(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
制振対象物に固定された上部構造部と、前記上部構造部から吊られた第1質量体と、制振対象物に固定された下部構造部と、前記下部構造部に支持された第2質量体と、前記第1質量体と前記第2質量体との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、前記第1質量体と前記第2質量体を水平方向に拘束する連結部材と、前記第1質量体と前記第2質量体との間に前記鉛直方向に配置されたダンパーであって、前記第1質量体と前記第2質量体との前記鉛直方向の相対速度が小さいときに減衰係数が大きくなり、前記相対速度が大きいときに前記減衰係数が小さくなるダンパーとを備えることを特徴とする制振システムが明らかとなる。
このような制振システムによれば、鉛直方向にダンパーを配置しても、ダンパーの減衰力を確保できる。
【0011】
前記第2質量体は、前記下部構造部に対して回動可能に連結された支持部材によって、前記第1質量体よりも高い位置に支持されていることが望ましい。これにより、制振システムの高さを抑えることができる。
【0012】
また、前記第1質量体は、前記第2質量体を囲繞することが望ましい。これにより、第2質量体の移動範囲を狭めることができる。
【0013】
前記上部構造部は、内部空間の上部が狭くなるアーチ形状であることが望ましい。これにより、上部構造部の強度が高くなる。
【0014】
前記第2質量体は、水平方向にスライド可能に前記下部構造部上に支持されていることが望ましい。これにより、第2質量体の設置が容易な構造にできる。
【0015】
前記第2質量体は、前記第1質量体を囲繞することが望ましい。これにより、第1質量体を吊り下げる吊り部材の間隔を狭くできる。
【0016】
前記連結部材は、前記第1質量体と前記第2質量体との鉛直方向の相対変位に対して、復元力を生じさせることが望ましい。これにより、第1質量体と第2質量体の過大な変位を抑制できるとともに、低振幅から大振幅まで幅広い領域で制振効果を発揮できる。
【0017】
===参考例===
<第1参考例>
図12Aは、第1参考例の制振システム1のモデル説明図である。第1参考例の制振システム1は、上部構造部11から吊られた質量体Mで構成された振り子型の制振システム1である。
【0018】
質量体Mを吊す吊り部材21の長さをLとすると、第1参考例の質量体Mの周期Tは、次式の通りである。
【0020】
つまり、第1参考例の制振システム1の場合、周期Tは吊り部材21の長さLにのみ依存することになる。このため、制振対象物となる建物の固有周期が長い場合、第1参考例の制振システム1では、吊り部材21の長さLを長くする必要があり、制振システム1が大型化してしまう。
【0021】
加えて、制振システム1の周期Tを調整するときには、吊り部材21の長さLを調整するしかない。しかし、質量体Mは大質量であるため、安全性を確保しながら吊り部材21の長さLを調整するには、手間やコストがかかってしまう。
【0022】
<第2参考例>
図12Bは、第2参考例の制振システム1のモデル説明図である。第2参考例の制振システム1は、第1参考例の制振システム1に更にダンパー32を追加した構造である。
第2参考例のダンパー32は、質量体Mの水平方向の変位に対して減衰力を発生するように配置されている。但し、制振対象物となる建物の固有周期が長い場合、吊り部材21の長さLを長くする必要があるため、この結果、質量体Mの水平方向の変位が大きくなる。このため、第2参考例のダンパー32は、水平方向に大きく変位する質量体Mに追従する必要がある。しかし、大ストローク(例えば数メートルのストローク)のダンパー32は、コストがかかってしまう。
【0023】
===第1実施形態===
<基本構成>
図1Aは、第1実施形態の制振システム1を上から見た図である。
図1Bは、
図1Aで省略した上部構造部11を上から見た図である。
図2A〜
図2Cは、
図1Aの各部の断面説明図である。以下の説明では、水平方向をXY方向とし、鉛直方向をZ方向として説明することがある。
【0024】
第1実施形態の制振システム1は、上部構造部11と、下部構造部12と、第1質量体M1と、吊り部材21と、第2質量体M2と、支持アーム22と、連結部材31と、ダンパー32とを有する。
【0025】
上部構造部11及び下部構造部12は、制振対象物となる建物に固定された構造部である。下部構造部12は例えば建物の床であり、上部構造部11は、例えば床に固定した鉄骨フレームである。
【0026】
第1質量体M1は、上部構造部11から吊り部材21により吊られた質量体である。吊り部材21は、第1質量体M1を上部構造部11から吊り下げる部材である。吊り部材21は、上端が上部構造部11に対して回動可能に連結されており、下端が第1質量体M1に対して回動可能に連結されている。第1質量体M1及び吊り部材21によって、振り子が構成されている。
【0027】
第2質量体M2は、下部構造部12から支持アーム22に支持された質量体である。支持アーム22は、第2質量体M2を下部構造部12から支持する支持部材である。支持アーム22は、下端が下部構造部12に対して回動可能に連結されており、上端が第2質量体M2に対して回動可能に連結されている。第2質量体M2及び支持アーム22によって、倒立振り子が構成されている。なお、第1質量体M1及び第2質量体M2の振動を安定させるため、第2質量体M2は第1質量体M1よりも質量が小さくなるように構成されている。
