(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のセラミック電子部品の製造方法にように、乾式バレル研磨法により研磨して生のセラミック素体の稜線部を研磨した場合、研磨中にバレルポット内の温度が上昇し、生のセラミック素体が熱塑性変形を起こすことがあった。その結果として、積層セラミックコンデンサの外観不良が生じたり、端面において内部電極が露出状態となることにより、外部電極と内部電極とのコンタクト不良等の外部電極の連続性の悪化が生じ、積層セラミックコンデンサの信頼性の低下につながったりすることがあった。
【0007】
また、湿式バレル研磨法により研磨して生のセラミック素体の稜線部を研磨した場合には、水の中でバレル研磨を行うため、温度上昇による熱塑性変形を発生させず、稜線部を研磨することが可能であるが、生のセラミック素体の誘電体の添加成分が水に溶出することにより、積層セラミックコンデンサの信頼性の低下が問題となることがあった。
【0008】
具体的には、誘電体の添加成分であるBaが水中に溶出することにより、生のセラミック素体に含まれるBa量が少なくなり、セラミック誘電体のモル比(Ba/Ti)が小さくなる。セラミック誘電体は、モル比が小さくなるほど、焼結が進むことになるため、生のセラミック素体を焼成する際に、セラミックの焼結が過剰に進むことになる。このとき、セラミックの粒成長が過剰に進むことにより、添加物の固溶状態が変化したり、セラミック素体の悪化(理想的なセラミック素体は平滑であるべきだが、焼成時の異常粒成長によりセラミック素体の平滑性が失われる)が生じたりすることがあり、その結果、絶縁抵抗が低下することにより、積層セラミックコンデンサの信頼性の低下につながっていた。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、生のセラミック素体に対するバレル研磨により生ずる生のセラミック素体の熱塑性変形、および、セラミック電子部品の電気的特性の変化を抑制することができ、信頼性の高いセラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法は、複数のセラミック層と複数の内部電極とが交互に積層されてなるセラミック素体と、セラミック素体の両端面に露出される内部電極の露出部と電気的に接続されている外部電極と、を備えるセラミック電子部品の製造方法において、セラミック層と内部電極とを有する生のセラミック素体を得る工程と、生のセラミック素体の稜線部を研磨する工程と、を備え、生のセラミック素体の稜線部を研磨する工程は、溶媒と、セラミック素体の添加成分との混合物の入ったバレル内で、生のセラミック素体を、バレルを回転させることにより研磨する湿式バレル研磨を行
い、湿式バレル研磨後の生のセラミック素体を、35℃以下の環境下で乾燥する乾燥工程をさらに備えることを特徴とする、セラミック電子部品の製造方法である。
また、この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法は、吸引乾燥を行うことが好ましい。
さらに、この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法は、セラミック素体の添加成分が、BaおよびMgであることが好ましい。
【0011】
この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法によれば、生のセラミック素体の稜線部を研磨する工程において、湿式バレル研磨法により研磨を行うため、温度上昇による熱塑性変形を発生させることなく、稜線部を研磨することが可能となり、得られるセラミック電子部品の外観不良や、端面において内部電極が露出状態となることにより、外部電極と内部電極とのコンタクト不良等の外部電極の連続性の悪化によるセラミック電子部品の信頼性の低下を抑制することができる。
また、この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法では、湿式バレル研磨法により研磨を行う際、溶媒に誘電体(セラミック素体)の添加成分である、たとえば、BaおよびMgを事前に溶解させておく(すなわち、飽和状態を作っておく)ことで、湿式バレル研磨法による研磨中における添加成分の溶出を抑制することができ、セラミック誘電体のモル比(Ba/Ti)を維持することができるため、過焼結を防止し、その結果、セラミック電子部品の絶縁抵抗の低下などの電気的特性の変化を防止することができる。
