(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルと、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルと、を算出する特徴量ベクトル算出部を備える、指紋画像処理装置。
前記第1及び第2特徴量ベクトルから生成される前記検索対象の指紋画像に対応する検索側特徴量ベクトルと、照合対象の指紋画像に対応する特徴量ベクトルであって前記第1及び第2特徴量ベクトルの要素と同種の要素からなる照合側特徴量ベクトルと、を比較することで、複数の前記照合対象の指紋画像のなかから、前記検索対象の指紋画像に対する照合対象候補を抽出する照合対象候補抽出部をさらに備える、請求項1の指紋画像処理装置。
前記特徴量ベクトル算出部は、前記基準点と前記特徴点を結ぶ第1基準線と前記特徴点方向の直線がなす角度を定量化して前記第1特徴量を算出する、請求項1又は2の指紋画像処理装置。
前記特徴量ベクトル算出部は、前記第1基準線と直交する第2基準線と前記特徴点方向の直線がなす角度を定量化して前記第2特徴量を算出する、請求項3の指紋画像処理装置。
前記第1特徴量ベクトル算出部は、前記第1特徴量画像をなす複数の画素から、格子状に規定されたサンプリング位置の画素を選択し、前記サンプリング位置の画素から前記第1特徴量を取得し、
前記第2特徴量ベクトル算出部は、前記第2特徴量画像をなす複数の画素から、前記サンプリング位置の画素を選択し、前記サンプリング位置の画素から前記第2特徴量を取得する、請求項5又は6の指紋画像処理装置。
前記照合対象候補抽出部は、前記検索側特徴量ベクトルと前記照合側特徴量ベクトルそれぞれに対応する要素の差分値を算出し、前記算出された差分値の合計値と閾値を比較することで前記検索対象の指紋画像に対する照合対象候補を抽出する、請求項2に記載の指紋画像処理装置。
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルを算出する工程と、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルを算出する工程と、
を含む指紋画像処理方法。
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルを算出する処理と、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルを算出する処理と、
を指紋画像処理装置を制御するコンピュータに実行させるプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
初めに、
図1を用いて一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。
【0019】
上述のように、精度良く照合対象となる指紋画像を抽出可能とする指紋画像処理装置が望まれる。
【0020】
そこで、一例として
図1に示す指紋画像処理装置100を提供する。指紋画像処理装置100は、特徴量ベクトル算出部101を備える。特徴量ベクトル算出部101は、検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルと、特徴点方向に関する特徴量であって基準点に対する特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルと、を算出する。
【0021】
指紋画像処理装置100が、算出する特徴量ベクトルは、指紋画像内に分散している複数の特徴点における特徴点方向を定量化したものである。そのため、データベースに記憶された多数の指紋画像から算出された特徴量ベクトル(照合対象側の特徴量ベクトル)と、データベースに記憶された指紋画像から同一人物の指紋画像の検索がなされる指紋画像(検索対象の指紋画像)から算出された特徴量ベクトル(検索対象側の特徴量ベクトル)と、を比較することで、精度良く照合対象となる指紋画像を抽出することができる。その理由は、検索対象側の特徴量ベクトルと照合対象側の特徴量ベクトルの算出時に、同じ座標位置の特徴点を選択することで、指紋画像内の特徴点の分布を考慮した2つの特徴量ベクトルが得られるためである。例えば、2つの特徴量ベクトルの類似度を算出し、算出された類似度に対して閾値処理を施すことで、照合対象の指紋画像(データベースに記憶された指紋画像)が、照合対象候補たり得るか判断することができる。
【0022】
また、特徴点自身が示す指紋画像の特徴は単なる位置情報であるが、指紋画像処理装置100は、特徴点から特徴点方向という別の特徴量を算出し、その後の処理にて照合対象候補の抽出に利用可能とする。仮に、検索側と照合側の指紋画像にて同じ位置に特徴点が存在していたとしても、その特徴点方向に関する特徴量(基準点に対する回転方向及び向き)まで一致することは希であるから、指紋画像処理装置100が算出する特徴量ベクトルを使用すれば、このような指紋画像に関してもより正確に一致・不一致が判定できる。即ち、指紋画像処理装置100は、精度良く照合対象となる指画像を抽出可能とする。
【0023】
なお、本書において特徴点の特徴点方向とは、特徴点から隆線が発生する方向又は特徴点にて分岐する隆線の進行する方向と定義される。
【0024】
以下に具体的な実施の形態について、図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0025】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図面を用いてより詳細に説明する。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係る照合対象抽出システムの全体構成の一例を示す図である。
図2を参照すると、照合対象抽出システムには、指紋撮影装置10と、データベース20と、照合対象抽出装置30と、が含まれている。なお、上述の指紋画像処理装置100の機能は、照合対象抽出装置30に包含されている。
