(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバガラス母材から線引きされた光ファイバを冷却ガスにより強制的に冷却する光ファイバ冷却装置であって、
前記光ファイバが導入される上端、冷却された前記光ファイバが導出される下端、及び前記上端と前記下端との間で前記冷却ガスを供給する通路を有した冷却管部を備え、
前記冷却ガスの供給位置は、前記上端で引き込まれた空気及び前記冷却ガスを含む内部ガスが、下向きの流れを正とした時、前記光ファイバの周囲で下向きに流れる流量をQ
1、該下向きの流量Q
1の周囲で上向きに流れる流量をQ
2とし、前記上端から冷却ガス投入口までの距離Lにおける前記下向きの流量Q
1に含まれる前記空気の体積分率をC
1(L)とし、下記数13を最小とするLをL
idealとしたとき、
前記冷却ガスの供給位置を
、前記L
idealの上下方向に前記冷却管部全長の±10%程度の範囲に設ける、光ファイバ冷却装置。
但し、L=上端から冷却ガスの供給位置までの距離、R
reverse=下向きの流量Q
1から上向きの流量Q
2に流れの向きが変わる境界位置における冷却管部の半径方向の距離、D=空気の拡散係数、length=空気の拡散距離とする。
【数13】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記ヘリウムガスは、アルゴンガスや窒素ガスに比べて非常に高価であるので、少量のヘリウムガスで光ファイバの温度を下げることが望まれる。この場合、光ファイバと冷却ガスとの接触時間を長くするために、冷却ガスを冷却管部の上端付近から供給するのが望ましいと考えられていた。
しかしながら、冷却管部の上端から冷却ガスの供給位置までの距離が短い場合、光ファイバの周りに牽引されている空気が拡散しにくく、冷却ガスが光ファイバの周囲に拡散されにくい。このため、空気の体積濃度(空気の体積分率ともいう)が低くならず、光ファイバの温度を下げ難くなるという問題がある。
【0006】
このように、冷却ガスを冷却管部の上端付近から供給するのが望ましいが、冷却管部の上端からの供給位置までの距離が短いと、光ファイバの温度が却って下がり難くなるので、冷却ガスの最適な供給位置が存在するはずである。
【0007】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、冷却ガスの最適な供給位置を決定できる光ファイバ冷却装置及び光ファイバ製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光ファイバ冷却装置は、光ファイバガラス母材から線引きされた光ファイバを冷却ガスにより強制的に冷却する光ファイバ冷却装置であって、前記光ファイバが導入される上端、冷却された前記光ファイバが導出される下端、及び前記上端と前記下端との間で前記冷却ガスを供給する通路を有した冷却管部を備え、前記冷却ガスの供給位置は、前記上端で引き込まれた空気及び前記冷却ガスを含む内部ガスが、下向きの流れを正とした時、前記光ファイバの周囲で下向きに流れる流量をQ
1、該下向きの流量Q
1の周囲で上向きに流れる流量をQ
2とし、前記上端から冷却ガス投入口までの距離Lにおける前記下向きの流量Q
1に含まれる前記空気の体積分率をC
1(L)とし、下記数13を最小とするLをL
idealとしたとき、
前記冷却ガスの供給位置を
、前記L
idealの上下方向に前記冷却管部全長の±10%程度の範囲に設ける。但し、L=上端から冷却ガスの供給位置までの距離、R
reverse=下向きの流量Q
1から上向きの流量Q
2に流れの向きが変わる境界位置における冷却管部の半径方向の距離、D=空気の拡散係数、length=空気の拡散距離とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却ガスの使用量を減らしつつ光ファイバの温度を最も下げられる冷却ガスの最適な供給位置を決定できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願の光ファイバ冷却装置発明は、(1)光ファイバガラス母材から線引きされた光ファイバを冷却ガスにより強制的に冷却する光ファイバ冷却装置であって、前記光ファイバが導入される上端、冷却された前記光ファイバが導出される下端、及び前記上端と前記下端との間で前記冷却ガスを供給する通路を有した冷却管部を備え、前記冷却ガスの供給位置は、前記上端で引き込まれた空気及び前記冷却ガスを含む内部ガスが、下向きの流れを正とした時、前記光ファイバの周囲で下向きに流れる流量をQ
