特許第6442945号(P6442945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6442945
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-187809(P2014-187809)
(22)【出願日】2014年9月16日
(65)【公開番号】特開2016-61174(P2016-61174A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠吾
(72)【発明者】
【氏名】執行 洋充
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0199469(US,A1)
【文献】 特開2011−241711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34− 1/356
9/00− 9/04
13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の駆動軸に連動する回動体が巻き掛けられるスプロケットを備え、前記駆動軸と同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体の内側に同じ回転軸芯で回転自在に支持され、前記内燃機関の弁開閉用カムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記従動側回転体を前記カムシャフトに固定するため、前記従動側回転体に挿入されるボルトと、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される流体圧室と、
前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間で変更されるよう、前記流体圧室に対する作動流体の給排を切り替える制御弁と、を有し、
前記ボルトが、前記カムシャフトに螺合する雄ねじ部と、
前記回転軸芯の方向で前記スプロケットと前記雄ねじ部との間の領域において、前記ボルトと、前記従動側回転体又は前記カムシャフトとが前記ボルトの軸方向と直交する方向において、互いに当接する当接部とを備え
前記流体圧室への作動流体の流入または前記流体圧室からの流出を許容する第1周溝が前記ボルトの外周部に形成され、
前記当接部は、前記ボルトのうち、前記従動側回転体に対する挿入方向において前記第1周溝よりも奥側に配置される第1部分と、前記従動側回転体又は前記カムシャフトとで構成され、
作動流体を前記第1周溝に対して前記回転軸芯に沿った方向に供給する逆止弁が、
前記第1部分に形成され、作動流体が前記カムシャフトの側から前記第1周溝に流入する流入路と、前記第1部分の前記第1周溝に臨む側面に装着され、前記流入路に流入した作動流体の圧力で開作動される弁体と、前記第1部分の前記カムシャフトの側の側面に装着されるフィルタ部とを有する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記第1部分に組み付けられる弁ユニットを有し、前記弁体と前記フィルタ部とを前記弁ユニットに設けてある請求項記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記従動側回転体の前記ボルトが嵌合する内周部のうち、前記挿入方向で前記第1周溝よりも手前側の第2部分に、前記流体圧室への作動流体の流入または前記流体圧室からの流出を許容する第2周溝が形成され、
前記第1部分の軸方向長さは、前記第2周溝の溝幅より長い請求項1又は2記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の駆動軸と同期回転する駆動側回転体と、前記内燃機関の弁開閉用カムシャフトと一体回転する従動側回転体と、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を変更する制御弁とを有する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上記弁開閉時期制御装置の従来技術が記載されている。
この弁開閉時期制御装置は、従動側回転体をカムシャフトに固定するため、従動側回転体に挿入されるボルトが、従動側回転体およびカムシャフトに回転軸芯と同軸芯で嵌合する軸部分と、カムシャフトに螺合する雄ねじ部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−515090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動側回転体は、内燃機関の駆動軸に連動する無端回動体が巻き掛けられるスプロケットを備えている。無端回動体の回動に際しては、スプロケットが駆動されることで駆動側回転体が駆動軸の側に向けて引っ張られる。