【0027】
指紋撮影装置10と照合対象抽出装置30はUSB(Universal Serial Bus)等の通信手段により接続されている。また、データベース20と照合対象抽出装置30はネットワークを介して相互に通信可能に構成されている。
【0028】
指紋撮影装置10は、人の指紋を撮影し、指紋画像を取得する手段である。指紋撮影装置10は、所謂スキャナであり、指紋を撮影してカラー、グレースケール又はモノクロの指紋画像を照合対象抽出装置30に出力する。以降、指紋撮影装置10が出力する指紋画像を入力指紋画像と表記する。
【0029】
データベース20は、入力指紋画像の照合対象となる複数の指紋画像を記憶する手段である。データベース20は、照合対象抽出装置30からの要求に応じて、指紋画像を出力する。以降、データベース20が出力する指紋画像をデータベース指紋画像と表記する。
【0030】
照合対象抽出装置30は、入力指紋画像の入力に応じて、データベース20に記憶された複数のデータベース指紋画像のなかから、入力指紋画像と一致すると考えられる指紋画像を選び出し、照合対象候補として出力する手段である。
【0031】
照合対象候補は、照合対象抽出装置30に接続された照合装置(図示せず)にて利用される。照合装置は、複数の照合対象候補のなかから、入力指紋画像に一致する確率が最も高いと考えられる指紋画像(データベース指紋画像)を特定する装置である。
【0032】
図3は、照合対象抽出装置30の内部構成の一例を示す図である。
図3を参照すると、照合対象抽出装置30は、通信部201と、入力部202と、表示部203と、出力部204と、記憶部205と、照合対象決定部206と、を含んで構成される。
【0033】
通信部201は、データベース20との間で通信を行い、データベース指紋画像を取得する手段である。
【0034】
入力部202は、指紋撮影装置10のドライバを含んで構成され、入力指紋画像を取得する手段である。
【0035】
表示部203は、照合対象抽出装置30の動作状態をオペレータに通知するための手段である。
【0036】
出力部204は、照合対象決定部206が出力する照合対象候補を外部に出力するための手段である。
【0037】
記憶部205は、照合対象抽出装置30の動作に必要なプログラムやデータ等を記憶する手段である。
【0038】
照合対象決定部206は、入力指紋画像に対応する検索側特徴量ベクトル(以下、特徴量ベクトルViと表記する)と、データベース指紋画像に対応する照合側特徴量ベクトル(以下、特徴量ベクトルVdと表記する)と、を算出し、これらの特徴量ベクトルを比較することで、照合対象候補たり得るデータベース指紋画像を抽出(選抜)する手段である。照合対象決定部206は、照合対象候補となり得ると判断したデータベース指紋画像を照合対象候補として出力部204に引き渡す。なお、2つの指紋画像に対応する特徴量ベクトルVi、Vdは後述する。
【0039】
また、
図3に示す照合対象抽出装置30の構成は例示であって、種々の変形が考えられる。例えば、出力部204を削除し、表示部203にて照合対象候補を表示してもよい。あるいは、通信部201を用いて、照合対象抽出装置30とネットワーク接続された端末(例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォン等)に照合対象候補を出力してもよい。
【0040】
次に、照合対象決定部206について説明する。
【0041】
図4は、照合対象決定部206の内部構成の一例を示す図である。
図4を参照すると、照合対象決定部206は、特徴量ベクトル算出部301と、照合対象候補抽出部302と、を含んで構成される。
【0042】
さらに、特徴量ベクトル算出部301は、特徴点抽出部401と、第1特徴量画像生成部402と、第2特徴量画像生成部403と、第1特徴量画像平滑部404と、第2特徴量画像平滑部405と、第1特徴量ベクトル算出部406と、第2特徴量ベクトル算出部407と、特徴量ベクトル生成部408と、を含んで構成される。
【0043】
<特徴点の抽出>
特徴点抽出部401は、照合対象抽出装置30に入力される指紋画像(データベース指紋画像、入力指紋画像)に含まれる特徴点を抽出する手段である。
【0044】
特徴点抽出部401は、2種類の特徴点を指紋画像から抽出する。
図5は、特徴点抽出部401が抽出する特徴点を説明するための図である。
【0045】
特徴点抽出部401が対象とする第1の特徴点は、隆線の終点(端点)である。
図5(a)には、2本の隆線501、502に挟まれた第1特徴点P1が図示されている。特徴点抽出部401は、
図5(a)に示す第1特徴点P1のような隆線の端点を、入力された指紋画像の第1特徴点として抽出する。具体的には、特徴点抽出部401は、指紋画像の全体を走査しながら第1特徴点を抽出していく。
【0046】
特徴点抽出部401が対象とする第2の特徴点は、隆線の分岐点である。
図5(b)には、隆線511が2本の隆線512、513に分岐する第2特徴点P2が図示されている。特徴点抽出部401は、
図5(b)に示す第2特徴点P2のような隆線の分岐点を、入力された指紋画像の第2特徴点として抽出する。
【0047】
次に、特徴点抽出部401は、抽出した各特徴点の特徴点方向を算出する。第1特徴点に関しては、
図5(a)に示すように、第1特徴点P1から隆線503が発生する方向(矢印504の方向)が、第1特徴点の特徴点方向と定義される。
【0048】
第2特徴点に関しては、
図5(b)に示すように、隆線511が第2特徴点P2にて2本の隆線512、513に分岐している場合、第2特徴点P2から2本の隆線の間(ベクトルの中間)を進行する方向(矢印514の方向)が、第2特徴点の特徴点方向と定義される。
【0049】
なお、抽出された第1特徴点、第2特徴点に関する位置情報(座標)は、指紋画像内でのピクセル位置の形式で記憶される。また、各特徴点を原点に設定したXY座標系におけるX軸と特徴点方向線との間の角度が、各特徴点の特徴点方向として記憶される。