1、該下向きの流量Q
1の周囲で上向きに流れる流量をQ
2とし、前記上端から冷却ガス投入口までの距離Lにおける前記下向きの流量Q
1に含まれる前記空気の体積分率をC
1(L)とし、下記数13を最小とするLをL
idealとしたとき、
前記冷却ガスの供給位置を
、前記L
idealの上下方向に前記冷却管部全長の±10%程度の範囲に設ける。但し、L=上端から冷却ガスの供給位置までの距離、R
reverse=下向きの流量Q
1から上向きの流量Q
2に流れの向きが変わる境界位置における冷却管部の半径方向の距離、D=空気の拡散係数、length=空気の拡散距離とする。数13による空気の体積分率C
1(L)が最小になれば、冷却ガスの体積分率が最大になるので、光ファイバを最も冷却できる。よって、冷却ガスの使用量を減らしつつ、光ファイバの温度を最も下げられる冷却ガスの最適な供給位置までの距離を決定できる。
【0012】
(2)前記冷却ガスの供給位置が前記冷却管部の上下方向に沿ってN個形成され、各供給位置までの上端からの距離をLi、各供給位置における冷却ガスの供給量をQ(He)iとした場合、仮想的な上端から冷却ガスの供給位置までの距離を、数14とし、
前記冷却ガスの供給位置Laveを、前
記Lidealの上下方向に前記冷却管部全長の±10%程度の範囲に設ける。冷却ガスの最適な供給位置までの距離を数14で決定すれば、冷却ガスの最適な供給位置までの距離を効率よく決定できる。
(3)上記の光ファイバ冷却装置を用いた光ファイバ製造方法である。上記光ファイバ冷却装置を用いることにより、冷却ガスの使用量を減らしつつ光ファイバの温度を最も下げることができる。
【0013】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る光ファイバ冷却装置及び該冷却装置を用いた光ファイバ製造方法の具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
図1は、本発明が適用される光ファイバ冷却装置を含む製造装置の概略構成例を示す図である。光ファイバ製造装置は、光ファイバ用線引炉(以下、単に線引炉という)10、光ファイバ冷却装置(以下、単に冷却装置という)20、樹脂塗布装置40、樹脂硬化装置50、ガイドローラ60、及び巻き取り装置70を備える。
【0014】
光ファイバ12は、光ファイバガラス母材(以下、単にガラス母材という)11を線引炉10で加熱溶融し、線引炉10の下方から線引きされている。ガラス母材11から線引きされた光ファイバ12は、冷却装置20で強制冷却された後、樹脂塗布装置40で紫外線硬化樹脂が塗布され、樹脂硬化装置50でこの樹脂を硬化させる。続いて、樹脂塗布後の光ファイバ13は、ガイドローラ60を経て巻き取り装置70により巻き取られる。
【0015】
本発明の主たる目的は、光ファイバを冷却ガスで冷却する場合、冷却ガスの供給位置までの距離Lにおける空気の体積分率C
1(L)を所定の拡散方程式(数12)から求め(数13)、C
1(L)が最小となる、冷却ガスの最適な供給位置までの距離L
idealを決定することにある。このための構成として、冷却装置20は、冷却ガスGの供給通路が形成された冷却管部21を有している。
【0016】
なお、上記数13の空気の体積分率C
1(L)に示された半径R
reverseは、下向きの流れを正とした時、冷却管部21の長手方向の距離z=Lの位置において、下向きの流量Q
1から上向きの流量Q
2に流れの向きが変わる境界位置までの冷却管部の半径方向の距離であり、冷却管部21内の流速分布Vzの式(数8)から求められる。また、空気の体積分率C
1(L) に示された下向き、上向きに流れる内部ガスの体積流量Q
1、Q
2は、半径R
reverseに関する体積流量Q
1、Q
2の式(数10、数11)から求められる。
【0017】
図2は、冷却管部の構成例を示す図である。冷却管部21は、その長手方向を上下に向けて配置されており、光ファイバ12が導入される開口を有した上端22と、冷却された光ファイバ12が導出される開口を有した下端23とを備えている。また、冷却管部21の途中には、例えばヘリウムガスなどの冷却ガスを供給する冷却ガス供給路24が形成され、冷却ガスを冷却管部21内に供給できる。
【0018】
