特許第6442875号(P6442875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442875
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】液体吐出装置、加熱部制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   B41J2/01 125
   B41J2/01 301
   B41J2/01 451
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-115509(P2014-115509)
(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公開番号】特開2015-229261(P2015-229261A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(72)【発明者】
【氏名】原 平
【審査官】 村石 桂一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−110926(JP,A)
【文献】 特開2005−212205(JP,A)
【文献】 特開2011−156680(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0109269(US,A1)
【文献】 特開2012−135889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出可能な吐出部と、
前記液体が吐出された媒体を加熱可能な加熱部と、
前記媒体を前記加熱部に対向して支持する支持部と、
検出範囲から放出されるエネルギーを検出する検出部と、
前記検出部が検出したエネルギーに基づいて、前記加熱部の出力を変更可能な制御部と、
前記支持部に配置され、前記検出部にエネルギーを検出される被センシング面を有する金属製被センシング部と、
を備え、
前記金属製被センシング部は、前記支持部との間に空隙が設けられて配置され、
前記被センシング面は、入射する光の正反射を低減するための加工がされていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記被センシング面は、第1部分と、前記第1部分より窪んだ第2部分とを有するように加工されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記被センシング面は、少なくとも一部が表面加工されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出装置において、
前記被センシング面は、少なくとも一部がアルマイト加工されたアルミニウムであることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記被センシング部の輻射率は、0.7以上1未満であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記媒体を支持可能な支持面を有する支持部を備え、
前記被センシング部は、前記支持面と同一面、又は、前記支持面より窪んだ位置に設けられていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記検出部は、前記検出範囲に前記媒体があるときは前記媒体のエネルギーを検出し、
前記検出範囲に前記媒体がないときは前記被センシング部のエネルギーを検出することを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置及び加熱部制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートローラーとプレスローラーとにより、記録紙をニップ搬送し、該記録紙に転写されたトナー画像を定着させる定着器と、該定着器から排出された直後の記録紙の表面温度を検知する記録紙温度センサーと、記録紙温度センサーによって検知された記録紙の表面温度に応じてヒートローラーの設定温度を切り替える制御部等を備えた画像形成装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−251408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置では、例えば、記録紙温度センサーが温度を検知する箇所に記録紙が無い場合には、記録紙の温度を検知することができず、ヒートローラーの温度制御を適切に行うことができない、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる液体吐出装置は、液体を吐出可能な吐出部と、前記液体が吐出された媒体を加熱可能な加熱部と、検出範囲から放出されるエネルギーを検出する検出部と、前記検出部が検出したエネルギーに基づいて、前記加熱部の出力を変更可能な制御部と、前記検出部にエネルギーを検出される被センシング面を有する被センシング部と、を備え、前記被センシング面は、入射する光の正反射を低減するための加工がされていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、検出部の検出範囲に媒体が無い場合であっても、加熱部の出力制御を適切に行うことができる。