【0028】
図2A〜
図2Cに示すように、第1質量体M1は第2質量体M2よりも低い位置に配置されており、第2質量体M2は第1質量体M1よりも高い位置に配置されている。これは、制振システム1の高さを抑えながら、吊り部材21及び支持アーム22の長さLをできるだけ長くするためである。
【0029】
図1Aに示すように、上から見たとき、第1質量体M1は、第2質量体M2を囲繞している。つまり、第1質量体M1は、第2質量体M2の外側に配置されている。これにより、不安定な倒立振り子を第1質量体M1の内側に配置できる。
また、第2質量体M2が第1質量体M1に囲繞されることによって、第2質量体M2が、第1質量体M1の内側で変位することになるため、第2質量体M2の移動範囲が、第1質量体M1の移動範囲よりも狭くなる。既に説明したように第2質量体M2は第1質量体M1よりも上側に位置しているため、第2質量体M2の移動範囲が狭くなれば、上部構造部1の内部空間の上側を狭くすることができる。これにより、横から見たときに上部構造部11をアーチ形状にすることができ、上部構造部11の強度を高めることができる。
【0030】
連結部材31は、第1質量体M1と第2質量体M2とを連結する部材である。言い換えると、連結部材31は、第1質量体M1及び吊り部材21で構成された振り子と、第2質量体M2及び支持アーム22で構成された倒立振り子とを連結する部材である。連結部材31は、第1質量体M1及び第2質量体M2を水平方向に拘束する。これにより、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位は同じになる。第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に変位すると、第1質量体M1は鉛直方向上側に変位するのに対し、第2質量体M2は鉛直方向下側に変位する。このため、連結部材31は、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、第1質量体M1と第2質量体M2を水平方向に拘束する。
連結部材31として、ここでは積層ゴムが用いられている。但し、連結部材31は、積層ゴムに限られるものではなく、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、第1質量体M1と第2質量体M2を水平方向に拘束する部材であれば、他の部材でも良い。例えば、連結部材31は、鉛プラグ入り天然積層ゴム(LRB)や高減衰積層ゴムなどのように、減衰機能を備えたものでも良い。また、連結部材31は、リニアスライダーのような転がり型のものでも良い。
【0031】
連結部材31に積層ゴムを用いた場合、積層ゴムがバネのように機能し、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位に対して、鉛直方向の抵抗力(復元力)を生じさせる。第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の移動量が小さい場合、第1質量体M1と第2質量体M2との相対変位が小さいため、バネの抵抗力が小さいが、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の移動量が大きい場合には、第1質量体M1と第2質量体M2との相対変位が大きくなるため、バネの抵抗力が大きくなる。このため、積層ゴムのようにバネとして機能する連結部材31を採用した場合には、第1質量体M1及び第2質量体M2の過大な変位を抑制でき、フェールセーフ機能を備えた制振システム1を構成できるという効果がある。
【0032】
ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されている。第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位が変化すると、ダンパー32のストロークが伸縮することになる。これにより、ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度に対して減衰力を発生することになる。
ダンパー32として、ここではオイルダンパーが用いられている。但し、ダンパー32は、オイルダンパーに限られるものではなく、減衰こま(RDT)などでも良い。
【0033】
図3Aは、第1実施形態の制振システム1の第1質量体M1及び第2質量体M2のモデル説明図である。
第1質量体M1の質量をm1、第2質量体M2の質量をm2、吊り部材21及び支持アーム22の長さをLとすると、このモデルの周期Tは、次式の通りである(なお、上記の通り、第2質量体M2は第1質量体M1よりも質量が小さく構成されているので、m1−m2>0である)。
【0034】
T=2π√{(L/g)×(m1+m2)/(m1−m2)}
【0035】
