【文献】
Longze Wang 他,Switching Phase Diagram of Two Frequency MAMR for ECC Mrdia,IEEE Transactions of Magnetics,米国,IEEE,2013年 7月,Vol. n48, No. 7,3652-3655
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記録層の厚み方向の中心位置における前記主磁極の後縁部の中心位置に対応する位置のマイクロ波磁界強度(Hac)と前記記録層の実効的異方性磁界(Hk_eff)の関係がHac≦Hk_eff/10であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置においては、磁気記録密度の向上に向け磁気記録媒体および磁気ヘッドの性能向上が要求されている。磁気記録媒体においては、記録密度を増加させる場合、再生に必要な信号対雑音比(SNR)を確保するため、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性粒子の寸法を小さくする必要がある。しかし、磁性粒子の寸法を小さくすると、磁性粒子の体積が減少し、熱揺らぎによる磁化消失を起こしやすくなる。
【0003】
これを防止し安定な記録状態を維持するために、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性粒子の磁気異方性エネルギー(以下、単にKuという場合がある)を高める必要がある。一軸磁気異方性を有する磁性粒子において、磁化反転をさせるために必要な磁界の大きさは異方性磁界Hkと呼ばれ、飽和磁化MsとKuからHk=2Ku/Msと表される。従って、Kuの大きな材料を用いた場合、Hkが大きくなり、磁気記録媒体に記録を行うために強い記録磁界が必要となる。
【0004】
一方、磁気ヘッドが発生する磁界の強度は、磁気ヘッドの材料および形状で制限されるため、記録が困難になる可能性がある。
【0005】
この技術課題を解決するために、ECC媒体(Exchange Coupled Composite媒体)が検討されている。ECC媒体とは磁気特性の異なる磁性層、すなわち高Ku磁性層と低Ku磁性層を有し、両磁性層間の結合力を制御することで、熱安定性を維持しつつ磁気記録媒体の記録反転磁界を低減するものである。(特許文献1および2)
【0006】
また、記録時の磁気記録媒体に補助的にエネルギーを与えて実効的な記録磁界強度を低下させるエネルギーアシスト記録が提案されている。補助的なエネルギー源としてマイクロ波磁界を用いた記録方式は、マイクロ波アシスト磁気記録(Microwave Assisted Magnetic Recording:MAMR)と呼ばれ、実用化に向けた研究開発が進められている。
【0007】
マイクロ波アシスト磁気記録方式の一例としては、磁気ヘッドの記録素子を構成する主磁極と後端(トレーリング)シールドの磁気ギャップ内に多層の磁性薄膜で構成されたSTO(Spin Torque Oscillator)を形成し、STOの自励発振により面内方向のマイクロ波磁界を発生させて磁気記録媒体に印加して磁化の歳差運動を誘起し、垂直方向の磁化反転をアシストしようとするものがある。具体的には多層の磁性薄膜から構成されたSTOのFGL(Field Generating Layer)を高周波で自励発振させ、その表面から発生する漏れ磁界を磁気記録媒体に印加してマイクロ波アシストするものである。本アシスト方式を自励方式と呼ぶ(特許文献3)。
【0008】
自励方式に対して、磁気ヘッドの主磁極の近傍に線路を配置し、その線路に外部からマイクロ波帯域の高周波電流を通電して主磁極近傍に高周波面内磁界を発生させ、これを主磁極が発生する垂直記録磁界に重畳させて磁化反転をアシストする装置が考案された。本アシスト方式を他励方式と呼ぶ。(特許文献4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
記録密度を向上させるためには、記録信号のビット長(磁化反転間隔)を短くし、記録トラック幅を狭くすることが必要である。ECC媒体とマイクロ波アシスト磁気記録方式の組合せによって微粒子化した高磁気異方性エネルギー媒体の磁化反転に必要な磁界強度を低減させることが可能であることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、磁化反転に必要な磁界強度を低減することにより、磁気異方性エネルギーの高い媒体への記録が可能となるが、同時にトラック幅方向への記録の広がりが生じ易くなり、トラック密度を向上させることが困難になってしまう問題が生じる。また、狭い記録トラック幅を実現させる方法については、マイクロ波を発生する素子の寸法を小さくし、マイクロ波の強度分布を極小化すること以外、有用な手段が見出されていない。(非特許文献2)
