【0014】
この正極は、例えば、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上と遷移金属元素とを含む複合酸化物などを用いることができる。具体的には、リチウムを含む場合、基本組成式をLi
(1-x)MnO
2(0<x<1など、以下同じ)やLi
(1-x)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)Ni
aMn
bCo
cO
2(a<1、b<1、c<1、a+b+c=1など)とするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物などを用いることができる。なお、リチウムをナトリウムやカリウムに置き換えたものも挙げられる。また、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をV
2O
5などとする遷移金属酸化物なども挙げられる。更に、正極活物質は、マンガンイオン、鉄イオン、亜鉛イオンなどとシアノアニオンで構成されるプルシアンブルー化合物としてもよい。プルシアンブルー化合物は、例えば、基本組成式をA
xT[Fe(CN)
6]
y・
zH
2O(但し、Aは陽イオン、Tは遷移金属、x、y、zは任意値)とするものとしてもよい。この基本組成式において、Aは、KやLi、Na、Rbなどが挙げられ、Tは、FeやMn、Ni、Znなどが挙げられる。プルシアンブルー化合物としては、具体的には、K
xMn[Fe(CN)
6]
yやNa
xCo[Fe(CN)
6]
y・
zH
2Oなどが挙げられる。正極活物質は、これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2や、プルシアンブルー化合物などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。導電材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性炭など公知のカーボン粉末が挙げられる。結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリニトリルなどの高分子が挙げられる。結着剤の混合量は、例えば、導電材の100質量部に対し、3〜25質量部とすることが好ましい。混合方法としては、N−メチルピロリドンなどの溶媒下で、導電材、結着材とともに湿式混合してもよい。また、乳鉢などを使って乾式混合してもよい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【実施例】
【0028】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1〜12が本発明の実施例に相当し、実験例13が比較例に相当する。なお、本発明は実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0029】
[参考例1]
負極上に形成されるSEI被膜について検証するため以下の実験を実施した。
図3は、評価セル30の一例を示す模式図である。
図3に示す評価セル30(北斗電工製、三極式F型セル)において、作用極32と対極34としてPt板(田中貴金属製)、参照極36としてAg線(ニラコ製)をセットした。マグネシウムトリフルオロメタンスルホネート(Mg(CF
3SO
3)
2、アルドリッチ製)とN−メチル−N−プロピルピペリジウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(PP13−TFSA、関東化学製、上記化合物式1)を用い、支持塩濃度0.08mol/Lの電解液を調製し、F型セル内に注液した。この電解液ではトリフルオロメタンスルホネートアニオンがアニオンの総量に対してモル比で4.6%含まれる。F型セルを60℃の恒温器に置き、掃引速度5mV/secの速さで、Mg基準で−0.3Vから+2.3Vの間で電位を繰り返し掃引させた。
図4は、参考例1の充放電結果である。
図4に示すように、1サイクル目で、作用極電位が0V付近にまで下がるとMgが作用極(Pt)上に析出する。このとき、析出したMgには支持塩及び溶媒(イオン液体)の分解物などによりSEI被膜が形成されたと考えられる。2サイクル目以降、1V付近で新しい酸化還元ピークが観測され、SEI被膜が活物質として働くことが明らかになった。
図5,6は、Pt上に形成されたSEI被膜のラマン分析結果である。この測定結果により、SEI被膜は、支持塩や溶媒(イオン液体)の分解物などが含まれることがわかった。
【0030】
更に、SEI被膜とキャリアとの関係について検証した。
図7は、SEI被膜とキャリアとの関係を検証する充放電結果である。まず、Mg(CF
3SO
3)
2−PP13TFSA系電解液と加圧型のコインセル(Mg板とPt板、およびポリエチレンセパレータ)を用いて、60℃の恒温槽に10時間放置した後(
図7、点A)、10μAの電流で1時間Pt方向に電流を流し(点B)、続いて逆電流を印加した(点C)。
図7から分かるように、A→Bへ電流を流したときには電圧が+0.5Vである。通常、Mgの電析が起こるには電圧が−側に振れなければならないことから、電位的にみてMgのPt上への電析は起こっていないと思われた。次に、各点において、Mg電極とPt電極の二次イオン質量分析(SIMS分析)を実施した。
図8は、各点におけるMg電極の負イオンに関するSIMSデータである。
図8に示すように、CF
3SO