つまり、第1実施形態の制振システム1の場合、周期Tは、吊り部材21の長さLだけでなく、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量にも依存する。このため、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量を調整すれば、吊り部材21の長さLを短縮可能であり、制振システム1の高さを抑えて制振システム1の小型化を図ることができる。また、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量を調整すれば、吊り部材21等の長さLを調整しなくても、周期Tの調整が可能であるため、調整作業が容易になる。
【0036】
図3Bは、第1実施形態のダンパー32の配置の説明図である。
ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されており、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度に対して減衰力を発生するように配置されている。これにより、第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に大きく変位しても、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位が小さいため、第1実施形態では、小ストロークのダンパー32を用いることができ、制振システム1が安価になる。
【0037】
なお、吊り部材21及び支持アーム22の長さLが3mであり、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位が2mの場合、ダンパー32のストロークは約160cm(±80cm)となる。つまり、水平方向の変位に対して、小ストロークのダンパー32を用いることができる。
【0038】
図3Cは、第1質量体M1の水平方向及び鉛直方向の変位の説明図である。第1質量体M1は、水平方向に変位する際に鉛直方向にも変位する(なお、第2質量体M2は、鉛直方向逆向きに変位する)。このとき、鉛直方向の相対変位は、水平方向の変位に対して、非線形の関係になる。また、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されたダンパー32のストロークの変化も、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位に対して非線形の関係になる。この結果、第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に変位しても、第1質量体M1及び第2質量体M2の鉛直方向の相対変位がほとんど変化せず、ダンパー32の減衰力がほとんど生じないことがある。
【0039】
<ダンパー32の減衰特性>
・第2参考例の場合
図13A及び
図13Bは、
図12Bの第2参考例の制振システム1のダンパー32の動作説明図である。
図13Aは、制振システム1の水平変位Dxの説明図である。以下の説明では、制振対象物の振動による制振システム1の水平変位をDxとする。
図13Bは、
図12Bの第2参考例のダンパー32の動作の説明図である。ここでは、ダンパー32の水平方向のストローク量をdxとし、ダンパー32の水平方向のストロークの変化速度をVxとし、ダンパー32の減衰力(抵抗力)をFとする。
【0040】
図14は、減衰係数Cが一定のダンパー32の減衰力Fのグラフである。グラフの横軸は、ダンパー32のストロークの変化速度Vを示しており、グラフの縦軸は、減衰力F(抵抗力)を示している。減衰力Fは、減衰係数Cと速度Vとの積となる(F=C×V)。言い換えると、
図14のグラフの傾きが減衰係数Cとなり、ここではグラフの傾きが一定になっている(減衰係数Cが一定である)。
【0041】
図15A〜
図15Dは、第2参考例の場合の時間変化のグラフである。
図15Aは、制振システム1の水平変位Dxの時間変化のグラフである。
図15Bは、ダンパー32の水平方向のストローク量dxの時間変化のグラフである。第2参考例の場合、ダンパー32の水平方向のストローク量dxは、制振システム1の水平変位Dxと一致する。
図15Cは、ダンパー32の水平方向のストローク変化速度Vxの時間変化のグラフである。ダンパー32の水平方向のストローク変化速度Vxは、ダンパー32の水平方向のストローク量dxの一次微分になる。
図15Dは、第2参考例のダンパー32の減衰力Fの時間変化のグラフである。
図15Dの減衰力Fは、
図15Cの速度Vxと一定の減衰係数C(
図14のグラフの傾き)との積として算出できる。
【0042】
図7Aは、第2参考例の制振システム1の水平変位Dxに対するダンパー32の減衰力Fのグラフである。図に示すように、第2参考例の制振システム1では、水平変位Dxがゼロ近傍であっても、所定の減衰力Fを得ることができる。また、制振対象物の振幅の小さい場合にも、水平変位Dxに応じた減衰力Fを得ることができる(但し、既に述べた通り、第2参考例のダンパー32は、大ストロークになり、コストがかかる)。
【0043】
・第1実施形態のダンパー32の減衰係数Cが一定の場合
図4A及び
図4Bは、第1実施形態の制振システム1のダンパー32の動作説明図である。上記と同様に、
図4Aに示すように、制振対象物の振動による制振システム1の水平変位をDxとする。