一方、従動側回転体は駆動側回転体の内側に同じ回転軸芯で回転自在に支持されている。このため、駆動側回転体が駆動軸の側に引かれると、従動側回転体も駆動軸の側に向けて引かれることとなる。従動側回転体はカムシャフトにボルトで固定してある。よって、従動側回転体が駆動軸の側に向けて引かれるとボルトに曲げ力が作用する。
【0005】
従来の弁開閉時期制御装置は、回転軸芯の方向でスプロケットと雄ねじ部との間の領域の全域に亘って、ボルトの外周面とカムシャフトの内周面との間に環状の隙間を設けてある。この環状の隙間は、例えば流体圧室に対する作動流体給排用の環状流路を構成している。
【0006】
このため、従動側回転体が駆動軸の側に引かれたときに、回転軸芯の方向でスプロケットと雄ねじ部との間の領域において、ボルトとカムシャフトとで得られる剛性が十分なものとならず、ボルトとカムシャフトの変形量が大きくなる。
その結果、駆動側回転体及び従動側回転体の円滑な回転が損なわれるおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、駆動側回転体及び従動側回転体の円滑な回転を長期に亘って維持できる弁開閉時期制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関の駆動軸に連動する回動体が巻き掛けられるスプロケットを備え、前記駆動軸と同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体の内側に同じ回転軸芯で回転自在に支持され、前記内燃機関の弁開閉用カムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記従動側回転体を前記カムシャフトに固定するため、前記従動側回転体に挿入されるボルトと、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される流体圧室と、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相が最進角位相と最遅角位相との間で変更されるよう、前記流体圧室に対する作動流体の給排を切り替える制御弁と、を有し、前記ボルトが、前記カムシャフトに螺合する雄ねじ部と、前記回転軸芯の方向で前記スプロケットと前記雄ねじ部との間の領域において、前記ボルトと、前記従動側回転体又は前記カムシャフトとが前記ボルトの軸方向と直交する方向において、互いに当接する当接部とを備え、前記流体圧室への作動流体の流入または前記流体圧室からの流出を許容する第1周溝が前記ボルトの外周部に形成され、前記当接部は、前記ボルトのうち、前記従動側回転体に対する挿入方向において前記第1周溝よりも奥側に配置される第1部分と、前記従動側回転体又は前記カムシャフトとで構成され、作動流体を前記第1周溝に対して前記回転軸芯に沿った方向に供給する逆止弁が、前記第1部分に形成され、作動流体が前記カムシャフトの側から前記第1周溝に流入する流入路と、前記第1部分の前記第1周溝に臨む側面に装着され、前記流入路に流入した作動流体の圧力で開作動される弁体と、前記第1部分の前記カムシャフトの側の側面に装着されるフィルタ部とを有する点にある。
【0008】
本構成の弁開閉時期制御装置は、回転軸芯の方向でスプロケットと雄ねじ部との間の領域において、ボルトと、従動側回転体又はカムシャフトとがボルトの軸方向と直交する方向において、互いに当接する当接部とを設けてある。
【0009】
このため、従動側回転体が駆動軸の側に引かれたときに、回転軸芯の方向でスプロケットと雄ねじ部との間の領域において、ボルトと、従動側回転体又はカムシャフトとをボルトの軸方向と直交する方向に互いに当接させ、ボルトと従動側回転体とカムシャフトとを組み合わせたものの剛性を高めることができる。
したがって、本構成の弁開閉時期制御装置であれば、特に、ボルトの変形量が小さくなり、駆動側回転体及び従動側回転体の円滑な回転を長期に亘って維持できる。
【0010】
【0011】
また、本構成のように、回転軸芯に近いボルトの外周部に第1周溝を形成して、従動側回転体又はカムシャフトにボルトの軸方向と直交する方向に当接する第1部分を設けてあれば、第1周溝の加工が容易になる。また、ボルトに比べて回転軸芯から遠い従動側回転体又はカムシャフトの曲げ剛性の低下を効率良く防止できる。