さらに、生のセラミック素体を研磨する工程において、洗浄後の生のセラミック素体を乾燥する乾燥工程を備え、その乾燥工程では、35℃以下の温度の環境下で吸引乾燥を行うことで、セラミック素体を形成するために製造されるセラミックグリーンシートに含まれる可塑剤の作用によって低下した、該セラミックグリーンシートに含まれるバインダのガラス転移点以下の温度で乾燥させることから、該バインダの流動を抑制することができるため、生のセラミック素体同士のくっつき不良を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、生のセラミック素体に対するバレル研磨により生ずる生のセラミック素体の熱塑性変形、および、セラミック電子部品の電気的特性の変化を抑制することができ、信頼性の高いセラミック電子部品を提供することができる。
【0013】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(セラミック電子部品)
本発明が適用されるセラミック電子部品の一例について説明する。
図1は、この発明が適用されるセラミック電子部品の一例を示す外観斜視図を示し、
図2は、この発明が適用されるセラミック電子部品の一例を示す側面図である。
図3は、
図1のA−A線における断面を示す断面図解図である。このセラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサを例として示す。
【0016】
この実施の形態にかかるセラミック電子部品1は、セラミック素体10(積層体)と、セラミック素体10の表面に形成される第1および第2の外部電極12a,12bとから構成される。
【0017】
セラミック素体10は、複数の積層されたセラミック層14a,14bから構成される。そして、セラミック素体10は、直方体状に形成され、長さ方向(L方向)および幅方向(W方向)に沿って延びる第1主面16aおよび第2主面16bと、長さ方向(L方向)および高さ方向(T方向)に沿って延びる第1側面18aおよび第2側面18bと、幅方向(W方向)および高さ方向(T方向)に沿って延びる第1端面20aおよび第2端面20bとを有する。また、セラミック素体10において、第1主面16aおよび第2主面16bは互いに対向し、第1側面18aおよび第2側面18bは互いに対向し、第1端面20aおよび第2端面20bは、互いに対向する。さらに、セラミック素体10は、稜線部22に丸みがつけられている。
【0018】
セラミック層14a,14bとしては、たとえば、BaTiO
3、CaTiO
3、SrTiO
3、CaZrO
3などの主成分からなる誘電体セラミックが用いられる。また、これらの主成分にMn化合物、Fe化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物などの副成分を添加したものを用いてもよい。なお、誘電体セラミックは大きな静電容量を得るために、強誘電体セラミックスにより構成されていることが好ましい。セラミック層14a,14bの厚みは0.2μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0019】
なお、セラミック層14a,14bとしては、PZT系セラミックなどの圧電体セラミック、スピネル系セラミックなどの半導体セラミック、フェライトなどの磁性体セラミックを用いることもできる。
【0020】
セラミック素体10は、複数のセラミック層14aおよびセラミック層14bに挟まれるように複数の第1の内部電極24aおよび第2の内部電極24bを有する。したがって、複数のセラミック層14a,14bと複数の内部電極24a,24bとが交互に積層されている。第1および第2の内部電極24a,24bは、セラミック層14a,14bを挟んで対向しており、対向部分により電気特性(たとえば、静電容量など)が発生する。第1および第2の内部電極24a,24bの材料としては、たとえば、Ni、Cu、Ag、Pd、Ag−Pd合金、Auなどを用いることができる。第1および第2の内部電極24a,24bの厚みは、0.3μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0021】
第1の内部電極24aは、対向部26aと露出部28aとを有する。対向部26aは、第2の内部電極24bと対向する。露出部28aは、対向部26aからセラミック素体10の第1端面20aに延びて露出するように形成される。
【0022】