3-の存在を示す質量数(横軸)M/Z=149のシグナルはAよりもBで増加し、Cで減少した。このことから、CF
3SO
3-がMg板上で挿入と脱離していると推察された。即ち、
図1に示した、負極での充放電反応が起きていることが明らかとなった。
【0031】
上述したように、負極(Mg)に形成されるSEI被膜は、主にトリフルオロメタンスルホネートアニオン(CF
3SO
3-)と電気化学反応することにより、活物質として働くことが明らかとなった。負極に形成されるSEI被膜がトリフルオロメタンスルホネートアニオンと電気化学反応する場合、上記参考例においては支持塩のカチオンをMgとしたが、支持塩はマグネシウム支持塩でなくてもよいし、正極や負極はマグネシウムを吸蔵、放出するものでなくてもよい。そこで、以下では、非水電解液の種類を変更したり、正極、負極の種類を変更したセルについて、電池として作動することを確認するための実験を行った。
【0032】
[実験例1]
正極は次のようにして作製した。プルシアンブルー(MnFe(CN)
6)を76質量部、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP−600JD)を14質量部、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレンパウダー(ダイキン工業製F−104)を10質量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した。その合材15mg(直径10mm、厚さ120μm)を、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、80℃にて3時間、真空乾燥を行い、蓄電デバイスの正極とした。プルシアンブルーはカリウム鉄シアンK
3Fe(CN)
6の水溶液に、酢酸マンガンMn(CH
3COO)
2の水溶液を室温下で滴下することで反応、沈殿させて得た。負極には直径18mm、厚さ0.25mmの金属マグネシウム(ニラコ製)を用いた。電解液には支持塩にナトリウムトリフルオロメタンスルホネート(NaCF
3SO
3、アルドリッチ製)、有機溶媒にリン酸トリエチル(TEP、キシダ化学)を用い、支持塩濃度1.0mol/Lの電解液を調製して用いた。ポリエチレン製セパレータ(東燃化学製、厚さ25μm)3枚と上記正極を用い、
図9のコイン型セル40をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でセットし、上記電解液0.6mLをコイン型セルに注入し、実験例1とした。
【0033】
コイン型セル40は、
図9に示すように、外周面にねじ溝が刻まれた円筒基体41の中央に設けられたキャビティ42と、キャビティ42の下側に配設された負極43と、キャビティ42の上側に配設された正極44と、キャビティ42に収容された非水電解液45とを備えている。負極43の下面には集電部材46が接続され、正極44の上面には集電部材47が接続されている。正極44及び集電部材47は、キャップ部材48が円筒基体41にねじ込まれることにより円筒基体41に固定されている。この実験例1のコイン型セルを60℃において北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極の間で正極材料あたり0.010mAの電流を流して1.3Vまで放電させた。
【0034】
[実験例2]
TEPの代わりにイオン液体(DEME−TFSA、関東化学)を用いた以外は実験例1と同様に作製したコイン型セルを実験例2とした。
【0035】
[実験例3]
TEPの代わりにプロピレンカーボネート(PC、キシダ化学製)を用いた以外は実験例1と同様に作製したコイン型セルを実験例3とした。
【0036】
(評価と考察)
図10は、実験例1〜3の放電曲線である。実験例1〜3は、いずれも放電し、セルとして機能することがわかった。また、実験例1〜3では、活物質あたりの放電容量が30mAh/gのときの放電電圧が、実験例1が1.71V、実験例2が1.54V、実験例3が1.60Vであった。このため、非水電解液の溶媒としてリン酸トリエチルを用いると、放電電圧をより高めることができ、より好ましいことがわかった。
【0037】
[実験例4]
TEPの代わりにリン酸トリメチル(TMP、キシダ化学製)を用い、支持塩にリチウムトリフルオロメタンスルホネート(アルドリッチ製)を用いた以外は実験例1と同様に作製したコイン型セルを実験例4とした。
【0038】
[実験例5]
TMPの代わりにジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬製)を用いた以外は実験例4と同様に作製したコイン型セルを実験例5とした。
【0039】
[実験例6]
TMPの代わりに3−メトキシプロピオニトリル(和光純薬製)を用いた以外は実験例4と同様に作製したコイン型セルを実験例6とした。
【0040】
[実験例7]
TMPの代わりにグルタロニトリル(和光純薬製)を用いた以外は実験例4と同様に作製したコイン型セルを実験例7とした。
【0041】
(評価と考察)
図11は、実験例4〜7の放電曲線である。実験例4〜7は、いずれも放電し、セルとして機能することがわかった。また、実験例4〜7では、活物質あたりの放電容量が30mAh/gのときの放電電圧は、実験例4が1.81V、実験例5が1.78V、実験例6が1.40V、実験例7が1.47Vであった。このため、非水電解液の溶媒としてリン酸トリメチルやジメチルスルホキシドを用いると、放電電圧をより高めることができ、より好ましいことがわかった。