さらに、本構成の弁開閉時期制御装置は、第1部分の第1周溝に臨む側面に環状の弁体を装着することにより、第1部分に形成した流入路をその流入路に流入した作動流体の圧力で開作動させる弁体を備えた逆止弁を設け、第1部分のカムシャフトの側の側面にフィルタ部を装着してある。
したがって、本構成であれば、作動流体の流れを制御する逆止弁をボルトの内部に設ける必要がなく、第1周溝からの作動流体の逆流を阻止する逆止弁およびフィルタ部を第1部分にコンパクトに組み付けることにより、装置の小型化を図ることができる。
【0012】
本発明の他の特徴構成は、前記従動側回転体の前記ボルトが嵌合する内周部のうち、前記挿入方向で前記第1周溝よりも手前側の第2部分に、前記流体圧室への作動流体の流入または前記流体圧室からの流出を許容する第2周溝が形成され、前記第1部分の軸方向長さは、前記第2周溝の溝幅より長い点にある。
【0013】
本構成であれば、ボルトの雄ねじ部をカムシャフトに螺合するために従動側回転体の内周部に挿通した際に、第1部分が第2周溝に入り込むおそれがなく、従動側回転体とカムシャフトとのボルトによる固定作業の能率向上を図ることができる。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
本発明の他の特徴構成は、前記第1部分に組み付けられる弁ユニットを有し、前記弁体と前記フィルタ部とを前記弁ユニットに設けてある点にある。
【0019】
本構成であれば、弁ユニットの第1部分への組み付け作業で、弁体とフィルタ部とを第1部分に容易に組み付けることができ、製作コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弁開閉時期制御装置の全体構成を示す断面図である。
図2図1におけるII−II断面図である。
図3】OCVボルトの拡大断面図である。
図4】OCVボルトの斜視図である。
図5】第2実施形態における逆止弁を示す断面図である。
図6】第2実施形態における逆止弁を示す正面図である。
図7】板状弁ユニットの斜視図である。
図8】第3実施形態における逆止弁を示す断面図である。
図9】第3実施形態における弁ユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1図4は、本実施形態による弁開閉時期制御装置を示す。
弁開閉時期制御装置は、エンジンオイル(作動流体の一例)の流路を電磁制御弁10で制御することにより、外部ロータ1と内部ロータ2との相対回転位相を変更し、これにより自動車用エンジンにおける吸気弁の開閉時期を制御する。
この弁開閉時期制御装置では、相対回転位相が進角方向S1に変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を高め、相対回転位相が遅角方向S2に変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を低減するようにクランクシャフトE1と吸気カムシャフト3との関係が設定されている。
尚、弁開閉時期制御装置は、排気弁の開閉時期を制御するものであってもよい。
【0022】
弁開閉時期制御装置は、図1図3に示すように、自動車用エンジンのクランクシャフトE1と同期回転する例えばアルミニウム合金製の外部ロータ1と、外部ロータ1の内側に同じ回転軸芯Xで回転自在に支持され、エンジンの吸気弁開閉用のカムシャフト3と一体回転する内部ロータ2と、内部ロータ2をカムシャフト3に固定するため、内部ロータ2に挿入される鋼製の連結ボルト4とを有する。
【0023】
内部ロータ2は、アルミニウム合金製の内部ロータ本体2aと、内部ロータ本体2aの回転が伝達される円筒状の鋼製のアダプタ2bとを有する。
内部ロータ本体2aとアダプタ2bおよびアダプタ2bとカムシャフト3の夫々は、それらの接合面に嵌合したキーで互いに回り止めしてある。
尚、外部ロータ1および内部ロータ本体2aの材質はアルミニウム合金に限定されず、例えば鋼などの各種金属材料で形成されていてもよい。また、アダプタ2bの材質は鋼に限定されず、例えばアルミニウム合金などの各種金属材料で形成してあってもよい。
【0024】
内部ロータ本体2aおよびアダプタ2bは回転軸芯Xの方向で互いに嵌合され、外部ロータ1に対して相対回転可能に支持されている。
連結ボルト4は、内部ロータ本体2aの側からアダプタ2bに挿通して、内部ロータ本体2aとアダプタ2bとカムシャフト3とを同芯状に締め付け固定している。
【0025】
自動車用エンジンが「内燃機関」に相当し、クランクシャフトE1が「内燃機関の駆動軸」に相当し、外部ロータ1が「駆動側回転体」に相当し、内部ロータ2が「従動側回転体」に相当する。
【0026】