また、第2の内部電極24bは、第1の内部電極24aと同様に、対向部26bと露出部28bとを有する。対向部26bは、第1の内部電極24aと対向する。露出部28bは、対向部26bからセラミック素体10の第2端面20bに延びて露出するように形成される。
【0023】
このように、この実施の形態にかかるセラミック素体10については、上述したように、内部電極が誘電体セラミック層を介して対向することにより容量が形成されている。これにより、この積層セラミック電子部品は、コンデンサとして機能する。
【0024】
一方、圧電体セラミックを用いた場合は圧電部品として機能し、半導体セラミックを用いた場合はサーミスタとして機能し、磁性体セラミックを用いた場合はインダクタとして機能する。ただし、インダクタの場合、内部電極はコイル状の導体となる。
【0025】
セラミック素体10の第1端面20aには、第1の外部電極12aが第1の内部電極24aに電気的に接続され、第1端面20aおよび第1の内部電極24aを覆うように形成される。また、第1の外部電極12aは、第1主面16aおよび第2主面16bの一部ならびに第1側面18aおよび第2側面18bの一部を覆うように形成される。同様に、セラミック素体10の第2端面20bには、第2の外部電極12bが第2の内部電極24bに電気的に接続され、第2端面20bおよび第2の内部電極24bを覆うように形成される。また、第2の外部電極12bは、第1主面16aおよび第2主面16bの一部ならびに第1側面18aおよび第2側面18bの一部を覆うように形成される。
【0026】
第1の外部電極12aは、下地層30aと下地層30aの表面に形成されるめっき層32aとを有する。また、第2の外部電極12bは、下地層30bと下地層30bの表面に形成されるめっき層32bとを有する。
【0027】
下地層30a,30bの材料には、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag−Pd合金、Au等を用いることができる。下地層30a,30bは、内部電極24a,24bと同時焼成したコファイアによるものでもよく、導電性ペーストを塗布して焼き付けたポストファイアによるものでもよい。また、直接めっきにより形成されていてもよく、熱硬化性樹脂を含む導電性樹脂を硬化させることにより形成されていてもよい。
【0028】
なお、下地層30a,30bを外部電極用導電性ペーストの焼付けで形成する場合は、下地層30a,30bは、導電性金属とガラスとを含むペーストを用いることが好ましい。ガラス成分としては、B、Si、Ba、Mg、Al、Li、Znなどを含むガラスを用いることができる。また、下地層30a,30bとしては、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag−Pd合金、Auなどを用いることができる。下地層30a,30bは、内部電極24a,24bと同時焼成したコファイアによるものでもよく、外部電極用導電性ペーストを塗布して焼き付けたポストファイアによるものでもよい。また、直接めっきにより形成されていてもよく、熱硬化性樹脂を含む導電性樹脂を硬化させることにより形成されていてもよい。下地層30a,30bの厚みは、最も厚い部分において、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0029】
一方、めっき層32a,32bの材料には、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag−Pb合金、Au等を用いることができる。めっき層32a,32bは、複数層に形成されていてもよい。好ましくは、Niめっき、Snめっきの2層構造である。たとえば、内部電極24a,24bとしてNiを用いた場合、下地層38a,38bとしては、Niと接合性のよいCuを用いることが好ましい。また、めっき層32a,32bを2層構造とした場合、めっき層32a,32bの第1層の表面に形成される第2層は、はんだ濡れ性のよいSnやAuを用いることが好ましく、下地層38a,38bの表面に形成される第1層は、はんだバリア性能を有するNiを用いることが好ましい。めっき層32a,32bの一層あたりの厚みは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、下地層30a,30bとめっき層32a,32bとの間に、応力緩和用の導電性樹脂層が形成されていてもよい。
【0030】