【0012】
具体的には、磁気ヘッドの主磁極近傍に配置されたマイクロ波線路が発生するマイクロ波を利用する他励式マイクロ波アシスト磁気記録方式において、高いSNRおよび狭い記録トラック幅を同時に実現させるECC媒体の記録層の好適な仕様およびマイクロ波の印加方法が明らかではなかった。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点を鑑みてなされたものであり、マイクロ波アシスト磁気記録において、適したECC媒体とマイクロ波の印加方法を最適化し、高いSNRと狭トラック幅を同時に実現する磁気記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る磁気記録再生装置は、非磁性基板上に、少なくとも2層以上の磁性層を積層した記録層を有する磁気記録媒体と、磁気記録媒体の記録面に対して略垂直方向に記録磁界を印加する主磁極と、マイクロ波磁界を発生するマイクロ波発生素子とを有する磁気ヘッドとを備え、磁気記録媒体の記録層を構成する2層以上の磁性層のうち、最も磁気異方性エネルギーが低い磁性層の厚みTsと記録層の厚みTtとの関係が、Ts/Tt≦0.2であり、マイクロ波発生素子が、磁気ヘッドの主磁極が発生する記録磁界よりも広い幅のマイクロ波磁界を磁気記録媒体に
対して直接印加することを第1の特徴とする。
【0015】
上記特徴の本発明によれば、磁気媒体記録面の略水平方向にヘッドの主磁極が発生する記録磁界よりも広い幅のマイクロ波磁界を畳重させることにより、高いSNRと狭いトラック幅を両立することが可能である。
【0016】
さらに本発明に係る磁気記録再生装置は、マイクロ波発生素子は媒体対向面側の先端部のトラック幅方向の幅が主磁極のトラック幅方向の幅よりも長い線路であることを第2の特徴とする。
【0017】
上記特徴の本発明によれば、記録領域のトラック幅方向において、マイクロ波電流を通電することにより、強度および振動方向が均一なマイクロ波磁界を印加することができ、高いSNRを向上させることが可能である。
【0018】
さらに本発明に係る磁気記録再生装置は、記録層の厚み方向の中心位置における前記主磁極の後縁部の中心位置に対応する位置のマイクロ波磁界強度(Hac)と記録層の実効的異方性磁界(Hk_eff)の関係がHac≦Hk_eff/10であることを第3の特徴とする。
【0019】
上記特徴の本発明によれば、ヘッドの主磁極が発生する記録磁界にマイクロ波磁界を畳重させて連続してトラックを記録した際に、高いSNRを維持して、隣接するトラックへの影響を抑制することが可能である。
【0020】
さらに本発明に係る磁気記録再生装置は、記録層のHk_effが10kOe≦Hk_eff≦30kOeであることを第4の特徴とする。
【0021】
上記特徴の本発明によれば、ヘッドの主磁極が発生する記録磁界にマイクロ波磁界を畳重させて記録した際に、熱揺らぎによる記録情報の消失を防止して、高いSNRでの情報記録が可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、マイクロ波アシスト記録に適したECC媒体とマイクロ波の印加方法を最適化することにより、高いSNRと狭いトラック幅を同時に実現することが可能な磁気記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】本実施形態における磁気記録再生装置の構成図である
【
図1B】
図1Aの磁気記録再生装置における駆動アーム12と磁気ヘッド15の詳細構成を示す図である。
【
図1C】
図1Aの磁気記録再生装置における磁気ヘッド15の一部である再生ヘッド部18と記録ヘッド部19の詳細構成を示す図である。
【
図2】
図1Aの磁気記録再生装置における磁気記録媒体11の断面模式図である。
【
図3A】
図1Cの再生ヘッド部18および記録ヘッド部19の断面図である。
【
図3B】
図3AのA方向から見た主磁極21および線路28の先端の形状を示す図である。
【
図3C】
図3AのB方向から見た主磁極21および線路28の媒体対向面側の形状を示す図である。
【
図4】TsとTtの比率を変化させた場合のSNRのシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】TsとTtの比率を変化させた場合の実効記録トラック幅のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】Hacを変化させた場合のSNRのシミュレーション結果(Hk_eff=8kOe)を示す図である。