【0050】
図6は、指紋画像から第1及び第2特徴点を抽出し、抽出した各特徴点の特徴点方向の一例を示す図である。
図6において、丸印は上述の第1特徴点(端点)を示し、四角形は第2特徴点(分岐点)を示す。また、各特徴点から発生している直線は、各特徴点の特徴点方向を示す特徴点方向線である。
【0051】
なお、第1の実施形態では、特徴点抽出部401は2種類の特徴点を抽出するものとして説明するが、抽出する特徴点の種類を限定する趣旨ではない。特徴点抽出部401は、第1特徴点(端点)及び第2特徴点(分岐点)のうち少なくとも一方を抽出してもよい。
【0052】
<第1特徴量画像の生成>
第1特徴量画像生成部402は、特徴点抽出部401により抽出された各特徴点と、各特徴点の特徴点方向と、に基づき第1特徴量画像を生成する。
【0053】
第1特徴量画像とは、指紋画像をなす画素の画素値を第1特徴量とする画像である。第1特徴量とは、各特徴点と指紋画像の中心点(基準点、あるいは指紋画像のコアとも称される)を結ぶ第1基準線に対する各特徴点の特徴点方向が指向する方向(右向き、左向き)を定量化した特徴量である。あるいは、第1特徴量は、指紋画像の中心点に対する特徴点方向の回転方向(時計回り、反時計回り)を定量化した特徴量ともいえる。
【0054】
図7は、第1特徴量を説明するための図である。
図7には、指紋画像の中心点(コア)と第1特徴点P1を図示している。
【0055】
第1特徴量画像生成部402は、指紋画像の中心点と特徴点を結ぶ直線を第1基準線として計算する。
【0056】
次に、第1特徴量画像生成部402は、第1基準線と特徴点方向線のなす角度θを計算する。具体的には、第1特徴量画像生成部402は、XY座標軸の原点を第1特徴点P1に設定し、X軸と第1基準線とがなす角度α1を計算する(
図7(a)参照)。次に、第1特徴量画像生成部402は、第1特徴点P1の抽出の際に記憶された特徴点方向線の角度α2を読み出す。次に、第1特徴量画像生成部402は、角度α1から角度α2を減算し、角度θを計算する。なお、角度α1、α2はXY座標系の第1、第2象限にあるときは正の値とし、第3、第4象限にあるときは負の値とする。
【0057】
計算した結果、角度θが正の値であれば、各特徴点の特徴点方向は第1基準線に対して右向き(中心点に対して時計回り)と判定される。一方、計算した結果、角度θが負の値であれば、各特徴点の特徴点方向は第1基準線に対して左向き(中心点に対して反時計回り)と判定される。
【0058】
算出された角度θから特徴点方向は、中心点に対して時計回り(右回り)であると判定される場合には、第1特徴量画像生成部402は、当該特徴点の特徴点方向に対し、128〜255(16進表示;80〜FF)の範囲の第1特徴量を割り当てる。
【0059】
より具体的には、
図7(b)に示すように、角度θ1が0度の場合(第1基準線と特徴点方向が同じ向きの場合)には、第1特徴量には128が与えられる。角度θ1の増加に伴い第1特徴量も増加し、角度θ1が90度の場合に第1特徴量の最大値である255が与えられる。さらに、角度θ1が90度を越えて増加すると、第1特徴量は減少していき、角度θ1が180度の場合(第1基準線と特徴点方向が逆向きの場合)には、第1特徴量には128が与えられる。
【0060】
このように、第1特徴量画像生成部402は、特徴点の特徴点方向線が第1基準線に対して右向きの場合には、特徴点方向に対して128〜255の範囲の第1特徴量を与える。
【0061】
一方、算出された角度θから特徴点方向は、中心点に対して反時計回り(左回り)であると判定される場合には、第1特徴量画像生成部402は、当該特徴点の特徴点方向に対し、0〜128(16進表示;00〜80)の範囲の第1特徴量を割り当てる。
【0062】
より具体的には、
図7(c)に示すように、角度θ2が0度の場合(第1基準線と特徴点方向が同じ向きの場合)には、第1特徴量には128が与えられる。角度θ2の増加に伴い第1特徴量は減少し、角度θ2が90度の場合に第1特徴量の最小値である0が与えられる。さらに、角度θ2が90度を超えて増加すると、第1特徴量は増加していき、角度θ2が180度の場合(第1基準点と特徴点方向が逆向きの場合)には、第1特徴量には128が与えられる。
【0063】
このように、第1特徴量画像生成部402は、特徴点の特徴点方向線が第1基準線に対して左向きの場合には、特徴点方向に対して0〜128の範囲の第1特徴量を与える。
【0064】
なお、第1基準線と特徴点方向線が同じ向き(あるいは、逆向き)の場合には、角度θ1を用いて説明した処理又は角度θ2を用いて説明した処理のいずれかを行えば良いのは当然である。
【0065】
第1特徴量画像生成部402は、特徴点抽出部401にて抽出された特徴点ごとに上記の第1特徴量算出処理を行う。
【0066】
次に、第1特徴量画像生成部402は、算出した第1特徴量に基づいて第1特徴量画像を生成する。
【0067】
具体的には、第1特徴量画像生成部402は、特徴点のそれぞれをXY座標系における原点とみなし、原点(特徴点)からの所定範囲に含まれる画素の画素値を第1特徴量に変更する。なお、原点からの所定範囲とは、原点からX方向に数ピクセル、Y方向に数ピクセル等のように予め定められる範囲である。また、各特徴点の周囲(所定範囲)が重なる領域は、重なる領域ごとの第1特徴量の平均値とする。例えば、重複する2つの領域に対応する第1特徴量のそれぞれが0と255であれば当該重複する領域の第1特徴量は127となる。第1特徴量画像生成部402は、特徴点の周辺にはない画素には画素値(第1特徴量)として128を割り当てる。
【0068】
このようにして、第1特徴量画像生成部402は、第1特徴量画像を生成する。
図8は、
図6に示す各特徴点に対応する第1特徴量画像の一例である。
図8では、第1特徴量が視覚的となるように、第1特徴量を濃度に対応させて表現している。具体的には、第1特徴量の最小値0には黒色、中間値128には灰色、最大値255には白色をそれぞれ割り当てている。