また、下地層30a,30bをめっき処理により形成する場合は、下地層30a,30bは、たとえば、Cu、Ni、Sn、Pb、Au、Ag、Pd、BiおよびZnからなる群から選ばれる1種の金属または当該金属を含む合金を用いることができる。下地層30a,30bをめっき処理により形成する場合は、下地層30a,30bはガラス成分を含まないことが好ましく、下地層30a,30bの単位体積あたりの金属割合は99体積%以上であることが好ましい。内部電極24a,24bとしてNiを用いた場合、下地層30a,30bとしては、Niと接合性のよいCuを用いることが好ましい。この場合の下地層30a,30bの厚みは、1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明が適用されるセラミック電子部品の他の例について説明する。
図4は、この発明が適用されるセラミック電子部品の他の例を示す外観斜視図を示し、
図5は、この発明が適用されるセラミック電子部品の他の例を示す側面図である。
図6は、
図4のB−B線における断面を示す断面図解図である。このセラミック電子部品も、積層セラミックコンデンサを例として示す。なお、
図4ないし
図6において、
図1ないし
図3に示したセラミック電子部品1と同一の部分には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
このセラミック電子部品1’は、セラミック層14a,14bの積層数をセラミック電子部品1よりも多くすることで、略角柱形状のセラミック素体10により構成されている。このようなセラミック電子部品1’を製造する場合でも、本発明にかかるセラミック電子部品の製造方法を用いることができる。
【0033】
(セラミック電子部品の製造方法)
続いて、以上の構成からなるセラミック電子部品の製造方法の一実施の形態について、セラミック電子部品1を例にして説明する。
【0034】
まず、セラミックグリーンシート、第1および第2の内部電極24a,24bを形成するための内部電極用導電性ペーストおよび第1および第2の外部電極12a,12bを形成するための外部電極用導電性ペーストが準備される。なお、セラミックグリーンシート、内部電極用導電性ペーストおよび外部電極用導電性ペーストには、有機バインダおよび溶剤が含まれるが、公知の有機バインダや有機溶剤を用いることができる。
【0035】
そして、セラミックグリーンシート上に、たとえば、所定のパターンで内部電極用導電性ペーストを印刷し、セラミックグリーンシートには、内部電極のパターンが形成される。なお、内部電極用導電性ペーストは、スクリーン印刷法などの公知の方法により印刷することができる。
【0036】
次に、内部電極のパターンが印刷されていない外層用セラミックグリーンシートが所定枚数積層され、その上に、内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートが順次積層され、その上に、外層用セラミックグリーンシートが所定枚数積層され、マザー積層体が作製される。
【0037】
そして、このマザー積層体は、静水圧プレスなどの手段により積層方向に圧着される。
【0038】
その後、マザー積層体が所定の形状寸法に切断され、生のセラミック素体が切り出される(セラミック層と内部電極とを有する生のセラミック素体を得る工程)。
【0039】
次に、切り出された生のセラミック素体の稜線部が研磨され、丸みがつけられる(生のセラミック素体を研磨する工程)。この生のセラミック素体の稜線部を研磨する工程では、溶媒と、誘電体(セラミック素体)の添加成分との混合物がバレル内に注入され、その中に切り出された生のセラミック素体が投入されて、バレルを回転させることにより研磨が行われる(湿式バレル研磨法)。ここで、溶媒に溶解される誘電体(セラミック素体)の添加成分は、たとえば、BaおよびMgが用いられる。また、BaおよびMgの添加量は、溶媒の量に比例して調整する。溶媒は、たとえば、水が用いられる。
【0040】
続いて、生のセラミック素体を研磨する工程により、稜線部が研磨され丸みがつけられた切り出された生のセラミック素体を洗浄する(洗浄工程)。洗浄工程では、所定時間、水を用いて生のセラミック素体を洗浄し、バレル研磨の際の生のセラミック素体の削り屑や生のセラミック素体に付着した添加成分を洗い流す。
【0041】