また、正反射成分が低減された被センシング部から反射されたエネルギーを検出部で検出することにより、さらに精度よく加熱部の出力制御を行うことができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる液体吐出装置の前記被センシング面は、第1部分と、前記第1部分より窪んだ第2部分とを有するように加工されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、加熱部から入射された光が被センシング面で反射する際、光は第1部分や第2部分により拡散(散乱)される。これにより、正反射成分を低減させることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる液体吐出装置の前記被センシング面は、少なくとも一部が表面加工されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、加熱部から入射された光が被センシング面で反射する際、光は表面加工により拡散(散乱)したり吸収されたりする。これにより、正反射成分を低減させることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる液体吐出装置の前記被センシング面は、少なくとも一部がアルマイト加工されたアルミニウムであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、加熱部から入射された光が被センシング面で反射する際、光は被センシング面のアルマイト加工により拡散したり吸収されたりする。これにより、正反射成分を低減させることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる液体吐出装置における前記被センシング部の輻射率は、0.7以上1未満であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、被センシング部の輻射率が媒体の輻射率と近くなるため、被センシング部のエネルギーを検出した場合であっても、媒体の加熱に適した加熱部の出力制御を行うことができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかる液体吐出装置では、前記媒体を支持可能な支持面を有する支持部を備え、前記被センシング部は、前記支持面と同一面、又は、前記支持面より窪んだ位置に設けられていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、被センシング部が、支持面と同一面、又は、支持面より窪んだ位置に配置されるため、媒体の搬送を妨げることなく、円滑に媒体の搬送を行うことができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例にかかる液体吐出装置の前記検出部は、前記検出範囲に前記媒体があるときは前記媒体の前記エネルギーを検出し、前記検出範囲に前記媒体がないときは前記被センシング部の前記エネルギーを検出することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、検出範囲における媒体の有無により適切なエネルギーを検出することができる。
【0020】
[適用例8]本適用例にかかる加熱部制御方法は、液体を吐出し、液体が吐出された媒体を加熱部で加熱し、検出範囲から放出されるエネルギーを検出し、検出したエネルギーに基づいて、前記加熱部の出力を変更可能とする加熱部制御方法であって、入射する光の正反射を低減するための加工がされた被センシング面のエネルギーを検出することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、検出範囲に媒体が無い場合であっても、加熱部の出力制御を適切に行うことができる。また、正反射成分が低減された被センシング部から反射されたエネルギーを検出部で検出することにより、さらに精度よく加熱部の出力制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】液体吐出装置の構成を示す概略図。
図2】液体吐出装置の制御部の構成を示すブロック図。
図3】被センシング部の構成を示す斜視図。
図4】被センシング部の構成を示す側断面図。
図5】変形例にかかる被センシング部の構成を示す側断面図。
図6】変形例にかかるセンシングエリアの広さを説明する説明図。
図7】各種媒体の輻射率を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各部材等を認識可能な程度の大きさにするため、各部材等の尺度を実際とは異ならせて示している。
【0024】