【0069】
<第2特徴量画像の生成>
第2特徴量画像生成部403は、特徴点抽出部401により抽出された各特徴点と、各特徴点の特徴点方向と、に基づき第2特徴量画像を生成する。
【0070】
第2特徴量画像とは、指紋画像をなす画素の画素値を第2特徴量とする画像である。第2特徴量とは、特徴点方向線の中心点に対する方向性を定量化した特徴量である。
【0071】
図9は、第2特徴量を説明するための図である。第2特徴量画像生成部403は、指紋画像の中心点と特徴点を結ぶ直線を第1基準線として計算する。さらに、第2特徴量画像生成部403は、特徴点を交点として第1基準線に直交する第2基準線を計算する。
【0072】
次に、第2特徴量画像生成部403は、第2基準線と特徴点方向線のなす角度Φを計算する。具体的には、第2特徴量画像生成部403は、XY座標軸の原点を第1特徴点P1に設定し、Y軸と第2基準線とがなす角度β1を計算する(
図9(a)参照)。次に、第2特徴量画像生成部403は、第1特徴点P1の抽出の際に記憶された特徴点方向線の角度α2を読み出し、特徴点方向線がY軸との間でなす角度β2を計算する。次に、第2特徴量画像生成部403は、角度β1から角度β2を減算し、角度Φを計算する。なお、角度β1、β2はXY座標系の第2、第3象限にあるときは正の値とし、第1、第4象限にあるときは負の値とする。
【0073】
計算した角度Φが正の値であれば、各特徴点の特徴点方向は中心点から離れる方向(離脱方向)と判定される。一方、計算した角度Φが負の値であれば、各特徴点の特徴点方向は中心点に近づく方向(接近方向)と判定される。
【0074】
算出された角度Φから特徴点方向は、中心点から離れる方向であると判定される場合には、第2特徴量画像生成部403は、当該特徴点の特徴点方向に対し、0〜128の範囲の第2特徴量を割り当てる。
【0075】
より具体的には、
図9(b)に示すように、角度Φ1が0度の場合(第2基準線と特徴点方向が同じ向きの場合)には、第2特徴量には128が与えられる。角度Φ1の増加に伴い第2特徴量は減少し、角度Φ1が90度の場合に第2特徴量の最小値である0が与えられる。さらに、角度Φ1が90度を越えて増加すると、第2特徴量は増加していき、角度Φ1が180度の場合(第2基準線と特徴点方向が逆向きの場合)には、第2特徴量には128が与えられる。
【0076】
このように、第2特徴量画像生成部403は、特徴点の特徴点方向線が中心点から離れる方向の場合には、特徴点方向に対して0〜128の範囲の第2特徴量を与える。
【0077】
一方、算出された角度Φから特徴点方向は、中心点に近づく方向であると判定される場合には、第2特徴量画像生成部403は、当該特徴点の特徴点方向に対し、128〜255の範囲の第2特徴量を割り当てる。
【0078】
より具体的には、
図9(c)に示すように、角度Φ2が0度の場合(第2基準線と特徴点方向が同じ向きの場合)には、第2特徴量には128が与えられる。角度Φ2の増加に伴い第2特徴量も増加し、角度Φ2が90度の場合に第2特徴量の最大値である255が与えられる。さらに、角度Φ2が90度を超えて増加すると、第2特徴量は減少していき、角度Φ2が180度の場合(第2基準線と特徴点方向が逆向きの場合)には、第2特徴量には128が与えられる。
【0079】
このように、第2特徴量画像生成部403は、特徴点の特徴点方向線が中心点に近づく方向の場合には、特徴点方向に対して128〜255の範囲の第2特徴量を与える。
【0080】
第2特徴量画像生成部403は、特徴点抽出部401にて抽出された特徴点ごとに上記の第2特徴量算出処理を行う。
【0081】
次に、第2特徴量画像生成部403は、算出した第2特徴量に基づいて第2特徴量画像を生成する。なお、第2特徴量画像は、その算出に使用する特徴量が第2特徴量である点を除いて、第1特徴量画像と相違する点は存在しないので、その説明を省略する。
【0082】
図10は、
図6に示す各特徴点に対応する第2特徴量画像の一例である。
図10を参照すると、下側の領域には特徴点方向が中心点から遠ざかる方向の特徴点が多いため、黒色に近い色の領域が多いことが分かる。一方、上側の領域での特徴点方向は、中心点から遠ざかる方向でも近づく方向でもないことから、灰色に近い色の領域が多いことが分かる。
【0083】
なお、第1及び第2特徴量画像の生成の際に用いる指紋画像の中心点の算出には種々の方法が考えられる。例えば、指紋画像に含まれる隆線の山が最も高い箇所を指紋画像の中心点として算出することができる。但し、中心点の算出を限定する趣旨ではない。
【0084】
<平滑化処理>
詳細については後述するが、第1及び第2特徴量画像は、データベース指紋画像と入力指紋画像の特徴量ベクトルの算出に使用され、2つの特徴量ベクトルを比較することでデータベース指紋画像が入力指紋画像の照合対象候補となり得るか判定される。その際、データベース指紋画像と入力指紋画像は、指紋撮影装置や方法等の諸条件が異なるのが通常であるから、同一の人物の指紋画像であっても多少の相違点が存在することが多い。例えば、指紋撮影時の指の傾き等により、同じ人物の指紋画像であっても各特徴点の位置には微妙な相違が生じることがある。このような誤差等を吸収するために、第1及び第2特徴量画像の平滑化を行う。以下、第1及び第2特徴量画像の平滑化処理について説明する。
【0085】
第1特徴量画像平滑部404は、第1特徴量画像生成部402が生成した第1特徴量画像を平滑化する処理を行う。
【0086】
具体的には、第1特徴量画像平滑部404は、第1特徴量画像の各画素位置を基準とし、当該基準画素とその周辺画素が有する第1特徴量の平均値を算出し、当該基準画素の第1特徴量とする。なお、第1特徴量画像の平滑化に用いる範囲を平滑化範囲とする。
【0087】
図11は、第1特徴量画像平滑部404の処理を説明するための図である。
図11において、黒丸、白丸及び灰色の丸は第1特徴量画像を構成する画素を意味している。また、