【
図7】Hacを変化させた場合のSNRのシミュレーション結果(Hk_eff=10kOe)を示す図である。
【
図8】Hacを変化させた場合のSNRのシミュレーション結果(Hk_eff=20kOe)を示す図である。
【
図9】Hacを変化させた場合のSNRのシミュレーション結果(Hk_eff=30kOe)を示す図である。
【
図10】Hacを変化させた場合のSNRのシミュレーション結果(Hk_eff=40kOe)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための好適な形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0025】
(第1の実施形態)
図1Aは第1の実施形態に係る磁気記録再生装置10の全体構成を示す図である。垂直記録式の磁気記録媒体11と、磁気記録媒体11に対して磁気信号の記録および再生を行うために磁気記録媒体11の表面に近接して浮上可能であるように設置された垂直記録式の磁気ヘッド15と、を備えている。制御回路14は、ボイスコイルモータ13を駆動源として駆動アーム12を旋回させることにより、磁気記録媒体11の所定の領域まで磁気ヘッド15を移動させ、所定の記録および再生動作を行う。
【0026】
図1Bに示されるように、駆動アーム12の先端部に磁気ヘッド15が磁気記録媒体11に対向するように設けられている。
【0027】
図1Cは、磁気ヘッド15を媒体対向面側から見た図である。磁気ヘッド15は、略直方体構造のスライダ基体16を有する。スライダ基体16は、浮上特性に直接関与する空気摺動面17を有しており、磁気記録媒体11の進行方向Mに対向する磁気ヘッド15の進行方向の後ろ側に存在する側端面に、再生ヘッド部18、記録ヘッド部19を備えている。
【0028】
磁気記録媒体11は、
図2に示すとおり、非磁性基板上30に軟磁性裏打ち層31、非磁性下地層32を介し垂直磁気異方性を有する第1の磁性層33、第1の磁性層よりも磁気異方性エネルギーが低い垂直磁気異方性を有する第2の磁性層34、保護層35で形成されている。
【0029】
基板30の材料としては、ガラス、NiPで被覆したAl合金、Si、Al
2O
3等の非磁性材料を用いることができる。
【0030】
軟磁性裏打ち層31の材料としては、Fe合金、Coアモルファス合金、フェライト等を用いることができる。なお、軟磁性裏打ち層32は、軟磁性を有する層と非磁性層との積層構造であってもよい。
【0031】
第1の磁性層33および第2の磁性層34の材料としては、CoCrPt合金等のCo及びCrを含む合金、Co及びPtを含む合金、Co及びPdを含む合金、Fe及びPtを含む合金、Fe及びCoを含む合金、これらの積層体、SiO2等の酸化物材料の中にCoPt等の強磁性粒子をマトリックス状に含ませた材料等を用いることができる。第1の磁性層33、および第2の磁性層34からなる記録層36は、磁気記録媒体11の表面に垂直な方向に磁化されるように配向されている。これらの磁性層を構成する元素の比率を変更することにより磁性層の磁気異方性エネルギーの大きさを制御することができる。例えばCoPtCr合金の場合、Ptの比率を高めることによって磁気異方性エネルギーは大きくなる。また、Ta、B、Nb、N、Cuなどの非磁性元素を添加することによって磁性層を構成する強磁性粒子の結晶性および配向性が変化するため、磁気異方性エネルギーを任意の大きさに制御することができる。このようにして、第1の磁性層33および第2の磁性層34の磁気異方性エネルギーをそれぞれに適した大きさに調整することができる。高異方性磁性層である第1の磁性層33の異方性磁界をHk_h、低異方性磁性層である第2の磁性層34の異方性磁界をHk_sとしたとき、これらは、15kOe≦Hk_h≦50kOe、10Oe≦Hk_s≦1000Oeであることが好ましい。
【0032】
磁気ヘッド15は
図3Aに示すとおり、再生ヘッド部18と記録ヘッド部19から構成される。再生ヘッド部18は、記録ヘッド部19の前側(磁気記録媒体11の進行方向Mに対向する相対的な磁気ヘッド15の進行方向の前側)に設置されている。再生ヘッド部18は、MR素子25と、MR素子25よりも前側に設置された前部リードシールド26と、MR素子25よりも後ろ側(磁気記録媒体11の進行方向Mに対向する相対的な磁気ヘッド15の進行方向の後側)に設置された後部リードシールド27とを備えている。
【0033】