その後、洗浄後の生のセラミック素体を乾燥させる(湿式バレル研磨後の生のセラミック素体を乾燥する乾燥工程)。乾燥工程では、一定の温度に保たれた環境下に洗浄後の生のセラミック素体を投入し、吸引乾燥させ、徐々に温度を低下させながら乾燥を行う。乾燥温度は、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのガラス転移点以下の温度で乾燥することが好ましく、具体的には35℃以下の環境下で乾燥を行うことが好ましい。本実施の形態では、35℃に保たれた環境下に洗浄後の生のセラミック素体を投入し、吸引乾燥させ、20℃まで温度を低下させながら乾燥を行う。これにより、セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤の作用によって低下した、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのガラス転移点に対して、それよりも低い温度で乾燥を行うことができる。よって、セラミックグリーンシートに含まれるバインダの流動を抑制することができるため、生のセラミック素体同士のくっつき不良を抑制することができる。
【0042】
続いて、研磨された生のセラミック素体が焼成され、積層体であるセラミック素体10が生成される。なお、生のセラミック素体を焼成するときの焼成温度は、セラミックの材料や内部電極用導電性ペーストの材料に依存するが、900℃以上1300℃以下であることが好ましい。なお、外部電極用導電性ペーストの焼成および生のセラミック素体の焼成は、たとえば、大気中、N
2雰囲気中、水蒸気+N
2雰囲気中などにおいて行われる。
【0043】
次に、セラミック素体に下地層を形成する工程について説明する。
【0044】
まず、下地層を外部電極用導電性ペーストの焼付けで形成する場合について説明する。
焼成後のセラミック素体10の第1端面20aおよび第2端面20bに外部電極用導電性ペーストが塗布され、焼き付けることで、第1および第2の外部電極12a,12bの下地層30a,30bが形成される。焼き付け温度は、700℃以上900℃以下であることが好ましい。また、必要に応じて、下地層30a,30bの表面に1層以上のめっき層32a,32bが形成される。
【0045】
次に、下地層をめっき処理により形成する場合について説明する。
焼成後のセラミック素体10の第1端面20aおよび第2端面20bにめっき処理を施し、第1および第2の内部電極24a,24bの露出部28a,28bの上に下地層30a,30bを形成する。めっき処理を行うにあたっては、電解めっき、無電解めっきのどちらを採用してもよいが、無電解めっきは、めっき析出速度を向上させるために、触媒などによる前処理が必要となり、工程が複雑化するというデメリットがある。したがって、通常は、電解めっきを採用することが好ましい。めっき工法としては、バレルめっきを用いることが好ましい。また、必要に応じて、めっき処理により下地層30a,30bを形成した後に、熱処理を施すことで、第1および第2の内部電極24a,24bと下地層30a,30bとの接合部を合金化し、接合強度を高める施策を導入してもよい。この場合、熱処理の温度は、たとえば、750℃以上1000℃以下であることが好ましい。さらに、必要に応じて、下地層30a,30bの表面に1層以上のめっき層32a,32bが形成される。
【0046】
以上の製造方法により、所望のセラミック電子部品1が得られる。
【0047】
本実施の形態にかかるセラミック電子部品の製造方法によると、生のセラミック素体の稜線部を研磨する工程において、湿式バレル研磨法により研磨を行うため、温度上昇による熱塑性変形を発生させることなく、稜線部を研磨することが可能となり、得られるセラミック電子部品1の外観不良や、セラミック素体10の端面において内部電極が露出状態となることにより、外部電極と内部電極とのコンタクト不良等の外部電極の連続性の悪化によるセラミック電子部品1の信頼性の低下を抑制することができる。
【0048】
また、この発明にかかるセラミック電子部品の製造方法では、湿式バレル研磨法により研磨を行う際、溶媒である水に誘電体(セラミック素体)の添加成分であるBaおよびMgを事前に溶解させておく(すなわち、飽和状態を作っておく)ことで、湿式バレル研磨法による研磨中における添加成分の溶出を抑制することができ、セラミック誘電体のモル比(Ba/Ti)を維持することができるため、過焼結を防止することができる。その結果、本実施の形態にかかるセラミック電子部品の製造方法により製造されるセラミック電子部品1の絶縁抵抗の低下などの電気的特性の変化を防止することができる。
【0049】
(実験例)