図4Bは、第1実施形態のダンパー32の動作の説明図である。ここでは、ダンパー32の鉛直方向のストローク量をdzとし、ダンパー32の鉛直方向のストロークの変化速度をVzとし、ダンパー32の減衰力(抵抗力)をFとする。なお、ダンパー32の鉛直方向のストローク量dzは、第1質量体M1及び第2質量体M2が基準位置にあるときに最大となり、第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に最大変位したときに最小となる。また、ダンパー32の鉛直方向のストローク変化速度Vzは、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度に相当する。
【0044】
図5A〜
図5Dは、第1実施形態の制振システム1の時間変化のグラフである。
図5Aは、制振システム1の水平変位Dxの時間変化のグラフである。
図5Bは、ダンパー32の鉛直方向のストローク量dzの時間変化のグラフである。前述の第2参考例では、ダンパー32の水平方向のストローク量dxは制振システム1の水平変位Dxと一致しているのに対し、第1実施形態のダンパー32の鉛直方向のストローク量dz(
図5B)は、制振システム1の水平変位Dx(
図5A)に対して非線形の関係になっている。これは、第2参考例ではダンパー32が水平方向に配置されているのに対し、第1実施形態のダンパー32は鉛直方向に配置されているためである。
図5Cは、ダンパー32の鉛直方向のストローク変化速度Vzの時間変化のグラフである。ダンパー32の鉛直方向のストローク変化速度Vzは、ダンパー32の鉛直方向のストローク量dzの一次微分になる。また、ダンパー32の鉛直方向のストローク変化速度Vzは、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度に相当する。
図5Dは、ダンパー32の減衰力Fの時間変化のグラフである。ここでは、ダンパー32の減衰係数Cを一定とし、
図5Dの減衰力Fは、
図5Cの速度Vzと一定の減衰係数C(
図14のグラフの傾き)との積として算出できる。
【0045】
図7Bは、ダンパー32の減衰係数Cを一定としたときの第1実施形態の制振システム1の水平変位Dxに対するダンパー32の減衰力Fのグラフである。図に示すように、第1実施形態では、水平変位Dxがゼロ近傍のときには減衰力Fがほとんど得られない。また、ダンパー32の鉛直方向のストローク量dzが制振システム1の水平変位Dxに対して非線形であることに起因して、ダンパー32の減衰力Fに振幅依存性が生じ、水平変位Dxが小さいときの減衰力Fが低下し、この結果、制振対象物の振幅が小さくなるとダンパー32の吸収エネルギーが極端に低下してしまう(
図7Aの場合と比べて、減衰力Fの低下が著しい)。このように振幅に対するダンパー32の吸収エネルギーが極端に変化してしまうと、振幅に応じた減衰力Fを制振システム1が得にくくなるという問題が生じる。
【0046】
このため、制振対象物の振幅が小さくなっても、ダンパー32の吸収エネルギーが極端に低下しないことが望ましい。そこで、次に説明する特性のダンパー32を用いて、ダンパー32の初期動作時の減衰力Fを確保している。
【0047】
・変化速度Vzが小さいときの減衰係数Cが大きいダンパー32の場合
図6Aは、ストローク変化速度Vが小さいときの減衰係数Cが大きく、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32の減衰力Fのグラフ(F−V線図)である。
図6Aのグラフの横軸は、ダンパー32のストロークの変化速度Vを示しており、グラフの縦軸は、減衰力F(抵抗力)を示している。ここでは、変化速度Vの低速領域(変化速度VがV1以下の領域)では減衰力Fが変化速度Vに比例して増加し、変化速度VがV1を越えると、減衰力Fが一定になっている。
図6Bは、ストローク変化速度Vが小さいときの減衰係数Cが大きく、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32の減衰係数Cのグラフ(C−V線図)である。
図6Bのグラフの横軸は、ダンパー32のストロークの変化速度Vを示しており、グラフの縦軸は、減衰係数Cを示している。減衰力Fは、減衰係数Cと速度Vとの積となるため(F=C×V)、
図6Aのグラフ(F−V線図)の各点と原点とを結ぶ線の傾きが、このダンパー32の減衰係数Cとなる。
図6Bに示すように、ダンパー32の減衰係数Cは、変化速度Vの低速領域(変化速度VがV1以下の領域)では一定値C1となり、変化速度VがV1を越えると変化速度Vの増加に伴って減少する特性を有する。このため、ダンパー32のストローク変化速度Vが小さいときに減衰係数Cが大きく、ストローク変化速度Vが大きいときに減衰係数Cが小さくなる。ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されているため、ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度が小さいときに減衰係数Cが大きく、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度が大きいときに減衰係数Cが小さくなる。
【0048】
図5Eは、
図6Bのダンパー32を用いた場合の減衰力Fの時間変化のグラフである。
図5Eの減衰力Fは、
図5Cの変化速度Vzと、減衰係数C(
図6B参照)との積として算出できる。
図7Cは、