記録ヘッド部19は、磁気記録媒体11の記録面に対して略垂直方向に記録磁界を印加するための主磁極21と、主磁極21を励磁するための励磁コイル23と、主磁極21よりも前側に設置されたリーディングシールド24と、主磁極21よりも後側に設置されたトレーリングシールド22を備えている。
【0034】
主磁極21の材料としては、Coを含む合金、Feを含む合金、Fe及びCoを含む合金、Fe及びNiを含む合金、Fe及びNを含む合金、Fe及びAlを含む合金等の軟磁性材料を用いることができる。
【0035】
線路28はマイクロ波発生素子であり、線路28にマイクロ波電流を通電することによって、線路先端部28Aから磁気記録媒体12の面内方向に振動するマイクロ波磁界が発生する。
【0036】
図3Bは
図3Aを媒体対向面であるA方向から見た主磁極21と線路28の先端部28aの位置および寸法関係を示した図である。Pwは主磁極21の媒体対向面におけるトラック幅方向の幅を示し、Wwは線路先端部28aの媒体対向面に平行な部分のトラック幅方向の長さを示す。
【0037】
図3Cは
図3Aを媒体進行方向Mに対向するB方向から見た主磁極21と線路28の位置および寸法関係を示した図である。Pwは主磁極21の媒体対向面におけるトラック幅方向の幅を示し、Wwは線路先端部28aの媒体対向面に平行な部分のトラック幅方向の長さを示す。
【0038】
マイクロ波発生素子である線路28は、主磁極21が発生する記録磁界よりも広い幅のマイクロ波磁界を磁気記録媒体11に印加する。主磁極幅Pwより長さWwが長い線路先端部28aにマイクロ波電流を通電することにより、記録トラック幅の領域に強度および振動方向が均一な、主磁極21の発生する磁界よりも広い幅のマイクロ波磁界を発生させることができる。強度および振動方向が均一であることは主磁極21が発生する記録磁界分布に沿った磁化反転領域を形成する観点で重要である。主磁極幅より線路端部が短い場合、線路の折れ曲がり部から強度および振動方向が均一でないマイクロ波が発生してしまうため好ましくない。
【0039】
磁気記録媒体11は、最も磁気異方性エネルギーが低い第2の磁性層34の厚みをTs、記録層36の厚みをTtと定義した場合、次の(式1)を満足するように設計されている。
【0040】
Ts/Tt≦0.2 ・・・・(式1)
【0041】
この厚みの範囲において、マイクロ波磁界を印加して記録した場合、狭い記録トラック幅と高いSNRを実現することができる。
【0042】
また、マイクロ波磁界を印加した場合のSNRの向上と狭い記録トラック幅を実現するために、記録層36の厚み方向の中心位置における主磁極21の後縁部の中心位置Aに対応する位置(中心位置Aの直下の位置)のマイクロ波磁界強度(Hac)と記録層36の実効的異方性磁界(Hk_eff)の関係が、次の(式2)を満足していることが望ましい。
【0043】
Hac≦Hk_eff/10 ・・・・(式2)
【0044】
ここで、主磁極21の後縁部の中心位置Aとは、
図3Bに示すように、主磁極21の後ろ側(磁気記録媒体11の進行方向Mに対向する相対的な磁気ヘッド15の進行方向の後ろ側)の縁部である後縁部におけるトラック幅方向の中心位置である。
【0045】
また、マイクロ波磁界を印加した場合の狭い記録トラック幅と高いSNRを実現するために、記録層36のHk_effが、次の(式3)を満足していることが望ましい。
【0046】
10kOe≦Hk_eff≦30kOe ・・・・(式3)
【0047】
次に(式1)〜(式3)に示した範囲が望ましい理由を説明する。
【0048】
(シミュレーション例1)
磁気記録媒体11の磁化反転におけるマイクロ波アシスト効果を調べるために、磁気記録媒体11の記録層36の磁化状態をLLG方程式(式4)を用いて解析した。
【数1】
・・・・(式4)
【0049】
ここで、γはジャイロ磁気定数、αはダンピング定数であり、有効磁界Heffは、異方性磁界Ha(=Hkcosθ、θは磁化と磁化容易軸のなす角)、反磁界Hd、外部磁界Hdc、熱磁界Hhおよびマイクロ波磁界Hacの5成分の和で構成される。磁気記録媒体11に平行な面をx−y平面とし、ヘッドの進行方向をx、トラック幅方向をyとした。マイクロ波磁界Hacは、x−y平面のx方向に振動する直線偏光磁界として印加した。
【0050】
記録層36は、2048個の磁性粒子の集合体で、異方性磁界Hkの大きさに10%、角度に2度の分散を持たせたモデルとした。Hk_effは、記録層36トータルの実効的な異方性磁界で、外部磁界Hdcを、磁化困難軸である記録層の面内方向に印加し、記録層36の磁化が面内方向に飽和する磁界強度として定義した。
【0051】