連結ボルト4は、内部ロータ本体2a,アダプタ2bおよびカムシャフト3の内部に回転軸芯Xと同軸芯で嵌合する嵌合軸部4aと、カムシャフト3のボルト孔8bに形成した雌ねじ部3aに螺合する雄ねじ部4bとを備えている。
【0027】
カムシャフト3は、エンジンの吸気弁の開閉を制御する図示しないカムの回転軸であり、内部ロータ本体2a,アダプタ2bおよび連結ボルト4と同期回転する。カムシャフト3は、図示しないエンジンのシリンダヘッドに回転自在に組み付けられている。
【0028】
〔外部ロータ及び内部ロータ〕
外部ロータ1は、カムシャフト3の側とは逆の側に備えたフロントプレート1aと、内部ロータ本体2aに外装される外部ロータ本体1bと、タイミングスプロケット5を一体的に備えたリアプレート1cとを締結ボルト1dで一体に連結して構成される。
タイミングスプロケット5は幅広の歯部5aを備え、クランクシャフトE1に連動する歯付きゴムベルトなどの無端回動体E2が巻き掛けられる。
なお、タイミングスプロケット5は、金属チェーンが巻き架けられる平板状に形成されたものであってもよい。
【0029】
クランクシャフトE1が回転駆動すると、無端回動体E2によりタイミングスプロケット5に回転動力が伝達され、外部ロータ1が図2に示す回転方向Sに回転駆動する。
外部ロータ1の回転駆動に伴い、内部ロータ2が回転方向Sに従動回転してカムシャフト3が回転し、カムシャフト3に設けたカムがエンジンの吸気弁を押し下げて開弁させる。
【0030】
嵌合軸部4aの外周部には、後述する流体圧室6に対するオイル給排用の第1環状流路7をアダプタ2bとの間に構成する環状の第1周溝7aを形成してある。
本実施形態では、第1周溝7aを流体圧室6へのオイルの流入を許容するために形成してあるが、流体圧室6からのオイルの流出を許容するために第1周溝7aを形成してあってもよい。
【0031】
無端回動体E2の回動によるタイミングスプロケット5の駆動で外部ロータ1および外部ロータ1の内側の内部ロータ2が回転するので、外部ロータ1と内部ロータ2とがクランクシャフトE1の側に向けて引っ張られる。このため、図1に示すように、タイミングスプロケット5の歯部5aの幅方向中心Cと、雄ねじ部4bの雌ねじ部3aとの螺合部分の端部Dとの間の領域Aには曲げ力が作用する。
【0032】
本実施形態では、この領域Aにおいて、連結ボルト4とカムシャフト3とがボルト径方向、つまり、連結ボルト4の軸方向と直交する方向において互いに当接する当接部8を設けてある。
当接部8は、嵌合軸部4aのうち、連結ボルト4の内部ロータ本体2aに対する挿入方向において第1周溝7aよりも奥側に配置される第1部分8aと、カムシャフト3に形成したボルト孔8bの内周面とがボルト径方向に互いに当接するように構成してある。
【0033】
これにより、従動側回転体2がクランクシャフトE1の側に引かれたときに、領域Aにおいて、連結ボルト4とカムシャフト3とをボルト径方向に互いに当接させ、連結ボルト4と従動側回転体2とカムシャフト3とを組み合わせたものの剛性を高めることができる。
したがって、特に連結ボルト4の変形量が小さくなり、外部ロータ1及び内部ロータ2の円滑な回転を長期に亘って維持できる。
【0034】
図2に示すように、内部ロータ本体2aが外部ロータ1に収容され、外部ロータ1と内部ロータ本体2aとの間に流体圧室6が区画形成されている。
流体圧室6は、径方向内側に突出する複数個の突出部1eを回転方向Sに間隔を隔てて外部ロータ本体1bに形成することにより、内部ロータ本体2aと外部ロータ本体1bとの間に形成してある。
流体圧室6は、内部ロータ本体2aの外周面のうち流体圧室6に面する部分に形成したベーン部2cによって回転方向Sで進角室6aと遅角室6bとに仕切られている。
【0035】
進角室6a及び遅角室6bに作動流体としてのオイルを供給、排出、又はその給排を遮断して、ベーン部2cに油圧を作用させる。このようにして、相対回転位相を進角方向又は遅角方向へ変位させ、或いは、任意の位相に保持する。
進角方向とは、図2に矢印S1で示すように進角室6aの容積が大きくなる方向である。遅角方向とは、図2に矢印S2で示すように遅角室6bの容積が大きくなる方向である。進角室6aの容積が最大となった時の相対回転位相が最進角位相であり、遅角室6bの容積が最大となった時の相対回転位相が最遅角位相である。
【0036】
図2に示すように、外部ロータ1に対する内部ロータ本体2aの相対回転移動を拘束することにより、外部ロータ1に対する内部ロータ本体2aの相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間の所定のロック位相に拘束可能なロック機構9を備えている。