図6Bのダンパー32を用いた場合の第1実施形態の制振システム1の水平変位Dxに対するダンパー32の減衰力Fのグラフである。水平変位Dxがゼロ近傍のときに減衰力Fがほとんど得られないものの、ダンパー32の減衰係数Cが一定の場合と比べると(
図7B参照)、制振対象物の振幅が小さくなっても、減衰力Fが確保されている。これは、鉛直方向の変化速度Vzが小さいときの減衰係数Cが大きいためである。これにより、ダンパー32の減衰係数Cが一定の場合と比べると、制振対象物の振幅が小さくてもダンパー32の吸収エネルギーの極端な低下を抑制でき、振幅に応じた減衰力Fが得やすくなる。
【0049】
なお、ダンパー32は、
図6A及び
図6Bに示す特性のダンパー32に限られるものではない。
図8Aは、別のダンパー32の減衰力F及び減衰係数Cのグラフである。このダンパーの減衰係数C(
図8Aの右のグラフ)は、
図8Aの左のグラフの各点と原点とを結ぶ線の傾きとなる。このダンパー32も、鉛直方向の変化速度Vzが小さいときの減衰係数Cが大きく、鉛直方向の変化速度Vzが大きいときの減衰係数Cが小さい。このような特性のダンパー32を用いた場合にも、ダンパー32の初期動作時の減衰力Fが確保されるため、制振対象物の振幅が小さくてもダンパー32の吸収エネルギーの極端な低下を抑制できる。
【0050】
上記の
図6B及び
図8Aに示すダンパー32は、変化速度Vzの低速領域で減衰係数Cが一定である。但し、
図8Bに示すように、変化速度Vの低速領域においてもダンパー32の減衰係数Cが徐々に小さくなっても良い(
図8Bの左のグラフの各点と原点とを結ぶ線の傾きが徐々に小さくなっても良い)。このような特性のダンパー32を用いた場合にも、ダンパー32の初期動作時の減衰力Fが確保されるため、制振対象物の振幅が小さくてもダンパー32の吸収エネルギーの極端な低下を抑制できる。
【0051】
なお、既に説明した通り、積層ゴムのようにバネとして機能する連結部材31を採用した場合には、バネの抵抗力(復元力)によって第1質量体M1及び第2質量体M2の過大な変位を抑制できる。このため、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32と、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平変位の増加に伴いバネの抵抗力(復元力)の大きくなる連結部材31とを併用することによって、質量体の過大変位防止機能を備えながら、低振幅から大振幅まで幅広い領域で制振効果を発揮できる制振システム1を構成することが可能になる。
【0052】
===第2実施形態===
<基本構成>
図9は、第2実施形態の制振システム1を上から見た図である。
図10A〜
図10Cは、
図9の各部の断面説明図である。
【0053】
第2実施形態の制振システム1は、上部構造部11と、下部構造部12と、第1質量体M1と、吊り部材21と、第2質量体M2と、連結部材31と、ダンパー32とを有する。
【0054】
上部構造部11及び下部構造部12は、制振対象物となる建物に固定された構造部である。下部構造部12は例えば建物の床であり、上部構造部11は、例えば床に固定した鉄骨フレームである。
【0055】
第1質量体M1は、上部構造部11から吊り部材21により吊られた質量体である。吊り部材21は、第1質量体M1を上部構造部11から吊り下げる部材である。吊り部材21は、上端が上部構造部11に対して回動可能に連結されており、下端が第1質量体M1に対して回動可能に連結されている。第1質量体M1及び吊り部材21によって、振り子が構成されている。
【0056】
第2質量体M2は、下部構造部12に対して水平方向にスライド可能に支持された質量体である。第2質量体M2は、転がり支承などの支承部材23によって、水平方向にスライド可能に下部構造部12上に支持されている。支承部材23は、第2質量体M2を水平方向にスライド可能に下部構造部12上に支持する支持部材である。
【0057】
第2実施形態では、第2質量体M2が下部構造部12に直接支持されているため、第1実施形態の支持アーム22が不要になり、不安定な倒立振り子の設置と比べると、第2質量体M2の設置が容易になる。
【0058】
連結部材31は、第1質量体M1と第2質量体M2とを連結する部材である。連結部材31は、第1質量体M1及び第2質量体M2を水平方向に拘束する。これにより、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位は同じになる。第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に変位すると、第1質量体M1が鉛直方向上側に変位するため、連結部材31は、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位を許容しつつ、第1質量体M1と第2質量体M2を水平方向に拘束する。なお、第2実施形態では、第2質量体M2は、鉛直方向には変位しない。
【0059】
第1質量体M1の質量をm1、第2質量体M2の質量をm2、吊り部材21の長さをLとすると、このモデルの周期Tは、次式の通りである。
【0060】
T=2π√{(L/g)×(m1+m2)/m1}
【0061】