記録層36は磁気異方性エネルギーの異なる2つの磁性層を積層した構成とし、最も磁気異方性エネルギーが低い第2の磁性層34(低異方性磁性層)の厚みをTs、最も磁気異方性エネルギーの高い第1の磁性層33(高異方性磁性層)の厚みをThとし、層間の交換結合定数Jは2erg/cm2とした。また、それぞれの磁性層の磁気特性は、高異方性磁性層は、Hk_h=20kOe、Ms_h=600emu/cc、低異方性磁性層は、Hk_s=50Oe、Ms_s=1000emu/ccを基本として、Hk_h、Ms_h、Hk_s、Ms_sおよびJの値は、解析内容に応じてHk_effが所定の値となるように、15kOe≦Hk_h≦50kOeおよび10Oe≦Hk_s≦1000Oeの範囲内で変化させた。また、平均粒子間隔は7.5nmとし、粒子サイズは9%の分散を持たせ、充填率は70%とした。
【0052】
記録シミュレーションでは、単磁極型の垂直記録用ヘッドをモデル化し、有限要素法で三次元の磁界分布を求め、ヘッド記録磁界として使用した。マイクロ波磁界は主磁極21のトラック幅方向の幅よりも長い線路に高周波電流を通電することによって発生する磁界であり、解析領域(480nm×960nm)内で強度が一様なヘッド進行方向に振動する直線偏光磁界として与えた。再生シミュレーションは、TMR再生ヘッドをモデル化し、有限要素法で計算した再生感度分布を用いて行った。
【0053】
記録再生シミュレーションは、以下に述べる手順で行った。
1)記録層36の初期磁化をランダム(交流消磁状態)とし、解析領域の中央に、
525kfci(磁化反転間隔:48.4nm)の信号を記録する。
2)記録層36の記録後の磁化パターンから525kfciの信号が記録された領域の幅を解析し、磁気記録幅(MWW)を求める。
3)再生シミュレーションで出力電圧Sおよびノイズ電圧Nを解析し、SNRを20log(S/N)として求め、単トラック記録SNRとする。
4)最初に記録したトラックの中央から±50nmずらした位置に368kfci(磁化反転間隔:69.0nm)の信号を記録する。
5)最初に記録したトラックを再生シミュレーションで出力電圧Sおよびノイズ電圧Nを解析し、SNRを20log(S/N)として求め、3トラック記録SNRとする。
6)単トラック記録SNRと3トラック記録SNRの差から、隣接トラックの記録によって生じる信号品質の変化量を求める。これにより、各記録条件における実効的な記録トラック幅を評価する。
【0054】
図4は、TsとTtの比率を変えた場合の、SNRのシミュレーション結果である。高異方性磁性層の厚みThが、7nm、9nm、11nmの場合に、低異方性磁性層および高異方性磁性層のそれぞれの異方性磁界Hk_sおよびHk_hの大きさと層間の交換定数Jを調整して、記録層36トータルのHk_effが10kOeになるように設定した。マイクロ波磁界は、主磁極21のトラック幅方向の幅よりも長い線路から発生する直線偏光の高周波磁界であり、強度は500Oe、周波数は10GHzとして解析領域全域に印加した。
【0055】
なお、SNRのTs/Tt依存性から、マイクロ波の印加によってSNRの改善効果を得るためには適したTs/Ttの範囲があり、(式1)の場合に有効であることが分かる。
【0056】
さらに、高異方性磁性層の厚みThを7nm、9nmおよび11nmとして解析した結果は、(式1)の範囲で、ほぼ同様の結果であり、本結果がThの大きさによらず成立することがわかる。
【0057】
また、Ts/Ttが0.2より大きい領域では、Ts/Ttが大きくなる程、SNRが低下している。低異方性磁性層の厚みTsが増加すると、同じHk_effであっても低異方性磁性層の影響が大きくなる。Ts/Ttが大きくなると、低異方性磁性層の磁化反転確率が増加し、ヘッド記録磁界の低磁界成分での磁性粒子の磁化反転が発生し、磁性粒子の磁化方向が逆極性に反転する磁化遷移領域の拡大が生じるためSNRが低下してしまうことから、Ts/Ttの値に最適値が発生する。Ts/Ttが0.2より小さい領域では、Ts/Ttが小さくなるとSNRは低下するが、Ts/Tt=0.05でもTs/Tt=0に比べて高いSNRが得られており本発明の効果が得られていることが分かる。
【0058】
図5はTsとTtの比率を変えた場合の、磁気記録幅(MWW)のシミュレーション結果である。(式1)の範囲では、Ts/Ttが大きくなる程MWWも増加するが、その変化量はTs/Tt=0に比べて最大で約10%である。
【0059】
Ts/Ttが0.2より大きい領域では、Ts/Ttの増加に対するMMWの増加の割合は(式1)の範囲より大きくなる。低異方性磁性層の厚みが増加すると、同じHk_effであっても磁気記録媒体の低異方性磁性層の影響が大きくなる。同じHk_effであっても低異方性磁性層の磁化反転確率が増加し、記録トラック幅の拡大が生じる。このような理由でTs/Ttの値に最適値が発生する。