ロック機構9は、油圧操作で回転軸芯Xの方向に出退移動するロック部材9aをフロントプレート1a又はリアプレート1cに係合することにより、ロック位相に拘束する。
【0037】
〔電磁制御弁〕
本実施形態においては、「制御弁」としての電磁制御弁10がカムシャフト3と同軸芯で配設されている。
電磁制御弁10は、外部ロータ1に対する内部ロータ本体2aの相対回転位相が、最進角位相と最遅角位相との間で変更されるよう、流体圧室6に対するオイルの給排を切り替える。
電磁制御弁10は、筒状に形成されたスプール11と、スプール11を付勢するスプールスプリング12と、スプール11をスプールスプリング12の付勢力に抗して駆動させる電磁ソレノイド13と、スプール11が軸方向に抜けるのを防止するストッパー12bとを備えている。
【0038】
スプール11は、ドレン孔11bを備え、連結ボルト4の内部にボルト頭部4c側に開口するように形成されたスプール室14に、回転軸芯Xの方向に摺動可能に収容してある。
連結ボルト4の雄ねじ部4bをカムシャフト3のボルト孔8bに形成した雌ねじ部3aに螺着することにより、内部ロータ本体2aおよびアダプタ2bがカムシャフト3に締め付け固定される。
【0039】
スプール室14の奥側に設けたバネ受け15とスプール11との間に装着してあるスプールスプリング12が、スプール11をスプール室14から突出する側に常時付勢する。
電磁ソレノイド13に給電すると、電磁ソレノイド13に設けたプッシュピン13aがスプール11を押圧し、スプール11はスプールスプリング12の付勢力に抗してカムシャフト3の側に摺動する。
電磁制御弁10は、電磁ソレノイド13に供給する電力のデューティ比の調節により、スプール11の位置調節ができる。電磁ソレノイド13への給電量は図示しないECU(電子制御ユニット)によって制御される。
【0040】
〔アダプタ〕
アダプタ2bは円筒状に形成されており、リアプレート1cに貫通形成した嵌合孔16に相対回転自在に嵌合挿通され、嵌合孔16から突出してカムシャフト3の端面に対して当接する端部の外周側に、カムシャフト3の外周面に外嵌する周壁部17を一体に備えている。
アダプタ2bとリアプレート1cとに亘って、内部ロータ本体2aを外部ロータ1に対して進角方向S1に付勢するトーションスプリング18を係止してある。
【0041】
〔流路構成〕アダプタ2bの内周部と嵌合軸部4aの外周部との間のうちの、連結ボルト4のアダプタ2bに対する挿入方向で第1環状流路7よりも手前側の位置に第2環状流路22を形成してある。更に、手前側の内部ロータ本体2aの内周部と嵌合軸部4aの外周部との間には第3環状流路23を形成してある。
内部ロータ本体2aには、進角室6aに連通する進角流路20と遅角室6bに連通する遅角流路19とが形成される。進角流路20は第2環状流路22に連通し、遅角流路19は第3環状流路23に連通している。
【0042】
オイルポンプPから吐出されるオイルを進角流路20又は遅角流路19に択一的に供給するための供給流路21を、カムシャフト3、連結ボルト4およびアダプタ2bに亘って設けてある。
図3に示すように、連結ボルト4には、回転軸芯Xの方向に沿う第2流路21bを介して第1環状流路7に連通するポンプポート25aと、第2環状流路22に連通する進角ポート25bと、第3環状流路23に連通する遅角ポート25cとを形成してある。
【0043】
供給流路21は、カムシャフト3のボルト孔8bに連結ボルト4の外周側を囲むように形成したボルト外周流路3bと第1環状流路7とを連通するように、連結ボルト4の内部に形成した第1流路21aと、第1環状流路7とポンプポート25aとを連通するように内部ロータ本体2aおよびアダプタ2bの内部に形成した第2流路21bと、ポンプポート25aが進角ポート25b又は遅角ポート25cに択一的に連通するようにスプール11に形成したグルーブ部11aとを有する。
第1流路21aのボルト外周流路3bに臨む開口部には、第1流路21aに流入するオイルのフィルタ部26を設けてある。
【0044】
図1は、スプール11が、ポンプポート25aと遅角ポート25cとがグルーブ部11aを介して連通し、進角ポート25bがスプール11の内部に連通する遅角ポジションに移動している状態を示す。
この状態では、遅角ポート25c、第3環状流路23および遅角流路19を通して遅角室6bにオイルが供給される(図2参照)と共に、進角室6aのオイルが進角流路20、第2環状流路22、進角ポート25bおよびドレン孔11bを通してスプール室14からオイルパンに排出され、相対回転位相が遅角方向に変化する。
【0045】