つまり、第2実施形態においても、周期Tは、吊り部材21の長さLだけでなく、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量にも依存する。このため、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量を調整すれば、吊り部材21の長さLを短縮可能であり、制振システム1の高さを抑えて制振システム1の小型化を図ることができる。また、第1質量体M1及び第2質量体M2の質量を調整すれば、吊り部材21の長さLを調整しなくても、周期Tの調整が可能であるため、調整作業が容易になる。
【0062】
ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されている。第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対変位が変化すると、ダンパー32のストロークが伸縮することになる。これにより、ダンパー32は、第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度に対して減衰力を発生することになる。
【0063】
第2実施形態においても、第1質量体M1及び第2質量体M2の鉛直方向の相対変位は、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位に対して、非線形の関係になる。また、第1質量体M1と第2質量体M2との間に鉛直方向に配置されたダンパー32のストロークの変化も、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位に対して非線形の関係になる。この結果、第1質量体M1及び第2質量体M2が水平方向に変位しても、第1質量体M1及び第2質量体M2の鉛直方向の相対変位がほとんど変化せず、ダンパー32の減衰力がほとんど生じないことがある。
【0064】
このため、第2実施形態においても、
図6A及び
図6Bに示す特性のダンパー32を用いると良い。すなわち、ストローク変化速度V(第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度)が小さいときの減衰係数Cが大きく、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32を用いると良い。これにより、ダンパー32の減衰係数Cが一定の場合と比べると、制振対象物の振幅が小さくてもダンパー32の吸収エネルギーの極端な低下を抑制でき、振幅に応じた減衰力Fが得やすくなる。
【0065】
また、第2実施形態では、第2質量体M2が鉛直方向に変位しないため、第1実施形態と比べて、第1質量体M1及び第2質量体M2の鉛直方向の相対変位が小さくなる。このため、第2実施形態のダンパー32は、第1実施形態のダンパー32よりも小ストロークで良い。吊り部材21の長さLが3mであり、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位が2mの場合、ダンパー32のストロークは約80cm(±40cm)となる。
【0066】
第2実施形態では、第1実施形態と比べて、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平方向の変位に対する鉛直方向の相対変位が小さくなる。このため、第2実施形態のダンパー32に
図6A及び
図6Bに示す特性のダンパー32を採用した場合の効果は、より顕著となる。
【0067】
また、第2実施形態においても、積層ゴムのようにバネとして機能する連結部材31を採用した場合には、バネの抵抗力(復元力)によって第1質量体M1及び第2質量体M2の過大な変位を抑制できる。このため、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32と、第1質量体M1及び第2質量体M2の水平変位の増加に伴いバネの抵抗力(復元力)の大きくなる連結部材31とを併用することによって、質量体の過大変位防止機能を備えながら、低振幅から大振幅まで幅広い領域で制振効果を発揮できる制振システム1を構成することが可能になる。
【0068】
<変形例>
上記の第2実施形態では、第1質量体M1が第2質量体M2を囲繞していた。但し、第2質量体M2が第1質量体M1を囲繞しても良い。
図11は、第2実施形態の変形例の説明図である。変形例では、第2質量体M2が第1質量体M1を囲繞している。これにより、第1質量体M1が第2質量体M2の内側に位置するため、吊り部材21の間隔を狭くできる。したがって、上部構造部1の内部空間の上側を更に狭くすることが可能になる。
【0069】
この変形例においても、
図6A及び
図6Bに示す特性のダンパー32を用いると良い。すなわち、ストローク変化速度V(第1質量体M1と第2質量体M2との鉛直方向の相対速度)が小さいときの減衰係数Cが大きく、鉛直方向のストローク変化速度Vが大きいときの減衰係数Cが小さいダンパー32を用いると良い。これにより、ダンパー32の減衰係数Cが一定の場合と比べると、制振対象物の振幅が小さくてもダンパー32の吸収エネルギーの極端な低下を抑制でき、振幅に応じた減衰力Fが得やすくなる。
【0070】
===その他の実施の形態===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。