これにより、線引き直後の光ファイバ12は、上端22の開口から導入され、この上端22の開口で引き込まれた空気と共に下方に移動する。冷却ガス供給路24から供給された冷却ガスは冷却管部21内を上向きや下向きに流れて光ファイバ12を冷却する。そして、冷却された光ファイバ12は冷却ガスや空気と共に下端23の開口から導出される。
【0019】
この
図2において、冷却管部21内に供給される冷却ガスの流量をQ(He)、冷却ガスの供給位置よりも上方での内部ガスの流量をQ(UP)、冷却ガスの供給位置よりも下方での内部ガスの流量をQ(DOWN) とすれば、内部ガスは上端22の開口からの空気及び冷却ガス供給路24から供給された冷却ガスが、下端22から排出されるので、下向きの流れを正とすると、質量保存則から数1が成立する。
【数1】
【0020】
また、冷却管部21の中心からの半径方向の距離をr、冷却管部21の長手方向の距離をz、冷却管部21内の冷却ガスの粘性係数をμ、冷却管部21内の圧力をPとし、円管内を流れる定常な層流(ハーゲン・ポアズイユ流れともいう)と仮定すると、冷却管部21の内部ガスの速度分布Vzは数1で示される。なお、冷却ガスの粘性係数μは、ガス温度が230[K]以上1000[K]以下のときの粘性係数であり、ヘリウムガスの場合、μ=1.9×10
-5[Pa・s]となる。
【数2】
【0021】
数2において、光ファイバの半径をr
1とし、この半径r
1における速度分布、つまり、光ファイバの線引速度をV
1とすると、r=r
1のときVz=V
1となる。また、冷却管部21の内径をr
2(>r
1)とすると、r=r
2のときVz=0となり、数2のAは数3で示され、数2のBは数4で示される。なお、r
2は0.5[mm]以上5[mm]以下であることが望ましい。
【数3】
【数4】
【0022】
冷却管部21の全流量をQ(Q(UP)またはQ(DOWN))とすると、全流量Qは数5で示すことができる。そして、下向きの流れを正とし、数5の右辺のVzに数2を、この数2のA,Bに数3,数4を代入し、dP/dzを求めると、圧力損失の理論式は数6で示される。
【数5】
【数6】
【0023】
図2に示すように、冷却管部21の上端22から冷却ガスGの冷却ガス供給路24までの距離をL、冷却ガス供給路24から冷却管部21の下端23までの距離をL’とし、冷却管部21の半径をr
2とすると、上端22に対するゲージ圧ρ
air(L+L’)gは、数1、数6から数7で示される。
【数7】
【0024】
そして、冷却ガスの流量Q(He)が分かれば、数1、数7の連立方程式から、冷却ガス供給路24よりも上方での内部ガスの流量Q(UP)、冷却ガス供給路24よりも下方での内部ガスの流量Q(DOWN)を求めることができる。なお、冷却ガスの流量Q(He)は3.33×10
-4[m
3/s](=20[L/min])以下であることが望ましい。
【0025】
図3は、冷却管部内の速度分布の一例を示す図である。例えば半径αの冷却管部21を用い、下向きに線引きした場合、上記数6のQをQ(UP)として求めたdP/dzを数2に代入すると、内部ガスの速度分布Vzを求めることができる。
図3に示すように、光ファイバの周辺、つまり、冷却管部21の中心付近ではVzが正になり、下向きに流れているが、冷却管部21の中心から離れるに連れて下向きの流れが弱まり、やがてVzが負になって上向きに流れる(逆流ともいう)ことが分かる。
この逆流が生じている冷却管部21の中心からの距離をR
reverseとすると、R
reverseは、上記数2のVz=0とした数8で示すことができる。
【数8】
【0026】
なお、この数8のdP/dzは数9に示すように、上記数6のQをQ(UP)に置換して求めたものである。また、下向きの流れを正とした時、上記のように内部ガスの下向きの流量をQ
1、上向きの流量をQ
2とおけば、逆流が生じ始める距離R
reverseを用いて、下向きの流量Q
1は数10で、上向きの流量Q
2は数11で定義できる。
【数9】
【数10】
【数11】
【0027】
図4は、冷却管部内の流量を説明するための図であり、下向きの流れを正とした時、内部ガスの下向きの流量Q
1に含まれる空気の体積分率をc
1、上向きの流量Q
2に含まれる空気の体積分率をc
2とし、拡散方程式から空気の体積分率c
1,c
2を規定する。
c
1,c
2は数12に示した拡散方程式を解くことにより求められる。数12は質量流束の式(フィックの拡散の第1法則ともいう)といい、単位面積当たりを通過する質量流束m