まず、液体吐出装置の構成について説明する。液体吐出装置は、液体を吐出可能な吐出部と、液体が吐出された媒体を加熱可能な加熱部と、検出範囲から放出されるエネルギーを検出する検出部と、検出部が検出したエネルギーに基づいて、加熱部の出力を変更可能な制御部と、検出部にエネルギーを検出される被センシング面を有する被センシング部と、を備え、被センシング面は、入射する光の正反射を低減するための加工がされたものである。また、加熱部制御方法は、液体を吐出し、液体が吐出された媒体を加熱部で加熱し、検出範囲から放出されるエネルギーを検出し、検出したエネルギーに基づいて、加熱部の出力を変更可能とする加熱部制御方法であって、入射する光の正反射を低減するための加工がされた被センシング面のエネルギーを検出するものである。液体吐出装置は、例えば、インクジェットプリンターとして適用することができる。以下、具体的に説明する。
【0025】
図1は、液体吐出装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、液体吐出装置1は、給送ユニット10と、搬送ユニット20と、巻き取りユニット25と、吐出部30と、支持部35と、被センシング部36と、加熱部40と、カッター50と、検出部72等を有している。そして、これらの部材を制御する制御部60(図2参照)を備えている。
【0026】
給送ユニット10は、媒体の一例としてのロール状媒体2を搬送ユニット20に給送するものである。この給送ユニット10は、図1に示すように、ロール状媒体2が巻かれ回転可能に支持されるロール状媒体巻軸18と、ロール状媒体巻軸18から繰り出されたロール状媒体2を巻き掛けて搬送ユニット20に導くための中継ローラー19と、を有している。
【0027】
搬送ユニット20は、給送ユニット10により送られたロール状媒体2を、予め設定された搬送経路に沿って搬送方向に搬送するものである。この搬送ユニット20は、図1に示すように、第一搬送ローラー23と、当該第一搬送ローラー23から見て搬送方向下流側に位置する第二搬送ローラー24と、を有している。第一搬送ローラー23は、不図示のモーターにより駆動される第一駆動ローラー23aと、当該第一駆動ローラー23aに対してロール状媒体2を挟んで対向するように配置された第一従動ローラー23bとを有している。同様に、第二搬送ローラー24は、不図示のモーターにより駆動される第二駆動ローラー24aと、当該第二駆動ローラー24aに対してロール状媒体2を挟んで対向するように配置された第二従動ローラー24bとを有している。なお、本実施形態では、中継ローラー19と第一搬送ローラー23との間にロール状媒体2の搬送を補助する補助部材34が設けられている。
【0028】
巻き取りユニット25は、搬送ユニット20により送られたロール状媒体2(例えば、画像記録済みのロール状媒体2)を巻き取るためのものである。この巻き取りユニット25は、図1に示すように、第二搬送ローラー24から送られたロール状媒体2を、搬送方向上流側から巻き掛けて搬送方向下流側へ搬送するための中継ローラー26と、回転可能に支持され中継ローラー26から送られたロール状媒体2を巻き取るロール状媒体巻き取り駆動軸27と、を有している。なお、本実施形態では、第二搬送ローラー24と中継ローラー26との間にロール状媒体2を支持する支持部35が設けられている。
【0029】
吐出部30は、液体を吐出可能なものであり、本実施形態では、搬送経路上の画像記録領域に位置するロール状媒体2に画像を記録する(印刷する)ためのものである。具体的には、吐出部30と対向する位置にはプラテン33が配置されており、吐出部30は、図1に示すように、搬送ユニット20によりプラテン33上に送り込まれたロール状媒体2に対し、液体の一例としてのインクを液滴として吐出して画像を形成する。
【0030】
吐出部30は、例えば、インクジェットヘッドであり、液滴を吐出するための駆動素子としてピエゾ素子(不図示)が設けられている。ピエゾ素子は、その両端に設けられた電極間に所定時間幅の電圧を印加すると、電圧の印加時間に応じて伸張し、インクの流路の側壁を変形させる。これによって、インクの流路の体積がピエゾ素子の伸縮に応じて収縮し、この収縮分に相当するインクを液滴として吐出させることができる。
【0031】
加熱部40は、吐出部30によってインクが塗布されたロール状媒体2を加熱するものである。換言すれば、ロール状媒体2上のインクを加温してインクを硬化させるためのものである。加熱部40は、例えば、赤外線を照射する赤外線ヒーターであり、加温範囲を加温する。また、図1に示すように、支持部35と対向する位置に設けられている。すなわち、加熱部40は、支持部35に支持されたロール状媒体2を加温する。
【0032】
検出部72は、加熱部40の加熱によって検出範囲から放出されるエネルギーを検出するものである。検出部72は、例えば、赤外線センサーである。そして、検出部72は、加熱部40の加温範囲(換言すれば、加熱部40の赤外線の照射範囲)内においてロール状媒体2の表面をセンシングすることにより赤外線のエネルギーを検出する。
【0033】
カッター50は、ロール状媒体2を切断するためのものである。本実施形態の液体吐出装置1では、上記したように、吐出部30によって画像が形成されたロール状媒体2を巻き取りユニット25によって巻き取るモードの他に、吐出部30によってインクが塗布され、加熱部40によって塗布されたインクを乾燥して画像が形成されたロール状媒体2を巻き取らずにロール状媒体2上に画像が形成された部分をロール状媒体2から切り離すモード(非巻き取りモード)を備えており、非巻き取りモードが選択された場合に、このカッター50によってロール状媒体2を所定の大きさにカットして、画像記録済みのロール状媒体2を画像未記録のロール状媒体2から切り離す。カッター50は、図1に示すように、搬送方向において、吐出部30と加熱部40との間に設けられている。なお、非巻き取りモードによって切断された媒体は支持部35上を滑り落ちながら排紙される。