図示しないが、電磁ソレノイド13の作動により、スプール11が、グルーブ部11aがポンプポート25aにのみ連通し、進角ポート25bと遅角ポート25cのいずれにも連通しない中立ポジションに移動している状態に切り替えることができる。
この状態では、進角室6aおよび遅角室6bに対するオイルの供給及び排出が停止され、相対回転位相は変化しない。
【0046】
また、図示しないが、電磁ソレノイド13の作動により、スプール11が、ポンプポート25aと進角ポート25bとがグルーブ部11aを介して連通し、遅角ポート25cがスプール室14に連通する進角ポジションに移動している状態に切り替えることができる。
この状態では、進角ポート25b、第2環状流路22および進角流路20を通して進角室6aにオイルが供給されると共に、遅角室6bのオイルが遅角流路19、第3環状流路23および遅角ポート25cを通してスプール室14からオイルパンに排出され、相対回転位相が遅角方向に変化する。
【0047】
嵌合軸部4aの内部には、第1流路21aの途中箇所において、オイルの供給圧力が設定圧力以下では第1環状流路7へのオイルの流入を遮断すると共に第1環状流路7からのオイルの逆流を阻止し、オイルの供給圧力が設定圧力を超えると第1環状流路7へのオイルの流入を許容する逆止弁27を設けてある。
【0048】
逆止弁27は、図3に示すように、第1流路21aの途中箇所に環状に形成した弁座27aと、第1流路21aの途中箇所を閉じるボール弁体27bとを備えている。
ボール弁体27bは、スプール室14のバネ受け15よりも奥側に装着した有孔筒状のホルダ27cに回転軸芯Xの方向に移動自在に収容してあり、バネ受け15とボール弁体27bとの間に装着したスプリング27dにより弁座27aに押し付けられるように常時付勢されている。
【0049】
弁座27aは、第1部分8aの軸径方向内側に形成してある。
このように、曲げ剛性が大きい第1部分8aに弁座27aを形成してあるので、ボール弁体27bが弁座27aに繰り返し当接して弁座27aが拡径しようとするのを阻止でき、逆止弁27の逆止機能を長期に亘って良好に維持できる。
【0050】
第2環状流路22を構成する第2周溝22aが、嵌合軸部4aが嵌合するアダプタ2bの内周部のうち、嵌合軸部4aの内部ロータ本体2aへの挿入方向で第1環状流路7よりも手前側の第2部分に形成されている。
したがって、第2周溝22aは、流体圧室6へのオイルの流入または流体圧室6からの流出を許容するために形成してある。
【0051】
第1部分8aの軸方向長さL1(図3参照)は、第2周溝22aの溝幅L2(図1参照)よりも長い長さに設定してある。
これにより、連結ボルト4の雄ねじ部4bをカムシャフト3に螺合するために嵌合軸部4aを従動側回転体2の内周部に挿通した際に、第1部分8aが第2周溝22aに入り込んで引っ掛かるおそれがなく、従動側回転体2とカムシャフト3との連結ボルト4による固定作業の能率向上を図ることができる。
【0052】
〔第2実施形態〕
図5図7は、第2実施形態の弁開閉時期制御装置が要部を示す。
本実施形態では、オイルを第1周溝7aに対して回転軸芯Xに沿った方向に供給する逆止弁27および逆止弁27に流入するオイルのフィルタ部26の構成が第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
逆止弁27およびフィルタ部26は、第1部分8aのうちの、カムシャフト3のボルト孔8bの内周面に向けて円形環状に突出している鍔部分28に設けてある。
逆止弁27は、鍔部分28に形成され、カムシャフト3の側から第1環状流路7にオイルが流入する周方向で複数の流入路29と、鍔部分28の第1周溝7aに臨む側面に密着させて装着してある樹脂製の板状弁ユニット30とを設けて構成してある。
フィルタ部26は、鍔部分28のカムシャフト3の側に、流入路29の入口を覆うように装着してある。
【0054】
板状弁ユニット30は、樹脂製の扇形板材31に鍔部分28の周方向で三つの逆止弁体32を一体に備えている。逆止弁体32の数は三つ以外であってもよい。
扇形板材31は、鍔部分28の外径よりも小径の外周縁31aと、第1周溝7aの溝底面における径よりも小径の内周縁31bとを備え、図6に示すように中心角θが180度を超える正面視でC字状の扇形に形成してあり、連結ボルト4に形成した嵌合溝33に内周縁31bを嵌入して、鍔部分28の側面に密着固定してある。
逆止弁体32は、扇形板材31にU字状(コの字状)の切れ込み32aを形成して、その切れ込み32aの内側部分で構成してある。
【0055】
逆止弁体32は、流入路29に流入したオイルの圧力が設定圧力以下では、流入路29を塞いで第1環状流路7へのオイルの流入を遮断すると共に第1環状流路7に流入したオイルの逆流を阻止する。