実験例では、上述の方法によりセラミック電子部品1を作製し、熱塑性変形の有無の確認、HALT(Highly Accelerated Life Test)による信頼性試験の変化(IR劣化)の確認、およびくっつき不良の確認を行った。
【0050】
(実施例)
実施例1では、上述の実施の形態にかかるセラミック電子部品の製造方法で、
図1に示すセラミック電子部品1である積層セラミックコンデンサを製造した。生のセラミック素体の湿式バレル研磨法による研磨の条件は、以下のとおりとした。すなわち、バレルの条件は、水300ccに誘電体(セラミック素体)の添加成分としてMgを1cc、Baを70cc添加したものをバレル内に注入した。そして、バレル内に100000個の生のセラミック素体を投入し、バレル研磨による研磨時間を60分間とし、回転数を180rpmで回転させることにより研磨を行った。
その後、バレル研磨後の生のセラミック素体を洗浄し、乾燥工程において乾燥を行った。乾燥工程では、25℃に保たれた環境下に洗浄後の生のセラミック素体を投入し、吸引乾燥させ、20℃まで温度を低下させながら20分間乾燥を行った。
【0051】
また、実施例2では、上述の実施の形態にかかるセラミック電子部品の製造方法で、
図1に示すセラミック電子部品1である積層セラミックコンデンサを製造した。生のセラミック素体の湿式バレル研磨法による研磨の条件は、以下のとおりとした。すなわち、バレルの条件は、水300ccに誘電体(セラミック素体)の添加成分としてMgを1cc、Baを70cc添加したものをバレル内に注入した。そして、バレル内に100000個の生のセラミック素体を投入し、バレル研磨による研磨時間を60分間とし、回転数を180rpmで回転させることにより研磨を行った。
その後、バレル研磨後の生のセラミック素体を洗浄し、乾燥工程において乾燥を行った。乾燥工程では、30℃に保たれた環境下に洗浄後の生のセラミック素体を投入し、吸引乾燥させ、25℃まで温度を低下させながら20分間乾燥を行った。
【0052】
また、実施例3では、上述の実施の形態にかかるセラミック電子部品の製造方法で、
図1に示すセラミック電子部品1である積層セラミックコンデンサを製造した。生のセラミック素体の湿式バレル研磨法による研磨の条件は、以下のとおりとした。すなわち、バレルの条件は、水300ccに誘電体(セラミック素体)の添加成分としてMgを1cc、Baを70cc添加したものをバレル内に注入した。そして、バレル内に100000個の生のセラミック素体を投入し、バレル研磨による研磨時間を60分間とし、回転数を180rpmで回転させることにより研磨を行った。
その後、バレル研磨後の生のセラミック素体を洗浄し、乾燥工程において乾燥を行った。乾燥工程では、35℃に保たれた環境下に洗浄後の生のセラミック素体を投入し、吸引乾燥させ、20℃まで温度を低下させながら20分間乾燥を行った。
【0053】
製造された積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.15mmとした。また、セラミック層14a,14b(誘電体セラミック)として、チタン酸バリウム系誘電体セラミックを用いた。さらに、内部電極24a、24bの材料としてNiを用いた。さらに、外部電極12a,12bについて、下地層30a,30bはCuにより形成され、めっき層32a,32bは、第1層にNiめっき膜が形成され第1層の上に形成される第2層にSnめっき膜が形成される2層構造により形成された。
【0054】
(比較例)
比較例1では、実施例と同様に、生のセラミック素体について、従来の湿式バレル研磨法を用いて研磨したが、研磨に用いる水には誘電体の添加成分としてMgおよびBaを添加しなかった。また、バレルの条件は、MgおよびBaを添加しないこと以外は、実施例と同じ条件とした。また、製造されたセラミック電子部品の外部電極も実施例と同じ構造に形成した。
【0055】
また、比較例2では、実施例とは異なり従来の乾式バレル研磨法を用いて研磨した。すなわち、水、誘電体の添加成分としてMgおよびBaは添加しなかった。また、バレルの条件は、水、MgおよびBaを添加せず、バレル研磨による研磨時間を180分間とした以外は、実施例と同じ条件とした。また、製造されたセラミック電子部品の外部電極も実施例と同じ構造に形成した。なお、バレル時間が湿式バレル研磨法よりも長いのは、乾式バレル研磨法は、湿式バレル研磨法に比べて研磨力が劣るため、同様な構造を得るためにはバレル研磨による研磨時間を長くする必要があるためである。
【0056】