【0034】
次に、液体吐出装置の制御部の構成について説明する。図2は、液体吐出装置の制御部の構成を示すブロック図である。図2に示すように、液体吐出装置1は制御部60を備えている。制御部60は、液体吐出装置1の制御を行うものである。制御部60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター100と液体吐出装置1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、液体吐出装置1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、揮発性のメモリーであるRAM、不揮発性のメモリーであるEEPROM等の記憶素子を有する。
【0035】
ユニット制御回路64には、給送ユニット10、搬送ユニット20、巻き取りユニット25、吐出部30、加熱部40及びカッター50が電気的に接続され、コンピューター100から印刷指令(印刷データ)を受信した液体吐出装置1は、制御部60により、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニット等を制御する。
【0036】
また、液体吐出装置1内の状況は各種検出器を含む検出器群70によって監視されており、検出器群70は、検出結果を制御部60に出力する。制御部60は、検出器群70から出力された検出結果に基づいて、各ユニット等を制御する。なお、検出器群70には検出部72が含まれている。そして、検出部72では、加熱部40の加熱によって検出範囲から放出されるエネルギーを検出し、制御部60では、検出されたエネルギーに基づいて、加熱部40の出力を変更可能としている。例えば、検出部72は、加熱部40の加温範囲内においてロール状媒体2の表面をセンシングする。そして、制御部60は、検出部72により検知された赤外線のエネルギーに基づいて、加熱部40の照射エネルギーを制御する。
【0037】
ここで、検出部72の検出範囲において、ロール状媒体2の有無に関わらずエネルギーの検出を適切に行う方法について説明する。上述したとおり、本実施形態にかかる液体吐出装置1では、巻き取りモードと非巻き取りモードとを選択して駆動させている。例えば、非巻き取りモードが実行される際には、支持部35上にロール状媒体2が位置したり、位置しなかったりする。そして、支持部35上にロール状媒体2が位置しない状態となると、検出部72のセンシング先にロール状媒体2が無いため、この場合には、検出部72は、ロール状媒体2の表面ではなく、支持部35面をセンシングすることとなる。すなわち、支持部35面が検出部72によりセンシングされ、当該センシング結果に基づいて加熱部40の照射エネルギーの制御が行われる。換言すれば、検出部72は、支持部35をセンシングする場合と、支持部35に支持されたロール状媒体2をセンシングする場合とがあることになる。
【0038】
そして、かかる状態(センシング先にロール状媒体2が無い状態。第二状態と呼ぶ)においては、ロール状媒体2の表面がセンシングされるときとはセンシング先の状況が異なる(例えば、紙と金属の違い)ため、センシング先にロール状媒体2があるとき(第一状態と呼ぶ)と同じ(ロール状媒体2の表面をセンシングするときのような)照射エネルギー制御ができない。そのため、第二状態から支持部35上にロール状媒体2が位置する状態となったとき(つまり、ロール状媒体2が支持部35に至ったとき)には、照射エネルギーがロール状媒体2を所定温度にするような(適切な)照射エネルギーになっていないおそれがある。そこで、本実施形態では、センシング先にロール状媒体2が無い状態でもロール状媒体2が有るときのように照射エネルギー制御が実行されるように、被センシング部36が設けられている。以下、被センシング部の構成について説明する。
【0039】
図3は、被センシング部36の構成を示す斜視図であり、図4は、被センシング部36の構成を示す側断面図である。被センシング部36は、検出部72にエネルギーを検出される被センシング面36aを備えている。図3及び図4に示すように、本実施形態では、被センシング部36は、支持部35の配置領域の一部に配置されている。このとき、被センシング部36は、検出部72の検出範囲内に被センシング部36の少なくとも一部が含まれるように配置されている。また、被センシング部36(本実施形態では被センシング面36a)は、支持部35においてロール状媒体2を支持可能な支持面35aと同一面に設けられている。ただし、被センシング部36(本実施形態では被センシング面36a)は、支持面35aより窪んだ位置に設けられていてもよい。すなわち、被センシング部36(被センシング面36a)上をロール状媒体2が通過するように構成されている。これにより、ロール状媒体2の搬送を妨げることなく、円滑にロール状媒体2の搬送を行うことができる。そして、検出部72は、検出範囲にロール状媒体2があるときはロール状媒体2のエネルギーを検出し、検出範囲にロール状媒体2がないときは被センシング部36のエネルギーを検出する。また、被センシング部36は、金属製である。