図11において、各画素から1ピクセル分の範囲が平滑化範囲に設定されているものとする。
【0088】
この場合、例えば、画素520の第1特徴量を算出する場合には、画素520の第1特徴量と、その周辺の画素521〜528それぞれの第1特徴量と、を加算し、加算した画素の個数(
図11の場合には9個)で除算することで、画素520の第1特徴量とする。第1特徴量画像平滑部404は、このような平滑化処理(平均値算出処理)を、第1特徴量画像を構成する各画素に適用することで、第1特徴量の平滑化を行う。
【0089】
図12は、
図8に示す第1特徴量画像を平滑化することで得られる画像の一例である。なお、平滑化範囲は予め固定された範囲であってもよく、可変な範囲であってもよい。例えば、第1特徴量画像の場所に応じて、平滑化範囲を変更してもよい。具体的には、中心点の周辺では平滑化範囲を細かくし、中心点から離れるに従って平滑化範囲を粗くしてもよい。
【0090】
第2特徴量画像平滑部405は、第2特徴量画像を平滑化する。
図13は、
図10に示す第2特徴量画像を平滑化することで得られる画像の一例である。第2特徴量画像平滑部405が行う処理は、第1特徴量画像平滑部404が行う処理と相違する点はないので説明を省略する。
【0091】
<特徴量ベクトルの算出>
第1特徴量ベクトル算出部406は、平滑化された第1特徴量画像から第1特徴量ベクトルを算出する。
【0092】
第1特徴量ベクトル算出部406は、平滑化された第1特徴量画像から複数の画素を抽出し、抽出された各画素の第1特徴量を並べたベクトルを第1特徴量ベクトルとして算出する。具体的には、第1特徴量ベクトル算出部406は、平滑化された第1特徴量画像上に格子状(マトリクス状)のサンプリング座標を設定する。第1特徴量ベクトル算出部406は、各サンプリング座標に対応する画素の第1特徴量を並べることで、第1特徴量ベクトルを算出する。
【0093】
例えば、
図14に示すように、第1特徴量画像上に、m行n列(n、mは共に正の整数。以下同じ)の行列となるような格子状のサンプリング座標が設定される。第1特徴量ベクトル算出部406は、各サンプリング座標の第1特徴量を読み出すことで、式(1)にて表現できる第1特徴量ベクトルv1を算出する。
v1=(FV1_11、FV1_12、・・・、FV1_n1、・・・FV1_nm)・・・(1)
なお、FV1は第1特徴量(FV1;Feature Value 1)を示し、アンダーバーに続く数字にてサンプリング座標を示している。例えば、FV1_11は
図14のサンプリング座標(1、1)の第1特徴量を示す。
【0094】
第2特徴量ベクトル算出部407も同様に、平滑化された第2特徴量画像に格子状のサンプリング座標を設定(
図15参照)し、サンプリング座標に対応する第2特徴量を並べることで、第2特徴量ベクトルを算出する。なお、第2特徴量ベクトル算出部407が行う処理は、第1特徴量ベクトル算出部406が行う処理とその内容が相違する点はないので説明を省略する。
【0095】
第2特徴量ベクトル算出部407は、第1特徴量ベクトル算出部406と同様の処理を行うことで、式(2)にて表現できる第2特徴量ベクトルv2を算出する。
v2=(FV2_11、FV2_12、・・・、FV2_n1、・・・FV2_nm)・・・(2)
なお、FV2は第2特徴量を示し、アンダーバーに続く数字にてサンプリング座標を示している。
【0096】
特徴量ベクトル生成部408は、第1特徴量ベクトルv1と第2特徴量ベクトルv2を合成することで、入力された指紋画像に対応する特徴量ベクトルVを出力する。具体的には、特徴量ベクトル生成部408は、式(1)にて示される第1特徴量ベクトルv1に式(2)で示される第2特徴量ベクトルv2を付加することで、式(3)にて表現できる特徴量ベクトルVを算出する。
V=(FV1_11、・・・、FV1_nm、FV2_11、・・・、FV2_nm)・・・(3)
【0097】
特徴量ベクトル生成部408は、合成した第1及び第2特徴量ベクトルを照合対象候補抽出部302に出力する。
【0098】
特徴量ベクトル算出部301は、入力される指紋画像(データベース指紋画像、入力指紋画像)ごとに特徴量ベクトルVd、Viを算出し、照合対象候補抽出部302に出力する。従って、特徴量ベクトルVdと特徴量ベクトルViは互いに同種の要素からなる特徴量ベクトルといえる。
【0099】
<照合対象候補の決定>
照合対象候補抽出部302は、入力された特徴量ベクトルVdに対応するデータベース指紋画像が、特徴量ベクトルViに対応する入力指紋画像との間で詳細に照合するに足りるか否かを判定する。
【0100】
データベース指紋画像が照合対象となり得ると判定された場合には、照合対象候補抽出部302は、当該データベース指紋画像を照合対象候補として抽出し、出力する。一方、データベース指紋画像が照合対象となり得ないと判定された場合には、照合対象候補抽出部302は、当該データベース指紋画像を破棄する。データベース指紋画像が破棄された場合には、照合対象抽出装置30は次のデータベース指紋画像をデータベース20から取得し、照合対象抽出処理を繰り返す。
【0101】
次に、照合対象候補抽出部302の照合対象の絞り込み処理について説明する。
【0102】
照合対象候補抽出部302は、特徴量ベクトルVdと特徴量ベクトルViの差分を計算する。具体的には、照合対象候補抽出部302は、特徴量ベクトルVdと特徴量ベクトルViにおける対応する要素同士の差分値を計算する。その後、照合対象候補抽出部302は、計算した各要素の差分値の合計値を計算する。
【0103】
次に、照合対象候補抽出部302は、差分値の合算が所定の閾値以下の場合には、入力された特徴量ベクトルVdに対応するデータベース指紋画像を照合対象として抽出し、照合対象候補として出力する。
【0104】
一方、照合対象候補抽出部302は、差分値の合算が所定の閾値よりも大きい場合には、当該データベース指紋画像を破棄する。
【0105】
図16は、第1特徴量画像の一例を示す図である。