【0060】
(シミュレーション例2)
シミュレーション例1で示した手法を用いて、磁気記録媒体11の記録層36の実効的な磁気異方性Hk_effが、8kOe、10kOe、20kOe、30kOeおよび40kOeである5種類の媒体モデルについて、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係を解析した。5水準のHkを有する高異方性磁性層(Hk=15kOe、20kOe、30kOe、40kOeおよび50kOe)に積層する低異方性磁性層の厚みTs、異方性磁界Hk_sおよび層間の交換結合定数Jを、Hk_effがそれぞれ、8kOe、10kOe、20kOe、30kOeおよび40kOeとなるように設定した。
【0061】
図6は、Hk_eff=8kOeの磁気記録媒体モデルにおける、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係をシミュレーションした結果である。マイクロ波の強度によらず、得られるSNRは10dB以下である。Hk_eff=8kOeの磁気記録媒体では、記録層36の異方性エネルギーが低いため、磁性粒子の磁化が熱揺らぎの影響で不安定になり、磁化遷移領域の磁性粒子の磁化がランダムに変化してしまうことが要因であると考えられる。
【0062】
図7は、Hk_eff=10kOeの磁気記録媒体モデルにおける、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係をシミュレーションした結果である。マイクロ波磁界強度Hacが1000Oeまでは、Hacの増加に対して、SNRは単トラック記録、3トラック記録どちらの場合も増加する。しかし、Hacが1000Oeを超えると、単トラック記録ではSNRの変化は小さいが、3トラック記録ではHacの増加に対してSNRは低下する。Hacが大きくなると、磁性粒子の磁化反転確率が高くなり、記録トラック幅が増大することが要因であると考えられる。
【0063】
図8は、Hk_eff=20kOeの磁気記録媒体モデルにおける、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係をシミュレーションした結果である。マイクロ波磁界強度Hacが2000Oeまでは、Hacの増加に対して、SNRは単トラック記録、3トラック記録どちらの場合も増加する。しかし、Hacが2000Oeを超えると、単トラック記録、3トラック記録共に、Hacの増加に対してSNRは低下する。SNRの低下の割合は、3トラック記録の方が大きい。Hacが大きくなると、磁性粒子の磁化反転確率が高くなり、記録トラック幅が増大することが要因であると考えられる。
【0064】
図9は、Hk_eff=30kOeの磁気記録媒体モデルにおける、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係をシミュレーションした結果である。マイクロ波磁界強度Hacが2000Oeまでは、Hacの増加に対して、SNRは単トラック記録、3トラック記録どちらの場合も増加する。Hacが2000Oeを超えると、単トラック記録ではSNRの値はほぼ一定値となる。一方、3トラック記録では、Hacが3000OeでSNRはやや低下し、Hacが3500OeではSNRは大きく低下する。Hacが3000Oeを超えると、磁性粒子の磁化反転確率が高くなり、記録トラック幅が増大することが要因であると考えられる。
【0065】
図10は、Hk_eff=40kOeの磁気記録媒体モデルにおける、マイクロ波磁界強度HacとSNRの関係をシミュレーションした結果である。SNRはHacにかかわらず10dB以下であり、磁化遷移が十分に形成されていないと考えられる。これは、記録層36のHk_effに対してヘッドの記録磁界強度が不足して、マイクロ波のアシスト効果が得られていないことが要因であると考えられる。
【0066】
HacとHk_effの関係が、(式2)を満たす場合に、マイクロ波の印加により、SNRの向上が得られる記録層36のHk_effの範囲は、10〜30kOeであった。このHk_effの範囲では、SNRがHac=0に比べて大きく改善している。一方、Hk_eff=8kOeでは記録層36の異方性エネルギーが不足して、熱揺らぎの影響で磁化反転を形成できない、またマイクロ波の印加によるSNRの改善も殆どないことが分かった。また、Hk_eff=40kOeでは、ヘッド磁界強度が不十分で、マイクロ波の印加によるSNRの改善効果を得ることができないことが分かった。