の配合物として好適に用いることができる。
【0043】
酸化セルロースおよびセルロースナノファイバーは、高分子量、例えば、重合度(DP)が100以上であることが望ましい。重合度が100未満になると、機械的強度、耐熱性、成膜性、膜凝集力が低くなる。上記酸化方法によれば高分子量の酸化セルロースを得ることが可能であるが、特にpH4以上7以下の弱酸性条件下で酸化反応を行うと、セルロースのβ脱離反応が抑制され低分子量化が起こり難くなる。
【0044】
酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーは、植物あるいは生物に由来する天然資源であり、自然界に豊富に存在するが、水や有機溶剤への溶解性に乏しく、これまで感光性樹脂のような用途への展開は困難であった。上記のような方法により処理することで、初めて、感光性組成物の配合物として用いることが可能となる。また、耐熱性、耐溶剤性に優れる材料であり、特に、セルロースナノファイバーはその高結晶性により高強度、高硬度であるという特長を有する。これにより、本発明の感光性組成物からなる膜に種々の特性を付与することができる。
【0045】
(感光性組成物)
本発明の感光性組成物は、上述の酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーを含む。酸化セルロース及びセルロースナノファイバーは、分子中に多数の水酸基またはカルボキシル基を有する。水酸基またはカルボキシル基が重クロム酸または光架橋剤と反応し不溶化することで、感光性樹脂層として使用できる。また、他のモノマー、オリゴマー、および線状ポリマーを含む系に配合して使用することで、耐熱性、耐溶剤性、線膨張率、膜強度といった、感光性樹脂膜の物性を向上させることができる。また、組み合わせる樹脂成分の屈折率を合わせることで、透明性が求められる用途にも好適に使用することができる。
【0046】
感光性組成物には、酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーの他に、重クロム酸塩類または光開始剤を含み、モノマー、不飽和オリゴマー(プレポリマー)、線状ポリマーを含んでも良い。ここで、線状ポリマーとは酸化セルロースまたはセルロースナノファイバー以外の鎖状高分子を指す。モノマー、不飽和オリゴマー(プレポリマー)、線状ポリマーは単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。酸化セルロースまたはセルロースナノファイバーの含有量は特に限定されず、目的とする用途・特性に応じて設計することができる。
【0047】
重クロム酸塩類としては、重クロム酸アンモニウムあるいは重クロム酸カリウムが挙げられる。重クロム酸塩類は、予め混合すると光を照射しなくても徐々に反応が進行し、貯蔵安定性に使用する際に混合する。また、光開始剤としては、公知のものを用いることが可能であり、例えば、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ジメトキシフェニルアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4′−ビスエチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類などが挙げられる。これらの光開始剤は単独で用いてもよく複数組み合わせて用いてもよい。
【0048】
モノマー、不飽和オリゴマーは公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、モノマーとしては(メタ)アクリル酸エステル類、不飽和オリゴマーとしては不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどがある。
【0049】
線状ポリマーとしても、目的に応じて適宜選択することができ、例えばPVAや水溶性ポリアミド、アクリル酸共重合体やスチレン−マレイン酸共重合体、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。線状ポリマーは、感光性組成物中で、バインダーとして働いたり、同時に使用するモノマーが光開始剤によりグラフト重合し不溶化するものである。成膜性や基材への密着性を考慮し、酸化セルロースやセルロースナノファイバーと併用することができる。
【0050】
さらに感光性組成物には、必要に応じて塗工性改良のための界面活性剤、シランカップリング剤など基材への接着性向上のための添加剤、耐熱性向上のための無機フィラー、その他、消泡剤、顔料、染料、分散剤、増感剤、防腐剤など本発明の効果を阻害しない範囲で配合することもできる。
【0051】
(基材への塗布、露光、パターン形成)
塗布する基材の材料は特に限定されず、目的に応じて適宜選ぶことができる。例えば、ガラス基材、プラスチック基材、シリコン基材、金属材料等が挙げられる。基材の形状も特に限定されず、例えば、板状、フィルム状、多孔質状等が挙げられる。
【0052】
感光性組成物の塗布の手法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、スピンコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、スプレーコーター等を用いた塗布方法を、適宜選択することができる。ウェット成膜方法を用いることにより、基材の表面に均一に塗膜を形成することができる。また、塗液の溶媒についても特に限定されるものではなく、酸化セルロースやセルロースナノファイバーが分散性よく分散するものであればよく、水・アルコールをはじめとした各種液体を1種類または複数種用いることができるが、環境への配慮の問題から水系が好ましい。
【0053】
また、本発明の感光性組成物を例えばPETフィルムなどの基材上にフィルム化し、フォルム状感光性組成物として使用してもよい。この場合、基材上に熱をかけながらラミネートすることで、感光性組成物層を形成できる。
【0054】
感光性組成物層の厚みは、基材や用途に応じて適宜設定することができる。薄すぎると、基材表面を十分に覆うことができず塗膜にピンホールが生じ不良となる可能性が高まる。逆に、必要以上に厚く形成すると、材料コストが増大するとともに、塗膜形成時の乾燥負荷が大きくなる、露光量が大きくなるなどによりラインスピードが低下するため生産性が低下する。また、解像度の低下、感光性組成物層の剛性が増し、割れが発生するなどの問題が生じやすくなる。
【0055】
基材に本発明の感光性組成物を塗布、乾燥またはラミネートした後、塗膜に紫外線(UV)例えば、波長が250nm以上400nm以下にある光を照射することにより、基材上に感光性組成物が架橋した光硬化体の膜を形成することができる。また、予め所望のパターン形状を有するマスクを作製し、塗膜上に設置しUV照射した後、水、水系現像液等適切な現像液で洗浄することにより、任意のパターン形状を形成することが可能である。