図16(a)は、入力指紋画像とその第1特徴量画像の一例である。
図16(b)は、
図16(a)の入力指紋画像と同一人物のデータベース指紋画像とその第1特徴量画像の一例である。
図16(c)は、
図16(a)の入力指紋画像とは異なる人物のデータベース指紋画像とその第1特徴量画像の一例である。
【0106】
図16(a)〜(c)の各指紋画像を参照すると、これらは全て同一人物の指紋画像のようにも思われる。
【0107】
3枚の第1特徴量画像を比較すれば、
図16(a)と
図16(b)では、黒色と白色の領域の分布が似通っていることが理解できる。つまり、第1特徴量の分布が
図16(a)と
図16(b)では似ている。一方、
図16(c)の第1特徴量画像には、
図16(a)の第1特徴量画像よりも上側の領域にて、明らかに黒色の領域が多いことが理解できる。つまり、第1特徴量の分布が
図16(a)と
図16(c)では似ていない。
【0108】
このような第1特徴量の分布の相違、非相違は第1特徴量ベクトル間の差分値に反映される。例えば、
図16(a)と
図16(b)では、サンプリング座標が同じであれば、当該サンプリング座標での第1特徴量はほとんど同じであると考えられる。つまり、
図16(a)に示す第1特徴量画像から算出された第1特徴量ベクトルと、
図16(b)に示す第1特徴量画像から算出された第1特徴量ベクトルの各要素間の差分値の合計は小さな値となる。
【0109】
一方、
図16(a)と
図16(c)では、サンプリング座標が同じであっても、当該サンプリング座標での第1特徴量は大きく異なる。そのため、
図16(a)に示す第1特徴量画像から算出された第1特徴量ベクトルと、
図16(c)に示す第1特徴量画像から算出された第1特徴量ベクトルの各要素間の差分値の合計は大きな値となる。
【0110】
このように、第1特徴量の分布の相違が第1特徴量ベクトル間の差分値に反映されるため、閾値を適切に定めることで、照合対象候補となるデータベース指紋画像の絞り込みが行える。具体的には、絞り込みの精度を高めたい場合には閾値を低く設定し、数多くの照合対象候補を得たい場合には、閾値を高く設定する。
【0111】
上述のように、第1特徴量ベクトルの比較により照合対象候補の抽出は可能である。しかし、第1特徴量は、各特徴点の特徴点方向の回転方向(時計回り、反時計回り)に関する特徴が反映されるに留まっている。そのため、例えば、
図7を参照すると、特徴点方向線が中心点から離れる方向であっても近づく方向であっても、与えられる第1特徴量は同じことになる。
【0112】
しかし、中心点に対する向きは、指紋画像における貴重な特徴と考えられるところ、当該特徴を考慮することでより精度良く照合対象候補を抽出できる。そこで、照合対象抽出装置30では、このような特徴量(第2特徴量;中心点に対する特徴点方向の向き)を照合対象候補の決定に利用する。具体的には、照合対象抽出装置30は、第2特徴量画像から算出した第2特徴量ベクトルを照合対象候補の決定に利用する。
【0113】
図17は、第2特徴量画像の一例を示す図である。
図17は、
図16に示す各指紋画像に対応する第2特徴量画像の一例を示している。
図17を参照すると、第2特徴量の相違は、指紋画像の下側の領域に現れることが理解できる。多くの人の指紋画像の上側の領域における隆線は、同心円状であることが多いためたと考えられる。一方、指紋画像の下側の領域における隆線は、同心円状とならず個人間で紋様が大きく異なるためと考えられる。
【0114】
第2特徴量ベクトルには、主に指紋画像の下側の領域の相違が反映される。そこで、第1特徴量ベクトルと同様に閾値を用いた判別処理を適用することで、より精度のよい照合対象候補を決定できる。
【0115】
以上の照合対象抽出装置30の動作をまとめると、
図18に示すフローチャートのとおりとなる。
【0116】
初めに、照合対象決定部206は、指紋画像(データベース指紋画像、入力指紋画像)を入力する(ステップS101)。次に、照合対象決定部206は、指紋画像から特徴点を抽出し、特徴点ごとの特徴点方向を計算する(ステップS102)。
【0117】
照合対象決定部206は、抽出された各特徴点に関する第1特徴量を画素値とする第1特徴量画像を生成する(ステップS103)。次に、照合対象決定部206は、生成された第1特徴量画像を平滑化する(ステップS104)。その後、照合対象決定部206は、平滑化された第1特徴量画像から指紋画像に対応する第1特徴量ベクトルを算出する(ステップS105)。
【0118】
照合対象決定部206は、抽出された各特徴点に関する第2特徴量を画素値とする第2特徴量画像を生成する(ステップS106)。次に、照合対象決定部206は、生成された第2特徴量画像を平滑化する(ステップS107)。その後、照合対象決定部206は、平滑化された第2特徴量画像から指紋画像に対応する第2特徴量ベクトルを算出する(ステップS108)。
【0119】
データベース指紋画像と入力指紋画像のそれぞれについて、第1及び第2の特徴量ベクトルの算出が終了すると、照合対象決定部206は、各指紋画像に対応する特徴量ベクトルVdと特徴量ベクトルViに基づき、照合対象候補の抽出を行う(ステップS109)。
【0120】
なお、
図18に示すフローチャートは例示であって、各ステップの実行順序等を限定する趣旨ではない。例えば、第2特徴量ベクトルを、第1特徴量ベクトルよりも先に算出してもよいし、2つの特徴量ベクトルを並行して算出してもよい。
【0121】
図2を参照して照合対象抽出システムの説明を行ったが、システム構成を
図2の構成に限定する趣旨ではない。例えば、データベース20に相当する記憶部が照合対象抽出装置30に含まれていてもよいし、照合対象抽出装置30に指紋を撮影するスキャナ機能が含まれていてもよい。あるいは、入力指紋画像はネットワークを介して送信され、照合対象抽出装置30に入力されてもよい。
【0122】