【0040】
そして、本実施形態では、センシング先にロール状媒体2がない状態でもロール状媒体2があるときのように照射エネルギー制御が実行されるようにするため、センシング先にロール状媒体2が無い状態において検出部72によりセンシングされる被センシング部36の特性をロール状媒体2の特性に合わせることを行っている。
【0041】
まず、被センシング部36の熱容量をロール状媒体2の熱容量に合わせることを行っている。より具体的には、被センシング部36の体積(図3における斜線部の体積)を、加熱部40の加温範囲(図1参照)にあるロール状媒体2の熱容量と被センシング部36(図3における斜線部)の熱容量とが略等しくなるように、設定している。なお、熱容量は比熱と質量との積で求められる。また、質量は、密度と体積との積で求められる。そして、金属製の被センシング部36とロール状媒体2とでは、単位体積当たりの熱容量は、前者の方が高いから、後述するように、金属製の被センシング部36の体積をなるべく小さくするように構成されている。
【0042】
具体的には、図3に示すように、被センシング部36と、被センシング部36の周囲に位置する被センシング部周辺部38(支持部35の一部)と、の間に空隙Gが設けられている。すなわち、被センシング部36の体積を小さくするために、被センシング部36を小さな島状とし、被センシング部36が被センシング部周辺部38から隔離されるように構成される。
【0043】
さらに、図4に示すように、被センシング部36の厚みを薄くするために、薄板(本実施形態においては、0.5mm厚の薄板)とし、薄板の被センシング部を支える支え部52を設けている。また、支持部35も同様に薄板で構成され、支え部52に接続されている。そして、これらの支え部52は、支え基盤53に設置されている。これにより、支持部35が強固に支持される構成を実現しつつ被センシング部36の厚みを薄くしている。
【0044】
また、被センシング部36の輻射率をロール状媒体2の輻射率に合わせることを行っている。図7に示すように、ロール状媒体2として用いる主な媒体の輻射率を、放射率測定器により測定したところ、媒体の輻射率は、約0.8〜約0.95の範囲であった。したがって、被センシング部36の輻射率を、0.7以上1未満に設定している。このようにすれば、被センシング部36の輻射率は、当該輻射率とロール状媒体2の輻射率との差(輻射率差)が0.1以内となる。輻射率差が0.1以内であれば、輻射率差を温度差に換算した場合に約3度以内に相当し、温度制御上問題ないレベルと解釈されるからである。したがって、被センシング部36の輻射率を、0.7以上1未満に設定すれば、本実施形態で挙げたアクリル樹脂、PET樹脂、塩化ビニル樹脂、布、紙といった媒体に対し、加熱部40の制御を適切に行うことが可能となる。また、被センシング部36の輻射率を、0.85以上0.95以下に設定すれば、本実施形態で挙げたPET樹脂、塩化ビニル樹脂、布、紙といった媒体に対して、より輻射率差を少なくすることができる。したがって、被センシング部36の輻射率を、0.85以上0.95以下に設定すれば、加熱部40の制御を一部の媒体に対してより適切に行うことが可能となる。また、被センシング部36の輻射率を0.9に設定すれば、本実施形態で挙げた塩化ビニル樹脂の媒体に対して、より輻射率差を少なくすることができる。したがって、被センシング部36の輻射率を0.9に設定すれば、一部の媒体に対して加熱部40の制御をより適切に行うことが可能となる。
【0045】
さらに、本実施形態では、被センシング面36aは、加熱部40から入射した光の正反射を低減するための加工がされている。これは、検出部72では、被センシング部36の被センシング面から放出されるエネルギーを検出する際、加熱部40から入射した光が被センシング面36aで正反射された反射成分を含んで検出してしまうと、本来の検出値にノイズが含まれてしまうからである。例えば、加熱部40が赤外線ヒーターであり、検出部72が赤外線センサーであった場合、加熱部40から照射された赤外線の反射成分が、検出部72にとってノイズとなる。また、この加工は、加熱部40から入射した光の正反射を低減するだけではなく、被センシング部36に入射する光の正反射を低減するための加工である。つまり、被センシング部36に入射する光の光源は、加熱部40に限らない。
【0046】
本実施形態では、被センシング面36aは、少なくとも一部が表面加工されている。具体的には、被センシング部36はアルミニウムで形成され、被センシング面36aは、少なくとも一部がアルマイト加工されている。これにより、加熱部40から入射した光がアルマイト加工された被センシング面で反射する際、拡散と吸収により正反射成分を低減することができる。また、アルマイト加工により、被センシング部36に用いられるアルミニウムの輻射率(約0.1)を約0.9に上昇させることができ、ロール状媒体2の輻射率に合わせることができる。
【0047】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0048】