【0056】
本発明の感光性組成物は、例えば、光硬化型塗料、ハードコート剤、歯科用材料などに使用することができる。また、パターニングを行えば、半導体やプリント配線板のリソグラフィー工程の他、DNAチップ等のバイオチップ、バイオセンサーに用いられるマイクロ流路形成の分野においても応用が期待できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を説明する。
[製造方法1]
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。分散後のパルプスラリーにあらかじめ水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり滴下した。
【0058】
滴下開始からpHは低下を始めるが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を随時滴下し、系のpHを10に保った。4時間後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量が2.8mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄した後、酸化パルプを得た。自動滴定装置(東亜ディーケーケー、AUT−701)を用いて0.1N水酸化ナトリウム水溶液により電導度滴定を行ったところ、カルボキシル基量が1.6mmol/gと算出された。得られた酸化パルプを水で希釈し0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH9に調整し酸化パルプ1.5%懸濁液とした。この懸濁液を2時間高速攪拌機で解繊処理し、セルロースナノファイバーの分散液を得た。
【0059】
[製造方法2]
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5g溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここにセルロース1gに対し15mmolになるようの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を随時滴下し、pH10.75に調整した。そして6位の一級炭素の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。1Lのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄し、ポリウロン酸ナトリウムを得た。このポリウロン酸ナトリウム塩の5%水溶液に塩酸を添加し、pH3の水溶液とした。3時間撹拌後、この溶液を撹拌しながら過剰のエタノールに混合し、その後1晩放置し、沈殿物を得た。この生成物を水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、酸化セルロースであるポリウロン酸を得た。
【0060】
[実施例1]
基材として、厚さ0.11mm圧延42合金(ニッケル42重量%、残部鉄)板上に、下記の要領で膜厚約8μmの硬化膜を設けた。
塗布方式;リバースコート
塗液;ケン化度99、重合度500のポリビニルアルコール「JF−05」(日本酢ビ・ポバール社製)の15%水溶液90gに、製造方法1により製造したセルロースナノファイバー分散液100g、重クロム酸アンモニウム0.9gを加えたもの。
硬膜;リバースコーターで42合金上に塗布した膜を90℃で30分間乾燥させた後テストパターンマスクを用い紫外線を1000mJ/cm
2照射して光硬化し、室温水を2分間スプレーして現像処理を行った。さらに現像後の硬化した膜を無水クロム酸の4%水溶液に90秒間浸漬し、150℃で10分間加熱乾燥した。
【0061】
[実施例2]
基材として、厚さ0.11mm圧延42合金(ニッケル42重量%、残部鉄)板上に、下記の要領で膜厚約8μmの硬化膜を設けた。
塗布方式;リバースコート
塗液;ケン化度99、重合度500のポリビニルアルコール「JF−05」(日本酢ビ・ポバール社製)の15%水溶液50gに、製造方法2により製造したポリウロン酸の5%水溶液150g、重クロム酸アンモニウム0.9gを加えたもの。
硬膜;リバースコーターで42合金上に塗布した膜を90℃で30分間乾燥させた後、テストパターンマスクを用い紫外線を1000mJ/cm
2照射して光硬化し、室温水を2分間スプレーして現像処理を行った。さらに現像後の硬化した膜を無水クロム酸の4%水溶液に90秒間浸漬し、150℃で10分間加熱乾燥した。
【0062】
[比較例1]
基材として、厚さ0.11mm圧延42合金(ニッケル42重量%、残部鉄)板上に、下記の要領で膜厚約8μmの硬化膜を設けた。
塗布方式;リバースコート
塗液;ケン化度99、重合度500のポリビニルアルコール「JF−05」(日本酢ビ・ポバール社製)の15%水溶液100gに重クロム酸アンモニウム0.9gを加えたもの。
硬膜;リバースコーターで42合金上に塗布した膜を90℃で30分間乾燥させた後、テストパターンマスクを用い紫外線を1000mJ/cm
2照射して光硬化し、室温水を2分間スプレーして現像処理を行った。さらに現像後の硬化した膜を無水クロム酸の4%水溶液に90秒間浸漬し、150℃で10分間加熱乾燥した。
【0063】
[実施例・比較例の評価1]
実施例1、2および比較例1の硬化膜をダイプラ・ウィンテス株式会社製SAICAS NN−04−01型機にて切削し、膜の、みなしせん断強度を測定した。測定条件は以下の通りである。
測定モード;低速モード
水平速度;100nm/sec
垂直速度;5μm/sec
切刃;ダイヤモンド切刃 幅0.3mm、スクイ20°、ニゲ10°
【0064】
実施例1、2および比較例1の硬化膜の、みなしせん断強度を(表1)に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1、2では比較例1に対し膜の強度が高いことが確認できた。
【0067】
[実施例・比較例の評価2]
実施例1、2および比較例により形成した硬化膜パターンをレジストとし、塩化第二鉄液をスプレーして42合金のエッチングを行った。その結果、実施例1、2ではL/S=30/30までパターン形成が可能であった。一方、比較例ではL/S=40/40まで配線パターンの形成が可能であり、L/S=30/30ではレジストの折れや剥がれが見られ、配線パターンが形成できていなかった。これは、比較例ではレジストの膜強度が弱くレジストがエッチング液のスプレー圧に耐えられずに折れたためと考えられる。
【0068】
以上のように、本発明の感光性組成物を用いることにより、より微細な配線パターンの形成が可能であることが確認できた。