また、データベース20には指紋画像が記憶されているものとして説明を行ったが、データベース20には蓄積された指紋画像の特徴量ベクトルが記憶されていてもよい。この場合には、照合対象抽出装置30は、データベース指紋画像の取得に替えて、特徴量ベクトルを取得し、当該特徴量ベクトルと入力指紋画像から算出する特徴量ベクトルを比較することになる。このような構成を採用することで、照合対象候補の決定に係る処理を高速に実行することができる。
【0123】
あるいは、照合対象抽出装置30がデータベース指紋画像の特徴量ベクトルを算出するたびに当該特徴量ベクトルをデータベース20に書き戻し、必要に応じて書き戻された特徴量ベクトルを再利用する構成であってもよい。
【0124】
第1の実施形態では、指紋画像から特徴量ベクトルを算出する手段(特徴量ベクトル算出部301)と、照合対象候補を抽出する手段(照合対象候補抽出部302)と、同一の装置である照合対象抽出装置30に含まれる場合について説明した。しかし、これら2つの手段が別々の装置にて実現されていてもよい。
【0125】
第1の実施形態では、特徴量ベクトル算出部301がデータベース指紋画像の特徴量ベクトルVd(照合側特徴量ベクトル)と入力指紋画像の特徴量ベクトルVi(検索側特徴量ベクトル)の算出を兼ねる構成を説明した。しかし、これらの特徴量ベクトルを生成する手段を分離して設けてもよい。この場合には、
図19に示すように、照合対象決定部206に、2つの特徴量ベクトル算出部301a、301bを設け、照合側特徴量ベクトルと検索側特徴量ベクトルを照合対象候補抽出部302に提供する。
【0126】
あるいは、第1特徴量画像平滑部404と第2特徴量画像平滑部405や、第1特徴量ベクトル算出部406と第2特徴量ベクトル算出部407等の機能を統合して1つのモジュールにて実現してもよい。
【0127】
なお、第1の実施形態での説明は、指紋画像の解像度(画素数)に関しては言及しなかったが、必要に応じて指紋画像の解像度を変更してもよい。例えば、データベース指紋画像を取得した装置と入力指紋画像を取得する装置(指紋撮影装置10)から得られる画像の解像度が異なる場合には、いずれかの解像度に合わせる等の変換処理を行ってもよい。あるいは、指紋画像の解像度が照合対象候補の抽出に係る用途には高すぎるなどの場合には、指紋画像の解像度を減ずる処理を行った後に、第1及び第2特徴量画像を生成してもよい。
【0128】
第1の実施形態では、特徴量(第1特徴量、第2特徴量)を算出する際に、基準線(第1基準線、第2基準線)に対する特徴点方向線の相対的な角度を使用する。相対的な角度を用いることで、指紋画像の歪みの影響をキャンセルできるためである。例えば、データベース指紋画像は右方向に歪み、同一の人物から取得した入力指紋画像は左方向に歪んでいる場合には、これらの指紋画像における特徴点方向の絶対的な角度(特徴量)は異なる値となる。しかし、指紋画像が歪んだとしても、特徴量の算出に相対的な角度を用いることで、歪みの影響がキャンセルされる。換言するならば、データベース指紋画像と入力指紋画像が、歪みを考慮する必要がないほど良好なものであれば、指紋画像に設定されたXY座標系での絶対角度(例えば、
図7(a)の角度α2や
図9(a)の角度β2)を用いて特徴量を算出してもよい。
【0129】
なお、第1特徴量画像平滑部404や第2特徴量画像平滑部405にて、特徴量画像の平滑化を行っているが、平滑化処理が不要の場合もある。例えば、データベース指紋画像と入力指紋画像の画質が共に良い場合には、平滑化処理は不要である。
【0130】
さらに、第1の実施形態では、データベース指紋画像と入力指紋画像のそれぞれに含まれる情報量が、実質的に同じであるという前提であるが、実際には一方の画像にある領域が他方の画像には存在しない場合もあり得る。このような場合、両者の指紋画像が同じ人物の指紋から採取されたものであっても、両者の指紋画像の特徴量ベクトルを比較した際、差分値の合計が閾値よりも大きくなる可能性がある。そのため、特徴点を抽出する際、指紋の一部が欠けている又は画像が鮮明ではない等の判別を行い、画像の不備が検出された箇所では特徴量ベクトルの比較を行わない(差分値を計算しない)等の対策を行うのが望ましい。
【0131】
あるいは、データベース指紋画像の特徴量ベクトルVdと入力指紋画像の特徴量ベクトルViの比較の際に、各特徴量の品質を考慮してもよい。具体的には、指紋画像から特徴点を抽出する際に、当該特徴点の品質も算出する。そして、特徴量ベクトルVdと特徴量ベクトルViの要素間の差分値を計算する際に、検出した特徴点の品質を反映させる。例えば、両特徴量ベクトルの要素間の差分値を算出する際に、データベース指紋画像の特徴点の品質値と入力指紋画像の特徴点の品質値のいずれか値の小さい方を、上記差分値に乗算する。いずれか一方の指紋画像における特徴点の品質が極めて低い場合には、当該品質を示す品質値もまた極めて小さい値となる。このような値を差分値に乗算することで、品質の低い特徴点を実質的に無効化できる。なお、特徴点の品質の算出には種々の方法を用いることができる。
【0132】
第1の実施形態にて説明した照合対象候補の決定方法は、他の照合対象候補決定方法と組み合わせて使用することも可能である。例えば、特許文献1に開示された指紋隆線の形状から照合対象候補を絞り込んだ後に、上述の照合対象候補の決定処理を実行する形態であってもよい。
【0133】
なお、照合対象決定部206は、照合対象抽出装置30に搭載されたコンピュータに、そのハードウェアを用いて、照合対象決定部206における各部の処理を実行させるコンピュータプログラムにより実現することもできる。また、コンピュータの記憶部に照合対象抽出プログラムをインストールすることにより、コンピュータを照合対象抽出装置として機能させることができる。あるいは、照合対象抽出プログラムをコンピュータに実行させることにより、コンピュータにより照合対象抽出方法を実行することができる。
【0134】