【0042】
[実験例8]
負極のMg代わりにCa(アルドリッチ製)を用いた以外は実験例4と同様に作製したコイン型セルを実験例8とした。
【0043】
[実験例9]
負極のMgの代わりにCa(アルドリッチ製)を用いた以外は実験例6と同様に作製したコイン型セルを実験例9とした。
【0044】
(評価と考察)
図12は、実験例8,9の放電曲線である。実験例8,9は、いずれも放電し、セルとして機能することがわかった。また、実験例8,9では、活物質あたりの放電容量が30mAh/gのときの放電電圧は、実験例8が2.08Vであり、実験例9が1.64Vであった。このため、負極金属をCaとした場合であっても、実験例4,6と同様の結果が得られることがわかった。
【0045】
[実験例10]
プルシアンブルーの正極活物質の代わりにスピネル型リチウムマンガン酸化物の正極活物質を用いたコイン型セルを実験例10とした。正極は次のようにして作製した。三井鉱山製のスピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn
1.9Ni
0.1O
4)と、導電材としてカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)、結着材としてポリビニレンフルオライドポリマー溶液(PVdF、クレハ製KFポリマー#1120)を小型混錬機(アズワン製、泡とり錬太郎)により湿式混合し、得られたペーストをアルミ箔上に塗工した。150℃にて3時間、真空乾燥を行なった後、直径14mmの薄膜円板に打ち抜いた。なお、最終的に得られた正極の活物質、導電材、結着材の質量比は85:10:5であった。スピネル型リチウムマンガン酸化物の正極と、金属Liの負極と、EC+DEC(体積比50:50)を溶媒とし1.0mol/LのLiPF
6を溶解した電解液とを用いセルを組み、充電を行ってスピネル型リチウムマンガン酸化物の正極からリチウムを引き抜いた。リチウムを引き抜いたあとの正極を用い、実験例4と同様に作製したコイン型セルを実験例10とした。
【0046】
[実験例11]
TMPの代わりにPCを用いた以外は実験例10と同様に作製したコイン型セルを実験例11とした。
【0047】
(評価と考察)
図13は、実験例10,11の放電曲線である。実験例10,11では、放電は1.6Vまで行った。実験例10,11は、いずれも放電し、セルとして機能することがわかった。また、実験例10,11では、放電容量が0.50mAhのときの放電電圧は、実験例10が2.19Vであり、実験例11が1.85Vであった。このため、非水電解液の溶媒としてリン酸トリメチルを用いると、放電電圧をより高めることができ、より好ましいことがわかった。
【0048】
[実験例12]
正極のスピネル型リチウムマンガン酸化物の代わりに層状のリチウムコバルト酸化物(日本化学工業、LiCoO
2)を用いた以外は実験例10と同様に作製したコイン型セルを実験例12とした。実験例12では、放電は1.6Vまで行い、その後、電流を逆向きにして3.0Vまで充電した。
図14は、実験例12の充放電測定結果である。この実験例12では、放電容量が0.50mAhのときの放電電圧は2.25Vであった。また、実験例12に示すように、本発明の蓄電デバイスでは、充放電を行うことができた。
【0049】
[実験例13]
正極は次のようにして作製した。五酸化二バナジウム(アルドリッチ製)を57重量部、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP−600JD)を30重量部、結着材としてポリテトラフルオロエチレンパウダー(ダイキン工業製F−104)を13重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ正極合材としたあと、これを薄膜状に成形した。その正極合材の約6mg(直径10mm、厚さ120μm)を、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、80℃にて3時間真空乾燥を行い、正極とした。負極には、直径26mm、厚さ0.25mmの金属マグネシウム(ニラコ製)を用いた。電解液には、支持塩にLiPF
6(アルドリッチ製)、有機溶媒にN,N’−ジエチル−N−メチル−N−メトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学製、式13)を用い、支持塩濃度0.08mol/Lの電解液を調製し、用いた。この電解液では、トリフルオロメタンスルホネートアニオンが含まれていない。ポリエチレン製セパレータ(東燃化学製、厚さ25μm)3枚と上記正極を用い、コイン型セル(
図9参照)をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でセットし、上記電解液0.6mLをコイン型セルに注入した。なお、コインセル作製にあたり、Mg負極の表面をグローブボックス内で紙やすり(400番)で磨いてから用いた。
【0050】
作製したコインセルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極との間で正極材料あたり0.015mAの電流を流して0.6Vまで放電し、その後0.015mAで2.35Vまで充電した。
図15は、実験例13の充放電測定結果である。実験例13では、五酸化二バナジウム質量あたりの放電容量が9.1mAh/gと、極めて小さい値であった。