また、逆止弁体32は、流入路29に流入したオイルの圧力が設定圧力を越えると鍔部分28から離間するように弾性変形して、流入路29を通した第1環状流路7へのオイルの流入を許容する。
【0056】
フィルタ部26は、鍔部分28のカムシャフト3の側の側面に流入路29の入口を覆うように装着してある。
本実施形態では、逆止弁27や逆止弁27にオイルを導入する流路などを連結ボルト4の内部に設ける必要がないので、連結ボルト4の長さを短縮して弁開閉時期制御装置の小型化を図ることができる。
【0057】
〔第3実施形態〕
図8図9は、第3実施形態の弁開閉時期制御装置の要部を示す。
本実施形態では、オイルを第1周溝7aに対して回転軸芯Xに沿った方向に供給する逆止弁27および逆止弁27に流入するオイルのフィルタ部26の構成が第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0058】
逆止弁27およびフィルタ部26は、第1部分8aに組み付けられる樹脂製弁ユニット34に一体に設けてある。弁ユニット34は、回転軸芯Xの周りで円環状に形成され、第1部分8aのうちの、カムシャフト3のボルト孔8bの内周面に向けて円形環状に突出している鍔部分28にボルト先端側から装着して組み付けてある。
【0059】
弁ユニット34は、周方向で等間隔に配置した三つの筒状部分35と、筒状部分35の外周側どうしをその一端側において互いに連結する円環状の基板部分36と、各筒状部分35の他端側を開閉自在に塞ぐ逆止弁体32とを一体成形して構成してある。筒状部分35は三つ以外でもよい。
逆止弁体32は筒状部分35のうちのカムシャフト3に近い側の筒壁部分に片持ち状に連設してある。
筒状部分35の内側が、オイルがカムシャフト3の側から第1周溝7aに流入する流入路29を構成する。
【0060】
弁ユニット34は、鍔部分28に形成した弁体装着用貫通孔28aに各筒状部分35を回転軸芯Xの方向から嵌入することにより鍔部分28に固定して、逆止弁体32を鍔部分28の第1周溝7aに臨む側面に装着してある。
弁体装着用貫通孔28aは、回転軸芯Xに沿う方向視で周方向に長い円弧状で、かつ、周方向の終端部が半円形の長孔状に形成してある。
筒状部分35は、弁体装着用貫通孔28aに回転軸芯Xの方向から嵌入することにより、外周面が全周に亘って弁体装着用貫通孔28aの内周面に密着する形状に形成してある。
【0061】
逆止弁体32は、筒状部分35に流入したオイルの圧力が設定圧力以下では、筒状部分35を塞いで第1環状流路7へのオイルの流入を遮断すると共に第1環状流路7に流入したオイルの逆流を阻止する。
また、逆止弁体32は、筒状部分35に流入したオイルの圧力が設定圧力を越えると筒状部分35から離間するように弾性変形して、筒状部分35を通した第1環状流路7へのオイルの流入を許容する。
【0062】
フィルタ部26は、各筒状部分35の一端側にインサート成形して、鍔部分28のカムシャフト3の側の側面に装着してある。
本実施形態では、第2実施形態と同様に、逆止弁27や逆止弁27にオイルを導入する流路などを連結ボルト4の内部に設ける必要がないので、連結ボルト4の長さを短縮して弁開閉時期制御装置の小型化を図ることができる。
【0063】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による弁開閉時期制御装置は、アダプタを備えない従動側回転体を有していてもよい。
2.本発明による弁開閉時期制御装置は、回転軸芯の方向でスプロケットと雄ねじ部との間の領域において、ボルトと従動側回転体又はアダプタとがボルト径方向に互いに当接する当接部を設けてあってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、自動車以外の各種用途の内燃機関に装備される弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 外部ロータ(駆動側回転体)
2 内部ロータ(従動側回転体)
3 カムシャフト
4 連結ボルト
4a 嵌合軸部
4b 雄ねじ部
5 スプロケット
6 流体圧室
7 第1環状流路
7a 第1周溝
8 当接部
8a 第1部分
10 電磁制御弁
22 第2環状流路
22a 第2周溝
26 フィルタ部
27b 弁体
27 逆止弁
27a 弁座
29 流入路
30 弁体部材
34 弁ユニット
A スプロケットと雄ねじ部との間の領域
E1 駆動軸
E2 無端回動体
L1 軸方向長さ
L2 溝幅
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9