また、比較例3では、実施例と同様に、生のセラミック素体について、湿式バレル研磨法を用いて研磨したが、その後の乾燥工程においては、吸引乾燥を行わず、50℃の一定温度の環境下で20分間乾燥を行った。また、バレルの条件は、実施例と同じ条件とした。なお、製造されたセラミック電子部品の外部電極も実施例と同じ構造に形成した。
【0057】
さらに、比較例4では、実施例と同様に、生のセラミック素体について、湿式バレル研磨法を用いて研磨したが、その後の乾燥工程においては、吸引乾燥を行わず、60℃の一定温度の環境下で20分間乾燥を行った。また、バレルの条件は実施例と同じ条件とした。なお、製造されたセラミック電子部品の外部電極も実施例と同じ構造に形成した。
【0058】
(熱塑性変形の確認方法)
上記で得られた実施例1ないし実施例3、ならびに比較例1および比較例2の各試料にかかる積層セラミックコンデンサをL方向に沿って、1/2Wの位置まで断面研磨を行い、片側のセラミック素体10の端部において、端面に沿った垂線を基準として、セラミック素体10の端面の一番飛び出ている部分からセラミック素体10の端面の一番凹んでいる部分までのL方向に沿った距離をマイクロスコープ(倍率×1000倍)で測定した。その際、その距離が3μm以上のものを熱塑性変形したものとしてカウントした。熱塑性変形の確認は、実施例1ないし実施例3、ならびに比較例1および比較例2において、それぞれ100個ずつ準備して行った。
【0059】
(HALTによるIR劣化の確認方法)
上記で得られた実施例1ないし実施例3、ならびに比較例1および比較例2の各試料にかかる積層セラミックコンデンサについて、150℃の温度にて、8Vの電圧を印加するHALT(超加速ライフ試験)を行った。この超加速試験において、IR値が10kΩ以下になるまでの時間が10時間を下回るものを信頼性に劣ると評価した。HALTによるIR劣化の確認は、実施例1ないし実施例3、ならびに比較例1および比較例2において、それぞれ18個ずつ準備して行った。
【0060】
(くっつき不良の確認)
乾燥工程後に得られた実施例1ないし実施例3、ならびに比較例3および比較例4の各試料にかかる生のセラミック素体を、生のセラミック素体1個分が通過する大きさのメッシュを持つ篩に投入し、振動を与えてメッシュを通過しなかった生のセラミック素体をくっつき不良とした。
【0061】
表1は、実施例1ないし実施例3、ならびに比較例1および比較例2のそれぞれの積層セラミックコンデンサに対する熱塑性変形の有無の確認と、HALTによる信頼性試験の変化(IR劣化)を確認した結果を示す。
また、表2は、実施例1ないし実施例3、ならびに比較例3および比較例4のそれぞれの乾燥工程後に得られた生のセラミック素体に対して行った、くっつき不良を確認した結果を示す。
【0064】
以上のことから、本発明にかかるセラミック電子部品の製造方法を用いることで、温度上昇による熱塑性変形を発生させることなく、稜線部を研磨することが可能となり、積層セラミックコンデンサの外観不良や、セラミック素体10の端面において内部電極が露出状態となることにより、外部電極と内部電極とのコンタクト不良等の外部電極の連続性の悪化による信頼性の低下(IRの低下)を抑制しうることが確認された。
【0065】
また、水の中でバレル研磨を行う際、水に誘電体(セラミック素体)の添加成分を事前に溶解させておく(飽和状態を作っておく)ことで、研磨中の添加成分の溶出を抑制することができ、セラミック誘電体のモル比(Ba/Ti)を維持することができるため、過焼結を防止し、積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗の低下などの電気的特性の変化を防止しうることが確認された。
【0066】
さらに、バレル研磨後の乾燥工程において、吸引乾燥を行いながら35℃以下の温度で乾燥を行うことで、生のセラミック素体同士のくっつき不良を抑制することができ、製品の歩留まりの低下を抑制しうることが確認された。
【0067】
したがって、本発明によるセラミック電子部品の製造方法を用いることで、生のセラミック素体に対するバレル研磨により生ずる生のセラミック素体の熱塑性変形、および、セラミック電子部品の電気的特性の変化(絶縁抵抗の低下)を抑制することができ、信頼性の高いセラミック電子部品を提供することができる。
【0068】
なお、この発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形される。また、セラミック電子部品のセラミック層の厚み、層数、対向電極面積および外形寸法は、これに限定されるものではない。