以上のように、第1の実施形態に係る照合対象抽出装置30では、データベース指紋画像と入力指紋画像のそれぞれについて特徴量ベクトルを算出し、これらの特徴量ベクトルを比較することで照合対象候補を決定する。データベース指紋画像には、指紋隆線の方向がほぼ一致するため、一見すると同一人物の指紋画像と判定されるようなデータベース指紋画像も含まれると考えられる。ここで、第1の実施形態にて算出される特徴量ベクトルには、特徴点の特徴量(第1特徴量、第2特徴量)だけではなく、特徴量の分布に関する情報が含まれる。しかし、上記のような指紋隆線の方向がほぼ一致するようなデータベース指紋画像であっても、特徴量の分布まで一致する画像は希であるから、第1の実施形態に係る照合対象抽出装置30では上記のようなデータベース指紋画像を照合対象候補と決定することがない。即ち、照合対象候補を選択する際の精度を向上させた照合対象抽出装置を提供できる。
【0135】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
[付記1]
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルと、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルと、を算出する特徴量ベクトル算出部を備える、指紋画像処理装置。
[付記2]
前記第1及び第2特徴量ベクトルから生成される前記検索対象の指紋画像に対応する検索側特徴量ベクトルと、照合対象の指紋画像に対応する特徴量ベクトルであって前記第1及び第2特徴量ベクトルの要素と同種の要素からなる照合側特徴量ベクトルと、を比較することで、複数の前記照合対象の指紋画像のなかから、前記検索対象の指紋画像に対する照合対象候補を抽出する照合対象候補抽出部をさらに備える、付記1の指紋画像処理装置。
[付記3]
前記特徴量ベクトル算出部は、前記基準点と前記特徴点を結ぶ第1基準線と前記特徴点方向の直線がなす角度を定量化して前記第1特徴量を算出する、付記1又は2の指紋画像処理装置。
[付記4]
前記特徴量ベクトル算出部は、前記第1基準線と直交する第2基準線と前記特徴点方向の直線がなす角度を定量化して前記第2特徴量を算出する、付記3の指紋画像処理装置。
[付記5]
前記特徴量ベクトル算出部は、
前記指紋画像から前記複数の特徴点を抽出する特徴点抽出部と、
前記抽出された特徴点それぞれに対応する前記指紋画像の画素値を、前記第1特徴量とすることで第1特徴量画像を生成する第1特徴量画像生成部と、
前記第1特徴量画像から複数の画素を選択し、前記選択された複数の画素から得られる前記第1特徴量を並べることで前記第1特徴量ベクトルを算出する第1特徴量ベクトル算出部と、
前記抽出された特徴点それぞれに対応する前記指紋画像の画素値を、前記第2特徴量とすることで第2特徴量画像を生成する第2特徴量画像生成部と、
前記第2特徴量画像から複数の画素を選択し、前記選択された複数の画素から得られる前記第2特徴量を並べることで前記第2特徴量ベクトルを算出する第2特徴量ベクトル算出部と、
を備える付記1乃至4のいずれか一に記載の指紋画像処理装置。
[付記6]
前記特徴量ベクトル算出部は、
前記第1特徴量画像の画素値を、当該画素の周辺にある画素の画素値を用いて平滑化する第1特徴量画像平滑部と、
前記第2特徴量画像の画素値を、当該画素の周辺にある画素の画素値を用いて平滑化する第2特徴量画像平滑部と、
をさらに備える付記5の指紋画像処理装置。
[付記7]
前記第1特徴量ベクトル算出部は、前記第1特徴量画像をなす複数の画素から、格子状に規定されたサンプリング位置の画素を選択し、前記サンプリング位置の画素から前記第1特徴量を取得し、
前記第2特徴量ベクトル算出部は、前記第2特徴量画像をなす複数の画素から、前記サンプリング位置の画素を選択し、前記サンプリング位置の画素から前記第2特徴量を取得する、付記5又は6の指紋画像処理装置。
[付記8]
前記照合対象候補抽出部は、前記検索側特徴量ベクトルと前記照合側特徴量ベクトルそれぞれに対応する要素の差分値を算出し、前記算出された差分値の合計値と閾値を比較することで前記検索対象の指紋画像に対する照合対象候補を抽出する、付記2乃至7のいずれか一に記載の指紋画像処理装置。
[付記9]
前記特徴量ベクトル算出部は、前記第1及び第2特徴量ベクトルを合成することで、前記検索側特徴量ベクトルを生成する特徴量ベクトル生成部をさらに備える付記2乃至8のいずれか一に記載の指紋画像処理装置。
[付記10]
前記特徴量ベクトル算出部は、前記照合対象の指紋画像に関する前記第1及び第2特徴量ベクトルを算出し、
前記特徴量ベクトル生成部は、前記照合対象の指紋画像に関する前記第1及び第2特徴量ベクトルを合成することで、前記照合側特徴量ベクトルを生成する、付記9の指紋画像処理装置。
[付記11]
前記特徴点抽出部は、前記指紋画像に含まれる隆線の端点及び隆線の分岐点の少なくとも一方を特徴点として抽出する、付記5乃至10のいずれか一に記載の指紋画像処理装置。
[付記12]
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルを算出する工程と、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルを算出する工程と、
を含む指紋画像処理方法。
[付記13]
検索対象の指紋画像内の複数の特徴点それぞれが有する特徴点方向に関する特徴量であって指紋画像内の基準点に対する前記特徴点方向の回転方向から算出される、複数の第1特徴量を要素とする第1特徴量ベクトルを算出する処理と、
前記特徴点方向に関する特徴量であって前記基準点に対する前記特徴点方向の向きから算出される、複数の第2特徴量を要素とする第2特徴量ベクトルを算出する処理と、
を指紋画像処理装置を制御するコンピュータに実行させるプログラム。
なお、付記12及び付記13の形態は、付記1の形態と同様に、付記2の形態〜付記11の形態に展開することが可能である。
【0136】
なお、引用した上記の特許文献の開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。