支持部35の配置位置の一部に被センシング部36が配置された。これにより、検出部72のセンシングエリア(検出範囲)にロール状媒体2が無い場合であっても、被センシング部36の被センシング面36aから放出されるエネルギーを検出することができる。従って、検出部72のセンシングエリアにおけるロール状媒体2の有無に関わらずエネルギーの検出を行うことができる。これにより、加熱部40の出力制御を適切に行うことができる。さらに、被センシング面36aはアルマイト加工が施されているため、加熱部40から入射した光が被センシング面36aで反射した際、正反射成分が低減される。また、いずれかの光源から入射した光が被センシング面36aで反射した際も、正反射成分が低減される。これにより、さらに精度よく加熱部40の出力制御を行うことができる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0050】
(変形例1)上記実施形態では、被センシング面36aには表面加工としてアルマイト加工を施したが、これに限定されない。例えば、被センシング面36aにめっき処理(例えば、黒色めっき)を施してもよいし、被センシング面36aに各種塗装を施してもよい。また、被センシング面36a上に、例えば、シリコンを含む吸収層を構成してもよい。このようにしても、上記効果と同様にして正反射成分を低減させることができる。
【0051】
(変形例2)上記実施形態では、被センシング面36aに表面加工を施したが、この構成に限定されない。例えば、被センシング面が、第1部分と、第1部分より窪んだ第2部分とを有するように加工されてもよい。図5は、変形例にかかる被センシング部の構成を示す側断面図である。図5(a)に示すように、被センシング部361の被センシング面361aは、第1部分371aと、第1部分371aより窪んだ第2部分371bとを有し、被センシング面361aは凹凸形状を成している。また、図5(b)に示すように、被センシング部362の被センシング面362aは、第1部分372aと、第1部分372aより窪んだ第2部分372b(被貫通のスリット)とを有し、被センシング面362aは平坦面を含んだ凹凸形状を成している。また、図5(c)に示すように、被センシング部363の被センシング面363aは、第1部分373aと、第1部分373aより窪んだ第2部分373bとを有し、被センシング面363aは断面視において一つの凸形状を成している。また、図5(d)に示すように、被センシング部364の被センシング面364aは、第1部分374aと、第1部分374aより窪んだ第2部分374bとを有し、被センシング面364aは断面視において一つの凹形状を成している。また、図5(d)に示すように、被センシング部365の被センシング面365aは、第1部分375aと、第1部分375aより窪んだ第2部分としての貫通孔375bとを有している。なお、上記の他に、被センシング面がエンボス加工された被センシング部や、梨地加工された被センシング部や、貫通したスリットが形成された被センシング部であってもよい。このようにしても、上記効果と同様にして、加熱部40から入射された光が被センシング面361a〜365aで反射する際、第1部分371a〜375aと第2部分371b〜375bとにより拡散(散乱)される。これにより、正反射成分を低減させることができる。
【0052】
(変形例3)上記実施形態では、支持部35を薄板として説明したが、これに限定されない。例えば、支持部35は、線状部材によってメッシュ状(網状)に構成されたものであってもよい。このようにすれば、ロール状媒体2に塗布されたインクが加熱部40によって加熱された際に、インクが蒸発した蒸気を支持部35の網目を介して外部に逃がすことができ、支持部35の結露の発生を抑制することができる。
【0053】
(変形例4)検出部72がセンシングするセンシングエリアの広さは可変であり、センシング先にロール状媒体2がある第一状態とセンシング先にロール状媒体2が無い第二状態とで当該センシングエリアの広さが変わることとしてもよい。換言すれば、検出部72が被センシング部36をセンシングする場合と、検出部72が支持部35に支持されたロール状媒体2をセンシングする場合とで、センシングエリアの広さ(大きさ)が変わることとなる。図6は、変形例にかかるセンシングエリアの広さを説明する説明図である。図6に示すように、検出部72としてセンシングエリアの広さを変えることができるセンサーを用意し、被センシング部36がセンシングされる第二状態においては、センシングエリアが被センシング部36内に収まるように制御部60がセンシングエリアの広さを制御する。例えば、第二状態に切り替わるときに、センシングエリアが被センシング部36より広かった場合は、センシングエリアをより狭く(小さく)する。一方で、ロール状媒体2の表面がセンシングされる第一状態においては、被センシング部36内に収める必要がないため、広い範囲を検出部72にセンシングさせてセンシング結果の均一性を高める目的で、センシングエリアの広さを第二状態のときの広さよりも広くする(好ましくは、最大の広さとする)。このようにすれば、検出部72として用いたセンサーの能力を適切に発揮させることが可能となるため、より適切な加熱部40の制御を実現することができる。