A[kg/s・m
2]は、質量濃度c
A[kg/m
3]と長さn[m]との濃度勾配に比例したものとして表すことができる。そして、空気の拡散係数をD、空気の拡散距離をlengthとして、数12を境界条件に基づいて解く。
【数12】
【0028】
ここで、境界条件を考えると、強制冷却装置上端のときには冷却ガスが0[%]、空気が100[%]と考えられるので、c
1(0)=1となる。一方、上端からの距離がLのときには、流入された冷却ガスは上下に分岐されるものの、Lの位置では上下の流れがないため、冷却ガスが100%と考えられ、c
2(L)=0とできる。この境界条件に基づいて拡散方程式を解き、冷却ガス供給口位置Lでのc
1を求めると、c
1(L)=C
1(L)であり、 C
1(L)は数13で示される。なお、拡散係数Dは、ガス温度が230[K]以上1000[K]以下のときの拡散係数である。また、拡散距離lengthは上記r
2以下でありr
2/2程度の値となる。
【数13】
【0029】
上端からの距離Lにおいて、上記数13による空気の体積分率C
1(L)が最小になれば、冷却ガスの体積分率が最大になるので、光ファイバを最も冷却可能になる。よって、冷却ガスの最適な供給位置までの距離L
idealは、数13を用いて決定できる。そして、この光ファイバ冷却装置を用いることにより、冷却ガスの使用量を減らしつつ光ファイバの温度を最も下げることができる。
【0030】
図5は、冷却ガスの供給位置と、冷却管部出口におけるファイバ温度や空気の体積分率との関係を説明するための図である。この例では上端から下端まで同一径の冷却管部を用い、光ファイバ温度は流体解析ソフトのシミュレーション結果から求めている。
まず、所定量βのヘリウムガスを、その供給位置を変更して冷却管部に供給したところ、光ファイバ温度は
図5に●印で示すような曲線を描いたのに対し、上記数13による空気の体積分率C
1(L)は○印で示すような曲線を描いた。●印及び○印のいずれの曲線も上端からの距離3a〜4aの間で最小になっていることがわかる。
【0031】
次に、所定量βの例えば7割程度のヘリウムガスを、その供給位置を変更して冷却管部に供給したところ、光ファイバ温度は
図5に■印で示すような曲線を描き、上記数13による空気の体積分率C
1(L)は□印で示すような曲線を描いた。■印及び□印のいずれの曲線も上端からの距離2a付近で最小になっている。
続いて、所定量βの例えば5.5割程度のヘリウムガスを、その供給位置を変更して冷却管部に供給してみると、光ファイバ温度は
図5に◆印で示すような曲線を描き、上記数13による空気の体積分率C
1(L)は◇印で示すような曲線を描いた。◆印及び◇印のいずれの曲線も上端からの距離0〜aの間で最小になっている。
【0032】
このように、光ファイバ温度と空気の体積分率が最小となる個所近傍で冷却ガスを供給すると、光ファイバ温度は最低になっており、空気の体積分率C
1(L)が最小となる冷却ガスの最適な供給位置までの距離L
idealを決定すれば、この距離L
idealの位置で冷却ガスを供給することで光ファイバの温度を最も下げられることが分かる。
なお、冷却ガスの供給位置は、上記空気の体積分率C
1(L)を最小にする供給位置までの距離L
idealの一点には限定されず、その近傍(例えば上下方向に冷却管部全長の±10%程度)であってもよい。冷却ガスの供給位置を経験上求められる範囲内に決定すれば、光ファイバを効率よく冷却可能になる。また、上記の例では同一径の冷却管部を用いたが、下方に従って半径が小さくなる冷却管部を用いても上記と同様の結果を得られた。
【0033】
図6は、本発明の第2実施形態を説明するための図である。上記の例では、冷却ガスの供給位置が冷却管部21の上下方向に沿って1箇所の場合を例に挙げて説明したが、供給位置は冷却管部の上下方向に沿って複数形成することも可能である。仮想的な流入位置の重心位置として、
【数14】
とし、L
aveがC
1(L) を最小とするL
idealの近傍となるようにすればよい。
【0034】
上式のように、冷却ガスの供給位置までの距離L
aveを冷却ガスの供給位置L
i及び供給量Q(He)
iで決定すれば、距離L
aveを効率よく決定できる。なお、単に重心位置で決定する他、冷却ガスの供給位置L
i、冷却ガスの供給量Q(He)
i、内径r
2に応じた所定の係数を乗じて決定することも可能である。