【0054】
(変形例5)上記実施の形態においては、液体吐出装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の液体を噴射させたり吐出させたりする液体吐出装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体吐出ヘッド等を備える各種の液体吐出装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体吐出装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体吐出装置が吐出させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体吐出装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を吐出する液体吐出装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する液体吐出装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する液体吐出装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する液体吐出装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に吐出する液体吐出装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を吐出する液体吐出装置を採用してもよい。そして、これらのうち何れか一種の吐出装置に本発明を適用することができる。
【0055】
また、本実施形態のインクは、樹脂エマルジョンを含んでもよい。樹脂エマルジョンは、被記録媒体が加熱される際、好ましくはワックス(エマルジョン)と共に樹脂被膜を形成することで、着色インクを被記録媒体上に十分定着させて画像の耐擦性を良好にする効果を発揮する。上記の効果により樹脂エマルジョンを含有する着色インクを用いて記録された記録物は、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体上で耐擦性に優れたものとなる。樹脂エマルジョンとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体、フッ素樹脂、及び天然樹脂が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂及びスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル系樹脂及びスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のうち少なくともいずれかがより好ましく、スチレン−アクリル酸共重合体系樹脂がさらに好ましい。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。
【0056】
(変形例6)上記実施形態において、搬送ユニット20は、吐出部30よりも搬送方向上流側に位置する第一搬送ローラー23と、吐出部30よりも搬送方向下流側に位置する第二搬送ローラー24と、を有することとしたが、搬送ローラーの数や配置はこれに限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0057】
(変形例7)上記実施形態において、媒体の一例としてロール状媒体2を用いた例を挙げたが、媒体は単票媒体であってもよい。媒体が単票媒体の場合、印刷開始時において、支持部35上に媒体が位置しない状態となる可能性が高い。しかし、印刷開始時においても、加熱部40の照射エネルギーが媒体を所定温度にするような(適切な)照射エネルギーに既になっていることが望ましい。本発明を用いれば、媒体が単票媒体の場合でも、加熱部40の制御を適切に行うことが可能となる。
【0058】
(変形例8)上記実施形態において、検出部72として赤外線センサーを用いた例を挙げたが、検出部72に他のセンサーを用いてもよい。媒体の表面から放射される電磁波を検知するセンサーであれば、紫外線、マイクロ波などを検知するセンサーであってもよい。その中でも、媒体の温度を推測するという目的においては、赤外線センサーを用いることがより効果的である。なお、赤外線とは、約0.7μm〜1000μmの波長域の電磁波のことである。赤外線センサー72は、約0.7μm〜1000μmの波長域のうち、少なくとも一部の波長域の電磁波を検知するものであればよい。
【符号の説明】
【0059】
1…液体吐出装置、2…媒体としてのロール状媒体、10…給送ユニット、20…搬送ユニット、30…吐出部、35…支持部、36…被センシング部、36a…被センシング面、40…加熱部、60…制御部、72…検出部、361〜365…被センシング部、361a〜365a…被センシング面、371a〜375a…第1部分、371b〜375b…第2部分。
図1
図2
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図5
図6
図7